説明

作業車の走行変速構造

【課題】 作業車の走行変速構造において、旋回時の機体の安定性を確保しながら、作業能率の向上を図る。
【解決手段】 機体の旋回開始時に速度センサーによって検出された機体の走行速度V1が、事前に設定された設定速度V11よりも高速であると、機体の走行速度V1を減速操作する減速手段を備える。機体の旋回開始が検出された場合において、機体の旋回開始時に速度センサーによって検出された機体の走行速度V1が、設定速度V11よりも低速であると、減速手段の作動を阻止する牽制手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車における旋回時の走行変速構造に関する。
【背景技術】
【0002】
作業車の一例である農用トラクタでは、作業地の一辺に沿って直進しながら対地作業を行う作業行程を行い、一回の作業行程が終了して機体が作業地の端部に達すると、機体を約180度旋回させて次の作業行程に入ると言うような作業を行うことが多い。
この場合、特許文献1に開示されているように、機体の旋回開始に伴って、機体の走行速度が自動的に減速操作されるように構成されたものがあり、旋回時の機体の安定性が確保されている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−225004号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述のように作業地の一辺に沿って直進しながら対地作業を行う作業行程の場合、対地作業の形態や対地作業装置の種類等により、作業行程の機体の走行速度は高速であったり低速であったりすることがある。
これにより、特許文献1のように、機体の旋回開始に伴って、無条件で機体の走行速度が自動的に減速操作されるように構成すると、例えば作業行程の機体の走行速度が低速である場合、一回の作業行程が終了して機体が作業地の端部に達し、機体の旋回を開始すると、機体の旋回時の走行速度がさらに減速されてしまい、機体の旋回に時間を要してしまう状態となって、作業能率と言う面で不利なものとなる。
本発明は、作業車の走行変速構造において、旋回時の機体の安定性を確保しながら、作業能率の向上を図ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[I]
(構成)
本発明の第1特徴は作業車の走行変速構造において次のように構成することにある。
機体の走行速度を検出する速度センサーと、機体の旋回開始を検出する旋回検出手段とを備える。旋回検出手段により機体の旋回開始が検出された場合において、機体の旋回開始時に速度センサーによって検出された機体の走行速度が、事前に設定された設定速度よりも高速であると、機体の走行速度を減速操作する減速手段を備える。旋回検出手段により機体の旋回開始が検出された場合において、機体の旋回開始時に速度センサーによって検出された機体の走行速度が、設定速度よりも低速であると、減速手段の作動を阻止する牽制手段を備える。
【0006】
(作用)
本発明の第1特徴によると、例えば作業地の一辺に沿って直進しながら対地作業を行う作業行程を行い、一回の作業行程が終了して機体が作業地の端部に達して機体の旋回が開始された場合、旋回開始時の機体の走行速度が設定速度よりも高速であると、機体の走行速度が自動的に減速操作される。
これにより、機体の走行速度が高速の状態で機体の旋回を行ってしまう状態が回避されて、旋回時の機体の安定性が確保される。
【0007】
本発明の第1特徴によると、前述のように機体の旋回が開始された場合、旋回開始時の機体の走行速度が設定速度よりも低速であると、機体の走行速度の自動的な減速操作は行われない。
この場合、旋回開始時の機体の走行速度が比較的低速(設定速度よりも低速)であるので、機体の走行速度の自動的な減速操作が行われなくても、機体の走行速度が高速の状態で機体の旋回を行ってしまう状態にはならず、旋回時の機体の安定性は確保される。機体の旋回時の走行速度が不必要に減速されてしまうことがなく、機体の旋回に時間を要してしまう状態は生じない。
【0008】
(発明の効果)
本発明の第1特徴によると、作業車の走行変速構造において、旋回開始時の機体の走行速度が設定速度よりも高速であると、機体の走行速度が自動的に減速操作されるように構成して、旋回時の機体の安定性を確保しながら、旋回開始時の機体の走行速度が設定速度よりも低速であると、機体の走行速度の自動的な減速操作が行われないようにし、機体の旋回に時間を要してしまう状態を回避して、作業能率の向上を図ることができた。
