説明

プリプレグ及びプリント配線板用金属張り基板

【課題】低誘電率及び低誘電損失で表される優れた高周波特性と、高い耐ヒートサイクル性を発揮することができるプリプレグ及びプリント配線板用金属張り基板を提供する。
【解決手段】プリプレグは、グラフト共重合体(a)のシート状成形物(A)と、シート状繊維強化材(b1)に熱可塑性樹脂(b2)を含浸せしめてなる樹脂含浸シート状繊維強化材(B)とを熱圧着して作製される。グラフト共重合体(a)は、非極性α−オレフィン系単量体又は非極性共役ジエン系単量体の単量体単位からなるランダム又はブロック共重合体60〜85質量部に芳香族系ビニル単量体15〜40質量部をグラフト重合してなるものである。熱可塑性樹脂(b2)は、非極性α−オレフィン系単量体又は非極性共役ジエン系単量体の単量体単位60〜90質量%と芳香族系ビニル単量体単位10〜40質量%からなるランダム又はブロック共重合体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフト共重合体より形成されるシート状成形物と樹脂含浸シート状繊維強化材とを熱圧着してなるプリプレグ及びこれを用いたプリント配線板用金属張り基板に関する。より詳しくは、高周波帯域における好適な電気特性を有し、かつ耐ヒートサイクル性に優れたプリプレグ及びこれを用いたプリント配線板用金属張り基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度情報化社会の進展に伴い、大量の情報を高速で処理する必要があり、通信機器、電子機器等に使用される信号の周波数帯はMHz帯からGHz帯の高周波帯域に移行している。しかしながら、電気信号は周波数が高くなるほど、伝送損失が大きくなる性質があり、GHz帯のような高周波帯域に対応しうる、優れた高周波伝送特性を有する電気絶縁材料が強く求められている。絶縁材料と接触した回路における伝送損失は、回路(導体)の形状、表皮抵抗、特性インピーダンス等で決まる導体損と、回路周りの絶縁層(誘電体)の誘電特性で決まる誘電体損とからなり、特に高周波回路では誘電体損として放出され、電子機器の誤作動の原因となる。誘電体損は、比誘電率(ε)と材料の誘電損失(tanδ)の積に比例して大きくなる。そのため、誘電体損を少しでも小さくするためには、比誘電率と誘電損失がいずれも小さい材料を用いる必要がある。
【0003】
このような比誘電率と誘電損失がいずれも小さい材料としては、通常高分子絶縁材料が用いられ、ポリオレフィン、液晶性樹脂、フッ素系樹脂等の熱可塑性樹脂、或いは、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂(BTレジン)、硬化性ポリフェニレンオキサイド、硬化性ポリフェニレンエーテル等の熱硬化性樹脂などが種々提案されている。
【0004】
これらの中でも特に高周波帯域における低誘電率、低誘電損失を示す樹脂材料として、ポリテトラフルオロエチレン(例えば、特許文献1を参照)、液晶性樹脂(例えば、特許文献2を参照)、変性ポリオレフィン樹脂(例えば、特許文献3を参照)等が挙げられる。上記樹脂の中でも、ポリテトラフルオロエチレンは特に高い特性を示すことで知られているが、加工の難度や高価格といった難点を有している。また液晶性樹脂は価格や加工性には優れているものの、電気的な特性は高周波帯域において満足のいく特性を有していない。変性ポリオレフィン樹脂は適度な加工性、価格であり、ポリテトラフルオロエチレンに準ずる電気的な特性を有している樹脂であり、高周波帯域における低誘電率、低誘電損失材料として期待される。
【0005】
変性ポリオレフィン樹脂は耐溶剤性が高いため、溶剤に溶解させてガラスクロス等の繊維強化材中に含浸充填させてプリプレグを得る方法を用いることができない。そこで特許文献3では、変性ポリオレフィン樹脂からプリプレグを得るためには、変性ポリオレフィン樹脂からなるシートを作製し、このシート間に繊維状強化材を挟み込み熱圧着する方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、この方法では溶融した樹脂によってガラスクロスを充填する必要があるが、変性ポリオレフィン樹脂は架橋体である場合には融点以上の温度においても急激な流動性の増加が見られない。従って、プリプレグ中のガラスクロスは変性ポリオレフィン樹脂によって完全に充填されることは容易ではなく、内部に空隙が残留する場合がある。このとき、封じ込められた空隙は、プリプレグ又はプリント配線板用金属張り基板に冷却と加熱の繰り返しといった熱的負荷が加えられたとき、膨張、収縮が繰り返されるヒートサイクルにより、樹脂層にクラックを生じさせるおそれがある。
【0007】
このような現象を抑制するためには、プリプレグを構成する樹脂との膨張、収縮の挙動が近似する樹脂を用いてガラスクロスの空隙を充填する方法が有効であると考えられる。そこで、特許文献4にはスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体や変性ポリフェニレンエーテル等を溶剤に溶解させたワニスを含浸させたガラスクロスと熱可塑性樹脂シンジオタクチックポリスチレンを熱圧着させてプリプレグを得る方法が開示されている。この方法によってガラスクロスの空隙を充填することができ、高温加熱時のふくれを抑制できることを示している。
【特許文献1】特開平11−087910号公報(第2頁、第3頁及び第8頁)
【特許文献2】特開平9−23047号公報(第1頁、第2頁及び第4頁)
【特許文献3】国際公開第99/10435号パンフレット
【特許文献4】特開平10−265592号公報(第1頁、第2頁及び第4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献4ではシンジオタクチックポリスチレンの融点以上でガラスクロスと熱圧着させることでプリプレグを得ているが、このような条件下ではシンジオタクチックポリスチレンが高い流動性を示すため、プリプレグの厚さを制御することが困難である。この溶融樹脂の流動による熱だれを解消するためには、多量のガラス繊維強化材を使用する必要が出てくるが、プリプレグ中のガラス繊維強化材の量が多くなると、膨張率の著しく異なる無機・有機両材料の接触界面が増大することになり、見かけの非空隙性を向上させたとしても、界面剥離によって、耐ヒートサイクル性は確実に低下する。
