説明

光学デバイスおよび画像形成装置

【課題】安定した駆動を行うことができる光学デバイス、およびかかる光学デバイスを備えた画像形成装置を提供すること。
【解決手段】光学デバイス1は、光反射部29を有し、回動可能に設けられた第2の質量部23と、第2の質量部23を駆動する駆動手段とを有し、この駆動手段が第2の質量部23を回動させることにより、光反射部29で反射した光を対象物に走査するものであって、接合膜11を介して支持部24に接合されたヒートシンク10を有する。この接合膜11は、エネルギー付与前において、シロキサン結合を含みランダムな原子構造を有するSi骨格と、このSi骨格に結合する脱離基とを含むものである。このような接合膜11は、エネルギーを付与することにより、一部の脱離基がSi骨格から脱離し、代わりに活性手が生じる。これにより、接合膜11に接着性が発現し、支持部24とヒートシンク10とが接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学デバイスおよび画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザープリンタ等に用いられ、光走査により描画を行う光スキャナ(光学デバイス)としては、小型化を図ることなどの目的から、ねじり振動子を用いるものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
例えば、特許文献1にかかる光学デバイスは、シリコンで構成された板状の可動板上に、アルミニウムで構成された光反射部を直接設けたものを、その両側で1対のねじりバネによって回動可能に支持してなる。そして、1対のねじりバネをねじれ変形させながら、可動板を回動(振動)させることにより、光走査を行う。その際、光反射部では、照射された光のほとんどが反射する。
【0003】
しかしながら、光反射部での光反射率を完全に100%とすることはできないため、このような光学デバイスにあっては、光反射部に照射された光の一部が熱となり、可動板を昇温させてしまう。
そのため、かかる光学デバイスを長時間使用すると、可動板の形状や光反射部の材質等によっては、熱により可動板に反りなどの変形が生じて、光反射部の平面性が損なわれるおそれがある。また、可動板からの熱によりねじりバネの材料物性が変化して、ねじりバネのバネ定数が変化してしまうおそれがある。
光反射部の平面性が損なわれたり、ねじりバネのバネ定数が変化したりすると、安定した駆動(描画)を行うことが難しい。
【0004】
【特許文献1】特開平7−92409号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、安定した駆動を行うことができる光学デバイス、およびかかる光学デバイスを備えた画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の光学デバイスは、光反射部を備える可動板と、該可動板を支持する支持部とを有し、前記可動板が前記支持部に対して回動可能に設けられた基体と、
前記可動板を回動させる駆動手段と、
前記基体を冷却する冷却部材とを有し、
前記基体と前記冷却部材とが接合膜を介して接合されており、
前記接合膜は、シロキサン(Si−O)結合を含みランダムな原子構造を有するSi骨格と、該Si骨格に結合する脱離基とを含み、
前記接合膜は、その少なくとも一部の領域にエネルギーを付与したことにより、前記接合膜の表面付近に存在する前記脱離基が前記Si骨格から脱離し、前記接合膜の表面の前記領域に発現した接着性によって、前記基体と前記冷却部材とを接合していることを特徴とする。
これにより、可動板を効率よく冷却し、可動板の昇温を防止することができる。その結果、安定した駆動を行うことができる光学デバイスが得られる。
【0007】
本発明の光学デバイスでは、前記接合膜を構成する全原子からH原子を除いた原子のうち、Si原子の含有率とO原子の含有率の合計が、10〜90原子%であることが好ましい。
これにより、接合膜は、Si原子とO原子とが強固なネットワークを形成し、接合膜自体がより強固なものとなる。このため、接合膜は、基体および冷却部材に対して、特に高い接合強度を示すとともに、熱伝導性に優れたものとなる。
本発明の光学デバイスでは、前記接合膜中のSi原子とO原子の存在比は、3:7〜7:3であることが好ましい。
これにより、接合膜の安定性が高くなり、基体と冷却部材をより強固に接合することができる。
【0008】
本発明の光学デバイスでは、前記Si骨格の結晶化度は、45%以下であることが好ましい。
これにより、Si骨格は十分にランダムな原子構造を含むものとなる。このため、化学的安定性、耐熱性等のSi骨格の特性が顕在化し、接合膜の寸法精度および接着性がより優れたものとなる。
【0009】
本発明の光学デバイスでは、前記脱離基は、H原子、B原子、C原子、N原子、O原子、P原子、S原子およびハロゲン系原子、またはこれらの各原子が前記Si骨格に結合するよう配置された原子団からなる群から選択される少なくとも1種で構成されたものであることが好ましい。
これらの脱離基は、エネルギーの付与による結合/脱離の選択性に比較的優れている。このため、このような脱離基は、接合膜の接着性をより高度なものとすることができる。
本発明の光学デバイスでは、前記脱離基は、アルキル基であることが好ましい。
アルキル基は化学的な安定性が高いため、脱離基としてアルキル基を含む接合膜は、耐候性および耐薬品性に優れたものとなる。
【0010】
本発明の光学デバイスでは、前記接合膜は、プラズマ重合法により形成されたものであることが好ましい。
これにより、接合膜は緻密で均質なものとなる。そして、基体と冷却部材との間を特に強固に接合するとともに、これらの間の熱抵抗をより低減することができる。また、プラズマ重合法で作製された接合膜は、エネルギーが付与されて活性化された状態を比較的長時間にわたって維持することができる。このため、光学デバイスの製造過程の簡素化、効率化を図ることができる。
【0011】
本発明の光学デバイスでは、前記接合膜は、ポリオルガノシロキサンを主材料として構成されていることが好ましい。
これにより、接合膜自体が優れた機械的特性を有するものとなる。また、多くの材料に対して特に優れた接着性を示す接合膜が得られる。したがって、この接合膜により、基体と冷却部材とをより強固に接合することができる。また、非接着性と接着性との制御を容易かつ確実に行える接合膜となる。
本発明の光学デバイスでは、前記ポリオルガノシロキサンは、オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするものであることが好ましい。
これにより、接着性に特に優れる接合膜が得られる。
【0012】
本発明の光学デバイスでは、前記接合膜の平均厚さは、1〜1000nmであることが好ましい。
これにより、基体と冷却部材との間の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、これらをより強固に接合することができる。また、接合膜の表面に生じる凹凸の高さを緩和することができ、被着体に対する密着性をより高めることができる。
【0013】
本発明の光学デバイスは、光反射部を備える可動板と、該可動板を支持する支持部とを有し、前記可動板が前記支持部に対して回動可能に設けられた基体と、
前記可動板を回動させる駆動手段と、
前記基体を冷却する冷却部材とを有し、
前記基体と前記冷却部材とが接合膜を介して接合されており、
前記接合膜は、金属原子と、該金属原子に結合する酸素原子と、前記金属原子および前記酸素原子の少なくとも一方に結合する脱離基とを含み、
前記接合膜は、その少なくとも一部の領域にエネルギーを付与したことにより、前記接合膜の表面付近に存在する前記脱離基が前記金属原子および前記酸素原子の少なくとも一方から脱離し、前記接合膜の表面の前記領域に発現した接着性によって、前記基体と前記冷却部材とを接合していることを特徴とする。
これにより、接合膜の熱伝導性が高くなるため、可動板を効率よく冷却し、可動板の昇温を防止することができる。その結果、安定した駆動を行うことができる光学デバイスが得られる。また、接合膜が、電力線や信号線としての機能を併せ持つことができる。また、金属原子を適宜選択することにより、接合膜は、透光性を有するものが得られる。
【0014】
本発明の光学デバイスは、光反射部を備える可動板と、該可動板を支持する支持部とを有し、前記可動板が前記支持部に対して回動可能に設けられた基体と、
前記可動板を回動させる駆動手段と、
前記基体を冷却する冷却部材とを有し、
前記基体と前記冷却部材とが接合膜を介して接合されており、
前記接合膜は、金属原子と、有機成分で構成される脱離基とを含み、
前記接合膜は、その少なくとも一部の領域にエネルギーを付与したことにより、前記接合膜の表面付近に存在する前記脱離基が前記接合膜から脱離し、前記接合膜の表面の前記領域に発現した接着性によって、前記基体と前記冷却部材とを接合していることを特徴とする。
これにより、接合膜の熱伝導性が高くなるため、可動板を効率よく冷却し、可動板の昇温を防止することができる。その結果、安定した駆動を行うことができる光学デバイスが得られる。また、接合膜が、電力線や信号線としての機能を併せ持つことができる。
【0015】
本発明の光学デバイスでは、前記接合膜は、流動性を有しない固体状のものであることが好ましい。
これにより、従来に比べて寸法精度が格段に高い光学デバイスが得られる。また、接着剤の硬化に要する時間が不要になるため、短時間で強固な接合が可能となる。
本発明の光学デバイスでは、前記可動板と前記支持部とが、一体的に形成されており、
前記冷却部材は、前記接合膜を介して前記支持部に接合されていることが好ましい。
これにより、可動板と支持部とが一体的に形成されているので、可動板と支持部との間の熱伝導性が特に小さくなり、可動板が有する熱を、支持部上に設けられた冷却部材を介して放熱することができる。
【0016】
本発明の光学デバイスでは、前記一体的に形成された可動板および支持部は、シリコン材料を主材料として構成されていることが好ましい。
シリコン材料は、熱伝導率が比較的高いため、可動板と支持部との間の熱伝導性が特に高くなる。また、シリコン材料は、接合膜との親和性が高いことから、シリコン材料で構成された支持部は、冷却部材との接合性が特に高いものとなる。
【0017】
本発明の光学デバイスでは、前記冷却部材は、ヒートシンクであることが好ましい。
これにより、可動板から支持部に伝達された熱をヒートシンクからより積極的に放熱することができる。その結果、可動板および支持部の昇温をより確実に防止することができる。
本発明の光学デバイスでは、前記ヒートシンクは、銅またはアルミニウムを主材料として構成されていることが好ましい。
これらの材料は、熱伝導性が特に高く、かつ接合膜との親和性が高いことから支持部との接合性が特に高い。このため、ヒートシンクは、可動板および支持部が有する熱を特に効率よく放熱し得るものとなる。
【0018】
本発明の光学デバイスでは、前記基体は、前記可動板および前記支持部と、
前記可動板と前記支持部とを連結し、捩れ変形する軸部材と、
前記軸部材の途中に設けられ、前記可動板を回動させる駆動部材とを有し、
前記冷却部材は、前記接合膜を介して前記駆動部材に接合されていることが好ましい。
これにより、駆動部材の駆動時に、冷却部材とその周囲の気体との接触確率が向上するため、駆動部材および可動板の冷却効果を高め、これらの昇温を防止することができる。その結果、安定した駆動を行うことができる光学デバイスが得られる。
【0019】
本発明の光学デバイスでは、前記駆動部材に接合された前記冷却部材は、ヒートシンクであり、
前記ヒートシンクには、前記駆動部材の回動軸線に対し直角な方向に延びるフィンが前記回動軸線方向に間隔を隔てて設けられていることが好ましい。
これにより、冷却部材の表面積を大きくすることができるので、駆動時に、冷却部材とその周囲の気体との接触確率をさらに向上することができる。その結果、駆動部材および可動板の冷却効果をより高めることができる。そして、フィンの配設方向を最適化したことにより、ヒートシンクとその周囲の気体との接触抵抗を低減しつつ、可動板の冷却効果を高めることができる。
【0020】
本発明の光学デバイスでは、前記ヒートシンクは、前記駆動部材の回動軸線に対し直角な方向において、端部側の高さが中央部側の高さよりも低いことが好ましい。
これにより、駆動部材の回動軸線に直角な方向での端部の駆動時における慣性力を低減し、駆動部材の設計を容易なものとすることができる。
本発明の光学デバイスでは、前記ヒートシンクの重心は、平面視で回動軸線上にあることが好ましい。
これにより、駆動部材の駆動に必要なトルクを低減し、駆動部材の設計をより容易なものとすることができる。
本発明の画像形成装置は、本発明の光学デバイスを備え、前記光反射部で反射した光を走査して、画像を形成するように構成されていることを特徴とする。
これにより、優れた描画特性を有する画像形成装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の光学デバイスおよび画像形成装置の好適な実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
<第1実施形態>
まず、本発明の光学デバイスの第1実施形態を説明する。
図1は、本発明の光学デバイスの第1実施形態を示す平面図(内部透視図)、図2は、図1中のA−A線断面図、図3は、図1に示す光学デバイスの電極の配置を示す平面図、図4は、図1に示す光学デバイスの駆動電圧の一例(交流電圧)を示す図、図5は、印加した交流電圧の周波数と、第1の質量部および第2の質量部の振幅との関係を示すグラフである。なお、以下では、説明の便宜上、図1および図3中の紙面手前側を「上」、紙面奥側を「下」、右側を「右」、左側を「左」と言い、図2中の上側を「上」、下側を「下」、右側を「右」、左側を「左」と言う。
【0022】
光学デバイス(光スキャナ)1は、図1に示すように、2自由度振動系を有する基体2を有しており、この基体2の下面には、対向基板3が接合膜4を介して接合され、この基体2の上面には、ヒートシンク(冷却部材)10が取り付けられている。
基体2は、一対の第1の質量部(駆動部材)21、22と、上面(後述する対向基板3とは反対側の面)に光反射部29が設けられた第2の質量部(可動板)23と、これらを支持するための支持部24とを備えている。
具体的には、基体2は、第2の質量部23を中心として、その一端側(図1および図2中、左側)に第1の質量部21が設けられ、他端側(図1および図2中、右側)に第1の質量部22が設けられて構成されている。
【0023】
また、本実施形態では、第1の質量部21、22は、互いにほぼ同一形状かつほぼ同一寸法をなし、第2の質量部23を介して、ほぼ対称に設けられている。
また、第2の質量部23上には、後に詳述する冷却部材10の接合膜11を介して、光反射部29が設けられている。
さらに、基体2は、図1および図2に示すように、第1の質量部21、22と支持部24とを連結する一対の第1の弾性連結部25、25と、第1の質量部21、22と第2の質量部23とを連結する一対の第2の弾性連結部26、26とを備えている。
換言すれば、基体2において、第2の質量部23と支持部24とを連結する軸部材の途中(第1の弾性連結部25と第2の弾性連結部26との間)に、第1の質量部21、22が設けられている。
【0024】
各第1の弾性連結部25、25および各第2の弾性連結部26、26は、同軸的に設けられており、これらを回動中心軸(回転軸)27として、第1の質量部21、22が支持部24に対して、また、第2の質量部23が第1の質量部21、22に対して回動可能となっている。
このように、基体2は、第1の質量部21、22と第1の弾性連結部25、25とからなる第1の振動系と、第2の質量部23と第2の弾性連結部26、26とからなる第2の振動系とで構成された2自由度振動系を有している。
【0025】
本実施形態では、このような2自由度振動系は、基体2の全体の厚さよりも薄く形成されているとともに、図2にて上下方向で基体2の上部に位置している。換言すれば、基体2には、基体2の全体の厚さよりも薄い部分(以下、薄肉部という)が形成されており、この薄肉部に異形孔が形成されることにより、第1の質量部21、22と第2の質量部23と第1の弾性連結部25、25と第2の弾性連結部26、26とが形成されている。
また、本実施形態では、前記薄肉部の上面が支持部24の上面と同一面上に位置することにより、前記薄肉部の下方には、各質量部21、22、23の回動のための空間(凹部)28が形成される。
【0026】
このような基体2は、例えば、シリコンを主材料として構成されていて、第1の質量部21、22と、第2の質量部23と、支持部24と、第1の弾性連結部25、25と、第2の弾性連結部26、26とが一体的に形成されている。
なお、基体2は、SOI基板等の積層構造の基板から、第1の質量部21、22と、第2の質量部23と、支持部24と、第1の弾性連結部25、25と、第2の弾性連結部26、26を形成したものであってもよい。
【0027】
対向基板3は、例えば、シリコンまたはガラスを主材料として構成されている。
対向基板3の上面には、図2および図3に示すように、第2の質量部23に対応する部分に開口部31が形成されている。
この開口部31は、第2の質量部23が回動(振動)する際に、対向基板3に接触するのを防止する逃げ部を構成する。開口部(逃げ部)31を設けることにより、光学デバイス1全体の大型化を防止しつつ、第2の質量部23の振れ角(振幅)をより大きく設定することができる。光学デバイス1において、対向基板3がシリコンを主材料として構成されている場合、ガラス材料などで対向基板が構成されている場合に比し、前述のような開口部などの逃げ部を簡単にそして高精度(高アスペクト比)に形成することができる。
【0028】
なお、逃げ部は、前記効果を十分に発揮し得る構成であれば、必ずしも対向基板3の下面(第2の質量部23と反対側の面)で開放(開口)していなくてもよい。すなわち、逃げ部は、対向基板3の上面に形成された凹部で構成することもできる。また、空間28の深さが第2の質量部23の振れ角(振幅)に対し大きい場合などには、逃げ部を設けなくともよい。
【0029】
また、対向基板3の上面(基体2側の面)には、図3に示すように、第1の質量部21に対応する部分に、後述の接合膜4を介して、一対の電極32が回動中心軸27を中心にほぼ対称となるように設けられ、また、第1の質量部22に対応する部分に、後述の接合膜4を介して、一対の電極32が回動中心軸27を中心にほぼ対称となるように設けられている。すなわち、本実施形態では、一対の電極32が2組(合計4個)、設けられている。
【0030】
