説明

モータおよびファン

【課題】スラスト部材の周囲に液面が位置するモータにおいて、潤滑油の漏出を容易に防止する。
【解決手段】モータの軸受機構が、シャフト41と、シャフトが挿入されるスリーブ部40と、スリーブ部の下側にてシャフトに固定されたスラストプレート42と、スリーブ部を囲む軸受ハウジング311と、スラストプレートと軸方向に対向するキャップ部材と、を備え、スリーブ部と軸受ハウジングとの間に潤滑油の液面が存在する第1シール部61が構成され、スリーブ部と軸受ハウジングとの間に、または、スリーブ部の外周部内に、前記第1シール部と前記スラスト間隙とを連通する側部連通路64が構成され、スラストプレートと軸受ハウジングとの間の側部微小間隙およびスラストプレートとキャップ部材との間の下部微小間隙により潤滑油の他の液面が存在する第2シール部が構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動式のモータおよびファンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、様々な電子機器の駆動源としてモータが利用される。特開平9−210054号公報に開示されるハードディスク駆動装置のスピンドルモータは、ロータ組と、ステータ組と、を有する。ステータ組は、フレームと、固定軸と、リング状のスラスト板と、を有する。固定軸は、フレームの中央部分に立設される。スラスト板は、固定軸の上端側に固着される。スラスト板の軸方向両端面には、スラスト動圧軸受部が構成される。ロータ組は、ハブと、円筒状のラジアル動圧軸受部と、スラスト押さえ板と、を有する。ラジアル動圧軸受部は、ハブの中心部分に配置される。固定軸は、ラジアル動圧軸受部に挿入される。スラスト板は、ラジアル動圧軸受部の上側に配置される。スラスト押さえ板は、スラスト板の上側にて、ハブにネジ止めされる。
【0003】
ハブの回転時には、ラジアル動圧軸受部と固定軸との間の間隙にて、潤滑剤による動圧によりハブがラジアル方向に支持される。また、スラスト板とラジアル動圧軸受部との間、および、スラスト板とスラスト押さえ板との間の間隙にて、潤滑剤による動圧によりハブがスラスト方向に支持される。ラジアル動圧軸受部と固定軸との間の間隙の下部、および、固定軸とスラスト押さえ板との間の間隙には、毛細管シール部が構成される。
【特許文献1】特開平9−210054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特開平9−210054号公報に開示されるモータでは、2つの毛細管シール部の間にラジアル動圧軸受部およびスラスト動圧軸受部が存在するため、モータの駆動時に、2つの毛細管シール部の間に圧力差が発生しやすい。毛細管シール部からの潤滑剤の漏出を防止するために、モータの各部品を精度よく組み立てる必要がある。このように、スラスト動圧軸受部を有し、かつ、スラスト部材の周囲に液面が位置するモータの場合、潤滑油の液面の変動が大きく、潤滑油の漏出を容易に防止することができない。
【0005】
本発明は、スラスト部材の周囲に液面が位置するモータにおいて、潤滑油の漏出を容易に防止することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の例示的な一の実施形態に係るモータは、ステータを有する静止部と、前記ステータと対向するロータマグネットを有する回転部と、前記回転部を前記静止部に対して回転可能に支持する軸受機構と、を備え、前記軸受機構が、シャフトと、前記シャフトが挿入されるスリーブ部と、前記スリーブ部の下側にて前記シャフトに固定され、外周面の直径が前記スリーブ部の下部の直径よりも大きいスラストプレートと、前記スリーブ部および前記スラストプレートを囲む軸受ハウジングと、前記スラストプレートの下方にて前記軸受ハウジングに固定され、前記スラストプレートの少なくとも外周部と軸方向に対向するキャップ部材と、を備え、前記スリーブ部の内周面と前記シャフトの外周面との間のラジアル間隙にて前記シャフトをラジアル方向に支持するラジアル軸受部が構成され、前記スリーブ部の下面と前記スラストプレートの上面との間のスラスト間隙にてスラスト動圧軸受部が構成され、前記スリーブ部の外周面と前記軸受ハウジングの内周面との間に上方に向かって径方向の幅が漸次増大する第1シール間隙が構成され、前記第1シール間隙に潤滑油の液面が存在する第1シール部が構成され、前記第1シール部の下側にて前記スリーブ部の外周部と前記軸受ハウジングの内周部との間に、または、前記スリーブ部の前記外周部内に、前記第1シール間隙の下部と前記スラスト間隙の外縁部とを連通する側部連通路が構成され、前記スラストプレートの前記外周面と前記軸受ハウジングの前記内周面との間の側部微小間隙および前記スラストプレートの前記外周部の下面と前記キャップ部材の外周部の上面との間の下部微小間隙により第2シール間隙が構成され、前記第2シール間隙に前記潤滑油の他の液面が存在する第2シール部が構成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、モータからの潤滑油の漏出を容易に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、第1の実施形態に係るファンの断面図である。
【図2】図2は、軸受機構の縦断面図である。
【図3】図3は、軸受機構の縦断面図である。
【図4】図4は、軸受機構の横断面図である。
【図5】図5は、軸受機構の縦断面図である。
【図6】図6は、軸受機構の縦断面図である。
【図7】図7は、軸受機構の縦断面図である。
【図8】図8は、軸受機構の横断面図である。
【図9】図9は、スラストプレートの平面図である。
【図10】図10は、軸受機構の縦断面図である。
【図11】図11は、循環経路の模式図である。
【図12】図12は、第2の実施形態に係る軸受機構の縦断面図である。
【図13】図13は、軸受機構の製造工程を示す縦断面図である。
【図14】図14は、他の実施形態に係る軸受機構の縦断面図である。
【図15】図15は、軸受機構の他の例を示す縦断面図である。
【図16】図16は、軸受機構のさらに他の例を示す縦断面図である。
【図17】図17は、軸受機構のさらに他の例を示す縦断面図である。
【図18】図18は、下部微小間隙の他の例を示す縦断面図である。
【図19】図19は、下部微小間隙のさらに他の例を示す縦断面図である。
【図20】図20は、下部微小間隙のさらに他の例を示す縦断面図である。
【図21】図21は、下部微小間隙のさらに他の例を示す縦断面図である。
【図22】図22は、下部微小間隙のさらに他の例を示す縦断面図である。
【図23】図23は、スラストキャップの他の例を示す縦断面図である。
【図24】図24は、スラストキャップのさらに他の例を示す縦断面図である。
