説明

プラズマ処理装置及び前処理方法

【課題】大型の処理対象物の表面に対して分布が均一な処理を安価に行うことができる技術を提供する。
【解決手段】真空槽12の外部に設けられた処理ガス供給源8と、処理ガス供給源8から供給された処理ガスを放電させるラジカル放出器10とを備える。ラジカル放出器10の処理ガス導入室14の基板側に、導電体からなる面状のシャワープレート15と、シャワープレート15に対応する大きさ及び形状の導電体からなる面状のメッシュ状部材16が設けられる。シャワープレート15とメッシュ状部材16とは電気的に絶縁されている。メッシュ状部材16に高周波電力を印加し、シャワープレート15とメッシュ状部材16の間のプラズマ形成室18において処理ガスのプラズマを形成して、メッシュ状部材16から基板5に向って処理ガスのラジカルを放出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば有機ELディスプレイ等や有機EL照明デバイス等を作製する際に基板を前処理する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELデバイスを製作する際には、表面に透明導電膜のパターンを有する基板を用いているが、基板の表面には有機物等の汚れがあり、そのままの状態で成膜を行うと、デバイスの性能を十分に発揮することができないという問題がある。
このため、従来より、基板上に有機膜を形成する前に、有機物等を除去する前処理を行うようにしている。
【0003】
図10は、従来の前処理装置を示す概略構成図である。
図10に示すように、この前処理装置101は、基板100が配置される真空槽102を有し、この真空槽102の下部にプラズマ生成部103が設けられている。
プラズマ生成部103は、例えば高周波電源104に接続されたコイル105を有し、このコイル105に対して例えば高周波電力が印加されるようになっている。
【0004】
プラズマ生成部103は、処理ガス供給源106が接続され、処理ガス供給源106から供給された酸素(O2)ガス等の処理ガスのプラズマを発生させ、酸素ラジカル等の粒子によって基板100表面の有機物と反応させることにより基板100表面のクリーニングによる前処理を行うようにしている。
【0005】
しかし、このような従来技術においては、一箇所でプラズマを発生させるようにしているため、基板100上において均一な処理を行うことは困難であった。
その一方、近年、処理対象物が大型化しているため、処理対象物表面に対して均一な前処理を行おうとすると、プラズマを発生する手段を複数用いる必要があり、処理のコストが大きくなってしまうという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−141116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来の技術の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、大型の処理対象物の表面に対して分布が均一な処理を安価に行うことができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するためになされた本発明は、処理対象物が配置される真空槽と、前記真空槽の外部に設けられた処理ガス供給源と、前記処理ガス供給源から供給された処理ガスを放電させ、当該処理ガスのラジカルを前記処理対象物に向って放出するためのラジカル放出器とを備え、前記ラジカル放出器は、前記処理ガス供給源から供給された処理ガスを導入する処理ガス導入室を有し、当該処理ガス導入室の前記処理対象物側に、導電体からなる面状のシャワープレートが設けられるとともに、当該処理ガス導入室の前記シャワープレートの前記処理対象物側には、前記シャワープレートに対応する大きさ及び形状の導電体からなる面状のラジカル放出部材が設けられ、前記シャワープレートと前記ラジカル放出部材とが電気的に絶縁されるとともに、当該ラジカル放出部材に所定の電力を印加することにより、当該シャワープレートと当該ラジカル放出部材の間のプラズマ形成室において前記処理ガスのプラズマを生成し、前記ラジカル放出部材から前記処理対象物に向って当該処理ガスのラジカルを放出するよう構成されているプラズマ処理装置である。
本発明では、前記ラジカル放出部材が、メッシュ状部材からなる場合にも効果的である。
本発明では、前記メッシュ状部材が、複数枚のメッシュを重ねて構成されている場合にも効果的である。
本発明では、前記ラジカル放出部材が接地されるとともに、前記処理対象物に対してバイアス電力を印加するためのバイアス電源を有する場合にも効果的である。
