説明

モータ制御装置、およびモータ制御プログラム

【課題】シートベルト巻取装置に利用されるモータ制御装置において、モータ配線がショートしていない正常時にショートであると誤判定することを防止できる技術を提供する。
【解決手段】シートベルト制御装置においては、モータの作動時に、デューティ比および被制御値を監視し、デューティ比が予め設定された第1基準デューティ比よりも小さいときにおいて、被制御値が目標値よりも大きな値に設定されたショート基準値を超えたか否かを判定する(S360,S370)。被制御値がショート基準値を超えた場合に、モータ配線がショートしていると判断する。つまり、モータ配線がショートしていない場合には、デューティ比が比較的小さければ被制御値が極端に大きくなることがないという特性を利用して、モータ配線のショートを判断している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータをフィードバック制御するモータ制御装置、およびモータ制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
上記のモータ制御装置として、車両が衝突する可能性が高まったときにシートベルトを巻き上げるシートベルト巻取装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2006/043590号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、シートベルト巻取装置に利用されるモータ制御装置においては、モータやモータを制御する制御回路に大電流が流れることを防止する観点から、モータに電力を供給する配線(モータ配線)のショートを検出する機能が備えられていることが好ましい。
【0005】
モータ配線のショートを検出するには、モータに供給される電流値が閾値を越えるか否かによって検出することが考えられる。しかし、シートベルト巻取装置において、これ以上のシートベルトの巻き取りができなくなったとき等、モータがロックされると、モータ配線がショートしていない正常時であってもモータには一時的に大電流が流れることがあるため、単に電流値が閾値を超えるか否かによってショートを検出する手法では、正常時にもショートであると誤検出をする虞があると考えられる。
【0006】
そこで、このような問題点を鑑み、シートベルト巻取装置に利用されるモータ制御装置において、モータ配線がショートしていない正常時にショートであると誤判定することを防止できる技術を提供することを本発明の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために成されたモータ制御装置において、第1判定手段は、モータの作動時に、デューティ比および被制御値を監視し、デューティ比が予め設定された第1基準デューティ比よりも小さいときにおいて、被制御値が目標値よりも大きな値に設定されたショート基準値を超えたか否かを判定する。そして、ショート検出手段は、被制御値がショート基準値を超えた場合に、モータ配線がショートしていると判断する(請求項1)。
【0008】
なお、本発明において被制御値とは、被駆動対象を駆動させるモータを流れる電流値または該モータに印加される電圧値を表す。
ここでこの種の一般的なモータ制御装置において、モータ配線がショートしていない場合であって、デューティ比が比較的小さいときには、モータが固有の抵抗値やリアクタンスを有するため、モータには大きな電流が流れ難いという特性がある。このため、デューティ比が比較的小さいときには、被制御値についても極端に大きくなることがない。一方で、モータ配線がショートしている場合には、抵抗値やリアクタンスが小さくなり、モータ配線に大きな電流が流れることがある。
【0009】
そこで本発明では、このような特性を利用して、デューティ比が第1基準デューティ比よりも小さいときにおいて、被制御値が目標値よりも大きな値に設定されたショート基準値を超えたか否かに応じて、モータ配線のショートを判断している。
【0010】
従って、このようなモータ制御装置によれば、モータ配線がショートしていないにも拘らず、モータ配線がショートしていると誤判定してしまうことを防止することができる。よって、モータ配線のショートを検出する精度を向上させることができる。
【0011】
