説明

レゾルバ信号処理装置および操舵装置

【課題】増幅手段への印加電圧が低下する場合でも回転角の検出精度の低下を抑制し得るレゾルバ信号処理装置および操舵装置を提供する。
【解決手段】レゾルバ信号処理装置として機能するECU40では、バッテリBの電源電圧Vbが閾値電圧Vp以下になると、ゲインGを電源電圧Vbの低減に応じて低減させることにより、モータ32のモータ回転角θmを検出するレゾルバ33に入力される励磁信号の振幅を、電源電圧Vbの低減に応じて低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転子の回転位置を検出するレゾルバを有するレゾルバ信号処理装置およびこれを用いた操舵装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、回転子の回転位置を検出するレゾルバを有するレゾルバ信号処理装置として下記特許文献1に開示される角度検出装置が知られている。この角度検出装置では、レゾルバから出力されてオペアンプにより増幅される2つの出力信号(レゾルバ信号)の振幅であるSIN相振幅およびCOS相振幅に基づいて回転角θが演算されると、SIN相振幅/sinθまたはCOS相振幅/cosθに基づいて信号振幅Rが演算される。そして、本来出力されるべき最大の信号振幅を上記信号振幅Rで除算した値に現在の励磁振幅の振幅を乗算して次回励磁振幅を演算し、この次回励磁振幅に応じた電圧をレゾルバに印加する。これにより、周囲の温度や励磁巻線の温度変化に起因する出力信号に対する励磁信号の比が一定になり、回転角の演算精度の低下を抑制している。
【特許文献1】特開2004−177273号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
図6は、従来例による励磁信号Sinとレゾルバ信号Soutとの関係の一例を示す波形図であり、図6(A)はオペアンプ電源電圧が後述する閾値電圧より大きい状態の波形図であり、図6(B)は、オペアンプ電源電圧が閾値電圧以下に低下した状態の波形図である。なお、図6に示すレゾルバ信号Soutは、正弦波相コイルから出力される正弦波信号を示している。
【0004】
ところで、増幅手段であるオペアンプは、印加される電圧に基づいて入力信号を増幅して出力するため、印加電圧(オペアンプ電源電圧)が何らかの原因で閾値電圧以下に低下してしまうと、オペアンプからの出力信号が飽和する場合があり、この場合、意図した信号(電圧)を出力できなくなるという問題がある。なお、このオペアンプからの出力信号が飽和する電圧を閾値電圧と定義する。
【0005】
例えば、車両の操舵を補助するモータの回転角を検出するレゾルバにおいて、励磁信号を増幅するオペアンプおよびレゾルバ信号を増幅するオペアンプに対してバッテリから供給されるオペアンプ電源電圧が閾値電圧より大きい場合(例えば、バッテリ電圧に等しい12Vである場合)には、図6(A)に示すように、増幅後の励磁信号Sinおよびレゾルバ信号Soutは、正弦波状に出力される。
【0006】
一方、急操舵等によりバッテリ電圧が一時的に低下し、オペアンプ電源電圧が閾値電圧以下に低下すると、図6(B)に示すように、増幅後の励磁信号Sinおよびレゾルバ信号Soutが飽和して正弦波状の信号が出力されない場合がある。このように励磁信号Sinおよびレゾルバ信号Soutが飽和してしまうと、正確な回転角を検出することができなくなり、モータにより操舵状況に応じたトルクを発生することが困難になるという問題がある。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、増幅手段への印加電圧が低下する場合でも回転角の検出精度の低下を抑制し得るレゾルバ信号処理装置および操舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、特許請求の範囲に記載の請求項1のレゾルバ信号処理装置では、入力される励磁信号(Sin)に基づいて回転子の回転角(θm)に応じたレゾルバ信号(Sout)を出力するレゾルバ(33)と、前記励磁信号を生成して出力する励磁手段(41,52)と、前記励磁手段からの前記励磁信号を増幅