第1の質量部21、22と各電極32とは、図示しない電源に接続されており、第1の質量部21、22と各電極32との間に交流電圧(駆動電圧)を印加できるよう構成されている。すなわち、第1の質量部21、22と各電極32とが、第2の質量部23(より具体的には第1の質量部21、22)を駆動するための駆動手段を構成する。
なお、第1の質量部21、22は、各電極32と対向する面に、それぞれ、絶縁膜(図示せず)が設けられている。これにより、第1の質量部21、22と各電極32との間での短絡が発生するのが好適に防止される。
【0031】
接合膜4は、基体2と対向基板3とを接合する機能を有するものである。したがって、接合膜4の構成材料は、前記接合が可能なものであれば特に限定されないが、基体2および対向基板3のそれぞれがシリコンを主材料として構成されている場合には、可動イオンを含むガラスを用いるのが好ましい。これにより、ともにシリコンを主材料として構成された基体2と対向基板3とを接合膜4を介して陽極接合させることができる。なお、接合膜4は、後述する接合膜11と同様の構成であってもよく、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、シリコーン系接着剤等の接着剤で構成されていてもよい。このとき、接合膜4を後述する接合膜11と同様の構成とした場合、基体2と対向基板3とを高い寸法精度でかつ強固に接合することができる。これにより、陽極接合の場合と比べて、接合される部材の材質に制約が大幅に緩和されることになり、基体2および対向基板3の各構成材料の選択の幅を広げることができる。換言すれば、基体2および対向基板3の各構成材料によらず、これらを確実に接合することができる。
また、本実施形態では、接合膜4の上面に上述の電極32が設けられている。これにより、電極32と第1の質量部21、22との間のギャップを調整することができる。また、接合膜4を絶縁性を有する材料で構成することにより、電極32と対向基板3との間の絶縁性を確保することができる。
【0032】
ここで、前述したような基体2の上面に設けられたヒートシンク(冷却部材)10を詳細に説明する。
ヒートシンク10は、第2の弾性連結部26、26、第1の質量部21、22、第1の弾性連結部25、25および支持部24を介して、可動板である第2の質量部23を冷却する機能を有する。これにより、第2の質量部23の昇温を防止することができる。その結果、昇温による第2の質量部23の変形や各弾性連結部25、26のバネ定数の変化を防止して、光学デバイス1の駆動を安定化することができる。
【0033】
より具体的には、光学デバイス1は、第2の質量部23の上面に設けられた接合膜11と、接合膜11に接続され、支持部24の上方に設けられたヒートシンク10とを有している。すなわち、接合膜11を介して、支持部24の上面とヒートシンク10とが接合(接着)されている。
また、本実施形態では、この接合膜11は、可動板である第2の質量部23の本体上に設けられていて、第2の質量部23の本体と光反射部29との間にも介在している。そして、接合膜11は、第2の質量部23の一方の面のほぼ全域を覆うように設けられている。
【0034】
この接合膜11は、エネルギー付与前において、シロキサン(Si−O)結合を含むランダムな原子構造を有するSi骨格と、このSi骨格に結合する脱離基とを含むものである。
そして、この接合膜11は、エネルギーを付与したことにより、脱離基がSi骨格から脱離し、これにより接合膜11の表面に発現した接着性によって、支持部24とヒートシンク10とを接合している。
【0035】
このような接合膜11は、シロキサン結合302を含みランダムな原子構造を有するSi骨格301の影響によって、変形し難い強固な膜となる。このような構造の接合膜11は、その厚さを薄くしても十分な接合強度が得られる。このため、接合膜11は、十分に薄いにもかかわらず、支持部24とヒートシンク10との間を強固に接合することができる。その結果、光反射部29で生じた熱を、第2の弾性連結部26、第1の質量部21、22、第1の弾性連結部25、支持部24および接合膜11を通じて、ヒートシンク10へより効率よく伝導し、外部へ放出することができる。
なお、接合膜11については、後に詳述する。
【0036】
ヒートシンク10は、放熱のための複数のフィンを有しており、外部の気体との接触面積の向上が図られており、接合膜11から熱を受けこれを放熱する機能を有する。
このように光学デバイス1が接合膜11を介して支持部24に接続されたヒートシンク10を有しているので、第2の質量部23から支持部24に伝達された熱をヒートシンク10からより積極的に放熱することができる。そのため、第2の質量部23、第2の弾性連結部26、第1の質量部21、22、第1の弾性連結部25および支持部24(基体2)の昇温をより確実に防止することができる。
また、ヒートシンク10は、支持部24上に設けられている。このように第2の質量部23と一体的に形成された部分(支持部24)の上にヒートシンク10が設けられているので、支持部24と第2の質量部23との間の熱抵抗が特に小さくなり、第2の質量部23が有する熱を支持部24を介して、より確実に放熱することができる。
【0037】
このようなヒートシンク10は、第2の質量部23の構成材料(すなわち基体2の構成材料)の熱伝導率よりも高い熱伝導率を有する材料(以下、高熱伝導材料という)で構成されている。かかる高熱伝導材料としては、特に限定されないが、例えば、Li、Be、B、Na、Mg、Al、K、Ca、Sc、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、La、Hf、Ta、W、Tl、Pb、Bi、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ag、Au、Pt、Pdのような金属(金属単体)、これらの金属を含む合金、これらの金属を含む酸化物や窒化物等が挙げられる。
【0038】
これらの中でも、高熱伝導性材料としては、アルミニウム、銅、チタン、ステンレス鋼のような金属材料、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等のセラミックス材料が好ましい。これらの高熱伝導性材料は、熱伝導性が特に高く、かつ接合膜11との親和性が高いことから支持部24との接合性が特に高い。このため、ヒートシンク10は、基体2が有する熱を特に積極的に放熱し得るものとなる。
【0039】
また、基体2がシリコン材料を主材料として一体的に形成されている場合、シリコンの熱伝導率が比較的高いため、基体2は熱伝導性の高いものとなる。このため、第2の質量部23が有する熱を、ヒートシンク10を介して特に効率よく放熱することができる。さらに、シリコン材料は、シロキサン結合を含む接合膜11との親和性が特に高い材料であるため、基体2とヒートシンク10とをより確実に接合することができる。その結果、基体2とヒートシンク10との間の熱抵抗が低下し、基体2が有する熱を特に効率よく放熱することができる。
なお、光学デバイス1は、ヒートシンク10に代えて、ヒートパイプのような熱交換器、ペルチェ素子のような熱電変換素子等を有していてもよく、これらを組み合わせたものを有していてもよい。
【0040】
以上のような構成の光学デバイス1は、次のようにして駆動する。
すなわち、第1の質量部21、22と各電極32との間に、例えば、正弦波(交流電圧)等を印加する。具体的には、例えば、第1の質量部21、22をアースしておき、図3中上側の2つの電極32に、図4(a)に示すような波形の電圧を印加し、図3中下側の2つの電極32に、図4(b)に示すような波形の電圧を印加する。すると、第1の質量部21、22と各電極32との間に静電気力(クーロン力)が生じる。
【0041】
この静電気力により、第1の質量部21、22が、各電極32の方へ引きつけられる力が正弦波の位相により変化し、回動中心軸27(第1の弾性連結部25)を軸に、基体2の板面(図1における紙面)に対して傾斜するように振動(回動)する。
そして、この第1の質量部21、22の振動(駆動)に伴って、第2の弾性連結部26を介して連結されている第2の質量部23も、回動中心軸27(第2の弾性連結部26)を軸に、基体2の板面(図1における紙面)に対して傾斜するように振動(回動)する。
したがって、第2の質量部23の回動に伴い、光反射部29も回動し、光反射部29に照射された光を走査することができる。
【0042】
その際、光反射部29に照射された光の一部は、光反射部29で反射せずに熱となる。この熱は、第2の弾性連結部26、第1の質量部21、22、第1の弾性連結部25、支持部24および接合膜11を通じて、ヒートシンク10へ伝導し、外部へ放出される。これにより、光反射部29で生じた熱により第2の質量部23が昇温するのを防止することができる。そのため、光学デバイス1は、第2の質量部23が昇温により反りなどの変形を生じることなく、安定に駆動して、高精度な描画や光走査を行うことができる。
ここで、この光学デバイス1では、前述したように、対向基板3における、第2の質量部23に対応する部分に、開口部31が形成され、また、図2にて基体2の下面に空間28が形成され、かつ、平面視で第1の質量部21、22が空間(凹部)28内に位置するように設けられている。
【0043】
このような構成により、第2の質量部23が振動し得るスペース、および、第1の質量部21、22が振動し得るスペースとして、大きなスペースが確保されている。したがって、第1の質量部21、22の質量を比較的小さく設定すること等により、第1の質量部21、22を大きな振れ角で振動させた場合や、さらに第2の質量部23が共振によって大きな振れ角で振動した場合でも、各質量部21、22、23(2自由度振動系)が対向基板3に接触することを好適に防止することができる。
このため、このような光学デバイス1を、例えば光スキャナに適用した場合には、より解像度の高いスキャニングを行うことが可能となる。
【0044】
ここで、第1の質量部21の回動中心軸からこれにほぼ垂直な方向(長手方向)への長さ(回動中心軸と端部21aとの間の距離)をLとし、第1の質量部22の回動中心軸からこれにほぼ垂直な方向(長手方向)への長さ(回動中心軸と端部22aとの間の距離)をLとし、第2の質量部23の回動中心軸からこれにほぼ垂直な方向への長さ(回動中心軸と端部23aとの間の距離)をLとしたとき、本実施形態では、第1の質量部21、22が、それぞれ独立して設けられているため、第1の質量部21、22と、第2の質量部23とが干渉せず、第2の質量部23の大きさ(長さL)にかかわらず、LおよびLを小さくすることができる。これにより、第1の質量部21、22の回転角度(振れ角)を大きくすることができ、第2の質量部23の回転角度を大きくすることができる。
【0045】
また、LおよびLを小さくすることにより、第1の質量部21、22と各電極32との間の距離を小さくすることができ、これにより、静電気力が大きくなり、第1の質量部21、22と各電極32に印加する交流電圧を小さくすることができる。
ここで、第1の質量部21、22および第2の質量部23の寸法は、それぞれ、L<LかつL<Lなる関係を満足するよう設定されている。これにより、LおよびLをより小さくすることができ、第1の質量部21、22の回転角度をより大きくすることができ、第2の質量部23の回転角度をさらに大きくすることができる。
この場合、第2の質量部23の最大回転角度が、20°以上となるように構成されるのが好ましい。
【0046】
また、このように、LおよびLを小さくすることにより、第1の質量部21、22と各電極32との間の距離をより小さくすることができ、第1の質量部21、22と各電極32に印加する交流電圧をさらに小さくすることができる。
これらによって、第1の質量部21、22の低電圧駆動と、第2の質量部23の大回転角度での振動(回動)とを実現することができる。
【0047】
このため、このような光学デバイス1を、例えばレーザープリンタや、走査型共焦点レーザー顕微鏡等の装置に用いられる光スキャナに適用した場合には、より容易に装置の小型化を図ることができる。
なお、前述したように、本実施形態では、LとLとはほぼ等しく設定されているが、LとLとが異なっていてもよいことは言うまでもない。
【0048】
ところで、このような質量部21、22、23よりなる振動系(2自由度振動系)では、第1の質量部21、22および第2の質量部23の振幅(振れ角)と、印加する交流電圧の周波数との間に、図5に示すような周波数特性が存在している。
すなわち、かかる振動系は、第1の質量部21、22の振幅と、第2の質量部23の振幅とが大きくなる2つの共振周波数fm[kHz]、fm[kHz](ただし、fm<fm)と、第1の質量部21、22の振幅がほぼ0となる、1つの反共振周波数fm[kHz]とを有している。
【0049】
この振動系では、第1の質量部21、22と電極32との間に印加する交流電圧の周波数Fが、2つの共振周波数のうち低いもの、すなわち、fmとほぼ等しくなるように設定するのが好ましい。これにより、第1の質量部21、22の振幅を抑制しつつ、第2の質量部23の振れ角(回転角度)を大きくすることができる。
なお、本明細書中では、F[kHz]とfm[kHz]とがほぼ等しいとは、(fm−1)≦F≦(fm+1)の条件を満足することを意味する。
【0050】
第1の質量部21、22の平均厚さは、それぞれ、1〜1500μmであるのが好ましく、10〜300μmであるのがより好ましい。
第2の質量部23の平均厚さは、1〜1500μmであるのが好ましく、10〜300μmであるのがより好ましい。
第1の弾性連結部25のばね定数kは、1×10−4〜1×10Nm/radであるのが好ましく、1×10−2〜1×10Nm/radであるのがより好ましく、1×10−1〜1×10Nm/radであるのがさらに好ましい。これにより、第2の質量部23の回転角度(振れ角)をより大きくすることができる。
【0051】
一方、第2の弾性連結部26のばね定数kは、1×10−4〜1×10Nm/radであるのが好ましく、1×10−2〜1×10Nm/radであるのがより好ましく、1×10−1〜1×10Nm/radであるのがさらに好ましい。これにより、第1の質量部21、22の振れ角を抑制しつつ、第2の質量部23の振れ角をより大きくすることができる。
また、第1の弾性連結部25のばね定数kと第2の弾性連結部26のばね定数をkとは、k>kなる関係を満足するのが好ましい。これにより、第1の質量部21、22の振れ角を抑制しつつ、第2の質量部23の回転角度(振れ角)をより大きくすることができる。
【0052】
さらに、第1の質量部21、22の慣性モーメントをJとし、第2の質量部23の慣性モーメントをJとしたとき、JとJとは、J≦Jなる関係を満足することが好ましく、J<Jなる関係を満足することがより好ましい。これにより、第1の質量部21、22の振れ角を抑制しつつ、第2の質量部23の回転角度(振れ角)をより大きくすることができる。
【0053】
ところで、第1の質量部21、22と第1の弾性連結部25、25とからなる第1の振動系の固有振動数ωは、第1の質量部21、22の慣性モーメントJと、第1の弾性連結部25のばね定数kとにより、ω=(k/J1/2によって与えられる。一方、第2の質量部23と第2の弾性連結部26、26とからなる第2の振動系の固有振動数ωは、第2の質量部23の慣性モーメントJと、第2の弾性連結部26のばね定数kとにより、ω=(k/J1/2によって与えられる。
【0054】
このようにして求められる第1の振動系の固有振動数ωと第2の振動系の固有振動数ωとは、ω>ωなる関係を満足するのが好ましい。これにより、第1の質量部21、22の振れ角を抑制しつつ、第2の質量部23の回転角度(振れ角)をより大きくすることができる。
なお、本実施形態の振動系は、一対の第1の弾性連結部25および一対の第2の弾性連結部26のうち少なくとも1つの内部にピエゾ抵抗素子を設けることにより、例えば、回転角度および回転周波数を検出したりすることができ、また、その検出結果を、第2の質量部23の姿勢の制御に利用することができる。
【0055】
ここで、接合膜11について説明する。
図9は、本実施形態にかかる光学デバイスが備える接合膜のエネルギー付与前の状態を示す部分拡大図、図10は、本実施形態にかかる光学デバイスが備える接合膜のエネルギー付与後の状態を示す部分拡大図である。
接合膜11のエネルギーを付与する前の状態は、図9に示すように、シロキサン(Si−O)結合302を含み、ランダムな原子構造を有するSi骨格301と、このSi骨格301に結合する脱離基303とを含むものである。
そして、この接合膜11にエネルギーを付与すると、図10に示すように、一部の脱離基303がSi骨格301から脱離し、代わりに活性手304が生じる。これにより、接合膜11の表面に接着性が発現する。このようにして接着性が発現した接合膜11により、支持部24とヒートシンク10との間が接合されている。
【0056】
このような接合膜11は、前述したように、十分に薄くしても、第2の質量部23とヒートシンク10とを強固に接合することができる。その結果、支持部24とヒートシンク10との間の熱抵抗を小さくすることができ、光反射部29で生じた熱を、第2の弾性連結部26、第1の質量部21、22、第1の弾性連結部25および支持部24を通じてヒートシンク10へ、より効率よく伝導し、外部へ放熱することができる。
【0057】
また、接合膜11は、化学的に安定なSi骨格301の作用により、耐熱性に優れている。このため、光学デバイス1が高温下に曝されたとしても、接合膜11の変質・劣化を確実に防止することができ、支持部24からヒートシンク10が剥がれてしまうのを確実に防止することができる。
また、このような接合膜11は、流動性を有しない固体状のものである。このため、従来の流動性を有する液状または粘液状の接着剤に比べて、接着層(接合膜11)の厚さや形状がほとんど変化しない。このため、接合膜11を用いて製造された光学デバイス1の寸法精度は、従来に比べて格段に高いものとなる。これにより、図1に示す2つの支持部24にそれぞれ設けられた接合膜11の熱抵抗のバランスが向上する。その結果、2つの第1の弾性連結部25間、2つの第1の質量部21、22間および2つの第2の弾性連結部26間に、それぞれ不本意な温度差が生じてしまい、光学デバイス1の動作特性が低下するのを防止することができる。
さらに、接着剤の硬化に要する時間が不要になるため、短時間で強固な接合を可能にするものである。
【0058】
このような接合膜11としては、特に、接合膜11を構成する全原子からH原子を除いた原子のうち、Si原子の含有率とO原子の含有率の合計が、10〜90原子%程度であるのが好ましく、20〜80原子%程度であるのがより好ましい。Si原子とO原子とが、前記範囲の含有率で含まれていれば、接合膜11は、Si原子とO原子とが強固なネットワークを形成し、接合膜11自体がより強固なものとなる。また、かかる接合膜11は、接合される各部に対して特に高い接合強度を示すとともに、熱伝導性に優れたものとなる。
