説明

プラズマ処理方法及びその装置

【課題】プロセスガスが早期にプラズマ化することで、被処理体に対する成膜などの処理が良好になされないのを改善する。
【解決手段】プラズマ処理チャンバ、チャンバ内に設けられたプラズマ発生源、チャンバ内で被処理体を支持する支持台、プラズマ発生源と前記支持台との間に配置されてプラズマ発生源側空間と被処理体が配置される前記支持台側空間を隔てる仕切材、支持台側空間にプロセスガスを供給するプロセスガス導入部、を備えることで、プロセスガスをプラズマ源近傍を通すことなく、基板近傍にのみ流すことができ、そのガスは基板近傍でプラズマにより分解され、より多くのラジカルを基板表面に到達させることができ、例えばCVDプロセスの場合、SiHラジカルがより多く基板表面まで到達することになり、それにより欠陥密度の少ない良い特性の膜が得られる(光劣化に対して強くなるなど)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理に関するものであり、特に被処理体近傍で発生したガスプラズマによって被処理体を処理するプラズマ処理方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスをプラズマ化させる装置には、高周波を放電させるアンテナをチャンバの外部に備えるものと、チャンバの内部に備えるものとが知られている(例えば特許文献1、2参照)。
図3は、外部アンテナ型誘導結合型CVD装置であり、図4は、内部アンテナ型誘導結合型CVD装置を示すものであり、以下に説明する。
【0003】
図3は外部アンテナ方式の誘導結合型CVD装置80を模式的に示す図である。
該CVD装置80は、半球状の石英容器を備えた反応室81の外周に沿って上部から下部に向かって巻線状のヘリカルアンテナコイル82が配置されており、該アンテナコイル82に高周波電源83が接続されている。すなわち、高周波電源83の一端は、マッチングボックス84を介してヘリカルアンテナコイル上部82aに接続され、他端はヘリカルアンテナコイル下部82bと接続され接地されている。反応室81は真空排気口85を介して排気系86に接続されている。反応室81上部には、シャワーヘッド89が配置されており、該シャワーヘッド89にはガス導入管88が接続され、ガス導入管88にはガス導入系87が接続されている。反応室81内の下部には、処理対象物90を載置するためのステージ91が設置されていて、このステージ91は接地されている。
【0004】
上記CVD装置80の作用について説明する。
反応室81は、真空排気口85を介して排気系86により真空排気される。ガスは、ガス導入系87からガス導入管88を介して反応室81上部のシャワーヘッド89に導入される。アンテナコイル82に高周波電源83から高周波が印加されると、プラズマを生成する。高周波電源83によるアンテナ電流が作る磁界の時間変化により電界を誘導し、この電界で電子が加速してプラズマ放電が起き、原料ガスによって処理対象物90表面に薄膜が形成される。
【0005】
図4は内部アンテナ方式の誘導結合型CVD装置を模式的に示す図である。
矩形の真空槽100の側壁112の各々より、導入フランジ130を介して、アンテナ125を内部に導入している。アンテナ125は一端をマッチングボックス126を介して、高周波電源127に接続されており、他端は接地電位に接続されている。真空槽100の下部には、真空槽100内の排気を行うための排気用ポート123とヒーターが埋め込まれた基板ホルダー124が設けられる。ガスは側壁112に取り付けられたガス導入ポート122を介して導入される。真空槽100を所定圧力まで真空排気し、基板ホルダ124上に処理対象物140を配置した状態で、ヒーターにより加熱し、ガス導入ポート122よりガスを導入し、アンテナ125に高周波電圧を印加すると、アンテナ125の周囲にプラズマが形成され、活性化された原料ガスによって処理対象物140表面に薄膜が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−302694号公報
【特許文献2】特開2004−39719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来技術におけるプラズマ処理装置では、大面積の基板でも均一な膜厚の薄膜を形成することができる。しかし、その一方で、ICP(Inductively Coupled Plasma)・CVD装置特有のアンテナ近傍における高密度プラズマによって、プロセスガスであるシランの乖離が早期に進み、成膜種であるSiHの生成がうまくできず、SiHよりもSi、SiH、SiHの生成量が増加し、結果として、成膜が良好になされず、膜の欠陥密度が増加し膜質が悪くなるという問題がある。
上記のような理由により、従来のプラズマ処理装置では、膜質向上のためにSiHラジカルだけを増加させ基板に到達させることは困難である。
【0008】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、その目的は基板近傍のみにプロセスガスが流れるようにすることにより、プラズマ発生源近傍でのプロセスガスのプラズマ化及び分解が抑制され、基板近傍でプロセスガスの分解が起こり、SiHラジカルのような膜質に有利に働く粒子を基板表面に到達させやすくすることができるプラズマ処理方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明のプラズマ処理装置は、プラズマ処理が行われるチャンバと、該チャンバ内に設けられたプラズマ発生源と、前記チャンバ内で被処理体を支持する支持台と、前記プラズマ発生源と前記支持台との間に配置されて前記プラズマ発生源側空間と前記被処理体が配置される支持台側空間とを隔てる仕切材と、前記支持台側空間にプロセスガスを供給するプロセスガス導入部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明により、プロセスガスがプラズマ発生源に晒されて早期にプラズマ化され所望のラジカルなどが十分に得られなくなることはなく、プロセスガスは支持台側空間、すなわち被処理体の近傍で緩やかにプラズマ化され、被処理体に対するプラズマ処理が良好になされる。