本発明では、前記処理ガス導入室内に、前記処理ガスを前記ラジカル放出器内に導入する手段として、放射状に処理ガスを放出するノズル部が設けられている場合にも効果的である。
本発明では、前記ラジカル放出器は、前記処理ガス供給源から供給された処理ガスを拡散するための複数の処理ガス拡散部を有し、前記複数の処理ガス拡散部は、当該処理ガスの導入側から放出側に向って段階的に区分けされ且つ互いの雰囲気が隔離された複数の拡散室を有するとともに、当該複数の拡散室は、互いに隣接する拡散室が前記処理ガスが通過可能な連通口を介して接続され、さらに、当該複数の拡散室のうち最終段の拡散室が、前記処理ガスが通過可能な連通口を介してそれぞれ前記プラズマ形成室に接続されている場合にも効果的である。
本発明では、前記面状の処理ガス放出器における処理ガス拡散部の複数の拡散室に、互いの雰囲気を隔離するための隔壁部が設けられている場合にも効果的である。
本発明では、前記面状の処理ガス放出器における処理ガス拡散部の複数の連通口は、前記処理ガスの導入側から放出側に向って2n−1個(nは自然数)で増加するように構成されている場合にも効果的である。
本発明は、上述したいずれかのプラズマ処理装置を用い、真空中で基板表面に対して処理を行う方法であって、当該基板上に真空蒸着によって有機材料を蒸着する前に、前記プラズマ処理装置のラジカル放出器から前記処理ガスのラジカルを放出して当該基板表面のクリーニング処理を行う工程を有する前処理方法である。
本発明の場合、面状のシャワープレートと面状のラジカル放出部材との間のプラズマ形成室において処理ガスのプラズマを形成し、ラジカル放出部材から処理ガスのラジカルを処理対象物に向って放出するようにしたことから、大型基板のような処理対象物に対して成膜の前処理を行う場合に当該処理対象物上の各領域において均一な表面処理を行うことができる。
その結果、本発明によれば、処理対象物上の透明導電膜表面の仕事関数を従来と比べて高く且つ均一にすることができるので、後の成膜工程によって有機EL素子による白色等のランプを作成した場合に、局部電流の流れすぎに起因する短絡や発光のばらつきを抑えることができる。また、有機EL素子によってディスプレイを作成した場合において素子間の電流のばらつきに起因する発光のばらつきや素子寿命の短期化を抑えることができる。
また、本発明によれば、プラズマを発生させる手段を複数設ける必要がないため、簡素な構成で低価格のプラズマ処理装置を提供することができる。
本発明において、ラジカル放出部材が、メッシュ状部材からなる場合には、プラズマが均一化されるため、ラジカルが均一化されるという効果がある。
本発明において、メッシュ状部材が、複数枚のメッシュを重ねて構成されている場合には、プラズマやラジカルが更に均一化されるため、より均一的なラジカル等が得られるという効果がある。
本発明において、ラジカル放出部材が接地されるとともに、処理対象物に対してバイアス電力を印加するためのバイアス電源を有する場合には、処理ガスのプラズマのうちイオン種がラジカル放出部材によって捕獲されるとともに、当該イオン種が処理対象物に到達しにくくなるので、処理対象物に対するダメージを抑制することができる。
本発明において、処理ガス導入室内に、処理ガスをラジカル放出器内に導入する手段として、放射状に処理ガスを放出するノズル部が設けられている場合には、プラズマ形成室において均一なプラズマを生成することができ、これにより、例えば円形形状の処理対象物表面に対してより均一なプラズマ処理を行うことができる。
本発明において、ラジカル放出器が、処理ガス供給源から供給されたが処理ガスを拡散するための複数の処理ガス拡散部を有し、これら複数の処理ガス拡散部が、処理ガスの導入側から放出側に向って段階的に区分けされ且つ互いの雰囲気が隔離された複数の拡散室を有するとともに、当該複数の拡散室が、互いに隣接する拡散室が処理ガスが通過可能な連通口を介して接続され、さらに、複数の拡散室のうち最終段の拡散室が、処理ガスが通過可能な連通口を介してそれぞれ前記プラズマ形成室に接続されている場合には、複数の処理ガス拡散部において例えば異なる処理ガスを確実に拡散した後に、プラズマ形成室において例えば異なる処理ガスを十分に混合することができる。
その結果、本発明によれば、例えば大型基板に対してプラズマ処理を行う場合に当該大型基板上の各領域に対して均一な処理を行うことができる。
さらに、本発明においては、処理ガス拡散部が、例えば水平方向と鉛直方向のように処理ガスを導く方向が異なる複数の処理ガス拡散部を有する場合には、処理ガスの分散拡散回数が多く、例えば曲管によって処理ガスを分流する場合に比べ、有機材料の処理ガスの流量が均一即ち一定になるため、より均一な成膜を行うことができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、大型の処理対象物の表面に対して分布が均一な処理を安価に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係るプラズマ処理装置である前処理装置を用いた有機EL製造装置の概略平面図
