説明

一方向クラッチ内蔵型プーリ装置

【課題】高温によるシール部材の劣化とシール性の低下によるグリース漏れや異物の浸入を防ぎ、軸受の機能低下を防止することができる一方向クラッチ内蔵型プーリ装置を提供する。
【解決手段】カップリング駆動される一方向クラッチ内蔵型プーリ装置10は、スリーブ11とプーリ12との間の環状空間に配置されるシール部材19a,19bを有する。少なくとも一つのシール部材19aは、水素添加ニトリルゴム若しくは、アクリルゴムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方向クラッチ内蔵型プーリ装置に関するものであり、特に、オルタネータ等の自動車補機に用いられ、カップリング駆動される一方向クラッチ内蔵型プーリ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、オルタネータ等、自動車用補機の回転軸の端部には従動プーリが固定されており、エンジンのクランク軸の端部に固定された駆動プーリとの間に無端ベルトが掛け渡され、補機を駆動するために利用されている。また、従動プーリとしては、無端ベルトの走行速度が一定もしくは上昇傾向にある場合に、無端ベルトから回転軸への動力の伝達を自在とし、無端ベルトの走行速度が低下傾向にある場合に、従動プーリと回転軸との相対回転を自在とするよう、一方向クラッチを内蔵したプーリ装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
例えば、図4に示すように、オルタネータAに組み込まれる一方向クラッチ内蔵型プーリ装置100は、エンジンのクランク軸に固定された駆動プーリからの駆動ベルトBが掛け渡されるプーリ101と、オルタネータAの回転軸Sに固定されるスリーブ102とを備え、プーリ101とスリーブ102との間に、一方向クラッチ103及び一対のサポート軸受104が配置されている。
【0004】
そして、プーリ101の回転角速度がオルタネータAの回転軸Sの回転角速度より速い場合には、一方向クラッチ103のローラのくさび作用によって、プーリ101とスリーブ102とが相対回転不能(ロック状態)になり、エンジンの回転力がオルタネータAの回転軸Sに伝達される。一方、速度変動や微小角速度変動等、プーリ101の回転角速度がオルタネータAの回転軸Sの回転角速度より遅い場合には、プーリ101とスリーブ102との相対回転が自在(オーバーラン状態)となる。従って、クランク軸の回転角速度が変動した場合でも、一方向クラッチ103の作用により、無端ベルトBとプーリ101が擦れ合うことが防止され、鳴きと呼ばれる異音の発生や摩耗による無端ベルトの寿命低下を防止すると共に、オルタネータAの発電効率が低下することを防止できる。
【0005】
また、一方向クラッチ103の軸方向両側に配置される一対のサポート軸受104は、それぞれニトリルゴムからなるシール部材105を有しており、軸受内に存在するグリースが外部に漏出するのを防止すると共に、この部分に異物が侵入することを防止している。
【特許文献1】特開平8―61443号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、図4に示すような一方向クラッチ内蔵型プーリ装置100は、高速回転することで発熱する。近年、燃費向上のために低アイドル回転化が進行していること、且つエレクトロニクス化で必要とされる電気量が増大していることが相まってプーリ比を大きくし、オルタネータの回転数を高く設定する傾向が強い。このため、プーリ装置100の発熱量はより一層増加している。
【0007】
また、一方向クラッチ内蔵型プーリ装置は、上述したポリVベルト駆動の代わりに、ゴムカップリング駆動により用いられるケースがある。その場合、プーリの外周はゴムカップリングで覆われるため、放熱性が悪く、内部に熱がこもってしまい、温度上昇がポリVベルト駆動のプーリ装置に比べて高くなりやすい。このため、サポート軸受に設けられたシール部材が高温下で劣化し、シール性が低下するという問題がある。
【0008】
本発明は、上述したような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高温によるシール部材の劣化とシール性の低下によるグリース漏れや異物の浸入を防ぎ、軸受の機能低下を防止することができる一方向クラッチ内蔵型プーリ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 回転軸に固定自在なスリーブと、
