説明

レンジ切換装置の制御装置

【課題】位置によってシフトレンジを切換えるマニュアルバルブが中間位置に停止してしまうような場合でも、できるだけフェールセーフ状態に移行することなく、自動的に正確なレンジ位置に移動させるレンジ切換装置の制御装置を提供する。
【解決手段】停止検知手段が、マニュアルバルブの位置θmsを検出する位置センサの検出に基づき、例えばマニュアルバルブの速度が所定速度以下となった際に、該マニュアルバルブが停止することを検知し、中間停止判定手段が、該マニュアルバルブが停止する位置がレンジ位置間の中間位置であるか否かを判定する。そして、中間位置に停止してしまうことを判定した際は、トルク再付与制御手段が、モータのコギングトルクの最大負荷トルクよりも所定量大きい再付与トルクTmrを出力するようにモータを駆動制御し、該マニュアルバルブの移動を付勢する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車輌等に搭載される自動変速機やハイブリッド駆動装置などの動力伝達装置のシフトレンジを切換えるレンジ切換装置の制御装置に係り、詳しくは、例えばシフトレバー等の操作手段からの指令に基づきモータを駆動制御し、シフトレンジを切換えるレンジ切換部材を移動駆動するレンジ切換装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば車輌等に搭載される自動変速機にあっては、該自動変速機の油圧制御装置におけるシフトレンジ(例えば、Pレンジ、Rレンジ、Nレンジ、Dレンジ)をその位置によって切換えるレンジ切換部材(以下、「マニュアルバルブ」ともいう)が備えられており、このマニュアルバルブは、運転席近傍に設けられたシフトレバーにロッド機構等を介して接続されて、つまりシフトレバーの移動操作によって機械的に位置が切換えられるように構成されていた。
【0003】
また、近年、車輌における設計の自由度の向上やコンパクト化等を図るため、シフトレバーの操作を電気信号に変換し、その電気信号に基づきモータを駆動制御して、その駆動力によりマニュアルバルブの位置を移動駆動するレンジ切換装置、いわゆるシフトバイワイヤ(SBW)システムの開発が進められている。
【0004】
ところで、このようなレンジ切換装置においては、例えば車輌が極寒地にあって、モータの駆動力をマニュアルバルブまで伝達する機構部分の潤滑油が低温となった場合など、機構部分の摺動抵抗が増すと、常温等と同様のモータ駆動を行っても、マニュアルシャフトが移動すべきレンジ位置まで移動せず、中間位置に停止してしまう虞がある。また、このような中間位置にマニュアルシャフトが停止した状態にあっては、移動すべきレンジ位置とその停止位置との偏差に基づきモータのトルクを算出し、該算出されたトルクをモータで再付与しても、例えば移動距離が僅かになったことなどに起因して(つまり偏差が小さく)、算出されたトルクが小さくなるため、実際にはマニュアルシャフトが移動せず、更にはそのモータトルクの再付与が行われ続ける、いわゆるハンチング状態となってしまう虞がある。
【0005】
そこで、このようなマニュアルシャフトが中間位置に停止した際に上記ハンチングを防ぐこと図ったものが提案されている(特許文献1参照)。このものは、マニュアルバルブが中間位置で停止した場合に、フェールセーフ状態とし、例えば運転者が非常スイッチを操作した際に、一時的にモータトルクを通常よりも大きくすることで、中間位置に停止したマニュアルバルブの動き出しを可能にしている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−161369号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記一時的にモータトルクを大きくするものは、マニュアルバルブが中間位置に停止してしまった状態から抜け出すことが可能となるものであるが、大きなトルクでマニュアルシャフトを動かすためにオーバーシュートする虞があり、そのため、フェールセーフ状態として非常スイッチを操作させる必要性が生じてしまうという問題がある。そのため、マニュアルバルブが中間位置に停止してしまうような場合でも、できるだけフェールセーフ状態に移行する必要性をなくし、自動的に、かつ正確なレンジ位置に該マニュアルバルブを移動し得るものの開発が望まれていた。
【0008】
そこで本発明は、レンジ切換部材が停止する位置が中間位置であることを判定した際に、再付与トルクを出力するようにモータを駆動制御し得るように構成し、もって上記課題を解決したレンジ切換装置の制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る本発明は(例えば図1乃至図10参照)、走行レンジを選択指令し得る操作手段(2)と、モータ(4)と、複数のレンジ位置(例えばθ,θ,θ,θ)に切換えられることに基づき動力伝達装置(12)のシフトレンジ(例えばP,R,N,D)を切換えるレンジ切換部材(7)と、前記モータ(4)の回転駆動によって前記レンジ切換部材(7)の位置を移動駆動する駆動機構(3)と、前記操作手段(2)の指令に基づき前記モータ(4)を駆動制御するモータ制御手段(111,130)と、を備えたレンジ切換装置(1)の制御装置(100)において、
前記レンジ切換部材(7)の位置(例えばθ)を検出する位置検出手段(8,112)と、
前記位置検出手段(8,112)の検出に基づき、前記レンジ切換部材(7)が停止することを検知する停止検知手段(113)と、
前記停止検知手段(113)により前記レンジ切換部材(7)が停止することを検知した際に、該レンジ切換部材(7)が停止する位置が、前記レンジ位置(例えばθ,θ,θ,θ)間の中間位置であることを判定する中間停止判定手段(117)と、
前記中間停止判定手段(117)により前記レンジ切換部材(7)が前記レンジ位置間の中間位置に停止することを判定した際に、再付与トルク(Tmr)を出力するように前記モータ(4)を駆動制御するトルク再付与制御手段(118)と、を備えた、
ことを特徴とするレンジ切換装置の制御装置(100)にある。
【0010】
請求項2に係る本発明は(例えば図4及び図8参照)、前記再付与トルク(Tmr)が、前記モータ(4)のコギングトルク(Tc)の最大負荷トルク(−Tcmax)よりも所定量大きく出力されるように前記モータ(4)を駆動制御してなる、
請求項1記載のレンジ切換装置の制御装置(100)にある。
【0011】
請求項3に係る本発明は(例えば図4及び図9参照)、前記トルク再付与制御手段(118)は、前記中間停止判定手段(117)により前記レンジ切換部材(7)が前記レンジ位置間の中間位置に停止することを判定した際の前記レンジ切換部材(7)の位置に応じて、前記モータ(4)が前記再付与トルク(Tmr)を出力する再付与時間(例えばtdb,tdc)を設定する再付与時間設定手段(119)を有してなる、
請求項1または2記載のレンジ切換装置の制御装置(100)にある。
【0012】
請求項4に係る本発明は(例えば図4及び図9参照)、前記停止検知手段(113)は、
前記位置検出手段(112)の検出に基づき、前記レンジ切換部材(7)の移動速度(ω)が所定速度(ωa)以下であることを検出する速度低下検出手段(114)と、
前記速度低下検出手段(114)により検出した、前記レンジ切換部材(7)の移動速度(ω)が所定速度(ωa)以下である状態が設定時間(tv)以上継続したことを判定する速度低下時間判定手段(115)と、を有し、
前記速度低下時間判定手段(115)により前記レンジ切換部材(7)の所定速度(ωa)以下の状態が前記設定時間(tv)以上継続したことを判定した際に、前記レンジ切換部材(7)が停止することを検知してなる、
請求項1ないし3のいずれか記載のレンジ切換装置の制御装置(100)にある。
【0013】
請求項5に係る本発明は(例えば図4及び図9参照)、前記速度低下時間判定手段(115)は、前記速度低下検出手段(114)により前記所定速度(ωa)以下を検出した際の前記レンジ切換部材(7)の位置(例えばPa,Pb,Pc)が、前記レンジ位置(例えばθ,θ,θ,θ)から遠い程、前記設定時間(例えばtva,tvb,tvc)を短く設定してなる、
請求項4記載のレンジ切換装置の制御装置(100)にある。
【0014】