【0009】
さらに特許文献4では、非空隙性を向上させるために、マレイン酸等の極性を有する官能基を導入する技術が開示されている。しかし、このような極性基の導入によって含浸樹脂とガラス繊維強化材との親和性を増す方法は、ガラス繊維強化材との相互作用によって、樹脂の双極子能率の単純な増加以上に、高周波帯域における低誘電率性、低誘電損失性の低下を招くので、高周波帯域用プリント配線板の用途には用いることが難しい。
【0010】
そこで本発明の目的とするところは、低誘電率及び低誘電損失で表される優れた高周波特性と、高い耐ヒートサイクル性を発揮することができるプリプレグ及びプリント配線板用金属張り基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために、本発明における第1の発明のプリプレグは、非極性α−オレフィン系単量体又は非極性共役ジエン系単量体の単量体単位からなるランダム又はブロック共重合体60〜85質量部に芳香族系ビニル単量体15〜40質量部をグラフト重合してなるグラフト共重合体(a)をシート状に成形したシート状成形物(A)と、シート状繊維強化材(b1)に非極性α−オレフィン系単量体又は非極性共役ジエン系単量体の単量体単位60〜90質量%及び芳香族系ビニル単量体単位10〜40質量%からなるランダム又はブロック共重合体である熱可塑性樹脂(b2)を含浸せしめてなる樹脂含浸シート状繊維強化材(B)とを熱圧着してなることを特徴とするものである。
【0012】
第2の発明のプリント配線板用金属張り基板は、第1の発明のプリプレグの両面又は片面に金属膜を配して成形してなり、高周波帯域で用いられることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
第1の発明のプリプレグでは、グラフト共重合体(a)をシート状に成形したシート状成形物(A)と、シート状繊維強化材(b1)に熱可塑性樹脂(b2)を含浸せしめてなる樹脂含浸シート状繊維強化材(B)とを熱圧着してなるものである。グラフト共重合体(a)及び熱可塑性樹脂(b2)は、いずれも実質的に非極性の炭化水素基で構成され、双極子能率をもつ極性基団を有していないことから、低誘電率及び低誘電損失で表される優れた高周波特性を発揮することができる。
【0014】
また、熱可塑性樹脂(b2)は、グラフト共重合体(a)と同様の構成成分によりランダム又はブロック共重合体で形成されているため、シート状繊維強化材(b1)に親和性を示すと共に、グラフト共重合体(a)に対しても相溶性(混和性)を発現できるものと考えられる。従って、プリプレグは高い耐ヒートサイクル性を発揮することができる。
【0015】
第2の発明のプリント配線板用金属張り基板では、第1の発明のプリプレグの両面又は片面に金属膜を配して成形することで得られる。このため、プリント配線板用金属張り基板は、上記プリプレグのもつ効果を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の最良と思われる実施形態について詳細に説明する。
本実施形態のプリプレグは、グラフト共重合体(a)をシート状に成形したシート状成形物(A)と、シート状繊維強化材(b1)に熱可塑性樹脂(b2)を含浸せしめてなる樹脂含浸シート状繊維強化材(B)とを熱圧着してなるものである。グラフト共重合体(a)は、非極性α−オレフィン系単量体又は非極性共役ジエン系単量体の単量体単位からなるランダム又はブロック共重合体60〜85質量部に芳香族系ビニル単量体15〜40質量部をグラフト重合してなるものである。シート状繊維強化材(b1)は、例えばシート状のガラスクロスにワニスを含浸させたもので、所定の剛性を発揮するものである。熱可塑性樹脂(b2)は、非極性α−オレフィン系単量体又は非極性共役ジエン系単量体の単量体単位60〜90質量%及び芳香族系ビニル単量体単位10〜40質量%からなるランダム又はブロック共重合体である。
【0017】
ここで、プリプレグとは、一般に強化プラスチック用の樹脂に硬化剤やその他の成分を適正な割合で配合したものを、予めガラスクロスのような織物状の補強材に含浸させ、非粘着性の半硬化状態とした成形材料をいう(大成社出版(株)、ポリマー辞典第5版)。本実施形態においては、この定義に類する配合方法によって非粘着性の成形材料が得られるので、硬化剤を用いて半硬化しなくとも、これをプリプレグということとする。
【0018】
また、比誘電率(ε)とは、周波数10GHzでの測定における、真空の誘電率に対する誘電率の割合をいう。より詳しくは、空洞共振摂動法によって得られた値である。さらに、測定条件について特に断りがない場合、MFRとは、対象となる樹脂を230℃において溶融させ、加重10kgfの条件でノズルから押し出した10min(分)あたりの樹脂量である。より詳しくは、JIS K7210:1999「プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」によって得られた値である。
【0019】
加えて、プリプレグの耐ヒートサイクル性とは、回路を形成させたプリプレグを低温と高温との繰り返し負荷環境(低温高温繰り返し環境)に置いた場合に、回路の切断やプリプレグ表面の破壊などが見られない特性をいう。低温高温繰り返し環境とは、具体的には単一試験槽中で−55℃を30min維持する状態と、+105℃を30min維持する状態とを繰り返す環境のことを意味する。
【0020】
次に、プリプレグの各構成要素について順に説明する。
<グラフト共重合体(a)>
グラフト共重合体(a)は、前記のように非極性α−オレフィン系単量体又は非極性共役ジエン系単量体の単量体単位からなるランダム又はブロック共重合体60〜85質量部に、芳香族系ビニル単量体15〜40質量部をグラフト重合してなるものである。
【0021】