【図2】同前処理装置のラジカル放出器の構成を示す断面図
【図3】同ラジカル放出器の構成を示す斜視図
【図4】(a)(b):本発明に係るプラズマ処理装置の他の実施の形態を示すものであり、図4(a)は横断面図、図4(b)は縦断面図
【図5】同実施の形態におけるノズル部の構成を示す拡大正面図
【図6】本発明に係るプラズマ処理装置の他の実施の形態におけるラジカル放出器の外観構成を示す斜視図
【図7】同実施の形態におけるラジカル放出器の内部構成を示す概略図
【図8】同実施の形態におけるラジカル放出器の水平方向拡散部の内部構成を示す概略図
【図9】(a)(b):本発明におけるラジカル放出器の他の例を示す概略構成図
【図10】従来の前処理装置を示す概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明に係るプラズマ処理装置である前処理装置を用いた有機EL製造装置の概略平面図、図2は、同前処理装置のラジカル放出器の構成を示す断面図、図3は、同ラジカル放出器の構成を示す斜視図である。
【0012】
以下、上下関係については図2及び図3に示す構成に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
図1に示すように、本実施の形態の有機EL製造装置1は、マルチチャンバー方式のものであり、図示しない真空排気系に接続された搬送室2を有している。
【0013】
搬送室2内には搬送ロボット3が設けられており、搬送室2の周囲に設けられた仕込み/取り出し室4A、基板前処理室4B、有機層成膜室4C及び4D、電極成膜室4E、封止室4Fとの間において基板(処理対象物)5の受け渡しを行うように構成されている。
【0014】
なお、仕込み/取り出し室4A、基板前処理室4B、有機層成膜室4C及び4D、電極成膜室4E、封止室4Fと搬送室2との間には、それぞれ図示しない仕切り弁が設けられている。
これら仕込み/取り出し室4A、基板前処理室4B、有機層成膜室4C及び4D、電極成膜室4E、封止室4Fは、それぞれ図示しない真空排気系に接続され、独立して真空排気を行うようになっている。
本実施の形態の場合、以下に説明するラジカル放出器10を基板前処理室4F内に有する前処理装置(プラズマ処理装置)20が設けられている。
【0015】
図2に示すように、本実施の形態の前処理装置20は、真空槽12内に、箱形形状の本体部11を有するラジカル放出器10を備えている。
ラジカル放出器10の本体部11は、例えばステンレス等の導電性を有する金属材料を用いて一体的に構成され、この本体部11を介して後述するシャワープレート15に対して例えば高周波電源13から高周波電力を印加するように構成されている。
ラジカル放出器10は、例えば本体部11内の下部に、処理ガス導入室14が設けられている。
【0016】
この処理ガス導入室14は、例えばその下部に、分岐させるとともに供給管7の一方の端部に接続したガス導入管7cを設け、このガス導入管7cによって処理ガス導入室14の周囲から処理ガスを処理ガス導入室14内に導入するように構成されている。
一方、供給管7の他方の端部は、真空槽12の外部に設けられた処理ガス供給源8に接続されている。
【0017】
本実施の形態の場合、供給管7の中腹部分に絶縁性材料からなる絶縁管7aが設けられ、本体部11を電気的にフローティング状態にさせている。同時にラジカル放出器10の処理ガス導入室14が処理ガス供給源8に対して電気的に絶縁された状態になっている。
【0018】
処理ガス供給源8は、反応ガス供給源8Aと放電補助ガス供給源8Bとを有している。
反応ガス供給源8Aは、反応ガスである例えば酸素(O2)ガス、フッ素(F)ガス等を供給する反応ガス源8aを有し、この反応ガス源8aが流量調整部8b及びバルブ8cを介して供給管7に接続されている。
【0019】
一方、放電補助ガス供給源8Bは、例えば窒素(N2)ガス、アルゴン(Ar)ガス等の放電補助ガスを供給する放電補助ガス源8dを有し、この放電補助ガス源8dが流量調整部8e及びバルブ8fを介して供給管7に接続されている。
一方、真空槽12内のラジカル放出器10の上方には、基板ホルダー6によって保持された基板5が配置されるようになっている。
【0020】
そして、ラジカル放出器10の処理ガス導入室14の基板5側の部分には、面状の、例えば平板状のシャワープレート15が設けられている。このシャワープレート15には、基板5の大きさに対応する領域に、多数の処理ガス放出口15aが設けられている。
