説明

ポリイミド膜及びポリイミド無端ベルト、それらの製造装置及び製造方法、並びに、画像形成装置

【課題】塗布前における塗工液のゲル化を抑制することにより工程信頼性を向上した、表面欠陥を低減しつつ耐久性を備えるポリイミド膜及びポリイミド無端ベルトの製造装置及び製造方法を提供すること。また、耐久性を備えたポリイミド膜及びポリイミド無端ベルト、並びにこれらを用いた画像形成装置を提供すること。
【解決手段】ポリアミック酸構造を含むポリマーを含有する塗工液Aを準備する工程と、アミン触媒を含有する塗工液Bを準備する工程と、前記塗工液Aを被塗布物に対し吐出する塗工液A吐出工程と、前記塗工液Bを前記被塗布物に対し吐出する塗工液B吐出工程と、前記被塗布物に吐出された前記塗工液A及び前記塗工液Bを加熱する加熱工程と、を有することを特徴とする、ポリイミド膜の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド膜及びポリイミド無端ベルト、それらの製造装置及び製造方法、並びに、画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真装置は、導電性材料からなる感光体上に一様に電荷を形成し、変調した画像信号をレーザー光などで静電潜像を形成した後、帯電したトナーにより静電潜像を現像してトナー像とする。次いでこのトナー像を直接又は中間転写体を介して紙などの記録媒体に転写することにより画像を得る装置である。
【0003】
ここで、感光体上のトナー像を中間転写体に一次転写し、次いで中間転写体上のトナー像を紙などの記録媒体へ二次転写する方法、いわゆる中間転写方式を採用した画像形成装置に用いられる中間転写ベルトは、例えばポリフッ化ビニリデン(例えば、特許文献1)、ポリカーボネート(例えば、特許文献2)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体とポリカーボネートとの混合物(例えば、特許文献3)などの熱可塑性樹脂にカーボンブラック等の導電剤を分散させた導電性無端ベルトが提案されている。
【0004】
さらに近年、この中間転写体を加熱することで記録媒体上のトナー像を定着せしめる方法、即ち中間転写・定着方式が開示されている(例えば、特許文献4)。中間転写・定着方式は、トナー像を記録媒体へ中間転写体を介して二次転写せしめた後、この中間転写体を直接又は間接的に加熱することで、この中間転写体に接触している記録媒体上のトナー像を定着する方式であり、中間転写機構と定着機構が離別していた従来装置と比較して、装置の小型化、低コスト化が可能であるという利点を有する。
【0005】
ここで、中間転写・定着方式に用いられるベルト材料には、駆動時の応力に耐える機械強度を有すると同時に、定着時に与えられる200℃近い熱に耐え得ることが要求される。この要請から、中間転写・定着ベルトに用いられる材料には、高い機械強度と耐熱性を併有するポリイミド樹脂が適している。
【0006】
ポリイミド樹脂は、一般に不溶であるためにその前駆体であるポリアミック酸の溶液を塗布し、乾燥後に加熱してアミック酸基の脱水イミド化反応を行うことにより形成している。
【0007】
また、ポリアミック酸のイミド化を促進させるため、ポリアミック酸組成物中に3級アミン等を共存させて加熱する方法が開示されている(例えば特許文献5〜7)。
【特許文献1】特開平5−200904号公報
【特許文献2】特開平6−228335号公報
【特許文献3】特開平6−149083号公報
【特許文献4】特開平6−258960号公報
【特許文献5】特開平6−207014号公報
【特許文献6】特開2002−127165号公報
【特許文献7】特開2002−283366号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ポリアミック酸溶液に3級アミン等の化学イミド化剤を添加すると、例えば室温(例えば25℃)下においても次第にポリアミック酸が一部イミド化反応を起こし、ゲル状物質の発生、ポリイミドの析出など、溶液の安定性を悪化させるという問題がある。
上記のような、ポリアミック酸が一部イミド化反応を起こしてしまった溶液を用いてポリイミド膜及びポリイミド無端ベルトを製造すると、ボイド等による表面欠陥が生じ、十分な強度が得られない場合がある。
さらに、上記のようなポリイミド膜又はポリイミド無端ベルトを搭載した画像形成装置を用いて画像形成を行うと、画質に欠陥を生じる場合がある。
【0009】
そこで本発明は、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明は、塗布前における塗工液のゲル化を抑制し、工程信頼性を向上した、ポリイミド膜及びポリイミド無端ベルトの製造装置及び製造方法を提供することを目的とする。
また本発明は、クレータ状表面欠陥(ボイド)などの表面欠陥を低減しつつ、耐久性を備える、ポリイミド膜及びポリイミド無端ベルトの製造装置及び製造方法を提供することを目的とする。
さらに本発明は、耐久性を備える、ポリイミド膜及びポリイミド無端ベルトを提供することを目的とする。
さらに本発明は、画像の濃度ムラや斑点欠陥を抑えた画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の手段により解決される。即ち、
請求項1に係る発明は、
ポリアミック酸構造を含むポリマーを含有する塗工液Aを準備する工程と、
アミン触媒を含有する塗工液Bを準備する工程と、
前記塗工液Aを被塗布物に対し吐出する塗工液A吐出工程と、
前記塗工液Bを前記被塗布物に対し吐出する塗工液B吐出工程と、
前記被塗布物に吐出された前記塗工液A及び前記塗工液Bを加熱する加熱工程と、
を有することを特徴とする、ポリイミド膜の製造方法である。
【0011】
請求項2に係る発明は、
前記アミン触媒が、1級又は2級アミンであることを特徴とする、請求項1に記載のポリイミド膜の製造方法である。
【0012】
請求項3に係る発明は、
前記塗工液Aが、さらに導電材料を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリイミド膜の製造方法である。
【0013】
請求項4に係る発明は、
前記加熱工程を行いながら、前記塗工液A吐出工程及び前記塗工液B吐出工程を行うことを特徴とする、請求項1乃至3に記載のポリイミド膜の製造方法である。
【0014】
請求項5に係る発明は、
前記塗工液A吐出工程及び前記塗工液B吐出工程において、前記吐出は、インクジェット方式によって行われることを特徴とする、請求項1乃至4に記載のポリイミド膜の製造方法である。
【0015】
請求項6に係る発明は、
脱水剤を含有する塗工液Cを準備する工程と、
前記塗工液Cを前記被塗布物に対し吐出する塗工液C吐出工程と、
をさらに有することを特徴とする、請求項1乃至5に記載のポリイミド膜の製造方法である。
【0016】
請求項7に係る発明は、
ポリアミック酸構造を含むポリマーを含有する塗工液Aを準備する工程と、
アミン触媒を含有する塗工液Bを準備する工程と、
前記塗工液Aを円筒状基材に対し吐出する塗工液A吐出工程と、
前記塗工液Bを前記円筒状基材に対し吐出する塗工液B吐出工程と、
前記円筒状基材に吐出された前記塗工液A及び前記塗工液Bを加熱する加熱工程と、
を有することを特徴とする、ポリイミド無端ベルトの製造方法である。
【0017】
請求項8に係る発明は、
ポリアミック酸構造を含むポリマーを含有する塗工液Aが収納された塗工液A収納手段と、
アミン触媒を含有する塗工液Bが収納された塗工液B収納手段と、
前記塗工液Aを被塗布物に対し吐出する塗工液A吐出手段と、
前記塗工液Bを前記被塗布物に対し吐出する塗工液B吐出手段と、
前記被塗布物に塗布された前記塗工液A及び前記塗工液Bを加熱する加熱手段と、
を有することを特徴とする、ポリイミド膜製造装置である。
【0018】
請求項9に係る発明は、
前記アミン触媒が、1級又は2級アミンであることを特徴とする、請求項8に記載のポリイミド膜製造装置である。
【0019】
請求項10に係る発明は、
前記塗工液Aが、さらに導電材料を含むことを特徴とする、請求項8又は9に記載のポリイミド膜製造装置である。
【0020】
請求項11に係る発明は、
前記塗工液A吐出手段及び前記塗工液B吐出手段が、インクジェット方式であることを特徴とする、請求項8乃至10に記載のポリイミド膜製造装置である。
【0021】
請求項12に係る発明は、
脱水剤を含有する塗工液Cが収納された塗工液C収納手段と、
前記塗工液Cを前記被塗布物に対し吐出する塗工液C吐出手段と、
を有することを特徴とする、請求項8乃至11に記載のポリイミド膜製造装置である。
【0022】
請求項13に係る発明は、
ポリアミック酸構造を含むポリマーを含有する塗工液Aが収納された塗工液A収納手段と、
アミン触媒を含有する塗工液Bが収納された塗工液B収納手段と、
前記塗工液Aを円筒状基材に対し吐出する塗工液A吐出手段と、
前記塗工液Bを前記円筒状基材に対し吐出する塗工液B吐出手段と、
前記円筒状基材に塗布された前記塗工液A及び前記塗工液Bを加熱する加熱手段と、
を有することを特徴とする、ポリイミド無端ベルト製造装置である。
【0023】
請求項14に係る発明は、
請求項1乃至6に記載のポリイミド膜の製造方法により製造されることを特徴とする、ポリイミド膜である。
【0024】
請求項15に係る発明は、
請求項7に記載のポリイミド無端ベルトの製造方法により製造されることを特徴とする、ポリイミド無端ベルトである。
【0025】
請求項16に係る発明は、
衝撃強度が、200N以上700N以下であることを特徴とするポリイミド膜である。
【0026】
請求項17に係る発明は、
衝撃強度が、200N以上700N以下であることを特徴とするポリイミド無端ベルトである。
【0027】
請求項18に係る発明は、
請求項15又は請求項17に記載のポリイミド無端ベルトを具備することを特徴とする、画像形成装置である。
【発明の効果】
【0028】
請求項1に係る発明によれば、ポリアミック酸構造を含むポリマー及びアミン触媒を含有する塗工液を用いた場合に比べ、塗布前における塗工液のゲル化を抑制することにより工程信頼性が向上し、表面欠陥を低減しつつ耐久性を備えるポリイミド膜を製造できる、といった効果を奏する。
【0029】
請求項2に係る発明によれば、アミン触媒として3級アミンを用いた場合に比べ、アミン触媒を少量に抑えることができるといった効果を奏する。
【0030】
請求項3に係る発明は、ポリイミド膜の電気抵抗を制御することができる、といった効果を奏する。
【0031】
請求項4に係る発明は、膜厚のバラツキが抑制され、さらに表面欠陥を低減しつつ耐久性を備えるポリイミド膜の製造方法を提供できる、といった効果を奏する。
【0032】
請求項5に係る発明は、他の方式に比べ、塗工液の液滴を安定して被塗布物の所定領域に正確に吐出して着弾させることができ、膜厚を制御しやすい、といった効果を奏する。
【0033】
請求項6に係る発明は、ポリアミック酸構造を含むポリマー、アミン触媒、及び脱水剤を含有する塗工液を用いた場合に比べ、塗布前における塗工液のゲル化を抑制することにより工程信頼性が向上し、塗工液Cを用いない場合に比べ、イミド化が促進されることにより低温においてイミド化を行うことができる、といった効果を奏する。
【0034】
請求項7に係る発明は、ポリアミック酸構造を含むポリマー及びアミン触媒を含有する塗工液を用いた場合に比べ、塗布前における塗工液のゲル化を抑制することにより工程信頼性が向上し、表面欠陥を低減しつつ耐久性を備えるポリイミド無端ベルトを製造できる、といった効果を奏する。
【0035】
請求項8に係る発明は、ポリアミック酸構造を含むポリマー及びアミン触媒を含有する塗工液を用いた場合に比べ、塗布前における塗工液のゲル化を抑制することにより工程信頼性が向上し、表面欠陥を低減しつつ耐久性を備えるポリイミド膜を製造できる、といった効果を奏する。
【0036】
請求項9に係る発明は、アミン触媒として3級アミンを用いた場合に比べ、アミン触媒を少量に抑えることができるといった効果を奏する。
【0037】
請求項10に係る発明は、ポリイミド膜の電気抵抗を制御することができる、といった効果を奏する。
【0038】
請求項11に係る発明は、他の方式に比べ、塗工液の液滴を安定して被塗布物の所定領域に正確に吐出して着弾させることができ、膜厚を制御しやすい、といった効果を奏する。
【0039】
請求項12に係る発明は、ポリアミック酸構造を含むポリマー、アミン触媒、及び脱水剤を含有する塗工液を用いた場合に比べ、塗布前における塗工液のゲル化を抑制することにより工程信頼性が向上し、塗工液Cを用いない場合に比べ、イミド化が促進されることにより低温においてイミド化を行うことができる、といった効果を奏する。
【0040】
請求項13に係る発明は、ポリアミック酸構造を含むポリマー及びアミン触媒を含有する塗工液を用いた場合に比べ、塗布前における塗工液のゲル化を抑制することにより工程信頼性が向上し、表面欠陥を低減しつつ耐久性を備えるポリイミド無端ベルトを製造できる、といった効果を奏する。
【0041】
請求項14に係る発明は、ポリアミック酸構造を含むポリマー及びアミン触媒を含有する塗工液を用いた場合に比べ、塗布前における塗工液のゲル化を抑制することにより工程信頼性が向上し、表面欠陥を低減しつつ耐久性を備えるポリイミド膜を製造できる、といった効果を奏する。
【0042】
請求項15に係る発明は、ポリアミック酸構造を含むポリマー及びアミン触媒を含有する塗工液を用いた場合に比べ、塗布前における塗工液のゲル化を抑制することにより工程信頼性が向上し、表面欠陥を低減しつつ耐久性を備えるポリイミド無端ベルトを製造できる、といった効果を奏する。
【0043】
請求項16に係る発明は、本構成を有しない場合に比べ、耐久性を備えるポリイミド膜を提供できる、といった効果を奏する。
【0044】
請求項17に係る発明は、本構成を有しない場合に比べ、耐久性を備えるポリイミド無端ベルトを提供できる、といった効果を奏する。
【0045】
請求項18に係る発明は、本構成を有しない場合に比べ、濃度ムラや斑点欠陥を抑えた画像を形成することが出来る、といった効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、機能・作用が共通する機能を有する部材には、全図面を通して同じ符号を付与し、重複する説明は省略する場合がある。
【0047】
(第1実施形態)
第1実施形態に係るポリイミド無端ベルト50は、図1に示すように、単層構成のベルト基材が円筒状に形成されている。そしてポリイミド無端ベルト50は、衝撃強度が200N以上700N以下であることを特徴としている。
衝撃強度が上記範囲であることにより、耐久性を備えるポリイミド無端ベルト50となる。
