説明

ロータ素材の製造方法

【課題】ロータ素材を効率良く製造する。
【解決手段】本発明は、外周部に軸心方向に沿うベーン溝3a,3bが設けられるロータ素材Wa,Wbを製造する製造方法を対象とする。鍛造素材W1の一方側にその一方側端面から、ベーン溝形成用の溝付けフィン43を有する一方側金型Paを相対的に打ち込んで、一方側ベーン溝3aを形成する一方側鍛造工程と、鍛造素材W1の他方側にその他方側端面から、ベーン溝形成用の溝付けフィン23を有する他方側金型Pbを相対的に打ち込んで、一方側ベーン溝3aに対し周方向に位相をずらせて配置される他方側ベーン溝3bを形成する他方側鍛造工程と、両側に前記ベーン溝3a,3bが形成された鍛造加工品W2を、その一方側および他方側を切り取ってそれぞれロータ素材Wa,Wbとする切取工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、外周部にベーン溝を有するロータ素材を製造するためのロータ素材の製造方法およびその関連技術に関する。
【背景技術】
【0002】
コンプレッサーのロータやブレーキ制御用のロータリー式真空ポンプのロータは、外周部に軸心に対し平行なベーン溝を周方向に等間隔おきに複数形成したものが一般的である。また、自動車に搭載する空調用ロータリー式コンプレッサーのロータやブレーキ制御用のロータリー式真空ポンプのロータは、軽量化を目的としてアルミニウム合金製が主流になっており、鍛造加工を用いて製造するのが一般的である。
【0003】
例えば下記特許文献1に示すロータ製造装置は、下金型の成形孔にベーン溝形成用の溝付けフィンが形成されており、その成形孔上にセットした円柱形の鍛造素材を、上金型により下方に加圧して、鍛造素材を成形孔内に充填することにより、ベーン溝が形成されたロータ素材を成形するようにしている。
【0004】
また下記特許文献2に示すロータ製造装置は、上金型の成形面に、ベーン溝形成用の溝付けフィンが設けられており、下金型の成形孔内セットされた鍛造素材に、上金型の溝付けフィンを打ち込んでベーン溝を形成し、ロータ素材として用いるものである。
【特許文献1】特開平11−230068号公報
【特許文献2】特開2000−220588号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1,2に示す従来のロータ製造装置は、1つの金型において、ロータ素材を1個ずつ生産するものであるが、近年においては、ロータの生産技術分野に限られず、各種の生産技術分野において可及的に、生産効率の向上が求められているのが現状である。
【0006】
この発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、ロータ素材を効率良く製造することができるロータ素材の製造方法およびその関連技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明は、以下の構成を備えている。
【0008】
[1] 外周部に軸心方向に沿うベーン溝が周方向に間隔をおいて複数設けられるロータ素材を製造するようにしたロータ素材の製造方法であって、
円柱形の鍛造素材における軸心方向の一方側にその一方側端面から、ベーン溝形成用の複数の溝付けフィンを有する一方側金型を相対的に打ち込んで、一方側端面から中間部にかけて配置される複数の一方側ベーン溝を形成する一方側鍛造工程と、
鍛造素材における軸心方向の他方側にその他方側端面から、ベーン溝形成用の複数の溝付けフィンを有する他方側金型を相対的に打ち込んで、前記複数の一方側ベーン溝に対し周方向に位相をずらせて配置され、かつ他方側端面から中間部にかけて配置される複数の他方側ベーン溝を形成する他方側鍛造工程と、
前記一方側鍛造工程および前記他方側鍛造工程によって、両側に前記ベーン溝が形成された鍛造加工品を、その一方側および他方側を切り取ってそれぞれロータ素材として用いる切取工程と、を含むことを特徴とするロータ素材の製造方法。
【0009】
[2] 前記一方側鍛造工程および前記他方側鍛造工程を同時に行うようにした前項1に記載のロータ素材の製造方法。
【0010】
[3] 前記切取工程において、鍛造加工品をその軸心方向の中間部で切断して2分割し、両分割体をそれぞれ前記ロータ素材として構成するようにした前項1または2に記載のロータ素材の製造方法。
【0011】
[4] 鍛造加工品の前記一方側ベーン溝における中間部側の端部と、前記他方側ベーン溝における中間部側の端部とが軸心方向の同じ位置に配置される前項1〜3のいずれか1項に記載のロータ素材の製造方法。
【0012】
[5] 前記一方側ベーン溝における中間部側の端部と前記他方側ベーン溝における中間部側の端部とが鍛造加工品における軸心方向の中点位置に配置される前項4に記載のロータ素材の製造方法。
【0013】
[6] 鍛造加工品における前記一方側ベーン溝および前記他方側ベーン溝が、軸心方向に離間して配置される前項1〜3のいずれか1項に記載のロータ素材の製造方法。
【0014】
[7] 上記両ベーン溝の離間寸法が、前記切取工程においてロータ素材を切り取る際に用いられる切削工具の切削幅以下に設定される前項6に記載のロータ素材の製造方法。
【0015】
[8] 鍛造加工品における前記一方側ベーン溝および前記他方側ベーン溝が、軸心方向にラップして配置される前項1〜3のいずれか1項に記載のロータ素材の製造方法。
【0016】
[9] 上記両ベーン溝のラップ寸法が、前記切取工程においてロータ素材を切り取る際に用いられる切削工具の切削幅以下に設定される前項8に記載のロータ素材の製造方法。
【0017】
[10] 前記一方側金型および前記他方側金型に、軸心方向に沿って鍛造素材にシャフト孔を形成するための孔開けピンを設けておき、
前記一方側鍛造工程によって、鍛造加工品の一方側に、一方側端面から中間部にかけて一方側シャフト孔を形成するとともに、
