説明

信号受信装置、信号受信装置の制御方法及びコンピュータプログラム

【課題】1つの位相比較器及びループフィルタを複数の同期保持チャネルで共有することで、同期保持チャネルの増加に伴う回路規模の増大を抑えることが可能な信号受信装置を提供すること。
【解決手段】所定の周波数のキャリアを生成する信号生成器を含む位相同期ループ部と、衛星から受信した信号のキャリアと信号生成器が生成したキャリアとの位相差を検出して出力する1以上の位相比較器と、位相比較器が出力する位相差情報からノイズを除去して所望のループの応答を実現する1以上のループフィルタと、を備え、同時に追跡可能な最大衛星数N(Nは2以上)に対して、位相比較器及びループフィルタの数MはN>Mである、信号受信装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号受信装置、信号受信装置の制御方法及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
地球上を周回する衛星から発せられる信号を受信して、現在地を測位することが出来る衛星測位システム(Global Navigation Satellite System;GNSS)が広く用いられている。特に、GNSSの中でも全地球測位システム(Global Positioning System;GPS)の存在は広く知られている。
【0003】
GPSは、地球上を周回するGPS衛星の中から、複数個(一般的には4個以上)の衛星からの信号を受信し、受信信号から、受信機の位置を計算(測位計算)して、ユーザに対して位置を知らせることが、その基本機能である。すなわち、GPS受信機は、各衛星からの信号を受信して復調することで衛星の軌道情報を獲得し、衛星の軌道及び時間情報と受信信号の遅延時間からGPS受信機の三次元の位置を連立方程式より導出することが出来る。4個以上のGPS衛星からの信号を受信することで、GPS受信機の内部の時間と、衛星の時間との誤差の影響を除去することが出来る。
【0004】
ユーザに対して連続して(例えば1秒おきに)GPS受信機の現在位置を知らせるためには、GPS衛星からの信号を追跡(トラッキング)し続けると都合が良い。一般的に、GPS受信機が測位計算のために使用する信号は、L1帯、C/Aコードと呼ばれ、50bps(bit per second)のデータを符号長1023、チップレート1.023MHzの擬似ランダム符号(Pseudo Random Noise;PRN符号)で直接拡散した信号により1575.42MHzのキャリアをBPSK(Binary Phase Shift Keying)変調した信号(GPS信号)である。従って、GPS受信機がGPS衛星からの信号を受信するためには、PRN符号、キャリア及びデータの同期を取る必要がある。一般的なGPS受信機においては、GPS信号のキャリアの同期にはPLL(Phase−Locked Loop;位相同期ループ)が用いられている。そして、PLLは受信する信号の数だけ必要になる、
【0005】
上述したように、一般的なGPS受信機においてGPS衛星からの信号を用いて測位計算を行うには、4個以上のGPS衛星からの信号を受信することが望ましい。従って、少なくとも4個の独立したPLLが必要になる。以下の説明では、地球上のある地点において受信可能なGPS衛星を可視衛星と称し、可視衛星の数を可視衛星数と称する。季節、時間帯、緯度、経度、地形にも因るが、空が開けた地点での可視衛星数は多い場合で10個を超える(非特許文献1参照)。可視衛星を出来るだけ多く同時にトラッキングすることが出来れば、トラッキング中の受信信号の一部が建物や地形により遮蔽されても、受信衛星の数が4個未満になる頻度が減少する。これは、受信衛星数の減少に伴う測位計算の中断頻度が減少することを意味する。1個のGPS衛星からの信号を受信するための、PLLを含んだ同期保持処理を実行する部分を以後「同期保持チャネル」と呼ぶことにすると、同期保持チャネルの数は多くの場合8チャネル以上を備えるGPS受信機が一般的である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】B. ホフマン‐ウェレンホフ、H. リヒテネガー、J. コリンズ「GPS理論と応用」シュプリンガー・フェアラーク東京、2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
同期保持チャネルをハードウェアで実現する場合には、同期保持チャネルに供給するクロックの周波数は、13MHz〜26MHzの間のものが多く採用されている。その一方で、同期保持チャネルに含まれているPLLの処理間隔は、例えば1ミリ秒に1回(すなわち1kHz)と、上述のクロック周波数に比べてきわめて低い周波数である、このPLLの処理間隔の間に実行される処理は、位相比較器による位相差分の計算と、ループフィルタによる平滑化処理のみであり、処理の内容や規模にも因るが、概ね10μ秒以下で処理できる規模である。
【0008】
このように、従来のGPS受信機においては、PLLの処理間隔の間に実行される処理の規模はそれほど大きくないにも関わらず、同期保持チャネルの数だけ位相比較器やループフィルタを用意しており、同期保持チャネルの数の増加に伴って、回路規模の増大化に繋がっていたという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、1つの位相比較器及びループフィルタを複数の同期保持チャネルで共有することで、同期保持チャネルの増加に伴う回路規模の増大を抑えることが可能な、新規かつ改良された信号受信装置、信号受信装置の制御方法及びコンピュータプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、所定の周波数のキャリアを生成する信号生成器を含む位相同期ループ部と、衛星から受信した信号のキャリアと前記信号生成器が生成したキャリアとの位相差を検出して出力する1以上の位相比較器と、前記位相比較器が出力する位相差情報からノイズを除去する1以上のループフィルタと、を備え、同時に追跡可能な最大衛星数N(Nは2以上)に対して、前記位相比較器及び前記ループフィルタの数MはN>Mである、信号受信装置が提供される。
【0011】