【図25】図25は、スラストキャップのさらに他の例を示す縦断面図である。
【図26】図26は、スラストキャップのさらに他の例を示す縦断面図である。
【図27】図27は、スラストキャップのさらに他の例を示す縦断面図である。
【図28】図28は、スラストキャップのさらに他の例を示す縦断面図である。
【図29】図29は、スリーブ部の他の例を示す縦断面図である。
【図30】図30は、スリーブ部のさらに他の例を示す縦断面図である。
【図31】図31は、スリーブ部のさらに他の例を示す縦断面図である。
【図32】図32は、スリーブ部のさらに他の例を示す縦断面図である。
【図33】図33は、循環経路の他の例を示す模式図である。
【図34】図34は、軸受機構のさらに他の例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書では、ファンの中心軸方向における図1の上側を単に「上側」と呼び、下側を単に「下側」と呼ぶ。なお、上下方向は、実際の機器に組み込まれたときの位置関係や方向を示すものではない。また、中心軸に平行な方向を「軸方向」と呼び、中心軸を中心とする径方向を単に「径方向」と呼び、中心軸を中心とする周方向を単に「周方向」と呼ぶ。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る軸流ファン1の断面図である。以下、軸流ファン1を単に「ファン1」という。ファン1は、モータ11と、インペラ12と、ハウジング13と、複数の支持リブ14と、を備える。ハウジング13は、インペラ12の外周を囲む。複数の支持リブ14は、周方向に配列される。支持リブ14を介してハウジング13とモータ11とが接続される。
【0011】
インペラ12は樹脂製であり、略有蓋円筒状のカップ121と、複数の翼122と、を有する。カップ121は、モータ11の外側を覆う。カップ121は、後述のモータ11の回転部2の一部を兼ねている。カップ121は、天面部123と、側壁部124と、筒状のブッシング125と、を有する。天面部123は、中心軸J1に垂直に広がる。側壁部124は、天面部123の外縁部から下方に延びる。ブッシング125は、天面部123の中央の孔内に固定される。複数の翼122は、中心軸J1を中心として側壁部124の外周面から径方向外方に延びる。カップ121および複数の翼122は樹脂の射出成型により一繋がりの部材として構成される。
【0012】
ファン1では、モータ11によりインペラ12が中心軸J1を中心として回転することにより、上方から下方に向かってエアの流れが発生する。
【0013】
モータ11は、アウタロータ型の3相モータである。モータ11は、回転部2と、静止部3と、軸受機構4と、を有する。回転部2は、軸受機構4により静止部3に対して回転可能に支持される。回転部2は、略円筒状の金属製のヨーク21と、ロータマグネット22と、カップ121と、を有する。ヨーク21は、カップ121の内側に固定される。ロータマグネット22は、ヨーク21の内周面に固定される。
【0014】
静止部3は、ベース部31と、ステータ32と、回路基板33と、を有する。ベース部31は、中央から上方に向かって延びる軸受ハウジング311、を有する。軸受ハウジング311は、軸受機構4の一部でもある。ベース部31および支持リブ14は、一繋がりの部材である。ステータ32は、軸受ハウジング311の外周面に固定される。ステータ32は、ロータマグネット22の径方向内側に位置する。ステータ32は、ステータコア321と、ステータコア321上に形成された複数のコイル322と、を有する。ステータコア321は、積層鋼板にて形成される。ステータ32の下部には、回路基板33が固定される。回路基板33に挿入された図示省略のピンにコイル322からの引出線が取り付けられることにより、ステータ32と回路基板33とが電気的に接続される。コイル322の引出線は、回路基板33に直接接続されてもよい。モータ11の駆動時には、ロータマグネット22と、ロータマグネット22に径方向に対向するステータ32との間にて回転力が発生する。
【0015】
回路基板33の上面には、ホール素子331や駆動回路(図示省略)が設けられている。ホール素子331は、ロータマグネット22の下方に位置し、ロータマグネット22の回転に伴う磁束の変化を検知する。そして、その磁束の変化に合わせて出力される電圧に従って、駆動回路によりコイル322に供給される電流の方向が切り替えられる。
【0016】
軸受機構4は、シャフト41と、スリーブ部40と、環状のスラストプレート42と、軸受ハウジング311と、キャップ部材であるスラストキャップ44と、を有する。なお、シャフト41およびスラストプレート42は、回転部2の一部である。スリーブ部40とスラストキャップ44および軸受ハウジング311は、静止部3の一部である。シャフト41は、スリーブ部40に挿入される。シャフト41の上部は、天面部123の中央に設けられたブッシング125に固定される。スリーブ部40およびスラストプレート42は、軸受ハウジング311に囲まれる。
【0017】
図2は、軸受機構4を拡大して示す断面図である。スラストプレート42は、高力黄銅製である。スラストプレート42は、スリーブ部40の下側にて、シャフト41の下部に固定される。スラストプレート42の外周面424aの直径は、スリーブ部40の下部の直径よりも大きい。スラストプレート42の外周部424は、スラストキャップ44に向かって下方に突出する環状の突出部421、を有する。以下、突出部421を「プレート突出部421」という。スリーブ部40は、スリーブ43と、環状の上部プレート45と、を有する。上部プレート45は、スリーブ43の上面433に当接する。スリーブ43は、潤滑油が含浸された金属の焼結体である。スリーブ43の外周面431は、上方に向かって径方向内方に傾斜する傾斜面431a、を有する。
【0018】
スリーブ43の外周部430の上部は、軸受ハウジング311の内周部5に圧入および接着にて固定される。外周部430の下部は、内周部5に圧入にて固定される。以下、軸受ハウジング311の内周部5のうち、スリーブ43の上部に当接する部位を「第1当接部51」という。スリーブ43の下部に当接する部位を「第2当接部52」という。軸受ハウジング311の上部は、環状部551と、円筒部552と、を有する。環状部551は、第1当接部51の上側にて径方向内方に延びる。円筒部552は、環状部551の外縁から上方に延びる。
【0019】
スラストキャップ44は、スラストプレート42の下方にて軸受ハウジング311に固定される。軸方向において、スラストプレート42とスラストキャップ44とが対向する。スラストキャップ44により、軸受ハウジング311の下部が閉塞される。スラストキャップ44は、環状の突出部441と、貫通孔442と、を備える。突出部441は、スラストキャップ44の外周部440にてスラストプレート42に向かって上方に突出する。以下、突出部441を「キャップ突出部441」という。貫通孔442は、キャップ突出部441の内側にてスラストキャップ44を上下方向に貫通する。貫通孔442の内周面には、撥油膜443が構成される。
