説明

ヘテロエピタキシャル層を備えた半導体ウェハ及び前記ウェハの製造方法

【課題】バウの制御のためだけでなく、SiGeエピタキシャル層の品質を改善するために、特にSi基板上に堆積されたSiGe層のクロスハッチ及び表面ラフネスを低減するために、背面層によって形成された応力を用いる適切な解決策を提供する。
【解決手段】第1の面及び第2の面を有する基板10、前記基板の第1の面に堆積された完全に又は部分的に緩和されたヘテロエピタキシャル層20、及び前記基板の第2の面に堆積された応力相殺層30を有する、半導体ウェハ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
単結晶基板上にエピタキシャル堆積法により堆積された結晶質のヘテロエピタキシャル層は、一般に、結晶格子の寸法及び熱膨張係を含む数多くの材料特性において基板とは異なる。前記堆積法の初期段階の間に、前記ヘテロエピタキシャル層は下層の基板の格子に対して歪む。所定の層厚(臨界厚さ)を越えた後に、前記ヘテロエピタキシャル層の結晶は、いわゆるミスフィット転位(MFD)が入ることにより緩和し始める。成長方向に対して垂直な平面で配向するが、全てのMFDは前記基板ウェハのエッジにまで及ばず、所定の数は曲がりかつ前記表面に対して成長層を通して広がるスレッディング転位(TD)を形成する。線に沿ってクラスタを形成するTDは、パイルアップ(Pu)といわれ、電気デバイスのために特に有害である。前記転位ネットワークからの前記歪みフィールドは、クロスハッチといわれる表面ラフネスを引き起こす。MFD、Pu、TD、クロスハッチ及びウェハの撓み(バウ、ワープ)の形成は、前記の格子不整合からの歪みを緩和するメカニズムである。多数のエピタキシャル堆積技術が、ヘテロエピタキシャル層の結晶品質に関して前記の歪みの緩和の不利な効果を低減するために開発されている。Si上でのSiGe堆積は、格子定数をSiから、Siの格子定数よりも4.2%大きい格子定数を有する純粋なGeに増大させるための公知のシステムである。前記SiGe層中でのGe濃度の勾配は、TD及びPuの密度及びSiGeバッファ層の表面ラフネスを低減させる有効な方法である。Siの結晶格子を、勾配Si(1-x)Gexバッファ層の表面で所定の結晶格子定数に合わせるためにGe濃度を勾配させる多くのバリエーションが開発された。SiGeバッファ層のこの現在の品質はさらに改善する必要がある。特に、比較的高いGe濃度についてのクロスハッチの強さは、大きな挑戦である。
【背景技術】
【0002】
従来では、前記堆積が終わった後の反応にはあまり注意がなされなかった。一般的に、前記堆積は基板、例えばシリコンウェハを所定の温度にまで加熱し、次いで気相中で皮膜を成長させるための成分が供給されることにより行われる(CVD、PVD、MBE等)。皮膜成長が完了した後、前記皮膜は前記基板に対して完全に又は部分的に緩和される。しばしば、アニーリング工程が、このSiGeバッファの完全な緩和のために適用される。この堆積が完了した後に、積層されたウェハの冷却が開始される。ヘテロエピタキシャル層と基板との間で熱膨張係数が違うために応力が生じ、前記ウェハは、前記ウェハの一定の程度で撓むことで、ウェハの湾曲が生じる。前記ウェハの撓み(bowing)は、前記皮膜応力、前記皮膜の厚さ及び前記基板の機械特性の作用である。
ヘテロエピタキシャル層の厚さを制限しかつSiGeバッファ層中に中間層を用いるような試みは、生じるSiGe/Si構造のバウを最小にするためになされている。US2008/0017952A1(この文献は参照することにより完全に包含される)は、成長するSiGe層中へシリコンの薄い歪んだ移行層を導入することにより、緩和されたSiGeバッファ層により引き起こされるバウを低減する方法を記載している。これらの層は、バウを所定の範囲に低減しかつTD密度を104cm-2未満にすることを要求されている。このアプローチはバウに関してはいくつかの有利な効果を有しているが、クロスハッチ及び表面ラフネスの低減については達成していない。
