説明

プリプレグ、積層板、金属箔張積層板、回路基板及びLEDモジュール

【課題】熱伝導性、耐熱性、ドリル加工性及び難燃性に優れた積層板を提供する。
【解決手段】織布または不織布基材に熱硬化性樹脂組成物を含浸させたプリプレグにおいて、熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂100体積部に対して無機充填材80〜200体積部を含有し、前記無機充填材は、(A)2〜15μmの平均粒子径(D50)を有するギブサイト型水酸化アルミニウム粒子、(B)0.5〜15μmの平均粒子径(D50)を有する酸化マグネシウムを含み、前記ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子(A)と酸化マグネシウム(B)の配合比(体積比)が、1:0.3〜3であるプリプレグ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種電子機器用の回路基板の技術分野において用いられるプリプレグ、特に、放熱性や耐熱性等に優れた積層板、金属箔張積層板、回路基板及びLEDモジュールを製造するためのプリプレグに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器用のプリント配線基板に用いられる代表的な積層板として、ガラスクロスにエポキシ樹脂等の樹脂成分を含浸させたプリプレグを積層成形して得られるFR−4と称されるタイプの積層板が広く用いられている。なお、FR−4の称呼は、アメリカのNEMA(National Electrical Manufactures Association)による規格による分類である。
【0003】
一方、不織布に樹脂成分を含浸させた層を芯材層とし、該芯材層の両表面に、それぞれ表面層としてガラスクロスに樹脂成分を含浸させた層が積層されて構成される、CEM−3タイプと称されるコンポジット積層板も知られている。例えば、特許文献1には、芯材に用いられる樹脂ワニスがタルクと水酸化アルミニウムを併せた充填剤を含有しており、タルクと水酸化アルミニウムとの配合比が0.15〜0.65:1であり、水酸化アルミニウムがベーマイト型である、コンポジット積層板が提案されている。また、特許文献2には、積層材の中間層中の樹脂基準で200重量%〜275重量%の量の、分子式Al・nHO(nは2.6より大きく2.9より小さい値)で表される水酸化アルミニウムを含有する、コンポジット積層板が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−173245号公報
【特許文献2】特表2001−508002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、電子機器の軽薄短小化の進展に伴い、プリント配線基板(回路基板)に実装される電子部品の高密度実装化が進んでおり、また、実装される電子部品としては、放熱性が要求されるLED(Light Emitting Diode)素子等が複数実装されることもある。このような用途において用いられる基板としては、従来の積層板では、放熱性が不充分であるという問題があった。また、実装方法としては、リフローハンダが主流となっており、特に、環境負荷を軽減する目的から、高温のリフロー処理が必要とされる鉛フリーハンダを用いたリフローハンダが主流となっている。このような、鉛フリーハンダを用いたリフローハンダ工程においては、ブリスタの発生等を抑制するために高い耐熱性が求められる。さらに、ドリル加工性を維持することも求められる。また、安全面からは、UL−94でV−0レベルを満たすような難燃性も求められる。しかし、このような、熱伝導性(放熱性)、耐熱性、ドリル加工性及び難燃性のすべてを同時に満足するような積層板は、従来、得られていなかった。
【0006】
本発明は、上述した課題を鑑みてなされたものであり、熱伝導性、耐熱性、ドリル加工性及び難燃性に優れた積層板、金属箔張積層板、回路基板及びLEDモジュールを製造し得るプリプレグの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面は、織布または不織布基材に熱硬化性樹脂組成物を含浸させて得られたプリプレグであって、前記熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂100体積部に対して無機充填材80〜200体積部を含有し、前記無機充填材は、(A)2〜15μmの平均粒子径(D50)を有するギブサイト型水酸化アルミニウム粒子、(B)0.5〜15μmの平均粒子径(D50)を有する酸化マグネシウムを含み、前記ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子(A)と酸化マグネシウム(B)の配合比(体積比)が、1:0.3〜3であるプリプレグである。