前記他方側鍛造工程によって、鍛造加工品の他方側に、他方側端面から中間部にかけて他方側シャフト孔を形成するようにした前項1〜6のいずれか1項に記載のロータ素材の製造方法。
【0018】
[11] 鍛造加工品における前記一方側のシャフト孔および前記他方側のシャフト孔が、軸心方向に離間して配置され、
その離間寸法が、前記切取工程においてロータ素材を切り取る際に用いられる切削工具の切削幅以下に設定される前項10に記載のロータ素材の製造方法。
【0019】
[12] 前記切削工具として、切削幅が0.5〜10mmのものが用いられる前項7,9,11のいずれか1項に記載のロータ素材の製造方法。
【0020】
[13] 鍛造素材として、アルミニウムまたはアルミニウム合金製のものが用いられる前項1〜12のいずれか1項に記載のロータ素材の製造方法。
【0021】
[14] 外周部に軸心方向に沿うベーン溝が周方向に間隔をおいて複数設けられるロータ素材が、軸心方向の一方側および他方側にそれぞれ一体に設けられた略円柱形の鍛造加工品を得るための鍛造加工方法であって、
円柱形の鍛造素材における軸心方向の一方側にその一方側端面から、ベーン溝形成用の複数の溝付けフィンを有する一方側金型を相対的に打ち込んで、一方側端面から中間部にかけて配置される複数の一方側ベーン溝を形成する一方側鍛造工程と、
鍛造素材における軸心方向の他方側にその他方側端面から、ベーン溝形成用の複数の溝付けフィンを有する他方側金型を相対的に打ち込んで、前記複数の一方側ベーン溝に対し周方向に位相をずらせて配置され、かつ他方側端面から中間部にかけて配置される複数の他方側ベーン溝を形成する他方側鍛造工程と、含むことを特徴とする鍛造加工方法。
【0022】
[15] 外周部に軸心方向に沿うベーン溝が周方向に間隔をおいて複数設けられるロータ素材が、軸心方向の一方側および他方側にそれぞれ一体に設けられた略円柱形の鍛造加工品を得るための鍛造加工装置であって、
ベーン溝形成用の複数の溝付けフィンを有し、円柱形の鍛造素材における軸心方向の一方側にその一方側端面から相対的に打ち込むことにより、一方側端面から中間部にかけて配置される複数の一方側ベーン溝を形成するための一方側金型と、
ベーン溝形成用の複数の溝付けフィンを有し、鍛造素材における軸心方向の他方側にその他方側端面から相対的に打ち込むことにより、前記複数の一方側ベーン溝に対し周方向に位相をずらせて配置され、かつ他方側端面から中間部にかけて配置される複数の他方側ベーン溝を形成するための他方側金型と、を備えたことを特徴とする鍛造加工装置。
【発明の効果】
【0023】
発明[1]のロータ素材の製造方法によれば、1つの鍛造素材から2つ分のロータ素材を製造でき、生産効率を向上させることができる。
【0024】
発明[2]のロータ素材の製造方法によれば、一層生産効率を向上させることができる。
【0025】
発明[3]のロータ素材の製造方法によれば、上記の効果をより確実に得ることができる。
【0026】
発明[4]〜[5]のロータ素材の製造方法によれば、余肉部が発生するのを防止することができる。
【0027】
発明[6]のロータ素材の製造方法によれば、一方側および他方側のベーン溝形成時に、互いのメタルフローの影響を少なくできて、寸法精度を向上させることができる。
【0028】
発明[7]のロータ素材の製造方法によれば、余肉部が発生するのを防止することができる。
【0029】
発明[8]のロータ素材の製造方法によれば、ベーン溝をロータ素材の端面まで確実に形成することができる。
【0030】
発明[9]のロータ素材の製造方法によれば、余肉部が発生するのを防止することができる。
【0031】
発明[10]のロータ素材の製造方法によれば、シャフト孔も確実に形成することができる。
【0032】
発明[11]のロータ素材の製造方法によれば、余肉部が発生するのを防止することができる。
【0033】
発明[12]のロータ素材の製造方法によれば、余肉部が発生するのをより確実に防止することができる。
【0034】
発明[13]のロータ素材の製造方法によれば、アルミニウムまたはアルミニウム合金製のロータ素材を製造することができる。
【0035】
発明[14]の鍛造加工方法によれば、上記と同様に、効率良くロータ素材を作製することができる。
【0036】
発明[15]の鍛造加工装置によれば、上記と同様に、効率良くロータ素材を作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
<ロータ素材>
まず始めにこの発明の実施形態によって製造されるロータ素材(Wa)(Wb)の構成について説明する。図9に示すように、ロータ素材(Wa)(Wb)は、シャフト孔としてのセンター孔(2a)(2b)および複数のベーン溝(3a)(3b)が形成された円柱体をもって構成されている。センター孔(2a)(2b)は、軸心に沿って形成されて、シャフトを貫通配置できるように構成されている。ベーン溝(3a)(3b)は、ロータ素材(Wa)(Wb)の外周部に、周方向に等間隔おきに5つ形成されており、軸心に対し平行に配置されている。ベーン溝(3a)(3b)は、外周面から径方向に対し傾斜する方向に切り込むように形成されて、ロータ素材(Wa)(Wb)の一端面(打込面1a,1b)から他端面(切断面1c,1c)にかけて連続して形成され、両端面で開放されている。さらにこのベーン溝(3a)(3b)の奥部は、大径の円形に形成されて、軸心(センター孔2a,2b)に対し偏心した位置に配置されている。
【0038】
ロータ素材(Wa)(Wb)の材料としては一般にアルミニウムまたはアルミニウム合金が用いられ、その一例としてSi:14〜16質量%、Cu:4〜5質量%、Mg:0.45〜0.65質量%、Fe:0.5質量%以下、Mn:0.1質量%以下、Ti:0.2質量%以下を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金を挙げることができる。
【0039】
<鍛造加工品>
