説明

位置決め制御装置

【課題】精密測定装置に振動等が発生した場合に位置決め制御装置の制御ゲインを調整する際、その調整時間の短縮化、及び、ゲイン調整に掛かる労力の軽減化を図ること。
【解決手段】位置決め制御装置100は、位置補償部10、速度補償部20、電流補償部30、設定テーブル40及びゲイン選択手段50を有する。位置補償部10は目標位置及び検出位置の位置偏差を得て、これに基づき目標速度を制御する。速度補償部20は、目標速度及び検出速度の速度偏差を得て、これに比例ゲインKpを掛けた値及び速度偏差の積分に積分ゲインKiを掛けた値の加算値をモータの目標電流として出力する。電流補償部30は、目標電流及びモータの検出電流の電流偏差を得て、これに基づいて駆動電流を制御する。ゲインKp、Kiの設定値の組合せが複数通り設定テーブル40に記憶されており、選択手段50で選択された組合せに各ゲインが書き換えられるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像測定機、三次元測定機、形状測定機、及び顕微鏡等の精密測定装置において、検出器、被測定物、又は、対物レンズ等の移動体を高い精度で位置決めする制御装置に関する。特に、位置決め制御装置の制御ゲインの変更機能に関する。
【背景技術】
【0002】
<位置決め制御>
精密測定装置において、検出器や測定テーブル等の移動体を移動させる駆動機構には、高い位置決め精度が求められる。また、一般的に駆動機構の駆動源には各種サーボモータが用いられる。そのため、位置、速度及び電流(トルク)の三重制御ループのフィードバック制御構造を備えた制御装置が多い。図6に一般的な位置補償部、速度補償部および電流補償部を有する制御システムを示す。各補償部には、制御目的に応じて、P制御(比例動作のみ)、PI制御(比例動作と積分動作の組合せ)及びPID制御(比例動作、積分動作及び微分動作の組合せ)の中から最適な制御構造が採用される。
【0003】
P制御は、目標値とフィードバックされる検出値との偏差に比例する制御量でモータを制御する方法である。例えば図6の位置補償部でP制御を実行させる場合、目標位置と検出位置との位置偏差に比例ゲインを掛けたものを目標速度として後段の速度補償部へ与えることになる。また、PI制御は、偏差の積分に比例して制御量を決める方法と上記のP制御とを組合せた方法である。PID制御は、PI制御に更に、偏差の微分に比例して制御量を決める方法を組合せた方法である。図7は、ラプラス変換子sを用いてPID制御構造を示した図であり、Kpは比例ゲイン、Kiは積分ゲイン、Kdは微分ゲインであり、加算器で各制御量が加算されるようになっている。
【0004】
<アナログ制御方式とディジタル制御方式>
位置検出器に、移動体の移動量に応じたアナログ電圧を発するアナログ式検出器を用いるアナログ制御方式があるが、近年、アナログ制御方式に代えて、ディジタル制御方式が増えてきている。ディジタル制御方式では、移動体の移動量やサーボモータの回転量に比例する数のパルス信号を発するスケールやエンコーダ等のディジタル式検出器が用いられる。そして、位置補償部においてパルス列で与えられる目標位置と、検出器からのパルス信号とのパルス偏差をとり、このパルス偏差に基づいて、後段の速度補償部にて速度フィードバック制御が行われ、更に後段の電流補償部にて電流フィードバック制御が行われ、最終的にモータへの駆動電流が制御される。
【0005】
アナログ制御方式では、精密測定装置の製造時に、装置毎にトリマーボリューム等を回して各制御ゲインを調整する必要があったが、ディジタル制御方式では、装置毎の制御ゲイン調整が不要となり、制御ゲインの設定値を複数の精密測定装置にて共通使用でき、精密測定装置の使用開始後における品質管理が容易になるというメリットがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−124803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、精密測定装置を使用することにより、移動体を移動させる送り手段の駆動部分等に、ごく僅かな摩耗や歪み等の経年変化が生じると、思わぬ振動や異音が発生することがある。例えば、送り手段の駆動部分が繰り返し駆動することで、その摺動性(歯車の噛み合い部分のなじみ等)が製造直後よりも高まって、駆動部分が滑らかに動作するようになる場合がある。このような摺動性の変化に関わらず、制御ゲインの設定値を初期設定のままで使用を続けると、振動や異音が発生する可能性があり、精密測定結果に含まれる誤差が増大する原因になったりする。また、送り手段本発明では、このような経年変化を送り手段の内的要因と呼んで説明する。
