説明

プロピレン系樹脂組成物およびこれから得られる発泡体

【課題】透明性に優れ、透過性と反射性のバランス性に優れ、発泡セル径のより小さな発泡シートまたはフィルムを提供すること。
【解決手段】シンジオタクティックプロピレン重合体(A)100〜50重量部と
プロピレン・α-オレフィン共重合体(B)0〜50重量部〔ただし、(A)と(B)との合計は100重量部)からなるプロピレン系樹脂組成物。
ここで、(A)はプロピレン単位90mol%〜100mol%と、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンから選ばれる一種以上単位を0〜10mol%を含むプロピレン系重合体(但し、合計して100mol%)であって、下記要件[1]〜[3]を満たし、[1] 13C−NMRにより測定される分率(rrrr)が85%以上。[2] 融点(Tm)が145℃以上であり、且つ融解熱量(ΔH)が40mJ/mg以上。[3] 135℃における極限粘度([η]、単位 dL/g)と、230℃における溶融張力(MT、単位 mN)とが下記関係式(Eq-1)を満たす。
0.25×[η]4.8≦MT≦2.00×[η]4.8 ---- (Eq-1)
(B)は、プロピレン単位50mol%〜100mol%と、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンから選ばれる一種以上単位を0〜50mol%を含むプロピレン系重合体(但し、合計して100mol%)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンジオタクティックプロピレン重合体とプロピレン・α-オレフィン共重合体からなる発泡体用樹脂組成物、およびこれから得られる発泡シートまたはフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂からなる発泡シートは、一般に軽量で、断熱性や外部応力への緩衝性が良好であり、また、加熱成形の容易さから、食品容器や緩衝材、断熱材、自動車用部材などの用途で幅広く利用されている。特に、近年の環境負荷低減意識の高まりから、発泡シートの持つ軽量性が改めて注目されるようになってきた。
【0003】
これらの熱可塑性樹脂発泡シートの中でも、ポリプロピレン系樹脂から得られる発泡シートは、その樹脂特性(耐熱性、耐油性など)の優秀さが認識されて、近年よく使用量が増加している。一方で、成形体に収容される物品(例えば、食品、FDP部品や電子部品など)によっては、易成形性に加え、光線透過がし易いように、あるいは収容物品を外部から易認識できるよう、成形体に透明性を求められる場合がある。従来のポリプロピレン系樹脂発泡シートは、樹脂自体の性質に起因して、あるいは発泡セル径やセル分散性などの理由によって透明性に劣ることが多かった。
【0004】
特に、樹脂を主材料として製造され、FDP用途で不可欠な部材である光拡散透過性を有する光拡散板は、照明カバー、内部照明式看板、透過型ディスプレイなどの用途に広く用いられている。特に近年では、液晶ディスプレイあるいは液晶テレビの直下型バックライト用の面光源体としての光拡散板の需要が伸びている。光拡散板は、上記の機能を好適に発揮するために、光線をできる限り直進させることなく散乱させるとともに、できる限り散乱による光透過損失を抑えることが求められる。言い換えれば、光拡散板は、低い平行光線透過率と高い光透過率(全光線透過率)を併せ持つことが光拡散板の要求特性である。このような要求特性を発現させるために、従来、透明性樹脂に炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタンなどの無機系粒子を添加する方法、スチレン系重合体粒子などの部分的に架橋したポリマー微粒子を添加する方法、あるいはこれらを併用する方法により、添加物によって光を散乱させる手法が採用されてきたが、重量の問題、コストの問題など解決すべき課題は多いとされてきた。
【0005】
光拡散性能をより高めること等を目的として、樹脂発泡体を用いた光拡散シートや照明器具部品等も、種々提案されている(特許文献1)。例えば、発泡シートまたはフィルムの透明性を向上させるために、成形体中の発泡セル数や大きさを制御する方法(特許文献2)も提案されているが、透明性に優れ、且つ軽量性に寄与するほど密度を低下できる発泡成形体、つまり高い発泡倍率の高透明発泡シートまたはフィルムを得ることが困難であった。
【特許文献1】特許第2521388号公報
