説明

ベルト式無段変速機

【課題】レイアウト自由度の向上を図ることができるベルト式無段変速機を提供すること。
【解決手段】プーリ(セカンダリプーリ22)と一体に回転するトーンホイール(セカンダリ側トーンホイール25)と、このトーンホイール25と対向するセンサ(セカンダリプーリ回転数センサKS2)と、を有するプーリ回転を検出する回転状態検出装置を設けたベルト式無段変速機において、トーンホイール25は、可動プーリ(セカンダリ可動円錐板22b)の移動方向に沿って延在する円筒部25bを有し、この円筒部25bには、全周にわたって周方向に等間隔に配置されると共に、移動方向に沿って延在した複数の被検出部(長孔26)を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転状態検出装置を有するベルト式無段変速機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、固定プーリと可動プーリによりベルトを挟持するプーリの回転状態(回転数や回転速度等)を検出するため、固定プーリの外周部背面に、回転センサ用の検知歯を有する環状突出部を形成したベルト式無段変速機が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-295613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来のベルト式無段変速機にあっては、検知歯が固定プーリに形成されているため、回転用センサを取り付ける位置がある程度制限されてしまい、レイアウトの自由度が劣るという問題が生じていた。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、レイアウト自由度の向上を図ることができるベルト式無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明では、固定プーリ及び該固定プーリに対して軸方向に離接動可能な可動プーリをそれぞれ有する一対のプーリと、前記一対のプーリ間に掛け渡されたベルトと、を備え、
前記プーリと一体に回転するトーンホイールと、該トーンホイールと対向するセンサと、を有するプーリ回転を検出する回転状態検出装置を設けたベルト式無段変速機において、
前記トーンホイールは、前記可動プーリの移動方向に沿って延在する円筒部を有し、
該円筒部には、全周にわたって周方向に等間隔に配置されると共に、前記移動方向に沿って延在した複数の被検出部を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
よって、本発明のベルト式無段変速機にあっては、トーンホイールが有する円筒部に、全周にわたって周方向に等間隔に配置されると共に、移動方向に沿って延在した複数の被検出部を設けたので、可動プーリと一体回転可能にトーンホイールを設けると共に、可動プーリの近傍にセンサを配置することが可能になる。そのため、回転状態検出装置を配置する際のレイアウト自由度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1のベルト式無段変速機を搭載したパワートレーンを模式的に示すシステム図である。
【図2】実施例1のベルト式無段変速機を示す断面展開図である。
【図3】図2に示すA部の拡大図である。
【図4】(a)は実施例1のベルト式無段変速機に適用されたトーンホイールを示す斜視図であり、(b)は図4(a)のB−B断面図である。
【図5】(a)はベルト式無段変速機の比較例の要部断面図であり、(b)は比較例におけるトーンホイールの一部破断斜視図を示す。
【図6】(a)はトーンホイールの第1変形例を示す斜視図であり、(b)はトーンホイールの第2変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のベルト式無段変速機を実施するための形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
まず、構成を説明する。
図1に示すパワートレーンは、駆動源であるエンジン1と、このエンジン1に駆動結合されるトルクコンバータ2と、このトルクコンバータ2に駆動結合される自動変速機(ベルト式無段変速機)3と、この自動変速機3からドライブシャフト6aを経て動力が出力される車輪6,6と、を有する。また、自動変速機3は、後述する無段変速機構20を制御する無段変速制御部7aと、後述する有段変速機構30を制御する有段変速制御部7bと、を有する変速制御部7により変速制御される。