ところで、モータ制御装置においては、モータの作動時に、デューティ比を繰り返し監視し、デューティ比が予め第1基準デューティ比よりも大きな値に設定された第2基準デューティ比よりも大きな状態が予め設定された正常判定回数以上連続したか否かを判定する第2判定手段、を備え、ショート検出手段は、第2判定手段によりデューティ比が第2基準デューティ比よりも大きな状態が正常判定回数以上連続したと判定された場合に、第1判定手段による判定結果にかかわらず、モータ配線同士がショートしていないと判断するようにしてもよい(請求項2)。
【0012】
ここで、モータをフィードバック制御する一般的なモータ制御装置においては、検出された被制御値が目標値よりも大きければ被制御値と目標値との差に応じてデューティ比を小さくし、検出された被制御値が目標値よりも小さければデューティ比を大きくするが、モータ配線がショートしていない状態でモータが駆動される際(駆動トルクが小さいとき)には、デューティ比を大きくしてもモータに多くの電流が流れることがないため被制御値がそれほど大きくならないという特性がある。このため、デューティ比が大きな状態が継続されることがある。
【0013】
一方で、モータ配線がショートしている状態では、デューティ比を大きくすると被制御値が大きくなり、目標値を超える。すると、デューティ比が小さく変更されるので、デューティ比が大きな状態が長く継続されることはない。
【0014】
そこで、本発明では、このような特性を利用して、デューティ比が第2基準デューティ比よりも大きな状態が正常判定回数以上連続したと判定された場合に、モータ配線同士がショートしていないと判断するようにしている。
【0015】
このようなモータ制御装置によれば、モータ配線がショートしていないことを確実に検出することができる。よって、モータ配線のショートを検出する精度を向上させることができる。
【0016】
なお、本発明(請求項2)の構成においては、第1判定手段を備えない構成としてもよい。
また、モータ制御装置においては、第1判定手段は、非ロック期間内にて繰り返し被制御値がショート基準値を超えたか否かを判定し、ショート検出手段は、被制御値がショート基準値を超えた回数が予め2以上の値に設定された基準回数以上である場合に、モータ配線がショートしていると判断してもよい(請求項3)。
【0017】
このようなモータ制御装置によれば、被制御値がショート基準値を超えた回数が2回以上でなければモータ配線がショートしているとは判定しないので、ノイズ等により被制御値がショート基準値を一時的に超えた場合には、ショートとは判定しないようにすることができる。よって、モータ配線のショートを検出する際の精度を向上させることができる。
【0018】
さらに、モータ制御装置においてショート検出手段は、第1判定手段が繰り返し判定を行った回数に対する、被制御値がショート基準値を超えた回数の割合が、予め設定された基準割合以上である場合に、モータ配線がショートしていると判断するようにしてもよい(請求項4)。
【0019】
このようなモータ制御装置によれば、モータと被駆動対象との作動特性に応じて、適切な基準割合を設定することで、モータ配線のショートを検出する際の精度をより向上させることができる。
【0020】
次に、請求項5に記載の発明は、コンピュータに、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載のモータ制御装置を構成する各手段としての機能を実現させるためのモータ制御プログラムであることを特徴としている。
【0021】
このようなモータ制御プログラムによれば、少なくとも請求項1に記載のモータ制御装置と同様の効果を享受することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】プリクラッシュセーフティシステムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】シートベルトECUの概略構成を示したブロック図である。
【図3】モータ制御処理を示すフローチャートである。
【図4】過電流判定処理を示すフローチャートである。
【図5】モータ制御処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明にかかる実施の形態を図面と共に説明する。
[プリクラッシュセーフティシステム]
ここで、図1は、本発明が適用されたシートベルト制御装置を備えたプリクラッシュセーフティシステムの概略構成を示すブロック図である。なお、以下では、プリクラッシュセーフティシステムが搭載された自動車を自車両と称す。
【0024】
このプリクラッシュセーフティシステム1は、進行路上に存在する障害物と自車両との衝突の可能性(以下、衝突可能性とする)が高い場合には、自車両の制動力を増加したり、シートベルトの拘束力を強化したりするものである。