【0008】
前記構成のプリプレグを用いれば、熱伝導性、耐熱性、ドリル加工性、及び難燃性に優れた積層板が得られる。熱伝導性を高めるために、熱硬化性樹脂組成物に一般的な酸化アルミニウムを配合した場合にはドリル加工性が著しく低下する。酸化アルミニウムは高い硬度を有するためである。本発明においては、酸化アルミニウム粒子を配合せずに熱伝導率を高めることにより、ドリル加工性を低下させずに、熱伝導性を著しく向上させたものである。
【0009】
アルミニウム化合物である、ギブサイト型水酸化アルミニウム(Al(OH)またはAl・3HO)の粒子(A)は、積層板に、熱伝導性、ドリル加工性、及び難燃性をバランスよく付与する成分である。ギブサイト型水酸化アルミニウムは、約200〜230℃程度で結晶水を放出する特性を潜在的に有するために、特に難燃性を付与する効果が高い。しかしながら、配合割合が多すぎる場合には、ハンダリフロー時にブリスタ等を発生させる原因になる。
【0010】
無機成分(B)としての、酸化マグネシウム粒子は、積層板に、熱伝導性と耐熱性とを付与することに寄与する。
【0011】
本発明においては、所定の平均粒子径(D50)を有するギブサイト型水酸化アルミニウム粒子(A)と、所定の平均粒子径(D50)を有する、酸化マグネシウム粒子(B)とを、体積比で、1:0.3〜3の割合で配合した無機充填材を用いることにより、優れた熱伝導性、優れた耐熱性、優れたドリル加工性、及び優れた難燃性を兼ね備えた積層板を製造することのできるプリプレグが提供される。
【0012】
このようなプリプレグを用いて得られる積層板は、高い放熱性が要求される各種回路基板、特に、発熱量が多い複数のLED素子が搭載されるようなLED搭載用回路基板(回路基板にLED素子が搭載されてなるLEDモジュールの回路基板のこと:以下同じ)に好ましく用いられ得る。このような積層板からなるプリント配線板は、各種電子部品を表面実装した場合には、鉛フリーのリフローハンダ温度である260℃程度の温度においても、金属箔にブリスタが発生しにくい。
【0013】
前記ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子(A)は、2〜10μmの平均粒子径(D50)を有する第1のギブサイト型水酸化アルミニウム粒子と、10〜15μmの平均粒子径(D50)を有する第2のギブサイト型水酸化アルミニウム粒子との配合物であることが好ましい。前記構成によれば、無機充填材がより密に充填されることにより、熱伝導性が特に優れる積層板が得られる。
【0014】
さらに、前記酸化マグネシウム粒子(B)は、比表面積が0.1〜1.5m/gであることが好ましい。酸化マグネシウム粒子の比表面積が前記範囲内であれば、無機充填剤を高充填した場合でもボイドが発生しないという利点があるためである。
【0015】
また、本発明の他の局面は、前記プリプレグを1枚または複数枚積層して成形することにより得られた積層板、この積層板の少なくとも一表面に金属箔が張られてなる金属箔張積層板、この金属箔張積層板に回路形成して得られる回路基板、及びこの回路基板にLED素子が搭載されてなるLEDモジュールに関する。
【0016】
前記プリプレグから得られる積層板及び回路基板は、耐熱性、難燃性及びドリル加工性に優れ、特に放熱性に優れる。したがって、LED搭載用回路基板のように、放熱性が要求される電子部品を搭載する回路基板として好ましく用いられ得る。つまり、回路基板にLED素子が搭載されてなるLEDモジュールの回路基板として好ましく用いられ得る。このような、特に放熱性に優れた回路基板を用いたLEDモジュールは、長時間安定して使用できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、熱伝導性、耐熱性、ドリル加工性及び難燃性のすべてに優れた積層板及び回路基板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)は、本発明の一実施形態に係るプリプレグの模式断面図、(b)は、前記プリプレグを3枚積層して成形して得られた金属箔張積層板の模式断面図、(c)は、前記プリプレグを1枚成形して得られた金属箔張積層板の模式断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るLEDモジュールを用いたバックライトユニットの模式平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を各構成要素ごとに説明する。
