説明

保護膜形成用フィルム、保護膜形成用シートおよび半導体チップの製造方法

【課題】 充分に硬化した保護膜を得ることができる保護膜形成用フィルムを提供すること。
【解決手段】 本発明に係る保護膜形成用フィルムは、紫外線重合性化合物(A)、連鎖移動剤(B)、およびバインダーポリマー成分(C)を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体チップ裏面に保護膜を形成する際に用いられる保護膜成形用フィルムに関する。特にいわゆるフェースダウン(face down)方式で実装される半導体チップの製造に用いられる保護膜形成用フィルムに関する。また、本発明は、上記保護膜形成用フィルムを用いた半導体チップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、いわゆるフェースダウン(face down)方式と呼ばれる実装方法を用いた半導体装置の製造が行われている。この実装法においては、回路面上にバンプなどの電極を有する半導体チップ(以下、単に「チップ」と記載することがある。)が用いられ、該電極が基板と接合される。このため、チップの回路面とは反対側の面(チップ裏面)は剥き出しになることがある。
【0003】
この剥き出しになったチップ裏面は、有機膜により保護されることがある。従来、この有機膜からなる保護膜は、液状の樹脂をスピンコート法によりチップ裏面に塗布し、乾燥し、硬化することにより形成されている。しかしながら、このようにして形成される保護膜の厚み精度は、充分ではないなどの問題がある。
【0004】
上記問題を解決すべく、剥離シートと、該剥離シートの剥離面上に形成された、熱またはエネルギー線硬化性成分とバインダーポリマー成分とからなる保護膜形成層を有するチップ用保護膜形成用シートが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
特許文献1には、上記チップ用保護膜形成用シートを用いることにより、厚み均一性の高い保護膜をチップ裏面に簡便に形成でき、しかも機械研削によってチップ裏面に微小な傷が形成されたとしても、かかる傷に起因する悪影響を解消できる、と記載されている。
【0006】
従来、チップ用の保護膜は、一般にエポキシ樹脂などの熱硬化樹脂により形成されていたが、熱硬化樹脂の硬化温度は130℃を超え、また硬化時間は2時間程度を要しているため、生産効率向上の障害となっていた。そのため、加工時間を短縮できる硬化メカニズムを備えた保護膜形成用シートが望まれていた。
【0007】
一方、特許文献2,3には、剥離シートと、剥離シートの剥離面上に形成された、エネルギー線硬化性成分とバインダーポリマー成分とを含む保護膜形成層を有するチップ用保護膜形成用シートが開示されている。このようなエネルギー線硬化性の保護膜形成用フィルムは、たとえば紫外線照射により短時間で硬化するため、簡便に保護膜を形成でき、生産効率の向上に寄与しうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−280329号公報
【特許文献2】特開2008−218930号公報
【特許文献3】特開2009−138026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
チップ用保護膜形成用シートでは、装飾性、印字性の観点から黒色に着色されたシートが使用されていることが多い。しかし、このような着色されたシートにおいて、保護膜形成層が強く着色されている場合や、保護膜形成層が厚い場合(例えば40μm以上)には、紫外線の透過性が低下するために、保護膜形成層の硬化が不十分となることがあり、その結果、保護膜としての機能に問題があった。
【0010】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであって、充分に硬化した保護膜を得ることができる保護膜形成用フィルムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題の解決を目的として鋭意研究した結果、保護膜形成用フィルムに連鎖移動剤を含有させることによって上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は、以下の要旨を含む。
〔1〕紫外線重合性化合物(A)、連鎖移動剤(B)、およびバインダーポリマー成分(C)を含有する保護膜形成用フィルム。
【0013】
〔2〕さらに着色剤(D)を含有する〔1〕に記載の保護膜形成用フィルム。
【0014】
〔3〕着色剤(D)が可視光および/または赤外線と、紫外線との両方の透過性を低下させる着色剤である〔2〕に記載の保護膜形成用フィルム。
【0015】
〔4〕波長365nmにおける最大透過率が0〜20%である〔1〕〜〔3〕に記載の保護膜形成用フィルム。
【0016】
〔5〕該保護膜形成用フィルムを構成する紫外線重合性化合物(A)100重量部あたり連鎖移動剤(B)を1〜15重量部含有する〔1〕〜〔4〕に記載の保護膜形成用フィルム。
【0017】
〔6〕表面に回路が形成された半導体ウエハの裏面またはチップの裏面に保護膜を形成するために用いる〔1〕〜〔5〕の何れかに記載の保護膜形成用フィルム。
【0018】
〔7〕剥離シートと、該剥離シートの剥離面上に形成された〔1〕〜〔6〕の何れかに記載の保護膜形成用フィルムとを有する、保護膜形成用シート。
【0019】
〔8〕表面に回路が形成された半導体ウエハの裏面に、〔1〕〜〔6〕の何れかに記載の保護膜形成用フィルムを貼付し、裏面に保護膜を有する半導体チップを得る半導体チップの製造方法。
【0020】
〔9〕表面に回路が形成された半導体ウエハの裏面に、〔7〕に記載の保護膜形成用シートの保護膜形成用フィルムを貼付し、以下の工程(1)〜(3)を任意の順で行う半導体チップの製造方法:
工程(1):保護膜形成用フィルムと剥離シートとを剥離、
工程(2):保護膜形成用フィルムを紫外線により硬化、
工程(3):半導体ウエハおよび保護膜形成用フィルムをダイシング。
【発明の効果】
【0021】
