説明

プラズマ処理装置用部品及び識別表示の刻印方法

【課題】識別表記の視認性を阻害することがなく、プラズマ処理時において、識別表示を起点として生じる割れ等の弊害を防止することができるプラズマ処理装置用部品及び識別表示の刻印方法を提供する。
【解決手段】プラズマ処理装置1内に配置される電極板3の背面に、断面形状がU字状の凹溝31により形成された識別表示30が付されており、凹溝31は、深さHに対する幅Wの比率が0.3以上2.0以下であり、その凹溝31の底部33の半径Rが30μm以上の曲率半径で形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置に用いられる識別表示が付されたフォーカスリングや電極板等の部品及びその部品への識別表示の刻印方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造プロセスに使用されるプラズマエッチング装置やプラズマCVD装置等のプラズマ処理装置は、チャンバー内に、高周波電源に接続される上部電極と下部電極とを、例えば、上下方向に対向配置し、下部電極の上に被処理基板を配置した状態として、上部電極に形成した通気孔からエッチングガス等を被処理基板に向かって流通させながら高周波電圧を印加することによりプラズマを発生させ、被処理基板にエッチング等の処理を行う構成とされている(特許文献1)。
【0003】
そして、このようなプラズマ処理装置に用いられるフォーカスリングや電極板等の部品には、部品の交換時期を判定することや、部品の製造過程などの追跡調査を可能とするために、製造番号等の識別表示が付されている。識別表示は、レーザマーキング法により刻印するなどして形成されている。これらの識別表示が付された部品においては、プラズマ処理時に高温にさらされることより、識別表示を起点として割れを生ずることがあった。
【0004】
特許文献2には、縦断面形状が略U字形状のドット穴を複数並べることにより、識別表示を形成する方法が提案されている。ドット穴の直径は、0.1mm以下(好ましくは0.05mm以下)に形成されており、このドット穴は、プラズマ処理時のシース厚よりも狭く、ドット穴の中心軸どうしの最短距離が直径の3倍以上(例えば、0.15mm以上)に形成されている。このようなドット穴により構成された識別表示とすることで、熱応力による影響を緩和して、識別表示を起点とする割れの発生を抑制するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−184764号公報
【特許文献2】特許第4409459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2のように、ドット穴で識別表示を刻印する場合、視認性が劣るという問題がある。また、ドット穴を刻印する際には、集光性の高いレーザ光を一点に集中させることになるので、視認できる程度の加工を施す場合にはドット穴が深く刻まれ易いうえに、U字形状とすることが難しく、円錐状の底の尖ったドット穴が形成されることが少なくない。そして、異常放電によりドット穴に局所的に熱がかかり、底部分の尖った鋭角形状に応力が集中した場合、部品に割れを生じさせるおそれがある。
また、識別表示の形成に際しては、文字等を刻印後、その後のエッチング工程を経て表面をポリッシュする平滑化作業がなされるが、この平滑化作業においてもドット穴の中に入り込んだ研磨屑を完全に取り除けないなどの問題がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、識別表記の視認性を阻害することがなく、プラズマ処理時において、識別表示を起点として生じる割れ等の弊害を防止することができるプラズマ処理装置用部品及び識別表示の刻印方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のプラズマ処理装置用部品は、プラズマ処理装置内に配置される部品であって、前記部品の表面に、断面形状がU字状の凹溝により形成された識別表示が付されており、前記凹溝は、深さに対する幅の比率が0.3以上2.0以下であり、その凹溝の底部が30μm以上の曲率半径で形成されていることを特徴とする。
【0009】
凹溝により識別表示を設けているので、ドット穴により識別表示を付した場合のように、視認性を阻害することがない。また、識別表示は、断面形状がU字状の凹溝によって形成されているので、識別表示の刻印時において生じた研磨屑の除去も容易に行うことができる。また、凹溝底部の緩やかなU字状の形状は、プラズマ処理時の応力集中を緩和して、部品に生じる割れ等の弊害を防止することができる。
【0010】
また、本発明の識別表示の刻印方法は、プラズマ処理装置内に配置される部品の表面に凹溝を形成して識別表示を刻印する方法であって、前記部品の表面に、レーザ照射加工により少なくとも二列の小溝部を、隣接する小溝部の一部分を重ねた状態で並列に形成しておき、これらの小溝部の間を除去するようにフォーカス位置をずらしてレーザ照射加工することにより凹溝を形成し、識別表示を刻印することを特徴とする。
【0011】
