説明

ポリアミド樹脂水性分散体及びその製造方法、並びに積層体

【課題】実質的に乳化剤や界面活性剤を含まず、良好な密着性、柔軟性、耐薬品性、耐熱接着性を有するポリアミド樹脂塗膜を得ることができる水性分散体であって、室温でも分散安定性に優れ、緻密な塗膜を形成するのに十分な小粒子径のポリアミド樹脂水性分散体を提供する。
【解決手段】ジカルボン酸成分としてダイマー酸をジカルボン酸成分全体の50モル%以上含み、酸価が1〜20mgKOH/gのダイマー酸系ポリアミド樹脂が水性媒体中に分散した水性分散体であって、常圧時の沸点が185℃未満の塩基性化合物を含有し、かつ常圧時の沸点が185℃以上もしくは不揮発性の水性分散化助剤を実質的に含有せず、水性分散体中の前記ダイマー酸系ポリアミド樹脂の数平均粒子径が0.5μm以下であるポリアミド樹脂水性分散体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な密着性、柔軟性、耐薬品性、耐熱接着性を有するポリアミド樹脂塗膜を得ることができる水性分散体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
主鎖にアミド結合を有するポリアミド樹脂は、主に、アジピン酸やセバシン酸などのジカルボン酸成分と、ヘキサメチレンジアミンやエチレンジアミンなどのジアミン成分を用いた脱水縮合反応によって得られる樹脂であり、食品包装用途や工業用途など幅広い分野で用いられている。
【0003】
ダイマー酸とは、炭素数36のジカルボン酸成分であり、オレイン酸やリノール酸などの炭素数18の不飽和脂肪酸を二量化することによって得られるものであり、植物由来の脂肪酸である。ダイマー酸を主成分とするジカルボン酸成分と各種ジアミン成分の縮合反応によって、ダイマー酸系ポリアミド樹脂を得ることができる。
ダイマー酸系ポリアミド樹脂は、密着性、柔軟性、耐薬品性、耐熱接着性に優れた樹脂であり、自動車部品やケーブルなど幅広い用途でのホットメルト接着剤や樹脂改質用の添加剤などに用いられている。また、ジカルボン酸成分、ジアミン成分、末端酸成分量、末端アミン成分量などによって、樹脂の軟化点やMFR、接着性や柔軟性などの特性を幅広くコントロールすることができることも特徴の一つである。
【0004】
ダイマー酸系ポリアミド樹脂の特性を損なうことのない溶液もしくは分散体を得ることができれば、例えば樹脂フィルムやシート、紙、金属などの表面に容易にダイマー酸系ポリアミド樹脂塗膜を形成し、良好な密着性、柔軟性、耐薬品性、耐熱接着性を付与することができる。しかしながら、ダイマー酸系ポリアミド樹脂は、特にその酸価が小さい樹脂、また軟化点の高い樹脂においてはアルコール類やトルエンなど各種溶媒への溶解性が劣り、安定した溶液を得ることが困難である。
【0005】
ダイマー酸系ポリアミド樹脂を含むポリアミド樹脂水性分散体を得ようとする試みも行われている。例えば特許文献1において、酸価8以上のポリアミド樹脂を通常20質量%以上のアルキルアルカノールアミンを含む水系溶媒中に分散する方法が検討されている。しかしながら、この方法で得られる水性分散体は室温においてゲル化し、分散安定性に優れた水性分散体を得られるには至っていない。
【0006】
特許文献2〜5には、ダイマー酸系ポリアミド樹脂を含むポリアミド樹脂の水性分散体を得る方法が示されているが、いずれも乳化剤や界面活性剤を必須成分とすることから、塗膜にした際に、ポリアミド樹脂成分以外に乳化剤や界面活性剤が含有してしまい、これらが塗膜の特性、例えば本来ポリアミド樹脂が有する良好な接着性や耐薬品性などに悪影響を及ぼすという問題がある。また、加温下においては低粘度の分散体が得られるが、冷却することによって増粘が始まり、室温ではかなり増粘、ゲル化するという問題がある。さらには、水性分散体を得るために、酸価が高い樹脂を用いることが水性化を容易にするが、酸価が高くなるほど、本来のポリアミド樹脂の特性が阻害されてしまうという問題がある。また、室温で増粘せずに得られる水性分散体においても、分散体中の樹脂の平均粒子径は、最も小さいものでも0.5μmであり、いずれも、分散安定性に優れ緻密な塗膜を形成するのに十分な小粒子径の水性分散体とは言えないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭64−20261号
【特許文献2】特開平2−4863号
【特許文献3】特開平2−4862号
【特許文献4】特開2000−7787号
【特許文献5】特開2001−270987号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記のような問題点を解決するものであって、実質的に乳化剤や界面活性剤を含まず、良好な密着性、柔軟性、耐薬品性、耐熱接着性を有するポリアミド樹脂塗膜を得ることができる水性分散体であって、室温でも分散安定性に優れ、緻密な塗膜を形成するのに十分な小粒子径のポリアミド樹脂水性分散体を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定組成のダイマー酸系ポリアミド樹脂を用いることで、界面活性剤などの不揮発性水性化助剤あるいは高沸点の水性化助剤を添加することなく、水性媒体中に安定性良く、かつ小粒子径に分散できることを見出した。さらに、この水性分散体を塗布して得られる塗膜は、ポリアミド樹脂本来の良好な密着性、柔軟性、耐薬品性、耐熱接着性を示すことを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
