説明

不揮発性光メモリ、光記憶装置、ネットワークルータ

【課題】本発明は、光信号の情報を記憶させておくために電力を消費することがなく、光信号の情報の書込み、および読出しを高速にかつ簡単な構成で行なうことができる不揮発性光メモリを提供する。
【解決手段】本発明は、電子のスピン偏極状態を利用して光信号を記憶する半導体レーザー構造を備えた不揮発性光メモリ10である。不揮発性光メモリ10は、GaAs基板1と、GaAs基板1上に、異なる屈折率の半導体膜を交互に積層することで形成してある分布ブラッグ反射層2と、分布ブラッグ反射層2上に、量子井戸構造を有する半導体活性層3とを備えている。発光領域10aの半導体活性層3上に、異なる屈折率の半導体膜を交互に積層することで形成してある分布ブラッグ反射層4と、受光領域10bの半導体活性層3上の一部に、半導体活性層3の表面に対して垂直の磁化方向を有する強磁性電極5とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光信号の情報を記憶する不揮発性光メモリ、光記憶装置、ネットワークルータに関し、特に、電子のスピン偏極状態を利用して光信号を記憶する不揮発性光メモリ、光記憶装置、ネットワークルータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネットの発展に伴い、ネットワークにおける通信量は、年率40%におよぶ増加が予想されている。通信量の増加に対して通信速度および消費電力の観点から、ネットワークは、すべての部分で電気による通信から光による通信へと変化することが求められている。
【0003】
ネットワークにおける通信をすべて光によって行なう場合、光信号を電気信号に変換してルーティングを行なっているネットワークルータ(電気ルータ)を、光信号を電気信号に変換することになしにルーティングを行なうネットワークルータ(光ルータ)に置き換えることが必要不可欠になる。
【0004】
図8は、光ルータの構成を示す概略図である。図8に示す光ルータ100は、光バッファメモリ101、光スイッチ素子102、波長変換器103、ヘッダ認証部104、制御部105を備えている。
【0005】
光バッファメモリ101は、入力側の光ファイバ200から入力される光信号を一時的に記憶する光記憶装置である。光スイッチ素子102は、光バッファメモリ101から読出された光信号を所望の出力先に出力できるようにルートを切替えるスイッチング素子である。
【0006】
波長変換器103は、光スイッチ素子102と出力側の光ファイバ300との間に設け、光バッファメモリ101から読出された光信号を、光ルータ100から出力した後にネットワークを伝送する際に適した波長の光信号に変換する。
【0007】
ヘッダ認証部104は、光ファイバ200から入力される光信号のヘッダ情報を読取り、制御部105に出力する。制御部105は、ヘッダ認証部104で読取ったヘッダ情報に基づいて、光スイッチ素子102のスイッチングを制御する。
【0008】
光ルータ100において、通信速度および消費電力の観点から最も重要になるデバイスが光バッファメモリ101である。この光バッファメモリ101には、入力される光信号を遅延させて、光信号を一時的に記憶する光遅延線や、入力された光信号を電気情報や磁気信号に変換して保持する光ビットメモリが提案されている。
【0009】
たとえば、光ビットメモリでは、高いQ値をもつフォトニック結晶光共振器の透過率の双安定性を用いたメモリなどが提案されている(”All-optical on-chip bit memory based on ultra high Q InGaAsP photonic crystal”, Optics Express 16, 19382 (2008))。
【0010】
また、電子のスピン偏極状態を利用するスピントロニクスを用いたメモリとしては、特許文献1に開示してある、磁気トンネル接合電極を持ったPINダイオードからなる不揮発性光メモリがある。特許文献1に開示してある不揮発性光メモリは、右回りまたは左回りの円または楕円偏光の光パルスを照射することにより、自由層に注入された電流が強磁性の金属層の磁化方向を反転させることで、光信号の情報を記憶するメモリである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−164447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、従来の光ビットメモリは、光信号の情報を記憶させることができる点では光バッファメモリとして利用することが可能であるが、光信号の情報を記憶させておくために、バイアス電力が必要となるため、消費電力を低減することができないという問題があった。
【0013】
また、特許文献1に開示してある不揮発性光メモリは、光信号の情報を金属層の磁化方向として記憶させておくため、光信号の情報を記憶させておくためのバイアス電力が不要で、消費電力を低減できるが、光信号の情報を読出すときに、メモリを通過する光強度を測定する、または磁気トンネル接合の磁気抵抗の値を測定する必要があり、記憶した情報を直接光信号として読み出すことができない。
【0014】
そのため、特許文献1に開示してある不揮発性光メモリは、メモリを通過する光強度を測定して光信号の情報を読出す場合、メモリを通過した光を直接光信号として利用することができず、光強度を測定した結果に基づいて、別途コヒーレントな光信号を生成する時間が必要となる。また、特許文献1に開示してある不揮発性光メモリは、磁気トンネル接合の磁気抵抗の値を測定して光信号の情報を読出す場合、測定した磁気抵抗の値に基づいて、光信号を生成する時間が必要となる。そのため、特許文献1に開示してある不揮発性光メモリは、光信号の情報の読出し速度が遅いという問題があった。その上、光信号を生成するために別途光源が必要になるため、装置が複雑になり消費電力が増大するという問題もあった。