【0025】
これを実現するために、図1に示すように、プリクラッシュセーフティシステム1は、自車両の進行路上を監視する前方監視装置5と、自車両に備えられたブレーキ機構を制御するブレーキ制御装置7と、自車両に備えられたシートベルトそれぞれを巻き取るための少なくとも1つのシートベルト巻取装置10と、前方監視装置5からの出力に従って、衝突可能性が設定閾値以上である否かを判定する共に、その判定結果に従ってブレーキ制御装置7を制御するプリクラッシュ制御装置(いわゆる、電子制御装置(ECU))6と、プリクラッシュ制御装置6にて、衝突可能性が設定閾値以上であるものと判定されると、シートベルトの拘束力を強化するようにシートベルト巻取装置10それぞれを制御するシートベルト制御装置(以下、シートベルトECUとも称す)20(モータ制御装置)とを備えている。
【0026】
このうち、前方監視装置5は、レーダ波を送受信することで、先行車両等の物標を検出し、その物標と自車両との位置、および速度を含む物標情報を取得するミリ波レーダ装置等を中心に構成され、取得した物標情報をプリクラッシュ制御装置6に出力するようにされている。なお、前方監視装置5は、自車両の進行方向を撮影するように配置され、撮影画像に基づいて物標情報を取得する車載カメラや、レーザ光を送受信することで、先行車両等の物標を検出し、物標情報を取得するレーザレーダ装置を中心に構成されていてもよいし、これら(即ち、ミリ波レーダ装置、車載カメラ、およびレーザレーダ装置)を、組み合わせて構成されていてもよい。
【0027】
また、プリクラッシュ制御装置6は、少なくともCPU、ROM、RAM、およびこれらを接続するバスからなる周知のマイクロコンピュータを中心に構成されたものである。そして、プリクラッシュ制御装置6では、前方監視装置5から取得した物標情報に従って、衝突可能性を算出し、その算出した衝突可能性を自車両内に報知すると共に、その算出された衝突可能性が、設定閾値の1つとして予め規定された第一設定閾値以上であるか否かを判定して、判定の結果、衝突可能性が第一設定閾値以上であれば、ブレーキ制御装置7を動作させて、自車両の制動力を増加させる処理を実行する。これに加えて、プリクラッシュ制御装置6では、衝突可能性が、設定閾値の1つとして予め規定された第二設定閾値以上であるか否かを判定し、その判定の結果、衝突可能性が第二設定閾値以上であれば、シートベルト制御装置20がシートベルトの拘束力の制御を開始するための起動指令をシートベルト制御装置20に出力するようにされている。
【0028】
[シートベルト巻取装置について]
次に、シートベルト巻取装置10について説明する。
シートベルト巻取装置10それぞれは、自車両に設けられた座席に着座した人物(例えば、運転者等、以下、乗員とも称す)を、座席に拘束するシートベルト機構の一部を構成する周知のものであり、シートベルトの帯(以下、ウェビングと称す)12を引き出しおよび巻き取り可能に構成されたものである。
【0029】
即ち、各シートベルト巻取装置10は、ウェビング12の一端が固定されたスプール13と、スプール13を駆動するための駆動力を発生するモータ11と、モータ11で発生した駆動力をスプール13に伝達するギア群(図示せず)およびクラッチ14と、スプール13を回動自在に保持すると共に、モータ11、ギア群およびクラッチ14を支持して、当該シートベルト巻取装置10を自車両に固定するための保持部材(図示せず)とを備えている。
【0030】
また、モータ11は、電気エネルギーを回転運動(即ち、運動ネルギー)に変換する周知の直流モータ(DCモータ)として構成されており、通電方向に応じた駆動力を発生する。
【0031】
さらに、クラッチ14は、モータ11で発生した駆動力が伝達される(一般的に言う、駆動側に固定された)第一部材(図示せず)と、第一部材と係合してスプール13に駆動力を伝達する(一般的に言う、従動側に固定された)第二部材(図示せず)とを備えている。ただし、クラッチ14は、予め規定された一方向(以下、順方向と称す)の駆動力が第一部材に伝達されると、第一部材が、第二部材とは非係合である初期位置から回動して第二部材と係合し、順方向とは異なる方向(以下、反転方向と称す)の駆動力が第一部材に伝達されると、第一部材と第二部材との係合が解除され、第一部材が初期位置へと戻るように構成されている。
【0032】
即ち、クラッチ14は、順方向の駆動力が第一部材に伝達されてから、第二部材と係合するまでに、所定の「遊び」を有するように構成されており、順方向の駆動力が第一部材に伝達されてから、第一部材が第二部材と係合して、スプール13が回動するまでに所定時間を要するものである。