【特許文献2】特開2004−99701号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、透明性に優れ、透過性と反射性のバランス性に優れ、発泡セル径のより小さな発泡シートまたはフィルムを開発すべく鋭意検討を重ねた結果、特定のシンジオタクティックプロピレン重合体(A)と、特定のプロピレン・α-オレフィン共重合体(B)が特定の割合でブレンドされたプロピレン系樹脂組成物が、これら課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、シンジオタクティックプロピレン重合体(A)100〜50重量部とプロピレン・α-オレフィン共重合体(B)0〜50重量部〔ただし、(A)と(B)との合計は100重量部である)からなることを特徴とするプロピレン系樹脂組成物に関する。
【0008】
ここで、シンジオタクティックプロピレン重合体(A)は、プロピレンから導かれる構成単位90mol%〜100mol%と、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンから選ばれる一種以上から導かれる構成単位を0〜10mol%を含むプロピレン系重合体(但し、合計して100mol%)であって、下記の要件[1]〜[3]を同時に満たし、
[1] 13C−NMRにより測定されるシンジオタクティックペンタッド分率(rrrr)が85%以上である。
[2] DSCより求められる融点(Tm)が145℃以上であり、且つ融解熱量(ΔH)が40mJ/mg以上である。
[3] 135℃における極限粘度([η]、単位 dL/g)と、230℃における溶融張力(MT、単位 mN)とが下記関係式(Eq-1)を満たす。
0.25×[η]4.8≦MT≦2.00×[η]4.8 ---- (Eq-1)
【0009】
プロピレン・α-オレフィン共重合体(B)は、
プロピレンから導かれる構成単位50mol%〜100mol%と、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンから選ばれる一種以上から導かれる構成単位を0〜50mol%を含むプロピレン系重合体(但し、合計して100mol%)である。
本発明は、前記プロピレン系樹脂組成物を発泡させて得られる発泡体に関する。
前記発泡体の平均セル径は、0.1〜100μmであることが望ましい。
また前記発泡体の好ましい態様は、膜厚が、10〜2000μmの発泡シートまたはフィルムである。
【0010】
本発明は、さらに前記プロピレン系樹脂組成物に超臨界状ガスを浸透させた後、冷却することを特徴とする発泡体の製造方法に係る。
【発明の効果】
【0011】
透明性に優れ、透過性と反射性のバランス性に優れ、発泡セル径のより小さな発泡シートまたはフィルムが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を説明する。
本発明のフィルムは、プロピレンから導かれる構成単位90mol%〜100mol%と、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンから選ばれる一種以上から導かれる構成単位を0〜10mol%を含むプロピレン系重合体(但し、合計して100mol%)であって、下記要件[1]〜[3]を同時に満たすシンジオタクティックプロピレン重合体(A)100〜10重量部と、プロピレンから導かれる構成単位50mol%〜100mol%と、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンから選ばれる一種以上から導かれる構成単位を0〜50mol%を含むプロピレン系重合体(B)(但し、合計して100mol%)0〜90重量部からなる。
【0013】
以下、シンジオタクティックプロピレン重合体(A)、プロピレン・α-オレフィン共重合体(B)、成分(A)および成分(B)から構成されるフィルムについて順次説明する。
【0014】
シンジオタクティックプロピレン重合体(A)
