説明

プリント配線板の製造方法

【課題】高密度回路の形成が可能で、優れた接着性、高温高湿環境下での接着信頼性にすぐれた,プリント配線板板を提供する。
【解決手段】ポリイミドフィルムの両面に金属層を形成した構成で、少なくともその一方の表面に形成された金属層が、ニッケルまたはその合金からなる第1金属層と、銅またはその合金からなる第2金属層とからなるか、イオンプレーティング法で形成された銅または銅合金よりなる第一層と、その上の銅または銅合金よりなる第2金属層からなる、積層体を用いてプリント配線板の製造を行うことにより、上記課題を解決しうる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気・電子機器等に広く使用される、平滑な平面を有する高分子フィルム上に銅の金属層を形成した積層体を用いてなるプリント配線板の製造法に関係しており、特に回路基板製造に最適な金属/ポリイミド/金属からなる3層構造の積層体を用いたプリント配線板の製造方法に関係する。さらに詳しくは接着性、環境安定性に優れた高密度フレキシブルプリント配線板、フレキシブルプリント配線板を積層した多層プリント配線板、フレキシブルプリント配線板と硬質プリント配線板を積層したリジッド・フレックス配線板、TAB(Tape  Automated  Bonding)用テープ、プリント配線板上に直接半導体素子を実装したCOF(Chip  On  Film)、MCM(Multi  Chip Module)等の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
表面に回路を形成したプリント配線板が、電子部品や半導体素子等を実装するために広く用いられ、近年の電子機器の小型化、高機能化の要求に伴い、その様なプリント配線板には、回路の高密度化や薄型化が強く望まれている。特にライン/スペースの間隔が25μm/25μm以下であるような微細回路形成方法の確立はプリント配線板分野の重要な課題である。
【0003】
通常プリント配線板においては、基板となる高分子フィルムと回路との間の接着はアンカー効果と呼ばれる表面の凹凸によって達成されている。そのため一般にフィルム表面を粗化する工程が設けられ、通常その表面にはRz値換算で3〜5μm程度の凹凸がつけられる。この様な基板表面の凹凸は形成される回路のライン/スペースの値が30/30μm以上である場合には問題とならないが、30/30μm以下、特に25/25μm以下の線幅の回路形成には重大な問題となる。その理由はこの様な高密度の細線である回路線が基盤表面の凹凸の影響をうけるためである。従って、ライン/スペースの値が25/25μm以下の回路の形成には、表面平滑性の高い高分子基板への回路形成技術が必要となり、その平面性はRz値換算で2μm以下、さらに望ましくは1μm以下である必要がある。当然この場合には、接着力として上記アンカー効果は期待出来なくなるので、別の接着方法の開発が必要となる。
【0004】
一方、回路基板にはより高密度の微細配線が求められると同時に、高温高湿などのより厳しい環境下での安定性が求められるようになってきており、特に高分子フィルムと回路配線の接着性についても高温・高湿の環境に耐えることが要求されてきている。そのために平坦な表面への強く接着法は同時に耐環境性にも優れたものでなくてはならない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記問題点を改善するために成されたもので、その目的とするところは、(1)表面平滑性に優れたポリイミド高分子基板上に強固に接着された微細な回路配線を形成出来るような製造方法を提供する事、(2)常態での優れた接着性とその耐高温・高湿下での接着安定性に優れたプリント配線板の製造方法を提供する事、にある。
【0006】
ポリイミドフィルムと回路配線との接着性改善についてはこれまでも種々の検討が試みられている。例えば、特許第1,948,445号(米国特許第4,742,099号)明細書には、ポリイミドフィルムにチタン系の有機化合物を添加することにより、接着性を改善する技術が開示されている。しかしこの技術では、フィルムが著しく着色することや、フィルムの内部にもチタン原子が高濃度で存在するためにフィルムの脆性が低下するなどの問題があった。特開平6−73209号公報(米国特許第5,227,224号明細書)にはSn、Cu、Zn、Fe、Co、MnまたはPdからなる金属塩によってコートされた表面接着力の改善されたポリイミドを開示している。本発明では使用する金属はチタンであり、Sn、Cu、Zn、Fe、Co、MnまたはPdからなる金属塩を利用しない。米国特許第5,130,192号明細書にはポリアミド酸固化フィルムに耐熱性表面処理剤を塗布した後イミド化したポリイミドフィルムをメタライズする方法を開示している。しかし、上記技術においては、フィルムが著しく着色することや、フィルムの内部にもチタン元素が高濃度で存在し、フィルムが脆化する等の問題があった。
【0007】
この様な状況に鑑み、本発明者らは、主にポリイミドフィルムの表面にチタン元素を存在させる新しい手法を開発した。その発明の詳細は特開平11−71474に開示されている。これらのポリイミドフィルム表面に蒸着、等の物理的方法で形成した銅金属層は、チタン元素を含まない通常のポリイミドフィルム表面に形成した銅金属層に比較してはるかに優れた接着強度を有していた。しかしこれらの強度は微細配線に適用するにはまだ不十分で、さらには高温・高湿の耐環境下ではその接着強度が低下するという問題があった。
【0008】
本発明者らは、上記した従来の問題点を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、常態での接着性、および耐環境性に優れた金属/ポリイミド/金属積層体を開発し、本発明に至ったのである。本発明の積層体を用いる事により、高密度で耐環境安定性に優れたフレキシブルプリント配線板、フレキシブルプリント配線板を積層した多層プリント配線板、フレキシブルプリント配線板と硬質プリント配線板を積層したリジッド・フレックス配線板、TAB(Tape  Automated  Bonding)用テープ、プリント配線板上に直接半導体素子を実装したCOF(ChipOn  Film)、MCM(Multi  Chip  Module)等を製造できる。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、以下の製造方法により、上記課題を達成できる。
(1)ポリイミドフィルムとその両面に金属層の設けられた積層体であって、少なくとも一方の金属層が、前記ポリイミドフィルムに接触するニッケルまたはその合金からなる第1金属層と、該第1金属層上に形成された銅またはその合金からなる第2金属層、からなる積層体を用いてなるプリント配線板の製造方法。
(2)ポリイミドフィルムとその両面に金属層の設けられた積層体であって、少なくとも一方の金属層が、前記ポリイミドフィルムに接触するイオンプレーティング法で形成された銅または銅合金よりなる第1金属層と、該第1金属層上に形成された銅または銅合金よりなる第2金属層、からなる積層体を用いてなるプリント配線板の製造方法。
(3)前記第1金属層の厚さが2nm以上、100nm以下であり、前記第2金属層の厚さが10nm以上、500nm以下である積層体を用いてなる(1)または(2)記載のプリント配線板の製造方法。
(4)前記ポリイミドフィルムが、チタン元素を含有するフィルムである(1)〜(3)のいずれか一項に記載のプリント配線板の製造方法。
(5)前記ポリイミドフィルムが、エックス線光電子分光法で測定したときの、ポリイミドフィルム表面のチタンの原子数濃度が0.01%以上、1%以下であるフィルムである(1)〜(4)のいずれか一項に記載のプリント配線板の製造方法。
(6)前記ポリイミドフィルムが、フィルム厚み方向中央部のチタン元素の濃度がフィルム表面のチタン元素濃度よりも小さいフィルムである(5)記載のプリント配線板の製造方法。
(7)前記ポリイミドフィルムが、ポリアミド酸を支持体上に流延または塗布して乾燥し、部分的に硬化または部分的に乾燥された、自己支持性を有するフィルムを得、該フィルムに有機チタン化合物の有機溶媒溶液を塗布および/または浸漬し、その後ポリアミド酸をポリイミドに転化して得られるポリイミドフィルムである(1)〜(6)記載の積層体を用いてなるプリント配線板配線板の製造方法。
(8)前記有機チタン化合物が、(化1)で示される有機チタン化合物から選択された少なくとも1種類であることを特徴とする(1)〜(7)記載のプリント配線板の製造方法。
【0010】
【化4】



