説明

ポリラクチド粉粒体およびそれを含有する組成物

【課題】本発明の目的は、添加剤を均一に分散することができ、マスターパウダーに用いるのに好適なポリラクチドの粉粒体、それを含有する添加剤の分散性に優れた組成物を提供することにある。
【解決手段】本発明は、示差走査熱量計による結晶化エンタルピーが5〜20J/gのポリラクチドからなり、平均粒径が0.1〜4mmの粉粒体およびそれを含有する組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマスターバッチ製造に好適なポリラクチド粉粒体に関する。また本発明は、該ポリラクチド粉粒体と失活剤や高級脂肪族カルボン酸誘導体等の添加剤が均一に分散され、他の樹脂に配合する際の計量安定性が良好な組成物(X)に関する。さらに本発明は、該組成物(X)と熱可塑性樹脂を含有する組成物(Y)に関する。また、本発明は、組成物(Y)をポリラクチドステレオコンプレックスの製造に使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護の目的から、自然環境下で分解される生分解性ポリマーが注目され、世界中で研究されている。生分解性ポリマーとしてはポリヒドロキシブチレート、ポリカプロラクトン、脂肪族ポリエステル、ポリラクチド等がよく知られている。
ポリラクチドは生体由来の原料から得られるラクチドを原料とするため生体安全性が高く環境にやさしい高分子材料である。そしてポリラクチドは、いわゆる汎用ポリマーとして一軸、二軸延伸フィルム、繊維、射出成形品などに加工され、手術用縫合糸、徐放性カプセル、骨折時の補強材料などの医療用途に用いることが検討されている。
しかし、D−またはL−ポリラクチドは透明性が高く、強靭であるが、融点は170℃であるため汎用ポリマーとして利用するには耐熱性が充分ではない場合がある。
【0003】
一方、D−およびL−ポリラクチドを溶液あるいは溶融状態で混合することにより得られるポリラクチドステレオコンプレックスは生分解性、生体適合性を有するとともに、ポリラクチドより高い耐熱性、安定性を有し、より厳しい環境で使用することが期待されている。
ポリラクチドの製造に関しては、乳酸の直接溶融重合法、固相重合法、ラクチド類の溶融開環重合法などがよく知られている。なかでもラクチドを金属触媒の存在下、溶融開環重合する方法は、製造プロセスが単純で、生産効率が高く製造コストを低く抑えられる可能性が大きく、得られるポリラクチドの色調が良好で、不純物含有量が比較的少なく、優れた安定性を有するポリラクチドの有望な製造方法と考えられている。
【0004】
しかし、溶融開環重合されたポリラクチドは、樹脂中に金属触媒が残っていると、成形加工時に樹脂の分解、劣化を引き起こしそのままでは使用に耐えないことはよく知られている。金属触媒のかかる悪影響を除去するため、各種の触媒失活剤の使用が提案されており、その効果は十分満足のゆくものであるが、かかる失活剤の樹脂中への添加方法に関しては、工業的に満足の行く方法はいまだ提案されていない。
すなわち、かかる失活剤は、重合終了時点において、重合槽内に直接添加する方法が一般的に提案されているが、この方法では重合槽が失活剤で汚染され、さらには腐食されるなどの問題が発生する可能性があり工業的に採用可能な方法とは言い難い。
【0005】
あるいは重合後の溶融状態、あるいは一度固化されたポリラクチド中に、押出機を使用して失活剤を添加混練する方法も提案されているが、添加する失活剤量が樹脂量に比較し極めて少なく、安定的、定量的な添加が困難な状況にある。加えて、機器腐食の可能性もまだ十分に解決されていない状況である。
さらに、ポリラクチドおよびポリラクチドステレオコンプレクスは、単独で使用されることは少なく、失活剤のほか、所望の目的に基づき熱安定剤、酸化防止剤、耐候(光)性安定剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤、可塑剤、顔料、染料、充填剤、強化剤、難燃剤等が使用されることがある。これらのうち失活剤、立体障害フェノール化合物等の熱安定剤、高級脂肪族カルボン酸に代表される離型剤は使用されることが多い。
【0006】
かかる添加剤は、ポリラクチド、ポリラクチドステレオコンプレクス本来の優れた物性を損なわない様に、例えば、熱安定剤は、通常、ポリラクチドおよびポリラクチドステレオコンプレクス100重量部に対して1×10−4〜0.1重量部と少ない量で使用されることが多い。また、固体あるいは液体とその状態を異にしている添加剤を併用する場合も多いため、添加剤の供給手段の選択、定量的な供給、均一溶融混合を困難にしている場合が少なくない。更に添加剤が同一種類であっても、目的毎に、多様な濃度で添加しなければならない技術的な課題もしばしばみられる問題である。
【0007】
かかる問題を解決するため、添加剤を濃縮含有するマスターバッチ法が考察されている。即ち添加剤を高濃度に含有するポリラクチドペレットあるいは粉粒体組成物、即ちマスターバッチを前もって作成しておき、かかる組成物を押出し機にて原料ポリラクチドと溶融混練することにより、添加剤の定量供給性の問題、均一分散性および銘柄ごとの添加剤濃度変更の問題に対し解決を図る試みが考案されている。
ペレット化されたマスターバッチを熱可塑性樹脂とともに押出し加工する方法を「マスターペレット法」、ペレット化された組成物を「マスターペレット」、粉粒体形態のマスターバッチを押出し加工する方法を、「マスターパウダー法」、粉粒体組成物を「マスターパウダー」と略称することがある。
マスターペレット法においては添加剤と原料樹脂とを前もって一度、溶融混練、ペレット化しておく必要がある。このため、添加剤が熱可塑性樹脂との混合にさきだって、ポリラクチドの溶融成形温度である180〜250℃あるいはそれ以上の温度を経験するため、樹脂の融解を少なくとも2回経験するので、添加剤の一部が熱劣化変性する可能性が無視できない。
【0008】
他方、各添加剤をポリラクチド粉粒体と適切な混合装置を使用して混合し、各種添加剤を高濃度で含有する粉粒体組成物を作成し使用するマスターパウダー法は、この様な欠点がない好ましい方法と考えられている。
しかしながら、添加剤を高濃度で含有するマスターパウダーは、流動性が悪化、ひどいときはマスターパウダーが添加剤のため凝縮し剤の均一分散が実現できない事態が発生することがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、添加剤を均一に分散することができ、マスターパウダーに用いるのに好適なポリラクチドの粉粒体を提供することにある。また本発明の目的は、該粉粒体中に添加剤が均一に分散され、押出機で混練するときの計量安定性に優れたマスターパウダーとして有用な粉粒体の組成物(X)を提供することにある。さらに本発明の目的は、該組成物(X)および熱可塑性樹脂を含有する組成物(Y)を提供することにある。また本発明の目的は、組成物(Y)をポリラクチドステレオコンプレックスの製造に使用する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、示差走査熱量計による結晶化エンタルピーが5〜20J/gのポリラクチドからなり、平均粒径が0.1〜4mmの粉粒体である。
【0011】
また本発明は、ラクチドを開始剤および金属触媒の存在下で溶融開環重合した後、粉砕する前もしくは粉砕後に、60〜140℃で、0.5〜10時間、熱処理することを特徴とする粉粒体の製造方法である。
【0012】
また本発明は、(i)示差走査熱量計による結晶化エンタルピーが5〜20J/gのポリラクチドからなり、平均粒径が0.1〜5mmの粉粒体100重量部に対し、
(ii)0.01〜5重量部の、リン酸、メタリン酸、亜リン酸、ピロリン酸、イミン化合物、リンオキソ酸、リンオキソ酸エステルおよび下記式(1)
−P(=O)(OH)(OR2−s (1)
(式(1)中、qは0または1、sは1または2、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜20の置換基を有していても良い炭化水素基を表す。)
で表される有機リンオキソ酸化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の失活剤(A成分)を含有する組成物(X)である。
【0013】
さらに本発明は、(i) 示差走査熱量計による結晶化エンタルピーが5〜20J/gのポリラクチドからなり、平均粒径が0.1〜5mmの粉粒体100重量部と、
(ii)0.01〜5重量部の、リン酸、メタリン酸、イミン化合物、リンオキソ酸、リンオキソ酸エステルおよび下記式(1)
−P(=O)(OH)(OR2−s (1)
