説明

プレート式反応器及び反応生成物の製造方法

【課題】伝熱プレート間の隙間から触媒を容易に取り出すことができるプレート式反応器を提供する。
【解決手段】ケーシング1内に並列する複数の伝熱プレート3と、伝熱プレート3間の隙間の底部に配置されて前記隙間に投入される粒子状の充填物を保持するための穴あき部材4と、穴あき部材4が充填物を保持する方向へ穴あき部材4を前記隙間の底部で着脱自在に支持する支持用部材とを有するプレート式反応器を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプレート式反応器及びそれを用いる反応生成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロパン、プロピレン、又はアクロレインの気相接触酸化反応のような、発熱又は吸熱を伴い、粒状の固体触媒が用いられる気相反応に用いられる反応器としては、例えば、ガス状の原料を反応させるための反応容器と、伝熱管を有し、前記反応容器内に並んで設けられる複数の伝熱プレートと、前記伝熱管に熱媒を供給する装置と、を有し、前記反応容器は、供給されたガスが、隣り合う伝熱プレート間の隙間を通って排出される容器であり、前記伝熱プレートは、断面形状の周縁又は端縁で連結している複数の前記伝熱管を含み、隣り合う伝熱プレート間の隙間に触媒が充填されるプレート式反応器が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなプレート式反応器は、一般に、隣り合う伝熱プレート間の隙間に形成される複数の触媒層を有し、また伝熱プレートと触媒との接触性に優れていることから、前記気相反応による生成物を大量に効率よく製造する観点で優れている。
【0004】
一方で前記気相反応では、気相反応を制御する観点から、触媒の充填状態の均一化が望まれている。プレート式反応器では、隣り合う伝熱プレート間の隙間は一般に扁平で複雑な形状に形成され、この隙間に層状に触媒が充填されることから、前記隙間において触媒の充填状態が不均一になることがある。前記隙間における触媒の充填状態は、隙間全体の触媒を取り出して再度触媒を充填することによって調整することができる。また、プレート式反応器の定期的な点検では、触媒の取り出しや入れ替えが行われることがある。このため、前記隙間から触媒を容易に、また効率よく取り出す技術が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−202430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、伝熱プレート間の隙間から触媒を容易に取り出すことができるプレート式反応器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、プレート式反応器における伝熱プレート間の全隙間の一部又は全部における端部を、原料及び反応生成物等の流体を流通させることができる部材で着脱自在に塞いで前記隙間に触媒を保持することができるプレート式反応器を提供する。
【0008】
すなわち本発明は、流体の原料を反応させるための反応容器と、伝熱管を有し、前記反応容器内に並んで設けられる複数の伝熱プレートと、前記伝熱管に熱媒を供給する熱媒供給装置と、を有し、前記反応容器は、供給された流体が、隣り合う伝熱プレート間の隙間を通って排出される容器であり、前記伝熱プレートは、断面形状の周縁又は端縁で連結している複数の前記伝熱管を含み、隣り合う伝熱プレート間の隙間に粒子状の充填物が充填されるプレート式反応器において、流体を通し前記充填物を通さない構造を有し、前記伝熱管の連結方向における前記隙間の端部を塞ぐように配置され、前記隙間に充填された充填物を前記隙間に保持するための保持用部材と、前記伝熱管の連結方向における前記伝熱
プレートの端部に設けられ、前記保持用部材が前記充填物を保持する方向に前記保持用部材を着脱自在に支持するための支持用部材とをさらに有するプレート式反応器を提供する。
【0009】
また本発明は、前記支持用部材が、棒状、ひも状、又は板状の部材を含み、この部材の端部、周面、又は縁部で前記保持用部材に当接して保持用部材を支持する前記プレート式反応器を提供する。
【0010】
又は本発明は、前記支持用部材が、前記連結方向における前記伝熱プレートの端縁に固定され、前記連結方向に沿って伝熱プレートの端部から突出する固定棒と、前記固定棒に挿通されて前記保持用部材を支持する支持部とを有する前記プレート式反応器を提供する。
【0011】
また本発明は、前記保持用部材が一又は二以上の前記隙間の端部を塞ぐ部材であり、複数の保持用部材を有する前記プレート式反応器を提供する。
【0012】
また本発明は、前記伝熱管の軸方向における伝熱プレートの長さが5m以下である前記プレート式反応器を提供する。
【0013】
また本発明は、複数の伝熱プレートと、伝熱プレート間の隙間に触媒を含む充填物が充填されてなる充填層とを有するプレート式反応器を用いて流体の原料を反応させて反応生成物を製造する方法において、
伝熱プレートを構成する伝熱管に所望の温度の熱媒を供給する工程と、前記充填層に流体の原料を供給して反応生成物を生成する工程と、を含み、
プレート式反応器に、本発明の前記プレート式反応器を用い、
前記反応生成物を生成する工程が、エチレンを酸化して酸化エチレンを生成する工程;炭素数3の炭化水素を酸化して炭素数3の不飽和脂肪族アルデヒド及び炭素数3の不飽和脂肪酸の一方又は両方を生成する工程;炭素数4の炭化水素及びターシャリーブタノールの一方又は両方を酸化して炭素数4の不飽和脂肪族アルデヒド及び炭素数4の不飽和脂肪酸の一方又は両方を生成する工程;炭素数3の不飽和脂肪族アルデヒドを酸化して炭素数3の不飽和脂肪酸を生成する工程;炭素数4の不飽和脂肪族アルデヒドを酸化して炭素数4の不飽和脂肪酸を生成する工程;炭素数4以上の炭化水素を酸化してマレイン酸を生成する工程;キシレン及びナフタレンの一方又は両方を酸化してフタル酸を生成する工程;オレフィンを水素化してパラフィンを生成する工程;カルボニル化合物を水素化してアルコールを生成する工程;クメンハイドロパーオキサイドを酸分解してアセトンとフェノールを生成する工程;ブテンを酸化脱水素してブタジエンを生成する工程;又は、エチルベンゼンを酸化脱水素或いは脱水素してスチレンを生成する工程;である方法を提供する。
【0014】
また本発明は、前記炭素数3の炭化水素がプロピレン又はプロパンであり、前記炭素数4の炭化水素がイソブチレン、ブテン、ブタン、又はその誘導体であり、前記炭素数3の不飽和脂肪族アルデヒドがアクロレインであり、前記炭素数4の不飽和脂肪族アルデヒドがメタクロレインであり、前記炭素数3の不飽和脂肪酸がアクリル酸であり、前記炭素数4の不飽和脂肪酸がメタクリル酸である前記反応生成物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のプレート式反応器では、伝熱プレート間の隙間に投入された充填物を保持する前記保持用部材と、保持用部材を充填物の保持位置に着脱自在に支持する前記支持用部材とを有することから、任意の保持用部材の支持を解除することによってこの保持用部材に保持される充填物毎に充填物を前記隙間から取り出すことができるので、伝熱プレート間の隙間に保持される充填物を前記隙間から容易に取り出すことができる。
【0016】
また本発明では、前記支持用部材が、棒状、ひも状、又は板状の部材を含み、この部材の端部、周面、又は縁部で前記保持用部材に当接して、保持用部材が前記隙間中の前記充填物を保持するように保持用部材を支持することが、高温条件下でのプレート式反応器の使用における保持用部材及び支持用部材における焼き付きを防止する観点からより一層効果的である。
【0017】
又は本発明では、前記支持用部材が、前記伝熱管の連結方向における前記伝熱プレートの端縁に固定され、前記連結方向に沿って伝熱プレートの端部から突出する固定棒と、前記固定棒に挿通されて前記保持用部材を支持する支持部とを有することが、大きな強度で保持用部材を支持する観点からより一層効果的である。