【0015】
そこで、本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、光信号の情報を記憶させておくための電力を消費することがなく、光信号の情報の書込み、および読出しを高速に行なうことができ、光信号を生成するための別途光源を必要としない不揮発性光メモリを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために第1発明に係る不揮発性光メモリは、電子のスピン偏極状態を利用して光信号を記憶する半導体レーザー構造を備えた不揮発性光メモリである。不揮発性光メモリは、半導体基板と、半導体基板上に、異なる屈折率の半導体膜を交互に積層することで形成してある第1反射層と、第1反射層上に、量子井戸構造を有する半導体活性層と、半導体活性層を発光領域と受光領域とに分け、発光領域の半導体活性層上に、異なる屈折率の半導体膜を交互に積層することで形成してある第2反射層と、受光領域の半導体活性層上の一部に、半導体活性層の表面に対して垂直の磁化方向を有する強磁性電極とを備えている。不揮発性光メモリは、少なくとも第1反射層、および半導体活性層の最表膜に不純物をドープして、第1反射層と半導体活性層の最表膜との間でPINダイオードを構成している。不揮発性光メモリは、受光領域の半導体活性層に、右回りまたは左回りの円または楕円偏光で情報を表した光信号を入射して、右回りまたは左回りの円または楕円偏光に対応したスピン偏極状態の電子を生成し、生成したスピン偏極状態の電子を、半導体基板と強磁性電極との間に逆バイアス方向の電圧を印加することで強磁性電極に流入させ、流入したスピン偏極状態の電子によって強磁性電極の磁化方向を制御して、光信号の情報を強磁性電極の磁化方向として書込む。不揮発性光メモリは、半導体基板と強磁性電極との間に順バイアス方向の電圧を印加することで、光信号の情報を書込んだ強磁性電極の磁化方向に対応したスピン偏極状態の電子を発光領域の半導体活性層に注入し、第2反射層の表面に対して垂直方向に、注入した電子のスピン偏極状態に対応した右回りまたは左回りの円または楕円偏光のレーザー光を発して、光信号の情報を読出す。
【0017】
第1発明では、不揮発性光メモリは、光信号の情報を表す右回りまたは左回りの円または楕円偏光に対応したスピン偏極状態の電子を受光領域の半導体活性層に生成し、生成したスピン偏極状態の電子によって強磁性電極の磁化方向を制御して、光信号の情報を強磁性電極の磁化方向として書込むので、光信号の情報を書込んだ強磁性電極の磁化方向を保持するためのバイアス電力が不要で、光信号の情報を記憶させておくための電力を消費する必要がない。また、不揮発性光メモリは、光信号の情報を書込んだ強磁性電極の磁化方向に対応したスピン偏極状態の電子を発光領域の半導体活性層に注入し、注入した電子のスピン偏極状態に対応した右回りまたは左回りの円または楕円偏光のレーザー光を発して、光信号の情報を読出すので、不揮発性光メモリの発光領域から発するレーザー光を直接、光信号として利用することができ、光信号を生成する時間を短縮して、光信号の情報の読出しを高速に行なうことができ、光信号を生成するための別途光源を必要としない。
【0018】
上記目的を達成するために第2発明に係る不揮発性光メモリは、電子のスピン偏極状態を利用して光信号を記憶する半導体レーザー構造を備えた不揮発性光メモリである。不揮発性光メモリは、半導体基板と、半導体基板上に、異なる屈折率の半導体膜を交互に積層することで形成してある第1反射層と、第1反射層上に、量子井戸構造を有する半導体活性層と、半導体活性層を発光領域と受光領域とに分け、発光領域の半導体活性層上に、異なる屈折率の半導体膜を交互に積層することで形成してある第2反射層と、受光領域の半導体活性層上の一部または全部に、半導体活性層の表面に対して垂直の磁化方向を有する強磁性電極とを備えている。不揮発性光メモリは、少なくとも第1反射層、および半導体活性層の最表層に不純物をドープして、第1反射層と半導体活性層の最表層との間でPINダイオードを構成している。不揮発性光メモリは、強磁性電極に、右回りまたは左回りの円または楕円偏光で情報を表した光信号を入射して、入射した信号の右回りまたは左回りの円または楕円偏光によって強磁性電極の磁化方向を制御して、信号の情報を強磁性電極の磁化方向として書込む。不揮発性光メモリは、半導体基板と強磁性電極との間に順バイアス方向の電圧を印加することで、光信号の情報を書込んだ強磁性電極の磁化方向に対応したスピン偏極状態の電子を発光領域の半導体活性層に注入し、第2反射層の表面に対して垂直方向に、注入した電子のスピン偏極状態に対応した右回りまたは左回りの円または楕円偏光のレーザー光を発して、信号の情報を読出す。
【0019】
第2発明では、不揮発性光メモリは、強磁性電極に入射した信号の右回りまたは左回りの円または楕円偏光によって強磁性電極の磁化方向を制御して、光信号の情報を強磁性電極の磁化方向として書込むので、半導体活性層にスピン偏極状態の電子を生成し、生成したスピン偏極状態の電子を強磁性電極に流入する動作が不要である。さらに、不揮発性光メモリは、光信号の情報を書込んだ強磁性電極の磁化方向を保持するためのバイアス電力が不要で、光信号の情報を記憶させておくための電力を消費する必要がない。また、不揮発性光メモリは、光信号の情報を書込んだ強磁性電極の磁化方向に対応したスピン偏極状態の電子を発光領域の半導体活性層に注入し、注入した電子のスピン偏極状態に対応した右回りまたは左回りの円または楕円偏光のレーザー光を発して、光信号の情報を読出すので、不揮発性光メモリの発光領域から発するレーザー光を直接、光信号として利用することができ、光信号を生成する時間を短縮して、光信号の情報の読出しを高速に行なうことができ、光信号を生成するための別途光源を必要としない。
【0020】
また、第3発明に係る不揮発性光メモリは、第1または第2発明において、半導体活性層は、複数の量子井戸膜と複数の障壁膜とを有する多重量子井戸構造である。
