説明

作業車両

【課題】ロックアップクラッチが係合状態にある場合にトランスミッションの速度段の切替を円滑に行うことができる作業車両を提供する。
【解決手段】本発明に係る作業車両は、エンジンと、走行輪と、動力伝達機構と、制御部とを備える。走行輪は、エンジンからの駆動力によって駆動される。動力伝達機構は、ロックアップクラッチを有するトルクコンバータと、複数の速度段に切替可能なトランスミッションとを有し、エンジンからの駆動力を走行輪に伝達する。制御部は、エンジン回転数とエンジン出力トルクとの関係を示すエンジンパワーカーブに基づいてエンジンを制御する。また、制御部は、ロックアップクラッチが係合状態である場合、トランスミッションの速度段を第2速から第1速に切り換える時に、エンジンの制御に用いるエンジンパワーカーブを第5エンジンパワーカーブL5から第1エンジンパワーカーブL1に変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
作業車両には、エンジンの動力をトルクコンバータ、トランスミッションなどを有する動力伝達機構によって走行輪に伝達することにより走行を行うものがある。このような作業車両では、エンジン回転数や車速に応じてトランスミッションの速度段を自動的に又は手動によって変更することにより、効率のよい走行を行うことができる。また、トルクコンバータに備えられたロックアップクラッチが制御されて、トルクコンバータの入力側と出力側とが直結されることにより、トルクコンバータの滑りによる動力損失の低減や、燃費低下の抑制が可能である(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−322856号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記のような作業車両では、特にロックアップクラッチが係合状態にある場合に、トランスミッションの速度段の切替を円滑に行えない場合がある。例えば、走行輪に急激に負荷が掛かった場合、エンジン回転数が低下することによってシフトダウンが行われるが、シフトダウンが完了してもエンジンの回転数が下がり続けることによって、車速が低下したり、エンジンが停止したりする恐れがある。
【0004】
本発明の課題は、ロックアップクラッチが係合状態にある場合にトランスミッションの速度段の切替を円滑に行うことができる作業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1発明の作業車両は、エンジンと、走行輪と、動力伝達機構と、制御部とを備える。走行輪は、エンジンからの駆動力によって駆動される。動力伝達機構は、ロックアップクラッチを有するトルクコンバータと、複数の速度段に切替可能なトランスミッションとを有し、エンジンからの駆動力を走行輪に伝達する。制御部は、エンジン回転数とエンジン出力トルクとの関係を示すエンジンパワーカーブに基づいてエンジンを制御する。また、制御部は、ロックアップクラッチが係合状態である場合、トランスミッションの速度段の切替時に、エンジンの制御に用いるエンジンパワーカーブを変更する。
【0006】
この作業車両では、ロックアップクラッチが係合状態である場合、トランスミッションの速度段の切替時に、エンジンの制御に用いるエンジンパワーカーブが変更され、変更されたエンジンパワーカーブによってエンジンの制御が行われる。このため、トランスミッションの速度段の切替時に、エンジン出力トルクを変化させることができ、速度段の切替に伴う車速の変化を抑えることができる。これにより、この作業車両では、トランスミッションの速度段の切替を円滑に行うことができる。
【0007】
また、トランスミッションの速度段の切替時にエンジン出力トルクを変化させるためには、単純にエンジン回転数を増大させる制御も考えられる。しかし、この場合、トランスミッションの速度段の切替時には適切なエンジンの出力制御を行うことが困難になる。これに対して、本発明に係る作業車両では、トランスミッションの速度段の切替時にエンジンの制御に用いるエンジンパワーカーブが変更されるため、トランスミッションの速度段の切替時にもエンジンパワーカーブに基づいてエンジンの制御が行われる。これにより、適切なエンジン出力の制御を行うことができる。
【0008】