ただし、mは0〜4の整数、Xは(化2)で示される置換基から選ばれた一種類、
【0011】
【化5】



あるいはC1からC18の炭化水素残基、またはC3からC18のカルボン酸およびそのアンモニュウム残基である。
また(化1)あるいは(化2)中、R1は水素、またはC1からC18の炭化水素残基、R2、R3はC1からC18の炭化水素残基、R4はC1からC18の炭化水素残基、R4はC1からC18の炭化水素残基または一般式(化3)で表される置換基、
【0012】
【化6】



R5,R6はC1からC18の炭化水素残基、R7はC1からC18の炭化水素残基、R8はC1からC18の炭化水素残基である。
(9)前記ポリイミドフィルムが、無水ピロメリット酸、4,4´−ジアミノジフェニルエーテルを主成分とするポリアミド酸を脱水閉環して得られるポリイミドを用いたフィルムである請求項1〜8のいずれか一項に記載のプリント配線板の製造方法。
(10)前記ポリイミドフィルムが無水ピロメリット酸、4,4´−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンの3成分を主成分とするポリアミド酸を脱水閉環して得られるポリイミドを用いたフィルムである(1)〜(8)いずれか一項に記載のプリント配線板の製造方法。
(11)前記ポリイミドフィルムが無水ピロメリット酸、4,4´−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミン、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)の4成分を主成分とするポリアミド酸を脱水閉環して得られるポリイミドを用いたフィルムである(1)〜(8)いずれか一項に記載のプリント配線板の製造方法。
(12)(1)〜(11)のいずれか一項に記載のプリント配線板の製造方法において、前記積層体を貫通するビアホールを形成する工程と、第2金属層の表面およびビアホール内部に触媒を塗布する工程と、該触媒を用いて第2金属層表面およびビアホール内部に無電解メッキ銅を施す工程と、無電解メッキ銅上に電解メッキ銅を施す工程、を含むプリント配線板配線板の製造方法。
(13)さらに、サブトラクティブ法によりエッチングをおこない回路形成を行う工程を含む(12)に記載のフレキシブルプリント配線板の製造方法
(14)(1)〜(11)のいずれか一項に記載のプリント配線板の製造方法において、積層体を貫通するビアホールを形成する工程と、第2金属層の表面およびビアホール内部に触媒を塗布する工程と、該触媒を用いて第2金属層表面およびビアホール内部に無電解メッキ銅を施す工程と、無電解メッキ銅上にレジスト膜を形成する工程と、回路の形成を予定する部分のレジスト被膜を取り除く工程と、無電解メッキ膜が露出する部分を給電電極として使用して電解銅メッキを行い回路を形成する工程と、レジスト被膜を除去する工程と、無電解銅メッキ皮膜、および、該第1金属層、第2金属層をエッチング除去する工程とを含むプリント配線板の製造方法。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る金属/ポリイミド/金属積層体の実施の形態を具体的に説明する。
【0014】
まず、本発明に係る金属/ポリイミド/金属積層体及びフレキシブルプリント配線板に用い得るポリイミドフィルムについて説明する。このポリイミドフィルムは、チタンの元素を含むことを必須とする。本発明において使用されるポリイミドフィルムは、「Journal  of Polymer  Science:partA  vol.3  PP.1373−1390(1965)」等に開示されている公知の方法で製造することができる。即ちポリアミド酸を支持体に流延、塗布し、化学的にあるいは熱的にイミド化することで得られる。好ましくは化学的にイミド化することが、フィルムの靭性、破断強度、及び生産性の観点から好ましい。
【0015】
本発明に用いられるポリイミドの前駆体であるポリアミド酸は、基本的には、公知のあらゆるポリアミド酸を適用することができる。本発明に用いられるポリアミド酸は、通常、芳香族酸二無水物の少なくとも1種とジアミンの少なくとも1種を、実質的等モル量を有機溶媒中に溶解させて、得られたポリアミド酸有機溶媒溶液を、制御された温度条件下で、上記酸二無水物とジアミンの重合が完了するまで攪拌することによって製造される。また、ポリイミドはポリアミド酸をイミド化して得られるが、イミド化には、熱キュア法及びケミカルキュア法のいずれかを用いる。熱キュア法は、脱水閉環剤等を作用させずに加熱だけでイミド化反応を進行させる方法である。また、ケミカルキュア法は、ポリアミド酸有機溶媒溶液に、無水酢酸等の酸無水物に代表される化学的転化剤(脱水剤)と、イソキノリン、β−ピコリン、ピリジン等の第三級アミン類等に代表される触媒とを作用させる方法である。ケミカルキュア法に熱キュア法を併用してもよい。イミド化の反応条件は、ポリアミド酸の種類、フィルムの厚さ、熱キュア法及び/またはケミカルキュア法の選択等により変動し得る。
【0016】
ここで、本発明に係るポリイミド前駆体ポリアミド酸組成物に用いられる材料について説明する。本ポリイミドにおける使用のための適当な酸無水物は、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物  )、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、及びそれらの類似物を含む。
【0017】
これらのうち、本発明に係る金属/ポリイミド/金属積層体における使用のための最も適当な酸二無水物はピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)であり、これらを単独または、任意の割合の混合物が好ましく用いられる。本発明に係るポリイミド組成物において使用し得る適当なジアミンは、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノジフェニルN−メチルアミン、4,4’−ジアミノジフェニルN−フェニルアミン、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼン、及びそれらの類似物を含む。これらポリイミドフィルムに用いられるジアミンにおいて、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル及びp−フェニレンジアミンが特に好ましく、また、これらをモル比で100:0から0:100、好ましくは100:0から10:90の割合で混合した混合物が好ましく用い得る。
【0018】
本発明に好ましい酸二無水物とジアミン類の組み合わせは、ピロメリット酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、ピロメリット酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテル及びp−フェニレンジアミンの組み合わせ、あるいはピロメリット酸二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)と4,4’−ジアミノジフェニルエーテル及びp−フェニレンジアミンの組み合わせである。これらのモノマーを組み合わせて合成したポリイミドは適度な弾性率、寸法安定性、低吸水率等の優れた特性を発現し、本発明のポリイミド/金属積層体に用いるのに好適である。ポリアミド酸を合成するための好ましい溶媒は、アミド系溶媒すなわちN,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどであり、N,N−ジメチルフォルムアミドが特に好ましく用いられる。
【0019】
また、イミド化をケミカルキュア法により行なう場合、本発明に係るポリアミド酸組成物に添加する化学的転化剤は、例えば脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物、N,N ’ − ジアルキルカルボジイミド、低級脂肪族ハロゲン化物、ハロゲン化低級脂肪族ハロゲン化物、ハロゲン化低級脂肪酸無水物、アリールホスホン酸ジハロゲン化物、チオニルハロゲン化物またはそれら2種以上の混合物が挙げられる。それらのうち、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水ラク酸等の脂肪族無水物またはそれらの2種以上の混合物が、好ましく用い得る。これらの化学的転化剤はポリアミド酸溶液中のポリアミド酸部位のモル数に対して1〜10倍量、好ましくは1〜7倍量、より好ましくは2〜5倍量を添加するのが好ましい。 また、イミド化を効果的に行うためには、化学的転化剤に触媒を同時に用いることが好ましい。触媒としては脂肪族第三級アミン、芳香族第三級アミン、複素環式第三級アミン等が用いられる。それらのうち複素環式第三級アミンから選択されるものが特に好ましく用い得る。具体的にはキノリン、イソキノリン、β−ピコリン、ピリジン等が好ましく用いられる。これらの触媒は化学的転化剤のモル数に対して1/20〜10倍量、好ましくは1/15〜5倍量、より好ましくは1/10〜2倍量のモル数を添加する。これらの、化学的転化剤及び触媒は、量が少ないとイミド化が効果的に進行せず、逆に多すぎるとイミド化が早くなり取り扱いが困難となる。
【0020】
本発明に用いられる、チタン化合物は、有機または無機化合物であれば限定されないが、例えば塩化物、臭化物等のハロゲン化物、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩、珪酸塩、ホウ酸塩、縮合リン酸塩等が挙げられる。また、チタン原子との配位結合を形成し得る有機化合物を有する有機チタン化合物であり得る。たとえば、ジアミン、ジホスフィン等の中性分子やアセチルアセトナートイオン、カルボン酸イオン、ジチオカルバミン酸イオン等を有する有機化合物、またポリフィリン等の環状配位子等が挙げられる。これらの化合物はカップリング剤、あるいは金属塩の形で与えられる。これらの化合物は熱重量分析による熱分解温度が100℃から250℃の範囲にあるものが好ましく、この範囲を外れるものは所定の効果を発現しにくい。また、一般式(化7)で示されるものが好ましい。
【0021】
【化7】