【0011】
そして、自動変速機3は、変速機ケーシング(ハウジング)8内に収容された変速機構TMを有している。
【0012】
変速機ケーシング8は、図2に示すように、コンバータハウジング8aと、トランスミッションカバー(サイドカバー)8bと、トランスミッションケース8cと、ベアリングリテーナ8dと、を有している。
【0013】
コンバータハウジング8aは、内側にトルクコンバータ2が装着される凹部81aを有し、変速機ケーシング8のトルクコンバータ側の外郭面を構成する。このコンバータハウジング8aには、トルクコンバータ2の出力軸2aが挿入される入力軸貫通孔82aが形成されると共に、ドライブシャフト6aが突出するドライブシャフト貫通孔83aが形成されている。なお、入力軸貫通孔82aは、凹部81aの中央位置に形成される。さらに、変速機出力軸4を支持する出力軸受84aが設けられている。
【0014】
トランスミッションカバー8bは、後述する無段変速機構20のプライマリプーリ21及びセカンダリプーリ22の軸方向端面を覆い、変速機ケーシング8の外郭面を構成する。このトランスミッションカバー8bには、プライマリプーリ21を支持するプライマリプーリ軸受81bと、セカンダリプーリ22を支持するセカンダリプーリ軸受82bとが設けられている。
【0015】
さらに、このトランスミッションカバー8bには、プライマリプーリ21の回転数を検出するプライマリプーリ回転数センサ(センサ)KS1が貫通固定される第1センサ用孔83bと、セカンダリプーリ22の回転数を検出するセカンダリプーリ回転数センサ(センサ)KS2が貫通固定される第2センサ用孔84bが形成されている。
【0016】
ここで、第1センサ用孔83bは、プライマリプーリ21の軸方向に沿って延びている。一方、第2センサ用孔84bは、セカンダリプーリ22の軸と直交する方向に沿って延びている。
【0017】
トランスミッションケース8cは、コンバータハウジング8aとトランスミッションカバー8bとの間に挟持され、変速機ケーシング8の内部を分割する中間壁を構成する。ここでは、コンバータハウジング8aとトランスミッションケース8cとを互いに結合すると共に、トランスミッションカバー8bとトランスミッションケース8cとを互いに結合することで筐体である変速機ケーシング8の外郭を形成する。
【0018】
そして、このトランスミッションケース8cには、トルクコンバータ2の出力軸2aを支持する入力軸軸受81cと、プライマリプーリ21の入力軸を貫通支持するプライマリプーリ軸受82cと、セカンダリプーリ22の出力軸を貫通支持するセカンダリプーリ軸受83cとが設けられると共に、ドライブシャフト6aが突出するドライブシャフト貫通孔84cが形成されている。さらに、このトランスミッションケース8cは、内側に有段変速機構30が装着される凹部85cを有している。この凹部85cの中心位置にセカンダリプーリ軸受83cが配置される。
【0019】
ベアリングリテーナ8dは、トランスミッションケース8cの凹部85cを覆うように固定され、有段変速機構30に駆動結合した変速機出力軸4を貫通支持する出力軸受81dが設けられる。
【0020】
次に、変速機構TMについて説明する。変速機構TMは、図1及び図2に示すように、変速歯車機構10と、無段変速機構20と、有段変速機構30と、ファイナルドライブギア機構40と、を有している。
【0021】
変速歯車機構10は、トルクコンバータ2の出力軸2aに取り付けられた駆動ギア11と、無段変速機構20のプライマリプーリ21の入力軸に取り付けられた従動ギア12とにより構成されている。なお、変速比は、駆動ギア11と従動ギア12とのギア比により任意に設定される。
【0022】
無段変速機構20は、入力軸20aに従動ギア12が取り付けられ、変速歯車機構10から動力が入力するプライマリプーリ21と、出力軸20bが有段変速機構30に駆動結合したセカンダリプーリ22と、これら両プーリ21,22間に掛け渡されたベルト23とを有する既存のベルト式無段変速機構である。この無段変速機構20では、プライマリプーリ21とセカンダリプーリ22とのそれぞれにおけるプーリ幅を変更することで変速比を無段階に変更することができる。
【0023】
プライマリプーリ(プーリ)21は、入力軸20aと一体となって回転するプライマリ固定円錐板(固定プーリ)21aと、プライマリ固定円錐板21aに対向配置されてV字状のプーリ溝を形成すると共に、このプライマリ固定円錐板21aに対して軸方向に離接動可能なプライマリ可動円錐板(可動プーリ)21bとを有している。
