説明

マイクロミラー素子

【課題】光学的作用を生じさせるレンズ等の光学部品を不要とすることにより、光学系の構成を簡素化し、コストダウンを図ることができるマイクロミラー素子を提供する。
【解決手段】可動板10のベースとなる基板層15の外面側に、中間層16が蒸着により形成され、中間層16の外面側に、ミラー層17が蒸着により形成される。基板層15及びミラー層17とは異なる熱膨張係数の材料から成る中間層16によって、可動板10を凹状又は凸状に変形させて、可動板10のミラー面12を光学的に凸面状又は凹面状に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロミラー素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ファクトリーオートメーション化の進展に伴って、工場内で自律走行し、資材や製品等を搬送する自律搬送装置が普及している。自律搬送装置は、工場内に存在する障害物を検知するための障害物センサを備えている。また、自律搬送装置によって搬送された資材や製品等には、識別のためのバーコードが付加され、これを読み取るためのバーコードリーダが使用されている。上記障害物センサやバーコードリーダには、レーザビームを走査させるためのマイクロミラー素子が用いられている。また、レーザビームプリンタにおいても、同様のマイクロミラー素子が用いられているものも存在する。
【0003】
マイクロミラー素子は、レーザビームを反射するミラー面と、ミラー面が表面に形成される可動板と、ヒンジ部を介して可動板を揺動自在に支持するフレーム等によって構成され、平板状の基板の一部を表面及び裏面からエッチングにて除去することにより形成される。可動板及びフレームには、それぞれ櫛歯電極が対抗して配設され、電極間に生ずる静電気力によって可動板が駆動され、ミラー面によって反射されるレーザビームが走査される。
【0004】
従来のマイクロミラー素子の応用例として、特許文献1には、ガラス等の透明な絶縁性材料から成るカバー基板等によって可動板を封止する技術が知られている。このマイクロミラー素子においては、ミラー面によって反射されたレーザビームがカバー基板を透過する際に屈折し、光の照射方向が変更される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−109651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、マイクロミラー素子は、平板状の基板から形成されるという製造工程上の都合により、通常そのミラー面は平面上に形成される。このような平面状のミラー面を有するマイクロミラー素子を上記障害物センサ等の機器に用いる場合には、光学的作用を生じさせるレンズ等の光学部品との併用が不可欠とされている。従って、機器全体としての光学系が複雑となり、機器のさらなるコストダウンと小型化を図ることが困難とされている。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、光学的作用を生じさせるレンズ等の光学部品を不要とすることにより、光学系の構成を簡素化し、コストダウン等を図ることができるマイクロミラー素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、光を反射するミラー面を有する可動板と、前記可動板を揺動可能に支持するヒンジ部と、前記可動板を揺動駆動する駆動部と、前記ヒンジ部を支持するフレームを備えたマイクロミラー素子において、前記可動板のミラー面は、光学的に凸面状又は凹面状に形成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載のマイクロミラー素子において、前記可動板は、ベースとなる基板層と、前記基板層の外面側に蒸着により形成された中間層と、前記中間層の外面側に蒸着により形成され、前記ミラー面を構成するミラー層とを有し、前記中間層は、前記基板層及びミラー層とは異なる熱膨張係数の材料から成ることを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載のマイクロミラー素子において、前記可動板は、ベースとなる基板層と、前記基板層の外面側に蒸着により形成された中間層と、前記中間層の外面側に蒸着により形成され、前記ミラー面を構成するミラー層とを有し、前記中間層と前記ミラー層とは、異なる温度で蒸着可能な材料から成ることを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のマイクロミラー素子において、前記中間層は二酸化ケイ素を主成分として含み、前記ミラー層はアルミニウムを主成分として含むことを特徴とする。