グラフト共重合体(a)の構成単位をなす、非極性α−オレフィン系単量体、非極性共役ジエン系単量体及び芳香族系ビニル単量体は、いずれも実質的に炭化水素基団からなり、高い双極子能率を持つ極性基団を有していないため、重合体としたときに良好な高周波特性を発現する機能を有する。さらに、非極性α−オレフィン系単量体又は非極性共役ジエン系単量体の単量体単位からなるランダム又はブロック共重合体に、π電子相互作用を生じせしめる芳香族系ビニル単量体がグラフトされたグラフト共重合体の分子形態をとるために、芳香族系ビニル単量体単位が主鎖構造に対して、ドメインを形成すると考えられる。このため、溶剤に対して部分的な溶解性を示すだけであり、融点以上の温度でも液状化し、流動して熱だれしてしまうことのない特性を有している。
【0022】
上記非極性α−オレフィン系単量体としてはエチレン、プロピレン、ブテン、オクテン、4−メチルペンテン−1、2,4,4−メチルペンテン−1等が挙げられる。また、非極性共役ジエン系単量体としては、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン等が挙げられる。
【0023】
グラフト共重合体(a)の被グラフト体(以下、マトリックス重合体という)として用いる共重合体は、上記の非極性α−オレフィン系単量体又は非極性共役ジエン系単量体の単量体単位からなるランダム又はブロック共重合体であり、前記の非極性α−オレフィン系単量体又は非極性共役ジエン系単量体の単量体単位は、異種のものを複数混合して用いてよい。また、マトリックス重合体中の非極性共役ジエン系単量体単位は、部分的に水素化されていてもよい。
【0024】
上記のマトリックス重合体にグラフトされるビニル芳香族系単量体としては、単官能性のものとして、スチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン等のスチレン系単量体が挙げられる。多官能性のものとしては、ジビニルベンゼン等が挙げられる。これらの単量体は1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0025】
グラフト共重合体(a)中の芳香族系ビニル単量体の割合は15〜40質量%であり、好ましくは25〜35質量%である。この割合が15質量%より少ない場合には、グラフト共重合体(a)はα−オレフィン系重合体や非極性共役ジエン系重合体の特性を強く示し、融点以上において非常に高い流動性を示すため、プリプレグの形状維持や厚さの制御が困難となる。その一方、40質量%より多い場合には、プリプレグから成形体となす際、非常に脆くなりシート状にすることが困難となる。
【0026】
さらに、芳香族系ビニル単量体として多官能性芳香族系ビニル単量体を用いる場合には、芳香族系ビニル単量体のうちの多官能性芳香族系ビニル単量体の割合は、好ましくは2〜30質量%、より好ましくは15〜25質量%である。芳香族系ビニル単量体における多官能性芳香族系ビニル単量体の割合が多すぎると、プリプレグから成形体となす際、非常に脆くなりシート状にすることが困難となる場合がある。
【0027】
グラフト共重合体(a)の分子量は、流動性により定義するのが適切であり、MFR値として好ましくは2〜50g/(10min)であり、より好ましくは5〜15g/(10min)である。このMFR値が2g/(10min)未満の場合には、プリプレグの成形体となしたときに十分な機械的物性を得ることができず、50g/(10min)を超える場合には、シート状ガラス繊維強化材(b1)に対して十分な親和性が発現されず、プリプレグの成形体となしたときに高い耐ヒートサイクル性が得られなくなる。
【0028】
グラフト共重合体(a)を製造する際のグラフト化法としては、一般によく知られている連鎖移動法、電離性放射線照射法等いずれの方法も採用される。これらの方法のうち、グラフト効率が高く、熱による二次的凝集が起こらないため、性能の発現がより効果的であり、また製造方法が簡便であるため、下記に示す含浸グラフト重合法が好ましい。
【0029】
含浸グラフト重合法を採る場合、グラフト共重合体(a)は通常、次のようにして製造される。まず、非極性α−オレフィン系単量体及び非極性共役ジエン系単量体の中から選ばれる少なくとも1種の単量体から形成される重合体又は共重合体(以下、マトリックス重合体という)100質量部を水に懸濁させる。別に、芳香族系ビニル単量体5〜400質量部に、後述するラジカル共重合性有機過酸化物の1種又は2種以上の混合物を上記芳香族系ビニル単量体100質量部に対して0.1〜10質量部と、10時間の半減期を得るための分解温度が40〜90℃であるラジカル重合開始剤を芳香族系ビニル単量体及びラジカル共重合性有機過酸化物の合計100質量部に対して0.01〜5質量部とを溶解させた溶液を加える。
【0030】
次いで、前記ラジカル共重合性有機過酸化物をマトリックス重合体に含浸させる。その後、ラジカル重合開始剤の分解が実質的に起こらない条件でこの水性懸濁液の温度を上昇させ、芳香族系ビニル単量体及びラジカル共重合性有機過酸化物をマトリックス重合体中で共重合させて、グラフト化前駆体を得る。最後に、このグラフト化前駆体を100〜300℃の溶融下、混練することにより、目的とするグラフト共重合体を得ることができる。
【0031】
この場合、グラフト化前駆体に、別にマトリックス重合体とは別種の非極性α−オレフィン系単量体及び非極性共役ジエン系単量体の中から選ばれる少なくとも1種の単量体から形成される重合体若しくは共重合体又はビニル芳香族系単量体からなる重合体を混合し、100〜300℃の溶融下に混練してもグラフト共重合体を得ることができる。
【0032】
ラジカル共重合性有機過酸化物は、分子中にラジカル共重合が可能である単量体としての特性と、有機過酸化物としての特性とを兼ね備えた化学物質であり、好ましくはt−ブチルペルオキシアクリロイルオキシエチルカーボネート、t−ブチルペルオキシメタクリロイルオキシエチルカーボネート、t−ブチルペルオキシアリルカーボネート、t−ブチルペルオキシメタリルカーボネート等が挙げられる。これらの中でt−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネートが好ましい。
<シート状繊維強化材(b1)>