【0018】
また本発明では、前記保持用部材が一又は二以上の前記隙間の端部を塞ぐ部材であり、複数の保持用部材を有することが、充填物の充填作業の作業性と保持用部材の設置の作業性との両方を適切に確保する観点からより一層効果的である。
【0019】
また本発明では、前記伝熱管の軸方向における伝熱プレートの長さが5m以下であることが、保持用部材を十分な強度で設置する観点からより一層効果的である。
【0020】
また本発明では、エチレンを酸化して酸化エチレンを生成する工程;炭素数3の炭化水素を酸化して炭素数3の不飽和脂肪族アルデヒド及び炭素数3の不飽和脂肪酸の一方又は両方を生成する工程;炭素数4の炭化水素及びターシャリーブタノールの一方又は両方を酸化して炭素数4の不飽和脂肪族アルデヒド及び炭素数4の不飽和脂肪酸の一方又は両方を生成する工程;炭素数3の不飽和脂肪族アルデヒドを酸化して炭素数3の不飽和脂肪酸を生成する工程;炭素数4の不飽和脂肪族アルデヒドを酸化して炭素数4の不飽和脂肪酸を生成する工程;炭素数4以上の炭化水素を酸化してマレイン酸を生成する工程;キシレン及びナフタレンの一方又は両方を酸化してフタル酸を生成する工程;オレフィンを水素化してパラフィンを生成する工程;カルボニル化合物を水素化してアルコールを生成する工程;クメンハイドロパーオキサイドを酸分解してアセトンとフェノールを生成する工程;ブテンを酸化脱水素してブタジエンを生成する工程;又は、エチルベンゼンを酸化脱水素或いは脱水素してスチレンを生成する工程;に本発明のプレート式反応器を用いて反応生成物を製造することが、反応生成物を長期にわたり高い生産性で製造する観点からより一層効果的である。
【0021】
また本発明では、前記炭素数3の炭化水素がプロピレン又はプロパンであり、前記炭素数4の炭化水素がイソブチレン、ブテン、その誘導体、ブタン、又はその誘導体であり、前記炭素数3の不飽和脂肪族アルデヒドがアクロレインであり、前記炭素数4の不飽和脂肪族アルデヒドがメタクロレインであり、前記炭素数3の不飽和脂肪酸がアクリル酸であり、前記炭素数4の不飽和脂肪酸がメタクリル酸であることが、アクリル酸又はメタクリル酸を長期にわたり高い生産性で製造する観点からより一層効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のプレート式反応器の一実施の形態における構成を概略的に示す図である。
【図2】図1のプレート式反応器をA−A’線に沿って切断したときの断面を示す図である。
【図3】図1のプレート式反応器をB−B’線に沿って切断したときの断面を示す図である。
【図4】隣り合う伝熱プレート3を示す図である。
【図5】穴あき部材4の一例を示す図である。
【図6】穴あき部材4の他の例を示す図である。
【図7】穴あき部材4のさらに他の例を示す図である。
【図8】流体の流通方向における伝熱プレート3の側端部と下流端部を示す図である。
【図9】ボルトを用いる穴あき部材4の一固定形態を示す図である。
【図10】図9に示す固定形態に用いられる座金の一例を示す図である。
【図11】図9に示す固定形態に用いられる座金の他の例を示す図である。
【図12】ボルトを用いる穴あき部材4の他の固定形態を示す図である。
【図13】図12の形態における支持用部材を下端側からボルトの挿入方向に向けて見た図である。
【図14】ボルトを用いる穴あき部材4のさらに他の固定形態を示す図である。
【図15】図14の形態における支持用部材を下端側からボルトの挿入方向に向けて見た図である。
【図16】固定用ピンを用いる穴あき部材4の一固定形態を示す図である。
【図17】図16の形態における支持用部材を下端側から固定用ピンの挿入方向に向けて見た図である。
【図18】針金を用いる穴あき部材4の一固定形態を示す図である。
【図19】針金を用いる穴あき部材30の一固定形態を示す図である。
【図20】針金を用いる穴あき部材30の他の固定形態を示す図である。
【図21】針金を用いる穴あき部材30のさらに他の固定形態を示す図である。
【図22】平板を用いる穴あき部材30の一固定形態を示す図である。
【図23】棒を用いる穴あき部材30の一固定形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のプレート式反応器は、流体の原料を反応させるための反応容器と、伝熱管を有し、前記反応容器内に並んで設けられる複数の伝熱プレートと、前記伝熱管に熱媒を供給する熱媒供給装置と、前記伝熱プレート間の隙間の端部を塞ぐように配置される保持用部材と、前記保持用部材を前記隙間の端部で着脱自在に支持するための支持用部材とを有する。
【0024】
前記反応容器には、供給された流体が、隣り合う伝熱プレート間の隙間を通って排出される容器である。反応容器には、例えば、伝熱プレートが互いに平行に配列するように収容される、断面形状が矩形であるケーシングや、伝熱プレートが互いに平行又は放射状に配列するように収容される、断面形状が円形であるシェルを用いることができる。また反応容器は、耐圧性や耐薬品性等の用途に応じた性質を有している。
【0025】
前記反応容器は、原料や反応生成物等の流体の流通のために、通常、一対の開口を有する。前記一対の開口は、対向して設けられていることが好ましく、一方が反応容器に供給される流体の原料の供給口となり、他方が反応容器で生成した流体の反応生成物の排出口となる。前記開口の形態は、反応容器への原料の供給と反応容器からの反応生成物の排出とが行われる形状であれば特に限定されない。前記開口としては、例えば、ケーシングやシェルの両端に設けられる一対のノズルや、シェルの中心軸を含む中心部とシェルの内周部とにそれぞれ円筒状に形成され、シェルの横断面において放射状に流体を流通させるための複数の開口を有する部材が挙げられる。
【0026】
前記反応容器で反応に供される原料の流体は、反応容器内を流通する物質の状態であればよく、例えば気体であってもよいし、液体であってもよいし、それ以外の流体であってもよいし、これらのうちの二以上の混合物であってもよい。
【0027】
前記伝熱プレートは、断面形状における周縁又は端縁で一方向に連結している複数の伝熱管を含む板状に形成される。一枚の伝熱プレートにおいて、伝熱管のそれぞれにおける
断面の形状及び大きさは、一定であってもよいし異なっていてもよい。また一枚の伝熱プレートにおいて、伝熱管は、その断面形状における周縁又は端縁で直接連結されていてもよいし、ヒンジ等の適当な部材を介して連結されていてもよい。又は伝熱プレートは、反応容器内において、伝熱管の周縁又は端縁で接するように伝熱管を積み重ねることによって形成されていてもよい。
【0028】
伝熱管の断面形状は、円弧、楕円弧、矩形或いは多角形の一部を主構成要素とした形状に変形された波板を、両波板のパターンの端に形成される凸縁で互いに接合することによって形成される形状であることが好ましく、円形でもよいし、楕円形やラグビーボール型等の略円形であってもよいし、円弧や楕円弧を対称に接続してなる葉形でもよいし、矩形等の多角形でもよい。
【0029】
前記伝熱プレート及び前記伝熱管は、伝熱性を有する材料で形成される。このような材料としては、例えばステンレス、カーボンスチール、ハステロイ、チタン、アルミニウム、エンジニアリングプラスチック、及び銅が挙げられ、好ましくはステンレスである。前記ステンレスとしては、例えば304、304L、316、及び316Lが好ましく挙げられる。
【0030】
前記伝熱プレートは、伝熱管の断面形状を二分割した形状が直接又は間接的に連結してなる波形に、前述の金属の二枚の板をプレス成形やロール成形によって成形し、それぞれの成形板を接合することによって形成されることが、高い精度で安価に伝熱プレートを得る観点から好ましい。前記金属の板の厚さは、2mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましい。
【0031】
前記成形板の波板における周期長(L、すなわち伝熱管の連結方向における管径)は10〜100mmであることが好ましく、20〜50mmであることがより好ましい。また前記成形板の波形における高さ(すなわち伝熱管の連結方向に直交する方向における半径)は、2.5〜25mmであることが好ましく、5〜15mmであることがより好ましい。
