説明

プラズマ誘起電解による微粒子の製造方法およびその装置

【課題】生成された微粒子の成長及び凝集を抑制したプラズマ誘起電解による微粒子製造方法およびその装置を提供する。
【解決手段】溶融塩をプラズマ誘起電解することによって微粒子を製造する方法であって、回転している実質的に平坦な面上に保持された溶融塩浴表面に対しプラズマ照射を行うことによって微粒子を生成させ、かつ、遠心力により生成された微粒子を溶融塩浴外へ移動させることを特徴とする前記製造方法およびその装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転円板上の溶融塩表面にプラズマ照射を行うことによって、金属微粒子及び/又は金属化合物微粒子を連続的に製造し、遠心力を利用して円板外部に移動させて回収する、プラズマ誘起電解による微粒子の製造方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で、金属のハロゲン化物を含む溶融塩浴表面にプラズマ照射を行うことによって、放電電子により金属イオンが還元されてミクロン〜ナノサイズの金属微粒子や金属化合物微粒子を得る方法(プラズマ誘起電解)が知られている(例えば、非特許文献1、2、3、特許文献1)。このプラズマ誘起電解により生成した微粒子は、従来、溶融塩浴中に放電終了までの長時間保持され、放電終了後に溶融塩浴全体を冷却固化し、その後、蒸留水で繰り返し洗浄され、真空乾燥を経て、乾燥粉末として回収されていた。
【0003】
しかし、この回収方法では、溶融塩中、特に放電部直下の高温部に生成粒子が保持される時間が長くなり、微粒子が成長したり、二次凝集したりすることがあった。さらに、この回収方法では、プラズマ誘起電解を行った溶融塩全体を冷却固化させるため、連続的な量産法へと発展させることには限界があった。分散した、もしくは緩く凝集した微粒子として、溶融塩から連続的に回収するためには、溶融塩中に生成する微粒子を優先的かつ連続的に回収しつつ、意図的ではない微粒子の成長や二次凝集を防ぐことのできる微粒子の製造方法およびその装置の開発が必要である。
【0004】
このような回収方法として、本発明者等は特願2005−121737において、微粒子が生成する部分の溶融塩を流動させて微粒子を溶融塩浴外に移動させて回収する、プラズマ誘起電解による微粒子の製造方法およびその装置を提案した。(特許文献2)
【0005】
微粒子が生成した直後の、微粒子を多く含む浴表層部分を流動、あるいは冷却固化させて、これを選択的に回収する方法では、回収微粒子の径は従来のものより格段に小さく、その粒径分布も比較的均一であった。しかし、特許文献2におけるいずれの方法においても、形成した微粒子を生成直後に全て回収することは困難であり、少なからず溶融塩浴槽内を循環した。その結果、浴槽内を循環する間に、微粒子の成長、二次凝集が進むため、回収粒子の粒径制御や分散回収を困難にし、収率を低下させることが、長時間の連続電解には問題であった。
【0006】
特に回転ドラムやコンベア等の回収機構を用いる場合、回収部で塩が固化してモーター等の駆動部の働きを妨げる場合があり、やはり長時間の連続電解には問題となった。
【0007】
また、微粒子を多く含む浴表層部分を浴外へ回収する方法では、溶融塩の回収に伴って浴槽内の溶融塩の量が減少し、その結果、浴組成が変化したり、浴面が低下して放電の維持ができなくなるため、回収される溶融塩量に相当する分だけ浴槽に添加する必要があった。このため、長時間の連続電解を安定した状態で行うためには、浴槽外部に別途溶融塩を供給するための補助浴槽と保温された配管、さらには棒状や箱状のスペーサーを一定速度で溶融塩浴中に沈め、浴面の高さをモニタリングするセンサーとリンクさせて調整を行う機構など、装置構成が非常に複雑になり、製造コストの増加につながった。
【0008】
一方、特許文献2では、生成した微粒子を浴の流動等により溶融塩浴底部に沈降させ、溶融塩浴槽底部に設置した排出路から、微粒子を含有する溶融塩を浴外へ排出し回収する方法も提案した。上記の、排出した溶融塩量に相当する塩を適宜追加する必要があったものの、機械的な駆動部がほとんど存在しないことから、長時間の連続電解でも装置稼動に支障はなかった。しかし、浴底部に沈降する微粒子は、表層部で回収されるものよりも粒径が大きく、より粒径の小さく均一で分散した微粒子の形成には問題があった。
【0009】
従って、より粒径の小さく均一で分散した微粒子を、長時間連続して製造するためには、特許文献2における表層部からの回収と同等の条件で微粒子を生成し、生成直後の微粒子を連続して回収できる、単純かつ簡便な新たな方法およびその装置の開発が必要であった。
【0010】
また、特許文献1及び2では、放電を安定に維持するために、電源と電極の間に数百〜数千オームの電気抵抗を使用していた。そのため、印加する電力の大部分が抵抗によって消費され、これが大きなエネルギーロスにつながっていた。この抵抗値を小さくすることで、抵抗におけるエネルギーロスを小さくすることはできたものの、電流が不安定になり、放電を長時間安定に維持することは困難であった。
【0011】
従って、プラズマ誘起電解により微粒子を長時間連続して、低エネルギー消費で製造するためには、より小さい電気抵抗を使用して、もしくは抵抗を使用せずに放電を長時間安定に維持できる方法およびその装置の開発が必要であった。
【非特許文献1】溶融塩化物系での放電電解によるNi微粒子の形成、河村博行、森谷公一、伊藤靖彦、粉体及び粉末冶金、45巻、12号、p1142、1998
【非特許文献2】Discharge electrolysis in molten chloride: formation of fine silver particles, H. Kawamura, K. Moritani and Y. Ito, Plasmas & Ions, 1, p29, 1998
【非特許文献3】Formation of Metal Oxide Particles by Anode-Discharge Electrolysis of Molten LiCl-KCl-CaO System, T. Oishi, T. Goto, and Y. Ito, J. Electrochemical. Soc., 149(11)D155-D159(2002)