具体的には、ポリイミド無端ベルト50の衝撃強度が上記範囲であることにより、衝撃強度が200N未満である場合に比べ、動作開始時にかかる瞬動的荷重に対しても、ベルト伸び、破断も生じることなく安定に使用しえるためであり、衝撃強度が700Nより大きい場合に比べ、長期間の曲げ、折れ、滑動動作の加わるベルトとして機械強度の変化がなく、安定に使用しえるためである。
【0048】
ポリイミド無端ベルト50の衝撃強度は、200N以上700N以下であるが、300N以上500N以下であることがより望ましい。
【0049】
ポリイミド無端ベルト50の衝撃強度は、以下のようにして測定することができる。
ポリイミド無端ベルト50より、15mm幅×200mm長の短冊状試料を切り出し、島津製作所製高速引張試験機ハイドロショットHITS−T10に設置した。試料チャック間の試料長を150mmとして、以下の条件にて引張り破壊試験を実施した。
測定温度:25℃
引張り速度:1m/min
荷重:1000N
試料破断時の印加荷重をもって引張り破壊強度とし、これを「衝撃強度」と定義した。
【0050】
ポリイミド無端ベルト50の最大膜厚と最小膜厚の差は、ポリイミド無端ベルト50の平均膜厚の20%以下であることが望ましく、2%以下であることがより望ましい。ポリイミド無端ベルト50の最大膜厚と最小膜厚の差が大きすぎるとシワ寄りの原因となることがある。ポリイミド無端ベルト50のシワ寄りは、転写や定着を行った際に画質の低下を誘起するため、可能な限り低減することが望ましい。
【0051】
なお、「ベルトの膜厚」とは、ベルトと5mmの面積で接触した平板間の距離を測定する膜厚計(サンコー電子社製渦電流式膜厚計CTR−1500E)で測定した膜厚のことである。なお、ベルト表面に存在する最大幅(ベルトの膜厚方向に対して直交方向の幅)50μm以下の突起物の高さ(ベルトの膜厚方向に沿った高さ)は、ベルトの膜厚には含めない。
また、上記「平均膜厚」とは、上記「ベルトの膜厚」の測定をベルトの任意の10ヶ所において行い、その平均値とする。そして、「最大膜厚」「最小膜厚」とは、それぞれ「平均膜厚」を求める際に得られる膜厚の「最大値」「最小値」とする。
【0052】
また、ポリイミド無端ベルト50の膜厚は、10μm以上1000μm以下であることが望ましく、30μm以上150μm以下であることがより望ましい。ポリイミド無端ベルト50の膜厚が大きすぎると熱伝導度や抵抗値等の観点から好ましくなく、小さすぎるとその靭性が小さすぎるため好ましくない。
【0053】
ポリイミド無端ベルト50は、導電剤を含んでもよく、この場合体積抵抗率は、106Ω・cm以上1012Ω・cm以下であることが望ましい。より望ましくは、10Ω・cm以上1012Ω・cm以下である。無端ベルトを中間転写体に適用したとき、体積抵抗率が1×10Ω・cm未満である場合には、像保持体から中間転写体に転写された未定着トナー像の電荷を保持する静電的な力が働きにくくなるため、トナー同士の静電的反発力や画像エッジ付近のフリンジ電界の力によって、画像の周囲にトナーが飛散してしまい(ブラー)、ノイズの大きい画像が形成されることがある。一方、体積抵抗率が1×1012Ω・cmより高い場合には、電荷の保持力が大きいために、1次転写での転写電界で中間転写体表面が帯電するために除電機構が必要となることがある。従って、前記体積抵抗率を、上記範囲とすることで、トナーの飛散や、除電機構を必要とする問題を解消することができる。
【0054】
次に、第1実施形態に係るポリイミド無端ベルト50の製造装置10及び製造方法の一例について説明する。
【0055】
図2は、第1実施形態に係るポリイミド無端ベルト50の製造装置10における主要部を示す概略構成図である。なお、図2では、主要部のみを示し、他の構成は省略しており、(A)が上面図であり、(B)が正面図であり、(C)が側面図である。
【0056】
第1実施形態に係るポリイミド無端ベルト50の製造装置10は、図2に示すように、塗工液A52を円筒状金型32(円筒状基材)に吐出するための第1吐出ヘッド12Aを備えた第1吐出装置30Aと、塗工液B54を円筒状金型32に吐出するための第2吐出ヘッド12Bを備えた第2吐出装置30Bと、塗工液C56を円筒状金型32に吐出するための第3吐出ヘッド12Cを備えた第3吐出装置30Cと、円筒状金型32に吐出された塗工液A52乃至塗工液C56を加熱するための加熱用ヒータ34と、を有している。
【0057】
第1吐出ヘッド12A乃至第3吐出ヘッド12Cは、円筒状金型32の幅(軸方向長さ)と同等若しくはそれ以上の長さを持つ。また第1吐出ヘッド12A乃至第3吐出ヘッド12Cは、その長手方向が円筒状金型32の幅方向(軸方向)と平行(ここで平行とは厳密に平行である必要はない。以下同様である)で、かつ、第1吐出ヘッド12Aから吐出された塗工液A52と第2吐出ヘッド12Bから吐出された塗工液B54と第3吐出ヘッド12Cから吐出された塗工液C56とが、円筒状金型32に着弾する前に互いに衝突して混合された後、円筒状金型32の外面に着弾するように配置されている。また、第1吐出ヘッド12A乃至第3吐出ヘッド12Cは、図2に示すように円筒状金型32の塗布面全面に配置されている。
【0058】
加熱用ヒータ34は、例えば電熱線等で構成され、円筒状金型32の幅(軸方向長さ)と同等若しくはそれ以上の長さを持つ。また加熱用ヒータ34は、例えば、円筒状金型32に対し第1吐出ヘッド12A乃至第3吐出ヘッド12Cとは反対側に設けられ、その長手方向が円筒状金型32の幅方向(軸方向)と平行で、かつ、円筒状金型32表面に塗布された塗工液A52乃至塗工液C56を加熱できるように、円筒状金型32に設けられている。
【0059】
円筒状金型32は、例えば金属製の円筒体から構成されており、その両端を回転可能(周方向)に支持体(図示せず)により支持されている。また、円筒状金型32は、円筒状基材駆動装置(図示せず)により回転可能に、例えば駆動モータ(図示せず)によりベルト(図示せず)を介して回転駆動可能に連結されている。
【0060】
以下、第1吐出装置30A乃至第3吐出装置30Cについて詳細に説明する。
【0061】
図3は、第1実施形態に係るポリイミド無端ベルト50の製造装置10において、第1吐出装置30Aを示す概略構成図である。第2吐出装置30B及び第3吐出装置30Cについても同様の構成をとっている。なお図2中、18B及び20Bは、第2吐出ヘッド12Bの塗工液供給管及び塗工液排出管を示す。また、18C及び20Cは、第3吐出ヘッド12Cの塗工液供給管及び塗工液排出管をしめす。
【0062】
第1吐出装置30Aは、図3に示すように、塗工液A52を円筒状金型32へ吐出するための第1吐出ヘッド12Aと、当該第1吐出ヘッド12Aへ送液する塗工液A52を貯留する第1塗工液タンク16Aと、を有している。
【0063】
第1吐出ヘッド12Aには、塗工液吐出面側(ノズル面)側に、吐出した塗工液A52を帯電させる帯電電極24と、その帯電した塗工液A52に電界を付与し偏向を与え吐出方向を変える偏向電極26と、が配設されている。なお、このような帯電・偏向制御は、塗布量を制限したり、塗布にパターンを持たせたりする場合に行うことが好適である。このようなことが必要なければ、帯電電極24及び偏向電極26を設けなくてもよい。
【0064】
また、第1吐出ヘッド12Aの一端には、塗工液供給管18Aが連結され、他端には、塗工液排出管20Aが連結されている。塗工液供給管18A及び塗工液排出管20Aの一端側(第1吐出ヘッド12Aと非連結側)は、第1塗工液タンク16Aと連結されている。そして、塗工液供給管18Aには、第1塗工液タンク16A側から第1吐出ヘッド12Aに向かって、送液用ポンプ181(加圧手段:溶媒用高圧無動脈ポンプ:3連プランジャポンプ)、送液用ポンプ181の脈動を抑制するダンパ182、塗工液のゴミ異物等を除去するフィルタ183、第1吐出ヘッド12Aへの塗工液A52の送液を開始・停止を行うための送液用電磁弁184、送液する塗工液A52の加圧力を検知するための送液圧力センサ185が配設されている。一方、塗工液排出管20Aには、塗工液A52の排出を開始・停止する排出用電磁弁186が配設されている。
【0065】
なお、排出用電磁弁186は、通常、常に閉状態とし、塗工液A52の循環、混入した気泡の除去などを行う際に開放するものである。
【0066】
第1吐出ヘッド12Aと円筒状金型32との間であって、吐出した塗工液A52の液滴を下方へ帯電・偏向制御したときに当該塗工液A52を受け止められる位置(塗工液A52吐出方向の延長線より図中下方に上端が配置される位置)に液受け22(吐出塗工液回収手段)が設けられている。液受け22は、第1塗工液タンク16Aとフィルタ223を介して排出管222により連結されており、吐出した塗工液A52を受け止めた時、当該第1塗工液タンク16Aへ排出するようになっている。
【0067】
以下、第1吐出ヘッド12Aについて説明する。ここで、図4は、第1実施形態に係る第1吐出ヘッド12Aを示す斜視図である。図5は、第1実施形態に係る第1吐出ヘッド12Aの断面図である。
【0068】
第1吐出ヘッド12Aは、図4〜図5に示すように、例えば、ステンレスやニッケル合金などからなる筒状体で構成されている。そして、第1吐出ヘッド12Aには、長手方向に配列された複数のノズル13(例えば、ノズル内径25μm)と、各ノズル13に共通して連通する塗工液室14と、塗工液室14を介してノズル13と対向して設けられた圧電素子15(例えばPZTセラミック膜、ポリフッ化ビニリデン膜(PVF2膜))と、を有している。
【0069】
なお、第1吐出ヘッド12Aは、塗布時、図示しない駆動装置によりヘッド長手方向に配列されたノズル間隔分、当該ヘッド長手方向に往復して移動するようになっている。これにより、ノズル間隔分の隙間が生じることなく円筒状金型32に塗工液A52を塗布することができる。無論、円筒状金型32の方を移動可能なようにしてもよい。
【0070】
ここで、圧電素子15は、塗工液室14に送液されてきた塗工液A52に対し、所定の振動を付与し、ノズル13から液柱状に吐出した塗工液A52を液滴化するためのものである。圧電素子15は、図示しないが、例えばPZTセラミック膜に電極から高周波電圧を印加して振動(音波)を発生せしめ、この振動をピストンにより塗工液室14の塗工液A52へ伝達せしめる。
【0071】
圧電素子15は、ノズル13と対向して設けられ、塗工液A52の吐出方向と同一方向から、図示しない外部機器より増幅され例えばピーク間電圧(Vpp)50V程度までの電圧で出力する駆動正弦波が供給されると、定在波(進行波と反射波との混合した波:つまり、照射した進行波とノズル面に反射した反射波との混合波)による振動を付与して、ノズル13から液柱状に吐出した塗工液A52を液滴化する。
【0072】
ここで、図6〜図8に、粘度約9mPa・s程度の塗工液A52の吐出状態を示す。図6は、振動を付与しない場合における塗工液A52の吐出状態を示す模式図である。図7は、90kHzの振動を付与した場合における塗工液A52の吐出状態を示す模式図である。図8は、60kHzの振動を付与した場合における塗工液A52の吐出状態を示す模式図である。
【0073】
圧電素子15を駆動させず、例えば、送液用ポンプ181により0.9MPaで第1吐出ヘッド12Aから塗工液A52を吐出した場合、図6に示すように、液柱状の塗工液A52が吐出する。そして、圧電素子15により塗工液A52に振動を付与すると、図7及び図8に示すように、液柱状に吐出された塗工液A52が液滴化される。図7、8に示すように、90kHzの振動を塗工液A52に付与した場合は、60kHz振動を塗工液A52に付与したに場合に比べ、塗工液の液滴径が小さく、液滴間距離(液滴間隔)が狭くなっている。しかし、ポンプ圧力は一定であるので、単位時間あたりの噴射量は同一である。
【0074】
図6に示すように、液滴化せず、液柱状の状態で塗工液を塗布すると、第1吐出ヘッド12Aから離れた位置では、無秩序な噴流となるため、塗布膜の均一性が確保できない。よって、塗工液A52の液滴化を行うことが望ましい。
【0075】
ここで、塗工液A52の吐出速度を10m/sec、ノズル13の内径を25μmとしたとき、好適周波数は、例えば88.7kHzとなる。また、塗工液A52の液滴の体積は、例えば55pl(pico litre)(55,000μm)である。但し、液滴化の観点のみで、周波数は決定されず、吐出ヘッドと圧電素子の振動特性を考慮する必要がある。即ち、吐出ヘッドの構造と圧電素子の特性に基づく共振点を考慮することで、圧電素子に印加する電圧の調整を行なう必要がある。例えば、本実施形態では、ピーク間電圧(Vpp)30V程度の電圧を圧電素子に印加する。
【0076】
また、塗工液A52を10m/secで吐出するための圧力は、塗工液A52の粘度が9mPa・sの場合例えば0.9MPa、塗工液A52の粘度が3mPa・sの場合例えば0.3MPaである。したがって、塗工液A52の粘度が100mPa・sの場合は、例えば10MPaであることが予想される。これは、塗工液に掛かる圧力と流速が流路抵抗を係数とする1次の関係にあることより説明される。ただし、上記の数値は一例である。
【0077】
塗工液A52を所定速度で吐出するために必要な圧力は、ノズル13の形状により異なる。それは、上記流路抵抗が、ノズル13の形状に依存するからである。
ノズル13の加工方法には、一般的に例えば、ポンチ加工方法、エレクトロフォーミング(電鋳)加工方法、放電加工方法、レーザ加工方法などが挙げられる。それぞれの加工方法には得失があり、一概にどの方法が好ましいか決定することはできないが、ノズル13の内径を一定にして比較した場合、ノズル13における流路抵抗の観点からは、ノズル13の断面形状に大きなテーパを有するエレクトロフォーミング(電鋳)が極力、噴射の圧力を低く保つという観点では好ましい。
【0078】
ノズル13の設置数は、塗工液A52の物性及び塗工する面積等によって適宜選ばれ、1本または2本以上設置しえる。各ノズル13は吐出量を個別に制御しえる。1のノズル13より噴霧された塗工液A52は、基材面に到着する前、又は基材面上で他のノズル13より噴霧された塗工液A52と混合するように配置する。
【0079】
以下、第1吐出装置30Aの第1塗工液タンク16Aに収納されている塗工液A52の組成について説明する。
【0080】
塗工液A52は、少なくともポリアミック酸構造を含むポリマーを含有する。また塗工液A52は、必要に応じて導電剤などの添加物を含有することもできる。ただし塗工液A52は、アミン触媒及び脱水剤を含有していない。このため、塗工液A52調整後一定期間は安定であり、ゲル化やポリマーの析出を防ぐことができる。
【0081】
<(A)ポリアミック酸構造を含むポリマー>
ポリアミック酸構造を含むポリマーは、ポリイミド前駆体となり得るポリマーであり、ポリアミック酸、ポリアミック酸−ポリイミド共重合体が挙げられる。