【0012】
請求項5の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のマイクロミラー素子において、前記中間層はクロム又はチタンを主成分として含み、前記ミラー層は金を主成分として含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、可動板のミラー面が凸面状又は凹面状に形成されているので、レンズ等の光学部品をマイクロミラー素子の後段に設けることなく、凸面状又は凹面状のミラー面によって光学的作用を生じさせることが可能となる。これによりマイクロミラー素子が組み込まれる機器の光学系の構成が簡素化され、コストダウンを図ることができる。
【0014】
請求項2の発明によれば、基板層及びミラー層とは異なる熱膨張係数の材料から成る中間層を蒸着により形成することにより、中間層及びミラー層を蒸着した後冷却される可動板の内面側と外面側において、収縮率を異ならせることができる。従って、基板層、中間層及びミラー層を構成する材料の熱膨張係数に応じて、中間層の厚みを適宜設定することにより、冷却後の可動板の形状を凸面状又は凹面状に変形させることが可能となり、請求項1に記載のマイクロミラー素子を容易に得ることができる。
【0015】
請求項3の発明によれば、ミラー層とは異なる蒸着温度で中間層を形成することにより、中間層及びミラー層を蒸着した後冷却される可動板の内面側と外面側において、収縮率を異ならせることができる。従って、中間層及びミラー層蒸着温度を適宜設定することにより、冷却後の可動板の形状を凸面状又は凹面状に変形させることが可能となり、請求項1又は請求項2に記載のマイクロミラー素子を容易に得ることができる。
【0016】
請求項4の発明によれば、可動板に形成されたミラー面の特性を、幅広い波長のレーザビームに対応させることができる。
【0017】
請求項5の発明によれば、可動板に形成されたミラー面の特性を、特定の波長のレーザビームに対応させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態によるマイクロミラー素子の構成を示す斜視図。
【図2】同マイクロミラー素子の可動板の断面図。
【図3】同マイクロミラー素子の別の可動板の断面図。
【図4】図2に示す可動板にミラー面を形成する要領を示す断面図。
【図5】図3に示す可動板にミラー面を形成する要領を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の第1実施形態による可動構造体を用いたマイクロミラー素子について図面を参照して説明する。図1は、マイクロミラー素子の構成を示している。マイクロミラー素子1は、いわゆるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の一形態であり、可動板10と、ヒンジ部11と、フレーム30と、駆動部40を有している。マイクロミラー素子1は、例えば、3層のSOI(Silicon on Insulator)基板の一部を表面及び裏面からエッチングにて除去することにより形成される。
【0020】
可動板10は、平面視で矩形状に形成され、ヒンジ部11によって、フレーム30に対して揺動可能に支持されている。ヒンジ部11は、図中可動板10の上下両端縁部において、可動板10の中心を貫いて形成され、可動板10を支持すると共に、可動板10が揺動する際に捻りばねとして機能する。可動板10及びフレーム30の図中左右両端縁部には、駆動部40を構成する櫛歯電極40a及び櫛歯電極40bがそれぞれ形成されている。櫛歯電極40aは可動板10の外側に、櫛歯電極40bはフレーム30の内側にそれぞれ突出して形成されている。櫛歯電極40aと櫛歯電極40bとは、互いに対抗して配設され、静電気力によって引きつけ合って、フレーム30に対して可動板10を揺動駆動する。
【0021】
可動板10の表面には、レーザビームを反射するためのアルミニウムや金等のミラー面12が形成されている。使用するレーザビームの波長に応じたミラー面12を可動板10の表面に形成することにより、入射光を反射する。このときフレーム30に対する可動板10の姿勢を制御することにより、入射光を所望の角度で反射させ、レーザビームを走査させる。
【0022】