本実施形態においては、鍛造加工によって特有構成の鍛造加工品(W2)を作製し、その鍛造加工品(W2)から上記ロータ素材(Wa)(Wb)を作製するものである。次にこの鍛造加工品(W2)の構成について説明する。
【0040】
図5〜8に示すように本実施形態の鍛造加工品(W2)は、2つのロータ素材(Wa)(Wb)を、互いの軸心を一致させるように一体に連接された構成を備え、鍛造加工品(W2)の一方側半部は、一方側のロータ素材(Wa)によって構成されるとともに、他方側半部は、他方側のロータ素材(Wb)によって構成されている。すなわちこの鍛造加工品(W2)は、軸心に沿って一方側および他方側にセンター孔(2a)(2b)が形成された円柱体をもって構成されており、一方側半部の外周部には、5つの一方側ベーン溝(3a)が形成されるとともに、他方側半部の外周部には、5つの他方側ベーン溝(3b)が形成されている。
【0041】
一方側ベーン溝(3a)は、鍛造加工品(W2)の一方側端面(1a)から軸心方向の中点位置まで形成されている。他方側ベーン溝(3b)は、一方側ベーン溝(3a)の各間に配置されるように、一方側ベーン溝(3a)に対し周方向に位相をずらせた位置で、他方側端面(1b)から軸心方向の中点位置まで形成されている。換言すれば、一方側ベーン溝(3a)における中間部側の端部(3c)と、他方側ベーン溝(3b)における中間部側の端部(3c)とは、軸心方向の同じ位置に配置されている。
【0042】
また一方側センター孔(2a)の中間部側の端部(2c)と、他方側センター孔(2b)の中間部側の端部(2c)とは、軸心方向に離間して配置され、両センター孔(2a)(2b)間は閉塞されている。
【0043】
また本実施形態においては、隣り合う一方側ベーン溝(3a)間における周方向の中間位置(中点位置)に、他方側ベーン溝(3b)が配置されるように構成されており、一方側ベーン溝(3a)および他方側ベーン溝(3b)間の位相差(周方向における位相のずれ量)は、隣り合う一方側ベーン溝(3a)(3a)間における位相差の半分に相当する。換言すれば隣り合う一方側ベーン溝(3a)(3a)間の位相差(角度)をX°としたとき、他方側ベーン溝(3b)は、一方側ベーン溝(3a)に対し0.5X°だけ周方向に位相をずらせて配置されている。
【0044】
本実施形態においては、上記の鍛造加工品(W2)を軸心方向の中点位置で、軸心方向に対し直交する平面に沿って分割して、その両分割体をそれぞれロータ素材(Wa)(Wb)として構成するものである。ここで本実施形態においては、鍛造加工品(W2)の両端面(1a)(1b)が、各ロータ素材(Wa)(Wb)の打込面(1a)(1b)として構成されるとともに、鍛造加工品(W2)を分割した際の分割面が、各ロータ素材(Wa)(Wb)の切断面(1c)(1c)として構成されている(図9参照)。
【0045】
<鍛造加工装置>
次に上記鍛造加工品(W2)を製造するための鍛造加工装置(ダイセット)について説明する。図1〜4Bに示すように、この鍛造加工装置は、上金型(Pa)と、下金型(Pb)とを備えている。
【0046】
下金型(Pb)は、ベースプレート(10)と、ベースプレート(10)上に配置されるダイス(20)と、ダイス(20)上に配置されるブッシュ(30)とを備えている。
【0047】
ダイス(20)には、上下に貫通する成形孔(21)が設けられ、この成形孔(21)によって鍛造素材(W1)の下側半部を鍛造加工できるようになっている。成形孔(21)内には、鍛造素材(W1)の下側半部にベーン溝(3b)を形成するための5つの溝付けフィン(23)が周方向に等間隔おきに形成されている。各溝付けフィン(23)は、成形孔(21)の内周側面から内径方向へ突出するようにダイス(20)に一体に形成されている。さらに溝付けフィン(23)は、ベーン溝(3b)の断面形状に対応する断面形状を有しており、内端(先端)が円形断面に形成された薄板形状を有している。
【0048】
ダイス(20)の下面側に配置されるベースプレート(10)には、その軸心に沿ってセンターピン取付孔(12)が設けられている。そしてこの取付孔(12)には、センターピン(22)の下側部が取り付けられ、これにより、そのセンターピン(22)の上側部が、ダイス(20)における成形孔(21)の軸心に沿って配置される。このセンターピン(22)は、鍛造素材(W1)の下側半部にセンター孔(2b)を形成するための孔開けピンとして構成されている。
【0049】
さらにベースプレート(10)には、センターピン(22)を取り囲むようにして複数のノックアウトピン取付孔(13)が周方向に等間隔おきに形成されている。各ノックアウトピン取付孔(13)内には、ノックアウトピン(14)が軸心方向(上下方向)にスライド自在にそれぞれ収容される。このノックアウトピン(14)は、図示しない駆動手段によって昇降自在に構成されており、後述するように鍛造加工品(W2)を排出する際に、ノックアウトピン(14)が上昇して、鍛造加工品(W2)を突き出すことができるようになっている。
【0050】
ダイス(20)の上面側に配置されブッシュ(30)には、上記成形孔(21)に対応して、上下に貫通するワーク装填孔(31)が設けられている。ワーク装填孔(31)の内周面には、上下方向に連続する5つのガイド溝(33)が周方向に等間隔おきに形成されている。ガイド溝(33)は、ダイス(20)の上記溝付けフィン(23)に対し周方向に位相をずらせた位置に配置されており、溝付けフィン(23)の各間における中間位置(中点位置)に対応して配置されている。
【0051】
ベースプレート(10)、ダイス(20)およびブッシュ(30)等の下金型(Pb)を組み付けた状態では、ワーク装填孔(31)が、成形孔(21)に対して連通するとともに、センターピン(22)が、成形孔(21)の軸心に沿って配置されて、成形孔(21)の内部形状が、鍛造加工品(W2)の下側半部の反転形状となる。
【0052】
