説明

リパーゼ阻害剤

【課題】連用しても副作用の恐れがない、効果的で安全性の高い、リパーゼ作用の活性阻害機能を有する化合物を開発し、肥満防止、あるいは高脂血症状抑制、又はプロピオニバクテリウムアクネスなどの皮膚常在菌が産生するリパーゼを阻害することによるニキビなどの皮膚疾患の予防あるいは治療に有効な当該化合物を含有するリパーゼ阻害剤、抗肥満剤、高脂血症改善剤、ニキビ用皮膚改善剤を提供すること。
【解決手段】チイサノサイド、11−デオキシイソチイサノサイド、イソチイサノサイドから選ばれる1種以上を含む医薬、リパーゼ阻害剤、脂質吸収阻害剤、抗肥満剤、高脂血症改善剤、ニキビ改善剤、食品、化粧料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、特に、リパーゼ阻害剤として有用な3,4-seco-lupane型トリテルペノイドサポニン化合物の用途に関する。さらに、本発明は、3,4-seco-lupane型トリテルペノイドサポニン化合物を含む、リパーゼ阻害剤に関し、更に詳しくは、生体内での脂質の消化吸収をにない肥満症、高脂血症の鍵を握る膵リパーゼを有効に阻害して肥満や高脂血症の抑制や予防に寄与し得ると共に、細菌性リパーゼに起因するニキビ、皮膚炎、ふけなどの皮膚疾患の予防、治療に有効な安全性の高いリパーゼ阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
3,4-seco-lupane型トリテルペノイドサポニンは、落葉性小低木であるウコギ科の、智異山ウコギ(Acanthopanax chiisanensis)、ケヤマウコギ(Acanthopanax divaricatus)及びAcanthopanax senticosus forma inermisの葉から抽出単離される化合物として、非特許文献1〜4に報告されている。また、リパーゼ阻害作用のような生理活性については、肝毒性予防作用、糖尿病予防作用などが、非特許文献5、6に報告されているに過ぎない。
【0003】
また、従来、からだの脂肪組織及び種々の臓器に異常な脂肪沈着を来し、その結果起こる肥満、あるいは血清脂質が異常に高い症状を示す高脂血症は、高血圧、動脈硬化、糖尿病などの各種生活習慣病の発症に密接に関与していると考えられている。肥満は、体質的因子、食餌性因子、精神的因子、中枢性因子、代謝性因子、運動不足などが要因となり、結果的にカロリー摂取が消費カロリーを上回り、脂肪が蓄積して起こると言われている。食餌中の脂質は、膵臓のリパーゼで分解されて小腸から吸収される。そこで脂質の吸収を抑制するべく、リパーゼ作用の活性阻害機能を有するリパーゼ阻害剤を用い、肥満を防止したり、あるいは高脂血症状を抑制することが可能であると考えられている。
【0004】
この様な観点から、特に日常的に摂取しうる種々の天然物由来の成分で、強いリパーゼ阻害活性を有する成分、すなわち脂質吸収抑制活性を有する天然成分の探索が精力的に行われている。これまでに、ホスファチジルコリン(非特許文献7)、大豆蛋白(非特許文献8、9)、タンニン(非特許文献10)、シャクヤク、オウレン、オウバク、ボタンピ、ゲンノショウコ、チャ、クジンなどの生薬の溶媒抽出エキス(特許文献1)、ピーマン、かぼちゃ、しめじ、まいたけ、ふじき、緑茶、紅茶及びウーロン茶の水抽出物(特許文献2)、ドッカツ、リョウキョウ、ビンロウシ、ヨウバイヒ、ケツメイシの抽出物(特許文献3)などがリパーゼ阻害活性を有するものとして報告されているが、物性や効果の面で需要性に乏しい。さらに、このような探索においては、原料中の含有量が多く、工業的生産に適した物質が期待されているが、これまでに条件を十分に満たす物質は未だ見出されていない。
【0005】
また、人体における細菌性リパーゼには、皮膚表層に常在する微生物(プロピオニバクテリウム アクネス:Propionibacterium acnes、ピティロスポラム オバール:Pityrosporum ovale、マイクロコッカス属:Micrococcus sp.など)が産生するリパーゼがあり、これらのリパーゼが皮脂中に含まれるトリグリセライドを分解し遊離脂肪酸を産生する。遊離脂肪酸は、皮膚に対して刺激性の炎症反応を起こし、ニキビ、皮膚炎、ふけなどの皮膚疾患の要因の一つとして考えられている。特に、ニキビの原因とされるプロピオニバクテリウム アクネスの菌数と産生する遊離脂肪酸量には相関関係があり、毛包壁に対して、刺激性の炎症反応とそれに伴う過角化、コメドの形成を引き起こすと考えられている(非特許文献11)。
【0006】
