モータ駆動制御装置
【課題】交流モータのロック時におけるスイッチング素子の損失を的確に低減することにより、スイッチング素子を過熱から好適に保護することのできるモータ駆動制御装置を提供する。
【解決手段】インバータ装置のスイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの各々にゲート抵抗を介してゲート電圧を印加しつつその変換電力に基づき三相交流モータMの駆動を制御する。そして、この三相交流モータMがロック状態にあるか否かを検知するモータロック検知部100により三相交流モータMのロック状態が検知されることに基づきインバータ装置のシステム電圧を抑制するとともにゲート抵抗の抵抗値を小さい値に変更する。
【解決手段】インバータ装置のスイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの各々にゲート抵抗を介してゲート電圧を印加しつつその変換電力に基づき三相交流モータMの駆動を制御する。そして、この三相交流モータMがロック状態にあるか否かを検知するモータロック検知部100により三相交流モータMのロック状態が検知されることに基づきインバータ装置のシステム電圧を抑制するとともにゲート抵抗の抵抗値を小さい値に変更する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流モータの駆動に際し、特にモータロック時の過電流から駆動回路を保護するモータ駆動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載バッテリから供給される直流電力を例えば三相交流に変換するインバータ装置がハイブリッド車や電気自動車などのモータ用の電力変換装置として広く利用されている。このようなハイブリッド自動車は、インバータ装置を構成するスイッチング素子により生成された三相交流電力を動力源として上記モータの駆動を制御している。このため、モータのロック時には、スイッチング素子に過大な直流電流が流れ、その熱損失が急激に増加するようになる。
【0003】
そこで、こうした熱損失の増大に起因するスイッチング素子の熱破壊を防止するモータ駆動制御装置として、例えば特許文献1に記載のモータ駆動制御装置が知られている。図8に、この特許文献1に記載のモータ駆動制御装置についてその概略構成を示す。
【0004】
図8に示されるように、このインバータ装置における直流電源Bの正極母線である正極バスバーBBPと負極母線である負極バスバーBBNとの間には、直流電源Bから印加される直流電圧を平滑化する平滑コンデンサC及び同直流電圧を三相交流に変換するインバータ回路INVが接続されている。インバータ回路INVは、上アームを構成する3つのスイッチング素子(IGBT:絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタ)T1U、T3V、T5Wと、下アームを構成する3つのスイッチング素子T2U、T4V、T6Wとが三相ブリッジ接続されている。
【0005】
また、スイッチング素子T1U、T3V、T5Wの各エミッタ電極、及びスイッチング素子T2U、T4V、T6Wの各コレクタ電極の結線部であるU相出力電極、V相出力電極、W相出力電極は、それぞれ出力線OWU、OWV、OWWを介して三相交流モータMのU相コイル、V相コイル、W相コイルに接続されている。一方、上記各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、及びスイッチング素子T2U、T4V、T6Wのエミッタ電極とコレクタ電極との間には、それぞれ整流素子である還流ダイオードD1U、D3V、D5W、及び還流ダイオードD2U、D4V、D6Wが逆並列に接続されている。
【0006】
このように構成されるインバータ装置では、駆動対象とする三相交流モータMに流れる電流が電流検出センサ5a〜5cによって検出されて、この検出された各電流値がモータ駆動制御装置10に取り込まれる。また、三相交流モータMの回転子回転位置が位置検出センサ7によって検出され、その値がモータ駆動制御装置10に取り込まれる。そして、モータ駆動制御装置10では、それら各電流値及び回転子回転位置に基づき上記各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wのスイッチングパターンが生成され、このモータ駆動制御装置10に内蔵されたゲートドライバ回路により各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの動作が制御される。図9に、このゲートドライバ回路についてその概略構成を示す。
【0007】
この図9に示すように、上記ゲートドライバ回路は、スイッチングパターン信号が入力されてこのスイッチングパターン信号の電位レベルをスイッチング素子T1Uと同じ電位レベルの信号に変換するとともにこのスイッチングパターン信号を生成する低圧回路側とスイッチング素子T1U等の高圧回路側とを絶縁する絶縁回路22を備えている。この絶縁回路22により電位が変換された信号は、スイッチング素子T1Uのゲートを駆動制御
するための第1ゲートドライバ23及び第2ゲートドライバ24にそれぞれ入力される。これら第1ゲートドライバ23及び第2ゲートドライバ24は、電気的に並列に接続されており、第1ゲートドライバ23がモータの駆動時に常時動作する一方、第2ゲートドライバ24はモータMがロック状態になったときにのみ動作する。そして、このような第1ゲートドライバ23及び第2ゲートドライバ24は、それらの出力電流を制限するゲート抵抗23a、24aを介してスイッチング素子T1Uに接続されている。
【0008】
また、ロック検知回路25では、上記三相交流モータMがロック状態にあるか否かが検知される。そして、このロック検知回路25の出力と上記絶縁回路22の出力との論理積が論理積回路26を介して第2ゲートドライバ24に出力される。このようなゲートドライバ回路によれば、三相交流モータMのロック時には、第2ゲートドライバ24が第1ゲートドライバ23と同期して動作するようになり、ゲート抵抗23aとゲート抵抗24aとが等価的に並列状態とされる。
【0009】
次に、このようなゲートドライバ回路によって駆動されるスイッチング素子T1Uを流れる電流、及びエミッタ電極−コレクタ電極間の電圧、並びに損失を、それぞれ図10(a)〜(c)を参照して説明する。なお、図10(a)は、三相交流モータMの非ロック時におけるスイッチング素子T1Uのターンオン時の電圧、電流、及び損失の推移例を示しており、図10(b)は、三相交流モータMの非ロック時におけるスイッチング素子T1Uのターンオフ時の電圧、電流、及び損失の推移例を示している。また、図10(c)は、三相交流モータMのロック時におけるスイッチング素子T1Uのターンオン時の電圧、電流、及び損失の推移例を示している。
【0010】
まず、三相交流モータMの非ロック時におけるスイッチング素子T1Uのターンオン時には、図10(a)に示されるように、スイッチング素子T1Uがオフ状態からオン状態に遷移するまでにt1時間(ターンオン時間)を要している。このため、スイッチング素子T1Uのターンオン時には、同図10(a)に斜線で示すようにターンオン時間t1に比例する損失P1が発生する。
【0011】
また、三相交流モータMの非ロック時におけるスイッチング素子T1Uのターンオフ時には、図10(b)に示すように、スイッチング素子T1Uがオン状態からオフ状態に遷移するまでにt2時間(ターンオフ時間)を要している。このため、スイッチング素子T1Uのターンオフ時には、図10(b)に斜線で示すようにターンオフ時間t2に比例する損失P2が発生する。
【0012】
一方、三相交流モータMの非ロック時におけるスイッチング素子T1Uのターンオン時には、上述のように、第1ゲートドライバ23及び第2ゲートドライバ24が共に動作することにより、ゲート抵抗23a及び24aが等価的に並列接続となることから、スイッチング素子T1Uに対する時定数が小さくなる。この結果、スイッチング素子T1Uのドライブ能力が高められるようになり、図10(c)に示すように、スイッチング素子T1Uのターンオン時間t3が上記ターンオン時間t1よりも短くなる(t1>t3)。そして、このようなターンオン時間t3に比例する損失も、同図10(c)に示すように、スイッチング時間t3が短くなった分だけ電圧と電流がコレクタとエミッタ間に同時に存在する期間が短くなり、スイッチング素子の損失P3も低減するようになる。
【0013】
このように、上記特許文献1に記載のモータ駆動制御装置によれば、三相交流モータMのロック時には、スイッチング素子T1Uに対するゲート抵抗を小さくすることによってスイッチング素子T1Uの損失が低減されることから、このスイッチング素子T1Uの過熱を抑制することができるようなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2005−117758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところで、上述のようなインバータ装置においては、このインバータ装置を構成するスイッチング素子のターンオン、ターンオフ時に配線インダクタンスと電流変化とに起因するサージ電圧が生じるようになる。そして、こうしたサージ電圧は、上記スイッチング素子のターオン時間、ターンオフ時間が急峻であるほど大きくなってしまう。すなわち、上述のように三相交流モータMのロック時に各スイッチング素子のゲート抵抗を小さくしたとしても、各スイッチング素子の損失に反比例するかたちでサージ電圧が増大するようになる。このため、このようなサージ電圧がスイッチング素子の耐圧の範囲内となるようにゲート抵抗を設定しなければならず、こうしたゲート抵抗の調整を通じたスイッチング素子の損失低減効果も十分とはいえない。
【0016】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、交流モータのロック時におけるスイッチング素子の損失を的確に低減することにより、スイッチング素子を過熱から好適に保護することのできるモータ駆動制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、交流モータを駆動すべく電力変換を行なうインバータ装置のスイッチング素子の各々にゲート抵抗を介してゲート電圧を印加しつつその変換電力に基づき前記交流モータの駆動を制御するモータ駆動制御装置において、前記交流モータがロック状態にあるか否かを検知するモータロック検知部を備え、該モータロック検知部により前記交流モータのロック状態が検知されることに基づき前記インバータ装置のシステム電圧を抑制するとともに前記ゲート抵抗の抵抗値を小さい値に変更することを要旨とする。
【0018】
上記構成によるように、上記交流モータのロック状態が検知されたときにインバータ装置のシステム電圧を抑制するとともにゲート抵抗の抵抗値を小さい値に変更することとすれば、インバータ装置のシステム電圧が抑制された分だけスイッチング素子のオン/オフ動作に伴って生じるサージ電圧の発生を許容し得る余裕分が確保されることとなる。こうしたことから、このサージ電圧の余裕分が確保された分だけ、サージ電圧の大きさに相関する上記ゲート抵抗を小さい値に変更することが可能となる。このため、上記スイッチング素子のゲート抵抗が小さい値に変更された分だけ、これに相関してスイッチング素子のターンオン時間あるいはターオフ時間を短縮することができるようになり、ひいては、こうしたスイッチング素子のターンオン時及びターオフ時に生じる電力損失の低減が図られるようになる。これにより、たとえ上記交流モータのロックに伴ってスイッチング素子に過大な直流電流が流れたとしても、このスイッチング素子の損失を的確に低減することができるようになり、ひいては、スイッチング素子を過熱から好適に保護することができるようになる。
【0019】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のモータ駆動制御装置において、前記交流モータのロック状態の検知に基づき変更される前記ゲート抵抗の抵抗値が、前記スイッチング素子の耐圧基準電圧と前記抑制されたシステム電圧との差に応じて前記ゲート抵抗の値に相関して生じるサージ電圧を前記スイッチング素子の耐圧基準電圧の範囲内で最大とし得る値に設定されることを要旨とする。
【0020】
上記構成によるように、モータのロック状態において変更されるゲート抵抗の抵抗値を、スイッチング素子の耐圧基準電圧と上記抑制されたシステム電圧との差に応じて上記サージ電圧をスイッチング素子の耐圧基準電圧の範囲内で最大とし得る値に設定することとすれば、スイッチング素子の耐圧基準電圧と抑制されたシステム電圧との差、換言すれば、上記サージ電圧の発生が許容される余裕分に応じてゲート抵抗の抵抗値を最小の値に設定することが可能となる。これにより、スイッチング素子の耐圧基準電圧の範囲内での最大限のサージ電圧の発生が可能となり、ひいては、スイッチング素子のターンオン時間/ターンオフ時間のさらなる短縮化が実現されるようになる。
【0021】
また、上記ゲート抵抗の変更を通じてスイッチング素子の電力損失の低減を図る上で、スイッチング素子に印加される電圧を同スイッチング素子の耐圧基準電圧の範囲内に好適に維持することができるようになり、上記モータ駆動制御装置としての信頼性がより高められるようになる。
【0022】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のモータ駆動制御装置において、前記ゲート抵抗は、前記ゲート電圧を印加する回路と前記スイッチング素子との間に並列接続された第1ゲート抵抗と第2ゲート抵抗とからなり、前記ゲート抵抗の変更は、前記第1ゲート抵抗を常時導通状態とし、前記モータロック検知部により前記交流モータのロック状態が検知されたときに前記第1ゲート抵抗及び前記第2ゲート抵抗を共に導通状態とする態様で行なわれることを要旨とする。
【0023】
上記構成によるように、交流モータのロック時におけるゲート抵抗の抵抗値の変更を、常時導通状態とされた第1ゲート抵抗と並列接続された第2ゲート抵抗の非導通状態/導通状態の切り替えとして行なうこととすれば、スイッチング素子が第1ゲート抵抗を介して上記ゲート電圧を印加する回路に常時接続された状態となる。このため、交流モータのロック時においてゲート抵抗の抵抗値を変化させる上で、ゲート抵抗を介した上記スイッチング素子のゲート電荷の放電等を確実に行なうことができるようになり、スイッチング素子としての動作を好適に維持することができるようになる。
