説明

作業車両の変速装置

【課題】電動モータ9を駆動源としながら伝動機構の部品数を極力少なくして機体重量が比較的軽量な作業車両の変速装置を提供すること。
【解決手段】駆動軸11aに駆動力を供給すると共に、前進・後進・停止及び加減速を行なうために設けた駆動モータ9から駆動力を受けて駆動する油圧式無段変速装置(HST)23からなる作業車両の変速装置であって、変速装置23はモータ9により駆動される入力軸80と入力側傾斜板82とシリンダ84aを内装した入力側シリンダブロック84とレバー16により傾動角度が決められる傾斜板82の傾動角度に応じて、シリンダ84aからの油圧を受ける油圧閉回路を有するポートブロック85と該油圧閉回路からの油圧を受けるシリンダ86aを内装した出力側シリンダブロック86とシリンダ86aからの油圧を受ける出力側傾斜板88と該板88と一体の出力軸81とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、駆動モータと油圧式無段変速装置により走行車体を駆動させる副変速装置のない作業車両の変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の作業車両の一例である苗移植機では、エンジンと油圧式無段変速装置(HMT)を備え、さらに副変速装置で機体の走行速度の変更と機体の前後進の切り替え及び停止などの走行制御を行う苗移植機が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−051280号公報
【特許文献2】特開2010−172207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の苗移植機では、エンジンと油圧式無段変速装置(HST)で機体の走行速度を変更し、次いでミッションケース内の副変速装置で、さらに機体の前後進の切り替え及び停止などを行っている。
従って、伝動機構の部品数が多くなり、機体重量が増加する問題があると共に、伝動機構を配置するためのスペースが広く必要となり、機体のコンパクト化が図れない問題がある。
【0005】
また、特許文献2記載の苗移植機では、電動モータを駆動源として機体の前後進、停止及び加減速を行なう構成であるが、電動モータの回転数の変更で加減速を行なっているため、高速化すると消費電力が増大し、バッテリの消耗が早くなる問題がある。
そこで、本発明の課題は、電動モータを駆動源としながら伝動機構の部品数が極力少なくして機体重量が比較的軽量な作業車両の変速装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記課題は、次の解決手段により解決される。
請求項1記載の発明は、走行車体(2)の駆動軸(11a)に駆動力を供給すると共に、前進・後進・停止及び加減速を行なうために設けた駆動モータ(9)から駆動力を受けて駆動する油圧式無段変速装置(HST)(23)からなる作業車両の変速装置であって、
前記油圧式無段変速装置(23)は、前記駆動モータ(9)により駆動される入力軸(80)と、該入力軸(80)の周りに複数並列配置される油圧シリンダ(84a)を内装した入力側シリンダブロック(84)と、手動により変速速度を決めるために設けられる操縦装置(16)により傾動角度が決められる入力側傾斜板(82)と、該入力側傾斜板(82)の傾動角度に応じて前記入力側(ポンプ側)のシリンダ(84a)からの油圧を受ける閉油圧回路を有するポートブロック(85)と、
該ポートブロック(85)の閉油圧回路からの油圧を受ける出力側油圧シリンダ(86a)を内装した出力側(モータ側)シリンダブロック(86)と、
前記入力軸(80)の延長線上に設けられ、出力側(モータ側)シリンダ(86a)からの油圧を受ける出力側傾斜板(88)と該出力側傾斜板(88)と一体の出力軸(81)とを設けたことを特徴とする作業車両の変速装置である。
【0007】
請求項2記載の発明は、前記入力側シリンダ(84a)を作動させない状態で入力軸(80)と出力軸(81)が駆動モータ(9)から受ける駆動力に連動して回転する構成とし、前記入力側シリンダ(84a)を増速操作すると、出力側シリンダブロック(86)への送油量が増加して出力軸(81)の回転数が増加する構成としたことを特徴とする請求項1記載の作業車両の変速装置である。