して前記レゾルバに入力する第1増幅手段(42a)と、前記レゾルバから出力される前記レゾルバ信号を増幅する第2増幅手段(42b,42c)と、前記第2増幅手段により増幅される前記レゾルバ信号に応じて前記回転角を演算する回転角演算手段(41,53)と、前記各信号を増幅するために前記第1増幅手段および前記第2増幅手段に印加される印加電圧(Vb)を検出する電圧検出手段(41,54)と、を備え、前記励磁手段は、前記電圧検出手段により検出される前記印加電圧が所定の閾値電圧(Vp)以下になると、この印加電圧に応じて前記励磁信号の振幅を低減することを技術的特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1のレゾルバ信号処理装置では、電圧検出手段により検出される第1増幅手段および第2増幅手段への印加電圧が所定の閾値電圧、例えば、増幅手段に印加されるとき当該増幅手段からの出力電圧が飽和すると判断される電圧以下になると、励磁手段によりレゾルバに入力される励磁信号の振幅が上記印加電圧に応じて低減される。
【0010】
このように、第1増幅手段および第2増幅手段への印加電圧が所定の閾値電圧以下になると、この印加電圧に応じて励磁信号の振幅を低減することにより、第1増幅手段から増幅して出力される励磁信号の飽和状態をなくすことができる。そして、励磁信号の振幅の低減に応じてレゾルバから出力されるレゾルバ信号の振幅が低減するので、第2増幅手段から増幅して出力されるレゾルバ信号の飽和状態をなくすことができる。特に、レゾルバ信号、具体的には、正弦波信号および余弦波信号の双方の振幅が同様に低減するので、両信号の振幅を低減してもこれら両信号の振幅に応じて検出される回転角の検出精度の低下は抑制される。
したがって、増幅手段への印加電圧が低下する場合でも回転角の検出精度の低下を抑制することができる。
【0011】
請求項2のレゾルバ信号処理装置では、励磁手段により励磁信号の振幅が低減される場合に、回転角演算手段により演算される回転角の振動成分を除去するフィルタ手段が設けられている。
【0012】
励磁手段により励磁信号の振幅が低減されると、レゾルバから出力されるレゾルバ信号の振幅も低減するので、レゾルバ信号に応じて演算される回転角が急変してしまう場合がある。そこで、励磁信号の振幅が低減される場合に回転角の振動成分を除去するフィルタ手段を設けることにより、回転角演算手段により演算される回転角の振動成分が除去される。これにより、励磁信号の振幅が低減される場合でも、回転角が急変することなく演算されるので、回転角の連続性を維持することができる。
【0013】
請求項3の操舵装置では、請求項1または2に記載のレゾルバ信号処理装置により操舵を補助するモータの回転角を演算し、この回転角に応じて当該モータを制御する。これにより、増幅手段への印加電圧が低下する場合でも回転角の検出精度の低下を抑制し得る等の請求項1または2の各発明による作用・効果を享受した操舵装置を実現することができる。したがって、急操舵等によりバッテリ電圧が一時的に低下する場合でもモータの回転角における検出精度の低下が抑制されるので、モータにより操舵状況に応じたトルクを発生し得る操舵装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について図を参照して説明する。まず、本実施形態に係るレゾルバ信号処理装置を採用する操舵装置10の構成を図を参照して説明する。図1(A)は、本実施形態に係る操舵装置10の構成を示す構成図であり、図1(B)は、ECU40等の構成例を示す回路ブロック図である。図2は、本実施形態に係るモータ32の制御処理に関する機能ブロック図である。
【0015】
図1(A)に示すように、操舵装置10は、主に、ステアリングホイール12、第1ステアリングシャフト14、第2ステアリングシャフト16、トルクセンサ18、ピニオンギヤ20、ラック軸22、ロッド24、伝達比可変装置30、ECU40等から構成されている。
【0016】
ステアリングホイール12は、第1ステアリングシャフト14に固定され、第1ステアリングシャフト14は伝達比可変装置30の入力側に接続されており、第2ステアリングシャフト16は伝達比可変装置30の出力側に接続されている。
