説明

位置決め制御装置及びレーザ加工機

【課題】
位置決め時間を短くする位置決め制御装置を提供する。
【解決手段】
モータの位置決め制御を行う閉ループ制御系の位置決め制御装置100であって、モータの目標位置が入力される目標位置入力ブロック1と、モータの実位置及び実速度をフィードバックして、目標位置入力ブロック1に入力された目標位置とモータの実位置との偏差に応じた第一の目標指令信号を生成する制御則A(17a)と、モータの実位置及び実速度をフィードバックして、目標位置とモータの実位置との偏差に応じた第二の目標指令信号を生成する制御則B(17b)と、目標位置に応じて、第一の目標指令信号と第二の目標指令信号とのいずれかをモータに入力するように切り替えるスイッチブロック5とを有し、制御則A及び制御則Bは、閉ループ制御系の極配置が互いに異なるように設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの位置決め制御装置及びレーザ加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、レーザ穴あけ加工機やレーザトリマ、レーザリペアに使用するガルバノモータの位置決め装置の開発を行っている。レーザ穴あけ加工機では、高速かつ高精度に加工を行うため、ガルバノモータの位置決め時間を短縮する最適な整定波形となるように位置決め制御を行う必要がある。
【0003】
ところで、フィードバック制御系の設計法として、極配置法を用いる方法がある。極配置法とは、閉ループ制御系の極配置に着目して、フィードバック制御系の特性を設計する方法である。フィードバック制御系における極配置法に関しては、フィードバック制御系の固有値と位置決め応答波形との関係がよく知られている(非特許文献1参照)。この関係を利用した設計法の一例として、特許文献1がある。
【特許文献1】特開平8−6603号公報
【非特許文献1】演習で学ぶ現代制御理論 森北出版P61〜P86
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レーザ加工の加工対象により、ガルバノモータの移動量は様々であり、また、レーザ加工に要求される位置決め精度も異なる。このため、モータの移動量や位置決め精度を勘案しながら、位置決めにかかる全体の時間を短くする制御方法が望まれている。
【0005】
そこで本発明は、位置決め時間を短くする位置決め制御装置及びレーザ加工機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面としての位置決め制御装置は、モータの位置決め制御を行う閉ループ制御系の位置決め制御装置であって、前記モータの目標位置が入力される目標位置入力部と、前記モータの実位置及び実速度をフィードバックして、前記目標位置入力部に入力された前記目標位置と前記モータの実位置との偏差に応じた第一の目標指令信号を生成する第一の制御部と、前記モータの前記実位置及び前記実速度をフィードバックして、前記目標位置と前記モータの前記実位置との偏差に応じた第二の目標指令信号を生成する第二の制御部と、前記目標位置に応じて、前記第一の目標指令信号と前記第二の目標指令信号とのいずれかを前記モータに入力するように切り替えるスイッチ部とを有し、前記第一の制御部及び前記第二の制御部は、閉ループ制御系の極配置が互いに異なるように設定されている。
【0007】
また、本発明の他の側面としてのレーザ加工機は、被加工面の加工を行うレーザ加工機であって、前記被加工面に照射するレーザ光を走査するミラーと、前記ミラーを回転させるモータと、前記位置決め制御装置を備え、前記モータを制御する制御部とを有する。
【0008】
本発明の他の目的及び特徴は、以下の実施例において説明される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、位置決め時間を短くする位置決め制御装置及びレーザ加工機を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
まず、本実施例におけるレーザ加工機の構成について説明する。図6は、本実施例におけるレーザ加工機50の概略構成図である。レーザ加工機50は、被加工面の加工を行うものであり、基板の切断や穴あけ、金属間の溶接など、幅広い用途に利用される。
【0012】
本実施例のレーザ加工機50は、X軸回転モータ24及びY軸回転モータ29を備える。X軸回転モータ24は、X軸ミラー23を回転駆動する。同様に、Y軸回転モータ29は、Y軸ミラー28を回転駆動する。X軸ミラー23及びY軸ミラー28は、X軸回転モータ24及びY軸回転モータ29によりそれぞれ回転駆動され、その向きが変化する。このように、X軸回転モータ24及びY軸回転モータ29は、X軸ミラー23及びY軸ミラー28をそれぞれ回転させる。
【0013】
