説明

マグネチックドメインドラッギングを利用する磁性メモリ素子

【課題】マグネチックドメインドラッギングを利用した磁性メモリ素子を提供する。
【解決手段】一つのマグネチックドメインウォールが形成された連続した複数のセクターを備える自由層と、少なくともセクターに対応するように形成され、一つの固定された磁化方向を有する固定層と、自由層と固定層との間に形成された非磁性層とを備え、セクターの各境界面に、マグネチックドメインウォールを停止させるマグネチックドメインウォールストッパが形成されたメモリ領域と、自由層の一端に電気的に接続されて、マグネチックドメインドラッギングのためのドラッギング信号を入力する入力部と、メモリ領域を通過する電流を測定するセンシング部と、を備えることを特徴とするマグネチックドメインドラッギングを利用した磁性メモリ素子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性メモリ素子に係り、さらに詳細には、マグネチックドメインドラッギングを利用してマルチビットのデータを書き込み/読み取り可能な磁性メモリ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気RAM(Magnetic Random Access Memory:MRAM)は、不揮発性メモリ素子の一つである。
【0003】
MRAMは、例えば、スイッチング素子であるトランジスタと、データが保存される磁気トンネル接合(Magnetic Tunnel Junction:MTJ)セルとから構成される。通常、MTJセルは、磁化方向が固定されている固定強磁性層(強磁性固定層)、前記固定強磁性層に対して磁化方向が平行または逆平行に変わりうる自由強磁性層(強磁性自由層)及び前記固定強磁性層と自由強磁性層との間に配置された非磁性層からなる。
【0004】
ところが、一般的に、MTJセル当り1ビットのデータのみを保存するので、MRAMのデータ保存容量の増大には限界がある。したがって、MRAMなどの磁性素子の情報記録容量をさらに増大させるためには、新たな記録方式が要求される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、前記問題点に鑑みてなされたものであって、マグネチックドメインドラッギングを利用して、自由層に形成されたマグネチックドメインウォールの位置に複数段階のデータを保存する磁性メモリ素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を解決するための本発明に係るマグネチックドメインドラッギングを利用した磁性メモリ素子は、一つのマグネチックドメインウォールが形成された連続した複数のセクターを備える自由層と、少なくとも前記セクターに対応するように形成され、一つの固定された磁化方向を有する固定層と、前記自由層と固定層との間に形成された非磁性層とを備え、前記セクターの各境界面に、前記マグネチックドメインウォールを停止させるマグネチックドメインウォールストッパが形成されたメモリ領域と、前記自由層の一端に電気的に接続されて、マグネチックドメインドラッギングのためのドラッギング信号を入力する入力部と、前記メモリ領域を通過する電流を測定するセンシング部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明の一態様によれば、前記マグネチックドメインウォールストッパは、前記セクター間の境界面に形成されたピンニング溝である。
【0008】
前記各ピンニング溝は、前記境界面に対向する一対の溝でありうる。
【0009】
本発明の他の態様によれば、前記セクターは、台形であり、前記マグネチックドメインウォールストッパは、一つのセクターの短辺と、前記短辺と連結された長辺を有するマグネチックドメイン間の境界線である。
【0010】
本発明によれば、前記自由層の両端は、鋭い形状を有する。
【0011】
本発明によれば、前記セクターの長さは、前記マグネチックドメインウォールより長い。
【0012】
本発明の磁性メモリ素子は、前記自由層の一端に連結されたビットラインと、前記自由層の他端と連結されたトランジスタと、をさらに備えうる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るマグネチックドラッギングを利用した磁性メモリ素子は、一つのメモリ領域に形成されたマグネチックドメインウォールストッパの個数情報を保存できる。
【0014】
したがって、本発明に係る磁性メモリ素子は、データ保存容量を大きく増大させうる。したがって、本発明を適用すれば、データ保存容量がさらに増大したMRAMなどの磁性素子を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付された図面を参照して、本発明に係る磁性メモリ素子の実施形態を詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明に係る磁性メモリ素子の断面図である。