しかし、細菌性リパーゼを阻害して疾患を抑制または予防する薬剤の開発は未だあまり進められておらず、2-Pyridylmethyl-2-(p-(2-methylpropyl)-phenyl)propinate(慣用名:イブプロフェンピコノール)(非特許文献12)、テトラサイクリンおよび金属塩(特許文献4)や植物抽出物としてビワ葉抽出物(特許文献5)やコラ・デ・カバロ抽出物(特許文献6)などが報告されているが、他の配合成分との関係からリパーゼ阻害作用を発揮できなかったり、局所適用における安全性、有効性の点で必ずしも満足し得るものではない。
【0007】
本研究者はリパーゼ阻害剤について、鋭意研究を続けており、ウコギ科のヒメウコギから抽出したオレアナン型トリテルペノイドサポニンを有効成分とするリパーゼ阻害剤を特許出願した(特許文献7)。本発明は、さらに研究開発を続けた結果、新たにリパーゼ阻害作用を奏する化合物を開発したものである。
【0008】
【特許文献1】特開昭64−90131号公報
【特許文献2】特開平3−219872号公報
【特許文献3】特開平5−255100号公報
【特許文献4】特開昭59−186919号公報
【特許文献5】特開平10−265364号公報
【特許文献6】特開平11−228338号公報
【特許文献7】特開2004−43373号公報
【非特許文献1】D-R. Hahnら,Chem.Pharm.Bull.,32(3),1244-1247(1984)
【非特許文献2】S-Y. Parkら,Tetrahedron Lett.,42,2825-2828(2001)
【非特許文献3】K. Shirasunaら,Phytochemistry,45(3),579-584(1997)
【非特許文献4】S-Y. Parkら,J. Nat. Prod.,63,1630-1633(2000)
【非特許文献5】Kim C-J.ら,Yakhak Hoeji,24,123-134(1980)
【非特許文献6】Kim C-J.ら,Yakhak Hoeji,43,208-213(1999)
【非特許文献7】K.Tanigutiら、Bull.Facul. Agric. Meiji Univ. 73巻、9〜26頁(1986年)
【非特許文献8】K.Satouchiら、Agric. Biol. Chem. 38巻、97〜101頁(1974年)
【非特許文献9】K.Satouchiら、Agric. Biol. Chem. 40巻、889〜897頁(1976年)
【非特許文献10】S.Ahimuraら、日食工、41巻、561〜564頁(1994年)
【非特許文献11】McGinley, K, J.ら、J. Clin. Microbiol. 12巻、672〜675頁(1980年)
【非特許文献12】西日皮膚、47巻、5号、888〜898、899〜908頁(1985年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、連用しても副作用の恐れがない、効果的で安全性の高い、リパーゼ作用の活性阻害機能を有する化合物を開発し、肥満防止、あるいは高脂血症抑制、又はプロピオニバクテリウム アクネスなどの皮膚常在菌が産生するリパーゼを阻害することによるニキビなどの皮膚疾患の予防あるいは治療に有効な当該化合物を含有するリパーゼ阻害剤、抗肥満剤、高脂血症改善剤、ニキビ用皮膚改善剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究を進めた結果、マンシュウウコギから抽出単離される化合物である3,4-seco-lupane型トリテルペノイドサポニンがリパーゼ阻害活性を有する素材として医薬、食品、化粧品に使用できる性質を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明の主な構成は、次のとおりである。1.チイサノサイド、11−デオキシイソチイサノサイド、イソチイサノサイドから選ばれる1種以上を含む医薬。2.チイサノサイド、11−デオキシイソチイサノサイド、イソチイサノサイドから選ばれる1種以上を含むリパーゼ阻害剤。3.チイサノサイド、11−デオキシイソチイサノサイド、イソチイサノサイドから選ばれる1種以上を含む脂質吸収阻害剤。4.チイサノサイド、11−デオキシイソチイサノサイド、イソチイサノサイドから選ばれる1種以上を含む抗肥満剤。5.チイサノサイド、11−デオキシイソチイサノサイド、イソチイサノサイドから選ばれる1種以上を含む高脂血症改善剤。6.チイサノサイド、11−デオキシイソチイサノサイド、イソチイサノサイドから選ばれる1種以上を含むニキビ改善剤。7.チイサノサイド、11−デオキシイソチイサノサイド、イソチイサノサイドから選ばれる1種以上を含む食品。8.チイサノサイド、11−デオキシイソチイサノサイド、イソチイサノサイドから選ばれる1種以上を含む化粧料。
