説明

ボールねじを用いた減衰装置

【課題】
スクリューロッドに対してナット部材を含むロータを適宜回転させることで、かかるロッドの軸方向における固定外筒の位置を任意に調整し、振動をいち早く減衰させ、免震装置本来の効果を十分に発揮させることが可能な減衰装置を提供する。
【解決手段】
第1の構造体に結合されるハウジングと、一端が前記第2の構造体に結合されて軸方向に進退すると共に外周面に螺旋状のねじ溝が形成されたスクリューロッドと、前記ハウジングに対して回転自在に支承され、かかるハウジングと所定の隙間を介して対向して減衰力の作用室を形成する一方、前記スクリューロッドに螺合するロータと、前記作用室に封入された粘性流体と、前記ロータに連結されて当該ロータを回転させる電動モータと、前記振動の発生を検出するセンサの検出結果に応じて前記電動モータを制御するモータ制御部とから構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動が伝達される2つの構造体の間に配設されて、振動源たる一方の構造体から他方の構造体へ伝達される振動エネルギを減衰させるための減衰装置に係り、特に、一方の構造体から伝達された振動を回転運動のエネルギに変換し、この回転運動のエネルギを熱エネルギに変換して消費させるように構成した減衰装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ビルや住宅といった不動産の地震対策として、あるいは精密機器や美術品のショーケース等の運搬時における振動対策として、地面あるいは床面の振動を吸収して揺れを軽減する免震装置が用いられている。この免震装置としては、特開平8−240033号公報に開示されるように、工作機械のワークテーブル等に用いられる直線案内装置を利用したものが知られている(特開平8−240033号公報)。この免震装置は、図7に示すように、長手方向に沿ってボール等の転動体の転走面が形成されると共に、基盤100及び構造体101の夫々に対して互いに直交するように固定された第1及び第2軌道レール102,103と、多数の転動体を介して第1軌道レール102に組み付けられると共に該第1軌道レール102に沿って自在に直線往復運動可能な第1スライド部材104と、この第1スライド部材104に対して固定されると共に多数の転動体を介して第2軌道レール103に組み付けられ、該第2軌道レール103に沿って自在に直線往復運動可能な第2スライド部材105とから構成されており、地震等によって基盤100が震動すると各軌道レール102,103とこれらに組み付けられたスライド部材104,105とが相対的な直線往復運動を行うようになっている。
【0003】
図8は基盤100上に前述の免震装置Gを介して建物を構築した例を示すものであり、建物101と基盤100との間の4カ所に免震装置Gが配置されている。各免震装置Gの第1軌道レール102がX方向に沿って前記基盤100に固定される一方、第2軌道レール103は第1軌道レール102と直交するY方向に沿って建物に固定されている。前記軌道レール102,103とスライド部材104,105との間の動摩擦係数は極めて小さいため、基盤100が地震等によって水平方向へ揺れ動くと、かかる揺れを吸収するようにして各免震装置のスライド部材104,105が軌道レール102,103上をX方向又はY方向に沿って移動する。すなわち、免震装置G上に設けられた建物101は基盤100の揺れから絶縁されており、恰も空気中に浮遊したような状態となっている。これにより、地震等による振動エネルギが建物101に伝播したとしても、建物101は基盤100の振動周期とは無関係にそれ独自の振動周期で揺れることができるので、建物101の固有振動周期を十分に長く設定することで、建物101と基盤100との共振を避け、かかる建物101の振動を軽減することが可能となる。
【0004】
一方、この免震装置は基盤100と建物101との共振を防止はするものの、建物101の揺れを完全に防止し得るものではなく、しかも前述の如く基盤100の揺れと建物101の揺れとを絶縁するものであるから、例えば地震が収まった後にも建物101の揺れは残ることになる。このため、かかる免震装置Gを用いて建物を支持する際には、基盤100と建物101との間に免震装置Gとは別個に減衰装置を設け、建物の揺れが早く収まるようにその振動エネルギを吸収する必要がある。
【0005】