小溝部を複数加工した後に、レーザ光のフォーカス位置をずらして小溝部全体にレーザ照射加工を施すことにより、凹溝表面を平滑化するとともに、幅は広く、深さは浅い凹溝を形成することができる。したがって、識別表示の視認性を阻害することがなく、プラズマ処理時において生じる部品の割れ等の弊害を防止することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、識別表示を形成する凹溝を、幅は広く、深さは浅く形成できるとともに、凹溝表面を平滑化して形成することができるので、識別表示の視認性を阻害することがなく、プラズマ処理時において、識別表示を起点として生じる割れ等の弊害を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】プラズマ処理装置の例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態を示す電極板の背面図である。
【図3】凹溝を説明する図である。
【図4】識別表示の形成方法を説明する図であり、(a)が小溝部の形成、(b)が複数列の小溝部の形成、(c)が凹溝表面の平滑化を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のプラズマ処理装置用部品を電極板に適用した一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
まず、この電極板が用いられるプラズマ処理装置としてプラズマエッチング装置1について説明する。
このプラズマエッチング装置1は、図1の概略断面図に示されるように、真空チャンバー2内の上部に電極板(上部電極)3が設けられるとともに、下部に上下動可能な架台(下部電極)4が電極板3と相互間隔をおいて平行に設けられている。この場合、上部の電極板3は絶縁体5により真空チャンバー2の壁に対して絶縁状態に支持されているとともに、架台4の上には、静電チャック6と、その周りを囲むフォーカスリング7とが設けられており、静電チャック6の上に、フォーカスリング7により周縁部を支持した状態でウエハ(被処理基板)8を載置するようになっている。また、真空チャンバー2の上部にはエッチングガス供給管9が設けられ、このエッチングガス供給管9から送られてきたエッチングガスは拡散部材10を経由した後、電極板3に設けられたガス通過孔11を通してウエハ8に向かって流され、真空チャンバー2の側部の排出口12から外部に排出される構成とされている。一方、電極板3と架台4との間には高周波電源13により高周波電圧が印加されるようになっている。
【0015】
また、電極板3は、シリコンによって円板状に形成されており、その背面には熱伝導性に優れるアルミニウム等からなる冷却板14が固定され、この冷却板14にも電極板3のガス通過孔11に連通するように、このガス通過孔11と同じピッチで貫通孔15が形成されている。そして、電極板3は、背面が冷却板14に接触した状態でねじ止め等によってプラズマ処理装置1内に固定される。この電極板3には、図2に示すように、冷却板14と接触する背面に、製造番号等の識別表示30が付されている。
【0016】
プラズマエッチング装置1では、高周波電源13から高周波電圧を印加してエッチングガスを供給すると、このエッチングガスは拡散部材10を経由して、電極板3に設けられたガス通過孔11を通って電極板3と架台4との間の空間に放出され、この空間内でプラズマとなってウエハ8に当り、このプラズマによるスパッタリングすなわち物理反応と、エッチングガスの化学反応とにより、ウエハ8の表面がエッチングされる。
また、ウエハ8の均一なエッチングを行う目的で、発生したプラズマをウエハ8の中央部に集中させ、外周部へ拡散するのを阻止して電極板3とウエハ8との間に均一なプラズマを発生させるために、通常、プラズマ発生領域16がシリコン製のシールドリング17で囲われた状態とされている。
【0017】
次に、電極板3について、図2から図4を参照しながら説明する。
この電極板3の背面には、図2に示す位置に、識別表示30が付されている。識別表示30は、図3に示す凹溝31によって、文字や数字等を組み合わせた文字列を刻印することにより構成されている。この場合、直径300mm、板厚10mmとされる電極板3に対して、電極板3の外周より内側10mmの位置に、識別表示30が付されている。
なお、電極板3は、単結晶シリコン、柱状晶シリコン、又は多結晶シリコンにより円板状に形成されている。
凹溝31は、レーザマーカ等によって加工され、図3に示すように、断面形状がU字状になっている。この凹溝31は、深さHに対する幅Wの比率(H/W)が0.3以上2.0以下とされており、その底部33の曲率半径Rが30μm以上で形成されている。
【0018】
次に、電極板3に凹溝31を刻印する方法について説明する。
凹溝31は、例えば、レーザマーカ等によるレーザ照射加工により形成される。
レーザマーカは、レーザ光を被加工物上に集光させて熱加工によって、被加工物の表面に文字等を刻印することができる装置である。レーザ光のフォーカス位置や出力強度、走査速度を管理することによって所望の幅と深さの加工を施すことができる。
【0019】
本実施形態においては、所望の凹溝31の幅を得るまで、複数回にわたってレーザ照射加工し、加工溝を徐々に広げて形成している。
まず、図4(a)に示すように、電極板3の背面の所定の位置に、1回目のレーザ照射によって、幅80μm程度の小溝部32aを加工する。次に、図4(b)に示すように、小溝部32aと一部分を重ねるようにして並列に二回目のレーザ照射、三回目のレーザ照射と、順次実施して、隣接する小溝部32の一部分を重ねた状態で小溝部32b,32cを加工する。このように、所望の幅(ここでは、200μm程度)となるまで、複数回、レーザ照射を繰り返す。
【0020】
