説明

中赤外光−紫外光発生装置

【課題】 中赤外光と紫外光を一緒に発生させることが可能で、中赤外光の波長と中赤外光と紫外光のタイミングを調整することができるコンパクトで低コストな中赤外光−紫外光発生装置を提供する。特に、マトリックス支援脱離イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI−TOFMS)において中赤外光と紫外光を一緒に照射することにより光質量物質、特に不溶性たんぱく質試料の質量分析を可能にする方法に利用できる簡便な中赤外光−紫外光発生装置を提供する。
【解決手段】 Nd:YAGレーザ1とCr:forsteriteレーザ2の差周波発生により中赤外光を発生させる波長可変赤外光発生装置において、差周波発生用非線形光学結晶3に向かうNd:YAGレーザのエネルギーの一部を分岐し、この分岐Nd:YAGレーザまたはこの高調波紫外光と波長可変な中赤外光を同時に出力することができるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中赤外光と紫外光を一緒に発生するレーザ装置に関し、特にマトリックス支援脱離イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI−TOFMS)において赤外光と紫外光を一緒に照射することにより不溶性たんぱく質試料の質量分析を可能にする方法に利用できる中赤外光−紫外光発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
標準的なMALDI(マトリックス支援脱離イオン化法)は、サンプルをマトリックスに混ぜて窒素レーザ光などの紫外光を照射すると、マトリックスが光を吸収して熱エネルギーに変換し、マトリックスのごく一部が急速に加熱されて、サンプルと共に気化することを利用するものである。
TOFMS(飛行時間型質量分析法)とは、正電位V0に置かれたサンプルスライド上で様々の大きさの正イオンが発生すると、接地されたグリッドにより引き出されて、エネルギー保存則により決まる速度Vを持って検出器まで飛行するが、どのイオンも同じ電位差V0が作用するので、質量電荷比m/zが小さいイオンほど短い時間で検出器に到達する現象を利用して、質量分析を行うものである。
【0003】
MALDI−TOFMSは、マトリックス支援脱離イオン化法と飛行時間型質量分析法を組み合わせた装置で、タンパク質同定の決め手となる分子量の簡便かつ精密な測定装置である。しかし、MALDIの光源として紫外光を用いるものでは、質量の大きな高分子、特に不溶性タンパク質を対象とするときは、イオン化しにくいため質量分析が難しかった。そこで、非特許文献1に報告されているように、さらに添加剤を加えて中赤外光と紫外光を併用するようにすると、効率よくイオン化することができることが分かった。
【0004】
非特許文献1に記載された方法は、試料を加えたマトリックスに中赤外光を吸収しかつ試料を溶かす薬品を添加して、添加剤の振動モードに波長を調整した赤外レーザ光とマトリックスに吸収される紫外光を同時に照射することにより試料を急速気化しイオン化するものである。イオン化した試料を質量分析装置によって質量測定することにより、従来の測定法を超えた高質量域においてさらに高感度な測定をすることができるようになった。
この方法によると、生物の細胞膜を構成するタンパク質や病気の原因となるタンパク質など各種の不溶性タンパク質についてもイオン化して質量測定することができるので、病理研究などに大きく貢献することが期待できる。
【0005】
非特許文献1に記載されたMALDI−TOFMSでは、窒素レーザから発生される紫外光と自由電子レーザ(FEL)から発生される中赤外光を試料に同時に照射している。したがって、極めて大型で高価であり取扱いが難しい自由電子レーザ装置を利用するので、測定を簡便に行うことができない。また、紫外光と中赤外光の波長のみならず照射タイミングを選択することにより分析効率や精度が変化する可能性があるが、2つのレーザ装置がそれぞれ別個独立であるのでタイミングの調整が難しい。
【0006】
なお、波長を調整できる中赤外光の発生装置として、FELに代えて、特許文献1にも開示されているNd:YAGレーザとCr:forsteriteレーザの差周波発生を利用することができる。特許文献1に開示された波長可変赤外光レーザ装置は、波長1.064μmのNd:YAGレーザと1.15〜1.35μmの範囲で波長選択できるCr:forsteriteレーザを非線形光学結晶に入射して混合し差周波発生により赤外光を発生させるもので、Cr:forsteriteレーザの波長を選択することにより赤外光の波長を5〜14μmの範囲で調整できるようになっている。したがって、任意の化合物に対して、適合する波長を選択して振動励起することができる。