【0020】
軸受機構4では、スリーブ43の傾斜面431aと軸受ハウジング311の内周面50の第1当接部51よりも下側の面5aとの間に、上方に向かって径方向の幅が漸次増大する間隙61が構成される。以下、間隙61を「第1シール間隙61」と呼ぶ。第1シール間隙61には、毛管現象により潤滑油46を保持する第1シール部61aが構成される。第1シール部61aには、潤滑油46の液面が存在する。スリーブ43の内周面432とシャフト41の外周面411との間には、軸方向に広がるラジアル間隙62が構成される。スラストプレート42の上面422とスリーブ43の下面434との間には、径方向に広がるスラスト間隙63が構成される。
【0021】
図3は、スリーブ43の下部近傍を拡大して示す図である。図4は、軸受機構4を図3の矢印Aの位置にて切断した断面図である。軸受ハウジング311の第2当接部52は、複数の第1溝部531と、複数の第2溝部532と、を有する。第1溝部531および第2溝部532は、第1シール間隙61の下側にて、軸方向に延びる。第1溝部531の径方向の幅は、第2溝部532よりも大きい。軸受機構4では、スリーブ43の外周部430と第2当接部52との間において、第1溝部531が軸方向に延びる第1側部連通路641となる。第2溝部532が軸方向に延びる第2側部連通路642となる。第1側部連通路641の径方向の幅は、第2側部連通路642よりも広い。以下、第1側部連通路641および第2側部連通路642をまとめて「側部連通路64」と呼ぶ。図3に示すように、側部連通路64は、第1シール間隙61の下側に位置し、側部連通路64を介して第1シール間隙61の下部とスラスト間隙63の外縁部631とが連通する。
【0022】
軸受ハウジング311の内周部5は、側部連通路64の下側にて下方に向かって拡径する段差部54、を有する。図5に示すように、軸方向において、段差部54の下面541、すなわち、法線が下方を向く面は、スリーブ43の下面434よりも上方に位置する。段差部54の下面541と、スリーブ43の下面434との間の軸方向の距離H1は、モータ11の静止時において0μm以上300μm以下である。スラストプレート42の外周部424は、段差部54の下面541と軸方向に重なる。
【0023】
図6に示すように、軸受機構4では、スラストプレート42の外周面420と軸受ハウジング311の内周面50の下部との間に微小間隙65が構成される。以下、微小間隙65を「側部微小間隙65」という。プレート突出部421の下面421bと、スラストキャップ44のキャップ突出部441の上面441aとの間に微小間隙66が構成される。以下、微小間隙66を「下部微小間隙66」という。図2に示すように、軸方向において、下部微小間隙66と側部連通路64とが重なる。
【0024】
図6に示すように、軸受機構4では、下部微小間隙66に潤滑油46を保持する第2シール部67aが構成され、潤滑油46の下側の液面が存在する。ただし、モータ11の静止時には、潤滑油46の下側の液面が側部微小間隙65に形成される場合もある。この場合、スラストプレート42の外周面420に、軸方向上方から下方に向けて径方向内方に向けて傾斜する傾斜面を形成することで、潤滑油46の下側の液面を側部微小間隙65に形成することができる。以下、側部微小間隙65および下部微小間隙66をまとめて「第2シール間隙67」と呼ぶ。スラストキャップ44に貫通孔442が設けられることにより、第2シール部67aを大気圧に保つことができる。第2シール間隙67では、プレート突出部421の内周面421aとキャップ突出部441の上面441aとの間の角を二等分する線91から、下部微小間隙66の開口を通り中心軸J1に平行な線J2へと図6における反時計回りに向かう角度θが、およそ135°である。これにより、下部微小間隙66の開口に形成される潤滑油46の液面は、中心軸J1に向かって斜め上方を向く。
【0025】
図7は、スリーブ43の上部近傍を拡大して示す断面図である。スリーブ43の上面は、径方向に延びる上側溝部435、を有する。上側溝部435と上部プレート45との間には、径方向に延びる連通路681が構成される。以下、連通路681を「上部連通路681」と呼ぶ。上部連通路681は、第1シール間隙61とラジアル間隙62とを径方向に連通する。上部連通路681が設けられることにより、スリーブ43の上部から染み出る潤滑油46をラジアル間隙62に導くことができ、スリーブ43の上部からの潤滑油46の漏出を防止することができる。なお、上部連通路681内の潤滑油46が、第1シール間隙61側に流れることもある。ラジアル間隙62の上部には、潤滑油46の上側の液面が構成される。
【0026】
軸受ハウジング311の第1当接部51には、上下方向に延びる切欠部511が設けられる。図8は、図7の矢印Bの位置にて軸受機構4を切断した断面図である。第1当接部51とスリーブ43の外周部430の上部との間において、切欠部511が上下方向に延びる通気路69となる。通気路69を介して図7に示す第1シール間隙61と、スリーブ43の上方の空間とが連絡する。これにより、第1シール間隙61を大気圧に保つことができ、第1シール間隙61内の空気の熱膨張による第1シール間隙61内の液面の位置の変動を防止することができる。
【0027】
図8に示すように、第1当接部51には、切欠部511よりも径方向の幅が小さい複数の微小切欠部515が設けられる。微小切欠部515は、上下方向に延びる。微小切欠部515が設けられることにより、スリーブ43の圧入時に、スリーブ43が軸受ハウジング311から過度に押圧されることが防止される。微小切欠部515は接着剤9にて塞がれる。
【0028】
図7に示すように、第1当接部51の内周面512とスリーブ43の上面433の径方向外側の面取面433aとの間のなす角φ、および、第1当接部51の下面513とスリーブ43の外周面431との間のなす角φは、45°以上である。このように、第1当接部51とスリーブ43とが接触する部位の間のなす全ての角が45°以上であることにより、第1当接部51とスリーブ43の上部との間に毛管現象により潤滑油46が溜まることが抑制される。以下の実施形態においても同様である。
【0029】
図2に示すように、ラジアル間隙62の上方には、ブッシング125が位置する。ブッシング125の下面と環状部551の上面との間に中心軸J1に垂直な方向に広がる横間隙601が構成される。ブッシング125の外周面と円筒部552の内周面との間に軸方向に延びる縦間隙602が構成される。縦間隙602は、中心軸J1を中心とする環状である。ラジアル間隙62は、横間隙601および縦間隙602を介して外部空間に連絡する。ここでの外部空間とは、図1のステータ32の上方の空間を指す。横間隙601および縦間隙602が設けられることにより、気化した潤滑油を含む空気が、軸受機構4の外部へと移動することが抑制される。その結果、軸受機構4内の潤滑油46の蒸発を抑制することができる。