かかる構成によれば、位相同期ループ部は所定の周波数のキャリアを生成する信号生成器を含み、位相比較器は1つ以上設けられ、衛星から受信した信号のキャリアと前記信号生成器が生成したキャリアとの位相差を検出して出力し、ループフィルタは1つ以上も受けられ、前記位相比較器が出力する位相差情報からノイズを除去する。そして、同時に追跡可能な最大衛星数N(Nは2以上)に対して、前記位相比較器及び前記ループフィルタの数MはN>Mであるように設けられる。その結果、1つの位相比較器及びループフィルタを複数の同期保持チャネルで共有することで、同期保持チャネルの増加に伴う回路規模の増大を最小限に抑えることが可能となる。
【0012】
前記位相同期ループ部の処理間隔をT、前記位相比較器及び前記ループフィルタの処理に要する時間をTとした場合に、1つの位相比較器およびループフィルタを共有可能な同期保持チャネルの最大数Lは下記の数式1で算出され、
【数1】

・・・(数式1)
前記Lを用いて下記の数式2で前記Mが算出されてもよい。
【数2】

・・・(数式2)
(ただし、
【数3】

は、xを超えない最大の整数を表し、
【数4】

は、x以上の最小の整数を表す。)
【0013】
1つの前記位相比較器及び前記ループフィルタの組を、複数の前記位相同期ループ部が時分割で用いてもよい。
【0014】
上記信号受信装置は、複数の前記位相同期ループ部に対して現在処理すべき位相同期ループ部の情報を保持する情報保持部と、複数の前記位相同期ループ部の前記位相比較器への出力から前記情報保持部が保持する情報に対応した前記位相同期ループ部の出力を選択して前記位相比較器へ供給する選択部と、前記ループフィルタの出力を前記情報保持部が保持する情報に対応した前記位相同期ループの前記信号生成器に供給する供給部と、前記情報保持部が保持する情報に対応した前記位相同期ループの、前記ループフィルタにおける遅延値を保持する遅延値保持部と、をさらに備えていてもよい。
【0015】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、所定の周波数のキャリアを生成する信号生成器を含む位相同期ループ部と、衛星から受信した信号のキャリアと前記信号生成器が生成したキャリアとの位相差を検出して出力する1以上の位相比較器と、前記位相比較器が出力する位相差情報からノイズを除去して所望のループの応答を実現する1以上のループフィルタと、を備え、同時に追跡可能な最大衛星数N(Nは2以上)に対して、前記位相比較器及び前記ループフィルタの数MはN>Mである信号受信装置に対し、複数の前記位相同期ループ部に対して現在処理すべき位相同期ループ部の情報を保持する情報保持ステップと、複数の前記位相同期ループ部の前記位相比較器への出力から前記情報保持ステップで保持される情報に対応した前記位相同期ループ部の出力を選択して前記位相比較器へ供給する選択ステップと、前記ループフィルタの出力を前記情報保持ステップで保持される情報に対応した前記位相同期ループの前記信号生成器に供給する供給ステップと、前記情報保持ステップで保持される情報に対応した前記位相同期ループの、前記ループフィルタにおける遅延値を保持する遅延値保持ステップと、を含む、信号受信装置の制御方法が提供される。
【0016】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、所定の周波数のキャリアを生成する信号生成器を含む位相同期ループ部と、衛星から受信した信号のキャリアと前記信号生成器が生成したキャリアとの位相差を検出して出力する1以上の位相比較器と、前記位相比較器が出力する位相差情報からノイズを除去して所望のループの応答を実現する1以上のループフィルタと、を備え、同時に追跡可能な最大衛星数N(Nは2以上)に対して、前記位相比較器及び前記ループフィルタの数MはN>Mであるコンピュータに、複数の前記位相同期ループ部に対して現在処理すべき位相同期ループ部の情報を保持する情報保持ステップと、複数の前記位相同期ループ部の前記位相比較器への出力から前記情報保持ステップで保持される情報に対応した前記位相同期ループ部の出力を選択して前記位相比較器へ供給する選択ステップと、前記ループフィルタの出力を前記情報保持ステップで保持される情報に対応した前記位相同期ループの前記信号生成器に供給する供給ステップと、前記情報保持ステップで保持される情報に対応した前記位相同期ループの、前記ループフィルタにおける遅延値を保持する遅延値保持ステップと、を実行させる、コンピュータプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように本発明によれば、1つの位相比較器及びループフィルタを複数の同期保持チャネルで共有することで、同期保持チャネルの増加に伴う回路規模の増大を抑えることが可能な、新規かつ改良された信号受信装置、信号受信装置の制御方法及びコンピュータプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態にかかるGPS受信装置10の構成について示す説明図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかるGPS受信装置10における同期保持チャネル100の構成について示す説明図である。
【図3】従来のGPS受信装置の同期保持チャネルで用いられていたPLL40の構成について示す説明図である。
【図4】本発明の一実施形態にかかる同期保持チャネル100において用いられているPLL111の構成について示す説明図である。
【図5】本実施形態にかかる位相差検出部112の処理開始信号の生成方法の概要について示す説明図である。
【図6】本発明の一実施形態にかかるPLL111におけるカウンタ118の制御方法について示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0020】
なお、説明は以下の順序で行うものとする。
<1.本発明の一実施形態>
[1−1.受信装置の構成]
[1−2.同期保持チャネルの構成]
[1−3.従来のPLLの構成]
[1−4.本実施形態のPLLの構成]
[1−5.位相差検出部の処理開始信号の生成方法、カウンタの制御方法]
<2.まとめ>
【0021】
<1.本発明の一実施形態>
[1−1.受信装置の構成]
本発明の一実施形態では、衛星測位システム(GNSS)を構成する少なくとも4個の衛星から送出された信号を受信して、受信信号に基づいて自己の位置を算出する受信装置に本発明を適用した場合について説明する。なお、本実施形態においては、GNSSとして、日本国で広く利用されている全地球測位システム(GPS)を想定し、このGPSに対応した受信装置としてのGPS受信装置を例に挙げて説明する。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態にかかるGPS受信装置10の構成について示す説明図である。以下、図1を用いて、本発明の一実施形態にかかるGPS受信装置10の構成について説明する。