凹溝31を構成する小溝部32による加工溝が、所望の幅となったところで、これら複数列の小溝部32の間の鋸溝部34を除去するようにレーザ光のフォーカス位置をずらして、小溝部32による加工溝の幅全体をレーザ光でなぞるように加工を施す。これにより、図4(c)に示すように、鋸溝部34が除去されて、加工溝の表面がU字状の断面形状に加工される。その後、レーザ照射加工後に残る熱の影響層を除去するため、電極板3をエッチングする。さらに、電極板3の表面を数10〜100μm程度研磨することにより、所定の厚みとされる。
なお、小溝部32による加工溝は、電極板3の表面を研磨した後においても凹溝31を確実に視認できる状態とするため、200μm程度の深さを目途に加工されている。
【0021】
このように、小溝部32を複数加工した後に、その小溝部32による加工溝の全体に、レーザ光のフォーカス位置をずらしてレーザ照射加工を施すことにより、加工溝の表面を平滑化するとともに、幅Wが大きい凹溝31を形成することができる。
【0022】
ところで、プラズマエッチング処理時には、プラズマ発生領域に露出している電極板3は高温にさらされ、処理の度に膨張、収縮を繰り返すことにより、電極板3に熱応力が加わることとなる。しかしながら、本実施形態の電極板3においては、背面に付された識別表示30を構成する凹溝31が、U字状の断面形状となるように形成されており、かつ、その凹溝31の深さHに対する幅Wの比率が大きく構成されている。そのため、凹溝31の幅Wを十分に確保することができ、識別表示30の視認性を阻害することがない。また、プラズマ処理時において応力集中を緩和して、部品に生じる割れ等の弊害を防止することができる。また、凹溝31により構成される識別表示30においては、刻印時において生じた研磨屑の除去も容易に行うことができる。
【実施例】
【0023】
次に、本発明のプラズマ処理装置用部品に係る実施例について説明する。
試料には、第1実施形態と同様に直径300mm、厚さ10mmの単結晶シリコン電極板を用い、識別表示を構成する凹溝の違いによる、割れの発生状況を確認した。
識別表示は、電極板の片面に下記の表1に示す条件で、また、図3に示す形状の凹溝を形成することにより刻印した。なお、試料に付する識別表示は、文字列「ABC123」、文字高さ6mmとし、電極板の外周から内側10mmの位置に刻印した。
また、試料となる電極板は、条件毎に50枚作製した。そして、100℃に加熱されたホットプレート上に、識別表示を付した刻印面を上にして電極板を載置し、この際に識別表示を起点とする割れが発生した電極板の数を確認した。なお、識別表示を起点とする割れは、ホットプレート上に載置した直後に発生していた。
また、視認性の評価は、5名が垂直方向(識別表示の直上50cm)から観察することにより行い、5名全員が文字を正しく確認できた場合を「○」とし、1名でも読み取れなかった場合を「×」として評価した。
【0024】
【表1】

【0025】
表1に示すとおり、各凹溝の深さHに対する幅Wの比率(H/W)が0.3以上2.0以下で、凹溝の底部の半径Rが30μm以上であれば、識別表示を起点とする割れを効果的に防止でき、良好な視認性を得られることがわかる。また、識別表示の良好な視認性を得るためには、凹溝の幅Wを200μm程度とすれば十分であるが、表1によれば、幅Wを240μmとした凹溝を形成することも可能である。
【0026】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、レーザマーカのレーザ媒体、光源等に関しては、電極板等の部品に刻印が可能であるならば、特に制限されるものではない。
また、上記実施形態においては、プラズマ処理装置用部品としてSi製の電極板を用いて説明したが、本発明は、石英、アルミナセラミックス、イットリアセラミックス、SiC等の部品表面に識別表示を刻印する際にも有効である。
【符号の説明】
【0027】
1 プラズマエッチング装置
2 真空チャンバー
3 電極板(プラズマ処理装置用部品)
4 架台
5 絶縁体
6 静電チャック
7 フォーカスリング
8 ウエハ
9 エッチングガス供給管
10 拡散部材
11 ガス通過孔
12 排出口
13 高周波電源
14 冷却板
15 貫通孔
16 プラズマ発生領域
17 シールドリング
30 識別表示
31 凹溝
32,32a,32b,32c 小溝部
33 底部
34 鋸溝部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ処理装置内に配置される部品であって、前記部品の表面に、断面形状がU字状の凹溝により形成された識別表示が付されており、前記凹溝は、深さに対する幅の比率が0.3以上2.0以下であり、その凹溝の底部が30μm以上の曲率半径で形成されていることを特徴とするプラズマ処理装置用部品。
【請求項2】
プラズマ処理装置内に配置される部品の表面に凹溝を形成して識別表示を刻印する方法であって、前記部品の表面に、レーザ照射加工により少なくとも二列の小溝部を、隣接する小溝部の一部分を重ねた状態で並列に形成しておき、これらの小溝部の間を除去するようにフォーカス位置をずらしてレーザ照射加工することにより凹溝を形成し、識別表示を刻印することを特徴とする識別表示の刻印方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−174997(P2012−174997A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37537(P2011−37537)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】