【特許文献1】WO2005/111272公報
【特許文献2】特願2005−121737号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、溶融塩表面に対するプラズマ誘起電解によって、溶融塩中に連続して微粒子を生成し、かつ生成した微粒子の成長と凝集を抑制しつつ、連続的に回収するための、単純で簡便な微粒子製造、回収装置およびその方法の提供を目的とする。また、溶融塩表面に対するプラズマ誘起電解を行う際に、小さい電気抵抗を使用して、もしくは抵抗を使用せずに放電を長時間安定に維持できる装置およびその方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記従来技術の問題点に鑑み鋭意検討を重ねた結果、円板上に保持された溶融塩に対し、プラズマ誘起電解を行うことで、該保持溶融塩中に微粒子を生成し、該円板の回転によって形成した微粒子を含む溶融塩を、遠心力を利用して円板外部に移動させて回収することによって、より粒径の小さい微粒子を連続的に製造及び回収できることを見出し、本発明を完成させた(請求項1及び9参照)。また、電源と電極との間にコイルを挿入することによって、大きい抵抗値の電気抵抗を使用せずに放電を長時間安定に維持できることを見出し、本発明を完成させた(請求項22参照)。
【0014】
具体的には、請求項1に記載の発明は、溶融塩をプラズマ誘起電解することによって微粒子を製造する方法であって、回転している実質的に平坦な面上に保持された溶融塩浴表面に対しプラズマ照射を行うことによって微粒子を生成させ、かつ、遠心力により生成された微粒子を溶融塩浴外へ移動させることを特徴とする前記製造方法である。
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、プラズマ誘起電解により生成された微粒子の成長と凝集を抑制しつつ、連続的に回収できる単純で、かつ、簡便な微粒子製造方法が提供される。なお、回転駆動される実質的に平坦な面は、その回転によって生成される微粒子を溶融塩浴外へ移動させることができる遠心力を発生させられる面であればよく、下向きに傾斜している円錐面等の曲面やその表面に複数の溝が形成されている面など、全体として遠心力による溶融塩の円滑な流れを形成することができる面であれば特に二次元平面に限られるものではない。
【0016】
請求項2に記載の発明は、微粒子の製造を不活性ガス雰囲気下で行うことを特徴とする請求項1に記載の製造方法である。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、製造される微粒子の酸化を有効に防止することができる。
【0018】
請求項3に記載の発明は、微粒子の粒子径を回転駆動される面の回転数により制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法である。
【0019】
請求項3に記載の発明によれば、製造される微粒子の粒子径を制御する因子を回転駆動される面の回転数にまとめることが可能となり、微粒子の粒子径を精度良く容易に制御できるようになる。
【0020】
請求項4に記載の発明は、回転駆動される面を溶融塩浴の厚みを実質的に0.01mm〜5mmに保持するように回転制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法である。
【0021】
請求項4に記載の発明によれば、溶融塩浴の薄肉化により生成される溶融塩中の微粒子の移動経路が略二次元的に単純化され、微粒子の凝集を抑制しつつバラツキの少ない安定した粒子径を有する微粒子を得ることができる。
【0022】
請求項5に記載の発明は、溶融塩が保持される面を外部加熱手段により所定の温度に加熱することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の製造方法である。
【0023】
請求項5に記載の発明によれば、特に、溶融塩供給初期、回転可能な面の冷却効果により溶融塩浴の凝固を防止できると共に、溶融塩浴の温度偏析が低減されバラツキの少ない安定した粒子径を有する微粒子を得ることができる。
【0024】
請求項6に記載の発明は、陰極放電において消費される金属イオンを連続して溶融塩浴中に供給するために、対極である陽極に生成される微粒子金属成分を含む電極材料を用いることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の製造方法である。
【0025】
請求項6に記載の発明によれば、陰極放電において、陽極から溶融塩浴中へ生成される金属微粒子と同じ成分の金属イオンが供給されるため、連続して所望の金属微粒子を得ることができる。
【0026】
請求項7に記載の発明は、陽極放電において金属化合物の微粒子を生成するために、放電極である陽極に生成される金属化合物の金属成分を含む電極材料を用い、そして、その対イオンを含む溶融塩を用いることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の製造方法である。
【0027】
請求項7に記載の発明によれば、陽極放電において、陽極から溶融塩浴中へ溶融塩浴中に存在するイオンとは異なる金属イオンを供給することができるため、極めて容易に金属酸化物、窒化物などの所望の金属化合物からなる微粒子を得ることができる。
【0028】
請求項8に記載の発明は、溶融塩浴外へ移動させられた前記微粒子を含む溶融塩を外部冷却手段により該溶融塩の融点以下に冷却するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の製造方法である。
【0029】
請求項8に記載の発明によれば、溶融塩浴外へ移動した微粒子を含む溶融塩を急速冷却することが可能となるため、生成された微粒子のさらなる成長や凝集を抑制することができ、ナノサイズの微粒子を安定的に得るために大きく寄与する。
【0030】
請求項9に記載の発明は、溶融塩を供給するための供給手段と、前記供給された溶融塩を回転可能な実質に平坦な面上に保持するための保持手段と、保持された溶融塩浴表面に対してプラズマ照射を行うための放電極および対極を含む電極と、そしてプラズマ照射により生成された微粒子を、前記保持手段の回転により発生される遠心力により溶融塩浴外へ移動させるための回転駆動手段と、からなる溶融塩をプラズマ誘起電解することにより微粒子を製造するための装置である。
