説明

光学用ポリ乳酸フィルムおよびその製造方法

【課題】ポリ乳酸フィルムを用いて、加熱時の寸法安定性が良好であり、光学用フィルム、特に偏光板保護フィルムとして好適に用いることができる光学用ポリ乳酸フィルムを提供すること。
【解決手段】特定の温度範囲に結晶融解ピークを有し、特定のステレオ化度を有し、面方向の位相差(Re)および厚み方向の位相差(Rth)が特定の数値範囲にあり、特定の熱収縮率を有するポリ乳酸フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、耐熱性に優れた光学用ポリ乳酸フィルムに関するものであり、特に偏光板保護フィルムとして好適に用いることができる光学用ポリ乳酸フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保全の見地から、また石油枯渇への懸念などから、非石油系樹脂が開発されている。なかでもポリ乳酸は、透明性が良好で、溶融成形可能であり、バイオマスを原料とし微生物を利用した発酵法により、経済的に製造できるようになり光学材料としての利用が期待されている。
【0003】
また最近、例えばディスプレイ市場の拡大に伴い、画像をより鮮明に見たいという要求が高まっており、単なる透明性に加え、より高度な光学特性が付与された材料が求められている。
【0004】
一般にポリマーは分子主鎖方向とそれに垂直な方向とで屈折率が異なるため複屈折を生じる。用途によっては、複屈折を厳密にコントロールすることが求められており、例えば液晶の偏光板に用いられる偏光板保護フィルムの場合は、複屈折が小さいことが求められる。
【0005】
偏光板の構成部材である偏光板保護フィルムや位相差フィルム(光学補償フィルム)等の光学用フィルムとしては、これまでトリアセチルセルロース(TAC)フィルムがよく用いられてきた。しかしながら近年、ディスプレイの大型化に伴い、それに用いられる光学用フィルムも大型化し、複屈折の変動を小さくする必要性がより高まってきた。このため、光学用フィルムとしては、耐熱性、加熱時の寸法安定性が良好で、熱応力による複屈折の変化が小さいものが求められている。
【0006】
光学材料としては、前述のTACのほか、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)が知られている。また、非特許文献1にはアモルファスポリオレフィン(APO)が、特許文献1にはアクリル系樹脂とポリ乳酸とからなる材料がそれぞれ提案されている。しかしながら、これらの材料であっても加熱による熱収縮が大きく、近年の偏光板保護フィルムや位相差フィルムに要求される耐熱性、加熱時の寸法安定性を満足するものではない。すなわち、これらの材料からなる光学用フィルムは、熱応力によって複屈折が変動してしまい、よって特に大型ディスプレイには用いることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−227090号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】化学総説、No.39、1998(学会出版センター発行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ポリL−乳酸成分とポリD−乳酸成分とからなるポリ乳酸(A成分)を含有する樹脂組成物からなるポリ乳酸フィルムを用いて、加熱時の寸法安定性が良好であり、光学用フィルム、特に偏光板保護フィルムとして好適に用いることができる光学用ポリ乳酸フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ポリL−乳酸成分とポリD−乳酸成分とからなるポリ乳酸(A成分)を含有する樹脂組成物よりなるポリ乳酸フィルムが、特定の温度範囲に結晶融解ピークを有し、特定のステレオ化度を有し、面方向の位相差(Re)および厚み方向の位相差(Rth)が特定の数値範囲にあり、特定の熱収縮率を有することによって、上記課題が達成されることを見出し、本発明に至った。
【0011】
即ち、本発明は、
(1)ポリL−乳酸成分とポリD−乳酸成分とからなるポリ乳酸(A成分)を含有する樹脂組成物よりなり、示差走査熱量計(DSC)測定で190℃以上に結晶融解ピークを有し、
下記の(i)式で定義されるステレオ化度(S)が90%以上であるポリ乳酸フィルムであって、
下記式(ii)で定義される面方向の位相差(Re)が20nm以下であり、
下記式(iii)で定義される厚み方向の位相差(Rth)が25nm以上90nm以下であり、
90℃で5時間熱処理した時の縦方向および横方向の熱収縮率が4%以下である
ことを特徴とする光学用ポリ乳酸フィルムである。
S(%)=〔ΔHms/(ΔHmh+ΔHms)〕×100 (i)
(但し、ΔHmsはステレオコンプレックス相ポリ乳酸の結晶融解エンタルピー(J/g)を表す。ΔHmhはホモ相ポリ乳酸の結晶融解エンタルピー(J/g)を表す。)
Re=(nx−ny)×d (ii)
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d (iii)
(但し、nxはフィルムの長手方向の屈折率を表す。nyはフィルムの幅方向の屈折率を表す。nzはフィルムの厚み方向の屈折率を表す。dはフィルムの厚み(nm)を表す。)
【0012】
さらに本発明は、
(2)ステレオ化促進剤、および/または、ブロック形成剤を含有すること、
(3)ステレオ化促進剤が、リン酸金属塩であり、ブロック形成剤が、エポキシ基、オキサゾリン基、オキサジン基、イソシアネート基、ケテン基およびカルボジイミド基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を分子中に少なくとも1個有する化合物であること、
(4)ヘーズが2%以下であり、90℃で5時間熱処理する前後のヘーズの変化が2%以下であること、
(5)偏光板保護フィルムとして用いられること、
のうち、いずれか1つの態様を具備することによって、さらに優れた光学用ポリ乳酸フィルムを提供することができる。
【0013】
また、本発明は、
(6)上記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の光学用ポリ乳酸フィルムを用いた偏光板保護フィルム、
(7)上記(6)に記載の偏光板保護フィルムと偏光フィルムとが積層された偏光板、
(8)上記(6)に記載の偏光板保護フィルムを用いた液晶表示装置、
(9)樹脂組成物からなる未延伸フィルムを得て、次いで90℃以上210℃以下の温度で熱処理する、上記(1)に記載の光学用ポリ乳酸フィルムの製造方法、
を包含する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ポリL−乳酸成分とポリD−乳酸成分とからなるポリ乳酸(A成分)を含有する樹脂組成物からなるポリ乳酸フィルムを用いて、加熱時の寸法安定性が良好であり、光学用フィルム、特に偏光板保護フィルムとして好適に用いることができる光学用ポリ乳酸フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明の光学用ポリ乳酸フィルムは、ポリL−乳酸とポリD−乳酸とからなるポリ乳酸(A成分)を必須成分として含有する樹脂組成物を用いて成形されて得られるものである。また、本発明の光学用ポリ乳酸フィルムは、示差走査熱量計(DSC)測定により190℃以上に結晶融解ピークを有する。かかる190℃以上に現れる結晶融解ピークは、ステレオコンプレックス相(以下、コンプレックス相と略称することがある)ポリ乳酸の結晶融解ピークである。
【0016】
<ポリ乳酸(A成分)>