(1)ジカルボン酸成分としてダイマー酸をジカルボン酸成分全体の50モル%以上含み、酸価が1〜20mgKOH/gのダイマー酸系ポリアミド樹脂が水性媒体中に分散した水性分散体であって、常圧時の沸点が185℃未満の塩基性化合物を含有し、かつ常圧時の沸点が185℃以上もしくは不揮発性の水性分散化助剤を実質的に含有せず、水性分散体中の前記ダイマー酸系ポリアミド樹脂の数平均粒子径が0.5μm以下であることを特徴とするポリアミド樹脂水性分散体。
(2)常圧時の沸点が185℃未満の塩基性化合物をダイマー酸系ポリアミド樹脂固形分に対して0.01〜15質量%含有することを特徴とする(1)記載のポリアミド樹脂水性分散体。
(3)親水性有機溶剤を含有する水性媒体中に、ダイマー酸系ポリアミド樹脂と常圧時の沸点が185℃未満の塩基性化合物を添加し、70〜280℃の温度で加熱攪拌することを特徴とする(1)又は(2)に記載のポリアミド樹脂水性分散体の製造方法。
(4)加熱攪拌後、親水性有機溶剤の留去を行う(3)記載のポリアミド樹脂水性分散体の製造方法。
(5)(1)又は(2)に記載のポリアミド樹脂水性分散体を基材に塗布してなることを特徴とする積層体。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリアミド樹脂水性分散体は、実質的に乳化剤や界面活性剤を含んでおらず、小粒子径のダイマー酸系ポリアミド樹脂が分散し、室温でもゲル化せず、分散安定性に優れたものである。このため、本発明のポリアミド樹脂水性分散体を塗布することにより、ダイマー酸系ポリアミド樹脂の緻密な塗膜を得ることが可能で、かつ得られる塗膜は、密着性、柔軟性、耐薬品性、耐熱接着性に優れている。
本発明のポリアミド樹脂水性分散体の製造方法によれば、従来、得ることができなかった、実質的に乳化剤や界面活性剤を含んでおらず、小粒子径のダイマー酸系ポリアミド樹脂が分散し、室温でもゲル化せず、分散安定性に優れた、本発明のポリアミド樹脂水性分散体を得ることが可能となり、かつ効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリアミド樹脂水性分散体は、酸価が1〜20mgKOH/gのダイマー酸系ポリアミド樹脂が水性媒体中に分散した水性分散体である。
【0013】
本発明における水性媒体とは、水を主成分とする液体からなる媒体であり、水性媒体中には、後述する親水性有機溶剤や塩基性化合物を含有していてもよい。
【0014】
本発明の水性分散体中に分散するダイマー酸系ポリアミド樹脂は、酸価が1〜20mgKOH/gである必要があり、好ましくは1〜15mgKOH/g、より好ましくは3〜12mgKOH/g、最も好ましくは2〜7mgKOH/gである。ここで酸価とは、樹脂1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数で定義されるものであり、JIS K 2501に記載の方法で測定されるものである。ダイマー酸系ポリアミド樹脂の酸価が1mgKOH/g未満では、安定な水性分散体を得ることが困難になり、一方、20mgKOH/gを超えると、本来のダイマー酸系ポリアミド樹脂の良好な特性である耐薬品性が低下することがある。
【0015】
本発明におけるダイマー酸系ポリアミド樹脂は、主鎖にアミド結合を有するものであり、主にジカルボン酸成分とジアミン成分を用いた脱水縮合反応によって得られるものであって、ジカルボン酸成分としてダイマー酸をジカルボン酸成分全体の50モル%以上含むものである。ここでダイマー酸とは、オレイン酸やリノール酸などの炭素数18の不飽和脂肪酸を二量化することによって得られるものであり、ダイマー酸成分の25質量%以下であれば、単量体であるモノマー酸(炭素数18)、三量体であるトリマー酸(炭素数54)、炭素数20〜54の他の重合脂肪酸を含んでもよく、さらに水素添加して不飽和度を低下させたものでもよい。
【0016】
ダイマー酸系ポリアミド樹脂は、ポリアミド樹脂として広く使用されているナイロン6、ナイロン6、6、ナイロン12などの樹脂に比べて、大きな炭化水素グループを有するために柔軟性を有している。ダイマー酸としては、例えば市販されているハリダイマーシリーズ(ハリマ化成社製)、プリポールシリーズ(クローダジャパン社製)、ツノダイムシリーズ(築野食品工業社製)などを用いることができる。
【0017】
本発明におけるダイマー酸系ポリアミド樹脂は、中でもジカルボン酸成分としてダイマー酸をジカルボン酸成分全体の60モル%以上含むことが好ましく、さらには70モル%以上含むことが好ましい。ダイマー酸の割合が50モル%未満であると、ダイマー酸系ポリアミド樹脂の特性や効果を奏することが困難となる。一方、ジカルボン酸成分としてダイマー酸以外の成分を用いる場合は、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ピメリン酸、スベリン酸、ノナンジカルボン酸、フマル酸などを用いることが好ましく、これらを50モル%未満含有することにより、樹脂の軟化点や接着性などの制御が容易となる。
