説明

マトリクス、細胞インプラント並びにそれらの調製方法及び使用方法

本発明は、生適合性ポリマー又はポリマー混合物をベースとする多孔性マトリクス、該マトリクス上に確立した細胞移植、並びにヘパトサイト及びランゲルハンス島細胞からなる細胞混合物をベースとするさらなる細胞移植に関する。本発明はまた、多孔性マトリクスの製造方法、該方法により得られたマトリクス、及び移植可能なマトリクスの接種用細胞を得る特別な方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物許容ポリマー又はポリマー混合物をベースとする多孔性マトリクス、該マトリクス上に建てられた細胞インプラント、ヘパトサイト及びランゲルハンス島細胞からなる細胞混合物をベースとする他の細胞インプラント、多孔性マトリクスの調製方法及び該方法を用いて得ることができるマトリクス、並びに移植可能なマトリクスを接種するための細胞を得る特定の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
組織工学は、工学及び材料科学と医学とが結びついた学際的分野である。その目的は、損傷を受けた組織を回復させること又はその機能を向上させることにある。
【0003】
組織工学の主な点は、非常にシンプルである。まず最初に、いくつかの細胞を患者から取り除き、インビトロで増殖させる。その後、増殖した細胞を、患者へ再度移植される完全な生きた組織置換の形態の結果として、枠物質(framework substance)に埋め込むことができる。適切なドナーを前提とし、結局長期の医学的な免疫抑制を必要とする、従来の同種移植(allogenic transplantation)と比較して、この方法は、内生(自家移植)細胞を用いることができるという非常に重要な利点を有する。
【0004】
用いる枠物質−これはまた以降、マトリクスとも言われる−の性質及び構成は、受容され且つ機能できるインプラントにとって特に重要である。用いられる材料、概して、いわゆる生分解性ポリマー、とは異なり、孔形状などの孔径、多孔度、及び表面、孔壁面の形態、及び孔間の連通性は、枠物質に埋め込まれる細胞のさらなる進化、究極的には再生される組織又は器官の3次元構造に、非常に重要な役割を果たす。
【0005】
この性質のバイオマトリクスの製造方法は既に開示されている。よって、繊維業界の技術が、既に、織性又は不織性繊維バイオマトリクスを製造するのに応用されている。まず第1に塩結晶を生分解性ポリマーへと作用させ、その後、再度溶出させる他の共通の方法は、塩粒子のサイズにより孔径を制御することができ、塩/ポリマー比により多孔度を制御することができる(WO98/44027)。この方法の修正として、溶媒に溶解する生分解性ポリマーが、その後再度、複合材料から溶出する孔生成物質(porogenic material)と呼ばれるものに適用され、その結果、該孔生成物質の陰影形状が残った孔が得られる(WO01/87575A2)。コーティングされたマトリクスも既に開示されている(例えばWO99/09149A1を参照のこと)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
それにも関わらず、この方法を用いて製造されたバイオマトリクスは、各ケースにおいて、特にこれらのマトリクス上に形成されるインプラントの受容性及び機能の能力に関して、満足されていない。特に、肝臓及び膵臓移植を用いる受容され得る器官置換は一つも達成されていない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、この発明に存在する目的を達成する。即ち、特別の方法を用いて得ることができる、特定のバイオマトリクス及びそれに相応するインプラントにより、そのような機能性インプラントを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
よって、本発明は、特許請求の範囲に規定する主題に関する。
【0009】
多孔度は、孔体積として表される、マトリクスの全体積の割合の%として数値化する。
【0010】
『孔』の語は、本発明のマトリクス中に存在する穴であって、本件において、2次元断面及び/又は3次元で見た場合の斜面形状において、多角形状、特に八角形を有する穴を示すのに用いられる。この形状は、穴の形状を、神経細胞の形状と比較できるような拡大によってさらに特徴づけられる。孔のサイズは、2次元断面で認められる孔の長径と短径の平均である直径により特定できる。
【0011】
本発明のマトリクスは、異なるサイズの孔を有し、そのサイズは、ある範囲に分布する(細孔径分布)する。本発明によると、細孔径分布が広いことはマトリクスにとって重要である。この分布は、約150μmの範囲のサイズの孔から、約300μmの範囲のサイズの孔、またはこれ以上の広範囲にわたるべきである。よって、本発明のマトリクスは、ある面において、150μm以下のサイズの孔を有する。140μm以下のサイズの孔を有するマトリクスが好ましい。130μm以下の孔径の孔を有するマトリクスは、特に好ましい。他の面において、本発明のマトリクスは、300μm以上のサイズの孔を有すべきである。350μm以上の孔径の孔を有するマトリクスが好ましい。孔径が370μm以上の孔を有するマトリクスが特によい。本発明は、孔径が150μm以下、140μm以下又130μm以下の孔、及び孔径が300μm以上、350μm以上又は370μm以上の孔の双方を有するマトリクスを含む。これらの値は、任意の方法で組合されて細孔径分布がわたるべき、特に上述した150〜300、140〜350及び130〜370の最小の範囲を提供することができる。特に好ましいのは、150〜300μmの範囲外に頻度最大、即ちある頻度最大が孔径300μmより上であり、他の頻度最大が150μmより下である、ある細孔径分布が提供されるものである。
【0012】
本発明の代表的なマトリクスは、次の細孔径分布を有する。平均直径が70〜100μmの孔が、約0.5〜6%、好ましくは約1〜5%、より好ましくは約2〜4%、特に約3%であり;平均直径が101〜115μmの孔が、約2〜8%、好ましくは約3〜7%、より好ましくは約4〜6%、特に約5%であり;平均直径が116〜130μmの孔が、約2〜8%、好ましくは約3〜7%、より好ましくは約4〜6%、特に約5%であり;平均直径が131〜300μmの孔が、約1〜7%、好ましくは約2〜6%、より好ましくは約3〜5%、特に約4%であり;平均直径が301〜330μmの孔が、約11〜23%、好ましくは約13〜21%、より好ましくは約15〜19%、特に約17%であり;平均直径が331〜360μmの孔が、約4〜10%、好ましくは約5〜9%、より好ましくは約6〜8%、特に約7%であり;平均直径が361〜390μmの孔が、約5〜17%、好ましくは約7〜15%、より好ましくは約9〜13%、特に約11%であり;平均直径が391〜420μmの孔が、約7〜19%、好ましくは約9〜17%、より好ましくは約11〜15%、特に約13%であり;平均直径が421〜450μmの孔が、約3〜9%、好ましくは約4〜8%、より好ましくは約5〜7%、特に約6%であり;平均直径が451〜480μmの孔が、約12〜24%、好ましくは約14〜22%、より好ましくは約16〜20%、特に約18%であり;且つ平均直径が481〜510μmの孔が、約5〜17%、好ましくは約7〜15%、より好ましくは約9〜13%、特に約11%である。よって、概して、あるサイズ範囲以上の孔がクラスター化することに相当して、ある1つの最大値より広い細孔径分布が得られる。これは、本発明のマトリクスの特性にとって特に重要である。