ただし、mは0〜4の整数、Xは(化8)で示される置換基から選ばれた一種類、
【0022】
【化8】



あるいはC1からC18の炭化水素残基、またはC3からC18のカルボン酸およびそのアンモニュウム残基である。
また(化7)あるいは(化8)中、R1は水素、またはC1からC18の炭化水素残基、R2、R3はC1からC18の炭化水素残基、R4はC1からC18の炭化水素残基、R4はC1からC18の炭化水素残基または一般式(化9)で表される置換基、
【0023】
【化9】



R5,R6はC1からC18の炭化水素残基、R7はC1からC18の炭化水素残基、R8はC1からC18の炭化水素残基である。
【0024】
なお、(化7)中XはC8からC18の炭化水素残基である事がより好ましく、R1は水素またはC3からC18の炭化水素残基であることがより好ましく、R2はC3からC18の炭化水素残基である事がより好ましく、R3はC3からC18の炭化水素残基である事がより好ましく、R4はC3からC18の炭化水素残基、または一般式(化9)であらわされる置換基である事がより好ましく、R5はC3からC18の炭化水素基である事がより好ましく、R6はC3からC18の炭化水素残基である事がより好ましく、R7はC2からC18の炭化水素残基である事がより好ましい。
【0025】
中でも、R1として最も好ましくは−C3H7、−C4H7を表し、R2として最も好ましくは−C17H35を表し、R3として最も好ましくは−C12H25を表し、R4として最も好ましくは−O−P(O)−(OC8H17)2を表し、R5として最も好ましくは−C2H4−を表し、R6、R7として最も好ましくは−C2H4OHを表す。
【0026】
具体的にはトリ−n−ブトキシチタンモノステアレート、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、ブチルチタネートダイマー、テトラノルマルブチルチタネート、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、チタンオクチレングリコレートなどが例示される他、ジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウム、ジヒドロキシチタンビスラクテート等も使用可能である。最も好ましいのはトリ−n−ブトキシチタンモノステアレートあるいはジヒドロキシチタンビスラクテートである。上記のチタン元素を含むポリイミドフィルムを用いることにより、優れた接着性を持ち、耐久性に優れた接着信頼性を実現できる。
【0027】
次にチタン元素をポリイミドフィルムに含有させる方法についてのべる。具体的な方法としては、例えば、ポリイミドの前駆体のポリアミド酸溶液に、チタン元素を含む化合物を混合した後に、ポリアミド酸をポリイミドに転化する方法がある。しかし、この方法ではチタン元素がポリイミドフィルム全体に均一に分散する事になり、フィルム中のチタン元素濃度が低い場合には有効に使用できるが、チタン元素濃度が高い場合にはフィルムが脆くなり好ましくない。好ましい濃度は0.5%以下0.001%以上であり、0.2%以下、0.002%以上である事はより好ましく、0.1%以下、0.01%以上である事は最も好ましい。
【0028】
チタン元素をポリイミドフィルムに含有させる他の方法として、部分的に硬化または部分的に乾燥されたポリアミド酸フィルムまたはポリイミドフィルムに該元素を含む化合物の溶液を塗布した後、該フィルムを加熱乾燥し、完全にイミド化する方法が、本目的にはより好ましく用いられる。上記元素をポリイミドフィルムに含有させるさらに他の方法としては、部分的に硬化または部分的に乾燥されたポリアミド酸フィルムまたはポリイミドフィルムを、該元素を含む化合物の溶液に浸漬した後、該フィルムを加熱乾燥し、完全にイミド化する方法である。
【0029】
これらの方法の特徴はポリイミドフィルム表面に存在するチタン元素の原子数濃度がフィルム内部における原子数濃度よりも大きくなる事である。この方法によってチタン元素添加によるポリイミドフィルムの脆弱化を防止する事が出来る。表面とフィルム内部のチタン元素濃度の差は2倍以上、より好ましくは5倍以上、最も好ましくは10倍以上異なる事が好ましい。これらの濃度差は浸漬時間の選択で制御する事ができる。
【0030】
以下にさらに詳しくチタン元素の添加法について述べる。最初にチタン元素をポリアミド酸溶液に混合した後、ポリアミド酸をポリイミドに転化する方法について説明する。上記の手法で得られたポリアミド酸溶液は、通常ポリアミド酸固形分として15〜25wt%の濃度で得られる。この範囲の濃度である場合に適当な分子量と溶液粘度を得る。即ち、ポリアミド酸の平均分子量は10,000〜1,000,000であることが望ましい。平均分子量が10,000未満ではできあがったフィルムが脆くなり、一方、1,000,000以上を越えるとポリアミド酸ワニスの粘性が高くなりすぎるため、取扱いが困難となる。また、溶液の粘度は1,000〜10,000ポイズ、好ましくは2,000〜5,000ポイズが溶液の取り扱い性などの点から好ましい。ポリアミド酸溶液に、チタン化合物を混合する場合の形状は、液状、コロイド状、スラリー状、あるいは固形状のものが可能であり、適当な溶媒に希釈した溶液で混合することは作業性、混合の均一性等の観点から好ましい。
【0031】
具体的に、例えばケミカルキュア法について説明する。上記得られたチタン元素を含有するポリアミド酸組成物に化学的転化剤と触媒を混合した後、キャスティング面にフィルム状にキャスティングする。次に、例えば100℃程度で緩やかに加熱し、化学的転化剤と触媒を活性化させて、キャストフィルムをポリアミド酸−ポリイミドゲルフィルム(以下ゲルフィルムという)に転移させる。続いて、得られたゲルフィルムを加熱し、水分や残留する溶媒及び化学的転化剤を除去するとともに、ポリアミド酸をポリイミドに変換する。この加熱によるフィルムの収縮を回避するため、例えば、連続製造法においては、テンター工程においてゲルフィルムをテンダークリップまたピンを用いてフィルムの両端を保持することが好ましい。また、フィルムを乾燥かつイミド化するためには、常法に従い、段階的、連続的に加熱し、最終的に短時間の高温加熱を用いるのが好ましい。具体的には、最終的に500〜600℃の温度で15〜400秒加熱するのが好ましい。この温度より高いまたは時間が長いと、フィルムの熱劣化が起こる。逆にこの温度より低いまたは時間が短いと所定の効果が発現しない。
【0032】
次に、上記元素を、部分的に硬化、または部分的に乾燥されたポリアミド酸フィルムまたはポリイミドフィルムに上記元素を含む化合物の溶液を塗布または浸漬した後、加熱乾燥し、ポリイミドフィルムを得る方法について説明する。部分的に硬化または部分的に乾燥されたポリアミド酸フィルムまたはポリイミドフィルム(以下ゲルフィルムという)は公知の方法で製造することができる。即ち、ポリアミド酸をガラス板などの支持体上に流延または塗布し、熱的にイミド化することによって、または化学的転化剤及び触媒をポリアミド酸溶液中に混合し、引き続いてこのポリアミド酸溶液を支持体上にフィルム状にキャストし、100℃程度の温度で加熱して化学的転化剤及び触媒を活性化することによって、自己支持性を有する程度に硬化しイミド化したゲルフィルムを製造することができる。
【0033】
ゲルフィルムは、ポリアミド酸からポリイミドへの硬化の中間段階にあり、自己支持性を有し、式1
(A−B)×100/B     ・・・・・・・・式1
(但し:式1中Aはゲルフィルムの重量、Bはゲルフィルムを450℃で20分間加熱した後の重量である)
から算出される揮発分含量は5〜500%の範囲、好ましくは5〜100%、より好ましくは5〜50%の範囲にある。この範囲のフィルムを用いることが好適であり、この範囲を外れると所定の効果が発現しにくい。
赤外線吸光分析法を用いて、式2
(C/D)×100/(E/F)  ・・・・・・・・・式2
(但し:式2中Cはゲルフィルムの1370cm−1の吸収ピーク高さ、Dはゲルフィルムの1500cm−1の吸収ピーク高さ、Eはポリイミドフィルムの1370cm−1の吸収ピーク高さ、Fはポリイミドフィルムの1500cm−1の吸収ピーク高さを表す)
から算出されるイミド化率は50%以上の範囲、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、最も好ましくは90%以上の範囲にある。この範囲のフィルムを用いることが好適であり、外れると所定の効果が発現しにくい。