【0009】
[II]
(構成)
本発明の第2特徴は、本発明の第1特徴の作業車の走行変速構造において次のように構成することにある。
減速手段を人為的に作動及び停止状態に設定可能な設定手段を備える。
【0010】
(作用)
本発明の第2特徴によると、本発明の第1特徴と同様に前項[I]に記載の「作用」を備えており、これに加えて以下のような「作用」を備えている。
前項[I]に記載のように、例えば作業地の一辺に沿って直進しながら対地作業を行う作業行程を行い、一回の作業行程が終了して機体が作業地の端部に達して機体の旋回が開始された場合、作業地の状態、対地作業の形態や対地作業装置の種類等により、旋回開始時の機体の走行速度が比較的高速(設定速度よりも高速)であっても、旋回時の機体の安定性が確保されることがある。
【0011】
本発明の第2特徴によると、前述の状態の場合、運転者が減速手段を停止状態に設定することにより、旋回開始時の機体の走行速度が比較的高速(設定速度よりも高速)であっても、機体の走行速度の自動的な減速操作が行われないようにすることができ、機体の旋回に要する時間を短くすることができる。
【0012】
(発明の効果)
本発明の第2特徴によると、本発明の第1特徴と同様に前項[I]に記載の「発明の効果」を備えており、これに加えて以下のような「発明の効果」を備えている。
本発明の第2特徴によると、旋回開始時の機体の走行速度が比較的高速(設定速度よりも高速)であっても、旋回時の機体の安定性が確保される状態の場合、機体の走行速度の自動的な減速操作が行われないようにすることができ、機体の旋回に要する時間を短くすることができて、作業能率の向上を図ることができた。
【0013】
[III]
(構成)
本発明の第3特徴は、本発明の第1又は第2特徴の作業車の走行変速構造において次のように構成することにある。
人為的に操作可能な操作具により設定速度を変更可能に構成する。
【0014】
(作用)
本発明の第3特徴によると、本発明の第1又は第2特徴と同様に前項[I][II]に記載の「作用」を備えており、これに加えて以下のような「作用」を備えている。
前項[I]に記載のように、例えば作業地の一辺に沿って直進しながら対地作業を行う作業行程を行い、一回の作業行程が終了して機体が作業地の端部に達して機体の旋回が開始された場合、作業地の状態、対地作業の形態や対地作業装置の種類等により、旋回時の機体の安定性が確保される機体の走行速度は一定ではないことが多い。
【0015】
本発明の第3特徴によると、人為的に操作可能な操作具により設定速度を変更することができるので、運転者が作業地の状態、対地作業の形態や対地作業装置の種類等に応じて設定速度を高速側及び低速側に変更し、適切な設定速度を設定することができる。
例えば旋回開始時の機体の走行速度が比較的高速であっても、旋回時の機体の安定性が確保され易い状態の場合、設定速度を比較的高速に設定することにより、機体の走行速度の自動的な減速操作が行われない状態を多くして、機体の旋回に要する時間を短くすることができる。
逆に旋回開始時の機体の走行速度が比較的低速であっても、旋回時の機体の安定性が確保され難い状態の場合、設定速度を比較的低速に設定することにより、機体の走行速度の自動的な減速操作が行われる状態を多くして、旋回時の機体の安定性を確保することができる。
【0016】
(発明の効果)
本発明の第3特徴によると、本発明の第1又は第2特徴と同様に前項[I][II]に記載の「発明の効果」を備えており、これに加えて以下のような「発明の効果」を備えている。
本発明の第3特徴によると、運転者が作業地の状態、対地作業の形態や対地作業装置の種類等に応じて適切な設定速度を設定することができるようになり、旋回時の機体の安定性を確保しながら、機体の旋回に時間を要してしまう状態を回避して、作業能率の向上を図ることができた。
【0017】
[IV]
(構成)
本発明の第4特徴は、本発明の第1〜第3特徴の作業車の走行変速構造のうちのいずれか一つにおいて次のように構成することにある。
機体に昇降自在に連結された対地作業装置が接地状態から上昇操作されたことにより機体の旋回開始を検出するように、旋回検出手段を構成する。
【0018】
本発明の第5特徴は、本発明の第1〜第3特徴の作業車の走行変速構造のうちのいずれか一つにおいて次のように構成することにある。
操向操作自在な前輪が直進位置から設定角度以上に右又は左に操向操作されたことにより機体の旋回開始を検出するように、旋回検出手段を構成する。
