説明

位置決め装置

【課題】 レーザ測長器を用いた位置決め装置において、レーザ光路の屈折率変動による移動体の位置の測定誤差を軽減し、高精度な位置決めを実現する。
【解決手段】 ガイド面を有する固定部と、前記ガイド面上を移動する移動体と、前記移動体の前記固定部との相対位置を測定するレーザ測長器とからなる位置決め装置であって、前記移動体は、上壁部と、側壁部と、前記上壁部及び前記側壁部に囲まれた空間部と、前記側壁部の前記ガイド面に対向する面であって、前記空間部の外周に配置されたシール部と、を有し、前記空間部に前記レーザ測長器を収容し、前記空間部を減圧することによって、高精度な位置決めを実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械や露光装置等の位置決め装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、レーザ測長器を用いた位置決め装置の場合、レーザ光路の屈折率変動により測長値が変動し、位置決め誤差が発生するという欠点が存在する。そこで、従来、レーザ光路の屈折率変動を低減させるために、特許文献1に示されるように、ステージ外に筒状体や蛇腹の中空体を設け、レーザ光路を密閉する手段が採用される。また、ステージのコンパクト化を実現するために、特許文献2に示されるように、ステージにレーザ干渉計を内蔵する手段が採用される。
【特許文献1】特開平9−134529号
【特許文献2】特開平5−040011号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来例では、ステージ本体に比較して中空体が低剛性なため、位置決めに有害な振動を発生する可能性が高い。また、ステージの移動に伴い中空体が変形するため、その変形に要する力がステージに外乱として作用し、位置決め精度を低下させる要因となる。さらに、中空体の長さは、ステージの移動距離以上である必要があるため、装置が大型化するという欠点がある。また、従来例のように、ステージにレーザ干渉計を内蔵した場合、ステージの移動に伴いレーザ光路に気流が生じ、測長値が変動する要因となる。さらに、ステージとガイド面が接触する場合、その摩擦により位置決め精度が低下する。本発明の目的は、上記課題を解決し、ステージの位置を設置雰囲気の屈折率変動に影響されることなくレーザ測長器により検出し、高精度かつ高安定な位置決めを実現する位置決め装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために本発明の位置決め装置は、ガイド面を有する固定部と、前記ガイド面上を移動する移動体と、前記移動体の前記固定部との相対位置を測定するレーザ測長器とからなる位置決め装置であって、前記移動体は、上壁部と、側壁部と、前記上壁部および前記側壁部に囲まれた空間部と、前記側壁部の前記ガイド面と対向する面の、前記空間部の外周部に配置したシール部と、前記側壁部の前記ガイド面と対向する面の、前記シール部の外側に配置した軸受と、を有し、前記空間部には前記レーザ測長器が収容され、前記空間部は減圧されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明の位置決め装置は、レーザ光路が減圧されているため、レーザ光路雰囲気の屈折率変動が低減され、ステージの高精度かつ高安定な位置決めが可能となる。また、レーザ光路をステージの重心と一致させることが容易であり、レーザ測長におけるアッベ誤差を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
図1および図2は本発明の位置決め装置の一実施形態の断面図および下面図である。同図において1は固定部、2は固定部1上に設けられたガイド面、3はガイド面上を移動する移動体であるステージであり、ガイド面2によって可動方向を規制されている。31は移動体3の上壁部、32は移動体3の側壁部32であり、一体で構成されていても別々に形成されていてもよい。33は側壁部32のガイド面2と対向する面である。34は側壁部内壁である。4は上壁部31と側壁部32に囲まれた空間部である。5は側壁部32のガイド面2と対向する面33の、空間部4の外周部に配置され、空間部4の外周部の全周を封止し、空間部4への空気の流入を抑制するためのシール部である。空間部の外周部とは、側壁部32のガイド面2と対向する面33の空間部4との境界部のことである。6はガイド面2に対して移動体3を保持する軸受である。軸受6は、側壁部32のガイド面2と対向する面33の、シール部5の外側に配置する。シール部5の外側とは、側壁部32のガイド面2と対向する面33内の、シール部5の空間部4とは反対側(外側)の隣接部ことである。シール部5と軸受6は側面が接していてもよいし、離れていてもよい。51はシール部5のガイド面2と対向する面、61は非接触軸受6のガイド面2と対向する面である。7は空間部4を減圧するための真空排気ポート、11は空間部4に収容される、2光束に分割されたレーザを干渉させるレーザ測長器である差動干渉計である。12aおよび12bは側壁部内壁34の対向する2箇所に設置されたレーザ光を反射させるミラーである。本実施形態のように側壁部内壁34にミラーを設置してもよいが、ミラーは設置せず、直接側壁部内壁34にレーザ光を反射させてもよい。13aおよび13bはレーザ光路、14はレーザの入射光と出射光をそれぞれ干渉計と光検出回路(不図示)に導くレーザポートである。