【0023】
図1に示したGPS受信装置10は、少なくとも4個以上の全地球測位システム(GPS)衛星からの信号を受信して、その受信信号に基づいて自己の位置を算出するものである。また、図1に示したGPS受信装置10は、L1帯、C/A(Clear and AcquisitionまたはCoarse and Acquisition)コードと呼ばれるスペクトラム拡散信号電波を受信信号として受信するものである。そしてGPS受信装置10は、図1に示したように、受信した受信信号を復調する際に、自己が発生する擬似ランダム(PRN)系列の拡散符号(PRN符号)と、受信信号におけるPRN符号との同期を捕捉する機能と、PRN符号と搬送波(キャリア)との同期を保持する機能とを分離している。このように機能を分離することにより、GPS受信装置10は回路規模を小さく抑えつつ、同期捕捉を高速化するように構成することができる。もちろん、本発明はかかる構成を有するGPS受信装置への適用に限定されるものではない。本発明は、GNSSを構成する複数の衛星から送出された信号を受信して、自己の位置を算出する受信装置に広く適用可能であることは言うまでも無い。
【0024】
GPS受信装置10は、図1に示すように、所定の発信周波数を有する発信信号D1を生成する水晶発振器(X’tal Oscillator;XO)11と、このXO11とは異なる所定の発振周波数FOSCを有する発振信号D2を生成する温度補償型水晶発振器(Temperature Compensated X’tal Oscillator、以下、TCXO)12と、このTCXO12から供給される発振信号D2を逓倍(multiply)及び/又は分周(divide)する逓倍/分周器13とを備える。
【0025】
XO11は、例えば32.768kHz程度の所定の発振周波数を有する発振信号D1を生成する。XO11は、生成した発振信号D1を後述するRTC(Real Time Clock)27に供給する。TCXO12は、XO11とは異なる、例えば16.368MHz程度の所定の発振周波数FOSCを有する発振信号D2を生成する。TCXO12は、生成した発振信号D2を逓倍/分周器13、及び後述する周波数シンセサイザ18等に供給する。逓倍/分周器13は、後述するCPU(Central Processing Unit)26から供給される制御信号D3に基づいて、TCXO12から供給される発振信号D2を、所定の逓倍率で逓倍し、及び/又は所定の分周比で分周する。逓倍/分周器13は、逓倍及び/又は分周した発振信号D4を後述する同期捕捉部24、後述する同期保持部25、CPU26、後述するタイマ28、及び後述するメモリ29に供給する。
【0026】
また、GPS受信装置10は、GPS衛星から送信されてきたRF(Radio Frequency)信号を受信するアンテナ14と、アンテナ14によって受信された受信RF信号D5を増幅するローノイズ・アンプ(Low Noise Amplifier;LNA)15と、LNA15によって増幅された増幅RF信号D6のうち所定の周波数帯域成分を通過する帯域通過フィルタ(Band Pass Filter;BPF)16と、BPF16によって通過された増幅RF信号D7をさらに増幅する増幅器17と、TCXO12から供給される発振信号D2に基づいて所定の周波数FLOを有する局部発振信号D10を生成する周波数シンセサイザ18と、増幅器17によって増幅された所定の周波数FRFを有する増幅RF信号D8に対して周波数シンセサイザ18から供給された局部発振信号D10を乗算する乗算器19と、乗算器19によって乗算されることによってダウンコンバートされた所定の周波数FIFを有する中間周波数(Intermediate Frequency;IF)信号D11を増幅する増幅器20と、増幅器20によって増幅された増幅IF信号D12のうち所定の周波数帯域成分を通過する低域通過フィルタ(Low Pass Filter;LPF)21と、LPF21によって通過されたアナログ形式の増幅IF信号D13をディジタル形式の増幅IF信号D14に変換するアナログ/ディジタル変換器(Analog/Digital Converter;A/D)22と、を備えている。
【0027】
アンテナ14は、GPS衛星から送信されてくる、例えば周波数1575.42MHzのキャリアが拡散されたRF信号を受信する。このアンテナ14によって受信された受信RF信号D5は、LNA15に供給される。
【0028】
LNA15は、アンテナ14によって受信された受信RF信号D5を増幅する。LNA15は、受信RF信号D5を増幅した増幅RF信号D6をBPF16に供給する。
【0029】
BPF16は、いわゆるSAW(Surface Acoustic Wave)フィルタからなり、LNA15によって増幅された増幅RF信号D6のうち所定の周波数帯域成分を通過する。BPF16によって通過された増幅RF信号D7は、増幅器17に供給される。
【0030】
増幅器17は、BPF16によって通過された増幅RF信号D7をさらに増幅する。増幅器17は、増幅RF信号D7を増幅した所定の周波数FRF、すなわち、1575.42MHzの増幅RF信号D8を乗算器19に供給する。
【0031】
周波数シンセサイザ18は、CPU26から供給される制御信号D9による制御のもとに、TCXO12から供給される発振信号D2に基づいて所定の周波数FLOを有する局部発振信号D10を生成する。周波数シンセサイザ18は、生成した局部発振信号D10を乗算器19に供給する。
【0032】
乗算器19は、増幅器17によって増幅された所定の周波数FRFを有する増幅RF信号D8に対して周波数シンセサイザ18から供給された局部発振信号D10を乗算することによって増幅RF信号D8をダウンコンバートし、例えば1.023MHz程度の所定の周波数FIFを有するIF信号D11を生成する。このIF信号D11は、増幅器20に供給される。
【0033】
増幅器20は、乗算器19によってダウンコンバートされたIF信号D11を増幅する。増幅器20は、IF信号D11を増幅して得られる増幅IF信号D12をLPF21に供給する。
【0034】
