説明

マイクロ流路デバイス

【課題】製造コストのかからないプラスチック製の基板を用いて、耐熱性と耐薬性に優れ、かつ簡単な工程により低コストで製造することができるマイクロ流路デバイスを提供すること。
【解決手段】微量の液体を流すためのマイクロ流路2が凹んで形成されたプラスチック製の基板1に、マイクロ流路2の開放面を塞ぐと共にマイクロ流路2に連通する液体注入口4と液体排出口5とが形成された蓋板3を接合した構成を有するマイクロ流路デバイスにおいて、基板1と蓋板3との接合、及びマイクロ流路2の内面の全部又は一部に対するコーティングが共に、有機バインダーを含有するシリカゾルを主成分とする塗膜6で行われている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、化学反応を微小空間で行わせるために用いられるマイクロ流路デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流路デバイスは一般に、微量の化学薬品や試液等のような液体を流すためのマイクロ流路が凹んで形成された基板にマイクロ流路の開放面を塞ぐための蓋板が接合され、マイクロ流路に連通する液体注入口と液体排出口が蓋板に形成されている。
【0003】
そのような基板はガラス材料で形成すると、耐熱性が高くかつ化学的に安定している長所があるものの、マイクロ流路をエッチング等で形成するための製造コストが高くつき、大量生産してもさほど量産効果があがらない(例えば、特許文献1)。
【0004】
しかし、基板をプラスチック材で形成すれば、マイクロ流路を金型成形することができるので製造コストが低減され、大量生産することにより大きな量産効果が得られる。そこで、マイクロ流路が化学的耐久性を有するように二酸化珪素等をコーティングして、それから基板と蓋板を接着剤等で接合している(例えば、特許文献2)。
【特許文献1】特開2005−139016
【特許文献2】特開2002−139419
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マイクロ流路を形成する凹部は例えば幅が0.1mm程度の極めて細いものであり、そのような凹部のみへのコーティングは厚く形成するのが困難である。具体的には、例えば特許文献2に記載された発明では10nm〜100nm程度のコーティング厚しか得ることができない。そのため、マイクロ流路内での化学反応や高感度測定(例えば、熱レンズ検出装置が用いられた高感度測定)等により熱が発生すると、その熱でプラスチック製の基板が溶解して化学反応やその測定結果等に悪影響を及ぼす場合がある。
【0006】
また、基板と蓋板を接着剤で接合すると、接着剤中の溶剤が薬液や試液等で溶かされて液中に溶出するおそれがある。また、特許文献2に記載された発明では、マイクロ流路へのコーティングが安定状態になった後に基板と蓋板とを接合する工程をとっているため製造コストが嵩んでしまう。
【0007】
本発明は、そのような問題を解決するためになされたものであり、製造コストのかからないプラスチック製の基板を用いて、耐熱性と耐薬性に優れ、かつ簡単な工程により低コストで製造することができるマイクロ流路デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明のマイクロ流路デバイスは、微量の液体を流すためのマイクロ流路が凹んで形成されたプラスチック製の基板に、マイクロ流路の開放面を塞ぐと共にマイクロ流路に連通する液体注入口と液体排出口とが形成された蓋板を接合した構成を有するマイクロ流路デバイスにおいて、基板と蓋板との接合、及びマイクロ流路の内面の全部又は一部に対するコーティングが共に、有機バインダーを含有するシリカゾルを主成分とする塗膜で行われているものである。
【0009】
なお、塗膜が、基板と蓋板との接合面の両面に各々設けられて、その両面の塗膜どうしが熱圧着されていると好ましい。また、蓋板が基板と同じプラスチック材で形成されていてもよく、あるいは、蓋板がガラス材で形成されていてもよい。そして、基板が全体にシート材で形成されていて、マイクロ流路が形成されている部分では基板が裏面側に突出していてもよい。
【0010】
