説明

リアクタ

【課題】改質反応の反応効率に優れ、大量の改質ガスを生成させることができることに加え、消費電力を低減でき、電極に対する負荷を軽減して電極の耐用時間を延長することも可能なリアクタを提供する。
【解決手段】被改質ガス2の導入口4及び改質ガス6の排出口8が形成された反応容器10と、プラズマを発生させる一対の電極12と、一対の電極12に対して電圧を印加する電源14と、改質反応を促進する触媒とを備え、一対の電極12の一方が線状電極32であるとともに、一対の電極12の他方は導電性セラミックスからなるハニカム電極34であり、触媒はハニカム電極34の隔壁に担持されており、線状電極32とハニカム電極34との間に、ハニカム電極34のガス導入端面側に突出された、プラズマ発生領域42以外の領域を通過した被改質ガス2の流入を遮蔽する遮蔽部材30Aを更に備えたリアクタ1A。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の電極間に発生させたプラズマと、改質反応を促進させるための触媒とによって改質反応を進行させるリアクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、クリーンなエネルギーとして水素が注目されている。そして、この水素を得るためのプロセスとしては、ガソリン、灯油、軽油等に含まれる炭化水素の改質反応が知られている。しかしながら、一般にガソリン等に含まれる炭化水素の改質反応には700〜900℃の高温が必要であるため、改質装置が大型化せざるを得ず、また、改質反応を進行させるためには、大きな起動エネルギーや長い起動時間を必要とするといった問題があった。そこで、一対の電極にパルス電圧等を印加してプラズマを発生させ、そのプラズマを利用して低温でかつ高効率に改質反応を行う技術が検討されている。
【0003】
例えば、一対の電極間にグロー放電を発生させ、そのグロー放電により生じたプラズマを利用して燃料を改質するプラズマ燃料変換器が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、被改質ガスとして、アルコールと水蒸気の混合ガスを用い、この混合ガス中でパルス放電を行ってプラズマを生じさせ、そのプラズマにより改質反応を行い、水素を発生させる方法及び装置が提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
更に、コージェライト等の絶縁材料から構成されたハニカム構造体のセル内部に一対の電極を設け、セル内部で放電を行ってプラズマを生じさせ、そのプラズマにより改質反応を行う改質器が提案されている(特許文献3参照)。
【0006】
特許文献1〜3に記載のプラズマ燃料変換器等は従来法と比較すれば、低温、常圧の温和な条件の下、比較的低コストで炭化水素の改質を実施可能であるという利点がある。しかしながら、改質反応の反応効率としては未だ十分に満足できるものではなかった。
【0007】
そこで、プラズマを利用して改質反応を行う際に、改質反応を促進させるための触媒を併用する方法によって、改質反応を促進させ、改質反応の反応効率を向上させることが試みられている。その際、プラズマの作用と触媒の作用が複合化した改質反応が進行すると考えられている。
【0008】
例えば、炭化水素と水蒸気とを混合する混合ガス容器と、電源と、混合ガス容器中に内在する一対の電極を備え、特定のパルス周波数の電圧を一対の電圧に印加してプラズマを発生させ、そのプラズマにより水素への転化反応を行う炭化水素改質装置が提案されている(特許文献4参照)。そして、この特許文献4には、混合ガス容器内部に粒状の触媒を充填させることによって(いわゆるパックドベッド方式)、転化反応が促進されることが記載されている。
【0009】
また、反応器と、反応器内に対向するように配置された一対の針状電極と、電圧印加装置に加えて、粒状の酸化物触媒と、その酸化物触媒を反応器内で支持する触媒支持手段とを備えた燃料改質装置が提案されている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2003−514166号公報
【特許文献2】特開2003−73103号公報
【特許文献3】特開2006−248847号公報
【特許文献4】特開2004−345879号公報
【特許文献5】特開2006−56748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献4又は5に記載の炭化水素改質装置等は、放電により生じたプラズマを利用すること加えて、触媒を併用しているため、改質反応の促進、これに伴う改質反応の反応効率向上を期待することができる。
【0012】
しかしながら、特許文献4又は5に記載の炭化水素改質装置等は、触媒として粒状触媒を用いているため、触媒同士の接触は点接触となり、触媒間の熱伝達に劣る。従って、改質反応の起動性が低いという課題があった。また、パックドベッド方式を採用した場合には、反応器内に充填された粒状触媒の間隙を被改質ガスが通過することになり、被改質ガスの空間速度が数千h−1以下の範囲でしか使用することができない。従って、被改質ガスの処理速度を高めることができず、大量の改質ガス(水素)を生成させることができないという課題があった。
【0013】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、改質反応の反応効率に優れ、大量の改質ガスを生成させることができることに加え、消費電力を低減でき、電極に対する負荷を軽減して電極の耐用時間を延長することも可能なリアクタを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記の従来技術の課題を解決するために鋭意検討した結果、プラズマを発生させる一対の電極の一方として、導電性セラミックスからなるハニカム形状の電極(ハニカム電極)を用い、更に前記一対の電極間に遮蔽部材を設置して、プラズマ発生領域を通過していないガスを遮蔽し、プラズマにより活性化された(又は一部反応が進行した)被改質ガスが優先的にハニカム電極のセルに導入されるように構成することによって、前記課題が解決されることに想到し、本発明を完成させた。具体的には、本発明により、以下のリアクタが提供される。
【0015】
[1] 被改質ガスの導入口及び改質ガスの排出口が形成された反応容器と、前記反応容器の内部空間に相対向するように配置された、プラズマを発生させる一対の電極と、前記一対の電極に対して電圧を印加する電源と、前記被改質ガスの改質反応を促進する触媒とを備え、前記一対の電極の一方が線状電極であるとともに、前記一対の電極の他方は導電性セラミックスからなり、隔壁によってガスの流路となる複数のセルが区画形成されたハニカム電極であり、前記触媒は、前記ハニカム電極の前記隔壁に担持されており、前記線状電極と前記ハニカム電極との間に、前記プラズマ発生領域以外の領域を通過した前記被改質ガスの流入を遮蔽する遮蔽部材を更に備えたリアクタ。
