説明

ポリプロピレン系樹脂発泡体の製造方法

【課題】発泡倍率が高く、発泡セルが均一に分散し、表面外観が良好なポリプロピレン系樹脂発泡体の製造方法の提供。
【解決手段】230℃における溶融張力が5〜30gであり、メルトフローレート(MFR)と、溶融張力(MT)との関係が、下記式(1)を満たす直鎖状のポリプロピレン系樹脂を、押出装置により溶融押出ながら、該溶融樹脂に二酸化炭素を注入して、該溶融樹脂を発泡させる発泡体の製造方法において、押出装置における二酸化炭素の導入箇所のシリンダーバレル温度を200〜240℃として、発泡前のシリンダーバレル温度が175〜190℃となるように温度調節した後に、ダイスの開口面積あたりの上記樹脂の吐出量を、ダイス開口部の直近の樹脂圧力が5〜20MPaとなるようにして、溶融樹脂を大気下に吐出して発泡させる樹脂の発泡体の製造方法。
Log(MT)>−1.33Log(MFR)+1.2 (1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡倍率が高く、発泡セルが均一に分散し、表面外観が良好なポリプロピレン系樹脂発泡体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリプロピレン樹脂を用いた押出発泡体が知られている。例えば、特許文献1には、230℃における溶融張力が5〜30gである直鎖状のポリプロピレン系樹脂を含むポリオレフィン系樹脂組成物を、超臨界状態の二酸化炭素を少なくとも含む発泡剤を用いて、発泡倍率10倍以上に発泡させてなる発泡体が提案されており、この発泡体(発泡ボード)は優れた押出発泡性を有し、優れた断熱性能を有し、リサイクル可能であり、安価で安定的に連続生産することができるとされている。
【0003】
また、同文献の製造方法には、ポリプロピレン系樹脂組成物と、超臨界状態の二酸化炭素を少なくとも含む発泡剤とを混合させ、溶融押出し温度が160℃未満であると超臨界二酸化炭素の樹脂中への溶解および拡散が劣り、逆に、250℃を超えるとポリプロピレン系樹脂の熱による分子鎖切断などの劣化が生じ始めるので、温度160〜250℃で溶融押出して製造されることが記載されている。
【特許文献1】国際公開第2007/004524号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記文献の押出条件では、得られる発泡体の表面外観が劣る場合や、高い発泡倍率が発現せず、充分な断熱性能が得られない場合があった。また、上記の発泡体を製造するためには、装置が大掛かりになり、また、作業性に劣る場合があった。
【0005】
例えば、同文献の実施例には、シリンダーバレル温度を180℃に設定して樹脂を溶融押出しているが、この温度で樹脂を押出発泡させた場合、特に発泡体の表面外観が劣り、また、発泡体の気泡(セル)径が不均一で均一に分散せず、また、高い発泡倍率が得られないために、発泡体の断熱性が劣るといった問題を有していた。
【0006】
また、同文献では、実施例としてタンデム押出機により2段階で樹脂などを比較的長めに混練して押出しており、得られる発泡体のセル径の分布は比較的良好ではあるものの、未だ表面外観性に劣るといった問題を有していた。さらに、発泡成形には、取扱い性、コストの面から1段階押出法によるシングル押出機を用いるこが望まれているが、このシングル押出機により上記押出条件で発泡体を製造する場合、得られる発泡体の表面外観性が劣るといった問題や高発泡倍率化できないなどの問題が顕著であった。
【0007】
さらに、同文献では、発泡剤として超臨界状態にした二酸化炭素を供給して発泡剤の樹脂中への分散性を高めようとしているものの、同文献での押出条件では、得られる発泡体が未だ表面外観が劣るなどの問題を有していた。一方で、取扱い性、コストの面から超臨界状態にしない液化二酸化炭素を発泡剤として用いることが望まれているが、同文献での押出条件では発泡体の表面外観性が劣るといった問題や高発泡倍率の発泡体が得られないなどの問題が顕著であった。