保護膜形成用フィルムに連鎖移動剤を含有させることによって、保護膜形成用フィルムの硬化性および形成される保護膜の耐熱信頼性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について、その最良の形態も含めてさらに具体的に説明する。本発明に係る保護膜形成用フィルムは、紫外線重合性化合物(A)、連鎖移動剤(B)およびバインダーポリマー成分(C)を含有する。該保護膜形成用フィルムは、通常は剥離シート上に剥離可能に形成され、積層品である保護膜形成用シートとして使用される。以下、本発明の保護膜形成用フィルムおよび、剥離シートと保護膜形成用フィルムとの積層品である保護膜形成用シート、ならびにこれらの使用方法について説明する。
【0023】
(保護膜形成用フィルム)
保護膜形成用フィルムは、紫外線重合性化合物(A)、連鎖移動剤(B)、およびバインダーポリマー成分(C)を含むフィルムである。
【0024】
(A)紫外線重合性化合物
紫外線重合性化合物(A)は、紫外線重合性基を含み、紫外線の照射を受けると重合硬化する。このような紫外線重合性化合物(A)は、紫外線重合性低分子化合物(A−1)と、後述する紫外線硬化型重合体(A−2)に大別される。
【0025】
(A−1)紫外線重合性低分子化合物
紫外線重合性低分子化合物(A−1)としては、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジぺンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートあるいは1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、オリゴエステルアクリレート、ウレタンアクリレート系オリゴマー、エポキシ変性アクリレート、ポリエーテルアクリレートおよびイタコン酸オリゴマーなどのアクリレート系化合物が挙げられる。このような化合物は、分子内に少なくとも1つの重合性二重結合を有し、通常は、重量平均分子量が100〜30000、好ましくは300〜10000程度である。紫外線重合性低分子化合物(A−1)の配合量は、特に限定はされないが、保護膜形成用フィルムを構成する全固形分100重量部に対して、1〜50重量部程度の割合で用いることが好ましく、5〜30重量部程度の割合で用いることがより好ましい。
【0026】
(A−2)紫外線硬化型重合体
紫外線重合性化合物(A)として、バインダーポリマーの主鎖または側鎖に、紫外線重合性基が結合されてなる紫外線硬化型重合体(A−2)を用いてもよい。このような紫外線硬化型重合体(A−2)は、後述するバインダーポリマー成分としての機能と、紫外線重合性化合物としての機能を兼ね備える。つまり、紫外線硬化型重合体(A−2)を用いる場合は、本発明の保護膜形成用フィルムは、紫外線硬化型重合体(A−2)および連鎖移動剤(B)を含有していれば、別途バインダーポリマー成分(C)を含有していなくてもよい。
【0027】
紫外線硬化型重合体(A−2)の主骨格は特に限定はされず、バインダーポリマー成分として汎用されているアクリル系重合体であってもよく、またエステル型、エーテル型の何れであっても良いが、合成および物性の制御が容易であることから、アクリル系重合体を主骨格とすることが特に好ましい。
【0028】
紫外線硬化型重合体(A−2)の主鎖または側鎖に結合する紫外線重合性基は、たとえば紫外線重合性の炭素−炭素二重結合を含む基であり、具体的には(メタ)アクリロイル基等を例示することができる。紫外線重合性基は、アルキレン基、アルキレンオキシ基、ポリアルキレンオキシ基を介して紫外線硬化型重合体(A−2)に結合していてもよい。
【0029】
紫外線重合性基が結合された紫外線硬化型重合体(A−2)の重量平均分子量(Mw)は、1万〜200万であることが好ましく、10万〜150万であることがより好ましい。また、紫外線硬化型重合体(A−2)のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは−60〜50℃、さらに好ましくは−50〜40℃、特に好ましくは−40〜30℃の範囲にある。
【0030】
紫外線硬化型重合体(A−2)は、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、置換アミノ基、エポキシ基等の官能基を含有するアクリル系重合体と、該官能基と反応する置換基と紫外線重合性炭素−炭素二重結合を1分子毎に1〜5個を有する重合性基含有化合物とを反応させて得られる。
【0031】
重合性基含有化合物としては、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、メタ−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネート、(メタ)アクリロイルイソシアネート、アリルイソシアネート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
【0032】
アクリル系重合体は、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、置換アミノ基、エポキシ基等の官能基を有する(メタ)アクリルモノマーまたはその誘導体と、これと共重合可能な他の(メタ)アクリル酸エステルモノマーまたはその誘導体とからなる共重合体であることが好ましい。
【0033】
ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、置換アミノ基、エポキシ基等の官能基を有する(メタ)アクリルモノマーまたはその誘導体としては、たとえば、ヒドロキシル基を有する2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;カルボキシル基を有するアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸;エポキシ基を有するグリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレートなどが挙げられる。
【0034】
上記モノマーと共重合可能な他の(メタ)アクリル酸エステルモノマーまたはその誘導体としては、例えば、アルキル基の炭素数が1〜18であるアルキル(メタ)アクリレート、具体的にはメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられ;環状骨格を有する(メタ)アクリレート、具体的にはシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イミド(メタ)アクリレートなどが挙げられる。また、上記アクリル系重合体には、酢酸ビニル、アクリロニトリル、スチレンなどが共重合されていてもよい。