【0031】
請求項9に記載の発明によれば、プラズマ誘起電解により生成された微粒子の成長と凝集を抑制しつつ、連続的に回収できる単純で、かつ、簡便な微粒子を製造することができる装置が提供される。なお、回転駆動される実質的に平坦な面は、その回転によって生成される微粒子を溶融塩浴外へ移動させることができる遠心力を発生させられる面であればよく、下向きに傾斜している円錐面等の曲面やその表面に複数の溝が形成されている面など、全体として遠心力による溶融塩の円滑な流れを形成することができる面であれば特に二次元平面に限られるものではない。
【0032】
請求項10に記載の発明は、供給手段の溶融塩供給口を保持手段の回転軸上に配置したことを特徴とする請求項9に記載の装置である。
【0033】
請求項10に記載の発明によれば、溶融塩浴は溶融塩浴中の最も静的な領域に供給されるため、動的な流れを有する他の領域の溶融塩を巻き込むことなく極めて高純度で粒子径の安定した微粒子を得ることができる。
【0034】
請求項11に記載の発明は、供給手段に溶融塩の温度を保持するための外部加熱手段をさらに備え付けたことを特徴とする請求項9又は10に記載の装置である。
【0035】
請求項11に記載の発明によれば、特に、溶融塩供給初期、供給手段の冷却効果により溶融塩浴の凝固を防止できると共に、溶融塩浴の温度偏析が低減されバラツキの少ない安定した粒子径を有する微粒子を得ることができる。
【0036】
請求項12に記載の発明は、保持手段を円板状若しくは外周部に実質的に円形の溶融塩浴を形成するためのリング状の堰を備え付けたことを特徴とする請求項9ないし11のいずれかに記載の装置である。
【0037】
請求項12に記載の発明によれば、保持手段を回転することによって発生される遠心力を回転方向に沿って溶融塩浴中に均一に分布させることにより、生成される溶融塩中の微粒子の移動時間および移動経路の安定化を図ることができ、極めて安定した粒子径を有する微粒子を得ることができる。
【0038】
請求項13に記載の発明は、保持手段に溶融塩浴の厚みを実質的に一定に保持するように回転軸に向かって下向きに傾斜している円錐面を備え付けたことを特徴とする請求項9ないし11のいずれかに記載の装置である。
【0039】
請求項13に記載の発明によれば、溶融塩浴の厚みの均一化および薄肉化により生成される溶融塩中の微粒子の移動経路が略二次元的に単純化され、微粒子の凝集を抑制しつつバラツキの少ない安定した粒子径を有する微粒子を得ることができる。
【0040】
請求項14に記載の発明は、保持手段に溶融塩の温度を保持するための外部加熱手段をさらに備え付けたことを特徴とする請求項9ないし13のいずれかに記載の装置である。
【0041】
請求項14に記載の発明によれば、特に、溶融塩供給初期、回転可能な面の冷却効果により溶融塩浴の凝固を防止できると共に、溶融塩浴の温度偏析が低減されバラツキの少ない安定した粒子径を有する微粒子を得ることができる。
【0042】
請求項15に記載の発明は、放電極を保持手段の回転軸外に配置したことを特徴とする請求項9ないし14のいずれかに記載の装置である。また、請求項16に記載の発明は、対極を保持手段の回転軸上に配置したことを特徴とする請求項9ないし15のいずれかに記載の装置であり、さらに、請求項17に記載の発明は、前記対極の少なくとも一部を溶融塩浴と接触させたことを特徴とする請求項9ないし16のいずれかに記載の装置である。
【0043】
請求項15、16及び17に記載の発明によれば、放電極と溶融塩浴表面との間において対極との電気的干渉が極めて少ない安定したプラズマを得ることができ、効率の良いプラズマ誘起電解を行うことが可能となる。
【0044】
請求項18に記載の発明は、陰極放電において、対極である陽極を生成される微粒子金属成分を含む材料で構成したことを特徴とする請求項9ないし17のいずれかに記載の装置である。
【0045】
請求項18に記載の発明によれば、陰極放電において、陽極から溶融塩浴中へ生成される金属微粒子と同じ成分の金属イオンが供給されるため、連続して所望の金属微粒子を得ることができる。
【0046】
請求項19に記載の発明は、前記対極である陽極に金属スクラップホルダーをさらに備え付けたことを特徴とする請求項18に記載の装置である。
【0047】
請求項19に記載の発明によれば、陰極放電において、陽極に設けられた金属スクラップホルダーの中に生成される金属微粒子と同じ成分を有する金属スクラップを装入することにより、これらの金属スクラップを陽極として機能させることができるため、リサイクル可能なプラズマ誘起電解による微粒子製造装置を提供することができる。
【0048】
請求項20に記載の発明は、陽極放電において、放電極である陽極を生成される微粒子金属成分を含む材料で構成したことを特徴とする請求項9ないし17のいずれかに記載の装置。
【0049】
請求項20に記載の発明によれば、陽極放電において、陽極から溶融塩浴中へ溶融塩浴中に存在するイオンとは異なる金属イオンを供給することができるため、極めて容易に金属酸化物、窒化物などの所望の金属化合物からなる微粒子を得ることができる。
【0050】
請求項21に記載の発明は、本発明による装置に溶融塩浴外へ移動させられた微粒子を含む溶融塩を該溶融塩の融点以下に冷却するための外部冷却手段をさらに備え付けたことを特徴とする請求項9ないし20のいずれかに記載の装置である。
【0051】
請求項21に記載の発明によれば、溶融塩浴外へ移動した微粒子を含む溶融塩を急速冷却することが可能となるため、生成された微粒子のさらなる成長や凝集を抑制することができ、ナノサイズの微粒子を安定的に得るために大きく寄与する。
【0052】
請求項22に記載の発明は、本発明による装置の放電極または対極の少なくとも1つの電極と電源とを結ぶ回路の間に、放電を安定化させるためのコイルを配置したことを特徴とする請求項9ないし21のいずれかに記載の装置である。
【0053】
請求項22に記載の発明によれば、放電が安定した後、印加電圧を低下させた場合であっても比較的広いインダクタンス領域において長時間の間安定した放電を維持することができるようになる。