【0017】
トルクセンサ18は、第1ステアリングシャフト14の途中に設けられる図略のトーションバーとこのトーションバーを挟むようにトーションバーの両端に取り付けられた2つのレゾルバとを備えている。このトルクセンサ18は、トーションバーの一端側を入力、他端側を出力とする入出力間で生じるトーションバーの捻れ量等を当該2つのレゾルバにより検出することで、ステアリングホイール12による操舵角θsや操舵トルクを検出する。そして、トルクセンサ18は、これら操舵角θsや操舵トルクに対応した検出信号を生成してECU40へ出力する。
【0018】
第2ステアリングシャフト16の先端のピニオンギヤ20は、ラック軸22に噛合しており、第2ステアリングシャフト16の回転運動がラック軸22の直線運動に変換されている。このラック軸22の両端にはロッド24が連結され、さらにこのロッド24の端部には図略のナックル等を介して操舵輪FR、FLが連結されている。これにより、第2ステアリングシャフト16が回転すると、ラック軸22、ロッド24等を介して操舵輪FR、FLの転舵角を変化させることができるので、第2ステアリングシャフト16の回転量および回転方向に従った操舵輪FR、FLの操舵を可能にしている。
【0019】
伝達比可変装置30は、第1ステアリングシャフト14および第2ステアリングシャフト16を連結する差動機構31と、この差動機構31を駆動するモータ32と、このモータ32のモータ回転角θmを検出可能なレゾルバ33とを備えている。モータ32は、ECU40に制御されることにより正逆回転し、差動機構31は、第1ステアリングシャフト14の回転を第2ステアリングシャフト16に伝達するとともに、モータ32の回転を減速し第2ステアリングシャフト16に伝達する。
【0020】
レゾルバ33は、1相励磁2相出力型のレゾルバであって、励磁コイルと正弦波相コイルおよび余弦波相コイルとを備えており、正弦波相コイルと余弦波相コイルとは互いに位相が90度ずれるように配置されている。そして、励磁コイルに所定の励磁信号が入力されると、正弦波相コイルおよび余弦波相コイルからモータ32のロータ(回転子)のモータ回転角θmに応じたレゾルバ信号である正弦波信号および余弦波信号が出力される。
【0021】
このように、伝達比可変装置30は、差動機構31に入力されたステアリング操作に伴う第1ステアリングシャフト14の回転に、モータ駆動による回転を上乗せして第2ステアリングシャフト16に伝達することにより、ラック軸22の回転を増速(又は減速)する。なお、この場合における「上乗せ」とは、加算する場合のみならず減算する場合をも含むものと定義し、以下同様とする。
【0022】
つまり、伝達比可変装置30は、ECU40に制御され、ステアリング操作に基づく操舵輪FR、FLの舵角にモータ駆動に基づく操舵輪FR、FLの舵角を上乗せすることにより、操舵角θsに対する操舵輪FR、FLの伝達比を可変させる。
【0023】
次に、モータ32の駆動制御を担うECU40の電気的構成を図1(B)に基づいて説明する。
図1(B)に示すように、ECU40は、主に、MPU41、I/F回路42、モータ駆動回路43等により構成されており、MPU41を中心に入出力バスを介してI/F回路42やモータ駆動回路43等が接続されている。なお、図1(B)に示す符号44は、モータ32に実際に流れるモータ電流値を検出し得る電流センサ44であり、この電流センサ44により検出されたモータ電流値に関するセンサ情報は、モータ電流値信号としてI/F回路42を介してMPU41に入力され得るように構成されている。なお、ECU40は、レゾルバ33とともに、特許請求の範囲に記載の「レゾルバ信号処理装置」の一例を構成する。
【0024】
MPU41は、例えば、マイコンやメモリ(ROM、RAM、EEPROM等)等から構成されており、伝達比可変装置30のモータ32の駆動制御を所定のコンピュータプログラムにより実行する機能を有するものである。なお、MPU41には、5V電源45により、バッテリBから供給される直流電圧12Vが5Vに降圧されて供給される(図2参照)。また、メモリには、上記所定のコンピュータプログラムや後述する電源電圧−ゲインマップ等が予め記憶されている。