【0035】
紫外線硬化型重合体(A−2)を使用する場合であっても、前記した紫外線重合性低分子化合物(A−1)を併用してもよく、また後述するバインダーポリマー成分(C)を併用してもよい。
【0036】
紫外線硬化型重合体(A−2)は、バインダーポリマー成分(C)との合計量が、保護膜形成用フィルムを構成する固形分の合計100重量部に対して、通常3〜95重量部であり、5〜90重量部であることが好ましく、より好ましくは10〜70重量部の割合である。このような範囲が好ましい理由は、後記するバインダーポリマー成分(C)の項で述べる。
【0037】
保護膜形成用フィルムに紫外線硬化性を付与することで、保護膜形成用フィルムを簡便かつ短時間で硬化でき、保護膜付チップの生産効率が向上する。
【0038】
(B)連鎖移動剤
保護膜形成フィルムに連鎖移動剤(B)を含有させることで、紫外線重合性化合物(A)における活性末端の寿命を延ばすことができるため、保護膜形成用フィルムが十分な硬化性を得ることができる。
【0039】
このような連鎖移動剤(B)として具体的には、3−メルカプトプロピオン酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプト酪酸、N−(2−メルカプトプロピオニル)グリシン、2−メルカプトニコチン酸、3−[N−(2−メルカプトエチル)カルバモイル]プロピオン酸、3−[N−(2メルカプトエチル)アミノ]プロピオン酸、N−(3−メルカプトプロピオニル)アラニン、2−メルカプトエタンスルホン酸、3−メルカプトプロパンスルホン酸、4−メルカプトブランスルホン酸、ドデシル(4−メチルチオ)フェニルエーテル、2−メルカプトエタノール、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール、1−メルカプト−2−プロパノール、3−メルカプト−2−ブタノール、メルカプトフェノール、2−メルカプトエチルアミン、2−メルカプトイミダゾール、2−メルカプト−3−ピリジノール、2−メルカプトベンゾチアゾール、メルカプト酢酸、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、チオサリチル酸、1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)などのメルカプト化合物、またメルカプト化合物を酸化して得られるジスルフィド化合物、ヨード酢酸、ヨードプロピオン酸、2−ヨードエタノール、2−ヨードエタンスルホン酸、3−ヨードプロパンスルホン酸などのヨード化アルキル化合物が挙げられる。これらのなかでも、下記一般式(I)で表される1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン、下記一般式(II)で表されるペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)が好ましい。
【0040】
【化1】

【化2】

【0041】
連鎖移動剤(B)の配合量は、保護膜形成用フィルムを構成する紫外線重合性化合物(A)100重量部あたり、好ましくは1〜15重量部、より好ましくは3〜10重量部である。連鎖移動剤(B)の配合量が1重量部より少ない場合は、保護膜形成用フィルムの硬化が不十分になることがある。また、連鎖移動剤(B)の配合量が15重量部を超えると、高温条件下において連鎖移動剤が揮発し、アウトガスが発生することに起因して、保護膜形成用フィルムがチップから剥離することがある。
【0042】
(C)バインダーポリマー成分
本発明の保護膜形成用フィルムは、十分な接着性および造膜性(シート加工性)を付与するためにバインダーポリマー成分(C)を含有する。ただし、紫外線重合性化合物(A)として、紫外線硬化型重合体(A−2)を用いる場合には、バインダーポリマー成分(C)をも兼ねるので、別途バインダーポリマー(C)を配合しなくてもよい。バインダーポリマー成分(C)としては、従来公知のアクリルポリマー、ポリエステルポリマー、ウレタンポリマー、アクリルウレタンポリマー、シリコーンポリマー、ゴム系ポリマー等を用いることができる。
【0043】
バインダーポリマー成分(C)の重量平均分子量(Mw)は、1万〜200万であることが好ましく、10万〜150万であることがより好ましい。バインダーポリマー成分(C)の重量平均分子量が低過ぎると保護膜形成用フィルムと剥離シートとの剥離力が高くなり、保護膜形成用フィルムの転写不良が起こることがあり、高過ぎると保護膜形成用フィルムの接着性が低下し、ウエハ、チップ等に転写できなくなったり、あるいは転写後にチップ等から保護膜が剥離したりすることがある。
【0044】
バインダーポリマー成分(C)として、アクリルポリマーが好ましく用いられる。アクリルポリマーのガラス転移温度(Tg)は、好ましくは−60〜50℃、さらに好ましくは−50〜40℃、特に好ましくは−40〜30℃の範囲にある。アクリルポリマーのガラス転移温度が低過ぎると保護膜形成用フィルムと剥離シートとの剥離力が大きくなって保護膜形成用フィルムの転写不良が起こることがあり、高過ぎると保護膜形成用フィルムの接着性が低下し、ウエハ、チップ等に転写できなくなったり、あるいは転写後にチップ等から保護膜が剥離することがある。
【0045】
上記アクリルポリマーを構成するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステルモノマーまたはその誘導体が挙げられる。例えば、アルキル基の炭素数が1〜18であるアルキル(メタ)アクリレート、具体的にはメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられ;環状骨格を有する(メタ)アクリレート、具体的にはシクロアルキル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イミド(メタ)アクリレートなどが挙げられ;水酸基を有するヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられ;その他、エポキシ基を有するグリシジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの中では、水酸基を有しているモノマーを重合して得られるアクリルポリマーが、他の成分との相溶性が良いため好ましい。また、上記アクリルポリマーは、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、酢酸ビニル、アクリロニトリル、スチレンなどが共重合されていてもよい。