本発明に係るシンジオタクティックプロピレン重合体(A)は、プロピレンから導かれる構成単位を90mol%〜100mol%と、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンから選ばれる一種以上から導かれる構成単位を0mol%〜10mol%とを含むプロピレン重合体(但し、合計して100mol%)である。該シンジオタクティックプロピレン重合体(A)は、前記した要件[1]および[2]を満たす限りは、ホモポリプロピレンであっても、プロピレン・炭素原子数2〜20のα−オレフィン(プロピレンを除く)ランダム共重合体であっても、プロピレンブロック共重合体であってもよいが、好ましくはホモポリプロピレン、あるいはプロピレンと炭素原子数2〜20のα−オレフィン(プロピレンを除く)ランダム共重合体である。
【0015】
ここで、炭素原子数4〜20のα−オレフィンとしては、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどが挙げられる。なお本発明に係るシンジオタクティックプロピレン重合体(A)は通常、プロピレンから導かれる構成単位を90mol%以上100mol%以下と炭素原子数2〜20のα−オレフィン(プロピレンを除く)から導かれる構成単位を0mol%以上10mol%以下とを含むプロピレン重合体(但し、構成単位の合計は100mol%である。)であり、好ましくはプロピレンから導かれる構成単位を91mol%以上100mol%以下と炭素原子数2〜20のα−オレフィン(プロピレンを除く)から導かれる構成単位を0mol%以上9mol%以下とを含むプロピレン重合体(但し、構成単位の合計は100mol%である。)であり、さらに好ましくはプロピレンから導かれる構成単位を96mol%以上100mol%以下と炭素原子数2〜20のα−オレフィン(プロピレンを除く)から導かれる構成単位を0mol%以上4mol%以下とを含むプロピレン重合体(但し、構成単位の合計は100mol%である。)である。
【0016】
なお、本発明に係るシンジオタクティックプロピレン重合体(A)は、プロピレン・α−オレフィンランダム共重合体である場合には、プロピレンから導かれる構成単位を94〜99.9mol%、および炭素原子数2〜20のα−オレフィン(プロピレンを除く)から導かれる構成単位を0.1〜8mol%の量で、好ましくはプロピレンから導かれる構成単位を93〜99.9mol%、および炭素原子数2〜20のα−オレフィン(プロピレンを除く)から導かれる構成単位を0.1〜7mol%、更に好ましくはプロピレンから導かれる構成単位を94〜99.9mol%、および炭素原子数2〜20のα−オレフィン(プロピレンを除く)から導かれる構成単位を0.1〜6mol%の量で含有していることが好ましい。これらのシンジオタクティックプロピレン重合体(A)のうちでも耐熱性等の点から、ホモポリプロピレンがさらに好ましい。
【0017】
本発明に係わるシンジオタクティックプロピレン重合体(A)は下記要件[1]〜[3]を同時に満たすことを特徴としている。
[1] 13C−NMRにより測定されるシンジオタクティックペンタッド分率(rrrr分率)が85%以上である。
[2] DSCより求められる融点(Tm)が145℃以上であり、且つ融解熱量(ΔH)が40mJ/mg以上である。
[3] 135℃における極限粘度([η]、単位 dL/g)と、230℃における溶融張力(MT、単位 mN)とが下記関係式(Eq-1)を満たす。
0.25×[η]4.8≦MT≦2.00×[η]4.8 ---- (Eq-1)
【0018】
以下各要件について詳説する。
要件 [1]
本発明に係るシンジオタクティックプロピレン重合体(A)は、NMR法により測定したシンジオタクティックペンタッド分率(rrrr分率、ペンタッドシンジオタクティシテー)が85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、さらに好ましくは94%以上であるものであり、rrrr分率がこの範囲にあるシンジオタクティックプロピレン重合体は成形性、耐熱性と透明性に優れ、結晶性のポリプロピレンとしての特性が良好で好ましい。なおrrrr分率の上限は特にはないが100%以下であり、通常は例えば99%以下である。
【0019】
このシンジオタクティックペンタッド分率(rrrr分率)は、以下のようにして測定される。
【0020】
rrrr分率は、13C−NMRスペクトルにおけるPrrrr(プロピレン単位が5単位連続してシンジオタクティック結合した部位における第3単位目のメチル基に由来する吸収強度)およびPw (プロピレン単位の全メチル基に由来する吸収強度)の吸収強度から下記式(1)により求められる。
rrrr分率(%)=100×Prrrr/Pw …(1)
【0021】
NMR測定は、たとえば次のようにして行われる。すなわち、試料0.35gをヘキサ