【0033】
従って、シートベルト巻取装置10では、モータ11にて順方向の駆動力を発生すると、その駆動力が伝達された第一部材が、初期位置から回動を開始してから所定時間の経過後に、第一部材と第二部材とが係合する(即ち、クラッチ14が接続される)。すると、保持部材に回動自在に支持されているスプール13が、順方向に対応する方向に回転して、ウェビング12をスプール13自体に巻き取る。
【0034】
また、シートベルト巻取装置10では、モータ11にて反転方向の駆動力が発生すると、その駆動力が伝達された第一部材が、第二部材との係合を解除し、初期位置まで戻り、クラッチ14が有する「遊び」が最大となる。
【0035】
[シートベルト制御装置について]
次に、シートベルト制御装置について説明する。ここで、図2は、シートベルトECUの概略構成を示したブロック図である。
【0036】
図2に示すように、シートベルトECU20は、モータ11への通電、およびその通電を遮断する駆動回路21と、モータ11を流れる電流値を検出するためのシャント抵抗25A、およびその検出した電流値(以下、検出電流値とも称す)を増幅器25cにて増幅した後、A/D変換して出力するA/D変換器25Bとからなる電流検出回路25と、電流検出回路25からの出力に従って、駆動回路21を介してモータ11を制御するためのモータ制御信号を生成して出力するマイクロコンピュータ(以下、マイコンとも称す)30とを備えている。
【0037】
なお、モータ制御信号とは、信号レベルがハイレベルであれば、モータ11への通電を実行して、信号レベルがローレベルであれば、モータ11への通電を遮断するものである。即ち、モータ制御信号は、デューティ比(即ち、ハイレベルである期間とローレベルである期間との比)を制御することで、モータ11で発生するトルク、換言すれば、モータ11を流れる電流値を調整するものである。
【0038】
このうち、駆動回路21は、4個のNチャネル型FET(電界効果トランジスタ)を有したHブリッジ回路であり、4個のNチャネル型FETのうち、2つのFET22A,22Bは、ゲートにマイコン30が、ドレインにバッテリ29が、ソースにモータ11が接続され、2つのFET23A,23Bは、ゲートにマイコン30が、ドレインにモータ11が接続され、ソースがシャント抵抗25Aを介して接地されている。
【0039】
また、駆動回路21において、各FET22A,22B,23A,23Bは、各FETのソース側をアノードとし、ドレイン側をカソードとするダイオードが配置されている。なお、これらのダイオードは図2では省略している。
【0040】
このような駆動回路21においては、マイコン30から各FET22,23に入力されるモータ制御信号がハイレベルであれば、そのモータ制御信号が入力されたFET22,23がONとなり、モータ制御信号がローレベルであれば、そのモータ制御信号が入力されたFET22,23がオフとなるものである。ただし、本実施形態における駆動回路21とモータ11とは、FET22A,23AがONされると、モータ11にて順方向の駆動力が発生し、FET22B,23BがONされると、モータ11にて反転方向の駆動力が発生するように配線されている。
【0041】
つまり、駆動回路21は、ドレイン,ソース間が通電可能となるFET22,23を切り替えることで、モータ11の駆動方向を切り替え可能なものである。
なお、以下では、FET22A,23Aを正転FET22A,23Aと称し、FET22B,23Bを反転FET22B,23Bと称す。さらに、正転FET22A,23Aに入力される、即ち、モータ11にて順方向の駆動力を発生させるためのモータ制御信号を順方向制御信号と称し、反転FET22B,23Bに入力される、即ち、モータ11にて反転方向の駆動力を発生させるためのモータ制御信号を反転方向制御信号と称す。
【0042】
ところで、FET22A,22BがNチャネル型FETであることから、FET22A,22Bを確実にONするためには、バッテリ29からの供給電源よりも高い規定電圧を、FET22A,Bに供給する必要がある。このため、マイコン30から出力される全てのモータ制御信号は、ハイレベルである時の信号レベルを規定電圧とするプリドライバ回路24を介して駆動回路21に入力されるようになされている。
【0043】