【0008】
特許文献1には、制御ゲインの調整を行うゲイン調整装置が記載されている。この調整装置は、ゲイン保持部、ゲイン変更部、調整結果格納部、及び、調整制御部等を有し、ゲイン保持部は複数の制御ゲインを含むゲイン一覧情報を保持している。ゲイン変更部が、一覧情報中の各制御ゲインを用いて、制御装置の制御ゲインを書き換えて、その結果を調整結果格納部が格納する。調整制御部は、各制御ゲインによる調整結果をプロットした散布図を視覚的に表示する。ユーザは、表示された散布図を見て、適切な制御ゲインを直感的に選択できるというものである。
【0009】
特許文献1のゲイン調整装置では、制御ゲインを大きくするか、小さくするかを含めて多くのゲインの組合せを一覧情報として設定しておく必要があり、特に使用する制御ゲインの種類が多ければ多いほど、その組合せが増大する。その結果、調整制御部により調整結果が視覚的に表示されるとは言え、ユーザが多くのプロットデータの中から直感的に適切な制御ゲインを選択するのは、困難である。
また、特段、新たに外乱等の影響を受けるようになったとは言えないのに、測定装置に振動や異音が発生するようになった場合には、その原因を特定することは非常に難しく、多くある制御ゲインの中から、どの制御ゲインを調整すれば最も効果的に振動等を抑えることができるかを判断するのは難しい。
【0010】
本発明は前記従来技術に鑑みなされたものであり、その解決すべき課題は、精密測定装置に振動等が発生した場合に位置決め制御装置の制御ゲインを調整する際、その調整時間の短縮化、及び、ゲイン調整に掛かる労力の軽減化を図ることができる位置決め制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る位置決め制御装置は、モータ駆動の送り手段によって進退する移動体を目標位置に位置決めするための制御装置である。この制御装置は、目標位置の指令部、位置補償部、速度補償部、電流補償部及びゲイン変更部を有する。
【0012】
指令部は、前記移動体の目標位置を指令する。位置補償部は、前記目標位置及び前記移動体の検出位置の位置偏差εを得て、この位置偏差に基づいて目標速度を制御する。速度補償部は、前記目標速度と、前記モータ又は前記移動体の検出速度との速度偏差εを得る。そして、前記速度偏差に比例ゲインKpを掛けた値、及び、該速度偏差の積分に積分ゲインKiを掛けた値の加算値を前記モータの目標電流として出力する。
【0013】
電流補償部は、前記目標電流及び前記モータの検出電流の電流偏差εを得て、この電流偏差に基づいて前記モータへの駆動電流を制御する。ゲイン変更部は、前記各々の補償部のゲインの設定値を記憶する。
【0014】
そして、前記ゲイン変更部には、前記速度補償部の比例ゲインKp及び積分ゲインKiの設定値を書き換えるために、これら比例ゲインKp及び積分ゲインKiの設定値の組合せを複数通り含んだ設定テーブルが設けられている。また、前記ゲイン変更部には、前記送り手段の内的要因で振動または異音が生じた際に、前記設定テーブルから適切なゲインの設定値の組合せを選択する選択手段が設けられている。
【0015】
また、前記設定テーブルには、前記比例ゲインKpの初期設定値の10%〜90%の範囲の設定値、及び、前記積分ゲインKiの初期設定値の10%〜90%の範囲の設定値を用いた複数通りの組合せが記憶されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
精密測定装置を長期間使用することにより、機構部の摺動性が良くなり、例えば歯車の噛み合い部分がなじんできて、使用開始当初よりも駆動部がスムーズに動くようになる場合、ゲインの初期設定値を変えずに使用を続けると、思わぬ振動や騒音が発生することがあったが、本発明により、速度補償部の比例ゲインと積分ゲインの設定値を変更するだけで、このような不具合を解消することができる。よって、ゲイン変更時間の短縮化が図れ、さらには、作業労力の低減化も図れる。
【0017】
なお、種々の制御ゲインのうち、少なくとも速度補償部の比例及び積分ゲインを変更するようにするのがよい。特に、位置補償部の制御ゲインはそのままとし、電流補償部の制御ゲインについては必要に応じて変更するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の位置決め制御装置の制御ブロック図である。