なお図3Aに示すように鍛造加工を開始する直前の準備段階においては、ノックアウトピン(14)の先端面(上端面)が、ベースプレート(10)の上面に対し同一平面内に配置されて、ノックアウトピン(14)の先端面が形成加工面の一部を構成している。
【0053】
上金型(Pa)は、ホルダー(40)と、ホルダー(40)の上面側に配置される取付プレート(60)とを備えている。
【0054】
図2〜4Bに示すように、ホルダー(40)は、ホルダー本体(50)と、抑えプレート(57)とを備えている。ホルダー本体(50)は、その上側部を構成し、かつ上向きに開放された凹部(56)が設けられた大径円筒部(55)と、大径円筒部(55)の下面側中央に下方突出状に一体に形成された略円柱形状のパンチ部(51)とを有している。
【0055】
パンチ部(51)の外周形状は、上記ブッシュ(30)のワーク装填孔(31)の内周形状に対応して形成されており、パンチ部(51)が、ワーク装填孔(31)に挿入できるよう構成されている。
【0056】
ホルダー本体(50)には、軸心方向に沿って上下に貫通するセンターピン取付孔(52)が形成されている。このセンターピン取付孔(52)は、上端が大径円筒部(55)の凹部(56)内にける底壁上面に開放されるとともに、下端がパンチ部(51)の下端面に開放されている。
【0057】
またホルダー本体(50)には、センターピン取付孔(52)を取り囲むようにして、5つの溝付けフィン取付部(53)が周方向に等間隔おきに形成されている。この溝付けフィン取付部(53)は、上下方向に連続し、上端が大径円筒部(55)の凹部(56)内における底壁上面に開放されるとともに、下端がパンチ部(51)の下端面に開放されている。この溝付けフィン取付部(53)は、大径円筒部(55)においては凹部底壁を貫通する貫通孔によって構成されるとともに、パンチ部(51)においては外周部に形成された溝によって構成されている。さらに溝付けフィン取付部(53)は、上記ブッシュ(30)のワーク装填孔(31)に設けられるガイド溝(33)に対応して配置されており、上記下金型(Pb)の溝付けフィン(23)の各間における中間位置(中点位置)に対応して配置されている。
【0058】
なお溝付けフィン取付部(53)の断面形状は、鍛造加工品(W2)におけるベーン溝(3a)の断面形状に対応している。
【0059】
上記5つの溝付けフィン取付部(53)には、鍛造素材(W1)の上側半部にベーン溝(3a)を形成するための溝付けフィン(43)が、その下部をパンチ部(51)の下端面から下方に突出させるようにしてそれぞれ挿着される。これによりパンチ部(51)の下方側において、5つの溝付けフィン(43)が周方向に等間隔おきに配置される。この溝付けフィン(43)は、上記下金型(Pb)における溝付けフィン(23)の各間の中間位置(中点位置)に対応して配置される。
【0060】
また溝付けフィン(43)は、上記の溝付けフィン(23)と同様、ベーン溝(3a)の断面形状に対応する断面形状を有しており、内端が円形断面に形成された薄板形状を有している。
【0061】
さらに溝付けフィン(43)における径方向の外側端部(外端)は、パンチ部(51)の外周面より外径方向に少し突出するように配置されて、その外方突出部が後述するように、ブッシュ(30)のワーク装填孔(31)におけるガイド溝(33)にそれぞれ収容可能に構成されている。
【0062】
またホルダー本体(50)における凹部(56)には、円板状の上記抑えプレート(57)が嵌合されて、その抑えプレート(57)によって、溝付けフィン(43)の上方への移動が規制されている。
【0063】
抑えプレート(57)には、ホルダー本体(50)のセンターピン取付孔(52)に対応して、センターピン取付孔(58)が形成されている。
【0064】
ホルダー(40)の上面に組み付けられる円板状の取付プレート(60)には、ホルダー(40)のセンターピン取付孔(52)(58)に対応して、センターピン取付孔(62)が形成されている。
【0065】
そして取付プレート(60)およびホルダー(40)の各センターピン取付孔(52)(58)(62)には、センターピン(42)がその下側部がパンチ部(51)の下端面よりも下方に突出する態様に挿着される。このセンターピン(42)は、鍛造素材(W1)の上側半部にセンター孔(2a)を形成するための孔開けピンを構成するものであり、パンチ部(51)の軸心に沿って配置されている。
【0066】
ホルダー(40)および取付プレート(60)等の上金型(Pa)は、図示しない昇降駆動手段によって昇降駆動するようになっている。
【0067】
なお言うまでもなく、上金型(Pa)は、その軸心が下金型(Pb)の軸心と一致するように配置されて、ダイセット(鍛造加工装置)が構成されている。
【0068】
<鍛造加工(鍛造工程)>
次に上記鍛造加工装置を用いて、鍛造加工品(W2)を製造する方法について説明する。
【0069】
図3Aに示すように、上金型(Pa)および下金型(Pb)の所要部分に潤滑剤を塗布し、円柱形の鍛造素材(W1)を下金型(Pb)におけるブッシュ(30)の装填孔(31)に装填する。
【0070】
本実施形態において、鍛造素材(W1)は、連続鋳造材を所定長さに切断する等の方法により製作されたものであり、必要に応じて所定温度に加熱されている。なお本発明においては、鍛造素材(W1)としては、連続鋳造材の他に、押出材およびこれらの圧延材等も使用することができる。
【0071】
潤滑剤としては、水性黒鉛潤滑剤、油性黒鉛潤滑剤等を例示でき、鍛造素材(W1)と金型(Pa)(Pb)との間でカジリが発生しないようにするには、水性黒鉛潤滑剤と油性黒鉛潤滑剤とを併用することが好ましい。潤滑剤の塗布量はそれぞれ4〜20g程度である。さらに金型(Pa)(Pb)の加熱温度はそれぞれ150〜300℃が好ましく、また鍛造素材(W1)がアルミニウム合金の場合には、予備加熱温度は400〜450℃が好ましい。
【0072】