次に、マイコン30は、電源が切断されても内容を保持する必要のあるデータやプログラムを記憶するROM31と、処理途中で一時的に生じたデータを記憶するRAM32と、ROM31やRAM32に記憶された処理プログラムを実行するCPU33と、これらを接続するバスとを少なくとも備えた周知のものである。
【0044】
そして、ROM31には、プリクラッシュ制御装置6等の自車両に搭載された他の電子制御装置(即ち、シートベルトECU20以外のECU)との間で情報を送受信する情報取得処理や、モータ11を流れる電流値が予め規定された目標値となるように、常時出力されるモータ制御信号のデューティ比(即ち、パルス幅)を制御するモータ制御処理をCPU33が実行するための処理プログラムが格納されている。
【0045】
[モータ制御処理について]
次に、モータ制御処理について説明する。
ここで、図3は、CPU33が実行するモータ制御処理を示すフローチャートである。
【0046】
このモータ制御処理は、例えばイグニッションスイッチ(図示省略)等の車両の電源が投入されると起動される処理であって、本処理においてS130以下の処理は、所定の周期(例えば5ms毎)に繰り返し実行される。詳細には、まず、モータ制御処理が起動されると、順方向制御信号のデューティ比(以下、駆動デューティとも称す)を初期デューティ(例えば50%のデューティ比)に設定する(S110)。
【0047】
そして、プリクラッシュ制御装置6から起動指令が入力されたか否かを判定し(S120)、判定の結果、起動指令が入力されていなければ(S120:NO)、入力されるまで待機する。また、起動指令が入力されると(S120:YES)、S110で設定された初期デューティである順方向制御信号の出力を開始する。
【0048】
続いて、後述する過電流判定処理を実施する(S130)。そして、過電流判定処理が終了すると、順方向制御信号の出力を停止するための終了指令が入力されたか否かを判定する(S140)。判定の結果、終了指令が入力されていなければ(S140:NO)、電流検出回路25からの検出電流値を読み込み、その読み込んだ検出電流値を、予め規定された目標値と比較する(S150)。
【0049】
比較の結果、検出電流値が目標値よりも小さければ(S150:小さい)、駆動デューティを増加(即ち、ハイレベルである期間を増加)して(S160)、その後、S130の処理に戻る。また、比較の結果、検出電流値が目標値よりも大きければ(S150:大きい)、駆動デューティを低減(即ち、ハイレベルである期間を短縮)して(S170)、その後、S130の処理に戻る。ただし、駆動デューティには、下限値(例えば20%)と上限値(例えば100%)とが設定されており、この範囲内の値が設定される。
【0050】
特に下限値においては、モータ11の特性(抵抗値やリアクタンス)を考慮して、モータ11に電流が流れるとき(モータ11に電力を供給する駆動回路21からモータ11までの配線(モータ配線)がショートしていないとき)には、電流検出回路25にて検出される電流値(検出電流値)が後述するショート基準値を超え難いように設定されている。
【0051】
次に、比較の結果、検出電流が目標値と一致すれば(ここでは、検出電流が、目標値を中心に予め規定された規定範囲内であることを含む。)(S150:許容範囲内)、駆動デューティを維持したまま、S130の処理に戻る。
【0052】
なお、S150の処理において検出電流値と目標値とを比較する際には、これらの差分の大きさ(絶対値の差)も検出する。そして、この差分の大小に応じて、S160、S170の処理におけるデューティ比の変化量が設定され、この変化量だけデューティ比が増加または低減される。
【0053】
つまり、検出電流値と目標値との差分が大きいときには、デューティ比の増加量または低減量を大きく設定し、差分が小さいときには、デューティ比の増加量または低減量を小さく設定する。このようにデューティ比を変更することにより、検出電流値を速やかに目標値と一致させることができるようにしている。
【0054】
ところで、S140での判定の結果、終了指令が入力されていれば、本モータ制御処理を終了する。
上記に説明したモータ制御処理では、S150〜S170の処理を繰り返すことで、電流検出回路25での検出結果(即ち、モータ11で発生するトルク)が予め規定された目標値となるように、順方向制御信号(もしくは、反転方向制御信号)のデューティ比(即ち、パルス幅)を制御する、いわゆるPWM制御がなされる。
【0055】