【0013】
穴の体積、よって多孔度の程度は、それ自体公知の方法で、多孔度計により測定することができる。
【0014】
孔径、及び細孔径分布も、例えば、走査型電子顕微鏡によって、測定することができる。このため、調査すべきマトリクスの薄い断面を調製し、金でコーティングする。走査型電子顕微写真を、ある特定の面積のすべての孔を測定することによって、即ち各孔の長径と短径とを測定し、2つの値を合計し該合計値を2で割ることにより、評価する。
【0015】
『マトリクス』の語は、細胞によりクローン化するのに好適な3次元支持体をいう。この意味において、マトリクスは、細胞又は組織によりクローン化させることができる3次元テンプレートとして作用する。このクローン化は、インビトロ又はインビボにおいて生じることができる。なお、マトリクスは、移植と関連して、移植体の位置づけとしても、インビボで徐々に形成される組織との設置ホルダーとしても作用する。
【0016】
ポリマーは、原則として、医学、特に移植医学の分野において用いることができるいかなるポリマーであってもよい。よって、ホストにより外来であると認識されるが、その拒絶反応が適切な免疫抑制により抑制することができるポリマーも生物学的に許容される。本質的に生分解性ではないポリマーを用いることができる。しかしながら、好ましいものは、少なくとも主に、生分解性であるポリマーによって得られる。
【0017】
『生分解性』の表現は、生物体(又は生物体由来とすることができる体液又は細胞培地)が新陳代謝物へ変換することができる材料をいう。生分解性ポリマーとして、例えば、バイオ再吸収可能な(bioresorbable)及び/又はバイオ腐食可能な(bioerodable)ポリマーを挙げることができる。『バイオ腐食可能な』は、生物学的液体に可溶であるか又は懸濁可能な能力を意味する。バイオ再吸収可能なは、生物体の細胞、組織又は液体によって取り上げられ得る能力を意味する
【0018】
原則として、本発明に好適な生分解性ポリマーは、医学の分野で用いることができるいかなるポリマーも含まれ、例えば、組織工学の分野において既に確立されているポリマーに加えて、硬膏(plaster)及び活性化合物インプラントなどの活性化合物放出装置で確立されつつあるポリマーも含まれる。
【0019】
好適な天然ポリマーとして、例えばアルブミン、フィブリノーゲン、コラーゲン及びゼラチンなどのポリペプチド、並びにキチン、キトサン、アルギン酸塩(alginate)及びアガロースなどの多糖類が含まれる。これらの天然ポリマーは、好適に修飾されてもよい。例えばコラーゲンが架橋されたタンパク質などである。
【0020】
好適な合成ポリマーとして、例えば、特定のポリ酸無水物類、特定のポリ(セバシン酸−ヘキサデカン二酸)、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリ(オルソエステル)類及び、特に、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)及びポリ(グリコール酸−乳酸)などのポリ(α-ヒドロキシエステル)類が含まれる。よって、本発明のマトリクス及びインプラントは、式(I)の繰返単位を含む生分解性ポリマーをベースとするのが好ましい。
【0021】
【化1】

【0022】
式中、Rは水素又はメチル基である。乳酸ユニットに関しては、L型(Sエナチオマー)が好ましい。上述した、特に好ましいポリマーは、ポリ(グリコール酸−乳酸)であり、そのグリコール酸:乳酸の比がmol%で、99:1〜1:99、好ましくは10:90〜90:10、例えば15:85であるのがよい。
【0023】
2以上のポリマーからなる混合物は、同様に好都合とすることができる。
【0024】
ポリマーの特性に加えて、ポリマーの分子量も、得られるマトリクスの特性を決める。一般に、用いるポリマーの分子量が増加すると、マトリクスの多孔度が減少することが適用される。これは、特に、マトリクスを調製する際、材料が発泡されるとき、即ち初期段階でポリマー中に溶解し圧力を下げたときに孔が形成されるCOなどのガスと共に加圧下で加えられるときに、これが適用される。
【0025】
また、用いるポリマーの結晶化度は、得られるマトリクスの特性に影響を及ぼす。本ケースにおいて、結晶化度が減少すると、得られるマトリクスの多孔度が増加することが適用される。このため、アモルファスポリマーが好ましく、特に、高多孔度のマトリクスの場合に特に好ましい。この面は、マトリクスの調製に際して材料を発泡させるときに、特に重要である。
【0026】
さらに、本発明は、生分解性ポリマーをベースとする多孔性マトリクスに関し、該マトリクスの表面が少なくとも1種の細胞外マトリクスタンパク質でコーティングされている多孔性マトリクスに関する。
【0027】
細胞外マトリクスタンパク質は公知である。本発明に好ましいものは、コラーゲン類、特にI型及びIV型のコラーゲン、ラミニン及びフィブロネクチンである。これらのタンパク質は、それ自体公知の方法で精製物として調製することができるか、又は市販入手できる。ある態様として、本発明のマトリクスのコーティングは、細胞外マトリクスタンパク質としてフィブロネクチンを含む。他の態様として、本発明のマトリクスのコーティングは、細胞外マトリクスタンパク質として、I型コラーゲン、ラミニン及びIV型コラーゲンの混合物を含み、好ましくは、本ケースにおいて、等重量%でこれらのタンパク質を含む混合物であるのがよい。
【0028】
本発明によると、特に好ましいのは、上述のようにコーティングされたマトリクスであって、以下の追加される評価基準の少なくとも1つを満たすマトリクスである。
【0029】
・マトリクスの孔が、上記特定の孔径又は細孔径分布を示す。
・多孔度の度合いが93〜98%である。
・生分解性ポリマーが、上記した天然又は合成ポリマーのうちの1種であり、特に乳酸含量が約85mol%であり且つグリコール酸含量が約15mol%であるポリ(グリコール酸−乳酸)であるのがよい。
【0030】
このようにコーティングしたマトリクスは、未コーティングのマトリクスを、コーティングのためのタンパク質又はタンパク質混合体を含む溶液に浸漬し、その後、溶液で濡れたマトリクスを乾燥させることにより、得ることができる。この点において、コーティングするマトリクス体の寸法に依存して、溶液は、マトリクス体の外側を濡らす一方、マトリクス体の内部へは比較的少量のみしか入り込まない。このため、マトリクスの表面全体が均一にコーティングされないが、その代わり、コーティング密度は、外側から内側へと徐々に減少する結果をもたらす。