レーザ加工機コントローラ部20は、所定の入力値に基づいて、X軸モータ位置指令部21にX軸モータ位置に関する制御信号を出力する。同様に、レーザ加工機コントローラ部20は、Y軸モータ位置指令部26にY軸モータ位置に関する制御信号を出力する。
【0014】
また、レーザ加工機コントローラ部20は、レーザ光ON/OFF部35に対してON/OFF信号を出力する。レーザ光ON/OFF部35は、レーザ加工機コントローラ部20からのON/OFF信号に基づいて、加工用レーザ光31のON/OFFを制御する。
【0015】
X軸モータ位置指令部21は、レーザ加工機コントローラ部20からの制御信号に基づいて、X軸モータコントローラ22に所定の指令信号を出力する。また、Y軸モータ位置指令部26は、レーザ加工機コントローラ部20からの制御信号に基づいて、Y軸モータコントローラ27に所定の指令信号を出力する。
【0016】
X軸回転モータ24は、X軸モータコントローラ22からの制御信号に基づいて駆動制御されることにより回転する。同様に、Y軸回転モータ29は、Y軸モータコントローラ27からの制御信号に基づいて駆動制御されることにより回転する。なお、X軸モータコントローラ22及びY軸モータコントローラ27は、後述の位置決め制御装置を備え、X軸回転モータ24及びY軸回転モータ29を制御する制御部として機能する。
【0017】
X軸ロータリエンコーダ33は、X軸回転モータ24の回転角度を検知する。すなわち、X軸ロータリエンコーダ33は、X軸回転モータ24の角度検知手段として用いられる。X軸モータコントローラ22は、X軸ロータリエンコーダ33により検知されるX軸回転モータ24の実際の回転角度と、目標とする回転角度との差異が小さくなるように制御する。
【0018】
Y軸ロータリエンコーダ34は、Y軸回転モータ29の回転角度を検知する。すなわち、Y軸ロータリエンコーダ34は、Y軸回転モータ29の角度検知手段として用いられる。Y軸モータコントローラ27は、Y軸ロータリエンコーダ34により検知されるY軸回転モータ29の実際の回転角度と、目標とする回転角度との差異が小さくなるように制御する。
【0019】
X軸ミラー23は、X軸回転モータ24の回転軸に固定されている。このため、X軸回転モータ24が回転駆動されることにより、X軸ミラー23は回転する。同様に、Y軸ミラー28は、Y軸回転モータ29の回転軸に固定されている。このため、Y軸回転モータ29が回転駆動されることにより、Y軸ミラー28は回転する。後述のとおり、X軸ミラー23及びY軸ミラー28は、被加工面としてのレーザ加工面32に照射するレーザ光を走査する。
【0020】
レーザ光ON/OFF部35から射出した加工用レーザ光31は、Y軸ミラー28及びX軸ミラー23で反射して、加工対象としてのレーザ加工面32(被加工面)に照射される。加工用レーザ光31は、X軸ミラー23が回転することにより、レーザ加工面32上におけるX軸方向(正側及び負側)に走査される。また、加工用レーザ光31は、Y軸ミラー28が回転することにより、レーザ加工面32上におけるY軸方向(正側及び負側)に走査される。このように、加工用レーザ光31がレーザ加工面32を照射しながらX軸方向及びY軸方向に走査されることにより、レーザ加工面32に所定の加工が行われる。なお、レーザ加工面32としては、金属やガラス、プラスチックなど広範の材料を選択することができる。
【0021】
次に、本実施例における位置決め制御装置の構成について説明する。図1は、本実施例における位置決め制御装置100の概略構成を示すブロック図である。
【0022】
図1に示される位置決め制御系は、サーボモータ16及びサーボモータ16を位置決め制御する閉ループ制御系の位置決め制御装置100から構成されている。
【0023】
1は、モータの目標位置が入力される目標位置入力ブロック(目標位置入力部)である。本実施例の目標位置入力ブロック1では、目標位置指令がステップ上に入力される。
【0024】
17aは制御則Aである。制御則A(17a)は、積分ゲインブロック2a、速度フィードバックの比例ゲインブロック3a、位置フィードバックの比例ゲインブロック4a、減算器ブロック12、及び、加算器ブロック13から構成されている。
【0025】
17bは制御則Bである。制御則B(17b)は、積分ゲインブロック2b、速度フィードバックの比例ゲインブロック3b、位置フィードバックの比例ゲインブロック4b、減算器ブロック14、及び、加算ブロック15から構成されている。
【0026】
5は、目標位置(移動量)に応じて制御則A(17a)と制御則B(17b)とを切替えるスイッチブロック(スイッチ部)である。スイッチブロック5には、目標位置入力ブロック1からの出力値、制御則A(17a)の減算器ブロック12の出力値、及び、制御則B(17b)の減算器ブロック14の出力値が入力される。スイッチブロック5は、目標位置入力ブロック1からの出力値に応じて、制御則A(17a)と制御則B(17b)のいずれか一方の出力値を選択して出力する。