クロロブタジエン2.0mlに加熱溶解させる。この溶液をグラスフィルター(G2)で
濾過した後、重水素化ベンゼン0.5mlを加え、内径10mmのNMRチューブに装入
する。そして日本電子製GX−500型NMR測定装置を用い、120℃で13C−NMR測定を行う。積算回数は、10,000回以上とする。
【0022】
rrrr分率がこの範囲にあるシンジオタクティックプロピレン重合体は成形性、耐熱性と機械特性に優れ、結晶性のポリプロピレンとしての特性が良好で好ましい。
【0023】
要件 [2]
本発明に係るシンジオタクティックプロピレン重合体(A)の、示差走査熱量計(DSC)測定により得られる融点(Tm)が、145℃以上、好ましくは150℃以上であり、さらに好ましくは155℃以上であり、さらに同時に得られる融解熱量(ΔH)は40mJ/mg以上、好ましくは50mJ/mg以上、さらに好ましくは55mJ/mg以上であることが好ましい。
【0024】
示差走査熱量測定はたとえば次のようにして行われる。試料5mg程度を専用アルミパンに詰め、パーキンエルマー社製DSCPyris1またはDSC7を用い、30℃から200℃までを320℃/minで昇温し、200℃で5分間保持したのち、200℃から30℃までを10℃/minで降温し、30℃でさらに5分間保持したのち、次いで10℃/minで昇温する際の吸熱曲線より求めた値である。なお、DSC測定時に、複数のピークが検出される場合は、最も高温側で検出されるピークを、融点(Tm)と定義している。この範囲のものは成形性、耐熱性と機械特性に優れる。
【0025】
要件[3]
135℃における極限粘度([η]、単位 dL/g)と、230℃における溶融張力(MT、単位 mN)とが下記関係式(Eq-1)、好ましくは下記関係式(Eq-2)を満たす。
0.25×[η]4.8≦MT≦2.00×[η]4.8 ---- (Eq-1)
0.27×[η]4.8≦MT≦1.98×[η]4.8 ---- (Eq-2)
【0026】
この範囲にあるシンジオタクティックプロピレン重合体(A)を含むプロピレン系樹脂組成物は、分子量あたりの溶融張力に優れることから、溶融加工性に優れその結果発泡時の発泡セル径の微細化につなげられる。なお、前記溶融張力MTは東洋精機社製キャピログラフIBを用い、下記の条件で測定した値である。
【0027】
キャピラリー :直径2.095mm,長さ8.0mm シリンダー径 :9.55mm シリンダー押出速度:10mm/分 巻き取り速度 :3.14m/分 温度 :230℃
【0028】
プロピレン系重合体(B)
本発明に係るプロピレン系重合体(B)は、プロピレンから導かれる構成単位50mol%〜100mol%と、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンから選ばれる一種以上から導かれる構成単位を0〜50mol%を含むプロピレン系重合体(B)(但し、合計して100mol%)である。炭素原子数4〜20のα−オレフィンとしては、前記シンジオタクティックプロピレン重合体(A)の説明で述べたα−オレフィンが挙げられる。プロピレン系重合体(B)としては、例えば、本出願人によって出願公開されているWO2006/123759号パンフレットに記載されているような公知の重合体をそのまま用いることができる。
【0029】
成分(A)および成分(B)から構成される組成物
本発明に係る、シンジオタクティックプロピレン重合体(A)100〜10重量部、好ましくは100〜20重量部、更に好ましくは100〜30重量部と、プロピレン・α-オレフィン共重合体(B)0〜90重量部、好ましくは0〜80重量部、更に好ましくは0〜70重量部〔ただし、(A)と(B)との合計は100重量部である)からなる組成物を公知の方法、例えば、スラリー相、溶液相または気相による連続式またはバッチ式に多段重合する方法、ヘンシェルミキサー、Vブレンダー、リボブレンダー、タンブラブレンダー等で混合する方法、あるいは混合後に一軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等で溶融混合後、造粒あるいは粉砕する方法を採用することによって、本発明のプロピレン系樹脂組成物に変換することができる。
【0030】
本発明に係るプロピレン系樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、耐候安定剤、耐熱安定剤、耐電防止剤、スリップ防止剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、透明核剤、滑剤、顔料、染料、可塑剤、老化防止剤、塩酸吸収剤、酸化防止剤等の添加剤を必要に応じて配合されていてもよい。