【0024】
ここで、プライマリ可動円錐板21bは、プライマリ油圧シリンダ(油圧シリンダ)21cによって区画されたプライマリプーリ油圧室21dへ作用する油圧によって移動する。また、プライマリ固定円錐板21aの背面側には、円板状のプライマリ側トーンホイール24が取り付けられている。
【0025】
プライマリ側トーンホイール24は、プライマリ固定円錐板21aに固定され、このプライマリ固定円錐板21aと一体に回転可能にされている。プライマリ側トーンホイール24は、周縁部に等間隔に配置された被検出部(図示せず)が形成されている。この被検出部は、プライマリプーリ回転数センサKS1のセンサ部(図示せず)に対向している。すなわち、プライマリ側トーンホイール24と、このプライマリ側トーンホイール24に対向するプライマリプーリ回転数センサKS1とにより、回転状態検出装置であるプライマリ回転数検出装置が構成されている。
【0026】
セカンダリプーリ(プーリ)22は、図3に示すように、出力軸20bと一体となって回転するセカンダリ固定用円錐板(固定プーリ)22aと、セカンダリ固定円錐板22aに対向配置されてV字状のプーリ溝を形成すると共に、このセカンダリ固定円錐板22aに対して軸方向に離接動可能なセカンダリ可動円錐板(可動プーリ)22bとを有している。
【0027】
ここで、セカンダリ可動円錐板22bは、セカンダリ油圧シリンダ(油圧シリンダ)22cによって区画されたセカンダリプーリ油圧室22dへ作用する油圧によって移動する。なお、このセカンダリプーリ油圧室22d内には、スプリング22eが配置され、セカンダリ可動円錐板22bをセカンダリ固定円錐板22aに近づける方向に付勢している。また、セカンダリ油圧シリンダ22cの内側面には、セカンダリ可動円錐板22bと一体になったピストン22fがオイルシールOSを介して摺動可能に当接している。
【0028】
そして、プライマリプーリ21とセカンダリプーリ22において、ベルト23の芯ずれ防止のために、プライマリ固定円錐板21aとセカンダリ固定円錐板22a、及び、プライマリ可動円錐板21bとセカンダリ可動円錐板22bは、それぞれ対角位置に配置されている。
【0029】
さらに、セカンダリ固定円錐板22aの背面側には、セカンダリ側トーンホイール25が取り付けられている。
【0030】
セカンダリ側トーンホイール25は、図4に示すように、セカンダリ可動円錐板22bとセカンダリ油圧シリンダ22cとの間に挟持された挟持部25aと、セカンダリ油圧シリンダ22cの外周面を、隙間を開けて取り囲む円筒部25bと、を有している。ここで、円筒部25bは挟持部25aから屈曲部25cを介して連続している。
【0031】
挟持部25aは、セカンダリ可動円錐板22bの背面に密着する円板形状を呈しており、中心部には、セカンダリ可動円錐板22bの背面側から延びる軸部22baが嵌合する嵌合孔25dが貫通形成されている。
【0032】
円筒部25bは、セカンダリ可動円錐板22bの移動方向、すなわち軸方向に沿って延在する円筒形状を呈している。またこの円筒部25bの外径T1は、セカンダリ可動円錐板22bの外径よりも小さい寸法となっている。
【0033】
さらに、この円筒部25bには、全周にわたって周方向に等間隔に配置されると共に、移動方向(軸方向)に沿って延在した複数の長孔(被検出部)26が形成されている。各長孔26は、セカンダリプーリ回転数センサKS2のセンサ部KS2´に対向すると共に、各長孔26の移動方向(軸方向)長さは、セカンダリ可動円錐板22bの可動範囲よりも長くなっている。なお、ここでは、各長孔26は、平面視矩形状を呈している。
【0034】
そして、セカンダリ側トーンホイール25と、このセカンダリ側トーンホイール25に対向するセカンダリプーリ回転数センサKS2とにより、回転状態検出装置であるセカンダリプーリ回転数検出装置が構成されている。
【0035】
有段変速機構30は、ラビニオ遊星歯車機構の複合サンギア31に無段変速機構20のセカンダリプーリ22を駆動結合することで、当該複合サンギア31を入力にする一方、キャリア32を変速機出力軸4に駆動結合することで当該キャリア32を出力としている。そして、複合サンギア31はローブレーキ(第1速選択用ブレーキ)L/Bを介して変速機ケーシング8に固定され、キャリア32はハイクラッチ(第2速選択用クラッチ)H/Cを介してリングギア33に駆動結合されている。さらに、リングギア33は、リバースブレーキR/Bを介して変速機ケーシング8に固定されている。