【0034】
本発明において、ゲルフィルムに塗布又は浸漬する該元素を含む化合物の溶液に使用される溶剤は、該化合物を溶解するものであればよく、水、トルエン、テトラヒドロフラン、2−プロパノール、1−ブタノール、酢酸エチル、N,N−ジメチルフォルムアミド、アセチルアセトンなどが使用可能である。これらの溶剤を2種類以上混合して使用しても良い。本発明において、N,N−ジメチルフォルムアミド、1−ブタノール、および水が特に好ましく用いられ得る。
【0035】
X線光電子分光法で測定したポリイミドフィルム表面のチタンの原子数濃度は好ましくは、0.01%〜1%である。ポリイミドフィルム表面におけるチタン元素の原子数濃度が0.01%以下である場合には接着力向上の効果が徐々に低下する傾向にある。チタン元素の原子濃度の下限は分析機器の感度限界の関係で規定するのが困難であるが、0.001%以下では接着力向上の効果はほとんど無くなるものと考えられる。一方、チタン元素の原子濃度が1%以上であると回路形成をした場合にその絶縁性が低下する傾向があり好ましくない。これは残留チタン元素の影響であろうと考えられる。そのようなフィルムを得るためには、溶液中のチタン化合物の濃度と分子中のチタン元素の積で算出される溶液のチタン元素濃度は、1ppm〜5,000ppm、好ましくは10ppm〜2000ppm、より好ましくは30ppm〜1000ppmが好適である。これらの溶液のチタン元素濃度と浸漬時間の組合せによりポリイミドフルム表面、および内部のチタン元素濃度を制御できる。
【0036】
上記の、部分的に硬化または部分的に乾燥されたポリアミド酸フィルムまたはポリイミドフィルムに、上記元素を含む溶液を塗布する方法は、当業者が用い得る公知の方法を用い得るが、例えば、グラビアコート、スプレーコート、ナイフコーター等を用いた塗布方法が利用可能であり、塗布量の制御や均一性の観点より、グラビアコーターが特に好ましく用い得る。塗布量としては0.1g/m2〜100g/m2好ましくは1g/m2〜10g/m2が好適であり、この範囲を外れると、効果と、フィルムの外観のバランスを両立しにくい。
【0037】
また、上記元素を含む溶液を浸漬する場合は、特に制限はなく、一般的なディプコート法が利用し得る。具体的には、上記溶液を入れた槽に上記部分的に硬化または部分的に乾燥されたポリアミド酸フィルムまたはポリイミドフィルムを連続的に、またはバッチで浸すことにより行われる。浸漬時間は1〜100秒、好ましくは1〜20秒が好適である。部分的に硬化または部分的に乾燥されたポリアミド酸フィルムまたはポリイミドフィルムは、上記元素を含む化合物の溶液を塗布、又は浸漬した後フィルム表面の余分な液滴を除去する工程を加えることが、フィルム表面にムラのない外観の優れたポリイミドフィルムを得ることが出来るので好ましい。液滴の除去は、ニップロールによる液絞り、エアナイフ、ドクターブレード、拭き取り、吸い取りなどの公知の方法が利用可能であり、フィルムの外観、液切り性、作業性等の観点より、ニップロールが好ましく用いられ得る。
【0038】
この上記元素を含む溶液を塗布または浸漬したゲルフィルムを加熱し、ポリイミドに転化する。ゲルフィルムをポリイミドに転化しするためには、常法に従い、段階的、連続的に加熱し、最終的に短時間の高温を用いるのが好ましい。具体的には、最終的に500〜600℃の温度で15〜400秒加熱するのが好ましい。この温度より高いまたは時間が長いとフィルムの熱劣化が起る。逆にこれより温度が低いか、または処理時間が短いと所定の効果が発現しない。
【0039】
これらのチタン元素を含有したポリイミドフィルムの表面をエックス線光電子分光法で分析すると、フィルム表面から原子数濃度で0.01〜1%チタン元素が検出される。また、既述の如く、ゲルフィルムにチタン化合物溶液を塗布、または浸漬して製造したポリイミドフィルムを、飛行時間型二次イオン質量分析装置を用いてフィルムの厚み方向でのチタンの濃度分布を分析すると、チタンはフィルム表層部に高濃度で存在し、厚み方向の中央部ではチタンの濃度は表層部の1/2以下であり、浸漬時間を上記の範囲とすると厚み方向の中央部でのチタンの濃度は表層部の濃度の1/10以下とする事ができた。
【0040】
上記種々の方法で得られるポリイミドフィルムは、公知の方法で無機あるいは有機物のフィラー、有機リン化合物等の可塑剤や酸化防止剤を添加してもよく、またコロナ放電処理やプラズマ放電処理等の公知の物理的表面処理や、プライマー処理等の化学的表面処理を施し、さらに良好な特性を付与し得る。
【0041】
ポリイミドフィルムの厚みは、2μm以上、125μm以下であることが好ましく、5μm以上、50μm以下であることがより好ましい。この範囲より厚みが薄いと積層体の剛性が不足し取り扱い性が悪くなり、また層間の電気絶縁性が悪くなる等の問題が生じる。一方、フィルムが厚すぎるとプリント配線板の薄型化の傾向に逆行する事になる。また、インピーダンス制御の点から絶縁層厚みが厚くなると回路幅を広くする必要があり、このことはプリント配線板の小型化、高密度化の要請に逆行するものである。
【0042】
ポリイミド表面の10点平均粗さ(Rzと言う)で2μm以下好ましくは1μm以下であることが好ましい。表面が平滑であることはライン/スペース25/25μm以下の高密度回路を形成するのに好適であり、エッチング工程において樹脂表面の凹凸にエッチング残りが生じない点からも好適である。RzはJISB0601等の表面形状に関する規格に規定されており、その測定には、JIS B0651の触針式表面粗さ計やB0652の光波干渉式表面粗さ計を用いることができる。本発明では、光波干渉式表面粗さ計ZYGO社製NewView5030システムを用いて高分子フィルムの10点平均粗さを測定した。
このポリイミドフィルムの内部には、導体回路や、スルーホール等を有していても良い。また、第一金属被膜との引き剥がし強さを向上するためにポリイミドフィルムの表面に粗化処理や、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理、加熱処理、プライマー処理、等の公知の表面処理を施しても良い。
【0043】
次に本発明にかかる金属層について説明する。
まず、金属層の形成方法としては真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等の物理的手法が適用し得る。本発明において金属層の厚みは20nm以上500nm以下である。特に、設備の簡便さ、生産性、得られる導体層と高分子フィルムの接着性などを総合的に判断するとスパッタリングが好ましい。
【0044】
スパッタリングを用いる場合は公知の方法を適用できる。すなわちDCマグネトロンスパッタやRFスパッタあるいはそれらの方法に種々改善を加えたものがそれぞれの要求に応じて適宜適用し得る。たとえばニッケルや銅などの導体を効率よくスパッタするためにはDCマグネトロンスパッタが好ましい。一方、薄膜中のスパッタガスの混入を防ぐなどの目的で高真空中でスパッタする場合にはRFスパッタが適している。 DCマグネトロンスパッタについて詳しく説明すると、まず、高分子フィルムを基板として真空チャンバー内にセットし、真空引きをする。通常回転ポンプによる粗引きと拡散ポンプまたはクライオポンプを組み合わせて通常6×10−4Pa以下まで真空引きする。次いでスパッタガスを導入しチャンバー内を0.1Pa〜10Pa好ましくは0.1Pa〜1Paの圧力とし、金属ターゲットにDC電圧を印可してプラズマ放電を起こさせる。この際、ターゲット上に磁場を形成し、生成したプラズマを磁場内に閉じこめることでプラズマ粒子のターゲットへのスパッタ効率を高める。高分子フィルムにプラズマやスパッタの影響が無いようにしながら、プラズマが生成した状態で数分間から数時間保持して金属ターゲットの表面酸化層を除去する(プレスパッタという)。プレスパッタの終了後、シャッターを開けるなどして高分子フィルムにスパッタを行う。スパッタ時の放電パワーは好ましくは100W〜1000Wの範囲である。また、スパッタするサンプルの形状に従ってバッチ方式のスパッタやロールスパッタが適用される。導入スパッタガスは通常アルゴンなどの不活性ガスを用いるが、少量の酸素を含んだ混合ガスやその他のガスを用いることもできる。
【0045】
また、高分子フィルムとスパッタ膜との密着性を向上するために前処理としてプラズマ放電処理、コロナ放電処理、加熱処理、イオンボンバード処理、等を適用することができる。通常、これらの処理の後高分子フィルムを大気などに触れさせると改質した表面が失活して処理効果が大幅に減少することがあるため、これらの処理を真空中で行い、そのまま真空中で連続してスパッタすることが好ましい。