【0031】
また本発明に係るプロピレン系樹脂組成物は、発泡性を調整する目的で特定の任意成分である核剤を含んでも良い。この場合、例えば核剤はジベンジリデンソルビトール系核剤、リン酸エステル塩系核剤、ロジン系核剤、安息香酸金属塩系核剤等であり、配合量は特に制限はないが、プロピレン系重合体組成物に対して0.1〜1重量部程度があることが好ましい。
【0032】
本発明に係るプロピレン系樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレンまたはスチレン系エラストマーから選ばれる少なくても1種の重合体(C)を含んでいてもよい。重合体(C)としては公知の市販ポリマーをそのまま使用できる。
【0033】
発泡体
前記したプロピレン系樹脂組成物を、高圧ガスと接触させることにより、樹脂組成物に高圧ガスを含浸させることができる。高圧ガスと接触させる際の樹脂組成物の形態としては、フィルム状、シート 状等の樹脂成形品であってもよいし、溶融状のプロピレン系樹脂組成物であってもよいが、フィルム状またはシート状であることが好ましい。プロピレン系樹脂組成物と高圧ガスとを接触させる方法としては、例えば、プロピレン系樹脂組成物成形体を耐圧容器内に入れ、この中に高圧ガスを注入してもよいし、溶融状態の樹脂を耐圧容器内、押出成形機内、射出成形機内等に入れ、この中に高圧ガスを注入してもよい。
【0034】
高圧ガスとしては、例えば、二酸化炭素、窒素、アルゴン、水素、酸素、ブタン、プロパン等が挙げられ、必要に応じてその2種以上を用いることができ、例えば、空気を用いてもよい。中でも、樹脂に対する不活性さ、樹脂への溶解性、取扱い性の観点から、二酸化炭素が好ましい。二酸化炭素を用いる場合、その濃度は、通常80容量%以上である。
【0035】
プロピレン系樹脂組成物と接触させる高圧ガスの圧力は、通常1MPa以上、好ましくは20MPa以上である。上限については特に限定されないが、経済性や操作性の点から、通常50MPa以下である。該圧力が高いほど、得られる発泡体の気泡径が小さくなる傾向にあるので好ましい。
【0036】
プロピレン系樹脂組成物と接触させる高圧ガスの温度は、樹脂組成物の形態により適宜選択され、通常300℃以下、好ましくは200℃以下である。下限については特に限定されないが、経済性や操作性の観点から、通常0℃以上である。該温度が低いほど、得られる樹脂発泡 体の気泡径が小さくなる傾向にある。
【0037】
プロピレン系樹脂組成物と高圧ガスとの接触時間は、樹脂の形態により適宜選択され、樹脂組成物溶融体を用いる場合は、通常1秒以上、好ましくは1分以上であり、フィルムまたはシート状の成形体を用いる場合は、通常1時間以上、好ましくは3時間以上である。上限については特に限定されないが、樹脂に高圧ガスが十分に含浸、拡散され、樹脂中の溶存ガスが飽和溶解量に達した後は、時間に見合う効果が乏しいので、生産効率の観点から、通常100時間以内である。
【0038】
プロピレン系樹脂組成物と接触させる高圧ガスの状態としては、超臨界状態または液体状態が挙げられるが超臨界状態であることが好ましい。なお、高圧ガスが超臨界状態にあるとは、高圧ガスの温度、圧力が臨界点以上にあることを意味し、この状態では圧力を変えることで密度、粘度、拡散係数等を気体に近い状態から液体に近い状態まで幅広く変えることができる。高圧ガスの臨界点は、高圧ガスの種類により異なり、例えば、二酸化炭素では、臨界温度304.2K、臨界圧力7.4MPaであり、窒素では、臨界温度126.2K、臨界圧力3.4MPaである。2種類以上混合ガスの場合には、ガス成分の種類、混合比に応じて臨界点が存在する。
【0039】
高圧ガスを接触、含浸させた樹脂組成物またはシート状、フィルム状成形体は、通常、常圧程度にまで周囲圧力を下げる、すなわち減圧することにより、発泡させることができる。減圧の過程においては、通常、樹脂中の溶存ガスの一部が樹脂組成物外部へ抜け、ジュール−トムソン膨張することにより樹脂組成物が冷却される。減圧速度は適宜調整すればよいが、減圧速度が遅い程、樹脂中の溶存ガスが樹脂外部へ抜ける量が多くなり、発泡 体中の気泡数が少なくなる。減圧終了後は、通常1時間以内、好ましくは5分以内に下記低温保持を行う。
【0040】