【0021】
さらに、ラジカル放出器10のシャワープレート15の基板5側には、シャワープレート15に対応する大きさ及び形状を有するメッシュ状部材(ラジカル放出部材)16が設けられている。
メッシュ状部材16は、例えばステンレス等の導電性の材料からなり、接地されている。そして、このメッシュ状部材16は、絶縁部17を介してラジカル放出器10の本体部11に取り付けられている。
【0022】
なお、メッシュ状部材16は、1枚のメッシュから構成してもよいし、複数枚のメッシュを重ねて構成することもできる。複数枚のメッシュを重ねて構成した場合には、プラズマやラジカルが更に均一化されるため、より均一的なラジカル等が得られるという効果がある。
【0023】
他方、本実施の形態の場合、真空槽12の外部に設けられたバイアス電源13aから基板ホルダー6を介して基板5に対し所定の交流電力を印加するように構成されている。
【0024】
このような構成を有する本実施の形態において基板5表面の前処理を行う場合には、真空槽12内を所定の圧力にした状態で、処理ガス供給源8から導入管7を介して反応ガスと放電補助ガスを、ラジカル放出器10の処理ガス導入室14内に導入する。
【0025】
そして、高周波電源13からラジカル放出器10に対して高周波電力を印加するとともに、バイアス電源13aから基板5に対し所定の交流電力を印加することにより、ラジカル放出器10のシャワープレート15とメッシュ状部材16の間の空間、すなわち、プラズマ形成室18内において、処理ガスを放電させて当該処理ガスをプラズマ化する。
【0026】
その結果、プラズマ形成室18内の処理ガスのプラズマのうち特に中性の活性種(ラジカル種)が、メッシュ状部材16を通過して基板5に向って放出され、このラジカルの粒子が基板5表面の各領域の有機物と反応し、これにより基板5全表面のクリーニング処理が行われる。
【0027】
以上述べた本実施の形態においては、シャワープレート15とメッシュ状部材16の間のプラズマ形成室18において処理ガスのプラズマを形成して基板5と同等の大きさ及び形状のメッシュ状部材16から中性のラジカルを基板5に向って放出するようにしたことから、大型の基板5に対して成膜の前処理を行う場合に当該基板5上の各領域において均一な表面処理を行うことができる。
【0028】
その結果、本実施の形態によれば、基板5上の透明導電膜表面の仕事関数を従来と比べて高く且つ均一にすることができるので、後の成膜工程によって有機EL素子による白色等のランプを作成した場合に、局部電流の流れすぎに起因する短絡や発光のばらつきを抑えることができる。また、有機EL素子によってディスプレイを作成した場合において素子間の電流のばらつきに起因する発光のばらつきや素子寿命の短期化を抑えることができる。
また、本実施の形態によれば、プラズマを発生させる手段を複数設ける必要がないため、簡素な構成で低価格の前処理装置20を提供することができる。
【0029】
図4(a)(b)は、本発明に係るプラズマ処理装置の他の実施の形態を示すものであり、図4(a)は横断面図、図4(b)は縦断面図である。また、図5は、同実施の形態におけるノズル部の構成を示す拡大正面図である。
以下、上記実施の形態と対応する部分には、同一の符号を付しその詳細な説明を省略する。
【0030】
図4(a)(b)に示すように、本実施の形態の前処理装置30cは、円形形状の基板5cに対して前処理を行うもので、円筒形状の真空槽12cを有している。
そして、ラジカル放出器10cの本体部11cが円筒形状に形成されるとともに、円形形状のシャワープレート15c及びメッシュ状部材16cをそれぞれ有している。
さらに、本実施の形態においては、円筒形状に形成された処理ガス導入室14cの中央部に、放射状に処理ガスを放出するノズル部19が設けられている。
【0031】
図5に示すように、本実施の形態におけるノズル部19は、供給管7の先端部に接続された円筒形状のノズル本体部19aを有し、このノズル本体部19aの側面に、複数の処理ガス放出口19bが設けられている。
【0032】
このような構成を有する本実施の形態によれば、ノズル部19から放射状に処理ガスを放出してラジカル放出器10c内に導入するようにしたことから、より均一なプラズマを生成することができ、これにより円形形状の基板5c表面に対してより均一なプラズマ処理を行うことができる。
その他の構成及び作用効果については上述の実施の形態と同一であるのでその詳細な説明を省略する。
【0033】