【0054】
1.プラズマ誘起電解
本明細書では、溶融塩表面にアーク放電等により誘起されるプラズマを照射することによって金属微粒子及び/又は金属化合物微粒子を製造する方法をプラズマ誘起電解と称することがある。プラズマ誘起電解による微粒子製造法は大きく二つに分けられる。一つは陰極放電であり、もう一つは陽極放電である。これは放電を起こす電極が陰極として働くか、陽極として働くかの違いである。
【0055】
放電電極は、電解浴近傍に設置され、溶融塩浴(電解浴)に接触または浸漬させないようにする。設置場所は放電電極の発生するプラズマによって溶融塩中に微粒子が生成するような場所であれば特に限定されないが、溶融塩液面の上部に設置することが好ましい。そうすることにより、放電電極からプラズマが誘起され、電解浴中に金属微粒子及び/又は金属化合物の微粒子が生成する。
【0056】
陰極放電の場合、溶融塩浴中には製造対象となる金属微粒子成分のイオンが存在しており、陰極放電により浴に供給される電子は、溶融塩浴表面近傍の金属イオンを還元し、金属微粒子を形成する。浴中に存在する金属イオンの種類やその濃度などを制御することで、2種以上の金属からなる多元系合金微粒子も形成できる。電解を行う際の対極(陽極)には、対象とする金属成分を含む電極を用いるのが好ましい。
【0057】
一方、陽極放電では、製造対象とするのは金属化合物の微粒子であり、例えば金属酸化物、窒化物、酸窒化物、硫化物、炭化物などである。例として、金属化合物の場合は、製造対象とする金属化合物を構成する金属成分を含む陽極を用い、陽極放電すると、この金属成分がイオンとなって溶融塩浴表面に供給される。
【0058】
一方、溶融塩浴中には、金属と化合物を形成する相手側のイオンが存在しており、例えば、金属酸化物の微粒子を形成させる場合には、浴へ添加したCaOからの酸化物イオンが存在している。陽極放電により供給された金属イオンは、溶融塩中の相手側イオンと浴表面近傍で反応し、金属化合物微粒子を形成する。電解を行う際の対極(陰極)には、Al電極やガス拡散電極を用いることが好ましい。
【0059】
このように、微粒子形成を陰極放電で行うか陽極放電で行うかによって、陰極、陽極を構成する成分と溶融塩中に添加する原料イオンの種類が異なる。しかしながら、放電直下の溶融塩表層で微粒子が形成するという観点からは両者は同じであることから、溶融塩表層にて生成される微粒子の回収には同一の方法を用いることができる。
【0060】
なお、以下において、主として陰極放電の場合を例として示す。陰極放電の場合、製造される微粒子は金属微粒子であるが、陽極放電により金属化合物微粒子を製造する場合であっても同じ回収方法、装置等を採用できる。このため、下記の例は陽極放電により製造された金属化合物微粒子の回収方法、装置としても適用できる。陽極放電の場合に特筆すべき事項が存在する場合には、必要な箇所で適宜説明する。
【0061】
2.本発明による微粒子製造、回収方法
本発明による微粒子製造、回収方法の一例を、図1に模式的に示す。この装置1は、回転する円板10と、円板上に設置した陰極11(放電極、陽極放電の場合には陽極)、円板上に溶融塩12(原料塩)を供給するための供給塩浴槽13と、円板上に供給される溶融塩に接触する陽極14(対極、陽極放電の場合には陰極)、そして遠心力により円板外へ移動する微粒子15を含む塩を回収するための捕集容器16からなる。
【0062】
2―1.回転円板
回転円板10は、円板上部、あるいは下部に設置したモーター100等と直結させて回転させる。モーター等と直結させずに、歯車、ベルト等を介して駆動しても良い。放電極11直下で微粒子15が生成し、これが円板外部へ到達するまでの間に、粒子15は成長する。従って、回転数を制御することにより、微粒子径の制御が可能となる。
【0063】
この回転数は、生成する微粒子15の成分や所望の粒径、あるいは使用する円板径に応じて適宜調整すれば良いが、一例として0.1〜3,000rpm、好ましくは1〜1,500rpmの範囲であれば良い。
【0064】
また、円板10上への溶融塩12の供給を開始する際には、円板10上に保持される溶融塩12が冷却されることを防ぐために、供給する溶融塩の温度まで円板温度を予め上げておくのが好ましく、円板内部、下部、もしくは側部に、接触、もしくは非接触の形態で設置したヒーター130から予備加熱を行えばよい。供給開始後、供給される溶融塩12や放電による内部加熱により円板温度は維持される場合には、特に円板10を加熱する必要は無い。
【0065】
円板10の材質については、円板上に供給される溶融塩12中に溶解したり、溶融塩12中のイオンと反応したりすることで、これが不純物として微粒子15の形成に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されないが、絶縁性の高いセラミックス(Al2O3、SiO2等)、あるいは生成する微粒子15の成分と同じ、もしくは微粒子成分の一部の金属元素からなるものを用いるのが良い。後者の場合、特にカソード放電の場合には、この回転円板自体を陽極として用いることもできる。
【0066】
円板10の断面形状については、回転する円板上に溶融塩12を薄く保持できれば、特に制限されない。保持される溶融塩12の厚みは、0.01mm〜5mm、好ましくは0.1mm〜3mmであり、これを達成するために、円板断面形状が凹型であったり外周部に縁を有する等、円板面よりも外周部が高くなっていても良い(図1b参照)。また円板10上の溶融塩12の、外周部への流動を制御する目的で、円板上部には、円板の中心から外周部へ、もしくは同心円状に溝や突起部が存在しても良い。
【0067】
2−2.放電極
放電極11は、電解浴近傍に設置され、溶融塩浴(電解浴)に接触または浸漬させないようにする。設置場所は、放電極11により生成するプラズマによって溶融塩12中に微粒子15が生成するような場所であれば特に限定されないが、溶融塩浴面の上部に設置することが好ましい。そうすることにより、放電電極11によってプラズマが誘起され、電解浴中に金属微粒子及び/又は金属化合物の微粒子が生成する。電解浴の表面から放電極11の最下部までの距離は限定されず、プラズマが安定して維持される距離であればよい。
【0068】