特許文献1記載の波長可変赤外光レーザ発生装置はFELと比較すれば極めて小型で簡便に操作することができるが、紫外光と関係付けて照射タイミングを決めることは簡単でない。
【0007】
MALDIの他にも、赤外光と紫外光など異なる波長の光を同時に照射することにより、対象に含まれる異なる成分に作用して成果を得るプロセスが存在する。
たとえば、特許文献2には、母材を有機金属と接触させておいて、ここに紫外レーザ光と可視から赤外の範囲に波長があるレーザ光を同時に照射することにより金属を堆積させて回路パターンを形成する金属堆積方法が開示されている。
開示方法は、有機金属蒸気を紫外レーザ光で解離させて基板上に金属を堆積させながら、有機金属蒸気が顕著な熱解離を生じない範囲で十分に大きな強度の赤外あるいは可視レーザ光を基板に照射するもので、金属の尾基板への付着強度が大きくしかも堆積の厚みやパターンの制御性に優れた金属堆積が可能になる。
【0008】
特許文献2の実施例では、アルゴンレーザから発射された波長514.5nmの可視レーザ光の一部を高調波発生器で第2高調波に変換し、これを紫外レーザ光として可視レーザ光と一緒に利用している。実施例として、紫外レーザ光の出力を100μW、可視レーザ光の出力を20mWとして、試料基板上の約10μm径に範囲に集光してタンクステンなどの金属を堆積させた試験について記載している。
特許文献2には、赤外光や各種レーザ光を活用して色々な金属を堆積させることができることが記載されている。
【非特許文献1】Y. Naito et al., "Matrix-assisted laser desorption/ionization of protein samples containing a denaturant at high concentration using a mid-infrared free-electron laser(MIR-FEL)", International Journal of Mass Spectrometry 241 (2005) pp.49-56
【特許文献1】特開2002−287190号公報
【特許文献2】特開昭59−208065号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、中赤外光と紫外光を一緒に発生させることが可能で、かつ中赤外光の波長と中赤外光と紫外光のタイミングを調整することができるコンパクトで低コストな中赤外光−紫外光発生装置を提供することである。
また、特に、マトリックス支援脱離イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI−TOFMS)において中赤外光と紫外光を一緒に照射することにより高分子、特に不溶性たんぱく質試料の質量分析を可能にする方法に利用できる簡便な中赤外光−紫外光発生装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明に係る中赤外光−紫外光発生装置は、励起レーザ光を出力する励起レーザ装置と、励起レーザ光の光路中に配備された分岐器と、分岐器で分岐された第1の分岐レーザ光を励起光源として中赤外光を得る赤外レーザ発生装置と、高調波発生器を備えて分岐器で分岐された第2の分岐レーザ光の高調波から紫外光を得る紫外レーザ発生装置とを設けて、励起レーザ光の分岐レーザ光に基づき紫外光と中赤外光を一緒に出力するようにしたことを特徴とする。
本発明の装置によれば、同じ出力源から供給される励起レーザを分岐して、一方の分岐レーザ光で赤外光を得、他方で紫外光を得て、一緒に対象物に照射することができるので、異なる波長の光を吸収して振動励起する異なる成分を含む対象物に対して有効な光学作用を生じさせることができる。
【0011】
本発明に係る中赤外光−紫外光発生装置は、特に、Nd:YAGレーザとCr:forsteriteレーザの差周波発生により中赤外光を発生させる波長可変赤外光発生装置において、差周波発生用非線形光学結晶に向かうNd:YAGレーザのエネルギーの一部を分岐し、この分岐Nd:YAGレーザと波長可変な中赤外光を同時に出力することができるようにしたものである。
本発明の装置によれば、波長可変赤外光発生装置から得られる波長5〜14μmの中赤外範囲で選択した差周波光(DFG)と、波長1.064μmのNd:YAGレーザを同期させて一緒に対象物に照射することができるので、異なる波長の光を吸収して振動励起する異なる成分を含む対象物に対して有効な作用を生じさせることができる。
【0012】