【0032】
前記伝熱プレートは、伝熱管の連結方向における長さが0.5〜10mであることが好ましく、0.5〜5mであることがより好ましく、0.5〜3mであることがさらに好ましい。また前記伝熱プレートは、伝熱管の軸方向における長さが20m以下であることが好ましく、3〜15mであることがより好ましく、5〜10mであることがさらに好ましい。前記保持用部材の強度の観点から、伝熱プレートの伝熱管の軸方向の長さは5m以下が好ましい。しかし、伝熱プレートの長さが5mを超えるときには、保持用部材を複数個、並べて使用することも可能である。
【0033】
前記伝熱プレートは、二以上の伝熱プレートの連結によって構成することもできる。例えば、前述した金属の板の成形によって、伝熱管の連結方向における長さを縦、伝熱管の軸方向における長さを横とする矩形の伝熱プレートを作製する場合では、通常入手できる金属の板のサイズから、伝熱プレートの縦が1.5m以上の時は、縦が1.5m未満の二枚の伝熱プレートを接合するか組み合わせて、一枚の伝熱プレートを構成することもできる。
【0034】
前記反応容器に配置される前記伝熱プレートの枚数は、反応に用いられる触媒量によって決定されるが、通常、10〜300枚である。前記伝熱プレートは、反応容器において、隣り合う二枚の伝熱プレートの表面の凸縁が互いに対向するように並べられていてもよいし、一方の伝熱プレートの表面の凸縁が他方の伝熱プレートの表面の凹縁に対向するように並べられていてもよい。
【0035】
前記伝熱プレートは、隣り合う伝熱プレート間の隙間が、伝熱管の軸方向に垂直な面において3〜50mmとなるように反応容器内に並べられる。伝熱プレート間の隙間距離は、伝熱管の断面形状の大きさによって変えることができる。伝熱プレート間の隙間距離は、反応流体の入口方向から出口に向かって同一でもよいが、漸増することが望ましい。伝熱プレートの製作の難易度、成形精度の観点及び実用性の観点から段階的に変化させることがより好ましい。前記伝熱管の軸方向に垂直な面における伝熱管の連結店を結ぶ直線又は全連結点を代表する線を伝熱プレートの軸としたときに、伝熱プレート管の間隔は、伝熱プレートの軸間の距離で10〜50mmであることが好ましく、20〜50mmであることがより好ましく、23〜35mmであることがさらに好ましい。又は伝熱プレートの間隔は、隣り合う伝熱プレートにおいて、一方の伝熱プレートの伝熱管の伝熱プレートの軸に直交する方向における半径と他方の伝熱プレートの伝熱管の伝熱プレートの軸に直交する方向における半径との和の1.1〜5倍であることが好ましく、1.1〜2倍であることがより好ましい。
【0036】
本発明では、前記伝熱プレートが伝熱管の連結方向と伝熱管の軸方向とが直交するように配置されること、すなわち反応容器内における流体の流通方向と伝熱管を流れる熱媒の流れ方向とが直交すること、が、伝熱管中の熱媒の温度の調整によって原料の反応を制御する観点から好ましい。
【0037】
前記熱媒供給装置は、前記反応容器に収容された伝熱プレートの伝熱管に、所望の温度の熱媒を供給するための装置である。このような熱媒供給装置によって、充填層における原料の反応は精密に制御される。前記熱媒供給装置は、複数の伝熱管の全てに一方向に熱媒を供給する装置であってもよいし、複数の伝熱管の一部に一方向に熱媒を供給し、複数の伝熱管の他の一部には逆方向に熱媒を供給する装置であってもよい。前記熱媒供給装置としては、例えば伝熱管とその外部との間で熱媒を循環させる循環流路と、この循環流路中の熱媒の温度を調整する温度調整装置とを有する装置が挙げられる。温度調整装置としては、例えば、熱交換器、及び前記循環流路中の熱媒に異なる温度の熱媒を混合するための熱媒混合装置が挙げられる。
【0038】
本発明のプレート式反応器では、隣り合う伝熱プレート間の隙間に粒子状の充填物が充填される。充填物は一種でも二種以上でもよい。充填物は、プレート式反応器の用途に応じて選ばれる。充填物としては、例えば、粒子状の触媒と流体の原料とを接触させる接触反応に一般に用いられる粒子状の触媒及び不活性粒子が挙げられる。充填物の形状としては、例えば、球状、円柱状、円筒状、星型状、リング状、ラシヒリング状、小片状、網状、及び不定形が挙げられる。
【0039】
前記充填物の大きさは、粒径、最長径、又は球相当粒径が1〜20mmであることが好ましく、3〜5mmであることがより好ましい。例えば充填物の形状が円柱の円柱中心に穴の開いたリング状である場合では、リングの外径が4〜10mmであり、リングの内径が1〜5mmであり、前記円柱の高さが2〜10mmであることが好ましい。また前記充填物の嵩密度は、0.5〜2.0g/cm3であることが好ましい。
【0040】
前記触媒は、原料や反応の種類に応じて決めることができる。アクリル酸又はメタクリル酸の製造に用いられる前記触媒であれば、例えば特開2005−336142号公報に記載されているような、下記式(I)で表されるMo−Bi系複合酸化物触媒、及び下記式(II)で表されるMo−V系複合酸化物触媒が挙げられる。また、前記不活性粒子としては、例えば、アルミナ、シリコンカーバイド、シリカ、酸化ジルコニア、酸化チタン等の、プレート式反応器の使用条件において不活性な物質による粒子が挙げられる。
【0041】
MoabBicFedefghix (I)
(式中、Moはモリブデン、Wはタングステン、Biはビスマス、Feは鉄、Aはニッケル及びコバルトから選ばれる少なくとも一種の元素、Bはナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムから選ばれる少なくとも一種の元素、Cはアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも一種の元素、Dは、リン、テルル、アンチモン、スズ、セリウム、鉛、ニオブ、マンガン、ヒ素、ホウ素及び亜鉛から選ばれる少なくとも一種の元素、Eは、シリコン、アルミニウム、チタニウム及びジルコニウムから選ばれる少なくとも一種の元素、Oは酸素を表す。a、b、c、d、e、f、g、h、i及びxは、それぞれ、Mo、W、Bi、Fe、A、B、C、D、E及びOの原子比を表し、a=12の場合、0≦b≦10、0<c≦10(好ましくは0.1≦c≦10)、0<d≦10(好ましくは0.1≦d≦10)、2≦e≦15、0<f≦10(好ましくは0.001≦f≦10)、0≦g≦10、0≦h≦4、0≦i≦30であり、xは各元素の酸化状態によって決まる値である。)
【0042】
MoabcCudefg (II)
(式中、Moはモリブデン、Vはバナジウム、Wはタングステン、Cuは銅、Xは、Mg、Ca、Sr及びBaから選ばれる少なくとも一種の元素、Yは、Ti、Zr、Ce、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Nb、Sn、Sb、Pb及びBiから選ばれる少なくとも一種の元素、Oは酸素を表す。a、b、c、d、e、f及びgは、それぞれ、Mo、V、W、Cu、X、Y及びOの原子比を示し、a=12の場合、2≦b≦14、0≦c≦12、0<d≦6、0≦e≦3、0≦f≦3であり、gは各々の元素の酸化状態によって定まる数値である。)
【0043】
前記保持用部材は、流体を通し充填物を通さない構造を有する。また保持用部材は、前記隙間に充填された充填物を前記隙間に保持するのに十分な強度を有する。このような保持用部材としては、例えば、多孔板、金網、金網の積層体、及び、金網又は金属粉末を材料とする焼結金属板が挙げられる。前記保持用部材は、全体として流体を通し充填物を通さない構造を有していればよく、流体も充填物も通さない構造を一部有していてもよい。また前記保持用部材は、前記の構造のみから構成されていてもよいし、前記の構造とこれを支持するためのさらなる構造とを有していてもよい。このようなさらなる構造としては、例えば前記の流体を通し充填物を通さない構造の周縁部に設けられる枠や、支持用部材が嵌合する半円状等の切り欠き部、及び支持用部材が挿通される孔が挙げられる。