【0031】
コーティングに代えて、またはコーティングに加えて、生物学的活性物質をポリマー又はポリマーに取り込むか又はポリマーに結合させることができる。これらの物質として、例えば、細胞成長、細胞移動、細胞分割、細胞分化及び/又は組織成長に影響を及ぼすかもしくは治療効果、予防効果又は診断効果を有する、合成活性化合物(無機又は有機分子)、タンパク質、多糖類及び他の糖類、脂質及び核酸が挙げられる。例として挙げることができるものとして、血管作用活性化合物、神経刺激性活性化合物、ホルモン類、成長因子、サイトカイン、ステロイド、抗凝血薬、抗炎症性活性化合物、免疫調節活性化合物、細胞毒性活性化合物、抗生物質及び抗ウイルス活性化合物がある。
【0032】
本発明は、生物許容ポリマー又はポリマー混合物をベースとする多孔性マトリクスの調製方法であって、ある特定の粒径を有するポリマー粒子及び塩化ナトリウム粒子からなる混合物を圧縮し、その後、塩化ナトリウムが溶出される方法に関する。
【0033】
粒径が約20〜950μm、好ましくは約20〜760μm、特に約108〜250μmの範囲であるポリマー粒子、及び粒径が約90〜670μm、好ましくは約110〜520μm、特に約250〜425μmの範囲である塩化ナトリウム粒子は、所望の孔径又は細孔径分布を確立するのに好都合であることが証明されている。さらに、ポリマー粒子:塩化ナトリウム粒子の重量比が1:100〜1:10、好ましくは1:50〜1:15、特に約1:20〜1:18の範囲であると、所望の多孔度を確立するのに好都合であることが証明されている。
【0034】
さらに、ある特定の粒径分布を有する塩及びポリマーを用いるのが好都合であることが証明されている。マトリクスを調製するのに用いられる塩化ナトリウムに関する限り、塩の量は、250〜320μmの粒径が約15〜50%、好都合には約18〜42%、好ましくは約22〜28%であり;330〜380μmの粒径が約20〜65%、好都合には約30〜52%、好ましくは約42〜46%であり;390〜425μmの粒径が約15〜62%、好都合には約25〜42%、好ましくは約29〜33重量%であるのが好都合である。パーセンテージの値は、調製に用いる塩の全重量に対するものである。これは、これによって上記の粒径及び/又は下記の特定の範囲のフラクションを除外しない。
【0035】
ある特別の態様として、粒径が108〜140μmである塩化ナトリウム粒子の含量が1〜15重量%、好ましくは4〜12重量%、特に7〜9重量%であり、粒径が145〜180μmである塩の含量が1〜11重量%、好ましくは3〜9重量%、特に5〜7重量%であり、粒径が185〜220μmである塩の含量が3〜21重量%、好ましくは7〜17重量%、特に10〜14重量%であり、粒径が225〜250μmである塩の含量が1〜11重量%、好ましくは3〜9重量%、特に5〜7重量%であり、粒径が250〜320μmである塩の含量が15〜50重量%、好ましくは18〜42重量%、特に22〜28重量%であり、粒径が330〜380μmである塩の含量が15〜50重量%、好ましくは18〜42重量%、特に22〜28重量%であり、粒径が390〜425μmである塩の含量が5〜29重量%、好ましくは10〜24重量%、特に15〜19重量%であることが好都合であることが証明されている。
【0036】
マトリクスを調製するのに用いられるポリマーに関する限り、粒径が108〜140μmであるポリマーの含量が約5〜50重量%、好都合には約10〜30重量%、好ましくは約14〜18重量%であり;粒径が145〜180μmであるポリマーの含量が約10〜55重量%、好都合には約15〜40重量%、好ましくは約20〜24重量%であり;粒径が185〜220μmであるポリマーの含量が約18〜88重量%、好都合には約32〜76重量%、好ましくは約43〜49重量%であり;粒径が225〜250μmであるポリマーの含量が約5〜45重量%、好都合には約10〜28重量%、好ましくは約14〜18重量%である;のが好都合である。パーセンテージの値は、調製に用いるポリマーの全重量に対するものである。
【0037】
所望の粒径分布の塩粒子及び/又はポリマー粒子を得るために、市販入手可能な製品をまず粉砕するのが、概して好都合である。これは、この目的のために一般的な装置、例えば、衝撃システム又は細砕機で行うことができる。しかしながら、所望の粒径分布を測定するのに、次いで、分析スクリーニングに用いられるスクリーニングを用いる。
【0038】
圧縮は、圧力の作用により行うのが好ましい。このため、ポリマー/塩化ナトリウム混合物を、従来の油圧プレス機で、約780〜1450psi、好都合には約840psi〜約1230psi、特に約900psi〜1100psiの範囲のラム圧で、プレスすることができる。約10〜360秒間、好都合には約40〜180秒間、特に約50〜70秒間、18〜25℃の温度範囲で、圧力を作用させるのが好都合であることが証明されている。
【0039】
塩化ナトリウムは、例えば、水又は水溶液を用いて溶出される。まず、圧縮混合物(マトリクスブランク)を、約1〜80時間、好都合には約12〜62時間、特に約36〜60時間、浸漬するのがよい。
【0040】
なお、塩化ナトリウムを溶出させる前に、圧縮混合体を、まず、CO雰囲気下で保存するのがよい。よって、例えば、圧縮混合物を、約140〜1650psi、好都合には約360〜1120psi、特に約800〜900psiの範囲のCO圧力下で、1〜180時間、好都合には3〜60時間、特に12〜60時間、ガス化するのがよく、この点が好都合であることが証明されている。その後、孔形成に影響を与える速度で圧力を下げる。COを用いるのが好ましいが、空気、窒素、ヘリウム、ネオン、クリプトン、アルゴン、キセノン又は酸素などの他のガスも同様に好適である。次いで、水又は水溶液を、乾燥のため、それ自体公知の方法で除去する。これを達成するために、マトリクスを、例えば吸収紙上に置くのがよい。
【0041】
好ましい態様として、圧縮を行う前に、ポリマー溶液を、ポリマー粒子及び塩化ナトリウム粒子からなる混合物に加え、該溶媒を除去する。この点に関して、ポリマー粒子及びポリマー溶液は、同じポリマーをベースとするのがよい。しかしながら、ポリマーは、異なるポリマー、特に異なる生分解性を有するポリマーであってもよい。ポリマー溶液を用いることにより、実質上柱を支えているものがマトリクス中に建てられ、これがマトリクスの機械特性を向上させるという長所を有する。特に、この特質のマトリクスは、もろく崩れる傾向は示さない。
【0042】
用いられる溶媒は、ポリマーを溶解するが、塩は溶解しない。これにより、塩の孔生成特性(porogenic