LPF21は、増幅器20によって増幅された増幅IF信号D12のうち、所定の周波数よりも低帯域成分を通過させる。このLPF21によって通過された増幅IF信号D13は、A/D変換器22に供給される。
【0035】
A/D変換器22は、LPF21によって通過されたアナログ形式の増幅IF信号D13をディジタル形式の増幅IF信号D14に変換する。このA/D変換器22によって変換された増幅IF信号D14は、同期捕捉部24及び同期保持部25に供給される。
【0036】
なお、GPS受信装置10においては、上述した構成のうち、LNA15、増幅器17、20、BPF16、周波数シンセサイザ18、乗算器19、LPF21、及びA/D変換器22は、アンテナ14によって受信された1575.42MHzの高い周波数を有する受信RF信号D5を、ディジタル信号処理が施しやすいように、例えば1.023MHz程度の低い周波数FIFを有する増幅IF信号D14にダウンコンバートする周波数変換部23として構成される。
【0037】
さらに、GPS受信装置10は、自己が発生するPRN符号とA/D変換器22から供給される増幅IF信号D14におけるPRN符号との同期捕捉及び増幅IF信号D14におけるキャリア周波数の検出を行う同期捕捉部24と、A/D変換器22から供給される増幅IF信号D14におけるPRN符号とキャリアとの同期保持及びメッセージの復調を行う同期保持部25と、各部を統括的に制御して各種演算処理を行うCPU26と、XO11から供給される発振信号D1に基づいて時間を計測するRTC27と、CPU26の内部時計としてのタイマ28と、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等からなるメモリ29を備える。
【0038】
同期捕捉部24は、CPU26の制御の下、逓倍/分周器13から供給される逓倍及び/又は分周された発振信号D4に基づいて、A/D変換器22から供給される増幅IF信号D14におけるPRN符号の同期捕捉を行う。また同期捕捉部24は、増幅IF信号D14におけるキャリア周波数の検出を行う。PRN符号の同期捕捉及びキャリア周波数の検出を行う際には、同期捕捉部24は、粗い精度での同期捕捉を行う。なお、同期捕捉部24における同期捕捉には、例えば、スライディング相関器やマッチドフィルタなどの任意の構成を用いてもよい。同期捕捉部24は、検出したGPS衛星を識別するための衛星番号、PRN符号の位相、及びキャリア周波数を同期保持部25及びCPU26に供給する。
【0039】
同期保持部25は、CPU26の制御の下、逓倍/分周器13から供給される逓倍及び/又は分周された発振信号D4に基づいて、A/D変換器22から供給される増幅IF信号D14におけるPRN符号とキャリアとの同期保持を行う。また同期保持部25は、増幅IF信号D14に含まれる航法メッセージの復調を行う。PRN符号とキャリアとの同期保持及び航法メッセージの復調を行う際には、同期保持部25は、同期捕捉部24から供給される衛星番号、PRN符号の位相、及びキャリア周波数を初期値として動作を開始する。同期保持部25は、複数のGPS衛星からの増幅IF信号D14についての同期保持を並列的に行い、検出したPRN符号の位相、キャリア周波数、及び航法メッセージをCPU26に供給する。
【0040】
CPU26は、同期保持部25から供給されるPRN符号の位相、キャリア周波数、及び航法メッセージを取得し、これらの各種情報に基づいて、自己の3次元位置の算出する処理や、当該GPS受信装置10の時間情報を補正する処理などの各種演算処理を行う。また、CPU26は、当該GPS受信装置10の各部及び各種ペリフェラル(周辺機器)、並びに外部との入出力(Input/Output)に関する制御を統括的に行う。
【0041】
RTC27は、XO11から供給される発振信号D1に基づいて、時間を計測する。このRTC27によって計測される時間情報は、GPS衛星の正確な時間情報が得られるまでの間に代用されるものであって、GPS衛星の正確な時間情報を得たCPU26がXO11を制御することによって、時間情報は適宜補正される。
【0042】
タイマ28は、CPU26の内部時計として機能するものであり、各部の動作に必要となる各種タイミング信号の生成及び時間参照に用いられる。例えば、GPS受信装置10においては、同期捕捉部24が同期捕捉したPRN符号の位相に合わせて同期保持部25が内部に持つPRN符号発生器の動作を開始させるタイミングを、このタイマ28によって参照する。
【0043】
メモリ29は、RAMやROM等からなる。メモリ29においては、CPU26等による各種処理を行う際のワークエリアとしてRAMが用いられるとともに、入力した各種データをバッファリングする際や、同期保持部より得られた衛星の軌道情報であるエフェメリスおよびアルマナック、演算過程で生成される中間データ及び演算結果データを保持する際にもRAMが用いられる。また、メモリ29として、各種プログラムや固定データ等を記憶する手段としてROMを用いてもよい。また、メモリ29として、GPS受信装置10の電源が切られている間であっても、衛星の軌道情報であるエフェメリスおよびアルマナック、および測位結果の位置情報、TCXO12の誤差量などを記憶する手段として不揮発メモリを用いてもよい。
【0044】
なお、GPS受信装置10においては、これらの同期捕捉部24、同期保持部25、CPU26、RTC27、タイマ28、メモリ29は、ベースバンド処理部として構成される。
【0045】
このような各部を備えるGPS受信装置10においては、少なくとも、XO11、TCXO12、アンテナ14、LNA15、及びBPF16を除く各部を、集積回路化した1チップからなる復調回路30として構成することができる。
【0046】
GPS受信装置10は、少なくとも4個のGPS衛星からのRF信号を受信して、このRF信号を周波数変換部23によってIF信号に変換した後、同期捕捉部24によってPRN符号の同期捕捉及びキャリア周波数の検出を行い、同期保持部25によってPRN符号とキャリアとの同期保持及び航法メッセージの復調を行う。そして、GPS受信装置10は、PRN符号の位相、キャリア周波数、及び航法メッセージに基づいて、CPU26によって自己の3次元位置を算出する。
【0047】
以上、図1を用いて本発明の一実施形態にかかるGPS受信装置10の構成について説明した。なお、GPS受信装置10は、図1に示した構成以外にも、ユーザインタフェース用の表示データなどの各種データやアプリケーションなどを記憶可能な記憶部、ユーザが操作可能な操作部、現在位置の情報等を表示する表示部などを備えてもよい。GPS受信装置10は、例えば、データの伝送路としてのバスにより上記各構成要素間を接続してもよい。