【0025】
I/F回路42は、複数のオペアンプ(図2では、42a〜42cのみ記載)を備えており、レゾルバ33からのレゾルバ信号やトルクセンサ18および電流センサ44等からの検出信号を増幅してA/D変換器等を介してMPU41の所定ポートに出力する機能を有するとともに、MPU41からD/A変換器等を介して入力される励磁信号を増幅してレゾルバ33に出力する機能を有するものである。各オペアンプには、バッテリBから電源電圧Vbがオペアンプ電源電圧として供給されている(図2参照)。
【0026】
モータ駆動回路43は、バッテリBから供給される電力を制御可能な3相交流電力に変換する機能を有するもので、PWM回路とスイッチング回路等から構成されている。このモータ駆動回路43は、MPU41から入力される駆動信号に対応するモータ電圧をモータ32に供給する。
【0027】
これにより、ECU40では、後述するモータ駆動制御により、レゾルバ33のモータ回転角θmに対応するレゾルバ信号や、トルクセンサ18の操舵角θsに対応する検出信号、電流センサ44のモータ電流値に対応する検出信号等に基づいて、車両状態に適したステアリング特性が得られるようなモータ32の駆動制御がなされる。
【0028】
次に、以上のように構成されるECU40におけるモータ駆動制御の処理の概要を図2に基づいて説明する。
【0029】
図2に示すように、MPU41は、その内部のメモリに格納された所定のコンピュータプログラムを実行することにより、駆動信号生成部51と、励磁信号生成部52と、回転角演算部53と、電源電圧検出部54と、ゲイン設定部55と、フィルタ部56とを備えるモータ駆動制御手段として機能する。
【0030】
駆動信号生成部51では、入力されるモータ回転角θmや操舵角θs、モータ電流値等に基づいてモータ32を制御するための駆動信号が生成されて、モータ駆動回路43に出力される。なお、図2においては、便宜上、モータ回転角θmのみ駆動信号生成部51に入力されるように記載されているが、トルクセンサ18の操舵角θsに対応する検出信号、電流センサ44のモータ電流値に対応する検出信号等もI/F回路42等を介して駆動信号生成部51に入力される。
【0031】
励磁信号生成部52では、所定の正弦波状の励磁信号が生成されて出力される。この励磁信号は、乗算器57により後述するゲインGが乗算された後、D/A変換器等を介してI/F回路42のオペアンプ42aに入力される。なお、励磁信号生成部52は、特許請求の範囲に記載の「励磁手段」の一例に相当し、オペアンプ42aは、特許請求の範囲に記載の「第1増幅手段」の一例に相当する。
【0032】
回転角演算部53では、レゾルバ33からの正弦波信号および余弦波信号がI/F回路42のオペアンプ42b,42cにて増幅された後にA/D変換器等を介して入力され、これら正弦波信号および余弦波信号の振幅に基づいてモータ回転角θmが演算される。このモータ回転角θmは、フィルタ部56に出力される。なお、回転角演算部53は、特許請求の範囲に記載の「回転角演算手段」の一例に相当し、オペアンプ42b,42cは、特許請求の範囲に記載の「第2増幅手段」の一例に相当する。
【0033】
電源電圧検出部54では、バッテリBの電源電圧Vbが検出されてゲイン設定部55およびフィルタ部56に出力される。なお、電源電圧検出部54は、特許請求の範囲に記載の「電圧検出手段」の一例に相当する。
【0034】
ゲイン設定部55では、後述する電源電圧−ゲインマップに基づいてゲインGが設定されている。このゲインGは、上述した乗算器57に出力される。フィルタ部56では、回転角演算部53にて演算されたモータ回転角θmが、そのまま駆動信号生成部51に出力されるか、フィルタ処理されて駆動信号生成部51に出力される。上述のようなゲインGの設定処理およびモータ回転角θmのフィルタ処理については、以下に示す図3に示すフローチャートにて詳細に説明する。なお、フィルタ部56は、特許請求の範囲に記載の「フィルタ手段」の一例に相当する。
【0035】
以下、ECU40によるモータ駆動制御処理について、図3に示すフローチャートを用いて詳細に説明する。図3は、ECU40によるモータ駆動制御処理の流れを示すフローチャートである。図4は、モータ駆動制御処理に用いられる電源電圧−ゲインマップの一例を示す説明図である。