【0019】
(作用)
本発明の第4及び第5特徴によると、本発明の第1〜第3特徴のうちのいずれか一つと同様に前項[I]〜[III]に記載の「作用」を備えており、これに加えて以下のような「作用」を備えている。
前項[I]に記載のように、機体の旋回開始に伴って機体の走行速度が自動的に減速操作されるように構成する場合、機体の旋回開始を確実に検出するように構成する必要がある。
【0020】
農用トラクタ等の作業車では、ロータリ耕耘装置等の対地作業装置を昇降自在に機体に連結することが多く、例えば作業地の一辺に沿って直進しながら対地作業を行う作業行程を行い、一回の作業行程が終了して機体が作業地の端部に達すると、機体の旋回が開始されるのと略同時に、対地作業装置が接地状態から上昇操作されることが多く、対地作業装置を上昇操作した状態で機体の旋回が行われることが多い。
本発明の第4特徴によると、対地作業装置を昇降自在に機体に連結した場合に、機体の旋回開始に伴って、対地作業装置の接地状態からの上昇操作が略必ず行われると言ってよいことに着目し、対地作業装置の接地状態からの上昇操作を機体の旋回開始と判断しており、機体の旋回開始を確実に検出することができる。
【0021】
本発明の第5特徴によると、操向操作自在な前輪が直進位置から設定角度以上に右又は左に操向操作されたことにより機体の旋回開始を検出するように構成しており、前輪の右又は左の操向操作と言うような機体の旋回開始に直接的に関係する操作に基づいて、機体の旋回開始を判断しており、機体の旋回開始を確実に検出することができる。
【0022】
(発明の効果)
本発明の第4及び第5特徴によると、本発明の第1〜第3特徴のうちのいずれか一つと同様に前項[I]〜[III]に記載の「発明の効果」を備えており、これに加えて以下のような「発明の効果」を備えている。
本発明の第4及び第5特徴によると、機体の旋回開始に伴って機体の走行速度が自動的に減速操作されるように構成する場合、対地作業装置の接地状態からの上昇操作及び前輪の右又は左の操向操作により、機体の旋回開始を確実に検出することができるようになって、作業能率の向上を図ることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
[1]
図1に示すように、左右に操向操作自在な右及び左の前輪1、右及び左の後輪2で支持された機体に、エンジン3及びミッションケース4が備えられ、運転部5が備えられて、作業車の一例である農用トラクタが構成されている。
【0024】
図1及び図2に示すように、エンジン3の動力が、ミッションケース4に備えられた静油圧式の無段変速装置6及びギヤ変速式の副変速装置(図示せず)を介して、前輪1及び後輪2に伝達される。無段変速装置6は停止位置N、前進領域F及び後進領域Rに操作自在に構成されており、制御装置10によって操作されるアクチュエータ7により無段変速装置6の斜板(図示せず)が操作されて、無段変速装置6が変速操作される。
【0025】
図1及び図2に示すように、前輪1を操向操作する操縦ハンドル8が運転部5の前部の上部に備えられて、操縦ハンドル8の左横側に前後進レバー11が備えられており、前後進レバー11は前進位置F及び後進位置Rに操作自在に構成されて、前後進レバー11の操作位置が制御装置10に入力されている。運転部5に備えられた運転座席13の右横側に変速レバー12が備えられて、変速レバー12は停止位置N及び最高速位置Mの範囲で操作可能、及び任意の操作位置に保持可能に構成されており、変速レバー12の操作位置が制御装置10に入力されている。
【0026】
図2に示すように、前後進レバー11を前進位置Fに操作していると、前進領域Fにおいて、制御装置10及びアクチュエータ7により無段変速装置6が変速レバー12の操作位置に対応する変速位置に変速操作される。前後進レバー11を後進位置Rに操作していると、後進領域Rにおいて、制御装置10及びアクチュエータ7により無段変速装置6が変速レバー12の操作位置に対応する変速位置に変速操作される。これにより、前後進レバー11及び変速レバー12によって、前進及び後進の任意の走行速度を設定することができる。
【0027】
[2]