従来、このような減衰装置としては、特開平10−184757号公報や特開2002−5229号公報に開示されるものが知られている。図9に示すように、この減衰装置は建物101と基盤101との間に設けられ、両者間に伝達される振動の減衰を行うものであり、前記基盤100に結合されるスクリューロッド106と、このスクリューロッド106を覆うようにして設けられると共に前記建物101に結合されたハウジング107とを具備している。前記スクリューロッド106には螺旋状のねじ溝が形成されており、このねじ溝にはハウジング107に対して回転自在に支承されたナット部材108が螺合している。すなわち、これらスクリューロッド106とナット部材108はボールねじを構成している。また、このナット部材108の外周面には円筒状の回転体109が直接固定されており、この回転体109の外周面はハウジング107の内周面と対向して粘性流体の作用室110を形成している。
【0006】
従って、このような構造の減衰装置1では、前記建物101が基盤100に対して振動すると、スクリューロッド106がナット部材108に対して進退すると共に、かかるナット部材108がハウジング107に対して回転を生じ、ナット部材108に固定された回転体109もハウジング107に対して回転を生じる。回転体109とハウジング107との隙間は粘性流体の作用室110となっていることから、回転体109が回転を生じると、作用室110内の粘性流体に対して回転体109の回転角速度に応じた剪断摩擦力が作用し、かかる粘性流体が発熱する。つまり、この減衰装置1では建物101と基盤100との間の振動エネルギが回転エネルギに変換され、更にその回転エネルギが熱エネルギに変換され、その結果として建物101の保有する振動エネルギの減衰が効果的に行われるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−240033号公報
【特許文献2】特開平10−184757号公報
【特許文献3】特開2002−5229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように構成された従来の減衰装置は工場で組み立てられた後に出荷され、建築物等の施行現場において、前記スクリューロッドの一端を基盤に、ハウジングを建物に固定する作業が行われる。しかし、かかる施行現場において、前記スクリューロッドの軸方向におけるハウジングの位置を調整しようとしても、ナット部材が固定された回転体とハウジングとの間に粘性流体が封入されていることから、スクリューロッドに対してナット部材を容易には回転させることができず、また、ナット部材それ自体もハウジングの内部に収容されていることから、ナット部材をスクリューロッドに対して強制的に回転させることが難しく、実際の施行現場における構造物への取り付け作業に手間がかかるといった問題点があった。
【0009】
また、前記免震装置は建物を基盤の揺れから絶縁するものの、建物それ自体が基盤上で自由に移動できることから、建物を基盤上の特定の位置に保持することはできず、例えば地震前後で基盤上における建物の位置が変位してしまう恐れもある。更に、強風によって建物が基盤上で変位してしまう恐れもある。このため、免震装置を使用する場合には、前述の如く基盤と建物との間に減衰装置を取り付ける他に、例えば、ゴム板と鋼板を交互に積層したゴム円柱体で基盤と建物とを連結する等し、地震の終息後に建物を基盤上の特定の位置に復帰させることが必要とされていた。その反面、このようにして建物と基盤を直接結合してしまうと、前記免震装置による建物と基盤の絶縁効果が半減してしまうといった問題点もあった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明はこのような問題点に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、スクリューロッドに対してナット部材を含む回転体を適宜回転させることで、かかるロッドの軸方向におけるハウジングの位置を任意に調整することが可能な振動減衰装置を提供することにある。更には、基盤に対して建物を特定の位置に保持し、あるいは建物を基盤上の特定の位置に復帰させることが可能であり、免震装置本来の効果を十分に発揮させることが可能な減衰装置を提供することにある。
【0011】
すなわち、本発明の減衰装置は、第1の構造体と第2の構造体との間に配置され、これら構造体の間における相対運動を減衰させるための減衰装置であって、前記第1の構造体に結合される固定外筒と、一端が第2の構造体に結合されて軸方向に進退すると共に外周面に螺旋状のねじ溝が形成されたスクリューロッドと、前記固定外筒の中空部内に収容されると共に該固定外筒に対して回転自在に支承される一方、前記スクリューロッドに螺合したロータを備えている。第1の構造体と第2の構造体との間に相対的な振動が作用すると、スクリューロッドが軸方向に進退し、これに応じて前記ロータが固定外筒の中空部内で正逆方向へ交互に回転することになる。