【0024】
請求項4に記載の発明は、請求項1又は2に記載のモータ駆動制御装置において、前記ゲート抵抗は、その抵抗値を複数段階に調整可能なプログラマブルボリュームからなり、前記ゲート抵抗の変更は、前記モータロック検知部により前記交流モータのロック状態が検知されたときと検知されないときとでその都度異なる抵抗値が選択される態様で行なわれることを要旨とする。
【0025】
上記構成によれば、抵抗値を複数段階に調整可能なプログラマブルボリュームにより上記ゲート抵抗を構成することによって、交流モータのロック時と非ロック時とでその都度異なる抵抗値が選択される。このため、スイッチング素子の耐圧基準電圧と抑制されたシステム電圧との差、換言すれば、上記サージ電圧の発生が許容される余裕分に応じてゲート抵抗の抵抗値を選択的に変更することができるようになり、より高い自由度のもとにゲート抵抗の抵抗値を選択することができるようになる。これにより、スイッチング素子の電力損失を抑制する上で、より望ましいゲート抵抗の抵抗値の設定も容易となる。
【0026】
請求項5に記載の発明は、請求項1又は2に記載のモータ駆動制御装置において、前記ゲート抵抗は、前記ゲート電圧を印加する回路と前記スイッチング素子との間に並列接続された第1ゲート抵抗と該第1ゲート抵抗よりも抵抗値の低い第2ゲート抵抗とからなり、前記ゲート抵抗の変更は、前記交流モータの非ロック時に前記第1ゲート抵抗を導通状態とするとともに前記第2ゲート抵抗を非導通状態とし、前記モータロック検知部により前記交流モータのロック状態が検知されたときに前記第1ゲート抵抗を非導通状態とするとともに前記第2ゲート抵抗を導通状態とする態様で行なわれることを要旨とする。
【0027】
上記構成によれば、交流モータのロック時におけるゲート抵抗の抵抗値の変更が、第1ゲート抵抗とこの第1ゲート抵抗よりも抵抗値の低い第2ゲート抵抗との切り替えを通じて行なわれる。これにより、交流モータのロック時におけるゲート抵抗の抵抗値の変更をより容易に行なうことができるようになるとともに、より簡易な構成によって上記モータ駆動制御装置を構成することができるようになる。
【0028】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載のモータ駆動制御装置において、前記システム電圧の抑制は、前記モータロック検知部により前記交流モータのロック状態が検知されたときに前記インバータ装置のシステム電圧を昇圧する昇圧コンバータによる昇圧の抑制として行なわれることを要旨とする。
【0029】
上記構成によるように、上記交流モータのロック時におけるインバータ装置のシステム電圧の抑制を上記昇圧コンバータによる昇圧の抑制として行なうこととすれば、交流モータのロック時におけるインバータ装置のシステム電圧の抑制をDC−DCコンバータ等の既存の昇圧コンバータにより実現することができるようになる。これにより、上記モータ駆動制御装置としての汎用性はもとより、同装置としての構造上の簡略化が図られるようになる。
【0030】
また、上記構成によれば、インバータ装置のシステム電圧の値を昇圧コンバータによる昇圧を通じて任意に抑制可能であることから、スイッチング素子の耐圧基準電圧の範囲内で上記サージ電圧を許容し得る余裕分の確保もより容易となる。これにより、上記ゲート抵抗の抵抗値を小さくすることによりスイッチング素子の電力損失を抑制する上で、ゲート抵抗の抵抗値の変更とシステム電圧の抑制との双方から上記余裕分の確保が可能となり、より高い自由度のもとにスイッチング素子の電力損失の低減が図られるようになる。
【0031】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載のモータ駆動制御装置において、前記モータロック検知部は、前記交流モータの回転数が停止回転領域にあり、かつ、前記交流モータに供給される電流が該交流モータを駆動し得る基準電流以上であるときに交流モータがロック状態にあると検知することを要旨とする。
【0032】
通常、上記交流モータのロック時においては、交流モータに上記基準電流以上の電流が供給されているにも拘わらず同モータの回転数は停止回転領域の範囲内となる。そこで、上記構成によるように、交流モータのロック状態を、交流モータの回転数と同交流モータに供給される電流値に基づき検知することとすれば、モータのロック状態を的確に検知することができるようになる。これにより、交流モータのロック時に上記ゲート抵抗の抵抗値を変更する上で、その信頼性がより高められるようになる。
【0033】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜7のいずれか一項に記載のモータ駆動制御装置において、前記インバータ装置のスイッチング素子が絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタであることを要旨とする。
【0034】
この発明は、上記構成によるように、スイッチング素子として絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタ(IGBT)を用いる場合に特に有効であり、この絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタに接続される上記ゲート抵抗の抵抗値の変更と上記システム電圧の抑制とを通じて、サージ電圧の発生を上記基準耐圧電圧の範囲内で抑制しつつスイッチング速度の向上、ひいては、スイッチング素子の電力損失の低減が好適に図られるようになる。
【0035】
請求項9に記載の発明は、請求項1〜8のいずれか一項に記載のモータ駆動制御装置において、前記駆動制御の対象となる交流モータは、車両の原動機となる三相交流モータで
あることを要旨とする。
【0036】
上記車両の原動機となる三相交流モータにあっては、必要とされる電力が特に大きく、そのロック時には過大な電流が上記スイッチング素子に流れることにより同素子が過熱されるようになり、車両の制御性に与える影響も大きい。この点、上記構成によれば、上記三相交流モータがロック状態になったとしても、システム電圧の抑制とゲート抵抗の変更とを通じてスイッチング素子の向上、ひいては、スイッチング素子の電力損失が低減されるようになり、より高い信頼性のもとに上記三相交流モータを駆動制御することができるようになる。またこれにより、坂路等にあっても、自動車等の車両のドライバビリティも良好に維持されるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明にかかるモータ駆動制御装置の一実施の形態についてその構成を示すブロック図。
【図2】同実施の形態の装置において、(a)は、各々抑制されたシステム電圧毎のゲート抵抗の抵抗値とスイッチング素子の端子間電圧との関係を示すグラフ。(b)は、ゲート抵抗に相関して発生するサージ電圧の推移例を示すグラフ。
【図3】同実施の形態のゲート抵抗制御部についてその構成を示すブロック図。
【図4】同実施の形態の装置によるゲート抵抗の制御手順を示すフローチャート。
【図5】(a)〜(c)は、同実施の形態の装置によるスイッチング素子の端子間に印加される電圧の推移を、従来のモータ駆動制御装置によるスイッチング素子の端子間に印加される電圧との対比のもとに示す図。(d)〜(f)は、同実施の形態の装置によるスイッチング素子のスイッチング特性を、従来のモータ駆動制御装置によるスイッチング素子のスイッチング特性との対比のもとに示す図。
【図6】上記実施の形態の変形例について、ゲート抵抗制御部の構成を示すブロック図。
【図7】上記実施の形態の変形例について、ゲート抵抗制御部の構成を示すブロック図。
【図8】従来のモータ駆動制御装置について、その構成を示すブロック図。
【図9】従来のモータ駆動制御装置を構成するゲートドライバ回路についてその構成例を示すブロック図。
【図10】(a)〜(c)は、従来のモータ駆動制御装置におけるスイッチング素子に供給される電流、同素子に印加される電圧、同素子の損失の推移を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明にかかるモータ駆動制御装置を具体化した一実施の形態について図1〜図5を参照して説明する。なお、本実施の形態のモータ駆動制御装置は、先の図8の駆動制御装置と同様、例えばハイブリッド自動車等に搭載されてその原動機となる三相交流モータの駆動を制御するものである。
【0039】
図1は、ハイブリッド車や電気自動車などにあって、車載バッテリから供給される直流電力を三相交流等に変換してモータ駆動用の電力変換を行うインバータ回路INVによる変換電力に基づき三相交流モータMの駆動を制御するモータ駆動制御装置について、その概略構成を示したものである。
【0040】
この図1に示されるように、このモータ駆動制御装置を構成するインバータ装置における正極母線である正極バスバーBBPと負極母線である負極バスバーBBNとの間には、印加される直流電圧を平滑化する平滑コンデンサC及び同直流電圧を三相交流に変換するインバータ回路INVが接続されている。インバータ回路INVは、上アームを構成する
3つのスイッチング素子T1U、T3V、T5Wと、下アームを構成する3つのスイッチング素子T2U、T4V、T6Wとが三相ブリッジ接続されている。なお、本実施の形態では、それら上記各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、及びスイッチング素子T2U、T4V、T6Wとして、絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタを用いることとする。
【0041】
また、スイッチング素子T1U、T3V、T5Wの各エミッタ電極、及びスイッチング素子T2U、T4V、T6Wの各コレクタ電極の結線部であるU相出力電極、V相出力電極、W相出力電極は、それぞれ出力線OWU、OWV、OWWを介して三相交流モータMのU相コイル、V相コイル、W相コイルに接続されている。一方、上記各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、及びスイッチング素子T2U、T4V、T6Wのエミッタ電極とコレクタ電極との間には、それぞれ整流素子である還流ダイオードD1U、D3V、D5W、及び還流ダイオードD2U、D4V、D6Wが逆並列に接続されている。
【0042】
このように構成されるインバータ装置では、駆動対象とする三相交流モータMに流れる電流が電流検出センサSi1〜Si3によって検出されて、この検出された各電流値が三相交流モータMの駆動状態がロック状態にあるか否かを検知するモータロック検知部100とインバータ装置の動作を制御するインバータ制御部110とに入力されている。また、位置検出センサSmによって検出された三相交流モータMの回転子回転位置が、それぞれモータロック検知部100とインバータ制御部110とに入力されている。
【0043】
このうちモータロック検知部100では、それら入力された三相交流モータMに流れる各電流値と三相交流モータMの回転子回転位置とに基づき三相交流モータMの駆動状態がモニタされる。詳述すると、このモータロック検知部100では、上記電流検出センサSi1〜Si3及び上記位置検出センサSmの検出値に基づき、三相交流モータMの回転数が停止回転領域にあり、かつ、三相交流モータMを流れる電流が同三相交流モータMを駆動し得る基準電流以上であるときに三相交流モータMがロック状態にあると検知される。そして、こうしたモータロック検知部100によって検知された三相交流モータMの駆動情報は、上記インバータ制御部110内にあって上記各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの各ゲート抵抗の抵抗値を可変とするゲート抵抗制御部120と上記インバータ装置のシステム電圧の昇圧を抑制するシステム電圧抑制部130とにそれぞれ入力される。
【0044】
一方、インバータ制御部110では、上記電流検出センサSi1〜Si3及び上記位置検出センサSmによって検出された各電流値及び回転子回転位置に基づき上記各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wのスイッチングパターンが生成され、このスイッチングパターンに基づき各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの動作が制御される。また、こうしたインバータ制御部110を構成する上記ゲート抵抗制御部120では、上記モータロック検知部100から入力された三相交流モータMの駆動情報、すなわち、三相交流モータMがロック状態にあるか否かに基づき、上記各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの各ゲート抵抗の抵抗値が変更される。すなわち、このゲート抵抗制御部120では、上記モータロック検知部100によって三相交流モータMのロック状態が検知されたときに、上記各ゲート抵抗の抵抗値を小さくするように変更される。
【0045】
また、上記モータロック検知部100からの三相交流モータMの駆動情報が入力されるシステム電圧抑制部130では、モータロック検知部100による駆動情報に基づき三相交流モータMがロック状態にあると検知されたときに、上記インバータ装置のシステム電圧を昇圧する昇圧コンバータ140による昇圧が抑制される。これにより、上記モータロック検知部100によって三相交流モータMのロック状態が検知されたときには、ゲート
抵抗制御部120によって上記各ゲート抵抗の値が小さい値に変更されるとともにシステム電圧抑制部130によってインバータ装置のシステム電圧が抑制されるようになる。こうして、三相交流モータMのロック時には、この抑制されたシステム電圧が上記インバータ回路INVに印加されるとともに、上記各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wが各々小さい値に変更されたゲート抵抗の抵抗値に応じてスイッチング動作するようになる。
【0046】