図6〜図8は、本発明に係るプラズマ処理装置の他の実施の形態を示すものであり、図6は同実施の形態におけるラジカル放出器の外観構成を示す斜視図、図7は、同実施の形態におけるラジカル放出器の内部構成を示す概略図、図8は、同実施の形態におけるラジカル放出器の水平方向拡散部の内部構成を示す概略図である。
以下、上記実施の形態と対応する部分には、同一の符号を付しその詳細な説明を省略する。
【0034】
本実施の形態のラジカル放出器10Aは、上述した真空槽12内に設けられるもので、図6に示すように、処理ガスを水平方向に導いて拡散させる水平方向拡散部10Hと、処理ガスを鉛直方向に導いて拡散させる鉛直方向拡散部10Vとを有している。
【0035】
ここで、ラジカル放出器10Aは、例えば断面矩形状の複数のボックスセルを組み合わせることにより構成された複数のガス分岐ユニットを用いるもので、本実施の形態の場合は、一つのガス分岐ユニットからなる水平方向拡散部10Hの上部に、複数のガス分岐ユニットを並べて構成される鉛直方向拡散部10Vが取り付けられて一体的に構成されている。
【0036】
図6〜図8に示すように、水平方向拡散部10Hは、処理ガスの導入側から放出側に向って、拡散室として、複数段(本例では4段)の第1〜第4の拡散室21、22、23、24がこの順序で設けられている。
【0037】
そして、本実施の形態においては、以下に説明するように、処理ガスの導入側から放出側に向って2n−1個(nは自然数)で増加する数の第1〜第5連通口31〜35が設けられている。
【0038】
ここで、第1の拡散室21には、上述した供給管7が接続され、一つの第1連通口31を介して処理ガスが導入されるように構成されている。
第1の拡散室21は、その処理ガス放出側の部分(第2の拡散室22の処理ガス導入側の部分)に設けられた二つの第2連通口32を介して第2の拡散室22に接続されている。
【0039】
本発明の場合、特に限定されることはないが、処理ガスの逆流れを生じさせない、即ち圧力勾配を保持する観点からは、第2連通口32のそれぞれの面積の和が、第1連通口31の面積の和より大きくならない(小さくなる)ように設定することが好ましい。
【0040】
更には、処理ガス流を均等に分配する観点からは、同一段における連通口の面積並びに形状を同一にすること、本実施の形態では第1〜第5連通口31〜35の面積並びに形状を同一にすることがより好ましい。
【0041】
また、第2連通口32は、第2の拡散室22の処理ガス放出側の部分と対向するように位置が設定されており、これにより処理ガスが第2の拡散室22の処理ガス放出側の壁部に衝突して処理ガスの拡散が促進されるように構成されている(図7においては、理解を容易にするため、第2連通口32及び第3連通口33の位置が重なるように描かれている)。
【0042】
さらに、本実施の形態においては、二つの隔壁部22aによって第2の拡散室22が二つの領域に仕切られ、各領域の雰囲気が互いに隔離されている。これら隔壁部22aは処理ガスが衝突することによってその拡散を促進するために有効となるものである。
【0043】
なお、本発明の場合、隔壁部22aを設ける位置は特に限定されることはないが、処理ガスをより均一に拡散させる観点からは、隔壁部22aによって隔離される第2の拡散室22の各領域の容積及び処理ガスの通過速度が等しくなる位置に設けることが好ましい。
【0044】
第2の拡散室22は、その処理ガス放出側の部分(第3の拡散室23の処理ガス導入側の部分)に設けられた四つの第3連通口33を介して第3の拡散室23に接続されている。
【0045】
本発明の場合、特に限定されることはないが、処理ガスの逆流れを生じさせない、即ち圧力勾配を保持する観点からは、第3連通口33のそれぞれの面積の和が、上述した第2連通口32の面積の和より大きくならない(小さくなる)ように設定することが好ましい。
【0046】
また、第3連通口33は、第3の拡散室23の処理ガス放出側の部分と対向するように位置が設定されており、これにより導入された処理ガスが第3の拡散室23の処理ガス放出側の壁部に衝突して処理ガスの拡散が促進されるように構成されている(図7においては、理解を容易にするため、第3連通口33及び第4連通口34の位置が重なるように描かれている)。
【0047】
また、本実施の形態においては、第3の拡散室23が例えば六つの隔壁部23aによって四つの領域に仕切られ、各領域の雰囲気が互いに隔離されている。これらの隔壁部23aは処理ガスが衝突することによってその拡散を促進するために有効となるものである。
【0048】
なお、本発明の場合、隔壁部23aを設ける位置は特に限定されることはないが、処理ガスをより均一に拡散させる観点からは、隔壁部23aによって仕切られる第3の拡散室23の各領域の容積及び処理ガスの通過速度が等しくなる位置に設けることが好ましい。
【0049】