【0082】
ポリアミック酸としては、下記一般式(1)で表されるポリアミック酸が好適に挙げられる。また、ポリアミック酸−ポリイミド共重合体としては、下記一般式(2)で表されるポリアミック酸−ポリイミド共重合体が好適に挙げられる。
【0083】
【化1】

【0084】
一般式(1)中、Rは4価の有機基を示し、Rは2価の有機基を示す。一方、一般式(2)中、Rは4価の有機基を示し、Rは2価の有機基を示し、Rは4価の有機基を示し、Rは2価の有機基を示す。
【0085】
ここで、2価の有機基R、R、Rは、対応するジアミン化合物から2つのアミノ基を除いたその残基構造として表される。また、4価の有機基R、R、Rは、対応するテトラカルボン酸化合物より4つのカルボニル基を除いたその残基として表される。
【0086】
以下、ポリアミック酸、及びポリアミック酸−ポリイミド共重合体をより詳細に説明する。
【0087】
ポリアミック酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを等モル量を有機極性溶媒中で重合反応させて得られる。また、ポリイミド−ポリアミック酸共重合体は、ポリアミック酸重合後、部分的にイミド化反応を行い合成される。
【0088】
−テトラカルボン酸二無水物−
ポリアミック酸の製造に用いられ得るテトラカルボン酸二無水物としては、特に制限はなく、芳香族系、脂肪族系いずれの化合物も使用できる。
【0089】
芳香族系テトラカルボン酸としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジメチルジフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−テトラフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−フランテトラカルボン酸二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルプロパン二無水物、3,3’,4,4’−パーフルオロイソプロピリデンジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(フタル酸)フェニルホスフィンオキサイド二無水物、p−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、m−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4’−ジフェニルエーテル二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4’−ジフェニルメタン二無水物等を挙げることができる。
【0090】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、3,5,6−トリカルボキシノルボナン−2−酢酸二無水物、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物等の脂肪族又は脂環式テトラカルボン酸二無水物;1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン等の芳香環を有する脂肪族テトラカルボン酸二無水物等を挙げることができる。
【0091】
テトラカルボン酸二無水物としては、芳香族系テトラカルボン酸二無水物が好ましく、さらに、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、が好適に使用される。
【0092】
これらのテトラカルボン酸二無水物は、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0093】
−ジアミン化合物−
次にポリアミック酸の製造に用いられ得るジアミン化合物は、分子構造中に2つのアミノ基を有するジアミン化合物であれば特に限定されない。
【0094】
例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、1,5−ジアミノナフタレン、3,3−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、5−アミノ−1−(4’−アミノフェニル)−1,3,3−トリメチルインダン、6−アミノ−1−(4’−アミノフェニル)−1,3,3−トリメチルインダン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、3,5−ジアミノ−3’−トリフルオロメチルベンズアニリド、3,5−ジアミノ−4’−トリフルオロメチルベンズアニリド、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,7−ジアミノフルオレン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−メチレン−ビス(2−クロロアニリン)、2,2’,5,5’−テトラクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジクロロ−4,4’−ジアミノ−5,5’−ジメトキシビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)−ビフェニル、1,3’−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、4,4’−(p−フェニレンイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’−(m−フェニレンイソプロピリデン)ビスアニリン、2,2’−ビス[4−(4−アミノ−2−トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−2−トリフルオロメチル)フェノキシ]−オクタフルオロビフェニル等の芳香族ジアミン;ジアミノテトラフェニルチオフェン等の芳香環に結合された2個のアミノ基と当該アミノ基の窒素原子以外のヘテロ原子を有する芳香族ジアミン;1,1−メタキシリレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、4,4−ジアミノヘプタメチレンジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、イソフォロンジアミン、テトラヒドロジシクロペンタジエニレンジアミン、ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダニレンジメチレンジアミン、トリシクロ[6,2,1,02.7]−ウンデシレンジメチルジアミン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等の脂肪族ジアミン及び脂環式ジアミン等を挙げることができる。
【0095】
ジアミン化合物としては、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、が好ましい。
これらのジアミン化合物は単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0096】
−テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との組み合わせ−
ポリアミック酸としては、望ましくは、ポリイミド無端ベルト50の強度の観点から、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族系ジアミンと含むものが好ましい。
【0097】
−合成溶媒−
このポリアミック酸の生成反応に使用される有機極性溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミドなどのホルムアミド系溶媒、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどのアセトアミド系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドンなどのピロリドン系溶媒、フェノール、o−、m−、又はp−クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール、カテコールなどのフェノール系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン等のエーテル系溶媒、あるいはヘキサメチルホスホルアミド、γ−ブチロラクトンなどを挙げることができ、これらを単独又は混合物として用いるのが望ましいが、更にはキシレン、トルエンの如き芳香族炭化水素も使用可能である。溶媒は、ポリアミック酸及びポリアミック酸−ポリイミド共重合体を溶解するものであれば特に限定されない。
【0098】
−ポリアミック酸重合時の固形分濃度−
ポリアミック酸重合時の溶液の固形分濃度は特に規定されるものではないが、例えば5質量%以上50質量%以下が好ましく、さらに10質量%以上30質量%以下が好ましい。固形分濃度が5質量%未満であると、ポリアミック酸の重合度が低く、最終的に得られるポリイミド無端ベルト50の強度が低下しやすい。また重合時の固形分濃度が50質量%より高いと、原料モノマーの不溶部が生じ、重合反応が進行しにくくなる。
【0099】
−ポリアミック酸重合温度−
ポリアミック酸重合時の反応温度としては、例えば0℃以上80℃以下の範囲が望ましい。反応温度が0℃未満であると、溶液の粘度が高くなり、反応系の攪拌が不十分になりやすい。また、反応温度が80℃より高くなると、ポリアミック酸の重合と平行して、一部イミド化反応が起こるため、反応制御が困難となりやすい。
【0100】
−イミド化反応−
ポリアミック酸−ポリイミド共重合体は、上記ポリアミック酸を加熱処理してイミド化する方法、又は脱水剤及び/又は触媒を作用させる化学的イミド化方法により、ポリアミック酸中のポリアミック酸構造の少なくとも一部を脱水閉環反応によってイミド基に転換して得られる。あらかじめ部分的にイミド化しておくことにより、ポリイミド無端ベルト50製造時におけるイミド化の反応速度をより大きくし、エネルギーの低減を図ることができる。
【0101】
加熱処理によるイミド化における加熱温度は、例えば、通常60℃以上200℃以下とされ、望ましくは100℃以上170℃以下とされる。
【0102】
一方、化学的イミド化方法は、ポリアミック酸溶液中に脱水剤及び/又は触媒を添加し化学的にイミド化反応を進行させる。脱水剤は、1価カルボン酸無水物であれば特に限定はされない。例えば、無水酢酸、プロピオン酸無水物、トリフルオロ酢酸無水物、ブタン酸無水物及びシュウ酸無水物などの酸無水物から選ばれる1種類又は2種類以上を用いることができる。脱水剤の使用量は、ポリアミック酸の繰り返し単位1モルに対して0.01モル以上2モル以下とするのが好ましい。
【0103】
触媒としては、例えばピリジン、ピコリン、コリジン、ルチジン、キノリン、イソキノリン、トリエチルアミンなどの3級アミンから選ばれる1種類又は2種類以上を用いることができるが、これらに限定されるものではない。触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01モル以上2モル以下とするのが好ましい。
【0104】
この化学的イミド化反応は、ポリアミック酸溶液中に脱水剤及び/又は触媒を添加し必要に応じて加熱することにより行われる。脱水閉環の反応温度は、通常0℃以上180℃以下、望ましくは60℃以上150℃以下とされる。
【0105】
部分的にイミド化されていれば、特に制限はないが、イミド化された構造と未反応のアミック酸構造との組成比は、0/100(モル/モル)乃至80/20(モル/モル)であることが好ましい。イミド基とアミック酸基との組成比が、80/20(モル/モル)を超えると、ポリアミック酸−ポリイミド共重合体が不溶化する可能性がある。
【0106】
ポリアミック酸−ポリイミド共重合時に作用させた脱水剤及び/又は触媒を除去する方法としては、減圧加熱、又は再沈殿法を用いることができる。減圧加熱は、真空下80℃以上120℃以下の温度で行われ、触媒として使用される3級アミン、未反応の脱水剤及び加水分解されたカルボン酸を留去する。また、再沈殿法は、触媒、未反応の脱水剤及び加水分解されたカルボン酸を溶解させ、ポリアミック酸−ポリイミド共重合体は溶解させない貧溶媒を用い、この貧溶媒の大過剰中に、反応液を加えることによって行われる。貧溶媒としては、特に制限はなく、水や、メタノール、エタノールなどのアルコール系溶媒、アセトンやメチルエチルケトンの如きケトン系溶媒、ヘキサンなどの如き炭化水素系溶媒、などが使用できる。析出するポリアミック酸−ポリイミド共重合体は、ろ別・乾燥後、再度γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン等の溶媒に溶解させる。
【0107】
<塗工溶媒>
塗工溶媒としては、上述の合成溶媒と同様に、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミドなどのホルムアミド系溶媒、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどのアセトアミド系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドンなどのピロリドン系溶媒、フェノール、o−、m−、又はp−クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール、カテコールなどのフェノール系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン等のエーテル系溶媒、あるいはヘキサメチルホスホルアミド、γ−ブチロラクトンなどを挙げることができ、これらを単独又は混合物として用いるのが望ましいが、更にはキシレン、トルエンの如き芳香族炭化水素も使用可能である。溶媒は、ポリアミック酸及びポリアミック酸−ポリイミド共重合体を溶解するものであれば特に限定されない。また、上記の溶媒に、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール系溶媒、ブチルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒を混合して用いてもよい。
【0108】
塗工溶媒は、先のポリアミック酸合成時に用いた溶媒をそのまま使用しても、ポリアミック酸重合後に合成溶媒を所定の塗工溶媒に置換してもよい。溶媒の置換には、ポリアミック酸溶液に所定量の塗工溶媒を添加して希釈する方法、ポリマーを再沈殿した後に所定の塗工溶媒中に再溶解させる方法、合成溶媒を徐々に留去しながら所定の塗工溶媒を添加して組成を調整する方法のいずれであってもよい。