本発明では、例えば、CVDプロセスなどにおいて、基板近傍でプラズマ化され分解し発生したSiHラジカルのような、成膜に有利に働く材料を基板上に到達させやすくすることができる。
【0011】
なお、上記作用を確実にするために、前記プロセスガス導入部は、前記プラズマ発生源側空間を介することなく、前記支持台側空間に直接プロセスガスを供給するものが望ましい。例えば、支持台側空間にプロセスガス導入部の導入口を設けることによって上記した支持台側空間へプロセスガスを直接供給することが可能になる。
また、支持台側空間に排気部を位置させて、該排気部を通してチャンバ内を緩やかに排気しつつ該チャンバ内にプロセスガスを支持台側空間に供給することによって、プロセスガスがプラズマ発生源側空間に拡散するのを抑制し、支持台側空間にできるだけ滞留させることができる。これにより、プラズマ化したプロセスガスをできるだけ支持台側の空間に位置させて被処理体に対するプラズマ処理を一層効果的に行うことができる。
【0012】
また、上記仕切材は、前記支持台で支持された前記被処理体に対し、その全表面を覆う大きさを有し、被処理体表面と間隙を有して沿う板形状のものを好適に用いることができる。これにより、支持台側空間に供給されたプロセスガスがプラズマ発生源に直接的に晒されるのを極力防止し、また、上記プロセスガスを支持台側空間にできるだけとどめることを助長できる。
仕切材は、平板状の前記被処理体に対しては、前記支持台に支持された被処理体表面に対し略平行な状態で設置する平板状のものとすることができる。これによりプロセスガスを被処理体表面の面方向において略均等に滞留させてプラズマ処理の均等化を図ることができる。
【0013】
また、前記プラズマ発生源には、高周波電源に接続したアンテナを用いることができる。この際に、アンテナから放射された電磁波が直接プロセスガスに放射されず、仕切材を介して照射される割合が高くなり、プロセスガスが早期にプラズマ化されるのを抑制することができる。このため、仕切材は誘電体で構成することで、電磁波によるエネルギー授与を抑えて支持材で隔てられたプロセスガスを緩やかにプラズマ化させてプラズマ処理に供することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように本発明によれば、プラズマ処理が行われるチャンバと、該チャンバ内に設けられたプラズマ発生源と、前記チャンバ内で被処理体を支持する支持台と、前記プラズマ発生源と前記支持台との間に配置されて前記プラズマ発生源側空間と前記被処理体が配置される前記支持台側空間とを隔てる仕切材と、前記支持台側空間にプロセスガスを供給するプロセスガス導入部と、を備えるので、支持台に支持させた被処理体の近傍でプロセスガスをプラズマ化させて被処理体のプラズマ処理を行うことができる。
【0015】
すなわち、本発明では、プロセスガスをプラズマ発生源の近傍を通すことなく、被処理体近傍に流す、または滞留させることができ、そのガスをプラズマ化により分解し、成膜やエッチングなどのプロセスに有利なラジカルを被処理体に近い場所で発生させることができる。その結果として、CVDプロセスなどでは欠陥密度の低い良質な膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のプラズマ処理装置の一実施形態を示す説明図である。
【図2】同じく、その平面構造を示す図である。
【図3】従来の外部アンテナ型誘導結合型CVD装置を模式的に示す図である。
【図4】従来の内部アンテナ型誘導結合型CVD装置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を図1、2に基づいて説明する。図1は本発明の一例のプラズマ処理装置の正面断面を示すものであり、図2は、平面断面図である。
プラズマ処理装置は、本発明のチャンバに相当する真空槽1を有しており、該真空槽1には、電位を与える電源5が接続されている
真空槽1内には、被処理体である基板10を保持するためのステージ2と、プラズマを発生させるプラズマ発生源3と、を備えている。ステージ2は、本発明の支持台に相当する。
【0018】
プラズマ発生源3と、基板10を保持するためのステージ2との中間には、仕切材である平面板4がステージ2の上面と間隙を有してステージ2の周りを囲うように設置されている。平面板4は、誘電体で構成され、ステージ2に保持した基板10の上面と平行に位置するように設置される。
この実施形態では、図2に示すように、プラズマ発生源3側の空間とステージ2側の空間とを、前記平面板4で仕切っている。ただし、平面板4は、Oリングシールなどで完全に両エリアを分離するものではない。したがって、プラズマ発生源3側の空間とステージ2側の空間とは通気が可能になっている。
また、本発明としては両空間が完全に仕切られることは必要ではなく、仕切材の周囲に両空間に連なる隙間などを有するものであってもよく、また、仕切材自体に通気性を持たせるようにしてもよい。
【0019】
また、真空槽1には、上記平面板4とステージ2の上面との間で挟まれた空間にガスを導入するプロセスガス導入部6が設けられており、該プロセスガス導入部6の導入路6aが真空槽1内に開口している。該プロセスガス導入部6によってステージ側2の空間に各プロセスに対応したガスを流せるようになっている。
さらに、真空槽1にはステージ2側の空間に開口するように真空排気系7が接続されており、真空槽1の内部は真空排気系7により真空排気される。