【0018】
また、ジアミン成分としては、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、m−キシレンジアミン、フェニレンジアミン、ジエチレントリアミン、ピペラジンなどを用いることができ、中でもエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、m−キシレンジアミン、ピペラジンが好ましい。
さらに、樹脂を重合する際のジカルボン酸成分とジアミン成分の仕込み比によって、樹脂の重合度や酸価もしくはアミン価を制御することが可能となる。
【0019】
本発明のポリアミド樹脂水性分散体は、常圧時の沸点が185℃未満の塩基性化合物を含有することが必要である。常圧時の沸点が185℃未満の塩基性化合物を含有することによって、1〜20mgKOH/gの酸価を示すダイマー酸系ポリアミド樹脂のカルボキシル基が中和され、中和によって生成したカルボキシルアニオン間の電気反発力によって微粒子間の凝集を防ぐことができ、分散安定性に優れた水性分散体とすることができる。
【0020】
常圧時の沸点が185℃未満の塩基性化合物としては、アンモニア、有機アミンなどのアミン類などが挙げられる。有機アミン化合物の具体例としては、トリエチルアミン、N、N−ジメチルエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等を挙げることができる。常圧時の沸点が185℃未満の塩基性化合物として、中でもトリエチルアミン、N、N−ジメチルエタノールアミンが好ましい。
常圧時の沸点が185℃を超えると、水性分散体を塗布して塗膜を形成する際に、乾燥によって塩基性化合物、特に有機アミンを揮発させることが困難になり、衛生面や塗膜特性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0021】
本発明のポリアミド樹脂水性分散体において、塩基性化合物の含有量はダイマー酸系ポリアミド樹脂固形分に対して0.01〜100質量%であることが好ましく、中でも1〜40質量%が好ましく、1〜15質量%がより好ましい。0.01質量%未満では、塩基性化合物を添加する効果に乏しく、分散安定性に優れた水性分散体を得ることが困難となる。一方、100質量%を超えると、ポリアミド樹脂の水性分散体の着色やゲル化が生じやすくなることがある。
【0022】
そして、本発明のポリアミド樹脂水性分散体は、常圧時の沸点が185℃以上もしくは不揮発性の水性化助剤を含有しない。ここで、常圧時の沸点が185℃以上もしくは不揮発性の水性化助剤とは、乳化剤成分あるいは保護コロイド作用を有する化合物などを指す。つまり、本発明のポリアミド樹脂水性分散体は、これら乳化剤成分あるいは保護コロイド作用を有する化合物を含有することなく、安定な水性分散体となり得ることを意味する。
【0023】
乳化剤成分としては、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、あるいは両性乳化剤が挙げられ、一般に乳化重合に用いられるもののほか、界面活性剤類も含まれる。例えば、アニオン性乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等が挙げられ、ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体などのポリオキシエチレン構造を有する化合物やソルビタン誘導体等が挙げられ、両性乳化剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0024】
保護コロイドを有する化合物としては、ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、変性デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびその塩、カルボキシル基含有ポリエチレンワックス、カルボキシル基含有ポリプロピレンワックス、カルボキシル基含有ポリエチレン−プロピレンワックスなどの数平均分子量が通常は5000以下の酸変性ポリオレフィンワックス類およびその塩、アクリル酸−無水マレイン酸共重合体およびその塩、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸交互共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等の不飽和カルボン酸含有量が10質量%以上のカルボキシル基含有ポリマーおよびその塩、ポリイタコン酸およびその塩、アミノ基を有する水溶性アクリル系共重合体、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン等、一般に微粒子の分散安定剤として用いられている化合物が挙げられる。
【0025】
なお、本発明の水性分散体は、常圧時の沸点が185℃以上もしくは不揮発性の水性化助剤を含有しないものであるが、これは、常圧時の沸点が185℃以上もしくは不揮発性の水性化助剤を含有しなくとも安定なポリアミド樹脂水性分散体が得られるということである。したがって、本発明のポリアミド樹脂水性分散体を構成成分の一部とする塗剤を得る際に、目的に応じて、上述したような水性化助剤を添加することを妨げるものではない。