さらに、分岐Nd:YAGレーザの光路中に高調波発生器を備えて、高調波発生器で発生する紫外線を発生させて、波長可変中赤外光と一緒に対象物に照射させるようにしてもよい。波長1.064μmのNd:YAGレーザは、第2高調波の波長が532nm、第3高調波の波長が355nm、第4高調波の波長が266nm、第5高調波の波長が213nmになり、第3高調波以上で紫外光となる。
したがって、本発明の中赤外光−紫外光発生装置において、第3高調波以上の紫外光を取り出して波長可変中赤外光DFGと一緒に照射するようにすれば、不溶性たんぱく質などの高質量物質も容易に質量分析が可能になった新しいMALDI−TOFMSに利用することができる。
【0013】
また、本発明の装置では、分岐Nd:YAGレーザの高調波紫外光と中赤外レーザ光はいずれも同じNd:YAGレーザ発生装置で発生したNd:YAGレーザを分岐して生成させるので、紫外光と中赤外光の放出タイミングは、両者の光路長差によって決まることになる。
そこで、分岐Nd:YAGレーザ光の光路中、または中赤外光の光路中に遅延光路を設けて、光路長差を調整するようにしてもよい。光路長差を調整することにより、紫外光と中赤外光がそれぞれ対応する成分に作用するタイミングをずらして、総合的に良好な効果を得られるようにすることができる。
【0014】
高調波発生器は第1の非線形光学素子と第1のダイクロイックミラーと第2の非線形光学素子と第2のダイクロイックミラーを直列に配置したもので、第2ダイクロイックミラーを光路から待避することができるように構成することが好ましい。第1非線形光学素子は波長1.064μmのNd:YAGレーザ光からその高調波を生成し、元のレーザ光と混ざった状態で出力する。第1ダイクロイックミラーは波長1064nmの光を反射し波長532nmの第2高調波光を透過する。第2非線形光学素子は第2高調波光から波長266nmの第4高調波以下の高調波を生成し第2高調波と一緒に出力する。第2ダイクロイックミラーは第2高調波光を光路外に反射放出し紫外光である第4高調波光を透過して出力する。
【0015】
したがって、第2ダイクロイックミラーより下流の光学系では紫外光が光路を形成する。紫外光は人の目に見えないため、光学素子の位置決めには大変な苦労がある。
そこで、第2ダイクロイックミラーを光路中に抜き差しできる機構を設けて、光路から待避させると、緑色を呈する第2高調波も紫外光と一緒に光路に沿って出射するので、光路が人の目に見えるようになり、この緑色光を利用して光学素子の位置決めを楽に行うことができる。
【0016】
さらに、波長可変赤外光発生装置の差周波発生用非線形光学結晶の出力位置にブリュースター型Geフィルタを配置することが好ましい。
差周波発生用非線形光学結晶から出射する光には、DFG光の他にNd:YAGレーザ光とCr:forsteriteレーザ光が含まれる。ブリュースター型Geフィルタは、Cr:forsteriteレーザの約80%を反射し、残った約20%とNd:YAGレーザをフィルタ内で吸収するので、出射位置にブリュースター型Geフィルタを配置することによって、DFG光のみ射出されるようになる。
【0017】
さらに、可視光レーザ装置を備えて、可視光レーザ装置から出力される可視光レーザをブリュースター型Geフィルタの出力側に投射し、反射光が波長可変赤外レーザ光と同じ光路を通るように配置することが好ましい。
波長可変赤外光発生装置から出射されるDFG光も人の目に見えないため、光学素子を配設するときに困難がある。可視光レーザをDFG光と同じ光路を通るようにすれば、人の目に見える光を介して位置調整をすることができるので、困難が解消される。
【0018】
本発明の中赤外光−紫外光発生装置を使うことにより、紫外光と中赤外光の2種類のレーザ光を使う小型で安価な、運転しやすいマトリックス支援脱離イオン化飛行時間型質量分析装置(MALDI−TOFMS)を構成することができる。特に、紫外光と中赤外光相互のタイミングを適宜調整することにより、高質量物質について目的に適合した効率がよく精度の高い質量測定を行えるようになることが期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明について実施例に基づき図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の中赤外光−紫外光発生装置の1実施例を表す構成図、図2は本実施例において、紫外光の光路を可視化する機構を説明する概念図、図3は本実施例において、中赤外光の光路を可視化する機構を説明する概念図である。
【0020】
