説明

プレート式反応器

【課題】伝熱管間の熱媒の漏れを防止し、高い効率で安定的に目的物を得ることができる反応器を提供する。
【解決手段】ガス状の原料を反応させるための反応容器と、伝熱管を有し、前記反応容器内に並んで設けられる複数の伝熱プレートと、前記伝熱管に熱媒を供給する装置と、を有し、
前記反応容器は、供給されたガスが、隣り合う伝熱プレート間の隙間を通って排出される容器であり、
前記伝熱プレートは、複数の前記伝熱管及び前記伝熱管と連結する連結部を含み、前記伝熱管は断面形状の周縁又は端縁で前記連結部を介して連結することで、前記伝熱管と前記連結部が交互に配置され、
隣り合う伝熱プレート間の隙間に触媒が充填されるプレート式反応器において、
前記連結部は、隣り合う前記伝熱管間において熱媒が漏洩しないように構成され、かつ反応原料ガスの流れ方向の長さが0.05mm以上40mm未満であることを特徴とするプレート式反応器により、課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレート式反応器及び該プレート式反応器を用いアクリル酸等を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン、又はアクロレインの気相接触酸化反応のような、発熱又は吸熱を伴い、粒状の固体触媒が用いられる気相反応に用いられる反応器としては、例えば、ガス状の原料を反応させるための反応容器と、伝熱管を有し、前記反応容器内に並んで設けられる複数の伝熱プレートと、前記伝熱管に熱媒を供給する装置と、を有し、前記反応容器は、供給されたガスが、隣り合う伝熱プレート間の隙間を通って排出される容器であり、前記伝熱プレートは、断面形状の周縁又は端縁で連結している複数の前記伝熱管を含み、隣り合う伝熱プレート間の隙間に触媒が充填されるプレート式反応器が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなプレート式反応器は、一般に、隣り合う伝熱プレート間の隙間に形成される複数の触媒層を有し、また伝熱プレートと触媒との接触性に優れていることから、前記気相反応による生成物を大量に効率よく製造する観点で優れている。
【0004】
また、プレート間の距離と熱媒流路である伝熱管の大きさを調整することで、触媒層の厚みを調整することができ、更に熱媒の流量を調整することで反応層の温度を調整できる。
【0005】
このようなプレート式反応器を構成する薄板からできた伝熱プレートは、特許文献1に開示されているように、円弧等のパターンが連続して形成された二枚の波板を、両波板のパターンの端に形成される凸縁で互いに接合することにより形成することができる。しかしながら、凸縁同士が接合した連結部が狭く接合が不十分である場合に、溶接時の電流などを調節して行われるが、電流が強すぎると薄板を貫通する小孔ができることがあり、熱媒流路から熱媒が漏れる。熱媒の漏れはプロセスガス側への熱媒流入となり、液状の熱媒で触媒が濡れることによる、触媒形状の変化、細孔の被覆が生じ、触媒性能を低下させる。また漏れた熱媒が反応器内部に堆積することで、反応ガス流れを不均一にして滞留時間を変化させ、副反応物を発生あるいは増加させたりする場合があり、工業的使用を行う場合には解決しなければならない問題点となっていた。また、薄板どうしの溶接が不十分だと熱媒流路である伝熱管が完全に分離されず、伝熱管間で熱媒の漏れが生じる場合には反応層での熱の授受が十分でなくなる傾向にある。その結果、触媒の劣化が起こり、目的物を高い収率で得られなくなる。
【特許文献1】特開2004−202430号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の問題を解決するためには、伝熱管同士を連結させる連結部を設け、さらに接合を確実にするために連結部を大きくすることが考えられる。しかしながら前記連結部は熱媒が流れない部分であることから、熱媒による伝熱が伝熱管本体部分よりも著しく小さい。そのため連結部付近に存在する触媒層は、適切に反応温度を維持することが難しく、触媒層の温度上昇は、触媒の劣化や目的物の収率の低下を招く問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究の結果、前記連結部の長さ、波板の高さ及
