説明

ロッド塗布方法及び装置

【課題】塗布膜液量を5cc/m2 以下に薄膜塗布する場合でも、帯状支持体と計量用のロッドとが接触しないようにできるので、塗布層表面に欠陥を発生させることがない。
【解決手段】連続走行する可撓性の帯状支持体14に給液流路10から塗布液を所望塗布液量よりも過剰に塗布した直後、帯状支持体14の塗布面側を、帯状支持体14がラップされるロッドラップ面の下流側端部近傍が切り欠かれた切欠き部42Aを有すると共に、塗布中は回転しないように固定された切欠きロッドにラップさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はロッド塗布方法及び装置に係り、特に、連続走行する可撓性の帯状支持体の表面や該帯状支持体に既に塗布された塗布層の表面を損傷することなく薄膜塗布するための塗布技術に関する。
【背景技術】
【0002】
塗布コータを帯状支持体に非接触で薄膜塗布する方法として、例えば特許文献1のロッド塗布方法や特許文献2のエクストルージョン塗布方法等があり、平版印刷版の帯状原反の製造ラインにはロッド塗布方法が広く採用されている。
【0003】
平版印刷版は、帯状に連続するアルミニウムの薄板であるアルミニウム製の帯状支持体の少なくとも一方の面を砂目立てし、その砂目立てした面に、可視光露光型またはレーザ露光型の感光層を形成することにより製造される。感光層は、通常、感光性樹脂を含有する感光層形成液、または熱重合性樹脂を含有する感熱層形成液などの塗布液を砂目立て面に塗布して乾燥させることにより形成される。尚、感光層は、1層からなる場合だけでなく、2層以上からなる多層構造を有する場合もあり、更に感光層の前に下塗り層を塗設したり、あるいは感光層の上にポリビニルアルコールなどからなる酸化保護層を塗設する場合もある。
【0004】
従来のロッド塗布装置は、図6及び図7に示すように、連続走行する可撓性の帯状支持体1に塗布液の給液流路2から塗布液を所望塗布液量よりも過剰に塗布した直後、帯状支持体1の塗布面側を、矢印方向に回転する表面が平滑に形成された計量用の丸棒状ロッド3にラップさせることにより帯状支持体1に塗布される最終的な塗布液量が所定塗布液量になるように計量する。
【特許文献1】特開2003−53236号公報
【特許文献2】特開平5−261334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、最近の平版印刷版の製造では、帯状支持体1に最終的に塗布する塗布膜液量が5cc/m2 以下(塗布膜厚みとして5μm以下)、更には2cc/m2 以下(塗布膜厚みとして2μm以下)の極めて少ない薄膜塗布を行うことが必要になってきていることから、帯状支持体1と計量用の丸棒状ロッド3とが接触するという問題が発生している。
【0006】
即ち、従来のロッド塗布装置では、給液流路2から帯状支持体1に付着されて帯状支持体1と円柱状ロッド3との間に持ち込まれる塗布液の厚み、換言すると帯状支持体1と円柱状ロッドとのギャップ量(h)が帯状支持体1の表面粗さ近くまで小さくなると、帯状支持体1と円柱状ロッド3とが接触することがあり、これにより帯状支持体1表面が損傷したり、塗布膜面にスリキズやリップル筋が発生する。
【0007】
特に、塗布液粘度が高いほど帯状支持体1に塗布される塗布液量は多くなるため、高粘度の塗布液で薄膜塗布するには、帯状支持体1と円柱状ロッド3との間のギャップ量(h)を1〜2μmの範囲まで狭くして塗布したいが、帯状支持体1の表面粗さRaが通常1〜2μm程度なため、帯状支持体1と円柱状ロッド3が接触してしまう。また、高粘度の塗布液を薄膜塗布する場合、塗布膜面全面にリップル筋が発生したり、帯状支持体幅方向の塗布厚みムラが発生し易くなる。塗布厚みムラを解消するためには帯状支持体1の走行方向の張力を上げればよいが、張力を上げると帯状支持体1と円柱状ロッド3とが一層接触し易くなるという弊害が生じる。
【0008】