発泡させた樹脂組成物を、次いで15℃以下、好ましくは10℃以下、さらに好ましくは5℃以下の温度にて保持する。この様な低温保持を行うことにより、透明性の高い樹脂発泡体を得ることができる。保持温度の下限については特に限定されないが、操作性の観点から、通常0℃以上である。
【0041】
上記低温保持の時間は、溶存ガスを十分に樹脂組成物外部に抜けさせる目的から、通常1分以上、好ましくは5分以上、さらに好ましくは1時間以上である。保持時間の上限については特に限定されないが、操作性の観点から、通常24時間以内である。また、該保持に用いる媒体としては、例えば、冷水やオイル等の液体やフロン等の気体が挙げられ、樹脂に直接または間接的に接触させればよい。
【0042】
上記した発泡方法によって、本発明の発泡体を得ることができる。その発泡倍率は、通常1.01以上、好ましくは1.03以上、さらに好ましくは1.05以上であり、かつ、該樹脂発泡体を厚さ1mmのシート とした場合の全光線透過率は、通常10%以上、好ましくは30%以上、さらに好ましくは50%以上である。発泡倍率は、得られた樹脂発泡 体の体積を原料樹脂の体積で除することにより求めることができる。また、全光線透過率は、ASTM D−1003に定める方法により測定することができる。
本発明の発泡体の平均セル径は、通常0.1〜100μm、好ましくは1〜20μmである。
【0043】
上記した方法によって得られる、本発明の樹脂発泡体の用途としては、例えば、照明カバー、看板、建築材料の他、レンズ、プリズム、ディスプレイなどの反射防止膜、導光板、偏光フィルム等の光学材料が挙げられる。特に、本発明の方法により得られる樹脂発泡 体は、透明性に優れることから光学材料に好適に用いることができる。
【0044】
[実施例]
次に本発明を実施例に基づき詳述に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。本発明において採用した分析方法は以下の通りである。
【0045】
[m1] 重合体中のエチレン含量、プロピレン含量とα−オレフィン含量
日本電子製JNM GX-400型NMR測定装置を用いた。試料0.35gをヘキサクロロブタジエン 2.0mlに加熱溶解させる。この溶液をグラスフィルター(G2)濾過した後、重水素化ベンゼン 0.5mlを加え内径10mmのNMRチューブに装入して、120℃で13C−NMR測定を行う。積算回数は8000回以上とする。得られらた13C−NMRスペクトルにより、重合体中のエチレン含量、プロピレン含量とα−オレフィン含量を定量した。
【0046】
[m2] 極限粘度([η])〕
デカリン溶媒を用いて、135℃で測定した値である。すなわち造粒ペレット約20mgをデカリン15mlに溶解し、135℃のオイルバス中で比粘度ηspを測定する。このデカリン溶液にデカリン溶媒を5ml追加して希釈後、同様にして比粘度ηspを測定する。この希釈操作をさらに2回繰り返し、濃度(C)を0に外挿した時のηsp/Cの値を極限粘度として求める。
[η]=lim(ηsp/C) (C→0)
【0047】
[m3] 融点(Tm)、融解熱量ΔHおよび結晶化温度(Tc)
パーキンエルマー社製示差走査熱量測定装置 DSCPyris1またはDSC7を用い、窒素雰囲気下(20ml/min)、約5mgの試料を200℃まで昇温・10分間保持した後、10℃/分で30℃まで冷却した時の結晶化ピーク頂点から結晶化温度Tcを算出した。また、30℃で5分間保持した後、10℃/分で200℃まで昇温させた時の結晶溶融ピークのピーク頂点から融点、さらに融解曲線から融解熱量ΔHを算出した。
【0048】
[m4] 立体規則性(rrrr)
立体規則性(rrrr)は13C−NMRスペクトル測定から算出した。
【0049】
[m5] ノルマルデカン可溶部量
サンプル5gにn−デカン200mlを加え、145℃で30分間加熱溶解した。約3時間かけて、20℃まで冷却させ、30分間放置した。その後、析出物(n−デカン不溶部)をろ別した。ろ液を約3倍量のアセトン中に入れ、n−デカン中に溶解していた成分を析出させた。析出物をアセトンからろ別し、その後乾燥した。なお、ろ液側を濃縮乾固しても残渣は認められなかった。n−デカン可溶部量は、以下の式によって求めた。
n−デカン可溶部量(wt%)=[析出物重量/サンプル重量]×100
【0050】
[m6] 溶融張力(MT)
東洋精機社製キャピログラフIBを用いて以下の条件にて測定した。