【0046】
バインダーポリマー成分(C)は、紫外線硬化型重合体(A−2)との合計量で、保護膜形成用フィルムを構成する固形分の合計100重量部に対して、通常3〜95重量部、好ましくは5〜90重量部、より好ましくは10〜70重量部の割合で含まれる。紫外線硬化型重合体(A−2)とバインダーポリマー成分(C)の含有量の合計が3重量部未満だと上記の効果が得られない可能性がある。バインダーポリマー成分(C)と紫外線硬化型重合体(A−2)の合計量が多くても、化学的作用に起因する問題は特にないが、95重量部を超えると他の成分を添加する余地が狭まり、設計の自由度が制限されることがある。
【0047】
さらに、バインダーポリマー成分(C)として、硬化後の保護膜の可とう性を保持するための熱可塑性樹脂を配合してもよい。そのような熱可塑性樹脂としては、重量平均分子量が1000〜10万のものが好ましく、3000〜1万のものがさらに好ましい。熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、好ましくは−30〜150℃、さらに好ましくは−20〜120℃のものが好ましい。熱可塑性樹脂としては、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリスチレンなどの1種類単独、または2種以上の混合物が挙げられる。また、これらの樹脂の単量体成分の2種以上が共重合されたものを用いてもよい。上記範囲の熱可塑性樹脂を含有することにより、保護膜形成層の転写面に保護膜形成層が追従しボイドなどの発生を抑えることができる。
【0048】
(その他の成分)
保護膜形成用フィルムは、上記紫外線重合性化合物(A)、連鎖移動剤(B)およびバインダーポリマー成分(C)に加えて下記成分を含むことができる。
【0049】
(D)着色剤
保護膜形成用フィルムは、着色剤(D)を含有することが好ましい。保護膜形成用フィルムに着色剤を配合することで、半導体装置を機器に組み込んだ際に、周囲の装置から発生する赤外線等を遮蔽し、それらによる半導体装置の誤作動を防止することができ、また保護膜形成用フィルムを硬化して得た保護膜に、製品番号等を印字した際の文字の視認性が向上する。すなわち、保護膜を形成された半導体装置や半導体チップでは、保護膜の表面に品番等が通常レーザーマーキング法(レーザー光により保護膜表面を削り取り印字を行う方法)により印字されるが、保護膜が着色剤(D)を含有することで、保護膜のレーザー光により削り取られた部分とそうでない部分のコントラスト差が充分に得られ、視認性が向上する。着色剤(D)としては、有機または無機の顔料および染料が用いられる。これらの中でも電磁波や赤外線遮蔽性の点から黒色顔料が好ましい。黒色顔料としては、カーボンブラック、酸化鉄、二酸化マンガン、アニリンブラック、活性炭等が用いられるが、これらに限定されることはない。半導体装置の信頼性を高める観点からは、カーボンブラックが特に好ましい。着色剤(D)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明の保護膜形成用フィルムの高い硬化性は、可視光および/または赤外線と、紫外線との両方の透過性を低下させる着色剤を用い、紫外線の透過性が低下した場合に、特に好ましく発揮される。可視光および/または赤外線と、紫外線との両方の透過性を低下させる着色剤としては、上記の黒色顔料のほか、可視光および/または赤外線と、紫外線との両方の波長領域で吸収性または反射性を有するものであれば特に限定されない。
【0050】
着色剤(D)の配合量は、保護膜形成用フィルムを構成する全固形分100重量部に対して、好ましくは0.1〜35重量部、さらに好ましくは0.5〜25重量部、特に好ましくは1〜15重量部である。
【0051】
(E)光重合開始剤
保護膜形成用フィルムは、前述した紫外線重合性化合物(A)を含有する。保護膜形成用フィルムの使用に際して、紫外線を照射して、紫外線重合性化合物を重合し、保護膜形成用フィルムを硬化させる。この際、保護膜形成用フィルム中に光重合開始剤(E)を含有させることで、重合硬化時間ならびに光線照射量を少なくすることができる。
【0052】
このような光重合開始剤(E)として具体的には、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン安息香酸、ベンゾイン安息香酸メチル、ベンゾインジメチルケタール、2,4−ジエチルチオキサンソン、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンジル、ジベンジル、ジアセチル、1,2−ジフェニルメタン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドおよびβ−クロールアンスラキノンなどが挙げられる。光重合開始剤(E)は1種類単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0053】
光重合開始剤(E)の配合割合は、紫外線重合性化合物(A)100重量部に対して0.1〜10重量部含まれることが好ましく、1〜5重量部含まれることがより好ましい。0.1重量部未満であると光重合の不足で十分な硬度の保護膜が得られないことがあり、10重量部を超えると光重合に寄与しない残留物が生成し、保護膜形成用フィルムの硬化性が不十分となることがある。
【0054】
(F)カップリング剤
カップリング剤(F)は、保護膜形成用フィルムのチップに対する接着性、密着性を向上させるために用いてもよい。また、カップリング剤(F)を使用することで、保護膜形成用フィルムを硬化して得られる保護膜の耐熱性を損なうことなく、その耐水性を向上することができる。
【0055】
カップリング剤(F)としては、紫外線重合性化合物(A)やバインダーポリマー成分(C)などが有する官能基と反応する基を有する化合物が好ましく、シランカップリング剤が特に好ましい。