【0021】
第3発明では、半導体活性層は、複数の量子井戸膜と複数の障壁膜とを有する多重量子井戸構造であるので、発光特性に優れ、低い電力でレーザー発振が得られるため、より低い消費電力で光信号の読出しが可能となる。
【0022】
また、第4発明に係る不揮発性光メモリは、第1〜第3発明のいずれか一つにおいて、半導体活性層は、受光領域の半導体活性層と第1反射層との間に絶縁膜を備える。
【0023】
第4発明では、半導体活性層は、受光領域の半導体活性層と第1反射層との間に絶縁膜を備えるので、半導体基板と強磁性電極との間に順バイアス方向の電圧を印加して、光信号の情報を書込んだ強磁性電極の磁化方向に対応したスピン偏極状態の電子を発光領域の半導体活性層に注入するときに、より多くの電子を発光領域の半導体活性層に導くことができ、注入した電子のスピン偏極状態に対応した右回りまたは左回りの円または楕円偏光のレーザー光をより低い消費電力で発することができる。
【0024】
また、第5発明に係る不揮発性光メモリは、第1〜第4発明のいずれか一つにおいて、半導体基板の(110)面上に半導体活性層を形成してある。
【0025】
第5発明では、半導体基板の(110)面上に半導体活性層を形成してあるので、量子井戸膜に生成したスピン偏極状態の電子のスピン緩和時間を長くすることができ、より高いスピン偏極度、円偏光度を保って光信号の情報の書込み、および読出しを行うことが可能となる。
【0026】
上記目的を達成するために第6発明に係る光記憶装置は、第1〜第5発明のいずれか一つの不揮発性光メモリを平面に複数配置してある。
【0027】
第6発明では、第1〜第5発明のいずれか一つの不揮発性光メモリを平面に複数配置してあるので、光信号の情報を記憶させておくための電力を消費することがなく、光信号の情報の書込み、および読出しを高速に行なうことができる大容量の記憶装置を提供することができる。
【0028】
上記目的を達成するために第7発明に係るネットワークルータは、第6発明に記載の光記憶装置を備えてある。
【0029】
第7発明では、第6発明に記載の光記憶装置を備えてあるので、光信号の情報を記憶させておくための電力を消費することがなく、光信号の情報の書込み、および読出しを高速に行なうことができるネットワークルータを提供することができる。
【発明の効果】
【0030】
上記構成によれば、不揮発性光メモリは、光信号の情報を表す右回りまたは左回りの円または楕円偏光に対応したスピン偏極状態の電子を受光領域の半導体活性層に生成し、生成したスピン偏極状態の電子によって強磁性電極の磁化方向を制御して、光信号の情報を強磁性電極の磁化方向として書込むので、書込んだ強磁性電極の磁化方向を保持するためのバイアス電力が不要で、光信号の情報を記憶させておくための電力を消費する必要がない。また、不揮発性光メモリは、光信号の情報を書込んだ強磁性電極の磁化方向に対応したスピン偏極状態の電子を発光領域の半導体活性層に注入し、注入した電子のスピン偏極状態に対応した右回りまたは左回りの円または楕円偏光のレーザー光を発して、光信号の情報を読出すので、不揮発性光メモリの発光領域から発するレーザー光を直接、光信号として利用することができ、光信号を生成する時間を短縮して、光信号の情報の読出しを高速に行なうことができ、光信号を生成するための別途光源を必要としない。
【0031】
また、別の構成によれば、不揮発性光メモリは、強磁性電極に入射した信号の右回りまたは左回りの円または楕円偏光によって強磁性電極の磁化方向を制御して、光信号の情報を強磁性電極の磁化方向として書込むので、半導体活性層にスピン偏極状態の電子を生成し、生成したスピン偏極状態の電子を強磁性電極に流入する動作が不要である。さらに、不揮発性光メモリは、光信号の情報を書込んだ強磁性電極の磁化方向を保持するためのバイアス電力が不要で、光信号の情報を記憶させておくための電力を消費する必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態1に係る不揮発性光メモリの構成を示す概略図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る不揮発性光メモリの発光領域の層構成を示す概略図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る不揮発性光メモリの時間に対する右回りまたは左回り円偏光のレーザー光の強度および円偏光度の変化を示すグラフである。
【図4】本発明の実施の形態1に係る不揮発性光メモリから発するレーザー光のスペクトル波形を示すグラフである。
【図5】本発明の実施の形態2に係る不揮発性光メモリの構成を示す概略図である。
【図6】本発明の実施の形態3に係る光記憶装置の構成を示す概略図である。
【図7】本発明の実施の形態3に係る光記憶装置の動作を説明するための模式図である。
【図8】光ルータの構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る不揮発性光メモリの構成を示す概略図である。図1に示す不揮発性光メモリ10は、半導体基板であるGaAs基板1、GaAs基板1上に第1反射層である分布ブラッグ反射層(Distributed Bragg Reflector,DBR)2、分布ブラッグ反射層2上に量子井戸構造を有する半導体活性層3を備えている。さらに、不揮発性光メモリ10は、発光領域10aの半導体活性層3上に、第2反射層である分布ブラッグ反射層4、受光領域10bの半導体活性層3上の一部に、強磁性電極5を備えている。
【0034】
GaAs基板1は、表面が(110)面であり、当該(110)面に、分布ブラッグ反射層2、半導体活性層3などを形成する。なお、GaAs基板1は、亜鉛などの不純物をドープしてp型となっている。
【0035】