この問題は、特許文献2のエクストルージョン塗布方法でも同様である。即ち、エクストルージョンの塗布ヘッド先端と帯状支持体とのクリアランスを10μm以下まで狭くする必要があり、機械精度を確保できず、塗布ヘッド先端と帯状支持体とが接触する場合がある。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みて成されたもので、塗布膜液量を5cc/m2 以下に薄膜塗布する場合でも、帯状支持体と計量用のロッドとが接触しないようにできるので、塗布層表面に欠陥を発生させることがなく、特に平版印刷版の製造における塗布として好適なロッド塗布方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1は、前記目的を達成するために、連続走行する可撓性の帯状支持体に塗布液付着手段で塗布液を所望塗布液量よりも過剰に塗布した直後、前記帯状支持体の塗布面側を、表面が平滑に形成された計量用のロッドにラップさせることにより前記帯状支持体に塗布される最終的な塗布液量が前記所望塗布液量になるように計量するロッド塗布方法において、前記計量用のロッドとして、前記帯状支持体がラップされるロッドラップ面の下流側端部近傍が切り欠かれた切欠き部を有すると共に、塗布中は回転しないように固定された切欠きロッドを用いることを特徴とするロッド塗布方法を提供する。
【0011】
本発明の請求項1によれば、塗布液付着手段で帯状支持体に所望塗布液量よりも過剰に塗布された塗布液は、帯状支持体と計量用の切欠きロッドとの間に持ち込まれるが、切欠きロッドは回転しないので、帯状支持体と計量用のロッドとの間に持ち込まれ塗布液は、塗布液の厚み方向において速度分布が形成される。即ち、走行する帯状支持体に近い塗布液の速度は速く、止まっているロッドに近い塗布液の速度は遅くなり、速度の遅い塗布液は、帯状支持体の走行に同伴されることなく切欠きロッドの切欠き部に滞留するか、若しくは切欠き部から落流する。これにより、本発明は従来の切欠きのないロッドに比べ、塗布液付着手段で過剰塗布する塗布液量を多くしても最終的に塗布される所望塗布液量を少なくすることができる。従って、例えば帯状支持体に最終的に塗布する塗布膜液量が5cc/m2 以下の薄膜塗布を行う場合であっても、帯状支持体と切欠きロッドとの間に持ち込まれる塗布液を増加して帯状支持体とロッドとの間のギャップ量を大きくすることができるので、帯状支持体と切欠きロッドとが接触することがない。
【0012】
尚、本発明において、上流側、下流側とは帯状支持体の走行方向から見た上流側、下流側を意味し、以下同様である。
【0013】
請求項2は請求項1において、前記最終的な塗布膜液量が5cc/m2 以下の薄膜塗布を行うことを特徴とする。このような薄膜塗布において、本発明の効果をより一層発揮させることができるからである。更に本発明の効果を発揮させることのできる最終的な塗布膜液量は2cc/m2 以下である。
【0014】
請求項3は請求項1又は2において、前記切欠きロッドを挟んだ上流側と下流側とに一対のサポートローラを設け、該サポートローラで前記帯状支持体を切欠きロッドに押圧することを特徴とする。このように、サポートローラで帯状支持体を切欠きロッドに押圧することにより、帯状支持体の幅方向における塗布厚み分布も小さくすることができ、幅方向の走行フレも均一化できるからである。これにより、塗布膜面に欠陥がなく膜厚み分布の小さな薄膜状の塗布膜を形成することができる。
【0015】
請求項4は請求項3において、前記切欠きロッドの軸芯から前記ロッドラップ面を通る鉛直線に対して、前記サポートローラの軸芯から下ろした垂線の距離が30mm以内になるように前記一対のサポートローラを配置することを特徴とする。
【0016】
これは、切欠きロッドとサポートローラとの距離が近い方が帯状支持体の走行振れを抑制できるので、それだけ帯状支持体の幅方向における塗布厚み分布を一層小さくすることができるからであり、好ましい距離が30mm以内である。