次に、上記インバータ装置のシステム電圧を適宜低下させたときの上記各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wのゲート抵抗の抵抗値と端子間電圧との関係、並びにゲート抵抗に相関して発生するサージ電圧の推移を、図2を参照して説明する。なお、図2(a)において曲線L0〜L5は、上記システム電圧抑制部130によってインバータ装置のシステム電圧を順次低下させたときの上記各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの端子間電圧の推移を示している。また、図2(b)に示すサージ電圧は、図2(a)に例示した各ゲート抵抗の値に相関して発生するサージ電圧についてそれぞれ例示したものである。
【0047】
すなわち、この図2(a)にそれぞれ曲線L0〜L5として示すように、スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wのサージ電圧を含めた端子間電圧は、ゲート抵抗の抵抗値が小さくなるにつれてサージ電圧が増大することに起因して高くなる。そして、例えば上記システム電圧抑制部130によるシステム電圧の抑制を行なわなかった場合は、同図2(a)に曲線L0として示すように、スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wのサージ電圧を含めた端子間電圧がゲート抵抗の抵抗値が小さくなるにつれて高くなり、ゲート抵抗の抵抗値が抵抗Ra[Ω]とされたときにスイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの耐圧基準電圧Vmaxに到達するようになる。そしてこのときのスイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wのスイッチング特性は、図2(b)に実線Lsaとして示すように、サージ電圧の最大値が電圧Vsa[V]になるとともに、スイッチングに時間Taを要するものとなる。このため、上記システム電圧抑制部130によるシステム電圧の抑制を行なわなかった場合、スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの端子間電圧を耐圧基準電圧Vmaxの範囲内に抑制しつつ上記ゲート抵抗の抵抗値に相関するスイッチングに要する最短時間は、同図2(b)に示されるように時間Taとなる。
【0048】
次に、上記システム電圧抑制部130によってシステム電圧を電圧E1[V]だけ低下させた場合には、これに相関してスイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの端子間電圧も低下するようになる。この結果、図2(a)に曲線L1として示すように、ゲート抵抗の抵抗値が抵抗Ra[Ω]であったとしてもスイッチング素子のサージ電圧を含めた端子間電圧V1は上記耐圧基準電圧Vmaxよりも小さい値となる(V1<Vmax)。このため、これら耐圧基準電圧Vmaxとシステム電圧抑制部130によって抑制された端子間電圧V1(システム電圧)との差α1を、スイッチング素子のスイッチング動作に伴って生じるサージ電圧の発生をさらに許容し得る余裕分として用いることが可能となる。このため、同条件の下では、スイッチング素子のサージ電圧を含めた端子間電圧は、ゲート抵抗が上記抵抗Raよりも抵抗値の小さい抵抗Rb(Rb<Ra)とされたときに上記耐圧基準電圧Vmaxに到達することとなる。こうしたことから、三相交流モータMのロックに伴って上記システム電圧を電圧E1[V]低下させた場合には、スイッチング素子のゲート抵抗を抵抗Raよりも抵抗値の小さい抵抗Rbに変更することが可能となる。これにより、三相交流モータMのロックに伴って上記システム電圧を電圧E1[V]低下させたときのスイッチング素子のスイッチング特性は、図2(b)に実線Lsbとして示すように、サージ電圧の最大値が電圧Vsb[V]になるとともに、スイッチングに時間Tbを要するものとなる。このため、上記システム電圧抑制部13
0によるシステム電圧を電圧E1[V]低下させた場合には、スイッチング素子のゲート抵抗を抵抗Raからこの抵抗Raよりも抵抗値の小さい抵抗Rbに変更することによって、スイッチング素子の端子間電圧を耐圧基準電圧Vmaxの範囲内に抑制しつつスイッチング素子のゲート抵抗の抵抗値に相関するスイッチングに要する最短時間を、同図2(b)に示すように時間Taから時間Tbへと短縮することができるようになる。そしてこのように、三相交流モータMのロック時におけるスイッチング速度が高められた分だけ、スイッチング素子の電力損失が低減されるようになり、ひいては、スイッチング素子の過熱が抑制されるようになる。
【0049】
また、図2(a)に曲線L2〜L5として示すように、システム電圧抑制部130によるインバータ装置のシステム電圧をさらに低下させた場合には、これに応じてスイッチング素子の耐圧基準電圧Vmaxとシステム電圧との差がさらに拡大されるようになる。このため、三相交流モータMのロック時においては、システム電圧の低下により順次拡大されるスイッチング素子の耐圧基準電圧Vmaxとシステム電圧との差に応じて上記ゲート抵抗を抵抗Rb→抵抗Rc→抵抗Rdへと抵抗値が小さい抵抗に変更することができるようになる。これにより、図2(b)にそれぞれ特性Lsb、Lsc、Lsdとして示すように、サージ電圧の最大値が電圧Vsb〜電圧Vsdへと順次増大する一方、スイッチングに要する時間も時間Tb〜Tdへと順次短縮されるようになる。
【0050】
このように本実施の形態では、三相交流モータMのロック時において、システム電圧抑制部130によって抑制されたシステム電圧とスイッチング素子の耐圧基準電圧との差に応じて、上記ゲート抵抗の抵抗値をその抵抗値に相関して生じるサージ電圧をスイッチング素子の耐圧基準電圧の範囲内で最大とし得る値に設定することとする。
【0051】
次に、このような前提のもとに上記モータ駆動制御装置を構成する上記ゲート抵抗制御部120の一部について、その構成及び動作を図3を参照して説明する。
図3に示すように、このゲート抵抗制御部120は、上記各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wに各別にゲート電圧を印加してその動作を制御するゲート駆動回路121を備えている。なお図3では、便宜上、上記各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wのうちのスイッチング素子T1Uを例にとって、その構成を示している。こうしたゲート駆動回路121では、Pチャネル型MOSFETからなるトランジスタM1及びゲート抵抗R1を介してスイッチング素子T1Uにゲート電圧が印加されるとともに、Nチャネル型MOSFETからなるトランジスタM2及びゲート抵抗R2を介してスイッチング素子T1Uのゲート電荷が放電される。
【0052】
また、こうしたゲート駆動回路121には、上記スイッチング素子TIUとの間にAND回路122を介して上記トランジスタM1及び上記ゲート抵抗R1と並列に、Pチャネル型MOSFETからなるトランジスタM3及びゲート抵抗R3が接続されている。同様に、このゲート駆動回路121には、上記スイッチング素子TIUとの間にAND回路123を介して上記トランジスタM2及びゲート抵抗R2と並列に、Nチャネル型MOSFETからなるトランジスタM4及びゲート抵抗R4が接続されている。
【0053】
一方、上記各AND回路122及び123の各入力端子には、上記モータロック検知部100からの三相交流モータMの駆動情報が入力されている。そして、こうした各AND回路122及び123には、三相交流モータMの非ロック時に論理レベル「0」の信号が入力される一方、上記モータロック検知部100によって三相交流モータMのロック状態が検知されると論理レベル「1」の信号が入力される。こうして、三相交流モータMのロック時には、ゲート抵抗R1及びR2とゲート抵抗R3及びR4とがそれぞれ並列状態とされるようになり、スイッチング素子T1Uに対するゲート抵抗の抵抗値が三相交流モータMの非ロック時よりも小さい値に変更されるようになる。なお、本実施の形態では上述
のように、上記各ゲート抵抗R1〜R4の抵抗値は、スイッチング素子TIUの耐圧基準電圧と上記システム電圧抑制部130によって抑制されたシステム電圧との差に応じて、上記ゲート抵抗R3及びR4が上記ゲート抵抗R1及びR2と並列状態とされたときの抵抗値に相関して生じるサージ電圧をスイッチング素子TIUの耐圧基準電圧の範囲内で最大とし得る値に設定されている。また、本実施の形態においては、三相交流モータMのロック時/非ロック時のいずれにおいても、ゲート抵抗R1及びR2、並びに上記トランジスタM1及びM2を介してスイッチング素子T1Uがゲート駆動回路121に常時接続された状態となっている。これにより、スイッチング素子TIUのゲート抵抗の抵抗値の変更に際してもスイッチング素子T1Uとゲート駆動回路121との接続を常時維持することができるようになり、ゲート抵抗の抵抗値を変更する上でスイッチング素子T1Uのスイッチング動作を保証することができるようになる。
【0054】
そして、こうしたモータ駆動制御装置により三相交流モータMのロック状態が検知されたとすると、
(イ)上記システム電圧抑制部130によってインバータ装置のシステム電圧が抑制され、各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの端子間電圧が低下する。
(ロ)それら各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの端子間電圧が抑制された分を、各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの耐圧基準電圧の範囲内でサージ電圧の発生を許容し得る余裕分として、各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wのゲート抵抗の抵抗値が小さい値に変更される。
といった態様にて、各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wのゲート抵抗の抵抗値が小さい値に変更された分だけ各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wのスイッチング速度が高められるようになる。こうして、各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの電力損失が低減され、各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの過熱が抑制されるようになる。
【0055】
次に、本実施の形態による上述したゲート抵抗の変更態様について、図4を参照して総括する。
この図4に示すように、まず、上記三相交流モータMが駆動されると、上記ゲート抵抗R1及びR2が導通状態とされる一方、上記ゲート抵抗R3及びR4は非導通状態とされ、ステップS101において三相交流モータMの回転数Nが検出される。
【0056】
そして、上記検出された回転数Nが停止回転領域NSの範囲内にある場合には、三相交流モータMに流れる電流Iが検出される(ステップS102:YES、S103)。こうして三相交流モータMに流れる電流Iが検出されると、この検出された電流Iが三相交流モータMを駆動し得る基準電流IS以上であるか否か、すなわち、三相交流モータMがロック状態にあるか否かが判定される(ステップS104)。この結果、三相交流モータMの駆動状態がロック状態にあると判定された場合には、まず、上記システム電圧抑制部130によって昇圧コンバータ140によるシステム電圧の昇圧が抑制される(ステップS105)。こうして、上記インバータ装置のシステム電圧が抑制されると、上記ゲート抵抗R1及びR2の導通状態が維持されるとともに上記ゲート抵抗R3及びR4が導通状態とされ、上記各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wに対するゲート抵抗の抵抗値が小さい値に変更される(ステップS106)。一方、三相交流モータMの駆動状態が非ロック状態であると判定された場合は、上記ゲート抵抗R1及びR2のみの導通状態が維持されるとともに、上記ゲート抵抗R3及びR4の非導通状態が維持される(ステップS107)。
【0057】
次に、本実施の形態のモータ駆動制御装置によるスイッチング素子の端子間電圧の推移を、上記従来のモータ駆動制御装置によるスイッチング素子の端子間電圧の推移との対比のもとに図5を参照して説明する。なお、この図5において、図5(a)及び(b)は従来のモータ駆動制御装置によるスイッチング素子の端子間電圧の推移を示しており、図5(c)は本実施の形態によるモータ駆動制御装置によるスイッチング素子の端子間電圧の推移を示している。また、この図5において図5(d)及び(e)は従来のモータ駆動制御装置によるスイッチング素子の電力損失を示しており、図5(f)は本実施の形態によるモータ駆動制御装置によるスイッチング素子の電力損失を示している。
【0058】
この図5に示すように、一般のモータ駆動制御装置によるスイッチング素子のスイッチング動作時におけるスイッチング素子のサージ電圧を含めた端子間電圧の最大値は、上記ゲート抵抗の抵抗値を変更しなかった場合、図5(a)に示されるように電圧Vs1となる。そして、このときのスイッチング素子のスイッチング速度は、図5(d)に示されるように時間T1となり、このスイッチング素子のスイッチング動作時には、同図5(d)に斜線にて示すような電力損失P1が生じるようになる。
【0059】
そこで、例えば上記従来のモータ駆動制御装置により、この損失P1を図5(e)に示す損失P2(スイッチング速度=時間T2)へと低減すべくゲート抵抗の抵抗値を小さい値に変更したとしても、インバータ装置のシステム電圧Vsyとスイッチング素子の耐圧基準電圧Vmaxとの差分α2しか上記サージ電圧の発生を許容し得る余裕分が存在しないために、ゲート抵抗の抵抗値に相関するサージ電圧の増大に伴ってスイッチング素子のサージ電圧を含めた端子間電圧Vs2が上記耐圧基準電圧Vmaxを超えることとなる(図5(b))。このため、上記ゲート抵抗の抵抗値を小さく変更することによってスイッチング素子の電力損失の低減を図ったとしても、結局のところ、従来のモータ駆動制御装置では上記余裕分α2の範囲内でしかサージ電圧を発生させることができず、上記ゲート抵抗の調整を通じたスイッチング素子の損失低減効果も十分とはいえない。
【0060】
一方、本実施の形態によれば、三相交流モータMのロック時には、図5(c)に示すように、上記システム電圧抑制部130によってシステム電圧が抑制され、この抑制分βと上記余裕分α2との合計α3が上記サージ電圧の発生を許容し得る余裕分となる。このため、三相交流モータMのロック時には、この余裕分α3の範囲内で上記ゲート抵抗に相関するサージ電圧を最大限に発生させることが可能となり(図5(f):電力損失=P3、スイッチング速度=時間T3)、ゲート抵抗の調整を通じたスイッチング素子の損失低減効果がより高められるようになる。