【0036】
まず、図3のステップS101にて電源電圧検出処理がなされて、電源電圧検出部54によりバッテリBの電源電圧Vbが検出されると、ステップS103にてゲイン設定処理がなされる。この処理では、ゲイン設定部55により、図4の電源電圧−ゲインマップに基づいて、電源電圧Vbに応じたゲインGが設定される。
【0037】
具体的には、図4に示すように、電源電圧Vbが、オペアンプに印加されるとき当該オペアンプからの出力電圧が飽和すると判断される電圧である閾値電圧Vpより大きい場合には、ゲインGは1に設定される。一方、電源電圧Vbが閾値電圧Vp以下の場合には、ゲインGは、電源電圧Vbが低減するほど、直線的に低減するように設定される。なお、本実施形態において、閾値電圧Vpは、例えば、7Vに設定されている。また、ゲインGは、例えば、電源電圧Vbが低減するほど、段階的に低減するように設定されてもよい。
【0038】
上述のようにゲインGが設定されると、ステップS105において、励磁信号出力処理がなされる。この処理では、励磁信号生成部52にて生成されて乗算器57にてゲインGが乗算された励磁信号が、D/A変換器等を介してI/F回路42のオペアンプ42aに出力される。ここで、ゲインGが1に設定されている場合には、励磁信号生成部52で生成された励磁信号は、そのままI/F回路42に出力されることとなる。一方、ゲインGが電源電圧Vbに応じて低減するように設定されている場合には、励磁信号生成部52で生成された励磁信号は、電源電圧Vbに応じてその振幅が低減されてI/F回路42に出力されることとなる。この励磁信号は、オペアンプ42aにて増幅されてレゾルバ33の励磁コイルに出力される。
【0039】
次に、ステップS107において、回転角演算処理がなされる。この処理では、回転角演算部53により、I/F回路42のオペアンプ42bおよびオペアンプ42cにて増幅された正弦波信号の振幅および余弦波信号の振幅に基づいて、モータ回転角θmが演算される。上記正弦波信号および余弦波信号は、レゾルバ33の励磁コイルに入力される励磁信号に応じて正弦波相コイルおよび余弦波相コイルから出力されるレゾルバ信号である。
【0040】
そして、ステップS109において、電源電圧Vbが閾値電圧Vp以下であるか否かについて判定される。ここで、電源電圧Vbが閾値電圧Vp以下である場合(S109でYes)、すなわち、励磁信号の振幅が低減されている場合には、ステップS111において、フィルタ処理がなされる。この処理では、フィルタ部56によりモータ回転角θmの振動成分が除去されて駆動信号生成部51に出力される。これにより、励磁信号の振幅の低減に応じてレゾルバ信号の振幅が低減される場合でも、モータ回転角θmが急変することなく演算されるので、モータ回転角θmの連続性を維持することができる。
【0041】
一方、電源電圧Vbが閾値電圧Vpより大きい場合には(S109でNo)、励磁信号の振幅は低減されていないので、ステップS111におけるフィルタ処理を実施することなくステップS113における処理がなされる。すなわち、フィルタ部56では、回転角演算部53にて演算されたモータ回転角θmが、そのまま駆動信号生成部51に出力される。
【0042】
そして、ステップS113において駆動信号生成処理がなされる。この処理では、駆動信号生成部51により、フィルタ処理されたモータ回転角θmおよびフィルタ処理されないモータ回転角θmのいずれかと、操舵角θs、モータ電流値等とに基づいて駆動信号が生成されて、モータ駆動回路43に出力される。これにより、モータ駆動回路43から駆動信号に対応するモータ電圧がモータ32に供給されて、車両状態に適したステアリング特性が得られることとなる。
【0043】
ここで、電源電圧Vbの低減に応じて励磁信号の振幅を低減させる効果について図5を用いて詳細に説明する。図5は、本発明による励磁信号Sinとレゾルバ信号Soutとの関係の一例を示す波形図であり、図5(A)はオペアンプ電源電圧が閾値電圧Vpより大きい状態の波形図であり、図5(B)は、オペアンプ電源電圧が閾値電圧Vp以下に低下した状態の波形図である。なお、図5に示すレゾルバ信号Soutは、正弦波相コイルから出力される正弦波信号を示している。