び隣り合う伝熱プレート間の距離に着目し、一定の関係を保つことで伝熱管間の熱媒の漏れを防止し、高い効率で安定的に目的物を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明は、
(1)ガス状の原料を反応させるための反応容器と、伝熱管を有し、前記反応容器内に並んで設けられる複数の伝熱プレートと、前記伝熱管に熱媒を供給する装置と、を有し、
前記反応容器は、供給されたガスが、隣り合う伝熱プレート間の隙間を通って排出される容器であり、
前記伝熱プレートは、複数の前記伝熱管及び前記伝熱管と連結する連結部を含み、前記伝熱管は断面形状の周縁又は端縁で前記連結部を介して連結することで、前記伝熱管と前記連結部が交互に配置され、
隣り合う伝熱プレート間の隙間に触媒が充填されるプレート式反応器において、
前記連結部は、隣り合う前記伝熱管間において熱媒が漏洩しないように構成され、かつ反応原料ガスの流れ方向の長さが0.05mm以上40mm未満であることを特徴とするプレート式反応器。
【0009】
(2)好ましくは、前記隣り合う伝熱プレートは、一方の伝熱プレートの表面の凸縁が他方の伝熱プレートの表面の連結部に対向するように並べられ、反応原料ガスの流れ方向と垂直方向における前記伝熱管の断面の最大長さをH(mm)、前記隣り合う伝熱プレート間の距離をP(mm)、伝熱プレートを形成する波板の板厚をT(mm)としたときに、下記式(1)
30 > P−2T−(H/2) ・・・(1)
を満たすことを特徴とするプレート式反応器である。
【0010】
(3)好ましくは、前記伝熱管の断面形状が円、楕円、又は多角形に賦形されていることを特徴とするプレート式反応器である。
【0011】
(4)好ましくは、前記熱媒がナイターあるいは高沸点有機物であることを特徴とするプレート式反応器である。
【0012】
(5)また、前記(1)〜(4)のいずれかに記載のプレート式反応器を用いたメタクロレイン、アクロレイン、メタクリル酸、アクリル酸、フタル酸、スチレン、ブタジエン又は酸化エチレンの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、伝熱管間の熱媒の漏れを防止し、高い効率で安定的に目的物を得るこ
とができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のプレート式反応器は、ガス状の原料を反応させるための反応容器と、伝熱管を有し、前記反応容器内に並んで設けられる複数の伝熱プレートと、前記伝熱管に熱媒を供給する熱媒供給装置とを有する。
【0015】
前記反応容器には、反応容器における通気方向に並列する複数の伝熱プレートと、隣り合う伝熱プレート間の隙間に触媒が充填されてなる、反応容器における通気方向に並列する複数の触媒層とが形成される。反応容器は、例えば、反応ガス入口出口側には反応ガスの入口出口の導入部を設置し、伝熱プレートはその伝熱プレートと平行な板で伝熱プレートを外側から保持し、熱媒の入口出口側はその熱媒収容部により保持され反応容器とする。他には、伝熱プレートの熱媒流路方向に対する横断面の形状が円弧であるシェルに全体
を収容することもできる。
【0016】
前記反応容器は、供給されたガスが隣り合う伝熱プレート間の隙間を通って排出される容器であり、通常、一対の通気口を有する。前記一対の通気口は、一方が反応容器に供給される原料ガスの供給口となり、他方が反応容器で生成した生成ガスの排出口となる。通気口の形態は、反応容器へのガスの供給と反応容器からのガスの排出とが行われる形状であれば特に限定されない。一対の通気口は、対向して設けられていることが好ましい。このような通気口としては、例えば、その容器の両端に設けられる一対の通気口が挙げられる。