【0027】
16はサーボモータである。サーボモータ16は、モータトルクブロック6及びモータイナーシャブロック7から構成されている。
【0028】
モータトルクブロック6には、スイッチブロック5から出力された電流(目標値指令電流)が入力される。トルク定数Ktのモータトルクを出力する。モータイナーシャブロック7は、サーボモータの特性であるモータイナーシャJ0及び負荷イナーシャJ1を有する。モータイナーシャブロック7は、モータトルクブロック6から出力されたモータトルクを入力し、加速度を出力する。
【0029】
8は積分器ブロックである。積分器ブロック8は、サーボモータ16(モータイナーシャブロック7)から出力されたモータ(サーボモータ16)の加速度を入力し、モータの速度を出力する。9は積分器ブロックである。積分器ブロック9は、積分器ブロック8から出力されたモータの速度を入力し、モータの位置(実位置)を出力する。10は、モータの位置を外部へ出力する位置出力ブロックである。このように、積分器ブロック9の出力値(位置出力ブロック10の入力値)は、サーボモータ16の実位置(実角度)となる。
【0030】
11は減算器ブロックである。減算器ブロック11は、目標位置入力ブロック1の出力値からサーボモータ16の実位置(積分器ブロック9の出力値)を減算し、これらの差(偏差)を積分ゲインブロック2a及び積分ゲインブロック2bに出力する。
【0031】
積分ゲインブロック2aは、偏差にゲインH(0)を乗じて積分し、減算器ブロック12へ出力する。また、積分ゲインブロック2bは、偏差にゲインH(1)を乗じて積分し、減算器ブロック14へ出力する。
【0032】
積分器ブロック8から出力されたモータの速度は、速度フィードバックの比例ゲインブロック3a、3bに入力される。また、積分器ブロック9から出力されたモータの位置は、位置フィードバックの比例ゲインブロック4a、4bに入力される。
【0033】
速度フィードバックの比例ゲインブロック3aは、モータの速度にゲインF(0)を乗じて加算器ブロック13へ出力する。また、位置フィードバックの比例ゲインブロック4aは、モータの位置にゲインF(0)を乗じて加算器ブロック13へ出力する。加算器ブロック13は、速度フィードバックの比例ゲインブロック3aと位置フィードバックの比例ゲインブロック4aとを加算して、減算器ブロック12に出力する。減算器ブロック12は、積分ゲインブロック2aの出力値から加算器ブロック13の出力値を減算して、スイッチブロック5へ出力する。
【0034】
上述と同様に、速度フィードバックの比例ゲインブロック3bは、モータの速度にゲインF(1)を乗じて加算ブロック15へ出力する。また、位置フィードバックの比例ゲインブロック4bは、モータの位置にゲインF(1)を乗じて加算ブロック15へ出力する。加算ブロック15は、速度フィードバックの比例ゲインブロック3bと位置フィードバックの比例ゲインブロック4bとを加算して、減算器ブロック14に出力する。減算器ブロック14は、積分ゲインブロック2bの出力値から加算ブロック15の出力値を減算して、スイッチブロック5へ出力する。
【0035】
このように、制御則A(第一の制御部)は、モータの実位置及び実速度をフィードバックして、目標位置入力ブロック1に入力された目標位置とモータの実位置との偏差に応じた第一の目標指令信号(減算器ブロック12の出力値)を生成する。また、制御則B(第二の制御部)は、モータの実位置及び実速度をフィードバックして、目標位置入力ブロック1に入力された目標位置とモータの実位置との偏差に応じた第二の目標指令信号(減算器ブロック14の出力値)を生成する。
【0036】
次に、位置決め制御装置100の動作について説明する。
【0037】
目標位置指令が目標位置入力ブロック1においてステップ上に入力されると、目標位置(移動量)に応じて2つの制御則A(17a)又は制御則B(17b)のいずれか一方の出力値がスイッチブロック5により選択される。すなわち、スイッチブロック5は、目標位置(移動量)に応じて、第一の目標指令信号(減算器ブロック12の出力値)と第二の目標指令信号(減算器ブロック14の出力値)のいずれかをモータに入力するように切り替える。制御則A(17a)及び制御則B(17b)の出力値のうち選択された一方は、モータへの指令電流として、サーボモータ16へ通電される。
【0038】
この指令電流をサーボモータ16へ通電することにより、モータの加速度、速度、及び、位置のそれぞれを得ることができる。モータの速度及び位置は、フィードバック要素として、制御則A(17a)及び制御則B(17b)へ戻される。
【0039】
スイッチブロック5により制御則A(17a)が選択されている場合、目標位置入力ブロック1からモータの位置出力ブロック10までの入出力伝達関数G(s)は、次の式(1)で表される。
【0040】
【数1】