また、基板と蓋板の少なくとも一方のマイクロ流路に面する位置に電気配線が設けられていてもよく、その場合に、電気配線が塗膜の裏側に配置されて、電気配線がマイクロ流路内に露出しない状態になっていてもよい。また、基板と蓋板の少なくとも一方の素材として、電気配線が予め埋設されたフレキシブル基板が用いられていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のマイクロ流路デバイスは、基板と蓋板との接合、及びマイクロ流路の内面の全部又は一部に対するコーティングが共に、有機バインダーを含有するシリカゾルを主成分とする塗膜で行われていることにより、製造コストのかからないプラスチック製の基板を用いて、耐熱性と耐薬性に優れ、かつ簡単な工程により低コストで製造することができる格別の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1〜図4は本発明に係る第1の実施の形態であるマイクロ流路デバイスを示しており、図2はマイクロ流路デバイスの分解斜視図、図3は平面図であり、図1は、図3におけるI−I断面図、図4はIV−IV断面図である。
【0013】
1は、プラスチック製の基板であり、例えばポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンビニルアルコール、アクリル樹脂、ポリビニル樹脂、エポキシ樹脂、ポリ塩化ビニル、不飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、環状シクロオレフィン樹脂、セルロースアセテート、硝酸セルロース、フルオロカーボン樹脂、又はポリカーボネート等のような有機高分子材料で形成されている。基板1は、例えば一辺が数cm程度の矩形状に形成されていて、その厚みは例えば0.5mm程度である。
【0014】
基板1の上面側には、微量の化学薬品や試液等のような液体を流すためのマイクロ流路2が凹んで形成されている。マイクロ流路2は、幅が例えば0.1mm程度で深さが例えば0.05mm程度の矩形状の断面形状に形成され、全体として例えば略Y字状の平面形状に形成されている。ただし、マイクロ流路2の断面形状や平面形状は、そのマイクロ流路デバイスの使用目的等に応じて、流路内部に液溜まり、ステップ、分岐、合流あるいは流路幅変更等の要素を含むものであってもよく、例えば、マイクロ流路2の断面形状は半円形等であってもよく、平面形状が略Y字状以外の形状であってもよい。
【0015】
このようなマイクロ流路2は、例えば予めシート状に形成された基板1の素材を加熱された金型でプレス加工することにより容易に製造することができる。なお、基板1を透明な材料で形成すれば、マイクロ流路2内を外部から目視観察したり、光学的な計測や処理を行えたりする点で好ましい。また、マイクロ流路2の断面形状が半円形等であってもよい。
【0016】
3は、マイクロ流路2の開放面を塞ぐために基板1の上面に接合固着される蓋板であり、基板1と同様に各種の有機高分子材料から一つを選択して形成することができる。ただし、基板1と同じ材料で形成すれば、接合や熱膨張の程度が基板1と一致する点で好ましい。また、蓋板3はガラス材料で形成してもよく、例えば珪酸ソーダガラス、硼珪酸ガラス、バリウム硼珪酸ガラス、石英ガラス等、あるいは結晶化ガラス、低融点ガラス等のようなガラス材料から選択することもできる。ただし、蓋板3側にもマイクロ流路を形成する場合には、製造コストの点でプラスチック製にした方が有利である。
【0017】
蓋板3には、マイクロ流路2に連通する液体注入口4と液体排出口5とが形成されている。液体注入口4は、略Y字状に形成されたマイクロ流路2の二つの分岐流路の端部に各々面する位置に蓋板3の表裏を貫通する状態に形成され、液体排出口5は、マイクロ流路2の合流流路の端部に面する位置に蓋板3の表裏を貫通する状態に形成されている。
【0018】
6は、基板1と蓋板3との接合、及びマイクロ流路2の内面コーティングという二つの目的に供せられる塗膜であり、有機バインダーを含有するシリカゾルを主成分とする同一の塗膜6が、この実施の形態では基板1と蓋板3の双方の対向面全面(即ち、基板1の上面と蓋板3の裏面の各全面)に塗布されて、基板1と蓋板3との接合時に加熱硬化処理されている。なお、必要な場合には、液体注入口4と液体排出口5の内周面にも塗膜6が形成される。
【0019】
塗膜6の主成分であるシリカゾルは、二酸化珪素(SiO2 )の微粒子を例えばイソプロピルアルコール水溶液等のような溶媒中に分散させたもの、又は化学的に生成されたシリコンアルコキシドからなるゾルであり、溶媒を発散させるとゲル化して固形膜になる。そして、そのようなシリカゾルによって形成されたコーティング膜は有機バインダー濃度が小さい場合は親水性が大きいので、マイクロ流路2の表面に親水性が必要な場合に、親水性を得るための他の表面処理を施す必要がない。一方、コーティング膜における有機バインダー濃度が大きい場合は疎水性の膜になるので、親水性が必要な場合は親水処理をして用いる。
【0020】