【0007】
本実施形態においては軸受6は、非接触軸受である空気静圧軸受を用いたが、すべり軸受、転がり軸受等の接触式軸受でも構わない。しかし、摺動摩擦抵抗がなく、より高い精度が得られやすい空気静圧軸受や磁気軸受等の非接触軸受が好ましい。これにより摺動摩擦抵抗等の非線形現象が排除され、移動体の高精度位置決めが可能となる。これらの軸受については周知技術であるので、説明は省略する。
【0008】
また、本実施形態においてシール部5は、微小隙間による非接触シールを用いたが、Oリングやオイルシール等の接触型シールでも構わない。しかし、摺動摩擦抵抗がなくより高い精度が得られやすい微小隙間による非接触シールが好ましい。これにより摺動摩擦抵抗等の非線形現象が排除され、移動体の高精度位置決めが可能となる。微小隙間は、1μm以上10μm以下が好ましい。1μmより小さいとガイド面と接触しやすくまた加工も難しい。10μmより広いと、シール効果が薄れ、空間部に空気が流入しやすくなり、レーザ光路に気流が生じやすくなる。さらに、非接触軸受6および非接触シール部5は、ガイド面2に対して潤滑性を有するグラファイト等の材料で製作する。そして、移動体3のシール部5のガイド面2に対向する面51と、前記非接触軸受6のガイド面2に対向する面61は、同一平面上に配置することが好ましい。非接触軸受面61および非接触シール面51を同一平面上に配置することにより、軸受面およびシール面を同時に加工することが可能となり、形状精度の向上と製作コストの削減を同時に実現できる。
【0009】
本実施形態の移動体は、断面形状が角形のものを用いたが、形状はこれに限らず、円形等でも同様の作用効果が得られる。
【0010】
次に、本実施形態の位置決め装置を用いた位置決め方法について説明する。固定部1のガイド面上に移動体3を搭載し、移動体3の空間部4にレーザ測長器11を収容し、固定部1上に固定する。これにより、固定部と移動体の相対位置を測定することが可能になる。
【0011】
移動体3の側壁部32のガイド面2に対向する面33には空気静圧軸受6が取り付けられているため、移動体3はガイド面2から浮上している。この状態で真空排気ポート7から空間部4内の空気を排気し、空間部4内を減圧する。減圧することで、前記軸受に与圧を付与することが可能となる。
【0012】
空間部4の気圧を制御することで、移動体3のシール部5のガイド面2に対向する面51と、前記非接触軸受6のガイド面2に対向する面61は一定の隙間を形成し、この形成した一定の隙間を保持しながら移動体3はガイド面上を非接触で安定的に移動する。一定の隙間は、1μm以上10μm以下が好ましい。1μmより小さいとガイド面と接触しやすくまた加工も難しい。10μmより広いと、シール効果が薄れ、空間部に空気が流入しやすくなり、レーザ光路に気流が生じやすくなる。なお、上記非接触軸受面および非接触シール面は、ガイド面2に極めて接近しているため、移動体に過大な負荷が作用した場合、移動体とガイド面が固着する可能性がある。したがって、非接触軸受6および非接触シール部5は、ガイド面2に対して潤滑性を有するグラファイト等の材料で製作するとともに、同一平面上に配置するとよい。
【0013】
空間部4には、周囲に隙間が存在するため、減圧した際、常に空気が流入するが、シール部の隙間が微小であることと同時に、排気速度の高い真空ポンプを使用することにより、空間内の屈折率変動を僅少とする圧力まで減圧できる。
【0014】
レーザ測長器から出力されるレーザ光路13aおよび13bは、移動体の重心に一致させておく。このようにすることで、レーザ測長におけるアッベ誤差を抑制することができる。
【0015】
レーザ測長器により測定された移動体の固定部との相対位置情報と、目標位置との偏差を基に、PID演算等によりステージを駆動するための駆動力を算出する。そしてリニアモータ等の駆動手段により移動体に駆動力を与えることにより、移動体の位置決め動作を行なう。駆動力の算出方法及び駆動手段については、周知であるので説明は省略する。
【0016】