【0059】
また、接合膜11中のSi原子とO原子の存在比は、3:7〜7:3程度であるのが好ましく、4:6〜6:4程度であるのがより好ましい。Si原子とO原子の存在比を前記範囲内になるよう設定することにより、接合膜11の安定性が高くなり、各部をより強固に接合することができるようになる。
なお、接合膜11中のSi骨格301の結晶化度は、45%以下であるのが好ましく、40%以下であるのがより好ましい。これにより、Si骨格301は十分にランダムな原子構造を含むものとなる。このため、前述した化学的安定性、耐熱性等のSi骨格301の特性が顕在化し、接合膜11の寸法精度および接着性がより優れたものとなる。
【0060】
また、Si骨格301に結合する脱離基303は、前述したように、Si骨格301から脱離することによって、接合膜11に活性手304を生じさせるよう振る舞うものである。したがって、脱離基303には、エネルギーを付与されることによって、比較的簡単に、かつ均一に脱離するものの、エネルギーが付与されないときには、脱離しないようSi骨格301に確実に結合しているものである必要がある。
【0061】
かかる観点から、脱離基303には、H原子、B原子、C原子、N原子、O原子、P原子、S原子およびハロゲン系原子、またはこれらの各原子を含み、これらの各原子がSi骨格301に結合するよう配置された原子団からなる群から選択される少なくとも1種で構成されたものが好ましく用いられる。かかる脱離基303は、エネルギーの付与による結合/脱離の選択性に比較的優れている。このため、このような脱離基303は、上記のような必要性を十分に満足し得るものとなり、接合膜11の接着性をより高度なものとすることができる。
【0062】
なお、上記のような各原子がSi骨格301に結合するよう配置された原子団(基)としては、例えば、メチル基、エチル基のようなアルキル基、ビニル基、アリル基のようなアルケニル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、ニトロ基、ハロゲン化アルキル基、メルカプト基、スルホン酸基、シアノ基、イソシアネート基等が挙げられる。
これらの各基の中でも、脱離基303は、特にアルキル基であるのが好ましい。アルキル基は化学的な安定性が高いため、アルキル基を含む接合膜11は、耐候性および耐薬品性に優れたものとなる。
【0063】
このような特徴を有する接合膜11の構成材料としては、例えば、ポリオルガノシロキサンのようなシロキサン結合を含む重合物等が挙げられる。
ポリオルガノシロキサンで構成された接合膜11は、それ自体が優れた機械的特性を有している。また、多くの材料に対して特に優れた接着性を示すものである。したがって、ポリオルガノシロキサンで構成された接合膜11は、支持部24とヒートシンク10との間をより強固に接合することができる。
また、ポリオルガノシロキサンは、通常、撥水性(非接着性)を示すが、エネルギーを付与されることにより、容易に有機基を脱離させることができ、親水性に変化し、接着性を発現するが、この非接着性と接着性との制御を容易かつ確実に行えるという利点を有する。
【0064】
また、ポリオルガノシロキサンの中でも、特に、オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするものが好ましい。オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とする接合膜11は、接着性に特に優れることから、本発明の光学デバイスに対して特に好適に適用できるものである。また、オクタメチルトリシロキサンを主成分とする原料は、常温で液状をなし、適度な粘度を有するため、取り扱いが容易であるという利点もある。
【0065】
また、接合膜11の平均厚さは、1〜1000nm程度であるのが好ましく、2〜800nm程度であるのがより好ましい。接合膜11の平均厚さを前記範囲内とすることにより、支持部24とヒートシンク10との間の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、これらをより強固に接合することができる。
すなわち、接合膜11の平均厚さが前記下限値を下回った場合は、十分な接合強度が得られないおそれがある。一方、接合膜11の平均厚さが前記上限値を上回った場合は、光学デバイス1の寸法精度が著しく低下するおそれがある。
【0066】
さらに、接合膜11の平均厚さが前記範囲内であれば、接合膜11にある程度の形状追従性が確保される。このため、例えば、支持部24の接合面(接合膜11に隣接する面)に凹凸が存在している場合でも、その凹凸の高さにもよるが、凹凸の形状に追従するように接合膜11を被着させることができる。その結果、接合膜11は、凹凸を吸収して、その表面に生じる凹凸の高さを緩和することができる。そして、接合膜11を備える支持部24に対してヒートシンク10を貼り合わせた際に、これらの密着性をより高めることができる。
なお、上記のような形状追従性の程度は、接合膜11の厚さが厚いほど顕著になる。したがって、形状追従性を十分に確保するためには、接合膜11の厚さをできるだけ厚くすればよい。
【0067】
次に、接合膜11を作製する方法、およびこの方法を含む光学デバイス1の製造方法について説明する。
図6ないし図8は、それぞれ、第1実施形態の光学デバイスの製造方法を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下では、説明の便宜上、図6ないし図8中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0068】
[1] まず、図6(a)に示すように、シリコン基板5を用意する。
次に、シリコン基板5の一方の面に、図6(b)に示すように、支持部24と各質量部21、22、23との形状に対応するように、例えば、アルミニウム等により金属マスク6を形成する。
そして、図6(c)に示すように、シリコン基板5の他方の面に、フォトレジストを塗布し、露光、現像を行う。これにより、図6(c)に示すように、支持部24の形状に対応するように、レジストマスク7を形成する。なお、レジストマスク7の形成は、金属マスク6の形成よりも先に行ってもよい。
金属マスク6の形成方法としては、真空蒸着、スパッタリング(低温スパッタリング)、イオンプレーティング等の乾式メッキ法、電解メッキ、無電解メッキ等の湿式メッキ法、溶射法、金属箔の接合等が挙げられる。なお、以下の各工程における金属膜の成膜においても、同様の方法を用いることができる。
【0069】
次に、このレジストマスク7を介して、シリコン基板5の前記他方の面をエッチングした後、レジストマスク7を除去する。これにより、図6(d)に示すように、支持部24に対応する部分以外の領域に凹部51が形成される。
エッチング方法としては、例えば、プラズマエッチング、リアクティブイオンエッチング、ビームエッチング、光アシストエッチング等の物理的エッチング法、ウェットエッチング等の化学的エッチング法等のうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、以下の各工程におけるエッチングにおいても、同様の方法を用いることができる。
次に、図6(e)に示すように、金属マスク6を介して、シリコン基板5の前記一方の面側を、前記凹部51に対応する部分が貫通するまでエッチングする。
【0070】
[2] 次に、図7(a)に示すように、金属マスク6を除去した後、エッチング後のシリコン基板5上、すなわち基体2上に接合膜11を形成する。
以下、基体2上に接合膜11を形成する方法について説明する。
このような接合膜11は、いかなる方法で作製されたものでもよく、プラズマ重合法、CVD法、PVD法のような各種気相成膜法や、各種液相成膜法等により作製した膜にエネルギーを付与することによって作製することができるが、これらの中でも、エネルギー付与前の膜として、プラズマ重合法により作製された膜を用いるのが好ましい。プラズマ重合法によれば、最終的に、緻密で均質な接合膜11を効率よく作製することができる。これにより、プラズマ重合法で作製された接合膜11は、支持部24とヒートシンク10との間を特に強固に接合するとともに、これらの間の熱抵抗をより低減することができる。また、プラズマ重合法で作製され、エネルギーが付与される前の接合膜11は、エネルギーが付与されて活性化された状態を比較的長時間にわたって維持することができる。このため、光学デバイス1の製造過程の簡素化、効率化を図ることができる。
ここでは、接合膜11をプラズマ重合法にて形成する方法について詳述するが、接合膜11の形成方法を説明するのに先立って、接合膜11を作製する際に用いるプラズマ重合装置について説明し、その後、接合膜11の形成方法について説明する。
【0071】
図11は、プラズマ重合装置を模式的に示す縦断面図である。なお、以下の説明では、図11中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
図11に示すプラズマ重合装置100は、チャンバー101と、基体2を支持する第1の電極130と、第2の電極140と、各電極130、140間に高周波電圧を印加する電源回路180と、チャンバー101内にガスを供給するガス供給部190と、チャンバー101内のガスを排気する排気ポンプ170とを備えている。これらの各部のうち、第1の電極130および第2の電極140がチャンバー101内に設けられている。以下、各部について詳細に説明する。
チャンバー101は、内部の気密を保持し得る容器であり、内部を減圧(真空)状態にして使用されるため、内部と外部との圧力差に耐え得る耐圧性能を有するものとされる。
【0072】
図11に示すチャンバー101は、軸線が水平方向に沿って配置されたほぼ円筒形をなすチャンバー本体と、チャンバー本体の左側開口部を封止する円形の側壁と、右側開口部を封止する円形の側壁とで構成されている。
チャンバー101の上方には供給口103が、下方には排気口104が、それぞれ設けられている。そして、供給口103にはガス供給部190が接続され、排気口104には排気ポンプ170が接続されている。
なお、本実施形態では、チャンバー101は、導電性の高い金属材料で構成されており、接地線102を介して電気的に接地されている。
【0073】
第1の電極130は、板状をなしており、基体2を支持している。
この第1の電極130は、チャンバー101の側壁の内壁面に、鉛直方向に沿って設けられており、これにより、第1の電極130は、チャンバー101を介して電気的に接地されている。なお、第1の電極130は、図11に示すように、チャンバー本体と同心状に設けられている。
【0074】
第1の電極130の基体2を支持する面には、静電チャック(吸着機構)139が設けられている。
この静電チャック139により、図11に示すように、基体2を鉛直方向に沿って支持することができる。また、基体2に多少の反りがあっても、静電チャック139に吸着させることにより、その反りを矯正した状態で基体2をプラズマ処理に供することができる。
【0075】
第2の電極140は、基体2を介して、第1の電極130と対向して設けられている。なお、第2の電極140は、チャンバー101の側壁の内壁面から離間した(絶縁された)状態で設けられている。
この第2の電極140には、配線184を介して高周波電源182が接続されている。また、配線184の途中には、マッチングボックス(整合器)183が設けられている。これらの配線184、高周波電源182およびマッチングボックス183により、電源回路180が構成されている。
このような電源回路180によれば、第1の電極130は接地されているので、第1の電極130と第2の電極140との間に高周波電圧が印加される。これにより、第1の電極130と第2の電極140との間隙には、高い周波数で向きが反転する電界が誘起される。
【0076】
ガス供給部190は、チャンバー101内に所定のガスを供給するものである。
図11に示すガス供給部190は、液状の膜材料(原料液)を貯留する貯液部191と、液状の膜材料を気化してガス状に変化させる気化装置192と、キャリアガスを貯留するガスボンベ193とを有している。また、これらの各部とチャンバー101の供給口103とが、それぞれ配管194で接続されており、ガス状の膜材料(原料ガス)とキャリアガスとの混合ガスを、供給口103からチャンバー101内に供給するように構成されている。
【0077】
貯液部191に貯留される液状の膜材料は、プラズマ重合装置100により、重合して基体2の表面に重合膜を形成する原材料となるものである。
このような液状の膜材料は、気化装置192により気化され、ガス状の膜材料(原料ガス)となってチャンバー101内に供給される。なお、原料ガスについては、後に詳述する。
ガスボンベ193に貯留されるキャリアガスは、電界の作用により放電し、およびこの放電を維持するために導入するガスである。このようなキャリアガスとしては、例えば、Arガス、Heガス等が挙げられる。
【0078】
また、チャンバー101内の供給口103の近傍には、拡散板195が設けられている。
拡散板195は、チャンバー101内に供給される混合ガスの拡散を促進する機能を有する。これにより、混合ガスは、チャンバー101内に、ほぼ均一の濃度で分散することができる。
【0079】
排気ポンプ170は、チャンバー101内を排気するものであり、例えば、油回転ポンプ、ターボ分子ポンプ等で構成される。このようにチャンバー101内を排気して減圧することにより、ガスを容易にプラズマ化することができる。また、大気雰囲気との接触による基体2の汚染・酸化等を防止するとともに、プラズマ処理による反応生成物をチャンバー101内から効果的に除去することができる。
また、排気口104には、チャンバー101内の圧力を調整する圧力制御機構171が設けられている。これにより、チャンバー101内の圧力が、ガス供給部160の動作状況に応じて、適宜設定される。
【0080】
次に、基体2上に、接合膜11を形成する方法について説明する。
[2−1]まず、基体2をプラズマ重合装置100のチャンバー101内に収納して封止状態とした後、排気ポンプ170の作動により、チャンバー101内を減圧状態とする。
次に、ガス供給部190を作動させ、チャンバー101内に原料ガスとキャリアガスの混合ガスを供給する。供給された混合ガスは、チャンバー101内に充填される。
【0081】
ここで、混合ガス中における原料ガスの占める割合(混合比)は、原料ガスやキャリアガスの種類や目的とする成膜速度等によって若干異なるが、例えば、混合ガス中の原料ガスの割合を20〜70%程度に設定するのが好ましく、30〜60%程度に設定するのがより好ましい。これにより、重合膜の形成(成膜)の条件の最適化を図ることができる。
また、供給するガスの流量は、ガスの種類や目的とする成膜速度、膜厚等によって適宜決定され、特に限定されるものではないが、通常は、原料ガスおよびキャリアガスの流量を、それぞれ、1〜100ccm程度に設定するのが好ましく、10〜60ccm程度に設定するのがより好ましい。
【0082】
次いで、電源回路180を作動させ、一対の電極130、140間に高周波電圧を印加する。これにより、一対の電極130、140間に存在するガスの分子が電離し、プラズマが発生する。このプラズマのエネルギーにより原料ガス中の分子が重合し、重合物が基体2上に付着・堆積する。これにより、図7(a)に示すように、基体2上にプラズマ重合膜で構成された接合膜11が形成される。
【0083】
原料ガスとしては、例えば、メチルシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、メチルフェニルシロキサンのようなオルガノシロキサン等が挙げられる。
このような原料ガスを用いて得られるプラズマ重合膜、すなわち接合膜11は、これらの原料が重合してなるもの(重合物)、すなわちポリオルガノシロキサンで構成されることとなる。
【0084】
プラズマ重合の際、一対の電極130、140間に印加する高周波の周波数は、特に限定されないが、1kHz〜100MHz程度であるのが好ましく、10〜60MHz程度であるのがより好ましい。
また、高周波の出力密度は、特に限定されないが、0.01〜10W/cm程度であるのが好ましく、0.1〜1W/cm程度であるのがより好ましい。
また、成膜時のチャンバー101内の圧力は、133.3×10−5〜1333Pa(1×10−5〜10Torr)程度であるのが好ましく、133.3×10−4〜133.3Pa(1×10−4〜1Torr)程度であるのがより好ましい。
【0085】
原料ガス流量は、0.5〜200sccm程度であるのが好ましく、1〜100sccm程度であるのがより好ましい。一方、キャリアガス流量は、5〜750sccm程度であるのが好ましく、10〜500sccm程度であるのがより好ましい。
処理時間は、1〜10分程度であるのが好ましく、4〜7分程度であるのがより好ましい。なお、成膜される接合膜11の厚さは、主に、この処理時間に比例する。したがって、この処理時間を調整することのみで、接合膜11の厚さを容易に調整することができる。このため、支持部24とヒートシンク10との間の距離を厳密に制御することができる。
【0086】
また、基体2の温度は、25℃以上であるのが好ましく、25〜100℃程度であるのがより好ましい。
以上のようにして、接合膜11を得ることができる。
なお、基体2の上面のうち、部分的に接合膜11を形成する場合、例えば、その領域に対応する形状の窓部を有するマスクを用い、このマスク上から接合膜11を成膜するようにすればよい。
【0087】
[2−2]次に、基体2上に形成した接合膜11に対してエネルギーを付与する。
エネルギーが付与されると、接合膜11では、図9に示す脱離基303がSi骨格301から脱離する。そして、脱離基303が脱離した後には、図10に示すように、接合膜11の表面および内部に活性手304が生じる。これにより、接合膜11の表面に、ヒートシンク10との接着性が発現する。
【0088】
ここで、接合膜11に付与するエネルギーは、いかなる方法で付与されてもよく、例えば、(I)接合膜11にエネルギー線を照射する方法、(II)接合膜11を加熱する方法、(III)接合膜11に圧縮力を付与する(物理的エネルギーを付与する)方法が代表的に挙げられ、この他、プラズマに曝す(プラズマエネルギーを付与する)方法、オゾンガスに曝す(化学的エネルギーを付与する)方法等が挙げられる。
このうち、接合膜11にエネルギーを付与する方法として、特に、上記(I)、(II)、(III)の各方法のうち、少なくとも1つの方法を用いるのが好ましい。これらの方法は、接合膜11に対して比較的簡単に効率よくエネルギーを付与することができるので、エネルギー付与方法として好適である。
【0089】