放電極11の材質は、陰極放電の場合、一般に溶融塩電解に使用され、プラズマを発生させることができるものが使用でき、特には限定されない。例えば、モリブデン、タンタル、タングステン等の各種高融点金属、それらの合金、グラッシーカーボンや導電性ダイヤモンド等の炭素材料、導電性セラミックス、半導体性セラミックス等を用いることができる。また、これらを異種材料の上に薄膜状に形成したものも陰極として使用することもできる。それらの中でも、プラズマ誘起時に消耗されにくいタングステン、タンタル等の高融点金属を使用するのが好ましい。
【0069】
一方、陽極放電の場合には、陽極自体が微粒子15の原料となるため、所望する微粒子15の成分のみからなる、もしくは微粒子成分の一部を含むものを使用すれば良い。放電極の形状やサイズについても特に制限は無いが、丸棒状、角棒状等の棒状であるものが好ましく、安定した放電を維持させるために、特に陽極放電の場合には均一に陽極を消耗させるために、放電極側面がアルミナやシリカ等の絶縁性のセラミックス等で被覆されていればなお良い。
【0070】
プラズマ誘起電解における電解の条件も、一般にプラズマ誘起電解を行う条件で行うことができ、溶媒の組成、目的とする金属微粒子15の種類等に応じて適宜選択することができる。例えば、印加する電圧は、100〜2,000V程度が例示できるが、電気回路への負担軽減を考慮すると100〜400V程度が好ましい。放電が安定した段階で、10〜200V、好ましくは20〜150Vまで下げることができる。電流の種類は直流電流が好ましく、放電極1本あたりの電流は、0.05〜50A程度、好ましくは、0.1〜20A程度が良い。
【0071】
安定してプラズマを誘起させるために、電源と電極の間に電気抵抗やコイルを直列に挿入するなどして、放電の安定性を確保することが好ましい。電気抵抗は、陰極側、陽極側又はその両方に挿入することができる。当該電気抵抗の種類は、電解時の電流に耐えうる容量を持つ抵抗器であれば限定されず、例えば、セメント抵抗器、ホーロー抵抗器、不燃性捲線固定抵抗器等が使用でき、不燃性捲線固定抵抗器がより好ましい。
【0072】
抵抗の値は、通常1Ω〜5kΩ程度、好ましくは3Ω〜500Ωである。数〜数十Ω程度の小さい抵抗を使用する際には、抵抗部での電力消費は極端に小さくなり印加電圧も数十Vまで下げることが可能になるが、一方で放電の長時間安定維持が困難になる。このような小さい抵抗を使用する場合には、コイルを組み合わせて用いることで、放電を安定化させることができ、抵抗を使用しなくても良い。
【0073】
放電部の抵抗値のふらつきに伴って、系に流れる電流は変化する。インダンクタンスが大きすぎる場合には、その時間幅に対して時定数(τ=R/L)が非常に小さくなるために、電流の変化を抑制できなくなる。一方、インダンクタンスが小さすぎる場合には、電流の変化を低減するに足る磁気エネルギー(W=(1/2)LI2)を蓄積できない。そのため、本発明で行うプラズマ誘起電解の場合では、インダクタンスが0.05μH〜100mH、好ましくは0.2μH〜10mHのものを使用するのが好ましい。また、コイルと平滑コンデンサを併用しても良い。
【0074】
電解は通常、大気圧下で行うが、加圧下、減圧下でも可能である。また、生成粒子15の酸化等を抑制するために、電解は不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ネオン等が例示でき、アルゴンが好ましい。
【0075】
2−3.円板上への溶融塩の供給
円板10上への溶融塩12の供給は、円板上部に設置した溶融塩浴槽13から、溶融塩浴槽下部につながる供給路17を通じて行うのが好ましい。溶融塩浴槽13は塩を溶融して保持するためのヒーター130と断熱材を有している。溶融塩12中への水分や大気等の混入を防ぐために、溶融塩浴槽13は不活性ガス雰囲気下に設置する、もしくは浴槽13内部を不活性ガス雰囲気にすることが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ネオン等が例示でき、アルゴンが好ましい。
【0076】
この溶融塩浴槽13は、円板下部に設置しても良い。この場合、連続した長時間電解を行うためには、円板上に溶融塩12を汲み上げる機構が必要である。また、円板下部に溶融塩浴槽13を設置し、円板自体が上下することで溶融塩12を汲み上げることもできる。この場合は、浴の汲み上げ、低回転数で円板を回転させながら一定時間の電解後、回転数を上げて微粒子15を含む塩12を円板外部へ移動させる、という一連の動作を断続的に行うことで、長時間の電解が可能になる。ただし円板外部へ移動した微粒子15を含む溶融塩12が、下部の溶融塩浴槽13に混入しないように注意する必要がある。
【0077】
溶融塩浴槽13、及び供給路17の材質は、円板10上に供給される溶融塩12中に溶解したり、溶融塩12中のイオンと反応したりすることで、これが不純物として微粒子15の形成に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されないが、セラミックス(Al2O3、SiO2等)、あるいは生成する微粒子15の成分と同じ、もしくは微粒子成分の一部の金属元素からなるものを用いるのが好ましく、ステンレス等を構造材として、その内部にセラミックスコーティングを施しても良い。
【0078】
供給路17の内径についても特に制限は無いが、一例として0.05〜10mm、好ましくは0.5〜5mmであれば良い。また、供給路17における前記の内径を有する箇所については、供給路全体にわたって同一径である必要はなく、流路の一部に前記の径の孔を有するスペーサー等を設置しても良い。この場合、所望する微粒子15の径や成分、生産速度によって供給路17の内径を最適化する必要がある際に、共通の流路を用いることができるので都合が良い。また、上記の径の供給路17と同等の流速が得られる多孔質のスペーサーを用いてもよい。
【0079】
また、この供給路17の下端は、回転円板10の中心付近に、回転円板に固定せず、回転円板上の溶融塩12に接触するように設置するのが好ましいが、この供給路17下端は回転円板10自体に固定されていても良く、設置位置も回転円板10の中心ではなく、偏心した位置に設置しても良い。また、供給路17下端が回転円板10上の溶融塩12に接触しないような、さらに上部に設置して、液滴状に溶融塩12を供給しても良い。