【0046】
以上述べた、スパッタリング法では精度良く均一な薄膜が製造できるが、一般的にスパッタリング法によって形成された銅あるいは銅合金の薄膜は、表面平面性にすぐれた高分子フィルム上では強固な接着を実現する事はできない。我々の検討でも、Rz値が3μm以下の表面性のポリイミドフィルム上では3N/cm以上の強度の接着性は実現できなかった。この事は本発明の方法であるチタン元素を含むポリイミドフィルムにおいても同様で、その様なポリイミドフィルムを用いても4N/cm以上の強度の接着性は実現できなかった。
【0047】
その様な状況に鑑み、本発明にかかる金属層の第一の生成法は下地金属層を設け、該金属層を2層構造とする方法である。上記の様な接着性を改善する目的で、樹脂基板とスパッタリング金属膜との間に下地金属を形成する。下地金属としてはニッケル、クロム、チタン、モリブデン、タングステン、亜鉛、スズ、インジウム、あるいはこれらの合金が用いられ、特にニッケル、クロム、チタンを用いる事は有効であり、ニッケルあるいはニッケルとクロムの合金を用いる事は特に好ましい。クロムとニッケルの合金を用いる主な目的はスパッタリング速度を上げることにある。磁性体である純ニッケル金属ではスパッタリング速度をあげる事が難しい。しかし、ニッケルとクロムの合金とする事によりスパッタリング速度を上げる事が出来る。この目的達成のためにクロムとニッケルの比率は特に限定されないが、一般的には2%以上である事が望ましい。
【0048】
この様な金属下地層を用いる事により5N/cm以上の優れた接着性を実現できた、さらにこの様な金属下地層とチタン元素ポリイミドフィルムを用いる事を併用して、7N/cm以上の強固な接着性を実現できる事が分かった。特に後者の方法での接着では、プレッシャークッカーテスト(PCTテスト)後にも6N/cmの優れた接着強度を有している事が分かった。また、これらの下地金属上にスパッタリング法で形成された銅および銅合金からなる金属層は、化学処理プロセスにつよく、その表面に容易に無電解メッキプロセスを用いて銅メッキの膜を形成してもその接着力が低下する事はなかった。
【0049】
この場合、ニッケルあるいはニッケルとクロムの合金による下地層の厚みは2nm以上、100nm以下が好ましく、3nm以上20nm以下である事がより好ましい。これよりも薄いと接着性を向上する効果が不十分である。一方、銅層の厚みは10nm以上、500nm以下である事が望ましく、20nm以上、300nm以下である事がより好ましく、30nm以上、200nm以下である事が最も好ましい。これらの金属厚みの合計は経済性とエッチング性の観点から500nmよりも薄い事が好ましく、300nm以下である事はより好ましく、200nm以下である事が最も好ましい。500nm以上厚いとエッチング性が悪くなり、高密度回路パターンを形成するのに不適当である。2種類以上の金属層を積層、形成する場合はそれぞれのスパッタ膜表面に酸化層ができるとそれぞれの金属間の密着性が低下するため、スパッタリングは真空中で連続して行うことが好ましい。
【0050】
本発明にかかる金属層の第二の生成法は、二種類の異なった物理的手法で形成された銅あるいは銅の合金層よりなる2層構造とする方法である。ここで言う銅合金とは銅を主成分とした合金を言い、添加される金属としてはニッケル、クロム、チタンなどが挙げられる。前記の異種金属下地層を設ける第一の方法では、作成された金属膜では本質的に2種類以上の金属が用いられるために、セミアディティブ法でのエッチングプロセス(すなわち電解メッキ後の給電層の剥離プロセス)で、銅以外の金属のエッチング工程が余分に必要となると言う問題があった。
【0051】
そこで我々は銅あるいは銅合金のみからなる金属層の形成法の検討をおこなった。その結果、イオンプレーティング法とスパッタ法の組み合わせで銅あるいは銅合金からなる層を形成する事でこの問題を解決できる事を発見し、金属層の第二の形成法の発明に至った。すなわち、種々検討の結果、イオンプレーティング法で作成された銅薄膜は基板との接着性にすぐれ、表面平滑性に優れた高分子フィルムに対しても強固な接着性を実現できる事が分った。特に、従来のスパッタリング法では困難であったポリイミドに対しても5N/cm以上の強固な銅薄膜を形成できる事が分った。
【0052】
しかしながらさらに検討の結果、イオンプレーティング法で作成された銅および銅合金の薄膜層のみでは化学的な処理プロセスに弱く、イオンプレーティング膜の上に無電解メッキのプロセスを用いて銅薄膜を形成しようとすると、高分子基板から剥離してしまう事が分った。そこで我々はイオンプレーティング法で形成した銅薄膜の上にさらにスパッタ法で銅薄膜を形成する事を試みた。スパッタリング法は特に限定されず、DCマグネトロンスパッタリング、高周波マグネトロンスパッタリング、イオンビームスパッタリング等の方法が有効に利用できる。
イオンプレーティング法で形成した銅薄膜はポリイミド膜との間に強固な接着を実現するが、この接着性はスパッタ法でその上に銅膜の形成を形成しても変わる事はなかった。さらにスパッタ膜は化学的なプロセスに強いため、容易にその上に無電解メッキ法でメッキ膜を形成する事が出来た。すなわちスパッタ膜は無電解メッキプロセスでイオンプレーティング膜を保護する役割と無電解メッキ層との接合の役割を果たすものと考えられる。この様な手法とチタン含有ポリイミドフィルムを併用して用いる事により7N/cm以上の強固な接着が可能となった。また、この接着強度はPCT試験の後にも6N/cm以上の優れた接着特性を有していた。
【0053】
この様なプロセスを実現するためのイオンプレーティング銅層の最適厚さは、2nm以上、100nm以下であった。2nm以下では基板となる高分子との強固な接着が実現出来なかった。また、100nm以上では高分子基板との接着強度が低下する傾向にあり、さらにセミアディティブ工法でのエッチングプロセスで余分にエッチングを行う必要があり、回路形状が劣化すると言う問題が生じる。また、この様なプロセスを実現するためのスパッタ銅層の最適厚さは、10nm以上、500nm以下であった。10nm以下ではイオンプレーティング層との強固な接着が実現出来ず、また無電解メッキプロセスでの保護膜としての役割も十分でない。また500nm以上ではセミアディティブ工法のエッチングプロセスで余分にエッチングを行う必要があり、回路形状が劣化すると言う問題が生じる。また、同じ理由から、この方法による金属層の厚さの合計は500n以下が好ましく、300nm以下がより好ましく、200nm以下が最も好ましい。
【0054】
次に、本発明に係る金属層/ポリイミド/金属層積層体について説明する。
【0055】
本発明の金属層/ポリイミド/金属層積層体の少なくとも片方の面の金属層は上記のいくつかの物理的方法で作製された金属層であるが、他の面の金属層は同じ手法で形成された金属層でも良く、湿式化学法で形成されたものでも良い。
【0056】
次にこの様な、金属層/ポリイミド/金属層積層体を用いた配線板の製造方法についてのべる。
【0057】
金属層/ポリイミド/金属層積層体の両面が物理的方法で形成された金属層である場合には以下に示す代表的な二つの方法でプリント配線板の製造が可能である。無論、ここに示した方法は代表的な方法であって、本発明の製造方法がこれに限定されるものではない事は言うまでもない。
【0058】
第一のプリント配線板の製造方法はでは、まず積層体を貫通するビアホールを形成する。ビアホールの形成は通常の機械的なドリル法、あるいは、炭酸ガスレーザーやUV−YAGレーザーを用いたレーザーによる穴開け法が可能である。貫通穴を形成後、金属層の表面およびビアホール内部に触媒を塗布する。触媒としてはパラジュウム触媒が用いられる。次に該触媒を用いて両面の金属層表面およびビアホール内部に無電解メッキ銅を施す。次に無電解メッキ銅上にレジスト膜を形成し、露光、エッチングにより回路の形成を予定する部分のレジスト被膜を取り除く。次に無電解メッキ膜が露出する部分を給電電極として使用して電解銅メッキを行い、この電解メッキ法により回路を形成する。ついでレジスト部分を取り除き不要部分の無電解メッキ層、物理的方法で形成された金属層をエッチングにより取り除いて回路を形成する。
【0059】