【0017】
図1に示すように、基板10上に不純物がドーピングされたソースS及びドレインDが形成されており、ソースSとドレインDとの間の基板10上にゲート酸化膜21及びゲート電極20が積層されている。前記ゲート電極20上には、データが保存されるメモリ領域30が形成されている。前記メモリ領域30の上部の一端は、ビットライン51と電気的に接続され、前記メモリ領域30の上部の他端は、導線52を通じてドレインDと電気的に接続される。
【0018】
前記メモリ領域30は、巨大磁気抵抗(Giant Magnetoresistance:GMR)でありうる。前記メモリ領域30は、磁化方向が固定された固定層31と、前記固定層31上の非磁性層金属32と、前記非磁性層金属32上の磁化方向がスイッチングされる自由層33とを備える。前記非磁性層金属32は、Cuでありうる。前記自由層33は、複数のセクターを備える。前記自由層33には、一つのマグネチックドメインウォールDW(図2参照)が形成されている。前記固定層31に対する前記マグネチックドメインウォールDWの位置によって、前記メモリ領域30にかかる抵抗が変化し、この抵抗の変化によって情報データを記録する。参照番号60は、絶縁層である。
【0019】
図2は、本発明の第1実施形態に係る図1のメモリ領域30の斜視図である。
【0020】
図2に示すように、自由層33には、5個のセクターS0ないしS4が形成されており、前記セクターの境界には、それぞれピンニングP1ないしP4が形成されている。S0は、ビットライン51と連結され、S4は、ドレインDと電気的に接続される。前記自由層33には、二つの対向するマグネチックドメインが形成されており、マグネチックドメインの間には、一つのマグネチックドメインウォールDWが形成される。前記マグネチックドメインウォールDWは、マグネチックドメインウォールストッパに可変的に位置する。
【0021】
第1実施形態のマグネチックドメインウォールストッパは、ピンニング溝P1ないしP4である。
【0022】
P1、P2、P3、P4にそれぞれマグネチックドメインウォールDWが位置すれば、それぞれ一つの情報(ステート)を示す。前記固定層31には、一つの磁化方向を有するマグネチックドメインが形成される。
【0023】
前記自由層33の一端に所定の臨界電流以下に電流が印加されれば、マグネチックドメインウォールDWが前記ピンニング溝で移動できず、前記ピンニング溝の位置に固定され、前記自由層33に印加されるパルス電流が前記臨界電流以上になれば、前記マグネチックドメインウォールDWが停止していたピンニング溝で動いて、次のピンニング溝で停止する。このとき、マグネチックドメインウォールDWが動く方向は、パルス電流の方向によって決まる。前記臨界電流は、ピンニング溝の形状によって決まりうる。
【0024】
前記セクターS0、S4の端は、鋭い形状に形成されている。これは、前記セクターS0、S4に他のマグネチックドメインウォールDWが形成されることを防止するためのものである。
【0025】
前記マグネチックドメインウォールDWの長さは、磁性体の物質によって変わり、約30〜80nmである。前記セクターの長さLは、前記マグネチックドメインウォールの長さより長くなければならない。
【0026】
前記ピンニング溝は、それぞれ一つの対として存在しているが、必ずしもこれに限定されるものではない。例えば、各位置に一つのピンニング溝が存在してもよい。
【0027】
図3は、マグネチックドメインウォールDWの位置によるメモリ領域30における抵抗の変化を説明する図面である。
【0028】
図3に示すように、ステート0ないしステート3のそれぞれは、自由層33のマグネチックドメインウォールDWがP1ないしP4に位置する。このとき、セクターS1ないしS3に該当する固定層31の磁化方向が矢印B方向である場合、ステート0でメモリ領域30の自由層33の磁化方向は固定層31と平行になり、メモリ領域30の抵抗が最低になる。
【0029】
ステート1である場合、マグネチックドメインウォールDWがP2に位置し、自由層33の磁化方向は、セクターS1ないしS3で固定層31の磁化方向と逆平行であるセクターS1と、順平行であるセクターS2、S3とに区分される。
【0030】
メモリ領域30がステート1からステート2及びステート3に変わりつつ、マグネチックドメインウォールDWが右側に移動し、これにより、自由層33の磁化方向と逆平行であるスピンが長くなり、したがって、メモリ領域30にかかる抵抗が上昇する。
【0031】
前記マグネチックドメインウォールDWの位置によって、メモリ領域30にかかる抵抗が変わるので、前記メモリ領域30を通過する電流の大きさを測定することによってステート0ないし3を区分する。したがって、前記メモリ領域30に前記ステート0ないし3を書き込み、前記ステート0ないし3を読み取ることによって情報記憶装置の役割を行う。
【0032】