【0020】
<プリプレグ>
本発明に係るプリプレグ1は、図1(a)に示すように、織布または不織布基材1aに熱硬化性樹脂組成物1bを含浸させて得られるものである。
【0021】
[織布基材]
プリプレグ1を得るために熱硬化性樹脂組成物1bを含浸させる織布または不織布基材1aとしては、特に限定されない。具体的には、例えば、ガラスクロス;アラミド繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維等の合成繊維を用いた合成繊維クロス;等の織繊維または各種の不織布基材が挙げられる。
【0022】
[熱硬化性樹脂組成物]
本発明者等の検討によれば、積層板に放熱性を付与するために、熱伝導性に優れた水酸化アルミニウムを配合した場合、積層板の放熱性は向上する。また、難燃性も向上する。しかしながら、水酸化アルミニウムを配合しすぎた場合、積層板の耐熱性が大幅に低下して、ハンダリフロー時にブリスタ等が発生しやすくなるという問題が生じた。また、水酸化アルミニウムに代えて、放熱性に優れた酸化アルミニウムを配合した場合、ドリル加工時のドリル刃の摩耗が著しく、頻繁にドリル刃を交換しなければならないという問題や、難燃性が低下するという問題が生じた。また、ドリル刃の摩耗を抑制するために酸化アルミニウムの配合量を減量した場合には、熱伝導性が充分に得られないという問題が生じた。このように、高い熱伝導性、高い耐熱性、高いドリル加工性及び高い難燃性のすべてを同時に満足する積層板を得ることは困難であった。
【0023】
この問題に対処し得るものとして、本発明においては、熱硬化性樹脂100体積部に対して無機充填材80〜200体積部を含有し、前記無機充填材は、(A)2〜15μmの平均粒子径(D50)を有するギブサイト型水酸化アルミニウム粒子、(B)0.5〜15μmの平均粒子径(D50)を有する酸化マグネシウムを含み、前記ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子(A)と酸化マグネシウム(B)の配合比(体積比)が、1:0.3〜3である樹脂組成物を用いる。
【0024】
(熱硬化性樹脂)
熱硬化性樹脂の具体例としては、例えば、エポキシ樹脂;不飽和ポリエステル樹脂やビニルエステル樹脂等のラジカル重合型熱硬化性樹脂;等の液状の熱硬化性樹脂が用いられる。また、熱硬化性樹脂には、必要に応じて、硬化剤や硬化触媒等が配合される。また、ラジカル重合型熱硬化性樹脂を用いる場合には、必要に応じて、スチレンやジアリルフタレート等のラジカル重合性モノマーや、各種反応開始剤等を適宜配合してもよい。また、必要に応じて、粘度調整や生産性改良のために溶剤を配合してもよい。
【0025】
前記エポキシ樹脂としては、積層板や回路基板の製造に用いられ得る各種有機基板を構成するエポキシ樹脂であれば、特に限定されない。具体的には、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、アラルキルエポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、アルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノール類とフェノール性水酸基を有する芳香族アルデヒドとの縮合物のエポキシ化物、トリグリシジルイソシアヌレート、脂環式エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは、状況に応じて、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
また、樹脂組成物、ひいてはプリプレグ、積層板及び回路基板に難燃性を付与するために、臭素化又はリン変性(リン含有)した、前記エポキシ樹脂、窒素含有樹脂、シリコーン含有樹脂等を用いることもできる。その場合も、これらは、状況に応じて、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。環境面からは、ハロゲン系難燃剤は使用しない方が良い。
【0027】
必要に応じて配合される硬化剤としては、特に限定されない。具体的には、例えば、ジシアンジアミド、フェノール系硬化剤、酸無水物系硬化剤、アミノトリアジンノボラック系硬化剤、シアネート樹脂等が挙げられる。これらは、状況に応じて、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