(式(1)中、qは0または1、sは1または2、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜20の置換基を有していても良い炭化水素基を表す。)
で表される有機リンオキソ酸化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の失活剤(A成分)とを、
相対湿度0〜60%、クリーン度クラス100,000以下の雰囲気下で混合することを特徴とする組成物(X)の製造方法である。
【0014】
また本発明は、該組成物(X)と熱可塑性樹脂とを含有する組成物(Y)である。また本発明は、該組成物(X)と熱可塑性樹脂とを溶融混練することを特徴とする組成物(Y)の製造方法である。
【0015】
さらに本発明は、該組成物(Y)をポリラクチドステレオコンプレックス組成物の製造に使用する方法および該方法で得られたポリラクチドステレオコンプレックス組成物を包含する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の粉粒体は、添加剤を均一に分散させることができる。よってマスターパウダーの原料として優れている。本発明の組成物(X)は、添加剤が均一に分散しているので、マスターパウダーとして好適に用いることができる。また、押出機で混練する時の計量安定性に優れている。本発明の組成物(Y)は、失活剤が均一に分散し、触媒が充分に失活されており、熱安定性に優れる。本発明のポリラクチドステレオコンプレックスは、組成物(Y)から形成されるので、高融点で、熱安定性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
〈粉粒体〉
本発明の粉粒体は、示差走査熱量計による結晶化エンタルピーが5〜20J/gのポリラクチドからなり、平均粒径が0.1〜4mmの粉粒体である。
(ポリラクチド)
ポリラクチドは、下記式で表されるL−乳酸単位またはD−乳酸単位から主としてなる。
【0018】
【化1】

【0019】
ポリラクチドとして、ポリ−L−ラクチド、ポリ−D−ラクチド、ポリ−D/L−ラクチドが挙げられる。
ポリ−L−ラクチドは、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは98モル%以上のL−乳酸単位から構成される。他の単位としては、D−乳酸単位、乳酸以外の単位が挙げられる。D−乳酸単位、乳酸以外の単位は、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下、さらに好ましくは2モル%以下である。
ポリ−D−ラクチドは、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは98モル%以上のD−乳酸単位から構成される。他の単位としては、L−乳酸単位、乳酸以外の単位が挙げられる。L−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位は、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下、さらに好ましくは2モル%以下である。
ポリ−L−ラクチド、ポリ−D−ラクチド中の共重合成分単位として、2個以上のエステル結合形成可能な官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等由来の単位およびこれら種々の構成成分からなる各種ポリエステル、各種ポリエーテル、各種ポリカーボネート等由来の単位が例示される。
【0020】
ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。多価アルコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の脂肪族多価アルコール等あるいはビスフェノールにエチレンオキシドが付加させたものなどの芳香族多価アルコール等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸として、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸等が挙げられる。ラクトンとしては、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。
【0021】
ポリラクチドの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10万〜30万、より好ましくは10万〜25万、さらに好ましくは11万〜20万である。一般に、成形用途に使用されるポリラクチドのMwは10万以上である。分子量はあまりに高すぎると、溶融粘度が高くなり、成形加工が困難となるため30万以下のものが好ましい。ポリラクチドのラクチド含有量は、好ましくは1000重量ppm以下、より好ましくは800重量ppm以下、さらに好ましくは500重量ppm以下である。ポリラクチドのMw/Mnは、好ましくは1.4〜2.4、より好ましくは1.5〜2.2、さらに好ましくは1.6〜2.1である。
【0022】
(結晶化エンタルピー)
ポリラクチドは、示差走査熱量計による結晶化エンタルピーが5〜20J/g、好ましくは7〜17J/gである。結晶化エンタルピーがこの範囲にあると、粉粒体と添加剤とを含有する組成物(X)の流動性を好適に維持することができ、添加剤が均一に分散された粉体状の組成物(X)を得ることができる。結晶化エンタルピーが小さ過ぎると粉粒体が添加剤により変性し粘着性が増加し、不均一な組成物(X)が得られる場合がある。結晶化エンタルピーが大き過ぎると、組成物(X)を、例えばサイドフィード法により熱可塑性樹脂と溶融混練すると得られる組成物(Y)の着色が顕著になることがある。結晶化エンタルピーを5〜20J/gにするには、粉砕前あるいは粉砕後のポリラクチドを60〜140℃で、0.5〜10時間、熱処理すればよい。例えば100℃で0.5〜8時間熱処理すればよい。
【0023】
(平均粒径)
粉粒体の平均粒径は、0.1〜4mm、好ましくは0.20〜3mmである。粉粒体および添加剤を含有する組成物(X)を押出機で熱可塑性樹脂と溶融混練する際、粉粒体の平均粒径が0.1mmより小さいと押出機のスクリューですべり現象を起こし、噛みこみ性が悪くなり押出し効率が低下する。また5mmより大きいと組成物(X)中の添加剤の分散性が劣ることがある。平均粒径0.1〜4mmの粉粒体は、ポリラクチドをジョークラッシャー、ハンマーミル、ボールミル、エッジランナー、インテグレーター、ピンミルなど通常の粉砕機と篩分級を組み合わせることにより、所望の粒径の粉粒体を得ることができる。平均粒径は、粉粒体をASTM篩、7、14、25、35、45、60、100、140、200番を使用し篩い分けし、重量規準で累積粒度分布を求め累積重量が50重量%になるところの粒径である。
【0024】
(比表面積(SSA))
粉粒体の比表面積(SSA)は、好ましくは0.01〜5m/gである。
【0025】
〈粉粒体の製造方法〉
粉粒体は、ラクチドを開始剤および金属触媒の存在下で溶融開環重合した後、粉砕する前もしくは粉砕後に、60〜140℃で、0.5〜10時間、熱処理することにより製造することができる。
【0026】
(ラクチド)
ラクチドは、L−ラクチド、D−ラクチド、D/L−ラクチドおよびメソラクチドからなる群より選択される少なくとも一種である。ラクチドの光学純度は、好ましくは90〜100%、より好ましくは95〜100%である。D/L−ラクチドは、D/L比が0/100〜100/0のものである。
即ちL−ラクチドは、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは98モル%以上のL−ラクチドを含有する。他の成分としては、D−ラクチド、ラクチド以外の成分が挙げられる。D−ラクチド、ラクチド以外の成分は、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下、さらに好ましくは2モル%以下である。
またD−ラクチドは、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは98モル%以上のD−ラクチドを含有する。他の成分としては、L−ラクチド、ラクチド以外の成分が挙げられる。L−ラクチド、ラクチド以外の成分は、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下、さらに好ましくは2モル%以下である。
ラクチド以外の成分として、2個以上のエステル結合形成可能な官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等由来の単位およびこれら種々の構成成分からなる各種ポリエステル、各種ポリエーテル、各種ポリカーボネート等由来の単位が例示される。