【0016】
[2] 絶縁性材料からなり、前記ハニカム電極を挟んで相対向するように配置された、前記ハニカム電極を支持固定する一対のハニカム電極支持体を更に備え、前記遮蔽部材は、前記ハニカム電極支持体の一部を前記ハニカム電極のガス導入端面側に突出させた突出部により構成されたものである前記[1]に記載のリアクタ。
【0017】
[3] 前記突出部は、前記ハニカム電極のガス導入端面の一部に当接するように構成されるとともに、前記突出部と重畳するセルの内部空間と前記反応容器の内部空間とを連通させるスリットが形成されたものである前記[2]に記載のリアクタ。
【0018】
[4] 前記スリットは、前記ハニカム電極の最外周セルの内部空間と前記反応容器の内部空間とが連通されるように、前記ハニカム電極の最外周セルの開口部に至るまで形成されている前記[3]に記載のリアクタ。
【0019】
[5] 前記突出部は、前記反応容器の前記導入口側から前記ハニカム電極の端面側に向かってその突出量が小さくなる楔状に形成されている前記[2]に記載のリアクタ。
【0020】
[6] 前記突出部は、前記ハニカム電極の最外周セルの内部空間と前記反応容器の内部空間とが連通されるように、前記反応容器の前記導入口側の端面から前記ハニカム電極の最外周セルの開口部外側に至る傾斜面が形成されている前記[5]に記載のリアクタ。
【0021】
[7] 前記ハニカム電極が、炭化珪素を含む導電性セラミックスからなるものである前記[1]〜[6]のいずれかに記載のリアクタ。
【0022】
[8] 前記ハニカム電極は、その熱伝導率が10〜300W/mKのものである前記[1]〜[7]のいずれかに記載のリアクタ。
【0023】
[9] 前記電源が、静電誘導型サイリスタを用いた高電圧パルス電源である前記[1]〜[8]のいずれかに記載のリアクタ。
【発明の効果】
【0024】
本発明のリアクタは、改質反応の反応効率に優れ、大量の改質ガスを生成させることができることに加え、消費電力を低減でき、電極に対する負荷を軽減して電極の耐用時間を延長することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1A】本発明のリアクタの一の実施形態を示す模式図である。
【図1B】図1Aに示すリアクタを構成するハニカム電極と遮蔽部材を示す斜視図である。
【図2A】本発明のリアクタの別の実施形態を示す模式図である。
【図2B】図2Aに示すリアクタを構成するハニカム電極と遮蔽部材を示す斜視図である。
【図3A】本発明のリアクタの更に別の実施形態を示す模式図である。
【図3B】図3Aに示すリアクタを構成するハニカム電極と遮蔽部材を示す斜視図である。
【図4A】本発明のリアクタの更にまた別の実施形態を示す模式図である。
【図4B】図4Aに示すリアクタを構成するハニカム電極と遮蔽部材を示す斜視図である。
【図5】比較例1のリアクタの実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明のリアクタを実施するための形態について説明する。但し、本発明はその発明特定事項を備えるリアクタを広く包含するものであり、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0027】
[1]本発明のリアクタの特徴:
本発明のリアクタは、図1Aに示すプラズマ−触媒反応装置1Aのように、一対の電極12の一方が線状電極32であるとともに、一対の電極12の他方は導電性セラミックスからなり、隔壁によってガスの流路となる複数のセルが区画形成されたハニカム電極34であり、触媒は、ハニカム電極34の隔壁に担持されており、線状電極32とハニカム電極34との間に、プラズマ発生領域42以外の領域を通過した被改質ガス2の流入を遮蔽する遮蔽部材30Aを更に備えている点に特徴がある。
【0028】
このように、一対の電極12の一方をハニカム電極34とすることにより、針状電極や平板状電極と比較して、放電の際の熱劣化が少なく、電極12の耐久性を向上させることができる。従って、長期間にわたって安定的に改質ガスを供給することが要求される車載用燃料改質器等の用途にも好適に用いることができる。
【0029】
また、一対の電極12の一方をハニカム電極34とすると、電圧はハニカム電極34全体に印加されるため、電極面積が広がった状態と同じとなり、放電が行われる領域が広がる。これにより、一対の針状電極と比較して、プラズマ発生領域を広げることができ、更にハニカム電極34に担持した触媒作用により、改質反応の起動性や反応効率が向上し、ひいては、反応容器10の内径を大きくしても改質反応の反応効率を向上させることが可能となる。
【0030】
更に、ハニカム電極34は隔壁を有するハニカム構造であるために触媒が担持し易い。従って、改質反応を促進する触媒を担持させることで、被改質ガス2の改質反応を進行させ易くすることができる。これにより、プラズマの作用と触媒の作用を複合化させることができ、高効率で改質反応を進行させることができる。
【0031】
そして、ハニカム電極34の隔壁に触媒を担持させることにより、パックドベッド方式で粒状触媒を充填した場合と比較して、ガスの流路となるセルが確保されているため、被改質ガス2が反応容器10内を通過し易くなる。これにより、空間速度が数万〜数十万h−1の範囲で(即ち、高い処理速度で)、被改質ガス2を処理することが可能となる。
【0032】
更にまた、触媒をハニカム電極34の隔壁に担持した場合、パックドベッド方式で粒状触媒を充填した場合と比較して、触媒同士の熱伝達が迅速となり、改質反応の起動性も向上する。従って、被改質ガス2の処理速度・処理量を大幅に向上させることができ、大量の改質ガス6を生成させることが可能となる。これにより、例えば、内燃機関のエンジンスタート時の触媒早期活性化(コールドスタート用途)にも使用することが可能となる。
【0033】
また、前記のような遮蔽部材30Aを備えることで、プラズマ発生領域42を通過して活性化された(又は一部反応が進行した)被改質ガス2がハニカム電極34のセルを通過する比率が飛躍的に向上する一方、プラズマ発生領域42以外の領域を通過した被改質ガス2はハニカム電極34のセルに流入し難くなる。従って、改質反応の反応効率が向上し、大量の改質ガス6を生成させることができる。
【0034】
一方、図5に示すリアクタ100のように遮蔽部材を備えない場合には、プラズマ発生領域42を通過していない不活性の(又は反応が全く進行していない)被改質ガス2がハニカム電極34のセル内部に流入し易くなり、改質反応の反応効率が低下するおそれがある。
【0035】
更に、前記のような遮蔽部材30Aを備えることで、プラズマ発生領域42を小さくしても改質反応の反応効率を維持することができるため、線状電極32−ハニカム電極34間に印加する電圧を小さくすることが可能となる。従って、改質反応で消費する電力を低減することができるとともに、ハニカム電極34と線状電極32に対する負荷が軽減され、その分、ハニカム電極34と線状電極32の耐用時間も延長される。