以下、上記(I)、(II)、(III)の各方法について詳述する。
(I)接合膜11にエネルギー線を照射する場合、エネルギー線としては、例えば、紫外線、レーザー光のような光、X線、γ線、電子線、イオンビームのような粒子線等、またはこれらのエネルギー線を組み合わせたものが挙げられる。
これらのエネルギー線の中でも、特に、波長150〜300nm程度の紫外線を用いるのが好ましい(図7(b)参照)。かかる紫外線によれば、付与されるエネルギー量が最適化されるので、接合膜11中のSi骨格301が必要以上に破壊されるのを防止しつつ、Si骨格301と脱離基303との間の結合を選択的に切断することができる。これにより、接合膜11の特性(機械的特性、化学的特性等)が低下するのを防止しつつ、接合膜11に接着性を発現させることができる。
また、紫外線によれば、広い範囲をムラなく短時間に処理することができるので、脱離基303の脱離を効率よく行わせることができる。さらに、紫外線には、例えば、UVランプ等の簡単な設備で発生させることができるという利点もある。
なお、紫外線の波長は、より好ましくは、160〜200nm程度とされる。
【0090】
また、UVランプを用いる場合、その出力は、接合膜11の面積に応じて異なるが、1mW/cm〜1W/cm程度であるのが好ましく、5mW/cm〜50mW/cm程度であるのがより好ましい。なお、この場合、UVランプと接合膜11との離間距離は、3〜3000mm程度とするのが好ましく、10〜1000mm程度とするのがより好ましい。
【0091】
また、紫外線を照射する時間は、接合膜11の表面付近の脱離基303を脱離し得る程度の時間、すなわち、接合膜11の内部の脱離基303を多量に脱離させない程度の時間とするのが好ましい。具体的には、紫外線の光量、接合膜11の構成材料等に応じて若干異なるものの、0.5〜30分程度であるのが好ましく、1〜10分程度であるのがより好ましい。
【0092】
また、紫外線は、時間的に連続して照射されてもよいが、間欠的(パルス状)に照射されてもよい。
一方、レーザー光としては、例えば、エキシマレーザー(フェムト秒レーザー)、Nd−YAGレーザー、Arレーザー、COレーザー、He−Neレーザー等が挙げられる。
【0093】
また、接合膜11に対するエネルギー線の照射は、いかなる雰囲気中で行うようにしてもよく、具体的には、大気、酸素のような酸化性ガス雰囲気、水素のような還元性ガス雰囲気、窒素、アルゴンのような不活性ガス雰囲気、またはこれらの雰囲気を減圧した減圧(真空)雰囲気等が挙げられるが、特に大気雰囲気中で行うのが好ましい。これにより、雰囲気を制御することに手間やコストをかける必要がなくなり、エネルギー線の照射をより簡単に行うことができる。
このように、エネルギー線を照射する方法によれば、接合膜11に対して選択的にエネルギーを付与することが容易に行えるため、例えば、エネルギーの付与による基体2の変質・劣化を防止することができる。
【0094】
また、エネルギー線を照射する方法によれば、付与するエネルギーの大きさを、精度よく簡単に調整することができる。このため、接合膜11から脱離する脱離基303の脱離量を調整することが可能となる。このように脱離基303の脱離量を調整することにより、接合膜11とヒートシンク10との間の接合強度を容易に制御することができる。
すなわち、脱離基303の脱離量を多くすることにより、接合膜11の表面および内部に、より多くの活性手が生じるため、接合膜11に発現する接着性をより高めることができる。一方、脱離基303の脱離量を少なくすることにより、接合膜11の表面および内部に生じる活性手を少なくし、接合膜11に発現する接着性を抑えることができる。
なお、付与するエネルギーの大きさを調整するためには、例えば、エネルギー線の種類、エネルギー線の出力、エネルギー線の照射時間等の条件を調整すればよい。
さらに、エネルギー線を照射する方法によれば、短時間で大きなエネルギーを付与することができるので、エネルギーの付与をより効率よく行うことができる。
【0095】
(II)接合膜11を加熱する場合(図示せず)、加熱温度を25〜100℃程度に設定するのが好ましく、50〜100℃程度に設定するのがより好ましい。かかる範囲の温度で加熱すれば、基体2等が熱によって変質・劣化するのを確実に防止しつつ、接合膜11を確実に活性化させることができる。
また、加熱時間は、接合膜11の分子結合を切断し得る程度の時間であればよく、具体的には、加熱温度が前記範囲内であれば、1〜30分程度であるのが好ましい。
【0096】
また、接合膜11は、いかなる方法で加熱されてもよいが、例えば、ヒータを用いる方法、赤外線を照射する方法、火炎に接触させる方法等の各種加熱方法で加熱することができる。
なお、接合される部材間の熱膨張率がほぼ等しい場合には、上記のような条件で接合膜11を加熱すればよいが、これらの熱膨張率が互いに異なっている場合には、後に詳述するが、できるだけ低温下で接合を行うのが好ましい。接合を低温下で行うことにより、接合界面に発生する熱応力のさらなる低減を図ることができる。
【0097】
(III)本実施形態では、支持部24とヒートシンク10とを貼り合わせる前に、接合膜11に対してエネルギーを付与する場合について説明しているが、かかるエネルギーの付与は、これらを重ね合わせた後に行われるようにしてもよい。すなわち、基体2上に接合膜11を形成した後、エネルギーを付与する前に、接合膜11とヒートシンク10とが密着するように、これらを重ね合わせて、仮接合体とする。そして、この仮接合体中の接合膜11に対してエネルギーを付与することにより、接合膜11に接着性が発現し、接合膜11を介して支持部24とヒートシンク10とがそれぞれ接合(接着)される。
【0098】
この場合、仮接合体中の接合膜11に対するエネルギーの付与は、前述した(I)、(II)の方法でもよいが、接合膜11に圧縮力を付与する方法を用いてもよい。
この場合、接合される部材同士が互いに近づく方向に、0.2〜10MPa程度の圧力で圧縮するのが好ましく、1〜5MPa程度の圧力で圧縮するのがより好ましい。これにより、単に圧縮するのみで、接合膜11に対して適度なエネルギーを簡単に付与することができ、接合膜11に十分な接着性が発現する。なお、この圧力が前記上限値を上回っても構わないが、接合される部材の各構成材料によっては、部材に損傷等が生じるおそれがある。
【0099】
また、圧縮力を付与する時間は、特に限定されないが、10秒〜30分程度であるのが好ましい。なお、圧縮力を付与する時間は、圧縮力の大きさに応じて適宜変更すればよい。具体的には、圧縮力の大きさが大きいほど、圧縮力を付与する時間を短くすることができる。
なお、仮接合体の状態では、接合される部材間は、まだ接合されていないので、これらの相対的な位置を容易に調整する(ずらす)ことができる。したがって、一旦、仮接合体を得た後、接合される部材の相対位置を微調整することにより、最終的に得られる光学デバイス1の組み立て精度(寸法精度)を確実に高めることができる。
【0100】
以上のような(I)、(II)、(III)の各方法により、接合膜11にエネルギーを付与することができる。
なお、接合膜11の全面にエネルギーを付与するようにしてもよいが、一部の領域のみに付与するようにしてもよい。このようにすれば、接合膜11の接着性が発現する領域を制御することができ、この領域の面積・形状等を適宜調整することによって、接合界面に発生する応力の局所集中を緩和することができる。これにより、例えば、接合される部材間の熱膨張率差が大きい場合でも、これらを確実に接合することができる。
【0101】
ここで、前述したように、エネルギーが付与される前の状態の接合膜11は、図9に示すように、Si骨格301と脱離基303とを有している。かかる接合膜11にエネルギーが付与されると、脱離基303(本実施形態では、メチル基)がSi骨格301から脱離する。これにより、図10に示すように、接合膜11の表面35に活性手304が生じ、活性化される。その結果、接合膜11の表面に接着性が発現する。
【0102】
ここで、接合膜11を「活性化させる」とは、接合膜11の表面35および内部の脱離基303が脱離して、Si骨格301において終端化されていない結合手(以下、「未結合手」または「ダングリングボンド」とも言う。)が生じた状態や、この未結合手が水酸基(OH基)によって終端化された状態、または、これらの状態が混在した状態のことを言う。
【0103】
したがって、活性手304とは、未結合手(ダングリングボンド)、または未結合手が水酸基によって終端化されたもののことを言う。このような活性手304によれば、被着体に対して、特に強固な接合が可能となる。
なお、後者の状態(未結合手が水酸基によって終端化された状態)は、例えば、接合膜11に対して大気雰囲気中でエネルギー線を照射することにより、大気中の水分が未結合手を終端化することによって、容易に生成することができる。
【0104】
[2−3]次に、ヒートシンク10(被着体)を用意する。そして、図7(c)に示すように、接着性が発現してなる接合膜11とヒートシンク10とが密着するように、これらを貼り合わせる。これにより、図7(d)に示すように、基体2(支持部24)とヒートシンク10とが、接合膜11を介して接合(接着)される。
ここで、上記のようにして接合される基体2とヒートシンク10の各熱膨張率は、ほぼ等しいのが好ましい。基体2とヒートシンク10の各熱膨張率がほぼ等しければ、これらを貼り合せた際に、その接合界面に熱膨張に伴う応力が発生し難くなる。その結果、最終的に得られる光学デバイス1において、剥離等の不具合が発生するのを確実に防止することができる。
また、基体2とヒートシンク10の各熱膨張率が互いに異なる場合でも、これらを貼り合わせる際の条件を以下のように最適化することにより、基体2とヒートシンク10とを高い寸法精度で強固に接合することができる。
【0105】
すなわち、基体2とヒートシンク10の各熱膨張率が互いに異なっている場合には、できるだけ低温下で接合を行うのが好ましい。接合を低温下で行うことにより、接合界面に発生する熱応力のさらなる低減を図ることができる。
具体的には、基体2とヒートシンク10との熱膨張率差にもよるが、基体2とヒートシンク10の温度が25〜50℃程度である状態下で、これらを貼り合わせるのが好ましく、25〜40℃程度である状態下で貼り合わせるのがより好ましい。このような温度範囲であれば、基体2とヒートシンク10との熱膨張率差がある程度大きくても、接合界面に発生する熱応力を十分に低減することができる。その結果、光学デバイス1における反りや剥離等の発生を確実に防止することができる。
【0106】
また、この場合、基体2とヒートシンク10との間の熱膨張係数の差が、5×10−5/K以上あるような場合には、上記のようにして、できるだけ低温下で接合を行うことが特に推奨される。なお、接合膜11を用いることにより、上述したような低温下でも、基体2とヒートシンク10とを強固に接合することができる。
また、基体2とヒートシンク10は、互いに剛性が異なっているのが好ましい。これにより、基体2とヒートシンク10とをより強固に接合することができる。
【0107】
なお、基体2の接合膜11を成膜する領域には、あらかじめ、接合膜11との密着性を高める表面処理を施すのが好ましい。これにより、基体2と接合膜11との間の接合強度をより高めることができ、最終的には、基体2とヒートシンク10との接合強度を高めることができる。
かかる表面処理としては、例えば、スパッタリング処理、ブラスト処理のような物理的表面処理、酸素プラズマ、窒素プラズマ等を用いたプラズマ処理、コロナ放電処理、エッチング処理、電子線照射処理、紫外線照射処理、オゾン暴露処理のような化学的表面処理、または、これらを組み合わせた処理等が挙げられる。このような処理を施すことにより、基体2の接合膜11を成膜する領域を清浄化するとともに、該領域を活性化させることができる。
また、これらの各表面処理の中でもプラズマ処理を用いることにより、接合膜11を形成するために、基体2の表面を特に最適化することができる。
なお、表面処理を施す基体2が、樹脂材料(高分子材料)で構成されている場合には、特に、コロナ放電処理、窒素プラズマ処理等が好適に用いられる。
【0108】
また、基体2の構成材料によっては、上記のような表面処理を施さなくても、接合膜11の接合強度が十分に高くなるものがある。このような効果が得られる基体2の構成材料としては、例えば、各種金属系材料、各種シリコン系材料、各種ガラス系材料等を主材料とするものが挙げられる。
このような材料で構成された基体2は、その表面が酸化膜で覆われており、この酸化膜の表面には、比較的活性の高い水酸基が結合している。したがって、このような材料で構成された基体2を用いると、上記のような表面処理を施さなくても、基体2と接合膜11とを強固に密着させることができる。
なお、この場合、基体2の全体が上記のような材料で構成されていなくてもよく、少なくとも接合膜11を成膜する領域の表面付近が上記のような材料で構成されていればよい。
【0109】
さらに、基体2の接合膜11を成膜する領域に、以下の基や物質を有する場合には、上記のような表面処理を施さなくても、基体2と接合膜11との接合強度を十分に高くすることができる。
このような基や物質としては、例えば、水酸基、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、ニトロ基、イミダゾール基のような官能基、ラジカル、開環分子、2重結合、3重結合のような不飽和結合、F、Cl、Br、Iのようなハロゲン、過酸化物からなる群から選択される少なくとも1つの基または物質が挙げられる。
また、このようなものを有する表面が得られるように、上述したような各種表面処理を適宜選択して行うのが好ましい。
【0110】
また、表面処理に代えて、基体2の少なくとも接合膜11を成膜する領域には、あらかじめ、中間層を形成しておくのが好ましい。
この中間層は、いかなる機能を有するものであってもよく、例えば、接合膜11との密着性を高める機能、クッション性(緩衝機能)、応力集中を緩和する機能等を有するものが好ましい。このような中間層を介して基体2上に接合膜11を成膜することにより、基体2と接合膜11との接合強度を高め、信頼性の高い接合体、すなわち光学デバイス1を得ることができる。
【0111】
かかる中間層の構成材料としては、例えば、アルミニウム、チタンのような金属系材料、金属酸化物、シリコン酸化物のような酸化物系材料、金属窒化物、シリコン窒化物のような窒化物系材料、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボンのような炭素系材料、シランカップリング剤、チオール系化合物、金属アルコキシド、金属−ハロゲン化合物のような自己組織化膜材料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0112】
また、これらの各材料で構成された中間層の中でも、酸化物系材料で構成された中間層によれば、基体2と接合膜11との間の接合強度を特に高めることができる。
一方、ヒートシンク10の接合膜11と接触する領域にも、あらかじめ、接合膜11との密着性を高める表面処理を施すのが好ましい。これにより、ヒートシンク10と接合膜11との間の接合強度をより高めることができる。
なお、この表面処理には、基体2に対して施す前述したような表面処理と同様の処理を適用することができる。
【0113】
また、表面処理に代えて、ヒートシンク10の接合膜11と接触する領域に、あらかじめ、接合膜11との密着性を高める機能を有する中間層を形成しておくのが好ましい。これにより、ヒートシンク10と接合膜11との間の接合強度をより高めることができる。
かかる中間層の構成材料には、前述の基体2に形成する中間層の構成材料と同様のものを用いることができる。
【0114】
ここで、本工程において、接合膜11を備える基体2と、ヒートシンク10とが接合されるメカニズムについて説明する。
例えば、ヒートシンク10の基体2との接合に供される領域に、水酸基が露出している場合を例に説明すると、本工程において、接合膜11とヒートシンク10とが接触するように、基体2とヒートシンク10とを貼り合わせたとき、接合膜11の表面35に存在する水酸基と、ヒートシンク10の前記領域に存在する水酸基とが、水素結合によって互いに引き合い、水酸基同士の間に引力が発生する。この引力によって、接合膜11を備える基体2とヒートシンク10とが接合されると推察される。
【0115】
また、この水素結合によって互いに引き合う水酸基同士は、温度条件等によって、脱水縮合を伴って表面から切断される。その結果、接合膜11とヒートシンク10との接触界面では、水酸基が結合していた結合手同士が結合する。これにより、接合膜11を介して基体2とヒートシンク10とがより強固に接合されると推察される。
なお、前記工程[2−2]で活性化された接合膜11の表面は、その活性状態が経時的に緩和してしまう。このため、前記工程[2−2]の終了後、できるだけ早く本工程[2−3]を行うようにするのが好ましい。具体的には、前記工程[2−2]の終了後、60分以内に本工程[2−3]を行うようにするのが好ましく、5分以内に行うのがより好ましい。かかる時間内であれば、接合膜11の表面が十分な活性状態を維持しているので、本工程で接合膜11を備える基体2とヒートシンク10とを貼り合わせたとき、これらの間に十分な接合強度を得ることができる。
このようにして接合された支持部24とヒートシンク10との間は、その接合強度が5MPa(50kgf/cm)以上であるのが好ましく、10MPa(100kgf/cm)以上であるのがより好ましい。このような接合強度であれば、接合界面の剥離を十分に防止し得るものとなる。そして、信頼性の高い光学デバイス1が得られる。
【0116】
[2−4]次に、図7(e)に示すように、第2の質量部23上の位置する接合膜11の上面に、光反射部29を形成する。
光反射部29の形成方法は、金属マスク6の形成方法と同様の方法を用いることができる。
以上の工程により、図7(e)に示すように、各質量部21、22、23および支持部24が一体的に形成された基体2上に冷却部材10が形成された構造体が得られる。
【0117】
[3] 次に、図8(a)に示すように、対向基板3を形成するためのシリコン基板9を用意する。
そして、シリコン基板9の一方の面に、開口部31を形成する領域を除いた部分に対応するように、例えば、アルミニウム等により金属マスクを形成する。
次に、この金属マスクを介して、シリコン基板9の一方の面側をエッチングした後、金属マスクを除去する。これにより、開口部31が形成された対向基板3が得られる。
しかる後に、例えば可動イオンを含むガラスで対向基板3の一方の面に成膜して、図8(b)に示すように、対向基板3上に接合膜4を形成する。
【0118】