上記したように鍛造素材(W1)を下金型(Pb)のブッシュ装填孔(31)に装填した状態で図3Bに示すように、上金型(Pa)を降下させる。この降下の際に上金型(Pa)の溝付けフィン(43)が、ブッシュ(30)の装填孔(31)に進入すると同時に、各溝付けフィン(43)の外周端が、装填孔(31)の内周面に設けられた複数のガイド溝(33)にそれぞれ収容される。従って上金型(Pa)の溝付けフィン(43)およびセンターピン(42)等のパンチ部品がガイド溝(33)にガイドされることにより、位置精度良く降下していく。
【0073】
そして溝付けフィン(43)およびセンターピン(42)が鍛造素材(W1)の上側部に打ち込まれながら、鍛造素材(W1)の下側部が下方に押し込まれて成形孔(21)内に圧入されていく。これにより鍛造素材(W1)の上側半部においては、センターピン(42)が中心部に打ち込まれて、上端面から軸心方向(上下方向)の中間部までセンター孔(2a)が形成されるとともに、溝付けフィン(43)が外周部に打ち込まれて、上端面から軸心方向中点位置まで複数のベーン溝(3a)が形成される。さらに鍛造素材(W1)の下側半部は、ダイス(20)の成形孔(21)内に圧入されることにより、センターピン(22)が相対的に中心部に打ち込まれて、下端面から軸心方向の中間部までセンター孔(2b)が形成されるとともに、溝付けフィン(23)が相対的に外周部に打ち込まれて、下端面から軸心方向中点位置まで複数のベーン溝(43)が形成される。
【0074】
そして上金型(Pa)を下死点まで降下させることにより、鍛造素材(W1)の成形が完了して、上記した構成の鍛造加工品(W2)が形成される。
【0075】
その後図3Cに示すように、上金型(Pa)を上昇させるとともに、ノックアウトピン(14)を上昇させて、そのノックアウトピン(14)により鍛造加工品(W2)を突き上げて成形孔(21)および装填孔(31)から排出する。
【0076】
なお本実施形態においては、上金型(Pa)等によってセンター孔(2a)およびベーン溝(3a)を成形する工程が、一方側鍛造工程として構成されるとともに、下金型(Pb)等によってセンター孔(2b)およびベーン溝(3b)を成形する工程が、他方側鍛造工程として構成されている。
【0077】
<切断加工>
次に、上記の鍛造加工によって得られた鍛造加工品(W2)を、その軸心方向の中点位置で、軸心に対し直交する平面に沿って切断し、鍛造加工品(W2)を均等に2分割する。こうして得られた2つの分割体をそれぞれ、ロータ素材(Wa)(Wb)として用いるものである。なおこのロータ素材(Wa)(Wb)の構成は、既述した通りである。
【0078】
ここで本実施形態においては、鍛造加工品(W2)を分割した際に、各分割体によって構成されるロータ素材(Wa)(Wb)の切断面(1c)(1c)には、センター孔(2a)(2b)やベーン溝(3a)(3b)を被覆または閉塞するような余肉部が形成されないようになっている。
【0079】
まず図7に示すように本実施形態では、鍛造加工品(W2)の一方側ベーン溝(3a)における中間部側の端部(3c)と、他方側ベーン溝(3b)における中間部側の端部(3c)とが、鍛造加工品(W2)における軸心方向の中点位置に配置されている。つまり一方側ベーン溝(3a)における中間部側の端部(3c)と、他方側ベーン溝(3b)における中間部側の端部(3c)とが、軸心方向において位置的に一致している。このため、鍛造加工品(W2)を上記したように軸心方向の中点位置において分割することにより、両分割体(Wa)(Wb)の切断面(1c)(1c)において、一方側および他方側ベーン溝(3a)(3b)がそれぞれ開放される。従ってロータ素材(Wa)(Wb)の切断面(1c)(1c)に、ベーン溝(3a)(3b)を被覆または閉塞するような余肉部が形成されるのを防止することができる。なお図7において破線は、鍛造加工品(W2)の分割ラインを示している。
【0080】
また鍛造加工品(W2)を分割した際には以下に説明するように、ロータ素材(Wa)(Wb)の切断面(1c)(1c)に、センター孔(2a)(2b)を被覆するような余肉部が形成されるのも防止することができる。すなわちセンター孔(2a)(2b)は共に、鍛造加工品(W2)の軸心に沿って形成されるため、本実施形態のように、上下両側からセンターピン(22)(42)を同時に打ち込んで、両センター孔(2a)(2b)を形成する場合には、打ち込まれる両センターピン(2a)(2b)間の肉の移動が規制される。従って図8に示すように、両センター孔(2a)(2b)間を連通させることができず、一方側センター孔(2a)における中間部側の端部(2c)と、他方側センター孔(2b)における中間部側の端部(2c)との間に閉塞部が形成され、両孔(2a)(2b)が軸心方向に離間して配置される。
【0081】
ところが、鍛造加工品(W2)の分割に用いられる切削工具としては例えば、ワイヤーカット、丸鋸等が用いられるが、例えば丸鋸で部材を切断する場合、鋸歯(切削歯)の厚みに相当する分の切削厚み(切削代)が必要となり、切削代の幅でもって部材が切断される。
【0082】
そこで本実施形態においては、両センター孔(2a)(2b)の軸心方向の離間寸法(L2)を、切削代(切削幅)以下に設定しておいて、両センター孔(2a)(2b)間において鍛造加工品(W2)を切断することにより、その切断時に両センター孔(2a)(2b)間の閉塞部を切除して消失させるようにしてる。従って鍛造加工品(W2)を上記切削工具にって分割した際には、両分割体(Wa)(Wb)の切断面(1c)(1c)において、一方側および他方側センター孔(2a)(2b)がそれぞれ開放されて、ロータ素材(Wa)(Wb)の切断面(1c)(1c)に、センター孔(2a)(2b)を被覆または閉塞するような余肉部が形成されるのを防止することができる。
【0083】
ここで本発明においては切削工具としては通常、切削幅が0.5〜10mmのものが用いられるため、上記離間寸法(L2)は、この切削幅以下に設定するのが好ましい。