【0044】
前記保持用部材は、反応容器内における前記隙間の全てを一つの保持用部材が塞ぐように設けられていてもよいし、一つの保持用部材が二以上の一部の前記隙間を塞ぐように設けられていてもよいし、一つの保持用部材が一つの隙間を塞ぐように設けられていてもよい。また一つの保持用部材が二以上の隙間に渡って設けられ、それぞれの隙間においてその隙間の一部のみを塞ぐように設けられていてもよい。一つ当たりの保持用部材が塞ぐ前記隙間の数がより多いと、一つ当たりの保持用部材の設置の作業性をより高めることができ、一つの保持用部材が塞ぐ前記隙間の数がより少ないと、前記隙間からの充填剤の取り出しを伴う充填の調整の作業性をより高めることができる。
【0045】
前記支持用部材は、前記伝熱管の連結方向における伝熱プレートの端部に設けられる。前記隙間の充填物を保持している保持用部材を支持できる適当な数の支持用部材が設けられる。前記支持用部材の設置数は、支持用部材の形態にもよるが、通常、一つの隙間当たり4〜100であることが好ましく、6〜40であることがより好ましく、8〜20であることがさらに好ましい。又は前記支持用部材の設置数は、一つの保持用部材当たり4〜100であることが好ましく、8〜60であることがより好ましく、10〜30であることがさらに好ましい。
【0046】
前記支持用部材は、伝熱プレートの端部に、溶接のように不可逆的に固定されていてもよいし、ボルトとナットのように着脱自在に支持されていてもよい。また前記支持用部材は、前記保持用部材が前記充填物を保持する方向に保持用部材を着脱自在に支持するように設けられる。保持用部材が充填物を保持する方向とは、保持用部材が保持する充填物によって押される方向とは逆の方向である。このような支持用部材としては、例えばボルト、ナット、座金、棒、針金、鎖、割りピン、及びフックが挙げられる。
【0047】
前記支持用部材は、比較的小さな接触面積で前記保持用部材に接して保持用部材を所望の位置に支持する部材を含むことが、支持用部材の保持用部材への焼き付きのような、プレート式反応器の使用に伴う支持用部材と保持用部材との接着を防止する観点から好ましい。支持用部材は前述した小接触面積の部材のみから構成されてもよいし、保持用部材に支持する部分にのみ前記の部材を有していてもよい。このような小接触面積の部材としては、例えば、端部、周面、又は縁部で前記保持用部材に当接して保持用部材を充填物の保持方向に支持することができる棒状、ひも状、及び板状の部材が挙げられる。
【0048】
又は、前記支持用部材は、前記伝熱管の連結方向における伝熱プレートの端縁に固定され、前記連結方向に沿って伝熱プレートの端縁から突出する固定棒と、この固定棒に挿通されて前記保持用部材を支持する支持部とを有することが、高い強度で保持用部材を支持する観点から好ましい。このような固定棒としては、例えばネジ部を有するボルトや、ネジ部を有さないピンが挙げられる。また、前記支持部としては、固定棒に挿通された固定棒からその軸方向を横断する方向に突出する部位を形成する部材が挙げられ、例えば座金、ナット、及び割りピンが挙げられる。
【0049】
前記充填物は、一つの前記隙間の容積と同量の充填物を前記隙間に連続して又は断続的に投入することによって、前記隙間に充填することができる。前記隙間における充填物の充填状態は、例えば前記隙間間における充填層の天面の位置の対比、前記充填層の天面の実測値のバラつきやその分布状態の分析による異常な充填状態の摘出、又は、前記充填層の天面の計算値と実測値との比較、によって適否を判断することができる。また、前記隙間に充填された充填物は、前記保持用部材を前記支持用部材から取り外すことによって、前記隙間の端部から抜き出すことができる。
【0050】
本発明のプレート式反応器は、前述した構成要素以外の他の構成要素をさらに有していてもよい。このような他の構成要素としては、例えば、隣り合う伝熱プレート間の隙間を、反応容器内における流体の流通方向に沿って充填物を収容する複数の区画に仕切る仕切りが挙げられる。
【0051】
前記仕切りは、形成される区画に充填物を保持することができる部材であることが、区画毎に充填物を充填することによって、前記隙間への充填物の充填作業の作業性を向上させる観点から好ましい。また前記仕切りは、自身の形状を維持できる剛性を有することが、伝熱プレート間においてスペーサとしても機能することから好ましい。さらに前記仕切りは、伝熱プレートと同じ材料で形成されることが好ましく、伝熱性を有することが好ましく、反応容器における原料及び生成物に対する反応性を有さないことが好ましく、反応容器における反応が発熱反応である場合には耐熱性を有することが好ましい。前記仕切りの形態としては、例えば、板、角棒、丸棒、網、シート、及び繊維塊が挙げられ、前記仕切りの材料としては、例えば、ステンレス、カーボンスチール、ハステロイ、チタン、アルミニウム、エンジニアリングプラスチック、ガラス、セラミック、及び銅が挙げられる。
【0052】
前記仕切りの設置間隔は、全区画への充填物の正確かつ容易な充填の観点から、5cm〜2mであることが好ましく、10cm〜1mであることがより好ましく、20cm〜5
0cmであることが、特に好ましい。また、前記仕切りによって形成される区画の容積は、前記隙間への充填物の充填を区画単位で行い、充填物の正確かつ容易な充填を行う観点から、1〜100Lが好ましく、1.5〜30Lであることがより好ましく、2〜15Lであることが特に好ましい。前記仕切りの設置間隔及び前記区画の容積は同一でも異なっていてもよいが、仕切りの設置及び区画への充填物の充填における作業性の向上の観点から、二種以下であることが好ましく、同一であることがより好ましい。
【0053】
前記仕切りは、仕切りの性状に応じて適宜に伝熱プレート間の隙間に設けることができる。例えば可撓性を有する仕切りや、伝熱プレート間の最短距離の幅を有する形状の仕切りは、予め反応容器に設置されている複数の伝熱プレートにおける隣り合う伝熱プレート間の隙間に挿入することによって伝熱プレート間の隙間に設けることができる。また、伝熱プレートの表面に密着する形状の仕切りは、反応容器に伝熱プレートを設置する際に、伝熱プレートと仕切りとを交互に設置することによって伝熱プレート間の隙間に設けることができる。
【0054】
本発明のプレート式反応器は、伝熱プレートを構成する伝熱管に所望の温度の熱媒を供給する工程と、前記充填層に流体の原料を供給して反応生成物を生成する工程と、を行うことによって、流体の原料の反応による反応生成物の製造に用いることができる。より具体的には、本発明のプレート式反応器は、エチレンの酸化による酸化エチレンの生成;炭素数3の炭化水素の酸化による、炭素数3の不飽和脂肪族アルデヒド及び炭素数3の不飽和脂肪酸の一方又は両方の生成;炭素数4の炭化水素及びターシャリーブタノールの一方又は両方の酸化による、炭素数4の不飽和脂肪族アルデヒド及び炭素数4の不飽和脂肪酸の一方又は両方の生成;炭素数3の不飽和脂肪族アルデヒドの酸化による炭素数3の不飽和脂肪酸の生成;炭素数4の不飽和脂肪族アルデヒドの酸化による炭素数4の不飽和脂肪酸の生成;n−ブタンやベンゼン等の炭素数4以上の炭化水素の酸化によるマレイン酸の生成;キシレン及びナフタレンの一方又は両方の酸化によるフタル酸の生成;オレフィンの水素化によるパラフィンの生成;カルボニル化合物の水素化によるアルコールの生成;クメンハイドロパーオキサイドの酸分解によるアセトンとフェノールの生成;ブテンの酸化脱水素によるブタジエンの生成;及び、エチルベンゼンの酸化脱水素或いは脱水素によるスチレンの生成;に用いることができる。
【0055】
特に本発明のプレート式反応器は、炭素数3又は4のアルカン、アルケン、アルコール、及びアルデヒドのいずれかを原料とする、アクリル酸又はメタクリル酸の生成に好適に用いることができる。すなわち、前記反応生成物の製造では、前記炭素数3の炭化水素がプロピレン又はプロパンであり、前記炭素数4の炭化水素がイソブチレン、ブテン、その誘導体、ブタン、又はその誘導体であり、前記炭素数3の不飽和脂肪族アルデヒドがアクロレインであり、前記炭素数4の不飽和脂肪族アルデヒドがメタクロレインであり、前記炭素数3の不飽和脂肪酸がアクリル酸であり、前記炭素数4の不飽和脂肪酸がメタクリル酸であることが好ましい。