property)に影響を及ぼさないか又は悪影響さえ及ぼさないことが保証される。アセトン、酢酸エチル、塩化メチレン、クロロホルム、ヘキサフルオロイソプロパノール、塩素化及びフッ素化脂肪族及び芳香族炭化水素、テトラヒドロフラン、エチルメチルケトン、ジエチルケトン及びこれらの混合物が、例えば、上述のポリマーを溶解させるのに好適である。クロロホルムは、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)又はポリ(グリコール酸−乳酸)に対して特に好適であり、医学用途の観点からも好適である。
【0043】
ポリマー溶液とポリマー粒子/塩粒子混合体とを混合することにより、その後、溶媒を除去すると即座に固体となる攪拌可能なペーストがまず得られる。溶液中のポリマー濃度は、一方で、ポリマーが完全に溶解するように選択されるのが好都合であり、他方、溶媒は、ポリマー粒子が重大となる程度まで溶解し始めないように、即座に除去されるのがよい。
【0044】
ポリマー粒子:溶解ポリマーの重量比が10:1〜1:100、好都合には2:1〜1:25、特に1:1〜1:10であるのが有益であることが証明されている。
【0045】
ポリマー粒子:塩化ナトリウム粒子の重量比に関する限り、この態様の範疇において、塩化ナトリウムに関して高い重量比、例えば1:200、1:500又は1:1000であり、全ポリマー:塩化ナトリウムの重量比が1:100を越えるものを選択することができる。このようにすると、98%を越える多孔度を得ることができる。
【0046】
上述の方法において、塩化ナトリウムは、孔生成材料として作用する。これは、定義として、マトリクス形成ポリマーと結合して混合物を生じ、その後、該混合物から除去され、結果として穴の形成が得られる、固体材料又は少なくとも半固体材料として理解される。このため、孔生成材料が、少なくとも1つの溶媒に可溶であり、少なくとも1つのさらなる溶媒には本質的に不溶であるのが好都合である。材料は、特に、30重量%未満、好ましくは20重量%未満、特に10重量%未満、例えば、5重量%未満、4重量%未満、3重量%未満、2重量%未満、1重量%未満であるとき、本質的に不溶であり、処理条件下、即ち、概して18〜25℃、雰囲気圧下において、可溶である。
【0047】
得られるマトリクスの構造及び特性は、それらを調製するのに用いられる孔生成材料によって本質的に決まる。この点に関して、孔生成材料の特性だけでなく、孔生成材料の粒径分布も本質的に重要である。よって、一般に、粒径が増大すると、孔径だけでなく、連通性、即ち互いに連通する穴の網目構造も増大する。マクロ構造又はマクロポーラス構造ともいう、この網目構造は、発泡により得ることができる孔とは区別することができる。これらは概して、独立気泡(closed)であるため、マイクロ構造又はマイクロポーラス構造といわれる構造を形成する。
【0048】
本発明は、生物許容ポリマー又はポリマー混合物をベースとする多孔性マトリクスの調製方法であって、ポリマー粒子、孔生成材料の粒子及びポリマー溶液からなる混合物を圧縮し、その後、孔生成材料を溶出する、上記方法にも関する。
【0049】
この方法は、原則として、前述の特徴に限定されない。よって、ポリマーは、ポリ酸無水物類、ポリ(オルソエステル)類、ポリ(α-ヒドロキシエステル)類、ポリ(エステルアミド)類、ポリアミド類、ポリ(エステルエーテル)類、ポリカーボネート類、ポリアルキレン類、ポリアルキレングリコール類、ポリアルキレンオキサイド類、ポリアルキレンテレフタレート類、ポリビニルアルコール類、ポリビニルエーテル類、ポリビニルエステル類、ポリビニルハライド類、ポリビニルピロリドン類、ポリシロキサン類、ポリスチレン類、ポリウレタン類、セルロース誘導体類並びに(メタ)アクリル酸ポリマー類及びコポリマー類であってもよい。孔生成材料は、水溶性塩、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、糖類(例えば、サクロース、フルクトース及びグルコース)及びこれらの混合物から選択するのが好ましく、この材料は、パラフィン、蜜蝋などの蝋質物質から選択することもできる。原則として、ポリマー、孔生成材料及び溶液を形成するための溶媒は、溶液が溶解形態のポリマー、固体状のポリマー粒子を含み且つ孔生成材料が本質的に溶解しない状態のままでいるように、互いがマッチしなければならない。
【0050】
上述の方法を用いて得ることができるマトリクスは、同様に、本発明の主題の一部である。
【0051】
本発明は、上述のマトリクスを少なくとも1つ及び少なくとも1種の細胞を有するインプラントにも関する。この点において、細胞は、インプラントの目的にしたがって、特に、肝臓細胞、膵臓細胞、脂肪細胞、腸細胞、皮膚細胞、血管細胞、神経細胞、筋肉細胞、甲状腺細胞及び歯根細胞から選択することができる。本発明のインプラントの特別な態様は、肝細胞及び膵臓細胞に関する。
【0052】
本発明は、さらに、生物許容ポリマーをベースとしたマトリクスを少なくとも1つと、少なくとも2つの細胞タイプの細胞を有するインプラントであって、第1の細胞タイプの細胞がヘパトサイトであり、第2の細胞タイプがランゲルハンス島細胞であるインプラントに関する。この主題は、上述のマトリクス、即ち本発明のマトリクスをベースとしたインプラントに制限されない。
【0053】
インプラントの目的、即ち、特に満足すべき機能にしたがって、ヘパトサイトとランゲルハンス島細胞とが特定の比であることが有利である。よって、本発明のある態様は、移植後、膵臓器官と同等の内分泌特性を示すインプラントに関する。ヘパトサイト:ランゲルハンス島細胞の比が約10:3000であることが、このためには有利であることが証明されている。本発明の他の態様は、移植後、肝臓の代謝機能を実行するインプラントに関する。ヘパトサイト:ランゲルハンス島細胞の比が約10:3−200、好都合には10:10−100、特に約10:20−80、特に好ましくは約10:35−45であることが、このためには有利であることが証明されている。
【0054】
このようなインプラントは、概して、ヘパトサイト及びランゲルハンス島細胞の他に、他の細胞、即ち、この細胞の単離に関連して付随して生じる、特に他の肝臓細胞及び膵臓細胞を含むことを注記する。
【0055】
本発明のマトリクスをクローン化するのに用いられる細胞又は細胞混合物は、それ自体公知の方法で得ることができる。自家移植インプラントを産生するために、細胞は、該インプラントが挿入されるべき個体から由来するのが好ましい。よって、好適な組織、例えば肝臓又は膵臓の一部は、概して、個体から除去され、インビトロでマトリクスを接種し且つ培養するために好適な方法で調製される。この点に関して、細胞は、可能な限り高い生命力(vitality rate)を示すことが重要である。
【0056】
肝臓細胞が肝臓組織から得られるのであれば、特に肝硬変の場合、肝臓細胞は結合する厚い組織層に囲まれていることを考慮しなければならない。本発明において、特定の組成の溶液を用いて、可能な限り高い生命力の細胞の一部を含む肝臓細胞を単離することができる。
【0057】