【0017】
前記伝熱プレートは、複数の前記伝熱管及び前記伝熱管と連結する連結部を含み、前記伝熱管は断面形状の周縁又は端縁で前記連結部を介して連結することで、前記伝熱管と前記連結部が交互に配置される。
【0018】
従来の伝熱プレートは、断面形状の周縁又は端縁で連結している複数の伝熱管を含む形状であったが、本発明では、伝熱管同士が断面形状の周縁又は端縁で連結部を介して結合している。そのため伝熱管と連結部が交互に配置され、連結部の存在が伝熱プレート形成時の溶接を容易にしている。
【0019】
このような伝熱プレートは、円弧、楕円弧、多角形の一部等のパターンが連続し、各パターンとパターンの間に連結部となる平面部が形成された二枚の波板を、平面部で互いに接合することによって形成することができる。又は伝熱プレートは、複数の前記伝熱管の周縁又は端縁で板状の連結部を介して接合することで形成することができる。
【0020】
前記平面部及び伝熱管と連結部の接合は溶接により行うことができ、溶接方法については、抵抗溶接、TIG溶接などのアーク溶接、レーザー溶接などの方法により行うことができる。
【0021】
本発明では、伝熱プレートの前記連結部は、隣り合う前記伝熱管間において熱媒が漏洩しないように構成されている。隣り合う伝熱管間において熱媒が漏洩することで、熱媒流量の多い伝熱管と少ない伝熱管が生じ、結果として触媒層での熱の授受が不十分となり、触媒の劣化が生じ、目的物を高い収率で得られなくなる。
【0022】
上記連結部が、隣り合う伝熱管間において熱媒が漏洩しないよう構成するためには、例えば上記連結部が反応原料ガスの流れ方向に一定以上の長さを有し、かつ溶接を確実に行うことが挙げられる。しかしながら、上記連結部が長すぎる場合には、連結部は熱媒による伝熱が他の伝熱管部分と比較して著しく小さく断熱状態に近いため、発熱反応であれば触媒層の温度が上昇し、触媒の劣化を生じさせ、目的物収率が低下する傾向にある。そこで本発明者らは、前記連結部の反応ガス流れ方向の長さを一定の値に制御することで、伝熱管間の熱媒の漏れを防止し、高い効率で安定的に目的物を得ることができることを見出した。
【0023】
上記連結部の反応原料ガスの流れの方向の長さは、伝熱プレートにおいてそれぞれ一定であってもよく、異なっていても良いが、上記触媒の劣化の防止や収率の低下の防止の観点から、上記Zが0.05mm以上40mm未満である。好ましくは上記Zが0.5mm以上30mm未満であり、より好ましくは上記Zが1.0mm以上20mm未満である。
【0024】
伝熱プレートの形状は、反応容器の形状や大きさに応じて決められるが、一般に矩形である。また伝熱プレートの大きさは、反応容器の形状や大きさに応じて決められるが、例えば矩形の伝熱プレートである場合には、縦(すなわち伝熱管の連結高さ)が0.5〜1
0mであり、好ましくは0.5〜5m、さらに好ましくは0.5〜3mである。通常入手できる薄板鋼板のサイズから、1.5m以上の時は2枚のプレートを接合するか、組み合わせて用いることもできる。また、横(すなわち伝熱管の長さ)が0.1〜20mが用いられ、好ましくは通常3〜15mが用いられる。より好ましくは6〜10mである。
【0025】
反応容器において隣り合う伝熱プレートは、伝熱プレートの表面の凸縁が互いに対向するように並べられてもよいし、一方の伝熱プレートの表面の凸縁が他方の伝熱プレートの表面の連結部に対向するように並べられてもよい。本発明では、前記隣り合う伝熱プレートは、伝熱プレートの表面の凸縁が他方の伝熱プレートの表面の連結部に対向するように並べられ、反応原料ガスの流れ方向と垂直方向における前記伝熱管の断面の最大長さをHmm、前記隣り合う伝熱プレート間の距離をPmm、伝熱プレートを形成する波板の板厚をTmmとしたときに、下記式(1)
30 > P−2T−(H/2) ・・・(1)
を満たすことが好ましい。
【0026】