【0041】
一方、スイッチブロック5により制御則B(17b)が選択されている場合、目標位置入力ブロック1からモータの位置出力ブロック10までの入出力伝達関数G(s)は、次の式(1’)で表される。
【0042】
【数2】

【0043】
式(1)、(1’)において、定数Kは、K=Kt/(J0+J1)で表されるモータ特性の定数である。
【0044】
式(1)より、制御則A(17a)における入出力伝達関数G(s)の特性方程式は、式(2)のように表される。
【0045】
【数3】

【0046】
ここで、式(2)における方程式の根sを、α、β±iγ(i:虚数記号)とすると、入出力伝達関数G(s)の極をα、β±iγと配置することとなり、式(2)は式(3)のように表される。
【0047】
【数4】

【0048】
式(3)をsに関してまとめると、式(4)のように表される。
【0049】
【数5】

【0050】
式(2)と式(4)との係数を比較することにより、ゲインF(0)、F(0)、H(0)を求めることができる。ゲインF(0)、F(0)、H(0)は、それぞれ、以下の式(5)、(6)、(7)のように表される。
【0051】
【数6】

【0052】
【数7】

【0053】
【数8】

【0054】
同様に、制御則B(17b)における入出力伝達関数G(s)の特性方程式は、式(2’)のように表される。
【0055】
【数9】

【0056】
ここで、式(2’)における方程式の根sを、α、β±iγ(i:虚数記号)とすると、入出力伝達関数G(s)の極をα、β±iγと配置することとなり、式(2’)は式(3’)のように表される。
【0057】
【数10】

【0058】
式(3’)をsに関してまとめると、式(4’)のように表される。
【0059】
【数11】

【0060】
式(2’)と式(4’)との係数を比較することにより、ゲインF(1)、F(1)、H(1)を求めることができる。ゲインF(1)、F(1)、H(1)は、それぞれ、以下の式(5’)、(6’)、(7’)のように表される。
【0061】
【数12】