請求項6に係る本発明は(例えば図4乃至図7参照)、前記トルク再付与制御手段(118)による前記モータ(4)の前記再付与トルク(Tmr)を出力した回数をカウントする再付与回数カウント手段(120)と、
前記再付与回数カウント手段(120)によるカウント回数が所定回数に達した際に、フェール状態として判定する回数フェール判定手段(126)と、を備えてなる、
請求項1ないし5のいずれか記載のレンジ切換装置の制御装置(100)にある。
【0015】
請求項7に係る本発明は(例えば図4乃至図7参照)、前記停止検知手段(113)により前記レンジ切換部材(7)が停止することを検知する毎に、前記レンジ切換部材(7)が停止する位置を記録する停止位置記録手段(121)と、
前記停止位置記録手段(121)により記録された、前記トルク再付与制御手段(118)による前記モータ(4)の前記再付与トルク(Tmr)の出力前の停止位置と出力後の停止位置との移動距離が所定移動距離以内であることを判定する移動微小判定手段(122)と、
前記移動微小判定手段(122)により前記再付与トルク(Tmr)の出力前後の停止位置の移動距離が所定移動距離以内であることを判定した際に、前記出力後の停止位置が前記レンジ位置(例えばθ,θ,θ,θ)に対する所定距離以内の位置であることを判定する誤差許容判定手段(123)と、
前記誤差許容判定手段(123)により前記出力後の停止位置が前記レンジ位置(例えばθ,θ,θ,θ)に対する所定距離以内の位置であることを判定した際に、前記出力前後の停止位置に基づき前記レンジ位置(例えばθ,θ,θ,θ)を学習するレンジ位置学習手段(124)と、を備えた、
請求項1ないし6のいずれか記載のレンジ切換装置の制御装置(100)にある。
【0016】
請求項8に係る本発明は(例えば図4乃至図7参照)、前記誤差許容判定手段(123)により前記出力後の停止位置が前記レンジ位置(例えばθ,θ,θ,θ)に対する所定距離以内の位置でないことを判定した際に、フェール状態として判定する非移動フェール判定手段(127)を備えた、
請求項7記載のレンジ切換装置の制御装置にある。
【0017】
請求項9に係る本発明は(例えば図1及び図2参照)、前記駆動機構(3)は、前記レンジ切換部材(7)に接続されると共に前記モータ(4)の回転駆動により回動され、かつ前記レンジ切換部材(7)の前記複数のレンジ位置(例えばθ,θ,θ,θ)に対応する複数の係合溝(a,c,e,g)が形成されたディテントレバー(40)と、前記複数の係合溝(a,c,e,g)に向けて付勢されて係合し得るディテントスプリング(41)と、からなるディテント機構(9)を有してなる、
請求項1ないし8のいずれか記載のレンジ切換装置の制御装置(100)にある。
【0018】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これは、発明の理解を容易にするための便宜的なものであり、特許請求の範囲の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に係る本発明によると、停止検知手段によりレンジ切換部材が停止することを検知した際に、中間停止判定手段が該レンジ切換部材が停止する位置がレンジ位置間の中間位置であることを判定すると、トルク再付与制御手段が再付与トルクを出力するようにモータを駆動制御するので、レンジ切換部材がレンジ位置間の中間位置に停止してしまう場合にあって、自動的にモータにより再付与トルクを与えてレンジ切換部材を付勢することができ、フェールセーフ状態に移行する頻度を低減することができて、自動的に正確なレンジ位置にレンジ切換部材を移動することを可能とすることができる。
【0020】
請求項2に係る本発明によると、トルク再付与制御手段が、再付与トルクがモータのコギングトルクの最大負荷トルクよりも所定量大きく出力されるようにモータを駆動制御するので、レンジ切換部材がレンジ位置間の中間位置に停止してしまう場合にあって、モータのコギングトルクによる負荷によってハンチング状態になることを防ぐことができ、フェールセーフ状態に移行する頻度を低減することができて、自動的に正確なレンジ位置にレンジ切換部材を移動することを可能とすることができる。
【0021】
請求項3に係る本発明によると、再付与時間設定手段が、中間停止判定手段によりレンジ切換部材がレンジ位置間の中間位置に停止することを判定した際のレンジ切換部材の位置に応じて、モータが再付与トルクを出力する再付与時間を設定するので、正確なレンジ位置にレンジ切換部材を移動することを可能とすることができる。
【0022】
請求項4に係る本発明によると、速度低下時間判定手段が、レンジ切換部材の所定速度以下の状態が設定時間以上継続したことを判定した際に、レンジ切換部材が停止することを検知するので、レンジ切換部材が完全に停止してしまう前にモータによる再付与トルクの出力を行うことを可能とすることができる。
【0023】
請求項5に係る本発明によると、速度低下時間判定手段が、速度低下検出手段が所定速度以下を検出した際のレンジ切換部材の位置が、レンジ位置から遠い程、設定時間を短く設定するので、レンジ切換部材の位置がレンジ位置から遠くて駆動力の補助が早めに必要な場合ほど、迅速にモータによる再付与トルクの出力を行うことができる。
【0024】
請求項6に係る本発明によると、回数フェール判定手段が、再付与回数カウント手段による再付与トルクを出力した回数が所定回数に達した際に、フェール状態として判定するので、例えばレンジ切換装置自体の故障であっても該故障を検出することができ、故障が起きているにも拘らず再付与トルクを出力し続けるようなハンチング状態となることを防止することができる。
【0025】
請求項7に係る本発明によると、停止位置記録手段が、停止検知手段によりレンジ切換部材が停止することを検知する毎にレンジ切換部材が停止する位置を記録し、移動微小判定手段が、停止位置記録手段により記録されたトルク再付与制御手段によるモータの再付与トルクの出力前の停止位置と出力後の停止位置との移動距離が所定移動距離以内であるか否かを判定し、誤差許容判定手段が、移動微小判定手段により再付与トルクの出力前後の停止位置の移動距離が所定移動距離以内であることを判定した際に、出力後の停止位置がレンジ位置に対する所定距離以内の位置であるか否かを判定し、レンジ位置学習手段が、誤差許容判定手段により出力後の停止位置がレンジ位置に対する所定距離以内の位置であることを判定した際に、出力前後の停止位置に基づきレンジ位置を学習するので、例えばレンジ切換装置における製品誤差等があっても、正確なレンジ位置を学習することができ、正確なレンジ位置にレンジ切換部材を移動することを可能とすることができる。また、再付与トルクの出力後の停止位置がレンジ位置に対する所定距離以内の位置でない場合は、レンジ位置の学習を行わないので、例えば故障等で停止しているレンジ切換部材の誤った停止位置をレンジ位置して学習してしまうことを防ぐことができる。
【0026】
請求項8に係る本発明によると、非移動フェール判定手段が、誤差許容判定手段により出力後の停止位置がレンジ位置に対する所定距離以内の位置でないことを判定した際にフェール状態として判定するので、つまりレンジ切換部材の移動が所定移動距離以内である微小な移動であって、かつレンジ位置から所定距離以内の位置でない状態を、例えばレンジ切換部材故障等で停止しているとして判定することができ、故障が起きているにも拘らず再付与トルクを出力し続けるようなハンチング状態となることを防止することができる。
【0027】
請求項9に係る本発明によると、駆動機構は、レンジ切換部材に接続されると共にモータの回転駆動により回動され、かつレンジ切換部材の複数のレンジ位置に対応する複数の係合溝が形成されたディテントレバーと、複数の係合溝に向けて付勢されて係合し得るディテントスプリングと、からなるディテント機構を有しているので、レンジ切換部材が中間位置で停止してしまう状態であっても、モータのコギングトルクよりも大きな再付与トルクを出力するだけで、ディテントスプリングの付勢力に加わる補助的な付勢となり得て、それにより、レンジ切換部材をレンジ位置まで移動することを可能とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の一実施形態である自動変速機12のレンジ切換装置1について、図1乃至図3に沿って説明する。レンジ切換装置1は、シフトレバー(操作手段)2を操作して、自動変速機12にPレンジ、Rレンジ、Nレンジ、Dレンジの4段階のシフトレンジを設定しているが、本発明は、例えばシフトスイッチ型の入力装置やボタンスイッチ等を操作して、3段階以下または5段階以上のシフトレンジを設定する実施形態にも利用可能である。