従って、本発明の目的は、発泡倍率が高く、発泡セルが均一に分散し、表面外観が良好なポリプロピレン系樹脂発泡体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、230℃における溶融張力が5〜30gであり、230℃におけるメルトフローレート(MFR)と、230℃における溶融張力(MT)との関係が、下記の式(1)を満たす直鎖状のポリプロピレン系樹脂を、押出装置により溶融押出ながら、該溶融樹脂に二酸化炭素を注入して、該溶融樹脂を発泡させる発泡体の製造方法において、押出装置における二酸化炭素の導入箇所のシリンダーバレル温度を200〜240℃として、発泡前のシリンダーバレル温度が175〜190℃となるように温度調節した後に、ダイスの開口面積あたりの上記樹脂の吐出量を、ダイス開口部の直近の樹脂圧力が5〜20MPaとなるようにして、溶融樹脂を大気下に吐出して発泡させることを特徴とする上記樹脂の発泡体の製造方法を提供する。
Log(MT)>−1.33Log(MFR)+1.2 (1)
【0009】
上記本発明においては、前記押出装置が、1段階での押出装置(シングル押出装置)であること;前記シングル押出装置のシリンダーバレル径が20〜300mmφで、L/Dが20〜40であること;前記押出装置のシリンダーバレル径が20〜300mmφで、L/Dが20〜40のタンデム押出装置であり、1段目の押出成形装置のシリンダーバレル径に対して2段目の押出成形装置のシリンダーバレル径の方が大きいこと;1段目の押出成形装置のスクリューの回転数に対して、2段目押出成形装置のスクリューの回転数を1/4以下とすること;および前記二酸化炭素が、超臨界状態ではない液化二酸化炭素であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、発泡倍率が高く、発泡セルが均一に分散した表面外観が良好なポリプロピレン系樹脂の発泡体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
本発明における樹脂は、特定の物性を有する直鎖状のポリプロピレン系樹脂(以下「樹脂A」という)を少なくとも含有する。該樹脂Aは、230℃における溶融張力が5〜30gであることを必須とし、好ましくは溶融張力が6.5〜20gであり、より好ましくは溶融張力が7.5〜10gである。上記樹脂Aの溶融張力が5g未満であると、樹脂Aの発泡時にセルの破泡が生じやすく好ましくなく、一方、樹脂Aの溶融張力が30gを超えると、樹脂Aの発泡時に充分なセルの成長が行われず好ましくない。
【0012】
さらに、樹脂Aは、230℃におけるメルトフローレート(MFR)が5〜30であることが好ましく、より好ましくはMFRが5〜20である。そして、本発明では、かかるMFRと、上記の230℃における溶融張力(MT)との関係が、下記の式(1)を満たすことが必要である。ここでMFRは、ASTM−D1238に準じる方法により求められる。
Log(MT)>−1.33Log(MFR)+1.2 (1)
【0013】
前記樹脂Aが、上記したMTとMFRとの関係において、上記式(1)を満たさない場合には、MTの増大に対し、樹脂の溶融流動性が乏しくなりすぎて、樹脂Aの押出時に非常に樹脂圧力が上昇するなどの不都合が生じる場合や、樹脂Aの発泡時にセル膜の充分な伸びが得られず、高倍率の発泡体を得ることが難しい場合があり好ましくない。なかでも、上記式(1)における左辺の値が右辺の値よりも好ましくは0.5〜3大きく、特に好ましくは0.5〜2大きい場合が特に良好である。
【0014】