よって、本発明は、NaCl、KCl及びHEPESを含み且つpHが約7.4である水溶性組成物Aに関し、肝臓又は膵臓の一部を灌流するためのその使用に関する。特に、この溶液1000mlは、NaCl約8.3g、KCl0.5g及びHEPES2.38gを含む。灌流は、温度約37℃、流速約30ml/分で実行されるのが好ましい。数分間、特に約5〜120分間、例えば約7分間が、上述の流速で適度に組織部分を灌流するのに十分である。
【0058】
または、肝臓又は膵臓の一部を灌流するのに、エチレングリコール四酢酸(ethylene
glycol tetraacetic acid, EGTA)を含む水溶性組成物A’を用いることもできる。
【0059】
本発明は、さらに、pHが約7.3〜7.4、好ましくは約7.35であり且つNaCl、KCl、HEPES、CaCl、コラーゲナーゼ及びトリプシン阻害剤を含む水溶性組成物Bに関し、肝臓又は膵臓の一部を灌流するためのその使用に関する。この溶液1000mlは、NaCl8.3g、KCl0.5g、HEPES2.38g、CaCl×2HO0.7g、コラーゲナーゼH500mg及びトリプシン阻害剤7.5mgを含むのが好ましい。このケースにおいても、約37℃、流速約30ml/分での灌流が好都合であることが証明されている。数分間、特に約5〜10分間、例えば約6〜7分間が、組織部分を適度に灌流するのに十分である。
【0060】
または、肝臓又は膵臓の一部を灌流するのに、コラーゲナーゼ及びヒアルロニダーゼ(hyaluronidase)を含む水溶性組成物B’を用いることもできる。この溶液1000mlは、コラーゲナーゼ/mlが5〜10U及びヒアルロニダーゼ/mlが5〜10Uを含むのが好ましい。
【0061】
組織部分が最初に組成物Aで処理され、その後、組成物Bで処理されるならば、単離されるべき細胞の生命力にとって好都合である。または、まず組成物A’を用い、次いで組成物B’を用いることができる。
【0062】
灌流からその後、組織部分は、切開され、好適な培地、例えばウィリアムス培地Eで注意深く振盪させることができる。得られる細胞懸濁液がいまだ比較的粗い細胞残渣を含む場合、それをそれ自体公知の方法、例えば細胞懸濁液をナイロンネット(200μm)で濾過することにより、除去することができる。濾液の細胞は、その後、有利であることが証明されている、50g及び4℃での3分間の遠心分離と共に、注意深く、ペレット化することができる。
【0063】
単離された細胞は、それ自体公知の方法でマトリクス上へと載せられる。概して、細胞は、細胞含有溶液としてマトリクス上へと載せられ、その後、細胞がマトリクスに付着するまで、細胞及びマトリクスが、通常は細胞培養条件下でインキュベートされる。1以上の細胞タイプ、例えば、ヘパトサイト及びランゲルハンス島細胞が、マトリクス上へと載せられる場合、異なる細胞タイプが原則として、共同で又は連続的に、載せることができる。特別の態様として、ランゲルハンス島細胞をまず載せ、次いでヘパトサイトを載せる。各々のケースにおいて、載せた後に細胞の少なくとも一部がマトリクスに付着するまでインキュベーションを行う。
【0064】
本発明のマトリクス及びインプラントは、重大な有利性を示す。よって、内部寸法は、マトリクスが細胞で有効にクローン化されることができる。マトリクスは、一方で、自由に形作られるが、他方、外科移植作業に耐え且つ移植部位で作用する機械力に耐えるのに十分な安定性及び剛性を提供する。移植後に始まる、初期の細胞崩壊は限られ、短期間後、移植組織は、意図する機能を引き受けることができる。移植後まもなく、血管又は血管リッチ(blood vessel-rich)肉芽組織、及び神経組織も、インプラントへと増殖し始める。本発明のマトリクスは、生理学的に有害な溶媒、例えばホルムアルデヒドを用いなくとも、調製することができる。これは、それらの溶媒を排除するための特別な方法を要せず、これら溶媒が存在する残量によるダメージがないことを意味する。
【0065】
本発明のマトリクス及びインプラントは、種々の可能性ある用途を有する。述べることができるものとして、特に、医学分野での使用が挙げられる。よって、本発明は、本発明のマトリクス及びインプラントの治療使用に関する。
【0066】
この分野における特別な使用は、組織を合成する分野(組織工学)である。この場合、本発明のマトリクスは、細胞が移動するか及び/又は細胞が付着する足場として、もしくはそれ以上又はそれ以下として作用する。
【0067】
このため、マトリクスを、例えば、インビトロで所望の細胞で接種、即ち細胞含有溶液で処理され、細胞がマトリクスに付着するまでインキュベートすることができる。マトリクスに付着する細胞と共に、このようなマトリクス(本明細書においてインプラントという)は、その後、さらなる工程に付される。例えば、活性化合物の影響下で適切に、例えば細胞をさらに拡張するか又はその特性を修飾する目的のために培養されるか、及び/又は好適な方法、例えば標準条件での氷上又はバイオフローリアクター(bioflow reactor)中で移植されるまで保存される。この使用の情況において、移植が意図されている細胞を、まず単離し、インビトロで、適切に拡張するのがよい。特に、これにより、上述のランゲルハンス島細胞と共に用いるヘパトサイトなど、種々の細胞タイプをマトリクスに適用することができる。
【0068】
インビトロ接種の代わりに、他の可能性として、マトリクス(細胞付着を前もって行わない)を、組織再生が可能な前駆細胞を導入する目的で移植し、損傷を受けた組織へと移動させ、そこで、失われた組織を再生することが挙げられる。このため、マトリクスは、不所望の細胞ではなく、所望の細胞がマトリクスに移動することができるように、構成されなければならない。このような使用は一般に、導出組織再生(guided tissue regeneration, GTR)として述べられている。
【0069】
本発明のマトリクス又は本発明のインプラントは、よって、ヒト又は動物の体を処置するために用いることができる。このため、1つ又はそれ以上のマトリクス、又は1つ又はそれ以上のインプラントは、外科的介入によって処置すべき体へ導入される。インプラントが器官機能を有する細胞を含む場合、又は器官機能を有する細胞が、例えばヘパトサイト又はランゲルハンス島細胞を伴うマトリクスのように、マトリクスへと移動すべき場合、該マトリクス又はインプラントは、例えば、処置すべき個体の腸間膜、皮下組織、腹膜後腔、腹膜前空間又は筋内空間へ移植することができる。
【0070】
原則として、適切な組織置換が必要ないかなる個体も、本発明のマトリクス又はインプラントで処置することができる。これらの個体は概して、その経過が機能組織の損失を含む特異的な障害又は病気を罹患している。これは、器官全体、例えば肝臓又は膵臓に、潜在的に影響を及ぼす。よって、本発明は、特に、慢性的な肝臓又は膵臓欠陥を導く病気を処置することに向けられている。これらの病気として、例えば、成人の慢性肝炎及び胆汁性肝硬変並びに子供の胆道閉鎖症及び先天性代謝欠陥が挙げられる。肝臓移植は、肝臓ガンの場合に示唆され得る。一方、膵臓移植は、特に、糖尿病、特にI型又はII型の糖尿病の各形態の場合に、示唆される。