【発明の効果】
【0012】
本発明の化合物は、リパーゼ阻害活性を有し、医薬、食品、化粧料として使用できる。さらに、リパーゼ活性を強力に阻害することから、肥満や高脂血症の抑制や予防に寄与し得ると共に、細菌性リパーゼに起因するニキビや皮膚炎、ふけなどの皮膚疾患の予防、治療に有効である。このリパーゼ阻害剤は、長期に連用しても安全で効果的であるから、健康食品のような形態の食品としても提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
チイサノサイド(chiisanoside)は下記式(1)
【0014】
【化1】

(Rはα-L-rhamnopyranosyl(1→4)-β-D-glucopyranosyl(1→6)-β-D-glucopyranosyl残基を表わす)で示される化合物である。
【0015】
11−デオキシイソチイサノサイド(11-deoxyisochiisanoside)は下記式(2)
【0016】
【化2】

(Rはα-L-rhamnopyranosyl(1→4)-β-D-glucopyranosyl(1→6)-β-D-glucopyranosyl残基を表わす)で示さ
れる化合物である。
【0017】
イソチイサノサイド(isochiisanoside)は下記式(3)
【0018】
【化3】

(Rはα-L-rhamnopyranosyl(1→4)-β-D-glucopyranosyl(1→6)-β-D-glucopyranosyl残基を表わす)で示される化合物である。
【0019】
これらの化合物は、マンシュウウコギ(Acanthopanaxsessiliflorus)の葉を適当な溶媒で抽出し、その抽出溶媒より精製して得ることができる。マンシュウウコギは、ウコギ科の落葉低木で、中国では五加とよばれ、葉および根皮を乾燥させたものは、滋養強壮、鎮痛剤として腹痛、疲労回復、冷え症などに用いられているものである。抽出溶媒としては、水又は水と混和する有機溶媒の混合液、メタノール、エーテル、アセトン、アセトニトリル、n−ブタノール、酢酸エチル、クロロホルムなどを用いることができる。好適な例としては0〜30 重量%の含水エタノールが挙げられる。原料と抽出溶媒の割合は、1:0.5〜1:10(重量比)が望ましく、また抽出は常温、加圧、攪拌下で1〜10時間程度行うことが望ましい。ろ過により抽出液を得ることができるが、その際必要があればアンバーライトなどのろ過助剤を用いることもできる。
【0020】
こうして得られた抽出液は、減圧濃縮、凍結乾燥など通常の方法により濃縮する。本発明の化合物は水溶性であるがn−ブタノールで抽出される性質を有することから、この性質を利用して、次のような精製を行うことができる。抽出溶媒が水などの場合、濃縮する前にエーテル、石油エーテル、ヘキサン、クロロホルムなどの酢酸エチルより脂溶性の高い溶媒で洗浄し、余剰物を除くこともできる。抽出溶媒に有機溶媒が含まれる場合は、濃縮後、残渣を水に転溶し、エーテル、石油エーテル、ヘキサン、クロロホルムなどのn−ブタノールより脂溶性の高い溶媒で洗浄し、余剰物を除くことが望ましい。
【0021】
洗浄後の水溶液は減圧濃縮、凍結乾燥など通常の方法により濃縮し、そのまま分画精製に供するか、水溶液をn−ブタノールで抽出し、n−ブタノール画分を濃縮後、分画精製することにより、本発明の化合物を得ることもできる。分画精製の方法としては、順相クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィーなど通常の方法を用いることができるが、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた逆相クロマトグラフィーで分画することが望ましい。その際には、リパーゼ阻害活性を指標にして精製を進めることが望ましい。精製した画分は減圧濃縮、凍結乾燥など通常の方法により濃縮し、本発明の化合物を得ることができる。
【0022】
また、K.Shirasunaらの方法(Phytochemistry,45(3),579-584(1997))に従って、本発明の化合物を得ることもできる。
【0023】
すなわち、乾燥させたマンシュウウコギ(Acanthopanax sessiliflorus)の葉を熱メタノールを用いて抽出する。エバポレーターを用いてメタノールを留去する。残った抽出物を蒸留水を用いて懸濁した後に、ヘキサンを用いて脱脂する。その後水層を高極性多孔質樹脂DIAION HP-20(三菱化学社製)に供し、蒸留水、メタノール、3-ペンタノンを用いて順次溶出させ、これにより得られたメタノール画分を減圧濃縮、凍結乾燥など通常の方法により濃縮することにより、本発明の化合物を得ることができる。