【0044】
励磁信号を増幅するオペアンプ42aおよびレゾルバ信号を増幅するオペアンプ42b,42cに対してバッテリBから供給されるオペアンプ電源電圧(電源電圧Vb)が閾値電圧Vpより大きい場合(例えば、バッテリ電圧に等しい12Vの場合)には、図5(A)に示すように、増幅後の励磁信号Sinおよびレゾルバ信号Soutは、正弦波状に出力される。
【0045】
一方、ステアリングホイール12による急操舵等によりバッテリBの電源電圧Vbが一時的に低下すると、オペアンプ電源電圧が閾値電圧Vp以下に低下する。このとき、上述のごとく、電源電圧Vbの低減に応じて励磁信号の振幅を低減することにより、オペアンプ42aから増幅して出力される励磁信号Sinの飽和状態をなくすことができる。そして、この励磁信号の振幅の低減に応じてレゾルバ33から出力される正弦波信号および余弦波信号の振幅が低減するので、オペアンプ42b,42cから増幅して出力される正弦波信号および余弦波信号(レゾルバ信号)の飽和状態をなくすことができる。
【0046】
これにより、図5(B)に示すように、増幅後の励磁信号Sinおよびレゾルバ信号Soutが飽和することなく正弦波状に出力されることとなる。
【0047】
以上説明したように、本実施形態に係るレゾルバ信号処理装置として機能するECU40では、バッテリBの電源電圧Vbが閾値電圧Vp以下になると、ゲインGを電源電圧Vbの低減に応じて低減させることにより、レゾルバ33に入力される励磁信号の振幅を、電源電圧Vbの低減に応じて低減する。
【0048】
これにより、I/F回路42への印加電圧が閾値電圧Vp以下になると、レゾルバ33から出力されるレゾルバ信号の振幅が低減するので、I/F回路42のオペアンプ42aから増幅して出力される励磁信号の飽和状態をなくすことができる。そして、励磁信号の振幅の低減に応じてレゾルバ33から出力されるレゾルバ信号の振幅が低減するので、I/F回路42のオペアンプ42b,42cから増幅して出力されるレゾルバ信号の飽和状態をなくすことができる。特に、正弦波信号および余弦波信号の双方の振幅が同様に低減するので、両信号の振幅を低減してもこれら両信号の振幅に応じて検出されるモータ回転角θmの検出精度の低下が抑制される。
したがって、I/F回路42の各オペアンプ42a〜42cへの印加電圧が低下する場合でもモータ回転角θmの検出精度の低下を抑制することができる。
【0049】
また、本実施形態に係るレゾルバ信号処理装置として機能するECU40では、励磁信号の振幅が低減される場合に、フィルタ部56により、モータ回転角θmの振動成分が除去される。これにより、励磁信号の振幅が低減される場合でも、モータ回転角θmが急変することなく演算されるので、モータ回転角θmの連続性を維持することができる。
【0050】
また、本実施形態に係る操舵装置10では、レゾルバ信号処理装置として機能するECU40およびレゾルバ33により、操舵を補助するモータ32のモータ回転角θmを演算し、このモータ回転角θmに応じて当該モータ32を制御する。これにより、I/F回路42の各オペアンプ42a〜42cへの印加電圧が低下する場合でもモータ回転角θmの検出精度の低下を抑制し得る等の作用・効果を享受した操舵装置10を実現することができる。したがって、急操舵等により電源電圧Vbが一時的に低下する場合でもモータ32のモータ回転角θmにおける検出精度の低下が抑制されるので、モータ32により操舵状況に応じたトルクを発生し得る操舵装置10を提供することができる。
【0051】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、以下のように具体化してもよく、その場合でも、上記実施形態と同等の作用・効果が得られる。