次に、接合膜4上に、図8(c)に示すように、電極32を形成する。これにより、接合膜4の厚さを調整することで、電極32と第1の質量部21、22との間のギャップを調整することができる。
電極32は、接合膜4に金属膜を成膜し、電極32の形状に対応するマスクを介して金属膜をエッチングを行った後、マスクを除去することにより形成することができる。
次に、前記工程[2]で得られた構造体と、前記工程[3]で接合膜4が成膜された対向基板3とを、例えば陽極接合により接合して光学デバイス1を得る。
【0119】
以上のようにして、図8(d)に示す第1実施形態の光学デバイス1が製造される。
なお、上記では、基体2上に成膜された接合膜11とヒートシンク10とが密着するように貼り合わせる場合について説明しているが、ヒートシンク10の下面に成膜された接合膜11と基体2とが密着するように、基体2とヒートシンク10とを貼り合わせるようにしてもよい。
【0120】
また、接合膜11は、基体2とヒートシンク10の双方に成膜されていてもよい。この場合、基体2上に成膜された接合膜11と、ヒートシンク10に成膜された接合膜11とが密着するように、基体2とヒートシンク10とを貼り合わせることにより、これらをより強固に接合することができる。
また、光学デバイス1を得た後、この光学デバイス1に対して、必要に応じ、以下の2つの工程([4A]および[4B])のうちの少なくとも1つの工程(光学デバイス1の接合強度を高める工程)を行うようにしてもよい。これにより、光学デバイス1の各部の接合強度のさらなる向上を図ることができる。
【0121】
[4A]得られた光学デバイス1を圧縮するように、具体的には、基体2とヒートシンク10とが互いに近づく方向に加圧する。
これにより、上記各部の表面と隣接する接合膜の表面とがより近接し、光学デバイス1における接合強度をより高めることができる。
また、光学デバイス1を加圧することにより、光学デバイス1中の接合界面に残存していた隙間を押し潰して、接合面積をさらに広げることができる。これにより、光学デバイス1における接合強度をさらに高めることができる。
【0122】
なお、この圧力は、光学デバイス1の各部の構成材料や形状、接合装置等の条件に応じて、適宜調整すればよい。具体的には、上記条件に応じて若干異なるものの、0.2〜10MPa程度であるのが好ましく、1〜5MPa程度であるのがより好ましい。これにより、光学デバイス1の接合強度を確実に高めることができる。なお、この圧力が前記上限値を上回っても構わないが、光学デバイス1の各部の構成材料によっては、光学デバイス1に損傷等が生じるおそれがある。
また、加圧する時間は、特に限定されないが、10秒〜30分程度であるのが好ましい。なお、加圧する時間は、加圧する際の圧力に応じて適宜変更すればよい。具体的には、光学デバイス1を加圧する際の圧力が高いほど、加圧する時間を短くしても、接合強度の向上を図ることができる。
【0123】
[4B]得られた光学デバイス1を加熱する。
これにより、光学デバイス1における接合強度をより高めることができる。
このとき、光学デバイス1を加熱する際の温度は、室温より高く、光学デバイス1の耐熱温度未満であれば、特に限定されないが、好ましくは25〜100℃程度とされ、より好ましくは50〜100℃程度とされる。かかる範囲の温度で加熱すれば、光学デバイス1が熱によって変質・劣化するのを確実に防止しつつ、接合強度を確実に高めることができる。
また、加熱時間は、特に限定されないが、1〜30分程度であるのが好ましい。
【0124】
なお、前記工程[4A]、[4B]の双方を行う場合、これらを同時に行うのが好ましい。すなわち、光学デバイス1を加圧しつつ、加熱するのが好ましい。これにより、加圧による効果と、加熱による効果とが相乗的に発揮され、光学デバイス1の接合強度を特に高めることができる。
以上のような工程を行うことにより、光学デバイス1における接合強度のさらなる向上を容易に図ることができる。
【0125】
<第2実施形態>
次に、本発明の光学デバイスの第2実施形態について説明する。
図12は、本発明の光学デバイスの第2実施形態を示す平面図(内部透視図)、図13は、図12中のA−A線断面図である。
本実施形態にかかる光学デバイス1Aは、冷却部材の構成が異なる以外は、前述した第1実施形態にかかる光学デバイス1と同様である。
【0126】
図12および図13に示すように、本実施形態の光学デバイス1Aにおいては、ヒートシンク10Aが、駆動部材である第1の質量部21、22の上に設けられている。これにより、駆動時にヒートシンク10Aとその周囲の気体との接触確率を向上して、第1の質量部21、22、および、可動板である第2の質量部23の冷却効果をより高めることができる。
特に、ヒートシンク10Aには、第1の質量部21、22の回動軸線に対し直角な方向に延びるフィン10A1が前記回動軸線方向に間隔を隔てて設けられている。これにより、ヒートシンク10Aとその周囲との気体との接触抵抗を低減しつつ、第2の質量部23の冷却効果を高めることができる。
【0127】
また、ヒートシンク10Aは、第1の質量部21、22の回動軸線に対し直角な方向において端部側の高さが中央部側の高さよりも低い。これにより、第1の質量部21、22の回動軸線に直角な方向での端部の駆動時における慣性力を低減し、第1の質量部21、22の設計を容易なものとすることができる。
特に、ヒートシンク10Aは、第1の質量部21、22の回動軸線に対し直角な方向での中央部、すなわち端部を除く領域に設けられているので、第1の質量部21、22の回動軸線に直角な方向での端部の駆動時における慣性力をより低減することができる。
また、ヒートシンク10Aの重心は、第1の質量部21、22の回動軸線にあるのが好ましい。これにより、第1の質量部21、22の駆動に必要なトルクを低減することができるので、第1の質量部21、22の設計をより容易なものとすることができる。
【0128】
<第3実施形態>
次に、本発明の光学デバイスの第3実施形態について説明する。
図14は、第3実施形態にかかる光学デバイスが備える接合膜のエネルギー付与前の状態を示す部分拡大図、図15は、第3実施形態にかかる光学デバイスが備える接合膜のエネルギー付与後の状態を示す部分拡大図である。なお、以下の説明では、図14および図15中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0129】
以下、光学デバイスの第3実施形態について説明するが、前記第1実施形態にかかる光学デバイスとの相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
本実施形態にかかる光学デバイスは、接合膜の構成が異なること以外は、前記第1実施形態と同様である。
【0130】
すなわち、本実施形態にかかる光学デバイスは、接合膜11がエネルギー付与前の状態で、金属原子と、この金属原子に結合する酸素原子と、これら金属原子および酸素原子の少なくとも一方に結合する脱離基303とを含むものである。換言すれば、エネルギー付与前の接合膜11は、図14に示すように、金属酸化物で構成される金属酸化物膜に脱離基303を導入した膜であると言うことができる。
このような接合膜11は、エネルギーが付与されると、脱離基303が金属原子および酸素原子の少なくとも一方から脱離し、接合膜11の少なくとも表面付近に、図15に示す活性手304が生じるものである。そして、これにより、接合膜11の表面に、前記第1実施形態と同様の接着性が発現する。
【0131】
以下、本実施形態にかかる接合膜11について説明する。
接合膜11は、金属原子と、この金属原子と結合する酸素原子とで構成されるもの、すなわち金属酸化物に脱離基303が結合したものであることから、変形し難い強固な膜となる。このため、接合膜11自体が寸法精度の高いものとなり、最終的に得られる光学デバイス1においても、寸法精度が高いものが得られる。
【0132】
さらに、接合膜11は、流動性を有さない固体状をなすものである。このため、従来から用いられている、流動性を有する液状または粘液状(半固形状)の接着剤に比べて、接着層(接合膜11)の厚さや形状がほとんど変化しない。したがって、接合膜11を用いて得られた光学デバイス1の寸法精度は、従来に比べて格段に高いものとなる。さらに、接着剤の硬化に要する時間が不要になるため、短時間で強固な接合が可能となる。
【0133】
また、本発明では、接合膜11は、導電性を有するものであるのが好ましい。これにより、後述する光学デバイス1において、意図しない帯電を抑制または防止することができる。その結果、静電気力に伴う光学デバイス1の不具合、具体的には、光学デバイス1への異物吸着や、各質量部21、22、23の不本意な動作を防止することができる。
また、導電性を有する接合膜11は、電力線および信号線としての機能を併せ持つことができる。これにより、接合膜11を介して電力や各種制御信号をやり取りすることができる。その結果、別途電力線や信号線等を設ける必要がなくなり、光学デバイス1の構造をより簡単にすることができる。そして、光学デバイス1の集積度を高めることができ、さらなる小型化および薄型化を図ることができる。
また、接合膜11が導電性を有する場合、接合膜11の抵抗率は、構成材料の組成に応じて若干異なるものの、1×10−3Ω・cm以下であるのが好ましく、1×10−4Ω・cm以下であるのがより好ましい。
【0134】
なお、脱離基303は、少なくとも接合膜11の表面35付近に存在していればよく、接合膜11のほぼ全体に存在していてもよいし、接合膜11の表面35付近に偏在していてもよい。脱離基303が表面35付近に偏在する構成とすることにより、接合膜11に金属酸化物膜としての機能を好適に発揮させることができる。すなわち、接合膜11に、接合を担う機能の他に、導電性および透光性等の特性に優れた金属酸化物膜としての機能を好適に付与することができるという利点も得られる。換言すれば、脱離基303が、接合膜11の導電性および透光性等の特性を阻害してしまうのを確実に防止することができる。
【0135】
以上のような接合膜11としての機能が好適に発揮されるように、金属原子が選択される。
具体的には、金属原子としては、特に限定されないが、例えば、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、各種ランタノイド元素、各種アクチノイド元素のような遷移金属元素、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Rb、Sr、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、Tl、Pd、Bi、Poのような典型金属元素等が挙げられる。
【0136】
このうち、遷移金属は、最外殻電子がd軌道またはf軌道に位置しており、各遷移金属元素間は、最外殻電子の数が異なることのみの差異であるため、物性が類似している。そして、遷移金属は、一般に、硬度や融点が高く、電気伝導性および熱伝導性が高い。このため、接合膜11が含む金属原子として、遷移金属元素の原子を選択することにより、接合膜11に発現する接着性をより高めることができる。また、それとともに、接合膜11の導電性をより高めることができる。
【0137】
また、特に、接合膜11が含む金属原子としてIn、Sn、Zn、TiおよびSbのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることにより、接合膜11は、特に優れた導電性を発揮するものとなる。
より具体的には、金属酸化物としては、例えば、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、アンチモン錫酸化物(ATO)、フッ素含有インジウム錫酸化物(FTO)、酸化亜鉛(ZnO)および二酸化チタン(TiO)等が挙げられる。
なお、金属酸化物としてインジウム錫酸化物(ITO)を用いる場合には、インジウムとスズとの原子比(インジウム/スズ比)は、99/1〜80/20であるのが好ましく、97/3〜85/15であるのがより好ましい。これにより、前述したような効果をより顕著に発揮させることができる。
【0138】
また、接合膜11中の金属原子と酸素原子の存在比は、3:7〜7:3程度であるのが好ましく、4:6〜6:4程度であるのがより好ましい。金属原子と酸素原子の存在比を前記範囲内になるよう設定することにより、接合膜11の安定性が高くなり、基体2とヒートシンク10とをより強固に接合することができるようになる。
また、脱離基303は、前述したように、金属原子および酸素原子の少なくとも一方から脱離することにより、接合膜11に活性手を生じさせるよう振る舞うものである。したがって、脱離基303には、エネルギーを付与されることによって、比較的簡単に、かつ均一に脱離するものの、エネルギーが付与されないときには、脱離しないよう接合膜11に確実に結合しているものが好適に選択される。
【0139】
かかる観点から、脱離基303には、水素原子、炭素原子、窒素原子、リン原子、硫黄原子およびハロゲン原子、またはこれらの各原子で構成される原子団のうちの少なくとも1種が好適に用いられる。かかる脱離基303は、エネルギーの付与による結合/脱離の選択性に比較的優れている。このため、このような脱離基303は、上記のような必要性を十分に満足し得るものとなり、基体2とヒートシンク10との接着性をより高度なものとすることができる。
なお、上記の各原子で構成される原子団(基)としては、例えば、メチル基、エチル基のようなアルキル基、メトキシ基、エトキシ基のようなアルコキシ基、カルボキシル基、アミノ基およびスルホン酸基等が挙げられる。
【0140】
以上のような各原子および原子団の中でも、脱離基303は、特に、水素原子であるのが好ましい。水素原子で構成される脱離基303は、化学的な安定性が高いため、脱離基303として水素原子を備える接合膜11は、耐候性および耐薬品性に優れたものとなる。
以上のことを考慮すると、接合膜11としては、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、アンチモン錫酸化物(ATO)、フッ素含有インジウム錫酸化物(FTO)、酸化亜鉛(ZnO)または二酸化チタン(TiO)の金属酸化物に、脱離基303として水素原子が導入されたものが好適に選択される。
【0141】
かかる構成の接合膜11は、それ自体が優れた機械的特性を有している。また、多くの材料に対して特に優れた接着性を示すものである。したがって、このような接合膜11は、基体2に対して特に強固に接着するとともに、ヒートシンク10に対しても特に強い被着力を示し、その結果として、基体2とヒートシンク10とを強固に接合することができる。
【0142】
また、接合膜11の平均厚さは、1〜1000nm程度であるのが好ましく、2〜800nm程度であるのがより好ましい。接合膜11の平均厚さを前記範囲内とすることにより、光学デバイス1の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、基体2とヒートシンク10とをより強固に接合することができる。
すなわち、接合膜11の平均厚さが前記下限値を下回った場合は、十分な接合強度が得られないおそれがある。一方、接合膜11の平均厚さが前記上限値を上回った場合は、光学デバイス1の寸法精度が著しく低下するおそれがある。
【0143】
さらに、接合膜11の平均厚さが前記範囲内であれば、接合膜11にある程度の形状追従性が確保される。このため、例えば、基体2の接合面(接合膜11を成膜する面)に凹凸が存在している場合でも、その凹凸の高さにもよるが、凹凸の形状に追従するように接合膜11を被着させることができる。その結果、接合膜11は、凹凸を吸収して、その表面に生じる凹凸の高さを緩和することができる。そして、基体2とヒートシンク10とを貼り合わせた際に、接合膜11のヒートシンク10に対する密着性を高めることができる。
なお、上記のような形状追従性の程度は、接合膜11の厚さが厚いほど顕著になる。したがって、形状追従性を十分に確保するためには、接合膜11の厚さをできるだけ厚くすればよい。
【0144】
以上説明したような接合膜11は、接合膜11のほぼ全体に脱離基303を存在させる場合には、例えば、A:脱離基303を構成する原子成分を含む雰囲気下で、物理的気相成膜法により、金属原子と酸素原子とを含む金属酸化物材料を成膜することにより形成することができる。また、脱離基303を接合膜11の表面35付近に偏在させる場合には、例えば、B:金属原子と前記酸素原子とを含む金属酸化物膜を成膜した後、この金属酸化物膜の表面付近に含まれる金属原子および酸素原子の少なくとも一方に脱離基303を導入することにより形成することができる。
【0145】
以下、AおよびBの方法を用いて、基体2上に接合膜11を成膜する場合について、詳述する。
<A> Aの方法では、接合膜11は、上記のように、脱離基303を構成する原子成分を含む雰囲気下で、物理的気相成膜法(PVD法)により、金属原子と酸素原子とを含む金属酸化物材料を成膜することにより形成される。このようにPVD法を用いる構成とすれば、金属酸化物材料を基体2に向かって飛来させる際に、比較的容易に金属原子および酸素原子の少なくとも一方に脱離基303を導入することができる。このため、接合膜11のほぼ全体にわたって脱離基303を導入することができる。
【0146】
さらに、PVD法によれば、緻密で均質な接合膜11を効率よく成膜することができる。これにより、PVD法で成膜された接合膜11は、ヒートシンク10に対して特に強固に接合し得るものとなる。さらに、PVD法で成膜された接合膜11は、エネルギーが付与されて活性化された状態が比較的長時間にわたって維持される。このため、光学デバイス1の製造過程の簡素化、効率化を図ることができる。
【0147】
また、PVD法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法等が挙げられるが、中でも、スパッタリング法を用いるのが好ましい。スパッタリング法によれば、金属原子と酸素原子との結合が切断することなく、脱離基303を構成する原子成分を含む雰囲気中に、金属酸化物の粒子を叩き出すことができる。そして、金属酸化物の粒子が叩き出された状態で、脱離基303を構成する原子成分を含むガスと接触させることができるため、金属酸化物(金属原子または酸素原子)への脱離基303の導入をより円滑に行うことができる。
【0148】
以下、PVD法により接合膜11を成膜する方法として、スパッタリング法(イオンビームスパッタリング法)により、接合膜11を成膜する場合を代表に説明する。
まず、接合膜11の成膜方法を説明するのに先立って、基体2上にイオンビームスパッタリング法により接合膜11を成膜する際に用いられる成膜装置200について説明する。
【0149】