また、シリカゾルは耐薬性と耐熱性に優れていて、溶剤等が溶け出すことなくプラスチック材に対し強接合され、接着性の低いポリエチレン樹脂系の材料に対しても強固に接合される。ポリエチレン樹脂系の材料は、再生処理や廃棄処理に際して公害発生のおそれが少ないので、リサイクルにも使い捨て使用にも適しており、透明性があることと合わせマイクロ流路デバイスに使用するメリットが大きい。
【0021】
シリカゾル中に含まれる有機バインダーは、アクリル樹脂系又はエポキシ樹脂系等のように一般的な有機バインダーを用いることができ、加熱処理により発散させて任意の量だけ残すことができる。したがって、シリカゾル中への混合量と加熱処理の温度と時間等を適宜選択することにより、シリカゾル中に残る有機バインダー量を任意に制御して、例えば二酸化珪素とプラスチック材との熱膨張率の相違を緩衝する機能等を最適な状態に調整することができる。
【0022】
このような有機バインダーを含有するシリカゾルを主成分とする塗膜6は、前述のように基板1と蓋板3の双方の対向面全面に塗布形成されている。したがって、マイクロ流路2内においても十分に厚く(例えば100nm〜5μm程度に)形成することができ、マイクロ流路2内での化学反応等により発生した熱でプラスチック製の基板1が溶解しない耐熱性を確保することができる。
【0023】
基板1と蓋板3の各対向面への塗膜6の塗布は、ディッピング、スピンコーティング又は印刷等の手段により所定の膜厚で行うことができる。膜厚は、シリカゾルの粘度、即ちゾル中の固形成分の量や有機バインダーの量等で調整することができる。なお、塗膜6の塗布は、基板1や蓋板3を所定のサイズに切断する前又は後のどちらで行ってもよい。
【0024】
基板1と蓋板3の各々に塗布された塗膜6は、基板1と蓋板3を接合する前に、例えば70℃程度の温度で30秒〜2分程度仮焼成し、有機バインダーを少し発散させて軽く硬化させるとよい。疎水処理又は特別な親水処理等が必要な場合には、この段階で印刷又はディスペンサー等を用いて処理を行う。
【0025】
そして最後に、基板1に塗布された塗膜6と蓋板3に塗布された塗膜6とを密着させ、例えば80〜260℃程度(基板1と蓋板3の材料の選択により異なる)に加熱して塗膜6どうしを圧着させる。そのような熱圧着は、加熱ローラーやスタンパー等を用いて圧接状態で行うとよい。このようにして、基板1と蓋板3の双方の対向面に塗布された塗膜6どうしが結合して、基板1と蓋板3とが強固に接合された状態になり、同時にマイクロ流路2の内面への厚いコーティングが完了し、マイクロ流路デバイスを極めて低コストに製造することができる。
【0026】
図5と図6は本発明に係る第2の実施の形態であるマイクロ流路デバイスを示しており、図5は平面図、図6は、図5におけるVI−VI断面図である。この実施の形態においては、電極として機能する電気配線7が基板1の上面に設けられている。基板1、マイクロ流路2及び蓋板3自体の構成は前述した第1の実施の形態に係るマイクロ流路デバイスと同様である。なお、蓋板3側に電気配線7を設けてもよい。
【0027】
電気配線7は、図5に示されるようにマイクロ流路2と交差する二箇所に互いの間に間隔をあけて配置され、各電気配線7が、図6に示されるようにマイクロ流路2の底面に面する状態に配置されている。電気配線7は、塗膜6の表裏どちら側に配置してもよいが、この実施の形態のように塗膜6の裏側に配置して、電気配線7がマイクロ流路2内に露出しないようにすれば、電気配線7がマイクロ流路2内の液体により腐食されるおそれがない点で好ましい。
【0028】
図5に示されるように、基板1から外方に突出して設けられた配線基板(リードフレーム)8には、電気配線7と電気的に導通する接続端子9が設けられていて、電気配線7を外部の測定機器等に接続することができる。ただし、接続端子9に代えてコンタクトホールやコネクター等を設けてもよい。なお、図7に示される第3の実施の形態に係るマイクロ流路デバイスのように、電気配線7を電極として駆動するための駆動IC10(例えば、交流周波数を制御する)を配線基板8に設けてもよい。また、いわゆる電子タグ11を基板1又は蓋板3内に埋設又は貼着して、来歴情報等を記録できるようにしてもよい。
【0029】
図8は、本発明に係る第4の実施の形態であるマイクロ流路デバイスを示しており、前述した第1の実施の形態に係るマイクロ流路デバイスと同様に構成されたマイクロ流路2の途中に疎水領域12を形成したものである。具体的には、その部分だけ塗膜6を塗布せずにプラスチック材の基板1が露出するようにすればその領域が疎水領域12になる。このように、塗膜6は必ずしも基板1と蓋板3の各対向面全面に設けなくてもよい。ただし、塗膜6の一部分に対して疎水処理を施してもよいことはいうまでもない。