【0026】
このように、本発明のポリアミド樹脂水性分散体は、水性媒体中にダイマー酸系ポリアミド樹脂が安定して分散されており、ダイマー酸系ポリアミド樹脂粒子の数平均粒子径は、0.5μm以下であり、好ましくは0.4μm以下であり、より好ましくは0.2μm以下、最も好ましくは0.1μm以下である。水性分散体中においてダイマー酸系ポリアミド樹脂粒子の数平均粒子径が0.5μmを超えると、分散安定性や希釈安定性が低下し、さらに塗膜にした際に緻密な膜になり難い。ここで、上記ポリアミド樹脂粒子の数平均粒子径は動的光散乱法によって測定されるものであり、日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340)を用いて測定する。
【0027】
また、本発明の水性分散体中のダイマー酸系ポリアミド樹脂の含有量(固形分濃度)は、3〜40質量%であることが好ましく、中でも10〜30質量%であることが好ましい。水性分散体中のダイマー酸系ポリアミド樹脂の含有量が上記範囲より少ない場合は、乾燥工程によって塗膜を形成する際に時間を要する場合があり、また厚い塗膜を得ることが困難になる。一方、水性分散体中のダイマー酸系ポリアミド樹脂の含有量が上記範囲より多い場合は、分散体の保存安定性が低下しやすくなる。
【0028】
次に、本発明のポリアミド樹脂水性分散体の製造方法について説明する。
本発明の製造方法は、親水性有機溶剤を含有する水性媒体中に、所定量のダイマー酸系ポリアミド樹脂と常圧時の沸点が185℃未満の塩基性化合物を添加し、70〜280℃の温度で、加熱撹拌するものである。加熱撹拌する際には樹脂が水性媒体中に均一に分散されるまで毎分100〜1000回転で加熱撹拌することが好ましい。
【0029】
加熱攪拌時の温度は、中でも100〜250℃とすることが好ましい。加熱攪拌時の温度が70℃未満であると、ダイマー酸系ポリアミド樹脂を完全に分散させることができず、数平均粒子径が0.5μm以下の水性分散体を得ることが困難となる。一方、加熱攪拌時の温度が280℃を超えると、ダイマー酸系ポリアミド樹脂の分子量が低下する恐れがあり、系の内圧が上がりすぎるという問題も生じる。
【0030】
また、本発明の製造方法においては、加熱攪拌後、得られたポリアミド樹脂水性分散体から、親水性有機溶剤を留去することが好ましい。ただし、塩基性化合物が留去されないような温度、圧力を選択することが好ましい。
【0031】
本発明のポリアミド樹脂水性分散体の製造工程において、水性媒体中に添加する親水性有機溶剤の含有量は、水性媒体の10〜60質量%が好ましく、20〜50質量%であることがより好ましい。親水性有機溶剤の含有量が10質量%未満では、ダイマー酸系ポリアミド樹脂の水性分散化が十分に進行しない場合があり、一方、60質量%を超えると分散体がゲル化する恐れがある。
【0032】
また、親水性有機溶剤の沸点は30〜180℃であることが好ましく、50〜150℃であることがより好ましく、50〜120℃であることが特に好ましい。親水性有機溶剤の沸点が30℃未満の場合は、水性分散体を調製する際に揮発する割合が多くなり、親水性有機溶剤を添加する効果に乏しくなるとともに、作業環境が悪化しやすくなる。沸点が180℃を超える場合は、水性分散体から有機溶剤を除去することが困難になり、また塗膜にする際に、塗膜に残留しやすく耐溶剤性が低下する恐れがある。
【0033】
さらに、親水性有機溶剤としては、20℃における水に対する溶解性が50g/L以上のものが好ましく、こうした親水性有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール(以下「IPA」と略称する)等のアルコール類、テトラヒドロフラン(以下、「THF」)ジオキサン等のエーテル類、エチレングリコールモノメチルエーテル等のグリコール誘導体等が挙げられ、2種以上を混合して使用しても良い。これらの親水性有機溶剤の中でも、水性分散化を促進する点からIPA、n-プロパノール、THFが好ましく、これらを併用(IPAとTHF、n-プロパノールとTHF)することも好ましい。
【0034】
本発明のポリアミド樹脂水性分散体の製造方法において、親水性有機溶剤を含有する水性媒体中に、分散を促進させる目的で、トルエンやシクロヘキサンなどの炭化水素系有機溶剤を水性媒体の質量の10質量%以下添加してもよい。炭化水素系有機溶剤の添加量が10質量%を超えると、製造工程において水との分離が激しくなり、均一な水性分散体が得られない場合がある。
【0035】
本発明の水性分散体の製造方法により加熱攪拌して得られた水性分散体は、室温まで冷却されるが、その冷却過程で何ら凝集することなく、低粘度のポリアミド樹脂水性分散体となる。具体的には、本発明の水性分散体は、25℃における粘度が500mPa・s以下と十分に低粘度の水性分散体となり、加工性や安定性に優れている。中でも本発明の水性分散体は粘度が300mPa・s以下、さらには100mPa・s以下であることが好ましい。
【0036】