H、Pの値を上記の範囲内に制御することで、触媒の劣化や収率の低下を防止することできる。より好ましくは、25 > P−2T−(H/2) を満たす場合であり、更に好ましくは、20 > P−2T−(H/2) を満たす場合である。なお、上記式(1)の下限は触媒が充填可能な数値であれば特定されないが、例えば2.5より大きいことが好ましく、5より大きいことがより好ましい。
上記連結部の反応原料ガスの流れの方向の長さZ、反応原料ガスの流れ方向と垂直方向における前記伝熱管の断面の最大長さをH、前記隣り合う伝熱プレート間の距離をPについて図1に示す。
【0027】
隣り合う伝熱プレート間の距離Pは、伝熱管の横断方向において伝熱プレート間に3〜40mmの幅の隙間が形成されるように、各伝熱プレートにおける伝熱管の長軸間の距離で、10〜50mm(隣り合う伝熱プレートにおける伝熱管の幅の半値の和の1.1〜2倍)の範囲で設定することができる。
【0028】
一枚の伝熱プレート中の複数の伝熱管のそれぞれにおける断面の形状及び大きさは、一定であってもよいし異なっていてもよい。伝熱管の断面形状の大きさは、例えば伝熱管の幅即ち反応原料ガスの流れ方向と垂直方向における前記伝熱管の断面の最大長さHが5〜50mmであり、伝熱管の高さ即ち反応原料ガスの流れ方向と平行方向における前記伝熱管の断面の最大長さが10〜100mmである。
【0029】
伝熱プレートにおける伝熱管は、反応容器内の通気方向に対して直交する方向に延出するように形成されていること、すなわち伝熱管を流れる熱媒の方向が反応容器内の通気方向に対して直交する方向であること、が、伝熱管中の熱媒の温度の調整によって原料の反応を制御する観点から好ましい。
【0030】
前記伝熱管は、伝熱管内の熱媒と伝熱管に外接する触媒層との間で熱が交換される伝熱性を有する材料で形成される。このような材料としては、例えばステンレス、カーボンスチール、ハステロイ、チタン、アルミニウム、エンジニアリングプラスチック及び銅が挙げられる。好ましくはステンレスが用いられる。ステンレスでは304,304L,316,316Lが好ましい。また、伝熱管を構成する薄板の板厚は、2mm以下が好ましく、1mm以下がより好ましい。
【0031】
伝熱管の断面形状は、円形でもよいし、楕円形やラグビーボール型等の略円形でもよいし、矩形等の多角形でもよい。伝熱管の断面形状における周縁とは、円形における周縁を意味し、伝熱管の断面形状における端縁とは、略円形における長軸端の縁や、多角形にお
ける一角の縁を意味する。
【0032】
前記熱媒供給装置は、前記伝熱管に熱媒を供給する装置であればよい。このような熱媒供給装置としては、例えば、複数の伝熱管の全てに一方向に熱媒を供給する装置や、複数の伝熱管の一部に一方向に熱媒を供給し、複数の伝熱管の他の一部には逆方向に熱媒を供給する装置が挙げられる。熱媒供給装置は、前記伝熱管を介して反応管内外で熱媒を循環させる装置であることが好ましい。前記熱媒供給装置は、熱媒の温度を調整する装置を有することが、反応容器における反応を制御する観点から好ましい。
【0033】
前記熱媒供給装置により供給される熱媒は反応温度を制御できれば特に限定されるものではないが、複数の硝酸塩類の混合物である溶融塩(ナイター)や多環芳香族炭化水素混合物などからなる高沸点有機熱媒体が好ましい。
【0034】
隣り合う伝熱プレート間の隙間に充填される触媒には、気相反応で管又は伝熱プレート間の隙間に充填される通常の粒状の触媒を用いることができる。触媒は一種でも二種以上でもよい。このような触媒としては、例えば粒径(最長径)が1〜20mmであり、嵩密度が0.5〜2.0である触媒が挙げられる。また触媒の形状としては、例えば球状、円柱状、ラシヒリング状及び星形が挙げられる。
【0035】
本発明のプレート式反応器は、製造する目的物に応じて異なるが、触媒層の温度が高い条件では触媒の劣化や収率が低下するため、200℃〜600℃の反応温度が好ましく、200℃〜500℃の反応温度がより好ましく、最も好ましくは200℃から430℃である。また、大気圧〜3MPaGの反応圧力で行うことが好ましく、大気圧〜1000KPaGの反応圧力で行うことがより好ましく、大気圧〜500kPaGの反応圧力で行うことが更に好ましく、最も好ましくは 大気圧〜300kPaGである。