図2及び図3は、可動板10の断面を示している。図2はミラー面12が凸面状に形成されている可動板10を、図3はミラー面12が凹面状に形成されている可動板10をそれぞれ示している。ここで、凸面状又は凹面状とは、光学的作用を積極的に生じさせる凸面状又は凹面状を意味するものとする。例えば、一辺が1mmの可動板10に対して、端縁部と中央部の高低差が数μm程度の凹凸となる曲面である。
【0023】
可動板10は、ベースとなる基板層15と、ミラー面12を構成するミラー層(金属被膜)17と、基板層15とミラー層17との間に形成されている中間層16とを有している。基板層15は、ケイ素(シリコン)等によって形成されている。中間層16は、二酸化ケイ素を主成分として含み、基板層15の外面側に蒸着により形成されている。ミラー層17は、アルミニウムを主成分として含み、中間層16の外面側に蒸着により形成されている。
【0024】
基板層15、中間層16及びミラー層17は、異なる熱膨張係数の材料から成る(ケイ素、二酸化ケイ素及びアルミニウムの熱膨張係数が異なる)ので、蒸着後の冷却によって可動板の内外面において収縮率が異なり、可動板10が凸面状又は凹面状に変形する。このとき、中間層16及びミラー層17の厚みを変更することにより、可動板10の曲率を調整することができる。また、中間層16とミラー層17の蒸着温度を変更することによっても、可動板10の曲率を調整することができる。
【0025】
図4は、可動板10に図2に示した凸面状のミラー面12が形成される要領を示している。凸面状のミラー面12は、例えば、基板層15に中間層16が厚く形成されることにより実現される。まず、図4(a)に示す基板層15の外面(図中上面)に対して、図4(b)に示すように中間層16が厚く形成される。中間層16は、蒸着時間を長く設定することにより厚く形成される。このときの蒸着温度は、中間層16の材料に依存する。基板層15の外面に中間層16が形成された可動板10は、一旦冷却される。このとき、基板層15と中間層16は異なる熱膨張係数の材料から成るため収縮率が異なることから、可動板10は凸状又は凹状に変形する。本実施形態においては、中間層16を形成する材料に対して基板層15を形成する材料の方が熱膨張係数が大きく、冷却時の収縮率も大きくなる。従って、図4(c)に示すように、可動板10は凸状に変形する。
【0026】
その後、図4(d)に示すように、中間層16の外面(図中上面)に対して、ミラー層17が蒸着により形成される。そして、中間層16の外面にミラー層17が形成された可動板10は、再度冷却される。このとき、ミラー層17の収縮によって、可動板10は凹状に変形しようとするが、図4(c)における変形を戻す程度には至らず、その結果、図4(e)に示すように、可動板10が凸状に変形した状態のまま、その外面には凸面状のミラー面12が形成される。
【0027】
図2及び図4に示した凸面状のミラー面12を有する可動板10は、中間層16及びミラー層17を形成する際の蒸着温度を異ならせることによっても得ることができる。例えば、中間層16及びミラー層17を形成する材料を適宜選択し、中間層16の蒸着温度をミラー層17の蒸着温度よりも高く設定することにより、同様の可動板10を得ることができる。
【0028】
図5は、可動板10に図3に示した凹面状のミラー面12が形成される要領を示している。凹面状のミラー面12は、例えば、基板層15に中間層16が薄く形成されることにより実現される。まず、図5(a)に示す基板層15の外面(図中上面)に対して、図5(b)に示すように中間層16が薄く形成される。中間層16は、蒸着時間を短く設定することにより薄く形成される。このときの蒸着温度は、中間層16の材料に依存する。基板層15の外面に中間層16が形成された可動板10は、図4に示した場合と同様に一旦冷却される。本実施形態においては、このとき図4(c)に示した場合と同様に可動板10は凸状に変形しようとするが、中間層16の厚みが薄いため光学的に有効な程度にまで可動板10が変形するに至らない。
【0029】
その後、図5(d)に示すように、中間層16の外側面(図中上面)に対して、ミラー層17が蒸着により形成される。そして、中間層16の外側面にミラー層17が形成された可動板10は、再度冷却される。このとき、ミラー層17の収縮によって、可動板10は凹状に変形し、図5(e)に示すように、可動板10が凹状に変形し、その外面には凹面状のミラー面12が形成される。
【0030】
図3及び図5に示した凹面状のミラー面12を有する可動板10は、中間層16及びミラー層17を形成する際の蒸着温度を異ならせることによっても得ることができる。例えば、中間層16及びミラー層17を形成する材料を適宜選択し、中間層16の蒸着温度をミラー層17の蒸着温度よりも低く設定することにより、同様の可動板10を得ることができる。