相殺する応力成分を有する前面層及び背面層を用いることで、ウェハのシェープを制御することは公知方法である(US2003/033974A1;US4,830,984;US 5,562,770;GB2,369,490;JP05,144727)。一般的に、前面層により形成された皮膜の応力を相殺するために、熱によるミスマッチ層をウェハの背面に堆積させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】US2008/0017952A1
【特許文献2】US2003/033974A1
【特許文献3】US4,830,984
【特許文献4】US5,562,770
【特許文献5】GB2,369,490
【特許文献6】JP05,144727
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、バウの制御のためだけでなく、SiGeエピタキシャル層の品質を改善するために、特にSi基板上に堆積されたSiGe層のクロスハッチ及び表面ラフネスを低減するために、背面層によって形成された応力を用いる適切な解決策を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、第1の面及び第2の面を有する基板、前記基板の第1の面に堆積された完全に又は部分的に緩和されたSiGeヘテロエピタキシャル層、及び前記基板の第2の面に堆積された応力相殺層を有する、半導体ウェハを提供する。
本発明は、有利に、第1の面及び第2の面を有するSi基板、前記基板の第1の面に堆積された完全に又は部分的に緩和されたSiGeヘテロエピタキシャル層、及び前記基板の第2の面に堆積された応力相殺層を有し、前記SiGe層は前記ウェハの中心で40μm×40μmの測定範囲内で30nmよりも大きくないrmsラフネスを有し、かつこれは前記ウェハの中心からエッジまで50%より大きく異ならない半導体ウェハを有する。
本発明は、さらに、基板の第1の面に完全に又は部分的に緩和されたSiGeヘテロエピタキシャル層を所定の堆積温度で堆積させ、前記ウェハを堆積温度から冷却する前に、前記基板の第2の面に応力相殺層(SCL)を提供することを有する、半導体ウェハの製造方法を提供する。
前記応力相殺層は、有利に、前面層及び背面層の堆積後に−27μmより小さくなくかつ+121μmよりも大きくないウェハの最終バウを生じさせる引張応力を提供する。
この特許請求の範囲に記載された方法は、ウェハの前面側に完全に又は部分的に緩和されたバッファ層(以後、「ヘテロエピタキシャル層」とする)を堆積させた後に堆積温度から前記ウェハを冷却する前に、基板ウェハの背面側に応力相殺層を提供することを有する。前記SCLは、有利に、前記ウェハが堆積温度から冷却される間に、前記ヘテロエピタキシャル層により形成される応力を緩和するための適切な量の応力を提供するように成長される。相殺応力の適切な量は、本発明の実施態様により、前記応力相殺層の厚さ及び組成が、前記ヘテロエピタキシャル層に対応するか又は同等の厚さである場合に達成される。同等の組成とは、ヘテロエピタキシャル層と応力相殺層とにおける成分の濃度が約20%よりも大きく異ならないことを意味する。同等の厚さは、両方の層の厚さが20%よりも大きく異ならないことを意味する。相殺する応力の適切な量は、本発明の多の実施態様により、前記応力相殺層が一定の組成のSiGe層を有しかつ、前記の一定の組成のSiGe層の厚さか又は組成又はその組成が応力の制御のために使用される場合に達成される。原則として、このアプローチは、ヘテロエピタキシャル層の組成及び厚さに依存する。一定の組成のSiGe層の厚さの増大又は一定の組成のSiGe層中でのGe濃度の増大又はその両方の増大は、冷却の間にヘテロエピタキシャル層により引き起こされる応力を相殺するための応力を増大させる。一定の組成のSiGe層中のGe濃度は、有利に10〜80%の範囲内で選択される。
本発明による応力相殺層を提供することにより、生じたウェハのバウを適切に制御できるだけでなく、ヘテロエピタキシャル層のクロスハッチ及び表面ラフネスも明らかに低減できることは予想外であった。