第2発明の作業車両は、第1発明の作業車両であって、制御部は、ロックアップクラッチが係合状態である場合にトランスミッションを低速度段に切り換える時には、エンジンの制御に用いるエンジンパワーカーブをトランスミッションの速度段の切替前のエンジンパワーカーブより高トルクのエンジンパワーカーブに変更するエンジン出力増大制御を行う。
【0009】
この作業車両では、トランスミッションを低速度段に切り換える時に、エンジンの制御に用いるエンジンパワーカーブが高トルクのエンジンパワーカーブに変更され、エンジン出力トルクが増大される。このため、急激に負荷が増大してトランスミッションが低速度段に切り換えられた場合であっても、車速の低下やエンジンの停止を防止することができる。
【0010】
第3発明の作業車両は、第2発明の作業車両であって、制御部は、実際のエンジン回転数が所定回転数以下になった場合にロックアップクラッチを係合状態から非係合状態へ切り換える。
【0011】
この作業車両では、実際のエンジン回転数が所定回転数以下になった場合には、ロックアップクラッチが係合状態から非係合状態へ切り換えられ、エンジンの駆動力がトルクコンバータによって伝達される。これにより、エンジン回転数がロックアップクラッチの係合による駆動力の伝達には不適当な低回転数まで低下した場合には、トルクコンバータによる伝達に切り換えられ、エンジンの駆動力を円滑に伝達することができる。また、この作業車両では、ロックアップクラッチが係合状態である場合にトランスミッションを低速度段に切り換える時には、エンジン出力増大制御が行われることにより、車速の低下が抑えられる。このため、トランスミッションの低速度段への切替時にロックアップクラッチが非係合状態に切り替わってしまうことを抑えることができ、燃費を向上させることができる。
【0012】
第4発明の作業車両は、第2発明または第3発明の作業車両であって、制御部は、エンジン出力増大制御を行う際にロックアップクラッチの係合力を低減させる。
【0013】
この作業車両では、エンジン出力増大制御が行われる際にロックアップクラッチの係合力が低減されるため、エンジンへの負荷が軽減される。これにより、エンジンの回転数を容易に増大させることができ、車速の低下をより抑えることができる。
【0014】
第5発明の作業車両は、第1発明から第4発明のいずれかの作業車両であって、制御部は、ロックアップクラッチが係合状態である場合にトランスミッションを高速度段に切り換える時には、エンジンの制御に用いるエンジンパワーカーブをトランスミッションの速度段の切替前のエンジンパワーカーブより低トルクのエンジンパワーカーブに変更するエンジン出力低減制御を行う。
【0015】
この作業車両では、トランスミッションを高速度段に切り換える時に、エンジンの制御に用いるエンジンパワーカーブが低トルクのエンジンパワーカーブに変更され、エンジン出力トルクが低減される。このため、速度段の切替時の車速の急激な変化を抑えることができ、速度段の切替を円滑に行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る作業車両では、トランスミッションの速度段の切替時に、エンジン出力トルクを変化させることができ、速度段の切替に伴う車速の変化を抑えることができる。これにより、この作業車両では、トランスミッションの速度段の切替を円滑に行うことができる。また、トランスミッションの速度段の切替時にも、エンジンパワーカーブに基づいてエンジンの制御が行われるため、適切なエンジン出力の制御を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
<構成>
本発明の一実施形態に係る作業車両1の概略システム構成図を図1に示す。この作業車両1は、例えばブルドーザであり、エンジン2、第1動力伝達機構3、一対の走行装置4a,4b、第1油圧ポンプ5、旋回機構6、作業機7、冷却機構8、操作部9、各種センサ、制御部10などを備えている。
【0018】
〔エンジン2〕
エンジン2は、ディーゼルエンジンであり、燃料噴射ポンプ(図示せず)からの燃料の噴射量が調整されることにより、エンジン2の出力が制御される。燃料噴射量の調整は、燃料噴射ポンプに付設されたガバナ11が制御部10によって制御されることで行われる。ガバナ11としては、一般的にオールスピード制御方式のガバナが用いられ、実際のエンジン回転数が制御部10によって設定されたエンジン回転数になるように、負荷に応じてエンジン回転数と燃料噴射量とを調整する。