【0062】
【数13】

【0063】
【数14】

【0064】
ここで、上記各式に具体的な数値を代入して考える。モータトルクKtを0.041[Nm/A]、モータイナーシャJ0を15[gcm−sq]、負荷イナーシャJ1を10[gcm−sq]とする。また、モータの目標位置(移動量)は0.5[mrad]、5[mrad]の2種類、必要な位置決め精度は15[μrad]であるとする。
【0065】
制御則A(17a)の極配置(α、β±iγ)について、α=β=γ=−10000とする。このとき、制御則A(17a)の入出力伝達関数G(s)は、以下の式(8)で表される。
【0066】
【数15】

【0067】
また、制御則B(17b)の極配置(α、β±iγ)について、α=β=−10000、γ=√2・α(21/2・α)とする。このとき、制御則B(17b)の入出力伝達関数G(s)は、以下の式(8’)で表される。
【0068】
【数16】

【0069】
位置決め制御装置100が式(8)で表される入出力伝達関数G(s)を有する場合、目標位置(移動量)を0.5[mrad]、5[mrad]として制御則A(17a)で制御したとき、整定波形は、図2及び図3のようになる。
【0070】
図2は、移動開始から目標位置に至るまでの偏差と時間との関係(整定波形の全体)を示す。図3は、目標位置付近での偏差と時間との関係(図2の整定波形の拡大図)を示す。
【0071】
図3に示されるように、必要な位置決め精度に到達する位置決め時間は、目標位置(移動量)が0.5[mrad]の場合に410[μsec]であり、また、目標位置(移動量)が5[mrad]の場合に530[μsec]である。
【0072】
一方、位置決め制御装置100が式(8’)で表される入出力伝達関数G(s)を有する場合、目標位置(移動量)を0.5[mrad]、5[mrad]として制御則B(17b)で制御したとき、整定波形は
図4及び図5のようになる。
【0073】
図4は、移動開始から目標位置に至るまでの偏差と時間との関係(整定波形の全体)を示す。図5は、目標位置付近での偏差と時間との関係(図4の整定波形の拡大図)を示す。
【0074】
図5に示されるように、必要な位置決め精度に到達する位置決め時間は、目標位置(移動量)が0.5[mrad]の場合に330[μsec]であり、また、目標位置(移動量)が5[mrad]の場合に660[μsec]である。
【0075】
このように、本実施例において、目標位置(移動量)が5[mrad]の場合、制御則Aを選択したほうが位置決め時間を短縮することができる。一方、目標位置(移動量)が0.5[mrad]の場合、制御則Bを選択したほうが位置決め時間を短縮することができる。
【0076】
上述のとおり、制御則A(第一の制御部)及び制御則B(第二の制御部)は、閉ループ制御系の極配置が互いに異なるように設定されている。このため、制御則Aは、目標位置が第一の目標位置(移動量:5mrad)であるとき、モータの位置決め制御に必要な位置決め時間は、制御則Bの場合よりも短い。一方、制御則Bは、目標位置が第二の目標位置(移動量:0.5mrad)であるとき、位置決め時間は、制御則Aの場合よりも短い。
【0077】
本実施例では、例えば、目標位置(移動量)が0.5[mrad]以下の場合に制御則Bを用い、0.5[mrad]より大きい場合に制御則Aを用いることにより、位置決め時間の大幅な短縮が可能となる。すなわち、1つの制御則のみで位置決め制御装置を設計するよりも、制御則A及び制御則Bの2つの制御則を用いて目標位置(移動量)に基づいて切り替えるように構成することが好ましい。
【0078】
本実施例では、説明を簡略化するために2つの制御則を用いているが、これに限定されるものではない。3つ以上の制御則を用いることもできる。制御則を増やすことにより、目標位置(移動量)毎により最適な整定波形を調整することが可能となる。また、本実施例では、目標位置に基づいてスイッチブロック5を切り替えるように構成しているが、これに限定されるものでない。例えば、要求される位置決め精度に応じてスイッチブロック5を切り替えるように構成することもできる。
【0079】
本実施例のような閉ループ制御系において、位置指令に対する整定波形は、極配置により決定される。このため、本実施例の位置決め制御装置によれば、目標位置(移動量)又は位置決め精度に対して、位置決め時間を短縮する最適な整定波形を構成するように閉ループ制御系の極配置を目標位置(移動量)毎に切替えることができる。したがって、位置決め時間を短くする位置決め制御装置を提供することができる。
【0080】
本実施例のレーザ加工機は、上述の位置決め制御装置を備えるため、目標位置(移動量)又は位置決め精度に応じて制御則を簡便に調整及び切替え可能となる。このため、目標位置又は加工対象が要求する位置決め精度によって制御則を切替え、必要な精度を実現した上で加工機の生産性能を改善することができる。したがって、位置決め時間を短くするレーザ加工機を提供することができる。
【0081】
以上、本発明の実施例について具体的に説明した。ただし、本発明は上記実施例として記載された事項に限定されるものではなく、本発明の技術思想を逸脱しない範囲内で適宜変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本実施例における位置決め制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】本実施例の制御則Aを用いた場合において、移動開始から目標位置に至るまでの偏差と時間との関係(整定波形の全体)を示す。
【図3】本実施例の制御則Aを用いた場合において、目標位置付近での偏差と時間との関係(図2の整定波形の拡大図)を示す。
【図4】本実施例の制御則Bを用いた場合において、移動開始から目標位置に至るまでの偏差と時間との関係(整定波形の全体)を示す。
【図5】本実施例の制御則Bを用いた場合において、目標位置付近での偏差と時間との関係(図4の整定波形の拡大図)を示す。
【図6】本実施例におけるレーザ加工機の概略構成図である。
【符号の説明】
【0083】
1 目標位置入力ブロック
2a、2b 積分ゲインブロック
3a、3b 速度フィードバックの比例ゲインブロック
4a、4b 位置フィードバックの比例ゲインブロック
5 スイッチブロック
6 モータトルクブロック
7 モータイナーシャブロック
8、9 積分器ブロック
10 位置出力ブロック
11、12、14 減算器ブロック
13、15 加算器ブロック
16 サーボモータ
17a 制御則A
17b 制御則B
23 X軸ミラー
24 X軸回転モータ
28 Y軸ミラー
29 Y軸回転モータ
32 レーザ加工面
50 レーザ加工機
100 位置決め制御装置