(無機充填材)
本実施形態に係る無機充填材は、ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子(A)と、酸化マグネシウム(B)とを含有する。
【0029】
ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子(A)は、(Al(OH))または(Al・3HO)で表されるアルミニウム化合物であり、積層板に、熱伝導性、ドリル加工性、及び難燃性をバランスよく付与する成分である。
【0030】
ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子(A)の平均粒子径(D50)は、2〜15μmであり、ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子(A)の平均粒子径(D50)が15μmを超える場合は、ドリル加工性が低下し、2μm未満の場合は、熱伝導性が低下するとともに、生産性が低下する。
【0031】
なお、本実施形態における平均粒子径(D50)は、レーザ回折式粒度分布測定装置にて測定して得られる粉体の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブが50%となる点の粒子径を意味する。
【0032】
酸化マグネシウム(B)の平均粒子径(D50)は、0.5〜15μmであり、好ましくは、1〜5μmである。酸化マグネシウム粒子の平均粒子径(D50)が15μmを超える場合は、ドリル加工性が低下し、0.5μm未満の場合は、熱伝導性が低下するとともに、生産性が低下する。
【0033】
また、本発明で用いられる酸化マグネシウム粒子は、比表面積が0.1〜1.5m/gであることが好ましい。酸化マグネシウム粒子の比表面積が1.5m/g以下であれば、無機充填剤を高充填した場合でもボイドが発生しないという利点がある。また、0.1m/g以下になると平均粒子径が15μmを超えるので好ましくない。
【0034】
これらの樹脂組成物は、その他の無機粒子を少量(ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子と酸化マグネシウムの総和の10%以下程度)含有してもよい。例えば、酸化アルミニウム(結晶水無し)、結晶性シリカ(結晶水無し)、窒化ホウ素(結晶水無し)、窒化アルミニウム(結晶水無し)、窒化ケイ素(結晶水無し)等の無機窒化物;炭化ケイ素(結晶水無し)等の無機炭化物;及びタルク(遊離開始温度950℃)、焼成カオリン(結晶水無し)、クレー(遊離開始温度500〜1000℃)等の天然鉱物等が挙げられる。これらは、状況に応じて、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、結晶性シリカ、タルク、クレー等が熱伝導性に優れている点から特に好ましい。
【0035】
なお、結晶水の遊離開始温度は、加熱重量減分析(TGA)または示唆走査熱量分析(DSC)を用いて測定できる。
【0036】
その他の無機粒子の平均粒子径(D50)は、2〜15μmであり、好ましくは、3〜10μmである。無機粒子の平均粒子径(D50)が15μmを超える場合は、ドリル加工性が低下する可能性がある。
【0037】
ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子(A)と、酸化マグネシウム(B)との配合比は、体積比で、1:0.3〜3である。ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子(A)の配合量1に対して、酸化マグネシウム(B)の配合量が3を超える場合は、ドリル加工性や難燃性が低下し、0.3未満の場合は、耐熱性が低下する。
【0038】
(その他)
熱硬化性樹脂100体積部に対する無機充填材の配合割合は、80〜200体積部であり、好ましくは、100〜180体積部であり、より好ましくは、110〜180体積部である。無機充填材の配合割合が80体積部未満の場合は、積層板の熱伝導率が低くなり、200体積部を超える場合は、ドリル加工性が低下するとともに、積層板の製造性(樹脂含浸性、成形性)も低下する。特に、ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子(A)の配合割合が多すぎる場合、具体的には100体積部以上の場合は、結晶水が多く発生することにより耐熱性が低下する傾向がある。