【0012】
前記固定外筒の内周面とロータの外周面は所定の隙間を介して対向しており、粘性流体が封入される作用室を形成している。このため、第1の構造体と第2の構造体との間に相対的な振動が作用し、前記ロータが固定外筒の中空部内で回転すると、作用室内の粘性流体に対して剪断摩擦力が作用し、かかる粘性流体が発熱することになる。これにより、第1の構造体と第2の構造体との間に作用した振動エネルギは熱エネルギに変換され、かかる振動のエネルギは減衰されることになる。
【0013】
前記ロータの軸方向の一端は固定外筒の中空部からその軸方向へ突出しており、この突出端には工具を係合させるための工具作用部が形成されている。この工具作用部に工具を係合させ、かかる工具を操作してロータを任意に回転させることにより、前記スクリューロッド上における固定外筒の位置を任意に変更することができるものである。
【0014】
また、前記ロータの軸方向の一端を固定外筒の中空部からその軸方向へ突出させ、かかる突出端にモータを連結することにより、前記ロータを固定外筒に対して任意の量だけ回転させることもできる。
【発明の効果】
【0015】
このように、固定外筒の中空部から突出したロータの一端に対し、工具あるいはモータを使用して回転トルクを与え、固定外筒に対してロータを回転させることにより、スクリューロッド上における固定外筒の位置を任意に変更することができ、固定外筒及びスクリューロッドを構造体に固定する際の施行を容易に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を適用した減衰装置の実施例を示す正面断面図である。
【図2】図1に示す減衰装置に使用されるスクリューロッド及びナット部材の組み合わせを示す斜視図である。
【図3】図1のIII−III線断面図である。
【図4】減衰装置のナット部材を電動モータで駆動する例を示す構成図である。
【図5】地震の揺れを利用して電動モータからバッテリに蓄電する構成を示す概略図である。
【図6】バッテリによって電動モータを駆動して建物の変位を修正する構成を示す概略図である。
【図7】直線案内装置を用いた免震装置の例を示す斜視図である。
【図8】図7に示す免震装置を用いて基盤上に建物を支持した様子を示す斜視図である。
【図9】従来の減衰装置の一例を示す正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面に沿って本発明の減衰装置を詳細に説明する。
【0018】
図1は本発明を適用した減衰装置の一実施例を示すものである。この減衰装置1は第1の構造体と第2の構造体との間に存在する相対的な振動を減衰させ、かかる振動を早期に収束させるものであって、例えば、建物とこれを支える基盤との間に配置されて使用される。
【0019】
この減衰装置1は、中空部を有して筒状に形成された固定外筒10と、この固定外筒10の中空部内に収容されると共に該固定外筒10に対して回転自在に支承されたロータ20と、これら固定外筒10及びロータ20を貫通すると共に該ロータ20が螺合したスクリューロッド30とを備えており、例えば、前記固定外筒10は第1の構造体としての建物101にボルトなどを用いて固定される一方、前記スクリューロッド30はその一端が第2の構造体としての基盤100に固定される。
【0020】
前記固定外筒10は、筒状に形成された外筒本体11と、この外筒本体11の軸方向の両端面に固定される一対のエンドプレート12,13とから構成されている。外筒本体11の内周面は、前記ロータ20の外周面と所定の隙間を介して対向するスリーブ部14と、このスリーブ部14に対して軸方向へ隣接して設けられた一対のロータ支持部15,16とから構成されており、一対のロータ支持部15,16には前記ロータ20の回転を支承するための一対の回転ベアリング17,18が嵌合している。これらの回転ベアリング17,18は前記エンドプレート12,13を外筒本体11に対してボルトを用いて固定することで、前記外筒本体11のロータ支持部15,16に固定されるようになっている。尚、図中の符号19は回転ベアリング17,18の外輪に接して該回転ベアリング17,18の軸方向の位置決めを行うスペーサリングである。
【0021】