【0019】
エンジン2からの駆動力は、図示しない動力取出装置を介して第1動力伝達機構3、第1油圧ポンプ5および後述する第2油圧ポンプ12に分配される。
【0020】
〔第1動力伝達機構3〕
第1動力伝達機構3は、エンジン2からの駆動力を一対の走行装置4a,4bに伝達する機構であり、トルクコンバータ13、トランスミッション14、ベベルギヤ15、横軸16、一対の遊星歯車機構17a,17b、一対のブレーキ装置18a,18b、一対の終減速装置19a,19bなどを有する。
【0021】
トルクコンバータ13は、エンジン2の出力軸に連結されている。このトルクコンバータ13は、トルクコンバータ13の入力側と出力側とを直結するロックアップクラッチ20を有しており、ロックアップクラッチ20は、図示しない油圧ポンプから供給される圧油によってオン状態とオフ状態とに切り換えられる。このロックアップクラッチ20への圧油の供給は、制御部10からの指令信号によって制御されるトルクコンバータ操作弁21によって制御される。なお、オン状態とはクラッチが係合した状態であり、オフ状態とは、クラッチが係合していない状態を意味する。
【0022】
トランスミッション14は、前進用油圧クラッチ22および後進用油圧クラッチ23を有しており、前進用油圧クラッチ22、後進用油圧クラッチ23のいずれかが選択されてオン状態にされることにより、前進走行あるいは後進走行が行われる。前進用油圧クラッチ22および後進用油圧クラッチ23は、図示しない油圧ポンプから供給される圧油によってオン状態とオフ状態とに切り換えられる。
【0023】
また、このトランスミッション14は、第1速用油圧クラッチ24、第2速用油圧クラッチ25、第3速用油圧クラッチ26を有し、これらの変速用クラッチのうちのいずれかが選択されてオン状態とされることにより、速度段の切替が行われる。第1速用油圧クラッチ24、第2速用油圧クラッチ25、第3速用油圧クラッチ26は、図示しない油圧ポンプから供給される圧油によって駆動され、オン状態とオフ状態とに切り換えられる。
【0024】
なお、前進用油圧クラッチ22、後進用油圧クラッチ23、第1速用油圧クラッチ24、第2速用油圧クラッチ25、第3速用油圧クラッチ26への圧油の供給は、トランスミッション操作弁27によって制御される。トランスミッション操作弁27は、制御部10からの指令信号によって制御される。
【0025】
トランスミッション14から出力されるエンジン2の駆動力は、ベベルギヤ15および横軸16を介して一対の遊星歯車機構17a,17bに伝達される。
【0026】
一対の遊星歯車機構17a,17bのうち左遊星歯車機構17bの遊星キャリアに固定される出力軸は、左ブレーキ装置18bおよび左終減速装置19bを介して後述する左スプロケット28bに連結されている。また、右遊星歯車機構17aの遊星キャリアに固定される出力軸は、右ブレーキ装置18aおよび右終減速装置19aを介して後述する右スプロケット28aに連結されている。横軸16から遊星歯車機構17a,17bの各リングギヤに伝達された駆動力は、遊星歯車機構17a,17bの各遊星キャリアから各終減速装置19a,19bを介して各走行装置4a,4bのスプロケット28a,28bに伝達される。
【0027】
〔一対の走行装置4a,4b〕
走行装置4a,4bは、走行輪としての左スプロケット28bおよび右スプロケット28aと、各スプロケット28a,28bに巻回される履帯29a,29bとを有している。上述したように、エンジン2から第1動力伝達機構3を介して駆動力がスプロケット28a,28bに伝達され、スプロケット28a,28bが回転駆動されると、スプロケット28a,28bに巻回された履帯29a,29bが駆動され、これにより作業車両1が走行する。このように、エンジン2の馬力の一部は、作業車両1を走行させるために消費される。
【0028】
〔第1油圧ポンプ5〕
第1油圧ポンプ5は、エンジン2からの駆動力によって駆動され、後述する作業機7の油圧シリンダ31や旋回機構6の油圧モータ32を駆動するための圧油を吐出する。第1油圧ポンプ5は、斜板角を制御することにより吐出容量を制御可能な可変容量型の油圧ポンプである。第1油圧ポンプ5には、斜板角を制御するための斜板角制御機構33および第1油圧ポンプ制御弁34が付設されている。第1油圧ポンプ制御弁34は電磁比例制御弁であり、制御部10は、第1油圧ポンプ制御弁34への指令信号を制御することにより、第1油圧ポンプ5の吐出容量を制御し、第1油圧ポンプ5の吸収トルクを制御することができる。