【0061】
以上説明したように、本実施の形態にかかるモータ駆動制御装置によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)三相交流モータMのロック時には、上記インバータ装置のシステム電圧を抑制するとともに、この抑制されたシステム電圧を上記サージ電圧の発生を許容し得る余裕分として上記ゲート抵抗の抵抗値を小さい値に変更することとした。このため、三相交流モータMのロック時には、上記各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wのゲート抵抗の抵抗値が小さい値に変更された分、それらスイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wのスイッチング速度が高められるようになる。これより、三相交流モータMのロック時において、各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wに過大な電流が流れるような場合であれ、各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの電力損失が好適に低減されるようになり、ひいては、それら各素子を過熱から好適に保護することができるようになる。
【0062】
(2)上記各ゲート抵抗R1〜R4の抵抗値を、上記耐圧基準電圧Vmaxと上記シス
テム電圧抑制部130によって抑制されたシステム電圧との差に応じて、ゲート抵抗R3及びR4がゲート抵抗R1及びR2と並列状態とされたときの抵抗値に相関して生じるサージ電圧を各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの耐圧基準電圧の範囲内で最大とし得る値に設定することした。これにより、スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの耐圧基準電圧Vmaxの範囲内での最大限のサージ電圧の発生が可能となり、ひいては、スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wのターンオン時間/ターンオフ時間のさらなる短縮化が実現されるようになる。また、これにより、上記ゲート抵抗の抵抗値の変更を通じてスイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの電力損失の低減を図る上で、それらスイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wに印加される電圧を上記耐圧基準電圧Vmaxの範囲内に好適に維持することができるようになり、上記モータ駆動制御装置としての信頼性がより高められるようになる。
【0063】
(3)三相交流モータMのロック時におけるゲート抵抗の抵抗値の変更を、上記ゲート駆動回路121と各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wとの間で常時導通状態とされたゲート抵抗R1及びR2と並列接続されたゲート抵抗R3及びR4の非導通状態/導通状態の切り替えとして行なうこととした。このため、三相交流モータMのロック時においてゲート抵抗の抵抗値を変化させる上で、ゲート抵抗R1及びR2によってゲート駆動回路121と各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wとの常時接続が維持されるようになる。これにより、上記ゲート抵抗の抵抗値の変更を通じて各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの電力損失の低減を図る上で、それら各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wとしての動作を好適に維持することができるようになる。
【0064】
(4)三相交流モータMのロック時におけるシステム電圧の抑制を上記昇圧コンバータ140による昇圧の抑制として行なうこととした。このため、三相交流モータMのロック時におけるインバータ装置のシステム電圧の抑制をDC−DCコンバータ等の既存の昇圧コンバータ140により実現することができるようになる。これにより、上記モータ駆動制御装置としての汎用性はもとより、同装置としての構造上の簡略化が図られるようになる。また、このように、インバータ装置のシステム電圧の値を昇圧コンバータ140による昇圧を通じて任意に抑制可能なことから、各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの耐圧基準電圧Vmaxの範囲内で上記サージ電圧を許容し得る余裕分の確保もより容易となる。これにより、三相交流モータMのロック時に上記ゲート抵抗の抵抗値を小さくすることによってスイッチング素子の電力損失を抑制する上で、ゲート抵抗の抵抗値の変更とシステム電圧の抑制との双方から上記余裕分の確保が可能となり、より高い自由度のもとにスイッチング素子の電力損失の低減が図られるようになる。
【0065】
(5)上記三相交流モータMの駆動状態を三相交流モータMの回転数Nと三相交流モータMに流れる電流Iに基づきモニタし、三相交流モータMの回転数Nが停止回転領域にあり、かつ、三相交流モータMに供給される電流Iが上記基準電流IS以上であるときに三相交流モータMがロック状態にあると検知することとした。これにより、三相交流モータMのロック状態の検知を的確に行なうことができるようになり、ひいては、三相交流モータMのロック時におけるゲート抵抗の抵抗値の変更を好適に行なうことができるようになる。
【0066】
なお、上記実施の形態は、以下のような形態をもって実施することもできる。
・上記三相交流モータMのロック状態を、三相交流モータMの回転数Nと同三相交流モータMに供給される電流Iに基づき検知することとした。これに限らず、上記各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの温度をモニタし、それらモ
ニタされる各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの温度上昇率が三相交流モータMの非ロック時における基準温度上昇率以上にあるときに三相交流モータMがロック状態にあると検知することも可能である。
【0067】
・上記ゲート抵抗をゲート駆動回路121と各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wとの間に並列接続されたゲート抵抗R1及びR2とゲート抵抗R3及びR4とによって構成し、三相交流モータMのロック時のゲート抵抗の変更をゲート抵抗R3及びR4の導通/非導通状態の切り替えとして行なうこととした。これに限らず、先の図3に対応する図として例えば図6に示すように、上記ゲート抵抗をその抵抗値を複数段階に調整可能なプログラマブルボリュームVRによって構成し、三相交流モータMのロック時における上記ゲート抵抗の変更を上記モータロック検知部100により三相交流モータMのロック状態が検知されたときと検知されないときとでその都度異なる抵抗値を選択するようにしてもよい。この構成によれば、先の図2(a)に示したように、スイッチング素子の耐圧基準電圧と抑制されたシステム電圧との差、換言すれば、上記サージ電圧の発生が許容される余裕分に応じてゲート抵抗の抵抗値を選択的に変更することができるようになり、より高い自由度のもとにゲート抵抗の抵抗値を選択することができるようになる。これにより、スイッチング素子の電力損失を抑制する上で、より望ましいゲート抵抗の抵抗値の設定も容易となる。
【0068】
・また、先の図3に対応する図として例えば図7に示すように、上記ゲート抵抗を、ゲート駆動回路121と各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wとの間にスイッチSW1及びSW2を介して並列接続されたゲート抵抗R5及びR6とこれらゲート抵抗R5及びR6よりも抵抗値の低いゲート抵抗R7及びR8(R5>R7、R6>R8)とによって構成するようにしてもよい。すなわちこの場合、三相交流モータMのロック時における上記ゲート抵抗の変更を、三相交流モータMの非ロック時には上記スイッチSW1及びSW2をゲート抵抗R5及びR6側に切り替える。また、上記モータロック検知部100により三相交流モータMのロック状態が検知されたときには上記スイッチSW1及びSW2をゲート抵抗R7及びR8側に切り替える。
【0069】
・三相交流モータMのロック時におけるインバータ装置のシステム電圧の抑制を、DC−DCコンバータ等からなる昇圧コンバータ140によって行なうこととした。これに限らず、上記モータ駆動制御装置としては三相交流モータMのロック時においてインバータ装置のシステム電圧を抑制可能な構成であればよく、昇圧コンバータ140とは別途に設けられた変圧器等によってインバータ装置のシステム電圧を抑制することも可能である。
【0070】
・上記インバータ装置のスイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wとして絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタを用いることとした。これに限らず、スイッチング素子としては、この他、パワーMOSFETやサイリスタ等を用いることも可能である。
【0071】
・上記実施の形態では、駆動制御の対象として車両の原動機となる三相交流モータMを対象としたが、駆動制御の対象としてはこの他、ポンプや送風機等の駆動源としての交流モータであってもよい。要は、電力変換を行なうインバータ装置のスイッチング素子の各々にゲート抵抗を介してゲート電圧を印加しつつその変換電力に基づき駆動制御される交流モータであれば本発明の適用は可能である。
【符号の説明】
【0072】
100…モータロック検知部、110…インバータ制御部、120…ゲート抵抗制御部、121…ゲート駆動回路、122、123…AND回路、130…システム電圧抑制部、140…昇圧コンバータ、M…三相交流モータ、M1、M3…トランジスタ(Pチャネ
ル型MOSFET)、M2、M4…トランジスタ(Nチャネル型MOSFET)、R1〜R8…ゲート抵抗(R1、R2、R5、R6:第1ゲート抵抗、R3、R4、R7、R8:第2ゲート抵抗)、Sm…位置検出センサ、VR…プログラマブルボリューム、INV…インバータ回路、T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6W…スイッチング素子(IGBT)、Si1〜Si3…電流検出センサ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流モータの駆動に際し、特にモータロック時の過電流から駆動回路を保護するモータ駆動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載バッテリから供給される直流電力を例えば三相交流に変換するインバータ装置がハイブリッド車や電気自動車などのモータ用の電力変換装置として広く利用されている。このようなハイブリッド自動車は、インバータ装置を構成するスイッチング素子により生成された三相交流電力を動力源として上記モータの駆動を制御している。このため、モータのロック時には、スイッチング素子に過大な直流電流が流れ、その熱損失が急激に増加するようになる。
【0003】
そこで、こうした熱損失の増大に起因するスイッチング素子の熱破壊を防止するモータ駆動制御装置として、例えば特許文献1に記載のモータ駆動制御装置が知られている。図8に、この特許文献1に記載のモータ駆動制御装置についてその概略構成を示す。
【0004】
図8に示されるように、このインバータ装置における直流電源Bの正極母線である正極バスバーBBPと負極母線である負極バスバーBBNとの間には、直流電源Bから印加される直流電圧を平滑化する平滑コンデンサC及び同直流電圧を三相交流に変換するインバータ回路INVが接続されている。インバータ回路INVは、上アームを構成する3つのスイッチング素子(IGBT:絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタ)T1U、T3V、T5Wと、下アームを構成する3つのスイッチング素子T2U、T4V、T6Wとが三相ブリッジ接続されている。
【0005】
また、スイッチング素子T1U、T3V、T5Wの各エミッタ電極、及びスイッチング素子T2U、T4V、T6Wの各コレクタ電極の結線部であるU相出力電極、V相出力電極、W相出力電極は、それぞれ出力線OWU、OWV、OWWを介して三相交流モータMのU相コイル、V相コイル、W相コイルに接続されている。一方、上記各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、及びスイッチング素子T2U、T4V、T6Wのエミッタ電極とコレクタ電極との間には、それぞれ整流素子である還流ダイオードD1U、D3V、D5W、及び還流ダイオードD2U、D4V、D6Wが逆並列に接続されている。
【0006】
このように構成されるインバータ装置では、駆動対象とする三相交流モータMに流れる電流が電流検出センサ5a〜5cによって検出されて、この検出された各電流値がモータ駆動制御装置10に取り込まれる。また、三相交流モータMの回転子回転位置が位置検出センサ7によって検出され、その値がモータ駆動制御装置10に取り込まれる。そして、モータ駆動制御装置10では、それら各電流値及び回転子回転位置に基づき上記各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wのスイッチングパターンが生成され、このモータ駆動制御装置10に内蔵されたゲートドライバ回路により各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの動作が制御される。図9に、このゲートドライバ回路についてその概略構成を示す。
【0007】