【0027】
ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。多価アルコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の脂肪族多価アルコール等あるいはビスフェノールにエチレンオキシドが付加させたものなどの芳香族多価アルコール等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸として、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸等が挙げられる。ラクトンとしては、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。
かかるラクチドには不純物として、通常、水分および酸成分が含有されるが、ラクチドの酸価は低い方が好ましい。ラクチドの酸価は、好ましくは5〜20eq/ton、より好ましくは5〜9eq/ton、さらに好ましくは3〜8eq/tonである。水分はラクチドの開環分解を引き起こすので好ましくない。ラクチド中の水分は、好ましくは0.5重量%以下、より好ましくは0.1重量%以下である。
【0028】
(開始剤)
開始剤は、下記の式(2)、式(3)および式(4)で表されるアルコールからなる群より選ばれる少なくとも一種が好ましい。
−OH (2)
式(2)中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基を表す。脂肪族炭化水素基として、炭素数1〜20のアルキル基が挙げられる。式(2)で表される一価アルコールとして、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、ペンチルアルコール、n−ヘキシルアルコール、シクロヘキシルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、n−デシルアルコール、n−ドデシルアルコール、ヘキサデシルアルコール、ラウリルアルコール、エチルラクテート、ヘキシルラクテートなどが例示される。
−(OH) (3)
式(3)中、Rは、炭素数2〜20のn価の炭化水素基を、nは2〜5の整数を表す。
炭化水素基として、炭素数2〜20のアルカン−ジイル基、アルカン−トリイル基、アルカン−テトライル基などが挙げられる。式(3)で表される多価アルコールとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどが例示される。
HO−(R−O)−H (4)
式(4)中Rは、炭素数2〜5のアルキレン基、mは2〜100の整数を表す。式(4)で表されるポリアルキレングリコールとして、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、その他フェノール類のエチレンオキシド付加体、ビスフェノールのエチレングリコール付加体などが例示される。
【0029】
反応性、ポリラクチド物性の点から、ステアリルアルコール、ラウリルアルコール、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが好ましいものとして例示される。
開始剤の使用量は、ラクチド1kg当たり、好ましくは0.008〜0.04モル、より好ましくは0.009〜0.035モル、さらに好ましくは0.01〜0.03モルである。
開始剤は、十分乾燥低減したものが好ましく使用される。開始剤の水分率は、好ましくは100ppm以下、より好ましくは50ppm、さらに好ましくは10ppm以下である。
【0030】
(金属触媒)
金属触媒として、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類、遷移金属類、アルミニウム、ゲルマニウム、スズ、アンチモンなどの脂肪酸塩、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、アルコラート等が挙げられる。
金属触媒は、好ましくは、スズ、アルミニウム、亜鉛、カルシウム、チタン、ゲルマニウム、マンガン、マグネシウム、稀土類元素の脂肪酸塩、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、アルコラート等が例示される。
例えば、スズ化合物として、塩化第一スズ、臭化第一スズ、ヨウ化第一スズ、硫酸第一スズ、酸化第二スズ、ミリスチン酸スズ、オクチル酸スズ、ステアリン酸スズ、テトラフェニルスズ、スズメトキシド、スズエトキシド、スズブトキシド等が挙げられる。
アルミニウム化合物として、酸化アルミニウム、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウム−イミン錯体等が挙げられる。
チタン化合物として、四塩化チタン、チタン酸エチル、チタン酸ブチル、チタン酸グリコール、チタンテトラブトキシド化合物が挙げられる。
【0031】
また、塩化亜鉛、酸化亜鉛、ジエチル亜鉛、三酸化アンチモン、三臭化アンチモン、酢酸アンチモン、酸化カルシウム、酸化ゲルマニウム、酸化マンガン、炭酸マンガン、酢酸マンガン、酸化マグネシウム、イットリウムアルコキシドなどが例示される。
触媒活性、副反応の少なさを考えると、スズ含有触媒、アルミニウム含有触媒、チタン含有触媒が好ましい。
特に、塩化第一スズ、臭化第一スズ、ヨウ化第一スズ、硫酸第一スズ、酸化第二スズ、ミリスチン酸スズ、オクチル酸スズ、ステアリン酸スズ、テトラフェニルスズなどのスズ含有化合物およびアルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムブトシキド、アルミニウムーイミン錯体などのアルミニウム含有化合物が挙げられる。
なかでも、スズの炭素数1〜22個の脂肪族アルコキシド、炭素数2〜22の脂肪酸塩および塩化スズが好ましい。よって、ジエトキシスズ、ジノニルオキシスズ、ミリスチン酸スズ、オクチル酸スズ、ステアリン酸スズ、塩化スズ、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムイソプロポキシドなどが好ましい。
【0032】
触媒の使用量は、ラクチド1kg当たり、好ましくは0.42×10−4〜100×10−4モル、より好ましくは0.8×10−4〜42.1×10−4モル、さらに好ましくは1.1×10−4〜16.8×10−4モルである。
従って、ラクチド1kgに対して、開始剤を0.008〜0.04モル、金属触媒を金属元素に換算して0.42×10−4〜100×10−4モル用いることが好ましい。
金属触媒は、十分乾燥低減したものが好ましく使用される。水分率は100ppm以下、好ましくは50ppm、さらに好ましくは10ppm以下に乾燥したものが使用される。
【0033】
(溶融開環重合)
溶融開環重合は、原料ラクチドの揮散を防ぐため不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。内圧は、好ましくは17.33〜506.6kPa、より好ましくは111.5〜202.7kPaである。重合温度は、好ましくは180〜230℃、より好ましくは185〜220℃である。複数の重合槽を使用する場合、下流側の重合槽の内温は上流側で使用される重合槽の内温より低くない方が好ましい。重合時間は、好ましくは0.1〜10時間、より好ましくは0.3〜8時間、さらに好ましくは0.5〜4時間である。重合は、反応温度を比較的低温度に保ちラクチドの副反応を抑えつつ反応させることが好ましい。
【0034】
(粉砕)
平均粒径0.1〜4mmの粉粒体は、ポリラクチドをジョークラッシャー、ハンマーミル、ボールミル、エッジランナー、インテグレーター、ピンミルなど通常の粉砕機と篩分級を組み合わせることにより得ることができる。
【0035】
(熱処理)
結晶化エンタルピーを5〜20J/gにするには、粉砕前あるいは粉砕後のポリラクチドを60〜140℃で、0.5〜10時間、熱処理すればよい。好ましくは80〜1300℃で、0.2〜10時間、熱処理すればよい。例えば100℃で0.5〜8時間熱処理すればよい。
【0036】
〈組成物(X)〉
組成物(X)は、100重量部の粉粒体に対し、0.01〜5重量部、好ましくは0.02〜3重量部、より好ましくは0.04〜2重量部の失活剤(A成分)を含有する。
【0037】
(A成分)
失活剤(A成分)は、リン酸、メタリン酸、亜リン酸、ピロリン酸、イミン化合物、リンオキソ酸、リンオキソ酸エステルおよび下記式(1)
−P(=O)(OH)(OR2−s (1)
で表される有機リンオキソ酸化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種である。