【0084】
<本製法の特徴>
以上のように本実施形態のロータ素材の製造方法によれば、鍛造素材(W1)の一方側(上側)半部に、一方側センター孔形成用のセンターピン(42)および一方側ベーン溝形成用の溝付けフィン(43)を打ち込んで、一方側センター孔(2a)および一方側ベーン溝(3a)を形成すると同時に、鍛造素材(W1)の他方側(下側半部)を、他方側センター孔形成用のセンターピン(22)および他方側ベーン溝形成用の溝付けフィン(23)を設けた成形孔(21)内に圧入して、他方側センター孔(2b)および他方側ベーン溝(3b)を形成するようにしているため、1つの鍛造素材(W1)から、1サイクル(1ストローク)の鍛造加工によって、2つのロータ素材(Wa)(Wb)を作製することができる。従って本実施形態の製造方法は、1つの鍛造素材から1つのロータ素材を製造する従来の製造方法と比較して、効率良くロータ素材(Wa)(Wb)を作製することができ、生産効率を向上させることができる。
【0085】
さらに本実施形態においては、上金型(Pa)の溝付けフィン(43)に対し、下金型(Pb)の溝付けフィン(23)を周方向に位相をずらして配置しているため、両溝付けフィン(43)(23)を鍛造素材(W1)に相対的に打ち込む際に、両溝付けフィン(43)(23)が互いに干渉するのを防止することができ、所望の長さおよび大きさのベーン溝(3a)(3b)を不具合なく確実に形成することができ、製品品質を一層向上させることができる。
【0086】
しかも、溝付けフィン(43)(23)を周方向に位相をずらして配置しているため、加圧加工時における両溝付けフィン(43)(23)の応力が、互いに直接干渉し合うのを防止でき、金型(Pa)(Pb)への負荷を軽減できて、金型の寿命(耐久性)を向上させることができる。
【0087】
また本実施形態では、鍛造加工品(W2)における一方側ベーン溝(3a)の中間部側の端部(3c)と、他方側ベーン溝(3b)の中間部側の端部(3c)とを軸心方向の中点位置まで形成するとともに、両センター孔(2a)(2b)の離間距離(L2)を切削工具の切削代以下に設定しているため、鍛造加工品(W2)を中点位置で2分割することによって、上記したように切断面(1c)(1c)にセンター孔(2a)(2b)やベーン溝(3a)(3b)を閉塞するような余肉部のないロータ素材(Wa)(Wb)を作製することができる。従って鍛造加工品(W2)を分割後に、余肉部の切除作業を省略でき、その分、より簡単にロータ素材(Wa)(Wb)を作製できて、生産効率を一層向上させることができる。
【0088】
さらに余肉部が形成されず、材料を有効に利用することができるため、材料歩留まりを向上できて、コストの削減を図ることができる。
【0089】
<変形例>
上記実施形態においては、鍛造加工品(W2)の一方側ベーン溝(3a)の中間部側の端部(3c)と、他方側ベーン溝(3b)の中間部側の端部(3c)とを軸心方向において一致させるようにしているが、それだけに限られず、本発明においては、両ベーン溝(3a)(3b)を軸心方向に離間して配置したり、あるいは両ベーン溝(3a)(3b)を軸心方向にラップさせて配置するようにしても良い。
【0090】
例えば図10に示すように、鍛造加工品(W2)において両ベーン溝(3a)(3b)を軸心方向に離間させて配置するようにしても良い。この場合、両ベーン溝(3a)(3b)の離間寸法(L31)を、上記両センター孔(2a)(2b)の離間寸法(L2)と同様に、切削工具の切削代(切削幅)以下に設定することにより、上記と同様に、分割後の両ロータ素材(Wa)(Wb)の切断面(1c)(1c)において、両ベーン溝(3a)(3b)を開放させることができ、余肉部の形成を防止することができる。ここで本発明において離間寸法(L31)は、上記離間寸法(L2)と同様の範囲(0.5〜10mm以下)に設定するのが好ましい。
【0091】
もっとも本発明においては、両ベーン溝(3a)(3b)の離間寸法(L31)を切削工具の切削代よりも長く形成しておき、鍛造加工品(W2)を2分割した後、余肉部を切除して、ロータ素材(Wa)(Wb)として構成したり、あるいは鍛造加工品(W2)の両側における所要部分(ベーン溝3a,3bが形成されている部分)のみを切り出して、ロータ素材(Wa)(Wb)として構成することも可能である。
【0092】
本発明において、両ベーン溝(3a)(3b)を離間して配置する場合には、両ベーン溝(3a)(3b)の形成時に、互いのメタルフローによる影響を少なくでき、寸法精度を向上できて、より一層高い品質のロータ製品を得ることができる。
【0093】
また本発明においては図11に示すように、鍛造加工品(W2)において両ベーン溝(3a)(3b)を軸心方向に重ね合わせるようにラップさせて配置しても良い。この場合例えば、一方側ロータ素材(Wa)の切断面(1c)に、他方側溝付けフィン(23)による不要な溝(3b)が形成されるとともに、他方側のロータ素材(Wb)の切断面(1c)に、一方側溝付けフィン(43)による不要な溝(3a)が形成されるおそれがあるが、両ベーン溝(3a)(3b)のラップ寸法(L32)を、切削工具の切削代(切削幅)以下に設定することにより、鍛造加工品(W2)を2分割した際に、上記不要な溝を切除しつつ、一方側ロータ素材(Wa)の切断面(1c)に、一方側ベーン溝(3a)のみを開放させることができるとともに、他方側ロータ素材(Wb)の切断面(1c)に、他方側ベーン溝(3b)を開放させることができる。従って、鍛造加工品(W2)の分割後に、切断面(1c)(1c)に不要な溝跡が残存することがなく、その溝跡の切除作業等を省略することができる。ここで本発明においてラップ寸法(L32)は、上記離間寸法(L2)(L31)と同様の範囲(0.5〜10mm以下)に設定するのが好ましい。
【0094】