【0024】
これらの本発明の化合物を含有する抽出物をそのままリパーゼ阻害剤、脂質吸収阻害剤、抗肥満剤、高脂血症改善剤、ニキビ用皮膚改善剤として用いても良く、さらに高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、シリカゲルカラムクロマトグラフィーなど慣用の精製手段を用いて精製したものを用いても良い。
【0025】
これらの本発明の化合物に、リパーゼ阻害活性のような生理活性を有することは、従来から全く知られておらず、本発明により得られた新知見である。
【0026】
本発明における化合物は、卓越したリパーゼ阻害活性を有しており、これらを含有する食品、医薬及び化粧料として、さらに、抗肥満剤、高脂血症改善剤、ニキビ用皮膚改善剤として使用可能である。
【0027】
本発明の化合物を、リパーゼ阻害剤、抗肥満剤、高脂血症改善剤、ニキビ用皮膚改善剤及びこれらを含有する食品、医薬及び化粧料として製造することができる。
【0028】
医薬としての適用方法は、経口投与又は非経口投与のいずれも採用することができる。投与に際しては、有効成分を経口投与、直腸内投与、注射などの投与方法に適した固体又は液体の医薬用無毒性担体と混合して、慣用の医薬製剤の形態で投与することができる。このような製剤としては、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤などの固形剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤などの液剤、凍結乾燥製剤などが挙げられ、これらの製剤は製剤上の常法手段により調製することができる。上記の医薬用無毒性担体としては、例えば、グルコース、乳糖、ショ糖、澱粉、マンニトール、デキストリン、脂肪酸グリセリド、ポリエチレングルコール、ヒドロキシエチルデンプン、エチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アミノ酸、ゼラチン、アルブミン、水、生理食塩水などが挙げられる。また、必要に応じて、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤、等張化剤などの慣用の添加剤を適宜添加することもできる。
【0029】
食品としては、そのまま、又は種々の栄養成分を加えて、若しくは飲食品中に含有せしめて、高脂血症あるいは肥満の治療及び予防に有用な保健用食品又は食品素材として食される。例えば、上述した適当な助剤を添加した後、慣用の手段を用いて、食用に適した形態、例えば、顆粒状、粒状、錠剤、カプセル、ペーストなどに成形して食用に供してもよく、また種々の食品、例えば、ハム、ソーセージなどの食肉加工食品、かまぼこ、ちくわなどの水産加工食品、パン、菓子、バター、粉乳、発酵乳製品に添加して使用したり、水、果汁、牛乳、清涼飲料などの飲料に添加して使用してもよい。
【0030】
本発明の化合物の有効投与量は、患者の年齢、体重、症状、患者の程度、投与経路、投与スケジュール、製剤形態、素材の阻害活性の強さなどにより、適宜選択・決定されるが、例えば、チイサノサイド、11−デオキシイソチイサノサイド、イソチイサノサイドを経口投与する場合、投与量は1日当たり0.001〜1000 mg/kg体重程度、、好ましくは1日当たり5〜300 mg/kg体重程度とされ、1日に数回に分けて投与してもよい。
【0031】
また、本発明の化合物を含有せしめて、化粧料または化粧料素材として使用する場合、例えば、イソチイサノサイドを小麦胚芽油あるいはオリーブ油に添加してリパーゼ阻害剤含有組成物とし、これを化粧料素材として使用することができる。本発明の化合物の添加量は、特に限定されるものではないが、一例としてあげると、小麦胚芽油あるいはオリーブ油の重量に対して0.1 重量%以上60 重量%以下、好ましくは、0.5 重量%以上50 重量%以下が適当である。
【0032】
さらに、直接、化粧料成分として使用し、リパーゼ阻害作用を有する化粧料を製造することができる。化粧料としては特に限定されるものではないが、機能面からは、例えば乳液、化粧液、フェイスクリーム、ハンドクリーム、ローション、エッセンス、シャンプー、リンスなどが好ましい。
【0033】
このような化粧料は、常法に従って製造することができる。化粧料における本発明の化合物の添加量は、特に限定されるものではないが、一例としてあげると、化粧料全重量の0.01 重量%以上20 重量%以下程度が適当である。
【0034】