【0029】
〔旋回機構6〕
旋回機構6は、右スプロケット28aおよび左スプロケット28bの回転速度を異ならせることによって作業車両1を旋回させる機構であり、油圧モータ32と第2動力伝達機構35とを有する。
【0030】
油圧モータ32は、第1油圧ポンプ5からの圧油によって駆動される。
【0031】
第2動力伝達機構35は、所要の歯車列によって構成されており、油圧モータ32の出力軸に固定されるギヤと、左遊星歯車機構17bのサンギヤに一体に固定されるギヤと、右遊星歯車機構17aのサンギヤに一体に固定されるギヤとに噛合している。第2動力伝達機構35は、油圧モータ32の駆動力を左右の遊星歯車機構17a,17bの各サンギヤから各遊星キャリアおよび各終減速装置19a,19bを介して左右のスプロケット28a,28bに伝達し、左右のスプロケット28a,28bの回転速度を異ならせることで作業車両1を左右に旋回させることができる。
【0032】
また、第1油圧ポンプ5と油圧モータ32とを繋ぐ油圧回路には、流路切替弁36が設けられている。流路切替弁36は、制御部10からの指令信号に基づいて、油圧モータ32への圧油の供給量と供給方向とを制御する。これにより、油圧モータ32の出力軸の回転方向が制御され、作業車両1の旋回方向の切替が行われる。
【0033】
〔作業機7〕
作業機7は、図示しないブレードと、ブレードを駆動するための油圧シリンダ31とを有する。ブレードは、作業車両1の前部に設けられており、土押し等の作業を行うための部材である。油圧シリンダ31は、第1油圧ポンプ5からの圧油によって駆動される。また、油圧シリンダ31と第1油圧ポンプ5とを繋ぐ油圧回路には、制御部10からの指令信号に基づいて第1油圧ポンプ5から油圧シリンダ31に供給される圧油を制御する作業機操作弁37が設けられている。なお、この作業車両1では、リフト、アングルおよびチルト用の複数の油圧シリンダ31が設けられているが、図1では1つの油圧シリンダ31のみを図示して他は省略している。作業機操作弁37は、制御部10からの指令信号を受けて油圧シリンダ31への圧油の供給方向を切り換える。これにより、リフト、アングルおよびチルトなどのブレードの動作が行われる。
【0034】
〔冷却機構8〕
冷却機構8は、エンジン2からの駆動力によって駆動される第2油圧ポンプ12と、第2油圧ポンプ12から供給される圧油によって駆動される油圧モータ38と、油圧モータ38によって駆動される冷却ファン39を有する。冷却機構8は、冷却ファン39によって空気の流れを生成することにより、エンジン2の冷却水や圧油を冷却する。なお、油圧モータ38と第2油圧ポンプ12との間には、冷却ファン操作弁41が設けられており、制御部10からの指令信号によって冷却ファン操作弁41が制御されることによって、油圧モータ32へ供給される圧油の流れの方向を切り換えることができる。これにより油圧モータ32すなわち冷却ファン39の回転方向を制御することができる。また、第2油圧ポンプ12には、制御部10からの指令信号に基づいて第2油圧ポンプ12の吐出容量を制御する第2油圧ポンプ制御弁42が付設されており、第2油圧ポンプ制御弁42が制御されることによって、冷却ファンの回転速度を制御することができる。
【0035】
〔操作部9および各種センサ〕
操作部9は、図示しない運転室に内装されており、オペレータによって操作されることにより作業車両1に各種の動作を行わせることができる。また、操作部9による操作内容は、操作信号として制御部10へ送られる。操作部9は、シフトスイッチ43、走行・旋回操作レバー44、スロットル指示装置45、デセル指示装置46、作業機レバー47、制御モード切替装置48などを有する。
【0036】
シフトスイッチ43は、トランスミッション14の速度段を切り換えるためのものである。この作業車両1では、第1速から第3速までのトランスミッション14の速度段の切替が可能であり、オペレータがシフトスイッチ43を操作することにより、手動で速度段の切替を行うことができる。
【0037】