【0030】
図9はスラストプレート42の平面図である。スラストプレート42の上面422には、ヘリングボーン形状のスラスト動圧溝列425、すなわち、頂部425aを周方向に向けて配列された略V字状の複数の溝が構成される。複数の溝のそれぞれでは、頂部425aよりも径方向内側の部位425bの長さが、径方向外側の部位425cよりも長い。図9では、スラスト動圧溝列425にクロスハッチングを付している。モータ11の駆動時には、図2に示すスラスト間隙63において、スラスト動圧溝列425により潤滑油46に対してスラスト動圧を発生するスラスト動圧軸受部63aが構成される。
【0031】
図10に示すように、スラスト間隙63全体に潤滑油46が存在する状態では、潤滑油46に対して径方向外方へと向かう圧力が強く生じる。ただし、潤滑油46が、スラスト間隙63内の外縁部631に偏ることにより、ラジアル間隙62の下部とスラスト間隙63の内縁部632との間に潤滑油46の液面が形成されることがある。この場合、スラスト動圧溝列425の頂部425a近傍にてスラスト間隙63の外縁部631から内縁部632に向かう圧力と内縁部632から外縁部631へと向かう圧力とが釣り合う。
【0032】
軸受機構4では、スパイラル形状の動圧溝列が設けられるものに比べて、スラスト動圧によりスラスト間隙63の周囲の間隙の圧力が上昇することが防止され、潤滑油46の漏出を防止する設計が容易となる。スラスト動圧軸受部63aが構成されることにより、高温環境下にて潤滑油46の粘度が低下する場合や、ファン1の上下が反転して使用される場合であっても、スリーブ43とスラストプレート42とが接触することが防止される。
【0033】
ファン1では、スラスト動圧軸受部63aにより、回転部2が静止部3に対してアキシャル方向に安定して支持される。また、図2に示すラジアル間隙62にて、潤滑油46によりラジアル軸受部62aが構成され、シャフト41がラジアル方向に安定して支持される。ファン1では、流体動圧を利用する軸受機構が用いられることにより、玉軸受を有するファンに比べて、製造コストを抑えることができる。
【0034】
図6に示すように、シャフト41の下部とスラストキャップ44との間には、潤滑油46が存在する。モータ11およびインペラ12に作用する重力が浮上力よりも大きい場合や、モータ11が低速回転する場合は、シャフト41の下部が、スラストキャップ44により安定して支持される。
【0035】
図11は、潤滑油46の循環経路6を示す模式図である。図11の左側では、第1側部連通路641により第1シール間隙61とスラスト間隙63とが連通する。右側では、第2側部連通路642により第1シール間隙61とスラスト間隙63とが連通する。
【0036】
第1側部連通路641の中心位置は、第2側部連通路642の中心位置よりも中心軸J1から離れている。このため、モータ11の駆動時には、潤滑油に働く遠心力の影響により、図11中の矢印92にて示すように、第1側部連通路641の下部から上部へと向かう潤滑油46の流れが発生し、矢印93にて示すように、第2側部連通路642の上部から下部へと向かう潤滑油46の流れが発生する。モータ11では、径方向の幅が異なる第1側部連通路641および第2側部連通路642が設けられることにより、潤滑油46が、スラスト間隙63と第1シール間隙61との間を循環する。これにより、仮に、スラスト間隙63内に気泡が存在しても、気泡を第1シール間隙61を介して軸受機構4の外部へと排出することができる。また、潤滑油46が高温となることによる潤滑油46の劣化が防止され、軸受機構4を長寿命とすることができる。
【0037】
以上、第1の実施形態に係るファン1について説明したが、第2シール間隙67では、第1シール間隙61よりも径方向外側に側部微小間隙65が位置し、下部微小間隙66が、側部微小間隙65の下部から径方向内方に向かう。これにより、モータ11の駆動時に、径方向において、第2シール部67aの位置(液面の位置)を側部連通路64の位置、すなわち、第1シール部61aの奥側の位置と一致させることができる。モータ11では、2つのシール部が径方向にずれて配置されるモータに比べて、第1シール間隙61および第2シール間隙67の液面を所望の位置に安定させることができる。その結果、潤滑油46の漏出を容易に防止することができる。また、スラストプレートの外側の間隙に第2シール部が構成されるモータに比べて、間隙を構成する部材の加工誤差等による影響を受けることなく、側部連通路64と第2シール部67aにおける液面の位置とを径方向に一致させることができる。以下の実施形態においても同様である。
【0038】
ここで、第1シール部61aと第2シール部67aとの間に圧力差が生じた場合における第2シール部67aの潤滑油46の界面の位置について説明する。第1シール部61aと第2シール部67aとの間に圧力差が存在しない状態において、例えば、図6に示す第2シール部67aの界面における第1シール部61aとの圧力差が0Pa、側部微小間隙65における圧力差が2000Paであるとすると、下部微小間隙66では、潤滑油46の界面が形成される位置と側部微小間隙65の下端との間の中間位置における第1シール部61aとの圧力差が1000Pa程度となる。仮に、第2シール部67aの圧力が第1シール部61aの圧力よりも1000Pa高くなったとすると、第2シール部67aの界面は、上記中間位置に形成されることとなる。このように、第1シール部61aと第2シール部67aとの間に圧力差が生じても、側部微小間隙65が第1シール部61aおよび第2シール部67aよりも径方向外方に位置することにより、第2シール部67aにおける潤滑油46の界面の位置が大きく変動してしまうことが防止される。
【0039】
モータ11では、下部微小間隙66を構成する面よりも径方向内側の面の間の角を二等分する線91と、下部微小間隙66の開口を通る中心軸J1に平行な線J2との間の角度が45°以上135°以下であることが好ましい。以下の図18ないし図28においても同様である。これにより、下部微小間隙66に形成される潤滑油46の液面をおよそ径方向内方に向けることができ、衝撃等によりモータ11に対して軸方向に加速度が生じても、潤滑油46の漏出を防止することができる。中心軸J1に垂直な方向に加速度が生じても、第2シール部67aに遠心力が作用するため、潤滑油46の漏出を抑制することができる。潤滑油46の液面の位置の管理も容易となる。その結果、下部微小間隙66の軸方向の幅をある程度大きくして潤滑油46を多く保持することができる。側部微小間隙65に動圧発生部が設けられないことから、側部微小間隙65を構成する部品の設計が容易となる。