分布ブラッグ反射層2は、異なる屈折率の半導体膜を交互に積層して形成してある。たとえば、分布ブラッグ反射層2は、Al0.91 Ga0.09 As膜とAl0.21 Ga0.79 As膜とを交互に積層して形成してある。また、分布ブラッグ反射層2は、ベリリウムなどの不純物をドープしてp型となっている。
【0036】
半導体活性層3は、量子井戸膜と障壁膜とを交互に積層した量子井戸(Quantum Well)構造を有している。たとえば、半導体活性層3は、量子井戸膜にGaAs膜、障壁膜にAlGaAs膜をそれぞれ用いて、GaAs膜とAlGaAs膜とを交互に積層して形成してある。後述するように、半導体活性層3には、右回りまたは左回りの円または楕円偏光を入射することでスピン偏極状態の電子が生成される。生成された電子のスピン偏極状態が、半導体活性層3内で消滅するまでの時間をスピン緩和時間とし、当該スピン緩和時間を長くするために、半導体活性層3は、(110)面上に形成することが望ましい。
【0037】
半導体活性層3の最表膜に、シリコンなど不純物をドープして、n型の半導体層3aが形成してある。そのため、分布ブラッグ反射層2と半導体層3a(半導体活性層3の最表膜)との間でPINダイオードを構成する。
【0038】
分布ブラッグ反射層4は、半導体活性層3の発光領域10aに、異なる屈折率の半導体膜を交互に積層して形成してある。たとえば、分布ブラッグ反射層4は、分布ブラッグ反射層2と同じくAl0.91 Ga0.09 As膜とAl0.21 Ga0.79 As膜とを交互に積層して形成してある。
【0039】
強磁性電極5は、受光領域10bに形成してあり、半導体活性層3の表面に対して垂直の磁化方向を有する強磁性の金属や半導体などの材料である。たとえば、強磁性電極5は、FePt、FeTb、TbCoFeなどの金属材料を用いる。
【0040】
なお、不揮発性光メモリ10は、GaAs基板1に分布ブラッグ反射層2、半導体活性層3、分布ブラッグ反射層4を順に、分子線エピタキシー法(Molecular Beam Epitaxy:MBE)などでエピタキシャル成長させて形成してある。
【0041】
次に、不揮発性光メモリ10の発光領域10aは、分布ブラッグ反射層2、半導体活性層3、分布ブラッグ反射層4により面発光型半導体レーザー(Vertical-cavity surface-emitting laser:VCSEL)の構造を有している。不揮発性光メモリ10の発光領域10aの層構成について、さらに詳しく説明する。図2は、本発明の実施の形態1に係る不揮発性光メモリ10の発光領域10aの層構成を示す概略図である。図2に示す層構成では、GaAs基板1上にGaAsのバッファ層1a、組成トランジション層2aを挟んで分布ブラッグ反射層2を形成してある。
【0042】
分布ブラッグ反射層2は、Al0.91 Ga0.09 As膜とAl0.21 Ga0.79 As膜とを交互に36.5ペア積層して形成してある。なお、Al0.91 Ga0.09 As膜とAl0.21 Ga0.79 As膜との間には、膜厚が15nm程度の組成トランジション層2aを挟んである。なお、図2では、1ペア分のみ図示してある。
【0043】
半導体活性層3は、量子井戸膜のGaAs膜と障壁膜のAl0.15 Ga0.85 As膜とを交互に9ペア積層して形成してある。なお、半導体活性層3は、GaAs層およびAl0.15 Ga0.85 As膜の膜厚は、それぞれ10nm程度である。
【0044】
分布ブラッグ反射層4は、Al0.91 Ga0.09 As膜とAl0.21 Ga0.79 As膜とを交互に35ペア積層して形成してある。なお、Al0.91 Ga0.09 As膜とAl0.21 Ga0.79 As膜との間にも、膜厚が15nm程度の組成トランジション層4aを挟んである。なお、図2では、1ペア分のみ図示してある。また、分布ブラッグ反射層4上には、GaAsのキャップ層4bを形成してある。そして、不揮発性光メモリ10は、GaAsのキャップ層4bの表面から右回り円偏光(σ)または左回り円偏光(σ)のレーザー光を発する。
【0045】
次に、図1に戻って、不揮発性光メモリ10の動作について説明する。不揮発性光メモリ10は、右回りまたは左回りの円または楕円偏光で情報を表した光信号の情報を書込み、右回りまたは左回りの円または楕円偏光で情報を表した光信号(レーザー光)として読出す光メモリである。光信号は、たとえば、右回り円偏光(σ)を「1」、左回り円偏光(σ)を「0」とする二値の信号、または右回り円偏光(σ)を「1」、入力なしを「0」とする二値の信号として表す。
【0046】
具体的に、不揮発性光メモリ10に光信号の情報「1」を書込む場合について説明する。なお、以下ではGaAsキャップ層4bの表面に垂直上方向を正とする軸を基準に、円偏光およびスピン状態を定義する。まず、不揮発性光メモリ10は、受光領域10bの半導体活性層3に右回り円偏光(σ)が入射(光信号入力)して、右回り円偏光(σ)に対応した「ダウン」のスピン偏極状態の電子20を半導体活性層3に生成する。なお、電子のスピン偏極状態には、「アップ」の状態(図中上向き矢印に対応するが図示しない)と、「ダウン」の状態(図中下向き矢印で示す)との二つの状態があるものとする。
【0047】
不揮発性光メモリ10は、GaAs基板1と強磁性電極5との間に逆バイアス方向(強磁性電極5側に正、GaAs基板1を負)の電圧を印加することで、半導体活性層3に生成した「ダウン」のスピン偏極状態の電子20を強磁性電極5に流入させる。不揮発性光メモリ10は、強磁性電極5に「ダウン」のスピン偏極状態の電子20が流入すると、流入した「ダウン」のスピン偏極状態の電子20により、強磁性電極5を「ダウン」のスピン偏極状態の方向(半導体活性層3の表面に対して垂直方向の下向き)に磁化して、光信号の情報「1」を強磁性電極5の磁化方向として書込む。光信号の情報は、強磁性電極5の磁化方向として書込むので、書込んだ強磁性電極5の磁化方向を保持するためのバイアス電力が不要で、光信号の情報を記憶させておくための電力を消費する必要がない。