キャピラリー :直径2.095mm,長さ8.0mm シリンダー径 :9.55mm シリンダー押出速度:10mm/分 巻き取り速度 :3.14m/分 温度 :230℃
【0051】
[m7] 発泡体の平均セル径
発泡体を液体窒素中に含浸させた後、取り出した発泡体を破断する。その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察して、その断面画像を解析して算出した。
【0052】
[m8] 発泡体の比重
比重計を用いて測定した。
【0053】
[m9] 発泡フィルムの膜厚
マイクロメーターを用いて測定した。
【0054】
〔合成例1〕
−シンジオタクティックプロピレン重合体(A1)の製造−
充分に窒素置換した内容量500mlのガラス製オートクレーブにトルエン250mlを装入し、プロピレンを150リットル/時間の量で流通させ、25℃で20分間保持させておいた。一方、充分に窒素置換した内容量30mlの枝付きフラスコにマグネチックスターラーを入れ、これにメチルアルミノキサンのトルエン溶液(Al=1.53mol/l)を5.00mmol、次いでジベンジルメチレン(シクロペンタジエニル)(2,7-ジフェニル-3,6-ジ-tert-ブチルフルオレニル)ジルコニウムジクロリドのトルエン溶液5.0μmolを加え、20分間攪拌した。この溶液を、プロピレンを流通させておいたガラス製オートクレーブのトルエンに加え、重合を開始した。プロピレンガスを150リットル/時間の量で連続的に供給し、常圧下、50℃で10分間重合を行った後、少量のメタノールを添加し重合を停止した。ポリマー溶液を大過剰のメタノールに加え、ポリマーを析出させ、80℃で12時間、減圧乾燥を行った結果、ポリマー6.95gが得られた。重合活性は7.58kg-PP/mmol-Zr・hrであり、得られたポリマーの[η]は1.6dL/g、Tm=154/160℃であり、rrrr分率=94%であった。この操作を繰り返して、必要量のポリマーを得て実施例に使用した。諸物性を表1及び表2に示した。
【0055】
〔合成例2〕
−プロピレン・α−オレフィン共重合体(B1)の製造−
充分に窒素置換した2000mlの重合装置に、833mlの乾燥ヘキサン、1-ブテン120gとトリイソブチルアルミニウム(1.0mmol)を常温で仕込んだ後、重合装置内温を60℃に昇温し、プロピレンで系内の圧力を0.33MPaになるように加圧した後に、エチレンで、系内圧力を0.63MPaに調整した。次いで、ジ(p-クロロフェニル)メチレン(シクロペンタジエニル)(オクタメチルオクタヒドロジベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリド0.002mmolとアルミニウム換算で0.6mmolのメチルアルミノキサン(東ソー・ファインケム社製)を接触させたトルエン溶液を重合器内に添加し、内温60℃、系内圧力を0.63MPaにエチレンで保ちながら20分間重合し、20mlのメタノールを添加し重合を停止した。脱圧後、2Lのメタノール中で重合溶液からポリマーを析出し、真空下130℃、12時間乾燥した。得られたポリマーは、97gであり、135℃デカリン中で測定した[η]=2.2(dL/g)であった。得られたポリマーについて測定した物性を表1および表2に示す。
【0056】
−シンジオタクティックプロピレン重合体(A2)−
シンジオタクティックプロピレン重合体(A2)として、Total社製シンジオタクティックポリプロピレン(商品名;FINAPLAS1471、230℃、2.16kg荷重下のMFR=4.0g/10min)を用いた。物性を表1及び表2にまとめた。
【0057】
−シンジオタクティックプロピレン重合体(A3)−
重合温度を40℃にした以外は、合成例1と同様に調製したシンジオタクティックプロピレン重合体である。物性を表2にまとめた。
−シンジオタクティックプロピレン重合体(A4)−
シンジオタクティックプロピレン重合体(A3)に、日本油脂社製パーヘキシン25Bを0.1phr含浸させた後、東洋精機社製ラボプラストミルにて190℃ 50rpm 5分間溶融混練することにより(A4)を得た。物性を表2に示した。
【0058】
−アイソタクテイックランダムプロピレンポリマー(C1)−
プライムポリマー社製ランダムプロピレンポリマー(商品名:F327)を用いた。物性を表1及び表2に示した。
【0059】
−アイソタクテイッホモプロピレンポリマー(C2)−
プライムポリマー社製プロピレンホモポリマー(商品名:B102W)を用いた。物性を表2にまとめた。
【実施例1】