この図9に示すように、上記ゲートドライバ回路は、スイッチングパターン信号が入力されてこのスイッチングパターン信号の電位レベルをスイッチング素子T1Uと同じ電位レベルの信号に変換するとともにこのスイッチングパターン信号を生成する低圧回路側とスイッチング素子T1U等の高圧回路側とを絶縁する絶縁回路22を備えている。この絶縁回路22により電位が変換された信号は、スイッチング素子T1Uのゲートを駆動制御
するための第1ゲートドライバ23及び第2ゲートドライバ24にそれぞれ入力される。これら第1ゲートドライバ23及び第2ゲートドライバ24は、電気的に並列に接続されており、第1ゲートドライバ23がモータの駆動時に常時動作する一方、第2ゲートドライバ24はモータMがロック状態になったときにのみ動作する。そして、このような第1ゲートドライバ23及び第2ゲートドライバ24は、それらの出力電流を制限するゲート抵抗23a、24aを介してスイッチング素子T1Uに接続されている。
【0008】
また、ロック検知回路25では、上記三相交流モータMがロック状態にあるか否かが検知される。そして、このロック検知回路25の出力と上記絶縁回路22の出力との論理積が論理積回路26を介して第2ゲートドライバ24に出力される。このようなゲートドライバ回路によれば、三相交流モータMのロック時には、第2ゲートドライバ24が第1ゲートドライバ23と同期して動作するようになり、ゲート抵抗23aとゲート抵抗24aとが等価的に並列状態とされる。
【0009】
次に、このようなゲートドライバ回路によって駆動されるスイッチング素子T1Uを流れる電流、及びエミッタ電極−コレクタ電極間の電圧、並びに損失を、それぞれ図10(a)〜(c)を参照して説明する。なお、図10(a)は、三相交流モータMの非ロック時におけるスイッチング素子T1Uのターンオン時の電圧、電流、及び損失の推移例を示しており、図10(b)は、三相交流モータMの非ロック時におけるスイッチング素子T1Uのターンオフ時の電圧、電流、及び損失の推移例を示している。また、図10(c)は、三相交流モータMのロック時におけるスイッチング素子T1Uのターンオン時の電圧、電流、及び損失の推移例を示している。
【0010】
まず、三相交流モータMの非ロック時におけるスイッチング素子T1Uのターンオン時には、図10(a)に示されるように、スイッチング素子T1Uがオフ状態からオン状態に遷移するまでにt1時間(ターンオン時間)を要している。このため、スイッチング素子T1Uのターンオン時には、同図10(a)に斜線で示すようにターンオン時間t1に比例する損失P1が発生する。
【0011】
また、三相交流モータMの非ロック時におけるスイッチング素子T1Uのターンオフ時には、図10(b)に示すように、スイッチング素子T1Uがオン状態からオフ状態に遷移するまでにt2時間(ターンオフ時間)を要している。このため、スイッチング素子T1Uのターンオフ時には、図10(b)に斜線で示すようにターンオフ時間t2に比例する損失P2が発生する。
【0012】
一方、三相交流モータMの非ロック時におけるスイッチング素子T1Uのターンオン時には、上述のように、第1ゲートドライバ23及び第2ゲートドライバ24が共に動作することにより、ゲート抵抗23a及び24aが等価的に並列接続となることから、スイッチング素子T1Uに対する時定数が小さくなる。この結果、スイッチング素子T1Uのドライブ能力が高められるようになり、図10(c)に示すように、スイッチング素子T1Uのターンオン時間t3が上記ターンオン時間t1よりも短くなる(t1>t3)。そして、このようなターンオン時間t3に比例する損失も、同図10(c)に示すように、スイッチング時間t3が短くなった分だけ電圧と電流がコレクタとエミッタ間に同時に存在する期間が短くなり、スイッチング素子の損失P3も低減するようになる。
【0013】
このように、上記特許文献1に記載のモータ駆動制御装置によれば、三相交流モータMのロック時には、スイッチング素子T1Uに対するゲート抵抗を小さくすることによってスイッチング素子T1Uの損失が低減されることから、このスイッチング素子T1Uの過熱を抑制することができるようなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2005−117758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところで、上述のようなインバータ装置においては、このインバータ装置を構成するスイッチング素子のターンオン、ターンオフ時に配線インダクタンスと電流変化とに起因するサージ電圧が生じるようになる。そして、こうしたサージ電圧は、上記スイッチング素子のターオン時間、ターンオフ時間が急峻であるほど大きくなってしまう。すなわち、上述のように三相交流モータMのロック時に各スイッチング素子のゲート抵抗を小さくしたとしても、各スイッチング素子の損失に反比例するかたちでサージ電圧が増大するようになる。このため、このようなサージ電圧がスイッチング素子の耐圧の範囲内となるようにゲート抵抗を設定しなければならず、こうしたゲート抵抗の調整を通じたスイッチング素子の損失低減効果も十分とはいえない。
【0016】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、交流モータのロック時におけるスイッチング素子の損失を的確に低減することにより、スイッチング素子を過熱から好適に保護することのできるモータ駆動制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、交流モータを駆動すべく電力変換を行なうインバータ装置のスイッチング素子の各々にゲート抵抗を介してゲート電圧を印加しつつその変換電力に基づき前記交流モータの駆動を制御するモータ駆動制御装置において、前記交流モータがロック状態にあるか否かを検知するモータロック検知部を備え、該モータロック検知部により前記交流モータのロック状態が検知されることに基づき前記インバータ装置のシステム電圧を抑制するとともに前記ゲート抵抗の抵抗値を小さい値に変更することを要旨とする。
【0018】
上記構成によるように、上記交流モータのロック状態が検知されたときにインバータ装置のシステム電圧を抑制するとともにゲート抵抗の抵抗値を小さい値に変更することとすれば、インバータ装置のシステム電圧が抑制された分だけスイッチング素子のオン/オフ動作に伴って生じるサージ電圧の発生を許容し得る余裕分が確保されることとなる。こうしたことから、このサージ電圧の余裕分が確保された分だけ、サージ電圧の大きさに相関する上記ゲート抵抗を小さい値に変更することが可能となる。このため、上記スイッチング素子のゲート抵抗が小さい値に変更された分だけ、これに相関してスイッチング素子のターンオン時間あるいはターオフ時間を短縮することができるようになり、ひいては、こうしたスイッチング素子のターンオン時及びターオフ時に生じる電力損失の低減が図られるようになる。これにより、たとえ上記交流モータのロックに伴ってスイッチング素子に過大な直流電流が流れたとしても、このスイッチング素子の損失を的確に低減することができるようになり、ひいては、スイッチング素子を過熱から好適に保護することができるようになる。
【0019】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のモータ駆動制御装置において、前記交流モータのロック状態の検知に基づき変更される前記ゲート抵抗の抵抗値が、前記スイッチング素子の耐圧基準電圧と前記抑制されたシステム電圧との差に応じて前記ゲート抵抗の値に相関して生じるサージ電圧を前記スイッチング素子の耐圧基準電圧の範囲内で最大とし得る値に設定されることを要旨とする。
【0020】
上記構成によるように、モータのロック状態において変更されるゲート抵抗の抵抗値を、スイッチング素子の耐圧基準電圧と上記抑制されたシステム電圧との差に応じて上記サージ電圧をスイッチング素子の耐圧基準電圧の範囲内で最大とし得る値に設定することとすれば、スイッチング素子の耐圧基準電圧と抑制されたシステム電圧との差、換言すれば、上記サージ電圧の発生が許容される余裕分に応じてゲート抵抗の抵抗値を最小の値に設定することが可能となる。これにより、スイッチング素子の耐圧基準電圧の範囲内での最大限のサージ電圧の発生が可能となり、ひいては、スイッチング素子のターンオン時間/ターンオフ時間のさらなる短縮化が実現されるようになる。
【0021】
また、上記ゲート抵抗の変更を通じてスイッチング素子の電力損失の低減を図る上で、スイッチング素子に印加される電圧を同スイッチング素子の耐圧基準電圧の範囲内に好適に維持することができるようになり、上記モータ駆動制御装置としての信頼性がより高められるようになる。
【0022】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のモータ駆動制御装置において、前記ゲート抵抗は、前記ゲート電圧を印加する回路と前記スイッチング素子との間に並列接続された第1ゲート抵抗と第2ゲート抵抗とからなり、前記ゲート抵抗の変更は、前記第1ゲート抵抗を常時導通状態とし、前記モータロック検知部により前記交流モータのロック状態が検知されたときに前記第1ゲート抵抗及び前記第2ゲート抵抗を共に導通状態とする態様で行なわれることを要旨とする。
【0023】
上記構成によるように、交流モータのロック時におけるゲート抵抗の抵抗値の変更を、常時導通状態とされた第1ゲート抵抗と並列接続された第2ゲート抵抗の非導通状態/導通状態の切り替えとして行なうこととすれば、スイッチング素子が第1ゲート抵抗を介して上記ゲート電圧を印加する回路に常時接続された状態となる。このため、交流モータのロック時においてゲート抵抗の抵抗値を変化させる上で、ゲート抵抗を介した上記スイッチング素子のゲート電荷の放電等を確実に行なうことができるようになり、スイッチング素子としての動作を好適に維持することができるようになる。
【0024】
請求項4に記載の発明は、請求項1又は2に記載のモータ駆動制御装置において、前記ゲート抵抗は、その抵抗値を複数段階に調整可能なプログラマブルボリュームからなり、前記ゲート抵抗の変更は、前記モータロック検知部により前記交流モータのロック状態が検知されたときと検知されないときとでその都度異なる抵抗値が選択される態様で行なわれることを要旨とする。
【0025】
上記構成によれば、抵抗値を複数段階に調整可能なプログラマブルボリュームにより上記ゲート抵抗を構成することによって、交流モータのロック時と非ロック時とでその都度異なる抵抗値が選択される。このため、スイッチング素子の耐圧基準電圧と抑制されたシステム電圧との差、換言すれば、上記サージ電圧の発生が許容される余裕分に応じてゲート抵抗の抵抗値を選択的に変更することができるようになり、より高い自由度のもとにゲート抵抗の抵抗値を選択することができるようになる。これにより、スイッチング素子の電力損失を抑制する上で、より望ましいゲート抵抗の抵抗値の設定も容易となる。
【0026】
請求項5に記載の発明は、請求項1又は2に記載のモータ駆動制御装置において、前記ゲート抵抗は、前記ゲート電圧を印加する回路と前記スイッチング素子との間に並列接続された第1ゲート抵抗と該第1ゲート抵抗よりも抵抗値の低い第2ゲート抵抗とからなり、前記ゲート抵抗の変更は、前記交流モータの非ロック時に前記第1ゲート抵抗を導通状態とするとともに前記第2ゲート抵抗を非導通状態とし、前記モータロック検知部により前記交流モータのロック状態が検知されたときに前記第1ゲート抵抗を非導通状態とするとともに前記第2ゲート抵抗を導通状態とする態様で行なわれることを要旨とする。
【0027】
上記構成によれば、交流モータのロック時におけるゲート抵抗の抵抗値の変更が、第1ゲート抵抗とこの第1ゲート抵抗よりも抵抗値の低い第2ゲート抵抗との切り替えを通じて行なわれる。これにより、交流モータのロック時におけるゲート抵抗の抵抗値の変更をより容易に行なうことができるようになるとともに、より簡易な構成によって上記モータ駆動制御装置を構成することができるようになる。
【0028】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載のモータ駆動制御装置において、前記システム電圧の抑制は、前記モータロック検知部により前記交流モータのロック状態が検知されたときに前記インバータ装置のシステム電圧を昇圧する昇圧コンバータによる昇圧の抑制として行なわれることを要旨とする。
【0029】
上記構成によるように、上記交流モータのロック時におけるインバータ装置のシステム電圧の抑制を上記昇圧コンバータによる昇圧の抑制として行なうこととすれば、交流モータのロック時におけるインバータ装置のシステム電圧の抑制をDC−DCコンバータ等の既存の昇圧コンバータにより実現することができるようになる。これにより、上記モータ駆動制御装置としての汎用性はもとより、同装置としての構造上の簡略化が図られるようになる。
【0030】
また、上記構成によれば、インバータ装置のシステム電圧の値を昇圧コンバータによる昇圧を通じて任意に抑制可能であることから、スイッチング素子の耐圧基準電圧の範囲内で上記サージ電圧を許容し得る余裕分の確保もより容易となる。これにより、上記ゲート抵抗の抵抗値を小さくすることによりスイッチング素子の電力損失を抑制する上で、ゲート抵抗の抵抗値の変更とシステム電圧の抑制との双方から上記余裕分の確保が可能となり、より高い自由度のもとにスイッチング素子の電力損失の低減が図られるようになる。
【0031】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載のモータ駆動制御装置において、前記モータロック検知部は、前記交流モータの回転数が停止回転領域にあり、かつ、前記交流モータに供給される電流が該交流モータを駆動し得る基準電流以上であるときに交流モータがロック状態にあると検知することを要旨とする。
【0032】
通常、上記交流モータのロック時においては、交流モータに上記基準電流以上の電流が供給されているにも拘わらず同モータの回転数は停止回転領域の範囲内となる。そこで、上記構成によるように、交流モータのロック状態を、交流モータの回転数と同交流モータに供給される電流値に基づき検知することとすれば、モータのロック状態を的確に検知することができるようになる。これにより、交流モータのロック時に上記ゲート抵抗の抵抗値を変更する上で、その信頼性がより高められるようになる。
【0033】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜7のいずれか一項に記載のモータ駆動制御装置において、前記インバータ装置のスイッチング素子が絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタであることを要旨とする。