【図2】第1実施形態の位置決め制御装置を用いた移動体の駆動機構を説明する図。
【図3】図2の位置決め制御装置の制御ブロック図である。
【図4】三重制御ループの周波数帯域の概念図である。
【図5】前記位置決め制御装置におけるゲイン変更のシーケンス図である。
【図6】従来の位置決め制御装置の制御ブロック図である。
【図7】PID制御構造を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本実施形態に係る位置決め制御装置は、前述の図6のように、位置、速度及び電流(トルク)の三重制御ループのフィードバック制御構造をベースとしている。そして、位置補償部、速度補償部及び電流補償部は、P制御、PI制御又はPID制御の中から最適な制御構造が採用されている。本実施形態で特徴的なことは、精密測定装置を長期間使用することによって振動や異音等が発生した場合に、各々の補償部で使用する制御ゲインを変更できるようにした点にある。
【0020】
図1に示すように、位置決め制御装置100には、ゲイン設定テーブル40及びゲイン選択手段50が設けられている。ゲイン設定テーブル40は、少なくとも2組以上のゲインの設定値の組合せを含んでおり、具体的にはメモリ等に記憶されている。設定テーブル40に記憶させるゲインの種類は、各々の補償部で使用され得る比例ゲイン、積分ゲイン又は微分ゲインから必要に応じて選択されたものである。
【0021】
ゲイン選択手段50は、手動による直接操作又はPC等の外部機器からの入力信号によって、設定テーブル40に記憶されたゲインの組合せの中から一つを選択するようになっている。例えば、設定テーブル40の全ての組合せに識別番号を予め付与しておき、外部PCから位置決め制御装置100に対して選択したい組合せの識別番号を含む信号を入力すれば、ゲイン選択手段50がその信号を判別して設定テーブル40から対応するゲインの組合せを読み出すようにしてもよい。
【0022】
図2は、制御対象となる精密測定装置の移動体12を移動させる駆動機構を示す概略図である。駆動機構は、送り手段14、移動体12、及び、モータ16を有して構成される。送り手段14は、移動体12を進退させるためのもので、モータ16の駆動力で回転するネジ軸、及び、ナット部を有するボールネジ等が使用される。ナット部に移動体12が固定されており、ネジ軸の回転によってナット部と共に移動体12がその軸方向に移動するようになっている。
【0023】
移動体12には、ネジ軸に平行に設けられたスケール22の検出ヘッド24が固定されている。移動体12と一体になって検出ヘッド24がスライドすることで、検出ヘッド24が移動体12の移動量を検出し、パルス信号として発振する。このパルス信号は一定の移動量毎に発振され、位置決め制御装置100に送られる。
【0024】
モータ16の出力軸とネジ軸とは、カップリング等で接続されている。必要に応じて出力軸とネジ軸の間に減速器を介在させてもよい。モータ16の出力軸の反出力側にはエンコーダ18が設けられており、このエンコーダ18から出力軸の回転量に応じた数のパルスが発生して、モータの検出速度として決め制御装置100に送られる。
【0025】
<位置決め制御装置の具体的な構成>
ゲイン変更機能を備えた位置決め制御装置100の具体例について、図3に基づいて説明する。例えば、移動体12を今ある場所から所定距離(例えば500mm)だけ前進させて、その目標位置に停止させる場合を取り上げて説明する。
【0026】
位置決め制御装置100はディジタル制御方式の制御装置であり、マイクロ・コンピュータやデジタル・シグナル・プロセッサ(DSP)等で構成され、スケール(位置検出器)22及びエンコーダ(速度検出器)18からのパルス信号を処理する。
【0027】
目標位置のデータは、制御装置内部又は外部機器に設けられた位置指令部から発せられる。この位置指令部において、目標位置までの総移動量(500mm)に応じた移動体の速度プロファイルが定められる。速度プロファイルとしては、加速区間、等速区間及び減速区間を有するものが一般的である。このプロファイルに準じたパルス列を目標位置のデータ(指令信号)として出力する。パルスは基準距離毎に発せられるようになっており、発せられるパルスの合計数で目標位置までの総移動量を表し、パルス列の周波数で移動速度を表す。例えば、目標速度のプロファイルの加速区間ではパルス列の周波数が序々に増加し、等速区間では周波数が一定になり、減速区間では周波数が序々に減少して最終的に零になる。