図面を参照して、本発明に係る磁性メモリ素子の作動方法を説明する。
【0033】
まず、図4Aに示すように、初期のメモリ領域30には、マグネチックドメインウォールDWをピンニングP1に位置させる。このときのS1ないしS3セクターの磁化方向が、固定層31の磁化方向と平行しているので、メモリ領域30の抵抗が最も低い。
【0034】
次いで、自由層33の入力端に前記ピンニングP1を克服する臨界電流(マグネチックドレインドラッギングパルス電流)より大きいポジティブパルス電流を印加すれば、マグネチックドメインウォールDWは、図4Bに示すように、右側方向に移動する。前記パルス電流の期間は、約0.2〜0.4nsである。この期間は、セクターの長さによって変わりうる。前記臨界電流は、前記ピンニング溝の形状によって変わりうる。
【0035】
一方、前記入力端に前記臨界電流より大きいネガティブパルス電流を印加すれば、マグネチックドメインウォールDWは、左側に移動する。したがって、入力端に印加されるパルス電流でマグネチックドメインウォールDWを移動させうるが、この過程が情報記録過程である。
【0036】
このような情報記録過程は、図1に示すように、前記入力端に連結されるビットライン51に前記臨界電流より大きい電流を印加し、トランジスタのゲート電極20に閾電圧以上の電圧を印加して、一つのメモリ領域30をアドレッシングすることができる。前記ビットライン51は、マグネチックドメインドラッギングのためのドラッギング信号を入力する入力部となる。
【0037】
次いで、前記メモリ領域30に保存された情報を読み取る方法を説明する。図4Cに示すように、入力端に所定の電圧を印加して前記メモリ領域30を通過する電流を測定する。測定された電流は、メモリ領域30の抵抗に相当するので、測定された電流でメモリ領域30の情報を読み取り可能である。
【0038】
このような情報の読み取りは、図1に示すように、ビットライン51とゲート電極20とにそれぞれ電圧を印加して、一つのメモリ領域30をアドレッシングする。そして、ソース電極Sに連結されたセンシング部(図示せず)を通じてメモリ領域30を通過する電流を測定できる。前記センシング部は、電流計でありうる。
【0039】
図5は、本発明の第2実施形態に係るメモリ領域130の斜視図である。
【0040】
図5に示すように、自由層133には、セクターS0ないしS4が形成されており、セクターの間には、マグネチックドメインウォールストッパDWS1ないしDWS4が形成されている。前記セクターS0ないしS3は、台形であり、平行した短辺及び長辺を有する。前記セクターの短辺(例えば、S1の)と連結される他のドメインの長辺(例えば、S2の)が出合う所が、マグネチックドメインウォールストッパ(例えば、DWS2)となる。
【0041】
セクターS0は、ビットライン51と連結され、セクターS4は、ドレインDと電気的に接続される。前記自由層133には、相互対向する二つのマグネチックドメインが形成され、したがって、一つのマグネチックドメインウォールDWが形成される。前記マグネチックドメインウォールDWの位置が、DWS1、DWS2、DWS3、DWS4にそれぞれ位置すれば、それぞれ一つの情報(ステート)を示す。前記固定層131で、前記セクターに対応する領域には、一つの磁化方向を有するマグネチックドメインが形成される。
【0042】
前記自由層133の入力端に所定の臨界電流以下に電流が印加されれば、マグネチックドメインウォールDWが、前記ストッパを通過できずに停止し、前記自由層133の入力端に印加されるパルス電流が、前記臨界電流以上になれば、前記マグネチックドメインウォールDWが、前記ストッパを通過して次のストッパで停止する。セクターにおいて、広い辺の領域が、短い辺の領域よりエネルギーの高い状態であるので、他のセクター領域に入ってきたマグネチックドメインウォールは、自然にエネルギーの低い状態の短辺の位置であるストッパの位置に移動する。
【0043】
前記マグネチックドメインウォールDWの長さは、磁性体の物質によって変わり、約30〜80nmである。前記セクターの長さLは、前記マグネチックドメインウォールDWの長さより長くなければならない。
【0044】
図6は、マグネチックドメインウォールDWの位置によるメモリ領域130における抵抗の変化を説明する図面である。
【0045】
図6に示すように、ステート0ないし3のそれぞれは、自由層133のマグネチックドメインウォールDWが、マグネチックドメインウォールストッパDWS1ないしDWS4に位置する。セクターS0ないしS4に該当する固定層131の磁化方向が矢印B方向である場合、ステート0において、メモリ領域130の自由層133の磁化方向は、固定層131とほぼ平行になり、メモリ領域130の抵抗が、最低になる。
【0046】
ステート1の場合、マグネチックドメインウォールDWがS2に位置し、自由層133のD1の磁化方向が、固定層131の磁化方向と逆平行に変わる。したがって、ステート1におけるメモリ領域の抵抗が、ステート0におけるメモリ領域の抵抗より大きくなる。