【0030】
図9は、本発明に係る第5の実施の形態を示しており、基板1が全体にシート材で形成されて、マイクロ流路2が形成されている部分では基板1が裏面側に突出する状態になっているものである。マイクロ流路2は、角部に丸みのついた略半円状の断面形状になっている。基板1としてポリエチレン樹脂系の材料やフレキシブル基板を用いる場合等には、このような構成を採ることでマイクロ流路2を容易に低コストで形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る第1の実施の形態であるマイクロ流路デバイスの側面断面図(図3におけるI−I断面図)である。
【図2】本発明に係る第1の実施の形態であるマイクロ流路デバイスの分解斜視図である。
【図3】本発明に係る第1の実施の形態であるマイクロ流路デバイスの平面図である。
【図4】本発明に係る第1の実施の形態であるマイクロ流路デバイスの正面断面図(図3におけるIV−IV断面図)である。
【図5】本発明に係る第2の実施の形態であるマイクロ流路デバイスの平面図である。
【図6】本発明に係る第2の実施の形態であるマイクロ流路デバイスの正面断面図(図5におけるVI−VI断面図)である。
【図7】本発明に係る第3の実施の形態であるマイクロ流路デバイスの平面図である。
【図8】本発明に係る第4の実施の形態であるマイクロ流路デバイスの分解斜視図である。
【図9】本発明に係る第5の実施の形態であるマイクロ流路デバイスの正面断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 基板
2 マイクロ流路
3 蓋板
4 液体注入口
5 液体排出口
6 塗膜
7 電気配線
10 駆動IC
11 電子タグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微量の液体を流すためのマイクロ流路が凹んで形成されたプラスチック製の基板に、上記マイクロ流路の開放面を塞ぐと共に上記マイクロ流路に連通する液体注入口と液体排出口とが形成された蓋板を接合した構成を有するマイクロ流路デバイスにおいて、
上記基板と上記蓋板との接合、及び上記マイクロ流路の内面の全部又は一部に対するコーティングが共に、有機バインダーを含有するシリカゾルを主成分とする塗膜で行われていることを特徴とするマイクロ流路デバイス。
【請求項2】
上記塗膜が、上記基板と上記蓋板との接合面の両面に各々設けられて、その両面の塗膜どうしが熱圧着されている請求項1記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項3】
上記蓋板が上記基板と同じプラスチック材で形成されている請求項1又は2記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項4】
上記蓋板がガラス材で形成されている請求項1又は2記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項5】
上記基板が全体にシート材で形成されていて、上記マイクロ流路が形成されている部分では上記基板が裏面側に突出している請求項1ないし4のいずれかの項に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項6】
上記基板と上記蓋板の少なくとも一方の上記マイクロ流路に面する位置に電気配線が設けられている請求項1ないし5のいずれかの項に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項7】
上記電気配線が上記塗膜の裏側に配置されて、上記電気配線が上記マイクロ流路内に露出しない状態になっている請求項6記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項8】
上記基板と上記蓋板の少なくとも一方の素材として、電気配線が予め埋設されたフレキシブル基板が用いられている請求項6記載のマイクロ流路デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−284626(P2008−284626A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−130005(P2007−130005)
【出願日】平成19年5月16日(2007.5.16)
【出願人】(000140890)ミライアル株式会社 (74)
【Fターム(参考)】