ポリ乳酸(A成分)は、ポリL−乳酸とポリD−乳酸から形成されるステレオコンプレックスポリ乳酸を含む。ポリL−乳酸、ポリD−乳酸は、下記式(1)で表されるL−乳酸単位またはD−乳酸単位から実質的になる。
【0017】
【化1】

【0018】
なお、「実質的に」とは、当該成分が、全成分を基準として好ましくは75モル%以上、より好ましくは90モル%、さらに好ましくは95モル%以上を占めていることをいう。
【0019】
ポリL−乳酸中のL−乳酸単位の含有量は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは97.5〜100モル%である。高融点を実現するためには99〜100モル%である。他の単位としては、D−乳酸単位、乳酸以外の単位が挙げられる。他の単位の含有量は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
【0020】
ポリD−乳酸中のD−乳酸単位の含有量は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは97.5〜100モル%である。高融点を実現するためには99〜100モル%である。他の単位としては、L−乳酸単位、乳酸以外の単位が挙げられる。他の単位の含有量は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
【0021】
乳酸以外の単位として、2個以上のエステル結合形成可能な官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等由来の単位およびこれら種々の構成成分からなる各種ポリエステル、各種ポリエーテル、各種ポリカーボネート等由来の単位が例示される。
【0022】
ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。多価アルコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の脂肪族多価アルコール類あるいはビスフェノールおよびこれらにエチレンオキシドが付加させたもの等の芳香族多価アルコール等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、p−オキシ安息香酸等が挙げられる。ラクトンとしては、グリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。
【0023】
ポリL−乳酸およびポリD−乳酸の重量平均分子量(Mw)は、樹脂組成物の機械物性および成形性を両立させるため、好ましくは10万〜50万、より好ましくは11万〜35万、さらに好ましくは12万〜25万の範囲である。
【0024】
ポリL−乳酸およびポリD−乳酸は、従来公知の方法で製造することができる。例えば、L−またはD−ラクチドを金属含有触媒の存在下加熱し、開環重合により製造することができる。また、金属含有触媒を含有する低分子量のポリ乳酸を結晶化させた後、減圧下または加圧化、不活性ガス気流下の存在下、あるいは非存在下、加熱.固相重合させ製造することもできる。さらに、有機溶媒の存在/非存在下で、乳酸を脱水縮合させる直接重合法で製造することができる。
【0025】
重合反応は、従来公知の反応容器で実施可能であり、例えばヘリカルリボン翼等、高粘度用攪拌翼を備えた縦型反応器あるいは横型反応器を単独、または並列して使用することができる。また、回分式あるいは連続式あるいは半回分式のいずれでもよいし、これらを組み合わせてもよい。
【0026】
重合開始剤としてアルコールを用いてもよい。かかるアルコールとしては、ポリ乳酸の重合を阻害せず不揮発性であることが好ましく、例えばデカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノール等を好適に用いることができる。
【0027】
固相重合法では、前述した開環重合法や乳酸の直接重合法によって得られた比較的低分子量(おおよそ15〜203)のポリ乳酸をプレポリマーとして使用する。プレポリマーは、そのガラス転移点温度以上融点未満の温度範囲で予め結晶化させることが、樹脂ペレット融着防止の面から好ましい。結晶化させたプレポリマーは固定された縦型或いは横型反応容器、またはタンブラーやキルンの様に容器自身が回転する反応容器(ロータリーキルン等)中に充填され、プレポリマーのガラス転移点温度以上融点未満の温度範囲に加熱される。重合温度は、重合の進行に伴い段階的に昇温させても何ら問題はない。また、固相重合中に生成する水を効率的に除去する目的で前記反応容器類の内部を減圧することや、加熱された不活性ガス気流を流通する方法も好適に併用される。
【0028】
ポリ乳酸の重合時に使用された金属含有触媒は、使用に先立ち従来公知の失活剤で不活性化しておくことが、ポリ乳酸(A成分)および樹脂組成物の熱、水分に対する安定性を向上できるため好ましい。
かかる失活剤としてはイミノ基を有し且つ重合金属触媒に配位し得るキレート配位子の群からなる有機リガンドが挙げられる。
【0029】
また、ジヒドリドオキソリン(I)酸、ジヒドリドテトラオキソ二リン(II,II)酸、ヒドリドトリオキソリン(III)酸、ジヒドリドペンタオキソ二リン(III)酸、ヒドリドペンタオキソ二(II,IV)酸、ドデカオキソ六リン(III)酸、ヒドリドオクタオキソ三リン(III,IV,IV)酸、オクタオキソ三リン(IV,III,IV)酸、ヒドリドヘキサオキソ二リン(III,V)酸、ヘキサオキソ二リン(IV)酸、デカオキソ四リン(IV)酸、ヘンデカオキソ四リン(IV)酸、エネアオキソ三リン(V,IV,IV)酸等の酸価数5以下の低酸化数リン酸が挙げられる。
【0030】
また、式xHO・yPで表され、x/y=3のオルトリン酸、2>x/y>1であり、縮合度より二リン酸、三リン酸、四リン酸、五リン酸等と称せられるポリリン酸およびこれらの混合物が挙げられる。
【0031】
また、x/y=1で表されるメタリン酸、なかでもトリメタリン酸、テトラメタリン酸、1>x/y>0で表され、五酸化リン構造の一部を残した網目構造を有するウルトラリン酸(これらを総称してメタリン酸系化合物と呼ぶことがある。)が挙げられる。またこれらの酸の酸性塩、一価、多価のアルコール類、あるいはポリアルキレングリコール類の部分エステル、完全エステル、ホスホノ置換低級脂肪族カルボン酸誘導体等が挙げられる。
【0032】
触媒失活能の観点から、式xHO・yPで表され、x/y=3のオルトリン酸が好ましい。また2>x/y>1であり、縮合度より二リン酸、三リン酸、四リン酸、五リン酸等と称せられるポリリン酸およびこれらの混合物が好ましい。またx/y=1で表されるメタリン酸、なかでもトリメタリン酸、テトラメタリン酸が好ましい。また1>x/y>0で表され、五酸化リン構造の一部を残した網目構造を有するウルトラリン酸(これらを総称してメタリン酸系化合物と呼ぶことがある。)が好ましい。またこれらの酸の酸性塩、一価、多価のアルコール類、あるいはポリアルキレングリコール類の部分エステルリンオキソ酸あるいはこれらの酸性エステル類、ホスホノ置換低級脂肪族カルボン酸誘導体が好適に使用される。
【0033】
メタリン酸系化合物は、3〜200程度のリン酸単位が縮合した環状のメタリン酸あるいは立体網目状構造を有するウルトラ領域メタリン酸あるいはそれらの(アルカル金属塩、アルカリ土類金属塩、オニウム塩)を包含する。なかでも環状メタリン酸ナトリウムやウルトラ領域メタリン酸ナトリウム、ホスホノ置換低級脂肪族カルボン酸誘導体のジヘキシルホスホノエチルアセテート(以下、DHPAと略称することがある。)等が好適に使用される。
【0034】