スリーブの周囲にスリーブと同心に配置されるプーリと、
スリーブとプーリとの間の環状空間に設けられる一方向クラッチと、
環状空間に一方向クラッチに隣接して設けられるサポート軸受と、
を備え、カップリング駆動される一方向クラッチ内蔵型プーリ装置であって、
環状空間に配置される少なくとも一つのシール部材は、水素添加ニトリルゴム若しくは、アクリルゴムであることを特徴とする一方向クラッチ内蔵型プーリ装置。
(2) シール部材は、環状空間のカップリング側開口に面して配置されていることを特徴とする(1)に記載の一方向クラッチ内蔵型プーリ装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、スリーブとプーリとの間の環状空間に配置される少なくとも一つのシール部材は、水素添加ニトリルゴム若しくは、アクリルゴムであるので、著しい温度上昇によるシール部材の劣化を防止し、シール部材の劣化による異物の浸入や、グリース漏れから生じる軸受の機能低下を防止する効果を有する。また、シール部材は、水素添加ニトリルゴム若しくは、アクリルゴムを用いることで、フッ素ゴムに比べて耐水性、耐寒性に優れ、且つ安価な材料で上記効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の各実施形態に係る一方向クラッチ内蔵型プーリ装置について図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態のオルタネータ用一方向クラッチ内蔵型プーリ装置を説明するための縦断面図である。図1に示されるように、第1実施形態の一方向クラッチ内蔵型プーリ装置10は、エンジンのクランク軸50に装着される駆動プーリ51と自動車用補機としてのオルタネータAとの間で軸方向に並んで配置されており、駆動プーリ51によってカップリング駆動される従動プーリである。
【0013】
一方向クラッチ内蔵型プーリ装置10は、オルタネータAの回転軸Sに固定自在なスリーブ11と、スリーブ11の周囲にスリーブ11と同心に配置されるプーリ12と、を備える。図1及び図2に示すように、プーリ12の駆動プーリ側の外周面には、軸方向に延びる凹凸形状が全周に亘って形成される第1のプーリ溝12aが形成されており、第1のプーリ溝12aには、この凹凸形状と対応する凹凸形状の嵌合溝52aを持った環状のゴムカップリング52が嵌合されている。また、ゴムカップリング52は、第1のプーリ溝12aより軸方向において長く形成されており、軸方向全長に亘って形成された嵌合溝52aは、駆動プーリ51の外周面に第1のプーリ溝12aと略同一形状に形成された第2のプーリ溝51aとも嵌合する。
【0014】
また、スリーブ11の外周面とプーリ12の内周面との間で、この間に形成される環状空間の軸方向中間部には、一方向クラッチ13が配置されており、上記環状空間の一方向クラッチに隣接した軸方向両端部には、例えば、深溝玉軸受等の玉軸受である一対のサポート軸受14a,14bが配設されている。
【0015】
一方向クラッチ13は、プーリ12がスリーブ11に対して所定方向に相対回転する傾向となる場合にのみプーリ12からスリーブ11への回転力を伝達する。また、一対のサポート軸受14a,14bは、プーリ12に加わるラジアル荷重を支承しつつ、スリーブ11とプーリ12との相対回転を可能とする。
【0016】
各サポート軸受14a,14bは、スリーブ11の外周面に外嵌される内輪15と、プーリ12の内周面に内嵌される外輪16と、内輪15と外輪16の両軌道面間に配置された転動体である複数の玉17と、玉17を転動自在に保持する保持器18と、外部からの異物の浸入や内部からのグリース等の潤滑剤の漏洩を防止するシール部材19a,19bを有している。
【0017】
一方向クラッチ13は、プーリ12の内周面に圧入固定されるクラッチ外輪20と、スリーブ11の大径部の外周面に圧入固定されるクラッチ内輪21と、クラッチ外輪20とクラッチ内輪21との間に回動自在に配設された係合子である複数のローラ22とを備えている。クラッチ内輪21の外周面は、複数の凹状のランプ面21aが円周方向に所定の間隔で設けられたカム面を形成する。ローラ22は、各ランプ面21aとクラッチ外輪20の内周面に形成された円筒面20aとから構成される楔空間に回転自在に保持されている。
【0018】
また、一方向クラッチ13は、各ローラ22を個別に保持する複数のポケットを有するクラッチ保持器23と、各ローラ22をクラッチ内輪21の外周面及びクラッチ外輪20の内周面の楔空間に対して係合する方向に弾性的に押圧するばね24とを備えている。