【0029】
図1に示すように、本実施の形態に係るレンジ切換装置1は、例えば車輌に搭載される動力伝達装置としての自動変速機(例えば多段自動変速機や無段変速機(CVT))12に用いられるものであって、例えば運転者がシフトレンジ(P,R,N,D)を選択指令し得る操作手段としてのシフトレバー2と、シフトレバー2からの電気信号(シフト信号)S1に基づき、主にモータ4を駆動制御することでシフトレンジを切換える制御を行うレンジ切換制御部(レンジ切換装置の制御装置)100と、該レンジ切換制御部100の制御指令に基づき駆動されるモータ4と、複数のレンジ位置で該レンジ位置に応じたシフトレンジ(P,R,N,D)を自動変速機12の油圧制御装置11に対して設定するスプールであるマニュアルバルブ(レンジ切換部材)7と、該モータ4の駆動によって該マニュアルバルブ7の位置を移動駆動する駆動機構3とを備えて構成されている。また、詳しくは後述するレンジ切換制御部100には、該レンジ切換制御部100からの許可信号を受けて自動変速機12の変速制御(例えばクラッチやブレーキの係合制御)を行うA/T制御部12aが接続されている。
【0030】
上記シフトレバー2は、運転者が自ら操作して自動変速機12に設定したい要求レンジを選択するレバーである。シフトレバー2には、自動変速機12のP(パーキング)レンジ、R(リバース)レンジ、N(ニュートラル)レンジ、D(ドライブ)レンジの各変速モードが表示されている。そして、切換設定された要求レンジに対応するシフト信号S1を詳しくは後述するレンジ切換制御部100へ入力する。
【0031】
なお、シフトレバー2は、運転者の意思を反映することができるもの、すなわち運転者によって選択された要求レンジに対応するシフト信号S1を発生させることができるものであれば、シフトレバー2以外のものに置き換えてもよい。例えば、シフトスイッチ、シフトボタン、音声入力装置等を使用することができる
【0032】
上記駆動機構3は、詳しくは後述するモータ4の回転運動を直線運動に変換するボールねじ機構5と、ボールねじ機構5の直線運動を揺動運動に変換するアーム部材6(図2参照)と、アーム部材6の揺動運動によって回動駆動されるマニュアルシャフト34と、該マニュアルシャフト34に固定・連結されたディテントレバー40とディテントレバー40をシフトレンジに対応した角度に付勢するディテントスプリング41とを有するディテント機構9と、を備えて構成されており、該ディテント機構9のディテントレバー40に、上記マニュアルバルブ7が接続されている。また、マニュアルシャフト34の端部には、該マニュアルシャフト34の角度を検出することでマニュアルバルブ7の位置を検出する位置センサ(位置検出手段)8が備えられている。
【0033】
該駆動機構3は、詳細には、図2に示すように、自動変速機12に固定されるケース部材10を備えており、該ケース部材10外側に、その出力軸をケース部材10内に挿入するようにして、モータ4が取り付けられている。また、該ケース部材10内には、マニュアルシャフト34の駆動を行うボールねじ機構5及びアーム部材6や位置センサ8等が格納されており、該ケース部材10から突出したマニュアルシャフト34が該ケース部材10の外部に配置されたディテントレバー40を回動し、マニュアルシャフト7を軸方向に移動させるように構成されている。なお、本実施の形態のモータ4としては、永久磁石を有する直流モータが使用されている。また、ケース部材10には、図示を省略したコントロールユニットケースが固着されており、該コントロールユニットケース内に、レンジ切換制御部100と、モータ制御回路4a(図4参照)とを格納している。
【0034】
上記モータ4の出力軸には、出力ギア26が固定されており、該出力ギヤ26からギア25へ伝達されてボールねじ軸21を回転させる。本実施形態では、ギア25の回転を往復運動に変換するために、ボールねじ機構5を採用している。ボールねじ機構5は、ボールねじ軸21とボールナット22との間に不図示の多数のボール23を循環可能に介装しており、ボールねじ軸21に対してボールナット22が軸方向へ移動可能に係合されている。
【0035】
ボールナット22は、ケース部材10に形成された不図示の案内機構によって回転止めされていると共に、ボールねじ軸21の回転に対して軸方向移動可能に構成されている。ボールナット22の両側面には、ボールねじ軸21に直交する方向に係合溝27が形成されている。係合溝27には、後述するアーム部材6の一端が係合される。
【0036】
ボールねじ機構5は、回転運動を直線運動に、また、この逆に直線運動を回転運動に変換できる。ボールねじ軸21を回転させると、ボールナット22が軸方向に移動する一方、ボールナット22を軸方向に移動させた場合にも、比較的容易に、ボールねじ軸21が回転する。
【0037】
ここで、比較的容易とは、ボールねじ軸21に作用するディテント機構9の付勢力が、ギア25から出力ギア26を経て、外からモータ4を強制回転させ、これにより、スプール7が所定の停止位置へ位置決めされる程度に容易という意味である。
【0038】
アーム部材6は、先端側に二股部30を有し、二股部30の先端の円板状の部分がボールナット22の係合溝27に係合している。アーム部材6の回転中心側には矩形の透孔33が穿設され、透孔33には、マニュアルシャフト34の一方の端部に形成された角柱状の嵌合部38が嵌合されている。マニュアルシャフト34は、アーム部材6とディテントレバー40とを連結して、マニュアルシャフト34を中心にして一体に回転させる。マニュアルシャフト34の他方の端部に形成された角柱状の嵌合部44は、ディテントレバー40の透孔43に嵌合されている。
【0039】
従って、ボールナット22が軸方向に移動するのに伴って、二股部30がマニュアルシャフト34を中心に回転すると、アーム部材6がマニュアルシャフト34を回転駆動して、ディテントレバー40を回転させる。
【0040】
位置センサ8は、筐体がケース部材10に固定され、中央を貫通して回転可能に配置されたマニュアルシャフト34の回転角度位置(マニュアルバルブ7の軸方向位置)を検知する。位置センサ8には、ポテンショメータが採用されていて、マニュアルシャフト34の回転角度位置に対応した電圧が出力される。
【0041】
マニュアルシャフト34の回転角度位置と、マニュアルバルブ7の軸方向位置とは、ディテントレバー40を介して一対一対応しているので、以下の説明では、位置センサ8の出力でマニュアルバルブ7の軸方向位置を説明する。なお、位置センサ8には、角度位置に応じたデジタル値を出力する光学エンコーダや磁気スケールを採用してもよい。
【0042】
マニュアルバルブ7は、バルブボディ11内に挿入されて、軸方向(矢印A−B方向)に移動自在な弁体部材である。マニュアルバルブ7は、軸方向に移動することにより、バルブボディ11内の油路を切換えて、自動変速機12(図1)に所定のシフトレンジを設定する。マニュアルバルブ7は、Pレンジに対応するP位置、Rレンジに対応するR位置、Nレンジに対応するN位置、Dレンジに対応するD位置の間で往復移動できる。マニュアルバルブ7の先端にはフック36が固定され、フック36の先端側がディテントレバー40の係合孔37に回転自在に挿入されている。なお、上述したようにマニュアルバルブ7の位置は、位置センサ8により検出される角度位置で検出されるので、以下の説明において、P位置、R位置、N位置、D位置のそれぞれを角度で示す「θ」、「θ」、「θ」、「θ」として説明する。
【0043】
ディテント機構9は、ディテントレバー40と、ディテントスプリング41と、ローラ42とを有している。ディテントレバー40の回転中心の透孔43には、マニュアルシャフト34の嵌合部44が嵌合しており、ディテントレバー40は、マニュアルシャフト34を回転中心として回転する。
【0044】
ディテントレバー40の一方の回動端であるアーム部46には、上述したフック36の係合孔37が穿設されている。回転するディテントレバー40は、フック36を押し引きして、スプール7を軸方向位置に移動させる。ディテントレバー40の中間位置には、不図示のパーキング機構が係合される透孔45が穿設されている。
【0045】