ポリ乳酸(A成分)中のポリL−乳酸とポリD−乳酸との質量比は、90:10から10:90である。ポリ乳酸(A成分)のステレオ化度(S)、ステレオ結晶化度(K)の向上およびコンプレックス相ポリ乳酸の結晶融解温度を高めるためには、質量比は75:25から25:75であることが好ましく、さらに好ましくは60:40から40:60の範囲であり、できるだけ50:50に近い範囲が好適に選択される。
【0035】
(重量平均分子量(Mw))
ポリ乳酸(A成分)の重量平均分子量(Mw)は、10万〜50万の範囲が樹脂組成物の成形性、物性を両立させる点より好適に選択される。より好ましくは10万〜30万、さらに好ましくは11万〜25万の範囲が好適に選択される。重量平均分子量(Mw)は、溶離液にクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量値である。
【0036】
(ステレオ化度(S))
さらに本発明で用いるポリ乳酸(A成分)は、DSC測定において、結晶融解ピーク強度より下記式(i)で定義されるステレオ化度(S)が好ましくは90%以上である。即ち、ポリ乳酸(A成分)はステレオコンプレックス相が高度に形成されていることが好ましい。
S(%)=〔ΔHms/(ΔHmh+ΔHms)〕×100 (i)
式中、ΔHmsはステレオコンプレックス相ポリ乳酸の結晶融解エンタルピー(J/g)を表す。ΔHmhはホモ相ポリ乳酸の結晶融解エンタルピー(J/g)を表す。DSC測定において190℃以上に現れる結晶融解ピークは、ステレオコンプレックス相ポリ乳酸の融解に帰属される結晶融解ピークであり、190℃未満に現れる結晶融解ピークは、ホモ相ポリ乳酸の融解に帰属される結晶融解ピークである。ステレオ化度(S)は熱処理過程において最終的に生成するステレオコンプレックスポリ乳酸結晶の割合を示すパラメーターである。
【0037】
ポリ乳酸(A成分)がかかる範囲のステレオ化度(S)を有することにより、本発明の光学用ポリ乳酸フィルムの熱寸法安定性、高温機械物性等を高いものとすることができる。
【0038】
(ステレオ結晶化度(K))
本発明におけるポリ乳酸(A成分)は、下記式(iv)で定義されるステレオ結晶化度(K)が、好ましくは10〜60%、より好ましくは25〜60%、さらに好ましくは30〜55%、特に好ましくは35〜55%である。
K=(ΔHms−△Hc)/142 (iv)
式中、ΔHmsはステレオコンプレックス相ポリ乳酸の結晶融解エンタルピー(J/g)を表す。ΔHcはポリ乳酸結晶化エンタルピー(J/g)を表す。142(J/g)はステレオコンプレックスポリ乳酸結晶の平衡融解エンタルピーを表す。
【0039】
(結晶融解温度)
ポリ乳酸(A成分)は、好ましくは190〜250℃の範囲に結晶融解温度を有する。かかる結晶融解温度は、ステレオコンプレックス相ポリ乳酸の融解に帰属される結晶融解温度である。より好ましくは200〜220℃の範囲に結晶融解温度を有する態様である。結晶融解温度が上記数値範囲にあると、耐熱性に優れる。結晶融解エンタルピーは、好ましくは20J/g以上、より好ましくは30J/g以上である。
【0040】
(カルボキシル基濃度)
ポリ乳酸(A成分)のカルボキシル基濃度は、好ましくは10eq/ton以下、より好ましくは2eq/ton以下、さらに好ましくは1eq/ton以下の範囲である。カルボキシル基濃度がこの範囲内にある時には、ポリ乳酸(A成分)および樹脂組成物の溶融安定性、耐湿熱安定性等の物性も良好なものとすることができる。ポリ乳酸(A成分)のカルボキシル基濃度を10eq/ton以下にするには、ポリエステル組成物で公知のカルボキシル末端基濃度の低減方法を好適に適用することができる。具体的には、耐湿熱性改善剤等の末端封止剤を添加する方法または末端封止剤を添加せず、アルコール、アミンによってエステルまたはアミド化する方法を採用することができる。
【0041】
耐湿熱性改善剤としては、後述する特定官能基を有するカルボキシル基封止剤が好適に適用できる。中でも、特定官能基がカルボジイミド基であるカルボジイミド化合物がカルボキシル基を効果的に封止できるとともに、ポリ乳酸さらに本発明の樹脂組成物の色相、コンプレックス相の形成促進、耐湿熱性等の観点より好ましく選択される。
【0042】
(ラクチド含有量)
ポリ乳酸(A成分)のラクチド含有量は、好ましくは0〜1000ppm、より好ましくは0〜500ppm、さらに好ましくは0〜200ppm、特に好ましくは0〜100ppmの範囲である。ラクチド含有量がこの範囲にあることにより、フィルム製膜工程の設備汚れ、フィルムの表面欠点などの原因物の発生を抑制することができる。
【0043】
ラクチド含有量をかかる範囲に低減させるには、ポリL−乳酸およびポリD−乳酸の重合時点からポリ乳酸(A成分)製造の終了までの任意の段階において、従来公知のラクチド軽減処理法を単独であるいはこれらを組み合わせて実施することによって達成することが可能である。
【0044】
(ポリ乳酸(A成分)の製造)
ポリ乳酸(A成分)は、ポリL−乳酸とポリD−乳酸とを所定の質量比で共存、接触させることにより製造することができる。
接触は、溶媒の存在下で行うことができる。溶媒は、ポリL−乳酸とポリD−乳酸が溶解するものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、フェノール、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ブチロラクトン、トリオキサン、ヘキサフルオロイソプロパノール等の単独あるいは2種以上混合したものが好ましい。
【0045】
また、混合は、溶媒の非存在下で行うことができる。即ち、ポリL−乳酸とポリD−乳酸とを所定量混合した後に溶融混練する方法、いずれか一方を溶融させた後に残る一方を加えて混練する方法等を採用することができる。
【0046】
あるいは、接触が化学結合によりなされることも可能である。たとえばポリL−乳酸セグメントとポリD−乳酸セグメントが結合しているブロック重合体のポリ乳酸もコンプレックス相が高度に形成されやすく、かかるステレオブロックポリ乳酸も本発明で好適に用いることが出来る。
【0047】
このようなブロック重合体は、例えば、逐次開環重合によって製造する方法や、ポリL−乳酸とポリD−乳酸を重合しておいてあとで鎖交換反応や鎖延長剤で結合する方法、ポリL−乳酸とポリD−乳酸を重合しておいてブレンド後固相重合して鎖延長する方法、立体選択開環重合触媒を用いてラセミラクチドから製造する方法等上記の基本的構成を持つブロック共重合体であれば製造法によらず、用いることができるが、逐次開環重合によって得られる高融点のステレオブロック重合体、固相重合法によって得られる重合体を用いることが製造の容易さからより好ましい。
【0048】
本発明で用いるポリ乳酸(A成分)には、本発明の趣旨に反しない範囲において、コンプレックス相の形成を安定的且つ高度に進めるために特定の添加物を添加することが好ましい。
【0049】
(I)例えば、ステレオ化促進剤として下記式(2)または(3)で表されるリン酸金属塩を添加する手法が挙げられる。
【0050】
【化2】

式(2)中、R11は水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基を表し、R12、R13はそれぞれ独立に、水素原子、または炭素原子数1〜12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子またはアルミニウム原子を表し、pは1または2を表し、qはMがアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子のときは0を、アルミニウム原子の時は1または2を表す。
【0051】
【化3】