一方、前記ロータ20は、前記固定外筒10の中空部内に収容されると共に、前述の回転ベアリング17,18によってその回転を支承された回転内筒21と、この回転内筒21の軸方向の一端にブラケット22を介して固定されたナット部材40とから構成されており、前記回転内筒21の内周面とスクリューロッド30の外周面との間には隙間が形成される一方、前記ナット部材40が前記スクリューロッド30の外周面に螺合している。前記回転内筒21は外筒本体11のスリーブ部14と対向するジャーナル部24を有しており、外筒本体11のスリーブ部14と回転内筒21のジャーナル部24とが対向することにより、これらの間に粘性流体の作用室2が形成されるようになっている。この作用室2には粘性流体が充填されている。前記外筒本体11のスリーブ部14にはプラグ23が取り付けられており、かかるプラグ23を介して前記作用室2へ任意の粘度の粘性流体を充填することができる。また、前記ジャーナル部24の軸方向の両端にはリング状のシール部材25,25が嵌められており、作用室2内に封入された粘性流体が漏れだすのを防止している。
【0022】
図2は前記スクリューロッド30とナット部材40との組み合わせを示す斜視図である。スクリューロッド30の外周面には螺旋状のボール転動溝31が形成されており、ナット部材40は前記ボール転動溝31を転動する多数のボール3を介してスクリューロッド30に螺合している。また、ナット部材40は前記スクリューロッド30が挿通される貫通孔を有して円筒状に形成されると共に、前記スクリューロッド30のボール転動溝31を転動したボール3を循環させるための無限循環路が設けられている。すなわち、これらナット部材40とスクリューロッド30はボールスクリューを構成している。
【0023】
そして、このナット部材40の外周面にはフランジ部41が設けられており、かかるフランジ部41に挿通された固定ボルト42を前記ブラケット22に締結することで、ナット部材40の回転がブラケット22を介して前記回転内筒21に伝達されるようになっている。前記ブラケット22は回転円筒21の軸方向の端面にボルトで締結されており、固定外筒10を構成するエンドプレート13から軸方向へ突出している。また、ナット部材40のフランジ部41は固定外筒10から突出したブラケット22の端部に対して固定されている。従って、ナット部材40は前記固定外筒10の内部には収容されておらず、固定ボルト42の締結を解除することで、容易に固定外筒10及び回転内筒21の組立体をスクリューロッド30から抜き取ることができるようになっている。
【0024】
一方、図1に示すように、スクリューロッド30の一端は円盤状の取付板43に螺合しており、かかる取付板43は図示外のボルトで基盤100に対して固定されている。取付板43とスクリューロッド30の間には平行キー44が挿入されており、取付板43に対するスクリューロッド30の回転止めがなされている。
【0025】
従って、基盤100に対して建物101が図1中の矢線X方向に沿って振動すると、前記固定外筒10は第1の構造体たる建物101に固定されていることから、かかる振動は固定外筒10に対するスクリューロッド30の軸方向への進退運動となり、この進退運動に伴ってナット部材40を含むロータ20が固定外筒の中空部内でスクリューロッドの周囲を回転することになる。ロータ20が固定外筒10に対して回転を生じると、前記作用室2に存在する粘性流体に対して剪断摩擦力が作用し、回転円筒21の運動エネルギが粘性流体の熱エネルギに変換されて消費され、回転円筒21の運動エネルギが減衰される。これにより、基盤100に対する建物101のX方向の振動を強制的に減衰させることができるようになっている。
【0026】
スクリューロッド30のX方向に沿った進退運動をナット部材40の回転運動に変換しているので、かかるナット部材40にはスクリューロッド30の軸方向に沿った外力が作用している。このため、ロータ20の回転を支承する一対の回転ベアリング17,18のうち、ナット部材40に近接した側の回転ベアリング18にはラジアル荷重とスラスト荷重を等分に負荷することが可能なクロスローラ軸受が採用され、ナット部材40から回転内筒に対して作用するスラスト荷重、すなわちスクリューロッド30の軸方向に作用する外力を十分に負荷し得るように構成されている。
【0027】
また、前記クロスローラ軸受18はブラケット22を回転内筒21に対して固定することで、その内輪が該回転内筒21に固定されており、前記ブラケット22はクロスローラ軸受18の押え板としても機能している。
【0028】