【0071】
よって、本発明は、個体の移植を行う治療剤を利用可能とする、本発明のマトリクス又は本発明のインプラントの使用に関し、この点に関して、特に、移植によって置換されるべき機能組織の少なくとも部分的損失を罹患する個体を処置する、本発明のマトリクス又は本発明のインプラントの使用に関する。
【0072】
以下の実施例は、本発明を例示するために意図されるものであり、その範囲を制限するものではない。
【実施例1】
【0073】
マトリクスの調製
a)ポリマー溶液を用いない調製
ポリマーペレット(レゾマー(Resomer(登録商標))RG858、べーリンガーインゲルハイム社から入手可能)を液体窒素内で凍結させ、凍結状態で切れ切れに裂いた(デッシュル(Daschle)衝撃システム;12000rpm、2分間)。断片化したポリマー粒子をスクリーニングした。108〜250μmの粒径の粒子をマトリクス調製に用いた。この点に関して、用いたポリマーの16重量%が108〜140μmの粒径を有する一方、用いたポリマーの22重量%が145〜180μmの粒径を有し、用いたポリマーの46重量%が185〜220μmの粒径を有し且つ用いたポリマーの16重量%が225〜250μmの粒径を有する。塩化ナトリウム(通常の塩)をスクリーニングし、粒径が250〜425μmの塩化ナトリウム粒子をマトリクス調製に用いた。この点に関して、用いた塩の25重量%が250〜320μmの粒径を有し、用いた塩の44重量%が330〜380μmの粒径を有し且つ用いた塩の31重量%が390〜425μmの粒径を有する。塩化ナトリウム粒子760mg及びポリマー粒子40mgを互いに混合した。混合物を打抜ダイに導入し、ラム圧1000psiで1分間、油圧プレス機でプレスした。その後、マトリクスブランクをテフロンプレート上に置き、CO雰囲気(850psi)下で24時間、ガス化した。その後、このブランクを24時間浸漬し、内包する塩粒子を溶出させた。最終的に、マトリクスを吸収紙上で12時間乾燥させた。
【0074】
得られたポリマーマトリクスは、多孔度が95±2%であり、走査型電子顕微鏡で測定した孔径が250μm±120μmであった。
【0075】
b)ポリマー溶液を用いた調製
塩化ナトリウム(分析純度)を粉砕し(デッシュル(Daschler)衝撃システム;12000rpm、2分間)、その後、スクリーニングし、108〜425μmの粒径の塩化ナトリウム粒子をマトリクス調製に用いた。この点に関して、用いた塩の8重量%が108〜140μmの粒径を有する一方、用いた塩の6重量%が145〜180μmの粒径を有し、用いた塩の12重量%が185〜220μmの粒径を有し、用いた塩の6重量%が225〜250μmの粒径を有し、用いた塩の25重量%が250〜320μmの粒径を有し、用いた塩の26重量%が330〜380μmの粒径を有し且つ用いた塩の17重量%が390〜425μmの粒径を有する。塩化ナトリウム粒子96gを、実施例1a)に記載したポリマー粒子1gと混合し、その後、溶解したポリマー4gを含むクロロホルム100mlで処理した。このようにして得られた混合物を、45〜65℃で熱し、約25分以内でクロロホルムを蒸発させた。残った塩/ポリマーマトリクスを、その後、ラム圧1000psiで1分間、油圧プレス機でプレスし、次いで、内包する塩粒子を溶出させるために24時間浸漬した。マトリクスをその後、上述のようにガス化し、最終的に吸収紙上で12時間乾燥させた。
【0076】
得られたポリマーマトリクスは、多孔度が96%であった。
【0077】
塩粒子98.5gをポリマー粒子0.5gと混合し、該混合物を、ポリマー1gを含むクロロホルム溶液100mlで処理すると、多孔度が99%であるマトリクスが得られた。
【0078】
塩粒子99.2gをポリマー粒子0.1gと混合し、該混合物を、ポリマー0.9gを含むクロロホルム溶液100mlで処理すると、多孔度が99%であるポリマーマトリクスが得られた。
【実施例2】
【0079】
a)フィブロネクチンでマトリクスをコーティング
実施例1のマトリクスを、ヒト血漿由来フィブロネクチン(シグマ)/mlを3μg含み且つpHが9.4である炭酸緩衝液に浸漬した。約60秒後、マトリクスを溶液から取り上げ、凍結乾燥し、γ−滅菌した。
【実施例3】
【0080】
細胞単離
肝臓の一部を、移植すべき個体から、それ自体公知の方法で、除去した。除去した肝臓の一部をまず、流速30ml/分、37℃で7分間、溶液(NaCl8.3g;KCl0.5g、HEPES2.38gを蒸留水で1000mlにメスアップした。pH7.4)で灌流させた。その後、肝臓の一部を、さらに6〜7分間、流速30ml/分、37℃で、コラーゲナーゼ/トリプシン阻害剤溶液(NaCl8.3g;KCl0.5g、HEPES2.38g;CaCl×2HO0.7g、コラーゲナーゼ(コラーゲナーゼH、べーリンガーマンハイム、マンハイム、ドイツ)500mg;トリプシン阻害剤(ICN、エシュベーゲ(Eshcwege)、ドイツ)7.5mgを蒸留水で1000mlにメスアップした。pH7.35)で灌流させた。灌流が終わりになると、肝臓の一部を切開し、ウィリアムス培地E内で注意深く振盪した。細胞懸濁液を濾過し(ナイロンネット;200μm)、その後、ウィリアムス培地Eで洗浄した。その後、細胞を50g、4℃で3分間、遠心分離させた。トリプトファンブルーを用いて測定した細胞の生命力は95%であった。
【実施例4】
【0081】
細胞クローン化
第1の工程において、実施例2でコーティングを施したマトリクスを、実施例3で述べたように単離したランゲルハンス島細胞でインキュベートした。
【0082】
このため、1ml当たりランゲルハンス島細胞3000個が、M199及びFCS(容量比19:1)からなる溶液混合物中に懸濁した。細胞数を、オリンパス(Olympus)倒立顕微鏡で、0.25mm計数管内で計測することにより求めた。その後、この溶液8〜10mlを、ピペットを用いてマトリクスに塗布した。マトリクス中に残存しない過剰溶液を捨てた。このように処理したマトリクスを、その後、4時間、細胞培地インキュベータに置き、細胞を付着させた。1ml当たり、ヘパトサイト約5.0×10及び非分泌物過膨張性肝臓細胞(non-perenchymatous liver cell)約1.0×10を含む非精製肝臓細胞を含むウィリアムス培地Eからなる溶液を、その後、マトリクスに塗布した。溶液8〜12mlを、ピペットを用いて載せ;マトリクスによって取り上げられない過剰溶液を捨てた。移植前に、マトリクスを1.5時間、氷上に保持することができる。移植を後に計画するならば、マトリクスを5日間まで、バイオフローリアクター内で標準条件で保存することができる。
【実施例5】
【0083】
ヘパトサイトの分泌活性及び増殖速度