金属/ポリイミド/金属積層体の両面が物理的方法で形成された金属層である場合、第二のプリント配線板の方法は以下のように行われる。すなわち、まず、金属層/ポリイミド/金属層積層体を貫通するビアホールを形成する。次に上記と同様に金属層の表面に触媒を塗布し、該触媒を用いて金属層表面およびビアホール内部に無電解メッキ銅層を形成する。次に無電解メッキ銅上に電解メッキ銅を施して、二つの金属層がビアホールによって接続された金属層/ポリイミド層/金属層からなる積層体を作製する。次に電解銅メッキ層表面にレジスト膜を形成し、露光、エッチングにより回路の形成しない部分のレジスト被膜を取り除き、次にエッチングにより不要な金属層を取り除き回路を形成する。
【0060】
本発明で得られたポリイミド/金属積層体はフレキシブルプリント配線板、フレキシブルプリント配線板を積層した多層プリント配線板、フレキシブルプリント配線板と硬質プリント配線板を積層したリジッド・フレックス配線板、ポリイミド/金属積層体をTAB(Tape  Automated  Bonding)に適用したTAB用テープ、プリント配線板上に直接半導体素子を実装したCOF(Chip  On  Film)、MCM(Multi  Chip  Module)等の半導体パッケージなどに応用可能であり、これらの用途について公知の方法で加工することができる。
【0061】
以上述べた様に、本発明に係る金属/ポリイミド/金属積層体を用いることにより、ライン/スペース(L/S)が20μm以下であるような高密度回路形成が可能で、優れた接着性と高温・高湿、等の厳しい環境における高い接着信頼性を持つフレキシブルプリント配線板、フレキシブルプリント配線板を積層した多層プリント配線板、フレキシブルプリント配線板と硬質プリント配線板を積層したリジッド・フレックス配線板、TAB(Tape  Automated  Bonding)に適用したTAB用テープ、プリント配線板上に直接半導体素子を実装したCOF(Chip  On  Film)、MCM(Multi ChipModule)、等の半導体パッケージを得ることができる。
【0062】
【実施例】
以下に実施例を挙げて、本発明の効果を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、及び改変を行い得る。なお、実施例中の種々の分析、測定、評価、ポリイミドフィルムの作製、金属層の形成法、は以下の方法で行った。
(ポリイミドフィルム表面のチタン原子数濃度)
エックス線光電子分光分析装置(アルバックファイ社製、Model−5400)を用い、エックス線源:MgのKα線、エネルギー71.55電子ボルトの条件で分析した。
(接着強度)
IPC―TM−650−method.2.4.9に従い、パターン幅3mm、剥離角度
90度、剥離速度50mm/minで測定した。
(プレッシャークッカー試験)
121℃、100%RH、96時間、の条件下で試験を行った。
(ポリイミドフィルムの作製法−A)
ピロメリット酸二無水物/4,4’−ジアミノジフェニルエーテル/p−フェニレンジアミンをモル比で4/3/1の割合で合成したポリアミド酸の17wt%のDMF溶液90gに無水酢酸17gとイソキノリン2gからなる転化剤を混合、攪拌し、遠心分離による脱泡の後、アルミ箔上に厚さ700μmで流延塗布した。攪拌から脱泡までは0℃に冷却しながら行った。このアルミ箔とポリアミド酸溶液の積層体を110℃、4分間加熱し、自己支持性を有するゲルフィルムを得た。このゲルフィルムの残揮発分含量は30wt%であり、イミド化率は90%であった。このゲルフィルムをアルミ箔から剥がし、フレームに固定した。このゲルフィルムを300℃、400℃、500℃で各1分間加熱して厚さ25μmのポリイミドフィルムを製造した。
(ポリイミドフィルムの作製法−B)
ピロメリット酸二無水物/4,4’−ジアミノジフェニルエーテルモル比で1/1の割合で合成する以外は作製法−Aと同様の方法でポリイミドフィルムを作製した。
(ポリイミドフィルムの作製法−C)
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物/p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)/p−フェニレンジアミン/4,4’−ジアミノジフェニルエーテルをモル比で4/5/7/2の割合で合成したポリアミド酸の17wt%のDMAc溶液を用い、これに転化剤を混合しないでアルミ箔上に厚さ700μmで流延塗布した。このアルミ箔とポリアミド酸溶液の積層体を110℃10分間加熱し、自己支持性を有するゲルフィルムを得た。このゲルフィルムの残揮発分含量は30wt%であり、イミド化率は50%であった。このゲルフィルムを用い作成法−Cと同様の方法でポリイミドフィルムを作製した。
(ポリイミドフィルムの作製法−D)
ピロメリット酸二無水物/p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)/p−フェニレンジアミン/4,4’−ジアミノジフェニルエーテルをモル比で5/5/4/6の割合で合成する以外は作製例−A同様の方法でポリイミドフィルムを作製した。
(ポリイミドフィルム(チタンを含む)の作成法−E)
ポリイミドフィルム作製法−A、B、C、Dと同様の方法で得たゲルフィルムを、チタン元素濃度100ppmのジヒドロキシチタンビスラクテート/イソプロピルアルコール溶液に10秒間浸漬し、圧縮空気を吹き付けて余分な液滴を除去した後、作製法−Aと同じ条件で加熱し、表面にチタン原子が存在するポリイミドフィルムを製造した。
(ポリイミドフィルム(チタンを含む)の作成法−F)
ポリイミドフィルムの作成法−A、B、C、Dと同様の方法で得たゲルフィルムに、チタン元素濃度1000ppmのジヒドロキシチタンビスラクテート/イソプロピルアルコール溶液をスプレーコート方式で余分な液がフィルムに付着しないように塗布した後、作製法−Aと同じ条件で加熱し、表面にチタン原子が存在するポリイミドフィルムを製造した。
(ポリイミドフィルム(チタンを含む)の作成法−G)
ポリイミドフィルムの作成法−A、B、C、Dと同様の方法で得たゲルフィルムを、チタン元素濃度100ppmのトリ−N−ブトキシチタンモノステアレート/トルエン溶液に10秒間浸漬し、ニップロールで余分な液滴を除去した後、作成法−Aと同じ条件で加熱し、表面にチタン原子が存在するポリイミドフィルムを製造した。
(スパッタリング法による金属層の形成)
ポリイミドフィルムへの金属層の形成は、昭和真空社製スパッタリング装置NSP−6を用い、下記の方法で行った。高分子フィルムを冶具にセットして真空チャンバーを閉じる。基板(高分子フィルム)を自公転させながらランプヒーターで加熱しながら6×10Pa以下まで真空引きする。その後、アルゴンガスを導入し0.35PaにしてDCスパッタリングによりニッケル、次いで銅をスパッタリングする。DCパワーはどちらも200Wでスパッタリングした。製膜速度は、ニッケルが7nm/min、銅が11nm/minであり、成膜時間を調整して成膜厚みを制御した。
(イオンプレーティング法とスパッタリング法の組合せによる金属層の形成)ポリイミドフィルムへのイオンプレーティング法による金属層の形成は、神港精機(株)製AIF型イオンプレーティング装置を用い、以下の方法を用いて行った。代表的なイオン化の条件は40V、ボンバード条件はアルゴンガス圧26Pa、基板加熱温度150℃である。5〜1000nmの範囲で種々の厚さの膜を作成した。
【0063】
次いで、その様にして形成した銅薄膜上にDCスパッタリング法で銅薄膜の形成を行なった。代表的なスパッタの条件は、DCパワー:200W,アルゴンガス圧:0.35Paである。5〜1000nmの範囲で種々の厚さの膜を作成した。
【0064】
【実施例】
(実施例1)
ポリイミド作製法A,B,C,Dで作製したポリイミドフィルム、および作製法Aで作製したフィルムを基に、E,F,Gの方法で作製したチタン含有ポリイミドフィルムを用い、各ポリイミドフィルムの両面に3分間ニッケルをスパッタし厚み6nmのニッケル膜を形成し、連続して0.9分間銅をスパッタして厚み100nmの銅膜を形成し、金属/ポリイミド積層体を得た。また、E、F、Gの方法ではチタン元素濃度、ディップ時間を変えてチタン元素濃度を変えた試料を2つ作製した。(これを例えばE−1、E−2と記している。)得られたスパッタ膜を給電層として用いて電解メッキ法により厚さ5μmの銅層を形成し、上記、手法でその常温での接着強度および、PTC試験後の接着強度を測定した。その結果を表1にしめす。
【0065】
【表1】