前記シート状ガラス繊維強化材(b1)は、プリプレグ作製の際に使用して、プリント配線板用金属張り基板として必要な剛性を与えるものである。高周波帯域用プリント配線板の用途に必要な電気特性を得るため、材料種としてはガラスが好適に用いられる。ガラスとしては、Eガラス、Cガラス、Aガラスのほか、二酸化珪素(SiO)の含有量を増加させて誘電特性を改善したSガラス、Dガラスや石英ガラスが用いられる。繊維の形態としては、コンティニュアスマット、クロス、不織布、ロービングクロス、サーフェシングマット及びチョップドストランドマット等が挙げられ、成形物の用途及び性能によって適宜選択すればよい。これらの中でもクロスが好ましい。
【0033】
シート状ガラス繊維強化材(b1)としては、電気的特性に悪影響を及ぼさない範囲において必要に応じ、絶縁コーティング処理やシラン化合物(クロロシラン、アルコキシシラン、有機官能性シラン、シラザン)、チタネート系、アルミニウム系カップリング剤等による表面処理を行ったものを用いてもよい。
【0034】
樹脂含浸シート状繊維強化材(B)におけるシート状ガラス繊維強化材(b1)の配合量は、好ましくは40〜85質量%であり、より好ましくは55〜65質量%である。この配合量が40質量%未満の場合には、成形時に流動を抑える効果が得られず、成形体を得ることが困難になる。その一方、85質量%を超える場合には、プリプレグの高周波帯域における低誘電率性、低誘電損失性を損なうほか、熱可塑性樹脂(b2)量を多く配合しても、プリプレグの耐ヒートサイクル性を損なう傾向を示す。
<熱可塑性樹脂(b2)>
前記熱可塑性樹脂(b2)は、非極性α−オレフィン系単量体又は非極性共役ジエン系単量体の単量体単位と芳香族系ビニル単量体単位からなるランダム又はブロック共重合体である。熱可塑性樹脂(b2)の構成単位をなす、非極性α−オレフィン系単量体又は非極性共役ジエン系単量体、芳香族系ビニル単量体は、いずれも実質的に炭化水素基団からなり、高い双極子能率を持つ極性基団を有していないので、重合体としたときに良好な高周波特性を有する。さらに、非極性α−オレフィン系単量体又は非極性共役ジエン系単量体、及び芳香族系ビニル単量体の各単量体単位は、ランダム又はブロック共重合しているので、各構成単位は高分子マトリックス中に微分散された形態をとるため、主に芳香族系ビニル単量体単位によってシート状ガラス繊維強化材(b1)に対して良好な親和性が得られる。それと同時に、各構成単位の働きによって、グラフト共重合体(a)との良好な混和性も得られる。さらに、グラフト共重合体(a)のようなグラフト構造を有していないために溶剤溶解性にも優れ、ワニス化等の方法によってシート状ガラス繊維強化材(b1)と一体化させることも容易である。
【0035】
熱可塑性樹脂(b2)の共重合に用いられる、極性α−オレフィン系単量体又は非極性共役ジエン系単量体の単量体単位、及び芳香族系ビニル単量体単位の単量体種については、前記のグラフト共重合体(a)に用いられる各々の単量体種と同種のものを用いることができる。熱可塑性樹脂(b2)中の非極性共役ジエン系単量体単位は、部分的に水素化されていてもよい。
【0036】
熱可塑性樹脂(b2)中の、芳香族系ビニル単量体単位の割合は10〜40質量%であり、好ましくは15〜30質量%である。また、芳香族系ビニル単量体として多官能性芳香族系ビニル単量体を用いるときには、その割合は熱可塑性樹脂(b2)中に2質量%以下であることが好ましい。芳香族系ビニル単量体の割合が40質量%より多い場合や、多官能性芳香族系ビニル単量体の割合が2質量%より多い場合には、熱可塑性樹脂(b2)はほとんど流動性を示さないため、グラフト共重合体(a)との密着性を得ることが困難である。それと同時に溶剤溶解性も低下するため、ワニス化等の方法によってシート状ガラス繊維強化材(b1)と一体化させることも困難になる。一方、芳香族系ビニル単量体の割合が10質量%より少ない場合には、熱可塑性樹脂(b2)は非常に高い流動性を示し、プリプレグを得る際に加熱により流出してしまい良好なプリプレグを得ることができなくなる。
【0037】
この芳香族系ビニル単量体としては、単官能性芳香族ビニル単量体を主として用い、多官能性芳香族系ビニル単量体を混合して用いる場合には、混合割合は前述のように2質量%以下が好ましい。2質量%より多いと、熱可塑性樹脂(b2)はほとんど流動性を示さないため、グラフト共重合体(a)との十分な混和性を得ることが困難になり、結果的に高い耐ヒートサイクル性が得られなくなる。
【0038】
熱可塑性樹脂(b2)の分子量は、流動性により定義するのが適切であり、MFR値として好ましくは2〜50g/(10min)であり、より好ましくは5〜15g/(10min)である。MFR値が2g/(10min)未満の場合、プリプレグを得る際に加熱により流出してしまい良好なプリプレグを得ることができない。一方、50g/(10min)を超える場合、シート状ガラス繊維強化材(b1)に対して十分な親和性が得られず、プリプレグの成形体となしたときに高い耐ヒートサイクル性が得られない。
【0039】
樹脂含浸シート状繊維強化材(B)における熱可塑性樹脂(b2)の配合量は、好ましくは15〜60質量%であり、より好ましくは35〜45質量%である。この配合量が15質量%未満の場合には、グラフト共重合体(a)とシート状ガラス繊維強化材(b1)との間の親和性を十分に保持することができず、プリプレグの耐ヒートサイクル性を損なう傾向を示す。一方、60質量%より多く配合しても、熱可塑性樹脂(b2)に起因する熱だれやマイグレーションのため、プリプレグの耐ヒートサイクル性を損なうおそれがある。
【0040】
プリプレグの3成分であるグラフト共重合体(a)、シート状ガラス繊維強化材(b1)及び熱可塑性樹脂(b2)を一体化する方法は、最終的にプリント配線板用金属張り基板に供することのできるシート状のプリプレグとするために、中間の過程でもシート状の形態を経る方法が設備的にも、配合の偏りを防止するためにも有利である。プリプレグを得る方法として具体的には、グラフト共重合体(a)をシート状に成形したシート状成形物(A)と、シート状繊維強化材(b1)に熱可塑性樹脂(b2)を含浸せしめることによって得られる樹脂含浸シート状ガラス繊維強化材(B)とを熱圧着する方法である。
<グラフト共重合体(a)のシート状成形物(A)>