【0036】
[2]リアクタ:
本発明のリアクタの構成部材は、図1Aに示すリアクタ1Aのように、遮蔽部材30A、ハニカム電極34、線状電極32、触媒、反応容器10、電源14等を挙げることができる。
【0037】
[2−1]遮蔽部材:
本発明のリアクタは、図1Aに示すプラズマ−触媒反応装置1Aのように、プラズマ発生領域42以外の領域を通過した被改質ガス2の流入を遮蔽する遮蔽部材30Aを備えている。換言すれば、遮蔽部材30Aはプラズマ発生領域42を通過して活性化された(又は一部反応が進行した)被改質ガス2を優先的にハニカム電極34のセルに流入させるための部材である。
【0038】
図1Aに示すように、遮蔽部材30Aはプラズマ発生領域42以外の領域を通過した被改質ガス2の流入を遮蔽する必要から、プラズマを発生させる線状電極32とハニカム電極34との間に配置される。遮蔽部材36の開口部の間隔はプラズマ発生領域42以外の領域を通過した被改質ガス2の流入を遮蔽しつつ、圧力損失が増加することを防止するという理由から、7mm〜15mmとすることが好ましく、9mm〜13mmとすることが更に好ましい。間隔を7mm未満とすると、プラズマ発生領域42を通過した被改質ガスまでもがハニカム電極に流入し難くなり、圧力損失も増加するおそれがある。一方、間隔が15mmを越えるとプラズマ発生領域42以外の領域を通過した被改質ガス2の流入を十分に遮蔽することができなくなり、改質反応の反応効率が低下するおそれがある。
【0039】
遮蔽部材の形状は、プラズマ発生領域以外の領域を通過した被改質ガスを遮蔽して、前記ハニカム電極のセルに流入することを抑制し得るものである限り、特に限定されるものではない。但し、図1Aに示すように、ハニカム電極34と対となる線状電極32はハニカム電極34のガス導入端面(セル開口端面)の中央領域と対向するように配置され、その線状電極32とハニカム電極34の間にプラズマが発生する。従って、ハニカム電極34におけるガス導入端面の外縁領域に対応する部分に被改質ガスの流入を遮蔽し得る突出部が形成される一方、前記ガス導入端面の中央領域に対応する部分は被改質ガス2が流入し得る形状とすることが好ましい。
【0040】
なお、プラズマ発生領域以外の領域を通過した被改質ガスを遮蔽し得る限り、必ずしも図1Aに示すリアクタ1A又は図2Aに示すリアクタ1Bのように、遮蔽部材30A,30Bがハニカム電極34の端面に当接するように配置する必要はなく、図3Aに示すリアクタ1C又は図4Aに示すリアクタ1Dのように、遮蔽部材30C,30Dがハニカム電極34の端面に当接することなく、ハニカム電極34の端面側に突出するものであってもよい。
【0041】
図1Aに示すリアクタ1Aは左右一対の遮蔽部材30Aを備えており、その遮蔽部材30Aがハニカム電極34におけるガス導入端面の左右両側縁領域に対応する部分に突出して前記領域における被改質ガス2の流入を遮蔽するように構成されている。そして、一対の遮蔽部材30Aはガス導入端面の幅方向中央領域に対応する部分が離間するように配置され、その部分を通過してハニカム電極34のセル16に被改質ガス2が流入し得るように構成されている。図1Aに示すリアクタ1Aは一対の遮蔽部材30Aの間が矩形状に開口し、この部分から被改質ガス2が流入し得るように構成した例である。但し、この開口部の形状は、円形、矩形状以外の四角形等の形状であってもよい。
【0042】
本発明のリアクタは、遮蔽部材として固有の部材を備えていてもよいが、他の構成部材の一部によって遮蔽部材を構成してもよい。
【0043】
本発明のようなリアクタにおいては、金属製反応容器との間の短絡を防止する等の理由から、ハニカム電極は絶縁性材料からなるハニカム電極支持体を介して反応容器内部に設置されることが多い。従って、本発明のリアクタは、図1Aにリアクタ1Aのように、絶縁性材料からなり、ハニカム電極34を挟んで相対向するように配置された、ハニカム電極34を支持固定する一対のハニカム電極支持体36Aを更に備え、遮蔽部材30Aは、ハニカム電極支持体36Aの一部をハニカム電極支持体36Aのガス導入端面側に突出させた突出部により構成されたものであることが好ましい。このような構成は、専ら遮蔽部材としてのみ用いられる別部材を設置する必要がなくなる点において好ましい。
【0044】
ハニカム電極支持体を構成する絶縁性材料としては、セラミックスを好適に用いることができる。例えば、アルミナ、ジルコニア、窒化珪素、窒化アルミニウム、サイアロン、ムライト、シリカ、コーディエライト等を用いることが好ましい。これらのセラミックスは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
図1A及び図1Bに示すように、ハニカム電極支持体36Aは、ハニカム電極34を二方向から挟み込んで支持固定できるように、ハニカム電極34を挟んで相対向するように配置されることが多い。図1Aに示すリアクタ1Aはハニカム電極支持体36Aを左右一対備えており、その一対のハニカム電極支持体36Aによってハニカム電極34を左右両方向から挟み込んで支持固定した例である。
【0046】
本発明のリアクタは、遮蔽部材を利用し、プラズマ発生領域を通過して活性化された(又は一部反応が進行した)被改質ガスを優先的にハニカム電極のセルに流入させることによって改質反応の反応効率を向上させる効果を奏するものである。従って、図1A及び図1Bに示すように遮蔽部材30Aによってハニカム電極34のガス導入端面の一部が完全に閉塞されていても前記効果を得ることができる。
【0047】
しかし、1)被改質ガスが反応容器内を通過し易い状態とし、被改質ガスの処理速度・処理量を向上させる、2)被改質ガスとハニカム電極の隔壁に担持された触媒との接触機会を増加させ、改質反応の反応効率を向上させる、という観点からは閉塞されていない開放セルの数を増加させることが好ましい。
【0048】
開放セルの数を増加させるためには、ハニカム電極のセル開口端面をできる限り閉塞させることなく、プラズマ発生領域以外の領域を通過した被改質ガスの流入を遮蔽し得る構造とする必要がある。
【0049】
従って、本発明のリアクタは、図2Aに示すリアクタ1Bのように、突出部(遮蔽部材30B)がハニカム電極34のガス導入端面の一部に当接するように構成されるとともに、突出部(遮蔽部材30B)と重畳するセルの内部空間と反応容器10の内部空間とを連通させるスリット38が形成されたものであることが好ましい。
【0050】
このような形態によれば、遮蔽部材によってプラズマ発生領域を通過した被改質ガスを優先的にハニカム電極に導くことができるとともに、スリットによってハニカム電極の開放セルを増加させることが可能となる。この効果を確保するため、ハニカム電極のガス導入端面のみならず、ガス排出端面にも同様のスリットを形成することが好ましい。
【0051】
