説明

リニアガイド装置

【課題】部品コストの増大を招くことなく転動体同士の競合いを抑制することができ、かつ部品コストの増大を招くことなく転動体同士の競合いを抑制することができ、かつ負荷容量を高くした状態で転動体を循環させることのできるリニアガイド装置を提供する。
【解決手段】転動体4の直径よりも小さい直径で円板状もしくは円板状に近い形状に形成されたセパレータ本体91と、このセパレータ本体91を間に挟んで隣り合う二つの転動体4と各々係合する一対の係合片部92とによりセパレータ9を構成し、かつ転動体4の中心を通る平面PNに対して互いに反対側となる位置に係合片部92を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直線運動する機械部品をその移動方向に案内するリニアガイド装置に関し、特に、案内レールとスライダとの間に組み込まれた各転動体の間にセパレータを有するリニアガイド装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械などの各種産業機械で用いられるリニアガイド装置は、一般に、案内レールとスライダとの間に組み込まれた多数の球状転動体が案内レールに対するスライダの相対的直線運動に伴って循環運動する構成となっているため、転動体の循環運動中に転動体同士の競合いが発生することがある。このような転動体同士の競合いは転動体を早期に摩耗させたり、騒音や振動を増大させたりする原因となるため、特許文献1や特許文献2に記載のリニアガイド装置では、図8に示すようなセパレータSを各転動体4の間に介在させて転動体同士の競合いを抑制するようにしている。
【特許文献1】特開2000−213538号公報
【特許文献2】特許第2607993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載のものでは、転動体4とセパレータSとの間に大きな隙間が発生するとセパレータSの倒れ現象が発生し、転動体4をスムーズに循環させることができなくなるため、セパレータの板厚等を厳しく管理してセパレータの倒れ現象が発生しないようにする必要がある。しかし、セパレータの板厚等を厳しく管理するためには、セパレータ等を精度よく製作しなければならないため、部品コストの増大を招くという問題があった。
【0004】
一方、特許文献2に記載のものでは、図8に示すように、各セパレータSが可撓性の連結部材Bで連結されているため、前述したセパレータの倒れ現象が発生することはほとんどない。しかしながら、連結部材Bを通すためのスペースを案内レールとスライダとの間に確保するためには、レール側転動体軌道溝やスライダ側転動体軌道溝の深さをある程度まで浅くしなければならないため、負荷容量の低下を招くという問題があった。
本発明は、このような問題点に着目してなされたものであり、部品コストの増大を招くことなく転動体同士の競合いを抑制することができ、かつ負荷容量を高くした状態で転動体を循環させることのできるリニアガイド装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、案内レールとスライダにそれぞれ形成された軌道溝の間に多数の球状転動体が組み込まれ、各球状転動体の間にはセパレータが介在され、前記スライダには転動体の戻し路通路が形成され、転動体が無限循環するような循環路が構成されたリニアガイド装置において、前記転動体の直径よりも外部寸法が小さい板状に形成されたセパレータ本体と、該セパレータ本体を間に挟んで隣り合う二つの前記転動体と各々係合する一対の係合片部とにより前記セパレータを構成し、前記軌道溝の中心線と前記戻し通路の中心線の両方を含む平面を平面PRと定義し、前記戻し通路の中心線を含み前記平面PRに垂直な平面を平面PNと定義したとき、前記一対の係合片部は、前記平面PNに対して互いに反対の側に位置するように配置されていることを特徴とする。
【0006】
請求項2に係る発明は、請求項1記載のリニアガイド装置において、前記セパレータが前記セパレータ本体の軸心方向から視て前記一対の係合片部の中心を通る平面に対して対称となっていることを特徴とする。
請求項3に係る発明は、請求項1又は2記載のリニアガイド装置において、前記一対の係合片部のうち一方の係合片部同士を可撓性の連結部材で連結したことを特徴とする。
【0007】
請求項4に係る発明は、請求項3記載のリニアガイド装置において、前記一対の係合片部のうち前記連結部材で連結された係合片部の厚さを他方の係合片部の厚さよりも浅くしたことを特徴とする。
請求項5に係る発明は、請求項3又は4記載のリニアガイド装置において、前記連結部材で連結された係合片部が前記転動体を方向転換させる方向転換路の内周側に位置するように前記セパレータを各転動体の間に設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る発明のリニアガイド装置によれば、転動体の直径よりも外形寸法が小さい板状に形成されたセパレータ本体と、該セパレータ本体を間に挟んで隣り合う二つの転動体と各々係合する一対の係合片部とによりセパレータを構成したことで、セパレータの倒れ現象を係合片部によって防止することができる。これにより、セパレータ等を精度よく製作しなくてもセパレータの倒れ現象を防止できるので、部品コストの増大を招くことなく転動体同士の競合いを抑制することができる。また、軌道溝の中心線と戻し通路の中心線の両方を含む平面を平面PRと定義し、戻し通路の中心線を含み平面PRに垂直な平面を平面PNと定義したとき、一対の係合片部が平面PNに対して互いに反対の側に位置するように配置されていることにより、転動体軌道溝の深さを深くしても案内レールとスライダとの間にセパレータを通すためのスペースを確保できるので、負荷容量を高くした状態で転動体を循環させることができる。