【0060】
合成例1で得られたシンジオタクティックポリプロピレン(A1)100重量部に対して、トリ(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェートを0.2重量部に配合する。しかる後に株式会社プラスチック工学研究所社製2軸押出機BT-30(スクリュー径30mm、L/D=46)を用い、設定温度230℃、樹脂押出量3kg/hrで造粒してペレットとした。造粒ペレットを試料として、超臨界CO含量5%、押出ダイス温度150℃にてフィルム成形を実施した。発泡体性状を表3に示した。
【実施例2】
【0061】
実施例1において、超臨界CO含量11%、押出ダイス温度150℃にてフィルム成形を実施した。発泡体性状を表3に示した。
【実施例3】
【0062】
合成例1で得られたシンジオタクティックポリプロピレン(A1)75重量に、合成例2で得られたプロピレン・α−オレフィン共重合体(B1)25重量部に対して、トリ(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェートを0.2重量部に配合する。しかる後に株式会社プラスチック工学研究所社製2軸押出機BT-30(スクリュー径30mm、L/D=46)を用い、設定温度230℃、樹脂押出量3kg/hrで造粒してペレットとした。造粒ペレットを試料として、超臨界CO含量5%、押出ダイス温度150℃にてフィルム成形を実施した。発泡体性状を表3に示した。
【0063】
〔比較例1〕
プライムポリマー社製ポリプロピレンB102(C2)を試料として超臨界CO含量5%、押出ダイス温度150℃にてフィルム成形を実施した。発泡体性状を表3に示した。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0067】
透明性に優れ、透過性と反射性のバランス性に優れ、発泡セル径のより小さな発泡シートまたはフィルムが提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンジオタクティックプロピレン重合体(A)100〜50重量部と
プロピレン・α-オレフィン共重合体(B)0〜50重量部〔ただし、(A)と(B)との合計は100重量部である)からなることを特徴とするプロピレン系樹脂組成物。
ここで、シンジオタクティックプロピレン重合体(A)は、
プロピレンから導かれる構成単位90mol%〜100mol%と、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンから選ばれる一種以上から導かれる構成単位を0〜10mol%を含むプロピレン系重合体(但し、合計して100mol%)であって、下記の要件[1]〜[3]を同時に満たし、
[1] 13C−NMRにより測定されるシンジオタクティックペンタッド分率(rrrr)が85%以上である。
[2] DSCより求められる融点(Tm)が145℃以上であり、且つ融解熱量(ΔH)が40mJ/mg以上である。
[3] 135℃における極限粘度([η]、単位 dL/g)と、230℃における溶融張力(MT、単位 mN)とが下記関係式(Eq-1)を満たす。
0.25×[η]4.8≦MT≦2.00×[η]4.8 ---- (Eq-1)
プロピレン・α-オレフィン共重合体(B)は、
プロピレンから導かれる構成単位50mol%〜100mol%と、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンから選ばれる一種以上から導かれる構成単位を0〜50mol%を含むプロピレン系重合体(但し、合計して100mol%)である。
【請求項2】
請求項1記載のプロピレン系樹脂組成物を発泡させて得られる発泡体。
【請求項3】
平均セル径が、0.1〜100μmであることを特徴とする請求項2記載の発泡体。
【請求項4】
膜厚が10〜2000μmの発泡シートまたはフィルムであることを特徴とする請求項2または3に記載の発泡体。
【請求項5】
請求項1記載のプロピレン系樹脂組成物に超臨界状ガスを浸透させた後、冷却することを特徴とする発泡体の製造方法。

【公開番号】特開2009−242667(P2009−242667A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92459(P2008−92459)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】