【0036】
本発明のプレート式反応器は、前述した構成以外の他の構成をさらに有していてもよい。このような他の構成としては、例えば仕切り、仕切り用係止部、及び通気栓が挙げられる。
【0037】
前記仕切りは、隣り合う伝熱プレート間の隙間に、反応容器内の通気方向に沿って設けられ、前記隙間に複数の区画を形成する部材である。前記仕切りは、各区画に充填物が充填されたときに、各区画に充填物を保持することができる部材が用いられる。このような仕切りとしては、例えば、ステンレス、カーボンスチール、ハステロイ、チタン、アルミニウム、エンジニアリングプラスチック及び銅製の板、角棒、丸棒、網、グラスウール、及びセラミック板が挙げられる。
【0038】
前記仕切りは、前記隙間への充填物の充填を区画単位で行い、充填物の正確かつ容易な充填を行う観点で好ましい。このような観点から、前記仕切りは、500Lの容積の区画を形成することが好ましく、また形成される全ての区画が同一容積であることが好ましい。
【0039】
前記仕切りは、仕切りの性状に応じて適宜に伝熱プレート間の隙間に設けることができる。例えば可撓性を有する仕切りや、伝熱プレート間の最短距離の幅を有する形状の仕切りは、予め反応容器に設置されている複数の伝熱プレートにおける隣り合う伝熱プレート間の隙間に挿入することによって伝熱プレート間の隙間に設けることができる。また、伝熱プレートの表面に密着する形状の仕切りは、反応容器に伝熱プレートを設置する際に、伝熱プレートと仕切りとを交互に設置することによって伝熱プレート間の隙間に設けることができる。
【0040】
プレート式反応器が前記仕切りをさらに有する場合は、充填物の充填は区画単位で行うことができる。この場合、前記充填物は、所定量の充填物を各区画に連続して又は断続的に充填することによって行うことができる。
【0041】
なお、充填物の適切な充填状態は、例えば各隙間又は区画に充填された触媒(触媒層)の天面の位置の対比や、各隙間又は区画における前記天面の実測値と計算値との比較によって判断することができる。
【0042】
前記仕切り用係止部は、可撓性を有する仕切りを、形成される区画から充填物が漏れないように前記隙間に保持するために、仕切りの端部を各区画の端部に係止する部材であり、溶接にて係止できるが、その他このような仕切り用部材としては、例えばフック、フックを係止するための輪、孔、窪み等が挙げられる。
【0043】
前記通気栓は、各区画の通気性と充填物の保持とを両立する部材であって、各区画の端部に着脱自在に固定される部材である。通気栓は、前記隙間から区画単位で充填物を抜き出す観点から好ましい。通気栓は、例えば孔とこの孔に進出する方向に付勢されている爪、及び、孔とボルト及びナット、等の対となる係止部を用いて、各区画の端部に着脱自在に固定することができる。
【0044】
本発明のプレート式反応器は、触媒層での熱の授受が効率的にできるので、熱の授受を必要とする反応であればいずれの原料、触媒、反応に対しても適用可能であるが、メタクロレイン、アクロレイン、メタクリル酸、アクリル酸、マレイン酸、フタル酸、スチレン、又は酸化エチレンの製造に用いることが好ましい。特にホットスポットのできやすいメタクロレイン、アクロレイン、メタクリル酸、アクリル酸の反応に用いることが好ましい。
【0045】
以下、本発明のプレート式反応器を、図面を用いてより具体的に説明する。
【0046】
本発明のプレート式反応器は、例えば図2〜4に示すように、反応容器外部1と、伝熱管2を有し、反応容器内に対向して並んで設けられる複数の伝熱プレート3と、伝熱管2に供給される熱媒を収容する熱媒収容部4、伝熱プレート3の上部及び下部に設けられる穴あき板6、7と、熱媒収容部4の熱媒を循環させるためのポンプ8と、循環する熱媒収容部4の熱媒の温度を調整するための温度調整装置9とを有する。
【0047】