本発明の発明者は、応力相殺層の提供が、堆積温度からウェハを冷却した後の段階の間に前記ヘテロエピタキシャル層の劣化を抑制することを推定した。この堆積の後に、前記ヘテロエピタキシャル層は、堆積の間の条件に応じて、完全に又は部分的に緩和された状態にある。前記皮膜形成ガスが停止される場合に、前記ウェハは通常では制御された方法で冷却される。前記基板と前記ヘテロエピタキシャル層との熱によるミスマッチによって、新たな応力が形成される。SiGeの熱膨張率はSiよりも大きいため、このSiGe層中のこの応力は引張応力である。これは、第2の転位の形成、前記表面のラフネス及び前記ウェハの反りを有する第2の緩和プロセスを引き起こす。一般にはウェハエッジに向かってTDの密度及び表面ラフネスの著しい増大が観察される。この特許請求の範囲に記載された応力相殺層を提供する方法は、引き起こされた不利な効果を新たな応力の形成によって最小にすることができ、前記ヘテロエピタキシャル層のRMSラフネスに関して中心からエッジまでの不均一性を除去することができ、ヘテロエピタキシャル層のTDの密度及びクロスハッチにより引き起こされるラフネスを低下させることができ、かつウェハのバウを制御することができる。
次に、本発明をさらに図面を参照することにより説明する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】基板1と、前記基板上に堆積されたヘテロエピタキシャル層2とを有するウェハを表す。
【図2】本発明によるウェハを表す。前記ウェハは、基板10と前記基板の前面に堆積されたヘテロエピタキシャル層20とを有する。前記ウェハは、さらに、前記基板の背面に堆積された応力相殺層30を有する。前記応力相殺層は、有利に、堆積温度から冷却の間にヘテロエピタキシャル層により引き起こされる応力を相殺するために適切な厚さと組成とを有する一定の組成のSiGe層を有する。
【図3】本発明による有利なウェハを表す。前記ウェハは、基板10と、前記基板の前面に堆積されたヘテロエピタキシャル層とを有し、前記ヘテロエピタキシャル層は、前記基板の前面に堆積された勾配したSiGe層40と、前記勾配したSiGe層上に堆積された一定の組成のSiGe層50とを有する。前記ウェハは、さらに、前記基板の背面に堆積された応力相殺層を有し、前記応力相殺層は前記基板の背面に堆積された勾配したSiGe層60と、前記勾配したSiGe層に堆積された一定の組成のSiGe層70とを有する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の有利な実施態様の場合に、前記応力相殺層は前記ヘテロエピタキシャル層と同じ又は同等の組成を有しかつ、前記ヘテロエピタキシャル層と同じ又は同等の厚さを有する。
本発明の有利な効果を、次に実施例により説明する。
【実施例】
【0008】
勾配したSiGe層と、前記勾配したSiGe層上の一定の組成のSiGe層とからなるヘテロエピタキシャル層を備えたウェハは、枚葉式CVD反応器中で、シリコン基板ウェハの前面にヘテロエピタキシャル層を堆積させることにより製造した。勾配したSiGe層中のゲルマニウムの最大濃度は70%であった。この勾配したSiGe層の厚さは4.6μmであった。一定の組成のSiGe層中のGe濃度は70%であった。この一定の組成のSiGe層の厚さは1μmであった。このヘテロエピタキシャル層を前記基板の前面に堆積させる前に、応力相殺層を基板の背面に堆積させた。
いくつかの実施例を、応力相殺層として一定の組成のSi0.3Ge0.7層を用いて製造し、その際、前記層の厚さを、前記ヘテロエピタキシャル層に関する応力軽減効果を明らかにするために変化させた。背面層の厚さが増大すると共に、生じる引張応力の量は増大する。前面の層と背面の層とを堆積した後の前記ウェハの最終バウは、背面の応力が増大すると共に、負のバウから正のバウに変化する。これらの実施例は、SiGe前面のパラメータの改善が、最終バウの広い範囲にわたり、背面層の適用により得られることを示す。1つの実施例(実施例4)を、前記基板上に、ゲルマニウムの最大濃度70%を有する勾配したSiGe層と、前記勾配したSiGe層上の一定の組成のSiGe層とからなる応力相殺層を用いて製造した。このタイプの背面により形成されたこの応力は、最終バウの値により示されているように実施例3における背面からの応力と実施例5における背面からの応力との間にある。これらの実施例1〜5は、−27μmより低くなく、+121μmより高くない前記ウェハの最終バウを生じるために十分な大きさの応力を用いることにより、SiGe前面層の改善が明らかとなることを示す。