図16は、本実施形態にかかる接合膜の作製に用いられる成膜装置を模式的に示す縦断面図、図17は、図16に示す成膜装置が備えるイオン源の構成を示す模式図である。なお、以下の説明では、図16中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
図16に示す成膜装置200は、イオンビームスパッタリング法による接合膜11の形成がチャンバー(装置)内で行えるように構成されている。
【0150】
具体的には、成膜装置200は、チャンバー(真空チャンバー)211と、このチャンバー211内に設置され、基体2(成膜対象物)を保持する基板ホルダー(成膜対象物保持部)212と、チャンバー211内に設置され、チャンバー211内に向かってイオンビームBを照射するイオン源(イオン供給部)215と、イオンビームBの照射により、金属原子と酸素原子とを含む金属酸化物(例えば、ITO)を発生させるターゲット(金属酸化物材料)216を保持するターゲットホルダー(ターゲット保持部)217とを有している。
【0151】
また、チャンバー211には、チャンバー211内に、脱離基303を構成する原子成分を含むガス(例えば、水素ガス)を供給するガス供給手段260と、チャンバー211内の排気をして圧力を制御する排気手段230とを有している。
なお、本実施形態では、基板ホルダー212は、チャンバー211の天井部に取り付けられている。この基板ホルダー212は、回動可能となっている。これにより、基体2上に接合膜11を均質かつ均一な厚さで成膜することができる。
【0152】
イオン源(イオン銃)215は、図17に示すように、開口(照射口)250が形成されたイオン発生室256と、イオン発生室256内に設けられたフィラメント257と、グリッド253、254と、イオン発生室256の外側に設置された磁石255とを有している。
また、イオン発生室256には、図16に示すように、その内部にガス(スパッタリング用ガス)を供給するガス供給源219が接続されている。
【0153】
このイオン源215では、イオン発生室256内に、ガス供給源219からガスを供給した状態で、フィラメント257を通電加熱すると、フィラメント257から電子が放出され、放出された電子が磁石255の磁場によって運動し、イオン発生室256内に供給されたガス分子と衝突する。これにより、ガス分子がイオン化する。このガスのイオンIは、グリッド253とグリッド254との間の電圧勾配により、イオン発生室256内から引き出されるとともに加速され、開口250を介してイオンビームBとしてイオン源215から放出(照射)される。
イオン源215から照射されたイオンビームBは、ターゲット216の表面に衝突し、ターゲット216からは粒子(スパッタ粒子)が叩き出される。このターゲット216は、前述したような金属酸化物材料で構成されている。
【0154】
この成膜装置200では、イオン源215は、その開口250がチャンバー211内に位置するように、チャンバー211の側壁に固定(設置)されている。なお、イオン源215は、チャンバー211から離間した位置に配置し、接続部を介してチャンバー211に接続した構成とすることもできるが、本実施形態のような構成とすることにより、成膜装置200の小型化を図ることができる。
【0155】
また、イオン源215は、その開口250が、基板ホルダー212と異なる方向、本実施形態では、チャンバー211の底部側を向くように設置されている。
なお、イオン源215の設置個数は、1つに限定されるものではなく、複数とすることもできる。イオン源215を複数設置することにより、接合膜11の成膜速度をより速くすることができる。
【0156】
また、ターゲットホルダー217および基板ホルダー212の近傍には、それぞれ、これらを覆うことができる第1のシャッター220および第2のシャッター221が配設されている。
これらシャッター220、221は、それぞれ、ターゲット216、基体2および接合膜11が、不要な雰囲気等に曝されるのを防ぐためのものである。
また、排気手段230は、ポンプ232と、ポンプ232とチャンバー211とを連通する排気ライン231と、排気ライン231の途中に設けられたバルブ233とで構成されており、チャンバー211内を所望の圧力に減圧し得るようになっている。
【0157】
さらに、ガス供給手段260は、脱離基303を構成する原子成分を含むガス(例えば、水素ガス)を貯留するガスボンベ264と、ガスボンベ264からこのガスをチャンバー211に導くガス供給ライン261と、ガス供給ライン261の途中に設けられたポンプ262およびバルブ263とで構成されており、脱離基303を構成する原子成分を含むガスをチャンバー211内に供給し得るようになっている。
【0158】
以上のような構成の成膜装置200を用いて、以下のようにして接合膜11が形成される。
ここでは、基体2上に接合膜11を成膜する方法について説明する。
まず、基体2を用意し、この基体2を成膜装置200のチャンバー211内に搬入し、基板ホルダー212に装着(セット)する。
次に、排気手段230を動作させ、すなわちポンプ232を作動させた状態でバルブ233を開くことにより、チャンバー211内を減圧状態にする。この減圧の程度(真空度)は、特に限定されないが、1×10−7〜1×10−4Torr程度であるのが好ましく、1×10−6〜1×10−5Torr程度であるのがより好ましい。
【0159】
さらに、ガス供給手段260を動作させ、すなわちポンプ262を作動させた状態でバルブ263を開くことにより、チャンバー211内に脱離基303を構成する原子成分を含むガスを供給する。これにより、チャンバー内をかかるガスを含む雰囲気下(水素ガス雰囲気下)とすることができる。
脱離基303を構成する原子成分を含むガスの流量は、1〜100ccm程度であるのが好ましく、10〜60ccm程度であるのがより好ましい。これにより、金属原子および酸素原子の少なくとも一方に確実に脱離基303を導入することができる。
また、チャンバー211内の温度は、25℃以上であればよいが、25〜100℃程度であるのが好ましい。かかる範囲内に設定することにより、金属原子または酸素原子と、前記原子成分を含むガスとの反応が効率良く行われ、金属原子および酸素原子に確実に、前記原子成分を含むガスを導入することができる。
【0160】
次に、第2のシャッター221を開き、さらに第1のシャッター220を開いた状態にする。
この状態で、イオン源215のイオン発生室256内にガスを導入するとともに、フィラメント257に通電して加熱する。これにより、フィラメント257から電子が放出され、この放出された電子とガス分子が衝突することにより、ガス分子がイオン化する。
【0161】
このガスのイオンIは、グリッド253とグリッド254とにより加速されて、イオン源215から放出され、陰極材料で構成されるターゲット216に衝突する。これにより、ターゲット216から金属酸化物(例えば、ITO)の粒子が叩き出される。このとき、チャンバー211内が脱離基303を構成する原子成分を含むガスを含む雰囲気下(例えば、水素ガス雰囲気下)であることから、チャンバー211内に叩き出された粒子に含まれる金属原子および酸素原子に脱離基303が導入される。そして、この脱離基303が導入された金属酸化物が基体2上に堆積することにより、接合膜11が形成される。
【0162】
なお、本実施形態で説明したイオンビームスパッタリング法では、イオン源215のイオン発生室256内で、放電が行われ、電子eが発生するが、この電子eは、グリッド253により遮蔽され、チャンバー211内への放出が防止される。
さらに、イオンビームBの照射方向(イオン源215の開口250)がターゲット216(チャンバー211の底部側と異なる方向)に向いているので、イオン発生室256内で発生した紫外線が、成膜された接合膜11に照射されるのがより確実に防止されて、接合膜11の成膜中に導入された脱離基303が脱離するのを確実に防止することができる。
以上のようにして、ほぼ全体にわたって脱離基303が存在する接合膜11を成膜することができる。
【0163】
<B> 一方、Bの方法では、接合膜11は、上記のように、金属原子と酸素原子とを含む金属酸化物膜を成膜した後、この金属酸化物膜の表面付近に含まれる金属原子および酸素原子の少なくとも一方に脱離基303を導入することにより形成される。かかる方法によれば、比較的簡単な工程で、金属酸化物膜の表面付近に脱離基303を偏在させた状態で導入することができ、接合膜および金属酸化物膜としての双方の特性に優れた接合膜11を形成することができる。
【0164】
ここで、金属酸化物膜は、いかなる方法で成膜されたものでもよく、例えば、PVD法(物理的気相成膜法)、CVD法(化学的気相成膜法)、プラズマ重合法のような各種気相成膜法や、各種液相成膜法等により成膜することができるが、中でも、特に、PVD法により成膜するのが好ましい。PVD法によれば、緻密で均質な金属酸化物膜を効率よく成膜することができる。
【0165】
また、PVD法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法およびレーザーアブレーション法等が挙げられるが、中でも、スパッタリング法を用いるのが好ましい。スパッタリング法によれば、金属原子と酸素原子との結合が切断することなく、雰囲気中に金属酸化物の粒子を叩き出して、基体2上に供給することができるため、特性に優れた金属酸化物膜を成膜することができる。
【0166】
さらに、金属酸化物膜の表面付近に脱離基303を導入する方法としては、各種方法が用いられ、例えば、B1:脱離基303を構成する原子成分を含む雰囲気下で金属酸化物膜を熱処理(アニーリング)する方法、B2:イオン・インプランテーション等が挙げられるが、中でも、特に、B1の方法を用いるのが好ましい。B1の方法によれば、比較的容易に、脱離基303を金属酸化物膜の表面付近に選択的に導入することができる。また、熱処理を施す際の、雰囲気温度や処理時間等の処理条件を適宜設定することにより、導入する脱離基303の量、さらには脱離基303が導入される金属酸化物膜の厚さの制御を的確に行うことができる。
【0167】
以下、金属酸化物膜をスパッタリング法(イオンビームスパッタリング法)により成膜し、次に、得られた金属酸化物膜を、脱離基303を構成する原子成分を含む雰囲気下で熱処理(アニーリング)することにより、接合膜11を得る場合を代表に説明する。
なお、Bの方法を用いて接合膜11の成膜する場合も、Aの方法を用いて接合膜11を成膜する際に用いられる成膜装置200と同様の成膜装置が用いられるため、成膜装置に関する説明は省略する。
【0168】
[i] まず、基体2を用意する。そして、この基体2を成膜装置200のチャンバー211内に搬入し、基板ホルダー212に装着(セット)する。
[ii] 次に、排気手段230を動作させ、すなわちポンプ232を作動させた状態でバルブ233を開くことにより、チャンバー211内を減圧状態にする。この減圧の程度(真空度)は、特に限定されないが、1×10−7〜1×10−4Torr程度であるのが好ましく、1×10−6〜1×10−5Torr程度であるのがより好ましい。
また、このとき、加熱手段を動作させ、チャンバー211内を加熱する。チャンバー211内の温度は、25℃以上であればよいが、25〜100℃程度であるのが好ましい。かかる範囲内に設定することにより、膜密度の高い金属酸化物膜を成膜することができる。
【0169】
[iii] 次に、第2のシャッター221を開き、さらに第1のシャッター220を開いた状態にする。
この状態で、イオン源215のイオン発生室256内にガスを導入するとともに、フィラメント257に通電して加熱する。これにより、フィラメント257から電子が放出され、この放出された電子とガス分子が衝突することにより、ガス分子がイオン化する。
【0170】
このガスのイオンIは、グリッド253とグリッド254とにより加速されて、イオン源215から放出され、陰極材料で構成されるターゲット216に衝突する。これにより、ターゲット216から金属酸化物(例えば、ITO)の粒子が叩き出され、基体2上に堆積して、金属原子と、この金属原子に結合する酸素原子とを含む金属酸化物膜が形成される。
なお、本実施形態で説明したイオンビームスパッタリング法では、イオン源215のイオン発生室256内で、放電が行われ、電子eが発生するが、この電子eは、グリッド253により遮蔽され、チャンバー211内への放出が防止される。
【0171】
さらに、イオンビームBの照射方向(イオン源215の開口250)がターゲット216(チャンバー211の底部側と異なる方向)に向いているので、イオン発生室256内で発生した紫外線が、成膜された接合膜11に照射されるのがより確実に防止されて、接合膜11の成膜中に導入された脱離基303が脱離するのを確実に防止することができる。
【0172】
[iv] 次に、第2のシャッター221を開いた状態で、第1のシャッター220を閉じる。
この状態で、加熱手段を動作させ、チャンバー211内をさらに加熱する。チャンバー211内の温度は、金属酸化物膜の表面に効率良く脱離基303が導入される温度に設定され、100〜600℃程度であるのが好ましく、150〜300℃程度であるのがより好ましい。かかる範囲内に設定することにより、次工程[v]において、基体2および金属酸化物膜を変質・劣化させることなく、金属酸化物膜の表面に効率良く脱離基303を導入することができる。
【0173】
[v] 次に、ガス供給手段260を動作させ、すなわちポンプ262を作動させた状態でバルブ263を開くことにより、チャンバー211内に脱離基303を構成する原子成分を含むガスを供給する。これにより、チャンバー211内をかかるガスを含む雰囲気下(水素ガス雰囲気下)とすることができる。
このように、前記工程[iv]でチャンバー211内が加熱された状態で、チャンバー211内を、脱離基303を構成する原子成分を含むガスを含む雰囲気下(例えば、水素ガス雰囲気下)とすると、金属酸化物膜の表面付近に存在する金属原子および酸素原子の少なくとも一方に脱離基303が導入されて、接合膜11が形成される。
脱離基303を構成する原子成分を含むガスの流量は、1〜100ccm程度であるのが好ましく、10〜60ccm程度であるのがより好ましい。これにより、金属原子および酸素原子の少なくとも一方に確実に脱離基303を導入することができる。
【0174】
なお、チャンバー211内は、前記工程[ii]において、排気手段230を動作させることにより調整された減圧状態を維持しているのが好ましい。これにより、金属酸化物膜の表面付近に対する脱離基303の導入をより円滑に行うことができる。また、前記工程[ii]の減圧状態を維持したまま、本工程においてチャンバー211内を減圧する構成とすることにより、再度減圧する手間が省けることから、成膜時間および成膜コスト等の削減を図ることができるという利点も得られる。
【0175】
この減圧の程度(真空度)は、特に限定されないが、1×10−7〜1×10−4Torr程度であるのが好ましく、1×10−6〜1×10−5Torr程度であるのがより好ましい。
また、熱処理を施す時間は、15〜120分程度であるのが好ましく、30〜60分程度であるのがより好ましい。
【0176】
導入する脱離基303の種類等によっても異なるが、熱処理を施す際の条件(チャンバー211内の温度、真空度、ガス流量、処理時間)を上記範囲内に設定することにより、金属酸化物膜の表面付近に脱離基303を選択的に導入することができる。
以上のようにして、表面35付近に脱離基303が偏在する接合膜11を成膜することができる。
以上のような第3実施形態にかかる光学デバイス1においても、前記第1実施形態と同様の作用・効果が得られる。
【0177】
<第4実施形態>
次に、本発明の光学デバイスの第4実施形態について説明する。
以下、光学デバイスの第4実施形態について説明するが、前記第1実施形態にかかる光学デバイスとの相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
本実施形態にかかる光学デバイスは、接合膜の構成が異なること以外は、前記第1実施形態と同様である。
【0178】
すなわち、本実施形態にかかる光学デバイスは、接合膜11がエネルギー付与前の状態で、金属原子と、有機成分で構成される脱離基303を含むものである。
このような接合膜11は、エネルギーが付与されると、脱離基303が接合膜11から脱離し、接合膜11の少なくとも表面付近に、活性手304が生じるものである。そして、これにより、接合膜11の表面に、前記第1実施形態と同様の接着性が発現する。
【0179】
以下、本実施形態にかかる接合膜11について説明する。
接合膜11は、基体2上に設けられ、金属原子と、有機成分で構成される脱離基303を含むものである。
このような接合膜11は、エネルギーが付与されると、脱離基303の接合手が切れて接合膜11の少なくとも表面35付近から脱離し、図15に示すように、接合膜11の少なくとも表面35付近に、活性手304が生じるものである。そして、これにより、接合膜11の表面35に接着性が発現する。かかる接着性が発現すると、接合膜11を備えた基体2は、ヒートシンク10に対して、高い寸法精度で強固に効率よく接合可能なものとなる。
また、接合膜11は、金属原子と、有機成分で構成される脱離基303とを含むもの、すなわち有機金属膜であることから、変形し難い強固な膜となる。このため、接合膜11自体が寸法精度の高いものとなり、最終的に得られる光学デバイス1においても、寸法精度が高いものが得られる。
【0180】
このような接合膜11は、流動性を有さない固体状をなすものである。このため、従来から用いられている、流動性を有する液状または粘液状(半固形状)の接着剤に比べて、接着層(接合膜11)の厚さや形状がほとんど変化しない。したがって、このような接合膜11を用いて得られた光学デバイス1の寸法精度は、従来に比べて格段に高いものとなる。さらに、接着剤の硬化に要する時間が不要になるため、短時間で強固な接合が可能となる。
【0181】
また、本発明では、接合膜11は、導電性を有するものであるのが好ましい。これにより、後述する光学デバイス1において、意図しない帯電を抑制または防止することができる。その結果、静電気力に伴う光学デバイス1の不具合、具体的には、光学デバイス1への異物吸着や、各質量部21、22、23の不本意な動作を防止することができる。
また、導電性を有する接合膜11は、電力線および信号線としての機能を併せ持つことができる。これにより、接合膜11を介して電力や各種制御信号をやり取りすることができる。その結果、別途電力線や信号線等を設ける必要がなくなり、光学デバイス1の構造をより簡単にすることができる。そして、光学デバイス1の集積度を高めることができ、さらなる小型化および薄型化を図ることができる。
【0182】
以上のような接合膜11としての機能が好適に発揮されるように、金属原子および脱離基303が選択される。