【0028】
位置決め制御装置100は、位置補償部10、速度補償部20、電流補償部30、ゲイン設定テーブル40及びゲイン選択手段50を有する。
位置補償部10は、位置減算器24及び第1演算器26を有する。位置減算器(偏差カウンタ)24は、位置指令部からのパルス列をカウントし、また、スケール22からのパルス信号(検出位置)をカウントする。そして、一定期間のパルス列のカウントから、パルス信号のカウントを差し引いたものを「溜まりカウント(位置偏差ε)」として演算し、一定期間毎の溜まりカウントを積算していく。
【0029】
位置減算器24で積算された溜まりカウントは、第1演算器26へ与えられる。第1演算器24としては、P制御構造、PI制御構造及びPID制御構造のいずれでも構わない。ここでは、第1演算器26の制御ゲインをGで表す。付記した「」は位置を表している。第1演算器26を最もシンプルなP制御構造(比例動作)とすると、第1演算器26は溜まりカウントに所定の比例ゲインを乗じ、その値を指令速度として後段の速度補償器20へ送る。
【0030】
速度補償部20は、速度減算器28、比例演算器32、積分演算器34及び加算器36を有し、PI制御構造を有する。速度減算器28は、エンコーダ18からのパルス信号の周波数に基づく検出速度を受ける。そして、この検出速度と第1演算器26(制御ゲインG)からの速度指令との偏差をとり、速度偏差(ε)として比例演算器32(比例ゲインKp)と積分演算器34(積分ゲインKi)に与える。
【0031】
比例演算器32は、速度偏差に比例ゲインKpを乗じた値を加算器36に与える。積分演算器34は、速度偏差の積分をとり、その積分値に積分ゲインKiを乗じた値を加算器36に与える。加算器36は、比例演算器32及び積分演算器34からの各値を加算して、指令電流として電流補償器30へ送る。
【0032】
電流補償部30は、電流減算器38、第2演算器42及びパワーアンプ44を有する。電流減算器38は、パワーアンプ44からモータに供給される駆動電流の検出値(検出電流)のフィードバックを受ける。そして、この検出電流と加算器36からの指令電流との偏差をとり、電流偏差(ε)として第2演算器42へ送る。
【0033】
第2演算器42としては、P制御構造、PI制御構造及びPID制御構造のいずれでも構わない。第2演算器42の制御ゲインをGで表す。付記した「」は電流を表わす。第2演算器42を最もシンプルなP制御構造(比例動作)とすると、第2演算器42は、電流偏差に所定の比例ゲインを乗じた信号をパワーアンプ44に送る。
【0034】
パワーアンプ44は、第2演算器42(制御ゲインG)からの信号に比例する電流値で、駆動電流を供給する。パワーアンプ44の比例ゲインをKaで表わす。そして、モータ16が回転駆動することで、送り手段14を介して移動体12が目標位置に位置決め制御される。
【0035】
本実施形態の位置決め制御装置100は、以上のような位置・速度・加速度制御ループの三重制御構造を有する。モータ16が回転駆動すると、スケール22による移動体12の検出位置の信号が位置減算器24をフィードバックされ、また、エンコーダ18によるモータの検出速度の信号が速度減算器28にフィードバックされる。さらに、モータへの駆動電流の検出値も電流減算器38にフィードバックされることにより、サーボモータ16への駆動電流が制御される。その結果、移動体12の位置が、位置指令部からのパルス列に追従するようになる。
【0036】
<ゲイン変更部>
ゲイン変更部は、ゲイン設定テーブル40及びゲイン選択手段50を有する。本実施形態ではゲイン選択手段50として外部スイッチ52を用いる。また、ゲイン設定テーブル40は、制御装置100の内蔵メモリに記憶されている。
外部スイッチ52は、二つのスイッチ素子を有し、これらのスイッチ素子は例えばDIPスイッチ等で構成される。このため、制御ゲインを変更する際に、メンテナンス員が各々のスイッチ素子のオンオフ状態を必要に応じて切替えることができる。外部スイッチ52のオンオフ状態の組合せは全部で4通りになる。
【0037】
外部スイッチ52のオンオフ状態の組合せに対応して、ゲイン設定テーブル40には、制御ゲインの設定値の組合せが4通り記憶されている。記憶される制御ゲインは、速度補償部の比例ゲインKpと積分ゲインKiである。なお、テーブルを4通りの組合せで構成したのは一例に過ぎず、精密測定装置の能力、使用目的、設置環境等に応じて、組合せの数を変えたり、変更する制御ゲインの種類を変えたりしてもよい。