本発明において、樹脂Aは、直鎖状の重合体であることが必要である。直鎖状とは、樹脂Aを構成しているプロピレン系ポリマー(プロピレン系重合体)の分子鎖の個々が、プロピレン系ポリマー(プロピレン重合体)の構成単位であるプロピレン単量体およびそれと共重合可能なα−オレフィン単量体とが、相互に1個ずつ実質上1本の紐状に重合した重合物の集合体であることをいう。この直鎖状の重合体は、化学架橋や電子線架橋などの方法を利用した架橋構造や、長鎖分岐などのグラフト構造を有していないため、製造や品質の管理が比較的容易で、リサイクル時に施される再ペレット化などの工程で受ける再三の熱履歴に対しても、その分子構造の劣化が生じにくいため好適に使用される。
【0015】
本発明における樹脂には、前記樹脂A以外の樹脂、例えば、ポリプロピレン系樹脂(以下「樹脂B」という場合がある)をブレンドすることも可能である。樹脂Bとしては、例えば、プロピレンの単独重合体、プロピレンと該プロピレンと共重合可能なプロピレン以外のα−オレフィンとのプロピレンを主体とする共重合体、ポリプロピレン系樹脂と例えばポリエチレン系樹脂のようなポリプロピレン系樹脂以外のポリオレフィン系樹脂との混合物などが挙げられる。これらのポリオレフィン系樹脂は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0016】
上記樹脂Bとしては、なかでも、押出発泡性や、得られる発泡体の性能が優れることから、比較的分子量の大きなプロピレン単独重合体や、プロピレンとエチレンとのプロピレンを主体とする共重合体や、ポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂との混合樹脂が好ましく用いられる。
【0017】
上記エチレンと共重合可能なエチレン以外のα−オレフィンとしては、特に限定されるものではないが、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテンなどが挙げられる。これらのエチレン以外のα−オレフィンは、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用して用いてもよい。また、上記ポリプロピレンと共重合可能なプロピレン以外のα−オレフィンとしては、特に限定されるものではないが、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテンなどが挙げられる。これらのプロピレン以外のα−オレフィンは、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0018】
本発明の樹脂が樹脂Bを含む場合、該樹脂Bは、前記樹脂Aの100質量部あたり、好ましくは200質量部以下、より好ましくは100質量部以下、特に好ましくは40〜80質量部である。樹脂Bの含有量が200質量部を超える場合には樹脂Bが、樹脂Aの発泡性に及ぼす影響が大きくなり、場合により樹脂Aの発泡性を阻害する可能性が大きく好ましくない。
【0019】
また、樹脂Bとして、ポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂との混合樹脂を用いる場合、特に限定されるものではないが、該混合樹脂中におけるポリプロピレン系樹脂の含有量は、40〜100質量%であることが好ましく、より好ましくは60〜100質量%である。上記混合樹脂中におけるポリプロピレン系樹脂の含有量が40質量%未満であると、得られる発泡体の機械的強度や耐熱性が不充分となることがある。
【0020】
本発明では、二酸化炭素を少なくとも含む発泡剤を用いて樹脂Aを溶融発泡させる。二酸化炭素としては、超臨界状態または超臨界状態ではない液状の二酸化炭素を用いることができる。本発明の製造方法では、発泡剤として超臨界状態の二酸化炭素を用いることが、表面外観、セルの分布および発泡倍率に優れる発泡体が得られるものの、樹脂への分散性が劣るとされている超臨界状態ではない液状の二酸化炭素を用いても、充分な性能を有する発泡体が得られるため、経済性や取扱い性などの観点で好適に採用される。
【0021】