この結果から、ニッケル下地層を設ける事によりいずれのポリイミドでも5N/cm以上のすぐれた初期接着強度が実現できた。さらに、PCT後の接着強度も4N/cm以上を確保できた。さらに、チタン含有ポリイミドとニッケル下地層の形成によりすぐれたPCT後の接着性が実現できる事がわかった。
(比較例1)
実施例1と同様の方法で、ニッケル下地層のない積層体を作製し、同様の方法で接着性を測定した。その結果を表2にしめす。
【0066】
【表2】



この結果から、表1との比較を行う事によりニッケル下地層が無い場合には所定の効果が出ず、チタン含有ポリイミドを用いてもPCT後の接着強度は2N/cmまで低下した。この事からニッケル下地層の効果が確認できた。
(実施例2)
実施例例1と同じ方法で種々の厚さのニッケル下地層、銅層よりなる金属層を形成しその接着強度を測定した。その結果を表3に示す。
【0067】
【表3】



この結果から、下地層(第1金属層)の厚さが2nm以上、100nm以下であり、その表面の形成された第2金属の厚層さが10nm以上、500nm以下であれば特に優れた接着性を有する積層体が得られる事が分った。
(実施例3)
下地層(第1金属層)としてイオンプレーティング法により銅金属層を設けた以外は実施例1と同様の方式で、種々の積層体を作製し、その接着性を測定した。その結果を表4にしめす。この結果から、下地層(第1金属層)の厚さが2nm以上、100nm以下であり、その表面の形成された第2金属の厚層さが10nm以上、500nm以下であれば優れた接着性を有する積層体が得られる事が分った。
【0068】
【表4】