【0109】
<導電剤>
次に、導電剤について説明する。導電剤としては、導電性(例えば体積抵抗率10Ω・cm未満、以下同様である)もしくは半導電性(例えば体積抵抗率10Ω・cm以上1013Ω・cm以下、以下同様である)の粉末(1次粒径が10μm未満の粒子からなる粉末が好ましく、さらに好ましくは1次粒径が1μm以下の粒子からなる粉末)が使用でき、所望の電気抵抗を得ることができれば、特に制限はないが、ケッチエンブラック、アセチレンブラック、表面が酸化処理されたカーボンブラック等のカーボンブラック、アルミニウムやニッケル等の金属、酸化イットリウム、酸化錫等の酸化金属化合物、チタン酸カリウム、LiCl等のイオン導電性物質やポリアニリン、ポリピロール、ポリサルフォン、ポリアセチレンなどの導電性高分子材料等が例示できる。そしてこれらを単独、あるいは併用して使用してもよい。
【0110】
またこれら導電材料は、その使用目的により適宜選択される。例えば、電気抵抗の経時での安定性より、pH5以下の酸化処理カーボンブラックを添加することが好ましい。pH5以下の酸化処理カーボンブラックは、樹脂中への分散性がよいので、良好な分散安定性が得られ、ポリイミド無端ベルト50の抵抗バラツキを小さくすることができるとともに、電界依存性も小さくなり、転写電圧による電界集中がおきづらくなる。また、ポリイミド無端ベルト50への電気的耐久性付与の観点からは、高分子導電剤(例えばポリアニリン等)を添加することが好ましい。
【0111】
酸化処理カーボンブラックは、カーボンブラックの表面にカルボキシル基、キノン基、ラクトン基、水酸基等を付与して製造することができる。この酸化処理は、高温(例えば、300℃以上800℃以下)雰囲気下で、空気と接触され、反応させる空気酸化法、常温(例えば25℃、以下同様)下で窒素酸化物やオゾンと反応させる方法、及び高温(例えば300以上800℃以下)下での空気酸化後、低い温度(例えば20以上200℃以下)下でオゾン酸化する方法などにより行うことができる。
【0112】
具体的には、酸化処理カーボンブラックは、例えばコンタクト法により製造することができる。このコンタクト法としては、チャネル法、ガスブラック法等が挙げられる。また、酸化処理カーボンブラックは、ガス又はオイルを原料とするファーネスブラック法により製造することもできる。必要に応じて、これらの処理を施した後、硝酸などで液相酸化処理を行ってもよい。
【0113】
なお、酸化処理カーボンブラックは、コンタクト法で製造することができるが、密閉式のファーネス法によって製造するのが通常である。ファーネス法では通常高pH・低揮発分のカーボンブラックしか製造されないが、これに上述の液相酸処理を施してpHを調整することができる。このためファーネス法製造により得られるカーボンブラックで、後工程処理によりpHが5以下となるように調節されたカーボンブラックも、適用し得る。
【0114】
酸性カーボンブラックのpH値は、例えば、pH5.0以下であるが、望ましくはpH4.5以下であり、より望ましくはpH4.0以下である。
【0115】
ここで、pHは、カーボンブラックの水性懸濁液を調整し、ガラス電極で測定することで求められる。また、酸化処理カーボンブラックのpHは、酸化処理工程での処理温度、処理時間等の条件によって、調整することができる。
【0116】
酸化処理カーボンブラックは、例えば、その揮発成分が1%以上25%以下、望ましくは2%以上20%以下、より望ましくは、3.5%以上15%以下含まれていることが好適である。
【0117】
酸化処理カーボンブラックとして、具体的には、例えば、デグサ社製の「プリンテックス150T」(pH4.5、揮発分10.0%)、同「スペシャルブラック350」(pH3.5、揮発分2.2%)、同「スペシャルブラック100」(pH3.3、揮発分2.2%)、同「スペシャルブラック250」(pH3.1、揮発分2.0%)、同「スペシャルブラック5」(pH3.0、揮発分15.0%)、同「スペシャルブラック4」(pH3.0、揮発分14.0%)、同「スペシャルブラック4A」(pH3.0、揮発分14.0%)、同「スペシャルブラック550」(pH2.8、揮発分2.5%)、同「スペシャルブラック6」(pH2.5、揮発分18.0%)、同「カラーブラックFW200」(pH2.5、揮発分20.0%)、同「カラーブラックFW2」(pH2.5、揮発分16.5%)、同「カラーブラックFW2V」(pH2.5、揮発分16.5%)、キャボット社製「MONARCH1000」(pH2.5、揮発分9.5%)、キャボット社製「MONARCH1300」(pH2.5、揮発分9.5%)、キャボット社製「MONARCH1400」(pH2.5、揮発分9.0%)、同「MOGUL−L」(pH2.5、揮発分5.0%)、同「REGAL400R」(pH4.0、揮発分3.5%)等が挙げられる。
【0118】
導電剤の添加量は、ポリアミック酸又はポリアミック酸−ポリイミド共重合体100質量部に対して、カーボンブラックであれば10質量部以上40質量部以下、金属であれば1質量部以上10質量部以下、金属酸化物であれば5質量部以上20質量部以下、イオン導電性物質であれば5質量部以上40質量部以下、導電性高分子材料であれば5質量部以上30質量部以下含有させることが好ましい。この含有量が上記範囲未満であると電気抵抗の均一性が低下し、表面抵抗率の面内ムラや電界依存性が大きくなる場合がある。一方、上記範囲を超えると所望の抵抗値が得られ難くなる場合がある。また、ポリイミド無端ベルト50の強度が下がる場合があり、かつ靭性が劣りやすい。
【0119】
塗工液A52中の固形分濃度は、第1吐出ヘッド12Aのノズル13より塗工液A52を吐出できる粘度に対応した範囲で適宜設定される。塗工液A52の粘度の範囲は、例えば1cP以上100cP以下であり、これに相当する塗工液A52の固形分濃度は、例えば0.01質量%以上1質量%以下である。前記固形分濃度は、使用する溶媒または添加剤によって、適宜調整が可能である。
【0120】
以下、第2吐出装置30Bの第2塗工液タンク(図示せず)に収納されている塗工液B54の組成について説明する。
【0121】
塗工液B54は、少なくともアミン触媒を含有する。また塗工液B54は、必要に応じてその他の添加物(例えば、分散剤、消泡剤、滑剤等)を含有することもできる。ただし塗工液B54は、上記ポリアミック酸構造を含むポリマーを含有していない。このため、塗工液B54調整後一定期間は安定であり、ゲル化やポリマーの析出を防ぐことができる。
【0122】
<アミン触媒>
塗工液B54に含まれるアミン触媒は、1級アミン、2級アミン、及び3級アミンが好適に使用されうる。
【0123】
1級アミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、イソブチルアミン、t−ブチルアミン、ヘキシルアミン、2−エチルヘキシルアミン、2−エチルヘキシルアミン、セカンダリーブチルアミン、アリルアミン、メチルヘキシルアミン等が挙げられる。
【0124】
2級アミンとしては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジn−プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジn−ブチルアミン、ジイソブチルアミン、ジt−ブチルアミン、ジヘキシルアミン、ジ(2−エチルヘキシル)アミン、N−イソプロピルN−イソブチルアミン、ジ(2−エチルヘキシル)アミン、ジセカンダリーブチルアミン、ジアリルアミン、N−メチルヘキシルアミン、3−ピペコリン、4−ピペコリン、2,4−ルペチジン、2,6−ルペチジン、3,5−ルペチジン、モルホリン、N−メチルベンジルアミン等が挙げられる。
【0125】
3級アミンとしては、例えば、ピリジン、ピコリン、コリジン、ルチジン、キノリン、イソキノリン、トリエチルアミンなどを用いることができる。これらの中でも、ピリジン、ピコリン、キノリン、イソキノリン、トリエチルアミンが好適である。これら3級アミンは単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0126】
上記アミン触媒は、原液のまま用いるか、または適当な溶媒に溶解させて調整して用いることができる。使用する溶媒としては、上記塗工液A52と混和しえる化学種が選択される。具体的には、上記塗工液A52の溶媒として例示された溶媒種より適宜選定される。
【0127】
上記アミン触媒の中でも、特に1級アミン及び2級アミンは、イミド化反応における触媒活性が高いため、同一組成物中で共存させると室温(例えば25℃)下においてもポリアミック酸の脱水イミド化反応が進行してしまい、組成物のゲル化、生成したポリイミド樹脂の析出が起こり、組成物の安定性に問題があった。
しかし本実施形態においては、同一組成物中にポリアミック酸構造を含むポリマーとアミン触媒が共存していないため、上記問題は解決される。
【0128】
その上、上記アミン触媒の中でも、特に1級アミン及び2級アミンは、上記の通りイミド化反応における触媒活性が高いため、熱処理時に効率的にイミド化させることができ、アミン触媒として3級アミンを用いた場合に比べて、衝撃強度の高いポリイミド無端ベルト50を製造することができる。
【0129】
さらに、1級アミン及び2級アミンは、上記の通りイミド化反応における触媒活性が高いため、アミン触媒として3級アミンを用いた場合に比べて、ポリイミド無端ベルト50の製造に用いるアミン触媒の量を少量に抑えることができる。
【0130】
ここで、塗工液B54が塗工液A52と混和した状態において、混和溶液に含有される「ポリアミック酸構造を含むポリマー」100質量部に対し、好適な「アミン触媒」の量(質量部)は、上述した理由により、用いるアミン触媒の種類によって異なる。
具体的には、3級アミンの場合は、例えば0.1質量部以上30質量部以下が望ましく、1質量部以上25質量部以下がより望ましく、10質量部以上20質量部以下がさらにより望ましい。
また2級アミンの場合は、例えば0.01質量部以上20質量部以下が望ましく、0.1質量部以上15質量部以下がより望ましく、1.0 質量部以上10質量部以下がさらにより望ましい。
さらに1級アミンの場合は、例えば0.001質量部以上15質量部以下が望ましく、0.01質量部以上10質量部以下がより望ましく、0.1質量部以上5質量部以下がさらにより望ましい。
アミン触媒の量が上記範囲であることにより、低温(例えば80℃以上200℃以下)においても効率的にイミド化反応がおこるため、衝撃強度の高いポリイミド無端ベルト50を得ることができる。
【0131】
塗工液B54中におけるアミン触媒濃度は、第2吐出ヘッド12Bのノズル(図示せず)より塗工液B54を吐出できる粘度に対応した範囲で適宜設定される。塗工液B54の粘度の範囲は、例えば1cP以上100cP以下であり、これに相当する塗工液B54のアミン触媒濃度は、例えば0.001質量%以上30質量%以下である。前記アミン触媒濃度は、使用する溶媒または添加剤によって、適宜調整が可能である。
【0132】
塗工液B54には、必要に応じて、加工助剤等の添加物が含まれていてもよい。加工助剤としては例えば、分散剤、消泡剤、滑剤などが挙げられる。かかる添加剤については、
その他の通常使用しうるものが適用でき、かかる化学種については、特に制限はない。分散剤、消泡剤、滑剤としては、所謂界面活性剤が使用することができ、その分子内に在する極性基の種類においては、カチオン系、アニオン系、ノニオン系のいずれも使用することができる。
また、塗工液B54に含まれる添加物の濃度は、0.01質量%以上20質量%以下であることが望ましい。かかる配合範囲外では、組成物が増粘、分離、沈降などの変化を起こしてしまい、塗液としての安定化ができない場合がある。
【0133】
以下、第3吐出装置30Cの第3塗工液タンク(図示せず)に収納されている塗工液C56の組成について説明する。
【0134】
塗工液C56は、少なくとも脱水剤を含有する。また塗工液C56は、必要に応じてその他の添加物(例えば、界面活性剤、消泡剤等)を含有することもできる。ただし塗工液C56は、上記ポリアミック酸構造を含むポリマーを含有していない。このため、塗工液C56調整後一定期間は安定であり、ゲル化やポリマーの析出を防ぐことができる。
【0135】
<脱水剤>
脱水剤としては、例えば、無水カルボン酸が好適に使用される。無水カルボン酸としては具体的には例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水ブタン酸、無水トリフルオロ酢酸、無水クロロジフルオロ酢酸などが用いられる。
これらの中でも、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水ブタン酸、無水トリフルオロ酢酸が好適である。これら脱水剤は、単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0136】
ここで、塗工液C56が塗工液A52と混和した状態において、混和溶液に含有される「ポリアミック酸構造を含むポリマー」100質量部に対し、好適な「脱水剤」の量(質量部)は、例えば、0.1質量部以上30質量部以下が望ましく、1.0質量部以上20質量部以下がより望ましく、1質量部以上10質量部以下がさらにより望ましい。
【0137】
上記脱水剤の量が30質量部よりも小さいことにより、得られるポリイミド膜の機械強度を高めることができるという利点がある。また上記脱水剤の量が0.1質量部よりも大きいことにより、低温(例えば80℃以上250度以下)においても効率的にイミド化反応がおこるため、衝撃強度の高いポリイミド無端ベルト50を得ることができる。
【0138】
塗工液C56中における脱水剤濃度は、第3吐出ヘッド12Bのノズル(図示せず)より塗工液C56を吐出できる粘度に対応した範囲で適宜設定される。塗工液C56の粘度の範囲は、例えば1cP以上100cP以下であり、これに相当する塗工液C56の脱水剤濃度は、例えば0.001質量%以上30質量%以下である。前記脱水剤濃度は、使用する溶媒または添加剤によって、適宜調整が可能である。
【0139】
塗工液C56には、必要に応じて、界面活性剤、消泡剤等の添加物が含まれていてもよい。塗工液C56に含まれる添加物の濃度は、0.01質量%以上20質量%以下であることが望ましい。
【0140】
以下、ポリイミド無端ベルト50の製造方法の一例について詳細に説明する。
【0141】
<塗工液A52の調整>
塗工液A52の調整は、例えば次のようにして行われる。まず、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分を有機溶媒中で重合反応させて得られたポリアミック酸溶液(ポリイミド樹脂の前駆体)を、メタノールなどの貧溶媒中に添加してポリアミック酸を析出させ、再沈殿精製する。析出したポリアミック酸ろ別した後、後述する塗工溶媒に再溶解させ、目的に応じて前述した導電剤等の添加剤を添加して、塗工液A52を得る。