【0048】
上述したように、同期保持部25は、CPU26の制御のもとに、逓倍/分周器13から供給される逓倍及び/又は分周された発振信号D4に基づいて、A/D変換器22から供給される増幅IF信号D14におけるPRN符号とキャリアとの同期保持を行うとともに、増幅IF信号D14に含まれる航法メッセージの復調を行う。同期保持部25は、複数のGPS衛星からの増幅IF信号D14についての同期保持を並列的に行い、検出したPRN符号の位相、キャリア周波数、及び航法メッセージをCPU26に供給する。続いて、同期保持部25において複数のGPS衛星からの増幅IF信号D14から特定のGPS衛星信号の同期保持を行う部分(以下、同期保持チャネル)の構成について説明する。
【0049】
[1−2.同期保持チャネルの構成]
図2は、本発明の一実施形態にかかるGPS受信装置10における同期保持チャネル100の構成について示す説明図である。以下、図2を用いて、本発明の一実施形態にかかるGPS受信装置10における同期保持チャネル100の構成について説明する。
【0050】
同期保持チャネル100は、複数のGPS衛星からの増幅IF信号D14から特定のGPS衛星信号の同期保持を実行する。同期保持チャネル100は、キャリアの同期保持を行うPLL(Phase−locked Loop)101と、PRN符号の同期保持を行うDLL(Delay−locked Loop)102と、CPU26から設定された特定のGPS衛星のPRN符号を発生されるPRN符号生成器130と、を備える。
【0051】
PLL101は、複数のGPS衛星からの増幅IF信号D14から特定のGPS衛星信号のキャリアの同期保持を行い、トラッキング中のGPS衛星のキャリア周波数を出力する。得られたキャリア周波数はDLL102に供給されると共に、CPU26を経由して測位計算に用いられる。また、PLL101は航法メッセージの抽出も行い、抽出された航法メッセージはCPU26に供給される。
【0052】
DLL102は、複数のGPS衛星からの増幅IF信号D14から特定のGPS衛星信号のPRN符号の同期保持を行い、トラッキング中のGPS衛星のPRN符号の位相と周波数を出力する。DLL102で得られたPRN符号位相はPLL101に供給されると共に、CPU26を経由して測位計算に用いられる。また、得られたPRN符号周波数はPRN符号生成器130に供給される。
【0053】
PRN符号生成器130は、DLL102から得られたPRN符号周波数に対応するPRN符号を生成する。生成するPRN符号の種類は同期保持すべきGPS衛星の種類に対応し、CPU26から与えられる。
【0054】
以上、本発明の一実施形態にかかるGPS受信装置10における同期保持チャネル100の構成について説明した。続いて、図2に示した同期保持チャネル100において用いられているPLL101の構成について説明するが、その前に、従来のGPS受信装置の同期保持チャネルで用いられていたPLLの構成例について説明する。
【0055】
[1−3.従来のPLLの構成]
図3は、従来のGPS受信装置の同期保持チャネルで用いられていたPLL40の構成について示す説明図である。図3に示したように、従来のGPS受信装置の同期保持チャネルで用いられていたPLL40は、ミキサ41、42、43と、LPF44、45と、位相検出器46と、ループフィルタ47と、数値制御発振器(Numerical Controlled Oscillator;以下キャリアNCO)48と、を含んで構成されている。そして、図3に示したPLL40は、同期保持チャネルの数だけGPS受信装置の内部に備えられる。
【0056】
ミキサ41は、A/D変換器22から供給される増幅IF信号D14に含まれる特定のGPS衛星信号のPRN符号を除去(逆拡散)するために、増幅IF信号D14とPRN符号生成器130が出力するPRN符号の遅れ無し(PromptまたはPunctual)信号D104とを掛け合わせる。ミキサ41によって逆拡散された信号はミキサ42、43に供給される。
【0057】
ミキサ42は、ミキサ41の出力から特定のGPS衛星信号のキャリアの同相成分(In−phase;I成分)Iを取り出すために、ミキサ41の出力とNCO48が出力するcos成分とを掛け合わせる。その結果、I成分Iは、トラッキング中のGPS衛星信号のキャリア周波数とNCO48が発生するキャリアの周波数の和および差を周波数成分として持つ。ミキサ42で得られたI成分IはLPF44に供給される。
【0058】
ミキサ43は、ミキサ41の出力から特定のGPS衛星信号のキャリアの直交成分(Quadrature−phase;Q成分)Qを取り出すために、ミキサ41の出力とNCO48が出力するsin成分を掛け合わせる。その結果、Q成分Qは、トラッキング中のGPS衛星信号のキャリア周波数とNCO48が発生するキャリアの周波数の和および差を周波数成分として持つ。Q成分QはLPF45に供給される。
【0059】
LPF44、45は、それぞれミキサ42、43の出力に含まれる2つの周波数成分、すなわちトラッキング中のGPS衛星信号のキャリア周波数とNCO48が発生するキャリアの周波数の和および差のうち、周波数差のみを取り出す。また、帯域外ノイズを除去する役割もある。LPF44、45の出力は、位相検出器46に供給される。
【0060】
位相検出器46は、LPF44、45を経由したI成分IおよびQ成分Qからトラッキング中のGPS衛星信号のキャリアとNCO48が発生するキャリアの位相差を求める。位相検出器46が求めた位相差はループフィルタ47に供給される。
【0061】
ループフィルタ47は、位相検出器46が生成する位相差情報から不要なノイズを取り除きつつ、所望のループの応答を実現するための一種のLPFである。ループの応答を特徴付けるパラメータはCPU26から与えられる。ループフィルタ47の出力はキャリアNCO48に供給される。
【0062】
キャリアNCO48は、入力に応じた周波数に対応するキャリア信号を生成する。基準となるキャリア信号D101と90度位相が遅れた信号D102を出力する。キャリアNCO48が出力する信号D101はミキサ42へ、信号D102はミキサ43へ供給される。
【0063】