【0008】
請求項3記載の発明は、前記入力側シリンダ(84a)を作動させない状態にして入力軸(80)と出力軸(81)が駆動モータ(9)から受ける駆動力に連動して回転する構成とし、前記入力側シリンダ(84a)を減速操作すると、出力側シリンダ(86a)への送油方向が逆転し、駆動軸(11a)に対して逆回転する出力側シリンダ(86a)が入力軸(80)の回転の抵抗となり、出力軸(81)の回転数を減少させる構成とした(入力軸(80)の回転数>出力側シリンダブロック(86)の回転数)ことを特徴とする請求項1記載の作業車両の変速装置である。
【0009】
請求項4記載の発明は、前記入力側シリンダ(84a)を減速操作し、入力側傾斜板(82)の傾斜角度が所定角度(例えば、−15度)になると、入力軸(80)の回転数と出力側シリンダ(86a)の回転数が同一となり、出力軸(81)の回転を止める構成としたことを特徴とする請求項3記載の作業車両の変速装置である。
【0010】
請求項5記載の発明は、前記入力側シリンダ(84a)を減速操作し、入力側傾斜板(82)の傾斜角度が所定角度(例えば、−20度)になると、出力側シリンダ(86a)の回転数が入力軸(80)の回転数よりも多くなり、出力軸(81)を後進回転させる(入力軸(80)の回転数<出力側シリンダブロック(86)の回転数)構成としたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の作業車両の変速装置である。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の発明によれば、駆動モータ9と油圧式無段変速装置23が異なる速度域で加減速を行なう構成としたことにより、走行車体2の走行速度や作業状態に合わせて効率的な伝動を行うことができるので、消費電力が抑制されると共に、駆動負荷が減少する。
【0012】
また、油圧式無段変速装置23による駆動力を用いないで駆動モータ9のみで走行車体2に駆動力を供給することにより、駆動モータ9の正逆転、停止及び回転数を操作すると前後進、停止及び走行速度を任意に変更することができるので、副変速伝動機構が省略されて機体が軽量化されると共に、副変速伝動機構がない分、省スペース化を図ることができる。
また、駆動モータ9は電気エネルギーで作動するので、機体の電動化を図ることができ、ガソリン等の燃料が不要となり、排出ガス等が削減される。
【0013】
請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、入力側傾斜板82を入力軸80と直交する方向に向けて入力側傾斜板82の傾動角度をゼロとして入力側シリンダ84aを作動させない状態で入力軸80と出力軸81が駆動モータ9から受ける駆動力に連動して回転する構成としたことにより、駆動モータ9の駆動力が入力軸80から出力軸81に直接伝達されるので、駆動力のロスを減少させることができ、動力伝動系統の効率化が図れる。
【0014】
また、駆動モータ9で低速(植付速)域の変速を行なうことにより、低速で走行する苗の植付作業中に細かな走行速度の変更ができるので、圃場の土質や植付間隔に適した作業速度の設定が容易になり、苗の植付精度が向上すると共に、作業能率が従来技術より向上する。
【0015】
また、入力側シリンダ84aを増速操作すると、出力側シリンダ86aへの送油量が増加して出力側シリンダ86aの回転数を増加させることができるので、油圧式無段変速装置23で出力側シリンダ86aの高速(移動速)域の変速を行うことができ、駆動モータ9と油圧式無段変速装置23の両方で加速が可能となり、高速で走行する作業車両出力の確保が容易になり、路上走行の姿勢が安定する。
【0016】
請求項3記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、駆動モータ9の駆動力に連動して入力軸80と出力軸81を回転させ、駆動モータ9で高速(移動速)域の変速を行なうことにより、駆動モータ9の出力を直接利用して駆動力を確保することができるので、駆動力のロスが少なくなり、燃費が従来技術より向上するとともに駆動負荷が減少する。