【0142】
塗工溶媒としては、先に示したようなポリアミック酸を溶解するものであれば特に限定されない。また、塗工時のレベリング性向上や乾燥速度の調整のために、ポリアミック酸及びポリアミック酸−ポリイミド共重合体に対して貧溶媒であるメタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール系溶媒、あるいはブチルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒を、前述の溶媒に混合して用いることができる。これらの貧溶媒を混合することで、円筒状金型32に対する塗工液A52の接触角を下げることができるため、平滑な塗工膜が得られ、また円筒状金型32の微孔を埋める穴埋め効果を奏することもできる。
【0143】
塗工溶媒は、先のポリアミック酸合成時に用いた溶媒をそのまま使用しても、ポリアミック酸重合後に合成溶媒を所定の塗工溶媒に置換してもよい。溶媒の置換には、ポリアミック酸溶液に所定量の塗工溶媒を添加して希釈する方法、ポリマーを再沈殿した後に所定の塗工溶媒中に再溶解させる方法、合成溶媒を徐々に留去しながら所定の塗工溶媒を添加して組成を調整する方法のいずれであってもよい。
【0144】
この塗工溶媒に、精製したポリアミック酸や導電剤、さらに、必要に応じて分散剤、補強剤、消泡剤、滑剤などの加工助剤を溶解させ、塗工液A52を作製する。
【0145】
また、この塗工液A52に、1種又は2種類以上の無機粉体を、ポリアミック酸の乾燥質量100質量部に対して、例えば全無機粉体合計5質量部以上60質量部以下を添加する場合がある。無機粉体の例としては、例えば、シリカ、マイカ、タルク、ウィスカー、硫酸バリウムのような絶縁性化合物等が挙げられる。これらの無機粉体は補強材として機能し、得られるポリイミド無端ベルト50の力学的強度を高めることができる。
【0146】
塗工液A52に、導電剤や上記無機粉体を分散させ、その凝集体を壊砕する方法としては、ミキサーや攪拌子による攪拌、平行ロール、超音波分散などの物理的手法、さらには分散剤の導入などの化学的手法が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0147】
<塗工液B54の調整>
塗工液B54は、アミン触媒を原液のまま用いるか、または適当な溶媒に溶解させて調整する。使用する溶媒としては、上記塗工液A52と混和しえる化学種が選択される。具体的には、上記塗工液A52の塗工溶媒として例示された溶媒種より適宜選定される。
また必要に応じて、さらに分散剤、消泡剤、滑剤などの加工助剤を溶解させ、塗工液B54を作製することもできる。
【0148】
<塗工液C56の調整>
塗工液C56は、上述した脱水剤を原液または適当な溶媒に溶解させて調整する。使用する溶媒しては、先の塗工液Aと混和しえる化学種が選択される。具体的には、先の塗工液Aにて例示された溶媒種より適宜選定される。
また必要に応じて、さらに界面活性剤、消泡剤などの添加物を溶解させ、塗工液C56を作製することもできる。
【0149】
<塗工液の収納>
調整された塗工液A52は、図3に示すように、第1吐出装置30Aの第1塗工液タンク16Aに収納される。また調整された塗工液B54及び塗工液Cも、塗工液A52と同様に、第2吐出装置30Bの第2塗工液タンク(図示せず)及び第3吐出装置30Cの第3塗工液タンク(図示せず)に収納される。したがって塗工液A52乃至塗工液C56は、別々に収納され、収納時には互いに接触しないようになっている。
【0150】
<塗工処理>
次に、塗工液A52乃至塗工液C56は、それぞれ図2に示す第1吐出ヘッド12A乃至第3吐出ヘッド12Cから円筒状金型32の外面に対し吐出される。
第1実施形態における第1吐出ヘッド12A乃至第3吐出ヘッド12Cからの吐出方法は、インクジェット方式である。
【0151】
以下、第1吐出装置30Aの第1塗工液タンク16Aに収納された塗工液A52が、第1吐出ヘッド12Aから円筒状金型32に対し吐出される工程について、詳細に説明する。第2吐出装置30Bの第2塗工液タンク(図示せず)に収納された塗工液B54及び第3吐出装置30Cの第3塗工液タンク(図示せず)に収納された塗工液C56が、それぞれ第2吐出ヘッド12B及び第3吐出ヘッド12Cから円筒状金型32に対し吐出される工程についても同様である。
【0152】
まず、送液用ポンプ181を駆動すると共に、送液用電磁弁184を開放する。また、第1吐出ヘッド12Aの圧電素子15を駆動する。これにより、ノズル13から液柱状の塗工液A52が吐出すると共に、液柱状の塗工液A52が液滴化される。この際、帯電電極24に所定の電圧を印加し、吐出した塗工液A52を帯電させると共に、偏向電極26にも所定の電圧を印加して、その帯電した塗工液A52に電界を付与して、液受け22が位置する下方(図中)に偏向を与え、吐出方向を変えて当該液受け22に塗工液A52を受け止めさせる。
【0153】
次に、円筒状基材駆動装置(図示せず)を駆動し、円筒状金型32を回転駆動する(例えば、円筒状金型32の回転速度を1回転/1秒(1rps)とする)。
【0154】
次に、帯電電極24及び偏向電極26への電圧印加を解除して、吐出方向を戻す。これにより、塗工液A52の円筒状金型32への塗布が開始される。
【0155】
そして、所定時間経過後、再び、帯電電極24に所定の電圧を印加し、吐出した塗工液A52を帯電させると共に、偏向電極26にも所定の電圧を印加して、その帯電した塗工液A52に電界を付与して、液受け22が位置する下方(図中)に偏向を与え、吐出方向を変えて当該液受け22に塗工液A52を受け止めさせる。これにより、塗布を終了させる。
【0156】
その後、送液用ポンプ181の駆動を停止すると共に、送液用電磁弁184を閉じる。また、圧電素子15の駆動を停止する。最後に、円筒状金型32の回転を停止する。
【0157】
ここで、塗工液B54及び塗工液C56についても塗工液A52と同様に吐出する。また塗工液A52乃至塗工液C56は、円筒状金型32に着弾する前に互いに衝突するタイミングで吐出される。
塗工液A52乃至塗工液C56の吐出量は、例えば、ノズル13の口径、吐出圧、塗工液の粘度、塗工液の固形分率や濃度などによって決定される。塗工を安定に行うために、上記吐出される塗工液量を、それぞれ別個に調整することができる。そして、塗工液A52乃至塗工液C56の吐出量の増減は、例えば、ピエゾ素子を利用した圧電素子による方式の場合、印加する電圧周波数を調整することで行われる。この電圧周波数の範囲としては例えば100Hz以上10000Hz以下の範囲である。
【0158】
また、塗工液A52の吐出量は、例えば0.01μl/s以上1000μl/s以下、塗工液B54の吐出量は、例えば0.001μl/s以上100μl/s以下、塗工液C56の吐出量は、例えば0.001μl/s以上100μl/s以下である。また、塗工液A52の吐出量と塗工液B54の吐出量との比率は、塗工液A52の吐出量を1としたとき、塗工液B54の吐出量が例えば0.01以上0.5以下である。さらに、塗工液A52の吐出量と塗工液C56の吐出量との比率は、塗工液A52の吐出量を1としたとき、塗工液C56の吐出量が例えば0.01以上0.5以下である。
【0159】
吐出された塗工液A52乃至塗工液C56は、円筒状金型32に着弾する前に互いに衝突して混合された後、円筒状金型32の外面に着弾する。
【0160】
なお、塗工液A52乃至塗工液C56を塗布し塗布膜を形成した後、円筒状金型32の回転を所定時間(例えば、1回転/分以上100回転/分以下)継続することで、塗布膜の平滑化に加え、塗布膜の液だれ防止を図ることができる。
【0161】
塗工液A52乃至塗工液C56の円筒状金型32表面への着弾は必ずしも全面にわたるものではなく、着弾した液滴間には隙間が存在する。また、ジェットはノズル加工の精度に起因する僅かな曲がりを有する場合がある。このため、塗工液A52乃至塗工液C56は円筒状金型32表面に着弾後、当初、粘度が高いほど、液滴の形状を反映して半球に近い形状で存在する。このため、均一な塗布膜を形成するためには、塗布終了後、円筒状金型32を回転させる、即ち平滑化工程における時間管理が重要である。また、円筒状金型32を回転させながら塗布膜の平滑化を行うと、その遠心力により、塗工液A52乃至塗工液C56が円筒状金型32に対して凸状の形状を守る方向に働くため、液だれを起こさない程度に回転速度を低下させることが、好ましい。円筒状金型32表面との親和性により塗工液A52乃至塗工液C56は広がり、円筒状金型32の回転時間と共に隣接着弾滴と引き合いながら、塗布膜は平坦化していくことになる。
【0162】
<熱処理>
次に、塗布膜に対して、加熱用ヒータ34により、熱処理を施す。
熱処理としては、塗工液A52乃至塗工液C56に含まれる溶媒を除去するための乾燥処理と、塗工液A52に含まれるポリアミック酸の脱水閉環反応を起こしポリイミドに添加させることを目的とした焼成処理とが含まれる。
【0163】
加熱方式としては、加熱用ヒータによる熱処理に限られず、乾燥処理、焼成処理ともに、加熱した空気を媒体として塗工液を塗布した金型を加熱する装置による熱処理であれば特に制限はない。かかる装置としては一般的な加熱オーブン、乾燥炉、焼成炉、クリーンオーブン等が例示される。なお、熱処理は円筒状金型32を周方向に回転させながら塗工物の平坦化を図る方式で実施されることがよい。
【0164】
乾燥処理は、塗工液A52乃至塗工液C56を塗布した円筒状金型32を加熱環境に置き、例えば含有溶媒の30質量%以上好ましくは50質量%以上を揮発させるための乾燥処理を行う。この際、溶媒は膜中に残留していても構わず、塗膜表面が乾燥し、傾けても流動しない状態であれば問題ない。乾燥処理は、例えば50℃以上200℃以下の温度で熱処理をすることにより行われる。
【0165】
第1実施形態においては、乾燥処理を行いながら塗工液A52乃至塗工液C56の吐出を所定の時間行っている。必要に応じて、その後にさらに乾燥処理を行ってもよい。また膜厚に応じて、これらを所定の回数繰り返してもよい。
【0166】
塗工・乾燥処理が完了した後に、焼成処理を行う。焼成処理は、円筒状金型32を例えば150℃以上250℃以下で10分以上600分以下の間加熱し、イミド化反応を十分に進行させる。焼成処理の温度及び時間は、原料のテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの種類、又は使用する化学イミド化処理剤の種類によってそれぞれ異なるが、イミド化が完結する温度及び時間に設定することがよい。例えば、1級アミンまたは2級アミンを用いた場合は、3級アミンを用いる場合に比べ、より低温、かつ短時間でイミド化反応を完結することができる。より具体的には、1級アミンを用いる場合の焼成温度は、150℃以上200℃未満、焼成時間は10分以上20分未満で行うことができる。2級アミンを用いる場合の焼成温度は、150℃以上230℃未満、焼成時間は10分以上60分未満で行うことができる。イミド化が不充分であると、ポリイミド無端ベルト50の機械的特性及び電気的特性が劣るものとなる。
【0167】
第1実施形態における焼成処理は、アミン触媒による作用のため、アミン触媒を用いない場合に比べて、より低温かつ短時間でイミド化を完結することができる。さらにアミン触媒として1級アミン又は2級アミンを用いると、3級アミンを用いた場合に比べて、より低温度かつ短時間の焼成処理によりイミド化を完結することができる。
また第1実施形態においては、さらに脱水剤も用いているため、脱水剤を用いない場合に比べて、より低温かつ短時間でイミド化を完結することができる。
【0168】
上記のように、第1実施形態における焼成処理は、低温かつ短時間でイミド化を完結でき、高温による処理が不要であるため、ポリイミド無端ベルト50の表面欠陥を低減することができる。また、加熱のための電力を抑えること(省エネルギー)が可能となる。さらに、焼成処理等の後に冷却する際における放散熱量が小さくなるため、環境負荷の低減を図ることができる。
【0169】
焼成処理後、円筒状金型32から樹脂を取り外し、目的のポリイミド無端ベルト50を得る。
【0170】
このようにして、第1実施形態におけるポリイミド無端ベルト50を製造することができる。
【0171】
第1実施形態においては、ポリアミック酸構造を含むポリマーを含有する塗工液A52、アミン触媒を含有する塗工液B54、及び脱水剤を含有する塗工液C56は、別々に収納され、収納時には互いに接触しないようになっている。したがって、塗工液A52、塗工液B54、及び塗工液C56が、それぞれ第1塗工液タンク16A、第2塗工液タンク(図示せず)、及び第3塗工液タンク(図示せず)に収納されている状態においては、塗工液A52乃至塗工液C56の溶液安定性を保つことが可能であり、ゲル化やポリマーの析出を防ぐことができる。また上記のように溶液安定性が保たれた塗工液A52乃至塗工液C56を用いているため、第1実施形態におけるポリイミド無端ベルト50は、表面欠陥が少なく、耐久性を備えることができる。
【0172】
第1実施形態においては、熱処理(本実施形態では乾燥処理)を行いながら塗工液A52乃至塗工液C56の吐出を行うことにより、吐出された塗工液A52乃至塗工液C56が円筒状金型32に着弾すると乾燥及びイミド化(本実施形態では乾燥のみ)されつつ塗工されるため、ポリイミド無端ベルト50の膜厚のバラツキ及び表面欠陥を効率的に抑制することができる。さらに、塗工液A52乃至塗工液C56として粘度の低い溶液(例えば、0.1mPa・s以上10mPa・s以下)を用いた場合においても、液だれを防ぐことができるため、ポリイミド無端ベルト50の膜厚のバラツキを抑制することができる。したがって、熱処理を行いながら塗工液A52乃至塗工液C56の吐出を行うことにより、ポリイミド無端ベルト50の膜厚のバラツキを抑制し、表面欠陥を低減しつつ、耐久性を得ることができる。
【0173】
第1実施形態においては、第1吐出ヘッド12A乃至第3吐出ヘッド12Cからの吐出方法がインクジェット方式であるため、他の方式に比べ、塗工液の液滴を安定して円筒状金型32の所定領域に正確に吐出して着弾させることができ、ポリイミド無端ベルト50の膜厚を制御がしやすい。
【0174】
以上、説明した第1実施形態に係るポリイミド無端ベルト50は、電子写真複写機、レーザービームプリンター、ファクシミリ、これらの複合装置といった電子写真方式の画像形成装置における中間転写ベルト、転写搬送ベルト、搬送ベルト、定着ベルトなど種々の用途に供することが可能である。