以上、従来のGPS受信装置の同期保持チャネルで用いられていたPLL40の構成について説明した。このように、従来のGPS受信装置では、1つの同期保持チャネルに1つのPLLが備えられていた。従って、同期保持チャネルの数だけ、位相検出器46及びループフィルタ47が備えられていた。しかし、上述したように、従来のGPS受信機においては、PLLの処理間隔の間に実行される処理の規模はそれほど大きくないにも関わらず、同期保持チャネルの数だけ位相比較器やループフィルタを用意しており、回路規模の増大化に繋がっていたという問題があった。
【0064】
そこで、本実施形態では、複数の同期保持チャネルでPLLの位相比較器及びループフィルタを共有し、時分割で処理を実行することで、回路規模の増大化を抑えることができるGPS受信装置について説明する。
【0065】
[1−4.本実施形態のPLLの構成]
図4は、本発明の一実施形態にかかる同期保持チャネル100において用いられているPLL111の構成について示す説明図である。以下、図4を用いて、本発明の一実施形態にかかる同期保持チャネル100において用いられているPLL111の構成について説明する。
【0066】
図4に示したように、PLL111は、A/D変換器22から供給される増幅IF信号D14に含まれる特定のGPS衛星信号のPRN符号を除去するためのミキサ103と、特定のGPS衛星信号のキャリアのI成分Iを取り出すためのミキサ104と、特定のGPS衛星信号のキャリアのQ成分Qを取り出すためのミキサ105と、帯域制限によりノイズなどの不要な周波数成分を除去するためのLPF106、107と、I成分IとQ成分Qとの割合から受信したGPS衛星信号に含まれるキャリアと数値制御発振器(キャリアNCO)110が生成するキャリアとの位相差を検出する位相検出器113と、位相検出器113が出力する位相差を平滑化するためのループフィルタ114と、トラッキング中のGPS衛星信号のキャリアを除去するために同調させるキャリアを発生させるためのキャリアNCO110と、複数のチャネルのI信号から位相検出器113に接続するI信号を選択するためのマルチプレクサ(MUX)116と、複数のチャネルのQ信号から位相検出器113に接続するQ信号を選択するためのマルチプレクサ115と、複数のチャネルのキャリアNCO110からループフィルタ114と接続するNCO110を選択するためのデマルチプレクサ(DEMUX)117と、マルチプレクサ115、116及びデマルチプレクサ117がどのチャネルの信号を選択するべきかを保持するカウンタ118と、ループフィルタで生成される中間結果を複数のチャネル毎に保持するためのレジスタ119と、を備える。
【0067】
ミキサ103、104、105、LPF106、107及びキャリアNCO110は同期保持チャネルの数だけ備わるが、位相検出器113、ループフィルタ114、カウンタ118、レジスタ119、マルチプレクサ115、116及びデマルチプレクサ117は、同期保持チャネルの数より少ない。ここで、同期保持チャネル数と、位相検出器113とループフィルタ114からなる位相差検出部112の数の関係について説明する。
【0068】
本実施形態において、同期保持チャネル数N(N≧2)に対して、位相差検出部112の数Mは、N>Mを満たすように決定される。Nが具体的に与えられた場合に、どのようにしてMを決定するかを以下に述べる。まず、1個の位相差検出部112に対して共有可能な同期保持チャネルの最大数Lを求める。位相差検出部の処理に要する時間をTとし、PLLの処理間隔をTとすると、1個の位相差検出部112に対して共有可能な同期保持チャネルの最大数Lは以下の数式1を満たすように求められる。
【0069】
【数5】

・・・(数式1)
【0070】
ただし、
【数6】

は、xを超えない最大の整数を表す。例えば、T=1ms、T=15μsとすると、Mは以下の数式2を満たす。
【0071】
【数7】

・・・(数式2)
【0072】
ただし、
【数8】

は、x以上の最小の整数を表す。例えば、N=20、L=67とすると、M=1であり、N=20、L=15とすると、M=2となる。
【0073】
なお、以下においては、説明の便宜上、同期保持チャネル数Nは8、位相差検出部112の数Mは1とするが、上述した条件を満たしていれば、その数の大小は問わない。
【0074】
ミキサ103は、A/D変換器22から供給される増幅IF信号D14に含まれる特定のGPS衛星信号のPRN符号を除去(逆拡散)するために、増幅IF信号D14と後述するPRN符号生成器130が出力するPRN符号の遅れ無し(PromptまたはPunctual)信号を掛け合わせる。ミキサ103によって逆拡散された信号はミキサ104、105に供給される。
【0075】
ミキサ104は、ミキサ103の出力から特定のGPS衛星信号のキャリアのI成分Iを取り出すために、ミキサ103の出力とNCO110が出力するcos成分を掛け合わせる。その結果、I成分Iは、トラッキング中のGPS衛星信号のキャリア周波数とNCO110が発生するキャリアの周波数の和および差を周波数成分として持つ。ミキサ104によって取り出されたI成分IはLPF106に供給される。
【0076】
ミキサ105は、ミキサ103の出力から特定のGPS衛星信号のキャリアのQ成分Qを取り出すために、ミキサ103の出力とNCO110が出力するsin成分を掛け合わせる。その結果、Q成分Qは、トラッキング中のGPS衛星信号のキャリア周波数とNCO110が発生するキャリアの周波数の和および差を周波数成分として持つ。ミキサ105によって取り出されたQ成分QはLPF107に供給される。
【0077】
LPF106、107は、それぞれミキサ104、105の出力に含まれる2つの周波数成分、すなわちトラッキング中のGPS衛星信号のキャリア周波数とNCO110が発生するキャリアの周波数の和および差のうち、周波数差のみを取り出す。また、帯域外ノイズを除去する役割もある。LPF106、107の出力は後述するマルチプレクサ115、116を経由して位相検出器113に供給される。
【0078】
位相検出器113は、LPF106、107及びマルチプレクサ115、116を経由したI成分IおよびQ成分Qから、トラッキング中のGPS衛星信号のキャリアとNCO110が発生するキャリアの位相差を求める。位相検出器113で算出された位相差情報はループフィルタ114に供給される。
【0079】