ディテントレバー40の他方の回動端(上部)には、スプール7の4つのレンジ位置(Pレンジ、Rレンジ、Nレンジ、Dレンジ)に対応させたレンジ溝(係合溝)a、c、e、gが形成され、レンジ溝a、c、e、gは、凸部b、d、fで相互に隔てられている。
【0046】
ディテントスプリング41は、長板状のバネ材料によって形成され、その基端部48がバルブボディ11に固定されている。ディテントスプリング41の先端には二股部50が形成され、二股部50の間に、ローラ42が回動自在に支持されている。
【0047】
ディテントスプリング41は、回動自在なローラ42をディテントレバー40のレンジ溝a、c、e、gの傾斜面に押圧して、ローラ42が各レンジ溝a、c、e、gの谷底に到達するまでディテントレバー40を回転させる。これにより、スプール7を4つのレンジ位置(Pレンジ、Rレンジ、Nレンジ、Dレンジ)に精度よく位置決め保持できる。
【0048】
つづいて、モータ4の構成について詳細説明する。図3の(a)に示すように、モータ制御回路4aは、レンジ切換制御部100からの出力信号に応じてブリッジ配線4bにより接続された4つのスイッチ素子FET1、FET2、FET3、FET4をON/OFF制御して、モータ4にバッテリ50を接続し、モータ4の起動/制動/回転方向を制御する。正転/逆転/制動の各動作に対応するスイッチ素子FET1、FET2、FET3、FET4のON/OFF組み合わせは図3の(b)に示すとおりである。
【0049】
図3の(b)に記載されるON、OFFの意味は、例えば、正転時にはFET1とFET4がONである通電状態にされ、FET2とFET3がOFFである非通電状態にされることを示している。その他の逆転、ブレーキと停止の状態については、図3の(b)に記載するようにFET1、FET2、FET3とFET4をそれぞれ正転の状態で説明したような通電および非通電の状態にするON/OFF制御を行うため詳細については省略する。
【0050】
なお、本実施形態では、FET1、FET2、FET3とFET4をそれぞれ図3の(b)に示すようにON/OFF制御したが、モータ4を正転、逆転、ブレーキと停止状態に出来れば、どのようなON/OFF制御を行ってもよい。
【0051】
また、図3の(b)に示したモータ4の正転と逆転は、モータ4の所定の回転方向を正転と定め、その逆の回転方向を逆転と定めしているだけであり、図3の(a)に図示した正転時の電流の流れを破線のような設定に限るものではない。さらに、図3の(b)のモータ4のブレーキとは、モータ4を正転と逆転の両方向に回転しにくい状態、すなわちロックさせる状態にすることである。モータ4の停止とは、モータ4を正転と逆転の両方向に任意に回転させうる状態、すなわちフリーで回転し得る状態にし、FET1、FET2、FET3とFET4の全てを非通電状態にすることである。
【0052】
制動に際しては図3の(b)のブレーキの行に示されるように、モータ4、スイッチ素子FET3、FET4の閉回路を形成して、バッテリ50からの電力供給を遮断して、モータ4の発電エネルギーを消費する。電圧検知部3cは、バッテリ50の電圧を検知する。また、制動としてFET1とFET2をON、FET3とFET4をOFFし、閉回路を形成しても良い。
【0053】
ついで、本発明に係るレンジ切換制御部(レンジ切換装置の制御装置)100について図4乃至図10に沿って説明する。図4に示すように、レンジ切換制御部100には、上記位置センサ8からの角度センサ信号を入力し、例えば該信号をD/A変換したアナログ信号として出力するマニュアルシャフト(M/S)角度演算部101と、該M/S角度演算部101の演算結果に基づき実際のシフトレンジ(実際のレンジ位置)を判定する実レンジ判定部102と、が備えられており、詳しくは後述する制御部110に、実際のマニュアルシャフト7の位置に関する信号と実際のシフトレンジ(以下、「実レンジ」という)に関する信号とが入力される。
【0054】
また、レンジ切換制御部100には、上記シフトレバー2からのシフトレバー信号、不図示の車速センサ(自動変速機12の出力軸センサ)の検出に基づく車速信号、不図示のエンジン回転数センサ(自動変速機12の入力軸センサ)の検出に基づくエンジン回転数信号、不図示のフットブレーキに設けられたブレーキセンサの検出に基づくブレーキ信号、がそれぞれ入力されるシフト要求レンジ判定部103が備えられており、詳しくは後述する制御部110に、車速、エンジン回転数、及びブレーキ信号に基づき、シフトレバー2で要求されたシフトレンジが許可し得る状態である際に、要求されたシフトレンジ(以下、「要求レンジ」という)に関する信号を出力する。
【0055】
なお、要求されたシフトレンジが許可し得る状態とは、シフトチェンジを禁止すべき場合でない状態であり、特に禁止すべき状態とは、例えば車速に基づき前進走行時のRレンジへのシフトチェンジ、後進走行時のDレンジへのシフトチェンジ、NレンジやPレンジであってエンジンの空吹かし状態(所定エンジン回転数以上)からのDレンジ又はRレンジへのシフトチェンジ、Pレンジからフットブレーキを踏まずに他のレンジへのシフトチェンジ、等が考えられる。
【0056】
一方、レンジ切換制御部100には、制御部110より出力されたモータ制御指令を入力すると共にバッテリ電圧信号を入力するモータ出力生成部(モータ制御手段)130が備えられており、上述したモータ制御回路4aにスイッチ素子FET1、FET2、FET3、FET4のON/OFF指令やデューティ(Duty)指令の信号を生成して出力する。これにより、モータ4は、詳しくは後述する制御部110の制御によって、その駆動状態が自在に制御される。
【0057】
つづいて、本発明の要部である制御部110について説明する。制御部110には、モータ制御手段111、位置検出手段112、速度低下検出手段114と設定時間マップ116を備えた速度低下時間判定手段115とを有する停止検知手段113、中間停止判定手段117、再付与時間設定手段119を有するトルク再付与制御手段118、再付与回数カウント手段120、停止位置記録手段121、移動微小判定手段122、誤差許容判定手段123、レンジ位置学習手段124、回数フェール判定手段126と非移動フェール判定手段127とを有するフェール判定手段125、をそれぞれ備えて構成されている。
【0058】
上記モータ制御手段111は、上記実レンジ判定部102から入力される実レンジの信号に対し、シフトレバー2の操作に基づきシフト要求レンジ判定部103の許可により入力される要求レンジの信号が異なる場合、該要求レンジの位置に上記マニュアルバルブ7を移動駆動するための制御を開始する。即ち、該モータ制御手段111は、マニュアルシャフト34を実レンジのレンジ位置に対応する角度(Pレンジであればθ、Rレンジであればθ、Nレンジであればθ、Dレンジであればθ)から要求レンジのレンジ位置に対応する角度(移動先のθ、θ、θ、θ)まで回動させるため、まず、モータ4の制動を開始する制動位置(以下、「制動ポイント」という)を設定する。そして、該制動ポイントまで該モータ4の正転又は逆転の駆動(図3参照)を指令して、位置センサ8の検出に基づく位置検出手段112のマニュアルシャフト34の角度位置の検出によって制動ポイントまで到達したことを検出すると、該モータ4の制動ないし停止を指令する(図3参照)。
【0059】
この制動ポイントは、要求レンジに対応するディテントレバー40のレンジ溝(Pレンジであればa、Rレンジであればc、Nレンジであればe、Dレンジであればg)のひとつ手前の凸部(b,d,f)をディテントスプリング41のローラ42が越えた位置に設定され、つまりモータ4の制動ないし停止後は、ディテントスプリング41の付勢力によってディテントレバー40をレンジ位置に向けて付勢する。この際、例えば車輌が極寒地等にあって駆動機構3やモータ4におけるグリース等の潤滑油が低温になって硬化した場合などには、特にモータのコギングトルクの影響を大きく受けてしまうことになる。そこで、このような背景に着目した本発明の特徴的な制御について以下に説明する。
【0060】
図5に示すように、上記位置検出手段112の位置検出に基づき、マニュアルシャフト34の角度位置が制動ポイントに到達したことが検出され、モータ制御手段111がモータ4の制動を開始すると(S1−1)、まず、再付与回数カウント手段120が詳しくは後述する補正カウンタをリセットする(S1−2)。つづいてステップS1−3に進み、停止検知手段113が、マニュアルシャフト34の回動、即ちマニュアルバルブ7の移動が停止する状態になるまで繰り返し判定する。