【0040】
第1シール間隙61が、スリーブ43と軸受ハウジング311との間に設けられることにより、第1シール間隙61の軸方向の長さおよび周方向の長さを確保することができる。これにより、第1シール間隙61の体積を十分に確保することができ、軸受機構4内に潤滑油46を十分に保持することができる。
【0041】
さらに、スリーブ43と軸受ハウジング311との間に第1シール間隙61が構成されることにより、第1シール部61aと第2シール部67aとの間の軸方向における距離を短くすることができる。その結果、重力の影響による第1シール部61aおよび第2シール部67aにおける液面の変動を抑えることができる。第1シール部61aが、第1シール間隙61の奥深くに形成されるため、モータ11に衝撃が加わっても、第1シール間隙61内の潤滑油46が軸受機構4の外部に飛散することが防止される。第1シール間隙61がスリーブ43の径方向外側に存在するため、スリーブ43の軸方向の長さを確保することができる。
【0042】
図6に示すように、スラストキャップ44にキャップ突出部441が設けられることにより、下部微小間隙66と、下部微小間隙66の径方向内側に位置する貫通孔442との間に段差441bが形成される。その結果、仮に、潤滑油46が下部微小間隙66よりも径方向内方に移動しても、表面張力によって潤滑油46の移動が段差441bにて止まり、貫通孔442からの潤滑油46の漏出を防止することができる。スラストキャップ44の貫通孔442内に撥油膜443が存在するため、貫通孔442からの潤滑油46の漏出をより確実に防止することができる。
【0043】
スラストプレート42が高力黄銅製であることにより、スラストプレート42の耐摩耗性を向上することができる。モータ11の製造コストを低減することもできる。スリーブ43が金属の焼結体であるため、モータ11の製造コストをより低減することができる。スリーブ43に潤滑油46が含浸されていることから、ラジアル間隙62やスラスト間隙63に常に潤滑油46を供給することができ、スリーブ43と、シャフト41およびスラストプレート42とが接触することを確実に防止することができる。その結果、スリーブ43と、シャフト41およびスラストプレート42との間の焼き付きやこれらの部材の摩耗を防止することができ、軸受機構4を長寿命とすることができる。モータ11の高速回転化も可能となり、ファン1の高風量化を図ることができる。
【0044】
軸受機構4では、シャフト41の外周面411およびスリーブ43の内周面432の一方にラジアル動圧溝列を設けることにより、ラジアル間隙62にて潤滑油46に対してラジアル方向に流体動圧を発生するラジアル動圧軸受部が構成されてもよい。これにより、モータ11をより高速にて回転することができる。オイルホワールやオイルホイップ等の自励振動を抑制することができる。シャフト41およびスリーブ43の摩耗も低減することができる。
【0045】
スラスト間隙63では、スラスト動圧溝列が、スリーブ43の下面434に設けられてもよい。以下の実施形態においても同様である。ただし、以下の図14に示す場合を除く。
【0046】
(第2の実施形態)
図12は、第2の実施形態に係るモータ11の軸受機構4の下部を示す図である。図12では、軸受機構4の上下を反転して示している。軸受機構4は、金属のスリーブ43a、を有する。ただし、スリーブ43aには、潤滑油46が含浸されていない。第2の実施形態に係るモータ11の他の構造は、第1の実施形態と同様である。以下、同様の構成には、同符号を付す。
【0047】
スラストプレート42の下部、すなわち、図12における上側の部位は、プレート突出部421の径方向内側にて、図12の下側、すなわち、スラストプレート42の上部側に向かって窪む環状の凹部429、を有する。凹部429は、スラストキャップ44の貫通孔442と軸方向に対向する。貫通孔442は、側部連通路64よりも径方向内側に位置する。
【0048】
軸受機構4を製造する際には、まず、軸受機構4の各部品が組み立てられ、その後、スラストキャップ44が軸受機構4の下方から上方に向けられる。次に、貫通孔442を介して、凹部429内に潤滑油46が注入される。凹部429内に潤滑油46が十分に保持されると、シャフト41およびスラストプレート42が中心軸J1を中心として回転される。このとき、潤滑油46は遠心力により第2シール間隙67および第1シール間隙61に流入する。
【0049】
所定時間経過後、シャフト41およびスラストプレート42の回転が停止される。第1シール間隙61および第2シール間隙67内の潤滑油46は、スラスト間隙63全体およびラジアル間隙62全体に広がる。なお、シャフト41の下部、すなわち、図12における上部と、スラストキャップ44との間には、別途潤滑油46が注入される。
【0050】
第1シール間隙および第2シール間隙に直接潤滑油を注入する場合、潤滑油の注入途上において、シール間隙における潤滑油の表面張力とスラスト間隙等の他の間隙に流入した潤滑油の表面張力との差が100Pa程度しかないため、間隙全体に潤滑油46が広がるまでに長時間を要する。軸受機構内に潤滑油46が十分に広がらない場合もある。これに対し、軸受機構4では、遠心力を利用することにより、潤滑油46に対して数千Pa程度の圧力が作用し、潤滑油46を軸受機構4内に短時間かつ容易に充填することができる。その結果、軸受機構4の製造コストを低減することができる。貫通孔442が、側部連通路64よりも径方向内側に位置することにより、貫通孔442から潤滑油46が漏れることが防止される。
【0051】
軸受機構4では、潤滑油46の液面を構成する部位が複数箇所設けられるため、液面を構成する部位が1箇所のみに設けられるものに比べて、潤滑油46の充填を容易に行うことができる。軸受機構4内に気泡が残留することを抑制することもできる。真空状態にてシール間隙内に潤滑油を注入する手法に比べて、軸受機構4を容易かつ安価に製造することができる。軸受機構4の製造では、潤滑油46が充填された後に軸受機構4の慣らし運転、いわゆる、エージングが行われてもよい。これにより、軸受機構4内の気泡をより確実に排出することができる。
【0052】
軸受機構4の製造では、スリーブ43a、軸受ハウジング311およびスラストキャップ44を回転することにより、潤滑油46が軸受機構4の間隙内に充填されてもよい。この場合、貫通孔442が、側部連通路64および第1シール間隙61よりも径方向内側に設けられる。これにより、貫通孔442から潤滑油46が溢れることが防止される。また、軸受機構4全体を回転させて、潤滑油46が充填されてもよい。
【0053】