ループフィルタ114は、位相検出器113が生成する位相差情報から不要なノイズを取り除きつつ、所望のループの応答を実現するための一種のLPFである。ループの応答を特徴付けるパラメータはCPU26から与えられる。ループフィルタ114の出力は後述するデマルチプレクサ117を経由してキャリアNCO110に供給される。
【0080】
キャリアNCO110は、入力に応じた周波数に対応するキャリア信号を生成する。基準となるキャリア信号D101と90度位相が遅れた信号D102を出力し、信号D101はミキサ104へ、信号D102はミキサ105へ供給される。
【0081】
マルチプレクサ115、116は、複数の同期保持チャネルのLPF106および107の出力から特定の同期保持チャネルの出力を選択するためのもので、選択すべき同期保持チャネルはカウンタ118で保持される。
【0082】
デマルチプレクサ117は、複数の同期保持チャネルのNCO110から、ループフィルタ114と接続すべきチャネルを選択するためのもので、選択すべき同期保持チャネルの情報はチャネル番号としてカウンタ118で保持される。
【0083】
カウンタ118は、マルチプレクサ115、116及びデマルチプレクサ117が、複数の同期保持チャネルの信号から特定の同期保持チャネルの信号を選択するためのチャネル番号を保持する。本実施形態では、同期保持チャネルの数は8つなので、チャネル番号は0から7の値が保持される。カウンタ118のカウンタ値の制御方法は後述する。
【0084】
レジスタ119は、ループフィルタ114が生成する中間結果を保存するための領域である。レジスタ119を実現するにはフリップフロップあるいはRAMを用いる方法が考えられるが、これらの例に限定されるものではない。ループフィルタ114が生成する中間結果は同期保持チャネルごとに異なるので、レジスタ119は同期保持チャネル数だけ保存領域を用意する必要がある。中間結果をレジスタ119内のどのチャネル用領域に格納すべきか、あるいは、どのチャネル用領域から次に使用する中間結果を取り出すかは、カウンタ118によって指定される。
【0085】
信号D201は、ループフィルタ114の計算終了を示す信号であり、次の同期保持チャネルのための位相差検出処理すなわち位相検出器113およびループフィルタ114の処理を開始するための信号となる。同時に、信号D201は、カウンタ118を更新するための信号となる。
【0086】
以上、図4を用いて、PLL111の構成について説明した。従来の方法であれば、各同期保持チャネルに備わっている位相差検出部112は、図1の逓倍/分周器13が生成する処理開始信号によって全チャネルが一斉に動作を開始する。本実施形態においては、1つの位相差検出部112が複数の同期保持チャネルの処理を時分割で受け持つので、逓倍/分周器13が生成する処理開始信号の他に、位相差検出部112の処理を開始させるための信号が必要となる。以下では、本実施形態にかかる位相差検出部112の処理開始信号の生成方法、およびカウンタ118の制御方法について説明する。
【0087】
[1−5.位相差検出部の処理開始信号の生成方法、カウンタの制御方法]
図5は、本実施形態にかかる位相差検出部112の処理開始信号の生成方法の概要について示す説明図である。以下、図5を用いて、本実施形態にかかる位相差検出部112の処理開始信号の生成方法について説明する。
【0088】
処理すべき同期保持チャネルは0から7まで順番に処理すると仮定すると、逓倍/分周器13が生成する処理開始信号はチャネル0を処理するための開始信号として利用する。一方、チャネル1から7を処理するための処理開始信号は、ループフィルタ114の計算終了信号D201を利用する。ただし、最後のチャネル(図5に示した例ではチャネル7)の処理終了信号は、もう処理すべきチャネルがないので処理開始信号として利用しない。
【0089】
カウンタ118の役割は、上述した通り、マルチプレクサ115、116と、デマルチプレクサ117とが接続すべき同期保持チャネルを決定するとともに、ループフィルタ114が生成した中間結果のレジスタ119の内部での保存領域を決定し、ループフィルタ114が使用する中間結果のレジスタ119の内部での格納場所を決定するものである。基本的には上述した処理開始信号と同様の制御が実行される。すなわち、図1に示した逓倍/分周器13が生成する処理開始信号によってカウンタ118が0に初期化され、ループフィルタ114の計算終了信号D201を利用してカウンタ118のカウンタ値を1加算する。ただし、既にカウンタ118が最大チャネル番号(この例では7)を保持している場合は、カウンタ118のカウンタ値の加算は行われない。
【0090】
図6は、本発明の一実施形態にかかるPLL111におけるカウンタ118の制御方法について示す流れ図である。以下、図6を用いて、本発明の一実施形態にかかるPLL111におけるカウンタ118の制御方法について説明する。なお、図6に示す一連の処理は、例えばCPU26が実行するようにしてもよい。
【0091】
まず、カウンタ118に逓倍/分周器13からの処理開始信号があったかどうかを判断する(ステップS101)。ステップS101での判断の結果、逓倍/分周器13からの処理開始信号があった場合には、カウンタ118のカウンタの値を0に初期化して(ステップS102)、処理を終了する。一方、ステップS101での判断の結果、逓倍/分周器13からの処理開始信号が無かった場合には、続いて、カウンタ118にループフィルタ114からの処理終了信号があったかどうかを判断する(ステップS103)。
【0092】
上記ステップS103での判断の結果、ループフィルタ114からの処理終了信号があった場合には、続いて、カウンタ118のカウンタの値が処理すべき最大チャネル数に達しているかどうかを判断する(ステップS104)。一方、上記ステップS103での判断の結果、ループフィルタ114からの処理終了信号が無かった場合には、そのまま処理を終了する。
【0093】
上記ステップS104での判断の結果、カウンタの値が処理すべき最大チャネル数に達していないと判断した場合には、カウンタ118のカウンタの値に1を加算する(ステップS105)。一方、上記ステップS104での判断の結果、カウンタの値が処理すべき最大チャネル数に達していたと判断した場合には、そのまま処理を終了する。そして、再び逓倍/分周器13からの処理開始信号がカウンタ118に送られたかどうかを判断する上記ステップS101の処理の実行に移る。
【0094】
以上、本発明の一実施形態にかかるPLL111におけるカウンタ118の制御方法について説明すると共に、本実施形態にかかる位相差検出部112の処理開始信号の生成方法について説明した。