また、本発明の水性分散体には、必要に応じて、レベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤等の各種薬剤や、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック等の顔料あるいは染料を添加することができる。
【0037】
そして、本発明の積層体は、本発明のポリアミド樹脂水性分散体を基材に塗布してなるものである。本発明のポリアミド樹脂水性分散体を基材に塗布する方法(塗工方法)としては、公知の方法、例えばグラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等を挙げることができる。これらの方法により水性分散体を基材の表面に均一に塗工することができる。
【0038】
水性分散体を塗布する基材としては、樹脂材料、ガラス材料等で形成されたものが挙げられる。基材の厚みは特に限定されるものではないが、10〜1000μmが好ましく、中でも10〜500μmが好ましく、さらには10〜200μmが好ましい。
【0039】
基材に用いることができる樹脂材料としては、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリ(メタ)アクリルロニトリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂、トリアセテートセルロース系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、再生セルロース系樹脂、ジアセチルセルロース系樹脂、アセテートブチレートセルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン三元共重合系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ナイロン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ノルボルネン系樹脂等が挙げられる。樹脂材料は延伸処理されていてもよい。樹脂材料は、公知の添加剤や安定剤、例えば帯電防止剤、可塑剤、滑剤、酸化防止剤などを含んでいてもよい。樹脂材料は、その他の材料と積層する場合の密着性を良くするために、表面に前処理としてコロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、薬品処理、溶剤処理等を施したものでもよい。また、シリカ、アルミナ等が蒸着されていてもよく、バリア層や易接着層、帯電防止層、紫外線吸収層、接着層、離型層、反射防止層、ハードコート層、アンチグレア層などの他の層が積層されていてもよい。
【0040】
上記のように、本発明のポリアミド樹脂水性分散体を基材に塗布した後、乾燥熱処理することにより、水性媒体を除去することができ、緻密なダイマー酸系ポリアミド樹脂塗膜を基材に密着させて形成することができる。このとき、水性分散体中の塩基性化合物が留去される条件で乾燥熱処理を行うことにより、水性分散体中の塩基性化合物をも除去することが好ましい。
【0041】
基材に形成されるダイマー酸系ポリアミド樹脂塗膜の厚みは特に限定されるものではないが、0.05〜20μmの範囲とすることが好ましく、0.1〜10μmであることがより好ましい。0.05μm未満ではダイマー酸系ポリアミド樹脂塗膜の特性が十分に発現されない場合があり、20μmを超えるとポリアミド樹脂塗膜の特性(効果)が飽和し、コスト的に不利となる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。なお、実施例中の各種の値の測定及び評価は以下のように行った。
【0043】
(1)ポリアミド樹脂の特性値
〔酸価、アミン価〕
JIS K 2501に記載の方法により測定した。
〔軟化点温度〕
樹脂10mgをサンプルとし、顕微鏡用加熱(冷却)装置ヒートステージ(リンカム社製、Heating-Freezing ATAGE TH-600型)を備えた顕微鏡を用いて、昇温速度20℃/分の条件で測定を行い、樹脂が溶融した温度を軟化点とした。
〔溶融粘度〕
ブルックフィールド溶融粘度計DV-II+PRO型にて、樹脂温度200℃、ずり速度1.25/秒で測定した。溶融開始後、約25分間回転させ、粘度がほぼ経過時間で安定した時点での溶融粘度の値を読み取った。
(2)水性分散体の固形分濃度
得られた水性分散体を適量秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱し、固形分濃度を求めた。
(3)水性分散体の分散安定性
得られた水性分散体を室温で10日間静置し、水性分散体の外観を次の3段階で評価した。
○:外観に変化なし、△:分離、一部ゲル化あり、×:完全ゲル化、凝集物の発生あり
(4)水性分散体のpH
pHメータ(堀場製作所社製、F−52)を用い、pHを測定した。
(5)水性分散体の粘度
B型粘度計(トキメック社製、DVL−BII型デジタル粘度計)を用い、温度25℃における回転粘度(mPa・s)を測定した。
(6)水性分散体中のポリアミド樹脂の数平均粒子径
前記の方法で測定した。また、ポリオレフィン樹脂水性分散体についても同様に測定した。
(7)密着性