第2の実施形態では、図13に示すように、軸受機構4内に潤滑油46を注入する際に、シャフト41の先端面およびスラストプレート42の下面427と、スラストキャップ44の上面446との間に潤滑油46を保持させ、遠心力を利用して第2シール間隙67に潤滑油46を流入させてもよい。これにより、1回の注入工程にて、軸受機構4内の間隙およびシャフト41とスラストキャップ44との間の隙間に潤滑油46を充填することができる。第2の実施形態では、第2シール間隙67への潤滑油46の注入と共にラジアル間隙62の上部から潤滑油46が注入されてもよい。
【0054】
(他の実施形態)
図14は、軸受機構4の他の例を示す図である。スリーブ部40は、スリーブ43の下面434に当接する環状の下部プレート471、をさらに備える。スリーブ43の下部は、径方向へ延びる下側溝部436、を有する。軸受機構4の他の構造は、第1の実施形態と同様である。下側溝部436と下部プレート471との間に径方向に延びる連通路682が構成される。以下、連通路682を「下部連通路682」と呼ぶ。下部プレート471の下面471aとスラストプレート42の上面422との間にスラスト間隙63が構成される。スラスト動圧溝列は、下部プレート471の下面471aまたはスラストプレート42の上面422の一方に形成される。
【0055】
下部連通路682は、スラスト間隙63の外縁部631と内縁部632とを連絡する。モータ11の駆動時には、潤滑油46が、スラスト間隙63の内縁部632から外縁部631に向かって流れる。さらに、潤滑油46は、下部連通路682の外縁部から内縁部に向かって流れ、スラスト間隙63の内縁部632へと戻る。このように、潤滑油46が、スラスト間隙63および下部連通路682を循環することにより、スラスト間隙63内の気泡を図2の第1シール間隙61を介して軸受機構4の外部に容易に排出することができる。なお、潤滑油46の循環方向は逆向きでもよい。但し、この場合、径方向内方に動圧が発生するように、スラスト動圧溝列が、ポンプイン形状となっている。図15ないし図17においても同様である。
【0056】
図15は、下部連通路682の他の例を示す図である。スラストプレート42の上部は、径方向に延びる溝部423、を有する。スラストプレート42の上面422には、環状のプレート部材472が配置され、溝部423とプレート部材472との間において、径方向に延びる下部連通路682が構成される。プレート部材472とスリーブ43との間には、スラスト間隙63が構成される。モータ11の駆動時に、潤滑油46が、スラスト間隙63と下部連通路682との間を循環することにより、スラスト間隙63内に存在する気泡が効率よく排出される。
【0057】
図16は、下部連通路682のさらに他の例を示す図である。スリーブ43の下部は、径方向に延びる貫通孔439、を有する。図16では、貫通孔439が下部連通路682の役割を果たし、モータ11の駆動時に、潤滑油46が、貫通孔439とスラスト間隙63との間を循環する。図17は、下部連通路682のさらに他の例を示す図である。スラストプレート42の上部に径方向に延びる貫通孔426が設けられる。貫通孔426は、下部連通路682としての役割を果たす。
【0058】
図18は、軸受機構4のさらに他の例を示す図である。スラストキャップ44は、スラストプレート42に向かって突出するキャップ突出部444、を有する。スラストプレート42のプレート突出部421は省略される。第2シール間隙67では、キャップ突出部444とスラストプレート42の下面427との間に、下部微小間隙66が構成される。下部微小間隙66には、潤滑油46を保持する第2シール部67aが構成され、潤滑油46の液面が位置する。図18に示す場合であっても、潤滑油46の液面が径方向内方を向くことから、モータ11に衝撃等が加わっても潤滑油46の漏出を抑制することができる。
【0059】
図19は、下部微小間隙66の他の例を示す図である。スラストプレート42は、スラストキャップ44に向かって突出するプレート突出部428、を有する。プレート突出部428は、下面428aと、下面428aから径方向内方に向かって上方に傾斜する傾斜面428bと、を有する。スラストキャップ44は、スラストプレート42に向かって突出するキャップ突出部445、を有する。キャップ突出部445は、上面445aと、上面445aから径方向内方に向かって下方に傾斜する傾斜面445bと、を有する。
【0060】
プレート突出部428の下面428aとキャップ突出部445の上面445aとの間に下部微小間隙66が構成される。下部微小間隙66には、第2シール部67aが構成される。傾斜面428b,445bの間に構成される間隙60は、下部微小間隙66から径方向内方に向かって、軸方向の幅が漸次広がる。間隙60が設けられることにより、潤滑油46が径方向内方に移動しても、毛管現象により間隙60内に保持される。これにより、潤滑油46の漏出がより確実に防止される。
【0061】
図20は、下部微小間隙66のさらに他の例を示す図である。スラストキャップ44の上面446に、外縁部446aから径方向内方に向かって上方に向かう傾斜面446bが設けられる。傾斜面446bの一部および外縁部446aとプレート突出部421との間に下部微小間隙66が構成される。傾斜面446bが存在することにより、スラストキャップ44の貫通孔442の上側の開口が、下部微小間隙66よりも上側に位置し、貫通孔442からの潤滑油46の漏出を防止することができる。
【0062】
図21は、下部微小間隙66のさらに他の例を示す図である。スラストプレート42の下面427に、外縁部427aから径方向内方に向かって下方に向かう傾斜面427bが設けられる。傾斜面427bの一部および外縁部427aとキャップ突出部444との間に下部微小間隙66が構成される。
【0063】
軸受機構4では、図22に示すように、傾斜面428bを含むプレート突出部428と、傾斜面を含まないキャップ突出部444との間に下部微小間隙66が構成されてもよい。以上のように、軸受機構4では、様々な形状のプレート突出部とキャップ突出部とが組み合わされて下部微小間隙66が構成されてよい。また、プレート突出部を有しないスラストプレート42の下面427とキャップ突出部との間に下部微小間隙66が構成されてもよく、キャップ突出部を有しないスラストキャップ44の上面446とプレート突出部との間に下部微小間隙66が構成されてもよい。すなわち、スラストプレート42とスラストキャップ44の少なくとも一方の部材の外周部が、他方の部材に向かって突出する環状の突出部、を備え、突出部と当該他方の部材との間に下部微小間隙66が構成される。
【0064】
図23は、軸受機構4の他の例を示す図である。スラストキャップ44の貫通孔442を含む中央部に、上方に向かって突出するキャップ突出部447が設けられる。キャップ突出部441が存在することにより、貫通孔442と下部微小間隙66との間に段差447aが形成され、貫通孔442からの潤滑油46の漏出を防止することができる。また、軸受機構4では、潤滑油46の漏出を防止するために、図24に示すように、スラストキャップ44の上面446に環状の突起部448が設けられてもよく、図25に示すように、環状の溝部449が設けられてもよい。