本発明の化合物は、その毒性は低く、例えば、チイサノサイド(chiisanoside)を毎日1000 mg/kg、100 日間という長期間に亘ってラットに経口投与しても、死亡例は認められず、体重変化も観察されなかった。以下に実施例を挙げて、具体的に説明するが、これに限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
[各種サポニンの抽出] サポニンの抽出は、以下に示す方法に従って行った。
【0036】
すなわち、乾燥したマンシュウウコギ(Acanthopanax sessiliflorus)の葉10 kgを水80 Lを用いて90 ℃で1時間抽出した。得られた抽出液をエバポレーターを用いて60 ℃でBrix10になるまで濃縮した後、入口温度140 ℃、出口温度80 ℃にて噴霧乾燥することによりマンシュウウコギ葉熱水抽出物を2.2 kg得た。本抽出法による収率は、22 %(重量%)であった。
【0037】
次に、上述の操作により得たマンシュウウコギ葉熱水抽出物(1.64 kg)を、酢酸エチル、n-ブタノール及び水を用いて分配することにより、酢酸エチル可溶画分(21.27 g)、n-ブタノール可溶画分(263.93 g)、水画分(1373.94 g)を得た。酢酸エチル可溶画分(21.27 g)をShepadex LH-20カラムクロマトグラフィー(カラムサイズ:φ 4 cm× 20 cm)に供し、メタノールを用いて溶出し、18 個の画分を得、TLCにて溶出パターンを確認しながら4つの画分(S-1:9.69 g、S-2:5.69 g、S-3:4.63 g、S-4:0.25 g)に分けた。次にS-3 画分(4.63 g)をメタノールにて結晶化することにより、フラボノイドの一種であるヒペリン(hyperin)1.21 gを得た。さらに、得られたn-ブタノール可溶画分(28.34 g)をSephadex LH-20カラムクロマトグラフィー(カラムサイズ:φ 4 cm× 20 cm)に供し、メタノールにて溶出することにより33 個の画分を得、TLCにて溶出パターンを確認しながら4つの画分(A-1:14.11 g、A-2:2.08 g、A-3:0.73 g、A-4:0.20 g)に分けた。A-1 画分をさらにシリカゲル カラムクロマトグラフィー(カラムサイズ:φ 9.5 cm× 30 cm)に供し、クロロホルム:メタノール:水=75:25:3(v/v/v)混液にて溶出することにより117 個の画分を得、TLCにて溶出パターンを確認しながら3つの画分(B-1:0.23 g、B-2:2.93 g、B-3:6.64 g)に分けた。さらに、B-2 画分をODS カラムクロマトグラフィー(カラムサイズ:φ 5.5 cm× 30 cm)に供し、メタノール:水=55:45(v/v)混液にて溶出することにより73 個の画分を得、TLCにて溶出パターンを確認しながら39 個目から60 個目の画分を濃縮することによりチイサノサイド(chiisanoside)2.41 gを得た。
【0038】
続いて、B-3 画分をODS カラムクロマトグラフィー(カラムサイズ:φ 5.5 cm× 30 cm)に供し、メタノール:水=65:35(v/v)混液にて溶出することにより81 個の画分を得、TLCにて溶出パターンを確認しながら5つの画分(C-1:0.07 g、C-2:0.59 g、C-3:0.18 g、C-4:0.58 g、C-5:0.56 g)に分けた。C-4 画分から、11−デオキシイソチイサノサイド(11-deoxyisochiisanoside)0.58 gを得、C-2 画分をさらにODS カラムクロマトグラフィー(カラムサイズ:φ 5.5 cm× 30 cm)に供し、アセトニトリル:水=37.5:62.5(v/v)混液、メタノール:水=60:40(v/v)混液にて順次溶出することにより31 個の画分を得、TLCにて溶出パターンを確認しながら14 個目から16 個目の画分を濃縮することによりイソチイサノサイド(isochiisanoside)0.27 gを得た。
【0039】
得られた本発明の化合物の化学的特性を、以下に示す。
【0040】
[チイサノサイド(chiisanoside)]収率:3.76 %、白色粉末、[α]25D +2.2゜(c1.10)、IR νmax cm-1:3450(OH)、1755、1710(COOH)1640(C=C)、13C NMR:表1参照、1H NMR:表2、表3参照、HR-FAB-MS(positive)m/z:955.4879、TOF-MS m/z :977.6350 [M+Na]、979.6440 [M+K]
【0041】
[11−デオキシイソチイサノサイド(11-deoxyisochiisanoside)]収率:0.87 %、白色粉末、[α]25D-14.0゜(c0.50)、13C NMR:表1参照、1H NMR:表2、表3参照、HR-FAB-MS(positive)m/z:957.5043、TOF-MS m/z:979.6079 [M+Na]