また、駆動モータ9を停止させると入力軸80と出力軸81の回転も停止するので、緊急停止に対応することができる。
【0017】
そして、低速(植付速)域では、油圧式無段変速装置23の入力側シリンダ84aを減速操作すると、出力側シリンダ86aへの送油が逆転して出力軸81が(低回転数で)逆転することにより、出力軸81の回転を抑えて所定速度を超えない範囲で走行速度が調節され、苗の植付精度などの作業精度が向上する。
【0018】
請求項4記載の発明によれば、請求項3記載の発明の効果に加えて、入力側シリンダブロック84を減速操作して入力側傾斜板82の角度が所定角度になると、出力側シリンダブロック86の回転数が逆方向に回転する入力軸80の回転数と同じとなって出力軸81の回転を止める構成としたことにより、駆動モータ9を止めることなく機体を一時停止することができるので、作業条件に合わせた設定変更を行なうときなど、短時間停止する必要があるときに駆動モータ9を入切する必要が無く、作業能率が向上する。
【0019】
請求項5記載の発明によれば、請求項1から3のいずれかに記載の発明の効果に加えて、入力側シリンダ84aを減速操作して入力側傾斜板82の角度が所定角度になると、出力側シリンダ86aの回転数が逆方向に回転する入力軸80の回転数より多くなって、出力軸81の回転を逆転させる構成となるので、駆動モータ9だけでなく、操縦装置(変速レバー)16でも機体を後進させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施例の乗用型田植機の側面図である。
【図2】図1の乗用型田植機の平面図である。
【図3】図3(a)は植付速時と前後進切替時、図3(b)は移動速時における図1の乗用型田植機の油圧式無段変速装置の内部構造図である。
【図4】図4(a)は移動速時と前後進切替時、図4(b)は植付速時における図1の乗用型田植機の油圧式無段変速装置の内部構造図である。
【図5】図1の乗用型田植機の制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面に基づき、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
図1及び図2は本発明の苗移植機の典型例である粉粒体繰出し装置として施肥装置を装着した乗用型田植機の側面図と平面図である。この施肥装置付き乗用型田植機1は、走行車体2の後側に昇降リンク装置3を介して苗植付部4が昇降可能に装着され、走行車体2の後部上側に施肥装置5の本体部分が設けられている。搭乗オペレータが乗用型田植機の前進方向に向かって左右方向をそれぞれ左、右といい、前進方向と後進方向をそれぞれ前、後という。
【0022】
走行車体2は、駆動輪である左右一対の前輪10,10及び左右一対の後輪11,11(走行装置)を備えた四輪駆動車両であって、機体の前部にミッションケース12が配置され、そのミッションケース12の左右側方に前輪ファイナルケース13,13が設けられ、該左右前輪ファイナルケース13,13の操向方向を変更可能な各々の前輪支持部から外向きに突出する左右前輪車軸に左右前輪10,10が各々取り付けられている。また、ミッションケース12の背面部にメインフレーム15の前端部が固着されており、そのメインフレーム15の後端左右中央部に前後水平に設けた後輪ローリング軸を支点にして後輪ギアケース18,18がローリング自在に支持され、その後輪ギアケース18,18から外向きに突出する後輪車軸に後輪11,11が取り付けられている。
【0023】
エンジン20はメインフレーム15の上に搭載されており、該エンジン20の回転動力が、ベルト伝動装置21及び油圧無段変速装置(HST)23を介してミッションケース12に伝達される。ミッションケース12に伝達された回転動力は、該ケース12内のトランスミッションにより変速された後、走行動力と外部取出動力に分離して取り出される。
【0024】
そして、走行動力は、一部が前輪ファイナルケース13,13に伝達されて前輪10,10を駆動すると共に、残りが後輪ギアケース18,18に伝達されて後輪11,11を駆動する。また、外部取出動力は、走行車体2の後部に設けた植付クラッチケース25に伝達され、それから植付伝動軸26によって苗植付部4へ伝動されるとともに、施肥伝動機構28によって施肥装置5へ伝動される。