図2A及び図2Bに示すような、突出部(遮蔽部材30B)にスリット38を形成する形態は、後述する図3A及び図3B又は図4A及び図4Bに示す形態と比較して、スリット38間に形成される櫛刃部によってハニカム電極34の端面を支持固定する効果を維持しつつ、開放セルを増加させることができる点において好ましい。本発明のようなリアクタは車載用途等にも用いられる。従って、ハニカム電極を外周面側のみならず端面側からも支持固定することで、振動や衝撃が加わった場合でもその支持固定状態が維持され、ハニカム電極支持体からハニカム電極が脱落する不具合が減少する。
【0052】
なお、「突出部と重畳する」とは、針状電極方向から突出部(遮蔽部材)を透視的に見た場合に、突出部とセルの開口部が重畳していることを意味する。図2A及び図2Bに示す例では、遮蔽部材30Bとハニカム電極34のセル開口端面が当接するように配置されており、その当接部において突出部(遮蔽部材30B)とセル16の開口部が重畳している。
【0053】
本発明のリアクタは、図2A及び図2Bに示すように、スリット38がハニカム電極34の最外周セルの開口部に至るまで形成されており、ハニカム電極34の最外周セルの内部空間と反応容器10の内部空間とが連通されていることが更に好ましい。このようにスリットを形成することにより、開放セルの数を最大限増加させることができ、前記効果が更に向上する。
【0054】
スリットの幅や間隔は、ハニカム電極の端面を支持固定する効果を維持しつつ、開放セルを増加させ、被改質ガスの流入を容易にするという効果を考慮した上で、ハニカム電極の形状やサイズに応じて適宜決定すればよい。以上の点を考慮すると、スリット幅は、1〜20mmとすることが好ましく、2〜19mmとすることが更に好ましい。また、スリットの間隔(即ち、複数のスリット間に形成される櫛刃部の幅)は、1〜6mmとすることが好ましく、2〜5mmとすることが更に好ましい。
【0055】
スリットの本数はハニカム電極のサイズや1セル当たりの開口面積に応じて適宜決定すればよい。例えば、図2A及び図2Bに示すハニカム電極34は、セル形状が1mm×1mmの正方形状であって、セル開口端面が20mm×30mmの矩形状、セル方向長さが20mmの直方体状のハニカム電極を用いている。このようなハニカム電極の場合、左右一対の遮蔽部材に各々1〜10本のスリットを形成することが好ましく、各々2〜8本のスリットを形成することが更に好ましい。
【0056】
本発明のリアクタは、図3Aに示すリアクタ1Cのように、突出部(遮蔽部材30C)は、反応容器10の導入口4側からハニカム電極34の端面側に向かってその突出量が小さくなる楔状に形成されていることが好ましい。図3Aに示す形態は、図2Aに示す形態のように遮蔽部材30Bにスリット38を形成することに代えて、遮蔽部材30Cに切り欠き部を形成したような形態である(以下、説明の便宜上、前記部分を「切り欠き部」と記す。但し、この呼称は当該部分を切り欠いて形成したことを意味するものではない。)。
【0057】
遮蔽部材を楔状に形成する形態も、遮蔽部材にスリットを形成する形態と同様に、開放セルを増加させることができる。但し、図3A及び図3Bに示すような遮蔽部材30Cを楔状に形成する形態は、図2A及び図2Bに示すような遮蔽部材30Bにスリット38を形成する形態と比較すると、スリット38間に形成される櫛刃部によってハニカム電極34のセル開口端面が閉塞されない分、開放セルの数を増加させ易いと言える。この効果を確保するため、ハニカム電極のガス導入端面のみならず、ガス排出端面も同様の楔状に形成することが好ましい。
【0058】
「反応容器の導入口側からハニカム電極の端面側に向かってその突出量が小さくなる楔状」としては、例えば、図3A及び図3Bに示すように、左右一対の遮蔽部材30Cを形成した場合において、その遮蔽部材30Cの導入口4側(即ち線状電極32側)端面からハニカム電極34の端面に向かう平面的な傾斜面40Aを形成した形状を挙げることができる。図3A及び図3Bに示すような平面的な傾斜面を形成した場合、遮蔽部材を通過した被改質ガスがハニカム電極のセル開口端面全域に拡がり易いという理由から、その傾斜角度は30〜45°とすることが好ましい。
【0059】
また、図4A及び図4Bに示すように、左右一対の遮蔽部材30Dを形成した場合において、その遮蔽部材30Cの導入口4側(即ち線状電極32側)端面からハニカム電極34の端面に向かう曲面的な傾斜面40Bを形成した形状であってもよい。図4A及び図4Bに示すような曲面的な傾斜面を形成した場合、遮蔽部材を通過した被改質ガスがハニカム電極のセル開口端面全域に拡がり易いという理由から、その曲率半径は5〜15Rとすることが好ましい。
【0060】
本発明のリアクタは、図3A及び図3Bに示すように、突出部(遮蔽部材30C)は、ハニカム電極34の最外周セルの内部空間と反応容器10の内部空間とが連通されるように、反応容器10の導入口4側の端面からハニカム電極34の最外周セルの開口部外側に至る傾斜面40Aが形成されていることが好ましい。このように突出部(遮蔽部材30C)を形成することにより、開放セルの数を最大限増加させることができ、前記効果が更に向上する。図4及び図4Bに示す形態も、図3A及び図3Bに示す形態と同様に、反応容器10の導入口4側の端面からハニカム電極34の最外周セルの開口部外側に至る傾斜面40Bが形成されている。
【0061】
[2−2]ハニカム電極:
本発明のリアクタは、図1Aに示すように反応容器10の内部空間に、相対向するように一対の電極12が配置されており、この一対の電極12に電圧を印加させることによってプラズマを発生させるものである。そして、本発明のプラズマ−触媒反応装置においては、図1A及び図1Bに示すようにその一方の電極をハニカム電極34としている。本明細書にいう「ハニカム電極」とは、導電性セラミックスからなり、隔壁によってガスの流路となる複数のセルが区画形成されたハニカム構造の電極を意味する。
【0062】
ハニカム電極の構造は、隔壁によってガスの流路となる複数のセルが区画形成された、所謂ハニカム構造体であればよく、その他の部分について特に制限はない。例えば、セル形状(セル形成方向と直交する方向に切断した際の断面形状)は、円形、楕円形、三角形、四角形、六角形、その他の多角形等の中から所望の形状を適宜選択すればよい。
【0063】
本発明において、ハニカム電極のセル密度(即ち、単位断面積当たりのセルの数)については特に制限はなく、目的に応じて適宜設計すればよい。但し、6〜2000セル/平方インチ(1.0〜320セル/cm)の範囲であることが好ましい。セル密度が6セル/平方インチより小さくなると、隔壁の強度、ひいてはハニカム電極自体の強度及び有効GSA(幾何学的表面積)が不足するおそれがある。一方、セル密度が2000セル/平方インチを超えると、被改質ガスが流れる際の圧力損失が大きくなるおそれがある。
【0064】
特に、炭化水素の改質による水素生成に用いる場合には、ハニカム電極のセル密度を25〜1163セル/平方インチ(4〜186セル/cm)とすることが好ましい。セル密度を4セル/cm未満とすると、各セルの隔壁の表面において沿面放電するプラズマ発生領域が疎らとなり、被改質ガスの改質効率が低下する場合がある。一方、186セル/cmを超えると、ハニカム構造体の背圧抵抗が増加することがある。