【0048】
一方、不揮発性光メモリ10に光信号の情報「0」を書込む場合、不揮発性光メモリ10は、受光領域10bの半導体活性層3に左回り円偏光(σ)が入射(光信号入力)して、左回り円偏光(σ)に対応した「アップ」のスピン偏極状態の電子20を半導体活性層3に生成する。不揮発性光メモリ10は、GaAs基板1と強磁性電極5との間に逆バイアス方向の電圧を印加することで、半導体活性層3に生成した「アップ」のスピン偏極状態の電子20を強磁性電極5に流入させる。不揮発性光メモリ10は、強磁性電極5に「アップ」のスピン偏極状態の電子20が流入すると、流入した「アップ」のスピン偏極状態の電子20により、強磁性電極5を「アップ」のスピン偏極状態の方向(半導体活性層3の表面に対して垂直方向の上向き)に磁化して、光信号の情報「0」を強磁性電極5の磁化方向として書込む。
【0049】
次に、具体的に、不揮発性光メモリ10から光信号の情報「1」を読出す場合について説明する。まず、不揮発性光メモリ10は、GaAs基板1と強磁性電極5との間に順バイアス方向(強磁性電極5側に負、GaAs基板1を正)の電圧を印加することで、光信号の情報「1」を書込んだ強磁性電極5の磁化方向に対応した、「ダウン」のスピン偏極状態の電子21を発光領域10aの半導体活性層3に注入する。
【0050】
不揮発性光メモリ10は、GaAs基板1と強磁性電極5との間に順バイアス方向の電圧を印加したとき、「ダウン」のスピン偏極状態の電子21を発光領域10aの半導体活性層3により多く注入することができるように、受光領域10bの半導体活性層3と分布ブラッグ反射層2との間に絶縁膜である酸化膜6を備えている。不揮発性光メモリ10は、GaAs基板1と強磁性電極5との間に順バイアス方向の電圧を印加すると、酸化膜6を備えていることにより発光領域10aの半導体活性層3から強磁性電極5への方向に電界が生じ、「ダウン」のスピン偏極状態の電子21を発光領域10aの半導体活性層3により多く注入することができる。
【0051】
不揮発性光メモリ10は、「ダウン」のスピン偏極状態の電子21を半導体活性層3に注入して、分布ブラッグ反射層4の表面に対して垂直方向に、注入した電子21の「ダウン」のスピン偏極状態に対応した右回り円偏光(σ)のレーザー光を発する。不揮発性光メモリ10は、強磁性電極5に書込んだ光信号の情報「1」を読出し、右回り円偏光(σ)の光信号として出力(光信号出力)することができる。
【0052】
不揮発性光メモリ10は、右回り円偏光(σ)のレーザー光を光信号として、光信号の情報を読出すことができるので、不揮発性光メモリ10の発光領域10aから発するレーザー光を直接、光信号として利用することができ、光信号を生成する時間を短縮して、光信号の情報の読出しを高速に行なうことができ、光信号を生成するための別途光源を必要としない。
【0053】
一方、不揮発性光メモリ10から光信号の情報「0」を読出す場合、不揮発性光メモリ10は、GaAs基板1と強磁性電極5との間に順バイアス方向の電圧を印加することで、光信号の情報「0」を書込んだ強磁性電極5の磁化方向に対応した、「アップ」のスピン偏極状態の電子21を発光領域10aの半導体活性層3に注入する。不揮発性光メモリ10は、「アップ」のスピン偏極状態の電子21を半導体活性層3に注入して、分布ブラッグ反射層4の表面に対して垂直方向に、注入した電子21の「アップ」のスピン偏極状態に対応した左回り円偏光(σ)のレーザー光を発する。
【0054】
次に、半導体活性層3にスピン偏極状態の電子を注入することで、不揮発性光メモリ10が、注入した「アップ」または「ダウン」のスピン偏極状態の電子に応じて、右回り円偏光(σ)または左回り円偏光(σ)のレーザー光を発することについて、具体的に説明する。
【0055】
図3は、本発明の実施の形態1に係る不揮発性光メモリ10の時間に対する右回りまたは左回り円偏光のレーザー光の強度および円偏光度Pc の変化を示すグラフである。図4は、本発明の実施の形態1に係る不揮発性光メモリ10から発するレーザー光のスペクトル波形を示すグラフである。なお、不揮発性光メモリ10の発光領域10aの構成は、図2に示す構成である。半導体活性層3に注入したスピン偏極状態の電子は、スピン緩和時間が0.7ns、スピン偏極度が約0.04(「ダウン」のスピン状態の電子の数がわずかに多い程度)である。ここで、スピン偏極度とは、「アップ」のスピン状態の電子と「ダウン」のスピン状態の電子の数の和に対する、「アップ」のスピン状態の電子と「ダウン」のスピン状態の電子の数の差の割合である。たとえば、「アップ」のスピン状態の電子と「ダウン」のスピン状態の電子の数が同じ場合であればスピン偏極度が0(ゼロ)、「アップ」のスピン状態の電子または「ダウン」のスピン状態の電子のいずれか一方のみ存在する場合であれば、スピン偏極度が1となる。
【0056】
図3に示すグラフは、横軸が時間を、左側の縦軸が光の強度を、右側の縦軸が円偏光度Pc をそれぞれ示している。ここで、円偏光度Pc とは、右回り円偏光(σ)の強度と左回り円偏光(σ)の強度の和に対する、右回り円偏光(σ)の強度と左回り円偏光(σ)の強度の差の割合である。図3に示すように、不揮発性光メモリ10は、スピン偏極度が約0.04であっても、高い円偏光度Pc (=約0.96)で右回り円偏光(σ)のレーザー光を約0.2ns時間、発している。つまり、不揮発性光メモリ10は、「ダウン」のスピン偏極状態の電子21を発光領域10aの半導体活性層3に注入し、発光領域10aの半導体活性層3のスピン偏極度が「ダウン」のスピン状態の電子の数がわずかに多い程度になれば、右回り円偏光(σ)のレーザー光を発することができる。
【0057】
また、図4に示すグラフは、横軸が波長を、縦軸が光の強度をそれぞれ示している。図4に示すように、不揮発性光メモリ10は、波長が約855.7nmでピークとなる右回り円偏光(σ)のレーザー光を発している。
【0058】