式(3)中R14、R15およびR16は各々独立に、水素原子または炭素原子数1〜12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子またはアルミニウム原子を表し、pは1または2を表し、qはMがアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子のときは0を、アルミニウム原子のときは1または2を表す。
【0052】
式(2)または(3)で表されるリン酸金属塩のM、Mは、Na、K、Al、Mg、Ca、Liが好ましく、特に、K、Na、Al、Li、なかでもLi、Alが最も好適に用いることができる。
【0053】
(II)また、エポキシ基、オキサゾリン基、オキサジン基、イソシアネート基、ケテン基およびカルボジイミド基(以下、特定官能基と呼ぶことがある。)からなる群より選らばれる少なくとも1種の基を分子中に少なくとも1個有する化合物をブロック形成剤として添加する方法が挙げられる。
【0054】
リン酸金属塩の含有量は、ポリ乳酸(A成分)に対して、好ましくは10ppm〜2質量%、より好ましくは50ppm〜0.5質量%、さらに好ましくは100ppm〜0.3質量%である。少なすぎる場合には、ステレオ化度を向上する効果が小さく、多すぎると樹脂自体を劣化させるので好ましくない。
【0055】
さらに所望により、本発明の趣旨に反しない範囲において、リン酸金属塩の作用を強化するため、結晶化核剤を併用することができる。結晶化核剤としては、珪酸カルシウム、タルク、カオリナイト、モンモリロナイトが好ましい。リン酸金属塩の作用を強化させる結晶化核剤の含有量は、ポリ乳酸(A成分)100質量部あたり、好ましくは0.05〜5質量部、より好ましくは0.06〜2質量部、さらに好ましくは0.06〜1質量部の範囲である。
【0056】
本発明においてブロック形成剤は、特定官能基がポリ乳酸(A成分)の分子末端と反応して、部分的にポリL−乳酸ユニットとポリD−乳酸ユニットとを連結しブロック化ポリ乳酸を形成、ステレオコンプレックス相形成を促進させる。ブロック形成剤として、ポリエステルのカルボキシル基封止剤として知られているものを使用することができる。なかでも、ポリ乳酸および本発明の樹脂組成物の色調、熱分解性、耐加水分解性等に与える影響よりカルボジイミド化合物が好ましい。ブロック形成剤の使用量は、ポリ乳酸(A成分)100質量部あたり、好ましくは0.001〜5質量部、より好ましくは0.01〜3質量部である。この範囲を超えて多量に適用すると得られる樹脂色相を悪化、あるいは可塑化がおこる懸念が大きくなり好ましくない。また0.001質量部未満の使用量であるとその効果はほとんど認められず工業的な意義は小さい。
【0057】
上記(I)および(II)の手法は単独に適用することも可能であるが、組み合わせて適用する方法がポリ乳酸(A成分)のコンプレックス相形成をより一層効果的に促進できるために好ましい。
【0058】
本発明においてポリ乳酸(A成分)には、ブロック形成剤と耐湿熱性改善剤とを兼ねて特定官能基を有する化合物を含有させることが好ましい。かかる化合物としてカルボジイミド化合物が好ましい。カルボジイミド化合物の配合量はポリ乳酸(A成分)100質量部あたり、好ましくは0.001〜5質量部の範囲である。0.001質量部より少ないとブロック形成剤としても、またカルボキシル基封止剤としても、その機能を発揮することが不満足である。また、この範囲を超えて多量に適用すると、剤の分解等の好ましくない副反応により樹脂色相の悪化あるいは可塑化がおこる懸念が大きくなり好ましくない。
【0059】
本発明において特定官能基を有する化合物としてはカルボジイミド化合物を主たる成分として選択し、その他の化合物はカルボジイミド化合物の作用を補完、強化するために好適に選択される。
【0060】
本発明で適用可能な特定官能基を有する化合物としては、例えば以下のカルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、イソシアネート化合物等の化合物が例示され、カルボジイミド化合物としては、例えばジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、オクチルデシルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミド、ジベンジルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、N−オクタデシル−N’−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N’−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N’−トリルカルボジイミド、ジ−o−トルイルカルボジイミド、ジ−p−トルイルカルボジイミド、ビス(p−アミノフェニル)カルボジイミド、ビス(p−クロロフェニル)カルボジイミド、ビス(o−クロロフェニル)カルボジイミド、ビス(o−エチルフェニル)カルボジイミド、ビス(p−エチルフェニル)カルボジイミドビス(o−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(p−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(o−イソブチルフェニル)カルボジイミド、ビス(p−イソブチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,5−ジクロロフェニル)カルボジイミド、ビス(2,6−ジメチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,6−ジエチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2−エチル−6−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2−ブチル−6−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,4,6−トリイソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,4,6−トリブチルフェニル)カルボジイミド、ジβナフチルカルボシイミド、N−トリル−N’−シクロヘキシルカルボシイミド、N−トリル−N’−フェニルカルボシイミド、p−フェニレンビス(o−トルイルカルボジイミド)、p−フェニレンビス(シクロヘキシルカルボジイミド、p−フェニレンンビス(p−クロロフェニルカルボジイミド)、2,6,2’,6’−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド、ヘキサメチレンビス(シクロヘキシルカルボジイミド)、エチレンビス(フェニルカルボジイミド)、エチレンビス(シクロヘキシルカルボジイミド)、等のモノまたはポリカルボジイミド化合物が例示される。
【0061】
なかでも反応性、安定性の観点からビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、2,6,2’,6’−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミドが好ましい。
また、これらのうち工業的に入手可能なジシクロヘキシルカルボジイミド、ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミドが好適に使用できる。
【0062】
さらに上記ポリカルボジイミド化合物として市販のポリカルボジイミド化合物は、合成する必要もなく好適に使用することができ、かかる市販のポリカルボジイミド化合物としては例えば日清紡(株)より市販されている「カルボジライト(登録商標)」の商品名で販売されている「カルボジライト(登録商標)」LA−1、あるいはHMV−8CA等を例示することができる。