【0061】
詳細には、停止検知手段113の速度低下検出手段114が、図4及び図9に示すように、マニュアルシャフト34の速度ωmsが所定速度ωa以下になったことを検出すると、速度低下時間判定手段115が、設定時間マップ116を参照して設定時間tvを設定しその取得した設定時間tvが経過したことを判定した際に、マニュアルシャフト34の停止を判定する。この設定時間マップ116には、上記速度低下検出手段114がマニュアルシャフト34の速度ωmsが所定速度ωa以下になったことを検出した際の位置が、レンジ位置θ、θ、θ、θから遠い距離である程、短くなるような設定時間tvが記録されており、つまり速度低下時間判定手段115は、上記速度低下検出手段114の検出がレンジ位置θ、θ、θ、θから遠い程、早めにマニュアルシャフト34の停止を判定する。
【0062】
例えば図9に示す上段の例は、マニュアルシャフト34が正常にレンジ位置θで停止する場合である。この場合は、マニュアルシャフト34の速度ωms−aが所定速度ωa以下となったポイントPaにおいて、速度低下検出手段114の検出が行われる。すると、速度低下時間判定手段115がレンジ位置θとポイントPaとの距離に応じて設定時間マップ116を参照して設定時間tvaを取得し、この設定時間tvaが経過した際にマニュアルシャフト34の回動が停止したもの(少なくともいずれは停止するもの)として判定する。
【0063】
また、例えば図9に示す中段の例は、マニュアルシャフト34が中間位置で停止する場合である。このように、マニュアルシャフト34の速度ωms−bが所定速度ωa以下となったポイントPbにおいて、速度低下検出手段114の検出が行われると、速度低下時間判定手段115がレンジ位置θとポイントPbとの距離に応じて設定時間マップ116を参照し、上記設定時間tvaよりも短い設定時間tvbを取得し、この設定時間tvbが経過した際にマニュアルシャフト34の回動が停止したもの(少なくともいずれは停止するもの)として判定する。
【0064】
更に、例えば図9に示す下段の例は、マニュアルシャフト34が中間位置で停止する場合であって、上記中段の例に対してレンジ位置θよりも遠い位置で停止する場合である。このように、マニュアルシャフト34の速度ωms−cが所定速度ωa以下となったポイントPcにおいて、速度低下検出手段114の検出が行われると、速度低下時間判定手段115がレンジ位置θとポイントPcとの距離に応じて設定時間マップ116を参照し、上記設定時間tvaや上記設定時間tvbよりも短い設定時間tvcを取得し、この設定時間tvcが経過した際にマニュアルシャフト34の回動が停止したもの(少なくともいずれは停止するもの)として判定する。
【0065】
なお、図9においては、速度ωは、時間tに応じて位置θとなるので、横軸に便宜的に時間tを示して表しているが、勿論、その経過時間後に位置θが一致するものではない。
【0066】
このように速度低下時間判定手段115により停止判定がなされると(S1−3のYes)、図5に示すように、中間停止判定手段117によりマニュアルシャフト34の停止位置がレンジ位置領域内であるか否か、つまりレンジ位置間の中間位置であるか否かの判定が行われる(S1−4)。この中間停止判定手段117による停止位置の判定は、例えば上記設定時間tvが経過した後の停止位置を所定速度ωaに基づき推定算出し、レンジ位置θ、θ、θ、θに対する所定領域内として判定してもよく、また例えば設定時間tvが経過した後の位置検出手段112の検出結果により停止位置を検出し、レンジ位置θ、θ、θ、θに対する所定領域内として判定してもよく、更に例えば速度低下検出手段114が検出した所定速度ωa以下になった位置(例えば図9におけるPa,Pb,Pc)を停止位置と仮定し、レンジ位置θ、θ、θ、θに対する所定領域内として判定してもよい。
【0067】
以上のように中間停止判定手段117が、マニュアルシャフト34の停止位置がレンジ位置領域内であるか否か判定した際に、例えば図9の上段に示す例のように、該停止位置がシフトレバー2により要求されたレンジ位置の領域内であると判定されると(S1−4のYes)、マニュアルバルブ7が正常に要求されたレンジ位置に移動しているので、シフト切換えが完了する(S1−5)。
【0068】
一方、中間停止判定手段117が、マニュアルシャフト34の停止位置がレンジ位置領域内でないと判定した場合、つまりマニュアルバルブ7がレンジ位置間の中間位置に停止する(いずれは中間位置で停止してしまう)ことを判定した場合は(S1−4のNo)、図5の「B」に進み、図6に示すフローチャートに進む。
【0069】
すると、まず、上記再付与回数カウント手段120が、補正カウンタが所定回数(例えば3回)以上であるか否かを判定する(S2−1)。ここでは、例えばステップS1−2でリセットされたままであるとして(S2−1のNo)、ステップS2−3に進む。また、このステップS2−3において、該補正カウンタが0であるか否かを判定するが、ここでは同様に例えばステップS1−2でリセットされたままであるとして(S2−3のYes)、ステップS2−4に進む。このステップS2−4に進むと、停止位置記録手段121が上記中間停止判定手段117により判定されたマニュアルシャフト34の停止位置を不図示の不揮発性メモリ等に記録する。
【0070】
ついで、ステップS2−5に進むと、トルク再付与制御手段118によってモータ4によるトルクの再付与を行う制御が開始される。ここで、モータ4のコギングトルクについて図8に沿って説明する。図8は、マニュアルシャフト34に作用するトルクと角度位置θmsとの関係を示す説明図で、ディテントトルクTdとモータ4のコギングトルクTcとが模式的に示されている。
【0071】
図8中実線で示すディテントトルクTdは、上述したディテントレバー40のレンジ溝a、c、e、g及び凸部b、d、fに対する、ディテントスプリング41の付勢力によるトルクであり、例えばPレンジからDレンジの方向に移動する際は、図8に示すように各レンジ位置θ、θ、θ、θに向けて最大トルクとなるようにトルクが生じると共に、各レンジ位置θ、θ、θ、θを越えると、それらレンジ位置θ、θ、θ、θに戻す方向に、即ちマイナス方向のトルクが生じる。このディテントトルクTdは、例えばレンジ切換装置1が低温状態となって潤滑油が硬化し、ディテント機構9を含む駆動機構3における摺動抵抗が増すと、その大きさ(図中上下方向)が小さくなることになる。
【0072】
一方、図8中破線で示すモータ4のコギングトルクTcは、該モータ4における永久磁石とコイルとの位置関係による回転方向の位相によって生じるトルクであり、いわゆるサインカーブ(sin曲線)のように生じるトルクである。なお、図8中における一点鎖線は、該コギングトルクTcのプラス・マイナスを反転した状態を示す線である。
【0073】
即ち、図8に示すように、例えばレンジ切換装置1が低温状態となってディテントトルクTdが小さくなると、該コギングトルクTcの影響が大きくなり、該コギングトルクTcの負方向の最大トルク−Tcmaxが、図中−ΔTで示すように正方向のディテントトルクTdを上回ってしまう状態になることがあって、つまりマニュアルシャフト34が各レンジ位置θ、θ、θ、θに到達する前の中間位置に停止してしまうことがある。そこでトルク再付与制御手段118は、上記該コギングトルクTcの負方向の最大トルク−Tcmaxよりも所定量大きい再付与トルクTmrを設定してモータ4に指令し、その再付与トルクTmrの出力を開始する。これにより、マニュアルシャフト34がコギングトルクTcの影響で停止してしまうことを防ぐことができる。
【0074】
またこの際、トルク再付与制御手段118の再付与時間設定手段119は、この再付与トルクTmrの出力を行う再付与時間tdを、上記中間停止判定手段117がマニュアルシャフト34が中間位置で停止してしまうことを判定した際の該マニュアルシャフト34の位置θに応じて、レンジ位置θ、θ、θ、θから遠い距離である程、長くなるように設定する。
【0075】