【0042】
[イソチイサノサイド(isochiisanoside)]収率:0.41 %、白色粉末、[α]23D-5.55゜(c0.35)、IR νmax cm-1:3400(OH)、2800-2600、1730(COOH)、1710(COOH)、1640(C=C)、13C NMR:表1参照、1
H NMR:表2、表3参照。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【実施例2】
【0046】
薬理試験[リパーゼ阻害活性試験]{基質(10%大豆油/アラビアゴムエマルジョン)の調製} アラビアゴム1 gを約5 mlの蒸留水に溶かし、5 Lの蒸留水で一晩透析する。その後、透析チューブからアラビアゴムを20 mlメートルグラスに出し、共洗いをしながら、20 mlにする。また、大豆油1 gを50mlビーカーに秤り取る。これに、前述の5 %アラビアゴム10 mlを加え、スターラーでよく攪拌した。{銅混合液の調製} 6.45 % 硝酸銅(II)三水和物100 ml、1M トリエタノールアミン90 ml、1N 酢酸10 mlを加えて、銅混合液200 mlを調製した。{発色試薬(0.1%DEDC)の調製} N,N-ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム三水和物10 mgを、10 mlのブタノールに溶解させた。{阻害活性試験} リパーゼ阻害活性の測定は、K.Satouchiらの方法(Agric. Biol.Chem. 40巻、889〜897頁(1976年))に従い、Duncombe法により測定した。
【0047】
すなわち、0.5 M Tris-HCl (pH 7.4)緩衝液50 mlに、基質として10 %大豆油エマルジョン50 ml、5 mM 酢酸カルシウム100 ml、実施例1で得られたそれぞれのサポニンの各種濃度(1、0.75、0.5、0.25 mg/ml)の水溶液100 mlを加えた後、蒸留水を加えて450 mlとする。これを37 ℃、65 r.p.m.で5分間、プレインキュベーションした後、リパーゼ(シグマ社製、ブタ膵臓由来)(1 mg/ml)を50 ml加えて、37 ℃、125 r.p.m.で20 分間、インキュベートした。その後、クロロホルム3.5 mlを加え上層を除去し、残りの下層に銅混合液1.5 mlを加え、コンセントレーターで15 分間攪拌した後、上層を除去する。残りの下層に発色試薬(0.1 %DEDC)を0.5 ml加えた後、遊離した脂肪酸の量を440 nmでの吸光度を測定することにより、リパーゼ阻害活性を測定した。その結果を図1に示した。(なお、□はヒペリン、○はチイサノサイド、■は11−デオキシイソチイサノサイド、●はイソチイサノサイドを表わす)。
【0048】
図1からもわかるように、マンシュウウコギ葉熱水抽出物由来のフラボノイドであるヒペリン(hyperin)にリパーゼ阻害活性は認められなかったものの、本発明のサポニン、すなわち、チイサノサイド(chiisanoside)、11−デオキシイソチイサノサイド(11-deoxiisochiisanoside)、イソチイサノサイド(isochiisanoside)、に高いリパーゼ阻害活性を有することがわかる。
【実施例3】
【0049】
[脂肪吸収抑制試験] 脂肪吸収抑制試験は、L-K. Hanらの方法(J. Nutr.,130, 2760-2764,2000)を一部改変して行った。
【0050】
すなわち、4週齢の雄性SDラット(約80 g 体重)にコーン油(2 ml)、大豆レシチン(20 mg)、コール酸(80 mg)及び生理食塩水(2 ml)から成る脂質エマルジョン、あるいはこの脂質エマルジョンに、実施例1で得られたチイサノサイド(chiisanoside)(200 mg/kg)を加えた混液を経口投与し、経時的に血漿中性脂肪濃度を測定した。その結果を図2に示す。(なお、○はチイサノサイド(chiisanoside)無し、●はチイサノサイド(chiisanoside)有りを表わす)。
【0051】
図2からもわかるように、コーン油投与による血漿中性脂肪濃度の一過性の上昇が、チイサノサイド(chiisanoside)を投与することにより抑制されていることがわかる。
【実施例4】
【0052】
[溶血活性試験]
実験方法赤血球懸濁液の調製