式(1)中、qは0または1、sは1または2、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜20の置換基を有していても良い炭化水素基を表す。炭化水素基として、炭素数1〜20のアルキル基が挙げられる。これらの失活剤は単独で使用しても良いし、複数併用してもよい。
失活剤の含有量は、金属触媒の金属元素1当量あたり好ましくは0.3〜20当量、より好ましくは0.5〜10当量である。
失活剤として、好ましくは、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、トリメタリン酸、テトラメタリン酸、フェニルホスホン酸、ベンジルホスフィン酸、リン酸ジブチル、リン酸ジノニル、N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミン、N、N’−ビス(サリチリデン)プロパンジアミンが例示され、なかでもリン酸、亜リン酸、ピロリン酸が特に好ましい。これらの失活剤は単独で使用しても良いし場合によっては、複数併用使用することもできる。
【0038】
イミン化合物は、その構造中にイミノ基を有し、且つ金属触媒に配位し得るフェノー四座のキレート配位子である。イミン化合物は従来の触媒失活剤の様なブレンステッド酸や塩基ではないため、ポリラクチドの耐加水分解性を悪化させることなく熱安定性を向上させることが可能である。かかるイミン化合物としてはN、N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミン、N、N’−ビス(サリチリデン)プロパンジアミン、N、N−ビス(サリチリデン)−cis−シクロヘキサンジアミン、N、N’−ビス(サリチリデン)−trans−シクロヘキサンジアミン、N、N’−ビス(サリチリデン)−o−フェニレンジアミン、N、N’−ビス(サリチリデン)−m−フェニレンジアミン、N、N’−ビス(サリチリデン)−p−フェニレンジアミン、N、N’−ビス(2−シアノベンジリデン)エチレンジアミン、N、N’−ビス(2−シアノベンジリデン)プロパンジアミン、N、N’−ビス(2−シアノベンジリデン)−cis−シクロヘキサンジアミン、N、N’−ビス(2−シアノベンジリデン)−trans−シクロヘキサンジアミNN’−ビス(2−シアノベンジリデン)−o−フェニレンジアミン、N、N’−ビス(2−シアノベンジリデン)−m−フェニレンジアミン、N、N’−ビス(2−シアノベンジリデン)−p−フェニレンジアミン、N−メチルイミノメチルフェノール、N−エチルイミノメチルフェノール、N−イソプロピルイミノメチルフェノール、N−t−ブチルイミノメチルフェノール等が挙げられる。特に好ましくはN、N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミン、N、N’−ビス(サリチリデン)プロパンジアミンである。
【0039】
リンオキソ酸としては、たとえばジヒドリドオキソリン(I)酸、ジヒドリドテトラオキソ二リン(II,II)酸、ヒドリドトリオキソリン(III)酸、ジヒドリドペンタオキソ二リン(III)酸、ヒドリドペンタオキソ二(II,IV)酸、ドデカオキソ六リン(III)III、ヒドリドオクタオキソ三リン(III,IV,IV)酸、オクタオキソ三リン(IV,III,IV)酸、ヒドリドヘキサオキソ二リン(III,V)酸、ヘキサオキソ二リン(IV)酸、デカオキソ四リン(IV)酸、ヘンデカオキソ四リン(IV)酸、エネアオキソ三リン(V,IV,IV)酸等の酸価数5以下の低酸化数リン酸が挙げられる。
【0040】
また、式 xHO.yPで表され、x/y=3のオルトリン酸、2>x/y>1であり、縮合度より二リン酸、三リン酸、四リン酸、五リン酸等と称せられるポリリン酸およびこれらの混合物、x/y=1で表されるメタリン酸、なかでもトリメタリン酸、テトラメタリン酸、およびガラス状リン酸または氷状リン酸とともよばれる直鎖状ポリリン酸と環状メタリン酸の混合物、1>x/y>0で表され、五酸化リン構造の一部を残した網目構造を有するウルトラリン酸、およびこれらの酸の一価、多価のアルコール類、あるいはポリアルキレングリコール類の部分エステル、完全エスエテルが例示される。触媒失活能から酸あるいは酸性エステル類が好適に使用される。
【0041】
リンオキソ酸のエステルを形成するアルコール類に関しては特に制限はないが、一価アルコールとしては炭素数1〜22で、置換基を有していてもよい式(5)で表されるアルコールが好ましい。
【0042】
Y−OH (5)
式(5)中、Yは炭素数1〜22で、置換基を有していても良い炭化水素基を表す。Yは好ましくは炭素数1〜22のアルキル基である。一価アルコールとして、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、デカノール、ドデカノール、ベンジルアルコール、シクロヘキシルアルコール、ヘキシルアルコール、フェノール、ヘキサデシルアルコールなどが挙げられる。
多価アルコールとして、炭素数2〜22で、置換基を有していても良い式(6)で表される多価アルコール、糖アルコールなどが挙げられる。
【0043】
X(−OH) (6)
式(6)中、Xは炭素数2〜22で、置換基を有していても良い炭化水素基、aは2から6の整数を表す。Xは、好ましくはアルカン−ジイル基、アルカン−トリイル基、アルカン−テトライル基である。多価アルコールとして、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、myo−イノシトール、D−,L−イノシトール、scyllo−イノシトールなどノイノシトール類、シクリトールなどが挙げられる。
【0044】
(B成分)
脂肪族カルボンエステルは、離型剤として使用されるものであり具体的には、炭素数10〜25の脂肪族カルボン酸と炭素数2〜10の脂肪族多価アルコールのエステルが好ましい。
脂肪族カルボン酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、イソデカン酸、イソトリデカン酸、イソミリスチン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸、イソアラキン酸、イソヘキサコ酸、オレイン酸、リノール酸、5,8,11,14−エイコサテトラエン酸、4,7,10,13,16,19−ドコサヘキサエン酸などが例示される。
【0045】
また、脂肪族多価アルコールとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、グリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、1,4−ブテンジオール、ソルビトール、ソルビタン、ショ糖などが例示される。
脂肪族カルボンエステルは、好ましくはHLB値が3〜7で融点が25〜100℃、より好ましくはHLB値が3〜6で融点が40〜90℃である。この条件を具備する脂肪族カルボンエステルは、取り扱い性が容易であり、離型性が良好であり、成形金型の汚染が少なく好ましい。HLB値とは、たとえば[界面活性剤;(講談社)著;北原文男ほか3名;p24]に記載されるよう、Hydrophile−Lipophile Balanceの略であり、親水、疎水バランスをあらわすパラメーターである。
【0046】
かかるバランスを満足するエステルとしては、具体的には、エチレングリコールモノイソパルミテート、プロピレングリコールジオレート、1,4−ブテンジオールジイソステアレート、1,4−ブテンジオールモノステアレート、グリセロールモノラウレート、グリセロールモノミリステート、グリセロールモノステアレート、グリセロールモノベヘネート、グリセロールモノイソミリステート、グリセロールモノイソステアレート、グリセロールモノオレート、グリセロールモノリノレート、グリセロールジパルミテート、グリセロールジステアレート、グリセロールジイソステアレート、グリセロールジオレート、グリセロールステアレートイソパルミテート、グリセロールトリミリステート、グリセロールトリステアレート、グリセロールトリベヘネート、グリセロールトリイソステアレート、トリメチロールプロパンモノステアレート、トリメチロールプロパンモノベヘネート、トリメチロールプロパンモノオレート、トリメチロールプロパンジパルミテート、トリメチロールプロパンジイソステアレート、トリメチロールプロパントリステアレート、トリメチロールプロパントリオレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールジイソパルミテート、ペンタエリスリトールトリオレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトライソパルミテート、ペンタエリスリトールジオレートジステアレート、その他ソルビタンモノステアレート、ショ糖ジイソステアレート等が例示される。これら脂肪族カルボン酸エステル(B成分)は、単独で用いても良いし組み合わせて用いてもよい。