ルイスラットを、実施例4で述べたように、細胞クローン化マトリクスで移植した。移植物を、数度にわたって、動物から再度除去し、形態的に検査した。直径15mm厚さ2mmの円盤状の形態を示す移植物中の細胞の数は、移植1ヶ月後、6ヶ月後、12ヶ月後においてそれぞれ、94×10個、140×10個、及び146×10個であった。移植から1ヶ月後に除去した移植物のヘパトサイトは、通常のアルブミン発現を示した。増殖したヘパトサイトは、増殖速度の経過後増加にかかわらず、すべての調製体において観察された。本発明により移植されたヘパトサイトは、標準肝臓調製体に比較して、3倍で増加するBrdUの組み込みを示した。
【実施例6】
【0084】
血管新生
実施例4に述べたマトリクスをさらに研究することにより、これらのマトリクスは、移植からたった1ヶ月で非常な血管新生を示すことがわかった。顕微鏡により、血管がマトリクスに伸び、移植したヘパトサイト及びランゲルハンス島細胞が、適度な毛細化の結果として、移植受容体の心血管システムとの接触を達成していた。
【0085】
さらに、共に移植したランゲルハンス島細胞は、受容者にいかなる低血糖も生じさせないことが観察された。これらの細胞のホルモン分泌特性は、及び受容者自身のラ島細胞のホルモン分泌特性も、フィードバックメカニズムにより多分調節されている。
【実施例7】
【0086】
肝機能の採用
ガン(Gunn)ラットは、特異的な先天性代謝酵素欠陥の結果として、その肝臓がビリルビンと十分に抱合できないため、ヒト・クリグラー−ナジャ(Crigler-Najar)症候群の動物モデルとしてみなされている。結局、非抱合ビリルビンの毒性血漿レベルにより、次に生じる重大なダメージの結果として死がもたらされる。
【0087】
3匹のガンラットを、実施例4で述べた細胞クローン化マトリクスで移植した。マトリクスは、すべて10cmの外部面積を有した。
【0088】
試験動物のビリルビンレベルは、移植後たった4週間で下がった。ビリルビンは今や、抱合されている。3つのケース全てにおいて、抱合ビリルビンを、今も肝臓の胆管内に存在する胆管プローブを用いて、検出することができる。結局、マトリクス中に抱合されたビリルビンを、血液新生的に肝臓へと届き、胆管システムによって肝臓から排除することができる。
【実施例8】
【0089】
ヒトの患者
実施例4で述べた細胞クローン化マトリクスを、著しい肝硬変を罹患する患者の腹腔へ移植した。以下の表1は、移植前の患者の検査室所見をまとめた。
【0090】
【表1】

【0091】
患者1(エチル中毒性肝硬変、以前、数回代償不全になるが今は活性ではない)は、4つのマトリクス(各ケースにおいて、124mm×45mm×5mm)を与えられた。
【0092】
以下の表2は各々、移植後3週間、10週間、20週間の肝臓値をまとめた。
【0093】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物許容ポリマー又はポリマー混合物をベースとした多孔性マトリクスであって、該マトリクスが150μm以下の孔径の孔及び300nm以上の孔径の孔を有し、多孔度が93〜98%であることを特徴とする多孔性マトリクス。
【請求項2】
該マトリクスが130μm以下の孔径の孔を有する請求項1記載のマトリクス。
【請求項3】
該マトリクスが370μm以上の孔径の孔を有する請求項1又は2記載のマトリクス。
【請求項4】
生物許容ポリマーが生分解性ポリマーである前述の全ての請求項のいずれか1項記載のマトリクス。
【請求項5】
生分解性ポリマーが、アルブミン、フィブリノーゲン、コラーゲン、ゼラチン、キチン、キトサン、アガロース、アルギン酸塩などの天然ポリマー及びポリ酸無水物類、ポリ(ε-カプロラクトン)及びポリ(α-ヒドロキシエステル)類などの合成ポリマーから選ばれる前述の全ての請求項のいずれか1項記載のマトリクス。
【請求項6】
生分解性ポリマーが、乳酸含量が約85mol%でありグリコール酸含量が約15mol%であるポリ(グリコール酸−乳酸)である請求項5記載のマトリクス。
【請求項7】
マトリクスの表面が、少なくとも1種の細胞外マトリクスタンパク質でコーティングされている請求項1〜6のいずれか1項記載の多孔性マトリクス。
【請求項8】
前記細胞外マトリクスタンパク質がコラーゲン類、ラミニン及びフィブロネクチンから選ばれる請求項7記載のマトリクス。
【請求項9】
コーティングがフィブロネクチンを含む請求項8記載のマトリクス。
【請求項10】
コーティングがコラーゲンI型、ラミニン及びコラーゲンIV型の混合物を含む請求項8記載のマトリクス。
【請求項11】
前記混合物が重量で約等量のタンパク質を含む請求項10記載のマトリクス。
【請求項12】
生分解性ポリマー又はポリマー混合物をベースとした多孔性マトリクスの調製方法であって、粒径が約20〜950μm、好ましくは約50〜760μm、特に約108〜250μmのポリマー粒子の混合物、及び粒径が約90〜670μm、好ましくは約110〜520μm、特に約250〜425μmの塩化ナトリウムの混合物を圧縮し、その後、塩化ナトリウムを溶出させることを特徴とする上記方法。
【請求項13】
前記塩化ナトリウム粒子混合物は、その粒径が250〜320μmである粒子が15〜50重量%、好ましくは18〜42重量%、特に22〜28重量%であり、その粒径が330〜380μmである粒子が20〜65重量%、好ましくは30〜52重量%、特に42〜46重量%であり、その粒径が390〜425μmである粒子が15〜62重量%、好ましくは25〜42重量%、特に29〜33重量%である、粒子を有する請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記塩化ナトリウム粒子混合物は、
その粒径が108〜140μmである粒子が1〜15重量%、好ましくは4〜12重量%、特に7〜9重量%であり、
その粒径が145〜180μmである粒子が1〜11重量%、好ましくは3〜9重量%、特に5〜7重量%であり、
その粒径が185〜220μmである粒子が3〜21重量%、好ましくは7〜17重量%、特に10〜14重量%であり、
その粒径が225〜250μmである粒子が1〜11重量%、好ましくは3〜9重量%、特に5〜7重量%であり、
その粒径が250〜320μmである粒子が15〜50重量%、好ましくは18〜42重量%、特に22〜28重量%であり、
その粒径が330〜380μmである粒子が15〜50重量%、好ましくは18〜42重量%、特に22〜28重量%であり、
その粒径が390〜425μmである粒子が5〜29重量%、好ましくは10〜24重量%、特に15〜19重量%である、粒子を有する請求項12記載の方法。
【請求項15】
前記ポリマー粒子混合物は、
その粒径が108〜140μmである粒子が5〜50重量%、好ましくは10〜30重量%、特に14〜18重量%であり、
その粒径が145〜180μmである粒子が10〜55重量%、好ましくは15〜40重量%、特に20〜24重量%であり、
その粒径が185〜220μmである粒子が18〜88重量%、好ましくは32〜76重量%、特に43〜49重量%であり、