【0065】
また、隔壁の厚さ(壁厚)についても、目的に応じて適宜設計すればよく、特に制限はない。例えば、炭化水素の改質による水素生成に用いる場合には、壁厚を50μm〜2mmとすることが好ましく、60〜500μmとすることが更に好ましい。壁厚を50μm未満とすると、機械的強度が低下して衝撃や温度変化による熱応力によって破損することがある。一方、2mmを超えると、ハニカム電極に占めるセル容積の割合が低くなり、被改質ガスが透過する際の圧力損失が大きくなり過ぎるおそれがある。
【0066】
また、ハニカム電極の長さ(ガスの流れ方向の長さ)は、5〜40mmであることが好ましく、10〜30mmであることが更に好ましい。5mmより短いと、沿面放電によるプラズマ発生領域が狭すぎて、被改質ガスに含まれる炭化水素の大部分が改質されないまま反応容器から流出してしまう場合がある。一方、40mmより長いと、プラズマを発生させるための電力が大量に必要となる他、リアクタ全体が大型化し、小型で軽量であることが要求される車載用燃料改質器等の用途にはそぐわなくなる可能性がある。
【0067】
ハニカム電極を構成する「導電性セラミックス」としては炭化珪素が好ましい。但し、ハニカム電極が導電性を有する限り、必ずしも電極全体が炭化珪素で構成されている必要はない。即ち、本発明のリアクタにおいては、ハニカム電極が炭化珪素を含む導電性セラミックスからなるものであることが好ましい。この場合、ハニカム電極中の炭化珪素の含有率は、導電性の低下を抑制するという理由から、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることが更に好ましい。
【0068】
また、ハニカム電極は、気孔率30〜60%の多孔体であることが好ましく、40〜50%の多孔体であることが更に好ましい。30%未満であると、セラミックス粒子間の空隙での微小放電の効果が少なくなるおそれがある。一方、60%超では隔壁の強度不足等の不具合を生じるおそれがある。
【0069】
ハニカム電極は、導電性を確保する観点から、その電気抵抗は180℃で3.5Vの電圧印加の時に2Ω以下のものが好ましく、0.3Ω以下のものが更に好ましい。このような電気抵抗とするためには、導電性セラミックスとして炭化珪素を用い、これに金属珪素を混合する、或いは炭化珪素と金属珪素を複合化する等の処理をすることが好ましい。
【0070】
なお、ここにいう「電気抵抗」とは、ハニカム電極のガスが流れる方向(セル形成方向)に沿って、長さ3.3cm、断面積1.1cm(ガスの流れ方向に垂直な断面の断面積)の直方体を切り出し、直流電源による定電流4端子法にて電圧端子間2.3cmで測定(180℃)した値を意味するものとする。
【0071】
ハニカム電極は、担持触媒の活性化という観点から、その熱伝導率が5〜300W/mKのものが好ましく、10〜200W/mKのものが更に好ましく、20〜100W/mKのものが特に好ましい。熱伝導率を5W/mK未満とすると、担持触媒の活性化に時間を要するおそれがある。一方、300W/mKを超えると、外部への放熱が大きくなり、担持触媒が十分に活性化しないおそれがある。このような熱伝導率を有する導電性セラミックスとしては、例えば、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム等を挙げることができる。
【0072】
ハニカム電極は、線状電極との電極間距離が1〜30mmとなるように配置されていることが好ましく、5〜10mmとなるように配置されていることが更に好ましい。電極間距離を1mm未満とすると、電界集中が起こり易く、これを起点として短絡し易くなることがある。また、電極間でプラズマ放電するものの、炭化水素の改質反応に伴う水素生成量が少なくなる場合がある。一方、30mmを超えると、プラズマ放電が安定し難くなり、プラズマの発生効率が低下することがある。
【0073】
[2−3]線状電極:
本発明のプラズマ−触媒反応装置は、図1Aに示すように、一対の電極12のうち、ハニカム電極34と対になる電極を線状電極32としている。本明細書にいう「線状電極」とは、一方向に突出する線状又は面状の電極を意味し、これらが折れ曲がった形状の電極も含むものとする。例えば、針状電極、棒状電極、平板状(短冊状)電極等の直線的な形状の他、L字型等の折れ曲がった形状等を挙げることができる。線状電極は少なくとも1本配置する。
【0074】
線状電極の長さは、リアクタのサイズを小さくするという理由から、3〜50mmであることが好ましく、5〜30mmであることが更に好ましい。長さを3mm未満とすると、リアクタの製造時に、線状電極のハンドリングが不安定になり、線状電極の固定が困難となるおそれがある。一方、50mmを超えると、流動する被改質ガスとの接触により線状電極が曲がり易くなるおそれがある。
【0075】
また、線状電極が針状又は棒状である場合、その外径は0.1〜5mmであることが好ましく、0.5〜3mmであることが更に好ましい。外径を0.1mm未満とすると、流動する被改質ガスとの接触により線状電極が曲がり易くなり、プラズマ放電が不安定になるおそれがある。一方、5mmを超えると、プラズマ放電が制御し難くなるおそれがある。
【0076】
線状電極は導電性を確保する観点から、導電性が高い材質、具体的には、金属、合金、導電性セラミックス等によって構成されていることが好ましい。導電性の高い金属としては、ステンレス、ニッケル、銅、アルミニウム、鉄等を、導電性の高い合金としては、アルミニウム−銅合金、チタン合金、インコネル(商品名)等を、導電性セラミックスとしては、炭化珪素等を、その他の材質としては、炭素等を挙げることができる。中でも、インコネル(商品名)等の耐腐食性が高い導電性材料を用いることが好ましい。
【0077】
[2−4]触媒:
本発明のリアクタは、被改質ガスの改質反応を促進する触媒を備えており、この触媒はハニカム電極の隔壁に担持されている。
【0078】
触媒は、前記触媒作用を有する物質であれば特に制限なく使用することができる。例えば、貴金属(白金、ロジウム、パラジウム、ルテニウム、インジウム、銀、金等)、アルミニウム、ニッケル、ジルコニウム、チタン、セリウム、コバルト、マンガン、亜鉛、銅、スズ、鉄、ニオブ、マグネシウム、ランタン、サマリウム、ビスマス、及びバリウムからなる群より選択された少なくとも一種の元素を含有する物質を挙げることができる。前記元素を含有する物質としては、金属単体、金属酸化物、それ以外の化合物(塩化物、硫酸塩等)等の各種形態が含まれる。これらの物質は一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
触媒の担持量としては、0.05〜70g/Lであることが好ましく、0.1〜40g/Lであることが更に好ましい。担持量を0.05g/L未満とすると、触媒作用が発現し難いおそれがある。一方、70g/Lを超えると、リアクタの製造コストが上昇するおそれがある。