【0080】
プラズマ誘起電解において使用する溶融塩12浴(電解浴)としては、一般に溶融塩電解において使用する浴が使用できる。例えば、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ土類金属のハロゲン化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属硫酸塩、アルカリ土類金属硫酸塩、アルカリ金属硝酸塩、アルカリ土類金属硝酸塩などを、単独で又は2種以上組み合わせて得られる溶融塩を、電解浴の溶媒として使用するのが好ましい。
【0081】
アルカリ金属のハロゲン化物としては、LiF、NaF、KF、RbF、CsF、LiCl、NaCl、KCl、RbCl、CsCl、LiBr、NaBr、KBr、RbBr、CsBr、LiI、NaI、KI、RbI、CsI等が使用でき、アルカリ土類金属のハロゲン化物としては、MgF2、CaF2、SrF2、BaF2、MgCl2、CaCl2、SrCl2、BaCl2、MgBr2、CaBr2、SrBr2、BaBr2、MgI2、CaI2、SrI2、BaI2等が使用できる。上記化合物は単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。これらの化合物の組み合わせ、組み合わせる化合物の数、混合比等も限定されず、所望する微粒子15の成分、種類等に応じて適宜選択することができる。
【0082】
このような溶媒中に、金属微粒子の原料となる金属化合物等を溶解し、プラズマ誘起電解を行うことにより、金属微粒子15を得ることができる。
【0083】
金属元素含有原料は、製造目的の金属微粒子又は金属化合物微粒子の原料であり、電解浴中でイオンとして存在する。使用する金属元素含有原料の金属の種類が一種の場合は、単一の金属原子からなる金属微粒子15を得ることができ、使用する金属元素含有原料の金属の種類が二種以上の場合は、合金の(複数の金属からなる)金属微粒子15を得ることもできる。したがって、金属微粒子15には合金微粒子も包含される。
【0084】
なお、陽極に金属微粒子15の原料となる金属又は金属化合物を含有させている場合には、陽極11が金属元素含有原料となるため、溶融塩12への金属元素含有原料の添加は任意となる。
【0085】
金属元素含有原料は金属の酸化物(チタンの酸化物としては、TiO、TiO2、Ti2O3等;ジルコニウムの酸化物としては、ZrO2等;バナジウムの酸化物としては、VO、VO2、V2O3、V2O4、V3O5等;ニオブの酸化物としては、NbO、NbO2、Nb2O5等;タンタルの酸化物としてはTaO、Ta2O5等;モリブデンの酸化物としてはMoO2、MoO3等;タングステンの酸化物としてはWO2、WO3等;クロムの酸化物としては、CrO、CrO2、Cr2O3等;白金の酸化物としてはPtO、Pt3O4、PtO2等;コバルトの酸化物としては、CoO、Co3O4等;ニッケルの酸化物としては、NiO、Ni1-xO(0.003<x<0.17);ケイ素の酸化物としてはSiO、SiO2 等)、金属の硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、ハロゲン化物(塩化物、フッ化物、臭化物、ヨウ化物等)等が使用できる。
【0086】
上述した金属元素含有原料を溶融塩12浴に添加する量は限定されず、電解時間、微粒子の量及び大きさに応じて適宜選択することができる。例えば、電解浴の溶媒量に対する金属元素含有原料が0.0001〜20mol/L程度、好ましくは0.1〜5.0mol/L程度となるように溶解させればよい。
【0087】
供給する溶融塩12の温度も限定されず、溶媒の融点、イオン源の融点等に応じて適宜選択することができる。供給する溶融塩12が上記流路内で固化しないように、流路外部に断熱材や補助的なヒーター等の熱源を設置しても良い。逆に、空冷等による冷却部を設置しても良く、この場合、流路内の溶融塩12を積極的に固化させることにより、固化した塩自体がバルブの役割を担うことができる。
【0088】
2−4.対極
本発明での対極14は、円板10上に供給される溶融塩12に接触させて使用することから、回転円板10の中心部の溶融塩供給路17下部付近に設置する。溶融塩浴槽内の溶融塩12と円板10上の溶融塩12が常につながっている場合には、溶融塩浴槽内に対極14を設置することもできる。
【0089】
対極としては、一般に溶融塩電解において陽極として使用する電極が使用でき、特に限定されるものではない。例えば、グラッシーカーボンやグラファイト、導電性ダイヤモンド等の炭素材料、タンタル、タングステン、モリブデン、白金等を電極として使用できる。また、タンタル、タングステン、モリブデン、白金等の金属を異種材料上に被覆形成したものも陽極として使用できる。また、使用済みの金属を陽極材料として使用することもできる。また、塩素ガスの発生を抑制することが求められる場合には、陽極に微粒子原料金属又は該金属の化合物を含有させることによって抑制できる。使用する電極14の形状、サイズ等も限定されない。
【0090】
特に陰極放電を行う場合には、目的とする微粒子15の成分と同じ、もしくは微粒子成分の一部の金属元素からなるものを対極(陽極)14として用いるのが好ましい。この場合、上記の溶融塩供給路17の下部に籠状の導電性陽極材ホルダー140を設置し、この中に陽極として働く上記成分の金属141を保持する(図2参照)。ホルダー140内に保持した金属141が流路から供給される溶融塩12に接触していれば、対極(陽極)として機能するため、陽極全体が浸漬されていても一部分が浸漬されていてもよく、溶融塩浴槽内に設置しても良い。
【0091】
これにより、使用済みの金属等を陽極材料として使用し易くなる。導電性陽極材ホルダー140の材質としては、例えば、グラッシーカーボンやグラファイト、導電性ダイヤモンド等の炭素材料、タンタル、タングステン、モリブデン、白金等を使用できる。
【0092】
2−5.回収部