真空槽1の天板部に設置されているプラズマ発生源3は、一端が真空槽1外部に配置される高周波電源8(ここでは13.56MHz)に接続され、高周波電源8の他端はアースに接続されている。プラズマ発生源3に備えるアンテナ3aは、真空槽1内に位置している。
【0020】
前記平面板4は誘電体でできているためプラズマ発生源3のアンテナ3aで発生した電磁波を通すことができ、さらに平面板4を境にプラズマ発生源3のエリアとステージ2のエリアの雰囲気とが分離するように隔てられている。
【0021】
次に、上記プラズマ処理装置の動作について説明する。
ステージ2上に基板10を保持させ、密閉した真空槽1内を、前記真空排気系7によって真空排気する。真空排気完了後は、プロセスガス導入部6の導入路6aを通して真空槽1内、すなわち、平面板4とステージ2との間の空間にプロセスガス(この形態ではシラン)を導入し、真空排気系7からはガス導入に見合った通常排気を行う。
また、高周波電源8によってプラズマ発生源3に高周波を印加して、アンテナ3aから真空槽1内に電磁波を放射する。
【0022】
上記動作により、プロセスガス導入部6より導入されたガスは、プラズマ発生源3の近傍を通ることなく、平面板4とステージ2との間のエリア(空間)に流れ込み、プラズマ発生源3側などの他のエリアより、より多く充満することになる。この際に、ステージ2側の空間に開口する真空排気系7によって通常排気をすることで、プロセスガスがプラズマ発生源3側に拡散するのを抑制し、平面板4とステージ2との間にプロセスガスが滞留しやすくなる。
【0023】
ステージ2側空間に充満したガスは、プラズマ発生源3により放射される電磁波によって、プラズマ化し、イオンやラジカルなどに分離される。また基板10近傍のエリアは、プラズマ発生源3より離れているため、プラズマ発生源近傍に比べて相対的にプラズマエネルギーが低くなっており、例えばこのプロセスガスがシラン(SiH)であれば、より多くのSiHラジカルを基板10近傍で発生させ、SiHラジカルが基板10表面に、より多く到達することができ、欠陥密度の低いシリコン薄膜を生成することができる。
なお平面板4は雰囲気を分離するためのものであり、孔などがあっても良い。
【0024】
なお、上記では説明しなかったが、プラズマ発生源側に他のガスを導入し、該ガスをプラズマ化させ、このプラズマによってステージ2側空間に供給されるプロセスガスのプラズマ化を行うものであってもよい。
【0025】
以上、本発明について上記実施形態に基づいて説明を行ったが、本発明は上記実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明を逸脱しない限りは適宜の変更が可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 真空槽
2 ステージ
3 プラズマ発生源
4 平面板
6 プロセスガス導入部
7 真空排気系
10 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ処理が行われるチャンバと、
該チャンバ内に設けられたプラズマ発生源と、
前記チャンバ内で被処理体を支持する支持台と、
前記プラズマ発生源と前記支持台との間に配置されて前記プラズマ発生源側空間と前記被処理体が配置される前記支持台側空間とを隔てる仕切材と、
前記支持台側空間にプロセスガスを供給するプロセスガス導入部と、を備えることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記仕切材は、前記支持台で支持された前記被処理体全表面を覆う大きさを有し、かつ前記被処理体表面に間隙を有して沿う、板形状を有していることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記プラズマ発生源が高周波アンテナであり、前記仕切材が誘電体で構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記プロセスガス導入部は、前記プラズマ発生源側空間を介することなく、前記支持台側空間に直接プロセスガスを供給するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記支持台側空間に位置する排気部を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
プラズマ処理が行われるチャンバ内で、仕切材で隔てられたプラズマ発生源側空間と被処理体を支持する支持台側空間のうち、前記被処理体を支持した前記支持台側空間に前記プラズマ発生源側空間を介することなく直接プロセスガスを供給して、プラズマ処理をすることを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項7】
前記プロセスガスを、前記プラズマ発生源によって生成される高密度プラズマに直接晒されることなく、前記支持台側空間でプラズマ化させることを特徴とする請求項6記載のプラズマ処理方法。
【請求項8】
前記支持台側空間で排気するとともに、該支持台側空間に前記プラズマガスを供給することによって前記プラズマガスを前記支持台側空間に滞留させつつ前記プラズマ処理を行うことを特徴とする請求項6または7に記載のプラズマ処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−243732(P2011−243732A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114307(P2010−114307)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】