【0047】
メモリ領域130がステート1からステート2及びステート3に変わりつつ、マグネチックドメインウォールDWが右側に移動し、これにより、自由層133の磁化方向と逆平行であるスピンが長くなり、したがって、メモリ領域130にかかる抵抗が大きくなる。
【0048】
前記マグネチックドメインウォールDWの位置によって、メモリ領域130にかかる抵抗が変わるので、前記メモリ領域130を通過する電流の大きさを測定することによってステート0ないし3を区分する。したがって、前記メモリ領域130に前記ステート0ないし3を書き込み、前記ステート0ないし3を読み取ることによって情報記憶装置の役割を行う。
【0049】
第2実施形態に係るメモリ領域に情報を記録及び読み取る方法は、前記第1実施形態のメモリ領域に情報を記録及び読み取る方法と実質的に同じであるので、その詳細な説明を省略する。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、磁性メモリ素子に関連した技術分野に好適に適用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係る磁性メモリ素子の断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る図1のメモリ領域30の斜視図である。
【図3】マグネチックドメインウォールDWの位置によるメモリ領域30における抵抗の変化を説明する図面である。
【図4A】本発明に係る磁性メモリ素子の作動方法を説明する図面である。
【図4B】本発明に係る磁性メモリ素子の作動方法を説明する図面である。
【図4C】本発明に係る磁性メモリ素子の作動方法を説明する図面である。
【図5】本発明の第2実施形態に係るメモリ領域の斜視図である。
【図6】マグネチックドメインウォールDWの位置によるメモリ領域における抵抗の変化を説明する図面である。
【符号の説明】
【0052】
30 メモリ領域
31 固定層
32 非磁性層金属
33 自由層
S0ないしS4 セクター
P1ないしP4 ピンニング
DW マグネチックドメインウォール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つのマグネチックドメインウォールが形成された連続した複数のセクターを備える自由層と、少なくとも前記セクターに対応するように形成され、一つの固定された磁化方向を有する固定層と、前記自由層と固定層との間に形成された非磁性層とを備え、前記セクターの各境界面に、前記マグネチックドメインウォールを停止させるマグネチックドメインウォールストッパが形成されたメモリ領域と、
前記自由層の一端に電気的に接続されて、マグネチックドメインドラッギングのためのドラッギング信号を入力する入力部と、
前記メモリ領域を通過する電流を測定するセンシング部と、を備えることを特徴とするマグネチックドメインドラッギングを利用する磁性メモリ素子。
【請求項2】
前記マグネチックドメインウォールストッパは、前記セクター間の境界面に形成されたピンニング溝であることを特徴とする請求項1に記載の磁性メモリ素子。
【請求項3】
前記各ピンニング溝は、前記境界面に対向する一対の溝であることを特徴とする請求項2に記載の磁性メモリ素子。
【請求項4】
前記セクターは、台形であり、
前記マグネチックドメインウォールストッパは、一つのセクターの短辺と、前記短辺と連結された長辺を有するマグネチックドメイン間の境界線であることを特徴とする請求項1に記載の磁性メモリ素子。
【請求項5】
前記自由層の両端は、鋭い形状であることを特徴とする請求項1に記載の磁性メモリ素子。
【請求項6】
前記セクターの長さは、前記マグネチックドメインウォールより長いことを特徴とする請求項1に記載の磁性メモリ素子。
【請求項7】
前記自由層の一端及びビットラインと、
前記自由層の他端と連結されたトランジスタと、をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の磁性メモリ素子。
【請求項8】
前記入力部は、前記ビットラインであり、
前記センシング部は、前記トランジスタに連結された電流計であることを特徴とする請求項7に記載の磁性メモリ素子。
【請求項9】
前記非磁性層は、金属からなることを特徴とする請求項1に記載の磁性メモリ素子。
【請求項10】
前記非磁性層は、Cuからなることを特徴とする請求項1に記載の磁性メモリ素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−227923(P2007−227923A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−38210(P2007−38210)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【Fターム(参考)】