さらに、第3の拡散室23の処理ガス放出側の部分には、第4の拡散室24が設けられている。
ここで、第4の拡散室24は、その処理ガス導入側の部分(第3の拡散室23の処理ガス放出側の部分)に設けられた八つの第4連通口34を介して第4の拡散室24に接続されている。
【0050】
本発明の場合、特に限定されることはないが、処理ガスの逆流れを生じさせない、即ち圧力勾配を保持する観点からは、第4連通口34のそれぞれの面積の和が、上述した第3連通口33の面積の和より大きくならない(小さくなる)ように設定することが好ましい。
【0051】
また、第4連通口34は、第4の拡散室24の処理ガス放出側の部分と対向するように位置が設定されており、これにより処理ガスが第4の拡散室24の処理ガス放出側の壁部に衝突して処理ガスの拡散が促進されるように構成されている。
【0052】
さらに、本実施の形態においては、第4の拡散室24が七つの隔壁部24aによって八つの領域に仕切られ、各領域の雰囲気が互いに隔離されている。これらの隔壁部24aは処理ガスが衝突することによってその拡散を促進するために有効となるものである。
【0053】
なお、本発明の場合、隔壁部24aを設ける位置は特に限定されることはないが、処理ガスをより均一に拡散させる観点からは、隔壁部24aによって仕切られる第4の拡散室24の各領域の容積及び処理ガスの通過速度が等しくなる位置に設けることが好ましい。
【0054】
図8に示すように、本実施の形態では、水平方向拡散部10Hの第4の拡散室24が、第4の拡散室24の処理ガス放出側に設けられた複数(本例では16個)の第5連通口35を介して連結室50にそれぞれ接続されている。
【0055】
また、図6及び図7に示すように、各連結室50は、それぞれ鉛直(Z軸)方向に延びるように形成されており、各連結室50の上部には、上述したガス分岐ユニットから構成されるラジカル放出器10Aの鉛直方向拡散部10Vが設けられている。
【0056】
本実施の形態では、ラジカル放出器10Aの鉛直方向拡散部10Vは、複数個(本例では16個)の処理ガス分岐ユニットから構成されている。
ここで、各連結室50は、その上部に設けられた第1連通口61を介して第1の拡散室51に接続されている。
【0057】
本実施の形態では、ラジカル放出器10Aの鉛直方向拡散部10Vは、処理ガスの導入側から放出側に向って2n−1個(nは自然数)で増加する数の第2〜第4連通口62〜64が設けられている。
【0058】
ラジカル放出器10Aの鉛直方向拡散部10Vの第1〜第4の拡散室51〜54並びに第2〜第4連通口62〜64は、上述した水平方向拡散部10Hの第1〜第4の拡散室21〜24並びに第2〜第4連通口32〜34に対応するもので、それぞれ同一の構成を有し、同一の条件で設けられている。
【0059】
また、隔壁部52a、53a、54aについても、上述した水平方向拡散部10Hの隔壁部22a、23a、24aに対応するもので、それぞれ同一の構成を有し、同一の条件で設けられている。
【0060】
一方、第4の拡散室54の上部には、処理ガスのラジカルを基板5に向って放出するための、上述した処理ガス放出口15aが複数個(本例では16個)設けられている。
【0061】
これらの処理ガス放出口15aは、各ガス分岐ユニットの第4の拡散室54の各上部において、所定の間隔で水平方向である矢印Y方向に沿って配置され、これによりシャワープレートが構成されるようになっている。
【0062】
本発明の場合、処理ガス放出口15aの間隔は特に限定されることはないが、表面処理の均一性を確保する観点からは、等間隔で設けることが好ましい。
【0063】
そして、図6に示すように、第4の拡散室54の上方には、絶縁性材料からなる接続部17を介して上述したメッシュ状部材16が設けられている。
【0064】
このような構成を有する本実施の形態において基板5表面の前処理を行う場合には、上述した真空槽12内を所定の圧力にした状態で、上述した処理ガス供給源8から導入管7を介して反応ガスと放電補助ガスを、ラジカル放出器10Aの水平方向拡散部10Hの水平方向拡散部10Hの第1の拡散室21内に導入する。
【0065】
これにより、処理ガスは、水平方向拡散部10Hにおいて、第1〜第4の拡散室21〜24並びに第1〜第4連通口31〜34を通過してそれぞれ拡散された後、第5連通口35を介して各ガス分岐ユニットの連結室50内にそれぞれ導入される。
【0066】
そして、各連結室50内の処理ガスは、鉛直方向拡散部10Vの第1の拡散室51内に導入され、さらに、それぞれ第2〜第4の拡散室52〜54並びに第2〜第4の連通口62〜64を通過してそれぞれ拡散された後、処理ガス放出口15aを介してプラズマ形成室18内に導入される。