脂肪族カルボン酸エステルの使用量は、組成物(X)内での分散性に大きな影響を有するため、粉粒体100重量部に対して0.5〜10重量部、好ましくは0.7〜9重量部、より好ましくは1〜8重量部である。
【0047】
(C成分)
立体障害フェノール化合物(C成分)は酸化防止剤として使用されるものである。立体障害フェノール化合物としてはフェノール性水酸基のオルソ位の少なくとも一方が第3級炭素原子で置換されたものが好ましい。
【0048】
これらの立体障害フェノール化合物としては、n−オクタデシル−3−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、テトラキス{メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}メタン、トリエチレングリコール−ビス{3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}、1,6−ヘキサンジオール−ビス{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}、2,4−ビス(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジンペンタエリスリチル−テトラキス{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}、2,2−チオジエチレンビス{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}、2,2−チオビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルフォスフォネートジエチルエステル、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレートイソオクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,5,7,8−テトラメチル−2−(4’,8’,12’−トリメチルトリデシル)クロマン−6−オール、N,N’−ビス{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルヒドラジン}等が挙げられる。これらのC成分は単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。
【0049】
C成分の使用量は、組成物(X)中の分散性に大きな影響を有するため、粉粒体100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.2〜9重量部、さらに好ましくは0.5〜8重量部である。
よって、100重量部の粉粒体に対し、(iii)0.5〜10重量部の脂肪族カルボン酸エステル(B成分)および/または(iv)0.1〜10重量部の立体障害フェノール化合物(C成分)をさらに含有することが好ましい。
組成物(X)は、添加剤の分散性に優れる。組成物(X)から10個の試料を採取し、それらの標準偏差σを理論含有量で除した値が0〜10の範囲にあることが好ましい。
【0050】
〈組成物(X)の製造方法〉
A成分、B成分、C成分は、それぞれ単独に粉粒体と混合してもよいが、幾つかの成分を溶融均一化した均一混合物を添加するほうが分散性の観点より好ましい。
これらの添加剤と粉粒体とを混合は、混合機、例えばタンブラー、V型ブレンダー、ナウタミキサー、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、ターンブルミキサー、リボンブレンダーなどにより行うことができる。
混合は、バッチ方式によりあるいは連続方式によって効果的に実施することができる。混合時、粉粒体の温度は10〜100℃の範囲に制御しておくことが好ましい。さらに好ましくは20〜70℃、さらに好ましくは20〜50℃の範囲に制御することが添加剤の組成物(X)内での均一分散に好ましい。温度が上昇しすぎると組成物(X)が凝集、不均一化する問題が発生しやすい。さらに混合翼と器壁との摩擦熱が発生し、添加剤が変性する危険性も指摘される。したがって、組成物(X)の温度はできるだけ低いほうが好ましく発熱の危険性のある場合は適宜水冷など冷却手段を採用し温度の上昇を抑制する必要がある。
【0051】
組成物(X)の混合時間、攪拌速度は添加剤の分散性が良好領域に達したかどうか適宜サンプリング、分散性を評価しつつ行うのが好ましい。通常5分〜60分程度混合することにより均一分散可能である。
粉粒体に対し添加剤の量が1重量%以下になる場合、組成物(X)での添加の分布の均一性を向上させるため適当な不活性溶媒を適用するのが好ましい。かかる不活性溶媒は組成物(X)の物性に悪影響を与えるものでなければ特に制限されるものではない。かかる溶媒の例としては水、メタノール、エタノールなど低級アルコール、その他アセトンあるはこれらの混合物を使用することができる。
【0052】
かかる混合を行う雰囲気は、添加剤が吸湿性の高いものを含有している場合、相対湿度を低く抑えておくことが好ましい。即ち、相対湿度は、好ましくは0〜60%、より好ましくは0〜45%、さらに好ましくは0〜30%、特に好ましくは0〜20%である。さらに湿度がバッチ製造中、あるいはバッチ間で変動しないことも重用な条件である。
また添加剤が酸化されやすい場合は、雰囲気が外界と遮断され、チッソなどの不活性ガス雰囲気下で行うことも好ましい。
よって、組成物(X)は、(i)粉粒体100重量部と、(ii)0.01〜5重量部の失活剤(A成分)とを、相対湿度0〜60%、クリーン度クラス100,000以下の雰囲気下で混合することにより製造することができる。
【0053】
かかる組成物(X)は、熱可塑性樹脂と混合され、光学樹脂用途に使用されることもあり、異物の混入をできるだけ抑える必要がある。混練装置内に供給される雰囲気ガス、混練操作を行う雰囲気がクリーンをクリーンな状態に保持しておくことは必要条件である。
かかる雰囲気ガス、雰囲気空気はフィルターにより異物を濾過されており、クラス10万以下、好ましくはクラス1万以下、さらに好ましくはクラス1000以下のクリーン度を有することが好ましい。
【0054】
〈組成物(Y)〉
組成物(Y)は、組成物(X)と熱可塑性樹脂とを含有する。組成物(Y)は、組成物(X)と熱可塑性樹脂とを溶融混練することにより得られる。
100重量部の熱可塑性樹脂に対し、組成物(X)の量は、好ましくは1〜50重量部、より好ましくは5〜30重量部である。
組成物(X)と熱可塑性樹脂との溶融混練は、熱可塑性樹脂が重合後、溶融状態にあるとき押出機にて混練することが、色相の低下、分子量(Mw)の低下などの好ましくない副反応を低い水準に抑えられる点で好ましい。しかし、固化された熱可塑性樹脂を押出機で再溶解して混練することもできる。
【0055】
熱可塑性樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、非晶性ポリアリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリメタクリレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、およびポリラクチド等の樹脂が挙げられる。
【0056】
熱可塑性樹脂は、ラクチドを開始剤および金属触媒の存在下、溶融開環重合したポリラクチド(2)であることが好ましい。ラクチドの光学純度は、90〜100%であることが好ましい。この場合、ポリラクチド(2)中の金属触媒中の金属元素1当量あたり、組成物(X)中の失活剤の量が、好ましくは0.3〜20当量、より好ましくは0.5〜10当量になるようにすることが好ましい。
【0057】
(その他の成分)
組成物(X)および組成物(Y)には、所望により本発明の目的に反しない範囲でA〜C成分の他、公知の各種添加剤が添加されていても良い。これらは例えば、可塑剤、安定剤、酸化防止剤、耐候(光)性安定剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤、可塑剤、顔料、染料、充填剤、強化剤、難燃剤等が挙げられる。また組成物(X)および組成物(Y)には、本発明の目的を損なわない範囲で他の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、軟質熱可塑性樹脂等をさらに添加してもよい。