図1及び図2に示すように、ミッションケース4の後部にトップリンク14、右及び左のロアリンク15が昇降自在に支持され、油圧シリンダ16により揺動駆動されるリフトアーム17が備えられて、リフトアーム17と右及び左のロアリンク15とに亘って連係ロッド18が接続されている。油圧シリンダ16に作動油を給排操作する制御弁19が備えられて、制御装置10により制御弁19が操作されるのであり、制御装置10及び制御弁19により油圧シリンダ16が伸縮作動して、リフトアーム17によりトップリンク14、右及び左のロアリンク15が昇降駆動される。図1に示す状態はトップリンク14、右及び左のロアリンク15に、ロータリ耕耘装置20(対地作業装置に相当)が連結された状態である。
【0028】
図1及び図2に示すように、制御装置10に昇降制御手段(図示せず)が備えられ、ロータリ耕耘装置20の後部に備えられた上下揺動自在なカバー20aにより、ロータリ耕耘装置20の耕耘深さが検出されて制御装置10に入力されている。これにより、ロータリ耕耘装置20の耕耘深さが設定値に維持されるように、制御装置10(昇降制御手段)及び制御弁19、油圧シリンダ16によりトップリンク14、右及び左のロアリンク15(ロータリ耕耘装置20)が自動的に昇降駆動される。
【0029】
図1及び図2に示すように、操縦ハンドル8の右横側に昇降レバー9が備えられて、昇降レバー9は中立位置N、上昇位置U及び下降位置Dに操作自在に構成され、中立位置Nに付勢されており、昇降レバー9の操作位置が制御装置10に入力されている。
これにより、昇降制御手段が作動している状態(ロータリ耕耘装置20が接地して、ロータリ耕耘装置20の耕耘深さが設定値に維持されている状態)において、昇降レバー9を上昇位置Uに操作すると(上昇位置Uに操作して中立位置Nに操作すると)、昇降制御手段が一時停止して、制御装置10及び制御弁19、油圧シリンダ16によりトップリンク14、右及び左のロアリンク15(ロータリ耕耘装置20)が上限位置まで上昇駆動される。次に昇降レバー9を下降位置Dに操作すると(下降位置Dに操作して中立位置Nに操作すると)、ロータリ耕耘装置20が接地するまで、制御装置10及び制御弁19、油圧シリンダ16によりによりトップリンク14、右及び左のロアリンク15(ロータリ耕耘装置20)が下降駆動されて、昇降制御手段が作動する。
【0030】
[3]
次に、機体の旋回時の減速操作の前半について、図2及び図3に基づいて説明する。
農用トラクタでは一般に、一回の作業行程が終了して機体が圃場の端部に達すると、運転者は昇降レバー9を上昇位置Uに操作して(上昇位置Uに操作し中立位置Nに操作して)、トップリンク14、右及び左のロアリンク15(ロータリ耕耘装置20)を上限位置まで上昇駆動し、操縦ハンドル8を操作して機体を約180度旋回させる。旋回が終了すると、昇降レバー9を下降位置Dに操作して(下降位置Dに操作し中立位置Nに操作して)、トップリンク14、右及び左のロアリンク15(ロータリ耕耘装置20)を下降駆動し、次の作業行程に入る。
【0031】
無段変速装置6及び副変速装置の伝動下手側の伝動軸の回転数から機体の走行速度V1を検出する速度センサー21が備えられて、速度センサー21の検出値が制御装置10に入力されている。後述する減速手段([4]参照)を作動及び停止状態に設定可能で人為的に操作可能な設定スイッチ22(設定手段に相当)が備えられて、設定スイッチ22の操作位置が制御装置10に入力されている。後述する設定速度V11を高低に変更可能で人為的に操作可能なダイヤル式の設定速度スイッチ23(操作具に相当)が備えられて、設定速度スイッチ23の操作位置が制御装置10に入力されている。
【0032】
設定スイッチ22を作動位置に操作した状態で(ステップS1)、前項[2]に記載のように、前後進レバー11を前進位置Fに操作し(ステップS2)、変速レバー12を任意の操作位置に操作している状態(ステップS3)(機体が所定速度で前進走行している状態)において、昇降制御手段が作動している状態(ロータリ耕耘装置20が接地して、ロータリ耕耘装置20の耕耘深さが設定値に維持されている状態)であったとする。
【0033】
一回の作業行程が終了して機体が圃場の端部に達して機体の旋回に入る場合、昇降レバー9を上昇位置Uに操作すると(上昇位置Uに操作し中立位置Nに操作すると)(ステップS4)(旋回検出手段に相当)、昇降レバー9が上昇位置Uに操作された時点の機体の走行速度V1が速度センサー21により検出され(ステップS5)、機体の走行速度V1により、以下のように機体の旋回時の走行速度V2が設定される(ステップS6,S7,S8)。
【0034】