【0036】
この有段変速機構30では、ローブレーキL/B、ハイクラッチH/C及びリバースブレーキR/Bにもそれぞれオイルを供給することができ、その供給油圧に応じて締結及び解放を自由に行うことができる。これにより、有段変速機構30は、前進1速、前進2速、後進1速をそれぞれ選択することができる。
【0037】
なお、前進1速の場合は、ローブレーキL/Bのみを締結する。また、前進2速の場合は、ハイクラッチH/Cのみを締結する。さらに後進1速の場合は、リバースブレーキR/Bを締結する。下記に示す表1に有段変速機構30の制御にあたっての締結及び解放の関係を示す。表中○は締結し示し、×は解放を示す。
【表1】

【0038】
そして、この有段変速機構30により変速を行う際には、無段変速機構20との協調制御を実行することで変速ショックを抑制する。
【0039】
ファイナルドライブギア機構40は、ベアリングリテーナ8dからコンバータハウジング8a側に突出した変速機出力軸4に取り付けられた駆動ギア(回転体)41と、車輪6,6に繋がると共に、コンバータハウジング8a及びトランスミッションケース8cを貫通するドライブシャフト6aに取り付けられた従動ギア(回転体)42と、により構成されている。なお、減速比は、駆動ギア41と従動ギア42とのギア比により任意に設定される。
【0040】
なお、図2において、55はパーキングギア、70はオイルポンプ、71はバルブコントロールユニット、72はオイルパンである。ここで、オイルポンプ70は、トルクコンバータ2の出力軸2aにチェーンCHを介して連結しており、出力軸2aの回転によって駆動する。
【0041】
次に、作用を説明する。
まず、「セカンダリプーリ回転数検出の目的」及び「セカンダリ可動円錐板の回転数検出の理由」の説明を行い、続いて、実施例1のベルト式無段変速機における作用を、「レイアウト自由度向上作用」と「回転数検出精度向上作用」とに分けて説明する。
【0042】
[セカンダリプーリ回転数検出の目的]
無段変速機構を有するベルト式無段変速機における変速比を演算するためには、プライマリプーリのプライマリ固定円錐板の回転数と、出力軸に取り付けられるパーキングギアの回転数とをセンシングすることが一般的である。
【0043】
これに対し、実施例1の自動変速機3では、無段変速機構20の下流側(車輪6側)に有段変速機構30を配置した構成になっている。すなわち、無段変速機構20の出力軸20bとパーキングギア55との間に有段変速機構30が介在しており、パーキングギア55の回転数をセンシングしても無段変速機構20における変速比を正確に演算することができない。
【0044】
したがって、無段変速機構20の変速比を正確に演算するために、セカンダリプーリ22の回転数をセンシングする必要がある。
【0045】
[セカンダリ可動円錐板の回転数検出の理由]
プーリの回転数は、プライマリプーリ21,セカンダリプーリ22のいずれに拘らず、固定プーリ(固定円錐板)の回転数をセンシングすることが一般的である。
【0046】
これに対し、実施例1の自動変速機3では、セカンダリ固定円錐板22aの直近に有段変速機構30が配置されているため、セカンダリ固定円錐板22aの近傍にセカンダリプーリ回転数センサKS2を配置するスペースを確保することが難しく、変速機ケーシング8の小型化と両立することができなかった。
【0047】
さらに、プライマリプーリ21とセカンダリプーリ22とにおいて、プライマリ固定円錐板21aとセカンダリ固定円錐板22a、及び、プライマリ可動円錐板21bとセカンダリ可動円錐板22bが、それぞれ対角位置に配置されているため、例えばプライマリ固定円錐板21aの回転数と、セカンダリ固定円錐板22aの回転数とをそれぞれセンシングしようとすると、プライマリプーリ回転数センサKS1とセカンダリプーリ回転数センサKS2との位置が離れてしまう。その結果、組付け性が悪くなるという問題もあった。
【0048】
したがって、レイアウトの都合上必要であるので、セカンダリ可動円錐板22bの回転数を検出する必要がある。
【0049】
[レイアウト自由度向上作用]
実施例1の自動変速機3において、無段変速機構20の変速比を演算するために、まず、プライマリプーリ21の回転数を検出する。これは、プライマリプーリ回転数センサKS1から放出される磁力線が、プライマリ固定円錐板21aと一体回転するプライマリ側トーンホイール24の被検出部(図示せず)によって乱れることを検出し、電気信号に変換して行う。
【0050】