【0063】
本発明で用いることのできるエポキシ化合物としては、グリシジルエーテル化合物、グリシジルエステル化合物、グリジジルアミン化合物、グリシジルイミド化合物、グリシジルアミド化合物、脂環式エポキシ化合物を好ましく使用することができる。かかる剤を配合することで、機械的特性、成型性、耐熱性、耐久性に優れたポリ乳酸樹脂組成物および成型品を得ることができる。
【0064】
グリシジルエーテル化合物の例としては例えば、ステアリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、エチレンオキシドラウリルアルコールグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングルコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、その他ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン等のビスフェノール類とエピクロルヒドリンとの縮合反応で得られるビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂等を挙げることができ、なかでもビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が好ましい。
【0065】
グリシジルエステル化合物の例としては例えば安息香酸グリシジルエステル、ステアリン酸グリシジルエステル、パーサティック酸グリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル、コハク酸ジグリシジルエステル、ドデカンジオン酸ジグリシジルエステル、ピロメリット酸テトラグリシジルエステル等が挙げられ、なかでも安息香酸グリシジルエステル、バーサティック酸グリシジルエステルが好ましい。
【0066】
グリシジルアミン化合物の例としては例えば、テトラグリシジルアミンジフェニルメタン、トリグリシジル−p−アミノフェノール、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジン、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、トリグリシジルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0067】
グリシジルイミド、グリシジルアミド化合物として、N−グリシジルフタルイミド、N−グリシジル−4,5−ジメチルフタルイミド、N−グリシジル−3,6−ジメチルフタルイミド、N−グリシジルサクシンイミド、N−グリシジル−1,2,3,4−テトラヒドロフタルイミド、N−グリシジルマレインイミド、N−グリシジルベンズアミド、N−グリシジルステアリルアミド等が挙げられる。なかでもN−グリシジルフタルイミドが好ましい。
【0068】
脂環式エポキシ化合物としては、3,4−エポキシシクロヘキシル−3,4−シクロヘキシルカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンジエポキシド、N−メチル−4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸イミド、N−フェニル−4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸イミド等が挙げられる。
【0069】
その他のエポキシ化合物として、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化鯨油等のエポキシ変性脂肪酸グリセリド、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等を用いることができる。
【0070】
本発明で用いるカルボキシ基封止剤として用いることができるオキサゾリン化合物として、2−メトキシ−2−オキサゾリン、2−ブトキシ−2−オキサゾリン、2−ステアリルオキシ−2−オキサゾリン、2−シクロヘキシルオキシ−2−オキサゾリン、2−アリルオキシ−2−オキサゾリン、2−ベンジルオキシ−2−オキサゾリン、2−p−フェニルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−メチル−2−オキサゾリン、2−シクロヘキシル−2−オキサゾリン、2−メタアリル−2−オキサゾリン、2−クロチル−2−オキサゾリン、2−フェニル−2−オキサゾリン、2−o−エチルフェニル−2−オキサゾリン、2−o−プロピルフェニル−2−オキサゾリン、2−p−フェニルフェニル−2−オキサゾリン、2,2’−ビス(2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−メチル−2−オキサゾリン)2,2’−ビス(4−ブチル−2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(4,4’−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−エチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−テトラメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−ヘキサメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−テトラメチレンビス(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−シクロヘキシレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−ジフェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)等が挙げられる。さらに上記化合物をモノマー単位として含むポリオキサゾリン化合物等も挙げられる。
【0071】
本発明で用いることができるオキサジン化合物として、2−メトキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−ヘキシルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−デシルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−シクロヘキシルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−アリルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−クロチルオキシー5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン等が挙げられる。
【0072】
さらに2,2’−ビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2’−メチレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2’−エチレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2’−ヘキサメチレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2’−p−フェニレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2’−P,P’−ジフェニレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)等が挙げられる。さらに上記した化合物をモノマー単位として含むポリオキサジン化合物等が挙げられる。