【0031】
以上のように、本実施形態のマイクロミラー素子1によれば、可動板10のミラー面12が凸面状又は凹面状に形成されているので、レンズ等の光学部品をマイクロミラー素子1の後段に設けることなく、凸面状又は凹面状のミラー面12によって光学的作用を生じさせることが可能となる。これによりマイクロミラー素子1が組み込まれる機器の光学系の構成が簡素化され、コストダウンを図ることができる。
【0032】
また、基板層15及びミラー層17とは異なる熱膨張係数の材料から成る中間層16を蒸着により形成することにより、中間層16及びミラー層17を蒸着した後冷却される可動板10の内面側と外面側において、収縮率を異ならせることができる。従って、基板層15、中間層16及びミラー層17を構成する材料の熱膨張係数に応じて、中間層16の厚みを適宜設定することにより、冷却後の可動板10の形状を凸面状又は凹面状に変形させることが可能となり、マイクロミラー素子1を容易に得ることができる。
【0033】
また、ミラー層17とは異なる蒸着温度で中間層16を形成することにより、中間層16及びミラー層17を蒸着した後冷却される可動板10の内面側と外面側において、収縮率を異ならせることができる。従って、中間層16及びミラー層17の蒸着温度を適宜設定することにより、冷却後の可動板10の形状を凸面状又は凹面状に変形させることが可能となり、マイクロミラー素子1を容易に得ることができる。
【0034】
本発明は上記実施形態の構成に限られることなく、少なくとも基板層15とミラー層17との間に、異なる熱膨張係数又は異なる蒸着温度の材料から成る中間層16が形成されていればよい。また、本実施形態は、種々の変更が可能であり、例えば、中間層16及びミラー層17を形成する材料は、上述したものに限られることなく、例えば、中間層16を形成する材料としてクロム又はチタンを主成分として含むもの、ミラー層17を形成する材料として金を主成分として含むものであってもよい。この場合においては、反射するレーザビームの波長等に応じて、ミラー面12の特性を変更することができる。このように、可動板10を多層に形成することにより、設計の自由度を高めることができる。
【符号の説明】
【0035】
1 マイクロミラー素子
10 可動板
11 ヒンジ部
12 ミラー面
15 基板層
16 中間層
17 ミラー層
30 フレーム
40 駆動部
40a、40b 櫛歯電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を反射するミラー面を有する可動板と、前記可動板を揺動可能に支持するヒンジ部と、前記可動板を揺動駆動する駆動部と、前記ヒンジ部を支持するフレームを備えたマイクロミラー素子において、
前記可動板のミラー面は、光学的に凸面状又は凹面状に形成されていることを特徴とするマイクロミラー素子。
【請求項2】
前記可動板は、ベースとなる基板層と、前記基板層の外面側に蒸着により形成された中間層と、前記中間層の外面側に蒸着により形成され、前記ミラー面を構成するミラー層とを有し、
前記中間層は、前記基板層及びミラー層とは異なる熱膨張係数の材料から成ることを特徴とする請求項1に記載のマイクロミラー素子。
【請求項3】
前記可動板は、ベースとなる基板層と、前記基板層の外面側に蒸着により形成された中間層と、前記中間層の外面側に蒸着により形成され、前記ミラー面を構成するミラー層とを有し、
前記中間層と前記ミラー層とは、異なる温度で蒸着可能な材料から成ることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のマイクロミラー素子。
【請求項4】
前記中間層は二酸化ケイ素を主成分として含み、前記ミラー層はアルミニウムを主成分として含むことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のマイクロミラー素子。
【請求項5】
前記中間層はクロム又はチタンを主成分として含み、前記ミラー層は金を主成分として含むことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のマイクロミラー素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−217397(P2010−217397A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62844(P2009−62844)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】