本実施例の中赤外光−紫外光発生装置は、Nd:YAGレーザ光と波長可変のCr:forsteriteレーザ光を差周波発生用非線形光学結晶に入射して所望の差周波光(DFG)を生成する波長可変赤外光発生装置におけるNd:YAGレーザ光の一部を分岐して高調波発生用非線形光学結晶に通し生成する高調波から紫外光を取り出して、DFGと一緒に放射する装置である。
【0021】
図1に示した具体例を参照すると、波長可変赤外光発生装置は、波長1.064μmのレーザ光を発生するポンプ用Nd:YAGレーザ装置1と1.17〜1.35μmの範囲で波長が調整できるCr:forsteriteレーザ装置2と差周波発生用非線形光学結晶3を備えて、Nd:YAGレーザ光の波長変換作用によりNd:YAGレーザ光とCr:forsteriteレーザ光の差周波光を生成して5.5〜10μmの範囲で選択可能な中赤外光を得るものである。
【0022】
Cr:forsteriteレーザ装置2は、1.17〜1.35μmの波長範囲でレーザ発信する波長可変固体レーザであるCr:forsteriteレーザ部21と、Cr:forsteriteレーザを励起するための光源となる励起用Nd:YAGレーザ装置22と、Cr:forsteriteレーザをパルス動作で作動するために励起用Nd:YAGレーザ装置22にトリガーを供給するパルス発生装置23を備える。
【0023】
パルス発生装置23で発生するパルスは、ポンプ用Nd:YAGレーザ装置1と励起用Nd:YAGレーザ装置22の2基のNd:YAGレーザ装置を同期駆動する。ポンプ用Nd:YAGレーザ装置1は波長1.064μmのパルスレーザをポンプ光として差周波発生用非線形光学結晶3に入射する。励起用Nd:YAGレーザ装置22はCr:forsteriteレーザの励起光源としてパルスレーザをCr:forsteriteレーザ部21に供給する。
Cr:forsteriteレーザ部21に入射したパルスレーザはレンズで構成されたテレスコープにより所定のビーム径を持つように調整された後、ビームスプリッターで分割されてCr:forsteriteレーザ結晶24の両側面に入射して両サイド励起する。
【0024】
Cr:forsteriteレーザ結晶24は出力鏡27と反射鏡26の間に配置され、レーザ結晶24と反射鏡26の間に分光プリズム25が設けられる。反射鏡26は回動鏡であって、反射方向を調整することにより分光プリズム25で波長分散した光のうち選択した光だけが出力鏡27まで戻るようにして、選択した波長の光が共振器内で共振してレーザ発振するようにする。
Cr:forsteriteレーザは、1.15〜1.35μmの範囲で波長を選択することができ、シグナル光として差周波発生用非線形光学結晶3に供給される。
【0025】
差周波発生用非線形光学結晶3はAgGaS2 結晶などの光混合型非線形光学結晶31で構成され、周波数ω1とω2のレーザ光を入力するとこれら周波数の差の周波数ω3(=ω1−ω2)を持った差周波光(DFG)を出力する。
差周波発生用非線形光学結晶3から放射される差周波光は、基本的にポンプ光の波長変換作用によって発生するもので、差周波光のエネルギーはポンプ光のエネルギーに依存する。また、差周波光の周波数はポンプ光とシグナル光の周波数差であるから、シグナル光の周波数を変化させることにより調整することができる。
【0026】
本実施例における波長可変赤外光発生装置は、ポンプ用Nd:YAGレーザ装置1が波長1.064μmのパルスレーザをポンプ光として差周波発生用非線形光学結晶3に入射し、Cr:forsteriteレーザ装置2が波長1.15〜1.35μmの範囲で選択したレーザをシグナル光としNd:YAGレーザと同期させて差周波発生用非線形光学結晶3に入射するので、ポンプ光とシグナル光の差周波数に基づいて5〜14μmの波長範囲の中赤外光を選択的に発生することができる。
【0027】
たとえば、ポンプ用Nd:YAGレーザ装置1から波長1.064μmのパルスレーザを相対的に大きなエネルギーを持ったポンプ光として、また、Cr:forsteriteレーザ装置2から波長1.284μmに調整した出力レーザをシグナル光として差周波発生用非線形光学結晶3に入力すると、差周波発生用非線形光学結晶3からは入力したレーザ光の他に波長6.21μmの差周波光が出力する。これら出力光をGeフィルター32に通して波長分別し、長波長の差周波光(赤外光)のみを外部に取り出すことができる。
【0028】
本実施例の中赤外光−紫外光発生装置は、上記の波長可変赤外光発生装置におけるポンプ用Nd:YAGレーザ装置1の出力位置にビームスプリッター4を配置して、Nd:YAGレーザ光の一部を分岐し、分岐したNd:YAGレーザの光路中に高調波発生器5を備えてNd:YAGレーザ光の高調波を生成するように構成したものである。