【0073】
上記オキサゾリン化合物やオキサジン化合物のなかでは2,2’−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)や2,2’−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)が好ましいものとして挙げられる。
【0074】
本発明で用いることができるイソシアネート化合物として、芳香族、脂肪族、脂環式イソシアネート化合物およびこれらの混合物が挙げられる。
モノイソシアネート化合物としてはたとえばフェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、ジメチルフェニルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、ブチルイソシアネート、ナフチルイソシアネート等が挙げられる。
【0075】
ジイソシアネートとしては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、(2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート)混合物、シクロヘキサン−4,4’−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンー4,4’−ジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、2,6−ジイソプロピルフェニル−1,4−ジイソシアネート等が挙げられる。
これらのイソシアネート化合物のなかでは4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、フェニルイソシアネート等の芳香族イソシアネートが好ましい。
【0076】
本発明で用いることができるケテン化合物として、芳香族、脂肪族、脂環式ケテン化合物およびこれらの混合物が挙げられる。具体的には、ジフェニルケテン、ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェニル)ケテン、ビス(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)ケテン、ジシクロヘキシルケテン等を例示することができる。これらのケテン化合物のなかではジフェニルケテン、ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェニル)ケテン、ビス(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)ケテン等の芳香族ケテンが好ましい。
【0077】
上記ブロック形成剤、耐湿熱性改善剤は1種または2種以上の化合物を適宜選択して使用することができる。耐湿熱性改善剤によりブロック構造の形成を促進するとともにカルボキシル基末端や、酸性低分子化合物の一部の封止を行うことも、好適な実施態様の一つとして例示される。
【0078】
<樹脂組成物>
本発明における樹脂組成物は、ポリ乳酸(A成分)を含有する。かかる樹脂組成物は、実質的にポリ乳酸(A成分)のみよりなることが好ましい。なお、「実質的に」とは、当該成分が、全成分を基準として好ましくは75質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上を占めていることをいう。本発明の光学用ポリ乳酸フィルムは、かかる樹脂組成物よりなる。例えば、ポリ乳酸(A成分)以外にアクリル系樹脂等の非結晶性樹脂を含有すると、樹脂組成物は結晶化しにくい傾向にあり、得られるポリ乳酸フィルムの結晶化度が低くなる傾向にあり、ガラス転移点温度(Tg)以上の温度における機械強度が低くなる傾向にある。
【0079】
樹脂組成物は、前記式(i)によって求められるステレオ化度(S)が90%以上であることが好ましい。ステレオ化度(S)が90%以上であると、フィルムの90℃における熱収縮率を低下させることができる。樹脂組成物のステレオ化度(S)は、より好ましくは93%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは、ステレオ化度(S)が100%である。
【0080】
樹脂組成物は、加水分解抑制剤を加えることにより、ポリ乳酸(A成分)の加水分解による分子量低下を抑えることが可能となり、例えば強度低下等を抑えることができる。加水分解抑制剤としては、ポリ乳酸の末端官能基であるカルボン酸および水酸基との反応性を有する化合物、例えば前述の特定官能基を有する化合物が好適に適用され、なかでもカルボジイミド化合物が好適に選択される。
【0081】
このときポリ乳酸(A成分)の質量を基準にしてカルボジイミド化合物が0.001〜5質量%含有されることが好ましい。カルボジイミド化合物の量がかかる範囲を満足することにより樹脂組成物の水分に対する安定性、耐加水分解安定性を好適に高めることができるからである。
【0082】
かかる観点より、カルボジイミド化合物の含有割合は、より好ましくは0.01〜5質量%、さらに好ましくは0.1〜4質量%の範囲が選択される。この範囲より少量に過ぎるとカルボジイミド化合物適用の効果が有効に認められない。またこの範囲を超えて多量に適用すると、耐加水分解安定性の更なる向上は期待されず、逆に樹脂組成物色相が悪化する等の好ましくない現象が発生する懸念がある。
【0083】
樹脂組成物のL−および/またはD−ラクチドの合計含有量は、ポリ乳酸(A成分)の質量を基準にして、好ましくは0〜1000ppm、より好ましくは0〜200ppm、さらに好ましくは0〜100ppmの範囲である。ラクチドの含有量は少ない方が樹脂組成物の色相、安定性等の物性の観点より好ましいが、過剰に減少操作を適用しても、更なる物性の向上は期待されずまたコスト面よりも好ましくない場合が発生する。
【0084】
樹脂組成物のカルボキシル基濃度は、ポリ乳酸(A成分)の質量を基準にして、好ましくは0〜30eq/ton、より好ましくは0〜10eq/ton、さらに好ましくは0〜5eq/tonの範囲、特に好ましくは0〜1eq/tonの範囲である。カルボキシル基濃度の低減は前述のカルボキシル基濃度の低減された、ポリ乳酸(A成分)を使用することにより、容易に達成できるが、樹脂組成物に前述のカルボジイミド化合物をはじめとする、特定官能基を保有する剤を適用することにより達成できる。
【0085】
また、樹脂組成物は、ポリ乳酸(A成分)以外の他の重合体を、本発明の目的を損なわない範囲で含有することができる。他の重合体として、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリスチレン、スチレンアクリロニトリル共重合体等のスチレン系樹脂、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアセタール等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。これらは1種以上を含有させることができる。
【0086】