【0039】
熱硬化性樹脂組成物は、液状の熱硬化性樹脂に、上述したギブサイト型水酸化アルミニウム粒子(A)と酸化マグネシウム(B)とを含有する無機充填材を配合し、ディスパーサー、ボールミル、ロール等を用いて、熱硬化性樹脂と無機充填材とを均一に分散混合する公知の調製方法により調製される。なお、必要に応じて、粘度を調整するための有機溶剤や各種添加剤等を配合してもよい。
【0040】
<積層板>
本発明に係る積層板10は、図1(b)に示すように、プリプレグ1…1を複数枚(図例では3枚)積層して成形することにより得られたものである。特に、図1(b)は、積層板の両方の外表面に金属箔2,2が張られてなる金属箔張積層板10を例示している。このような金属箔張積層板10は、例えば、プリプレグ1…1を複数枚積層し、その両方の外表面に金属箔2,2を積層し、得られた積層体を加熱加圧成形することにより作製される。
【0041】
金属箔としては、特に限定されない。具体的には、例えば、銅箔、アルミ箔、ニッケル箔等が好ましく用いられうる。
【0042】
本発明に係る積層板10は、図1(c)に示すように、プリプレグ1を1枚だけ用いて成形することにより得られたものでもよい。プリプレグ1を何枚用いてどれだけの厚み及び剛性の積層板10にするかは、積層板10あるいは回路基板の使用環境や要求される物性等に応じて適宜調整すればよい。
【0043】
図1(c)に併せて示したように、金属箔2は、積層板10の片方の外表面のみに配されてもよい。その場合は、金属箔2を配さない面(図例では下面)に離形フィルム3を積層し、加熱加圧成形する。積層板10は、離形フィルム3を除去した状態で使用する。
【0044】
このとき、本実施形態のプリプレグ1においては、熱硬化性樹脂組成物中に、ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子(A)と、酸化マグネシウム(B)とを所定量配合しているため、積層板10のドリル加工時のドリル刃の摩耗を抑制することができる。そのために、ドリルを長寿命化させることができる。また、スルーホール形成のためにドリル加工を適用しても、形成される孔の内面には凹凸が形成されにくく、この孔の内面を平滑に形成することもできる。そのために、孔の内面にホールメッキを施してスルーホールを形成した場合にこのスルーホールに高い導通信頼性を付与することもできる。また、積層板10の耐熱性及びドリル加工性を著しく低下させることなく、積層板10に熱伝導性を付与することができる。
【0045】
<回路基板及びLEDモジュール>
本発明に係る回路基板は、金属箔張積層板10に回路形成する(金属箔を回路に加工する)ことにより得られたものである。また、本発明に係るLEDモジュールは、前記回路基板に(より詳しくは回路基板の回路に)LED素子が搭載されたものである。
【0046】
本実施形態のプリプレグ1から得られる回路基板は、熱伝導性やドリル加工性等に優れているため、液晶ディスプレイに搭載されるようなLEDバックライトユニットのプリント配線基板や、LED照明のプリント配線基板等のような、高い放熱性が要求される用途に好ましく用いられる。具体的には、LEDの用途の一つとして、図2の模式平面図に示すような、液晶ディスプレイに搭載されるLEDバックライトユニット20が挙げられる。図2におけるLEDバックライトユニット20は、プリント配線基板、すなわち回路基板21に複数(図例では3個)のLED素子22…22が実装されたLEDモジュール23…23を多数配列して構成されており、液晶パネルの背面に配設することにより、液晶ディスプレイ等のバックライトとして用いられる。従来から広く普及しているタイプの液晶ディスプレイには、液晶ディスプレイのバックライトとして冷陰極管(CCFL)方式のバックライトが広く用いられてきたが、近年、冷陰極管方式のバックライトに比べて色域を広げることができるために画質を向上させることができ、また、水銀を用いていない点から環境負荷が小さく、さらに薄型化も可能であるという利点から、前記のようなLEDバックライトユニットが活発に開発されている。
【0047】
LEDモジュール23は、一般的に、冷陰極管に比べて消費電力が大きく、そのために発熱量が多い。このような高い放熱性が要求されるようなプリント配線基板(回路基板)21として、本実施形態のプリプレグ1から得られる回路基板を用いることにより、放熱の問題が大幅に改善される。したがって、LED素子の発光効率を向上させることができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0049】