具体的には、金属原子としては、例えば、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、各種ランタノイド元素、各種アクチノイド元素のような遷移金属元素、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Rb、Sr、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、Tl、Pd、Bi、Poのような典型金属元素等が挙げられる。
【0183】
このうち、遷移金属は、前述したように、各遷移金属元素間は、最外殻電子の数が異なることのみの差異であるため、物性が類似している。そして、遷移金属は、一般に、硬度や融点が高く、電気伝導性および熱伝導性が高い。このため、接合膜11が含む金属原子として、遷移金属元素の原子を選択することにより、接合膜11に発現する接着性をより高めることができる。また、それとともに、接合膜11の導電性をより高めることができる。
【0184】
また、特に、接合膜11が含む金属原子としてCu、Al、ZnおよびFeのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることにより、接合膜11は、特に優れた導電性を発揮するものとなる。さらに、接合膜11を後述する有機金属化学気相成長法を用いて成膜する場合には、これらの金属を含む金属錯体等を原材料として用いて、比較的容易かつ均一な膜厚の接合膜11を成膜することができる。
【0185】
また、脱離基303は、前述したように、接合膜11から脱離することにより、接合膜11に活性手を生じさせるよう振る舞うものである。したがって、脱離基303には、エネルギーを付与されることによって、比較的簡単に、かつ均一に脱離するものの、エネルギーが付与されないときには、脱離しないよう接合膜11に確実に結合しているものが好適に選択される。
【0186】
具体的には、脱離基303としては、炭素原子を必須成分とし、水素原子、窒素原子、リン原子、硫黄原子およびハロゲン原子のうちの少なくとも1種を含む原子団が好適に選択される。かかる脱離基303は、エネルギーの付与による結合/脱離の選択性に比較的優れている。このため、このような脱離基303は、上記のような必要性を十分に満足し得るものとなり、接合膜11の接着性をより高度なものとすることができる。
より具体的には、原子団(基)としては、例えば、メチル基、エチル基のようなアルキル基、メトキシ基、エトキシ基のようなアルコキシ基、カルボキシル基の他、前記アルキル基の末端がイソシアネート基、アミノ基およびスルホン酸基等で終端しているもの等が挙げられる。
【0187】
以上のような原子団の中でも、脱離基303は、特に、アルキル基であるのが好ましい。アルキル基で構成される脱離基303は、化学的な安定性が高いため、脱離基303としてアルキル基を備える接合膜11は、耐候性および耐薬品性に優れたものとなる。
また、かかる構成の接合膜11において、金属原子と酸素原子の存在比は、3:7〜7:3程度であるのが好ましく、4:6〜6:4程度であるのがより好ましい。金属原子と炭素原子の存在比を前記範囲内になるよう設定することにより、接合膜11の安定性が高くなり、基体2とヒートシンク10とをより強固に接合することができるようになる。また、接合膜11を優れた導電性を発揮するものとすることができる。
【0188】
また、接合膜11の平均厚さは、0.2〜1000nm程度であるのが好ましく、2〜800nm程度であるのがより好ましい。接合膜11の平均厚さを前記範囲内とすることにより、光学デバイス1の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、基体2とヒートシンク10とをより強固に接合することができる。
すなわち、接合膜11の平均厚さが前記下限値を下回った場合は、十分な接合強度が得られないおそれがある。一方、接合膜11の平均厚さが前記上限値を上回った場合は、光学デバイス1の寸法精度が著しく低下するおそれがある。
【0189】
さらに、接合膜11の平均厚さが前記範囲内であれば、接合膜11にある程度の形状追従性が確保される。このため、例えば、基体2の接合面(接合膜11を成膜する面)に凹凸が存在している場合でも、その凹凸の高さにもよるが、凹凸の形状に追従するように接合膜11を被着させることができる。その結果、接合膜11は、凹凸を吸収して、その表面に生じる凹凸の高さを緩和することができる。そして、基体2とヒートシンク10とを貼り合わせた際に、接合膜11のヒートシンク10に対する密着性を高めることができる。
なお、上記のような形状追従性の程度は、接合膜11の厚さが厚いほど顕著になる。したがって、形状追従性を十分に確保するためには、接合膜11の厚さをできるだけ厚くすればよい。
【0190】
以上説明したような接合膜11は、いかなる方法で成膜してもよいが、例えば、IIa:金属原子で構成される金属膜に、脱離基(有機成分)303を含む有機物を、金属膜のほぼ全体または表面付近に選択的に付与(化学修飾)して接合膜11を形成する方法、IIb:金属原子と、脱離基(有機成分)303を含む有機物とを有する有機金属材料を原材料として有機金属化学気相成長法を用いて接合膜11を形成する方法(積層させる方法あるいは、単原子層からなる接合層を形成)、IIc:金属原子と脱離基303を含む有機物とを有する有機金属材料を原材料として適切な溶媒に溶解させスピンコート法などを用いて接合膜を形成する方法等が挙げられる。これらの中でも、IIbの方法により接合膜11を成膜するのが好ましい。かかる方法によれば、比較的簡単な工程で、かつ、均一な膜厚の接合膜11を形成することができる。
【0191】
以下、IIbの方法、すなわち金属原子と、脱離基(有機成分)303を含む有機物とを有する有機金属材料を原材料として有機金属化学気相成長法を用いて接合膜11を形成する方法により、接合膜11を得る場合を代表に説明する。
まず、接合膜11の成膜方法を説明するのに先立って、接合膜11を成膜する際に用いられる成膜装置400について説明する。
【0192】
図18は、本実施形態において、接合膜の作製に用いられる成膜装置を模式的に示す縦断面図である。なお、以下の説明では、図18中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
図18に示す成膜装置400は、有機金属化学気相成長法(以下、「MOCVD法」と省略することもある。)による接合膜11の形成をチャンバー411内で行えるように構成されている。
【0193】
具体的には、成膜装置400は、チャンバー(真空チャンバー)411と、このチャンバー411内に設置され、基体2(成膜対象物)を保持する基板ホルダー(成膜対象物保持部)412と、チャンバー411内に、気化または霧化した有機金属材料を供給する有機金属材料供給手段460と、チャンバー411内を低還元性雰囲気下とするためのガスを供給するガス供給手段470と、チャンバー411内の排気をして圧力を制御する排気手段430と、基板ホルダー412を加熱する加熱手段(図示せず)とを有している。
【0194】
基板ホルダー412は、本実施形態では、チャンバー411の底部に取り付けられている。この基板ホルダー412は、モータの作動により回動可能となっている。これにより、基体2上に接合膜11を均質かつ均一な厚さで成膜することができる。
また、基板ホルダー412の近傍には、それぞれ、これらを覆うことができるシャッター421が配設されている。このシャッター421は、基体2および接合膜11が不要な雰囲気等に曝されるのを防ぐためのものである。
【0195】
有機金属材料供給手段460は、チャンバー411に接続されている。この有機金属材料供給手段460は、固形状の有機金属材料を貯留する貯留槽462と、気化または霧化した有機金属材料をチャンバー411内に送気するキャリアガスを貯留するガスボンベ465と、キャリアガスと気化または霧化した有機金属材料をチャンバー411内に導くガス供給ライン461と、ガス供給ライン461の途中に設けられたポンプ464およびバルブ463とで構成されている。かかる構成の有機金属材料供給手段460では、貯留槽462は、加熱手段を有しており、この加熱手段の作動により固形状の有機金属材料を加熱して気化し得るようになっている。そのため、バルブ463を開放した状態で、ポンプ464を作動させて、キャリアガスをガスボンベ465から貯留槽462に供給すると、このキャリアガスとともに気化または霧化した有機金属材料が、供給ライン461内を通過してチャンバー411内に供給されるようになっている。
なお、キャリアガスとしては、特に限定されず、例えば、窒素ガス、アルゴンガスおよびヘリウムガス等が好適に用いられる。
【0196】
また、本実施形態では、ガス供給手段470がチャンバー411に接続されている。ガス供給手段470は、チャンバー411内を低還元性雰囲気下とするためのガスを貯留するガスボンベ475と、前記低還元性雰囲気下とするためのガスをチャンバー411内に導くガス供給ライン471と、ガス供給ライン471の途中に設けられたポンプ474およびバルブ473とで構成されている。かかる構成のガス供給手段470では、バルブ473を開放した状態で、ポンプ474を作動させると、前記低還元性雰囲気下とするためのガスが、ガスボンベ475から、供給ライン471を介して、チャンバー411内に供給されるようになっている。ガス供給手段470をかかる構成とすることにより、チャンバー411内を有機金属材料に対して確実に低還元な雰囲気とすることができる。その結果、有機金属材料を原材料としてMOCVD法を用いて接合膜11を成膜する際に、有機金属材料に含まれる有機成分の少なくとも一部を脱離基303として残存させた状態で接合膜11が成膜される。
【0197】
チャンバー411内を低還元性雰囲気下とするためのガスとしては、特に限定されないが、例えば、窒素ガスおよびヘリウム、アルゴン、キセノンのような希ガス、一酸化窒素、一酸化二窒素等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、有機金属材料として、後述する2,4−ペンタジオネート−銅(II)や[Cu(hfac)(VTMS)]等のように分子構造中に酸素原子を含有するものを用いる場合には、低還元性雰囲気下とするためのガスに、水素ガスを添加するのが好ましい。これにより、酸素原子に対する還元性を向上させることができ、接合膜11に過度の酸素原子が残存することなく、接合膜11を成膜することができる。その結果、この接合膜11は、膜中における金属酸化物の存在率が低いものとなり、優れた導電性を発揮することとなる。
【0198】
また、キャリアガスとして前述した窒素ガス、アルゴンガスおよびヘリウムガスのうちの少なくとも1種を用いる場合には、このキャリアガスに低還元性雰囲気下とするためのガスとしての機能をも発揮させることができる。
また、排気手段430は、ポンプ432と、ポンプ432とチャンバー411とを連通する排気ライン431と、排気ライン431の途中に設けられたバルブ433とで構成されており、チャンバー411内を所望の圧力に減圧し得るようになっている。
【0199】
以上のような構成の成膜装置400を用いてMOCVD法により、以下のようにして基体2上に接合膜11が形成される。
[i] まず、基体2を用意する。そして、この基体2を成膜装置400のチャンバー411内に搬入し、基板ホルダー412に装着(セット)する。
【0200】
[ii] 次に、排気手段430を動作させ、すなわちポンプ432を作動させた状態でバルブ433を開くことにより、チャンバー411内を減圧状態にする。この減圧の程度(真空度)は、特に限定されないが、1×10−7〜1×10−4Torr程度であるのが好ましく、1×10−6〜1×10−5Torr程度であるのがより好ましい。
また、ガス供給手段470を動作させ、すなわちポンプ474を作動させた状態でバルブ473を開くことにより、チャンバー411内に、低還元性雰囲気下とするためのガスを供給して、チャンバー411内を低還元性雰囲気下とする。ガス供給手段470による前記ガスの流量は、特に限定されないが、0.1〜10sccm程度であるのが好ましく、0.5〜5sccm程度であるのがより好ましい。
【0201】
さらに、このとき、加熱手段を動作させ、基板ホルダー412を加熱する。基板ホルダー412の温度は、形成する接合膜11の種類、すなわち、接合膜11を形成する際に用いる原材料の種類によっても若干異なるが、80〜600℃程度であるのが好ましく、100〜450℃程度であるのがより好ましく、200〜300℃程度であるのがさらに好ましい。かかる範囲内に設定することにより、後述する有機金属材料を用いて、優れた接着性を有する接合膜11を成膜することができる。
【0202】
[iii] 次に、シャッター421を開いた状態にする。
そして、固形状の有機金属材料を貯留された貯留槽462が備える加熱手段を動作させることにより、有機金属材料を気化させた状態で、ポンプ464を動作させるとともに、バルブ463を開くことにより、気化または霧化した有機金属材料をキャリアガスとともにチャンバー内に導入する。
このように、前記工程[ii]で基板ホルダー412が加熱された状態で、チャンバー411内に、気化または霧化した有機金属材料を供給すると、基体2上で有機金属材料が加熱されることにより、有機金属材料中に含まれる有機物の一部が残存した状態で、基体2上に接合膜11を形成することができる。
【0203】
すなわち、MOCVD法によれば、有機金属材料に含まれる有機物の一部が残存するように金属原子を含む膜を形成すれば、この有機物の一部が脱離基303としての機能を発揮する接合膜11を基体2上に形成することができる。
このようなMOCVD法に用いられる、有機金属材料としては、特に限定されないが、例えば、2,4−ペンタジオネート−銅(II)、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq)、トリス(4−メチル−8キノリノレート)アルミニウム(III)(Almq)、(8−ヒドロキシキノリン)亜鉛(Znq)、銅フタロシアニン、Cu(ヘキサフルオロアセチルアセトネート)(ビニルトリメチルシラン)[Cu(hfac)(VTMS)]、Cu(ヘキサフルオロアセチルアセトネート)(2−メチル−1−ヘキセン−3−エン)[Cu(hfac)(MHY)]、Cu(パーフルオロアセチルアセトネート)(ビニルトリメチルシラン)[Cu(pfac)(VTMS)]、Cu(パーフルオロアセチルアセトネート)(2−メチル−1−ヘキセン−3−エン)[Cu(pfac)(MHY)]等、各種遷移金属元素を含んだアミド系、アセチルアセトネート系、アルコキシ系、シリコンを含むシリル系、カルボキシル基をもつカルボニル系のような金属錯体、トリメチルガリウム、トリメチルアルミニウム、ジエチル亜鉛のようなアルキル金属や、その誘導体等が挙げられる。これらの中でも、有機金属材料としては、金属錯体であるのが好ましい。金属錯体を用いることにより、金属錯体中に含まれる有機物の一部を残存した状態で、接合膜11を確実に形成することができる。
【0204】
また、本実施形態では、ガス供給手段470を動作させることにより、チャンバー411内を低還元性雰囲気下となっているが、このような雰囲気下とすることにより、基体2上に純粋な金属膜が形成されることなく、有機金属材料中に含まれる有機物の一部を残存させた状態で成膜することができる。すなわち、接合膜および金属膜としての双方の特性に優れた接合膜11を形成することができる。
気化または霧化した有機金属材料の流量は、0.1〜100ccm程度であるのが好ましく、0.5〜60ccm程度であるのがより好ましい。これにより、均一な膜厚で、かつ、有機金属材料中に含まれる有機物の一部を残存させた状態で、接合膜11を成膜することができる。
【0205】
以上のように、接合膜11を成膜した際に膜中に残存する残存物を脱離基303として用いる構成とすることにより、形成した金属膜等に脱離基を導入する必要がなく、比較的簡単な工程で接合膜11を成膜することができる。
なお、有機金属材料を用いて形成された接合膜11に残存する前記有機物の一部は、その全てが脱離基303として機能するものであってもよいし、その一部が脱離基303として機能するものであってもよい。
以上のようにして、接合膜11を成膜することができる。
以上のような第4実施形態にかかる光学デバイス1においても、前記第1実施形態と同様の作用・効果が得られる。
【0206】
ここで、以上説明したような光学デバイス1、1Aを光スキャナとして用いた場合について説明する。
このような光スキャナは、例えば、レーザープリンタ、イメージング用ディスプレイ、バーコードリーダー、走査型共焦点顕微鏡などの画像形成装置に好適に適用することができる。この場合、光反射部29で反射した光を主走査および/または副走査して、対象物上に画像を形成する。
【0207】
以下、本発明の光学デバイスを備えた画像形成装置の具体例を説明する。
まず、電子写真方式を採用するプリンタに本発明を適用した例を説明する。
図19は、本発明の光学デバイスを備える画像形成装置(プリンタ)の一例を示す全体構成の模式的断面図、図20は、図19に示す画像形成装置に備えられた露光ユニットの概略構成を示す図である。
【0208】
図19に示す画像形成装置510(プリンタ)は、露光・現像・転写・定着を含む一連の画像形成プロセスによって、トナーからなる画像を紙やOHPシートなどの記録媒体に記録するものである。このような画像形成装置510は、図19に示すように、図示矢印方向に回転する感光体511を有し、その回転方向に沿って順次、帯電ユニット512、露光ユニット513、現像ユニット514、転写ユニット515、クリーニングユニット516が配設されている。また、画像形成装置510は、図19にて、下部に、紙などの記録媒体Pを収容する給紙トレイ517が設けられ、上部に、定着装置518が設けられている。
【0209】
このような画像形成装置510にあっては、まず、図示しないホストコンピュータからの指令により、感光体511、現像ユニット514に設けられた現像ローラ(図示せず)、および中間転写ベルト551が回転を開始する。そして、感光体511は、回転しながら、帯電ユニット512により順次帯電される。
感光体511の帯電された領域は、感光体511の回転に伴って露光位置に至り、露光ユニット513によって、第1色目、例えばイエローYの画像情報に応じた潜像が前記領域に形成される。
【0210】
感光体511上に形成された潜像は、感光体511の回転に伴って現像位置に至り、イエロー現像のための現像装置544によってイエロートナーで現像される。これにより、感光体511上にイエロートナー像が形成される。このとき、現像ユニット514は、現像装置544が選択的に前記現像位置にて感光体511と対向している。なお、この選択は、保持体545の軸546まわりの回転により、現像装置541〜544の相対位置関係を維持しつつそれぞれの位置を変えることで行う。