離型剤として、前述した脂肪族カルボン酸エステル(B成分)の他、炭化水素系離型剤、脂肪酸系離型剤、脂肪酸アミド系離型剤、アルコール系離型剤等が挙げられる。
【0058】
炭化水素系離型剤として、天然、合成パラフィンワックス類、ポリエチレンワックス、フルオロカーボン類等が挙げられる。脂肪酸系離型剤として、ステアリン酸等の高級脂肪酸、ヒドロキシステアリン酸等のオキシ脂肪酸等が挙げられる。脂肪酸アミド系離型剤としてはエチレンビスステアリルアミドなどの脂肪酸アミド、エルカ酸アミド等のアルキレン脂肪酸アミド類が挙げられる。アルコール系離型剤としてはステアリルアルコール、セチルアルコールなどの脂肪族アルコール、多価アルコールとしてポリグリコール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン類などを挙げられる。その他ポリシロキサン類も使用可能である。これらは単独で用いても良いし、2種以上を混合して使用しても良い。
【0059】
立体障害フェノール化合物(C成分)以外の安定剤として、チオエーテル系安定剤としてたとえばジラウリルチオプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス−(β−ラウリルチオプロピオネート)などを挙げることができる。
【0060】
耐候(光)性安定剤として2−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−{2−ヒドロキシ−3−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミドメチル)フェニル}ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系化合物、2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物、2,4−ジ−t−ブチルフェニル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート等のベンゾエート系化合物、2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート等のシアノアクリレート系化合物、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバカート、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールの琥珀酸ポリマー等のヒンダードアミン化合物等が例示される。
【0061】
組成物(X)および組成物(Y)には、所望により公知の難燃剤を併用してもよい。難燃剤として、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル、リン酸トリブトキシエチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレジル、リン酸クレジルフェニル、リン酸オクチルジフェニル、リン酸ジイソプロペニルフェニル、トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、ビス(2,3−ジブロモプロピル)−2,3−ジクロロプロピルホスフェート、トリス(2,3−ジブロモプロピル)ホスフェート等のリン酸エステル系化合物が挙げられる。また所望により、ドリップ防止剤として、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン)(登録商標)などを配合しても良い。
組成物(X)および組成物(Y)においては、所望により有機あるいは無機の、染料、顔料等の着色剤を使用してもよい。
【0062】
無機系着色剤として、二酸化チタンなどの酸化物、アルミナホワイトなどの水酸化物、硫化亜鉛などの硫化物、紺青などのフェロシアン化物、ジンククロメートなどのクロム酸塩、硫酸バリウムなどの硫酸塩、炭酸カルシウムなどの炭酸塩、群青などの珪酸塩、マンガンバイオレットなどのリン酸塩、カーボンブラックなどの炭素、ブロンズ粉やアルミニウム粉などの金属着色剤などが挙げられる。
有機系着色剤としては、ナフトールグリーンBなどのニトロソ系、ナフトールイエローSなどのニトロ系、ナフトールレッド、クロモフタルイエローどのアゾ系、フタロシアニンブルーやファストスカイブルーなどのフタロシアニン系、インダントロンブルー等の縮合多環系着色剤などが挙げられる。
【0063】
組成物(X)および組成物(Y)には所望により各種フィラーを含有させることができる。フィラーは有機フィラー、無機フィラーが好ましく使用することができる。
無機フィラーとしては、ガラス繊維、グラファイト繊維、炭素繊維、金属繊維、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、マグネシウム系ウイスカー、珪素系ウイスカー、ワラストナイト、セピオライト、ゾノライト、エレスタダイト、石膏繊維、シリカ繊維、シリカアルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化珪素繊維、ホウ素繊維、ガラスフレーク、非膨潤性雲母、グラファイト、金属箔、タルク、クレイ、マイカ、セリサイト、ベントナイト、カオリン、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸価マグネシウム、ハイドロタルサイト、水酸化マグネシウム、石膏、ドーソナイト等が挙げられる。
有機フィラーとして、天然繊維、パラ型アラミド繊維、ポリアゾール繊維、ポリアリレート、ポリオキシ安息香酸ウイスカー、ポリオキシナフトエ酸ウイスカーおよびセルロースウイスカー等が挙げられる。
【0064】
これらのフィラーは繊維状、板状、または針状のものを用いることができる。これらのフィラーの中で、繊維状の無機フィラーが好ましく、特にガラス繊維が好ましい。フィラーのアスペクト比は5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。特に好ましいものは100以上である。アスペクト比とは繊維状フィラーの場合は繊維長を繊維直径で除した値であり、板状フィラーの場合長周期方向の長さを厚さで除した値である。フィラーの弾性率は50GPa以上であることが好ましい。
フィラーは熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂で被覆または集束処理されていることも好ましい。例えば、アミノシランやエポキシシランなどのカップリング剤などで処理、または各種有機物で処理されていても良い。フィラーは一種で用いても二種以上併用してもかまわない。
【0065】
天然繊維はその単繊維としての強度が好ましくは200MPa以上、さらに好ましくは300MPa以上である。この範囲であれば複合体として十分な力学的物性を発揮でき、さらにフィラーとして混合する量が減るため成形体表面の形状がより良好な結果を生むことができるからである。
天然繊維はその繊維直径が0.1μm〜1mmの範囲、好ましくは1〜500μmの範囲である。またアスペクト比は50以上有することが好ましい。かかる繊維は樹脂との混合が良好に行われ複合化により優れた物性の組成物とすることが可能である。アスペクト比は、より好ましくは100〜500、さらに好ましくは100〜3000である。
天然繊維は、前述の条件を満たすものであれば特にその種類を問わず有効に使用することができる。なかでもケナフ、竹、亜麻、麻、木材パルプ、木綿などの植物繊維を好適に使用することができる。特に廃材から得られる木質パルプや廃紙から得られるパルプ、ケナフを原料とする繊維は環境負荷が低く、再生能力が高いため非常に好ましい。
【0066】
天然繊維はその形態、強度が適切な範囲に保たれる方法であればどのような方法で製造されたものでも好適に使用することができる。たとえば(i)化学パルピングによる繊維化、(ii)バイオパルピングによる繊維化、(iii)爆砕、(iv)機械的解砕等を挙げることができる。
天然繊維はその表面が修飾されていてもよい。天然繊維の表面を修飾することによって樹脂と繊維の界面強度が増大しさらに耐久性がますような場合にはさらにこのましい。その様な修飾の方法としては、(i)化学的に官能基を導入する方法、(ii)機械的に表面を疎化する方法、あるいは(iii)滑化する方法(iv)表面修飾剤を機械的刺激によって反応させる方法などを例示することができる。天然繊維は単繊維であっても、繊維集合体であってもよい。
【0067】
組成物(X)および組成物(Y)中のポリラクチドと天然繊維との重量比は前者/後者=98/2から1/99である。好ましくは前者/後者=85/15から40/60、さらに好ましくは70/30から50/50である。