<実施例1>
[リン含有エポキシ樹脂の合成]
まず、プリプレグに使用する熱硬化性樹脂組成物の熱硬化性樹脂として、リン含有エポキシ樹脂(リン変性エポキシ樹脂)を次のようにして合成した。すなわち、攪拌装置、温度計、冷却管及び窒素ガス導入装置を備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコに、HCA(9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド)130重量部と、反応溶媒としてのキシレン400重量部とを仕込み、加熱して溶解させた。その後、1,4−ナフトキノン94重量部を反応熱による昇温に注意しながら分割投入した。このとき、リン化合物であるHCAは、1,4−ナフトキノン1モルに対して1.02モルであった。反応後、溶媒を300重量部回収した。その後、EPPN−501H(三官能エポキシ樹脂、エポキシ当量:165g/eq、日本化薬株式会社製)350重量部と、エポトートZX−1355(1,4−ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、エポキシ当量:145g/eq、東都化成株式会社製)250重量部と、エポトートYDF−170(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量:168g/eq、東都化成株式会社製)176重量部とを仕込み、窒素ガスを導入しながら加熱攪拌を行ってさらに溶媒を回収した。触媒としてトリフェニルホスフィンを0.22重量部添加して160℃で4時間反応させた。得られたエポキシ樹脂は42.6重量%、エポキシ当量は273.5g/eq、リン含有率は1.85重量%であった。
【0050】
[プリプレグの調製]
前記のように合成したリン含有エポキシ樹脂と、ジシアンジアミド(Dicy)系硬化剤とを含有する、熱硬化性樹脂ワニスの熱硬化性樹脂分100体積部に対して、表1に示すように、(A)ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子(住友化学株式会社製、D50:5.4μm)30体積部と、(B)酸化マグネシウム(D50:2.0μm、比表面積1.0m/g)70体積部とを配合し、ディスパーザーを用いて、均一に分散混合した。得られた熱硬化性樹脂組成物(無機充填材が配合された樹脂ワニス)を、目付け47g/m、厚み53μmのガラスクロス(日東紡株式会社製)に含浸させてプリプレグを得た。そのときのクロスコンテントは12体積%であった。
【0051】
[積層板の製造]
得られたプリプレグを6枚積層し、その両方の外表面に厚みが0.018mmの銅箔を載せ、この積層体を2枚の金属プレート間に挟み、温度180℃、圧力30kg/mの条件で加熱加圧成形することにより、厚みが0.8mmの銅箔張積層板を得た。
【0052】
[評価試験]
得られた銅箔張積層板について、以下の評価方法に従い、熱伝導率、220℃オーブン耐熱試験、260℃半田耐熱試験、プレッシャークッカー試験、ドリル摩耗率、及び難燃性を評価した。結果を表1に示す。なお、表1において、プリプレグ配合欄の数値は、体積ベースである。
【0053】
(熱伝導率)
得られた銅箔張積層板の銅箔を剥離した後、銅箔を剥離した積層体の密度を水中置換法により測定し、比熱をDSC(示差走査熱量測定)により測定し、熱拡散率をレーザーフラッシュ法により測定した。そして、熱伝導率を式1により算出した。
【0054】
熱伝導率(W/(m・K))=密度(kg/m)×比熱(kJ/kg・K)×熱拡散率(m/S)×1000 …(式1)
(220℃オーブン耐熱試験)
得られた銅箔張積層板を用いて、JIS C 6481に準じて作製した試験片を、220℃に設定した空気循環装置付き恒温槽中で一時間処理したときに、銅箔及び積層板に「ふくれ」も「はがれ」も生じなかったものを「優」、「ふくれ」又は「はがれ」が生じたものを「劣」と判定した。
【0055】
(260℃半田耐熱試験)
得られた銅箔張積層板を用いて、JIS C 6481に準じて作製した試験片を、260℃の半田浴に180秒浸漬したときに、銅箔及び積層板に「ふくれ」も「はがれ」も生じなかったときの最長時間を特定した。表中の「180」は「180秒以上」を意味する。
【0056】
(ドリル摩耗率)
得られた銅箔張積層板を2枚重ね、ドリル(ドリル径0.3mm)にて160000回転/minで孔を1000個穿設した後のドリルの刃の摩耗率を、ドリル加工前のドリル刃の面積に対するドリル加工により摩耗したドリル刃の面積の割合(百分率)により評価した。