発泡剤の使用量は、後述するタンデム押出法とシングル押出法とによっても異なるが、樹脂(樹脂A単独または樹脂Aと樹脂Bとの混合物)100質量部に対して、二酸化炭素を含む発泡剤を好ましくは3〜20質量部、特に好ましくは4〜10質量部使用する。二酸化炭素の使用量が3質量部未満であると、樹脂の発泡倍率が低下し、また、セル核が減少してセルが肥大化し、得られる発泡体の断熱性能の低下を招き易く、一方、二酸化炭素の使用量が20質量部を超えると、過剰な二酸化炭素による大きな空隙(ボイド)が発泡体中に生じ易く好ましくない。
【0022】
さらに、樹脂に添加できる二酸化炭素の量は、超臨界状態ではない状態に比べて超臨界状態の二酸化炭素の方を多くすることが好ましい。超臨界状態の二酸化炭素を発泡剤とすることは、樹脂の高発泡倍率化に有利だが、樹脂の発泡倍率15〜35倍程度の発泡体製品であれば、本発明の製造方法によって発泡剤として液化二酸化炭素を用いることが可能となる。
【0023】
本発明の発泡体の製造方法は、押出機と、先端に取付けられたダイスとを有する発泡装置を用い、上記特定の物性を有する樹脂Aを含む樹脂と、二酸化炭素を少なくとも含む発泡剤とを混合させ、押出装置における二酸化炭素の導入箇所のシリンダーバレル温度を200〜240℃として、発泡前のシリンダーバレル温度が175〜190℃となるように温度調節した後に、ダイスの開口面積あたりの溶融樹脂の吐出量を、ダイス開口部の直近の樹脂圧力を5〜20MPaとなる吐出量で大気下に放出し押出発泡する。
【0024】
押出装置における二酸化炭素の導入箇所のシリンダーバレル温度が200℃未満であると、十分に樹脂を溶融できなかったり、ダイス開口部の直近の樹脂圧力が高くなりすぎて、溶融樹脂中への二酸化炭素の注入を妨げたり、装置に負荷がかかりすぎたりし、また、溶融樹脂と二酸化炭素の混練の際に、せん断が大きくなりやすく、樹脂が発熱したり分子切断が起こりやすくなったりして、得られる発泡体の外観性や発泡倍率の低下を引き起こすため好ましくなく、一方、上記シリンダーバレル温度が240℃を超えると、ダイス開口部の直近の樹脂圧力が下がりすぎて、発泡に適した樹脂圧力を維持できなくなって、得られる発泡体の発泡倍率が低下したり、樹脂が劣化してしまい好ましくない。
【0025】
また、発泡前のシリンダーバレル温度が175℃未満であると、樹脂が発泡剤により充分発泡せず、得られる発泡体の発泡倍率が低くなり好ましくなく、一方、発泡前のシリンダーバレル温度が190℃を超えると、溶融樹脂の粘度が低下すると考えられ、結果として得られる発泡体の発泡倍率が低くなり、また、発泡体中にボイドが多く発生するため好ましくない。
【0026】
また、押出機における、ダイス開口部の直近の樹脂圧力(圧力損失)は、好ましくは、5〜20MPaとして、溶融樹脂を大気下に放出し、押出し発泡させることが好適である。なかでも、上記圧力損失は、7〜15MPaであることがより好ましく、9〜15MPaであることが最も好ましい。該圧力損失が、5MPa未満であると樹脂中に溶解している二酸化炭素が、押出機内部およびダイス内部で気化しやすくなり、発泡が装置内部で生じ、セルの合泡、過剰な成長、発泡倍率の低下、著しい外観性の低下が生じ好ましくない。一方、圧力損失が、20MPaを超えると、装置に大きな負荷がかかり、発泡におけるセル形成時に、大きなせん断がセルにかかりやすくなり、セルの破泡、セル構造の不均一化が生じ好ましくない。このようなセル構造の不完全さは、発泡体としての充分な熱性能を呈するためには大きな障害となる。
【0027】
本発明の製造方法としては、樹脂の発泡にシングル押出機による1段階押出法を用いることができ、また、樹脂の発泡にタンデム押出機による2段階押出法を用いることができる。本発明では、タンデム押出機を用いることが、表面外観、セルの分布、発泡倍率に優れる発泡体が得られるものの、従来より発泡剤が樹脂へ充分に分散されないとされているシングル押出機を用いても、表面外観、セルの分布、発泡倍率など、充分な性能を有する発泡体が得られるため、経済性や取扱い性などの観点で好適に採用される。
【0028】