【0080】
触媒は担体微粒子に担持された触媒コート微粒子の状態でハニカム電極の隔壁に担持されていることが好ましい。このような形態は、被改質ガスの触媒に対する反応効率を高めるという利点がある。担体微粒子としては、例えば、セラミックス粉末を用いることができる。セラミックスの種類は特に限定されないが、例えば、金属酸化物、特にシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、セリア、ゼオライト、モルデナイト、シリカアルミナ、金属シリケート、コージェライト等の粉末を好適に用いることができる。これらのセラミックスは一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。このような触媒コート微粒子をハニカム電極の隔壁にコーティングすることにより、担持させることができる。
【0081】
これらの粉末の平均粒子径は0.01〜50μmであることが好ましく、0.1〜20μmであることが更に好ましい。平均粒子径を0.01μm未満とすると、触媒が担体微粒子の表面に担持され難くなるおそれがある。一方、50μmを超えると、触媒コート微粒子がハニカム電極から剥離し易くなるおそれがある。
【0082】
担体微粒子に対する触媒の質量比率は、0.1〜20質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることが更に好ましい。触媒の質量比率を0.1質量%未満とすると、改質反応が進行し難いおそれがある。一方、20質量%を超えると、触媒が均一に分散されずに互いに凝集し易くなるために、担体微粒子に均一に担持され難くなる。従って、20質量%を超える量の触媒を加えても、その量に見合った触媒添加効果を得られず、改質反応が促進されないおそれがある。
【0083】
触媒コート微粒子は、例えば、担体微粒子となるセラミックス粉末に触媒成分を含む水溶液を含浸させた後、乾燥し、焼成することにより得ることができる。この触媒コート微粒子に分散媒(水等)、その他の添加剤を加えてコーティング液(スラリー)を調製し、このスラリーをハニカム電極の隔壁にコーティングすることによって、ハニカム電極の隔壁に触媒を担持することができる。
【0084】
[2−5]反応容器:
本発明のリアクタは、図1Aに示すように被改質ガス2の導入口4及び改質ガス6の排出口8が形成された反応容器10を備えている。反応容器は、被改質ガスの導入口及び改質ガスの排出口が形成された中空の構造体である。ガスを通過させる必要から中空形状であることが必要であるが、形状について他の制限はなく、例えば、円筒状、角筒状等の構造のものを用いることができる。反応容器の最大内径についても特に制限はなく、リアクタの用途により適宜サイズを決定すればよい。
【0085】
また、反応容器を構成する材質は特に限定されないが、加工性が良好な金属(例えば、ステンレス等)で構成することが好ましい。但し、短絡を防止するため、反応容器内の電極の設置部分等については絶縁性材料により構成することが好ましい(例えば、ハニカム電極支持体等)。
【0086】
[2−6]電源:
電源とは、図1Aに示すように一対の電極12(線状電極32、ハニカム電極34)に対して電圧を印加する電源14である。電源の種類は特に限定されないが、周期的に電圧を加えられるパルス電源を用いることが好ましい。中でも、(a)ピーク電圧が1kV以上で、かつ1秒当たりのパルス数が1以上のパルス波形、(b)ピーク電圧が1kV以上で、かつ周波数が1以上の交流電圧波形、(c)電圧が1kV以上の直流波形、又は、(d)これらの2種以上を重畳してなる電圧波形、を供給することができる電源であることが好ましい。そして、ピーク電圧が1〜20kVの電源であることが好ましく、ピーク電圧が5〜10kVの電源を用いることが更に好ましい。
【0087】
このような電源としては、例えば、スイッチング素子として静電誘導型サイリスタ(SIサイリスタ)又はMOS−FETを用いた高電圧パルス電源等を挙げることができる。中でも、使用条件が広いという理由から、スイッチング素子としてSIサイリスタを用いた高電圧パルス電源(例えば、日本ガイシ社製)を用いることが好ましい。なお、「MOS−FET」とは、電界効果トランジスタ(FET)のうち、ゲート電極が金属(Metal)−半導体酸化物(Oxide)−半導体(Semiconductor)の3層構造になっているタイプのものを意味する。
【0088】
[3]製造方法:
本発明のリアクタは、例えば以下のようにして製造することができる。従来公知の押出成形法により、ハニカム電極となるハニカム構造体を得る。具体的には、セラミックス粉末を含む坏土を所望の形状に押し出した後、乾燥し、焼成することによって、ハニカム電極となるハニカム構造体を得る。この際、ハニカム構造体を得るための原料セラミックスとしては導電性材料の炭化珪素等を用いる。反応容器については、従来公知の金属加工法により、管状(筒状)の反応容器を形成すればよい。この際、反応容器を得るための金属材料としてはステンレス等の加工容易な金属材料を用いることが好ましい。
【0089】
前記のように得られたハニカム電極には、その隔壁に触媒を担持させる。予め、担体微粒子となるセラミックス粉末に触媒成分を含む水溶液を含浸させた後、乾燥し、焼成することにより触媒コート微粒子を得る。この触媒コート微粒子に分散媒(水等)、その他の添加剤を加えてコーティング液(スラリー)を調製し、このスラリーをハニカム電極の隔壁にコーティングした後、乾燥し、焼成することによって、ハニカム電極の隔壁に触媒を担持させる。
【0090】
前記のように得られたハニカム電極を、アルミナ等の絶縁性材料からなるハニカム電極支持体を介して反応容器の内部空間に設置する。ハニカム電極は線状電極と相対向するように所定の距離だけ離隔させて配置する。この際、ハニカム電極と線状電極の間に遮蔽部材を設置する。この遮蔽部材は、前記ハニカム電極支持体の一部をハニカム電極のガス導入端面側に突出させることにより構成することができる。最後に、ハニカム電極及び線状電極を電源と電気的に接続することにより、リアクタを構成することができる。
【0091】
[4]使用方法:
本発明のリアクタは、改質反応、特に、炭化水素系化合物やアルコール類を被改質ガスとし、水素含有改質ガスを得る改質反応に好適に用いることができる。
【0092】
「炭化水素系化合物」としては、例えば、メタン、プロパン、ブタン、ヘプタン、ヘキサン等の軽質炭化水素、イソオクタン、ガソリン、灯油、ナフサ等の石油系炭化水素等を挙げることができる。「アルコール類」としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール等を挙げることができる。これらの被改質ガスは、1種を単独で、また、2種以上を混合して用いることができる。
【0093】
改質の方法についても特に限定されるものではない。例えば、酸素を用いる部分改質、水を用いる水蒸気改質、酸素、水を用いるオートサーマル等のいずれの方法にも用いることができる。