フィラーを含有する組成物(X)または組成物(Y)は、良好な生分解性と十分な強度を示すとともにポリラクチドおよび天然繊維はともに環境に負荷を与えることはないので、様々な成形品として好適に使用できる。特に強度を必要とする構造部材、建築材料はもちろんのこと建具材料、建設仮設材などに好適である。本発明の生分解性複合体は熱変形温度が好ましくは240℃以下、さらにこのましくは200℃以下、さらに好ましくは170℃以下である。本発明の組成物はシート、マットなどの成形体として種々の用途に使用できる。
【0068】
本発明の組成物(X)または組成物(Y)を用いて、射出成形品、押し出し成形品、真空圧空成形品、ブロー成形品、フィルム、シート、シート不織布、繊維、布、他の材料との複合体、農業用資材、漁業用資材、土木.建築用資材、文具、医療用品またはその他の成形品を従来公知の方法により得ることができる。
〈ポリラクチドステレオコンプレックス〉
D−およびL−ポリラクチドを溶液あるいは溶融状態で混合することによりポリラクチドステレオコンプレックスが得られることは知られている。本発明の組成物(Y)はポリラクチドステレオコンプレックス組成物の製造に用いることができる。また本発明は、得られたポリラクチドステレオコンプレックス組成物を包含する。
【実施例】
【0069】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
1.実施例、比較例で測定した物性は以下の方法で求めた。
【0070】
(1)重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn):
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン標準サンプルとの比較で求めた。GPC測定器は、
検出器:示差屈折計 (株)島津製作所製 RID−6A
ポンプ:(株)島津製作所製 LC−9A
カラム:(株)東ソーTSKgelG3000HXL,TSKgelG4000HXL,TSKgelG5000HXLとTSKguardcokumnHXL−Lを直列に接続、
クロロホルム溶離液を使用した。カラム温度40℃、流速1.0ml/minで流し、濃度1mg/ml(クロロホルム)の資料10μLを注入し測定した。
【0071】
(2)結晶化エンタルピー
DSCを用いて、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/分で測定し、結晶化点(Tc)、融点(Tm)、結晶化エンタルピー(ΔHc)および融解エンタルピー(ΔHm)を求めた。
【0072】
(3)組成物(X)または(Y)中での添加剤(A成分、B成分、C成分)の分散性
A成分(リン系失活剤)の分散性:
組成物(X)または(Y)1kgから1試料当たり1gを採取し、合計10個の試料を採集した。各試料について、ICP−MS分析にて、リン原子含有量を測定、その標準偏差σを求めた。この値を理論含有量Poで除したσ/Poを計算し分散性を評価した。
B成分(高級脂肪酸誘導体)の分散性:
組成物(X)または(Y)1kgから1試料当たり1gを採取し、合計10個の試料を採集した。各試料をクロロホルムに溶解し20℃で高速液体クロマトグラフィーを用いて、高級脂肪酸エステル含有量を定量しその標準偏差σを求めた。この値を理論含有量Hoで除したσ/Hoを計算し分散性を評価した。
C成分(立体障害フェノール化合物)の分散性:
組成物(X)または(Y)1kgから1試料当たり1gを採取し、合計10個の試料を採集した。各試料についてチタン発色法にて立体障害フェノール化合物含有量を測定し、その標準偏差σを求めた。この値を理論含有量Koで除したσ/Koを計算し、分散性を評価した。
分散性が1以下の場合を良、1以上の場合を不良とした。
【0073】
(4)平均粒径
粉砕ポリラクチドをASTM篩、7、14、25、35、45、60、100、140、200番を使用し篩い分けした。重量規準で累積粒度分布を求め累積重量が50重量%になるところの粒径を平均粒径とした。
【0074】
(5)組成物(Y)の熱安定性
100℃で5時間乾燥した組成物(Y)のペレットを窒素雰囲気下、260℃、1時間熱処理しその重量減少を−重量%で表した。
【0075】
(6)計量安定性
第二供給口より組成物(X)の重量を検出しつつ容器を振動、下部供給ルーダーに落下させる機構であり組成物(X)の計量性の良否は落下管途中に粉粒体が付着する程度で判断した。1時間運転後の付着量を目視で判断、付着量が許容範囲のものを「良」、量の多いものを「不良」と判断した。
【0076】
〈実施例1および比較例1〉
(ポリラクチドの製造)
(装置)
重合装置は、仕込槽、第一重合槽、脱揮装置、ペレタイザーからなる。
仕込槽は、真空配管、窒素ガス配管および加熱冷却装置を具備したアンカー翼具備縦型攪拌仕込み溶解槽(容量250L)である。
第一重合槽は、真空配管、窒素ガス配管、触媒/ラクチド溶液添加配管、アルコール開始剤添加配管および冷却装置を具備したらせん翼具備縦型攪拌槽(120L)である。
脱揮装置は、ホッパーによるチップ投入装置、失活剤混合液添加精密ポンプ、3段真空ベントを具備した二軸ルーダーまたは2段真空ベント具備1軸ルーダーである。ルーダーの出口にペレタイザーを配置した。
【0077】
(運転条件)
仕込槽は140℃、窒素ガスで内圧106.39kPaに保持し、表1−1記載のラクチド(L−LD、D−LD、L−LD/D−LD)を60Kg溶解保持するようにした。
仕込槽から第一重合槽へラクチドを移送し、ラクチド30Kgを触媒としてオクチル酸スズ0.45×10−2モルおよび開始剤としステアリルアルコール0.39モルの存在下で180〜210℃にて重合させた。得られたポリマーはペレット化しポリマーチップを得た。
ポリマーチップに、オクチル酸スズのスズ元素に対して1.05倍モルのリン酸を失活剤として添加した。添加後66.7kPaで20分間脱泡し、30mmの3段ベント付3段不活性ガス供給口付2軸押し出し脱揮装置(単位処理ゾーン数3)で、樹脂押し出し速度5kg/時間、温度220℃、回転数100rpmで第一、第二、第三の処理ゾーンにそれぞれ窒素ガス5ノルマルリッター供給し、混練時間6秒、各ベント圧13.33kPa、2kPa、0.67kPaで合計18秒脱揮処理を行った後、チップカッターでペレット化し3種のポリラクチドPL1、PL2、PL3を得た。
PL1のMwは165,000、反応率94%であった。PL2のMwは164,000、PL3のMwは165,000であった。
【0078】
【表1】

【0079】
(粉砕、熱処理)
ポリラクチドペレットPL1、PL2およびPL3をそれぞれウイレークラッシャーで粉砕し篩い分けし粉粒体を得た。得られた粉粒体を、熱風乾燥機を用い80℃で、時間を変えて熱処理し、表1−2記載の平均粒径、結晶化エンタルピーおよび比表面積を有する粉粒体を得た。
【0080】
【表2】

【0081】
〈実施例2および比較例2〉
(組成物(X))
粉粒体100重量部に対し表2記載の種類、量の添加剤を加え、露点−60℃以下、クリーン度−クラス100の乾燥窒素ガス雰囲気下、ヘンシェルミキサーで攪拌速度300rpm、樹脂温度20〜40℃で30分攪拌し組成物(X)MS1−1〜5を調製した。添加剤の分散性の評価結果を表2に示す。添加剤はアセトンで10倍に希釈して添加した。
【0082】
【表3】

【0083】
〈実施例3および比較例3〉
実施例2と同様にして結晶化エンタルピーの異なる粉粒体を使用して表3に記載の成分を含有する組成物(X)を調製しその分散性を評価した。表3から明らかなように、粉粒体の結晶化エンタルピーが所定の範囲を外れると分散性が不良となる。
【0084】
【表4】

【0085】
〈実施例4および比較例4〉
添加剤の種類、濃度を変え実施例2と同様にして組成物(X)を調製した。表4から明らかなように、添加剤濃度が高いと組成物(X)の粘着性が増大し分散が不良となる。また添加剤濃度があまりに少ないと溶媒希釈しても分散性が不良となる。
【0086】
【表5】

【0087】
〈合成例1〉L−PL(2)の製造
(装置)
重合装置は、仕込槽、第一重合槽、脱揮装置およびペレタイザーからなる。
仕込槽は、真空配管、窒素ガス配管および加熱冷却装置を具備したアンカー翼具備縦型攪拌仕込み溶解槽(容量250L)である。
第一重合槽は、真空配管、窒素ガス配管、触媒/ラクチド溶液添加配管、アルコール開始剤添加配管および冷却装置を具備したらせん翼具備縦型攪拌槽(120L)である。
脱揮装置は、ホッパーによるチップ投入装置、失活剤混合液添加精密ポンプ、2段真空ベントを具備した二軸ルーダーまたは2段真空ベント具備1軸ルーダーである。ルーダーの出口にペレタイザーを配置した。
【0088】
(運転条件)