押出機における溶融樹脂の吐出量は、1〜1000kg/hrが好適である。なかでも、溶融樹脂の吐出量は、押出機の仕様にもよるが、スクリュー径の比較的小さいタイプにおいては、概ね1〜50kg/hrが好ましく、また、スクリュー径の比較的大きいタイプにおいては、概ね50〜1000kg/hrが好ましい。溶融樹脂の吐出量が多すぎたり、少なすぎたりすると、ダイス部位において発泡に適した圧力損失と、減圧速度を保つことが難しくなり、充分な倍率の発泡体を得ることができなかったり、発泡体内においてセルが破泡してしまったりする。
【0029】
本発明で使用する押出機については、スクリュー直径またはシリンダーバレル直径(D)が好ましくは20〜300mm、スクリューの長さを(L)としたときの(L/D)が好ましくは20〜40の2本のスクリューを直列に組み合わせることを基本として構成されるタンデム押出機が好ましい。タンデム押出機を使用することにより、発泡に適したダイス部位の樹脂圧力損失条件と吐出量とを独立して、各スクリューの回転数で制御でき、前記樹脂の特性が充分に発揮され、優れた特性の発泡体(発泡ボード)が製造できる。
【0030】
但し、発泡装置をタンデム化した場合、1段目の押出機の溶融樹脂の供給量に対する2段目の押出機の溶融樹脂の押出量を最適化する必要があり、1段目の供給量に対する2段目の押出量のバランスが崩れると、発泡挙動を乱したり、得られる発泡体製品が不良となってしまうために、2段目のシリンダーバレル径(D)は、1段目のリンダーバレル径(D)よりも大きいことが好ましく、1.3〜3倍であることがより好ましく、さらにスクリュー回転数は、1段目のスクリュー回転数に比べて2段目のスクリュー回転数を1/4以下とすることが好ましい。
【0031】
一方、シングル押出機を使用する場合は、特に生産条件による発泡挙動の大きな乱れは生じないため、良質な発泡体の長時間にわたる安定生産を行う場合において有利である。
【0032】
押出機において使用されるダイスについてはその形状は問わないが、一つあたりの開口部の圧力損失が上記した5〜20MPaになるように溶融樹脂の吐出量に対する開口部の開口面積、形状、厚みが設計されたものであるのが望ましく、例えば、スリットダイス、または多ホールダイス(マルチストランドダイ)などが挙げられる。このような条件を満たしたダイスを選択することにより、充分な熱性能を呈する発泡体を得ることができる。
【0033】
また、発泡後の成形体の外観性や形状の整えやすさの観点から、多ホールダイスを使用する場合は、押出機におけるダイホールの開口形状は、せん断の少ない円形であることが好ましく、開口部の直径は0.3〜3.0mmが好ましく、0.5〜1.5mmがより好ましい。ダイホールの深さは0.1〜10mmが好ましく、開口部はダイス前面上に複数個備えられていることが好ましい。
【0034】
前記直径が、0.3mm未満であると発泡体を構成するストランド直径が小さすぎ、本発明のように高溶融粘度を有する樹脂を押し出す場合、樹脂がダイホールを通過できず、部分的な詰まりが発生したり、メルトフラクチャーに由来する発泡ストランドの直径の不均一化を引き起こし、発泡体の外観性を損なったり、樹脂がダイホールを通過できず詰まりを生じることで発泡体製品断面に隙間が多くなったり、引き取り時にちぎれやすくなり好ましくなく、一方、前記直径が、3.0mmを超えると、発泡に適した樹脂圧力を維持できず、発泡体中にボイドが生じたり、発泡体の発泡倍率が低下したり、発泡剤の添加量を減らす場合は、セルが肥大化してしまい、得られる発泡体の断熱性能が悪化したり、ストランドの直径が大きすぎることで、発泡体の表面の凹凸が大きくなって、平滑性をだすための発泡体の後成形が困難となり好ましくない。また、開口高さ0.3〜2.0mm、長さ10〜2,000mmのスリット状のダイスなども用いることが可能である。
【0035】