即ち、例えば図9の中段に示す例のように、マニュアルシャフト34の速度ωが、ポイントPbにおいて所定速度ωa以下となり設定時間tvb後に停止することが判定さた場合には、比較的短い時間で再付与トルクTmrを出力するだけで、レンジ位置θに到達するはずであるので、再付与時間tdbのように設定し、例えば図9の下段に示す例のように、マニュアルシャフト34の速度ωが、ポイントPcにおいて所定速度ωa以下となり設定時間tvc後に停止することが判定さた場合には、比較的長い時間で再付与トルクTmrを出力しないと、レンジ位置θに到達しないはずであるので、再付与時間tdcのように設定する。
【0076】
このように設定された再付与時間tdで再付与トルクTmrの出力を終えると、図6に示すように、ステップS2−6に進み、上記再付与回数カウント手段120により補正カウンタを1加算し、図6の「A」に進み、図5に示すステップS1−3に戻る。そして、上述と同様に、停止検知手段113によりマニュアルシャフト34の停止を判定し(S1−3のYes)、中間停止判定手段117によりマニュアルシャフト34が各レンジ位置θ、θ、θ、θの領域内にあるか否かを判定する(S1−4)。
【0077】
通常は、上述のようにトルク再付与制御手段118により再付与時間tdに応じた再付与トルクTmrをモータ4により出力することで、マニュアルシャフト34が各レンジ位置θ、θ、θ、θの領域内に進み、つまりマニュアルバルブ7が中間位置に停止してしまうような場合にあっても、自動的に要求されたレンジ位置に該マニュアルバルブ7が切換えられ(S1−4のYes)、シフト切換えを完了する(S1−5)。
【0078】
つづいて、上述した再付与トルクTmrを一度出力しても各レンジ位置θ、θ、θ、θに到達しなかったと判定された場合について説明する。即ち、再付与トルクTmrを一度出力したにも拘らず、マニュアルシャフト34の位置が中間位置であると判定されると(S1−4のNo)、再度図6に示すフローチャートに進む。
【0079】
すると同様に、まず、上記再付与回数カウント手段120が、補正カウンタが所定回数(例えば3回)以上であるか否かを判定するが(S2−1)、ここでは、上記ステップS2−6で1加算された状態、即ち補正カウンタが1(リトライ回数は1回目)であるので、ステップS2−3に進む。そして、このステップS2−3においては、該補正カウンタが0ではなく、1であるので(S2−3のNo)、ステップS2−7に進む。
【0080】
このステップS2−7に進むと、移動微小判定手段112が、上記停止位置記録手段121により記録された前回の停止位置(S2−4参照)と、位置検出手段112の検出に基づく現在のマニュアルシャフト34の今回の停止位置との差、つまり再付与トルクTmrを出力する前の位置と出力した後の位置との差を算出する。つづいて、該移動微小判定手段112は、その算出された再付与トルクTmrの出力前後の位置の差が所定の範囲内であるか否か、即ち再付与トルクTmrの出力によって移動した距離が所定移動距離以内であるか否かを判定する(S2−8)。
【0081】
例えば該移動微小判定手段112が再付与トルクTmrの出力前後の位置の差が所定移動距離以上であると判定した際は(S2−8のNo)、即ち再付与トルクTmrによってマニュアルシャフト34の移動が行われている(僅かではない)ものの、未だ中間位置にあることになるので、再度、停止位置を記憶し(S2−4)、再付与トルクTmrの出力を行って(S2−5)、補正カウンタを1加算し(S2−6)、ステップS1−3に戻る。
【0082】
このように再付与トルクTmrの出力を繰り返し行っているうちに、中間停止判定手段117によりレンジ位置領域内に停止したと判定された場合は(S1−4)、シフト切換えを完了し(S1−5)、つまり後述するフェール状態にすることなく、自動的にシフト切換えが行われる。
【0083】
ここで、例えばトルク再付与制御手段118による再付与トルクTmrの出力が3回行われ、中間停止判定手段117により未だ中間位置に停止すると判定された場合は(S1−4のNo)、フェール判定手段125の回数フェール判定手段126により補正カウンタが3以上(3回以上)であることが判定され(S2−1のYes)、フェール状態として判定される(S2−2)。つまり、この状態は、マニュアルバルブ7が3回移動しているにも拘らず、要求されたレンジ位置にならない状態であり、例えば位置センサ8の故障、ディテント機構9の故障(マニュアルシャフト34の空回り)、等が考えられる。このように、例えばレンジ切換装置1の故障であっても、その故障を検出することができ、故障が起きているにも拘らず再付与トルクを出力し続けるようなハンチング状態となることを防止することが可能となっている。
【0084】
なお、このようにフェール状態として判定された場合は、フェール判定手段125が、例えば運転席の計器表示板等に警告を表示したり警告音を出力したりするなどして、フェール状態を運転者に報知する。また、この際、レンジ切換制御部100のフェール判定手段125よりA/T制御部12aにもフェール信号が出力され(図1参照)、例えばA/T制御部12aが自動変速機12のクラッチやブレーキ等を解放して、該自動変速機12をニュートラル状態にする。
【0085】
また、本実施の形態においては、補正カウンタが3以上である際、即ち再付与トルクTmrの出力を3回リトライして、レンジ位置が切換わらなかった場合にフェール状態を判定しているが、勿論、この回数は適宜な回数であれば、何れの回数に設定してもよい。
【0086】
一方、上述した再付与トルクTmrの出力を繰り返し行っているうちに、上記移動微小判定手段122により再付与トルクTmrの出力前後の位置の差が所定移動距離以内であると判定された際は(S2−8のYes)、図6の「C」に進み、図7のフローチャートに進む。すると、まず、誤差許容判定手段123が、マニュアルシャフト34の現在の停止位置が要求されたレンジ位置に対して所定距離以内であるか否かを判定する(S3−1)。この所定距離は、例えばレンジ切換装置1の製造誤差を考慮した距離に設定されており、つまり、誤差許容判定手段123は、中間停止判定手段117により停止位置が中間位置として判定された際の位置が、製造誤差として許容し得る程度の位置か否かを判定する。
【0087】
ここで、誤差許容判定手段123によりマニュアルシャフト34の現在の停止位置が製造誤差として許容し得る程度の位置ではないと判定された際は(S3−1のNo)、即ち、各レンジ位置θ、θ、θ、θに対応したディテントレバー40のレンジ溝a、c、e、gにディテントスプリング41が係合している状態でないのに拘らず、再付与トルクTmrの出力を行ってもマニュアルシャフト34の移動が微小である(或いは全く移動していない状態である)ので、フェール判定手段125の非移動フェール判定手段127によりフェール状態として判定される(S3−4)。つまり、この状態は、中間位置で停止したマニュアルシャフト34が再付与トルクTmrを出力しても殆ど移動しない状態であり、例えば駆動機構3における異物の食込み、モータ4の断線、等が考えられる。このように、例えばレンジ切換装置1の故障であっても、その故障を検出することができ、故障が起きているにも拘らず再付与トルクを出力し続けるようなハンチング状態となることを防止することが可能となっている。
【0088】
なお、同様にフェール状態として判定された場合は、フェール判定手段125によりフェール状態を運転者に報知し、また、自動変速機12をニュートラル状態にする。
【0089】
一方、上記ステップS3−1において、誤差許容判定手段123によりマニュアルシャフト34の現在の停止位置が製造誤差として許容し得る程度の位置であると判定された際は(S3−1のYes)、ステップS3−2に進み、レンジ位置学習手段124が、例えば再付与トルクTmrの出力前のマニュアルシャフト34の停止位置(停止位置記録手段121により記録されている前回の停止位置)と、現在のマニュアルシャフト34の停止位置(今回の停止位置)との平均値をレンジ位置として設定し、つまりマニュアルシャフト34の停止位置に基づきレンジ位置を学習し、シフト切換えを完了する(S3−3)。これにより、レンジ切換装置1の製造誤差によってマニュアルシャフト34の停止位置がレンジ位置でないと誤って判定して、再付与トルクTmrの出力を繰り返すようなハンチング状態を生じてしまうことを防ぐことができる。
【0090】