なお、不揮発性光メモリ10が発することができるレーザー光の波長は、不揮発性光メモリ10の発光領域10aの層構成により決まる。具体的に、不揮発性光メモリ10では、半導体基板にGaAs基板1を、半導体活性層3にAlGaAs系の材料をそれぞれ用いているため、発することができるレーザー光の波長帯が800nm〜900nmとなっている。
【0059】
しかし、不揮発性光メモリ10は、発することができるレーザー光の波長帯が800nm〜900nmに限定されるものではない。たとえば、半導体基板にInP基板を、半導体活性層にInGaAsP系またはAlInGaAs系の材料をそれぞれ用いて、不揮発性光メモリ10が発することができるレーザー光の波長帯を1.3μm〜1.6μmとしてもよい。また、半導体基板にGaAs基板を、半導体活性層にInGaAs系の材料をそれぞれ用いて、不揮発性光メモリ10が発することができるレーザー光の波長帯を1μm帯としてもよい。
【0060】
さらに、半導体基板にGaAs基板を、半導体活性層にAlInGaP系の材料をそれぞれ用いて、不揮発性光メモリ10が発することができるレーザー光の波長帯を650nm帯としてもよい。また、半導体基板にサファイア基板またはGaN基板を、半導体活性層にInGaN系の材料をそれぞれ用いて、不揮発性光メモリ10が発することができるレーザー光の波長帯を400nm帯としてもよい。
【0061】
なお、半導体活性層3にスピン偏極状態の電子を注入することで、右回りまたは左回り円偏光のレーザー光を発することについては、“Room temperature circularly polarized lasing in an optically spin injected vertical-cavity surface-emitting laser with (110)GaAs quantum wells", APPLIED PHYSICS LETTERS,98,081113(2011)等の技術文献に記載がある。
【0062】
以上のように、本実施の形態に係る不揮発性光メモリ10は、光信号の情報を表す右回り(σ)または左回り(σ)の円または楕円偏光に対応したスピン偏極状態の電子20を受光領域10bの半導体活性層3に生成し、生成したスピン偏極状態の電子20によって強磁性電極5の磁化方向を制御して、光信号の情報を強磁性電極5の磁化方向として書込むので、書込んだ強磁性電極5の磁化方向を保持するためのバイアス電力が不要で、光信号の情報を記憶させておくための電力を消費する必要がない。また、不揮発性光メモリ10は、光信号の情報を書込んだ強磁性電極5の磁化方向に対応したスピン偏極状態の電子21を発光領域の半導体活性層3に注入し、注入した電子21のスピン偏極状態に対応した右回り(σ)または左回り(σ)の円または楕円偏光のレーザー光を発して、光信号の情報を読出すので、不揮発性光メモリ10の発光領域10aから発するレーザー光を直接、光信号として利用することができ、光信号を生成する時間を短縮して、光信号の情報の読出しを高速に行なうことができ、光信号を生成するための別途光源を必要としない。
【0063】
なお、本実施の形態に係る不揮発性光メモリ10では、GaAs基板の(110)面上に半導体活性層3を形成してあるので、量子井戸膜のスピン緩和時間を長くすることができる。しかし、不揮発性光メモリ10は、GaAs基板の(110)面上に半導体活性層3を形成する場合に限定されるものではない。
【0064】
(実施の形態2)
図5は、本発明の実施の形態2に係る不揮発性光メモリの構成を示す概略図である。図5に示す不揮発性光メモリ11は、半導体基板であるGaAs基板1、GaAs基板1上に第1反射層である分布ブラッグ反射層2、分布ブラッグ反射層2上に量子井戸構造を有する半導体活性層3を備えている。さらに、不揮発性光メモリ11は、発光領域11aの半導体活性層3上に、第2反射層である分布ブラッグ反射層4、受光領域11bの半導体活性層3上の全部に、強磁性電極5aを備えている。
【0065】
なお、不揮発性光メモリ11は、受光領域11bの半導体活性層3上の全部に、強磁性電極5aを形成してある構成以外、図1に示す不揮発性光メモリ10の構成と同じであるため、同じ構成要素について同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0066】
不揮発性光メモリ11は、受光領域11bの半導体活性層3上の全部に、強磁性電極5aを形成してあるので、強磁性電極5aで右回りまたは左回りの円または楕円偏光が遮光され、受光領域11bの半導体活性層3に入射しない。そのため、不揮発性光メモリ11は、受光領域11bの半導体活性層3に生成したスピン偏極状態の電子で強磁性電極5aの磁化方向を制御して、光信号の情報を強磁性電極5aの磁化方向として書込むのではなく、右回りまたは左回りの円または楕円偏光によって強磁性電極5aの磁化方向を直接制御して、光信号の情報を強磁性電極5aの磁化方向として書込む。
【0067】
具体的に、不揮発性光メモリ11に光信号の情報「1」を書込む場合について説明する。不揮発性光メモリ11は、受光領域11bの強磁性電極5aに右回り円偏光(σ)が入射(光信号入力)して、半導体活性層3の表面に対して垂直方向の下向きに強磁性電極5aを磁化して、光信号の情報「1」を強磁性電極5aの磁化方向として書込む。一方、不揮発性光メモリ11に光信号の情報「0」を書込む場合、不揮発性光メモリ11は、受光領域11bの強磁性電極5aに左回り円偏光(σ)が入射(光信号入力)して、半導体活性層3の表面に対して垂直方向の上向きに強磁性電極5aを磁化して、光信号の情報「0」を強磁性電極5の磁化方向として書込む。ここで、右回り円偏光(σ)または左回り円偏光(σ)を強磁性電極5aに入射して、強磁性電極5aを磁化するとき、外部より強磁性電極5aに磁界を加える必要はない。
【0068】