本発明の発泡体の製造方法の具体的例としては、上記樹脂を、例えば、シリンダーバレルの途中に二酸化炭素供給機からの二酸化炭素供給ラインの備えた押出成形機を用いて、上記樹脂を所定温度に加熱し均一に溶融混練した後、所定量の二酸化炭素を供給ラインから供給し、押出成形することにより、発泡体を製造する。
【0036】
このようにして、本発明によって得られる発泡体は、20倍以上の発泡倍率を有し、20倍以上であっても、前記セル径、セル分布係数を有する上に、断熱材としても充分な熱性能を有するため好ましい。また、発泡体を高発泡倍率にすることは、発泡体の比重を小さくし、かつ使用する原材料のコストも小さくできるため好適である。一方、発泡体の発泡倍率は、過度に高すぎる場合は、発泡体の機械的強度が低下し、外的付加などにより発泡体が損傷しやすくなり好ましくない。従って、上記発泡倍率は、好ましくは100倍以下、特には50倍以下である。
【0037】
また、本発明によって得られる発泡体は、平均セル径が200μm以下で、150μm以下であることが好ましく、さらには50〜100μmとすることが可能となり、また、セル径分布係数が30%以下、より好ましくは25%以下で、特には20%以下とすることを可能とする。前記平均セル径が200μm以下、および前記セル径分布係数が30%以下とすることが可能となる。
【0038】
さらに、本発明によって得られる発泡体は、JIS−A1412に準拠して測定される熱伝導率が、20〜42mW/mKとなり、好適な断熱性を有する。さらに、発泡体の熱伝導率は、20〜37mW/mKであることがより好ましい。前記熱伝導率が42mW/mKを超えると、発泡体の断熱性能が劣るばかりでなく、発泡体を断熱建材ボードとして使用する際の好ましい熱性能の評価基準である熱抵抗値0.9以上を得るために、断熱建材ボードの厚みを36mm以上にしなければならないため、これを、例えば、床用断熱材として用いる場合、床の木枠の寸法以上になり、施工の際に不具合を生じる場合があり好ましくない。
【実施例】
【0039】
本発明をさらに詳しく説明するために、以下に実施例および比較例を挙げるが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0040】
実施例1
230℃におけるMFRが3.3(g/10分)であり、230℃における溶融張力が7.6gであるポリプロピレン系樹脂(樹脂A)を、1段目に液化二酸化炭素供給ラインが装着され、2段目先端にダイス1(開口部の直径が0.5mmの8×48列の多ホールダイス)が装着されたタンデム型単軸押出機((株)カワタ製KGT−50−65)に供給した。そして1段目の液化二酸化炭素が供給される箇所のシリンダーバレル温度を230℃に設定して、液化二酸化炭素供給量を1.7kg/時間に設定して、樹脂A100質量部に対して6.8質量部含有するように押出量を1段目の押出機のスクリュー回転数で調整し、ダイス直前のシリンダーバレル温度を182℃として、多段のマルチストランドダイスを用い、ダイス1部位の樹脂圧力が8.2MPaになるように2段目の押出機のスクリュー回転数で調整し、ダイス押出発泡することにより樹脂Aからなるシート状の発泡体を得た。製造条件の詳細を表1に示す(以下の他の実施例および比較例も同様)。
【0041】
実施例2
実施例1の二酸化炭素が、超臨界二酸化炭素((株)カワタ製二酸化炭素−3)である以外は、実施例1と同様の条件でシート状の発泡体を得た。
【0042】
実施例3
ダイスをマルチストランドダイから、1孔のダイスに替えて、液状二酸化炭素の量を変えた以外は、実施例1と同様の条件でロッド状の発泡体を得た。
【0043】
実施例4
実施例1の2段階で押出すタンデム押出機から、1段階で二酸化炭素を供給しダイスに押出をするシングル押出機に替え、液化二酸化炭素供給量を2.3kg/時間に変えた以外は、実施例1と同様の条件でシート状の発泡体を得た。詳細を表1に示す。
【0044】
実施例5
実施例4の二酸化炭素が超臨界二酸化炭素((株)カワタ製二酸化炭素−3)である以外は略実施例1と同様の条件でシート状の発泡体を得た。