その粒径が225〜250μmである粒子が5〜45重量%、好ましくは10〜28重量%、特に14〜18重量%である、粒子を有する請求項12〜14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
ポリマー粒子:塩化ナトリウム粒子の重量比が1:100〜1:10、好ましくは1:50〜1:15、特に1:20〜1:18である請求項12〜15のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
圧縮前に、ポリマー溶液を、ポリマー粒子及び塩化ナトリウム粒子からなる混合物に加え、溶媒を除去する請求項12〜16のいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
前記溶媒はポリマーを溶解するが塩を溶解しないことを特徴とする請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記溶媒がアセトン、酢酸エチル、塩化メチレン、クロロホルム、ヘキサフルオロイソプロパノール、塩素化及びフッ素化脂肪族及び芳香族炭化水素、テトラヒドロフラン、エチルメチルケトン、ジエチルケトン及びこれらの混合物から選ばれる請求項18記載の方法。
【請求項20】
ポリマーがポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)又はポリ(グリコール酸−乳酸)であり、溶媒がクロロホルムである請求項19記載の方法。
【請求項21】
ポリマー粒子:溶解ポリマーの重量比が10:1〜1:100、好ましくは2:1〜1:25、特に1:1〜1:10である請求項17〜20のいずれか1項記載の方法。
【請求項22】
圧縮が、圧力の動作により行われる請求項12記載の方法。
【請求項23】
前記圧力が約780〜1450psi、好ましくは約840〜1230psi、特に約900〜1100psiである請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記動作時間が、約10〜360秒、好ましくは約40〜180秒、特に約50〜70秒である請求項22又は23記載の方法。
【請求項25】
動作が行われる温度が、−76〜42℃、好ましくは0〜32℃、特に18〜25℃である請求項22〜24のいずれか1項記載の方法。
【請求項26】
塩化ナトリウムを溶出させるために、水を圧縮混合物に作用させる請求項12記載の方法。
【請求項27】
前記作用時間が、約1〜80時間、好ましくは12〜62時間、特に36〜60時間である請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記水を再度除去する請求項26又は27記載の方法。
【請求項29】
圧縮混合物を最初にCO雰囲気下で保存し、その後塩化ナトリウムを溶出させる請求項12記載の方法。
【請求項30】
CO圧が、約140〜1650psi、好ましくは約360〜1120psi、特に約800〜900psiである請求項29記載の方法。
【請求項31】
保存時間が、約1〜180時間、好ましくは約3〜60時間、特に約12〜36時間である請求項29又は30記載の方法。
【請求項32】
生物許容ポリマー又はポリマー混合物をベースとした多孔性マトリクスの調製方法であって、ポリマー粒子、孔生成材料(porogenic material)の粒子及びポリマー溶液からなる混合物を圧縮し、その後、前記孔生成材料を溶出させることを特徴とする、上記方法。
【請求項33】
ポリマーが、ポリ酸無水物類、ポリ(オルソエステル)類、ポリ(α-ヒドロキシエステル)類、ポリ(エステルアミド)類、ポリアミド類、ポリ(エステルエーテル)類、ポリカーボネート類、ポリアルキレン類、ポリアルキレングリコール類、ポリアルキレンオキサイド類、ポリアルキレンテレフタル酸類、ポリビニルアルコール類、ポリビニルエーテル類、ポリビニルエステル類、ポリビニルハライド類、ポリビニルピロリドン類、ポリシロキサン類、ポリスチレン類、ポリウレタン類、セルロース誘導体類並びに(メタ)アクリル酸ポリマー類及びコポリマー類から選ばれる請求項32記載の方法。
【請求項34】
前記孔生成材料は、水溶性塩から選ばれる請求項32記載の方法。
【請求項35】
前記水溶性塩は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、糖類及びこれらの混合物から選ばれる請求項34記載の方法。
【請求項36】
前記溶液が溶解状態のポリマー及び固体状のポリマー粒子を含む請求項32記載の方法。
【請求項37】
前記溶液は前記孔生成材料を溶解しない請求項32記載の方法。
【請求項38】
請求項11〜37のいずれか1項記載の方法を用いて得ることができるマトリクス。
【請求項39】
請求項1〜11又は38のいずれか1項記載のマトリクス及び少なくとも1つの細胞を有するインプラント。
【請求項40】
生物許容ポリマーをベースとしたマトリクス及び少なくとも2つの細胞タイプの細胞を有するインプラントであって、第1の細胞タイプの細胞がヘパトサイトであり、第2の細胞タイプがランゲルハンス島細胞である、上記インプラント。
【請求項41】
ヘパトサイト:ランゲルハンス島細胞の比が、約10:3000である請求項40記載のインプラント。
【請求項42】
ヘパトサイト:ランゲルハンス島細胞の比が、約10:3〜200、好ましくは約10:10〜100、特に約10:20〜80、特に好ましくは約10:35〜45である請求項40記載のインプラント。
【請求項43】
移植可能なマトリクスを接種するための細胞を得る方法であって、(i)組織の一部を個体から除去し;
(ii)該組織部分を、NaCl、KCl、HEPES、CaCl、コラーゲナーゼ、及びトリプシン阻害剤を含む組成物であってpHが約7.3〜7.4である組成物で処理し;
(iii)必要ならば、処理済組織部分を切開し;
(iv)前記組織部分を適切な媒地内で振盪させ;
(v)得られた細胞懸濁体の少なくとも一部を単離する;上記方法。
【請求項44】
前記組織部分をまず処理し、除去後、NaCl、KCl及びHEPESを含む他の組成物であってpHが約7.4である他の組成物で処理する請求項43記載の方法。
【請求項45】
得られる細胞懸濁体を約50g及び4℃で遠心分離し、細胞ペレットを単離する請求項43記載の方法。


【公表番号】特表2007−527435(P2007−527435A)
【公表日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−508287(P2006−508287)
【出願日】平成16年6月7日(2004.6.7)
【国際出願番号】PCT/EP2004/006140
【国際公開番号】WO2004/108810
【国際公開日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(505448763)ヒューマンオートセル ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】