次に、セカンダリプーリ22の回転数を検出する。これは、セカンダリプーリ回転数センサKS2から放出される磁力線が、セカンダリ可動円錐板22bと一体回転するセカンダリ側トーンホイール25の円筒部25bに形成された長孔26によって乱れることを検出し、電気信号に変換して行う。
【0051】
ここで、セカンダリ可動円錐板22bは、セカンダリプーリ油圧室22dへ作用する油圧によって軸方向に移動する。一方、セカンダリ側トーンホイール25の円筒部25bに形成された長孔26は、セカンダリ可動円錐板22bの移動方向に沿って延在されている。
【0052】
したがって、セカンダリ可動円錐板22bの移動に拘わらず、常にセカンダリプーリ回転数センサKS2のセンサ部KS2´に長孔26の一部が対向することができる。このため、回転状態検出装置であるセカンダリプーリ回転数検出装置をセカンダリ可動円錐板22b側に設定し、セカンダリ可動円錐板22bの回転数を検出することができる。この結果、回転状態検出装置のレイアウト自由度を向上させることができる。
【0053】
また、実施例1の自動変速機3では、円筒部25bがセカンダリ油圧シリンダ22cの外周面を、隙間を開けて取り囲むと共に、セカンダリ可動円錐板22bと挟持部が構造的に一体化されて共に移動する構成になっている。このため、セカンダリ油圧シリンダ22cによって区画されたセカンダリプーリ油圧室22dと円筒部25bとを軸方向に一致した位置に配置でき、円筒部25bの配置スペースを小さくできる。そして、セカンダリ側トーンホイール25の省スペース化によってさらにレイアウト自由度を向上できる。
【0054】
特に、実施例1の自動変速機3では、円筒部25bとセカンダリ油圧シリンダ22cとの間に隙間が開いているため、セカンダリ油圧シリンダ22cの外周面を加工する必要がなくなり、製造コストの低下を図ることができる。
【0055】
さらに、実施例1の自動変速機3では、円筒部25bの外径T1が、セカンダリ可動円錐板22bの外径よりも小さくなっている。このため、セカンダリ側トーンホイール25の省スペース化をさらに向上させることができて、レイアウト自由度を高めることができる。
【0056】
[回転数検出精度向上作用]
実施例1の自動変速機3では、セカンダリ側トーンホイール25の挟持部25aが、セカンダリ可動円錐板22bとセカンダリ油圧シリンダ22cとの間に挟持されると共に、円筒部25bが挟持部25aとの間に屈曲部25cを介して連続している。
【0057】
ここで、セカンダリプーリ油圧室22dに作用する油圧によって、セカンダリ油圧シリンダ22cは常にセカンダリ可動円錐板22bの背面に押し付けられている。そのため、セカンダリ可動円錐板22bとセカンダリ油圧シリンダ22cとの間に挟持された挟持部25aにも油圧が作用し、安定して固定することができる。
【0058】
これにより、セカンダリ可動円錐板22bに対するセカンダリ側トーンホイール25の空転を抑制して追従性が向上し、回転数検出精度を向上することができる。
【0059】
ここで、図5(a)にベルト式無段変速機の比較例の要部断面図を示し、図5(b)に比較例におけるトーンホイールの一部破断斜視図を示す。
この比較例におけるトーンホイールTWは、断面U字状の円環形状を呈しており、U字状にすることで径方向に弾性力を有している。そして、セカンダリプーリ油圧室22dを区画するセカンダリ油圧シリンダ22cの外周面に嵌着することでセカンダリ可動円錐板22bと一体構造としている。なお、このトーンホイールTWの外周面には、セカンダリ可動円錐板22bの移動方向に延びる長孔(被検出部)Jが周方向に等間隔で複数形成されている。
【0060】
しかしながら、この場合では、トーンホイールTWは自身の有する弾性力によってセカンダリ油圧シリンダ22cに嵌着しているので、経時変化等により弾性力が低下すると、セカンダリ油圧シリンダ22cとの間にスリップが生じることが考えられる。そして、セカンダリ可動円錐板22bの回転に追随できなくなるおそれがあり、回転数検出精度の低下が懸念される。
【0061】
また、この比較例におけるトーンホイールTWは、全体形状が複雑であり、セカンダリ油圧シリンダ22cに嵌着するためには高い寸法精度も要求されるため、製造コストが増加することも考えられる。
【0062】
これに対し、実施例1の自動変速機3では、挟持部25aをセカンダリ可動円錐板22bとセカンダリ油圧シリンダ22cとの間に挟持することでセカンダリ側トーンホイール25を固定するので、全体形状を単純化すると共に、高い寸法精度が不要となる。そのため、製造コストの増加を抑制することができる。