グラフト共重合体(a)からシート状成形物(A)を成形して得る方法としては、一般によく知られているTダイ法、インフレーション成形法、カレンダーロール成形法、プレス成形法のいずれの方法によってもよいが、好ましいのはカレンダーロール成形法である。特に、グラフト共重合体(a)がグラフト共重合体を含む樹脂の場合、融点より20〜30℃高い温度でカレンダーロール成形することにより均一な厚さを有するシート状成形物を得ることができる。
<樹脂含浸シート状ガラス繊維強化材(B)>
シート状ガラス繊維強化材(b1)に熱可塑性樹脂(b2)を含浸させて樹脂含浸シート状ガラス繊維強化材(B)を得る方法としては特に制限されず、公知の方法により行うことができる。具体的には熱可塑性樹脂(b2)をトルエン等の芳香族系の有機溶媒に溶解させてワニスを得、そのワニス中をシート状ガラス繊維強化材(b1)を一定速度で通過させた後溶媒を除去することで樹脂含浸シート状ガラス繊維強化材(B)を得ることができる。
【0041】
熱可塑性樹脂(b2)は、耐ヒートサイクル性の向上、すなわちプリプレグの空隙充填によるクラック抑制効果が得られる範囲で含有されることが必要であることから、樹脂含浸シート状ガラス繊維強化材(B)中における熱可塑性樹脂(b2)の割合は前述のように設定される。
【0042】
シート状ガラス繊維強化材(b1)と熱可塑性樹脂(b2)との配合割合を調整する場合、通常はワニス中の熱可塑性樹脂(b2)濃度と、ワニス中をシート状ガラス繊維強化材(b1)が通過する速度を調整することにより行われる。例えば、0.3mの幅のシート状ガラス繊維強化材(b1)を用いた場合、代表的にはワニス中における熱可塑性樹脂(b2)濃度が10〜20質量%で、ワニス中をシート状ガラス繊維強化材(b1)が通過する速度が0.2〜0.5m/minに設定される。
<シート状成形物(A)と樹脂含浸シート状ガラス繊維強化材(B)との熱圧着>
前記シート状成形物(A)と樹脂含浸シート状ガラス繊維強化材(B)とを熱圧着し、プリプレグを得る方法としては、一般によく知られている真空プレス法、ベルトプレス法等いずれの方法によってもよいが、好ましいのは真空プレス法である。2枚のシート状成形物(A)の間に樹脂含浸シート状ガラス繊維強化材(B)を挟み込み、シート状成形物(A)と樹脂含浸シート状ガラス繊維強化材(B)とが十分に熱融着する温度、圧力で熱圧着を行う。熱圧着の温度は通常160〜300℃の範囲である。また、圧力は通常2〜10MPaの範囲である。
【0043】
プリプレグには、本発明の目的を逸脱しない範囲において、滑剤、可塑剤、結晶核剤、紫外線防止剤、着色剤、難燃剤等の通常の添加剤が含まれていてもよい。これらの添加剤を添加する方法は、プリプレグ全体への混和性から、グラフト共重合体(a)に添加することで簡便に行うことができる。添加剤の添加方法は、特に制限されないが、加熱機能と混練機能とを備えたバンバリーミキサー、加圧ニーダー、ロール、一軸又は二軸スクリュー押出機等を使用する方法が挙げられる。中でも、二軸スクリュー押出機を用いて、メインホッパーよりグラフト共重合体と酸化防止剤、難燃剤を供給して、溶融混練した後、ダイスより吐出される棒状成形物をペレタイザーに通し造粒物(ペレット)として得る方法が簡便かつ安価であり好ましい。その際の温度は、グラフト共重合体(a)が十分に軟化する温度で行えばよく、通常150〜300℃の範囲である。
<プリント配線板用金属張り基板>
プリント配線板用金属張り基板は、前記プリプレグの両面又は片面に金属膜を配して成形して得られ、高周波帯域で用いられるものである。前記プリプレグからプリント配線板用金属張り基板を得る方法としては、プリプレグ表面にめっきを形成させる方法、真空プレス法、ベルトプレス法等いずれの方法も採用される。これらの方法のうち、シート状成形物(A)と樹脂含浸シート状ガラス繊維強化材(B)とからプリプレグを得る方法と同様に真空プレス法を選択し、プリプレグと金属膜とからプリント配線板用金属張り基板を容易に得ることができる。
【0044】
プリント配線板用金属張り基板に使用する金属膜とは、例えば銅、アルミニウム、鉄、ニッケル、亜鉛等の単体又は合金の膜のことであり、必要に応じて防錆のためにクロム、モリブデン等の金属で表面処理が施されたものでもよい。これらの金属膜については電解法、圧延法等従来公知の技術によって製造されたものを用いることができ、それらの厚さは通常0.003〜1.5mm程度である。また、金属層は真空蒸着法やめっき法によってプリプレグの外層に形成してあってもよい。
【0045】
このようにして得られる高周波帯域用のプリプレグ及びプリント配線板用金属張り基板は、高周波帯域において優れた電気特性(低誘電率、低誘電損失)を示すと共に、低温高温のヒートサイクル環境下において優れた耐久性を示すため、過酷な環境下で高い能力が要求される電子回路等に好適に用いることができる。
【0046】
さて、本実施形態の作用を説明すると、前記グラフト共重合体(a)をシート状に成形したシート状成形物(A)と、シート状繊維強化材(b1)に熱可塑性樹脂(b2)を含浸せしめてなる樹脂含浸シート状繊維強化材(B)とを熱圧着することによりプリプレグが作製される。シート状成形物(A)を形成するグラフト共重合体(a)と、樹脂含浸シート状繊維強化材(B)を形成する熱可塑性樹脂(b2)とは、いずれも実質的に非極性の炭化水素基で構成され、双極子能率をもつ極性基団を有していないため、電気絶縁性が高められ、プリント配線板としたとき回路周囲の誘電特性が高められるものと考えられる。
【0047】
また、熱可塑性樹脂(b2)は、グラフト共重合体(a)と同様の構成成分によりランダム又はブロック共重合体で形成されているため、ガラス繊維等のシート状繊維強化材(b1)に親和性を示すと同時に、グラフト共重合体(a)に対しても相溶性(混和性)を発現できるものと考えられる。このため、プリプレグ又はプリント配線板用金属張り基板に加熱と冷却が繰り返されるヒートサイクルにおいて、クラックの発生が抑制される。
【0048】
以上の実施形態によって発揮される効果について、以下にまとめて記載する。