なお、右回りまたは左回りの円または楕円偏光によって強磁性電極5aの磁化方向を直接制御することについては、“All Optical Magnetic Recording with Circularly Polarized Light",PHYSICAL REVIEW LETTERS 99,047601(2007)等の技術文献に記載がある。
【0069】
次に、不揮発性光メモリ11から光信号の情報を読出す場合について説明する。図1に示す不揮発性光メモリ10から光信号の情報を読出す場合と基本的に同じである。具体的に、不揮発性光メモリ11から光信号の情報「1」を読出す場合、不揮発性光メモリ11は、GaAs基板1と強磁性電極5aとの間に順バイアス方向(強磁性電極5a側に負、GaAs基板1を正)の電圧を印加することで、光信号の情報「1」を書込んだ強磁性電極5aの磁化方向に対応した、「ダウン」のスピン偏極状態の電子21を発光領域11aの半導体活性層3に注入する。不揮発性光メモリ11は、「ダウン」のスピン偏極状態の電子21を半導体活性層3に注入して、分布ブラッグ反射層4の表面に対して垂直方向に、注入した電子21の「ダウン」のスピン偏極状態に対応した右回り円偏光(σ)のレーザー光を発する。
【0070】
一方、不揮発性光メモリ11から光信号の情報「0」を読出す場合、不揮発性光メモリ11は、GaAs基板1と強磁性電極5aとの間に順バイアス方向の電圧を印加することで、光信号の情報「0」を書込んだ強磁性電極5aの磁化方向に対応した、「アップ」のスピン偏極状態の電子21を発光領域11aの半導体活性層3に注入する。不揮発性光メモリ11は、「アップ」のスピン偏極状態の電子21を半導体活性層3に注入して、分布ブラッグ反射層4の表面に対して垂直方向に、注入した電子21の「アップ」のスピン偏極状態に対応した左回り円偏光(σ)のレーザー光を発する。
【0071】
以上のように、本実施の形態に係る不揮発性光メモリ11は、強磁性電極5aが、受光領域11bの半導体活性層3上の全部に形成してあり、強磁性電極5aに入射した光信号の右回りまたは左回りの円または楕円偏光によって強磁性電極5aの磁化方向を制御して、光信号の情報を強磁性電極5aの磁化方向として書込むので、半導体活性層3にスピン偏極状態の電子を生成し、生成したスピン偏極状態の電子を強磁性電極5aに流入する動作が不要になる。
【0072】
なお、強磁性電極5aは、受光領域11bの半導体活性層3上の全部に形成してある場合に限定されるものではなく、入射した光信号の右回りまたは左回りの円または楕円偏光によって光信号の情報を強磁性電極5aの磁化方向として書込むことができれば、受光領域11bの半導体活性層3上の一部に形成してある場合でもよい。
【0073】
(実施の形態3)
次に、実施の形態1または2に係る不揮発性光メモリ10、11を複数用いた光記憶装置について説明する。図6は、本発明の実施の形態3に係る光記憶装置の構成を示す概略図である。図6に示す光記憶装置30は、実施の形態1に係る不揮発性光メモリ10を平面にマトリックス状に複数配置してある。なお、不揮発性光メモリ10の配置は、マトリックス状の配置に限定されるものではない。
【0074】
光記憶装置30は、時系列的に送信されてくる光信号の情報を、マトリックス状に配置してある不揮発性光メモリ10を順に選択して、選択した不揮発性光メモリ10の受光領域10bに光信号を入射し、入射した光信号の情報を強磁性電極5に書込み、光信号の情報を記憶する。また、光記憶装置30は、光信号の情報を書込んだ順に不揮発性光メモリ10を選択して、選択した不揮発性光メモリ10の発光領域10aから光信号を発して、記憶してあった光信号の情報を読出す。
【0075】
図7は、本発明の実施の形態3に係る光記憶装置30の動作を説明するための模式図である。図7に示す光記憶装置30は、複数の不揮発性光メモリ10を有し、各々の不揮発性光メモリ10に光信号の情報を書込む受光領域10b(図示していないが、特に強磁性電極5に書込む)と、光信号の情報を読出す発光領域10aとを含んでいる。
【0076】
まず、光記憶装置30に光信号の情報を書込む場合、光記憶装置30は、時系列の情報を円偏光に変換(偏光変換)した光信号が入力すると、図中上側の不揮発性光メモリ10から順に選択され、選択された不揮発性光メモリ10の受光領域10bに光信号の情報を書込む。たとえば、時系列の情報が、「1」,「0」,「0」,「1」・・・である場合、偏光変換により、光信号は、「右回り円偏光(σ)」,「入力なし」,「入力なし」,「右回り円偏光(σ)」・・・と変換される。光記憶装置30は、変換した光信号が入力すると、図中上側の不揮発性光メモリ10の受光領域10bから順に、「1」,「0」,「0」,「1」・・・光信号の情報を書込む。なお、光信号を入力する前、不揮発性光メモリ10の受光領域10bは、「0」の初期状態にリセットされる。
【0077】
次に、光記憶装置30から光信号の情報を読出す場合、光記憶装置30は、図中上側の不揮発性光メモリ10から順に選択され、選択された不揮発性光メモリ10の発光領域10aから、対応する受光領域10bに記憶した光信号の情報に基づく、光信号を発する。たとえば、光記憶装置30は、受光領域10bに記憶した光信号の情報「1」,「0」,「0」,「1」・・・に基づいて、図中上側の不揮発性光メモリ10の発光領域10aから順に「右回り円偏光(σ)」,「左回り円偏光(σ)」,「左回り円偏光(σ)」,「右回り円偏光(σ)」・・・の光信号を発する。不揮発性光メモリ10の発光領域10aが発した光信号は、時系列の情報に変換(逆偏光変換)され、光記憶装置30は、「1」,「0」,「0」,「1」・・・の情報を読出す。光信号を出力した後(光信号の情報を読出した後)、すべての不揮発性光メモリ10の受光領域10bは、次の光信号を入力する前に、「0」の初期状態にリセットされる。
【0078】
以上のように、本発明の実施の形態3に係る光記憶装置30は、不揮発性光メモリ10を平面に複数配置してあるので、光信号の情報を記憶させておくための電力を消費することがなく、光信号の情報の書込み、および読出しを高速に行なうことができる大容量の記憶装置を提供することができる。