【0045】
実施例6
ダイスをマルチストランドダイから、1孔のダイスに替えて、液状二酸化炭素の量を変えた以外は実施例4と同様の条件でロッド状の発泡体を得た。
【0046】
比較例1
樹脂を汎用のポリプロピレン系樹脂(MT2.7gなど)に替えた以外は実施例1と同様の条件でシート状の発泡体を得た。
【0047】
比較例2
液化二酸化炭素が供給される箇所のシリンダーバレル温度を180℃に変えた以外は実施例1と同様の条件でシート状の発泡体を得た。
【0048】
比較例3
液化二酸化炭素が供給される箇所のシリンダーバレル温度を180℃に変えた以外は実施例2と同様の条件でシート状の発泡体を得た。
【0049】
比較例4
ダイス直前のシリンダーバレル温度を170℃に変えた以外は実施例1と同様の条件でシート状の発泡体を得た。
【0050】
比較例5
ダイス直前のシリンダーバレル温度を200℃に変えた以外は実施例1と同様の条件でシート状の発泡体を得た。
【0051】
比較例6
液化二酸化炭素が供給される箇所のシリンダーバレル温度を180℃に変えた以外は実施例4と同様の条件でシート状の発泡体を得た。
【0052】
比較例7
液化二酸化炭素が供給される箇所のシリンダーバレル温度を180℃に変えた以外は実施例5と同様の条件でシート状の発泡体を得た。
【0053】
比較例8
液化二酸化炭素が供給される箇所のシリンダーバレル温度を250℃に変え、ダイス直前のシリンダーバレル温度を215℃に変えた以外は実施例1と同様の条件でシート状の発泡体を得た。
【0054】
比較例9
液化二酸化炭素が供給される箇所のシリンダーバレル温度を210℃に変え、ダイス直前のシリンダーバレル温度を170℃に変えた以外は実施例1と同様の条件でシート状の発泡体を得た。
【0055】
比較例10
液化二酸化炭素が供給される箇所のシリンダーバレル温度を210℃に変え、ダイス直前のシリンダーバレル温度を200℃に変えた以外は実施例1と同様の条件でシート状の発泡体を得た。
【0056】
上記実施例1〜6および比較例1〜10で得られた樹脂発泡体についての物性および性能((a)密度、(b)発泡倍率、(c)平均セル径、(d)セル径分布係数、(e)熱伝導率)を以下の方法で評価した。
(a)密度・・・得られた発泡体を20×20×2.5(cm)の試験小片に裁断し、その重量と各辺の長さを計測し、以下の算式に従って発泡体密度を求めた。
(発泡体密度G/L)=(発泡体重量G)/(発泡体体積L)
【0057】
(b)発泡倍率・・・樹脂の比重と(a)によって得られた密度の測定結果から下記の式にしたがって求めた。
(発泡倍率)=(樹脂の比重)/(発泡体の密度)
(c)平均セル径・・・発泡体を試験小片に裁断し、その断面積を、(株)島津製作所製SEMスーパースキャン220を用いて電子顕微鏡(SEM)で50倍の倍率にして観察される画像から、無作為に実質2mmの長さにあたる直線を10本引き、その直線上のセル個数を数えることにより平均セル径を次の式により算出して求めた。
(平均セル径μm)=(2000×10)/(10本の直線上にあるセル個数)
【0058】
(d)セル径分布係数・・・得られた発泡体を試験小片に裁断し、その断面積を(株)島津製作所SEMスーパースキャン220を用いて50倍の倍率で観察し、およそ10から20個のセルのセル径の平均値、およびセル径の標準偏差を算出した。それらの値を元に、次の算式によりセル径分布係数を求めた。
(セル径分布係数)=(セル径の標準偏差)/(セル径の平均値)
(e)熱伝導率・・・JISA−1412に準拠して、得られた発泡体を20×20×2(cm)の試験小片に裁断し、英弘精機社製の熱伝導率測定装置HC−074を用いて熱伝導率を測定した。
【0059】
(f)溶融張力・・・キャピログラフ1C(東洋精機社製)を用い、測定温度230℃、押出速度10mm/min、引き取り速度3.1m/分によって求めた。なお、測定には、長さが8mm、直径が2.095mmのオリフィスを使用した。