【0065】
図26は、スラストキャップ44の貫通孔の他の例を示す図である。スラストキャップ44は、内周面の直径が上方に向かって漸次減少する貫通孔442a、を有する。貫通孔442aでは、毛管現象により潤滑油46の漏出がより確実に防止される。また、貫通孔442aの内周面に撥油剤を塗布する際に、撥油剤が内周面全体に容易に広がる。
【0066】
軸受機構4では、図27に示すように、スラストキャップ44の貫通孔442内に、撥油性を有する筒状部材481が取り付けられてもよい。これにより、貫通孔442からの潤滑油46の漏出を防止することができる。また、図26の貫通孔442a内に、図28に示すように、上方に向かって幅が漸次減少する撥油性を有する筒状部材482が取り付けられてもよい。貫通孔442aの内周面の径が上方に向かって漸次減少するため、筒状部材482を貫通孔442aに取り付ける際に、軸方向における筒状部材482の位置決めが不要となる。
【0067】
図29は、軸受機構4のさらに他の例を示す図である。スリーブ43の外周部430の下部は、径方向外方に突出する突出部437、を有する。突出部437は、突出部437を上下方向に貫通する複数の側部連通路643、を有する。側部連通路643を介して第1シール間隙61とスラスト間隙63とが連通する。図29では、図3および図4と同様に、径方向の幅が異なる複数種類の側部連通路が設けられてよく、これにより、第1シール間隙61とスラスト間隙63との間にて潤滑油46を循環させることができる。
【0068】
図30は、スリーブ部40の他の例を示す図である。スリーブ部40では、上部プレート45の径方向内側の内端部451が下方に曲げられる。これにより、上部連通路681内の潤滑油46をラジアル間隙62へとより容易に導くことができる。なお、内端部451の傾きは、スリーブ43の上部の径方向内側の面取面438の傾きよりも小さいことが好ましい。軸受機構4では、スリーブ部40が、潤滑油が含浸された金属の1つの焼結体にて形成されてもよい。この場合、図31に示すように、スリーブ43の上部に十分に深い上側溝部435を設けることにより、スリーブ43の上部から染み出る潤滑油46をラジアル間隙62に導くことができる。このように、図31では、上側溝部435が上部連通路としての役割を果たし、スリーブ43の上部からの潤滑油46の漏出を防止することができる。
【0069】
図32は、軸受機構4のさらに他の例を示す図である。軸受ハウジング311の第1当接部51は、スリーブ43の上面433と軸方向に当接する軸方向当接部514、をさらに備える。軸方向当接部514が設けられることにより、軸受ハウジング311に対するスリーブ43の軸方向における位置決めを容易に行うことができる。
【0070】
図33は、側部連通路の他の例を示す循環経路6の模式図であり、図11に対応する。軸受機構4には、径方向において中心軸からの距離が異なる複数の側部連通路643,644が設けられてもよい。モータ11の駆動時に、遠心力の影響により、図33中に矢印92にて示すように、中心位置が中心軸J1から遠い側部連通路643の下部から上部へと向かう潤滑油46の流れが発生し、矢印93にて示すように、中心位置が中心軸J1に近い側部連通路644の上部から下部へと向かう潤滑油46の流れが発生する。側部連通路643,644が設けられることにより、潤滑油46を第1シール間隙61とスラスト間隙63との間にて循環させることができる。
【0071】
図34は、軸受機構4のさらに他の例を示す図である。ブッシング125は下部の外縁部に、下方へと延びる外環状部125aを有する。スリーブ43は、シャフト41の周囲にて上方へと突出する内環状部553を有する。ブッシング125の外環状部125aよりも内側の下面と内環状部553の上面とにより、中心軸J1に垂直な方向に広がる横間隙601が構成される。外環状部125aの内周面と内環状部553の外周面とにより、中心軸J1を中心とする環状であって軸方向に延びる縦間隙602が構成される。横間隙601および縦間隙602が構成されることにより、軸受機構4からの潤滑油46の蒸発を抑制することができる。
【0072】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。例えば、上記実施形態では、スラストキャップ44は、必ずしも、スラストプレート42全体と軸方向に対向する必要はない。スラストプレート42の少なくとも外周部424と軸方向に対向することにより、下部微小間隙66を構成することができる。上記実施形態では、スラストキャップ44の上面446のうち、下部微小間隙66から貫通孔442,442aに至る範囲に撥油膜443が構成されてもよい。これにより、下部微小間隙66からの潤滑油46の漏出をより確実に防止することができる。スラストキャップ44の連通孔442を介して潤滑油46を軸受機構4内に注入する手法は、潤滑油46が含浸されたスリーブ43を有する軸受機構4に利用されてもよい。
【0073】
上記実施形態では、軸受ハウジング311の内周面50に下方に向かって径方向内方に傾斜する傾斜面が設けられ、傾斜面とスリーブ43の外周面431との間に第1シール間隙61が構成されてもよい。インペラ12では、カップ121の天板部が金属にて形成され、側壁部が、樹脂にて形成されてもよい。ヨーク21は、有蓋略円筒状であってもよい。
【0074】
モータ11は、ファン以外にハードディスク駆動装置や光ディスク駆動装置等のディスク駆動装置等に利用されてもよく、他の電子機器に利用されてもよい。
【0075】
上記実施形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、ファンに搭載されるモータに利用可能であり、他の機器のモータとしても利用可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 ファン
2 回転部
3 静止部
4 軸受機構
11 モータ
12 インペラ
22 ロータマグネット
32 ステータ
40 スリーブ部
41 シャフト
42 スラストプレート
43 スリーブ
44 スラストキャップ
45 上部プレート
46 潤滑油
51 第1当接部
52 第2当接部
61 第1シール間隙
61a 第1シール部
62 ラジアル間隙
62a ラジアル軸受部
63 スラスト間隙
63a スラスト動圧軸受部
64,643,644 側部連通路
65 側部微小間隙
66 下部微小間隙
67 第2シール間隙
67a 第2シール部
69 通気路
125 ブッシング
311 軸受ハウジング
421,428 プレート突出部
425 スラスト動圧溝列
435 上側溝部
436 下側溝部
441,444,445,447 キャップ突出部