【0009】
請求項2に係る発明のリニアガイド装置によれば、前記セパレータが前記セパレータ本体の軸心方向から視て前記一対の係合片部の中心を通る平面に対して対称となっていることで、請求項1に係る発明の効果に加え、セパレータの表裏を気にすることなく案内レールとスライダとの間にセパレータを迅速かつ容易に組み込むことができる。また、案内レールとスライダとの間にセパレータを組み込む際に係合片部を二つの平面のうち一方の平面に対して対称となる位置に配置できるので、転動体軌道溝の深さを深くしても案内レールとスライダとの間にセパレータを通すための十分なスペースを確保することができる。
【0010】
請求項3に係る発明のリニアガイド装置によれば、一対の係合片部のうち一方の係合片部同士を可撓性の連結部材で連結したことで、多数のセパレータを1個の部品として取り扱うことができるので、請求項1又は2に係る発明の効果に加え、セパレータの在庫管理が容易となる。
請求項4に係る発明のリニアガイド装置によれば、一対の係合片部のうち連結部材で連結された係合片部の厚さを他方の係合片部の厚さよりも浅くしたことで、連結部材で連結された係合片部をエンドキャップの方向転換路で容易に撓ませることが可能となるので、請求項3に係る発明の効果に加え、セパレータを転動体と共にスムーズに循環させることができる。
【0011】
請求項5に係る発明のリニアガイド装置によれば、連結部材で連結された係合片部が転動体を方向転換させる方向転換路の内周側に位置するようにセパレータを各転動体の間に設けたことで、請求項3又は4に係る発明の効果に加え、方向転換路内でセパレータ本体が転動体と干渉することを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図1〜図7を参照して本発明の第1の実施形態について説明する。
図1において、符号1は本発明の第1の実施形態に係るリニアガイド装置を示し、このリニアガイド装置1は案内レール2、スライダ3および球状転動体(以下「転動体」と称す)4を備えている。ここで、案内レール2はその左右側面部に二条の転動体軌道溝5を有しており、これらの転動体軌道溝5は案内レール2の長手方向に沿って直線状に形成されている。
【0013】
スライダ3はその幅方向に沿う断面がコ字状に形成されており、このスライダ3の相対向する二つの内側側面部には、二条の転動体軌道溝5が転動体軌道溝5と各々対向して形成されている。
転動体4は前述した転動体軌道溝5,5間に組み込まれており、案内レール2に対するスライダ3の相対的直線運動に伴って転動体軌道溝5,5を転動するようになっている。なお、転動体軌道溝5,5を転動した転動体4はエンドキャップ6(図2参照)に形成された方向転換路7で方向転換した後、スライダ3に形成された転動体戻し通路8(図2参照)を通って循環運動するようになっている。
【0014】
図2は図1のII−II線に沿う断面図であり、同図に示すように、各転動体4の間には樹脂製のセパレータ9が設けられている。これらのセパレータ9は、図3に示すように、転動体4の直径よりも小さい直径で円板状に形成されたセパレータ本体91と、このセパレータ本体91を間に挟んで隣り合う二つの転動体4と各々係合する一対の係合片部92とからなり、セパレータ本体91の両端面には、転動体4と摺動自在に接触する凹状の球面部93が形成されている。
【0015】
ここで、軌道溝5,5の中心線と、戻し通路8の中心線の両方を含む平面を平面PRと定義する。また、戻し通路8の中心線を含み、平面PRに垂直な平面を平面PNと定義すると、2つの係合片部92は、図3(b)に示すように、平面PNに対して互いに別の側に位置するように配置されている。さらに、2つの係合片部92は、同一の形状にあり、平面PNからの距離が同一の位置に配置されている。つまり、平面PNから一方の係合片部92までの距離が平面PNから他方の係合片部92までの距離と等しくなるように、2つの係合片部92がセパレータ本体91に設けられている。
【0016】
上述した第1の実施形態では、転動体4より小さい直径で円板状に形成されたセパレータ本体91と、このセパレータ本体91を間に挟んで隣り合う二つの転動体4と各々係合する一対の係合片部92とによりセパレータ9を構成したことで、セパレータ9の倒れ現象を係合片部92によって防止することができる。これにより、セパレータ等を精度よく製作しなくてもセパレータの倒れ現象を防止できるので、部品コストの増大を招くことなく転動体同士の競合いを抑制することができる。
【0017】
また、平面PNに対して互いに別の側に位置するように2つの係合片部92を配置しているので、転動体軌道溝5,5の深さを深くしても案内レール2とスライダ3との間にセパレータ9を通すためのスペースを確保できるので、負荷容量を高くした状態で転動体4を循環させることができる。
さらに、2つの係合片部92は互いに同一の形状であり、平面PNからの距離が同一の位置に配置されているので、セパレータを180°回転した状態でも、セパレータを使用することができる。したがって、セパレータの向きを調整する作業の労力が軽減でき、容易な組み込みが可能である。
【0018】
図4及び図5は本発明の第2の実施形態を説明するための図であり、この第2の実施形態が第1の実施形態と異なる点は、セパレータ9の表裏を反転しても、反転前と同一の形状になるようにした点である。このような形状とするには、セパレータ本体91の軸心方向から視て一対の係合片部92の中心を通る平面に対してセパレータ9が対称の形状となるようにすればよい。
【0019】