ついで、以上説明したレンジ切換制御部100の制御に基づき、再付与トルクを出力する際の一例を図10のタイムチャートに沿って説明する。なお、図10に示す制御例においては、モータ4のトルク再付与が1回だけ行われ、かつ正常なレンジ位置に切換えられる場合であるので、上述の補正カウントのカウント、フェール状態の判定、及びレンジ位置の学習についての説明を省略するが、実際には、上述のフローチャートに沿って制御(それらの判定)が行われるものである。
【0091】
図10に示すように、例えばNレンジ状態であってマニュアルシャフト34の位置θmsがレンジ位置θにある状態で、時点t1において、シフトレバー2がDレンジに操作され、シフト要求レンジ判定部103を介してDレンジの要求信号が入力されると、モータ制御手段111が制動ポイントを設定し、モータ4に駆動を指令する。すると、モータトルクTmが上昇され、マニュアルシャフト34の位置θmsが移動を開始する。
【0092】
ついで、時点t2において、マニュアルシャフト34の位置θmsが上記設定された制動ポイントに到達すると、該モータ制御手段111によりモータ4に制動を指令し(S1−1)、モータトルクTmがマイナスにされて制動が開始される。また、このモータ4による制動が開始された後、ディテントレバー40には、ディテントスプリング41のローラ42が凸部fからレンジ溝gに向けて付勢されることで進行方向にディテントトルクTdが付与され、一旦マニュアルシャフト34が加速されて位置θmsが早く移動し、更にその後、モータ4の制動とコギングトルクTcが相俟って、マニュアルシャフト34が減速される。
【0093】
ここで、時点t3において、位置検出手段112の検出に基づき速度低下検出手段114がマニュアルシャフト34の移動(回動)速度が所定速度ωa以下になったことを検出すると、この時点t3におけるマニュアルシャフト34の位置θmsとレンジ位置θとの距離に基づいて速度低下時間判定手段115が設定時間tvを設定し、該設定時間tvが経過した時点t4において、マニュアルシャフト34がこのままでは停止してしまうことを判定する(S1−3)。
【0094】
すると、時点t4において、中間停止判定手段117が位置検出手段112の検出に基づく現在のマニュアルシャフト34の位置θmsがレンジ位置θ、θ間の中間位置であることを判定し(S1−4のNo)、この時点t4におけるマニュアルシャフト34の位置θmsとレンジ位置θとの距離に基づいて再付与時間設定手段119が再付与時間tdを設定し、トルク再付与制御手段118が該設定された再付与時間tdが経過するまで、モータ4のコギングトルクTcの最大負荷トルク−Tcmaxよりも所定量大きい再付与トルクTmrを出力する。これにより、マニュアルシャフト34の位置θmsは、レンジ位置θに向けて移動駆動される。
【0095】
再付与時間tdが経過した時点t5になると、トルク再付与制御手段118による再付与トルクTmrの出力が停止され、モータ4が停止状態とされる。その後は、マニュアルシャフト34の慣性力とディテント機構9のディテントトルクTdとが相俟って、該マニュアルシャフト34の位置θmsが移動され、時点t6において、該マニュアルシャフト34の位置θmsがDレンジのレンジ位置θまで到達し、つまりマニュアルバルブ7がD位置に切換えられる。
【0096】
以上説明したように本発明に係るレンジ切換装置の制御装置100によると、停止検知手段113によりマニュアルバルブ7が停止することを検知した際に、中間停止判定手段117が該マニュアルバルブ7が停止する位置がレンジ位置間の中間位置であることを判定すると、トルク再付与制御手段118が再付与トルクTmrを出力するようにモータ4を駆動制御するので、マニュアルバルブ7がレンジ位置間の中間位置に停止してしまう場合にあって、自動的にモータ4により再付与トルクTmrを与えてマニュアルバルブ7を付勢することができ、フェールセーフ状態に移行する頻度を低減することができて、自動的に正確なレンジ位置にマニュアルバルブ7を移動することを可能とすることができる。
【0097】
また、トルク再付与制御手段118が、再付与トルクTmrがモータ4のコギングトルクTcの最大負荷トルク−Tcmaxよりも所定量大きく出力されるようにモータ4を駆動制御するので、マニュアルバルブ7がレンジ位置間の中間位置に停止してしまう場合にあって、モータ4のコギングトルクTcによる負荷によってハンチング状態になることを防ぐことができ、フェールセーフ状態に移行する頻度を低減することができて、自動的に正確なレンジ位置にマニュアルバルブ7を移動することを可能とすることができる。
【0098】
更に、再付与時間設定手段118が、中間停止判定手段117によりマニュアルバルブ7がレンジ位置間の中間位置に停止することを判定した際のマニュアルバルブ7の位置に応じて、モータ4が再付与トルクTmrを出力する再付与時間tdを設定するので、正確なレンジ位置にマニュアルバルブ7を移動することを可能とすることができる。
【0099】
また、速度低下時間判定手段115が、マニュアルバルブ7の所定速度ωa以下の状態が設定時間tv以上継続したことを判定した際に、マニュアルバルブ7が停止することを検知するので、マニュアルバルブ7が完全に停止してしまう前にモータ4による再付与トルクTmrの出力を行うことも可能とすることができる。
【0100】
更に、速度低下時間判定手段115が、速度低下検出手段114が所定速度ωa以下を検出した際のマニュアルバルブ7の位置が、レンジ位置から遠い程、設定時間tdを短く設定するので、マニュアルバルブ7の位置がレンジ位置から遠くて駆動力の補助が早めに必要な場合ほど、迅速にモータ4による再付与トルクTmrの出力を行うことができる。
【0101】
また、回数フェール判定手段126が、再付与回数カウント手段120による再付与トルクTmrを出力した回数が所定回数(例えば3回)に達した際に、フェール状態として判定するので、例えばレンジ切換装置1自体の故障であっても該故障を検出することができ、故障が起きているにも拘らず再付与トルクTmrを出力し続けるようなハンチング状態となることを防止することができる。
【0102】
更に、停止位置記録手段121が、停止検知手段113によりマニュアルバルブ7が停止することを検知する毎にマニュアルバルブ7が停止する位置を記録し、移動微小判定手段122が、停止位置記録手段121により記録されたトルク再付与制御手段118によるモータ4の再付与トルクTmrの出力前の停止位置と出力後の停止位置との移動距離が所定移動距離以内であるか否かを判定し、誤差許容判定手段123が、移動微小判定手段122により再付与トルクTmrの出力前後の停止位置の移動距離が所定移動距離以内であることを判定した際に、出力後の停止位置がレンジ位置に対する所定距離以内の位置であるか否かを判定し、レンジ位置学習手段124が、誤差許容判定手段123により出力後の停止位置がレンジ位置に対する所定距離以内の位置であることを判定した際に、出力前後の停止位置に基づきレンジ位置を学習するので、例えばレンジ切換装置1における製品誤差等があっても、正確なレンジ位置を学習することができ、正確なレンジ位置にマニュアルバルブ7を移動することを可能とすることができる。また、再付与トルクTmrの出力後の停止位置がレンジ位置に対する所定距離以内の位置でない場合は、レンジ位置の学習を行わないので、例えば故障等で停止しているマニュアルバルブ7の誤った停止位置をレンジ位置して学習してしまうことを防ぐことができる。
【0103】
また、非移動フェール判定手段127が、誤差許容判定手段123により出力後の停止位置がレンジ位置に対する所定距離以内の位置でないことを判定した際にフェール状態として判定するので、つまりマニュアルバルブ7の移動が所定移動距離以内である微小な移動であって、かつレンジ位置から所定距離以内の位置でない状態を、例えばマニュアルバルブ7故障等で停止しているとして判定することができ、故障が起きているにも拘らず再付与トルクTmrを出力し続けるようなハンチング状態となることを防止することができる。
【0104】
また、駆動機構3は、マニュアルバルブ7に接続されると共にモータ4の回転駆動により回動され、かつマニュアルバルブ7のレンジ位置に対応するレンジ溝a,c,e,gが形成されたディテントレバー40と、レンジ溝a,c,e,gに向けて付勢されて係合し得るディテントスプリング41と、からなるディテント機構9を有しているので、マニュアルバルブ7が中間位置で停止してしまう状態であっても、モータ4のコギングトルクTcよりも大きな再付与トルクTmrを出力するだけで、ディテントスプリング41の付勢力に加わる補助的な付勢となり得て、それにより、マニュアルバルブ7をレンジ位置まで移動することを可能とすることができる。