もっとも本発明においては、両ベーン溝(3a)(3b)のラップ寸法(L32)を切削工具の切削代よりも長く形成しておき、鍛造加工品(W2)を2分割した後、切断面(1c)(1c)に残存する不要な溝跡を切除して、ロータ素材(Wa)(Wb)として構成したり、あるいは鍛造加工品(W2)の両側における所要部分(ベーン溝3a,3bがラップしていない部分)のみを切り出して、ロータ素材(Wa)(Wb)として構成することも可能である。
【0095】
ところで、本発明において、両ベーン溝(3a)(3b)をラップさせる場合には、鍛造加工時にそのラップ部分でメタルフローが複雑になり、ベーン溝等の寸法精度が低下する恐れがあるものの、両ベーン溝(3a)(3b)をラップさせる場合には、鍛造加工品(W2)を分割した際に、ベーン溝(3a)(3b)を切断面(1c)(1c)まで確実に形成することができ、ロータ素材(Wa)(Wb)の端面(切断面1c,1c)まで確実にベーン溝(3a)(3b)を形成することができる。
【0096】
また上記実施形態においては、上下両金型(Pa)(Pb)にセンターピン(42)(22)および溝付けフィン(43)(23)を設置して、ベーン溝(3a)(3b)の形成と同時に、鍛造加工品(W2)の両側にセンター孔(2a)(2b)を形成するようにしているが、センター孔の形成方法は上記のものだけに限らることはない。例えば鍛造加工を行う前に予め鍛造素材に、センター孔を形成しておいても良いし、センターピンの設置されない上下両金型による鍛造加工によって、ベーン溝のみを形成しておき、そのベーン溝付きの鍛造加工品に対して後処理で、センター孔を形成するようにしても良い。このような場合、センター孔は、軸心方向に連続する貫通孔によって構成しても良いし、上記実施形態と同様に、中間部で離間する2つのセンター孔によって構成するようにしても良い。さらに本発明においては、ベーン溝のみを形成した鍛造加工品を、分割等によって切り出した後、その切り出し品(ロータ素材)にセンター孔を形成するようにしても良い。
【0097】
さらに本発明においては、上金型(Pa)および下金型(Pb)のいずれか一方に、長寸のセンターピンを設置しておき、両金型(Pa)(Pb)を閉じた際に、その長寸のセンターピンによって、鍛造素材を軸心方向に沿って貫いて、上端から下端にかけて連続するセンター孔を形成するようにしても良い。
【0098】
また上記実施形態においては、1つの鍛造加工品(W2)から同一長さのロータ素材を2つ作製する場合を例に挙げて説明したが、それだけに限られず、本発明においては、上金型(Pa)のセンターピン(42)や溝付けフィン(23)に対し、下金型(Pb)のセンターピン(22)や溝付けフィン(23)の軸心方向長さを異ならせることによって、1つの鍛造加工品から長さの異なる2つのロータ素材を作製することも可能である。
【0099】
さらに上金型(Pa)のセンターピン(42)や溝付けフィン(23)に対し、下金型(Pb)のセンターピン(22)や溝付けフィン(23)の形状(断面形状)を異ならせることによって、1つの鍛造加工品から、センターピンやベーン溝の形状が異なる2つのロータ素材を作製することも可能である。
【0100】
さらに上金型(Pa)の溝付けフィン(23)に対し、下金型(Pb)の溝付けフィン(23)の数を異ならせることによって、1つの鍛造加工品から、ベーン溝の数が異なる2つのロータ素材を作製することも可能である。
【0101】
また本発明において、鍛造加工時に、センターピン(22)(42)や溝付けフィン(23)(43)を打ち込む際に、センターピン(22)(42)や溝付けフィン(23)(43)に対応する部分に、背圧を付与することによって、成形加工性を向上させるようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明のロータ素材の製造方法は、コンプレッサー等のロータを製造する際に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】この発明の実施形態であるロータ素材製造用の鍛造加工装置における下金型を分解して示す斜視図である。
【図2】実施形態の鍛造加工装置における上金型を分解して示す斜視図である。
【図3A】実施形態の鍛造加工装置における加工直前の状態を示す断面図である。
【図3B】実施形態の鍛造加工装置における鍛造加工中の状態を示す断面図である。
【図3C】実施形態の鍛造加工装置における加工直後のワーク突き上げ状態を示す断面図である。
【図4A】実施形態の鍛造加工装置における加工直前の状態を示す斜視図である。
【図4B】実施形態の鍛造加工装置における鍛造加工中の状態を示す斜視図である。
【図4C】図4Bの二点鎖線で囲まれる部分を拡大して示す斜視図である。
【図5】実施形態の鍛造加工装置によって加工された鍛造加工品を示す斜視図である。
【図6】実施形態の鍛造加工装置によって加工された鍛造加工品を示す平面図である。
【図7】実施形態の鍛造加工装置によって加工された鍛造加工品を示す正面図である。
【図8】実施形態の鍛造加工装置によって加工された鍛造加工品を示す断面図である。
【図9】実施形態による鍛造加工品を2分割して得られた2つのロータ素材を示す斜視図である。
【図10】この発明の第1変形例としてのロータ素材の製造方法を説明するための鍛造加工品を示す正面図である。
【図11】この発明の第2変形例としてのロータ素材の製造方法を説明するための鍛造加工品を示す正面図である。
【符号の説明】
【0104】
1a…一端面(打込面)
1b…他端面(打込面)
1c…切断面
2a,2b…センター孔(シャフト孔)
3a,3b…ベーン溝
3c…ベーン溝の中間部側の端部
22…センターピン(孔開けピン)
23…溝付けフィン
42…センターピン(孔開けピン)
43…溝付けフィン
L2…両センター孔の離間寸法
L31…両ベーン溝の離間寸法
L32…両ベーン溝のラップ寸法
Pa…上金型
Pb…下金型
W1…鍛造素材
W2…鍛造加工品