このように、セパレータ9がセパレータ本体91の軸心方向から視て一対の係合片部92の中心を通る平面に対して対称となっていることで、セパレータ9の表裏を気にすることなく案内レール2とスライダ3との間にセパレータ9を迅速かつ容易に組み込むことができる。
また、第1の実施形態と同様に、平面PNに対して互いに別の側に位置するように2つの係合片部92を配置しているので、転動体軌道溝5,5の深さを深くしても案内レール2とスライダ3との間にセパレータ9を通すための十分なスペースを確保できる。
【0020】
図6及び図7は本発明の第3の実施形態を説明するための図であり、この第3の実施形態が第1及び第2の実施形態と異なる点は、一対の係合片部92のうち一方の係合片部同士を可撓性の連結部材10で連結するとともに、連結部材10で連結された係合片部92の厚さを非連結側の係合片部92の厚さよりも薄くし、かつ連結部材10で連結された係合片部92が転動体方向転換7の内周側に位置するようにセパレータ9を各転動体4の間に設けた点である。
【0021】
このように、一対の係合片部92のうち一方の係合片部同士を可撓性の連結部材10で連結したことで、多数のセパレータ9を1個の部品として取り扱うことができるので、セパレータの在庫管理が容易となる。
また、連結部材10で連結された係合片部92の厚さを非連結側の係合片部92の厚さよりも薄くしたことで、エンドキャップ6の方向転換路7で連結側の係合片部92を容易に撓ませることが可能となるので、セパレータ9を転動体4と共にスムーズに循環させることができる。
【0022】
さらに、上述した第3の実施形態では、図6(b)に示すように、連結部材10で連結された係合片部92がエンドキャップに形成された方向転換路7の内周側に位置しているため、連結部材10が円弧状に変形するに伴ってセパレータ本体91間の間隔が広くなるので、方向転換路7内でセパレータ本体91が転動体4と干渉することを防止することができる。
【0023】
なお、第1及び第2の実施形態ではセパレータ9のセパレータ本体91を転動体4の直径よりも小さい直径で円板状に形成したが、転動体の直径よりも外形寸法が小さい板状とすれば、同様の効果が得られる。例えば、図8に示す第3の実施形態のように、セパレータ本体91を転動体4の直径よりも小さい直径で円板状に近い形状に形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るリニアガイド装置の断面図である。
【図2】図1のII−II断面図である。
【図3】図1に示されるセパレータの詳細構成を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係るリニアガイド装置の断面図である。
【図5】図4に示されるセパレータの詳細構成を示す図である。
【図6】本発明の第3の実施形態を説明するための図で、(a)はリニアガイド装置の断面図、(b)は方向転換路でのセパレータの状態を示す図である。
【図7】図6に示されるセパレータの詳細構成を示す図である。
【図8】従来例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0025】
1 リニアガイド装置
2 案内レール
3 スライダ
4 球状転動体
,5 転動体軌道溝
6 エンドキャップ
7 方向転換路
8 転動体戻し通路
9 セパレータ
91 セパレータ本体
92 係合片部
93 球面部
10 連結部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
案内レールとスライダにそれぞれ形成された軌道溝の間に多数の球状転動体が組み込まれ、各球状転動体の間にはセパレータが介在され、前記スライダには転動体の戻し路通路が形成され、転動体が無限循環するような循環路が構成されたリニアガイド装置において、
前記転動体の直径よりも外形寸法が小さい板状に形成されたセパレータ本体と、該セパレータ本体を間に挟んで隣り合う二つの前記転動体と各々係合する一対の係合片部とにより前記セパレータを構成し、前記軌道溝の中心線と前記戻し通路の中心線の両方を含む平面を平面PRと定義し、前記戻し通路の中心線を含み前記平面PRに垂直な平面を平面PNと定義したとき、前記一対の係合片部は、前記平面PNに対して互いに反対の側に位置するように配置されていることを特徴とするリニアガイド装置。
【請求項2】
請求項1記載のリニアガイド装置において、前記セパレータは前記セパレータ本体の軸心方向から視て前記一対の係合片部の中心を通る平面に対して対称となっていることを特徴とするリニアガイド装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のリニアガイド装置において、前記一対の係合片部のうち一方の係合片部同士を可撓性の連結部材で連結したことを特徴とするリニアガイド装置。
【請求項4】
請求項3記載のリニアガイド装置において、前記一対の係合片部のうち前記連結部材で連結された係合片部の厚さを他方の係合片部の厚さよりも薄くしたことを特徴とするリニアガイド装置。
【請求項5】
請求項3又は4記載のリニアガイド装置において、前記連結部材で連結された係合片部が前記転動体を方向転換させる方向転換路の内周側に位置するように前記セパレータを各転動体の間に設けたことを特徴とするリニアガイド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−300164(P2006−300164A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−120898(P2005−120898)
【出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】