反応容器外部1は、例えば通気方向に対する横断面の断面形状が矩形の通気路を形成している。反応器外部1は、その上端及び下端に、対向する一対の通気口10、10’を有しており、通気口10を含む反応容器端部11と、通気口10’を含む反応容器端部11’と、伝熱プレート3とそれを保持する外板とから構成されている。反応容器端部11、11’は、反応容器本体に対して着脱自在にそれぞれ接続されている。
【0048】
伝熱管2は、例えば長径が30〜50mmであり短径が10〜30mmの断面形状が楕円形の管である。
【0049】
伝熱プレート3は、複数の伝熱管2が断面形状の端縁で連結した形状を有している。伝熱プレート3は、楕円弧が連続し、各楕円弧と楕円弧の間に平面部が形成された二枚の波板を両波板の弧の端に形成される凸縁及び各楕円弧と楕円弧の間に形成される平面部で互いに接合することによって形成されている。
【0050】
隣り合う伝熱プレート3は、表面の凸縁同士が対向するように並列していてもよいが、図2のプレート式反応器では、図4に示すように、一方の伝熱プレート3の表面の凸縁3
aと、他方の伝熱プレート3の表面の連結部3bとが対向するように並列している。また伝熱プレート3は、反応容器全体において異なる間隔で並列していてもよいが、図2のプレート式反応器では、同じ間隔で並列している。
【0051】
伝熱プレート3は、例えば図5に示すように、断面の大きさが異なる三種の伝熱管2a〜2cを上部、中部、及び下部のそれぞれにおいて含んでいる。伝熱プレート3は、伝熱管2a〜2cの長軸が一直線上に配置されるように形成されている。例えば伝熱管2aは、伝熱プレート3の高さの20%分の伝熱プレート3を形成し、伝熱管2bは伝熱プレート3の高さの30%分の伝熱プレート3を形成し、伝熱管2cは伝熱プレート3の高さの40%分の伝熱プレート3を形成している。そして例えば、第一の伝熱プレート3の高さの10%分は、伝熱プレート3の上端部及び下端部の接合板部で形成されている。
【0052】
伝熱プレート3の上部に形成されている伝熱管2aの断面形状は、長径が50mmであり、短径が20mmの楕円形であり、伝熱プレート3の中部に形成されている伝熱管2bの断面形状は、長径が40mmであり、短径が16mmの楕円形であり、伝熱プレート3の下部に形成されている伝熱管2cの断面形状は、長径が30mmであり、短径が10mmの楕円形である。伝熱管間の連結部3bは、いずれも1mmである。
【0053】
なお、伝熱プレート3は、反応容器全体において異なる間隔で並列していてもよいが、図3のプレート式反応器では、同じ間隔(各伝熱プレート3の伝熱管の長軸間の距離が30mm)で並列している。
【0054】
熱媒収容部4は、反応器外部1の対向する一対の壁に設けられる容器であり、各伝熱管2に熱媒を供給するための供給口が前記壁に形成されており、例えば反応容器全体において、熱媒が伝熱管2を介して熱媒収容部4間を蛇行するように、所定の高さにおいて複数に区切られている。
【0055】
穴あき板6、7は、それぞれ、充填される充填物の最長径に対して0.20〜0.99倍の径を有する孔が20〜99%の開口率で設けられている板である。図2のプレート式反応器では、穴あき板6、7は、最も外側に配置される伝熱プレート3と反応容器外部1の壁との間の隙間への通気を防止するために、図4に示すように、最も外側に配置されている伝熱プレート3の端縁から反応容器外部1の壁までの隙間を塞ぐように形成されている。
【0056】
ポンプ8には、所望の温度の熱媒を移送することができる装置が用いられる。また、温度調整装置9には、熱媒の温度を所望の温度に制御することができる熱交換器等の装置が用いられる。熱媒収容部4、ポンプ8、及び温度調整装置9は熱媒供給装置を構成している。
【0057】
隣り合う伝熱プレート3間の隙間には、充填物が充填される。例えば隣り合う伝熱プレート3の隙間には、形状が円柱状であり、粒径(最長径)が5mmであり、嵩密度が0.8である触媒が充填される。
【実施例】
【0058】
以下、実施例を示すが、本発明は実施例に限られるものではない。