(1)上述したレゾルバ信号処理装置として機能するECU40は、伝達比可変装置30のモータ32のモータ回転角θmを検出するレゾルバ33に関する信号を処理することに限らず、例えば、アシストモータから出力されるアシスト力を減速機を介してピニオン軸に伝達し得る、いわゆるコラム式の電動式動力舵取装置におけるアシストモータのモータ回転角を検出するレゾルバに関する信号を処理してもよい。また、上記ECU40は、ラックアンドピニオンにアシストモータおよび減速機を内蔵し、このアシストモータから出力されるアシスト力を減速機を介してラック機構に伝達し得る、いわゆるラック式の電気式動力舵取装置におけるアシストモータのモータ回転角を検出するレゾルバに関する信号を処理してもよい。
【0052】
(2)上述したレゾルバ信号処理装置として機能するECU40は、レゾルバ33に関する信号を処理することに限らず、トルクセンサ18の2つのレゾルバに関する信号を、レゾルバ33と同様に処理してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1(A)は、本実施形態に係る操舵装置の構成を示す構成図であり、図1(B)は、ECU等の構成例を示す回路ブロック図である。
【図2】本実施形態に係るモータの制御処理に関する機能ブロック図である。
【図3】ECUによるモータ駆動制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】モータ駆動制御処理に用いられる電源電圧−ゲインマップの一例を示す説明図である。
【図5】本発明による励磁信号とレゾルバ信号との関係の一例を示す波形図であり、図5(A)はオペアンプ電源電圧が閾値電圧より大きい状態の波形図であり、図5(B)は、オペアンプ電源電圧が閾値電圧以下に低下した状態の波形図である。
【図6】従来例による励磁信号とレゾルバ信号との関係の一例を示す波形図であり、図6(A)はオペアンプ電源電圧が閾値電圧より大きい状態の波形図であり、図6(B)は、オペアンプ電源電圧が閾値電圧以下に低下した状態の波形図である。
【符号の説明】
【0054】
10…操舵装置
32…モータ
33…レゾルバ
40…ECU(レゾルバ信号処理装置)
41…MPU
42…I/F回路
42a…オペアンプ(第1増幅手段)
42b,42c…オペアンプ(第2増幅手段)
51…駆動信号生成部
52…励磁信号生成部(励磁手段)
53…回転角演算部(回転角演算手段)
54…電源電圧検出部(電圧検出手段)
55…ゲイン設定部
56…フィルタ部(フィルタ手段)
B…バッテリ
Sin…励磁信号
Sout…レゾルバ信号
Vb…電源電圧(印加電圧)
Vp…閾値電圧
θm…モータ回転角(回転角)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力される励磁信号に基づいて回転子の回転角に応じたレゾルバ信号を出力するレゾルバと、
前記励磁信号を生成して出力する励磁手段と、
前記励磁手段からの前記励磁信号を増幅して前記レゾルバに入力する第1増幅手段と、
前記レゾルバから出力される前記レゾルバ信号を増幅する第2増幅手段と、
前記第2増幅手段により増幅される前記レゾルバ信号に応じて前記回転角を演算する回転角演算手段と、
前記各信号を増幅するために前記第1増幅手段および前記第2増幅手段に印加される印加電圧を検出する電圧検出手段と、
を備え、
前記励磁手段は、前記電圧検出手段により検出される前記印加電圧が所定の閾値電圧以下になると、この印加電圧に応じて前記励磁信号の振幅を低減することを特徴とするレゾルバ信号処理装置。
【請求項2】
前記励磁手段により前記励磁信号の振幅が低減される場合に、前記回転角演算手段により演算される前記回転角の振動成分を除去するフィルタ手段を備えることを特徴とする請求項1に記載のレゾルバ信号処理装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のレゾルバ信号処理装置により操舵を補助するモータの回転角を演算し、この回転角に応じて当該モータを制御すること特徴とする操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−101763(P2010−101763A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273778(P2008−273778)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】