図4に示すように、機体の走行速度V1に対して、機体の旋回時の走行速度V2が関係線A1,A2によって設定されている。無段変速装置6及び副変速装置による最高速度VMに対して低速の設定速度V11が設定されており、機体の走行速度V1が設定速度V11以下の場合、関係線A1により機体の走行速度V1がそのまま機体の旋回時の走行速度V2として設定される。
【0035】
図4に示すように、無段変速装置6及び副変速装置による最高速度VMと設定速度V11との中間の速度V12が演算されており、設定速度V11と中間の速度V12とを結ぶ直線の関係線A2が設定されている。機体の走行速度V1が設定速度V11よりも高速の場合、関係線A2により機体の走行速度V1に対して機体の旋回時の走行速度V2が低速に設定されるのであり、機体の走行速度V1が高速になるのに伴って、機体の旋回時の走行速度V2も高速に設定される。設定速度スイッチ23により設定速度V11を高速側及び低速側に変更すると、これに伴って無段変速装置6及び副変速装置による最高速度VMと設定速度V11との中間の速度V12が新たに演算されて、関係線A2が新たに設定される。
【0036】
[4]
次に、機体の旋回時の減速操作の後半について、図2及び図3に基づいて説明する。
前項[3]に記載のように、一回の作業行程が終了して機体が圃場の端部に達して機体の旋回が開始される場合、昇降レバー9が上昇位置Uに操作された時点の機体の走行速度V1が設定速度V11以下であると(ステップS6)、関係線A1により機体の走行速度V1がそのまま機体の旋回時の走行速度V2として設定されるので(ステップS7)、制御装置10及びアクチュエータ7により無段変速装置6が減速操作されない状態となり、機体の走行速度V1(機体の旋回時の走行速度V2)で旋回が行われる(牽制手段に相当)。
【0037】
昇降レバー9が上昇位置Uに操作された時点の機体の走行速度V1が設定速度V11よりも高速であると(ステップS6)、関係線A2により機体の旋回時の走行速度V2(機体の走行速度V1よりも低速)が設定されて(ステップS8)、機体の旋回時の走行速度V2で旋回が行われるように、制御装置10及びアクチュエータ7により無段変速装置6が減速操作される(ステップS9)(減速手段に相当)。
【0038】
次に旋回が終了すると、昇降レバー9を下降位置Dに操作して(下降位置Dに操作し中立位置Nに操作して)、トップリンク14、右及び左のロアリンク15(ロータリ耕耘装置20)を下降駆動し、昇降制御手段(前項[2]参照)を作動させて次の作業行程に入る。
この場合、昇降レバー9を下降位置Dに操作すると(下降位置Dに操作し中立位置Nに操作すると)(ステップS10)、昇降レバー9が上昇位置Uに操作された時点の機体の走行速度V1(ステップS5)に復帰するように、制御装置10及びアクチュエータ7により無段変速装置6が増速操作される(ステップS11)。
【0039】
前項[3]及び[4]において設定スイッチ22を停止位置に操作した状態(ステップS1)、又は前後進レバー11を後進位置Rに操作した状態(ステップS2)、又は変速レバー12を停止位置Nに操作した状態(ステップS3)では、昇降レバー9を上昇位置Uに操作しても(上昇位置Uに操作し中立位置Nに操作しても)、ステップS6,S8〜S11のような無段変速装置6の減速及び増速操作は行われない。
【0040】
[発明の実施の第1別形態]
前輪1の操向角度を検出する角度センサー(図示せず)を備え、角度センサーの検出値を制御装置10に入力するように構成してもよい。
これにより、前述の[発明を実施するための最良の形態]の図3のステップS4において、操縦ハンドル8により前輪1が直進位置から設定角度以上に右又は左に操向操作されたことにより、機体の旋回開始を検出するように構成して(旋回検出手段に相当)、機体の旋回時の走行速度V2で旋回が行われるように、制御装置10及びアクチュエータ7により無段変速装置6が減速操作されるように構成してもよい(図3のステップS8,S9)。
図3のステップS10において、操縦ハンドル8により前輪1が直進位置に操作されたことにより、機体の旋回終了を検出するように構成して、制御装置10及びアクチュエータ7により無段変速装置6が増速操作されるように構成してもよい(図3のステップS11)。
【0041】
[発明の実施の第2別形態]
操縦ハンドル8により前輪1が直進位置から設定角度以上に右又は左に操向操作されたことにより、トップリンク14、右及び左のロアリンク15(ロータリ耕耘装置20)が上限位置まで自動的に上昇駆動され、操縦ハンドル8により前輪1が直進位置に操向操作されたことにより、トップリンク14、右及び左のロアリンク15(ロータリ耕耘装置20)が自動的に下降駆動されるように構成してもよい。