高調波発生器5は、KTP、BBO,その他の非線形光学結晶51,53とダイクロイックミラー52,54を用いて構成されたもので、非線形光学結晶で入射光の高調波を生成し、ダイクロイックミラーで目的の高調波を選択して出力する。
【0029】
図2(a)は本実施例における高調波発生器の構成を示した図面である。
高調波発生器5は、第1非線形光学結晶51と第1ダイクロイックミラー52と第2非線形光学結晶53と第2ダイクロイックミラー54を直列に配置して構成されている。
第1ダイクロイックミラー52は、波長1064nmの光を反射して光路外に放出し、波長532nmの第2高調波光を透過する。第2ダイクロイックミラーは、第2高調波光を反射して光路外に放出し、波長266nmの第4高調波光を透過する。
【0030】
このような構成において、第1非線形光学結晶51に波長1.064μmのNd:YAGレーザ光が入射すると第1非線形光学結晶51で波長532nmの第2高調波以下の高調波が発生して元のレーザ光と混ざった状態で出力する。第1ダイクロイックミラー52は、第1非線形光学結晶51の出力光を入射して、波長1.064μmのNd:YAGレーザ光を光路外に放出し、第2高調波以下の高調波を第2非線形光学結晶53に入射させる。第2非線形光学結晶53は、これら高調波の高調波を生成して、第2ダイクロイックミラー54に入射する。第2ダイクロイックミラー54は緑色を呈する第2高調波を光路外に放出して、紫外領域の第3高調波以下を透過し光路に沿って出射する。
紫外光の光路は人の目に見えないため、光学素子の位置決めには大変な苦労がある。
【0031】
そこで、本実施例では、図2(b)に示すように、第2ダイクロイックミラー54を光路から待避することができるように構成する。第2ダイクロイックミラー54を光路中から待避させると、緑色を呈する第2高調波も紫外光と一緒に光路に沿って出射するので、光路が人の目に見えるようになり、この緑色光を利用して光学素子の位置決めを楽に行うことができる。
【0032】
図3に示すように、波長可変赤外光発生装置の差周波発生用非線形光学結晶3における非線形光学結晶31の出力位置に配置するGeフィルタ32として、ブリュースター型Geフィルタを選択することができる。
非線形光学結晶31から出射する光には、DFG光の他にNd:YAGレーザ光とCr:forsteriteレーザ光が含まれる。
ブリュースター型Geフィルタ32は、入射するCr:forsteriteレーザの約80%を反射し、残った約20%とNd:YAGレーザをフィルタ内で吸収するので、出射位置にブリュースター型Geフィルタを配置することによって、DFG光のみ射出されるようになる。
【0033】
さらに、He−Neレーザなどの可視光レーザ装置7を備えて、可視光レーザ装置7から出力される可視光レーザがブリュースター型Geフィルタの出力側で反射して波長可変赤外レーザ光と同じ光路を通るようにすることができる。
波長可変赤外光発生装置から出射されるDFG光も人の目に見えないため、光学素子を配設するときに困難があるが、可視光レーザをDFG光と同じ光路を通るようにすれば、可視光に基づいて容易に光学素子の位置調整をすることができる。
【0034】
また、Nd:YAGレーザの高調波から得る紫外光と差周波光として得る中赤外光は同じポンプ用Nd:YAGレーザ発生装置1で発生したNd:YAGレーザを分岐して生成させるので、紫外光と中赤外光の放射タイミングは、両者の光路長差によって決まる。
紫外光は、MALDIのサンプルを混入するマトリックスの吸収特性に合わせられていて、被測定対象物に照射するとマトリックスに吸収されて電子励起によりマトリックスが急速気化するときに、サンプルを随伴して放散させると共にイオン化する。
また中赤外光は、サンプルを溶解する溶剤の吸収特性に適合させてあって、被測定対象物に照射すると溶剤に吸収され振動励起してサンプルである高質量高分子の単離に寄与する。このように、紫外光と中赤外光は作用する相手が異なるので、相互のタイミングにより分析効率が異なる可能性が高い。
【0035】
そこで、図1に示すように、分岐Nd:YAGレーザ光の光路中に遅延光路6を設けて光路長差を調整できるようにすることが好ましい。
紫外光と中赤外光の光路長差を調整することにより、紫外光と中赤外光がそれぞれ対応する成分に作用するタイミングをずらして、総合的に良好な質量分析を行えるようにする。
なお、遅延光路は、中赤外光の光路中に設けてもよい。また、紫外光の光路と中赤外光の光路の両方に設ければ、調整範囲が拡大してより自由なタイミング選択が可能になる。
【0036】
本発明の中赤外光−紫外光発生装置は上記説明した機能を有するので、これを利用することにより、紫外光と中赤外光の2種類のレーザ光を被測定物に照射することができ、小型で安価な、運転しやすいマトリックス支援脱離イオン化飛行時間型質量分析装置(MALDI−TOFMS)を構成することができる。特に、紫外光と中赤外光相互のタイミングを適宜調整することにより、高質量物質について効率がよく精度の高い質量測定が行えるようになることが期待される。