ラットより採取した血液10mlにACD溶液0.5mlを加えて遠心分離(3000rpm、5min)を行い、赤血球を取り出した。遠心分離後、沈査に等張食塩水(8.9g/L)20mlを加えて遠心分離(3000rpm、5min)を行った。等張食塩水で2回洗浄した後、沈査に等張食塩水を加えて20mlにメスアップした。この赤血球懸濁液0.5mlに1%界面活性剤、TRITON:10g/L、4.5mlを加え撹拌し、遠心分離(3000rpm、5min)を行った。遠心分離後、上清を540nmでの吸光度を測定し、吸光度が0.8〜0.9になるように赤血球懸濁液を調製した。
溶血活性の測定
等張食塩水4.5mlに上記で調製した赤血球懸濁液0.5mlを加えゆっくり撹拌し、その後本発明のサポニンを加えてゆっくり撹拌し、インキュベーション(37℃、20min)した。次いで遠心分離(3000rpm、5min)を行い、得られた上清を540nmでの吸光度を測定した。なお、本試験では陽性対照群として大豆由来のサポニンを用いた。
結果
図3に示したように、陽性対照群としての大豆サポニンは濃度依存的に溶血活性を示し、200μg/mlでほぼ全ての赤血球が破壊された。
一方、本発明のサポニンである11-デオキシイソチイサノサイド、イソチイサノサイド、チイサノサイドは200μg/mlの濃度においても溶血活性はほとんど認められなかった。以上のことから、本発明のサポニンである11-デオキシイソチイサノサイド、イソチイサノサイド、チイサノサイドは溶血活性が弱いことがわかる。
【実施例5】
【0053】
[アミラーゼ活性阻害作用試験]
アミラーゼ活性の阻害作用は、Bernfeld. Pの方法(Methods Enzymol., 1, 147-158 (1955))に従って、3,5-ジニトロサリチル酸を用いて反応液中の還元糖の量を定量することにより行った。
すなわち、膵液10μgを酵素として用い、基質として澱粉2mgを用い、反応により生成した還元糖の量を535nmでの吸光度を測定することにより求めた。
なお、比較対照群として、一般的にタンパク質である酵素と水素結合することにより不溶化を起こすことで酵素活性を阻害することが知られているタンニン酸(Loomis, W. D., Methods Enzymol., 16, 528-544 (1974))を用いた。
結果
図4(A)に示したように、タンニン酸はアミラーゼ及びリパーゼの何れにおいても活性阻害作用を有することがわかるが、図4(B)に示したように、本発明のサポニンの一つであるチイサノサイドはリパーゼ活性は阻害するもののアミラーゼ活性は阻害しないことから、本発明のサポニンであるチイサノサイドはリパーゼ活性を特異的に阻害していることがわかる。
【実施例6】
【0054】
[マウスによる肥満抑制試験]
<有効成分高含有ウコギ葉エキス(SF)の調製>
有効成分高含有ウコギ葉エキス(SF)の調製は、ウコギ葉熱水抽出物(AE)を2種の吸着樹脂(HP-20、SP-825)カラムクロマトグラフィーを組み合わせることにより調製した。すなわち、AE15.3kgを30%エタノール76.5Lを加え、80℃で30分間、加温溶解させ、放冷後、珪藻土ろ過した。これをHP-20吸着樹脂15.3L(コンディショニング:30%エタノール)を充填せしめたカラムクロマトグラフィーに供し、非吸着画分、30%エタノール溶出画分、65%エタノール溶出画分及び90%エタノール溶出画分をそれぞれ集めた。次に、上記で得られた65%エタノール画分580gを60%エタノール5.8Lに溶解させ、SP-825吸着樹脂5Lを充填せしめたカラムクロマトグラフィー(コンディショニング:60%エタノール)に供し、非吸着画分、60%エタノール溶出画分及び90%エタノール溶出画分をそれぞれ集め、60%エタノール溶出画分をロータリーエバポレーターにて減圧濃縮乾固することによりSFを得た。
上記で得られたSF中の有効成分であるチイサノサイド、11-デオキシイソチイサノサイド、イソチイサノサイド及びセシロサイドの含有量を高速液体クロマトグラフィー質量分析計(HPLC-MS)により定量を行ったところ、それぞれ、42.57、2.58、1.21及び2.40%(重量%)であった。
<HPLC‐MS条件>
HPLC:HP-1100 series(Agilent Technologies)
MS:LCQ Advantage (Thermo-Finnigan)
カラム:TSK gel ODS-80Ts (Φ4.6mm×L75mm)
カラム温度:40℃
流速:500μL/分
注入量:10μL
検出:(UV)203nm
(MS)ESI positive(m/z 400-2000)、ESI negative (m/z 300-2000)
移動相:A;0.1%TFA/aq. B;0.1%TFA/MeCN
0-3 min A:B=75:25(v/v) 3-20 min A:B=75:25(v/v)→ A:B=40:60 (v/v)