【0094】
改質反応は、本発明のリアクタを用い、被改質ガスを反応容器の内部空間に導入し、電源から電極に対して、(a)ピーク電圧が1kV以上で、かつ1秒当たりのパルス数が1以上のパルス波形、(b)ピーク電圧が1kV以上で、かつ周波数が1以上の交流電圧波形、(c)電圧が1kV以上の直流波形、及び、(d)これらの2種以上を重畳してなる電圧波形のうちの一種の電圧波形を有するパルス電圧を印加することにより行うことができる。
【実施例】
【0095】
本発明のリアクタについて、実施例を示して更に具体的に説明する。但し、本発明のリアクタは、その発明特定事項を備えたリアクタを全て包含するものであり、以下の実施例に限定されるものではない。
【0096】
[リアクタの作製]
まず、以下のようにして、リアクタを作製した。
【0097】
(実施例1)
図2Aに示すようなリアクタ1Bを作製した。反応容器10としては、厚さ5mmのステンレス板からなり、縦40mm×横50mm×長さ70mmの四角筒状体を用いた。この反応容器10の内部にアルミナからなるハニカム電極支持体を付設し、そのハニカム電極支持体に炭化珪素からなるハニカム電極34を支持固定させた。同様に、アルミナからなる絶縁体に線状電極32を設置した。
【0098】
ハニカム電極34としては、炭化珪素(含有率75質量%)からなり、図2Bに示すように隔壁によってガスの流路となる複数のセル16が区画形成されたハニカム構造体を用いた。ハニカム構造体としては、エンジン排ガス等に含有される粒子状物質を捕集するための炭化珪素製ディーゼルパティキュレートフィルタ(商品名:SiC−DPF、日本ガイシ社製)を縦20mm×横30mm×長さ20mmの直方体形状にカットして使用した。このハニカム構造体のセル形状は1mm×1mmの正方形状、セル密度は46セル/cmであった。
【0099】
また、前記SiC−DPFから、ガスが流れる方向に沿って、長さ3.3cm、断面積1.1cm(ガスの流れ方向に垂直な断面の断面積)の直方体を切り出し、180℃の温度条件下、直流電源による定電流4端子法にて電圧端子間2.3cmで測定した電気抵抗は0.2Ωであった。更に、熱伝導率は100W/mKであった。
【0100】
このハニカム構造体にはセルを区画する隔壁に触媒を担持した。予め、担体微粒子となるアルミナ粉末(比表面積107m/g)に触媒成分ロジウムを含む硝酸ロジウム(III)(Rh(NO)水溶液を含浸させた後、120℃で乾燥し、大気中550℃で3時間焼成することにより触媒コート微粒子を得た。アルミナに対するロジウムの質量比率は、0.5質量%であった。
【0101】
この触媒コート微粒子に分散媒(水)、アルミナゾルを加え、硝酸水溶液でpHを4に調整してコーティング液(スラリー)を得た。ハニカム電極をこのスラリーに浸漬させることにより、隔壁をコーティングした後、120℃で乾燥し、窒素雰囲気中550℃で1時間焼成することによって、ハニカム電極の隔壁に触媒を担持した。ハニカム電極に担持したロジウム量は1.5(g/L)であった。
【0102】
線状電極32としては、ステンレスからなり、長さ10mm、外径0.5mmφの棒状体を使用した。ハニカム電極34は線状電極32との電極間距離が5mmとなるように配置した。なお、このリアクタ1Aでは、線状電極32を正極とした。
【0103】
電源14としては、SIサイリスタをスイッチング素子とする高電圧パルス電源(日本ガイシ社製)を用いた。電源14は、線状電極32(正極)及びハニカム電極34(負極)に電気的に接続した。
【0104】
なお、図2A及び図2Bに示すように遮蔽部材30Bはハニカム電極支持体36Bの一部をハニカム電極34の端面側に突出させることにより構成した。前記のように設置したハニカム電極34と線状電極32に5kVの電圧をかけて発生するプラズマ発生領域42の幅は10〜12mmであるので、ハニカム電極支持体36Bの一部をハニカム電極34の端面側に左右各10mmずつ突出させて左右一対の遮蔽部材30Bを形成した。これにより、左右一対の遮蔽部材30Bの間には幅10mmの開口部が形成されることになる。
【0105】
遮蔽部材30Bの線状電極32側端面と線状電極32との間隔は3mmとし、遮蔽部材30Bのハニカム電極34側端面とハニカム電極34との間隔は0mmとした。
【0106】
遮蔽部材30Bはハニカム電極34のガス導入端面の一部に当接するように構成し、遮蔽部材30Bと重畳するセルの内部空間と反応容器10の内部空間とを連通させるスリット38を形成した。このスリット38はハニカム電極34の最外周セルの開口部に至るまで形成し、ハニカム電極34の最外周セルの内部空間と反応容器10の内部空間とが連通されるように構成した。
【0107】
具体的には、スリット38の幅は各2mm、スリット38の間隔は1mm、スリット38の本数は左右一対の遮蔽部材30Bに各6本とした。
【0108】
(実施例2)
ハニカム電極支持体の形状を変更したことを除いては、実施例1と同様にして、図3Aに示すようなリアクタ1Cを作製した。まず、実施例1と同様に、ハニカム電極支持体36Cの一部をハニカム電極34の端面側に左右各10mmずつ突出させて左右一対の遮蔽部材30Cを形成した。これにより、左右一対の遮蔽部材30Cの間には幅10mmの開口部が形成された。
【0109】
但し、ハニカム電極支持体36Cの突出部(遮蔽部材30C)は、反応容器10の導入口4側からハニカム電極34の端面側に向かってその突出量が小さくなる楔状に形成した。具体的には、図3A及び図3Bに示すように、遮蔽部材30Cの導入口4側(即ち線状電極32側)端面からハニカム電極34の端面に向かう平面的な傾斜面40Aを形成した。その傾斜角度は30°とした。
【0110】
(実施例3)
ハニカム電極支持体の形状を変更したことを除いては、実施例1と同様にして、図4Aに示すようなプラズマ−触媒反応装置1Dを作製した。まず、実施例1と同様に、ハニカム電極支持体36Dの一部をハニカム電極34の端面側に左右各10mmずつ突出させて左右一対の遮蔽部材30Dを形成した。これにより、左右一対の遮蔽部材30Dの間には幅10mmの開口部が形成された。
【0111】
但し、ハニカム電極支持体36Dの突出部(遮蔽部材30D)は、反応容器10の導入口4側からハニカム電極34の端面側に向かってその突出量が小さくなる楔状に形成した。具体的には、図4A及び図4Bに示すように、遮蔽部材30Dの導入口4側(即ち線状電極32側)端面からハニカム電極34の端面に向かう曲面的な傾斜面40Bを形成した。その曲率半径は10Rとした。
【0112】
(比較例1)
ハニカム電極支持体の形状を変更したことを除いては、実施例1と同様にして、図5に示すようなリアクタ100を作製した。具体的には、図5に示すように、ハニカム電極支持体36はハニカム電極34の外周面のみを保持固定するように形成し、ハニカム電極34端面側への突出部(遮蔽部材)は形成しなかった。
【0113】
[炭化水素の改質試験]