【0056】
前記反応生成物の製造において、熱媒は、充填層との間で熱交換を行い、充填層の温度を制御する。熱媒の伝熱管内における液線速度は0.3m/s以上であることが好ましい。前記液線速度は、原料の伝熱抵抗に比べて熱媒の伝熱抵抗を十分に小さくする観点から、0.5〜2.0m/sであることがより好ましい。前記液線速度が大きくなると、熱媒を循環させるためのポンプの動力が大きくなることから、前記液線速度を大きくし過ぎないことが経済面から好ましい。
【0057】
一本の伝熱管の一端をその伝熱管における熱媒の入口、他端をその伝熱管における熱媒の出口としたときに、熱媒の入口温度と出口温度の温度差は、反応熱の除去、反応温度の均一性や触媒の劣化の観点から、より小さいことが好ましいが、前記温度差を小さくする
と、熱媒の流量及び圧力損失が増加するため、熱媒を循環させるためのポンプが大きくなり必要な動力も増加する。前記熱媒の入口温度と出口温度との温度差は、前記の観点に加えて熱媒の流量及び圧力損失の増加を抑制する観点なら。0.5〜10℃であることが好ましく、2〜5℃であることがより好ましい。
【0058】
伝熱管に供給される熱媒の温度は、行われる反応によって決めることができ、例えば粒子状の触媒を充填物に含む気相接触酸化反応では、200〜600℃であることが好ましい。
【0059】
さらに前述したアクリル酸又はメタクリル酸の生成では、原料が、炭素数3又は4の炭化水素、並びにターシャリーブタノールからなる群から選ばれる反応原料の少なくとも1種のときは、伝熱管に供給される熱媒の温度は、250〜450℃であることが好ましく、300〜420℃であることがより好ましい。より具体的に、原料がプロピレンの場合は、通常は2又は3の複数の反応帯域が形成されるが、これらの反応帯域を形成する伝熱管群のいずれに供給される熱媒においても、熱媒の温度が250〜400℃であることが好ましく、320〜400℃であることがより好ましい。
【0060】
また、原料が炭素数3又は4の不飽和脂肪族アルデヒドからなる群から選ばれる少なくとも1種のときは、伝熱管に供給される熱媒の温度は、200〜350℃であることが好ましく、250〜330℃であることがより好ましい。より具体的に、原料がアクロレインの場合は、通常は2又は3の複数の反応帯域が形成されるが、これらの反応帯域を形成する伝熱管群のいずれに供給される熱媒においても、熱媒の温度が200〜350℃であることが好ましく、250〜320℃であることがより好ましい。
【0061】
前記熱媒は、使用温度において流動する公知の流体の中から決めることができる。例えば前記の気相接触酸化反応では、前記熱媒として、例えば溶融塩(ナイター)が挙げられる。ナイターは、化学反応の温度コントロールに使用される熱媒のうちで特に熱安定性に優れる。ナイターは、特に200〜550℃の高温において、最も優れた熱安定性を有する。前記ナイターに使用される化合物としては、例えば硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、及び硝酸カリウムが挙げられ、前記ナイターとしては、これらを単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0062】
前記反応生成物の生成における反応圧力は、通常、正圧であり、大気圧(常圧)から3MPa(メガパスカル)であることが好ましく、常圧から1,000kPa(キロパスカル)であることがより好ましく、常圧から300kPaであることがさらに好ましい。
【0063】
以下、本発明のプレート式反応器を、図面を用いてより具体的に説明する。
【0064】
図1に示すプレート式反応器は、矩形のケーシング1と、伝熱管2を有し、ケーシング1内に対向して並んで設けられる複数の伝熱プレート3と、伝熱管2に熱媒を供給するための熱媒供給装置と、伝熱プレート3の下部に設けられる穴あき部材4と、伝熱管2の軸方向において前記熱媒供給装置から離間して配置される伝熱管板5とを有する。
【0065】
ケーシング1は、断面形状が矩形の通気路を形成しており、前記反応容器に相当する。ケーシング1は、ケーシング1の上端及び下端に、対向する一対の通気口6、6’を有しており、通気口6を含むケーシング端部7と、通気口6’を含むケーシング端部7’と、伝熱プレート3が収容されるケーシング本体とから構成されている。ケーシング端部7、7’は、ケーシング本体に接続されている。
【0066】
伝熱管2は、例えば長径が30〜50mmであり短径が10〜20mmの、一対の弧が
互いに離間する方向へ突出するように両端で接続してなる木の葉型の断面形状を有する管である。
【0067】
伝熱プレート3は、複数の伝熱管2が断面形状の端縁で連結した形状を有している。伝熱管2の軸に直交する伝熱プレート3の断面形状において、これらの端縁は一直線上に連結している。伝熱プレート3は、円弧が連続して形成された二枚の波板を、両波板の弧の端に形成される凸縁で互いに接合することによって形成されている。隣り合う伝熱プレート3は、表面の凸縁同士が対向するように並列していてもよいが、図1のプレート式反応器では、一方の伝熱プレート3の表面の凸縁と、他方の伝熱プレート3の表面の凹縁とが対向するように並列している。
【0068】
伝熱プレート3が、図4に示すように、断面の大きさが異なる三種の伝熱管2a〜2cを上部、中部、及び下部のそれぞれにおいて含んでいる。伝熱プレート3は、伝熱管2の軸に直交する面において、伝熱管2a〜2cの長軸が一直線上に配置されるように形成されている。また例えば、伝熱管2aは、伝熱プレート3の高さの20%分の伝熱プレート3を形成し、伝熱管2bは、伝熱プレート3の高さの30%分の伝熱プレート3を形成し、伝熱管2cは、伝熱プレート3の高さの40%分の伝熱プレート3を形成している。伝熱プレート3の高さの10%分は、伝熱プレート3の上端部及び下端部の接合板部で形成されている。
【0069】
伝熱プレート3の上部に形成されている伝熱管2aの断面形状は、長径が50mmであり、短径が20mmの木の葉型であり、伝熱プレート3の中部に形成されている伝熱管2bの断面形状は、長径が40mmであり、短径が16mmの木の葉型であり、伝熱プレート3の下部に形成されている伝熱管2cの断面形状は、長径が30mmであり、短径が10mmの木の葉型である。
【0070】
なお、伝熱プレート3は、反応容器全体において同じ間隔で並列しており、例えば隣り合う伝熱プレート3間の隙間における伝熱管2aの外壁間の水平方向における距離が30mmで並列している。
【0071】
前記熱媒供給装置は、ケーシング1の対向する一対の壁に設けられている。この壁には、各伝熱管2に熱媒を供給するための供給口が形成されている。熱媒供給装置は、例えば図1に示すように、一対のジャケット8と、一方のジャケット8の内外で熱媒を循環させる循環流路9と、循環流路9に設けられるポンプ10と、循環流路9中の熱媒の温度を調整するための三つの熱交換器11〜13とから構成されている。ジャケット8は、例えば反応容器全体において、熱媒が伝熱管2を介してジャケット8間を蛇行するように、所定の高さにおいて複数に区切られている。
【0072】
穴あき部材4は、例えば図5に示す多孔板である。この多孔板は、伝熱プレート3間の隙間に充填されるべき充填物の最長径に対して0.20〜0.99倍の径を有する孔を、20〜99%の開口率で有している。前記多孔板は、伝熱管2の軸と同じ長さと、伝熱プレート3の下端における伝熱プレート3間の距離と同じ幅とを有している。さらに前記多孔板は、伝熱プレート3の下端に設けられている支持用部材の固定棒に対応して、この固定棒の断面における半分が嵌る半円形の切り欠き部を、多孔板の縁に複数有している。
【0073】
穴あき部材4には、前記の多孔板以外にも、図6に示す金網による網板を用いることができる。この網板は、金網で形成されている矩形の板状体と、この板状体の周縁部を囲む枠とを有し、網板の周縁には、前記固定棒に対応する半円形の切り欠き部が形成されている。
【0074】