【0019】
上記のように構成される一方向クラッチ内蔵型プーリ装置10では、駆動プーリ51からゴムカップリング51を介して伝達されるプーリ12の回転角速度が、例えばオルタネータAの回転軸Sの回転角速度より速い場合には、一方向クラッチ13のローラ22がくさび作用によってクラッチ内輪21のランプ面21aとクラッチ外輪20の円筒面20aとの間に噛み込まれて、プーリ12とスリーブ11とが相対回転不能(ロック状態)となり、エンジンの回転力がオルタネータAの回転軸Sに伝達される。一方、プーリ12の回転角速度がオルタネータAの回転角速度より遅い場合には、ローラ22の噛み込みが解除されて、プーリ12とスリーブ11との相対回転が自在(オーバーラン状態)となる。
【0020】
上記のプーリ装置10において、サポート軸受14a,14bのシール部材19a,19bは、耐熱性と共に、耐水性、耐寒性にも優れた、水素添加ニトリルゴム若しくは、アクリルゴムによって構成される。これらの水素添加ニトリルゴムやアクリルゴムは、フッ素ゴム等と比べて、安価で、且つ耐水性、耐寒性においても優れた材料である。これにより、ゴムカップリング52の内部空間がプーリ装置10と駆動プーリ51とで挟まれて放熱し難い構成の結果、プーリ装置10が高速回転により温度上昇したとしても、耐熱性を有するこれらのシール部材19a,19bの劣化は抑制される。従って、シール部材19a,19bの劣化による異物の浸入や、グリース漏れから生じるサポート軸受14a,14bの機能低下を防止することができる。
【0021】
また、一対のサポート軸受14a,14bは、内輪15及び外輪16がいずれもスリーブ11及びプーリ12と別体で、シール部材19a,19bが同一材料からなる同一構成であるので、一対のサポート軸受14a,14bを識別する必要がなく、サポート軸受14a,14bの組付け性を向上することができる。
【0022】
従って、本実施形態のカップリング駆動される一方向クラッチ内蔵型プーリ装置10によれば、環状空間に配置されるサポート軸受14a,14bのシール部材19a,19bは、水素添加ニトリルゴム若しくは、アクリルゴムであるので、著しい温度上昇によるシール部材の劣化を防止し、シール部材の劣化による異物の浸入や、グリース漏れから生じる軸受の機能低下を防止する効果を有する。また、シール部材19a,19bは、水素添加ニトリルゴム若しくは、アクリルゴムを用いることで、フッ素ゴムに比べて耐水性、耐寒性に優れ、且つ安価な材料で上記効果を奏する。
【0023】
なお、本実施形態のように、一対のサポート軸受14a,14bのすべてのシール部材19a,19bに水素添加ニトリルゴム若しくは、アクリルゴムを使用することは組付け性において好ましいが、本発明は、少なくとも環状空間のカップリング側開口に面して配置されるサポート軸受14aのシール部材19aを水素添加ニトリルゴム若しくは、アクリルゴムとし、最も高温に晒されやすいサポート軸受14aのシール部材19aの劣化を防止するようにしてもよい。この場合、残りのシール部材は、コスト面を考慮してニトリルゴムであってもよい。
【0024】
また、各サポート軸受14a,14bは、本実施形態のように一対のシール部材19a,19bを設けてもよいし、或いは、転動体17より軸方向内側に設けられるシール部材19bを設けずに構成されてもよい。但し、一対のシール部材19a,19bを有する駆動プーリ側のサポート軸受14aは、組付け性を考慮して、水素添加ニトリルゴム若しくは、アクリルゴムからなる同一材料のシール部材19a,19bを用いることが望ましい。一方、一対のシール部材19a,19bを有するオルタネータ側のサポート軸受14bは、組付け性を考慮して、水素添加ニトリルゴム若しくは、アクリルゴム、或いは、コストをさらに考慮して、ニトリルゴムからなる同一材料のシール部材19a,19bを用いてもよい。
【0025】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る一方向クラッチ内蔵型プーリ装置について図3を参照して説明する。なお、第1実施形態のものと同等部分については同一符号を付して説明を省略或いは簡略化する。
【0026】
本実施形態の一方向クラッチ内蔵型プーリ装置30では、スリーブ11とプーリ12との間の環状空間において、サポート軸受14aよりも軸方向外側に、水素添加ニトリルゴム若しくは、アクリルゴムからなる第2のシール部材31が、プーリ12に形成された係止溝12bに係止されている。これにより、最も高温に晒されやすい第2のシール部材31が劣化するのを防止でき、第2のシール部材31は、サポート軸受14aのシール部材19aと共に二重シールを構成し、カップリング側開口からの異物の浸入をより確実に防止でき、サポート軸受14a,14bの機能低下を防止することができる。