なお、実施例の中赤外光−紫外光発生装置は、発明を実施するための最良の形態としての例示であって、課題を解決するための手段をこれに制約するものではないことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の中赤外光−紫外光発生装置の1実施例を表す構成図である。
【図2】本実施例における紫外光の光路を可視化する機構を説明する概念図である。
【図3】本実施例における中赤外光の光路を可視化する機構を説明する概念図である。
【符号の説明】
【0038】
1 ポンプ用Nd:YAGレーザ装置
2 Cr:forsteriteレーザ装置
21 Cr:forsteriteレーザ部
22 励起用Nd:YAGレーザ装置
23 パルス発生装置
24 Cr:forsteriteレーザ結晶
25 分光プリズム
26 反射鏡
27 出力鏡
3 差周波発生用非線形光学結晶
31 非線形光学結晶
32 Geフィルター
4 ビームスプリッター
5 高調波発生器
51 第1非線形光学結晶
52 第1ダイクロイックミラー
53 第2非線形光学結晶
54 第2ダイクロイックミラー
6 遅延光路
7 可視光レーザ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起レーザ光を出力する励起レーザ装置と、該励起レーザ光の光路中に配備された分岐器と、該分岐器で分岐された第1の分岐レーザ光を励起光源として中赤外光を得る赤外レーザ発生装置と、高調波発生器を備えて前記分岐器で分岐された第2の分岐レーザ光の高調波から紫外光を得る紫外レーザ発生装置とを設けて、前記励起レーザ光の分岐レーザ光に基づき前記紫外光と前記中赤外光を一緒に出力するようにした中赤外光−紫外光発生装置。
【請求項2】
前記励起レーザ装置がNd:YAGレーザ光を出力するNd:YAGレーザ発生装置であり、前記赤外レーザ発生装置が、Cr:forsteriteレーザと非線形光学結晶を備えて、前記Nd:YAGレーザ光と前記Cr:forsteriteレーザから出力された波長可変レーザ光を前記非線形光学結晶に入射して混合し差周波発生により中赤外光を得るものであり、さらに前記紫外レーザ発生装置が、前記第2分岐レーザ光の光路中に備えた高調波発生器で前記第2分岐レーザ光の高調波を紫外光として出力するものであることを特徴とする請求項1記載の中赤外光−紫外光発生装置。
【請求項3】
前記第2分岐レーザ光の光路中に、または前記中赤外光の光路中に、さらに光路長を調整する遅延光路を設けることを特徴とする請求項1または2記載の中赤外光−紫外光発生装置。
【請求項4】
前記高調波発生器が非線形光学素子を利用して入射光の高調波光を発生することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の中赤外光−紫外光発生装置。
【請求項5】
前記高調波発生器は第1の非線形光学素子と第1のダイクロイックミラーと第2の非線形光学素子と第2のダイクロイックミラーを直列に配置したもので、第2ダイクロイックミラーを光路から待避する機構を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の中赤外光−紫外光発生装置。
【請求項6】
前記非線形光学結晶の出力位置にブリュースター型Geフィルタを配置したことを特徴とする請求項2から5のいずれかに記載の中赤外光−紫外光発生装置。
【請求項7】
前記波長可変赤外レーザ発生装置に可視光レーザ装置を備えて、該可視光レーザ装置から出力される可視光レーザを前記ブリュースター型Geフィルタの出力側で反射させ、該可視光レーザが前記波長可変レーザ光と同じ光路を通るように配設したことを特徴とする請求項6記載の中赤外光−紫外光発生装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の中赤外光−紫外光発生装置により発生する中赤外光と紫外光を被検物に照射して質量分析することを特徴とするマトリックス支援脱離イオン化飛行時間型質量分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−5410(P2007−5410A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−181218(P2005−181218)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】