仕込槽は140℃、窒素ガスで内圧111.5kPaに保持した。仕込槽から光学純度99%のL−ラクチド60kg、開始剤としてステアリルアルコール0.44モル、および重合触媒としてオクチル酸スズ9.0×10−3モルを第一重合槽に仕込み、190℃、101.3kPaで1時間重合を行いL−PL(2)を製造した。L−PL(2)のMwは264,000で、ラクチド含有量は6重量%であった。
【0089】
〈合成例2〉D−PL(2)の製造
光学純度99%のD−ラクチドを用いた以外は合成例1と同様にしてD−PL(2)を製造した。D−PL(2)のMwは263,000で、ラクチド含有量は5重量%であった。
【0090】
〈合成例3〉D/L−PL(2)の製造
光学純度99%のD−ラクチド/光学純度99%のL−ラクチド=50/50モル混合物を用いた以外は合成例1と同様にしてD/L−PL(2)を製造した。D/L−PL(2)のMwは264,000で、ラクチド含有量は6重量%であった。
〈実施例5および比較例5〉組成物(Y)の調製
図1に示す押出機を用いて、組成物(X)MS1−1〜18と、ポリラクチド(2)とを混練した。
図1に示す押出機は、第一〜第三の3段の処理ゾーン(13,14,15)、2つの樹脂供給口(4,5)を有し、3段の不活性ガス供給口(7,8,9)を有し、3段真空ベント口(10)を有する同方向回転型の20mmφの2軸押出機である。
【0091】
ポリラクチドはライン(1)を経由し、ギアポンプ(2)で10kg/cmの圧力に昇圧し、32kg/時間の供給量で、供給口(24)から供給した
一方、組成物(X)MS1−1〜18は、サイドフィーダー(6)から供給口(5)を経て、押出機に供給した。
【0092】
押出機は、樹脂温度220℃、回転数100rpm、不活性ガス供給口(7,8,9)にはポリラクチド1kgあたり窒素ガスを20ノルマルリットル供給し、第一処理ゾーンベント圧13.33kPa、第二処理ゾーンベント圧2kPa、第三処理ゾーンベント圧0.67kPa、各ゾーン処理時間3秒合計18秒で脱揮処理を行った後、チップカッターでチップ化した。
得られた組成物(Y)のチップの物性の評価結果を表5に示す。粒径の小さい粉粒体由来の組成物(Y)の分散性は良くないことが分かる。
【0093】
【表6】

【0094】
〈実施例6および比較例6〉
MS1−6〜10を用いる以外は実施例5と同様に組成物(Y)のチップを製造した。得られたチップの物性の評価結果を表6に示す。結晶化エンタルピーの小さい粉粒体由来の組成物(Y)の分散性は良くないことが分かる。
【0095】
【表7】

【0096】
〈実施例7〉
MS1−7と、L−PL(2)、D−PL(2)またはD/L−PL(2)を混練する以外は、実施例5と同様にして組成物(Y)のチップを製造した。得られたチップの物性の評価結果を表7に示す。何れのチップも良好な分散性を示した。
【0097】
【表8】

【0098】
〈実施例8および比較例8〉
MS1−11〜15を用いる以外は実施例5と同様にして組成物(Y)のチップを製造した。得られたチップの物性の評価結果を表8に示す。添加剤の濃度が大きい組成物(X)由来の組成物(Y)の分散性が不良となる。
【0099】
【表9】

【0100】
〈実施例9〉
MS1−16〜18を用いる以外は実施例5と同様にして組成物(Y)のチップを製造した。得られたチップの物性の評価結果を表9に示す。添加剤の種類を変更しても良好な分散性、熱安定性が得られた。
【0101】
【表10】

【0102】
〈実施例10〉ポリラクチドステレオコンプレックスの製造
実施例8−2および9−1で得られた組成物(Y)を等量、フラスコに加え、窒素置換後、260℃まで昇温し、260℃で10分間、溶融ブレンドを行った。得られた樹脂の重量平均分子量は16万でであった。
この樹脂についてDSC測定を行った。その結果、DSCチャートには、融点201℃の融解ピークが観測され、その融解エンタルピーは34J/gであった。140〜180℃の融解ピークは観測されず、200℃以上の融解ピークの割合(R200以上)は100%であった。結晶化点は111℃であった。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の粉粒体を用いて、農業用、漁業用、土木建築用、医療用等の各種成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】実施例で用いたポリラクチド組成物を製造する装置の略図である。
【符号の説明】
【0105】
1 溶融開環重合法の溶融重合器との接続ライン
2 ギアポンプ
3 同方向回転型2軸押出機
4 第一供給口
5 第二供給口
6 サイドフィーダー
7 窒素ガス供給ライン
8 窒素ガス供給ライン
9 窒素ガス供給ライン
10 真空ポンプ
11 冷却バス
12 ストランドカッター
13 第一処理ゾーン
14 第二処理ゾーン
15 第三処理ゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
示差走査熱量計による結晶化エンタルピーが5〜20J/gのポリラクチドからなり、平均粒径が0.1〜4mmの粉粒体。
【請求項2】
ラクチドを開始剤および金属触媒の存在下で溶融開環重合した後、粉砕する前もしくは粉砕後に、60〜140℃で、0.5〜10時間、熱処理することを特徴とする請求項1記載の粉粒体の製造方法。
【請求項3】
ラクチドの光学純度が90〜100%である請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
(i)示差走査熱量計による結晶化エンタルピーが5〜20J/gのポリラクチドからなり、平均粒径が0.1〜5mmの粉粒体100重量部に対し、
(ii)0.01〜5重量部の、リン酸、メタリン酸、亜リン酸、ピロリン酸、イミン化合物、リンオキソ酸、リンオキソ酸エステルおよび下記式(1)
−P(=O)(OH)(OR2−s (1)
(式(1)中、qは0または1、sは1または2、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜20の置換基を有していても良い炭化水素基を表す。)
で表される有機リンオキソ酸化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の失活剤(A成分)を含有する組成物(X)。
【請求項5】
(i)100重量部の粉粒体に対し、さらに
(iii)0.5〜10重量部の脂肪族カルボン酸エステル(B成分)および/または
(iv)0.1〜10重量部の立体障害フェノール化合物(C成分)を含有する請求項4に記載の組成物(X)。
【請求項6】
(i) 示差走査熱量計による結晶化エンタルピーが5〜20J/gのポリラクチドからなり、平均粒径が0.1〜5mmの粉粒体100重量部と、
(ii)0.01〜5重量部の、リン酸、メタリン酸、イミン化合物、リンオキソ酸、リンオキソ酸エステルおよび下記式(1)
−P(=O)(OH)(OR2−s (1)
(式(1)中、qは0または1、sは1または2、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜20の置換基を有していても良い炭化水素基を表す。)
で表される有機リンオキソ酸化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の失活剤(A成分)とを、
相対湿度0〜60%、クリーン度クラス100,000以下の雰囲気下で混合することを特徴とする組成物(X)の製造方法。
【請求項7】
請求項4記載の組成物(X)と熱可塑性樹脂とを含有する組成物(Y)。
【請求項8】
請求項4記載の組成物(X)と熱可塑性樹脂とを溶融混練することを特徴とする組成物(Y)の製造方法。
【請求項9】
熱可塑性樹脂が、ラクチドを開始剤および金属触媒の存在下、溶融開環重合したポリラクチド(2)である請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
ラクチドの光学純度が90〜100%である請求項9記載の製造方法。
【請求項11】
請求項7記載の組成物(Y)をポリラクチドステレオコンプレックス組成物の製造に使用する方法。
【請求項12】
請求項11記載の方法で製造されたポリラクチドステレオコンプレックス組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2008−120878(P2008−120878A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−304153(P2006−304153)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【出願人】(390022301)株式会社武蔵野化学研究所 (63)
【Fターム(参考)】