442,442a,439 貫通孔
443 撥油膜
471 下部プレート
601 横間隙
602 縦間隙
641 第1側部連通路
642 第2側部連通路
681 上部連通路
682 下部連通路
J1 中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータを有する静止部と、
前記ステータと対向するロータマグネットを有する回転部と、
前記回転部を前記静止部に対して回転可能に支持する軸受機構と、
を備え、
前記軸受機構が、
シャフトと、
前記シャフトが挿入されるスリーブ部と、
前記スリーブ部の下側にて前記シャフトに固定され、外周面の直径が前記スリーブ部の下部の直径よりも大きいスラストプレートと、
前記スリーブ部および前記スラストプレートを囲む軸受ハウジングと、
前記スラストプレートの下方にて前記軸受ハウジングに固定され、前記スラストプレートの少なくとも外周部と軸方向に対向するキャップ部材と、
を備え、
前記スリーブ部の内周面と前記シャフトの外周面との間のラジアル間隙にて前記シャフトをラジアル方向に支持するラジアル軸受部が構成され、前記スリーブ部の下面と前記スラストプレートの上面との間のスラスト間隙にてスラスト動圧軸受部が構成され、
前記スリーブ部の外周面と前記軸受ハウジングの内周面との間に上方に向かって径方向の幅が漸次増大する第1シール間隙が構成され、前記第1シール間隙に潤滑油の液面が存在する第1シール部が構成され、
前記第1シール部の下側にて前記スリーブ部の外周部と前記軸受ハウジングの内周部との間に、または、前記スリーブ部の前記外周部内に、前記第1シール間隙の下部と前記スラスト間隙の外縁部とを連通する側部連通路が構成され、
前記スラストプレートの前記外周面と前記軸受ハウジングの前記内周面との間の側部微小間隙および前記スラストプレートの前記外周部の下面と前記キャップ部材の外周部の上面との間の下部微小間隙により第2シール間隙が構成され、前記第2シール間隙に前記潤滑油の他の液面が存在する第2シール部が構成される、モータ。
【請求項2】
前記スラストプレートおよび前記キャップ部材の一方の部材の外周部が、他方の部材に向かって突出する環状突出部、を備え、
前記環状突出部と前記他方の部材との間に前記下部微小間隙が構成され、
前記下部微小間隙が、前記側部連通路と軸方向に重なる、請求項1に記載のモータ。
【請求項3】
前記下部微小間隙から径方向内方に向かって、前記スラストプレートと前記キャップ部材との間の間隙の幅が漸次広がる、請求項2に記載のモータ。
【請求項4】
前記キャップ部材が、前記下部微小間隙よりも径方向内側にて、上下方向に貫通する貫通孔、を備える、請求項1ないし3のいずれかに記載のモータ。
【請求項5】
前記貫通孔の内周面に撥油膜が構成される、請求項4に記載のモータ。
【請求項6】
前記貫通孔の直径が、上方に向かって漸次減少する、請求項4または5に記載のモータ。
【請求項7】
前記スリーブ部の下面と前記スラストプレートの上面のうち、いずれか一方に配置されたスラスト動圧溝列が、頂部を周方向に向けて配列された略V字状の複数の溝を有し、
前記複数の溝の径方向内側の部位の長さが、径方向外側の部位よりも長い、請求項1ないし6のいずれかに記載のモータ。
【請求項8】
前記スリーブ部の下部または前記スラストプレートの上部に、前記スラスト間隙の前記外縁部と内縁部とを径方向に連絡する下部連通路が構成される、請求項1ないし7のいずれかに記載のモータ。
【請求項9】
前記軸受ハウジングが、前記スリーブ部の上部に当接する当接部、を備え、
前記当接部と前記上部との間に、前記第1シール間隙と前記スリーブ部の上方の空間とを連絡する通気路が構成される、請求項1ないし8のいずれかに記載のモータ。
【請求項10】
前記スリーブ部の上部に前記第1シール間隙と前記ラジアル間隙とを連通する上部連通路が構成される、請求項1ないし9のいずれかに記載のモータ。
【請求項11】
前記スリーブ部が、
前記シャフトが挿入されるスリーブと、
前記スリーブの下面に当接する下部プレートと、
を備え、
前記スリーブの前記下面が径方向に延びる下側溝部、を備え、
前記下部プレートと前記下側溝部との間に前記下部連通路が構成される、請求項8に記載のモータ。
【請求項12】
前記スリーブ部が、
前記シャフトが挿入されるスリーブと、
前記スリーブの上面に当接する上部プレートと、
を備え、
前記スリーブの前記上面が径方向に延びる上側溝部、を備え、
前記上部プレートと前記上側溝部との間に前記上部連通路が構成される、請求項10に記載のモータ。
【請求項13】
前記スリーブが、潤滑油が含浸された金属の焼結体である、請求項11または12に記載のモータ。
【請求項14】
前記スリーブ部が、潤滑油が含浸された金属の1つの焼結体である、請求項1ないし10のいずれかに記載のモータ。
【請求項15】
前記スラストプレートが高力黄銅製である、請求項1ないし14のいずれかに記載のモータ。
【請求項16】
前記側部連通路が、前記スリーブ部の前記外周部と前記軸受ハウジングの前記内周部との間に構成され、
前記スリーブ部の前記外周部と前記軸受ハウジングの前記内周部との間に、前記側部連通路よりも径方向の幅が広い他の側部連通路が構成される、請求項1ないし15のいずれかに記載のモータ。
【請求項17】
前記側部連通路が、前記スリーブ部の前記外周部と前記軸受ハウジングの前記内周部との間に構成され、
前記スリーブ部の前記外周部と前記軸受ハウジングの前記内周部との間に、中心軸からの距離が異なる複数の側部連通路を備える、
請求項1ないし15のいずれかに記載のモータ。
【請求項18】
前記ラジアル間隙の上方に位置し、前記シャフトの上部に固定されるブッシング、をさらに備え、
前記軸受ハウジングまたは前記スリーブ部の周面と前記ブッシングの周面との間に、中心軸を中心とする環状であって軸方向に延びる縦間隙が構成され、
前記軸受ハウジングまたは前記スリーブ部の上面と前記ブッシングの下面との間に、前記中心軸に垂直な方向に広がる横間隙が構成され、
前記ラジアル間隙が、前記横間隙および前記縦間隙を介して外部空間と連絡する、請求項1ないし17のいずれかに記載のモータ。
【請求項19】
請求項1ないし18のいずれかに記載のモータと、
前記シャフトに固定され、モータにより回転するインペラと、
を備える、ファン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【公開番号】特開2013−92171(P2013−92171A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232944(P2011−232944)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000232302)日本電産株式会社 (697)
【Fターム(参考)】