【0017】
請求項5は請求項1〜4の何れか1において、前記帯状支持体の走行方向における張力を50kg/m以下にすることを特徴とする。帯状支持体の走行方向の張力を50kg/m以下にすることにより、帯状支持体と計量用の切欠きロッドとの接触を一層防止することができる。従来の計量用の円柱状ロッドの場合、帯状支持体の走行方向の張力を大きくしないと薄膜塗布になりにくかったが、本発明では帯状支持体に最終的に同伴される塗布液量を従来に比べて顕著に少なくできるので、帯状支持体の走行方向の張力を下げても薄膜塗布が可能となる。
【0018】
請求項6は請求項1〜5の何れか1において、前記帯状支持体は、連続した帯状のアルミニウム薄板の少なくとも一方の面を砂目立てした平版印刷版用の支持体であることを特徴とする。本発明を、平版印刷版を製造する際の塗布に適用することにより、その効果をより有効に発揮することができるからである。
【0019】
請求項7は、前記目的を達成するために、連続走行する可撓性の帯状支持体に所望塗布液量よりも過剰に塗布液を付着させる塗布液付着手段と、前記塗布液付着手段の下流側に隣接配置され、表面が円滑に形成されていると共に前記帯状支持体がラップされるロッドラップ面の下流側端部近傍が切り欠かれた切欠き部を有する切欠きロッドと、前記切欠きロッドが塗布中に回転しないように固定する固定手段と、前記切欠きロッドを塗布停止時に回転させ、前記切欠きロッドの軸芯から前記ロッドラップ面を通る鉛直線に対する前記切欠き部までの角度を調整する切欠き位置調整手段と、を備えたことを特徴とするロッド塗布装置を提供する。
【0020】
請求項7は、本発明を装置として構成したものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明のロッド塗布方法及び装置によれば、塗布膜液量を5cc/m2 以下に薄膜塗布する場合でも、帯状支持体と計量用のロッドとが接触しないようにできるので、塗布層表面に欠陥を発生させることがない。従って、特に平版印刷版の製造における塗布として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、添付図面に従って、本発明に係るロッド塗布方法及び装置の好ましい実施の形態について詳説する。
【0023】
図1は、本発明のロッド塗布装置を備えた平版印刷版用原反の製造ライン10の一例であり、以下この製造ライン10の例で説明する。尚、本発明は、平版印刷版用原反の製造ライン10に限定するものではなく、ロッド塗布で薄膜塗布を行う全てのラインに適用できる。
【0024】
図1に示すように、送出機12には、ロール状に巻回された可撓性の帯状支持体14がセットされる。この送出機12から連続的に送り出された帯状支持体14は、表面処理部16において表面処理が施される。表面処理が施された帯状支持体14は、バックコート層塗布・乾燥部18において支持体14の裏面にバックコート層が形成された後、下塗り塗布・乾燥部20において帯状支持体14の表面に下塗り層が形成される。次に、感光層塗布・乾燥部22において、下塗り層の上に光重合性組成物の感光層が形成された後、オーバーコート層塗布・乾燥部24において、水素結合性基を含む水溶性高分子、例えばPVA(ポリビニルアルコール)を主成分とするオーバーコート層(PVA塗布膜)が形成されると共に、形成されたオーバーコート層の水溶性高分子の結晶化度が所定範囲に制御される。次に、オーバーコート層は、調湿ゾーン26において、オーバーコート層の含水率が所定範囲、例えば4〜8%になるように制御される。オーバーコート層の含水率は、水分分析計31でオンライン測定され、その含水率データが一定になるように調湿ゾーン26の空調ユニット32がオーバーコート層調湿ゾーンの温湿度を制御する。これにより、光重合性平板印刷版の原反14Aが製造され、原反14Aが巻取機28に巻き取られる。
【0025】