穴あき部材4には、前記の多孔板及び網板以外にも、図7に示す焼結金属板を用いることができる。この焼結金属板は、例えばステンレス等の金属の、粒度の揃った粉体を型に充填してプレス成形し、又は金網を積み重ねて、高温で焼結して形成される。この金属焼結版は矩形の板であって、その周縁部には、前記固定棒に対応する半円形の切り欠き部が形成されている。
【0075】
穴あき部材4について、前記多孔板は、製作の容易さや強度の観点から優れており、粒径又は最短径が比較的大きな充填物の保持に適している。前記網板は、製作の容易さ、用いる金網の目開きの選択によって充填物の大きさに対応する観点、及び圧力損失が低い観点から優れている。また前記金属焼結版は、板の厚さは製作時に決定されるが、成形される金属粉の粒径や金網の目開きの選択によって充填物の大きさに対応する観点、及び圧力損失が低い観点から優れている。
【0076】
伝熱管板5は、図8に示すように、伝熱管2の軸方向の端部における伝熱プレート3間の隙間に配置されている。伝熱管板5は、伝熱プレート3の軸方向における長さと同じ長さを有する分割板14と、分割板14の両端のそれぞれから一方向へ起立する端板15とを有している。分割板14の両側縁は、伝熱管板5が前記隙間に配置されたときに、伝熱プレート3の表面の凹凸に沿う形状に形成されている。伝熱管板5は、端板15が前記熱媒供給装置のジャケット8に接する反応容器の壁に向けて起立して当接するように、前記隙間のそれぞれに配置されている。
【0077】
伝熱プレート3の下端、及び伝熱プレート3の下端側の伝熱管板5における端板15には、図8に示すように、複数のボルト16、17が固定されている。ボルト16及び17はいずれもネジ部とそれに連なる固定部とによって構成されている。ボルト16は、ネジ部を下に固定部を端板15に貫通させることによって端板15に固定されている。ボルト17における固定部の先端には、伝熱プレート3の下端縁を挟持する切り込みが形成されている。ボルト17は、ネジ部を下に、固定部の切り込みで伝熱プレート3の下端縁を挟んで固定部と伝熱プレート3の下端縁とを接合することによって伝熱プレート3の下端に固定されている。
【0078】
穴あき部材4は、図9に示すように、二枚の座金18、19をボルト16、17にそれぞれ挿通し、二枚の座金18、19の間に穴あき部材4を、穴あき部材4の縁部の切り欠き部がボルト16、17に対応するように配置し、ナット20を下方から締め上げることによって、伝熱プレート3の下端に着脱自在に固定される。穴あき部材4は本発明における保持用部材に相当しており、ボルト16、17、座金18、19、及びナット20は本発明における支持用部材に相当している。さらに、ボルト16、17は本発明における固定棒に相当しており、座金19及びナット20は、本発明における支持部に相当している。
【0079】
穴あき部材4等の保持用部材の厚さ(伝熱プレート3に対して固定されたときの伝熱プレート3の軸方向における長さ)は、伝熱プレート3間の隙間に投入された充填物を保持する強度を確保する観点から、1〜20mmであることが好ましい。また保持用部材の材料は、プレート式反応器の用途に応じて決めることができ、例えばプレート式反応器の用途が気相接触酸化反応によるアクリル酸又はメタクリル酸の製造である場合では、ステンレススチールや炭素鋼等の200〜500℃の温度に耐えられる材料であることが好ましい。
【0080】
また保持用部材は、保持用部材の周囲や中心部等の任意の位置において、前記切り欠き部や貫通孔のような、支持用部材による着脱自在な支持に必要又は有利な構造を有していてもよい。
【0081】
支持用部材の材料は、プレート式反応器の用途に応じて決めることができ、例えばプレート式反応器の用途が気相接触酸化反応によるアクリル酸又はメタクリル酸の製造である場合では、ステンレススチールや炭素鋼等の200〜500℃の温度に耐えられる材料であることが好ましい。また支持用部材の材料は、伝熱プレート3の材料と同じであることが、支持用部材を伝熱プレート3に溶接等で容易に接合、固定する観点から好ましい。
【0082】
ボルト16、17等の支持用部材の配置の間隔は、伝熱プレート3間の隙間に保持される充填物の重量と保持用部材の強度とから決定することができる。前記間隔は、前記隙間に投入された充填物を前記隙間に保持用部材によって、保持用部材を変形させずに十分に保持する観点から、10cm〜1mであることが好ましく、20〜50cmであることがより好ましい。
【0083】
また支持用部材は、保持用部材の変形が発生しないように保持用部材を伝熱プレート3に対して着脱自在に固定できる強度が要求される。例えば支持用部材は、少なくとも数年にわたって、温度や反応ガスの圧力等による変形を受けないものが好ましい。
【0084】
座金18、19には、一枚の伝熱プレート3の両側に前記隙間が形成される場合では、図10に示すような円形の座金を用いることができ、一枚の伝熱プレート3の片側にのみ前記隙間が形成される場合では、図11に示すような半円形の座金を用いることができる。
【0085】
支持用部材にボルトとナットのように互いの接触面で強く押圧し合う部材を含む場合であって、支持用部材がプレート式反応器の使用時に200℃以上の比較的高温の環境に置かれる場合では、反応ガスの温度が高いときや長期間の使用によって、互いの接触面が焼き付くことがあり、点検時や触媒交換時にこの接触面が容易に離間せず、支持用部材による保持用部材の着脱自在な固定を解除できない可能性がある。このような場合に備えて、前記接触面には、二硫化モリブデン含有のスプレータイプの焼き付き防止剤やモリブデン、グラファイト系ペーストタイプの焼き付き防止剤を予め塗布してもよい。
【0086】
なお、図1のプレート式反応器では、最も外側に配置される伝熱プレート3とケーシング1の壁との間の隙間への通気を防止するために、図3に示すように、最も外側に配置されている伝熱プレート3の端縁からケーシング1の壁までの隙間が塞がれている。
【0087】
伝熱プレート3間の隙間への充填物の充填は、各隙間へ充填物を一箇所から、又は二以上の箇所から同時に充填物を所定の速度で投入することによって行われる。伝熱プレート3は全て等間隔に配置され、形成される前記隙間は全て同じ容積を有していることから、一つの隙間の容量と同等の容量(例えば一区画の容積に対して97〜103%の体積)の充填物が各隙間に充填される。
【0088】
充填物の良好な充填状態は、充填物の充填高さの理論値と実測値との比較(例えば理論値に対する実測値の誤差が3%以内)や、複数の隙間の間での充填物の充填高さの比較(例えば各隙間間の充填高さの差が充填高さの5%以内)によって判断することができる。
【0089】
充填物の充填後においても、ナット20をボルト16、17から外すことによって、穴あき部材4が伝熱プレート3の下端から取り出され、前記隙間中の充填物は、前記隙間の下端から排出される。前述したように穴あき部材4を伝熱プレート3の下端に対して設置し、ボルト16、17にナット20を締め上げることによって穴あき部材4は充填物を保持できるように伝熱プレート3の下端に再び固定される。伝熱プレート3に対する穴あき部材4のこのような着脱によって、充填物の充填を前記隙間ごとにやり直すことができる

【0090】
前記充填物には、例えばプロパン及びプロピレン等の炭化水素の気相接触酸化反応によってアクロレインやアクリル酸を製造するためのMo−Bi系複合酸化物触媒とアルミナ等の不活性粒子との混合物が用いられる。この混合物における不活性粒子の含有量は、例えば前記触媒100質量部に対して0〜100質量部である。また例えば触媒の形状は外径5mm、内径1mm、高さ3mmの円筒状であり、不活性粒子の形状は外径5mm、内径3mm、高さ5mmのラシッヒリングである。
【0091】
アクロレイン及びアクリル酸の製造において、熱媒の温度は、伝熱管2に熱媒が順次通ることによって、また熱交換器11〜13によって、第一反応帯域を形成する伝熱管2a、第二反応帯域を形成する伝熱管2b、第三反応帯域を形成する伝熱管2cは目的生成物の収率が最大となるように、触媒の許容温度範囲、例えば300〜400℃の範囲でそれぞれ独立に調整される。