基材として軟質塩化ビニルシートを用い、この基材の片面に、得られたポリアミド樹脂水性分散体とポリオレフィン樹脂水性分散体(E−1〜E−9)を乾燥後の樹脂層の厚さが3μmになるようにワイヤーバーを用いて塗布し、120℃で1分間加熱乾燥処理をすることにより、ダイマー酸系ポリアミド樹脂塗膜を軟質塩化ビニルシートの表面に形成した。得られた積層体の塗膜について、JIS K5600に記載の方法に従い、クロスカット法によって、次の4段階で密着性を評価した。
◎ :どの格子にも剥がれが見られない。
○ :格子カットの縁に沿ってわずかに剥がれが見られる。全体の5%以下。
△ :全体の5〜15%程度の剥がれが見られる。
× :全体の15%以上の剥がれが見られる。
(8)接着性(剥離強度)
基材として軟質塩化ビニルシートを用い、この基材の片面に、得られたポリアミド樹脂水性分散体とポリオレフィン樹脂水性分散体(E−1〜E−9)を乾燥後の樹脂層の厚さが3μmになるようにワイヤーバーを用いて塗布し、120℃で1分間加熱乾燥処理をすることにより、ダイマー酸系ポリアミド樹脂塗膜を軟質塩化ビニルシートの表面に形成した。そして、軟質塩化ビニルシートの塗膜面にもう1枚の軟質塩化ビニルシートを重ね、90、120、150℃において、0.2MPaの圧力で5秒間プレス熱処理して貼りあわた。得られた積層体を15mm幅にカットしたものをサンプルとし、引っ張り試験機(インテスコ社製精密万能材料試験機2020型)を用いて、200mm/分のスピードで180度剥離強度を測定した。なお測定はプレス熱処理温度毎に5個のサンプルで行い、その平均値を剥離強度とした。
(9)耐熱接着性
基材としてポリエチレンテレフタレートフィルムを用い、この基材の片面に、得られたポリアミド樹脂水性分散体とポリオレフィン樹脂水性分散体(E−1〜E−9)を乾燥後の樹脂層の厚さが2.5μmになるようにワイヤーバーを用いて塗布し、120℃で90秒間加熱乾燥処理をすることにより、ダイマー酸系ポリアミド樹脂塗膜を基材の表面に形成した。この面にアルミ箔(非光沢面)を重ねてプレス(150℃/0.2MPa/5秒)し、積層体を得た。この積層体の室温、60℃、80℃、100℃のそれぞれの雰囲気下における剥離強度を(8)と同様にして測定した。
(10)柔軟性
(7)の評価と同様にして得られた積層体にゲルボフレックス試験機で100回処理(20℃、約15cmのストロークで1分間に40往復の処理)を行った後、(7)の密着性と同様に、得られた積層体の塗膜について、JIS K5600に記載の方法に従い、クロスカット法によって密着性を評価した。
【0044】
〔ポリアミド樹脂P−1〕
撹拌機、留去管を取り付けた1リットルの4口フラスコ中に、ダイマー酸(ツノダイム395、築野食品工業社製、ダイマー酸含有率94%)616.0g、エチレンジアミン60.1g、ステアリン酸11.4gを添加し、窒素雰囲気下において、200℃まで昇温し30分間反応を行った。さらに、所望の酸価、アミン価になるように反応時間を調整し、ポリアミド樹脂P−1を得た。得られたポリアミド樹脂は、ダイマー酸をジカルボン酸成分全体の100 モル%含むダイマー酸系ポリアミド樹脂であり、酸価15.0mgKOH/g、アミン価0.3mgKOH/g、軟化点110℃、200℃における溶融粘度は1,100mPa・sであった。
【0045】
〔ポリアミド樹脂P−2〕
ダイマー酸(ツノダイム395、築野食品工業社製、ダイマー酸含有率94%)504.0g、アゼライン酸18.8g、エチレンジアミン18.0g、ピペラジン60.3g、ステアリン酸5.7gを反応原料とした以外は、ポリアミド樹脂P−1と同様にしてポリアミド樹脂P−2を得た。得られたポリアミド樹脂は、ダイマー酸をジカルボン酸成分全体の90モル%含むダイマー酸系ポリアミド樹脂であり、酸価5.0mgKOH/g、アミン価0.1mgKOH/g、軟化点140℃、200℃における溶融粘度は23,000mPa・sであった。
【0046】
〔ポリアミド樹脂P−3〕
ダイマー酸(ツノダイム395、築野食品工業社製、ダイマー酸含有率94%)476.0g、アゼライン酸28.2g、エチレンジアミン30.1g、ピペラジン43.1g、ステアリン酸5.7gを反応原料とした以外は、ポリアミド樹脂P−1と同様にしてポリアミド樹脂P−3を得た。得られたポリアミド樹脂は、ダイマー酸をジカルボン酸成分全体の85モル%含むダイマー酸系ポリアミド樹脂であり、酸価10.0mgKOH/g、アミン価0.1mgKOH/g、軟化点158℃、200℃における溶融粘度は10,000mPa・sであった。
【0047】
〔ポリアミド樹脂P−4〕
ダイマー酸(ツノダイム395、築野食品工業社製、ダイマー酸含有率94%)560.0g、エチレンジアミン60.1g、ステアリン酸11.4gを反応原料とした以外は、ポリアミド樹脂P−1と同様にしてポリアミド樹脂P−4を得た。得られたポリアミド樹脂は、ダイマー酸をジカルボン酸成分全体の100モル%含むダイマー酸系ポリアミド樹脂であり、酸価0.5mgKOH/g、アミン価0.2mgKOH/g、軟化点115℃、200℃における溶融粘度は960mPa・sであった。
【0048】
実施例1