走行・旋回操作レバー44は、作業車両1の前進・後退の切り換え、直進・旋回の切替および、旋回方向の切替を指示するための部材である。オペレータは、走行・旋回操作レバー44を操作することによりトランスミッション14を前進状態、後進状態、中立状態に切り換えることができる。また、オペレータは、走行・旋回操作レバー44を操作することにより、作業車両1の直進・旋回の切替、旋回方向の切替、旋回速度の調整を行うことができる。
【0038】
スロットル指示装置45は、エンジン回転数を変更するためのものである。スロットル指示装置45によって指定されたエンジン回転数は制御部10に入力され、制御部10はエンジン回転数が指定された回転数になるようにエンジン2を制御する。
【0039】
デセル指示装置46は、エンジン回転数を低減させるためのものであり、制御部10から出力されるエンジン2へのエンジン回転数の指令値を通常値から低減させる。
【0040】
作業機レバー47は、作業機7を操作するためのものであり、作業機レバー47の操作内容に応じてリフト、アングルおよびチルトなどのブレードの動作が行われる。
【0041】
制御モード切替装置48は、高エンジン出力を目的とする第1制御モードと低エンジン出力を目的とする第2制御モードとのいずれかをオペレータが選択するためのものである。これらの制御モードの内容については後述する。
【0042】
各種のセンサには、第1ポンプ吐出圧センサS1、エンジン回転数センサS2、トランスミッション回転数センサS3などがある。第1ポンプ吐出圧センサS1は、第1油圧ポンプ5の吐出圧を検出する。エンジン回転数センサS2は、エンジン2の実際のエンジン回転数を検出する。トランスミッション回転数センサS3は、トランスミッション14の出力軸の回転数を検出する。また、これらのセンサS1−S3によって検出された各種の情報は検出信号として制御部10に入力される。
【0043】
〔制御部10〕
制御部10は、マイクロコンピュータや数値演算プロセッサ等の演算処理装置を主体にして構成されており、制御データ等を記憶している。制御部10は、操作部9からの操作信号、各種のセンサ−からの検出信号、制御部10に記憶されている制御データなどに基づいて、エンジン2、第1動力伝達機構3、旋回機構6、作業機7、冷却機構8などの制御を行う。制御部10は、主として、第1動力伝達機構3、旋回機構6、作業機7、冷却機構8の制御を行う第1制御部51と、主としてエンジン2の制御を行う第2制御部52とを有する。
【0044】
第1制御部51は、車速やエンジン回転数に基づいて、トルクコンバータ13のロックアップクラッチ20の切替、変速用クラッチ24〜26の切替を行うことにより、車速やエンジン回転数に適した速度段を選択する。例えば、第1制御部51は、エンジン回転数の増大に伴ってトランスミッション14を低速度段から高速度段へ切り換える。また、第1制御部51は、トランスミッション14が同じ速度段であっても、エンジン回転数に応じてロックアップクラッチ20の切替を行う。例えば、トランスミッション14の速度段が第1速であり、且つ、エンジン回転数が所定値以上である場合はロックアップクラッチ20がオン状態とされる。また、トランスミッション14の速度段が第1速であっても、エンジン回転数が所定値より小さくなった場合には、ロックアップクラッチ20がオフ状態とされる。これにより、作業車両1の走行燃費を向上させることができる。
【0045】
また、第1制御部51は、シフトスイッチ43や走行・旋回操作レバー44の操作に応じて、トランスミッション14の前進用油圧クラッチ22および後進用油圧クラッチ23の切替や変速用クラッチ24〜26の切替を行う。これにより、オペレータは手動で前進・後退の切替および速度段の切替を行うことができる。
【0046】
なお、ロックアップクラッチ20の係合状態は、トルクコンバータ操作弁21からの状態信号として第1制御部51に入力される。また、トランスミッション14の各クラッチ22〜26の係合状態は、トランスミッション操作弁27からの状態信号として第1制御部51に入力される。
【0047】
第2制御部52には、図2に示すようなエンジン回転数とエンジン出力トルクとの関係を示すエンジンパワーカーブが記憶されており、第2制御部52は、エンジンパワーカーブに基づいてエンジン2を制御する。この作業車両1では、エンジン2の制御に用いるエンジンパワーカーブを複数のエンジンパワーカーブに変更することができ、状況に応じてエンジン2の制御に用いるエンジンパワーカーブが決定される。例えば、図2に示すように、エンジン出力トルクが最大となる最大エンジンパワーカーブLmaxに対してエンジン出力トルクを低減させた複数のエンジンパワーカーブL1〜L5に変更することができる。なお、これらのエンジンパワーカーブL1〜L5について、エンジン出力トルクの大きい順に、第1エンジンパワーカーブL1〜第5エンジンパワーカーブL5と名称を付けることとする。