【0042】
この場合、前述の[発明を実施するための最良の形態][発明の実施の第1別形態]の図3のステップS4において、トップリンク14、右及び左のロアリンク15(ロータリ耕耘装置20)が上限位置まで自動的に上昇駆動されたことによって、制御装置10及びアクチュエータ7により無段変速装置6が減速操作されるように構成してもよい(図3のステップS8,S9)。図3のステップS10において、トップリンク14、右及び左のロアリンク15(ロータリ耕耘装置20)が下降駆動されたことによって、制御装置10及びアクチュエータ7により無段変速装置6が増速操作されるように構成してもよい(図3のステップS11)。
【0043】
[発明の実施の第3別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態][発明の実施の第1別形態][発明の実施の第2別形態]の図4において、無段変速装置6及び副変速装置による最高速度VMと設定速度V11との中間の速度V12ではなく、中間の速度V12よりも高速又は低速の速度と、設定速度V11とを結ぶことにより、直線の関係線A2が設定されるように構成してもよい。
前述の関係線A2や図4の関係線A2を、直線状ではなく、上に凸の2次曲線や下に凸の2次曲線、階段状の折れ線に設定してもよい。
【0044】
[発明の実施の第4別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態][発明の実施の第1別形態]〜[発明の実施の第3別形態]において、無段変速装置6に代えて有段のギヤ変速式の変速装置を備えて、ギヤ変速式の変速装置を減速及び増速操作するように構成してもよい。制御装置10及びアクチュエータ7により無段変速装置6やギヤ変速式の変速装置を減速及び増速操作するのではなく、エンジン3のガバナ装置(図示せず)を操作して、エンジン3の回転数を下降及び上昇操作することにより、機体の走行速度の減速及び増速操作を行うように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】農用トラクタの全体側面図
【図2】昇降レバー、変速レバー及び無段変速装置の関係を示す図
【図3】機体の旋回時の制御の流れを示す図
【図4】機体の走行速度と機体の旋回時の走行速度との関係を示す図
【符号の説明】
【0046】
1 前輪
20 対地作業装置
21 速度センサー
22 設定手段
23 操作具
V1 機体の走行速度
V11 設定速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体の走行速度を検出する速度センサーと、機体の旋回開始を検出する旋回検出手段とを備え、
前記旋回検出手段により機体の旋回開始が検出された場合において、機体の旋回開始時に前記速度センサーによって検出された機体の走行速度が、事前に設定された設定速度よりも高速であると、機体の走行速度を減速操作する減速手段を備え、
前記旋回検出手段により機体の旋回開始が検出された場合において、機体の旋回開始時に前記速度センサーによって検出された機体の走行速度が、前記設定速度よりも低速であると、前記減速手段の作動を阻止する牽制手段を備えてある作業車の走行変速構造。
【請求項2】
前記減速手段を人為的に作動及び停止状態に設定可能な設定手段を備えてある請求項1に記載の作業車の走行変速構造。
【請求項3】
人為的に操作可能な操作具により前記設定速度を変更可能に構成してある請求項1又は2に記載の作業車の走行変速構造。
【請求項4】
機体に昇降自在に連結された対地作業装置が接地状態から上昇操作されたことにより機体の旋回開始を検出するように、前記旋回検出手段を構成してある請求項1〜3のうちのいずれか一つに記載の作業車の走行変速構造。
【請求項5】
操向操作自在な前輪が直進位置から設定角度以上に右又は左に操向操作されたことにより機体の旋回開始を検出するように、前記旋回検出手段を構成してある請求項1〜3のうちのいずれか一つに記載の作業車の走行変速構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−189256(P2009−189256A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30539(P2008−30539)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】