【0025】
エンジン20の上部はエンジンカバー30で覆われており、その上に座席31が設置されている。座席31の前方には各種操作機構を内蔵するフロントカバー32があり、その上方に前輪10,10を操向操作するハンドル34が設けられている。エンジンカバー30及びフロントカバー32の下端左右両側は水平状のフロアステップ35になっている。フロアステップ35は一部格子状になっており(図2参照)、該ステップ35を歩く作業者の靴についた泥が圃場に落下するようになっている。フロアステップ35上の後部は、後輪フェンダを兼ねるリヤステップ36となっている。
【0026】
昇降リンク装置3は平行リンク機構であって、1本の上リンク40と左右一対の下リンク41,41を備えている。これらリンク40,41,41は、その基部側がメインフレーム15の後端部に立設した背面視門形のリンクベースフレーム42に回動自在に取り付けられ、その先端側に縦リンク43が連結されている。そして、縦リンク43の下端部に苗植付部4に回転自在に支承された連結軸44が挿入連結され、連結軸44を中心として苗植付部4がローリング自在に連結されている。
【0027】
メインフレーム15に固着したリンクベースフレーム42と上リンク40に一体形成したスイングアーム(図示せず)の先端部との間に昇降油圧式シリンダ46が設けられており、該シリンダ46を油圧で伸縮させることにより、上リンク40が上下に回動し、苗植付部4がほぼ一定姿勢のまま昇降する。
【0028】
苗植付部4は6条植の構成で、フレームを兼ねる伝動ケース50、マット苗を載せて左右往復動し、苗を一株分ずつ各条の苗取出口51a,…に供給するとともに横一列分の苗を全て苗取出口51a,…に供給すると苗送りベルト54,…により苗を下方に移送する苗タンク(苗載せ台)51、苗取出口51a,…に供給された苗を圃場に植付ける苗植付装置52(図1、図2)等を備えている。
【0029】
苗植付部4の下部には中央にセンターフロート55、その左右両側にサイドフロート56,56がそれぞれ設けられている。これらフロート55,56,56を圃場の泥面に接地させた状態で機体を進行させると、フロート55,56,56が泥面を整地しつつ滑走し、その整地跡に苗植付装置52,…により苗が植え付けられる。各フロート55,56,56は圃場表土面の凹凸に応じて前端側が上下動するように回動自在に取り付けられており、植付作業時にはセンターフロート55の前部の上下動が迎角制御センサ(図示せず)により検出され、その検出結果に応じ、前記昇降油圧式シリンダ46を制御する油圧バルブ(図示せず)を切り替えて苗植付部4を昇降させることにより、苗の植付深さを常に一定に維持する。
【0030】
施肥装置5は、肥料ホッパ60に貯留されている粒状の肥料を繰出部61,…によって一定量ずつ繰り出し、その肥料を施肥ホース62,…でフロート55,56,56の左右両側に取り付けた施肥ガイド(図示せず),…まで導き、施肥ガイド,…の前側に設けた作溝体76(図1),…によって苗植付条の側部近傍に形成される施肥溝内に落とし込むようになっている。ブロア用電動モータ53で駆動するブロア58で発生させたエアが、左右方向に長いエアチャンバ59を経由して施肥ホース62,…に吹き込まれ、施肥ホース62,…内の肥料を風圧で強制的に搬送するようになっている。
【0031】
苗植付部4には整地装置の一例であるロータ27(第1ロータ27aと第2ロータ27bの組み合わせを単にロータ27ということがある)が取り付けられている。また、苗タンク51は苗植付部4の全体を支持する左右方向と上下方向に幅一杯の矩形の支持枠体65の支持ローラ65aをレールとして左右方向にスライドする構成である。
【0032】
また、走行車体2の前部左右両側には、補給用の苗を載せておく一対の予備苗載せ台38,38が機体の前後に張り出す位置と上下に並んだ位置とに回動可能に設けられている。
切替駆動装置66により第1,第2,第3移動リンク部材39a,39b,39cの作動(回動)により第1,第2,第3予備苗載せ台38a,38b,38cが前後方向に並ぶ展開状態と各予備苗載せ台38a,38b,38cが上下方向に並ぶ収納状態とに切り替えられる。
【0033】
次に本実施例の油圧式無段変速装置(HST)23の内部構造を図3,図4に示す。