【0063】
さらに、実施例1の自動変速機3では、セカンダリプーリ回転数センサKS2を、変速機ケーシング8の外郭を形成するトランスミッションカバー8bに設けている。そのため、トランスミッションカバー8bに予めセカンダリプーリ回転数センサKS2を取り付けるサブアッセンブリを行った後に自動変速機3の組み立てを行うことができ、組立性能の向上を図ることができる。
【0064】
しかも、実施例1の無段変速機構20では、プライマリ固定円錐板21aとセカンダリ固定円錐板22a、及び、プライマリ可動円錐板21bとセカンダリ可動円錐板22bを、それぞれ対角位置に配置しているため、プライマリ固定円錐板21aとセカンダリ可動円錐板22bとがトランスミッションカバー8bに覆われる構成になる。したがって、プライマリプーリ回転数センサKS1も変速機ケーシング8の外郭を形成するトランスミッションカバー8bに設けることができる。
【0065】
この結果、プライマリプーリ回転数センサKS1及びセカンダリプーリ回転数センサKS2を共に予めトランスミッションカバー8bに取り付けることができ、さらに組立性能の向上を図ることができる。
【0066】
次に、効果を説明する。
実施例1のベルト式無段変速機にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0067】
(1) 固定プーリ(プライマリ固定円錐板21a,セカンダリ固定円錐板22a)及び該固定プーリ21a,22aに対して軸方向に離接動可能な可動プーリ(プライマリ可動円錐板21b,セカンダリ可動円錐板22b)をそれぞれ有する一対のプーリ(プライマリプーリ21,セカンダリプーリ22)と、前記一対のプーリ21,22間に掛け渡されたベルト23と、を備え、前記プーリ22と一体に回転するトーンホイール(セカンダリ側トーンホイール25)と、該トーンホイール25と対向するセンサ(セカンダリプーリ回転数センサKS2)と、を有する回転状態検出装置を設けたベルト式無段変速機において、前記トーンホイール25は、前記可動プーリ22bの移動方向に沿って延在する円筒部25bを有し、該円筒部25bには、全周にわたって周方向に等間隔に配置されると共に、前記移動方向に沿って延在した複数の被検出部(長孔26)を設けた。
これにより、可動プーリ22bに対して回転状態検出装置を取り付けることができ、回転状態検出装置を配置する際のレイアウト自由度の向上を図ることができる。
【0068】
(2) 前記円筒部25bは、前記可動プーリ22bの油圧シリンダ(セカンダリ油圧シリンダ22c)の外周面との間に隙間を開けて取り囲むと共に、前記可動プーリ22bと構造的に一体化されて該可動プーリ22bと共に移動する構成とした。
これにより、油圧室22dと円筒部25bとの軸方向位置が一致し、円筒部25bの配置スペースを縮小することができ、省スペース化を図ってさらにレイアウト自由度を向上することができる。
【0069】
(3) 前記トーンホイール25は、前記可動プーリ22bと前記油圧シリンダ22cとの間に挟持される挟持部25aを有し、前記円筒部25bは、前記挟持部25aとの間に屈曲部25cを介して連続する構成とした。
これにより、トーンホイール25を安定して固定することができ、プーリ22の回転に対する空転を防止して回転数検出精度の向上を図ることができる。
【0070】
(4) 前記センサKS2は、前記プーリ22の軸方向端部を覆い、ハウジング(変速機ケーシング8)外郭を形成するサイドカバー(トランスミッションカバー8b)に設ける構成とした。
このため、サイドカバー8bにセンサKS2を予めサブアッセンブリすることができ、組立性能を向上することができる。
【0071】
(5) 前記円筒部25bの外径T1は、前記可動プーリ22bの外径よりも小さい構成とした。
このため、円筒部25bの省スペース化をさらに向上させることができて、レイアウト自由度をより高めることができる。
【0072】
以上、本発明のベルト式無段変速機を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0073】
例えば、実施例1では、セカンダリ側トーンホイール25がセカンダリ可動円錐板22bと別体に構成されている。しかしながら、セカンダリ可動円錐板22bの背面に移動方向(軸方向)に延在する円筒部を一体成形し、この一体成形された円筒部に移動方向に沿って延在した複数の長孔を設けてもよい。
【0074】