本発明に用いられる帯状支持体14は、寸度的に安定なアルミニウム又はその合金(例えば珪素、銅、マンガン、マグネシウム、クロム、亜鉛、鉛、ビスマス、ニッケルとの合金)を用いることができる。通常は、アルミニウムハンドブック第4版(1990、軽金属協会発行)に記載の従来公知の素材、例えば、JIS A l050材、JIS A ll00材、JIS A 3103材、JIS A 3004材、JIS A 3005材または引っ張り強度を増す目的でこれらに0.1wt%以上のマグネシウムを添加した合金を用いることができる。
【0026】
表面処理部16での表面処理としては、例えば帯状支持体14がアルミニウム板の場合、その表面を目的に応じて各種処理を施すのが通例である。一般的な処理方法としてはアルミニウム板を先ず脱脂または電解研磨処理とデスマット処理によりアルミ表面の清浄化を行う。その後に機械的粗面化処理又は/及び電気化学的粗面化処理を施しアルミニウム板の表面に微細な凹凸を付与する。尚、この時に更に化学的エッチング処理とデスマット処理を加える場合もある。その後、アルミニウム板表面の耐摩耗を高める為に陽極酸化処理が施され、その後アルミニウム表面は必要に応じて親水化処理または/及び封孔処理が行われる。
【0027】
バック層塗布・乾燥部18において、帯状支持体14の裏面には、重ねた場合の感光性組成物層の傷付きを防ぐための有機高分子化合物からなる被覆層(バックコート層)が必要に応じて設けられる。
【0028】
下塗り塗布・乾燥部20において、必要に応じて帯状支持体14の表面に下塗り層塗布液を塗布・乾燥して下塗り層を形成する。この下塗り塗布・乾燥部20においても塗布する方式や条件としては、後述する感光性組成物層を塗布する方式や条件の多くを利用できる。感光層塗布・乾燥部22において、下塗り層の上に光重合型感光性組成物の塗料が塗布・乾燥されて感光層が形成される。そして、オーバーコート層塗布・乾燥部24において、感光層の上に、オーバーコート層塗料を塗布する。
【0029】
図2は、本発明のロッド塗布装置の全体図であり、上記のバックコート層塗布、下塗り塗布、感光層塗布、及びオーバーコート層塗布の何れにも使用することができる。また、図3はロッド塗布装置の主として切欠きロッドを説明する説明図である。
【0030】
図2及び図3に示すように、ロッド塗布装置40は、矢印方向に連続走行する帯状支持体14の幅方向に沿って設けられ、表面が平滑な計量用のロッドである切欠きロッド42と、その切欠きロッド42を下方から支持するロッド支持部材44と、ロッド支持部材44よりも上流側においてロッド支持部材44に対して平行に設けられ、上面に平面状の塗布液流形成面46Aが形成された堰板46と、ロッド支持部材44と堰板46とが固定された基台48とで構成される。
【0031】
切欠きロッド42は、全体は円柱状に形成されているが、帯状支持体14がラップされるロッドラップ面の下流側端部近傍が切り欠かれた切欠き部42Aが形成されていると共に、塗布中は回転しないように固定されている。ここで、ロッドラップ面とは、帯状支持体14が切欠きロッド42にラップされるラップ開始位置からラップ終了位置までのロッド面を言う。また、切欠きロッド42は塗布中は回転しないが、切欠きロッド42の軸芯Oから切欠き部のエッジ位置42Bを通る直線Aと、軸芯Oからロッドラップ面を通る鉛直線Bとの角度θ1を調整できるように構成される。角度θ1を調整する理由は、角度θ1に対する帯状支持体14の走行角度が適切に調整されていないと、塗布筋を発生するからであり、塗布筋を発生させないように角度θ1を適宜調整する。塗布中に切欠きロッド42が回転しないように固定し、塗布停止時に切欠きロッド42を回転可能とする機構については、特に図示しなかったが、例えば、切欠きロッド42の両端に設けた回転軸を軸受に回転可能に支持しておき、この回転軸に回転をロックするON−OFF付きのロック手段を設けることで達成できる。
【0032】