【0048】
以下、エンジンパワーカーブに基づくエンジン出力制御について詳細に説明する。
【0049】
<エンジン出力制御>
この作業車両1では、図3に示すように、状況に応じてエンジン2の制御に用いるエンジンパワーカーブが変更される。
【0050】
まず、トランスミッション14の速度段が変更されず所定の速度段(例えば第2速)に維持されている場合(図3の「通常時」欄参照)のエンジン出力制御について説明する。
【0051】
この場合、ロックアップクラッチ20がオフ状態(図3の「L/Cオフ」参照)であり、且つ、第1制御モードが選択されている場合には、第1エンジンパワーカーブL1(図2参照)に基づいてエンジン2の制御が行われる。これにより、エンジン出力トルクが増大し、走行性や作業性を向上させることができる。
【0052】
ロックアップクラッチ20がオフ状態であり、且つ、第2制御モードが選択されている場合には、第3エンジンパワーカーブL3に基づいてエンジン2の制御が行われる。第3エンジンパワーカーブL3は第1エンジンパワーカーブL1よりもエンジン出力トルクの小さいエンジンパワーカーブであるため、エンジン出力トルクを抑えることによって作業車両1の燃費を向上させることができる。
【0053】
ロックアップクラッチ20がオン状態であり(図3の「L/Cオン」参照)、且つ、第1制御モードが選択されている場合には、第3エンジンパワーカーブL3に基づいてエンジン2の制御が行われる。
【0054】
また、ロックアップクラッチ20がオン状態であり、且つ、第2制御モードが選択されている場合には、第5エンジンパワーカーブL5に基づいてエンジン2の制御が行われる。
【0055】
次に、トランスミッション14の速度段が変更される場合(図3の「変速時」欄参照)のエンジン出力制御について説明する。この作業車両1では、特に、ロックアップクラッチ20がオン状態である場合にトランスミッション14を低速度段に切り換える時には、エンジン2の制御に用いるエンジンパワーカーブを速度段の切替前のエンジンパワーカーブより高トルクのエンジンパワーカーブに変更するエンジン出力増大制御を行う。
【0056】
具体的には、図3に示すように、ロックアップクラッチ20がオン状態であり且つ第2制御モードが選択されている場合において、トランスミッション14の速度段が第2速から第1速に変更される際、エンジンパワーカーブが第5エンジンパワーカーブL5から第1エンジンパワーカーブL1に一時的に変更される。
【0057】
この場合のエンジン回転数や各クラッチへの供給油圧の変化を表すタイミングチャートを図4に示す。図4において、DTHは、エンジン2に入力されるスロットル開度を示している。NENGは、エンジン回転数センサS2が検出した実際のエンジン回転数を示している。NTMは、トランスミッション回転数センサS3が検出したトランスミッション14の出力軸の回転数すなわち車速を示している。PLUは、ロックアップクラッチ20への供給油圧を示している。Pは、前進用油圧クラッチ22への供給油圧を示している。P1stは、第1速用油圧クラッチ24への供給油圧を示している。P2ndは、第2速用油圧クラッチ25への供給油圧を示している。
【0058】
この図4に示されているように、時間T1までは、第2速用油圧クラッチ25への供給油圧P2ndが一定であり、トランスミッション14の速度段が第2速に維持されている。この期間では、上述したように、第5エンジンパワーカーブL5によってエンジン2が制御されており、スロットル開度DTHは一定である。
【0059】