・ 本実施形態のプリプレグは、グラフト共重合体(a)をシート状に成形したシート状成形物(A)と、シート状繊維強化材(b1)に熱可塑性樹脂(b2)を含浸せしめてなる樹脂含浸シート状繊維強化材(B)とを熱圧着して作製される。グラフト共重合体(a)及び熱可塑性樹脂(b2)は、いずれも実質的に非極性の炭化水素基で構成されているため、低誘電率及び低誘電損失で表される優れた高周波特性を発揮することができる。また、熱可塑性樹脂(b2)は、グラフト共重合体(a)と同様の構成成分により形成され、シート状繊維強化材(b1)に親和性を示すと共に、グラフト共重合体(a)にも相溶性を発現できると推測される。従って、プリプレグは高い耐ヒートサイクル性を発揮することができる。
【0049】
・ プリント配線板用金属張り基板は、前記プリプレグの両面又は片面に金属膜を配して成形することで得られる。このため、プリント配線板用金属張り基板は、上記プリプレグのもつ効果を発揮することができる。
【実施例】
【0050】
以下に、参考例、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
まず、各例に用いたプリプレグ、プリント配線板用金属張り基板の試験方法を示す。
<電気特性の測定>
比誘電率、誘電損失測定試験:空洞共振器摂動法(測定周波数は10GHz)、試験片は、各構成の樹脂、又はプリプレグを8枚程度積層させた状態で、真空プレス装置を用いて約1mm厚の成形物を得、縦100mm、横1mm、厚さ1mmの大きさに切断することにより得た。本発明の実施例では、高周波帯域において比誘電率1.5〜3.0であるプリプレグが使用に適している。また、誘電損失は0.0003〜0.03であるプリプレグが使用に適している。より好ましくは、比誘電率が1.5〜2.2であり、誘電損失が0.0003〜0.003である。
<耐ヒートサイクル性の評価>
各構成のプリント配線板用金属張り基板に直径(φ)200mmのスルーホールを200mm間隔で50個×10列に穿ち、直流チェーンパターンめっきを形成させた。このパターンを形成させた基板を耐ヒートサイクル性評価装置に投入した。耐ヒートサイクル性の評価は、1000サイクルに到達した時点でのパターンの導通、及び基板表面のクラック発生状況を目視することにより行った。パターンの導通は、0.5Aの電流を流した場合における導体抵抗率を測定し、初期値からの変化率により評価を行った。評価点数を以下に示す。
(導体抵抗の変化率)
変化無し:5点、0.5%以下の場合:4点、0.5〜1%の場合:3点、3%程度の変化を示し数値が不安定となるもの:2点、回路断線等により抵抗率が大幅に上昇し、3%以上の変化を示したもの:1点、明らかに断線したとみられる兆候が現れた場合:0点
また、基板表面のクラックは、その有無を目視により判定し、クラックが観測された時点でのサイクル数について評価を行った。評価点数を以下に示す。
(クラック観察評価)
1000サイクル以上クラック未観測:5点、800サイクル以上クラック未観測:4点、500サイクル以上クラック未観測:3点、300サイクル以上クラック未観測:2点、100サイクル以上クラック未観測:1点、100サイクル未満でクラック発生:0点
また、導体抵抗変化率、クラック観察いずれの場合においても試料作製できなかったものについては0点とした。耐ヒートサイクル性の評価においては、実用に耐え得るのは両項目ともに3点以上であることが必要である。
【0051】
次に、実施例に用いた繊維強化材、高分子材料の製造方法を参考例として示す。
(参考例1、グラフト共重合体(a)のシート状成形物(A)の製造)
内容積5リットルのステンレス製オートクレーブに、純水2500gを入れ、さらに懸濁剤としてポリビニルアルコール2.5gを溶解させた。この中にポリプロピレン700gを入れ、攪拌、分散した。それとは別に、ラジカル重合開始剤としてのベンゾイルペルオキシド2.0g、ラジカル共重合性有機過酸化物としてt−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート7.5gを、芳香族系ビニル単量体であるジビニルベンゼン100gとスチレン200g中に溶解させ、この溶液を前記オートクレーブ中に投入し、攪拌した。次いで、オートクレーブの温度を85〜95℃に昇温し、2時間攪拌することにより、ラジカル重合開始剤及びラジカル共重合性有機過酸化物を含む芳香族系ビニル単量体をポリプロピレン中に含浸させた。続いて、温度を75〜85℃に下げ、その温度で5時間維持して重合を完結させ、濾過後、水洗及び乾燥してグラフト化前駆体を得た。
【0052】
次いで、このグラフト化前駆体をラボプラストミル一軸押出機((株)東洋精機製作所製)で210℃にて押し出し、グラフト化反応させることによりグラフト樹脂を得た。さらに、このグラフト樹脂に酸化防止剤として1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイトをそれぞれ100gずつドライブレンドした後、シリンダー温度210℃に設定されたスクリュー径30mmの同軸方向二軸スクリュー押出機(TEX−30α、(株)日本製鋼所製)に供給し、押出後造粒してグラフト共重合体(a)を得た。
【0053】
このグラフト共重合体(a)のMFRは8g/(10min)であった。さらに、グラフト共重合体(a)をカレンダーロール装置(日本ロール製造(株)製)で170℃にて延伸することによりグラフト共重合体(a)のシート状成形物(A)を得た。
【0054】
ポリプロピレン:「サンアロマーPM671A」(商品名、サンアロマー(株)製)(MFR:7g/(10min))
ベンゾイルペルオキシド:「ナイパーBW」(商品名、日本油脂(株)製、純度75%含水品)
t−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート:日本油脂(株)製、40%トルエン溶液
1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン:「Irganox1330」(商品名、チバ・スペシャルティケミカルズ(株)製)
ネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト:「アデカスタブPEP−36」(商品名、旭電化工業(株)製)
(参考例2〜8)
参考例1と同様の方法を用いて、様々なマトリックス重合体、芳香族系ビニル単量体からなるグラフト共重合体(a)に属する熱可塑性樹脂を得た。表1にその構成を示した。
【0055】
【表1】

PP:ポリプロピレン(参考例1に同じ)
St:スチレン
DVB:ジビニルベンゼン