【0059】
<触媒>
実施例で使用した触媒は、特開昭63−54942号公報、特公平6−13096号公報、特公平6−38918号公報等に開示される方法により以下のように作成した。
パラモリブデン酸アンモン94重量部を純水400重量部に加熱溶解した。一方、硝酸
第二鉄7.2重量部、硝酸コバルト25重量部及び硝酸ニッケル38重量部を純水60重量部に加熱溶解させた。これらの溶液を十分に攪拌しながら混合し、スラリー状の溶液を得た。
次に、純水40重量部にホウ砂0.85重量部及び硝酸カリウム0.36重量部を加熱下で溶解させ、上記スラリーに加えた。次に粒状シリカ64重量部を加えて攪拌した。次に予めマグネシウムを0.8重量%複合した次炭酸ビスマス58重量部を加えて攪拌混合し、このスラリーを加熱乾燥した後、空気雰囲気下、300℃で1時間熱処理し、得られた粒状固体を、成型機を用いて直径4mm、高さ3mmの錠剤に打錠成型した。次に500℃、4時間の焼成を行って触媒を得た。
【0060】
得られた触媒は、Mo(12)Bi(5)Ni(3)Co(2)Fe(0.4)Na(0.2)Mg(0.4)B(0.2)K(0.1)Si(24)O(x)の組成の触媒粉(酸素の組成xは各金属の酸化状態によって定まる値である)の組成比を有する複合酸化物であった。
【0061】
<反応器>
実施例で用いた反応器について、図6に記載の構造のものの反応域1(61)のみを用いた。反応器の伝熱プレートは、波板形状の薄いステンレスプレート(板厚T:1mm)を2枚接合して反応温度調節用の熱媒体流路を形成し、伝熱管を有する伝熱プレートを得た。該接合した伝熱プレートの一対を用いて触媒固定床を形成した。
1対の接合波板プレートは平行に位置し、隣り合う伝熱プレート間の距離(図1におけるP)は26mmで、プレート幅は114mm、プレートの高さは600mmであった。反応原料ガス流れ方向における伝熱管の断面の長さを40mm(図1におけるL)、反応原料ガス流れ方向と垂直方向における伝熱管の断面の長さを20mm(図1におけるH)とし、熱媒流路間の距離Zを可動パラメータとした。
【0062】
<実施例1>
上記の反応器に上記触媒を充填し、プロピレンの酸化反応に関するシミュレーション行った。熱媒流路間の距離は1mmとし、熱媒流路には熱媒体として硝酸塩類混合物溶融塩(ナイター)を用い、反応域1(61)に温度を調節した熱媒体を供給した(熱媒体温度:350℃)。熱媒体の供給量は熱媒体の流速が毎秒0.7m(メートル)以上となるようにした。
原料ガスとして、プロピレン濃度が9.5モル%、水濃度9.5モル%、酸素濃度14.2モル%、窒素66.8%である反応原料混合ガスを毎時3378リットル(標準状態)の割合で反応器中に流入させ、反応器入口の圧力は0.07MPaG(メガパスカルゲージ)として反応を行った。プレートの態様、プロピレン(PP)転化率、目的物であるアクロレイン(ACR)とアクリル酸(AA)の合計収率、触媒層の最大温度を表1に示す。
【0063】
<実施例2>
実施例1における反応器の熱媒流路間距離Zを4mmに変更したものを使用し、それ以外は実施例1と同様の条件にて反応を行った。プレートの態様、プロピレン(PP)転化率、目的物であるアクロレイン(ACR)とアクリル酸(AA)の合計収率、触媒層の最大温度を表1に示す。
【0064】
<実施例3>
実施例1における反応器の熱媒流路間距離Zを8mmに変更したものを使用し、それ以外は実施例1と同様の条件にて反応を実施した。プレートの態様、プロピレン(PP)転化率、目的物であるアクロレイン(ACR)とアクリル酸(AA)の合計収率、触媒層の最大温度を表1に示す。
【0065】
<比較例1>
実施例1における反応器の熱媒流路間距離Zを40mmに変更したものを使用し、それ以外は実施例1と同様の条件にて反応を実施した。プレートの態様、プロピレン(PP)転化率、目的物であるアクロレイン(ACR)とアクリル酸(AA)の合計収率、触媒層の最大温度を表1に示す。
触媒層最大温度が450℃以上となったため、反応を停止した。