撹拌機およびヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器に、75.0gのポリアミド樹脂P−1、37.5gのIPA(和光純薬社製)、37.5gのTHF(和光純薬社製)、7.2gのN,N−ジメチルエタノールアミン(和光純薬社製)および217.8gの蒸留水を仕込んだ。回転速度を300rpmで撹拌しながら、系内を加熱し、120℃で60分間加熱攪拌を行った。その後、撹拌しながら室温付近(約30℃)まで冷却し、100gの蒸留水を追加した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)でごくわずかに加圧しながらろ過した。得られた水性分散体を1Lナスフラスコに入れ、80℃に加熱した湯浴につけながらエバポレーターを用いて減圧し、IPA、THF、水の混合媒体約100gを留去し、乳白色の均一なポリアミド樹脂水性分散体(E−1)を得た。
【0049】
実施例2
撹拌機およびヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器に、75.0gのポリアミド樹脂P−2、75.0gのIPA(和光純薬社製)、75.0gのTHF(和光純薬社製)、6.0gのN,N−ジメチルエタノールアミン(和光純薬社製)、7.5gのトルエン(和光純薬社製)および136.5gの蒸留水を仕込んだ。回転速度を300rpmで撹拌しながら、系内を加熱し、130℃で60分間加熱攪拌を行った。その後、撹拌しながら室温付近(約30℃)まで冷却し、230gの蒸留水を追加した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)でごくわずかに加圧しながらろ過した。得られた水性分散体を1Lナスフラスコに入れ、80℃に加熱した湯浴につけながらエバポレーターを用いて減圧し、IPA、THF、トルエン、水の混合媒体約230gを留去し、乳白色の均一なポリアミド樹脂水性分散体(E−2)を得た。
【0050】
実施例3
撹拌機およびヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器に、75.0gのポリアミド樹脂P−3、93.8gのIPA(和光純薬社製)、6.0gのN,N−ジメチルエタノールアミン(和光純薬社製)および200.3gの蒸留水を仕込んだ。回転速度を300rpmで撹拌しながら、系内を加熱し、120℃で60分間加熱攪拌を行った。その後、撹拌しながら室温付近(約30℃)まで冷却し、130gの蒸留水を追加した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)でごくわずかに加圧しながらろ過した。得られた水性分散体を1Lナスフラスコに入れ、80℃に加熱した湯浴につけながらエバポレーターを用いて減圧し、IPA、水の混合媒体約130gを留去し、乳白色の均一なポリアミド樹脂水性分散体(E−3)を得た。
【0051】
実施例4
N,N−ジメチルエタノールアミン6.0gの代わりに、トリエチルアミン(和光純薬社製)を6.8g、蒸留水添加量を135.7gに変更する以外は、実施例2に記載と同様の方法により、加熱攪拌を行うことにより、乳白色の均一なポリアミド樹脂水性分散体を得た。その後、撹拌しながら室温付近(約30℃)まで冷却し、6.0gのN,N−ジメチルエタノールアミン(和光純薬社製)および230gの蒸留水を追加した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)でごくわずかに加圧しながらろ過した。得られた水性分散体を1Lナスフラスコに入れ、80℃に加熱した湯浴につけながらエバポレーターを用いて減圧し、IPA、THF、トルエン、水の混合媒体約230gを留去し、乳白色の均一なポリアミド樹脂水性分散体(E−4)を得た。
【0052】
実施例5
N,N−ジメチルエタノールアミン6.0gの代わりに、トリエチルアミン(和光純薬社製)を6.8g、蒸留水添加量を199.5gに変更する以外は、実施例3に記載と同様の方法により、加熱攪拌を行い、その後、撹拌しながら室温付近(約30℃)まで冷却し、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)でごくわずかに加圧しながらろ過し、乳白色の均一なポリアミド樹脂水性分散体(E−5)を得た。
【0053】
実施例6
N,N-ジメチルエタノールアミン添加量を22.5g、蒸留水添加量を202.5gに変更する以外は、実施例1に記載と同様の方法により、薄褐色の均一なポリアミド樹脂水性分散体(E−6)を得た。
【0054】
実施例7
N,N-ジメチルエタノールアミン添加量を20.0g、蒸留水添加量を122.5gに変更する以外は、実施例2に記載と同様の方法により、乳白色の均一なポリアミド樹脂水性分散体(E−7)を得た。
【0055】
実施例8
N,N-ジメチルエタノールアミン添加量を71.5g、蒸留水添加量を71.0gに変更する以外は、実施例2に記載と同様の方法により、乳白色の均一なポリアミド樹脂水性分散体(E−8)を得た。
【0056】
比較例1
撹拌機およびヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器に、60.0gのポリアミド樹脂P−1、240.0gのIPA(和光純薬社製)を仕込んだ。回転速度を300rpmで撹拌しながら、系内を加熱し、80℃で60分間加熱攪拌を行った。80℃においては、樹脂が均一に溶解した薄黄色の溶液が得られた。その後、撹拌しながら室温付近(約30℃)まで冷却し、さらに室温(約20℃)で1日静置すると液は一部ゲル化し、水性分散体は得られなかった。