ここで、本実施形態のシートベルト制御装置20においては、以下に説明する過電流判定処理、および過電流検出処理にて、出力するデューティ比と過電流マスクデューティ比とを比較したり、検出電流値とショート基準値とを比較したりすることによって、モータ11の配線(モータ配線)同士がショートしているか否かを判定する。モータ配線同士がショートしていると、駆動回路21および電流検出回路25に大電流が流れ、この大電流によってFET22A、23A、22B、23Bおよびシャント抵抗25Aが故障する虞があるからである。
【0056】
例えば、モータ11の近傍でモータ配線同士がショートした場合には、モータ配線における抵抗値およびリアクタンスが大きくなるため、デューティ比が小さいときには、このモータ配線には僅かな電流しか流れない。このため、次にS150〜S170の処理が実施されると、デューティ比は増加する。そして、デューティ比が増加すると、急激に電流値が大きくなる。
【0057】
このように電流値が大きくなると、次にS150〜S170の処理が実施されると、デューティ比が小さく設定され、このときモータ配線には僅かな電流しか流れない。つまり、モータ11の近傍でモータ配線同士がショートした場合において、S150〜S170の処理が繰り返されると、電流値が大きい状態と小さな状態とを繰り返す発振状態となる。
【0058】
一方で、モータ11から離れた部位(プリドライバ回路24近傍)にてモータ配線同士がショートした場合には、モータ配線における抵抗値およびリアクタンスが小さくなるため、デューティ比が小さいときであっても、モータ配線には大電流が流れる。つまり、モータ11から離れた部位にてモータ配線同士がショートした場合には、常に、電流値が大きい状態となる。
【0059】
また、モータ配線がショートしていない状態でモータ11が駆動される際(駆動トルクが小さいとき)には、デューティ比を大きくしてもモータに多くの電流が流れることがないため電流値がそれほど大きくならないという特性がある。このため、デューティ比が大きな状態が継続されることがある。
【0060】
このため、以下に説明する過電流判定処理、および過電流検出処理では、出力するデューティ比と検出電流値とを監視し、これらのバランスに基づいて、モータ配線に大電流が流れるショート状態を検出するようにしている。
【0061】
[過電流判定処理について]
詳細な過電流判定処理について説明する。図4はモータ制御処理のうちの過電流判定処理を示すフローチャートである。つまり、過電流判定処理は、モータ11のフィードバック制御を行いつつ実施できる処理である。
【0062】
過電流判定処理では、まず、RAM32等のメモリに記録された過電流検出回数と予め設定された規定数(基準回数、例えば40回)とを比較する(S210:ショート検出手段)。ここで、過電流検出回数は、後述する過電流検出処理にて過電流を検出した回数を表し、この回数のデータはRAM等のメモリに記録されている。
【0063】
なお、ここでいう規定数は、過電流検出期間(過電流検出を試みる回数)に対応して所定の割合になるよう設定される。
比較の結果、過電流検出回数が規定数未満であれば(S210:NO)、このまま過電流判定処理を終了する。また、比較の結果、過電流検出回数が規定数以上であれば(S210:YES)、過電流異常(モータ配線同士のショート)である旨を確定して、この結果をRAM等のメモリに記録する(S220:ショート検出手段)。
【0064】
そして、モータ11の作動を終了する旨の終了指令を出力し(S230)、過電流判定処理を終了する。
[過電流検出処理について]
次に過電流検出処理について説明する。図5はモータ制御処理と並行してCPU33が実行するモータ制御処理を示すフローチャートである。過電流検出処理は、前述のモータ制御処理のS130〜S170が実施される周期よりも短い周期(例えば500μS毎)で繰り返し実施される処理である。なお、本処理の初回起動時には、過電流検出回数がクリアされるものとする。
【0065】
過電流検出処理においては、まず、マイコン30がモータ11に対して出力するデューティ比が過電流マスクデューティ(第2基準デューティ比、例えば80%)以上であるか否かを判定する(S310:第2判定手段)。ここで、過電流マスクデューティとは、モータ11が正常に駆動されているときに、デューティ比が高い状態が継続する特性を検出するために設定される閾値であり、この値は実験的に求められる。
【0066】
デューティ比が過電流マスクデューティ以上であれば(S310:YES)、マスク条件成立回数(カウンタ)をインクリメントする(S320:第2判定手段)。また、デューティ比が過電流マスクデューティ未満であれば(S310:NO)、マスク条件成立回数をリセット(0にセット)する(S330:第2判定手段)。
【0067】