【0034】
この発明は、上記構成によるように、スイッチング素子として絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタ(IGBT)を用いる場合に特に有効であり、この絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタに接続される上記ゲート抵抗の抵抗値の変更と上記システム電圧の抑制とを通じて、サージ電圧の発生を上記基準耐圧電圧の範囲内で抑制しつつスイッチング速度の向上、ひいては、スイッチング素子の電力損失の低減が好適に図られるようになる。
【0035】
請求項9に記載の発明は、請求項1〜8のいずれか一項に記載のモータ駆動制御装置において、前記駆動制御の対象となる交流モータは、車両の原動機となる三相交流モータで
あることを要旨とする。
【0036】
上記車両の原動機となる三相交流モータにあっては、必要とされる電力が特に大きく、そのロック時には過大な電流が上記スイッチング素子に流れることにより同素子が過熱されるようになり、車両の制御性に与える影響も大きい。この点、上記構成によれば、上記三相交流モータがロック状態になったとしても、システム電圧の抑制とゲート抵抗の変更とを通じてスイッチング素子の向上、ひいては、スイッチング素子の電力損失が低減されるようになり、より高い信頼性のもとに上記三相交流モータを駆動制御することができるようになる。またこれにより、坂路等にあっても、自動車等の車両のドライバビリティも良好に維持されるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明にかかるモータ駆動制御装置の一実施の形態についてその構成を示すブロック図。
【図2】同実施の形態の装置において、(a)は、各々抑制されたシステム電圧毎のゲート抵抗の抵抗値とスイッチング素子の端子間電圧との関係を示すグラフ。(b)は、ゲート抵抗に相関して発生するサージ電圧の推移例を示すグラフ。
【図3】同実施の形態のゲート抵抗制御部についてその構成を示すブロック図。
【図4】同実施の形態の装置によるゲート抵抗の制御手順を示すフローチャート。
【図5】(a)〜(c)は、同実施の形態の装置によるスイッチング素子の端子間に印加される電圧の推移を、従来のモータ駆動制御装置によるスイッチング素子の端子間に印加される電圧との対比のもとに示す図。(d)〜(f)は、同実施の形態の装置によるスイッチング素子のスイッチング特性を、従来のモータ駆動制御装置によるスイッチング素子のスイッチング特性との対比のもとに示す図。
【図6】上記実施の形態の変形例について、ゲート抵抗制御部の構成を示すブロック図。
【図7】上記実施の形態の変形例について、ゲート抵抗制御部の構成を示すブロック図。
【図8】従来のモータ駆動制御装置について、その構成を示すブロック図。
【図9】従来のモータ駆動制御装置を構成するゲートドライバ回路についてその構成例を示すブロック図。
【図10】(a)〜(c)は、従来のモータ駆動制御装置におけるスイッチング素子に供給される電流、同素子に印加される電圧、同素子の損失の推移を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明にかかるモータ駆動制御装置を具体化した一実施の形態について図1〜図5を参照して説明する。なお、本実施の形態のモータ駆動制御装置は、先の図8の駆動制御装置と同様、例えばハイブリッド自動車等に搭載されてその原動機となる三相交流モータの駆動を制御するものである。
【0039】
図1は、ハイブリッド車や電気自動車などにあって、車載バッテリから供給される直流電力を三相交流等に変換してモータ駆動用の電力変換を行うインバータ回路INVによる変換電力に基づき三相交流モータMの駆動を制御するモータ駆動制御装置について、その概略構成を示したものである。
【0040】
この図1に示されるように、このモータ駆動制御装置を構成するインバータ装置における正極母線である正極バスバーBBPと負極母線である負極バスバーBBNとの間には、印加される直流電圧を平滑化する平滑コンデンサC及び同直流電圧を三相交流に変換するインバータ回路INVが接続されている。インバータ回路INVは、上アームを構成する
3つのスイッチング素子T1U、T3V、T5Wと、下アームを構成する3つのスイッチング素子T2U、T4V、T6Wとが三相ブリッジ接続されている。なお、本実施の形態では、それら上記各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、及びスイッチング素子T2U、T4V、T6Wとして、絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタを用いることとする。
【0041】
また、スイッチング素子T1U、T3V、T5Wの各エミッタ電極、及びスイッチング素子T2U、T4V、T6Wの各コレクタ電極の結線部であるU相出力電極、V相出力電極、W相出力電極は、それぞれ出力線OWU、OWV、OWWを介して三相交流モータMのU相コイル、V相コイル、W相コイルに接続されている。一方、上記各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、及びスイッチング素子T2U、T4V、T6Wのエミッタ電極とコレクタ電極との間には、それぞれ整流素子である還流ダイオードD1U、D3V、D5W、及び還流ダイオードD2U、D4V、D6Wが逆並列に接続されている。
【0042】
このように構成されるインバータ装置では、駆動対象とする三相交流モータMに流れる電流が電流検出センサSi1〜Si3によって検出されて、この検出された各電流値が三相交流モータMの駆動状態がロック状態にあるか否かを検知するモータロック検知部100とインバータ装置の動作を制御するインバータ制御部110とに入力されている。また、位置検出センサSmによって検出された三相交流モータMの回転子回転位置が、それぞれモータロック検知部100とインバータ制御部110とに入力されている。
【0043】
このうちモータロック検知部100では、それら入力された三相交流モータMに流れる各電流値と三相交流モータMの回転子回転位置とに基づき三相交流モータMの駆動状態がモニタされる。詳述すると、このモータロック検知部100では、上記電流検出センサSi1〜Si3及び上記位置検出センサSmの検出値に基づき、三相交流モータMの回転数が停止回転領域にあり、かつ、三相交流モータMを流れる電流が同三相交流モータMを駆動し得る基準電流以上であるときに三相交流モータMがロック状態にあると検知される。そして、こうしたモータロック検知部100によって検知された三相交流モータMの駆動情報は、上記インバータ制御部110内にあって上記各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの各ゲート抵抗の抵抗値を可変とするゲート抵抗制御部120と上記インバータ装置のシステム電圧の昇圧を抑制するシステム電圧抑制部130とにそれぞれ入力される。
【0044】
一方、インバータ制御部110では、上記電流検出センサSi1〜Si3及び上記位置検出センサSmによって検出された各電流値及び回転子回転位置に基づき上記各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wのスイッチングパターンが生成され、このスイッチングパターンに基づき各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの動作が制御される。また、こうしたインバータ制御部110を構成する上記ゲート抵抗制御部120では、上記モータロック検知部100から入力された三相交流モータMの駆動情報、すなわち、三相交流モータMがロック状態にあるか否かに基づき、上記各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの各ゲート抵抗の抵抗値が変更される。すなわち、このゲート抵抗制御部120では、上記モータロック検知部100によって三相交流モータMのロック状態が検知されたときに、上記各ゲート抵抗の抵抗値を小さくするように変更される。
【0045】
また、上記モータロック検知部100からの三相交流モータMの駆動情報が入力されるシステム電圧抑制部130では、モータロック検知部100による駆動情報に基づき三相交流モータMがロック状態にあると検知されたときに、上記インバータ装置のシステム電圧を昇圧する昇圧コンバータ140による昇圧が抑制される。これにより、上記モータロック検知部100によって三相交流モータMのロック状態が検知されたときには、ゲート
抵抗制御部120によって上記各ゲート抵抗の値が小さい値に変更されるとともにシステム電圧抑制部130によってインバータ装置のシステム電圧が抑制されるようになる。こうして、三相交流モータMのロック時には、この抑制されたシステム電圧が上記インバータ回路INVに印加されるとともに、上記各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wが各々小さい値に変更されたゲート抵抗の抵抗値に応じてスイッチング動作するようになる。
【0046】
次に、上記インバータ装置のシステム電圧を適宜低下させたときの上記各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wのゲート抵抗の抵抗値と端子間電圧との関係、並びにゲート抵抗に相関して発生するサージ電圧の推移を、図2を参照して説明する。なお、図2(a)において曲線L0〜L5は、上記システム電圧抑制部130によってインバータ装置のシステム電圧を順次低下させたときの上記各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの端子間電圧の推移を示している。また、図2(b)に示すサージ電圧は、図2(a)に例示した各ゲート抵抗の値に相関して発生するサージ電圧についてそれぞれ例示したものである。
【0047】
すなわち、この図2(a)にそれぞれ曲線L0〜L5として示すように、スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wのサージ電圧を含めた端子間電圧は、ゲート抵抗の抵抗値が小さくなるにつれてサージ電圧が増大することに起因して高くなる。そして、例えば上記システム電圧抑制部130によるシステム電圧の抑制を行なわなかった場合は、同図2(a)に曲線L0として示すように、スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wのサージ電圧を含めた端子間電圧がゲート抵抗の抵抗値が小さくなるにつれて高くなり、ゲート抵抗の抵抗値が抵抗Ra[Ω]とされたときにスイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの耐圧基準電圧Vmaxに到達するようになる。そしてこのときのスイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wのスイッチング特性は、図2(b)に実線Lsaとして示すように、サージ電圧の最大値が電圧Vsa[V]になるとともに、スイッチングに時間Taを要するものとなる。このため、上記システム電圧抑制部130によるシステム電圧の抑制を行なわなかった場合、スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの端子間電圧を耐圧基準電圧Vmaxの範囲内に抑制しつつ上記ゲート抵抗の抵抗値に相関するスイッチングに要する最短時間は、同図2(b)に示されるように時間Taとなる。
【0048】
次に、上記システム電圧抑制部130によってシステム電圧を電圧E1[V]だけ低下させた場合には、これに相関してスイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの端子間電圧も低下するようになる。この結果、図2(a)に曲線L1として示すように、ゲート抵抗の抵抗値が抵抗Ra[Ω]であったとしてもスイッチング素子のサージ電圧を含めた端子間電圧V1は上記耐圧基準電圧Vmaxよりも小さい値となる(V1<Vmax)。このため、これら耐圧基準電圧Vmaxとシステム電圧抑制部130によって抑制された端子間電圧V1(システム電圧)との差α1を、スイッチング素子のスイッチング動作に伴って生じるサージ電圧の発生をさらに許容し得る余裕分として用いることが可能となる。このため、同条件の下では、スイッチング素子のサージ電圧を含めた端子間電圧は、ゲート抵抗が上記抵抗Raよりも抵抗値の小さい抵抗Rb(Rb<Ra)とされたときに上記耐圧基準電圧Vmaxに到達することとなる。こうしたことから、三相交流モータMのロックに伴って上記システム電圧を電圧E1[V]低下させた場合には、スイッチング素子のゲート抵抗を抵抗Raよりも抵抗値の小さい抵抗Rbに変更することが可能となる。これにより、三相交流モータMのロックに伴って上記システム電圧を電圧E1[V]低下させたときのスイッチング素子のスイッチング特性は、図2(b)に実線Lsbとして示すように、サージ電圧の最大値が電圧Vsb[V]になるとともに、スイッチングに時間Tbを要するものとなる。このため、上記システム電圧抑制部13
0によるシステム電圧を電圧E1[V]低下させた場合には、スイッチング素子のゲート抵抗を抵抗Raからこの抵抗Raよりも抵抗値の小さい抵抗Rbに変更することによって、スイッチング素子の端子間電圧を耐圧基準電圧Vmaxの範囲内に抑制しつつスイッチング素子のゲート抵抗の抵抗値に相関するスイッチングに要する最短時間を、同図2(b)に示すように時間Taから時間Tbへと短縮することができるようになる。そしてこのように、三相交流モータMのロック時におけるスイッチング速度が高められた分だけ、スイッチング素子の電力損失が低減されるようになり、ひいては、スイッチング素子の過熱が抑制されるようになる。
【0049】
また、図2(a)に曲線L2〜L5として示すように、システム電圧抑制部130によるインバータ装置のシステム電圧をさらに低下させた場合には、これに応じてスイッチング素子の耐圧基準電圧Vmaxとシステム電圧との差がさらに拡大されるようになる。このため、三相交流モータMのロック時においては、システム電圧の低下により順次拡大されるスイッチング素子の耐圧基準電圧Vmaxとシステム電圧との差に応じて上記ゲート抵抗を抵抗Rb→抵抗Rc→抵抗Rdへと抵抗値が小さい抵抗に変更することができるようになる。これにより、図2(b)にそれぞれ特性Lsb、Lsc、Lsdとして示すように、サージ電圧の最大値が電圧Vsb〜電圧Vsdへと順次増大する一方、スイッチングに要する時間も時間Tb〜Tdへと順次短縮されるようになる。