この場合であっても、セカンダリ可動円錐板22bの移動に拘わらず、常にセカンダリプーリ回転数センサKS2と長孔の一部が対向することができるため、セカンダリ可動円錐板22bの回転数を検出することができる。
【0075】
また、実施例1では円筒部25bに設けた被検出部として矩形状の長孔26としたが、例えば、図6(a)に示すような円筒部25b´の開放端側に切れた切欠形状の被検出部27であってもよいし、図6(b)に示すような円筒部25b´´の一般面よりも厚みの薄い、つまりへこんだ被検出部28であってもよい。さらに、円筒部の一般面よりも厚みの厚くなった凸形状の被検出部であってもよい。
【0076】
さらに、実施例1では、セカンダリプーリ22のセカンダリ可動円錐板22bの回転数を検出する構成となっているが、レイアウトの関係によってはプライマリプーリ21のプライマリ可動円錐板21bの回転数を検出するようにしてもよい。
【0077】
そして、実施例1では、セカンダリプーリ回転数センサKS2によって、セカンダリプーリ22における回転数を検出しているが、これに限らず、回転速度や、回転角速度等を検出するものであってもよい。この場合であっても、可動プーリの移動方向に延在した被検出部を有するトーンホイールを設けることで、可動プーリの位置に拘らず回転速度等を検出することができる。
【符号の説明】
【0078】
3 自動変速機(ベルト式無段変速機)
8b トランスミッションカバー(サイドカバー)
21 プライマリプーリ(プーリ)
21a プライマリ固定円錐板(固定プーリ)
21b プライマリ可動円錐板(可動プーリ)
22 セカンダリプーリ(プーリ)
22a セカンダリ固定円錐板(固定プーリ)
22b セカンダリ可動円錐板(可動プーリ)
22c セカンダリ油圧シリンダ(油圧シリンダ)
23 ベルト
25 セカンダリ側トーンホイール(トーンホイール)
25a 挟持部
25b 円筒部
25c 屈曲部
26 長孔(被検出部)
KS2 セカンダリプーリ回転数センサ(センサ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定プーリ及び該固定プーリに対して軸方向に離接動可能な可動プーリをそれぞれ有する一対のプーリと、前記一対のプーリ間に掛け渡されたベルトと、を備え、
前記プーリと一体に回転するトーンホイールと、該トーンホイールと対向するセンサと、を有するプーリ回転を検出する回転状態検出装置を設けたベルト式無段変速機において、
前記トーンホイールは、前記可動プーリの移動方向に沿って延在する円筒部を有し、
該円筒部には、全周にわたって周方向に等間隔に配置されると共に、前記移動方向に沿って延在した被検出部を設けたことを特徴とするベルト式無段変速機。
【請求項2】
請求項1に記載したベルト式無段変速機において、
前記被検出部は、前記トーンホイールに設けた開口、切欠、あるいは凹凸のいずれかから構成することを特徴とするベルト式無段変速機。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載したベルト式無段変速機において、
前記円筒部は、前記可動プーリの油圧シリンダの外周に配置すると共に、前記可動プーリと構造的に一体化されて設けられたことを特徴とするベルト式無段変速機。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載されたベルト式無段変速機において、
前記トーンホイールは、前記可動プーリと前記油圧シリンダとの間に挟持される挟持部を有し、
前記円筒部は、前記挟持部との間に屈曲部を介して連続していることを特徴とするベルト式無段変速機。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載されたベルト式無段変速機において、
前記センサは、前記プーリの軸方向端部を覆うサイドカバーに設けたことを特徴とするベルト式無段変速機。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載されたベルト式無段変速機において、
前記円筒部の外径は、前記可動プーリの外径よりも小さいことを特徴とするベルト式無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−21665(P2011−21665A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166445(P2009−166445)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】