【0095】
<2.まとめ>
以上説明したように本発明の一実施形態によれば、従来は複数の同期保持チャネルにそれぞれ備わっていた位相差検出部(位相検出器およびループフィルタ)を減らし、1つの位相差検出部につき複数の同期保持チャネルの処理を時分割で行うことが可能となる。複数の同期保持チャネルにそれぞれ備わっていた位相差検出部の数を減らすことで、同期保持チャネルの数が増加しても、回路規模の縮小や消費電力の削減に寄与することが可能となる。
【0096】
なお、本実施形態は衛星の同期保持や同期捕捉の方法については特定の実施を仮定するものではなく、GPS受信機として備える同期捕捉部及び/または同期保持部であればよい。また、本実施形態で説明した各種処理は、例えばメモリ29に格納されたコンピュータプログラムを、CPU26が読み出して順次実行することで行われるようにしてもよい。
【0097】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0098】
10 GPS受信装置
11 XO
12 TCXO
13 逓倍/分周器
14 アンテナ
15 LNA
16 BPF
17 増幅器
18 周波数シンセサイザ
19 乗算器
20 増幅器
21 LPF
22 A/D変換器
23 周波数変換部
24 同期捕捉部
25 同期保持部
26 CPU
27 RTC
28 タイマ
29 メモリ
30 復調回路
100 同期保持チャネル
102 DLL
103、104、105 ミキサ
106、107 LPF
111 PLL
110 キャリアNCO
113 位相検出器
114 ループフィルタ
115、116 マルチプレクサ
117 デマルチプレクサ
118 カウンタ
119 レジスタ
130 PRN符号生成器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の周波数のキャリアを生成する信号生成器を含む位相同期ループ部と、
衛星から受信した信号のキャリアと前記信号生成器が生成したキャリアとの位相差を検出して出力する1以上の位相比較器と、
前記位相比較器が出力する位相差情報からノイズを除去して所望のループの応答を実現する1以上のループフィルタと、
を備え、
同時に追跡可能な最大衛星数N(Nは2以上)に対して、前記位相比較器及び前記ループフィルタの数MはN>Mである、信号受信装置。
【請求項2】
前記位相同期ループ部の処理間隔をT、前記位相比較器及び前記ループフィルタの処理に要する時間をTとした場合に、Lは下記の数式1で算出され、
【数1】

・・・(数式1)
前記Lを用いて下記の数式2で前記Mが算出される、請求項1に記載の信号受信装置。
【数2】

・・・(数式2)
(ただし、
【数3】

は、xを超えない最大の整数を表し、
【数4】

は、x以上の最小の整数を表す。)
【請求項3】
1つの前記位相比較器及び前記ループフィルタの組を、複数の前記位相同期ループ部が時分割で用いる、請求項1または2に記載の信号受信装置。
【請求項4】
複数の前記位相同期ループ部に対して現在処理すべき位相同期ループ部の情報を保持する情報保持部と、
複数の前記位相同期ループ部の前記位相比較器への出力から前記情報保持部が保持する情報に対応した前記位相同期ループ部の出力を選択して前記位相比較器へ供給する選択部と、
前記ループフィルタの出力を前記情報保持部が保持する情報に対応した前記位相同期ループの前記信号生成器に供給する供給部と、
前記情報保持部が保持する情報に対応した前記位相同期ループの、前記ループフィルタにおける遅延値を保持する遅延値保持部と、
をさらに備える、請求項1または2に記載の信号受信装置。
【請求項5】
所定の周波数のキャリアを生成する信号生成器を含む位相同期ループ部と、
衛星から受信した信号のキャリアと前記信号生成器が生成したキャリアとの位相差を検出して出力する1以上の位相比較器と、
前記位相比較器が出力する位相差情報からノイズを除去して所望のループの応答を実現する1以上のループフィルタと、
を備え、
同時に追跡可能な最大衛星数N(Nは2以上)に対して、前記位相比較器及び前記ループフィルタの数MはN>Mである信号受信装置に対し、
複数の前記位相同期ループ部に対して現在処理すべき位相同期ループ部の情報を保持する情報保持ステップと、
複数の前記位相同期ループ部の前記位相比較器への出力から前記情報保持ステップで保持される情報に対応した前記位相同期ループ部の出力を選択して前記位相比較器へ供給する選択ステップと、
前記ループフィルタの出力を前記情報保持ステップで保持される情報に対応した前記位相同期ループの前記信号生成器に供給する供給ステップと、
前記情報保持ステップで保持される情報に対応した前記位相同期ループの、前記ループフィルタにおける遅延値を保持する遅延値保持ステップと、
を含む、信号受信装置の制御方法。
【請求項6】
所定の周波数のキャリアを生成する信号生成器を含む位相同期ループ部と、
衛星から受信した信号のキャリアと前記信号生成器が生成したキャリアとの位相差を検出して出力する1以上の位相比較器と、
前記位相比較器が出力する位相差情報からノイズを除去して所望のループの応答を実現する1以上のループフィルタと、
を備え、
同時に追跡可能な最大衛星数N(Nは2以上)に対して、前記位相比較器及び前記ループフィルタの数MはN>Mであるコンピュータに、
複数の前記位相同期ループ部に対して現在処理すべき位相同期ループ部の情報を保持する情報保持ステップと、
複数の前記位相同期ループ部の前記位相比較器への出力から前記情報保持ステップで保持される情報に対応した前記位相同期ループ部の出力を選択して前記位相比較器へ供給する選択ステップと、
前記ループフィルタの出力を前記情報保持ステップで保持される情報に対応した前記位相同期ループの前記信号生成器に供給する供給ステップと、
前記情報保持ステップで保持される情報に対応した前記位相同期ループの、前記ループフィルタにおける遅延値を保持する遅延値保持ステップと、
を実行させる、コンピュータプログラム。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−7679(P2011−7679A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152472(P2009−152472)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】