ミッションケース12の両端に入力軸80と出力軸81を臨ませ、ミッションケース12内には入力軸80の側から順に、入力側傾斜板82、入力側(ポンプ側)シリンダブロック84、ポートブロック85、出力側(モータ側)シリンダブロック86、出力軸81と一体の出力側傾斜板88が配置されている。出力側傾斜板88の出力軸81に対する傾斜角度は一定である。また、入力軸80は入力側(ポンプ側)シリンダブロック84、ポートブロック85及び出力側(モータ側)シリンダブロック86の各中心部を貫通して配置され、出力側傾斜板88に当接している。そして入力軸80と出力軸81の軸芯は同一直線上に配置されている。
【0034】
入力軸80には電動モータ9から動力が伝達され、入力側傾斜板82は変速レバー16の下端部に設けたポテンショメータ16aが検出した変速レバー16の操作角度に対応する角度に傾動される構成になっている。
【0035】
また、入力側(ポンプ側)シリンダブロック84内には入力軸80周りに4本(4本に限定しなくてもよく、ピストン84aの数も変更してもよい)のピストン84aが入力軸80と並列配置されており、該ピストン84aの基部側(ポートブロック85側に配置されている)にはバネ(図示せず)が設けられ、全てのピストン84aの頭部側には入力側傾斜板82が当接して常時入力側傾斜板82を押圧するように配置されている。従って、入力側傾斜板82が入力軸80に対して直交する方向に配置されていない場合(入力側傾斜板82の傾斜角度がゼロでない場合)は入力側傾斜板82の入力軸80に対する傾斜角度が入力側傾斜板82の回転と共に入力側(ポンプ側)シリンダブロック84内の4本のピストン84aを順次押圧し、ポートブロック85内の油圧回路を経由して出力側(モータ側)シリンダブロック86へ送り出す作動油の油圧が変化する構成になっている。
【0036】
出力側(モータ側)シリンダブロック86内にも出力軸81周りに4本のピストン86aが入力軸80周りに入力軸80と並列配置されており、該ピストン86aの基部側(ポートブロック85側に配置されている)にはバネ(図示せず)が設けられ、該ピストン86aの頭部側は出力側傾斜板88に当接するように配置され、全てのピストン86aの頭部が出力側傾斜板88に常時当接している。
【0037】
従って、入力側(ポンプ側)シリンダブロック84からポートブロック85内の油圧回路を通って出力側(モータ側)シリンダブロック86へ作動油が送り出される場合は、その送出作動油の油圧の大きさに応じて出力側傾斜板88と一体の出力軸81を回転させる動力が変化する。
【0038】
ここで、図3(a)と図3(b)には前後進の切替と圃場での苗植付速での変速を電動モータ9で行い、路上などでの前後進の移動速での変速を油圧式無段変速装置23で行う変速機構の説明図を示す。
【0039】
(a)植付速と前後進切替(図3(a)参照)
本実施例の苗移植機(乗用型田植機)が、変速レバー16の操作により入力側傾斜板82を入力軸80に対して直交する方向に配置されている場合(入力側傾斜板82の傾斜角度θ=0)、入力側傾斜板82の押圧による入力側(ポンプ側)シリンダブロック84内の4本のピストン84aの入力軸80に沿った方向への移動が行われないので、入力側(ポンプ側)シリンダブロック84内への作動油の吸い込みと吐出作用が行われない。このため、ポートブロック85内の閉油圧回路には作動油の流れは発生しないで、閉油圧回路内に作動油が充満している。そのため出力側(モータ側)シリンダブロック86内のピストン86aの入力軸80に沿った方向への移動もないので、電動モータ9による駆動力で正逆方向へ回転する入力軸80の駆動力はそのまま出力側(モータ側)シリンダブロック86内のピストン86aを経由して出力側傾斜板88を回転させ、さらに出力軸81を回転させる。こうして苗移植機の前後進の切替と植付速での変速を電動モータ9による動力のみにより行われることになる。
【0040】
このように苗移植機の前後進の切替と植付速設定時には、入力軸80に伝えられる駆動力が、途中に一定容積の圧縮体として存在する油圧式無段変速装置23のポートブロック85内の閉油圧回路内の作動油を、ある種の軸継ぎ手として使用し、そのまま出力軸81に同じ回転数で伝達される。また構成部品内の油漏れ損失を除けば、ほぼ損失無く入力軸80側動力が出力軸81に伝達される。