【0092】
充填物が充填されたプレート式反応器では、例えば前記隙間に上方から下方へ原料ガスが供給され、伝熱管2に熱媒が供給されることによって、反応生成物が製造される。例えば、プロピレン、空気、及び水蒸気からなる原料ガスを通気口6から供給し、300〜350℃の熱媒を熱媒供給装置から伝熱管2へ、例えば下から上に向けて供給することによって、アクロレイン及びアクリル酸が生成し、生成したアクロレイン及びアクリル酸は通気口6’から排出される。反応時におけるプレート式反応器の内圧は例えば150から200kPa(キロパスカル)である。酸化に伴う発熱は伝熱管2内を流れる熱媒に吸収される。
【0093】
前記プレート式反応器は、穴あき部材4及び前記支持用部材を有することから、伝熱プレート3間の各隙間において穴あき部材4によって充填層を保持することができ、また穴あき部材4毎に取り外しが可能である。したがって穴あき部材4が前記隙間に対応して配置される場合では、前記隙間毎に充填物を前記隙間の下から抜き出すことができ、充填物の充填のやり直しを前記隙間毎に行うことができる。
【0094】
前記プレート式反応器は、伝熱管板5を有することから、前記熱媒供給装置のジャケット8と、伝熱プレート3間の隙間に形成される充填層との間に、充填物が介在しない空間が形成されるので、前記隙間における伝熱管2の両端部における充填層への前記熱媒供給装置からの熱の影響を緩和することができる。したがって、熱媒供給装置からの熱による反応温度の影響を抑制することができ、設計通りの高い効率での反応を行う観点からより一層効果的である。
【0095】
前記支持用部材では、穴あき部材4を支持する座金19とナット20に代えて、穴あき部材4が充填物を保持する方向へ穴あき部材4を支持する、図12及び13に示すようなロッドを有する支持用ナット21、22や、図14及び15に示すような爪状の板を有する支持用ナット23、24を用いてもよい。支持用ナット21及び22は、穴あき部材4が充填物を保持する方向へボルト16、17に挿通したときに、ボルト16、17における螺着位置において穴あき部材4に先端が当接する適当な長さを有するロッドがナットに固定されてなる。同様に、支持用ナット23及び24は、穴あき部材4が充填物を保持する方向へボルト16、17に挿通したときに、ボルト16、17における螺着位置において穴あき部材4に、撓んだ状態で先端部が穴あき部材4に当接して支持する適当な長さと可撓性と強度とを有する、例えばステンレス製の細長な板がナットに固定されてなる。支持用ナット21〜24は、前述した小接触面積の部材に相当している。
【0096】
図12及び13に示す形態や、図14及び15に示す形態は、図1〜11に示す形態に
比べて、穴あき部材4が充填物を保持する方向へ、棒の先端や湾曲する板の先端部によって、小さな接触面積で穴あき部材4を支持することから、プレート式反応器を比較的高い温度で使用した場合の保持用部材と支持用部材との焼き付きを抑制する観点から効果的である。
【0097】
さらに前記支持用部材では、図16及び17に示すように、前記ネジ部に代えて軸に直交する方向に貫通孔を有する孔部と、それに連なる前記固定部とからなる固定用ピン25をボルト16、17に代えて用い、ナット20に代えて、固定用リング26と、前記貫通孔に挿通、引き抜き自在な割りピン27とを用いてもよい。割りピン27は、可撓性を有し重なり合う二枚の薄板の先端部を互いに離間する方向に撓まして形成され、前記貫通孔への挿通時に前記両薄板の側縁で固定用リング26に接する部材である。
【0098】
図16及び17に示す形態は、図1〜11に示す形態に比べて、前記隙間の下端における穴あき部材4の固定時において、座金19及び固定用リング26のいずれもが固定用ピン25に対して摺動自在であることから、また固定用リング26を割りピン27の薄板の側縁で支持することによって穴あき部材4を充填物の保持方向に支持することから、プレート式反応器を比較的高い温度で使用した場合の支持用部材における焼き付きを抑制する観点から効果的である。
【0099】
さらに前記支持用部材では、図18に示すように、ボルト16、17、座金18、19及びナット20に代えて、伝熱プレート3の下端に基端が固定され、穴あき部材4の前記切り欠き部又は穴あき部材4を貫通する孔を通って先端部が互いに撚り合わされる適当な長さを有する針金28、29を用いてもよい。充填物を保持する保持用部材を支持するとの用途の観点から、針金の径は0.5〜3mm程度であることが好ましく、針金の長さは10〜30cm程度であることが好ましい。針金28、29は、その周縁部で穴あき部材4に接して穴あき部材4を支持しており、前述した小接触面積の部材に相当している。
【0100】
図18に示す形態は、図1〜11に示す形態に比べて、支持用部材が針金28、29のみから構成されていることから、保持用部材を容易に固定することができる観点から効果的であり、また、プレート式反応器を比較的高い温度で使用した場合の保持用部材と支持用部材との焼き付き、及び支持用部材における焼き付きを防止する観点から効果的である。
【0101】
また図18に示す形態は、図1〜11に示す形態に比べて、針金28、29の撚り合わせが可能な範囲に穴あき部材4における切り欠き部や貫通孔が配置されていればよいことから、使用できる保持用部材の多様性を高める観点から効果的である。
【0102】
また図19に示すように、穴あき部材4に代えて、周縁に切り欠き部を有さず、伝熱プレート3間の隙間に、この隙間の下端から挿入されて充填物を保持することができる適当な幅と通気性とを有する穴あき部材30を用い、前記支持用部材として針金28、29を用いてもよい。
【0103】
図19に示す形態は、図18に示す形態に比べて、伝熱プレート3の下端における隙間の幅以下の幅を有する保持用部材であれば、前記隙間の下端に設置することができることから、伝熱管2の軸方向における前記隙間の長さに満たない長さを有する二以上の保持用部材を組み合わせて用いることができ、使用できる保持用部材の種類や保持用部材の配置の多様性を高める観点から効果的である。
【0104】
さらに、前記保持用部材として穴あき部材30を用い、前記支持用部材として針金28、29を用いる場合では、図20に示すように、伝熱プレート3の下端に、伝熱プレート
3の軸方向を横断して伝熱プレート3間の隙間に突出する規制板31がさらに設けられていてもよい。規制板31は、伝熱プレート3の下端において、伝熱管の軸方向に沿って連続して設けられていてもよいし、断続的に設けられていてもよい。
【0105】
図20に示す形態は、図19に示す形態に比べて、伝熱プレート3間の隙間の下端の位置を特定し、前記隙間における流体の流通方向における長さをより精密に制御する観点から効果的である。
【0106】
また、前記保持用部材として穴あき部材30を用い、前記支持用部材として針金28、29を用いる場合では、図21に示すように、伝熱プレート3の下端部に、伝熱プレート3の表面から伝熱プレート3間の隙間に突出する規制ピン32がさらに設けられていてもよい。
【0107】
図21に示す形態は、図20に示す形態に比べて、プレート式反応器を比較的高い温度で使用した場合の伝熱プレート3と保持用部材との焼き付きを抑制する観点から効果的である。
【0108】
さらに、前記保持用部材として穴あき部材30を用いる場合では、前記支持用部材として、図22に示すように、伝熱プレート3の下端から伝熱プレート3の軸方向に沿って突出する折り曲げ可能な平板33を用いてもよい。この平板33は、図22に示すように、伝熱プレート3間の隙間に挿入可能な穴あき部材30を平板33の先端が下方から支持するように折り曲げられて、充填物の保持方向に穴あき部材30を支持する。このように平板33は、板の先端縁で穴あき部材30に接して充填物の保持方向に穴あき部材30を支持しており、前述した小接触面積の部材に相当している。
【0109】
充填物を保持する保持用部材を支持するとの用途の観点から、平板33は、厚さが1〜3mmであることが好ましく、幅が2〜10cmであることが好ましく、長さが5〜10cmであることが好ましく、ベンチ等の汎用される工具を用いて曲げて固定することができる程度の強度を有することが好ましい。