レーザ測長器は、通常の干渉計でも構わないが、側壁部内壁34の対向する2箇所、または側壁部内壁34の対向する2箇所に設置されたミラー12aおよび12bを差動干渉計によって測定する差動計測が好ましい。
【0017】
図3は本発明における差動干渉計による差動計測について更に詳しく表した図であり、21は入射レーザ光を2光束に分割する偏光ビームスプリッタ、22はλ/4波長板、23は平面ミラーである。前記構成においてレーザ光源(不図示)から出射したレーザ光線は、レーザポート14を通り、矢印24の方向より偏光ビームスプリッタ21に入射し、レーザ光路13aに偏向する光と矢印24の方向へ直進する光とに分割される。矢印24の方向へ直進した光はλ/4波長板22を透過し、平面ミラー23に反射して再びλ/4波長板22を透過して偏光ビームスプリッタ21に入射した後、レーザ光路13bの方向へ偏向する。レーザ光路13aおよび13bにそれぞれ出射したレーザ光はミラー12aおよび12bに反射して再び偏光ビームスプリッタ21に入射し、矢印25の方向へ干渉光としてレーザポート14から出射する。
【0018】
移動体の移動により、レーザ光路13aおよび13bはそれぞれ延長・短縮されるため、干渉光より計測される変位値は、移動体の移動量の2倍の値を示し、2倍の分解能でステージの位置計測が可能となる。さらに、レーザ光路と移動体の重心を一致させたため、アッベ誤差が僅少となった。
【0019】
レーザポート14から出射された干渉光は光検出回路(不図示)に導かれ、干渉光の位相差からミラーの移動距離を演算する回路(不図示)を使用することで、移動体3のX方向の位置情報を得る。前記位置情報を制御回路(不図示)に入力し、目標位置との偏差を基に、駆動手段(不図示)に対する制御出力を得て、リニアモータ等の駆動手段(不図示)により移動体3の位置決め動作をX方向に行なう。
【0020】
本実施形態においては、X方向のみの位置決め動作について説明したが、同様にY方向についてもレーザ測長器による測定および移動体の位置決め動作を行なうことも可能である。これによりX方向、Y方向に移動可能な位置決め装置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明による位置決め装置の一実施形態の概略断面図である。
【図2】本発明による位置決め装置の一実施形態の概略下面図である。
【図3】差動干渉計の一例を説明する図である。
【符号の説明】
【0022】
1 固定部
2 ガイド面
3 移動体
4 空間部
5 シール部
6 軸受
7 真空排気ポート
11 干渉計
12a、12b ミラー
13a、13b レーザ光路
14 レーザポート
21 偏光ビームスプリッタ
22 λ/4波長板
23 平面ミラー
矢印24 レーザ光入射方向
矢印25 レーザ光出射方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガイド面を有する固定部と、前記ガイド面上を移動する移動体と、前記移動体の前記固定部との相対位置を測定するレーザ測長器とからなる位置決め装置であって、前記移動体は、上壁部と、側壁部と、前記上壁部および前記側壁部に囲まれた空間部と、前記側壁部の前記ガイド面と対向する面の、前記空間部の外周部に配置したシール部と、前記側壁部の前記ガイド面と対向する面の、前記シール部の外側に配置した軸受と、を有し、前記空間部には前記レーザ測長器が収容され、前記空間部は減圧されていることを特徴とする位置決め装置。
【請求項2】
前記シール部は、前記シール部と前記ガイド面との間に1μm以上10μm以下の隙間を形成し、前記隙間によって前記空間部への空気の流入を抑制することを特徴とする請求項1に記載の位置決め装置。
【請求項3】
前記シール部は、接触型シールを前記空間部の外周部に配置することによって、前記空間部への空気の流入を抑制することを特徴とする請求項1に記載の位置決め装置。
【請求項4】
前記軸受は、非接触軸受であることを特徴とする請求項1に記載の位置決め装置。
【請求項5】
前記シール部の前記ガイド面に対向する面と、前記非接触軸受の前記ガイド面に対向する面とは、同一平面上に配置されていることを特徴とする請求項4に記載の位置決め装置。
【請求項6】
前記レーザ測長器は、側壁部内壁の対向する2箇所、または側壁部内壁の対向する2箇所に設置されたミラーを差動計測することを特徴とする請求項1に記載の位置決め装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−23011(P2009−23011A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−185624(P2007−185624)
【出願日】平成19年7月17日(2007.7.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】