円板10上で生成した微粒子15を含む溶融塩12は、円板10の回転による遠心力により円板外部へ移動させて、捕集器16で回収する。捕集器16の形状やサイズは、円板10外部へ移動した溶融塩12を捕獲できるものであれば特に制限は無い。材質についても、捕集された塩12と反応したりすることで、これが不純物として微粒子15の形成に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されないが、セラミックス(Al2O3、SiO2等)や、ステンレス等の金属製のものが好ましい。
【0093】
捕集された微粒子15を含む溶融塩12は、該溶融塩中での微粒子の成長や二次凝集を抑制するために、即座に固化させるのが好ましい。従って、捕集器16は水冷、空冷等により、使用する溶融塩12の融点以下に保持されているのが好ましく、融点の50℃以下、好ましくは100℃以下に冷却されていれば良い。
【発明の効果】
【0094】
本発明の回収方法によれば、溶融塩中に形成する微粒子を、微粒子の成長や二次凝集を抑制しつつ、連続的に回収することができ、従来の回収方法と比較して連続生産性と回収工程の効率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0095】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、以下に示される実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で各種の変更が可能である。
【0096】
本発明の一実施例は、特許文献2における、表層部からの回収と同等の条件で、生成直後の微粒子を連続して回収できる、単純かつ簡便な新たな方法を確立する目的でなされたものである(請求項1及び9参照)。
【0097】
従って、実施例ではAl微粒子の製造をモデルケースとして、上記の発明の詳細に基づいて、回転円板上の溶融塩にプラズマ誘起電解を行って微粒子を生成し回収した場合(実施例1)の微粒子と、回転円板を用いずに、溶融塩浴に直接プラズマ誘起電解を行って、特許文献2の回収方法の中で最も簡便かつ有効と考えられる方法により、表層部分のみを回収した場合(比較例1)の微粒子を準備した。これらを比較し、微粒子が純粋なAlであること、またその粒径が比較例1の場合と同等以上に小さく均一であることを確認した。
【0098】
また、本発明の他の実施例は、従来のプラズマ誘起電解では、抵抗を使用することで放電を安定に維持していたが、これを抵抗に加え、もしくは抵抗を用いずに、コイルを使用することで、放電を安定に維持することを目的になされたものである。そこで実施例2では、抵抗を使用せずに様々なインダクタンスのコイルを使用して、実際にプラズマ誘起電解を行い、放電を安定に維持できるインダクタンスの値を見出した(請求項22参照)。
【実施例1】
【0099】
溶融塩として、共晶組成に混合したLiCl−KCl−CsCl(57.5:13.3:29.2mol%)を数日間200℃で真空乾燥させた後、アルゴン雰囲気中300℃で溶融させたものを用い、溶融塩中のアルミニウムイオン濃度が0.2mol%となるよう調整して、回転円板上に浴厚み2mm程度になるよう薄く保持した。
【0100】
放電極としてタングステン棒を円板上部に配置した。使用した円板は70mm径のアルミニウム製であり、円板自体を対極として使用することで、消費したアルミニウムイオンを円板から供給した。放電極と溶融塩を保持した円板との間に150Vを印加し、放電極と溶融塩との間にプラズマを誘起させて放電を行った。放電を行う際には円板を25rpmで回転させ、1Aで1分間の放電実施後、回転数を上げることで円板上の微粒子を含む溶融塩を円板外部に移動させ、速やかに冷却固化させて回収した。
【0101】
回収した微粒子を含む塩は、脱酸素水での塩の溶解洗浄とフィルターによるろ過(共に一回ずつ)を行って、生成微粒子を得た。
【比較例1】
【0102】
溶融塩として、実施例1と同様の、0.2mol%のアルミニウムイオンを含むLiCl−KCl−CsClを用い、これをアルゴン雰囲気の坩堝に300℃で保持した。この溶融塩表層部に対し、実施例1と同じく1Aで1分間の放電を行った後、浴表層部のみを、冷却したパイレックス板を接触させることで冷却固化させて回収し、実施例1と同じ洗浄工程を経て、生成微粒子を得た。なお、回収後の坩堝内の溶融塩浴中には、冷却固化により回収できなかった粒子の存在が目視により確認された。
【0103】
回収された微粒子をSEMにより観察した結果、回転円板を用いた場合(実施例1)の粒子は、粒子径30〜50nm程度の非常に粒径の揃ったナノ粒子であり、二次凝集もほとんど見られなかった(図3A,B参照)。XRDにより回収粒子を分析した結果、生成微粒子はAlであり、酸化物等の存在は確認されなかった(図4参照)。
【0104】
一方、回転円板を用いずに表層部から回収した微粒子は、粒径は小さいものの100〜200nm程度であり、回転円板を用いた場合と比べると一部凝集している様子が確認された(図3C,D参照)。この結果より、回転円板を用いた本発明の有効性が確認された。
【実施例2】
【0105】
溶融塩として、共晶組成に混合したLiCl−KCl−CsCl(57.5:13.3:29.2mol%)を数日間200℃で真空乾燥させた後、アルゴン雰囲気中300℃で溶融させたものを用いた。溶融塩中にはニッケルイオンを添加し、濃度が0.1mol%となるよう調整した。放電極と溶融塩を保持した円板との間に150〜250Vを印加し、放電極と溶融塩との間にプラズマを誘起させた後、電圧を20〜35V程度に下げて放電を行った。
【0106】
系に使用したコイルのインダクタンスと、電圧を下げた以降の放電維持時間(最長で5分に設定)を調べた結果を表1に示す。
【表1】

【0107】
コイルを使用しない場合には、印加電圧低下後、放電維持することは困難であり、数秒間の維持が限界であった。一方、系にコイルを挿入することで、比較的広いインダクタンスの領域で放電を長時間維持できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明により製造される微粒子は、付着した塩を洗浄等により除去した後に、コンデンサ材料や電極触媒、光触媒、研磨剤、磁性粉体、顔料、塗料等に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】回転円板上の溶融塩にプラズマ照射を行い微粒子を製造するための本発明による装置の概要図(a)およびその断面図(b)である。