続いて、マスク条件が成立したか否かを判定する(S340)。ここで、マスク条件としては、例えば、マスク条件成立回数が、過電流マスクデューティとともに実験的に求められる所定回数N回(例えば6回)以上であるか否かを判定する。
【0068】
マスク条件が成立していれば(S340:YES)、過電流検出回数をクリアし(S350)、過電流検出処理を終了する。また、マスク条件が成立していなければ(S340:NO)、マイコン30がモータ11に対して出力するデューティ比と予め設定された基準デューティ比とを比較する(S360:第1判定手段)。なお、マスク条件が成立したときには、今回のモータ制御処理が終了するまでの間、マスク条件が成立した状態が保持される。
【0069】
次に、出力するデューティ比が基準デューティ比以上であれば(S360:NO)、直ちに本処理を終了する。また、出力するデューティ比が基準デューティ比未満であれば(S360:YES)、電流検出回路25からの検出電流値を読み込み、その読み込んだ検出電流値と予め規定されたショート基準値とを比較する(S370:第1判定手段)。なお、ショート基準値は、S150の処理にて比較対象とした目標値よりも大きな値に設定されている。
【0070】
比較の結果、検出電流値がショート基準値以上であれば(S370:YES)、過電流検出回数をインクリメントしてRAM32等のメモリに記録し(S380)、過電流検出処理を終了する。また、比較の結果、検出電流値がショート基準値未満であれば(S370:NO)、直ちに過電流検出処理を終了する。
【0071】
[本実施形態による作用および効果]
以上のように詳述したシートベルト制御装置20において、マイコン30は、過電流検出処理にて、モータの作動時に、デューティ比および被制御値を監視し、デューティ比が予め設定された第1基準デューティ比よりも小さいときにおいて、被制御値が目標値よりも大きな値に設定されたショート基準値を超えたか否かを判定する。そして、マイコン30は、モータ制御処理にて、被制御値がショート基準値を超えた場合に、モータ配線がショートしていると判断する。
【0072】
即ち、モータ配線がショートしていない場合には、デューティ比が比較的小さければ被制御値が極端に大きくなることがないという特性を利用して、デューティ比が第1基準デューティ比よりも小さいときにおいて、被制御値が目標値よりも大きな値に設定されたショート基準値を超えたか否かに応じて、モータ配線のショートを判断しているのである。
【0073】
従って、このようなシートベルト制御装置20によれば、モータ配線がショートしていないにも拘らず、モータ配線がショートしていると誤判定してしまうことを防止することができる。よって、モータ配線のショートを検出する精度を向上させることができる。
【0074】
ところで、シートベルト制御装置20においてマイコン30は、過電流検出処理にて、モータの作動時に、デューティ比を繰り返し監視し、デューティ比が予め設定された第2基準デューティ比よりも大きな状態が予め設定された正常判定回数以上連続したか否かを判定する。そして、デューティ比が第2基準デューティ比よりも大きな状態が正常判定回数以上連続したと判定された場合に、モータ配線同士がショートしていないと判断する。
【0075】
このようなシートベルト制御装置20によれば、モータ配線がショートしていないことを確実に検出することができる。よって、モータ配線のショートを検出する精度を向上させることができる。
【0076】
また、シートベルト制御装置20においてマイコン30は、過電流検出処理にて、非ロック期間内にて繰り返し被制御値が過電流基準値を超えたか否かを判定する。そして、過電流判定処理では、被制御値が過電流基準値を超えた回数が予め2以上の値に設定された基準回数以上である場合に、モータ配線がショートしていると判断する。
【0077】
このようなシートベルト制御装置20によれば、被制御値が過電流基準値を超えた回数が2回以上でなければモータ配線がショートしているとは判定しないので、ノイズ等により被制御値が過電流基準値を一時的に超えた場合には、ショートとは判定しないようにすることができる。よって、モータ配線のショートを検出する際の精度を向上させることができる。
【0078】
さらに、シートベルト制御装置20のマイコン30は、過電流判定処理にて、過電流検出処理にて繰り返し判定を行った回数(上記実施形態では100回)に対する、被制御値が過電流基準値を超えた回数の割合が、予め設定された基準割合(上記実施形態では4割である40回)以上である場合に、モータ配線がショートしていると判断する。
【0079】