この状態で、上述した高周波電源13から高周波電力をシャワープレート15に印加することにより、プラズマ形成室18内において、処理ガスの放電が行われる。
【0067】
これにより、処理ガスのプラズマのうち特に中性の活性種(例えば酸素ラジカル)が、メッシュ状部材16から基板5に向って面状に放出される。その結果、酸素ラジカルの粒子が基板5表面の各領域の有機物と反応して、基板5全表面の前処理が行われる。
【0068】
以上述べたように本実施の形態によれば、ラジカル放出器10Aが、水平方向拡散部10Hと、鉛直方向拡散部10Vを有し、これら水平方向拡散部10H並びに鉛直方向拡散部10Vは、当該処理ガスの導入側から放出側に向って段階的に区分けされた第1〜第4の拡散室21〜24並びに第1〜第4の拡散室51〜54を有するとともに、当該第1〜第4の拡散室21〜24並びに第1〜第4の拡散室51〜54は、互いに隣接する拡散室が処理ガスが通過可能な第2〜第5連通口32〜35並びに第1〜第5連通口61〜65を介して接続され、鉛直方向拡散部10Vの最終段の第4の拡散室54が、当該処理ガスが通過可能な処理ガス放出口15aを介してそれぞれプラズマ室18に接続されていることから、水平方向拡散部10H及び鉛直方向拡散部10Vにおいて処理ガスを確実に拡散した後に、プラズマ形成室18において処理ガスを十分に混合することができる。
【0069】
その結果、本実施の形態によれば、例えば大型基板5に対して前処理を行う場合に当該大型基板上の各領域における均一な分布の処理を行うことができる。
さらに、本実施の形態においては、処理ガス拡散部10は、処理ガスを導く方向が異なる水平方向拡散部10H及び鉛直方向拡散部10Vを有することから、処理ガスの分散拡散回数が多く、例えば曲管によって処理ガスを分流する場合に比べ、処理ガスの流量が均一即ち一定になるため、より均一な表面処理を行うことができる。
【0070】
さらにまた、本実施の形態においては、メッシュ状部材16が接地されるとともに、処理対象物に対してバイアス電力を印加するように構成されていることから、処理ガスのプラズマのうちイオン種がメッシュ状部材16によって捕獲されるとともに、当該イオン種が基板5に到達しにくくなるので、基板5に対するダメージを抑制することができる。
【0071】
加えて、本実施の形態においては、ボックスセルを用いてラジカル放出器10Aを構成しているので、コンパクトで構成が簡素な前処理装置を提供することができる。
【0072】
図9(a)(b)は、本発明におけるラジカル放出器の他の例を示す概略構成図であり、以下、上記実施の形態と対応する部分には、同一の符号を付しその詳細な説明を省略する。
【0073】
図9(a)(b)に示すように、本例のラジカル放出器10Bは、水平方向拡散部10Hにおける第1〜第4の拡散室21〜24並びに鉛直方向拡散部10Vの第1〜第4の拡散室51〜54において、隔壁部を設けないものであり、その他の構成は上述したガス分岐ユニットと同一の構成を有している。
本例のラジカル放出器10Bによれば、より構成が簡素でコストを抑えることができる。
【0074】
ただし、処理ガスをより均一に拡散及び混合を行う観点からは、上記実施の形態のように、ラジカル放出器10Aの水平方向拡散部10Hにおける第1〜第4の拡散室21〜24並びに鉛直方向拡散部10Vの第1〜第4の拡散室51〜54において、隔壁部を設けることが好ましい。その他の構成及び作用効果については上述の実施の形態と同一であるのでその詳細な説明を省略する。
【0075】
なお、本発明は上述の実施の形態に限られることなく、種々の変更を行うことができる。
例えば、上記実施の形態においては、水平方向拡散部10Hの上部に鉛直方向拡散部10Vを設けるようにしたが、本発明はこれに限られず、水平方向拡散部10Hの下部に鉛直方向拡散部10Vを設けることも可能である。
【0076】
この場合には、処理ガスを下方に放出する構成の前処理装置を得ることができる。
また、水平方向拡散部10Hに導入された処理ガスを例えば水平方向に放出するように構成することもできる。
一方、拡散室に設ける連通口の数は上記実施の形態のものには限られず、適宜変更することができる。
【0077】
ただし、処理ガスを確実に拡散する観点からは、プラズマ形成室の底部に8個以上の連通口を設けることが好ましい。
さらにまた、水平方向拡散部10Hについては、水平方向に設置する場合のみならず、処理対象物の配置方向に応じて、傾斜させて設置したり、鉛直方向に向けて設置することもできる。
【0078】
加えて、上記実施の形態においては、ラジカル放出部材としてメッシュ状部材を用いた場合を例にとって説明したが、本発明はこれに限られず、メッシュ状部材の代わりにノズルプレートを用いることもできる。