【0050】
このように本実施の形態では、三相交流モータMのロック時において、システム電圧抑制部130によって抑制されたシステム電圧とスイッチング素子の耐圧基準電圧との差に応じて、上記ゲート抵抗の抵抗値をその抵抗値に相関して生じるサージ電圧をスイッチング素子の耐圧基準電圧の範囲内で最大とし得る値に設定することとする。
【0051】
次に、このような前提のもとに上記モータ駆動制御装置を構成する上記ゲート抵抗制御部120の一部について、その構成及び動作を図3を参照して説明する。
図3に示すように、このゲート抵抗制御部120は、上記各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wに各別にゲート電圧を印加してその動作を制御するゲート駆動回路121を備えている。なお図3では、便宜上、上記各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wのうちのスイッチング素子T1Uを例にとって、その構成を示している。こうしたゲート駆動回路121では、Pチャネル型MOSFETからなるトランジスタM1及びゲート抵抗R1を介してスイッチング素子T1Uにゲート電圧が印加されるとともに、Nチャネル型MOSFETからなるトランジスタM2及びゲート抵抗R2を介してスイッチング素子T1Uのゲート電荷が放電される。
【0052】
また、こうしたゲート駆動回路121には、上記スイッチング素子TIUとの間にAND回路122を介して上記トランジスタM1及び上記ゲート抵抗R1と並列に、Pチャネル型MOSFETからなるトランジスタM3及びゲート抵抗R3が接続されている。同様に、このゲート駆動回路121には、上記スイッチング素子TIUとの間にAND回路123を介して上記トランジスタM2及びゲート抵抗R2と並列に、Nチャネル型MOSFETからなるトランジスタM4及びゲート抵抗R4が接続されている。
【0053】
一方、上記各AND回路122及び123の各入力端子には、上記モータロック検知部100からの三相交流モータMの駆動情報が入力されている。そして、こうした各AND回路122及び123には、三相交流モータMの非ロック時に論理レベル「0」の信号が入力される一方、上記モータロック検知部100によって三相交流モータMのロック状態が検知されると論理レベル「1」の信号が入力される。こうして、三相交流モータMのロック時には、ゲート抵抗R1及びR2とゲート抵抗R3及びR4とがそれぞれ並列状態とされるようになり、スイッチング素子T1Uに対するゲート抵抗の抵抗値が三相交流モータMの非ロック時よりも小さい値に変更されるようになる。なお、本実施の形態では上述
のように、上記各ゲート抵抗R1〜R4の抵抗値は、スイッチング素子TIUの耐圧基準電圧と上記システム電圧抑制部130によって抑制されたシステム電圧との差に応じて、上記ゲート抵抗R3及びR4が上記ゲート抵抗R1及びR2と並列状態とされたときの抵抗値に相関して生じるサージ電圧をスイッチング素子TIUの耐圧基準電圧の範囲内で最大とし得る値に設定されている。また、本実施の形態においては、三相交流モータMのロック時/非ロック時のいずれにおいても、ゲート抵抗R1及びR2、並びに上記トランジスタM1及びM2を介してスイッチング素子T1Uがゲート駆動回路121に常時接続された状態となっている。これにより、スイッチング素子TIUのゲート抵抗の抵抗値の変更に際してもスイッチング素子T1Uとゲート駆動回路121との接続を常時維持することができるようになり、ゲート抵抗の抵抗値を変更する上でスイッチング素子T1Uのスイッチング動作を保証することができるようになる。
【0054】
そして、こうしたモータ駆動制御装置により三相交流モータMのロック状態が検知されたとすると、
(イ)上記システム電圧抑制部130によってインバータ装置のシステム電圧が抑制され、各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの端子間電圧が低下する。
(ロ)それら各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの端子間電圧が抑制された分を、各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの耐圧基準電圧の範囲内でサージ電圧の発生を許容し得る余裕分として、各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wのゲート抵抗の抵抗値が小さい値に変更される。
といった態様にて、各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wのゲート抵抗の抵抗値が小さい値に変更された分だけ各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wのスイッチング速度が高められるようになる。こうして、各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの電力損失が低減され、各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの過熱が抑制されるようになる。
【0055】
次に、本実施の形態による上述したゲート抵抗の変更態様について、図4を参照して総括する。
この図4に示すように、まず、上記三相交流モータMが駆動されると、上記ゲート抵抗R1及びR2が導通状態とされる一方、上記ゲート抵抗R3及びR4は非導通状態とされ、ステップS101において三相交流モータMの回転数Nが検出される。
【0056】
そして、上記検出された回転数Nが停止回転領域NSの範囲内にある場合には、三相交流モータMに流れる電流Iが検出される(ステップS102:YES、S103)。こうして三相交流モータMに流れる電流Iが検出されると、この検出された電流Iが三相交流モータMを駆動し得る基準電流IS以上であるか否か、すなわち、三相交流モータMがロック状態にあるか否かが判定される(ステップS104)。この結果、三相交流モータMの駆動状態がロック状態にあると判定された場合には、まず、上記システム電圧抑制部130によって昇圧コンバータ140によるシステム電圧の昇圧が抑制される(ステップS105)。こうして、上記インバータ装置のシステム電圧が抑制されると、上記ゲート抵抗R1及びR2の導通状態が維持されるとともに上記ゲート抵抗R3及びR4が導通状態とされ、上記各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wに対するゲート抵抗の抵抗値が小さい値に変更される(ステップS106)。一方、三相交流モータMの駆動状態が非ロック状態であると判定された場合は、上記ゲート抵抗R1及びR2のみの導通状態が維持されるとともに、上記ゲート抵抗R3及びR4の非導通状態が維持される(ステップS107)。
【0057】
次に、本実施の形態のモータ駆動制御装置によるスイッチング素子の端子間電圧の推移を、上記従来のモータ駆動制御装置によるスイッチング素子の端子間電圧の推移との対比のもとに図5を参照して説明する。なお、この図5において、図5(a)及び(b)は従来のモータ駆動制御装置によるスイッチング素子の端子間電圧の推移を示しており、図5(c)は本実施の形態によるモータ駆動制御装置によるスイッチング素子の端子間電圧の推移を示している。また、この図5において図5(d)及び(e)は従来のモータ駆動制御装置によるスイッチング素子の電力損失を示しており、図5(f)は本実施の形態によるモータ駆動制御装置によるスイッチング素子の電力損失を示している。
【0058】
この図5に示すように、一般のモータ駆動制御装置によるスイッチング素子のスイッチング動作時におけるスイッチング素子のサージ電圧を含めた端子間電圧の最大値は、上記ゲート抵抗の抵抗値を変更しなかった場合、図5(a)に示されるように電圧Vs1となる。そして、このときのスイッチング素子のスイッチング速度は、図5(d)に示されるように時間T1となり、このスイッチング素子のスイッチング動作時には、同図5(d)に斜線にて示すような電力損失P1が生じるようになる。
【0059】
そこで、例えば上記従来のモータ駆動制御装置により、この損失P1を図5(e)に示す損失P2(スイッチング速度=時間T2)へと低減すべくゲート抵抗の抵抗値を小さい値に変更したとしても、インバータ装置のシステム電圧Vsyとスイッチング素子の耐圧基準電圧Vmaxとの差分α2しか上記サージ電圧の発生を許容し得る余裕分が存在しないために、ゲート抵抗の抵抗値に相関するサージ電圧の増大に伴ってスイッチング素子のサージ電圧を含めた端子間電圧Vs2が上記耐圧基準電圧Vmaxを超えることとなる(図5(b))。このため、上記ゲート抵抗の抵抗値を小さく変更することによってスイッチング素子の電力損失の低減を図ったとしても、結局のところ、従来のモータ駆動制御装置では上記余裕分α2の範囲内でしかサージ電圧を発生させることができず、上記ゲート抵抗の調整を通じたスイッチング素子の損失低減効果も十分とはいえない。
【0060】
一方、本実施の形態によれば、三相交流モータMのロック時には、図5(c)に示すように、上記システム電圧抑制部130によってシステム電圧が抑制され、この抑制分βと上記余裕分α2との合計α3が上記サージ電圧の発生を許容し得る余裕分となる。このため、三相交流モータMのロック時には、この余裕分α3の範囲内で上記ゲート抵抗に相関するサージ電圧を最大限に発生させることが可能となり(図5(f):電力損失=P3、スイッチング速度=時間T3)、ゲート抵抗の調整を通じたスイッチング素子の損失低減効果がより高められるようになる。
【0061】
以上説明したように、本実施の形態にかかるモータ駆動制御装置によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)三相交流モータMのロック時には、上記インバータ装置のシステム電圧を抑制するとともに、この抑制されたシステム電圧を上記サージ電圧の発生を許容し得る余裕分として上記ゲート抵抗の抵抗値を小さい値に変更することとした。このため、三相交流モータMのロック時には、上記各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wのゲート抵抗の抵抗値が小さい値に変更された分、それらスイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wのスイッチング速度が高められるようになる。これより、三相交流モータMのロック時において、各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wに過大な電流が流れるような場合であれ、各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの電力損失が好適に低減されるようになり、ひいては、それら各素子を過熱から好適に保護することができるようになる。
【0062】
(2)上記各ゲート抵抗R1〜R4の抵抗値を、上記耐圧基準電圧Vmaxと上記シス
テム電圧抑制部130によって抑制されたシステム電圧との差に応じて、ゲート抵抗R3及びR4がゲート抵抗R1及びR2と並列状態とされたときの抵抗値に相関して生じるサージ電圧を各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの耐圧基準電圧の範囲内で最大とし得る値に設定することした。これにより、スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの耐圧基準電圧Vmaxの範囲内での最大限のサージ電圧の発生が可能となり、ひいては、スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wのターンオン時間/ターンオフ時間のさらなる短縮化が実現されるようになる。また、これにより、上記ゲート抵抗の抵抗値の変更を通じてスイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの電力損失の低減を図る上で、それらスイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wに印加される電圧を上記耐圧基準電圧Vmaxの範囲内に好適に維持することができるようになり、上記モータ駆動制御装置としての信頼性がより高められるようになる。
【0063】
(3)三相交流モータMのロック時におけるゲート抵抗の抵抗値の変更を、上記ゲート駆動回路121と各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wとの間で常時導通状態とされたゲート抵抗R1及びR2と並列接続されたゲート抵抗R3及びR4の非導通状態/導通状態の切り替えとして行なうこととした。このため、三相交流モータMのロック時においてゲート抵抗の抵抗値を変化させる上で、ゲート抵抗R1及びR2によってゲート駆動回路121と各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wとの常時接続が維持されるようになる。これにより、上記ゲート抵抗の抵抗値の変更を通じて各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの電力損失の低減を図る上で、それら各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wとしての動作を好適に維持することができるようになる。
【0064】
(4)三相交流モータMのロック時におけるシステム電圧の抑制を上記昇圧コンバータ140による昇圧の抑制として行なうこととした。このため、三相交流モータMのロック時におけるインバータ装置のシステム電圧の抑制をDC−DCコンバータ等の既存の昇圧コンバータ140により実現することができるようになる。これにより、上記モータ駆動制御装置としての汎用性はもとより、同装置としての構造上の簡略化が図られるようになる。また、このように、インバータ装置のシステム電圧の値を昇圧コンバータ140による昇圧を通じて任意に抑制可能なことから、各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの耐圧基準電圧Vmaxの範囲内で上記サージ電圧を許容し得る余裕分の確保もより容易となる。これにより、三相交流モータMのロック時に上記ゲート抵抗の抵抗値を小さくすることによってスイッチング素子の電力損失を抑制する上で、ゲート抵抗の抵抗値の変更とシステム電圧の抑制との双方から上記余裕分の確保が可能となり、より高い自由度のもとにスイッチング素子の電力損失の低減が図られるようになる。