実施例及び比較例のリアクタを用い、炭化水素の改質試験を行った。具体的には、下記式(1)に示すペンタデカン(C1532)の部分酸化反応を行った。被改質ガスは、窒素ガス中にペンタデカン(C1532)が2000ppm、酸素が16000ppm含まれる組成とした。被改質ガスの調製は、高圧マイクロフィーダー(商品名:JP−H型、古江サイエンス社製)を使用して、所定量のペンタデカンを注入する方法で行った。ペンタデカンは配管内に設置した平板ヒータで気化させた後、導入した。
1532+7.5O→16H+15CO :(1)
【0114】
前記被改質ガスをリアクタに供給し、改質反応(部分酸化)を行った。繰返し周期3kHz、ピーク電圧5kVの条件で、電源から一対の電極に対してパルス電圧を印加した。また、反応容器の内部における被改質ガスの空間速度(SV)は、ハニカム電極のセル内においていずれも8万h−1となるように調整した。
【0115】
改質反応により得られた改質ガスについて水素量を測定した。水素量の測定は、TCD(熱伝導検出器)を備えたガスクロマトグラフィー(GC、ジーエルサイエンス(株)製GC3200、キャリヤーガスにアルゴンガス使用)を用いて行った。この水素量と、前記式(1)から反応で消費されたペンタデカン量を算出し、下記式(2)により水素生成率を算出した。水素生成率が30質量%以上であれば「極めて良好/◎」、25質量%以上、30質量%未満であれば「良好/○」、25質量%未満であれば「不良/×」として評価した。その結果を表1に示す。
水素生成率(質量%)=改質ガス中の水素量から算出されるペンタデカン量/被改質ガス中のペンタデカン量×100 :(2)
【0116】
【表1】

【0117】
実施例1〜3のリアクタは、比較例1のリアクタと比較して高い水素生成率を示した。これらの結果から、遮蔽部材を備えるプラズマ−触媒反応装置は、プラズマ発生領域を通過して活性化された(又は一部反応が進行した)被改質ガスがハニカム電極のセルを通過する比率が向上し、プラズマと触媒の相乗効果が高まり、より効率的に改質ガスを得られると考えられた。即ち、比較例1とプラズマ発生に投入した電力は同じであるにも拘わらず、効率的に改質ガス(水素)を得ることができた。
【0118】
また、実施例1〜3のリアクタの中では、ハニカム電極支持体を楔状に形成した実施例2,3のリアクタが、ハニカム電極支持体の突出部にスリットを形成した実施例1のプラズマ−触媒反応装置より若干良好な結果を示した。これは実施例1のリアクタはプラズマ発生領域を通過した被処理ガスが優先的にハニカム電極に導かれる点においては実施例2,3のリアクタと同様であるものの、スリット部分で圧力損失が生じ、被処理ガスの流動が妨げられたためと考えられた。このことから、遮蔽部材にスリットを形成する形態よりも遮蔽部材を楔状に形成する形態の方がより改質反応の反応効率を向上させられると考えられた。
【0119】
本実施例では部分酸化の例を示したが、酸素、水を用いるオートサーマル等の他の改質方法でも従来のリアクタと比較して高い水素生成率を示す結果が得られた。即ち、本発明のリアクタは、各種改質方法に適用することが可能であると言える。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明のリアクタは、炭化水素系化合物やアルコール類の改質反応、特に水素生成反応に好適に用いることができる。そして、長期間にわたって安定的に大量の改質ガスを供給することができるので、車載用燃料改質器等の用途にも好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0121】
1A,1B,1C,1D,100:リアクタ、2:被改質ガス、4:導入口、6:改質ガス、8:排出口、10:反応容器、12:電極、14:電源、16:セル、30A,30B,30C,30D:遮蔽部材、32:線状電極、34:ハニカム電極、36,36A,36B,36C,36D:ハニカム電極支持体、40A,40B:傾斜面、42:プラズマ発生領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被改質ガスの導入口及び改質ガスの排出口が形成された反応容器と、前記反応容器の内部空間に相対向するように配置された、プラズマを発生させる一対の電極と、前記一対の電極に対して電圧を印加する電源と、前記被改質ガスの改質反応を促進する触媒とを備え、
前記一対の電極の一方が線状電極であるとともに、
前記一対の電極の他方は導電性セラミックスからなり、隔壁によってガスの流路となる複数のセルが区画形成されたハニカム電極であり、
前記触媒は、前記ハニカム電極の前記隔壁に担持されており、
前記線状電極と前記ハニカム電極との間に、前記ハニカム電極のガス導入端面側に突出された、前記プラズマ発生領域以外の領域を通過した前記被改質ガスの流入を遮蔽する遮蔽部材を更に備えたリアクタ。
【請求項2】
絶縁性材料からなり、前記ハニカム電極を挟んで相対向するように配置された、前記ハニカム電極を支持固定する一対のハニカム電極支持体を更に備え、
前記遮蔽部材は、前記ハニカム電極支持体の一部を前記ハニカム電極のガス導入端面側に突出させた突出部により構成されたものである請求項1に記載のリアクタ。
【請求項3】
前記突出部は、前記ハニカム電極のガス導入端面の一部に当接するように構成されるとともに、前記突出部と重畳するセルの内部空間と前記反応容器の内部空間とを連通させるスリットが形成されたものである請求項2に記載のリアクタ。
【請求項4】
前記スリットは、前記ハニカム電極の最外周セルの内部空間と前記反応容器の内部空間とが連通されるように、前記ハニカム電極の最外周セルの開口部に至るまで形成されている請求項3に記載のリアクタ。
【請求項5】
前記突出部は、前記反応容器の前記導入口側から前記ハニカム電極の端面側に向かってその突出量が小さくなる楔状に形成されている請求項2に記載のリアクタ。
【請求項6】
前記突出部は、前記ハニカム電極の最外周セルの内部空間と前記反応容器の内部空間とが連通されるように、前記反応容器の前記導入口側の端面から前記ハニカム電極の最外周セルの開口部外側に至る傾斜面が形成されている請求項5に記載のリアクタ。
【請求項7】
前記ハニカム電極が、炭化珪素を含む導電性セラミックスからなるものである請求項1〜6のいずれか一項に記載のリアクタ。
【請求項8】
前記ハニカム電極は、その熱伝導率が10〜300W/mKのものである請求項1〜7のいずれか一項に記載のリアクタ。
【請求項9】
前記電源が、静電誘導型サイリスタを用いた高電圧パルス電源である請求項1〜8のいずれか一項に記載のリアクタ。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−215468(P2010−215468A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66012(P2009−66012)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】