一方、時間T1から時間T2までは、前進用油圧クラッチ22への供給油圧Pが低下され、第2速用油圧クラッチ25への供給油圧P2ndが低下されると共に、第1速用油圧クラッチ24への供給油圧P1stが増大されており、第2速から第1速への速度段の変更が行われている。この期間T1〜T2では、上述したように、エンジン出力増大制御により、エンジンパワーカーブが第5エンジンパワーカーブL5から高トルクの第1エンジンパワーカーブL1に変更され、第1エンジンパワーカーブL1によってエンジン2が制御される。このため、スロットル開度DTHが増大していると共に、エンジン回転数NENGも増大している。なお、この期間T1〜T2では、制御部10は、ロックアップクラッチ20への供給油圧PLUを低下させることによって、ロックアップクラッチ20の係合力を低下させている。これにより、エンジン回転数NENGの増大を容易にしている。時間T2において第2速から第1速への速度段の変更が完了すると、エンジン出力増大制御が終了され、エンジンパワーカーブが第1エンジンパワーカーブL1から第5エンジンパワーカーブL5に戻される。なお、エンジン出力増大制御の終了は、エンジン出力増大制御の開始からの経過時間で判断される。このように、時間T2以降は、第5エンジンパワーカーブL5に基づいてエンジン2の制御が行われ、スロットル開度DTHも元の値に戻される。これにより、エンジン出力増大制御が行われない場合のエンジン回転数(図4の「NENG’」参照)と比べて、変速後のエンジン回転数NENGの低下が抑えられる。また、トランスミッション14の出力軸の回転数NTMの変化すなわち車速の変化についても同様であり、エンジン出力増大制御が行われない場合のトランスミッション14の出力軸の回転数(図4の「NTM’」参照)と比べて、変速後の回転数NTMの低下が抑えられる。なお、時間T3以降において、エンジン出力増大制御が行われない場合のエンジン回転数NENG’が増大しているが、これは、変速後のエンジン回転数NENG’の低下によってロックアップクラッチ20がオン状態からオフ状態に変更されることに因るものである。エンジン出力増大制御が行われる場合には、変速後のエンジン回転数NENGの低下が抑えられるため、ロックアップクラッチ20がオン状態に維持される(図4の「PLU」参照)。
【0060】
また、図3に示すように、ロックアップクラッチ20がオン状態であり且つ第1制御モードが選択されている場合において、トランスミッション14の速度段が第2速から第1速に変更される際、エンジンパワーカーブが第3エンジンパワーカーブL3から第1エンジンパワーカーブL1に一時的に変更される。この場合も、上記と同様に、変速後のエンジン回転数の低下や車速の低下が抑えられると共に、ロックアップクラッチ20がオン状態に維持される。
【0061】
<特徴>
この作業車両1では、低速度段への変速後に、エンジン回転数が低下することが抑えられる。このため、急激に負荷が増大してトランスミッション14が低速度段に切り換えられた場合であっても、車速の低下やエンジン2の停止を防止することができる。これにより、この作業車両1では、トランスミッション14の速度段の切替を円滑に行うことができる。
【0062】
また、この作業車両1では、トランスミッション14の速度段の切替時にエンジン2の制御に用いるエンジンパワーカーブが変更されるため、単純にスロットル開度が増大するのではなく、速度段の切替時のエンジン回転数に適したトルクでエンジン2が制御される。これにより、適切なエンジン出力の制御を行うことができる。
【0063】
<他の実施形態>
(a)
本発明においてエンジン2の制御に用いられるエンジンパワーカーブは、上記のものに限られず、より多くのエンジンパワーカーブへの変更が可能であってもよい。また、変更可能なエンジンパワーカーブの数が上記のものより少なくてもよい。
【0064】
(b)
上記の実施形態では、低速度段への切替時にエンジン出力増大制御が行われているが、高速度段への切替時に、エンジン出力低減制御が行われてもよい。エンジン出力低減制御は、トランスミッション14を高速度段に切り換える時に、エンジン2の制御に用いるエンジンパワーカーブをトランスミッション14の速度段の切替前のエンジンパワーカーブより低トルクのエンジンパワーカーブに変更する制御である。これにより、高速度段への切替を円滑に行うことができる。
【0065】
(c)
上記の実施形態では、第2速から第1速への切替時にエンジン出力増大制御が行われているが、他の速度段間の切替時に行われてもよい。ただし、エンジン出力の低下は低速度段への切替時に生じ易いため、上記のように、第2速から第1速への切替時にエンジン出力増大制御が行われることが望ましい。
【0066】