以上のように構成された減衰装置1を基盤100と建物101との間に取り付けるに当たっては、スクリューロッド30の軸方向における固定外筒10の位置を微妙に調整しなければならない場合がある。スクリューロッド30上における固定外筒10の位置を調整するにはロータ20をスクリューロッド30に対して回転させれば良いのだが、前述の如く外筒本体11と回転内筒21との間の作用室2には粘性流体が封入されていることから、ロータ20を容易には回転させることができない。
【0029】
このため、この減衰装置1では、固定外筒10の外部に突出した前記ロータ20の一部、すなわち前記ナット部材40に対して工具を係合させるための工具作用部を設け、かかる工具を使用することで、ロータ20をスクリューロッド30に対して手動で回転させることができるようになっている。具体的には、図3に示すように、ナット部材40に突設されたフランジ部41には180°相反する位置に一対の工具作用面45,45が形成されており、これら工具作用面45はフランジ部41の外周面を弦のように切り欠いた平坦面として形成されている。従って、これらの工具作用面45,45を工具によって挟み込んで把持することにより、かかる工具を用いてナット部材40に回転トルクを与えることができ、ロータ20をスクリューロッド30に対して手動で回転させることができるものである。
【0030】
これにより、減衰装置1を基盤100と建物との間に取り付けるに当たり、スクリューロッド30の軸方向における固定外筒10の位置を微妙に調整することが可能となり、かかる取付作業を円滑に行うことが可能となる。
【0031】
尚、前記工具作用部は必ずしもナット部材40に設ける必要はなく、工具を係合させて前記ロータ20を回転させることができるものであれば、かかるロータ20の何処かに設けてあればよい。
【0032】
一方、図7に示すような免震装置Gを用いて建物101を基盤100上で支持した場合、かかる建物101は基盤100の揺れから絶縁されており、基盤100の振動と関係なく揺れることになる。この揺れのエネルギを前述の減衰装置で減衰させ、建物101の揺れを早期に収束させる訳ではあるが、建物101が基盤100から絶縁されているので、揺れが収まった際に建物101が基盤100に対して変位してしまっている場合もある。
【0033】
しかし、前述の如く固定外筒10の外部にナット部材40を設け、このナット部材40を工具を用いて強制的に回転させることができれば、仮に建物101が基盤100に対して変位を生じても、ロータ20を回転させることでスクリューロッド30上における固定外筒10の位置を調整することができ、基盤100に対する建物101の変位を事後的に解消することが可能となる。すなわち、地震の発生によって建物101が基盤100上の定位置からずれてしまったような場合には、ナット部材40を手動で強制的に回転させることで、建物101を基盤100上の定位置に復帰させることができるのである。
【0034】
図4は、前記ナット部材40の強制回転を工具による手動ではなく、電動モータ5を用いて行う例を示すものである。すなわち、ナット部材40の外周面に入力ギヤ50を設けると共に、電動モータ5の出力軸に設けられた減速ギヤ51を前記入力ギヤ50にかみ合わせ、これによってナット部材40を電動モータ5の回転量に応じて回転させることが可能となる。モータ5の駆動信号はモータ制御部52によって生成されるが、かかるモータ制御部52は操作スイッチ53のON/OFFに従って駆動信号を生成すればよく、この場合はユーザによる操作スイッチ53のON/OFFに応じて電動モータ5が回転し、固定外筒10がスクリューロッド30上を移動することになる。
【0035】
もっとも、操作スイッチ53のON/OFFによらずに、基盤100に対する建物101の変位を修正するという観点からすれば、前記固定外筒10あるいは建物101の位置を検出する位置センサ54を設け、この位置センサ54の出力信号に基づいて電動モータ5の駆動信号を生成することも可能である。すなわち、位置センサ54の出力信号を定期的にチェックすることにより、建物101が基盤100上の所定の位置に静止しているか否かを判断することができ、所定の位置にいないと判断される場合には、建物101が所定位置で検出されるまでモータ5をいずれかの方向へ回転させることになる。これにより、ユーザの操作によらず、建物101を基盤100上の所定の位置に自動的に復帰させることが可能となる。
【0036】