【0056】
このようなカップリング剤としてはγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−6−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−6−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(メトキシエトキシ)シラン、イミダゾールシランなどが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上混合して使用することができる。これらの中でも、ビニル基または(メタ)アクリロイル基を有するカップリング剤が好ましく用いられる。ビニル基または(メタ)アクリロイル基を有するカップリング剤を用いることで、紫外線重合性化合物(A)の硬化物を含む保護膜のチップに対する接着性、密着性が向上する。
【0057】
カップリング剤(F)は、保護膜形成用フィルムを構成する固形分の合計100重量部に対して、通常0.1〜20重量部、好ましくは0.2〜10重量部、より好ましくは0.3〜5重量部の割合で含まれる。カップリング剤(F)の含有量が0.1重量部未満だと上記の効果が得られない可能性があり、20重量部を超えるとアウトガスの原因となる可能性がある。
【0058】
(G)無機充填材
無機充填材(G)を保護膜形成用フィルムに配合することにより、硬化後の保護膜における熱膨張係数を調整することが可能となり、半導体チップに対して硬化後の保護膜の熱膨張係数を最適化することで半導体装置の信頼性を向上させることができる。また、硬化後の保護膜の吸湿率を低減させることも可能となる。
【0059】
好ましい無機充填材としては、シリカ、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、チタンホワイト、ベンガラ、炭化珪素、窒化ホウ素等の粉末、これらを球形化したビーズ、単結晶繊維およびガラス繊維等が挙げられる。これらのなかでも、紫外線を吸収しにくい無機充填剤が好ましく、シリカフィラーおよびアルミナフィラーが特に好ましい。上記無機充填材(G)は単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。無機充填材(G)の含有量は、保護膜形成用フィルムを構成する全固形分100重量部に対して、通常1〜80重量部の範囲で調整が可能である。
【0060】
(H)架橋剤
架橋性官能基を有する紫外線硬化型重合体(A−2)および/またはバインダーポリマー成分(C)を用いた場合には、保護膜形成用フィルムの初期接着力および凝集力を調節するために、架橋剤を添加することもできる。架橋剤(H)としては有機多価イソシアネート化合物、有機多価イミン化合物などが挙げられる。
【0061】
上記有機多価イソシアネート化合物としては、芳香族多価イソシアネート化合物、脂肪族多価イソシアネート化合物、脂環族多価イソシアネート化合物およびこれらの有機多価イソシアネート化合物の三量体、ならびにこれら有機多価イソシアネート化合物とポリオール化合物とを反応させて得られる末端イソシアネートウレタンプレポリマー等を挙げることができる。
【0062】
有機多価イソシアネート化合物としては、たとえば2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、3−メチルジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−2,4’−ジイソシアネート、トリメチロールプロパンアダクトトリレンジイソシアネートおよびリジンイソシアネートが挙げられる。
【0063】
上記有機多価イミン化合物としては、N,N’−ジフェニルメタン−4,4’−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)、トリメチロールプロパン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート、テトラメチロールメタン−トリ−β−アジリジニルプロピオネートおよびN,N’−トルエン−2,4−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)トリエチレンメラミン等を挙げることができる。
【0064】
架橋剤(H)はバインダーポリマー成分(C)100重量部に対して通常0.01〜20重量部、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.5〜5重量部の比率で用いられる。
【0065】
(I)汎用添加剤
保護膜形成用フィルムには、上記の他に、必要に応じて各種添加剤が配合されてもよい。各種添加剤としては、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤などが挙げられる。
【0066】
さらに、保護膜形成用フィルムには、熱硬化性を付与するために、熱硬化性成分、熱硬化剤、硬化促進剤等が配合されていてもよい。保護膜形成用フィルムが熱硬化性を有する場合には、チップを接着するためのリフロー時に保護膜形成用フィルム中の熱硬化性成分が硬化するため、保護膜の耐熱性をさらに向上することができる。
【0067】
(保護膜形成用フィルムおよびシート)
上記のような各成分からなる保護膜形成用フィルムは、接着性と紫外線硬化性とを有し、未硬化状態では半導体ウエハ、チップ等に押圧することで容易に接着する。そして紫外線硬化を経て最終的には耐衝撃性の高い保護膜を与えることができ、接着強度にも優れ、厳しい高温度高湿度条件下においても十分な保護機能を保持し得る。
【0068】