【0038】
外部スイッチ52のオンオフ状態の組合せが規定値(I0=0、I1=0)である場合に対応する設定テーブル40には、各ゲインKp、Kiの初期設定値が記憶されている。規定値以外の部分には、各ゲインKp、Kiについて、初期設定値の80%、60%、40%に相当する設定値が各々記憶されている。このように、テーブル内の設定値は、全て初期設定値以下の値になっている。初期設定値以外の設定値については、初期設定値の90%〜10%の範囲で設定しておくとよい。
【0039】
一般的に、三重制御ループにおける周波数帯域は図4のようになる。図4は、横軸に周波数を対数目盛でとり、縦軸に制御ゲインの対数値をとって表示したボード線図であるが、同図に示すように、速度制御ループの周波数帯域は、位置制御ループの周波数帯域の5倍から10倍程度になる。このような周波数応答特性の関係は、測定装置の送り系(送り手段14等)の構造毎に異なる。速度制御ループが10倍以上の周波数帯域を有すれば、設定テーブル40において速度制御ループの制御ゲイン(Kp、Ki等)の設定値を、初期設定値の90%〜10%の範囲内に設定できる。もし、速度制御ループの周波数帯域が5倍程度であれば、速度制御ループの制御ゲインの設定範囲は、初期設定値の90%〜20%程度になる。
【0040】
なお、製造直後の初期設定値(KpとKi)は、実験等によって求められた最適値である。また、ゲイン設定テーブル40内の各設定値の組合せについては、初期設定の段階で測定装置が充分に動作することを確認しておくとよい。
【0041】
<ゲイン変更方法>
振動や異音等が発生して制御ゲインを変更する必要が生じた場合、一旦、測定装置の電源を切って、その後、外部スイッチ52のオンオフを既定値(I0=0、I1=0)以外の組合せに切替える。規定値以外の3通りの組合せをすべて試して、振動や異音等が最も小さくなる制御ゲインの組合せを選び、新たな設定値にする。
【0042】
外部スイッチ52のオンオフを切替えた後の動作は、図5に示すシーケンスになる。まず、精密測定装置の電源を投入し、外部スイッチ52のオンオフ状態の組合せを読み取る(S)。次に、設定テーブル40を参照して、読み取った外部スイッチ52のオンオフ状態の組合せに応じて記憶された比例ゲインKpと積分ゲインKiの各設定値の組合せを読み出す(S)。そして、速度補償部20の比例ゲインKpと積分ゲインKiを、テーブルから読み出した新たな設定値に書き換える(S)。書き換えた制御ゲインを用いて、振動や異音等がどの程度軽減されるかを確認する。
【0043】
以上のような本実施形態の位置決め制御装置に特徴的なことは、精密測定装置を長期間使用して振動や異音が発生した場合に、ゲイン変更部(外部スイッチ52)を操作するだけで、制御ゲインの書き換えが実行できる点である。
【0044】
特に、ゲイン設定テーブル40には少なくとも速度補償器20における比例ゲインKpと積分ゲインKiの組合せを含めている。そして、テーブル40内の設定値は、全て初期設定値以下とした。このような設定テーブル40を用いてゲイン変更を実行することは、振動や異音の発生原因が、送り手段の駆動部分の経年変化(内的要因)にある場合に、非常に有効である。この場合、速度補償部20以外の位置補償部10の制御ゲインGpはそのままとし、電流補償部30の制御ゲインGiは必要に応じてゲイン設定テーブル40に加えてもよい。
【0045】
<本実施形態の効果>
以上の位置決め制御装置100によれば、従来の位置決め制御の原理をベースにはしているが、ゲイン変更部を設けたので、使用後に振動等の不具合が発生しても、ゲイン変更部によってゲインを変更するだけで、スムーズに振動等を抑制することができる。また、その変更作業に掛かる労力を大幅に軽減できる。
【0046】
また、位置制御ループの制御ゲインGは、制御システムの主応答(周波数帯域)を表わす。従って、本実施形態のように制御ゲインGを変更しないで、内側の制御ループである速度制御ループの制御ゲイン(Kp、Ki等)を変更するという方法によれば、主応答の特性を変えることなく、振動や異音の発生を無くすことができる。主応答の特性が変わらないため、位置決め精度へ影響を与えないで済む。また、上述のゲイン設定テーブル40のように、比例ゲインKpと積分ゲインKiを初期設定よりも小さい値に変更すれば、速度制御ループの周波数帯域の範囲内での変更となるため、ゲイン変更後に位置決め精度が落ちてしまうという心配がない。
【0047】