また、前記免震装置Gは基盤100の揺れから建物101を絶縁する程度にまで軽く動作することから、台風等の如く強風が建物101の外壁に対して作用すると、これによっても建物101が基盤100上の定位置からずれてしまう可能性がある。このことからすれば、前記電動モータ5に保持力を発揮させ、かかる保持力によって減衰装置1のロータ20の回転を禁止し、建物101が基盤100に対して移動してしまうのを防止するのが好ましい。もっとも、地震の発生時には建物101が基盤100に対して自由に移動することが必要であるから、前記電動モータ5が常に保持力を発揮していたのでは、建物101と基盤100とを絶縁するという免震装置Gの効果を極端に低下させることになってしまう。
【0037】
従って、地震の未発生時には前記電動モータ5に保持力を発揮させ、強風などに抗して建物101を基盤101上の定位置に保持する一方、地震の発生時には電動モータ5に対する電圧の印加を解除し、地震時の揺れによってナット部材40が電動モータ5を自由に回転させるように構成するのが良い。そして、地震の揺れが収束した後は、ユーザによる操作スイッチ53のON/OFF、あるいは位置センサ54の出力信号に応じて電動モータ5を回転させ、前記地震によって生じた基盤100に対する建物101の変位を解消させるのが好ましい。
【0038】
ここで、電動モータ5に対する電圧印加を解除するタイミング、すなわちモータ5の保持力を取り除いてナット部材40の自由回転を可能にするタイミングとしては、地震計55による検出結果から該タイミングを決定することができる。すなわち、地震が発生すると、先ずは速度の速い細かな揺れの初期微動(P波)が到来し、その後に大きな揺れを引き起こす破壊力のある主要動(S波)が到来することから、別個に設けた地震計55でP波を検出したならば、S波が到達する前に電動モータ5の保持力を取り除くように構成する。地震計55は独自に設けることもできるが、近年では地方自治体などによる地震観測網が整備されており、これら観測網の地震計のデータの提供を受け、それを利用するようにしても良い。これにより、地震の非発生時には基盤100に対する建物101の変位を積極的に防止する一方、地震の発生時には免震装置Gの機能を最大限に発揮させ、基盤100の揺れから建物101を絶縁することが可能となる。
【0039】
このように電動モータ5によってロータ20を回転させ、地震後に残留した基盤100に対する建物101の変位を解消するように構成しても、地震によって停電が発生してしまうと、電動モータ5を使用することができないといった事態も想定される。このため、電動モータ5を駆動するためのバッテリを設け、停電が発生した場合であっても、かかる電動モータ5の駆動を行えるように構成するのが好ましい。
【0040】
また、前述の如く、地震の発生時には建物101が基盤100に対して揺れ動くことで、かかる揺動に合わせて減衰装置1のロータ20が正逆方向へ繰り返し反転し、電動モータ5が減衰装置1によって回転させられるので、この電動モータ5を発電機として利用し、バッテリ56に蓄電することが可能である(図5参照)。電動モータ5をバッテリ56に蓄電するための発電機として利用するためには、整流器等が必要となり、電動モータ5に接続する電気回路を切り換えることが必要となるが、かかる切り換えに関しては、前述の如く地震計55の検出結果を利用することができる。すなわち、地震計55がP波を検出したならば、直ちに電気回路を発電用に切り換え、電動モータ5からバッテリ56へ蓄電が行われるようにする。このように地震による振動のエネルギを利用して電動モータ5で発電を行い、それをバッテリ56に蓄電するように構成すれば、地震後の停電によって電力供給が絶たれてしまうような場合であっても、前記電動モータ5を駆動することができ、基盤100に対する建物101の変位を解消することができるものである(図6参照)。
【0041】
一方、地震による建物の揺れを素早く解消させるといった観点からすれば、前記減衰装置は大きな減衰力を発揮するのが好ましいといえる。そのためには、例えば作用室内に封入される粘性流体の粘度を高め、あるいは作用室を狭くする等の対処が効果的である。しかし、これに伴って固定外筒に対するロータの回転抵抗も増加することから、減衰力の設定をあまりに大きくすると、減衰装置が前記免震装置による基盤と建物の絶縁を阻害することになり、基盤の振動が建物にそのまま伝達されてしまう。その反面、減衰装置の減衰力をあまりに小さく設定すると、地震が収まっているにもかかわらず、建物の揺れがなかなか収まらない結果となる。このため、減衰装置の発揮する減衰力は免震装置が支える建物の重量などに応じて最適な大きさが与えられている。