保護膜形成用フィルムの紫外線の透過性を示す尺度である、波長365nmにおける最大透過率は0〜20%であることが好ましく、0〜15%であることがより好ましく、0%を超え、10%以下であることがさらに好ましく、0.001〜8%であることが特に好ましい。本発明の保護膜形成用フィルムは、連鎖移動剤(B)を含有するので、実質的に紫外線を透過しなくても硬化される。その理由は、保護膜形成用フィルムの表層の紫外線重合性化合物(A)にラジカルが発生した後、連鎖移動剤(B)が媒介してラジカルを内部に伝達していくことによる。これにより、保護膜形成用フィルムの内部に存在する紫外線重合性化合物(A)も重合し、硬化が行われる。保護膜形成用フィルムの着色は、好ましくは可視光および/または赤外線と、紫外線との両方の透過性を低下させる着色剤を用いて行われる。この場合、波長365nmにおける最大透過率の低下と、可視光波長領域および/または赤外波長領域の透過性の低下とのいずれもが生じ、上述した着色剤による半導体装置の赤外線起因の誤作動の防止や、印字の視認性向上といった効果が得られる。波長365nmにおける透過率が高すぎると、それはすなわち可視光および/または赤外線の透過性も低下させられていないことを意味し、上述した着色剤による半導体装置の赤外線起因の誤作動の防止や、印字の視認性向上といった効果が得られないことがある。
【0069】
なお、保護膜形成用フィルムは単層構造であってもよく、また上記成分を含む層を1層以上含む限りにおいて多層構造であってもよい。
【0070】
保護膜形成用フィルムは、上記各成分を適宜の割合で、適当な溶媒中で混合してなる保護膜形成用フィルム用組成物を、適当な工程フィルム上に塗布乾燥して得られる。しかしながら、本発明の保護膜形成用フィルムは、通常は剥離シートに剥離可能に積層された保護膜形成用シートとして用いられる。したがって、工程フィルムは、剥離シートであることが好ましい。また、剥離シート上に保護膜形成用フィルム用組成物を塗布、乾燥して成膜し、これを別の剥離シートと貼り合わせて、2枚の剥離シートに挟持された状態としてもよい。
【0071】
本発明に係る保護膜形成用シートは、上記保護膜形成用フィルムを剥離シート上に剥離可能に形成してなる。本発明に係る保護膜形成用フィルムおよびシートの形状は、テープ状、ラベル状などあらゆる形状をとり得る。
【0072】
剥離シートとしては、たとえば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニル共重合体フィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルムなどの透明フィルムが用いられる。またこれらの架橋フィルムも用いられる。さらにこれらの積層フィルムであってもよい。また、これらを着色したフィルム、不透明フィルムなどを用いることができる。
【0073】
本発明の保護膜形成用シートにおいては、その使用に際して剥離シートを剥離し、保護膜形成用フィルムを半導体ウエハまたはチップに転写する。特に保護膜形成用フィルムの紫外線硬化後に剥離シートを剥離する場合には、剥離シートは紫外線透過性を有する必要がある。したがって、紫外線を使用する場合には、剥離シートとしては紫外線透過性のシートを用いる。保護膜形成用シートの剥離シートとしては、たとえばポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリメチルペンテンフィルムが好ましく用いられる。保護膜形成用フィルムと剥離シートとの間での剥離を容易にするため、剥離シートの表面張力は、好ましくは40mN/m以下、さらに好ましくは37mN/m以下、特に好ましくは35mN/m以下である。下限値は通常25mN/m程度である。このような表面張力が低い基材は、材質を適宜に選択して得ることが可能であるし、また基材の表面に剥離剤を塗布して剥離処理を施すことで得ることもできる。
【0074】
剥離処理に用いられる剥離剤としては、アルキッド系、シリコーン系、フッ素系、不飽和ポリエステル系、ポリオレフィン系、ワックス系などが用いられるが、特にアルキッド系、シリコーン系、フッ素系の剥離剤が耐熱性を有するので好ましい。
【0075】
上記の剥離剤を用いてシートの表面を剥離処理するためには、剥離剤をそのまま無溶剤で、または溶剤希釈やエマルション化して、グラビアコーター、メイヤーバーコーター、エアナイフコーター、ロールコーターなどにより塗布して、常温もしくは加熱またはエネルギー線硬化させたり、ウェットラミネーションやドライラミネーション、熱溶融ラミネーション、溶融押出ラミネーション、共押出加工などで剥離剤層を形成したりして積層体を形成すればよい。
【0076】
また、剥離シートとしては、基材の表面に保護膜形成用フィルムが剥離できる程度に弱い粘着力を有する粘着剤を塗布した粘着シートを用いてもよいし、基材の表面に、保護膜形成用フィルムの硬化のトリガーとなる紫外線とは別の紫外線を照射することにより、保護膜形成用フィルムが剥離できる程度に粘着力が低下する粘着剤を塗布した粘着シートを用いてもよい。ただし、粘着シートを剥離シートとして用いる場合、熱が加わる工程があったり、長期に保護膜形成用フィルムと剥離シートとが密着したりしていると、保護膜形成用フィルムと剥離シートとが固着して剥離できなくなるおそれがあるので、粘着シート以外の剥離シートを使用することが好ましい。
【0077】
剥離シートの厚さは、通常は10〜500μm、好ましくは15〜300μm、特に好ましくは20〜250μm程度である。また、保護膜形成用フィルムの厚みは、通常は1〜500μm、好ましくは5〜300μm、特に好ましくは10〜150μm程度である。
【0078】
なお、保護膜形成用フィルムの使用前に、保護膜形成用フィルムを保護するために、保護膜形成用フィルムの上面に、前記剥離シートとは別に、軽剥離性の剥離フィルムを積層しておいてもよい。
【0079】
(半導体チップの製造方法)
本発明に係る半導体チップの製造方法は、表面に回路が形成された半導体ウエハの裏面に、保護膜形成用フィルムを貼付し、裏面に保護膜を有する半導体チップを得ることを特徴とする。保護膜形成用フィルムの貼付方法は、特に限定はされないが、剥離シート上に保護膜形成用フィルムを積層した保護膜形成用シートを用いた半導体チップの製造方法を例にとってさらに詳細に説明する。
【0080】
本発明に係る半導体チップの製造方法は、表面に回路が形成された半導体ウエハの裏面に、上記保護膜形成用シートの保護膜形成用フィルムを貼付し、裏面に保護膜を有する半導体チップを得ることを特徴とする。該保護膜は、半導体チップの保護膜であることが好ましい。また、本発明に係る半導体チップの製造方法は、好ましくは、以下の工程(1)〜(3)をさらに含み、工程(1)〜(3)を任意の順で行うことを特徴としている。
工程(1):保護膜形成用フィルムと剥離シートとを剥離、
工程(2):保護膜形成用フィルムを紫外線により硬化、