【0110】
図22に示す形態は、図19に示す形態と同様に、保持用部材を容易に保持する観点、及び保持用部材と支持用部材との焼き付きを防止する観点から効果的である。
【0111】
また、前記保持用部材として穴あき部材30を用いる場合では、前記支持用部材として、図23に示すように、伝熱プレート3の下端部に設けられた貫通孔に挿通されて伝熱プレート3間の隙間に掛け渡される支持棒34を用いてもよい。支持棒34は、図23に示すように、その周縁部で穴あき部材30と接して穴あき部材30を支持しており、前述した小接触面積の部材に相当している。
【0112】
また、支持棒34が貫通孔から抜け落ち、脱落の危険性があるときは、支持棒の先端を曲げることも可能である。このときはペンチ等の常用工具を用いることができるように、支持棒の直径は1〜3mmの針金状であることが好ましい。針金を用いるときは、穴あき部材30を取り外して充填物を抜き出すときには、針金の中央部を切断して抜くことができ、穴あき部材30の取り外しが容易にできる特徴を有している。
【0113】
図23に示す形態は、図20及び21に示す形態と同様に、保持用部材と支持用部材との焼き付きを防止する観点、及び、流体の流通方向における前記隙間の長さを精密に制御する観点から効果的である。
【0114】
さらには、前記隙間において、流体の流通方向に沿って前記隙間を複数の区画に仕切る
仕切りをさらに設けることができる。仕切りは、伝熱プレート3間に適当な容量の区画を形成し、充填物の均一な充填を容易に行う観点から好ましい。また仕切りは、変形しない十分な強度を有することが、伝熱プレート3の撓みによる伝熱プレート3間の間隔のずれを防止する観点から好ましい。さらに仕切りは、仕切りの下端と保持用部材とが固定されないように前記隙間に設けられることが、仕切りや保持用部材を容易に設置する観点から好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0115】
プレート式反応器では、一般に、伝熱プレート間の隙間が多数設けられ、これらのそれぞれに充填物を均一に充填することが、反応生成物の製造における短期的及び長期的な生産性の確保や向上の観点から重要である。一方、前記隙間が多数設けられているプレート式反応器では、組み立てや保守点検等の、プレート式反応器の全ての隙間において充填物を充填する場合の充填物の充填作業の作業性の向上も、反応生成物の製造における長期的な生産性の確保や向上の観点から重要である。本発明によれば、前記隙間毎のような、一つの保持用部材に保持されている単位で前記隙間から充填物を抜き出すことができることから、充填物の充填の正確さと、充填物の充填の作業性との両方の向上が期待され、これらの向上による、反応生成物の生産性、特に保守管理や定期点検を跨ぐ長期的な生産性を所期の通りに確保し、さらに向上させることが期待される。
【符号の説明】
【0116】
1 ケーシング
2、2a〜2c 伝熱管
3 伝熱プレート
4、30 穴あき部材
5 伝熱管板
6、6’ 通気口
7、7’ ケーシング端部
8 ジャケット
9 循環流路
10 ポンプ
11〜13 熱交換器
14 分割板
15 端板
16、17 ボルト
18、19 座金
20 ナット
21〜24 支持用ナット
25 固定用ピン
26 固定用リング
27 割りピン
28、29 針金
31 規制板
32 規制ピン
33 平板
34 支持棒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の原料を反応させるための反応容器と、伝熱管を有し、前記反応容器内に並んで設けられる複数の伝熱プレートと、前記伝熱管に熱媒を供給する熱媒供給装置と、を有し、
前記反応容器は、供給された流体が、隣り合う伝熱プレート間の隙間を通って排出される容器であり、
前記伝熱プレートは、断面形状の周縁又は端縁で連結している複数の前記伝熱管を含み、
隣り合う伝熱プレート間の隙間に粒子状の充填物が充填されるプレート式反応器において、
流体を通し前記充填物を通さない構造を有し、前記伝熱管の連結方向における前記隙間の端部を塞ぐように配置され、前記隙間に充填された充填物を前記隙間に保持するための保持用部材と、
前記伝熱管の連結方向における前記伝熱プレートの端部に設けられ、前記保持用部材が前記充填物を保持する方向に前記保持用部材を着脱自在に支持するための支持用部材とをさらに有することを特徴とするプレート式反応器。
【請求項2】
前記支持用部材が、棒状、ひも状、又は板状の部材を含み、この部材の端部、周面、又は縁部で前記保持用部材に当接して保持用部材を支持することを特徴とする請求項1に記載のプレート式反応器。
【請求項3】
前記支持用部材が、前記連結方向における前記伝熱プレートの端縁に固定され、前記連結方向に沿って伝熱プレートの端部から突出する固定棒と、前記固定棒に挿通されて前記保持用部材を支持する支持部とを有することを特徴とする請求項1に記載のプレート式反応器。
【請求項4】
前記保持用部材が一又は二以上の前記隙間の端部を塞ぐ部材であり、複数の保持用部材を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のプレート式反応器。
【請求項5】
前記伝熱管の軸方向における伝熱プレートの長さが5m以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のプレート式反応器。
【請求項6】
複数の伝熱プレートと、伝熱プレート間の隙間に触媒を含む充填物が充填されてなる充填層とを有するプレート式反応器を用いて流体の原料を反応させて反応生成物を製造する方法において、
伝熱プレートを構成する伝熱管に所望の温度の熱媒を供給する工程と、
前記充填層に流体の原料を供給して反応生成物を生成する工程と、を含み、
前記プレート式反応器に、請求項1〜5のいずれか一項に記載のプレート式反応器を用い、
前記反応生成物を生成する工程が、
エチレンを酸化して酸化エチレンを生成する工程;
炭素数3の炭化水素を酸化して炭素数3の不飽和脂肪族アルデヒド及び炭素数3の不飽和脂肪酸の一方又は両方を生成する工程;
炭素数4の炭化水素及びターシャリーブタノールの一方又は両方を酸化して炭素数4の不飽和脂肪族アルデヒド及び炭素数4の不飽和脂肪酸の一方又は両方を生成する工程;
炭素数3の不飽和脂肪族アルデヒドを酸化して炭素数3の不飽和脂肪酸を生成する工程;
炭素数4の不飽和脂肪族アルデヒドを酸化して炭素数4の不飽和脂肪酸を生成する工程;
炭素数4以上の炭化水素を酸化してマレイン酸を生成する工程;
キシレン及びナフタレンの一方又は両方を酸化してフタル酸を生成する工程;
オレフィンを水素化してパラフィンを生成する工程;
カルボニル化合物を水素化してアルコールを生成する工程;
クメンハイドロパーオキサイドを酸分解してアセトンとフェノールを生成する工程;
ブテンを酸化脱水素してブタジエンを生成する工程;又は、
エチルベンゼンを酸化脱水素或いは脱水素してスチレンを生成する工程;であることを特徴とする反応生成物の製造方法。
【請求項7】
前記炭素数3の炭化水素がプロピレン又はプロパンであり、
前記炭素数4の炭化水素がイソブチレン、ブテン、ブタン、又はその誘導体であり、
前記炭素数3の不飽和脂肪族アルデヒドがアクロレインであり、
前記炭素数4の不飽和脂肪族アルデヒドがメタクロレインであり、
前記炭素数3の不飽和脂肪酸がアクリル酸であり、
前記炭素数4の不飽和脂肪酸がメタクリル酸であることを特徴とする請求項6に記載の反応生成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2011−72898(P2011−72898A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226357(P2009−226357)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(000176763)三菱化学エンジニアリング株式会社 (85)
【Fターム(参考)】