Wa,Wb…ロータ素材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周部に軸心方向に沿うベーン溝が周方向に間隔をおいて複数設けられるロータ素材を製造するようにしたロータ素材の製造方法であって、
円柱形の鍛造素材における軸心方向の一方側にその一方側端面から、ベーン溝形成用の複数の溝付けフィンを有する一方側金型を相対的に打ち込んで、一方側端面から中間部にかけて配置される複数の一方側ベーン溝を形成する一方側鍛造工程と、
鍛造素材における軸心方向の他方側にその他方側端面から、ベーン溝形成用の複数の溝付けフィンを有する他方側金型を相対的に打ち込んで、前記複数の一方側ベーン溝に対し周方向に位相をずらせて配置され、かつ他方側端面から中間部にかけて配置される複数の他方側ベーン溝を形成する他方側鍛造工程と、
前記一方側鍛造工程および前記他方側鍛造工程によって、両側に前記ベーン溝が形成された鍛造加工品を、その一方側および他方側を切り取ってそれぞれロータ素材として用いる切取工程と、を含むことを特徴とするロータ素材の製造方法。
【請求項2】
前記一方側鍛造工程および前記他方側鍛造工程を同時に行うようにした請求項1に記載のロータ素材の製造方法。
【請求項3】
前記切取工程において、鍛造加工品をその軸心方向の中間部で切断して2分割し、両分割体をそれぞれ前記ロータ素材として構成するようにした請求項1または2に記載のロータ素材の製造方法。
【請求項4】
鍛造加工品の前記一方側ベーン溝における中間部側の端部と、前記他方側ベーン溝における中間部側の端部とが軸心方向の同じ位置に配置される請求項1〜3のいずれか1項に記載のロータ素材の製造方法。
【請求項5】
前記一方側ベーン溝における中間部側の端部と前記他方側ベーン溝における中間部側の端部とが鍛造加工品における軸心方向の中点位置に配置される請求項4に記載のロータ素材の製造方法。
【請求項6】
鍛造加工品における前記一方側ベーン溝および前記他方側ベーン溝が、軸心方向に離間して配置される請求項1〜3のいずれか1項に記載のロータ素材の製造方法。
【請求項7】
上記両ベーン溝の離間寸法が、前記切取工程においてロータ素材を切り取る際に用いられる切削工具の切削幅以下に設定される請求項6に記載のロータ素材の製造方法。
【請求項8】
鍛造加工品における前記一方側ベーン溝および前記他方側ベーン溝が、軸心方向にラップして配置される請求項1〜3のいずれか1項に記載のロータ素材の製造方法。
【請求項9】
上記両ベーン溝のラップ寸法が、前記切取工程においてロータ素材を切り取る際に用いられる切削工具の切削幅以下に設定される請求項8に記載のロータ素材の製造方法。
【請求項10】
前記一方側金型および前記他方側金型に、軸心方向に沿って鍛造素材にシャフト孔を形成するための孔開けピンを設けておき、
前記一方側鍛造工程によって、鍛造加工品の一方側に、一方側端面から中間部にかけて一方側シャフト孔を形成するとともに、
前記他方側鍛造工程によって、鍛造加工品の他方側に、他方側端面から中間部にかけて他方側シャフト孔を形成するようにした請求項1〜6のいずれか1項に記載のロータ素材の製造方法。
【請求項11】
鍛造加工品における前記一方側のシャフト孔および前記他方側のシャフト孔が、軸心方向に離間して配置され、
その離間寸法が、前記切取工程においてロータ素材を切り取る際に用いられる切削工具の切削幅以下に設定される請求項10に記載のロータ素材の製造方法。
【請求項12】
前記切削工具として、切削幅が0.5〜10mmのものが用いられる請求項7,9,11のいずれか1項に記載のロータ素材の製造方法。
【請求項13】
鍛造素材として、アルミニウムまたはアルミニウム合金製のものが用いられる請求項1〜12のいずれか1項に記載のロータ素材の製造方法。
【請求項14】
外周部に軸心方向に沿うベーン溝が周方向に間隔をおいて複数設けられるロータ素材が、軸心方向の一方側および他方側にそれぞれ一体に設けられた略円柱形の鍛造加工品を得るための鍛造加工方法であって、
円柱形の鍛造素材における軸心方向の一方側にその一方側端面から、ベーン溝形成用の複数の溝付けフィンを有する一方側金型を相対的に打ち込んで、一方側端面から中間部にかけて配置される複数の一方側ベーン溝を形成する一方側鍛造工程と、
鍛造素材における軸心方向の他方側にその他方側端面から、ベーン溝形成用の複数の溝付けフィンを有する他方側金型を相対的に打ち込んで、前記複数の一方側ベーン溝に対し周方向に位相をずらせて配置され、かつ他方側端面から中間部にかけて配置される複数の他方側ベーン溝を形成する他方側鍛造工程と、含むことを特徴とする鍛造加工方法。
【請求項15】
外周部に軸心方向に沿うベーン溝が周方向に間隔をおいて複数設けられるロータ素材が、軸心方向の一方側および他方側にそれぞれ一体に設けられた略円柱形の鍛造加工品を得るための鍛造加工装置であって、
ベーン溝形成用の複数の溝付けフィンを有し、円柱形の鍛造素材における軸心方向の一方側にその一方側端面から相対的に打ち込むことにより、一方側端面から中間部にかけて配置される複数の一方側ベーン溝を形成するための一方側金型と、
ベーン溝形成用の複数の溝付けフィンを有し、鍛造素材における軸心方向の他方側にその他方側端面から相対的に打ち込むことにより、前記複数の一方側ベーン溝に対し周方向に位相をずらせて配置され、かつ他方側端面から中間部にかけて配置される複数の他方側ベーン溝を形成するための他方側金型と、を備えたことを特徴とする鍛造加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−13942(P2010−13942A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−172139(P2008−172139)
【出願日】平成20年7月1日(2008.7.1)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】