また、送り手段の駆動部品を製造する加工機械についても、製造時期によって加工精度等にばらつきが生じる。組立て精度のばらつきについても製造時期によって生じ易い。このような加工機械や組立て精度のばらつきによっても、予期しない振動や異音が生じるケースがあるが、本発明のゲイン変更機能を備えた位置決め制御装置により、振動や異音を容易に軽減することができる。
【0048】
今までは、振動や異音が生じた場合に、精密測定装置が設置されている現地に出向いて制御ゲインの調整作業を行ってきた。例えば、メンテナンス員がフィールドサービス用PCを持ち込んで、現場でユーザの制御装置に接続し、制御ゲインの書き換えプログラム等を用いてゲイン調整を行っていた。そうすると、ゲイン調整後の新たな設定値のデータ管理が煩雑になり易かった。
【0049】
これに対して、本実施形態のように、制御ゲインの変更機能を設けたこと、つまり、予め複数のゲイン値の組合せを設定テーブル40に記憶させておき、不具合発生時に、設定テーブルの中から最適なゲイン値を選択して、現在のゲイン値と書き換える機能を設けたことにより、振動や異音を早急に軽減させることができる。
【0050】
製造時点で、将来の製造時期によるばらつきや経年変化等を予想して、これらの要因に基づいて決定したゲイン値の組合せを設定テーブル40に記憶させることにより、現実に不具合が発生した場合に、確実に振動等を軽減させることができる。
【0051】
また、変更後のゲイン値は、予め記憶したゲイン値の組合せの範囲内のものであるので、製造段階でゲイン値の組合せのデータを保管しておけば、変更後の設定値を新たに管理する必要がなく、設定値のデータ管理が煩雑にならないで済む。
【0052】
なお、図3を用いて、エンコーダより検出速度を検出する場合を説明したが、速度制御ループに用いる検出速度については、移動体のスケールからのパルス信号を速度データに変換したものを用いても構わない。
【0053】
また、本発明は、ディジタル制御方式に限定されるものではなく、アナログ制御方式の場合にも十分適用できる。例えば、オペアンプと抵抗器等の受動部品で構成されておりゲイン切替えを直接抵抗器の定数を切替える構造にすれば実現可能である。
【符号の説明】
【0054】
10 位置補償部
12 移動体
14 送り手段
16 モータ
20 速度補償部
30 電流補償部
40 ゲイン設定テーブル
50 ゲイン選択手段
100 位置決め制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ駆動の送り手段によって進退する移動体を目標位置に位置決めするための制御装置であって、
前記移動体の目標位置を指令する指令部と、
前記目標位置及び前記移動体の検出位置の位置偏差(ε)を得て、この位置偏差に基づいて目標速度を制御する位置補償部と、
前記目標速度と、前記モータ又は前記移動体の検出速度との速度偏差(ε)を得て、この速度偏差に比例ゲイン(Kp)を掛けた値及び該速度偏差の積分に積分ゲイン(Ki)を掛けた値の加算値を前記モータの目標電流として出力する速度補償部と、
前記目標電流及び前記モータの検出電流の電流偏差(ε)を得て、この電流偏差に基づいて前記モータへの駆動電流を制御する電流補償部と、
前記各々の補償部のゲインの設定値を記憶するゲイン変更部と、
を備え、
前記ゲイン変更部は、
前記速度補償部の比例ゲイン(Kp)及び積分ゲイン(Ki)の設定値を書き換えるために、これら比例ゲイン(Kp)及び積分ゲイン(Ki)の設定値の組合せを複数通り含んだ設定テーブルと、
前記送り手段の内的要因で振動または異音が生じた際に、前記設定テーブルから適切なゲインの設定値の組合せを選択する選択手段と、
を有することを特徴とする位置決め制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の位置決め制御装置において、前記設定テーブルには、前記比例ゲイン(Kp)の初期設定値の10%〜90%の範囲の設定値、及び、前記積分ゲイン(Ki)の初期設定値の10%〜90%の範囲の設定値を用いた複数通りの組合せが記憶されていることを特徴とする位置決め制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−21804(P2013−21804A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152679(P2011−152679)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)
【Fターム(参考)】