【0065】
(5)上記三相交流モータMの駆動状態を三相交流モータMの回転数Nと三相交流モータMに流れる電流Iに基づきモニタし、三相交流モータMの回転数Nが停止回転領域にあり、かつ、三相交流モータMに供給される電流Iが上記基準電流IS以上であるときに三相交流モータMがロック状態にあると検知することとした。これにより、三相交流モータMのロック状態の検知を的確に行なうことができるようになり、ひいては、三相交流モータMのロック時におけるゲート抵抗の抵抗値の変更を好適に行なうことができるようになる。
【0066】
なお、上記実施の形態は、以下のような形態をもって実施することもできる。
・上記三相交流モータMのロック状態を、三相交流モータMの回転数Nと同三相交流モータMに供給される電流Iに基づき検知することとした。これに限らず、上記各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの温度をモニタし、それらモ
ニタされる各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wの温度上昇率が三相交流モータMの非ロック時における基準温度上昇率以上にあるときに三相交流モータMがロック状態にあると検知することも可能である。
【0067】
・上記ゲート抵抗をゲート駆動回路121と各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wとの間に並列接続されたゲート抵抗R1及びR2とゲート抵抗R3及びR4とによって構成し、三相交流モータMのロック時のゲート抵抗の変更をゲート抵抗R3及びR4の導通/非導通状態の切り替えとして行なうこととした。これに限らず、先の図3に対応する図として例えば図6に示すように、上記ゲート抵抗をその抵抗値を複数段階に調整可能なプログラマブルボリュームVRによって構成し、三相交流モータMのロック時における上記ゲート抵抗の変更を上記モータロック検知部100により三相交流モータMのロック状態が検知されたときと検知されないときとでその都度異なる抵抗値を選択するようにしてもよい。この構成によれば、先の図2(a)に示したように、スイッチング素子の耐圧基準電圧と抑制されたシステム電圧との差、換言すれば、上記サージ電圧の発生が許容される余裕分に応じてゲート抵抗の抵抗値を選択的に変更することができるようになり、より高い自由度のもとにゲート抵抗の抵抗値を選択することができるようになる。これにより、スイッチング素子の電力損失を抑制する上で、より望ましいゲート抵抗の抵抗値の設定も容易となる。
【0068】
・また、先の図3に対応する図として例えば図7に示すように、上記ゲート抵抗を、ゲート駆動回路121と各スイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wとの間にスイッチSW1及びSW2を介して並列接続されたゲート抵抗R5及びR6とこれらゲート抵抗R5及びR6よりも抵抗値の低いゲート抵抗R7及びR8(R5>R7、R6>R8)とによって構成するようにしてもよい。すなわちこの場合、三相交流モータMのロック時における上記ゲート抵抗の変更を、三相交流モータMの非ロック時には上記スイッチSW1及びSW2をゲート抵抗R5及びR6側に切り替える。また、上記モータロック検知部100により三相交流モータMのロック状態が検知されたときには上記スイッチSW1及びSW2をゲート抵抗R7及びR8側に切り替える。
【0069】
・三相交流モータMのロック時におけるインバータ装置のシステム電圧の抑制を、DC−DCコンバータ等からなる昇圧コンバータ140によって行なうこととした。これに限らず、上記モータ駆動制御装置としては三相交流モータMのロック時においてインバータ装置のシステム電圧を抑制可能な構成であればよく、昇圧コンバータ140とは別途に設けられた変圧器等によってインバータ装置のシステム電圧を抑制することも可能である。
【0070】
・上記インバータ装置のスイッチング素子T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6Wとして絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタを用いることとした。これに限らず、スイッチング素子としては、この他、パワーMOSFETやサイリスタ等を用いることも可能である。
【0071】
・上記実施の形態では、駆動制御の対象として車両の原動機となる三相交流モータMを対象としたが、駆動制御の対象としてはこの他、ポンプや送風機等の駆動源としての交流モータであってもよい。要は、電力変換を行なうインバータ装置のスイッチング素子の各々にゲート抵抗を介してゲート電圧を印加しつつその変換電力に基づき駆動制御される交流モータであれば本発明の適用は可能である。
【符号の説明】
【0072】
100…モータロック検知部、110…インバータ制御部、120…ゲート抵抗制御部、121…ゲート駆動回路、122、123…AND回路、130…システム電圧抑制部、140…昇圧コンバータ、M…三相交流モータ、M1、M3…トランジスタ(Pチャネ
ル型MOSFET)、M2、M4…トランジスタ(Nチャネル型MOSFET)、R1〜R8…ゲート抵抗(R1、R2、R5、R6:第1ゲート抵抗、R3、R4、R7、R8:第2ゲート抵抗)、Sm…位置検出センサ、VR…プログラマブルボリューム、INV…インバータ回路、T1U、T3V、T5W、T2U、T4V、T6W…スイッチング素子(IGBT)、Si1〜Si3…電流検出センサ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流モータを駆動すべく電力変換を行なうインバータ装置のスイッチング素子の各々にゲート抵抗を介してゲート電圧を印加しつつその変換電力に基づき前記交流モータの駆動を制御するモータ駆動制御装置において、
前記交流モータがロック状態にあるか否かを検知するモータロック検知部を備え、該モータロック検知部により前記交流モータのロック状態が検知されることに基づき前記インバータ装置のシステム電圧を抑制するとともに前記ゲート抵抗の抵抗値を小さい値に変更する
ことを特徴とするモータ駆動制御装置。
【請求項2】
前記交流モータのロック状態の検知に基づき変更される前記ゲート抵抗の抵抗値が、前記スイッチング素子の耐圧基準電圧と前記抑制されたシステム電圧との差に応じて前記ゲート抵抗の値に相関して生じるサージ電圧を前記スイッチング素子の耐圧基準電圧の範囲内で最大とし得る値に設定される
請求項1に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項3】
前記ゲート抵抗は、前記ゲート電圧を印加する回路と前記スイッチング素子との間に並列接続された第1ゲート抵抗と第2ゲート抵抗とからなり、前記ゲート抵抗の変更は、前記第1ゲート抵抗を常時導通状態とし、前記モータロック検知部により前記交流モータのロック状態が検知されたときに前記第1ゲート抵抗及び前記第2ゲート抵抗を共に導通状態とする態様で行なわれる
請求項1又は2に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項4】
前記ゲート抵抗は、その抵抗値を複数段階に調整可能なプログラマブルボリュームからなり、前記ゲート抵抗の変更は、前記モータロック検知部により前記交流モータのロック状態が検知されたときと検知されないときとでその都度異なる抵抗値が選択される態様で行なわれる
請求項1又は2に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項5】
前記ゲート抵抗は、前記ゲート電圧を印加する回路と前記スイッチング素子との間に並列接続された第1ゲート抵抗と該第1ゲート抵抗よりも抵抗値の低い第2ゲート抵抗とからなり、前記ゲート抵抗の変更は、前記交流モータの非ロック時に前記第1ゲート抵抗を導通状態とするとともに前記第2ゲート抵抗を非導通状態とし、前記モータロック検知部により前記交流モータのロック状態が検知されたときに前記第1ゲート抵抗を非導通状態とするとともに前記第2ゲート抵抗を導通状態とする態様で行なわれる
請求項1又は2に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項6】
前記システム電圧の抑制は、前記モータロック検知部により前記交流モータのロック状態が検知されたときに前記インバータ装置のシステム電圧を昇圧する昇圧コンバータによる昇圧の抑制として行なわれる
請求項1〜5のいずれか一項に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項7】
前記モータロック検知部は、前記交流モータの回転数が停止回転領域にあり、かつ、前記交流モータに供給される電流が該交流モータを駆動し得る基準電流以上であるときに交流モータがロック状態にあると検知する
請求項1〜6のいずれか一項に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項8】
前記インバータ装置のスイッチング素子が絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタである
請求項1〜7のいずれか一項に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項9】
前記駆動制御の対象となる交流モータは、車両の原動機となる三相交流モータである
請求項1〜8のいずれか一項に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項1】
交流モータを駆動すべく電力変換を行なうインバータ装置のスイッチング素子の各々にゲート抵抗を介してゲート電圧を印加しつつその変換電力に基づき前記交流モータの駆動を制御するモータ駆動制御装置において、
前記交流モータがロック状態にあるか否かを検知するモータロック検知部を備え、該モータロック検知部により前記交流モータのロック状態が検知されることに基づき前記インバータ装置のシステム電圧を抑制するとともに前記ゲート抵抗の抵抗値を小さい値に変更する
ことを特徴とするモータ駆動制御装置。
【請求項2】
前記交流モータのロック状態の検知に基づき変更される前記ゲート抵抗の抵抗値が、前記スイッチング素子の耐圧基準電圧と前記抑制されたシステム電圧との差に応じて前記ゲート抵抗の値に相関して生じるサージ電圧を前記スイッチング素子の耐圧基準電圧の範囲内で最大とし得る値に設定される
請求項1に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項3】
前記ゲート抵抗は、前記ゲート電圧を印加する回路と前記スイッチング素子との間に並列接続された第1ゲート抵抗と第2ゲート抵抗とからなり、前記ゲート抵抗の変更は、前記第1ゲート抵抗を常時導通状態とし、前記モータロック検知部により前記交流モータのロック状態が検知されたときに前記第1ゲート抵抗及び前記第2ゲート抵抗を共に導通状態とする態様で行なわれる
請求項1又は2に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項4】
前記ゲート抵抗は、その抵抗値を複数段階に調整可能なプログラマブルボリュームからなり、前記ゲート抵抗の変更は、前記モータロック検知部により前記交流モータのロック状態が検知されたときと検知されないときとでその都度異なる抵抗値が選択される態様で行なわれる
請求項1又は2に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項5】
前記ゲート抵抗は、前記ゲート電圧を印加する回路と前記スイッチング素子との間に並列接続された第1ゲート抵抗と該第1ゲート抵抗よりも抵抗値の低い第2ゲート抵抗とからなり、前記ゲート抵抗の変更は、前記交流モータの非ロック時に前記第1ゲート抵抗を導通状態とするとともに前記第2ゲート抵抗を非導通状態とし、前記モータロック検知部により前記交流モータのロック状態が検知されたときに前記第1ゲート抵抗を非導通状態とするとともに前記第2ゲート抵抗を導通状態とする態様で行なわれる
請求項1又は2に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項6】
前記システム電圧の抑制は、前記モータロック検知部により前記交流モータのロック状態が検知されたときに前記インバータ装置のシステム電圧を昇圧する昇圧コンバータによる昇圧の抑制として行なわれる
請求項1〜5のいずれか一項に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項7】
前記モータロック検知部は、前記交流モータの回転数が停止回転領域にあり、かつ、前記交流モータに供給される電流が該交流モータを駆動し得る基準電流以上であるときに交流モータがロック状態にあると検知する
請求項1〜6のいずれか一項に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項8】
前記インバータ装置のスイッチング素子が絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタである
請求項1〜7のいずれか一項に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項9】
前記駆動制御の対象となる交流モータは、車両の原動機となる三相交流モータである
請求項1〜8のいずれか一項に記載のモータ駆動制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−61896(P2011−61896A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205985(P2009−205985)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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