工程(3):半導体ウエハおよび保護膜形成用フィルムをダイシング。
【0081】
半導体ウエハはシリコンウエハであってもよく、またガリウム・砒素などの化合物半導体ウエハであってもよい。ウエハ表面への回路の形成はエッチング法、リフトオフ法などの従来より汎用されている方法を含む様々な方法により行うことができる。次いで、半導体ウエハの回路面の反対面(裏面)を研削する。研削法は特に限定はされず、グラインダーなどを用いた公知の手段で研削してもよい。裏面研削時には、表面の回路を保護するために回路面に、表面保護シートと呼ばれる粘着シートを貼付する。裏面研削は、ウエハの回路面側(すなわち表面保護シート側)をチャックテーブル等により固定し、回路が形成されていない裏面側をグラインダーにより研削する。ウエハの研削後の厚みは特に限定はされないが、通常は50〜500μm程度である。その後、必要に応じ、裏面研削時に生じた破砕層を除去する。破砕層の除去は、ケミカルエッチングや、プラズマエッチングなどにより行われる。
【0082】
次いで、半導体ウエハの裏面に、上記保護膜形成用シートの保護膜形成用フィルムを貼付する。その後、工程(1)〜(3)を任意の順で行う。このプロセスの詳細については、特開2002−280329号公報に詳述されている。一例として、工程(1)、(2)、(3)の順で行う場合について説明する。
【0083】
まず、表面に回路が形成された半導体ウエハの裏面に、上記保護膜形成用シートの剥離シート上に形成された保護膜形成用フィルムを貼付する。次いで保護膜形成用フィルムから剥離シートを剥離し、半導体ウエハと保護膜形成用フィルムとの積層体を得る。次いで保護膜形成用フィルムを硬化し、ウエハの全面に保護膜を形成する。保護膜形成用フィルムには、紫外線硬化性化合物(A)が含まれているため、紫外線照射により保護膜形成用フィルムを硬化する。この結果、ウエハ裏面に硬化樹脂からなる保護膜が形成され、ウエハ単独の場合と比べて強度が向上するので、取扱い時の薄くなったウエハの破損を低減でき、さらに保護膜に含まれる連鎖移動剤(B)により十分な硬化性が得られる。また、ウエハやチップの裏面に直接保護膜用の塗布液を塗布・被膜化するコーティング法と比較して、保護膜の厚さの均一性に優れる。
【0084】
次いで、半導体ウエハと保護膜との積層体を、ウエハ表面に形成された回路毎にダイシングする。ダイシングは、ウエハと保護膜をともに切断するように行われる。ウエハのダイシングは、ダイシングシートを用いた常法により行われる。この結果、裏面に保護膜を有する半導体チップが得られる。
【0085】
最後に、ダイシングされたチップをコレット等の汎用手段によりピックアップすることで、裏面に保護膜を有する半導体チップが得られる。このような本発明によれば、均一性の高い保護膜を、チップ裏面に簡便に形成でき、ダイシング工程やパッケージングの後のクラックが発生しにくくなる。そして、半導体チップをフェースダウン方式で所定の基台上に実装することで半導体装置を製造することができる。また、裏面に保護膜を有する半導体チップを、ダイパッド部または別の半導体チップなどの他の部材上(チップ搭載部上)に接着することで、半導体装置を製造することもできる。
【0086】
なお、紫外線硬化性化合物(A)は、該化合物の種類にもよるが、酸素が存在する環境下では、重合不全を引き起こす場合がある。この場合には、保護膜形成用フィルムが直接酸素に曝されない環境下で保護膜形成用フィルムの紫外線硬化を行うことが好ましく、特に工程(2)、(1)、(3)の順で行うことが好ましい。この順序で工程(1)〜(3)を実施すると、保護膜形成用フィルムの紫外線による硬化時には、保護膜形成用フィルムは、剥離シートにより覆われているため、酸素による重合不全は起こらない。また、保護膜形成用フィルムに連鎖移動剤(B)が含まれるために、重合がさらに効率的に進行する。
【実施例】
【0087】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において、<耐熱信頼性評価>、<硬化性評価>、<波長365nmにおける最大透過率測定>および<印字性評価>は次のように行った。
【0088】
<耐熱信頼性評価>
(1)保護膜付半導体チップの製造
#2000研磨したシリコンウエハ(200mm径, 厚さ280μm)の研磨面に、実施例および比較例の保護膜形成用シートをテープマウンター(リンテック社製 RAD-3600 F/12)により70℃に加熱しながら貼付した。次いで、紫外線照射装置(リンテック社製 RAD-2000m/12)を用いて紫外線(照射条件:照度230mW/cm2、光量800mJ/cm2)により保護膜形成用フィルムの硬化を行い、その後、保護膜形成用フィルムと剥離シートとを剥離した。シリコンウエハの保護膜側をダイシングテープ(リンテック社製 Adwill D-676)に貼付し、ダイシング装置(株式会社ディスコ製 DFD651)を使用して3mm×3mmサイズにダイシングすることで耐湿熱信頼性評価用の保護膜付半導体チップを得た。
(2)評価
この保護膜付半導体チップ25個を冷熱衝撃装置(ESPEC(株)製 TSE-11A)内に設置し、(i)−40℃(保持時間:10分)→(ii)125℃(保持時間:10分)を1サイクル((i)→(ii))として、1000回繰り返した。
その後、冷熱衝撃装置から取り出した保護膜付半導体チップについて、チップと保護膜との接合部での浮き・剥がれ、クラックの有無を、走査型超音波探傷装置(日立建機ファインテック(株)製 Hye-Focus)および断面観察により評価した。チップと保護膜との接合部に、0.5mm以上の幅の剥離が観察された場合を剥離している(接合部の浮き・剥がれ、クラックあり)と判断して、剥離しているチップの個数(不良品数)を数えた。結果を表2に示す(不良品数/試験数)。
【0089】
<硬化性評価>
FT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計)(Spectrum One、パーキン・エルマー社製)を用いて、保護膜形成用フィルムの紫外線硬化前後におけるエチレン基に由来する810cm−1の吸光度ピーク高さを測定し、反応率を次式(1)から算出した。反応率が高い程、保護膜形成用フィルムの硬化性が良好であることを示す。
反応率(%)={(硬化前吸光度ピーク高さ)−(硬化後吸光度ピーク高さ)}×100/
{(硬化前吸光度ピーク高さ)−(完全硬化後理論吸光度高さ)} ・・・(1)