20-30 min A:B=40:60 (v/v) post run 10min by A:B=75:25(v/v)
<肥満抑制試験>
肥満抑制試験は、K. Yoshizumiらの方法(Proceeding of International Joint Meeting on Food Factors and Free Radicals in Health & Disease, p.108, 2003)に従って行った。すなわち、マウスに普通食(脂肪:4.5%)、高脂肪食(脂肪:60%)あるいはこの高脂肪食にSFを0.5、1.0%添加したものを17日間摂取させ、2又は3日おきに体重及び摂餌量を測定した。
【0055】
図5に示すように、普通食に比べ高脂肪食を与えたマウスは、有意に体重が増加するが、高脂肪食にSFを混ぜた餌を摂餌したマウスでは、高脂肪食群に比べ体重の増加を抑制していることがわかる。
【0056】
以下に、本発明の有効成分を使用した処方例を記載する。
処方例1
[錠剤の製造]
実施例1で得られたチイサノサイド(chiisanoside)を用いて、常法に従って、下記の組成の錠剤を製造した。
(組 成) (配合:重量%)
チイサノサイド 24
乳糖 63
コーンスターチ 12
グァーガム 1
【0057】
処方例2
[ジュースの製造]
実施例1で得られたイソチイサノサイド(isochiisanoside)を用いて、常法に従って、下記の組成のジュースを製造した。
(組 成) (配合:重量%)
冷凍濃縮温州みかん果汁 5.0
果糖ブドウ糖液糖 11.0
クエン酸 0.2
L-アスコルビン酸 0.02
香料 0.2
色素 0.1
イソチイサノサイド 0.2
水 83.28
【0058】
処方例3
[フェイスクリームの製造]
実施例1で得られたチイサノサイド(chiisanoside)を用いて、常法に従って、下記の組成のフェイスクリームを製造した。
(組 成) (配合:重量%)
イソステアリン酸イソプロピル 8.0
ホホバ油 6.0
セタノール 8.0
ステアリルアルコール 2.0
ポリオキシエチレンラウリルエーテル 1.5
プロピレングリコール 6.0
ソルビトール 1.0
パラベン 0.4
チイサノサイド 0.5
ビタミンE 0.5
香料 0.1
精製水 66.0
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】□ヒペリンを比較試料とする、○チイサノサイド、■11−デオキシイソチイサノサイド、●イソチイサノサイドのリパーゼ阻害活性
【図2】ラットに○チイサノサイド(chiisanoside)を投与しない場合、●チイサノサイド(chiisanoside)を投与した場合の血漿中性脂肪濃度の比較
【図3】大豆サポニンを比較試料とする、チイサノサイド、11−デオキシイソチイサノサイド、イソチイサノサイドの溶血活性
【図4】タンニン酸(A)を比較試料とする、チイサノサイド(B)のアミラーゼ阻害活性
【図5】マウスによる有効成分高含有ウコギ葉エキスの肥満抑制試験

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チイサノサイド、11−デオキシイソチイサノサイド、イソチイサノサイドから選ばれる1種以上を含む医薬
【請求項2】
チイサノサイド、11−デオキシイソチイサノサイド、イソチイサノサイドから選ばれる1種以上を含むリパーゼ阻害剤。
【請求項3】
チイサノサイド、11−デオキシイソチイサノサイド、イソチイサノサイドから選ばれる1種以上を含む脂質吸収阻害剤。
【請求項4】
チイサノサイド、11−デオキシイソチイサノサイド、イソチイサノサイドから選ばれる1種以上を含む抗肥満剤。
【請求項5】
チイサノサイド、11−デオキシイソチイサノサイド、イソチイサノサイドから選ばれる1種以上を含む高脂血症改善剤。
【請求項6】
チイサノサイド、11−デオキシイソチイサノサイド、イソチイサノサイドから選ばれる1種以上を含むニキビ改善剤。
【請求項7】
チイサノサイド、11−デオキシイソチイサノサイド、イソチイサノサイドから選ばれる1種以上を含む食品。
【請求項8】
チイサノサイド、11−デオキシイソチイサノサイド、イソチイサノサイドから選ばれる1種以上を含む化粧料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−22095(P2006−22095A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−171561(P2005−171561)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【Fターム(参考)】