【0211】
感光体511上に形成されたイエロートナー像は、感光体511の回転に伴って一次転写位置(すなわち、感光体511と一次転写ローラ552との対向部)に至り、一次転写ローラ552によって、中間転写ベルト551に転写(一次転写)される。このとき、一次転写ローラ552には、トナーの帯電極性とは逆の極性の一次転写電圧(一次転写バイアス)が印加される。なお、この間、二次転写ローラ555は、中間転写ベルト551から離間している。
前述の処理と同様の処理が、第2色目、第3色目および第4色目について繰り返して実行されることにより、各画像信号に対応した各色のトナー像が、中間転写ベルト551に重なり合って転写される。これにより、中間転写ベルト551上にはフルカラートナー像が形成される。
【0212】
一方、記録媒体Pは、給紙トレイ517から、給紙ローラ571、レジローラ572によって二次転写位置(すなわち、二次転写ローラ555と駆動ローラ554との対向部)へ搬送される。
中間転写ベルト551上に形成されたフルカラートナー像は、中間転写ベルト551の回転に伴って二次転写位置に至り、二次転写ローラ555によって記録媒体Pに転写(二次転写)される。このとき、二次転写ローラ555は中間転写ベルト551に押圧されるとともに二次転写電圧(二次転写バイアス)が印加される。また、中間転写ベルト551は、駆動ローラ554を回転させることで一次転写ローラ552および従動ローラ553を従動回転させながら回転する。
記録媒体Pに転写されたフルカラートナー像は、定着装置518によって加熱および加圧されて記録媒体Pに融着される。その後、片面プリントの場合には、記録媒体Pは、排紙ローラ対573によって画像形成装置510の外部へ排出される。
【0213】
一方、感光体511は一次転写位置を経過した後に、クリーニングユニット516のクリーニングブレード561によって、その表面に付着しているトナーが掻き落とされ、次の潜像を形成するための帯電に備える。掻き落とされたトナーは、クリーニングユニット516内の残存トナー回収部に回収される。
両面プリントの場合には、定着装置518によって一方の面に定着処理された記録媒体Pを一旦排紙ローラ対573により挟持した後に、排紙ローラ対573を反転駆動するとともに、搬送ローラ対574、576を駆動して、当該記録媒体Pを搬送路575を通じて表裏反転して二次転写位置へ帰還させ、前述と同様の動作により、記録媒体Pの他方の面に画像を形成する。
【0214】
このような画像形成装置に備えられた露光ユニット513は、図示しないパーソナルコンピュータなどのホストコンピュータから画像情報を受けこれに応じて、一様に帯電された感光体511上に、レーザーを選択的に照射することによって、静電的な潜像を形成する装置である。
より具体的に説明すると、露光ユニット513は、図20に示すように、光スキャナである光学デバイス1と、レーザー光源531と、コリメータレンズ532と、fθレンズ533とを有している。
【0215】
露光ユニット513にあっては、レーザー光源531からコリメータレンズ532を介して光学デバイス1(光反射部29)にレーザー光Lが照射される。そして、光反射部29で反射したレーザー光Lがfθレンズを介して感光体511上に照射される。
その際、光学デバイス1の駆動(第2の質量部23の回動中心軸Xまわりの回動)により、光反射部29で反射した光(レーザーL)は、感光体511の軸線方向に走査(主走査)される。一方、感光体511の回転により、光反射部29で反射した光(レーザーL)は、感光体511の周方向に走査(副走査)される。また、レーザー光源531から出力されるレーザー光Lの強度は、図示しないホストコンピュータから受けた画像情報に応じて変化する。
このようにして露光ユニット513は、感光体511上を選択的に露光して画像形成(描画)を行う。
【0216】
次に、イメージングディスプレイ(表示装置)に本発明を適用した例を説明する。
図21は、本発明の画像形成装置(イメージングディスプレイ)の一例を示す概略図である。
図21に示す画像形成装置519は、光スキャナである光学デバイス1と、R(赤)、G(緑)、B(青)の3色の光源591、592、593と、クロスダイクロイックプリズム(Xプリズム)594と、ガルバノミラー595と、固定ミラー596と、スクリーン597とを備えている。
【0217】
このような画像形成装置519にあっては、光源591、592、593からクロスダイクロイックプリズム594を介して光学デバイス1(光反射部29)に各色の光が照射される。このとき、光源591からの赤色の光と、光源592からの緑色の光と、光源593からの青色の光とが、クロスダイクロイックプリズム594にて合成される。
そして、光反射部29で反射した光(3色の合成光)は、ガルバノミラー595で反射した後に、固定ミラー596で反射し、スクリーン597上に照射される。
【0218】
その際、光学デバイス1の駆動(第2の質量部23の回動中心軸Xまわりの回動)により、光反射部29で反射した光は、スクリーン597の横方向に走査(主走査)される。一方、ガルバノミラー595の軸線Yまわりの回転により、光反射部29で反射した光は、スクリーン597の縦方向に走査(副走査)される。また、各色の光源591、592、593から出力される光の強度は、図示しないホストコンピュータから受けた画像情報に応じて変化する。
このようにして画像形成装置519は、スクリーン597上に画像形成(描画)を行う。
【0219】
以上、本発明の光学デバイスおよび画像形成装置について、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、本発明の光学デバイスでは、各部の構成は、同様の機能を発揮する任意の構成のものに置換することができ、また、任意の構成を付加することもできる。
また、例えば、本発明の光学デバイスは、第1ないし第4実施形態の任意の構成から任意のものを組み合わせるようにしてもよい。
また、前記第1ないし第4実施形態の光学デバイスは、2自由度振動系を有するねじり振動子を用いた光学デバイスであるため、マイクロマシン技術を用いて製造することができ、小型化を図ることができる。特に、2自由度振動系を有するねじり振動子は、駆動電圧を低減しつつ、大きな振幅で可動板(第2の質量部23)を駆動することができる。
【0220】
なお、本発明は2自由度振動系以外の振動系の光学デバイスにも適用することができる。例えば、前述した第1ないし第4実施形態において、第1の質量部および第1の弾性連結部を省略し、第2の弾性連結部により第2の質量部と支持部とを連結したような形態としてもよい。すなわち、本発明は、1自由度振動系を有するねじり振動子を用いた光学デバイスにも適用することができる。このようなねじり振動子を用いた光学デバイスにあっても、マイクロマシン技術を用いて製造することができるので、小型化を図ることができる。
【0221】
また、前述した実施形態では、静電駆動により第1の質量部21、22を回動させ、これに伴い、第2の質量部23を回動させるもの、すなわち、可動板を駆動する駆動手段として静電駆動を用いたものを説明したが、駆動手段としては、これに限定されず、圧電駆動など他の駆動方式のものを採用することもできる。また、静電駆動を用いた駆動手段としては、前述したような平行平板型以外にも、櫛歯状電極を用いたものなど他の形態であってもよい。
また、可動板(第2の質量部)を冷却する冷却部材としては、可動板を冷却または放熱することができるものであれば、前述した実施形態のものに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0222】
【図1】本発明の光学デバイスの第1実施形態を示す平面図である。
【図2】図1中のA−A線断面図である。
【図3】図1に示す光学デバイスの電極の配置を示す平面図である。
【図4】図1に示す光学デバイスの駆動電圧の一例を示す図である。
【図5】駆動電圧(交流電圧)の周波数と、第1の質量部および第2の質量部の振幅との関係を示すグラフである。
【図6】図1に示す光学デバイスの製造方法を説明するための図である。
【図7】図1に示す光学デバイスの製造方法を説明するための図である。
【図8】図1に示す光学デバイスの製造方法を説明するための図である。
【図9】第1実施形態にかかる光学デバイスが備える接合膜のエネルギー付与前の状態を示す部分拡大図である。
【図10】第1実施形態にかかる光学デバイスが備える接合膜のエネルギー付与後の状態を示す部分拡大図である。
【図11】第1実施形態にかかる光学デバイスが備える接合膜の作製に用いられるプラズマ重合装置を模式的に示す縦断面図である。
【図12】本発明の光学デバイスの第2実施形態を示す平面図である。
【図13】図12中のA−A線断面図である。
【図14】第3実施形態にかかる光学デバイスが備える接合膜のエネルギー付与前の状態を示す部分拡大図である。
【図15】第3実施形態にかかる光学デバイスが備える接合膜のエネルギー付与後の状態を示す部分拡大図である。
【図16】第3実施形態にかかる接合膜の作製に用いられる成膜装置を模式的に示す縦断面図である。
【図17】図16に示す成膜装置が備えるイオン源の構成を示す模式図である。
【図18】第4実施形態において、接合膜の作製に用いられる成膜装置を模式的に示す縦断面図である。
【図19】本発明の画像形成装置(プリンタ)の一例を示す全体構成の模式的断面図である。
【図20】図19に示す画像形成装置に備えられた露光ユニットの概略構成を示す図である。
【図21】本発明の画像形成装置(イメージングディスプレイ)の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0223】
1、1A……光学デバイス 2……基体 21、22……第1の質量部 21a、22a……端部 23……第2の質量部 23a……端部 24……支持部 25……第1の弾性連結部 26……第2の弾性連結部 27……回転中心軸 28……空間 29……光反射部 3……対向基板 31……開口部 32……電極 35……表面 301……Si骨格 302……シロキサン結合 303……脱離基 304……活性手 4……接合膜 5……シリコン基板 51……凹部 6……金属マスク 7……レジストマスク 9……シリコン基板 10、10A……ヒートシンク 10A1……フィン 11、11A……接合膜 12A1……フィン L、L、L……距離 100……プラズマ重合装置 101……チャンバー 102……接地線 103……供給口 104……排気口 130……第1の電極 139……静電チャック 140……第2の電極 170……ポンプ 171……圧力制御機構 180……電源回路 182……高周波電源 183……マッチングボックス 184……配線 190……ガス供給部 191……貯液部 192……気化装置 193……ガスボンベ 194……配管 195……拡散板 200……成膜装置 211……チャンバー 212……基板ホルダー 215……イオン源 216……ターゲット 217……ターゲットホルダー 219……ガス供給源 220……第1のシャッター 221……第2のシャッター 230……排気手段 231……排気ライン 232……ポンプ 233……バルブ 250……開口 253……グリッド 254……グリッド 255……磁石 256……イオン発生室 257……フィラメント 260……ガス供給手段 261……ガス供給ライン 262……ポンプ 263……バルブ 264……ガスボンベ 400……成膜装置 411……チャンバー 412……基板ホルダー 421……シャッター 430……排気手段 431……排気ライン 432……ポンプ 433……バルブ 460……有機金属材料供給手段 461……ガス供給ライン 462……貯留槽 463……バルブ 464……ポンプ 465……ガスボンベ 470……ガス供給手段 471……ガス供給ライン 473……バルブ 474……ポンプ 475……ガスボンベ 510……画像形成装置 511……感光体 512……帯電ユニット 513……露光ユニット 514……現像ユニット 515……転写ユニット 516……クリーニングユニット 517……給紙トレイ 518……定着装置 519……画像形成装置 531……レーザー光源 532……コリメータレンズ 533……fθレンズ 541〜544……現像装置 545……保持体 546……軸 551……中間転写ベルト 552……一次転写ローラ 553……従動ローラ 554……駆動ローラ 555……二次転写ローラ 561……クリーニングブレード 571……給紙ローラ 572……レジローラ 573……排紙ローラ対 574、576……搬送ローラ対 575……搬送路 591、592、593……光源 594……クロスダイクロイックプリズム 595……ガルバノミラー 596……固定ミラー 597……スクリーン P……記録媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光反射部を備える可動板と、該可動板を支持する支持部とを有し、前記可動板が前記支持部に対して回動可能に設けられた基体と、
前記可動板を回動させる駆動手段と、
前記基体を冷却する冷却部材とを有し、
前記基体と前記冷却部材とが接合膜を介して接合されており、
前記接合膜は、シロキサン(Si−O)結合を含みランダムな原子構造を有するSi骨格と、該Si骨格に結合する脱離基とを含み、
前記接合膜は、その少なくとも一部の領域にエネルギーを付与したことにより、前記接合膜の表面付近に存在する前記脱離基が前記Si骨格から脱離し、前記接合膜の表面の前記領域に発現した接着性によって、前記基体と前記冷却部材とを接合していることを特徴とする光学デバイス。
【請求項2】
前記接合膜を構成する全原子からH原子を除いた原子のうち、Si原子の含有率とO原子の含有率の合計が、10〜90原子%である請求項1に記載の光学デバイス。
【請求項3】
前記接合膜中のSi原子とO原子の存在比は、3:7〜7:3である請求項1または2に記載の光学デバイス。
【請求項4】
前記Si骨格の結晶化度は、45%以下である請求項1ないし3のいずれかに記載の光学デバイス。
【請求項5】
前記脱離基は、H原子、B原子、C原子、N原子、O原子、P原子、S原子およびハロゲン系原子、またはこれらの各原子が前記Si骨格に結合するよう配置された原子団からなる群から選択される少なくとも1種で構成されたものである請求項1ないし4のいずれかに記載の光学デバイス。
【請求項6】
前記脱離基は、アルキル基である請求項5に記載の光学デバイス。
【請求項7】
前記接合膜は、プラズマ重合法により形成されたものである請求項1ないし6のいずれかに記載の光学デバイス。
【請求項8】
前記接合膜は、ポリオルガノシロキサンを主材料として構成されている請求項7に記載の光学デバイス。
【請求項9】
前記ポリオルガノシロキサンは、オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするものである請求項8に記載の光学デバイス。
【請求項10】
前記接合膜の平均厚さは、1〜1000nmである請求項1ないし9のいずれかに記載の光学デバイス。
【請求項11】
光反射部を備える可動板と、該可動板を支持する支持部とを有し、前記可動板が前記支持部に対して回動可能に設けられた基体と、
前記可動板を回動させる駆動手段と、
前記基体を冷却する冷却部材とを有し、
前記基体と前記冷却部材とが接合膜を介して接合されており、
前記接合膜は、金属原子と、該金属原子に結合する酸素原子と、前記金属原子および前記酸素原子の少なくとも一方に結合する脱離基とを含み、
前記接合膜は、その少なくとも一部の領域にエネルギーを付与したことにより、前記接合膜の表面付近に存在する前記脱離基が前記金属原子および前記酸素原子の少なくとも一方から脱離し、前記接合膜の表面の前記領域に発現した接着性によって、前記基体と前記冷却部材とを接合していることを特徴とする光学デバイス。
【請求項12】
光反射部を備える可動板と、該可動板を支持する支持部とを有し、前記可動板が前記支持部に対して回動可能に設けられた基体と、
前記可動板を回動させる駆動手段と、
前記基体を冷却する冷却部材とを有し、
前記基体と前記冷却部材とが接合膜を介して接合されており、
前記接合膜は、金属原子と、有機成分で構成される脱離基とを含み、
前記接合膜は、その少なくとも一部の領域にエネルギーを付与したことにより、前記接合膜の表面付近に存在する前記脱離基が前記接合膜から脱離し、前記接合膜の表面の前記領域に発現した接着性によって、前記基体と前記冷却部材とを接合していることを特徴とする光学デバイス。
【請求項13】
前記接合膜は、流動性を有しない固体状のものである請求項1ないし12のいずれかに記載の光学デバイス。
【請求項14】
前記可動板と前記支持部とが、一体的に形成されており、
前記冷却部材は、前記接合膜を介して前記支持部に接合されている請求項1ないし13のいずれかに記載の光学デバイス。
【請求項15】
前記一体的に形成された可動板および支持部は、シリコン材料を主材料として構成されている請求項14に記載の光学デバイス。
【請求項16】
前記冷却部材は、ヒートシンクである請求項1ないし15のいずれかに記載の光学デバイス。
【請求項17】
前記ヒートシンクは、銅またはアルミニウムを主材料として構成されている請求項16に記載の光学デバイス。
【請求項18】
前記基体は、前記可動板および前記支持部と、
前記可動板と前記支持部とを連結し、捩れ変形する軸部材と、
前記軸部材の途中に設けられ、前記可動板を回動させる駆動部材とを有し、
前記冷却部材は、前記接合膜を介して前記駆動部材に接合されている請求項1ないし17のいずれかに記載の光学デバイス。
【請求項19】
前記駆動部材に接合された前記冷却部材は、ヒートシンクであり、
前記ヒートシンクには、前記駆動部材の回動軸線に対し直角な方向に延びるフィンが前記回動軸線方向に間隔を隔てて設けられている請求項18に記載の光学デバイス。
【請求項20】
前記ヒートシンクは、前記駆動部材の回動軸線に対し直角な方向において、端部側の高さが中央部側の高さよりも低い請求項19に記載の光学デバイス。
【請求項21】
前記ヒートシンクの重心は、平面視で回動軸線上にある請求項19または20に記載の光学デバイス。
【請求項22】
請求項1ないし21のいずれかに記載の光学デバイスを備え、前記光反射部で反射した光を走査して、画像を形成するように構成されていることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2009−134029(P2009−134029A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−309556(P2007−309556)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】