このようなシートベルト制御装置20によれば、モータ11と被駆動対象との作動特性に応じて、適切な基準割合を設定することで、モータ配線のショートを検出する際の精度をより向上させることができる。
【0080】
[その他の実施形態]
本発明の実施の形態は、上記の実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採りうる。
【0081】
例えば、上記実施形態において、S370の処理においては、電流値を監視するようにしたが、電圧値等、他のパラメータを監視するようにしてもよい。
また、過電流検出処理においてS310〜S350の処理、またはS360,S370の処理を省略してもよい。S360,S370の処理を省略する場合には、S340の処理でマスク条件が成立しない場合、S380の処理に移行するようにすればよい。
【符号の説明】
【0082】
1…プリクラッシュセーフティシステム、5…前方監視装置、6…プリクラッシュECU、7…ブレーキ制御装置、10…シートベルト巻取装置、11…モータ、12…ウェビング、13…スプール、14…クラッチ、20…シートベルト制御装置、21…駆動回路、22A,23A…正転FET、22B,23B…反転FET、24…プリドライバ回路、25…電流検出回路、25A…シャント抵抗、25B…A/D変換器、25C…増幅器、29…バッテリ、30…マイコン、31…ROM、32…RAM、33…CPU。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートベルトの帯を巻回した状態で保持する被駆動対象を駆動させてシートベルトを巻き上げる際に利用されるモータを流れる電流値または該モータに印加される電圧値を表す被制御値が所定の目標値となるようデューティ比を制御するフィードバック制御を行うモータ制御装置であって、
前記モータの作動時に、前記デューティ比および前記被制御値を監視し、前記デューティ比が予め設定された第1基準デューティ比よりも小さいときにおいて、該被制御値が前記目標値よりも大きな値に設定されたショート基準値を超えたか否かを判定する第1判定手段と、
前記被制御値が前記ショート基準値を超えた場合に、モータに電力を供給するモータ配線同士がショートしていると判断するショート検出手段と、
を備えたことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ制御装置において、
前記モータの作動時に、前記デューティ比を繰り返し監視し、前記デューティ比が前記第1基準デューティ比よりも大きな値に設定された第2基準デューティ比よりも大きな状態が、予め設定された正常判定回数以上連続したか否かを判定する第2判定手段、を備え、
前記ショート検出手段は、前記第2判定手段により前記デューティ比が前記第2基準デューティ比よりも大きな状態が前記正常判定回数以上連続したと判定された場合に、前記モータ配線同士がショートしていないと判断すること
を特徴とするモータ制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のモータ制御装置において、
前記第1判定手段は、繰り返し被制御値がショート基準値を超えたか否かを判定し、
前記ショート検出手段は、前記被制御値が前記ショート基準値を超えた回数が予め2以上の値に設定された基準回数以上である場合に、前記モータ配線がショートしていると判断すること
を特徴とするモータ制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載のモータ制御装置において、
前記ショート検出手段は、前記第1判定手段が繰り返し判定を行った回数に対する、前記被制御値が前記ショート基準値を超えた回数の割合が、予め設定された基準割合以上である場合に、モータ配線がショートしていると判断すること
を特徴とするモータ制御装置。
【請求項5】
コンピュータに、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載のモータ制御装置を構成する各手段としての機能を実現させるためのモータ制御プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−105155(P2011−105155A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262814(P2009−262814)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】