【0041】
(b)移動速(図3(b)参照)
本実施例の苗移植機(乗用型田植機)が路上走行するとき(移動速設定時)には、変速レバー16の前後進時の増減速操作量に合わせて入力側傾斜板82の入力軸80に対する一方向(前進時)又は他方向(後進時)への傾斜角度を変更することで、油圧式無段変速装置23からの出力と電動モータ9からの出力を加算して出力軸81に対する動力伝達を行う。
【0042】
変速レバー16の操作により入力側傾斜板82の入力軸80に直交する平面に対する傾斜角度θが0度を超えて入力側傾斜板82が増速側に傾斜されると(入力側傾斜板82の傾斜角度θ>0)となると)、該入力側傾斜板82の傾斜角度θに応じて入力側(ポンプ側)シリンダブロック84内の4本のピストン84aの入力軸80に沿った方向への移動量がそれぞれ変化し、その変化量に合わせて入力側(ポンプ側)シリンダブロック84内への作動油の吸い込みと吐出作用が行われる。このため、ポートブロック85内の閉油圧回路には作動油の流れが発生し、その駆動力により出力側(モータ側)シリンダブロック86内のピストン86aが入力軸80に沿った方向へ順次移動する。
【0043】
前記ポートブロック85内の閉油圧回路の作動油の順方向への送油により、出力側(モータ側)シリンダブロック86内部に吐出される作動油によるピストン86aの入力軸80に沿った方向への移動量の変化により、駆動力が出力側傾斜板88と一体の出力軸81に伝達される。従って電気モータ9により入力軸80に伝達される駆動力に加えて入力側(ポンプ側)シリンダブロック84から駆動力により出力軸81が駆動される。
【0044】
このように苗移植機が路上走行時(移動速設定時)の高速走行は、電動モータ9による入力軸80からの駆動力と出力側(モータ側)シリンダブロック86のピストン86aによる駆動力が加わって高速駆動力が出力軸81に伝達されることにより行われる。
【0045】
上記(a)、(b)の作動機構により汎用されているエンジンから油圧式無段変速装置(HST)23へ動力を変速して、さらに副変速装置で変速した上で車軸を駆動させる構成に代えて、本実施例では電動モータ9から油圧式無段変速装置(HST)23を経由するだけで後輪伝動軸11aを駆動させることができ、苗移植機の駆動系の部品点数を従来のものより削減できコストダウンと軽量化が図れる。
【0046】
また植付速では油圧式無段変速装置(HST)23を使用しないで電動モータ9の駆動力だけを利用するので、油圧式無段変速装置(HST)23のみを使用するより高いエネルギー効率が図れる。
【0047】
なお、油圧式無段変速装置23は、電気モータ9の回転をHST23に加えて得られた回転をピストン84aの伸縮制御により、入力側シリンダブロック84の傾斜角度を変更してHST23の出力軸81を増速回転、または減速回転させる構成としているため、HMT(Hydro Mechanical Transmission)と呼称してもよい。
【0048】
次に、図4(a)と図4(b)には前後進の切替と移動速での変速を電動モータ9で行い、苗植付時の変速を油圧式無段変速装置23で行う変速機構の説明図を示す。
【0049】
(c)移動速時と前後進切替(図4(a)参照)
本実施例の苗移植機(乗用型田植機)が、変速レバー16の操作により入力側傾斜板82を入力軸80に対して直交する方向に配置されている場合(入力側傾斜板82の傾斜角度θ=0)、入力側傾斜板82の押圧による入力側(ポンプ側)シリンダブロック84内の4本のピストン84aの入力軸80に沿った方向への移動が行われないので、入力側(ポンプ側)シリンダブロック84内への作動油の吸い込みと吐出作用が行われない。このため、ポートブロック85内の閉油圧回路には作動油の流れは発生しないで、閉油圧回路内に充満している。そのため出力側(モータ側)シリンダブロック86内のピストン86aの入力軸80に沿った方向への移動もないので電動モータ9による正逆方向への駆動力で回転する入力軸80の駆動力は、そのまま出力側(モータ側)シリンダブロック86を経由して出力側傾斜板88を回転させ、次いで出力軸81を回転させる。こうして苗移植機の前後進の切替と移動速での変速を電動モータ9による動力のみにより行われることになる。