さらに樹脂組成物には、本発明の効果を著しく損なわない範囲内で、各種目的に応じて任意の添加剤を配合することができる。添加剤の種類は、樹脂やゴム状重合体の配合に一般的に用いられるものであれば特に制限はない。添加剤として、無機充填剤や、酸化鉄等の顔料が挙げられる。またステアリン酸、ベヘニン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、エチレンビスステアロアミド等の滑剤や、離型剤が挙げられる。またパラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、パラフィン、有機ポリシロキサン、ミネラルオイル等の軟化剤・可塑剤が挙げられる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤、りん系熱安定剤等の酸化防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤、紫外線吸収剤(例えばベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤)、難燃剤、帯電防止剤が挙げられる。また有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属ウィスカ等の補強剤、着色剤、静電密着改良剤が挙げられる。またこれらの混合物が挙げられる。
【0087】
紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物ニッケル錯塩系化合物等を挙げることができるが、着色が少ないことからベンゾトリアゾール系化合物が好ましい。また、偏光子や液晶の劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れており、且つ液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。
【0088】
有用なベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の具体例として、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−(3’’,4’’,5’’,6’’−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートとの混合物等を挙げることができるが、これらに限定されない。また、市販品として、チヌビン(TINUVIN)109、チヌビン(TINUVIN)171、チヌビン(TINUVIN)326、チヌビン(TINUVIN)328(何れもチバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を好ましく使用できる。
【0089】
樹脂組成物は、公知の方法で製造することができる。例えば単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ブラベンダー、各種ニーダー等の溶融混練機を用いて、ポリ乳酸(A成分)、必要に応じて耐加水分解抑制剤や上記その他の成分を添加して溶融混練して樹脂組成物を製造することができる。
【0090】
<フィルムの製造>
(押出し)
得られた樹脂組成物を製膜するには、押出し成形、キャスト成形等の成形手法を用いることができる。例えば、Tダイ、円形ダイ等が装着された押出機等を用いて、製膜することができる。このうち、押出し成形が好ましい。
【0091】
押し出し成形により未延伸フィルムを得る場合は、事前にポリ乳酸(A成分)、および任意に添加してもよい加水分解抑制剤等のその他の成分や、任意に添加してもよい添加剤等を溶融混練した材料を用いることもできれば、押出し成形時に溶融混練を経て成形することもできる。未延伸フィルムは、溶融フィルムを冷却ドラム上に押し出し、次いで該フィルムを回転する冷却ドラムに密着させ冷却することによって製造することができる。このとき溶融フィルムにはスルホン酸四級ホスホニウム塩等の静電密着剤を配合し、電極よりフィルム溶融面に非接触的に電荷を印加し、それによってフィルムを回転する冷却ドラムに密着させることにより、表面欠陥の少ない未延伸フィルムを得ることもできる。
【0092】
その際、押出し用ダイのリップ開度と冷却ドラム上に押し出されたシートの厚みとの比(ドラフト比、押出し用ダイのリップ開度を、冷却ドラム上に押出されたシート(未延伸フィルム)の厚みで除して求められる比率)が2以上80以下であることが好ましい。
【0093】
ドラフト比が小さくなると、押出しダイリップからの引取り速度が遅くなりすぎ、ダイリップからのポリマーの離れ速度が遅いためか、ダイリップスジ欠点等の欠点が多くなり好ましくない。このような観点から、ドラフト比の下限は、3以上が好ましく、5以上がより好ましく、9以上がさらに好ましく、15以上が特に好ましい。また、ドラフト比が大きくなりすぎると、ポリマーがダイリップから離れる時の変形が大きすぎるためか、流動が不安定となり厚み変動(厚み斑)が悪くなり、好ましくない。このような観点から、ドラフト比の上限は、60以下であることが好ましく、40以下であることがより好ましく、30以下であることが特に好ましい。
【0094】
また、ポリ乳酸(A成分)の溶媒、例えばクロロホルム、二塩化メチレン等の溶媒を用いて、ポリ乳酸(A成分)他を溶解後、キャスト乾燥固化することにより未延伸フィルムをキャスト成形もすることができる。
【0095】
(延伸)
本発明の光学用ポリ乳酸フィルムとしては、所望の面方向の位相差(Re)、および厚み方向の位相差(Rth)を得るために、未延伸の状態のフィルム(未延伸フィルム)が好ましい。また、本発明の光学用ポリ乳酸フィルムとしては、所望の面方向の位相差(Re)、および厚み方向の位相差(Rth)を得るために、低倍率延伸を施したものがより好ましい。
【0096】
未延伸フィルムを低倍率延伸する際は、機械的流れ方向(以下、MDまたは縦方向または長手方向と呼称する場合がある。)に一軸延伸、機械的流れ方向に直交する方向(以下、TDまたは横方向または幅方向と呼称する場合がある。)に一軸延伸することができる。またロール延伸とテンター延伸の逐次2軸延伸法、テンター延伸による同時2軸延伸法、チューブラー延伸による2軸延伸法等によって延伸することにより2軸延伸フィルムを製造することができる。
【0097】
一軸延伸の場合、かかる低倍率延伸における延伸倍率の上限は、好ましくは1.80倍未満、さらに好ましくは1.20倍以下、特に好ましくは1.10倍以下である。他方、下限は1.00倍を超える範囲であるが、さらに好ましくは1.04倍を超える範囲、特に好ましくは1.06倍を超える範囲である。延伸倍率を上記数値範囲にすることは、面方向の位相差(Re)および厚み方向の位相差(Rth)を本発明が規定する数値範囲とするための好ましい手段の一つである。また、未延伸フィルムとしての特性をある程度維持しつつ、延伸による特性の向上をも併せ持つ、優れた特性のフィルムを得ることが可能である。
【0098】
また、2軸延伸の場合、かかる低倍率延伸における延伸倍率は、面積延伸倍率(縦方向の延伸倍率×横方向の延伸倍率)の上限が、好ましくは1.80倍未満、さらに好ましくは1.20倍以下、特に好ましくは1.10倍以下である。他方、下限は1.00倍を超える範囲であるが、さらに好ましくは1.04倍を超える範囲、特に好ましくは1.06倍を超える範囲である。面積延伸倍率を上記数値範囲にすることは、厚み方向の位相差(Rth)を本発明が規定する数値範囲とするための好ましい手段の一つである。
【0099】
さらに、縦方向および横方向の各々の延伸倍率については、縦方向の延伸倍率の上限は、好ましくは1.30倍未満、より好ましくは1.25倍未満、さらに好ましくは1.20倍未満、特に好ましくは1.10倍以下である。他方、下限は1.00倍を超える範囲であるが、さらに好ましくは1.04倍以上、特に好ましくは1.035倍以上である。また、横方向の延伸倍率の上限は、好ましくは1.30倍未満、より好ましくは1.25倍未満、さらに好ましくは1.20倍未満、特に好ましくは1.10倍以下である。他方、下限は1.00倍を超える範囲であるが、さらに好ましくは1.025倍以上、特に好ましくは1.03倍以上である。縦方向および横方向の各々の延伸倍率を上記数値範囲とすることは、面方向の位相差(Re)および厚み方向の位相差(Rth)を本発明が規定する数値範囲とするための好ましい手段の一つである。