【図2】図1に示された装置の他の実施例を部分的に拡大した断面図である。
【図3】図3は、本発明の装置により製造されたAl微粒子のSEM写真(A),(B)、および比較例として回転円板を用いないで製造されたAl微粒子のSEM写真(C),(D)である(写真A,C:×50,000、写真B,D:×100,000)。
【図4】図4は、本発明の装置により製造されたAl微粒子をXRDにより分析した結果を示す図である。
【符号の説明】
【0110】
1 ・・・・微粒子製造装置
10・・・・回転円板
11・・・・放電極
12・・・・溶融塩
13・・・・溶融塩浴槽
14・・・・対極
15・・・・微粒子
16・・・・捕集容器
17・・・・供給路
100・・・モーター
130・・・ヒーター
140・・・陽極材ホルダー
141・・・金属廃材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融塩をプラズマ誘起電解することによって微粒子を製造する方法であって、
回転している実質的に平坦な面上に保持された溶融塩浴表面に対しプラズマ照射を行うことによって微粒子を生成させ、かつ、遠心力により生成された微粒子を溶融塩浴外へ移動させることを特徴とする前記製造方法。
【請求項2】
前記微粒子の製造は、不活性ガス雰囲気下で行われることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記微粒子の粒子径は、前記面の回転数により制御されることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記面は、前記溶融塩浴の厚みを実質的に0.01mm〜5mmに保持するように回転制御されることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記面は、外部加熱手段により所定の温度に加熱されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
陰極放電において消費される金属イオンを連続して溶融塩浴中に供給するために、対極である陽極は生成される微粒子金属成分を含んでいることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
陽極放電において金属化合物の微粒子を生成するために、放電極である陽極は生成される金属化合物の金属成分を含んでおり、その対イオンは溶融塩に含まれていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
溶融塩浴外へ移動させられた前記微粒子を含む溶融塩は、外部冷却手段により該溶融塩の融点以下に冷却されるステップをさらに含むことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
溶融塩を供給するための供給手段と、
前記供給された溶融塩を回転可能な実質的に平坦な面上に保持するための保持手段と、
保持された溶融塩浴表面に対してプラズマ照射を行うための放電極および対極を含む電極と、そして
プラズマ照射により生成された微粒子を、前記保持手段の回転により発生される遠心力により溶融塩浴外へ移動させるための回転駆動手段と、
からなる溶融塩をプラズマ誘起電解することにより微粒子を製造するための装置。
【請求項10】
前記供給手段の溶融塩供給口は、前記保持手段の回転軸上に配置されていることを特徴とする請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記供給手段は、溶融塩の温度を保持するための外部加熱手段をさらに備えていることを特徴とする請求項9又は10に記載の装置。
【請求項12】
前記保持手段は、円板状若しくは外周部に実質的に円形の溶融塩浴を形成するためのリング状の堰を備えていることを特徴とする請求項9ないし11のいずれかに記載の装置。
【請求項13】
前記保持手段は、前記溶融塩浴の厚みを実質的に一定に保持するように回転軸に向かって下向きに傾斜している円錐面を備えていることを特徴とする請求項9ないし11のいずれかに記載の装置。
【請求項14】
前記保持手段は、溶融塩の温度を保持するための外部加熱手段をさらに備えていることを特徴とする請求項9ないし13のいずれかに記載の装置。
【請求項15】
前記放電極は、前記保持手段の回転軸外に配置されていることを特徴とする請求項9ないし14のいずれかに記載の装置。
【請求項16】
前記対極は、前記保持手段の回転軸上に配置されていることを特徴とする請求項9ないし15のいずれかに記載の装置。
【請求項17】
前記対極は、少なくともその一部が溶融塩浴と接触していることを特徴とする請求項9ないし16のいずれかに記載の装置。
【請求項18】
陰極放電において、前記対極である陽極は生成される微粒子金属成分を含んでいることを特徴とする請求項9ないし17のいずれかに記載の装置。
【請求項19】
前記対極である陽極は、金属スクラップホルダーをさらに備えていることを特徴とする請求項18に記載の装置。
【請求項20】
陽極放電において、前記放電極である陽極は生成される微粒子金属成分を含んでいることを特徴とする請求項9ないし17のいずれかに記載の装置。
【請求項21】
前記装置は、溶融塩浴外へ移動させられた前記微粒子を含む溶融塩を該溶融塩の融点以下に冷却するための外部冷却手段をさらに含むことを特徴とする請求項9ないし20のいずれかに記載の装置。
【請求項22】
前記装置は、前記放電極または対極の少なくとも1つの電極と電源とを結ぶ回路の間に、放電を安定化させるためのコイルが配置されていることを特徴とする請求項9ないし21のいずれかに記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−106309(P2008−106309A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−290623(P2006−290623)
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)
【出願人】(506360310)アイ’エムセップ株式会社 (17)
【Fターム(参考)】