【0042】
しかし、想定を上回る強い振動が建物に作用した場合は、減衰装置に設定されていた減衰力は不足気味となり、建物の振動はなかなか収束しないことになる。このため、地震による建物101の揺れを素早く減衰させるといった観点からすれば、建物101の揺れに起因してロータ20に与えられる回転トルクを前記電動モータ5で減殺するのか好ましい。すなわち、前記電動モータ5によりロータ20の回転方向と逆方向の回転トルクを発生させ、これを電動モータ5からロータ20に伝達することで、地震によってロータ20に与えられる回転トルクを減じるのである。このとき、ロータ20は地震の揺れに伴って回転方向を繰り返し逆転させながら振動するので、電動モータ5が発生する回転トルクの方向もロータ20の回転方向と常に逆向きとなるように振動させる必要がある。このような電動モータ5の回転方向の切り換えは、前述した地震計55の波形データを利用して行うことができる。
【0043】
このように電動モータ5を用いて地震によるロータ20の回転方向と逆方向の回転トルクを該ロータ20に対して与えてやれば、そもそもロータ20に作用する回転トルクを減殺することができ、地震によってロータ20に与えられた回転運動のエネルギが小さくなるので、建物の振動をいち早く減衰させることができるものである。
【0044】
反面、減衰装置に対してはある大きさの減衰力が設定されており、基盤から建物に伝播する振動のエネルギが小さいと、ロータが回転することができず、免震装置の存在にもかかわらず、建物は基盤に拘束された状態となり、免震装置が満足に作用しない場合も生じる。このため、免震装置の機能を発揮させて基盤と建物を絶縁するという観点からすれば、地震の揺れに合わせて電動モータを回転させ、ロータの回転抵抗に打ち勝って建物が基盤に対して移動を生じるように補助するのが好ましい。すなわち、地震の揺れによるロータ20の回転方向と順方向に電動モータの回転トルクを発生させ、これをロータ20に伝達することで、ロータの回転始動を介助するのである。
【0045】
このように電動モータ5を用いて減衰装置におけるロータの回転始動を介助すれば、基盤から建物に伝達される振動エネルギが小さい場合であっても、免震装置を確実に機能させることができ、地震による建物の被害を軽減することができるものである。
【符号の説明】
【0046】
1…減衰装置、5…電動モータ、10…固定外筒、20…ロータ、30…スクリューロッド、40…ナット部材、100…基盤(構造体)、101…建物(構造体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の構造体と第2の構造体との間に配置され、これら構造体の間に作用する相対的な振動を減衰させるための減衰装置であって、
前記第1の構造体に結合されるハウジングと、一端が前記第2の構造体に結合されて軸方向に進退すると共に外周面に螺旋状のねじ溝が形成されたスクリューロッドと、前記ハウジングに対して回転自在に支承され、かかるハウジングと所定の隙間を介して対向して減衰力の作用室を形成する一方、前記スクリューロッドに螺合するロータと、前記作用室に封入された粘性流体と、前記ロータに連結されて当該ロータを回転させる電動モータと、前記振動の発生を検出するセンサの検出結果に応じて前記電動モータを制御するモータ制御部とから構成されることを特徴とする減衰装置。
【請求項2】
前記モータ制御部は、前記振動によって生じる前記ロータの回転方向と順方向の回転トルクを当該ロータに対して与えるように前記電動モータの駆動信号を生成することを特徴とする請求項1記載の減衰装置。
【請求項3】
前記モータ制御部は、前記振動によって生じる前記ロータの回転方向と逆方向の回転トルクを当該ロータに対して与えるように前記電動モータの駆動信号を生成することを特徴とする請求項1記載の減衰装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−242971(P2010−242971A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129937(P2010−129937)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【分割の表示】特願2004−160864(P2004−160864)の分割
【原出願日】平成16年5月31日(2004.5.31)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【Fターム(参考)】