具体的には、第1実施形態に係るポリイミド無端ベルト50を中間転写ベルトとして用いる場合は、その転写方式が中間転写ベルト方式でありさえすれば、組み込まれる装置は特に限定されない。例えば、装置内に単色(通常は黒色)のみを有するモノカラー電子写真装置や、感光体上に保持されたトナー像を中間転写ベルトに順次一次転写を繰り返すカラー電子写真装置や、各色毎の現像器を備えた複数の像保持体を中間転写ベルト上に直列に配列した、タンデム型カラー電子写真装置のいずれであってもよい。従って、本実施形態のポリイミド無端ベルト50は、中間転写ベルト、定着ベルトとして用いられるのみならず、中間転写及び定着ベルトとして用いることも可能である。この「中間転写及び定着ベルト」とは、同一ベルト上において中間転写工程と定着工程を行うベルトである。
【0175】
以上、第1実施形態にかかるポリイミド無端ベルト50の製造装置10及び製造方法について説明したが、本発明はこれらの実施の態様のみに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で、当業者の知識に基づき、種々なる改良、変更、修正を加えた態様で実施しうるものである。
【0176】
具体的には例えば、第1実施形態においては、第1吐出ヘッド12A乃至第3吐出ヘッド12Cが、その長手方向が円筒状金型32の幅方向(軸方向)と平行で配置されているが、この平行配置に限られず、第1吐出ヘッド12A乃至第3吐出ヘッド12Cの長手方向と円筒状金型32の幅方向(軸方向)が交差するように配置してもよい。
【0177】
また第1実施形態においては、第1吐出ヘッド12A乃至第3吐出ヘッド12Cからの吐出方法がインクジェット方式であるが、これに限られず、スプレー方式等も用いることができる。ただし、液滴を安定して円筒状金型32の所定領域に正確に着弾させることができるインクジェット方式が最適である。
【0178】
また第1実施形態においては、第1吐出ヘッド12A乃至第3吐出ヘッド12Cが、微細加工して作製された特定の解像度をもつノズル13から連続的に吐出した後に液滴化する連続型であるがであるが、これに限られず、ノズルから圧電素子や発熱抵抗素子により間欠的に塗工液の液滴を吐出する間欠型(オンデマンド方式)でもよい。ただし、比較的高粘度の塗工液を吐出する場合は、連続型の吐出ヘッドであることがよい。
【0179】
また第1実施形態においては、第1吐出ヘッド12Aから吐出された塗工液A52と第2吐出ヘッド12Bから吐出された塗工液B54と第3吐出ヘッド12Cから吐出された塗工液C56とが、円筒状金型32に着弾する前に互いに衝突して混合された後、円筒状金型32の外面に着弾するように配置されているが、これに限らず、例えば互いに吐出する液滴の円筒状金型32外面上における着弾位置が同じであり、塗工液A52乃至塗工液C56が円筒状金型32外面上において混和されるように配置させてもよく、着弾位置が異なるように配置してもよい。
【0180】
液滴の着弾位置は、液滴が着弾したあとに液滴が拡がって隣接する液滴と接触し、最終的には膜として均一につながるように吐出の解像度等を調整することが好ましく、被塗布物の表面張力や、着弾した時の液滴の広がり方、吐出時の液滴の大きさ、塗工溶剤濃度や塗工溶媒種などに起因した溶剤蒸発速度等を考慮して塗布すればよい。これらの条件は塗工液の材料種及び材料組成と被塗布物表面の物性により決まるものであり、調整することがよい。
【0181】
第1実施形態においては、乾燥処理を行った後に焼成処理を行っているが、乾燥処理及び焼成処理の後に、必要に応じて、イミド化反応を十分に進行させるための後処理を行ってもよい。また、前記乾燥処理及び焼成処理の代わりに、乾燥およびイミド化を同時に行う乾燥・焼成処理を行ってもよいが、乾燥処理を行った後に焼成処理を行う方が望ましい。
【0182】
第1実施形態においては、乾燥処理を行いながら塗工液A52乃至塗工液C56の吐出を行ったが、これに限られず、上記乾燥・焼成処理を行いながら塗工液A52乃至塗工液C56の吐出を行ってもよい。また、塗工終了後に乾燥処理又は乾燥・焼成処理を行ってもよい。ただし、塗工終了後に乾燥処理又は乾燥・焼成処理を行う場合は、塗工直後の塗工液A52乃至塗工液C56は流動性を持っているため、液タレ、ゴミの付着などの結果を生じさせないよう、塗工後速やかに乾燥処理又は乾燥・焼成処理を行うことが好ましい。
【0183】
第1実施形態においては、塗工液として、ポリアミック酸を含有する塗工液A52、アミン触媒を含有し脱水剤を含有しない塗工液B54、及び脱水剤を含有する塗工液C56を用いたが、塗工液C56を用いない形態でもよいし、塗工液B54に脱水剤を含有させた形態であってもよい。ただし、塗工液B54に脱水剤を含有させない形態の方が、塗工液B54に脱水剤を含有させた形態と比べて、塗工液の粘度変化が小さく、安定な塗工ができる点で望ましい。
【0184】
第1実施形態においては、塗工液A52乃至塗工液C56が、それぞれ別個の吐出ヘッド(第1吐出ヘッド12A乃至第3吐出ヘッド12C)のノズル13から吐出されているが、塗工液A52を吐出する吐出ヘッドと塗工液B54及び塗工液C56を吐出する吐出ヘッドとが共通であってもよい。具体的には例えば、塗工液A52を吐出するノズル群、塗工液B54を吐出するノズル群、及び塗工液C56を吐出するノズル群を、1つの吐出ヘッドに備える形態が挙げられる。
また、塗工液A52を吐出するノズルと塗工液B54及び塗工液C56を吐出するノズルとが共通であってもよい。具体的には例えば、吐出ヘッドとして、供給された塗工液A52乃至塗工液C56を混合した後にその混合液を吐出する機能を持った吐出ヘッドを、利用する形態が挙げられる。
ただし、上記いずれの形態においても、塗工液A52が収納されている第1塗工液タンク16Aとは別のタンク(本実施形態においては、第2塗工液タンク(図示せず)及び第3塗工液タンク(図示せず)に相当する)に塗工液B54及び塗工液C56が収納されている必要がある。
【0185】
第1実施形態においては、第1吐出ヘッド12A乃至第3吐出ヘッド12Cは、円筒状金型32の幅(軸方向長さ)と同等若しくはそれ以上の長さを持つヘッドを適用した形態を説明したが、これに限られず、短尺ヘッドを適用し、当該ヘッド又は円筒状金型32を移動させ筒と出して渡航する形態であってもよい。
【0186】
第1実施形態においては、被塗布物として金属製(例えば、SUS製、アルミ製等)の円筒体から構成された円筒状金型32を用いているが、これに限られず、例えば樹脂製、ガラス製、セラミック製など、従来既知の様々な素材の成形型が使用できる。円筒状基材の表面にガラスコートやセラミックコートなどを設けること、また、シリコーン系やフッ素系の剥離剤を使用することも適宜選択されうる。更に、円筒状金型32に対するクリアランス調整がなされた膜厚制御用金型を、円筒状金型32に通し平行移動させることで、余分な塗工液を排除し円筒状金型32上の塗工液の厚みを均一にすることができる。円筒状金型32上への塗工液塗布の段階で、溶液の均一な厚み制御がなされていれば、特に膜厚制御用金型を用いなくてもよい。
また第1実施形態においては、円筒状金型32の外面に塗布しているが、これに限られず、内面に塗布してもよい。
さらに被塗布物としては、円筒状に限られず、その他の形状のものを用いてもよい。
【0187】
第1実施形態においては、円筒状に形成された単層構成のベルト基材であるポリイミド無端ベルト50について説明したが、これに限られず、円筒状以外の形状である単層又は多層のポリイミド膜でもよい。
【0188】
(第2実施形態)
図9は、第2実施形態に係る画像形成装置を示す概略構成図である。第2実施形態に係る画像形成装置は、中間転写ベルトとして上記第1実施形態に係るポリイミド無端ベルト50を適用した形態である。なお図9においては、画像形成装置として主要な部材のみを示す。
【0189】
第2実施形態に係る画像形成装置100は、図9に示すように感光体ドラム101BK、101Y、101M、101C(像保持体)を備えており、矢線A方向への回転に伴いその表面には周知の電子写真プロセス(図示せず)によって画情報に応じた静電潜像が形成されるものである。
【0190】
そして、この感光体ドラム101BK、101Y、101M、101Cの周囲には、それぞれ、ブラック(BK)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)及びシアン(C)の各色に対応した現像器105乃至108が配設されており、感光体ドラム101BK、101Y、101M、101Cに形成された静電潜像をそれぞれの現像器105乃至108で現像してトナー像を形成するようになっている。従って、例えば、感光体ドラム101Yに書き込まれた静電潜像はイエローの画情報に対応したものであり、この静電潜像はイエロー(Y)のトナーを内包する現像器106で現像され、感光体ドラム101Y上にはイエローのトナー像が形成される。
【0191】
中間転写体102は感光体ドラム101BK、101Y、101M、101Cの表面に接触されるように配置されたベルト状の中間転写ベルトであり、複数のロール117乃至119に張架されて矢線B方向へ回転する。
【0192】
中間転写体102には、既述の第1実施形態に係るポリイミド無端ベルト50が適用されている。
【0193】
上記感光体ドラム101BK、101Y、101M、101Cに形成された未定着トナー像は、感光体ドラム101BK、101Y、101M、101Cと上記中間転写体102とが接するそれぞれの1次転写位置で、順次感光体ドラム101BK、101Y、101M、101Cから中間転写体102の表面に各色が重ね合わされて転写される。
【0194】
この1次転写位置において、中間転写体102の裏面側には中間転写体102の不必要な領域へ転写電界が作用するのを防止するための遮蔽部材121〜124により転写前接触領域への帯電を防止したコロナ放電器109乃至112が配設されており、このコロナ放電器109乃至112にトナーの帯電極性と逆極性の電圧を印加することで、感光体ドラム101BK、101Y、101M、101C上の未定着トナー像は中間転写体102に静電吸引される。この1次転写手段は、静電力を利用したものであれば、コロナ放電器に限らず電圧が印加された導電性ロールや導電性ブラシなどでも良い。なお、1次転写手段として熱や圧力によるトナーの粘着力を利用したものを用いることも可能ではあるが、熱や圧力による感光体の損傷を防止する観点から、1次転写手段として静電力を利用したものを用いる方が望ましい。
【0195】
このようにして中間転写体102に1次転写された未定着トナー像は、中間転写体102の回転に伴って記録媒体103の搬送経路に面した2次転写位置へと搬送される。2次転写位置では2次転写ロール120と中間転写体102の裏面側に接している背面ロール117とが中間転写体102を挟んで配設されている。
【0196】
送りローラ126によって所定のタイミングで給紙部113から搬出された記録媒体103は、この2次転写ロール120と中間転写体102との間に挿通される。この時、上記2次転写ロール120と背面ロール117との間に電圧を印加しており、中間転写体102に保持された未定着トナー像は上記2次転写位置において記録媒体103に転写される。
【0197】
そして、未定着トナー像が転写された記録媒体103は中間転写体102から剥がされ、搬送ベルト115によって加熱ロール127と加圧ロール128とが対向して設けられた定着器の加熱ロール127と加圧ロール128との間に送り込まれて未定着トナー像の定着処理がなされる。このとき、2次転写工程と定着工程とを同時に行う転写同時定着工程の装置構成とすることも可能である。
一方、記録媒体103が剥離された中間転写体102は、クリーニング装置116によりクリーニングされる。
【0198】
なお、上記クリーニング装置116は中間転写体102と接離自在に配設されており、2次転写される迄、中間転写体102から離間している。
【0199】
以上説明した第2実施形態に係る画像形成装置は、中間転写ベルトとして第1実施形態に係るポリイミド無端ベルト50を適用しているため、濃度ムラや斑点欠陥等の印字欠損を抑えた画像を形成することができる。
【0200】
なお、本実施形態に係る画像形成装置の構成としては、上記形態に限定されるわけではなく、例えば、像保持体、像保持体表面を帯電する帯電手段、像保持体表面を露光し静電潜像を形成する露光手段、像保持体表面に形成された潜像を現像剤にて現像し、トナー像を形成する現像手段、被転写材上のトナー像を転写する転写手段、被転写材上のトナー像を定着する定着手段、像保持体に付着したトナーやゴミ等を除去するクリーニング手段、像保持体表面に残留している静電潜像を除去する除電手段、など必要に応じて公知の方法で備えた画像形成装置であればよい。
【0201】
この構成の画像形成装置において、中間転写ベルトを利用した2次転写方式の転写手段や、定着ベルトを利用したベルト方式の定着手段のベルトとして、上記第1実施形態に係るポリイミド無端ベルト50をその構成に応じて適用し得る。
【0202】
ここで、第1実施形態のポリイミド無端ベルト50をベルト方式の定着手段における定着ベルトに適用する場合、その装置構成は例えば、1つ以上の駆動部材と、前記1つ以上の駆動部材により従動回転可能な無端ベルト(定着ベルト)と、押圧部材とを少なくとも備え、前記1つ以上の駆動部材のいずれか1つの駆動部材表面と、前記無端ベルト外周面とが、前記無端ベルト内周面に接して配置され、前記無端ベルト外周面を前記駆動部材表面へと押圧する前記押圧部材により接触部を形成し、未定着トナー像をその表面に保持する記録媒体を加熱しながら前記接触部を通過させることにより、前記未定着トナー像を前記記録媒体表面に定着させる画像定着装置において、前記無端ベルトとして第1実施形態のポリイミド無端ベルト50を用いることが好ましい。
【0203】
なお、定着手段は、上記に説明したような構成・機能の他にも必要に応じて他の構成・機能を有していてもよく、例えば、上記無端ベルトの内周面に潤滑剤を塗布して用いてもよい。潤滑剤としては公知の液体状の潤滑剤(例えば、シリコーンオイル等)を用いることができる。また潤滑剤は、無端ベルト内周面と接して設けられたフェルト等を介して連続的に供給することができる。
【0204】
また、定着手段は、押圧部材により、接触部の無端ベルト軸方向の圧力分布が調整できることが好ましい。例えば、潤滑剤を用いる場合には、圧力分布を調整することにより、潤滑剤を無端ベルトの一端に寄せたり、中央部に集めたり等、内周面に塗布された潤滑剤の存在状態を任意に制御することができる。このため、例えば、無端ベルトの一端に余分な潤滑剤を集めて回収したり、無端ベルトの中央部に潤滑剤を移動させるようにしたりすることができ、無端ベルト端部からの潤滑剤の漏れによる装置内の汚染を防ぐことができる。
【0205】