TPX:ポリ4−メチルペンテン−1「TPX RT18」(商品名、三井化学(株)製)(MFR:26g/(10min))
MeSt:p−メチルスチレン
(参考例9、本発明に用いる熱可塑性樹脂(b2)の製造)
SBR(1)4900g、ジビニルベンゼン100g、ベンゾイルペルオキシド6.5gを、バンバリーミキサーを用いて窒素雰囲気下、200℃で5分間混練することによって熱可塑性樹脂(b2)のペレットを得た。
【0056】
表2には、その構成を、実施例において熱可塑性樹脂(b2)として使用した市販の樹脂と併せて示す。
【0057】
【表2】

(参考例10、11、本発明の(b2)成分として用いることができない熱可塑性樹脂の製造)
参考例9と同様の方法を用いて、熱可塑性樹脂と芳香族系ビニル単量体からなる熱可塑性樹脂を得た。表3には、その構成を、比較例において本発明に対比して使用した市販の熱可塑性樹脂と併せて示す。
【0058】
SBR(1):スチレン−ブタジエンゴム「Nipol9526」(商品名、日本ゼオン(株)製)、(ムーニー粘度:38)
SEPS2007:スチレン−エチレンープロピレン−スチレン共重合体「セプトン2007」(商品名、(株)クラレ)、(MFR:2.4g/(10min)、230℃/21.2N)
SEPS2063:スチレン−エチレンープロピレン−スチレン共重合体「セプトン2063」(商品名、(株)クラレ)、(MFR:7g/(10min)、230℃/21.2N)
SEPS2004:スチレン−エチレンープロピレン−スチレン共重合体「セプトン2004」(商品名、(株)クラレ)、(MFR:5g/(10min)、230℃/21.2N)
【0059】
【表3】

SBR(2):スチレン−ブタジエンゴム「Nipol2057S」(商品名、日本ゼオン(株)製)、(ムーニー粘度:52)
TTP1500:水添ブタジエン−スチレンブロック共重合体「タフテックP1500」(商品名、旭化成(株)製)、(MFR:4g/(10min)、190℃/21.2N)
TTP2000:水添ブタジエン−スチレンブロック共重合体「タフテックP2000」(商品名、旭化成(株)製)、(MFR:3g/(10min)、230℃/21.2N)
PMMA:ポリメチルメタクリレート「スミペックスLG」(商品名、住友化学工業(株)製)、(MFR:10g/(10min)、230℃/37.3N)
(実施例1)
シート状ガラス繊維強化材(b1)(ガラスクロス「タイプ1067」(商品名、旭シュエーベル(株)製))を、表2に示したEPR700を4kgのトルエンに溶解させることで得たワニス中に0.3m/minの速度で通過させ、80℃で2時間乾燥させることによって樹脂含浸シート状ガラス繊維強化材(B)を得た。これを、2枚の参考例1のシート状成形物(A)で挟み込み、真空プレス機を用いて190℃で熱圧着することによりプリプレグを得た。さらに、このプリプレグの両面にUV−O3処理装置(セン・エンジニアリング(株)製)を用いて表面改質を行った後、厚さ18μmの圧延銅箔(福田金属箔粉工業(株)製)2枚でプリプレグを挟み込み、真空プレス機を用いて熱圧着し、プリント配線板用金属張り基板を得た。この方法で得た銅張り基板は、高周波帯域における低誘電率及び低誘電損失を示すと同時に、良好な耐ヒートサイクル性を示した。
(実施例2〜12)
表1に示した種々のグラフト共重合体(a)等を用いて、参考例1と同様の製造方法により様々なシート状成形物(A)を得た。これとは別に、種々のシート状ガラス繊維強化材(b1)に表2に示した種々の熱可塑性樹脂(b2)を含浸させ樹脂含浸シート状ガラス繊維強化材(B)を得た。これらを用いて実施例1と同様の方法によりプリント配線板用銅張り基板を得た。これらの方法で得た銅張り基板の高周波帯域における低誘電率、低誘電損失及び耐ヒートサイクル性について表4に示した。
【0060】
#1067:(スタイル番号、旭シュエーベル(株)製))(質量:31g/m、厚さ:32μm)
#1080:(スタイル番号、旭シュエーベル(株)製))(質量:48g/m、厚さ:55μm)
#106:(スタイル番号、旭シュエーベル(株)製))(質量:25g/m、厚さ:39μm)
#1027:ガラスクロス(スタイル番号、旭シュエーベル(株)製))(質量:20g/m、厚さ:20μm)
【0061】
【表4】

表4に示したように、得られた実施例1〜12のプリント配線板用金属張り基板は、高周波帯域において低誘電率及び低誘電損失を示すと同時に、好適な耐ヒートサイクル性を示した。
(比較例1〜7)
参考例1と同様の製造方法により、種々のマトリックス重合体、芳香族ビニル単量体により表1に示したグラフト共重合体(a)からなるシート状成形物(A)を得た。これとは別に、種々のシート状ガラス繊維強化材(b1)に種々の熱可塑性樹脂(b2)を含浸させ、樹脂含浸シート状ガラス繊維強化材(B)を得た。これらより実施例1と同様の方法によりプリント配線板用金属張り基板を得た。以上のようにして得られた銅張り基板の高周波帯域における低誘電率、低誘電損失及び耐ヒートサイクル性について表5に示した。
【0062】
比較例1では、プリプレグを構成するグラフト共重合体(a)の割合と比較して、(b1)+(b2)の割合が多くシート状ガラス繊維強化材(b1)の空隙を充填する熱可塑性樹脂(b2)量を保持することができなかった。また、比較例2ではガラス繊維強化材をワニスに含浸させて樹脂含浸シート状ガラス繊維強化材(B)を得る工程において、含浸後の熱可塑性樹脂(b2)量が少なかった。比較例3ではシート状ガラス繊維強化材(b1)の割合が多くなり、シート状ガラス繊維強化材(b1)の空隙を充填するのに必要な熱可塑性樹脂(b2)量に実際の熱可塑性樹脂(b2)量が少なかった。これらの場合においては、プリプレグ中に空隙が残留し、耐ヒートサイクル性を損なう。特にプリプレグ表面には多数のクラックが速やかに発生するのが確認された。
【0063】
比較例4では、参考例7で得られたグラフト共重合体から成形したシート状成形物65質量部に対して、シート状繊維強化材(b1)74.3質量%に熱可塑性樹脂(b2)25.7質量%を含浸させた樹脂含浸シート状ガラス繊維強化材(B)35質量部の熱圧着を試みた。しかし、用いたグラフト共重合体が、これを構成する芳香族系ビニル単量体からなる重合体成分がグラフト共重合体中で5質量%と少なく、本発明に用いるグラフト共重合体(a)ではないため、成形温度で完全に溶解、流出してしまいプリプレグの形状を維持できず、評価試料を得ることができなかった。