【0027】
なお、本実施形態では、二重シールを構成するサポート軸受14aのシール部材19aを含め、一対のサポート軸受14a,14bのシール部材19a,19bは、第2のシール部材31と同様、水素添加ニトリルゴム若しくは、アクリルゴムであってもよいし、或いは、コストを考慮してニトリルゴムであってもよい。
【0028】
また、本実施形態では、水素添加ニトリルゴム若しくは、アクリルゴムからなる第2のシール部材31が劣化することなく、カップリング側開口からの異物の浸入を防止できるので、サポート軸受14aのシール部材19aを設けず、二重シールを構成しなくてもよい。このため、コストを考慮して、少なくともサポート軸受14bのオルタネータ側にシール部材19aを配置し、第2のシール部材31とサポート軸受14bのシール部材19aとで環状空間を密閉するようにしてもよい。
【0029】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。
【0030】
本発明の一方向クラッチは、スリーブとプーリとの間で回転力を伝達するものであればよく、本実施形態のように、プーリがスリーブに対して所定の方向に相対回転する傾向となる場合にのみ、回転力を伝達する一方向クラッチでもよいし、クラッチ内輪の外周面を円筒面と、クラッチ外輪の内周面を複数のランプ面を有するカム面とし、スリーブがプーリに対して所定の方向に相対回転する傾向となる場合にのみ、回転力を伝達する一方向クラッチでもよい。
【0031】
また、本発明の一方向クラッチは、本実施形態のようなローラクラッチであってもよく、カムクラッチやスプラグクラッチであってもよい。また、一方向クラッチのクラッチ外輪或いはクラッチ内輪は、本実施形態のようにプーリ或いはスリーブと別体であってもよく、プーリ或いはスリーブと一体、即ち、プーリの内周面或いはスリーブの外周面によって構成されてもよい。
【0032】
さらに、本発明の一対のサポート軸受は、深溝玉軸受以外の形式であってもよく、ころ軸受や、玉軸受ところ軸受の組合せであってもよい。また、サポート軸受の内輪或いは外輪も、プーリ或いはスリーブと一体、即ち、プーリの内周面或いはスリーブの外周面によって構成されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1実施形態に係る一方向クラッチ内蔵型プーリ装置の縦断面図である。
【図2】図1の駆動プーリ、ゴムカップリング、一方向クラッチ内蔵型プーリ装置を示す斜視図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る一方向クラッチ内蔵型プーリ装置の縦断面図である。
【図4】従来の一方向クラッチ内蔵型プーリ装置の縦断面図である。
【符号の説明】
【0034】
10 一方向クラッチ内蔵型プーリ装置
11 スリーブ
12 プーリ
12a プーリ溝
13 一方向クラッチ
14a,14b サポート軸受
19a,19b シール部材
31 第2のシール部材
51 駆動プーリ
52 ゴムカップリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に固定自在なスリーブと、
該スリーブの周囲に該スリーブと同心に配置されるプーリと、
前記スリーブと前記プーリとの間の環状空間に設けられる一方向クラッチと、
前記環状空間に前記一方向クラッチに隣接して設けられるサポート軸受と、
を備え、カップリング駆動される一方向クラッチ内蔵型プーリ装置であって、
前記環状空間に配置される少なくとも一つのシール部材は、水素添加ニトリルゴム若しくは、アクリルゴムであることを特徴とする一方向クラッチ内蔵型プーリ装置。
【請求項2】
前記シール部材は、前記環状空間のカップリング側開口に面して配置されていることを特徴とする請求項1に記載の一方向クラッチ内蔵型プーリ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−120709(P2007−120709A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−316763(P2005−316763)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】