なお、このような圧力分布の調整は、潤滑剤を用いると共に、更に使用する無端ベルトの内周面に既述したような筋状凹凸粗さが付与されている場合に特に有用である。この場合、筋状凹凸粗さの筋の方向も考慮して接触部の圧力分布を調整することにより、内周面に塗布された潤滑剤の存在状態の制御がより容易となる。
【0206】
(第3実施形態)
図10は、第3実施形態に係る画像形成装置を示す概略構成図である。第3実施形態に係る画像形成装置は、転写搬送ベルトとして上記第1実施形態に係るポリイミド無端ベルト50を適用した形態である。
【0207】
第3実施形態に係る画像形成装置200は、図10に示すように、ユニット200Y、200M、200C、200Bkと、記録紙(被転写体)搬送用ベルト(転写搬送ベルト)206と、転写ロール207Y、207M、207C、207Bkと、記録紙搬送ロール208と、定着手段209とを備えている。この記録紙(被転写体)搬送用ベルト206として、前記第1実施形態のポリイミド無端ベルト50を備える。
【0208】
ユニット200Y、200M、200C、200Bkは、図中矢印の時計方向に所定の周速度をもって回転可能にそれぞれ像保持体である感光体ドラム201Y、201M、201C、201Bkが備えられている。感光体ドラム201Y、201M、201C、201Bkの周囲には、帯電手段202Y、202M、202C、202Bkと、露光手段203Y、203M、203C、203Bkと、各色現像器(イエロー現像器204Y、マゼンタ現像器204M、シアン現像器204C、ブラック現像器204Bk)と、感光体クリーナー205Y、205M、205C、205Bkとがそれぞれ配置されている。
【0209】
ユニット200Y、200M、200C、200Bkは、記録紙搬送用ベルト206に対して4つ並列に、ユニット200Y、200M、200C、200Bkの順に配置されているが、ユニット200Bk、200Y、200C、200Mの順等、画像形成方法に合わせて適当な順序を設定することができる。
【0210】
記録紙搬送用ベルト206は、支持ロール210、211、212、213によって、矢印の反時計方向に感光体ドラム201Y、201M、201C、201Bkと同じ周速度をもって回転可能になっており、支持ロール212、213の中間に位置するその一部が感光体ドラム201Y、201M、201C、201Bkとそれぞれ接するように配置されている。記録紙搬送用ベルト206は、ベルト用クリーニング装置214が備えられている。
【0211】
転写ロール207Y、207M、207C、207Bkは、記録紙搬送用ベルト206の内側であって、記録紙搬送用ベルト206と感光体ドラム201Y、201M、201C、201Bkとが接している部分に対向する位置にそれぞれ配置され、感光体ドラム201Y、201M、201C、201Bkと、記録紙搬送用ベルト206を介してトナー画像を記録紙(被転写材)Pに転写する転写領域(接触部)を形成している。
【0212】
定着器209は、記録紙搬送用ベルト206と感光体ドラム201Y、201M、201C、201Bkとのそれぞれの転写領域(接触部)を通過した後に搬送できるように配置されている。
【0213】
記録紙搬送ロール208により、記録紙Pは記録紙搬送用ベルト206に搬送される。
【0214】
ユニット200Yにおいては、感光体ドラム201Yを回転駆動させる。これと連動して帯電手段202Yが駆動し、感光体ドラム201Yの表面を所定の極性・電位に一様に帯電させる。表面が一様に帯電された感光体ドラム201Yは、次に、露光手段203Yによって像様に露光され、その表面に静電潜像が形成される。
【0215】
続いて該静電潜像は、イエロー現像器204Yによって現像される。すると、感光体ドラム201Yの表面にトナー画像が形成される。なお、このときのトナーは一成分系のものでもよいし二成分系のものでもよいが、ここでは二成分系トナーである。
【0216】
このトナー画像は、感光体ドラム201Yと記録紙搬送用ベルト206との転写領域(接触部)を通過すると同じに、記録紙Pが静電的に記録紙搬送用ベルト206に吸着して転写領域(接触部)まで搬送され、転写ロール207Yから印加される転写バイアスにより形成される電界により、記録紙Pの外周面に順次、転写される。
【0217】
この後、感光体ドラム201Y上に残存するトナーは、感光体ドラムクリーナ205Yによって清掃・除去される。そして、感光体ドラム201Yは、次の転写サイクルに供される。
【0218】
以上の転写サイクルは、ユニット200M、200C、200Bkでも同様に行われる。
【0219】
転写ロール207Y、207M、207C、207Bkによってトナー画像を転写された記録紙Pは、さらに定着器209に搬送され、定着が行われる。以上により記録紙上に所望の画像が形成される。
【0220】
以上説明した第3実施形態に係る画像形成装置は、転写搬送ベルトとして第1実施形態に係るポリイミド無端ベルト50を適用しているため、濃度ムラや斑点欠陥等の印字欠損を抑えた画像を形成することができる。
【0221】
第3実施形態では、第1実施形態におけるポリイミド無端ベルト50を転写搬送ベルトとして用い、記録紙などの被搬送体を搬送しているが、記録紙の搬送に限定されるものではなく、記録紙以外の被搬送体、例えば、プラスチックで出来た媒体(例えばOHPシートなど)、カード、板などの搬送にも用いることができる。
【0222】
なお、上記実施形態では、第1実施形態に係るポリイミド無端ベルト50を画像形成装置用のベルト部材(中間転写ベルト、転写搬送ベルト等)に適用した形態を説明したが、これに限られず、例えばシート等の被搬送物を搬送するためのベルトを備えた搬送装置における、当該ベルトに適用することもできる。
【実施例】
【0223】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0224】
−(合成例1) ポリアミック酸溶液の調整−
攪拌棒、温度計、及び滴下ロートを取り付けたフラスコ中に、五酸化リンによって乾燥させた窒素ガスを通じ、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、BPDAと略す)29.42g(0.1モル)とN−メチル−2−ピロリドン(以下,NMPと略す場合もある)117.68gを注入した。十分攪拌・溶解した後、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(以下、ODAと略す場合もある)20.02g(0.1モル)をN−メチル−2−ピロリドン80.08gに溶解させた溶液を、10℃に保持したフラスコ内に徐々に滴下した。ジアミン溶液(ODA溶液)滴下後、10〜15℃にて攪拌・重合を行った。反応溶液を大量のメタノール中に注ぎ、再沈殿精製を行った。析出した白色ポリマーをろ別・乾燥した後、N−メチル−2−ピロリドンに再溶解させて10質量%ポリアミック酸溶液を得た。
【0225】
−(調整例1) 塗工液A−1の調整−
合成例1で調整したポリアミック酸溶液をNMPとブチルセロソルブ(以下、BCと略す場合もある)を用いて、0.5質量%に希釈した。希釈後の溶媒組成は、NMP/BCの質量比が、50/50となるように調整した。その後、20μm孔のフロロポアろ紙にてろ過して、不溶部を除去して、塗工液A−1を得た。
【0226】
−(調整例2) 塗工液A−2の調整−
合成例1で調整したポリアミック酸溶液50g中に、乾燥した酸化処理カーボンブラック(SPECIAL BLACK4(Degussa社製、pH4.0、揮発分:14.0%))1.5gを添加して、ボールミルにて25℃の温度下6時間の分散処理を行った。その後、NMPとブチルセロソルブ(以下、BCと略す場合もある)を用いて、0.5質量%に希釈した後、20μm孔のフロロポアろ紙にてろ過して、凝集物を除去して、塗工液A−2を得た。希釈後の溶媒組成は、NMP/BCの質量比が、50/50となるように調整した。
【0227】
−(調整例3) 塗工液B−1の調整−
アミン触媒として、モノエチルアミン(1級アミン)1.0gをNMPとブチルセロソルブ(以下、BCと略す場合もある)を用いて、0.5質量%になるように溶解させた。溶解後の溶媒組成は、NMP/BCの質量比が、50/50となるように調整した。その後、20μm孔のフロロポアろ紙にてろ過して、凝集物を除去して、塗工液B−1を得た。
【0228】
−(調整例4) 塗工液B−2の調整−
アミン触媒として、ジエチルアミン(2級アミン)1.0gをNMPとブチルセロソルブ(以下、BCと略す場合もある)を用いて、0.5質量%に希釈した。希釈後の溶媒組成は、NMP/BCの質量比が、50/50となるように調整した。その後、20μm孔のフロロポアろ紙にてろ過して、凝集物を除去して、塗工液B−1を得た。
【0229】
−(調整例5) 塗工液B−3の調整−
アミン触媒として、β−ピコリン(3級アミン)1.0gをNMPとブチルセロソルブ(以下、BCと略す場合もある)を用いて、0.5重量%に希釈した。希釈後の溶媒組成は、NMP/BCの重量比が、50/50となるように調整した。その後、20μm孔のフロロポアろ紙にてろ過して、凝集物を除去して、塗工液B−1を得た。
【0230】
−(調整例6) 塗工液C−1の調整−
脱水剤として、無水酢酸1.0gをNMPとブチルセロソルブ(以下、BCと略す場合もある)を用いて、0.5重量%に希釈した。希釈後の溶媒組成は、NMP/BCの重量比が、50/50となるように調整した。その後、20μm孔のフロロポアろ紙にてろ過して、凝集物を除去して、塗工液C−1を得た。
−(調整例7) 塗工液B−4の調整−
アミン触媒として、モノエチルアミン(1級アミン)0.1gをNMPとブチルセロソルブ(以下、BCと略す場合もある)を用いて、0.01質量%になるように溶解させた。溶解後の溶媒組成は、NMP/BCの質量比が、50/50となるように調整した。その後、20μm孔のフロロポアろ紙にてろ過して、凝集物を除去して、塗工液B−1を得た。
−(調整例8) 塗工液B−5の調整−
アミン触媒として、ジエチルアミン(2級アミン)0.1gをNMPとブチルセロソルブ(以下、BCと略す場合もある)を用いて、0.01質量%になるように溶解させた。溶解後の溶媒組成は、NMP/BCの質量比が、50/50となるように調整した。その後、20μm孔のフロロポアろ紙にてろ過して、凝集物を除去して、塗工液B−1を得た。
【0231】
−実施例α−1乃至α−8−
調整例1乃至8で得られた塗工液A−1乃至A−2、B−1乃至B−5、及びC−1を、室温(25℃)下において30日間放置し、塗工液の性状を目視で経時観察した。
いずれの塗工液についても、30日間変化がなく、ゲル状の物質もポリマーの析出も見られなかった。
【0232】
−比較例α−1乃至α−18−
調整例1乃至6で得られた塗工液A−1乃至A−2、B−1乃至B−3、及びC−1を、表1及び表2に示す比率で混合し、混合液D−1乃至D−18を得た。
混合液D−1乃至D−18を、室温(25℃)下において30日間放置し、混合液の性状を目視で経時観察した。その結果を表1及び表2に示す。
【0233】
【表1】

【0234】
【表2】

【0235】
以上の結果より、実施例α−1乃至α−8においては、いずれも塗工液の性状に変化がなく、ゲル状の物質もポリマーの析出も見られなかったが、比較例α−1乃至α−18においては、いずれの混合液も、ゲル化が見られ、経時安定性に乏しかった。
特に、比較例α−2、α−3、α−5、α−6、α−11、α−12、α−14、及びα−15においては、混合液調整後即座にゲル化を起こしたため、これらの混合液をノズルより吐出してポリイミド無端ベルトを作製することは困難であった。
【0236】
−(実施例β−1) ポリイミド無端ベルトE−1の製造−
外径90mm、長さ450mmのSUS材料からなる円筒型金型を用意し、その外表面にシリコーン系離型剤を均一に塗布・乾燥処理を行った(離型剤処理)。離型剤処置を施した円筒型金型を塗工装置に設置した。
【0237】
塗工装置は、円筒状金型を周方向に回転させる駆動装置と塗工液を吐出する塗工液吐出ユニットとを備えている。塗工液吐出ユニットは、塗工液Aを吐出するノズルA群を備えた第1吐出ヘッドと、塗工液Bを吐出するノズルB群を備えた第2吐出ヘッドと、塗工液Cを吐出するノズルC群を備えた第3吐出ヘッドとを備えてなり、各ノズル群はそれぞれ別個の塗工液の吐出量を制御しえる。
【0238】
塗工液吐出ユニットの、ノズルA群から塗工液A−1、ノズルB群から塗工液B−1、ノズルC群から塗工液C−1が、それぞれ吐出されるようにセットした。ここで、セットされた塗工液A−1、塗工液B−1、及び塗工液C−1は、調整後、室温(25℃)で所定の時間(表4に示す「放置時間」)放置されたものを用いた。
【0239】
次に、円筒型金型を周方向に10rpmで回転させながら、ノズルA群より塗工液A−1を吐出量5マイクロリットル/秒で、ノズルB群より塗工液B−1を吐出量2マイクロリットル/秒で、ノズルC群より塗工液C−1を吐出量2マイクロリットル/秒で、吐出・塗工を開始した。各ノズル群より吐出された塗工液A−1、B−1、及びC−1は、基材である円筒状金型に着弾する前で互いに衝突し混和した。塗工液の吐出・塗布は、円筒状金型を回転させつつ120℃(塗工温度)で乾燥処理を行いながら、20分間(塗工時間)行った。その後さらに円筒状金型を回転させながら、120℃(乾燥温度)にて10分間(乾燥時間)乾燥を行い溶媒を除去した。
【0240】
次いで、再度同様な条件にて一連の塗工・乾燥処理を10回繰り返した。乾燥処理後、乾燥成形品端部膜厚の膜厚を測定したところ、100μmであった。次いで、クリーンオーブン中で、150℃(焼成温度)において30分間(焼成時間)の焼成処理を行い、イミド化反応を進行させた。その後、金型を室温で放冷し、金型から樹脂を取り外し、目的のポリイミド無端ベルトE−1を得た。
【0241】
−(実施例β−2乃至β−15)ポリイミド無端ベルトE−2乃至E−15の製造−
塗工液A乃至Cの種類、吐出量、放置時間、塗工温度、塗工時間、乾燥温度、乾燥時間、焼成温度、及び、焼成時間を表4乃至6の通りとした他は、実施例β−1と同様にして、ポリイミド無端ベルトE−2乃至E−15を得た。
【0242】
−(実施例β−16乃至β−20)ポリイミド無端ベルトE−16乃至E−20の製造−
塗工液の吐出・塗布を室温(25℃)(塗工温度)において20分間(塗工時間)行った後、円筒状金型を回転させながら、120℃(乾燥温度)にて60分間(乾燥時間)乾燥を行い溶媒を除去し、焼成時間を60分とした他は、実施例β−6乃至β−10と同様にして、それぞれポリイミド無端ベルトE−16乃至E−20(表7)を得た。
【0243】
−(比較例β−1乃至β−6)ポリイミド無端ベルトF−1乃至F−6の製造−
調整例1乃至8で得られた塗工液A−1乃至A−2、B−1乃至B−5、及びC−1を、表3に示す比率で混合し、混合液D−19乃至D−24を得た。