【0090】
<波長365nmにおける最大透過率測定>
実施例または比較例で得られた保護膜形成用シートに紫外線を照射し、保護膜形成用フィルムを硬化した。その後、保護膜形成用シートから剥離シートを剥離し、UV−visスペクトル検査装置(UV−3101PC、(株)島津製作所製)を用いて、厚み25μm(ただし、実施例10については厚み40μm)の保護膜形成用フィルムの365nmにおける全光線透過率を測定し、透過率の最も高い値を最大透過率とした。
【0091】
<印字性評価>
実施例または比較例で得られた個片化された保護膜付半導体チップを用いた。YAGレーザーマーカー(日立建機ファインテック(株)製 LM5000、レーザー波長:532nm)を用いて、縦400μm、横200μmの文字を前記保護膜付半導体チップの保護膜表面に印字し、CCDカメラを用いて、印字された文字が読み取れるか否かを確認した。
○:読み取れる。
×:読み取れない。
【0092】
<保護膜形成用フィルム用組成物>
保護膜形成用フィルムを構成する各成分を下記に示す。
(A)紫外線重合性化合物:多官能アクリレートオリゴマー(日本化薬社製:KAYARAD R−684)
(B)連鎖移動剤:
(B1)1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン(昭和電工(株)製:カレンズMT BD1、下記一般式(I))
【化3】

(B2)ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)(昭和電工(株)製:カレンズMT PE1、下記一般式(II))
【化4】

(C)バインダーポリマー成分:n−ブチルアクリレート55重量部、メチルアクリレート15重量部、グリシジルメタクリレート20重量部、及び2−ヒドロキシエチルアクリレート15重量部からなるアクリルポリマー(重量平均分子量:90万、ガラス転移温度:−28℃)
(D)着色剤:黒色顔料(カーボンブラック、三菱化学社製、#MA650、平均粒径28nm)
(E)光重合開始剤:α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、商品名「イルガキュア184」)(重量平均分子量:204)
(F)カップリング剤:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製、KBM−403)
(G)無機充填材:シリカフィラー(熔融石英フィラー、平均粒径3μm)
【0093】
(実施例および比較例)
上記各成分を表1に記載の量で配合し、保護膜形成用フィルム用組成物を得た。得られた組成物のメチルエチルケトン溶液(固形濃度61質量%)を、シリコーンで剥離処理された剥離シート(リンテック社製、SP−PET3811、厚さ38μm、表面張力33mN/m、融点200℃以上)の剥離処理面上に乾燥後25μmの厚みになるように塗布、乾燥(乾燥条件:オーブンにて120℃、2分間)して、剥離シート上に保護膜形成用フィルムを形成し、保護膜形成用シートを得た。ただし、実施例10のみ40μmの厚みになるように塗布した。
【0094】
【表1】

【0095】
得られた保護膜形成用フィルムを用いて<耐熱信頼性評価>、<硬化性評価>、<波長365nmにおける最大透過率測定>および<印字性評価>を行った。結果を表2に示す。
【0096】
【表2】

【0097】
保護膜形成用フィルムを構成する紫外線重合性化合物(A)100重量部あたり連鎖移動剤(B)を3〜10重量部含有する保護膜形成用フィルム(実施例1〜4,10)が、耐熱信頼性評価、硬化性評価および印字性評価において、最も良好な結果を得た。また、保護膜形成用フィルムを構成する紫外線重合性化合物(A)100重量部あたり連鎖移動剤(B)を3重量部未満もしくは10重量部より多く含有する保護膜形成用フィルム(実施例5〜8)は、連鎖移動剤を含有しない保護膜形成用フィルム(比較例1)よりも、耐熱信頼性評価、硬化性評価および印字性評価において、良好な結果を得た。さらにまた、着色剤(C)を添加していない保護膜形成用フィルム(実施例9)は、耐熱信頼性評価および硬化性評価は良好であったが、印字性評価に劣っていた。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線重合性化合物(A)、連鎖移動剤(B)、およびバインダーポリマー成分(C)を含有する保護膜形成用フィルム。
【請求項2】
さらに着色剤(D)を含有する請求項1に記載の保護膜形成用フィルム。
【請求項3】
着色剤(D)が可視光および/または赤外線と、紫外線との両方の透過性を低下させる着色剤である請求項2に記載の保護膜形成用フィルム。
【請求項4】
波長365nmにおける最大透過率が0〜20%である請求項1〜3に記載の保護膜形成用フィルム。
【請求項5】
該保護膜形成用フィルムを構成する紫外線重合性化合物(A)100重量部あたり連鎖移動剤(B)を1〜15重量部含有する請求項1〜4に記載の保護膜形成用フィルム。
【請求項6】
表面に回路が形成された半導体ウエハの裏面またはチップの裏面に保護膜を形成するために用いる請求項1〜5の何れかに記載の保護膜形成用フィルム。
【請求項7】
剥離シートと、該剥離シートの剥離面上に形成された請求項1〜6の何れかに記載の保護膜形成用フィルムとを有する、保護膜形成用シート。
【請求項8】
表面に回路が形成された半導体ウエハの裏面に、請求項1〜6の何れかに記載の保護膜形成用フィルムを貼付し、裏面に保護膜を有する半導体チップを得る半導体チップの製造方法。
【請求項9】
表面に回路が形成された半導体ウエハの裏面に、請求項7に記載の保護膜形成用シートの保護膜形成用フィルムを貼付し、以下の工程(1)〜(3)を任意の順で行う半導体チップの製造方法:
工程(1):保護膜形成用フィルムと剥離シートとを剥離、
工程(2):保護膜形成用フィルムを紫外線により硬化、
工程(3):半導体ウエハおよび保護膜形成用フィルムをダイシング。


【公開番号】特開2012−207179(P2012−207179A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75569(P2011−75569)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】