切欠きロッド42に形成される切欠き部42Aの形状は、図1のようにV字の角度が略90°な断面V字溝状をロッド長さ方向全体に形成してもよく(図3参照)、あるいは図4(A)〜(B)のように断面L字溝状、断面円弧状溝や、図4(C)のように断面半円形状でもよい。要は、帯状支持体14に同伴されなかった塗布液がロッドラップ面の下流側端図近傍に幅方向に均一に滞留するか、若しくは切欠き部42Aからスムーズに落流する切欠き形状であればよい。
【0033】
図2に示すように、帯状支持体14は、走行方向に張力Tで引っ張られながら走行すると共に、切欠きロッド42を挟んだ上流側と下流側とに一対のサポートローラ52、54が設けられ、該サポートローラ52、54で帯状支持体14を切欠きロッド42に押圧する。これにより、帯状支持体14は図2に示すように、切欠きロッド42に「へ」の字状に折れ曲がった形状でラップされる。尚、サポートローラ52、54を用いないでロッド塗布装置40を装置構成することも可能である。サポートローラ52、54を用いる場合は、一対のサポートローラ52、54は、サポートローラ52、54の軸芯52A、54Aから鉛直線Bに下ろした垂線Cの距離が30mm以内になるように配置することが好ましい。また、切欠きロッド42よりも上流側の部分と下流側の帯状支持体14が成す角度、即ちラップ角θ2は、3〜18°の範囲が好ましく、特に5〜10°の範囲が好ましい。
【0034】
図2に示すように、ロッド支持部材44は、略板状の部材であり、上面に、断面がJ字型の内壁面を有する凹溝44Aが形成されている。切欠きロッド42は、凹溝44Aにおいて下方から支持されている。ロッド支持部材44の上流側の壁面、即ち堰板46に向かい合う側の壁面は、垂直面状に形成されている。堰板46は、帯状支持体14に向かって垂直方向に延在する板状部材であり、下端部において基台48に固定され、上面に平面状の塗布液流形成面46Aが形成されている。
【0035】
ロッド支持部材44と堰板46との間には、スリット状の給液流路50が形成されており、この給液流路50は本発明に係るロッド塗布装置における塗布液付着手段に相当する。給液流路50は、下端において、基台48の内部に設けられたマニホールド51に連通していると共に、給液管53を介して塗布液貯留タンク56に接続されている。マニホールド51は、小部屋状に形成され、給液管53からの塗布液の供給流が変動したときに、給液流路50における塗布液流量の変動を押える機能を有する。尚、給液管53には、給液ポンプ58が設けられる。
【0036】
基台48における堰板46の上流及びロッド支持部材44の下流には、それぞれ、塗布液を受けるオーバーフロー液溜め60、62が形成されており、給液流路50から所望塗布液量よりも過剰に吐出した塗布液のうち、帯状支持体14に付着しなかった塗布液が堰板46の側面を落流してオーバーフロー液溜め60に溜まり、切欠きロッド42の切欠き部42Aから落流した塗布液がオーバーフロー液溜め62に溜まる。これらのオーバーフロー液溜め60、62に溜められた塗布液は、戻し管64を介して塗布液貯留タンク56に戻される。戻し管64には、戻しポンプ66が設けられている。
【0037】
次に上記の如く構成されたロッド塗布装置40の作用について図5(A)及び(B)を使用して説明する。図5(B)は図5(A)の破線で囲んだ○部分の拡大図である。
【0038】
帯状支持体14が給液流路50の上方を通過すると、給液流路50から上方に吐出された所望塗布液量よりも過剰な塗布液は、一部の塗布液が帯状支持体14に付着して下流側に向かって運ばれ、残りの塗布液が堰板46の側面から落流する。次に、帯状支持体14に付着した塗布液は、帯状支持体14の走行によって計量用のロッドである切欠きロッド42に運ばれ、帯状支持体14と切欠きロッド42との間に持ち込まれ、ここで所望塗布液量に計量される。この計量時において切欠きロッド42を回転させないと、図5(B)に示すように、帯状支持体14と切欠きロッド42との間に持ち込まれた塗布液は、塗布液の厚み方向(換言すると帯状支持体14と切欠きロッド42との間のギャップ量hの方向)において速度分布が形成される。