【0050】
このように苗移植機の前後進の切替と移動速設定時には、入力軸80に伝えられる駆動力が、途中に一定容積の圧縮体として存在する油圧式無段変速装置のポートブロック85内の閉油圧回路内の作動油を、ある種の軸継ぎ手として使用し、そのまま出力軸81に同じ回転数で伝達される。また構成部品内の油漏れ損失を除けば、ほぼ損失無く入力軸80側動力が出力軸81に伝達される。
【0051】
(d)植付速時(図4(b)参照)
植付速の低速設定時には変速レバー16の操作により入力側傾斜板82が入力軸80に直交する平面に対する傾斜角度θがゼロ未満でマイナス15度までの間(−15°<θ<0)にする(これを入力側傾斜板82が減速側に傾斜されている場合という)。
【0052】
該入力側傾斜板82の傾斜角度θに応じて入力側(ポンプ側)シリンダブロック84内の4本のピストン84aの入力軸80に沿った方向への移動量が変化し、該変化量に応じて入力側(ポンプ側)シリンダブロック84内への作動油の吸い込みと吐出作用が行われる。このため、ポートブロック85内の閉油圧回路には作動油の流れが発生し、その駆動力に応じて出力側(モータ側)シリンダブロック86内のピストン86aの入力軸80に沿った方向への移動量が変化する。
【0053】
このとき出力側(モータ側)シリンダブロック86の回転は、前記図4(a)におけるモータ9による入力軸80の回転とは逆向きの回転であるので、前記ポートブロック85内の閉油圧回路の作動油は出力側(モータ側)シリンダブロック86内部に吐出されることによるピストン86aが入力軸80に沿った方向へ移動する移動量により、前記電動モータ9による入力軸80の回転方向とは逆向きの回転方向の駆動力が出力側傾斜板88と一体の出力軸81に伝達される。
【0054】
従って、電気モータ9により入力軸80に伝達される駆動力に加えて逆向きの出力側(ポンプ側)シリンダブロック86から駆動力が合算されて出力軸81が植付速に適した低速で駆動される。
【0055】
汎用されているエンジンから油圧式無段変速装置(HST)へ動力を変速して、さらに副変速装置で変速した上で車軸を駆動させる構成に代えて、上記(c)、(d)の作動機構により本実施例では電動モータ9から油圧式無段変速装置23を経由するだけで後輪伝動軸11aを駆動させることができ、苗移植機の駆動系の部品点数を従来のものより削減でき、コストダウンと軽量化が図れる。
また、移動速では駆動モータ9の駆動力をダイレクトに車軸11aに伝えやすくなるので、エネルギー効率が良い。
【0056】
(e)後進走行時
図4(b)に示す油圧式無段変速装置23の構成で、入力側傾斜板82の傾斜角度θを−15°≧θ((例えば、−20度)」となるように変速レバー16を操作すると、路上又は圃場での「後進走行」が選択される。
この場合は、入力側シリンダブロック84を減速操作し、入力側傾斜板82の傾斜角度が所定角度(例えば、−20度)になると、出力側シリンダブロック86の回転数が入力軸80の回転数よりも多くなり、出力軸81を後進回転させる(入力軸80の回転数<出力側シリンダブロック86の回転数)ことができる。
【0057】
このように入力軸80の回転数より多くなった出力軸81の回転を逆転させる構成にしたことにより、駆動モータ9だけでなく、変速操作レバー16でも機体を後進させることができる。
なお、図5には図1の乗用型田植機の変速レバー16の操作により駆動制御される駆動モータ9と油圧式無段変速装置23の制御装置100による制御ブロック図を示す。
【符号の説明】
【0058】
1 施肥装置付き乗用型田植機 2 走行車体
3 昇降リンク装置 4 苗植付部
5 粉粒体繰出し装置(施肥装置) 9 電動モータ
10 前輪 11 後輪
11a 後輪駆動軸 12 ミッションケース
13 前輪ファイナルケース 15 メインフレーム
16 変速レバー
18 後輪ギアケース 19 畦クラッチレバー
19a 畦クラッチレバーセンサ 20 エンジン
21 ベルト伝動装置 23 HST
25 植付クラッチケース 26 植付伝動軸
27(27a,27b) ロータ 27a1 ロータ
28 施肥伝動機構 30 エンジンカバー
31 座席 32 フロントカバー
34 ハンドル 35 フロアステップ
36 リヤステップ 37 ロータカバー