さらにまた、上記実施の形態では、所謂マルチチャンバー方式の装置を例にとって説明したが、本発明はこれに限られず、所謂インライン方式の装置に適用することもできる。
【符号の説明】
【0079】
1…有機EL製造装置
5…基板(処理対象物)
8…処理ガス供給源
10…ラジカル放出器(面状のラジカル放出器)
10H…水平方向拡散部
10V…鉛直方向拡散部
11…本体部
13…高周波電源
15…シャワープレート
16…メッシュ状部材(ラジカル放出部材)
20…前処理装置(プラズマ処理装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象物が配置される真空槽と、
前記真空槽の外部に設けられた処理ガス供給源と、
前記処理ガス供給源から供給された処理ガスを放電させ、当該処理ガスのラジカルを前記処理対象物に向って放出するためのラジカル放出器とを備え、
前記ラジカル放出器は、前記処理ガス供給源から供給された処理ガスを導入する処理ガス導入室を有し、
当該処理ガス導入室の前記処理対象物側に、導電体からなる面状のシャワープレートが設けられるとともに、
当該処理ガス導入室の前記シャワープレートの前記処理対象物側には、前記シャワープレートに対応する大きさ及び形状の導電体からなる面状のラジカル放出部材が設けられ、
前記シャワープレートと前記ラジカル放出部材とが電気的に絶縁されるとともに、当該ラジカル放出部材に所定の電力を印加することにより、当該シャワープレートと当該ラジカル放出部材の間のプラズマ形成室において前記処理ガスのプラズマを生成し、前記ラジカル放出部材から前記処理対象物に向って当該処理ガスのラジカルを放出するよう構成されているプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記ラジカル放出部材が、メッシュ状部材からなる請求項1記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記メッシュ状部材が、複数枚のメッシュを重ねて構成されている請求項2記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記ラジカル放出部材が接地されるとともに、前記処理対象物に対してバイアス電力を印加するためのバイアス電源を有する請求項1乃至3のいずれか1項記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記処理ガス導入室内に、前記処理ガスを前記ラジカル放出器内に導入する手段として、放射状に処理ガスを放出するノズル部が設けられている請求項1乃至4のいずれか1項記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記ラジカル放出器は、
、前記処理ガス供給源から供給された処理ガスを拡散するための複数の処理ガス拡散部を有し、
前記複数の処理ガス拡散部は、当該処理ガスの導入側から放出側に向って段階的に区分けされ且つ互いの雰囲気が隔離された複数の拡散室を有するとともに、当該複数の拡散室は、互いに隣接する拡散室が前記処理ガスが通過可能な連通口を介して接続され、さらに、当該複数の拡散室のうち最終段の拡散室が、前記処理ガスが通過可能な連通口を介してそれぞれ前記プラズマ形成室に接続されている請求項1乃至5のいずれか1項記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
前記面状の処理ガス放出器における処理ガス拡散部の複数の拡散室に、互いの雰囲気を隔離するための隔壁部が設けられている請求項6記載のプラズマ処理装置。
【請求項8】
前記面状の処理ガス放出器における処理ガス拡散部の複数の連通口は、前記処理ガスの導入側から放出側に向って2n−1個(nは自然数)で増加するように構成されている請求項6又は7のいずれか1項記載のプラズマ処理装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載のプラズマ処理装置を用い、真空中で基板表面に対して処理を行う方法であって、
当該基板上に真空蒸着によって有機材料を蒸着する前に、前記プラズマ処理装置のラジカル放出器から前記処理ガスのラジカルを放出して当該基板表面のクリーニング処理を行う工程を有する前処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−84238(P2012−84238A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226965(P2010−226965)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】