即ち、連続走行する帯状支持体14に近い塗布液の速度V1は速く、回転せずに停止している切欠きロッド42のロッド面に近い塗布液の速度Vnは遅くなる。そして、切欠きロッド42は、帯状支持体14がラップされるロッドラップ面の下流側端部近傍に切り欠かれた切欠き部42Aを有しているので、切欠きロッド42に近い塗布液は帯状支持体14の走行に同伴されることなく切欠き部42Aに滞留するか、若しくは図5に破線矢印で示すように切欠き部42Aから落流する。この結果、帯状支持体14と切欠きロッド42との間に持ち込まれた塗布液量の1/10程度の少ない塗布液を最終的に帯状支持体14に塗布することが可能となる。
【0039】
これにより、本発明は従来の切欠きのないロッドに比べ、給液流路50から吐出する塗布液量を多くしても最終的に塗布される所望塗布液量を小さくすることができる。従って、例えば帯状支持体14に最終的に塗布する塗布膜液量が5cc/m2 以下の薄膜塗布を行う場合であっても、帯状支持体14と切欠きロッド42との間に持ち込まれる塗布液を増加して帯状支持体14と切欠きロッド42とのギャップ量hを大きくすることができるので、帯状支持体14と切欠きロッド42とが接触することがない。
【0040】
また、ラップ角θ2、帯状支持体14の走行速度、塗布液の粘度、帯状支持体14に加える張力T、切欠きロッド42の直径を変えることによっても帯状支持体14への最終的な塗布液量を制御できるので、所望塗布液量に応じてこれらの因子を制御すればよい。従って、本発明のロッド塗布装置40を使用すれば、不良箇所のない平版印刷版を安定して製造することができる。
【実施例】
【0041】
本発明の図2〜図5で説明したロッド塗布装置40と、図6及び図7で示した従来のロッド塗布装置とを使用し、薄膜塗布した場合の塗布膜面の良し悪しを対比した。
【0042】
比較例1は、従来のロッド塗布装置で、計量用のロッドとして切欠きのない直径Dが10mmの円柱状ロッドを用い、40m/分で走行する帯状支持体14の走行方向と同方向に5rpmで回転させたものである。
【0043】
比較例2は、従来のロッド塗布装置で、計量用のロッドとして切欠きのない直径Dが30mmの円柱状ロッドを用いた以外は比較例1と同様の条件で行った。
【0044】
実施例1は、本発明のロッド塗布装置で、図2のV字の角度が略90°な断面V字溝状の直径Dが30mmの切欠きロッド42を備えたもので、角度θ1を10°に設定した。また、サポートローラ52,54は使用しなかった。それ以外の条件は比較例1と同様である。
【0045】
実施例2は、本発明のロッド塗布装置で、実施例1にサポートローラ52,54を追加した以外は実施例1と同様である。この場合、サポートローラ52,54の軸芯から鉛直線Bに下ろした垂線の距離が30mmになるようにサポートローラ52,54を配置した。
【0046】
尚、実施例及び比較例ともに、帯状支持体14の幅寸法は220mmとし、走行方向張力を30kg/mとした。また、塗布液の粘度は10cP(0.01Pas)とした。
【0047】
実施例及び比較例の試験結果を表1に示す。
【表1】

※は測定不可を意味する。また、ギャップ量とは帯状支持体とロッドとのギャップ量である。
【0048】
表1の結果から分かるように、比較例1及び2では、塗布膜の全面にスリキズ或いはリップル筋が発生したが、実施例1及び2では、スリキズ及びリップル筋の何れも発生せず、良好な塗布膜面質を得ることができた。
【0049】
また、実施例1及び2の対比から分かるように、本発明のロッド塗布装置において、サポートローラを設けることによって、帯状支持体の幅方向の厚みムラを小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明のロッド塗布装置を備えた平版印刷版用原反の製造ラインの一例を示す構成図