また、上記の実施形態では、ロックアップクラッチ20がオン状態である場合にエンジン出力増大制御が行われているが、ロックアップクラッチ20がオフ状態である場合に行われてもよい。ただし、エンジン出力の低下はロックアップクラッチ20がオン状態である場合に生じ易いため、上記のように、ロックアップクラッチ20がオン状態である場合にエンジン出力増大制御が行われることが望ましい。
【0067】
(d)
上記の実施形態では、エンジン出力増大制御の終了後に、エンジンパワーカーブがエンジン出力増大制御の実施前のエンジンパワーカーブに戻されているが、エンジン出力増大制御の終了後のエンジンパワーカーブがエンジン出力増大制御の実施前のエンジンパワーカーブと異なるものに変更されてもよい。例えば、エンジン出力増大制御により第5エンジンパワーカーブL5から第1エンジンパワーカーブL1に変更され、エンジン出力増大制御の終了後に第4エンジンパワーカーブL4に変更されてもよい。
【0068】
(e)
上記の実施形態では、作業車両1としてブルドーザが例示されているが、他の作業車両1にも本発明を適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、ロックアップクラッチが係合状態にある場合にトランスミッションの速度段の切替を円滑に行うことができる効果を有し、作業車両として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】作業車両の構成を示す概略図。
【図2】エンジンパワーカーブの例を示す図。
【図3】エンジンパワーカーブの変更を示す表。
【図4】エンジン回転数や各クラッチへの供給油圧の変化を表すタイミングチャート。
【符号の説明】
【0071】
1 作業車両
2 エンジン
3 第1動力伝達機構(動力伝達機構)
10 制御部
13 トルクコンバータ
14 トランスミッション
20 ロックアップクラッチ
28a,28b スプロケット(走行輪)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンからの駆動力によって駆動される走行輪と、
ロックアップクラッチを有するトルクコンバータと、複数の速度段に切替可能なトランスミッションとを有し、前記エンジンからの駆動力を前記走行輪に伝達する動力伝達機構と、
エンジン回転数とエンジン出力トルクとの関係を示すエンジンパワーカーブに基づいて前記エンジンを制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記ロックアップクラッチが係合状態である場合、前記トランスミッションの速度段の切替時に、前記エンジンの制御に用いるエンジンパワーカーブを変更する、
作業車両。
【請求項2】
前記制御部は、前記ロックアップクラッチが係合状態である場合に前記トランスミッションを低速度段に切り換える時には、前記エンジンの制御に用いるエンジンパワーカーブを前記トランスミッションの速度段の切替前のエンジンパワーカーブより高トルクのエンジンパワーカーブに変更するエンジン出力増大制御を行う、
請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記制御部は、実際のエンジン回転数が所定回転数以下になった場合に前記ロックアップクラッチを係合状態から非係合状態へ切り換える、
請求項2に記載の作業車両。
【請求項4】
前記制御部は、前記エンジン出力増大制御を行う際に前記ロックアップクラッチの係合力を低減させる、
請求項2または3に記載の作業車両。
【請求項5】
前記制御部は、前記ロックアップクラッチが係合状態である場合に前記トランスミッションを高速度段に切り換える時には、前記エンジンの制御に用いるエンジンパワーカーブを前記トランスミッションの速度段の切替前のエンジンパワーカーブより低トルクのエンジンパワーカーブに変更するエンジン出力低減制御を行う、
請求項1から4のいずれかに記載の作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−24522(P2009−24522A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−185998(P2007−185998)
【出願日】平成19年7月17日(2007.7.17)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】