(実施例4)
ポリイミドフィルムの製造法A、B、C、Dをもちいて作製したポリイミドフィルムを用い、作成法Fを用いてチタン含有ポリイミドフィルムを作製した。次に実施例1と同じ方法で各ポリイミドフィルムの両面に3分間ニッケルをスパッタし厚み6nmのニッケル膜を形成し、連続して0.9分間銅をスパッタして厚み100nmの銅膜を形成し、金属/ポリイミド積層体を得た。フィルム表面のチタン濃度は0.06%、フィルム内部のチタン濃度は0.002%以下であった。これらの試料では初期接着強度はいずれも7N/cmであり、PCT後の接着強度も6N/cm以上であり、ポリイミドの種類によらずすぐれた接着強度を示す事が分った。
(実施例5)
ポリイミドフィルムの製造法−Eをもちいて作製したフィルムの両面に、スパッタリング法で5nmの厚さのニッケル下地層(第1金属層)、および100nmの厚さの銅金属層(第2金属層)を形成した積層体を作製した。この積層体を用いて以下の方法で回路を形成した。
まず、UV−YAGレーザーを用いて内径30μmの積層体を貫通するビアホールを形成した。次に、無電解メッキ法で金属層表面、およびビアホール内部に銅メッキ層を形成した。無電解メッキ層の形成方法は次の通りである。まずアルカリクリーナー液で積層体を洗浄し、次に酸での短時間プレディップを行った。さらに、アルカリ溶液中で白金付加とアルカリによる還元を行なった。次にアルカリ中での無電解銅メッキを行なった。メッキ温度は室温、メッキ時間は10分間であり、この方法で300nmの厚さの無電解銅メッキ層を形成した。    次に、液状感光性めっきレジスト(日本合成ゴム(株)社製、THB320P)をコーティングし、次いで高圧水銀灯を用いてマスク露光を行い、ライン/スペースが10/10のレジストパターンを形成した。続いて、電解銅めっきを行って、無電解銅メッキ皮膜が露出する部分の表面に、銅回路を形成した。電解銅めっきは10%硫酸中で30秒間予備洗浄し、次に室温中で40分間メッキを行なった。電流密度は2A/dmである。電解銅膜の厚さは10μmとした。次にアルカリ型の剥離液を用いてめっきレジストを剥離し、スパッタニッケル層をニッケルの選択的エッチング液(メック株式会社製エッチング液、NH−1862)で除去してプリント配線板を得た。
【0069】
得られたプリント配線板は設計値通りのライン/スペースを有しており、また、サイドエッチは無かった。また、給電層剥離部分のオージェ分析、EPMAによる残留金属の有無の測定を行なったが残存金属の存在は認められ無かった。また、回路パターンは6N/cmの強さで強固に接着していた。
(実施例6)
ポリイミドフィルムの製造法−Eをもちいて作製したフィルムの両面に、下地層(第1金属層)としてイオンプレーティング法により厚さ10nmの銅金属層を設け、次に第2金属層として100nmの厚さの銅金属層(第2金属層)を形成した積層体を作製した。この積層体を用いて実施例4と同じ方法でライン/スペースが10/10μmの回路を形成した。ただし、回路形成最終段階における、レジスト剥離後の給電層の除去には銅のエッチング液(メック株式会社製、エッチボンドCZ−8500)を用いて行った。
得られたプリント配線板は設計値通りのライン/スペースを有しており、また、サイドエッチは無かった。また、給電層剥離部分のオージェ分析、EPMAによる残留金属の有無の測定を行なったが残存金属の存在は認められ無かった。また、回路パターンは6N/cmの強さで強固に接着していた。
(実施例7)
ポリイミドフィルムの製造法−Eをもちいて作製したフィルムの両面に、スパッタリング法で5nmの厚さのニッケル下地層(第1金属層)、および100nmの厚さの銅金属層(第2金属層)を形成した積層体を作製した。この積層体を用いて以下の方法で回路を形成した。
まず、UV−YAGレーザーを用いて内径30μmの積層体を貫通するビアホールを形成した。次に、無電解メッキ法で金属層表面、およびビアホール内部に銅メッキ層を形成した。無電解メッキ層の形成方法は次の通りである。まずアルカリクリーナー液で積層体を洗浄し、次に酸での短時間プレディップを行った。さらに、アルカリ溶液中で白金付加とアルカリによる還元を行なった。次にアルカリ中での化学銅メッキを行った。メッキ温度は室温、メッキ時間は10分間であり、この方法で300nmの厚さの無電解銅メッキ層を形成した。続いて、電解銅めっきを行って10μmの厚さの銅メッキ層を形成した。電解銅めっきは10%硫酸中で30秒間予備洗浄し、次に室温中で40分間メッキを行った。電流密度は2A/dmである。電解銅膜の厚さは10μmとした。
次に、液状感光性めっきレジスト(日本合成ゴム(株)社製、THB320P)をコーティングし、次いで高圧水銀灯を用いてマスク露光を行い、ライン/スペースが10/10のレジストパターンを形成した。こうして作製したパターンをもちいて通常のサブトラクティブ法(薬品名:塩化第二鉄)により回路を形成した。次にスパッタニッケル層をニッケルの選択的エッチング液(メック株式会社製エッチング液、NH−1862)で除去し、さらにアルカリ型の剥離液を用いてめっきレジストを剥離してプリント配線板を作製した。
【0070】
得られたプリント配線板は設計値通りのライン/スペースを有しており、また、サイドエッチは無かった。また、給電層剥離部分のオージェ分析、EPMAによる残留金属の有無の測定を行なったが、残存金属の存在は認められ無かった。また、回路パターンは7N/cmの強度で強固に接着していた。
(実施例8)
ポリイミドフィルムの製造法−Eをもちいて作製したフィルムの両面に、イオンプレーティング法で10nmの厚さの銅下地層(第1金属層)を作製し、次にスパッタリング法により100nmの厚さの銅金属層(第2金属層)を形成した積層体を作製した。この積層体を用いて実施例8と同じ方法で回路を形成した。ただし、実施例7におけるニッケルの選択的エッチング液(メック株式会社製エッチング液、NH−1862)によるエッチングは実施していない。
得られたプリント配線板は設計値通りのライン/スペースを有しており、また、サイドエッチは無かった。また、給電層剥離部分のオージェ分析、EPMAによる残留金属の有無の測定を行ったが残存金属の存在は認められ無かった。また、回路パターンは7N/cmの強度で強固に接着していた。
【0071】
【発明の効果】
本発明の金属/ポリイミド/金属積層体を用いて作製したフレキシブルプリント配線板、フレキシブルプリント配線板を積層した多層プリント配線板、フレキシブルプリント配線板と硬質プリント配線板を積層したリジッド・フレックス配線板、該金属/ポリイミド/金属積層体をTAB(Tape AutomatedBonding)に適用したTAB用テープ、プリント配線板上に直接半導体素子を実装したCOF(Chip On Film)、MCM(Multi Chip Module)等は、高密度配線が可能で、接着安定性にすぐれ、さらに高温高湿環境下での高い接着信頼性を持つので広く電子機器のプリント配線板として使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミドフィルムとその両面に金属層の設けられた積層体であって、少なくとも一方の金属層が、前記ポリイミドフィルムに接触するニッケルまたはその合金からなる第1金属層と、該第1金属層上に形成された銅またはその合金からなる第2金属層、からなる積層体を用いてなるプリント配線板の製造方法。
【請求項2】
ポリイミドフィルムとその両面に金属層の設けられた積層体であって、少なくとも一方の金属層が、前記ポリイミドフィルムに接触するイオンプレーティング法で形成された銅または銅合金よりなる第1金属層と、該第1金属層上に形成された銅または銅合金よりなる第2金属層、からなる積層体を用いてなるプリント配線板の製造方法。
【請求項3】
前記第1金属層の厚さが2nm以上、100nm以下であり、前記第2金属層の厚さが10nm以上、500nm以下である積層体を用いてなる請求項1または2記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項4】
前記ポリイミドフィルムが、チタン元素を含有するフィルムである請求項1〜3のいずれか一項に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項5】
前記ポリイミドフィルムが、エックス線光電子分光法で測定したときの、ポリイミドフィルム表面のチタンの原子数濃度が0.01%以上、1%以下であるフィルムである請求項1〜4のいずれか一項に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項6】
前記ポリイミドフィルムが、フィルム厚み方向中央部のチタン元素の濃度がフィルム表面のチタン元素濃度よりも小さいフィルムである請求項5記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項7】
前記ポリイミドフィルムが、ポリアミド酸を支持体上に流延または塗布して乾燥し、部分的に硬化または部分的に乾燥された、自己支持性を有するフィルムを得、該フィルムに有機チタン化合物の有機溶媒溶液を塗布および/または浸漬し、その後ポリアミド酸をポリイミドに転化して得られるポリイミドフィルムである請求項1〜6記載の積層体を用いてなるプリント配線板配線板の製造方法。
【請求項8】
前記有機チタン化合物が、(化1)で示される有機チタン化合物から選択された少なくとも1種類であることを特徴とする請求項1〜7記載のプリント配線板の製造方法。
【化1】



ただし、mは0〜4の整数、Xは(化2)で示される置換基から選ばれた一種類、
【化2】



あるいはC1からC18の炭化水素残基、またはC3からC18のカルボン酸およびそのアンモニュウム残基である。
また(化1)あるいは(化2)中、R1は水素、またはC1からC18の炭化水素残基、R2、R3はC1からC18の炭化水素残基、R4はC1からC18の炭化水素残基、R4はC1からC18の炭化水素残基または一般式(化3)で表される置換基、
【化3】



R5,R6はC1からC18の炭化水素残基、R7はC1からC18の炭化水素残基、R8はC1からC18の炭化水素残基である。
【請求項9】
前記ポリイミドフィルムが、無水ピロメリット酸、4,4´−ジアミノジフェニルエーテルを主成分とするポリアミド酸を脱水閉環して得られるポリイミドを用いたフィルムである請求項1〜8のいずれか一項に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項10】
前記ポリイミドフィルムが無水ピロメリット酸、4,4´−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンの3成分を主成分とするポリアミド酸を脱水閉環して得られるポリイミドを用いたフィルムである請求項1〜8いずれか一項に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項11】
前記ポリイミドフィルムが無水ピロメリット酸、4,4´−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミン、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)の4成分を主成分とするポリアミド酸を脱水閉環して得られるポリイミドを用いたフィルムである請求項1〜8いずれか一項に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のプリント配線板の製造方法において、前記積層体を貫通するビアホールを形成する工程と、第2金属層の表面およびビアホール内部に触媒を塗布する工程と、該触媒を用いて第2金属層表面およびビアホール内部に無電解メッキ銅を施す工程と、無電解メッキ銅上に電解メッキ銅を施す工程、を含むプリント配線板配線板の製造方法。
【請求項13】
さらに、サブトラクティブ法によりエッチングをおこない回路形成を行う工程を含む請求項12に記載のフレキシブルプリント配線板の製造方法
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のプリント配線板の製造方法において、積層体を貫通するビアホールを形成する工程と、第2金属層の表面およびビアホール内部に触媒を塗布する工程と、該触媒を用いて第2金属層表面およびビアホール内部に無電解メッキ銅を施す工程と、無電解メッキ銅上にレジスト膜を形成する工程と、回路の形成を予定する部分のレジスト被膜を取り除く工程と、無電解メッキ膜が露出する部分を給電電極として使用して電解銅メッキを行い回路を形成する工程と、レジスト被膜を除去する工程と、無電解銅メッキ皮膜、および、該第1金属層、第2金属層をエッチング除去する工程とを含むプリント配線板の製造方法。

【公開番号】特開2004−87548(P2004−87548A)
【公開日】平成16年3月18日(2004.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−243030(P2002−243030)
【出願日】平成14年8月23日(2002.8.23)
【出願人】(000000941)鐘淵化学工業株式会社 (3,932)
【Fターム(参考)】