【0079】
なお、本発明の実施の形態3に係る光記憶装置30では、時系列の情報を時間−空間変換して、平面に配置した複数の不揮発性光メモリ10で記憶する構成を示したが、本発明に係る光記憶装置は、当該構成に限定されるものではない。
【0080】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、光信号の情報を記憶する不揮発性光メモリ、および複数の不揮発性光メモリを備える光記憶装置に有効に利用される。
【符号の説明】
【0082】
1 GaAs基板、1a バッファ層、2,4 分布ブラッグ反射層、2a 組成トランジション層、3 半導体活性層、3a n型の半導体層、4b キャップ層、5,5a 強磁性電極、6 酸化膜、10,11 不揮発性光メモリ、10a,11a 発光領域、10b,11b 受光領域、20,21 スピン偏極状態の電子、30 光記憶装置、100 光ルータ、101 光バッファメモリ、102 光スイッチ素子、103 波長変換器、104 ヘッダ認証部、105 制御部、200,300 光ファイバ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子のスピン偏極状態を利用して光信号を記憶する不揮発性光メモリであって、
半導体基板と、
前記半導体基板上に、異なる屈折率の半導体膜を交互に積層することで形成してある第1反射層と、
前記第1反射層上に、量子井戸構造を有する半導体活性層と、
前記半導体活性層を発光領域と受光領域とに分け、前記発光領域の前記半導体活性層上に、異なる屈折率の半導体膜を交互に積層することで形成してある第2反射層と、
前記受光領域の前記半導体活性層上の一部に、前記半導体活性層の表面に対して垂直の磁化方向を有する強磁性電極と
を備え、
少なくとも前記第1反射層、および前記半導体活性層の最表膜に不純物をドープして、前記第1反射層と前記半導体活性層の最表膜との間でPINダイオードを構成し、
前記受光領域の前記半導体活性層に、右回りまたは左回りの円または楕円偏光で情報を表した光信号を入射して、右回りまたは左回りの円または楕円偏光に対応したスピン偏極状態の電子を生成し、生成したスピン偏極状態の電子を、前記半導体基板と前記強磁性電極との間に逆バイアス方向の電圧を印加することで前記強磁性電極に流入させ、流入したスピン偏極状態の電子によって前記強磁性電極の磁化方向を制御して、前記光信号の情報を前記強磁性電極の磁化方向として書込み、
前記半導体基板と前記強磁性電極との間に順バイアス方向の電圧を印加することで、前記光信号の情報を書込んだ前記強磁性電極の磁化方向に対応したスピン偏極状態の電子を前記発光領域の前記半導体活性層に注入し、前記第2反射層の表面に対して垂直方向に、注入した電子のスピン偏極状態に対応した右回りまたは左回りの円または楕円偏光のレーザー光を発して、前記光信号の情報を読出す、不揮発性光メモリ。
【請求項2】
電子のスピン偏極状態を利用して光信号を記憶する不揮発性光メモリであって、
半導体基板と、
前記半導体基板上に、異なる屈折率の半導体膜を交互に積層することで形成してある第1反射層と、
前記第1反射層上に、量子井戸構造を有する半導体活性層と、
前記半導体活性層を発光領域と受光領域とに分け、前記発光領域の前記半導体活性層上に、異なる屈折率の半導体膜を交互に積層することで形成してある第2反射層と、
前記受光領域の前記半導体活性層上の一部または全部に、前記半導体活性層の表面に対して垂直の磁化方向を有する強磁性電極と
を備え、
少なくとも前記第1反射層、および前記半導体活性層の最表膜に不純物をドープして、前記第1反射層と前記半導体活性層の最表膜との間でPINダイオードを構成し、
前記強磁性電極に、右回りまたは左回りの円または楕円偏光で情報を表した光信号を入射して、入射した前記光信号の右回りまたは左回りの円または楕円偏光によって前記強磁性電極の磁化方向を制御して、前記光信号の情報を前記強磁性電極の磁化方向として書込み、
前記半導体基板と前記強磁性電極との間に順バイアス方向の電圧を印加することで、前記光信号の情報を書込んだ前記強磁性電極の磁化方向に対応したスピン偏極状態の電子を前記発光領域の前記半導体活性層に注入し、前記第2反射層の表面に対して垂直方向に、注入した電子のスピン偏極状態に対応した右回りまたは左回りの円または楕円偏光のレーザー光を発して、前記光信号の情報を読出す、不揮発性光メモリ。
【請求項3】
前記半導体活性層は、複数の量子井戸膜と複数の障壁膜とを有する多重量子井戸構造である、請求項1または2に記載の不揮発性光メモリ。
【請求項4】
前記半導体活性層は、前記受光領域の前記半導体活性層と前記第1反射層との間に絶縁膜を備える、請求項1〜3のいずれか一項に記載の不揮発性光メモリ。
【請求項5】
前記半導体基板の(110)面上に前記半導体活性層を形成してある、請求項1〜4のいずれか一項に記載の不揮発性光メモリ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の不揮発性光メモリを平面に複数配置してある、光記憶装置。
【請求項7】
請求項6に記載の光記憶装置を備えてある、ネットワークルータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−209382(P2012−209382A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73051(P2011−73051)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(504143441)国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 (226)
【Fターム(参考)】