37a 上方部 37b 後方部
38 予備苗載台 40 上リンク
40a 突起 41 下リンク
42 リンクベースフレーム 43 縦リンク
44 連結軸 45 ロータ高さ調節レバー
46 昇降油圧シリンダ 47 チェーンケース
48 ロータ高さ調節部材 48a 長穴
49 スプリング 50 伝動ケース
51 苗載台 51a 苗取出口
51b 苗送りベルト 52 苗植付装置
52a 苗植付具 53 ブロア用電動モータ9
54 苗送りベルト 55 センターフロート
56 サイドフロート 58 ブロア
59 エアチャンバ 60 肥料ホッパ
61 繰出部 62 施肥ホース
65 苗植付部支持枠体 65a 支持ローラ
80 入力軸 81 出力軸
82 入力側傾斜板
84 入力側(ポンプ側)シリンダブロック
84a、86a ピストン 85 ポートブロック
86 出力側(モータ側)シリンダブロック
100 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車体(2)の駆動軸(11a)に駆動力を供給すると共に、前進・後進・停止及び加減速を行なうために設けた駆動モータ(9)から駆動力を受けて駆動する油圧式無段変速装置(23)からなる作業車両の変速装置であって、
前記油圧式無段変速装置(23)は、前記駆動モータ(9)により駆動される入力軸(80)と、該入力軸(80)の周りに複数並列配置される油圧シリンダ(84a)を内装した入力側シリンダブロック(84)と、手動により変速速度を決めるために設けられる操縦装置(16)により傾動角度が決められる入力側傾斜板(82)と、該入力側傾斜板(82)の傾動角度に応じて前記入力側のシリンダ(84a)からの油圧を受ける閉油圧回路を有するポートブロック(85)と、
該ポートブロック(85)の閉油圧回路からの油圧を受ける出力側油圧シリンダ(86a)を内装した出力側シリンダブロック(86)と、
前記入力軸(80)の延長線上に設けられ、出力側シリンダ(86a)からの油圧を受ける出力側傾斜板(88)と該出力側傾斜板(88)と一体の出力軸(81)とを設けたことを特徴とする作業車両の変速装置。
【請求項2】
前記入力側シリンダ(84a)を作動させない状態で入力軸(80)と出力軸(81)が駆動モータ(9)から受ける駆動力に連動して回転する構成とし、
前記入力側シリンダ(84a)を増速操作すると、出力側シリンダブロック(86)への送油量が増加して出力軸(81)の回転数が増加する構成としたことを特徴とする請求項1記載の作業車両の変速装置。
【請求項3】
前記入力側シリンダ(84a)を作動させない状態にして入力軸(80)と出力軸(81)が駆動モータ(9)から受ける駆動力に連動して回転する構成とし、
前記入力側シリンダ(84a)を減速操作すると、出力側シリンダ(86a)への送油方向が逆転し、
駆動軸(11a)に対して逆回転する出力側シリンダ(86a)が入力軸(80)の回転の抵抗となり、出力軸(81)の回転数を減少させる構成とした(入力軸(80)の回転数>出力側シリンダブロック(86)の回転数)ことを特徴とする請求項1記載の作業車両の変速装置。
【請求項4】
前記入力側シリンダ(84a)を減速操作し、入力側傾斜板(82)の傾斜角度が所定角度になると、入力軸(80)の回転数と出力側シリンダ(86a)の回転数が同一となり、出力軸(81)の回転を止める構成としたことを特徴とする請求項3記載の作業車両の変速装置。
【請求項5】
前記入力側シリンダ(84a)を減速操作し、入力側傾斜板(82)の傾斜角度が所定角度になると、出力側シリンダ(86a)の回転数が入力軸(80)の回転数よりも多くなり、出力軸(81)を後進回転させる構成としたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の作業車両の変速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−177401(P2012−177401A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39863(P2011−39863)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】