ここで、得られた混合液D−19乃至D−24を一部採取して室温(25℃)下において30日間放置し、混合液の性状を目視で経時観察した結果を表3に示す。
【0244】
【表3】

【0245】
塗工液Aの代わりに混合液Dを用い、混合液及び塗工液の種類、吐出量、放置時間、塗工温度、塗工時間、乾燥温度、乾燥時間、焼成温度、並びに、焼成時間を表8の通りとした他は、実施例β−1と同様にして、ポリイミド無端ベルトF−1乃至F−6を得た。
【0246】
−(比較例β−7乃至β−10) ポリイミド無端ベルトF−7乃至F−10の製造−
塗工液A乃至Cの種類、吐出量、放置時間、塗工温度、塗工時間、乾燥温度、乾燥時間、焼成温度、並びに、焼成時間を表9の通りとした他は、実施例β−1と同様にして、ポリイミド無端ベルトF−7乃至F−10を得た。
【0247】
上記、実施例β−1乃至β−20及び比較例β−1乃至β−10で得られたポリイミド無端ベルトについて、以下に示す方法によって、各種試験を実施した。結果を表4乃至9に示す。
【0248】
(ベルトの膜厚の測定)
上述の方法により、ポリイミド無端ベルトの膜厚の測定を行った。なお、表4乃至9中、「膜厚のバラツキ」とは、上述の方法により求められたポリイミド無端ベルトの最大膜厚と最小膜厚との差が平均膜厚の何%であるかを示す値である。
【0249】
(イミド化率の測定)
得られたポリイミド無端ベルトから試験片を切り出し、FT−IR(堀場製作所製顕微FT−IR分光器FT−530)により測定を行った。400℃焼成品をイミド化率100%として、1776cm−1のイミド基に由来するカルボニル基の伸縮ピークと1500cm−1の芳香環の振動ピークとの比により求めた。その結果を表4乃至9に示す。
【0250】
(ベルトの表面性状の評価)
得られたポリイミド無端ベルト表面の外観を目視観察した。表面のうねり、折れ、表面グロスムラについてのポリイミド無端ベルト表面内での均一性を以下のように評価した。その結果を表4乃至9に示す。
「◎」:まったく欠陥の発生が見られず、膜の均一性に優れる。
「○」:欠陥の発生がやや見られるが、実用には問題ない。
「△」:欠陥の発生が見られ、実用にはやや支障がある。
「×」:欠陥が多発し、実用できない。
【0251】
(ベルトの表面のクレータ状表面欠陥(ボイド)数の測定)
得られたポリイミド無端ベルトから10cm四方の試験片をランダムに5箇所切りだし、クレータ状表面欠陥の発生を目視にて観察した。試験片中に発生している1mm以上のクレータ状表面欠陥の数を評価した。その結果を表4乃至9に示す。
【0252】
(衝撃強度の測定)
上述の方法により、ポリイミド無端ベルトの衝撃強度を測定した。その結果を表4乃至9に示す。
【0253】
(表面抵抗率の測定)
塗工液A−2を用いて得られたそれぞれのポリイミド無端ベルトを円形電極(三菱化学(株)製ハイレスターUPのURプローブ:円柱状電極部の外径Φ16mm、リング状電極部の内径Φ30mm、外径Φ40mm)を用い、JIS K6911(1995)に従って測定した。具体的には、22℃/55%RH環境下、電圧100Vを印加し、10秒後における電流を測定し、表面抵抗率(ρs)の常用対数値を算出した。その結果を表4乃至9に示す。
【0254】
表面抵抗率の測定方法の詳細は、以下の通りである。図11に示すように、表面抵抗率の測定に用いる円形電極は、第一電圧印加電極300Aと板状絶縁体300Bとを備える。第一電圧印加電極300Aは、円柱状電極部300Cと、該円柱状電極部300Cの外径よりも大きい内径を有し、且つ円柱状電極部300Cを一定の間隔で囲む円筒状のリング状電極部300Dとを備える。第一電圧印加電極300Aにおける円柱状電極部300C及びリング状電極部300Dと板状絶縁体300Bとの間に測定試料であるポリイミド無端ベルト300Tを挟持し、第一電圧印加電極300Aにおける円柱状電極部300Cとリング状電極部300Dとの間に電圧V(V)を印可したときに流れる電流I(A)を測定し、下記式により表面抵抗率ρs(Ω)を求めることができる。
式:ρs=π×(D+d)/(D−d)×(V/I)
ここで、上記式中、d(cm)は円柱状電極部300Cの外径を示す。D(cm)はリング状電極部300Dの内径を示す。
【0255】
(体積抵抗率の測定)
塗工液A−2を用いて得られたそれぞれのポリイミド無端ベルトを円形電極(三菱油化(株)製ハイレスターIPのURプローブ:円柱状電極部の外径Φ16mm、リング状電極部の内径Φ30mm、外径Φ40mm)を用い、JIS K6911(1995)に従って測定した。具体的には、22℃/55%RH環境下、電圧100Vを印加し、30秒後における電流を測定
し、体積抵抗率(ρv)の常用対数値を算出した。その結果を表4乃至9に示す。
【0256】
体積抵抗率の測定方法の詳細は、以下の通りである。図12に示すように、体積抵抗率の測定に用いる円形電極は、第一電圧印加電極400Aと第二電圧印加電極400Bとを備える。第一電圧印加電極400Aは、円柱状電極部400Cと、該円柱状電極部400Cの外径よりも大きい内径を有し、且つ円柱状電極部400Cを一定の間隔で囲む円筒状のリング状電極部400Dとを備える。第一電圧印加電極400Aにおける円柱状電極部400C及びリング状電極部400Dと第二電圧印加電極400Bとの間に測定試料であるポリイミド無端ベルト400Tを挟持し、第一電圧印加電極400Aにおける円柱状電極部400Cと第二電圧印加電極400Bとの間に電圧V(V)を印可したときに流れる電流I(A)を測定し、下記式により体積抵抗率ρv(Ω・cm)を求めることができる。
式:ρv=πd/4t×(V/I)
ここで、上記式中、d(cm)は円柱状電極部400Cの外径を示す。t(cm)はポリイミド無端ベルト400Tの膜厚を示す。
【0257】
(耐折性の評価)
得られたそれぞれのポリイミド無端ベルトから150mm×15mmの試験片を作製した。なお、ベルトの膜厚について、塗工時に条件を様々制御して、80μmになるように調整した以外は、各例と同様にしてポリイミド無端ベルトを作製した。JIS−C5016(1994年)に準じて、試験片が破断するまでの往復折り曲げ回数を測定した。同一試料について10回の測定を行い、その平均値をもって耐折性の評価結果とした。測定機は、東洋精機MIT耐揉疲労試験機MIT−DAを使用した。その結果を表4乃至9に示す。
【0258】
(印字画質の評価)
富士ゼロックス社製DocuCentreColor2220改造機(プロセス速度:250mm/sec、一次転写電流:35μAに改造)を使用し、塗工液A−2を用いて得られたポリイミド無端ベルトを中間転写ベルトとして搭載して、高温高湿(28℃85%RH)及び低温低湿(10℃15%RH)で、Cyan、Magentaの50%ハーフトーンを富士ゼロックス社製C2紙に出力し、以下の規準で濃度ムラ及び斑点欠陥を目視で評価した。その結果を表4乃至9に示す。
【0259】
[濃度ムラ]
10枚目の印字サンプルの印字部を3×3=9等分に分割してそれぞれの色度を色彩色度計CR-210(ミノルタ社製)を用いて測定して色度の最大と最小との差である色差ΔEを求めた。
◎:色差ΔEが0.3未満濃度ムラが確認されない。
○:色差ΔEが0.3以上0.5未満
△:色差ΔEが0.5以上1.0未満
×:色差ΔEが1.0以上
【0260】
[斑点欠陥]
10枚目の印字試料の印字部内を目視観察した。
◎:0.5mm未満の大きさの斑点が10個未満。
○:0.5mm未満の大きさの斑点が10個以上50個未満発生する。
△:0.5mm未満の大きさの斑点が50個以上100個未満発生する。又は、0.5mm以上1.0mm未満の大きさの斑点が50個未満発生する。
×:0.5mm未満の大きさの斑点が100個以上発生する。又は、0.5mm以上1.0mm未満の大きさの斑点が50個以上発生する。又は、1.0mm以上の大きさの斑点が1個以上発生する。
【0261】
(通紙テスト後特性の評価)
塗工液A−2を用いて得られたポリイミド無端ベルトそれぞれについて、平均膜厚、表面抵抗率、体積抵抗率、及び耐折性について、1000枚の通紙テスト後(30%ハーフトーン画像形成後)においても測定を行い、通紙前との比較を行った。その結果を表4乃至9に示す。
【0262】
【表4】

【0263】
【表5】

【0264】
【表6】

【0265】
【表7】

【0266】
【表8】

【0267】
【表9】

【0268】
以上の結果から、比較例β−1乃至β−10に比べ、実施例β−1乃至β−20の方が、ポリイミド無端ベルトの表面性状及び耐久性に優れることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0269】
【図1】第1実施形態に係るポリイミド無端ベルトの構造を示す斜視図である。
【図2】第1実施形態に係るポリイミド無端ベルトの製造装置の主要部を示す概略構成図であり、(A)は上面図であり、(B)は正面図であり、(C)は側面図である。
【図3】第1実施形態に係る第1吐出装置の構造を示す概略構成図である。
【図4】第1実施形態に係る第1吐出ヘッドを示す斜視図である。
【図5】第1実施形態に係る第1吐出ヘッドの断面図である。
【図6】振動を付与しない場合における塗工液A52の吐出状態を示す模式図である。
【図7】90kHzの振動を付与した場合における塗工液A52の吐出状態を示す模式図である。
【図8】60kHzの振動を付与した場合における塗工液A52の吐出状態を示す模式図である。
【図9】第2実施形態に係る画像形成装置を示す概略構成図である。
【図10】第3実施形態に係る画像形成装置を示す概略構成図である。
【図11】表面抵抗率の測定装置を示す概略構成図であり、(a)は上面図であり、(b)は断面図である。
【図12】体積抵抗率の測定装置を示す概略構成図であり、(a)は上面図であり、(b)は断面図である。
【符号の説明】
【0270】
10…ポリイミド無端ベルトの製造装置
12A、12B、12C…吐出ヘッド(吐出手段)
16A…塗工液タンク(収納手段)
32…円筒状基材(被塗布物)
34…加熱用ヒータ(加熱手段)
50…ポリイミド無端ベルト
52…塗工液A
54…塗工液B
56…塗工液C
100、200…画像形成装置
102…中間転写体(ポリイミド無端ベルト)
206…記録紙搬送用ベルト(ポリイミド無端ベルト)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミック酸構造を含むポリマーを含有する塗工液Aを準備する工程と、
アミン触媒を含有する塗工液Bを準備する工程と、
前記塗工液Aを被塗布物に対し吐出する塗工液A吐出工程と、
前記塗工液Bを前記被塗布物に対し吐出する塗工液B吐出工程と、
前記被塗布物に吐出された前記塗工液A及び前記塗工液Bを加熱する加熱工程と、
を有することを特徴とする、ポリイミド膜の製造方法。
【請求項2】
前記アミン触媒が、1級又は2級アミンであることを特徴とする、請求項1に記載のポリイミド膜の製造方法。
【請求項3】
前記塗工液Aが、さらに導電材料を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリイミド膜の製造方法。
【請求項4】
前記加熱工程を行いながら、前記塗工液A吐出工程及び前記塗工液B吐出工程を行うことを特徴とする、請求項1乃至3に記載のポリイミド膜の製造方法。
【請求項5】
前記塗工液A吐出工程及び前記塗工液B吐出工程において、前記吐出は、インクジェット方式によって行われることを特徴とする、請求項1乃至4に記載のポリイミド膜の製造方法。
【請求項6】
脱水剤を含有する塗工液Cを準備する工程と、
前記塗工液Cを前記被塗布物に対し吐出する塗工液C吐出工程と、
をさらに有することを特徴とする、請求項1乃至5に記載のポリイミド膜の製造方法。
【請求項7】
ポリアミック酸構造を含むポリマーを含有する塗工液Aを準備する工程と、
アミン触媒を含有する塗工液Bを準備する工程と、
前記塗工液Aを円筒状基材に対し吐出する塗工液A吐出工程と、
前記塗工液Bを前記円筒状基材に対し吐出する塗工液B吐出工程と、
前記円筒状基材に吐出された前記塗工液A及び前記塗工液Bを加熱する加熱工程と、
を有することを特徴とする、ポリイミド無端ベルトの製造方法。
【請求項8】
ポリアミック酸構造を含むポリマーを含有する塗工液Aが収納された塗工液A収納手段と、
アミン触媒を含有する塗工液Bが収納された塗工液B収納手段と、
前記塗工液Aを被塗布物に対し吐出する塗工液A吐出手段と、
前記塗工液Bを前記被塗布物に対し吐出する塗工液B吐出手段と、
前記被塗布物に塗布された前記塗工液A及び前記塗工液Bを加熱する加熱手段と、
を有することを特徴とする、ポリイミド膜製造装置。
【請求項9】
前記アミン触媒が、1級又は2級アミンであることを特徴とする、請求項8に記載のポリイミド膜製造装置。
【請求項10】
前記塗工液Aが、さらに導電材料を含むことを特徴とする、請求項8又は9に記載のポリイミド膜製造装置。
【請求項11】
前記塗工液A吐出手段及び前記塗工液B吐出手段が、インクジェット方式であることを特徴とする、請求項8乃至10に記載のポリイミド膜製造装置。
【請求項12】
脱水剤を含有する塗工液Cが収納された塗工液C収納手段と、
前記塗工液Cを前記被塗布物に対し吐出する塗工液C吐出手段と、
を有することを特徴とする、請求項8乃至11に記載のポリイミド膜製造装置。
【請求項13】
ポリアミック酸構造を含むポリマーを含有する塗工液Aが収納された塗工液A収納手段と、
アミン触媒を含有する塗工液Bが収納された塗工液B収納手段と、
前記塗工液Aを円筒状基材に対し吐出する塗工液A吐出手段と、
前記塗工液Bを前記円筒状基材に対し吐出する塗工液B吐出手段と、
前記円筒状基材に塗布された前記塗工液A及び前記塗工液Bを加熱する加熱手段と、
を有することを特徴とする、ポリイミド無端ベルト製造装置。
【請求項14】
請求項1乃至6に記載のポリイミド膜の製造方法により製造されることを特徴とする、ポリイミド膜。
【請求項15】
請求項7に記載のポリイミド無端ベルトの製造方法により製造されることを特徴とする、ポリイミド無端ベルト。
【請求項16】
衝撃強度が、200N以上700N以下であることを特徴とするポリイミド膜。
【請求項17】
衝撃強度が、200N以上700N以下であることを特徴とするポリイミド無端ベルト。
【請求項18】
請求項15又は請求項17に記載のポリイミド無端ベルトを具備することを特徴とする、画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−183744(P2008−183744A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−17180(P2007−17180)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】