(g)外観・・・・下記2つの評価方法で測定した。(但し、実施例3、6は評価1のみ)
【0060】
評価1:
発泡体の切断面をマイクロウォッチャーにて100倍で観察し、9.32mm×12.45mmの画面中、表面のボイドの数を測定し、5サンプルでの平均を求め、平均値が以下のようになっている場合を○、×、△で評価した。
ボイド数 1個未満:○
3個未満:△
3個以上:×
【0061】
評価2:
発泡体の切断面を同じくマイクロウォッチャーにて100倍でストランド間の隙間について観察し隙間の大きな箇所を測定し、5サンプルでの平均を求め、平均値が以下の場合を○、×、△で評価した。
隙間 0.5mm未満:○
1.0mm未満:△
1.0mm以上:×
【0062】
評価1と2において、いずれの評価も○の場合は外観を○にし、○△または△△の場合は外観を△にし、ひとつでも×がある場合は外観を×とした。
本発明で用いた製造条件、および得られた発泡体の物性および評価を纏めて表1および表2に示す。
【0063】

【0064】

【0065】

【0066】

【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、発泡倍率が高く、発泡セルが均一に分散し、表面外観が良好なポリプロピレン系樹脂の発泡体の製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
230℃における溶融張力が5〜30gであり、230℃におけるメルトフローレート(MFR)と、230℃における溶融張力(MT)との関係が、下記の式(1)を満たす直鎖状のポリプロピレン系樹脂を、押出装置により溶融押出ながら、該溶融樹脂に二酸化炭素を注入して、該溶融樹脂を発泡させる発泡体の製造方法において、押出装置における二酸化炭素の導入箇所のシリンダーバレル温度を200〜240℃として、発泡前のシリンダーバレル温度が175〜190℃となるように温度調節した後に、ダイスの開口面積あたりの上記樹脂の吐出量を、ダイス開口部の直近の樹脂圧力が5〜20MPaとなるようにして、溶融樹脂を大気下に吐出して発泡させることを特徴とするポリプロピレン系樹脂発泡体の製造方法。
Log(MT)>−1.33Log(MFR)+1.2 (1)
【請求項2】
前記押出装置が、1段階での押出装置(シングル押出装置)である請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂発泡体の製造方法。
【請求項3】
前記シングル押出装置のシリンダーバレル径が20〜300mmφで、L/Dが20〜40である請求項2に記載のポリプロピレン系樹脂発泡体の製造方法。
【請求項4】
前記押出装置のシリンダーバレル径が20〜300mmφで、L/Dが20〜40のタンデム押出装置であり、1段目の押出成形装置のシリンダーバレル径に対して2段目の押出成形装置のシリンダーバレル径の方が大きい請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂発泡体の製造方法。
【請求項5】
1段目の押出成形装置のスクリューの回転数に対して、2段目押出成形装置のスクリューの回転数を1/4以下とする請求項4に記載のポリプロピレン系樹脂発泡体の製造方法。
【請求項6】
前記二酸化炭素が、超臨界状態ではない液化二酸化炭素である請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリプロピレン系樹脂発泡体の製造方法。

【公開番号】特開2009−154441(P2009−154441A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−336474(P2007−336474)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000116792)旭ファイバーグラス株式会社 (101)
【Fターム(参考)】