【0064】
比較例5ではグラフト共重合体(a)の流動性が不十分でありシート状成形物(A)と樹脂含浸シート状ガラス繊維強化材(B)の密着性が得られず、シート状成形物(A)と樹脂含浸シート状ガラス繊維強化材(B)の界面が剥離してしまい、ヒートサイクル環境下において導体抵抗変化が大きくなってしまった。
【0065】
比較例6では、熱可塑性樹脂(b2)を構成する芳香族系ビニル単量体の割合が過剰であり、シート状成形物(A)が溶融状態となる温度でもほとんど流動せず、シート状成形物(A)と樹脂含浸シート状ガラス繊維強化材(B)の密着性が得られず、その界面から剥離し、ヒートサイクル環境下において導体抵抗変化が大きくなった。
【0066】
また、比較例7では、実施例4と同じグラフト共重合体(a)のシート状成形物(A)72質量部に対して、シート状繊維強化材(b1)71.4質量%に、本発明に用いる熱可塑性樹脂(b2)の換わりに参考例10で調製した熱可塑性樹脂28.6質量%を含浸させた樹脂含浸シート状ガラス繊維強化材(B)の熱圧着を試みた。熱可塑性樹脂BR392は、共重合体中の芳香族系ビニル重合体単位の割合が61質量%である。このため、溶剤への溶解性が著しく低く、調製したワニスは白濁しており、このワニスを用いて樹脂含浸シート状ガラス繊維強化材(B)を調製し、シート状成形物(A)との熱圧着を試みた。しかし、得られたプリプレグの成形物は空隙が非常に多く、電気的特性の評価試料として到底用いることができないものであった。
(比較例8)
熱可塑性樹脂(b2)として芳香族ビニル単量体からなる重合体を含まない熱可塑性樹脂を使用し実施例1と同様の方法により樹脂含浸シート状ガラス繊維強化材(B)、プリプレグ、さらにプリント配線板用金属張り基板を得た。
【0067】
この方法で得られた樹脂含浸シート状ガラス繊維強化材(B)はグラフト共重合体(a)との密着性に劣るため、その結果耐ヒートサイクル性を損ない、高周波帯域における電気特性も低下した。
(比較例9)
比較例9では、熱可塑性樹脂(b2)を全く用いない以外は、実施例1と同じ方法でプリプレグ、さらにはプリント配線板用金属張り基板を得た。熱可塑性樹脂(b2)を用いない製造方法では、シート状ガラス繊維強化材(b1)中の空隙を完全に充填することができないため、結果として得られたプリプレグ、プリント配線板用金属張り基板は内部に空隙が残されており、それが基点となってヒートサイクル環境下においてクラックを発生させた。
【0068】
#1545:ガラスクロス(スタイル番号、旭シュエーベル(株)製))(質量:165g/m、厚さ:140μm)
【0069】
【表5】

なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
【0070】
・ 樹脂含浸シート状ガラス繊維強化材(B)の片面にシート状成形物(A)を熱圧着してもよく、また樹脂含浸シート状ガラス繊維強化材(B)の両面にシート状成形物(A)を熱圧着し、さらにその上に樹脂含浸シート状ガラス繊維強化材(B)を熱圧着して積層することもできる。
【0071】
・ 前記グラフト共重合体(a)又は熱可塑性樹脂(b2)において、非極性α−オレフィン系単量体と非極性共役ジエン系単量体とを組合せて用いることもできる。
・ 前記熱可塑性樹脂(b2)において、前記ランダム共重合体とブロック共重合体とを組合せて用いることができる。
【0072】
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 前記シート状繊維強化材(b1)は、ガラスクロスによりシート状に形成されているものであることを特徴とする請求項1に記載のプリプレグ。このように構成した場合、請求項1に係る発明の効果に加え、プリプレグの剛性を高めることができる。
【0073】
・ 前記グラフト共重合体(a)又は熱可塑性樹脂(b2)を形成する芳香族系ビニル単量体は、スチレン系単量体であることを特徴とする請求項1に記載のプリプレグ。このように構成した場合、請求項1に係る発明の効果に加え、流動性等の特性を向上させることができる。
【0074】
・ 前記グラフト共重合体(a)及び熱可塑性樹脂(b2)を形成する単量体は同種のものであることを特徴とする請求項1に記載のプリプレグ。このように構成した場合、請求項1に係る発明の効果に加え、両者の相溶性を向上させることができる。
【0075】
・ 前記熱可塑性樹脂(b2)中における芳香族系ビニル単量体単位として多官能性芳香族系ビニル単量体単位の含有量は、2質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のプリプレグ。このように構成した場合、請求項1に係る発明の効果に加え、耐ヒートサイクル性を向上させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非極性α−オレフィン系単量体又は非極性共役ジエン系単量体の単量体単位からなるランダム又はブロック共重合体60〜85質量部に芳香族系ビニル単量体15〜40質量部をグラフト重合してなるグラフト共重合体(a)をシート状に成形したシート状成形物(A)と、シート状繊維強化材(b1)に非極性α−オレフィン系単量体又は非極性共役ジエン系単量体の単量体単位60〜90質量%及び芳香族系ビニル単量体単位10〜40質量%からなるランダム又はブロック共重合体である熱可塑性樹脂(b2)を含浸せしめてなる樹脂含浸シート状繊維強化材(B)とを熱圧着してなることを特徴とするプリプレグ。
【請求項2】
請求項1に記載のプリプレグの両面又は片面に金属膜を配して成形してなり、高周波帯域で用いられることを特徴とするプリント配線板用金属張り基板。

【公開番号】特開2007−320088(P2007−320088A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−150527(P2006−150527)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】