【0066】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0067】
プレート式反応器は、一般に気相反応による生成物を大量に効率よく製造する観点で優れており、本発明のプレート式反応器は、反応温度とその後の処理温度との温度差の大きな反応に好適に利用することができ、プレート式反応器の汎用性のさらなる拡大が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】反応プレート、伝熱管、連結部の構成を概略的に示す図である。
【図2】本発明のプレート式反応器の一実施の形態における構成を概略的に示す図である。
【図3】図1のプレート式反応器をA−A’線に沿って切断したときの断面を示す図である。
【図4】図1のプレート式反応器をB−B’線に沿って切断したときの断面を示す図である。
【図5】伝熱プレート3を示す図である。
【図6】本実施例で用いた反応器の構成を概略的に示す図である。
【符号の説明】
【0069】
1 反応容器外部
2 伝熱管
3、3a、3b 伝熱プレート
4 熱媒収容部
6、7 穴あき板
8 ポンプ
9 温度調整装置
10、10’ 通気口
11、11’ 反応容器端部
61 反応域1
62 反応域2
63 反応域3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス状の原料を反応させるための反応容器と、伝熱管を有し、前記反応容器内に並んで設けられる複数の伝熱プレートと、前記伝熱管に熱媒を供給する装置と、を有し、
前記反応容器は、供給されたガスが、隣り合う伝熱プレート間の隙間を通って排出される容器であり、
前記伝熱プレートは、複数の前記伝熱管及び前記伝熱管と連結する連結部を含み、前記伝熱管は断面形状の周縁又は端縁で前記連結部を介して連結することで、前記伝熱管と前記連結部が交互に配置され、
隣り合う伝熱プレート間の隙間に触媒が充填されるプレート式反応器において、
前記連結部は、隣り合う前記伝熱管間において熱媒が漏洩しないように構成され、かつ反応原料ガスの流れ方向の長さが0.05mm以上40mm未満であることを特徴とするプレート式反応器。
【請求項2】
前記隣り合う伝熱プレートは、一方の伝熱プレートの表面の凸縁が他方の伝熱プレートの表面の連結部に対向するように並べられ、反応原料ガスの流れ方向と垂直方向における前記伝熱管の断面の最大長さをH(mm)、前記隣り合う伝熱プレート間の距離をP(mm)、伝熱プレートを形成する波板の板厚をT(mm)としたときに、下記式(1)
30 > P−2T−(H/2) ・・・(1)
を満たすことを特徴とする、請求項1に記載のプレート式反応器。
【請求項3】
前記伝熱管の断面形状が円、楕円、又は多角形に賦形されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のプレート式反応器。
【請求項4】
前記熱媒がナイターあるいは高沸点有機物であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のプレート式反応器。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のプレート式反応器を用いたメタクロレイン、アクロレイン、メタクリル酸、アクリル酸、マレイン酸、フタル酸、スチレン、n−ブテン、イソブテン、n−ブタン、イソブタン、ブタジエン又は酸化エチレンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−69344(P2010−69344A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−235836(P2008−235836)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(000176763)三菱化学エンジニアリング株式会社 (85)
【Fターム(参考)】