【0057】
(難燃性)
得られた銅箔張積層板を所定の大きさに切り出し、UL−94の燃焼試験法に準じて燃焼試験を行い、判定した。
【0058】
<実施例2〜6、比較例1〜5>
プリプレグの調製において、熱硬化性樹脂組成物の組成を表1に示すように変更した他は、実施例1と同様にして、プリプレグを調製し、銅箔張積層板を製造し、評価を行った。実施例2〜6の結果および比較例1〜5の結果を表1に示す。比較例の評価欄において、下線を施したデータは、実施例より劣っているものを示す。
【0059】
なお、用いた材料は次の通りである。
・酸化マグネシウム(D50:2.0μm、比表面積 1.0m/g)
・酸化マグネシウム(D50:5.0μm、比表面積 2.5m/g)
・平均粒子径(D50)6.6μmの窒化アルミニウム(古河電子社製)
・平均粒子径(D50)5.5μmのベーマイト
・平均粒子径(D50)4μmの酸化アルミニウム粒子(アルミナ)(住友化学社製)
【0060】
【表1】

【0061】
表1から明らかなように、実施例1〜6は、いずれも、熱伝導率が1.3(W/(m・K))以上と高い値であった。耐熱性も、すべての試験で優れていた。ドリル摩耗率も、70%以下であった。難燃性も、V−0レベルであった。また、実施例4と実施例6との比較から、さらに酸化マグネシウムの比表面積が本発明の範囲内であれば無機充填剤を高充填した場合でもボイドを発生しないことがわかった。
【0062】
一方、同じく表1における比較例の結果から明らかなように、ギブサイト型水酸化アルミニウムを含まない場合(比較例1)は難燃性を得ることができず、ギブサイト型水酸化アルミニウムと酸化マグネシウムとの配合比が1:0.05である場合(比較例2)は熱伝導率、耐熱性などが低下した。また、無機充填剤としてアルミナを含んだ場合(比較例3)、窒化アルミニウムを含んだ場合(比較例4)、ベーマイトを含んだ場合(比較例5)は、それぞれ、熱伝導性が低下したり、ドリル摩耗性が著しく高くなったりした。
【0063】
以上、具体例を挙げて詳細に説明したように、本発明は、熱伝導性、耐熱性、ドリル加工性及び難燃性に優れた積層板、金属箔張積層板、回路基板及びLEDモジュールを製造し得るプリプレグを提供するものであり、各種電子機器用の回路基板の技術分野において広範な産業上の利用可能性が期待される。
【符号の説明】
【0064】
1 プリプレグ
1a 織布または不織布基材
1b 熱硬化性樹脂組成物
2 金属箔
3 雛形フィルム
10 積層板、金属箔張積層板
20 LEDバックライトユニット
21 回路基板(LED搭載用回路基板)
22 LED素子
23 LEDモジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
織布または不織布基材に熱硬化性樹脂組成物を含浸させて得られたプリプレグであって、
前記熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂100体積部に対して無機充填材80〜200体積部を含有し、
前記無機充填材は、(A)2〜15μmの平均粒子径(D50)を有するギブサイト型水酸化アルミニウム粒子、および(B)0.5〜15μmの平均粒子径(D50)を有する酸化マグネシウムを含み、
前記ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子(A)と酸化マグネシウム(B)の配合比(体積比)が、1:0.3〜3であるプリプレグ。
【請求項2】
前記酸化マグネシウム(B)の比表面積が、0.1〜1.5m/gであることを特徴とする請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のプリプレグを1枚または複数枚積層して成形することにより得られた積層板。
【請求項4】
請求項3に記載の積層板の少なくとも一表面に金属箔が張られてなる金属箔張積層板。
【請求項5】
請求項4に記載の金属箔張積層板に回路形成して得られる回路基板。
【請求項6】
請求項5に記載の回路基板にLED素子が搭載されてなるLEDモジュール。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−97158(P2012−97158A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244145(P2010−244145)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】