比較を提供するために、2つの試験を、堆積温度から前記ウェハを冷却する前に応力相殺層を提供せずに行った。第1の比較例によると、勾配したSiGe層及び前記実施例の前面層と同じ一定の組成の層を、シリコン基板ウェハに堆積させた。前記の勾配した層中のゲルマニウムの最大濃度は70%であった。
第2の比較例は、第1の比較例に従って実施されるが、生じるウェハのバウの低減のためにUS2008/0017952A1に教示されたような11のシリコンの歪んだ移行層が前記勾配したSiGe層内に提供されることだけが異なっていた。それぞれの移行層の厚さは7nmであった。
これらの試験の更なる詳細及びバウ、ワープ、TDD及びRMSラフネスの低減に関する結果は、次の表中に示されている。応力相殺層及びヘテロエピタキシャル層を堆積させるための堆積ガスは、キャリアガスとしての水素中の、SiCl2H2及びGeCl4の混合物であった。
TDの密度は、Seccoエッチングの後の顕微鏡観察により測定した。RMSラフネスは、原子間力顕微鏡(40×40μm)を用いて測定した。ワープ分析は、ADE社(USA)からのASF型装置を用いて行った。
表:
【0009】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面及び第2の面を有する基板、
前記基板の第1の面に堆積された完全に又は部分的に緩和されたヘテロエピタキシャル層、及び
前記基板の第2の面に堆積された応力相殺層を有する、半導体ウェハ。
【請求項2】
ヘテロエピタキシャル層の厚さ及び組成は、応力相殺層の厚さ及び組成と同じ又は同等である、請求項1記載のウェハ。
【請求項3】
応力相殺層は、基板に堆積された勾配したSiGe層と、前記勾配したSiGe層に堆積された一定の組成のSiGe層とを有する、請求項1記載のウェハ。
【請求項4】
応力相殺層は、基板に堆積されかつ組成Si(1-x)Gexを有する一定の組成のSiGe層を有する、請求項1記載のウェハ。
【請求項5】
一定の組成のSiGe層中のGeの濃度は、10〜80%である、請求項4記載のウェハ。
【請求項6】
基板の第1の面に完全に又は部分的に緩和されたヘテロエピタキシャル層を所定の堆積温度で堆積させ、かつ
前記ウェハを前記堆積温度から冷却する前に、前記基板の第2の面に応力相殺層を提供することを有する、半導体ウェハの製造方法。
【請求項7】
基板の第1の面に完全に又は部分的に緩和されたヘテロエピタキシャル層を堆積させる前に、前記基板の第2の面に応力相殺層を堆積させることにより、応力相殺層を提供する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
基板の第1の面に完全に又は部分的に緩和されたヘテロエピタキシャル層を堆積させる間に、前記基板の第2の面に応力相殺層を堆積させることにより、応力相殺を提供する、請求項6記載の方法。
【請求項9】
応力相殺層として、完全に又は部分的に緩和されたヘテロエピタキシャル層と同じ又は同等の厚さ及び組成を有する層を提供する、請求項6記載の方法。
【請求項10】
基板の第2の面に勾配したSiGe層を堆積させ、前記勾配したSiGe層上に一定の組成のSiGe層を堆積させることを有する、請求項6記載の方法。
【請求項11】
基板の第2の面に組成Si(1-x)Gexを有する一定の組成のSiGe層を堆積させることを有する、請求項6記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−12750(P2013−12750A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−175158(P2012−175158)
【出願日】平成24年8月7日(2012.8.7)
【分割の表示】特願2009−64263(P2009−64263)の分割
【原出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(599119503)ジルトロニック アクチエンゲゼルシャフト (223)
【氏名又は名称原語表記】Siltronic AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】