【図2】本発明のロッド塗布装置の側面断面図
【図3】本発明のロッド塗布装置の主として切欠きロッドを説明する斜視図
【図4】切欠きロッドの切欠き部の形状の態様を示した説明図
【図5】本発明のロッド塗布装置における切欠きロッドの作用を説明する説明図
【図6】従来のロッド塗布装置の側面断面図
【図7】従来のロッド塗布装置の斜視図
【符号の説明】
【0051】
10…平版印刷版用原反の製造ライン、12…送出機、14…帯状支持体、16…表面処理部、18…バックコート層塗布・乾燥部、20…下塗り塗布・乾燥部、22…感光層塗布・乾燥部、24…オーバーコート層塗布・乾燥部、26…調湿ゾーン、28…巻取機、31…水分分析計、32…空調ユニット、40…ロッド塗布装置、42…切欠きロッド、42A…切欠き部、42B…切欠きエッジ、44…ロッド支持部材、46…堰板、48…基台、50…給液流路、51…マニホールド、52、54…サポートローラ、53…給液管、56…塗布液貯留タンク、58…給液ポンプ、60、62…オーバーフロー液溜め、64…戻し管、66…戻しポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続走行する可撓性の帯状支持体に塗布液付着手段で塗布液を所望塗布液量よりも過剰に塗布した直後、前記帯状支持体の塗布面側を、表面が平滑に形成された計量用のロッドにラップさせることにより前記帯状支持体に塗布される最終的な塗布液量が前記所望塗布液量になるように計量するロッド塗布方法において、
前記計量用のロッドとして、前記帯状支持体がラップされるロッドラップ面の下流側端部近傍が切り欠かれた切欠き部を有すると共に、塗布中は回転しないように固定された切欠きロッドを用いることを特徴とするロッド塗布方法。
【請求項2】
前記最終的な塗布膜液量が5cc/m2 以下の薄膜塗布を行うことを特徴とする請求項1のロッド塗布方法。
【請求項3】
前記切欠きロッドを挟んだ上流側と下流側とに一対のサポートローラを設け、該サポートローラで前記帯状支持体を切欠きロッドに押圧することを特徴とする請求項1又は2のロッド塗布方法。
【請求項4】
前記切欠きロッドの軸芯から前記ロッドラップ面を通る鉛直線に対して、前記サポートローラの軸芯から下ろした垂線の距離が30mm以内になるように前記一対のサポートローラを配置することを特徴とする請求項3のロッド塗布方法。
【請求項5】
前記帯状支持体の走行方向における張力を50kg/m以下にすることを特徴とする請求項1〜4の何れか1のロッド塗布方法。
【請求項6】
前記帯状支持体は、連続した帯状のアルミニウム薄板の少なくとも一方の面を砂目立てした平版印刷版用の支持体であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1のロッド塗布方法。
【請求項7】
連続走行する可撓性の帯状支持体に所望塗布液量よりも過剰に塗布液を付着させる塗布液付着手段と、
前記塗布液付着手段の下流側に隣接配置され、表面が円滑に形成されていると共に前記帯状支持体がラップされるロッドラップ面の下流側端部近傍が切り欠かれた切欠き部を有する切欠きロッドと、
前記切欠きロッドが塗布中に回転しないように固定する固定手段と、
前記切欠きロッドを塗布停止時に回転させ、前記切欠きロッドの軸芯から前記ロッドラップ面を通る鉛直線に対する前記切欠き部までの角度を調整する切欠き位置調整手段と、を備えたことを特徴とするロッド塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−75798(P2006−75798A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−265427(P2004−265427)
【出願日】平成16年9月13日(2004.9.13)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】