【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの位置決め制御を行う閉ループ制御系の位置決め制御装置であって、
前記モータの目標位置が入力される目標位置入力部と、
前記モータの実位置及び実速度をフィードバックして、前記目標位置入力部に入力された前記目標位置と前記モータの実位置との偏差に応じた第一の目標指令信号を生成する第一の制御部と、
前記モータの前記実位置及び前記実速度をフィードバックして、前記目標位置と前記モータの前記実位置との偏差に応じた第二の目標指令信号を生成する第二の制御部と、
前記目標位置に応じて、前記第一の目標指令信号と前記第二の目標指令信号とのいずれかを前記モータに入力するように切り替えるスイッチ部と、を有し、
前記第一の制御部及び前記第二の制御部は、前記閉ループ制御系の極配置が互いに異なるように設定されていることを特徴とする位置決め制御装置。
【請求項2】
前記第一の制御部は、前記目標位置が第一の目標位置であるとき、前記モータの位置決め制御に必要な位置決め時間は、前記第二の制御部の場合よりも短く、
前記第二の制御部は、前記目標位置が第二の目標位置であるとき、前記位置決め時間は、前記第一の制御部の場合よりも短いことを特徴とする請求項1記載の位置決め制御装置。
【請求項3】
被加工面の加工を行うレーザ加工機であって、
前記被加工面に照射するレーザ光を走査するミラーと、
前記ミラーを回転させるモータと、
請求項1記載の位置決め制御装置を備え、前記モータを制御する制御部と、を有することを特徴とするレーザ加工機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−97310(P2010−97310A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266113(P2008−266113)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】