【0057】
比較例2、3
ポリアミド樹脂P−1およびP−2を用いる以外は、比較例1と同様の方法で、ポリアミド樹脂のIPA溶液を調製しようと試みたが、樹脂はIPAに溶解せず、樹脂塊が残り、水性分散体は得られなかった。
【0058】
比較例4
ポリアミド樹脂としてポリアミド樹脂P−4を用いた以外は、実施例2と同様の操作を行ったが、ポリアミド樹脂の塊が残り、水性分散体は得られなかった。
【0059】
比較例5
ジメチルエタノールアミンを添加しなかった以外は、実施例2と同様の操作を行ったが、ポリアミド樹脂の塊が残り、水性分散体は得られなかった。
【0060】
比較例6
加熱攪拌時の温度を50℃にした以外は、実施例2と同様の操作を行ったが、ポリアミド樹脂の塊が残り、水性分散体は得られなかった。
【0061】
比較例7
N,N-ジメチルエタノールアミン添加量を80.5g、蒸留水添加量を144.5gに変更する以外は、実施例1に記載と同様の方法により、加熱攪拌を行った。その後、撹拌しながら冷却したところ系内温度が45℃において内容物がゲル化してしまい、水性分散体は得られなかった。
【0062】
比較例8
撹拌機およびヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器に、60.0gのポリオレフィン樹脂(ボンダインHX−8290、アルケマ社製、融点81℃)、60.0gのIPA(和光純薬社製)、3.0gのトリエチルアミン(和光純薬社製)および177.0gの蒸留水を仕込んだ。回転速度を300rpmで撹拌しながら、系内を加熱し、120℃で60分間加熱攪拌を行った。その後、撹拌しながら室温付近(約30℃)まで冷却し、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)でごくわずかに加圧しながらろ過し、乳白色の均一なポリオレフィン樹脂水性分散体(E−9)を得た。
【0063】
実施例1〜8、比較例8で得られた水性分散体の特性値及び評価結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
表1に示すように、実施例1〜8では、常圧時の沸点が185℃以上もしくは不揮発性の水性化助剤を実質的に含有せずに、ポリアミド樹脂が微細かつ安定に水性媒体中に分散したポリアミド樹脂水性分散体を得ることができた。得られた水性分散体を塗布してなる積層体は、塗膜の密着性、柔軟性に優れ、耐熱接着性にも優れるものであった。
一方、比較例1〜3においては、ダイマー酸系ポリアミド樹脂をIPAに溶解させようと試みたが、比較例1では室温でゲル化してしまい、比較例2、3では全く樹脂が溶解せず、いずれも水性分散体は得られなかった。比較例4では、酸価0.5mgKOH/gのダイマー酸系ポリアミド樹脂を用いたため、ポリアミド樹脂の塊が残り、水性分散体は得られなかった。比較例5では、塩基性化合物を添加しなかったため、ポリアミド樹脂の塊が残り、水性分散体は得られなかった。比較例6では、加熱攪拌時の温度が低すぎたため、ポリアミド樹脂が十分に分散されず、ポリアミド樹脂の塊が残り、水性分散体は得られなかった。比較例7では、塩基性化合物の含有量が多すぎたために、冷却時に液がゲル化してしまい水性分散体は得られなかった。比較例8は、樹脂としてポリオレフィン樹脂を用いた水性分散体であるため、得られた水性分散体を塗布してなる積層体は耐熱接着性に劣るものであった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分としてダイマー酸をジカルボン酸成分全体の50モル%以上含み、酸価が1〜20mgKOH/gのダイマー酸系ポリアミド樹脂が水性媒体中に分散した水性分散体であって、常圧時の沸点が185℃未満の塩基性化合物を含有し、かつ常圧時の沸点が185℃以上もしくは不揮発性の水性分散化助剤を実質的に含有せず、水性分散体中の前記ダイマー酸系ポリアミド樹脂の数平均粒子径が0.5μm以下であることを特徴とするポリアミド樹脂水性分散体。
【請求項2】
常圧時の沸点が185℃未満の塩基性化合物をダイマー酸系ポリアミド樹脂固形分に対して0.01〜100質量%含有することを特徴とする請求項1記載のポリアミド樹脂水性分散体。
【請求項3】
親水性有機溶剤を含有する水性媒体中に、ダイマー酸系ポリアミド樹脂と常圧時の沸点が185℃未満の塩基性化合物を添加し、70〜280℃の温度で加熱攪拌することを特徴とする請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂水性分散体の製造方法。
【請求項4】
加熱攪拌後、親水性有機溶剤の留去を行う請求項3記載のポリアミド樹脂水性分散体の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂水性分散体を基材に塗布してなることを特徴とする積層体。



【公開番号】特開2011−94072(P2011−94072A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−251142(P2009−251142)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】