【0105】
なお、以上説明した本実施の形態において、レンジ切換装置1は、自動変速機12のシフトレンジを切換えるものとして説明したが、これに限らず、例えば走行用駆動モータを有するようなハイブリッド駆動装置等の動力伝達装置におけるシフトレンジを切換えるものにも適用することができる。また、このようなハイブリッド駆動装置等に適用する場合等にあっては、例えば油圧制御装置のマニュアルバルブを移動させるのではなく、パーキングギヤの噛合/解除だけを行うようなレンジ切換装置であることが考えられる。このようなパーキングギヤの噛合/解除だけを行うレンジ切換装置である場合、レンジ切換部材としては、マニュアルバルブではなく、ディテントレバーがレンジ切換部材になることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明に係るレンジ切換装置を示すブロック図である。
【図2】レンジ切換装置の駆動機構を示す斜視図である。
【図3】モータ制御回路の説明図である。
【図4】本発明に係るレンジ切換装置の制御装置を示すブロック図である。
【図5】レンジ切換装置のメイン制御を示すフローチャートである。
【図6】レンジ切換装置のトルク再付与制御を示すフローチャートである。
【図7】レンジ切換装置のレンジ位置学習制御を示すフローチャートである。
【図8】モータのコギングトルクとディテントトルクとの関係を示す説明図である。
【図9】マニュアルシャフトの速度とディテント位置との関係を示す説明図である。
【図10】トルク再付与制御を行った際の一例を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0107】
1 レンジ切換装置
2 操作手段(シフトレバー)
3 駆動機構
4 モータ
7 レンジ切換部材(マニュアルバルブ)
8 位置検出手段(位置センサ)
9 駆動機構,ディテント機構
12 動力伝達装置(自動変速機)
40 ディテントレバー
41 ディテントスプリング
100 レンジ切換装置の制御装置
111 モータ制御手段
112 位置検出手段
113 停止検知手段
114 速度低下検出手段
115 速度低下時間判定手段
117 中間停止判定手段
118 トルク再付与制御手段
119 再付与時間設定手段
120 再付与回数カウント手段
121 停止位置記録手段
122 移動微小判定手段
123 誤差許容判定手段
124 レンジ位置学習手段
126 回数フェール判定手段
127 非移動フェール判定手段
130 モータ制御手段(モータ出力生成部)
P シフトレンジ(パーキングレンジ)
R シフトレンジ(リバースレンジ)
N シフトレンジ(ニュートラルレンジ)
D シフトレンジ(ドライブレンジ)
Tc コギングトルク
−Tcmax 最大負荷トルク
Tmr 再付与トルク
td 再付与時間
tv 設定時間
a 係合溝
c 係合溝
e 係合溝
g 係合溝
θ レンジ切換部材の位置(マニュアルシャフトの位置)
θ レンジ位置(Pレンジ位置)
θ レンジ位置(Rレンジ位置)
θ レンジ位置(Nレンジ位置)
θ レンジ位置(Dレンジ位置)
ω レンジ切換部材の移動速度(マニュアルシャフトの移動速度)
ωa 所定速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行レンジを選択指令し得る操作手段と、モータと、複数のレンジ位置に切換えられることに基づき動力伝達装置のシフトレンジを切換えるレンジ切換部材と、前記モータの回転駆動によって前記レンジ切換部材の位置を移動駆動する駆動機構と、前記操作手段の指令に基づき前記モータを駆動制御するモータ制御手段と、を備えたレンジ切換装置の制御装置において、
前記レンジ切換部材の位置を検出する位置検出手段と、
前記位置検出手段の検出に基づき、前記レンジ切換部材が停止することを検知する停止検知手段と、
前記停止検知手段により前記レンジ切換部材が停止することを検知した際に、該レンジ切換部材が停止する位置が、前記レンジ位置間の中間位置であることを判定する中間停止判定手段と、
前記中間停止判定手段により前記レンジ切換部材が前記レンジ位置間の中間位置に停止することを判定した際に、再付与トルクを出力するように前記モータを駆動制御するトルク再付与制御手段と、を備えた、
ことを特徴とするレンジ切換装置の制御装置。
【請求項2】
前記トルク再付与制御手段は、前記再付与トルクが、前記モータのコギングトルクの最大負荷トルクよりも所定量大きく出力されるように前記モータを駆動制御してなる、
請求項1記載のレンジ切換装置の制御装置。
【請求項3】
前記トルク再付与制御手段は、前記中間停止判定手段により前記レンジ切換部材が前記レンジ位置間の中間位置に停止することを判定した際の前記レンジ切換部材の位置に応じて、前記モータが前記再付与トルクを出力する再付与時間を設定する再付与時間設定手段を有してなる、
請求項1または2記載のレンジ切換装置の制御装置。
【請求項4】
前記停止検知手段は、
前記位置検出手段の検出に基づき、前記レンジ切換部材の移動速度が所定速度以下であることを検出する速度低下検出手段と、
前記速度低下検出手段により検出した、前記レンジ切換部材の移動速度が所定速度以下である状態が設定時間以上継続したことを判定する速度低下時間判定手段と、を有し、
前記速度低下時間判定手段により前記レンジ切換部材の所定速度以下の状態が前記設定時間以上継続したことを判定した際に、前記レンジ切換部材が停止することを検知してなる、
請求項1ないし3のいずれか記載のレンジ切換装置の制御装置。
【請求項5】
前記速度低下時間判定手段は、前記速度低下検出手段により前記所定速度以下を検出した際の前記レンジ切換部材の位置が、前記レンジ位置から遠い程、前記設定時間を短く設定してなる、
請求項4記載のレンジ切換装置の制御装置。
【請求項6】
前記トルク再付与制御手段による前記モータの前記再付与トルクを出力した回数をカウントする再付与回数カウント手段と、
前記再付与回数カウント手段によるカウント回数が所定回数に達した際に、フェール状態として判定する回数フェール判定手段と、を備えてなる、
請求項1ないし5のいずれか記載のレンジ切換装置の制御装置。
【請求項7】
前記停止検知手段により前記レンジ切換部材が停止することを検知する毎に、前記レンジ切換部材が停止する位置を記録する停止位置記録手段と、
前記停止位置記録手段により記録された、前記トルク再付与制御手段による前記モータの前記再付与トルクの出力前の停止位置と出力後の停止位置との移動距離が所定移動距離以内であることを判定する移動微小判定手段と、
前記移動微小判定手段により前記再付与トルクの出力前後の停止位置の移動距離が所定移動距離以内であることを判定した際に、前記出力後の停止位置が前記レンジ位置に対する所定距離以内の位置であることを判定する誤差許容判定手段と、
前記誤差許容判定手段により前記出力後の停止位置が前記レンジ位置に対する所定距離以内の位置であることを判定した際に、前記出力前後の停止位置に基づき前記レンジ位置を学習するレンジ位置学習手段と、を備えた、
請求項1ないし6のいずれか記載のレンジ切換装置の制御装置。
【請求項8】
前記誤差許容判定手段により前記出力後の停止位置が前記レンジ位置に対する所定距離以内の位置でないことを判定した際に、フェール状態として判定する非移動フェール判定手段を備えた、
請求項7記載のレンジ切換装置の制御装置。
【請求項9】
前記駆動機構は、前記レンジ切換部材に接続されると共に前記モータの回転駆動により回動され、かつ前記レンジ切換部材の前記複数のレンジ位置に対応する複数の係合溝が形成されたディテントレバーと、前記複数の係合溝に向けて付勢されて係合し得るディテントスプリングと、からなるディテント機構を有してなる、
請求項1ないし8のいずれか記載のレンジ切換装置の制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−271036(P2007−271036A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−99838(P2006−99838)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】