【0100】
縦方向の延伸倍率と横方向の延伸倍率との差の絶対値の上限は、好ましくは0.02未満、特に好ましくは0.01以下である。かかる差の絶対値は、0に近い程好ましい。縦方向の延伸倍率と横方向の延伸倍率との差の絶対値を上記数値範囲とすることは、面方向の位相差(Re)を本発明が規定する数値範囲とするための好ましい手段の一つである。
【0101】
延伸温度は、樹脂組成物のガラス転移点温度(Tg、単位:℃)以上結晶化温度(Tc、単位:℃)以下の範囲が好適に選択される。なかでも、出来るだけTcに近い温度範囲、すなわちポリ乳酸(A成分)の結晶化が進み難い温度範囲がより好適に採用され、面方向の位相差(Re)および厚み方向の位相差(Rth)が低くなる傾向にある。
【0102】
Tgより低い温度では分子鎖が固定されているので、延伸操作を好適に進めることが困難であるとともに、上述の延伸倍率の範囲において、面方向の位相差(Re)、および厚み方向の位相差(Rth)を本発明が規定する数値範囲にすることが困難となる傾向にある。Tc以上ではポリ乳酸(A成分)の結晶化が進み、この場合も延伸工程を良好に進行させることが困難となる傾向にある。
【0103】
従って延伸温度の下限としては、Tg+5℃以上がより好ましく、Tg+10℃以上がさらに好ましい。他方、上限は、Tc−5℃以下がより好ましく、Tc−10℃以下がさらに好ましい。
【0104】
本発明において、フィルム物性、延伸工程安定化の両立の観点より、延伸温度は上記の温度範囲より好適に設定される。延伸温度の上限値に関しては、フィルム物性と延伸工程安定化が相反する挙動をとるので、装置特性を勘案して、適宜設定すべきである。
【0105】
さらに、延伸工程においては、延伸開始部分の温度よりも延伸終了部分の温度が1℃以上高い態様が好ましく、フィルムの厚み斑が良好となるため、望ましい。このような観点から、延伸終了部分の温度は、延伸開始部分の温度より2℃以上高いことがより好ましく、3℃以上高いことがさらに好ましく、4℃以上高いことが特に好ましい。他方、延伸終了部分の温度が延伸開始部分の温度よりも高くなりすぎると、フィルム幅方向の物性差が出てくるようになる傾向にある。このような観点から、延伸終了部分と延伸開始部分との温度差は30℃以下が好ましく、20℃以下がより好ましく、15℃以下がさらに好ましく、10℃以下が特に好ましい。
【0106】
(熱処理)
上記の未延伸フィルム、一軸延伸フィルム、2軸延伸フィルムは、90℃以上210℃以下で熱処理することが好ましい。かかる熱処理は、所謂熱固定処理に相当する。この熱処理により、コンプレックス相ポリ乳酸の結晶化を進め、得られる光学用ポリ乳酸フィルムの熱収縮率を好適に低下させることができる。このような観点から、熱処理温度の下限は、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは140℃以上である。他方、熱処理温度が高くなりすぎ、樹脂組成物の溶融温度に近くなりすぎると、ポリ乳酸フィルムの破断強度等の機械特性が低くなる傾向にあり、また厚み斑が悪くなる傾向にある。このような観点から、熱処理温度の上限は、より好ましくは200℃以下、さらに好ましくは180℃以下である。
【0107】
熱処理時間は、1秒から30分の範囲で実施することが好ましい。熱寸法安定性の向上効果を高くする目的においては、熱処理温度が高いときは相対的に短い時間の熱処理、熱処理温度が低いときは相対的に長い時間の熱処理を要する。例えば、Tcが140℃の樹脂組成物では、熱処理温度140℃では、少なくとも30秒の熱処理が必要であるが、熱処理温度150℃では、10秒の熱処理で、フィルムの90℃、5時間での熱収縮率を4%以下とすることができる。
【0108】
上述の延伸倍率の範囲において、熱処理として上記態様を採用することは、面方向の位相差(Re)および厚み方向の位相差(Rth)を本発明が規定する数値範囲とするための好ましい手段の一つである。
【0109】
また、かかる熱処理を施すことによって、得られたフィルムは透明性、および耐熱性に優れたものとなる。具体的には、90℃で5時間熱処理した後のヘーズの変化を小さくすることができる。
かくして得られたフィルムには、所望により従来公知の方法で、表面活性化処理、たとえばプラズマ処理、アミン処理、コロナ処理を施すことも可能である。
【0110】
<フィルムの特性>
(厚み)
本発明の光学用ポリ乳酸フィルムの厚みは、好ましくは1〜300μmである。かかる厚みは、取扱い時のシワになり易さ(シワ防止)の観点からは厚い方が好ましく、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは20μm以上であり、30μm以上が特に好ましい。他方、透明性の観点からは薄い方が有利であり、200μm以下であることがより好ましく、150μm以下がさらに好ましく、100μm以下が特に好ましい。
【0111】
(面方向の位相差(Re)と厚み方向の位相差(Rth))
本発明の光学用ポリ乳酸フィルムの、面方向の位相差(Re)と厚み方向の位相差(Rth)は、複屈折率差Δnと厚みd(nm)の積であり、ReとRthはそれぞれ下記式(ii)および(iii)で定義される。
Re=(nx−ny)×d (ii)
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d (iii)
nxは、長手方向の屈折率を表す。nyは幅方向の屈折率を表す。nzは厚み方向の屈折率を表す。dは厚み(nm)を表す。
【0112】
本発明の光学用ポリ乳酸フィルムの面方向の位相差(Re)は、20nm以下である。面方向の位相差(Re)は、好ましくは10nm以下、より好ましくは5nm以下、さらに好ましくは4nm以下である。
【0113】
また、本発明の光学用ポリ乳酸フィルムの厚み方向の位相差(Rth)は、25nm以上90nm以下である。厚み方向の位相差(Rth)の上限は、好ましくは80nm以下、さらに好ましくは70nm以下、特に好ましくは60nm以下である。他方、厚み方向の位相差(Rth)の下限は、好ましくは30nm以上、より好ましくは35nm以上、さらに好ましくは40nm以上、特に好ましくは50nm以上である。
【0114】
面方向の位相差(Re)および厚み方向の位相差(Rth)が同時に上記数値範囲にあると、本発明の光学用ポリ乳酸フィルムはTACの代替となり得て、偏光板保護フィルムとして好適に用いることができる。
かかる面方向の位相差(Re)および厚み方向の位相差(Rth)は、延伸倍率、延伸温度、熱処理温度等を適宜調整することによって、達成することができる。
【0115】
(ステレオ化度(S))
本発明の光学用ポリ乳酸フィルムは、DSC測定の結晶融解ピーク強度より下記式(i)で定義されるステレオ化度(S)が90%以上である。ステレオ化度(S)は、さらに好ましくは97〜100%、特に好ましくは100%である。即ち本発明の光学用ポリ乳酸フィルムは、ステレオコンプレックス相が高度に形成されていることが好ましい。かかる態様により耐熱性に優れる。
S(%)=〔ΔHms/(ΔHmh+ΔHms)〕×100 (i)
ΔHmsはステレオコンプレックス相ポリ乳酸の結晶融解エンタルピー(J/g)を表す。ΔHmhはホモ相ポリ乳酸の結晶融解エンタルピー(J/g)を表す。ステレオ化度(S)は熱処理過程において最終的に生成するステレオコンプレックスポリ乳酸結晶の割合を示すパラメーターである。
【0116】
本発明では、DSC測定において190℃以上に現れる結晶融解ピークは、ステレオコンプレックス相ポリ乳酸の融解に帰属される結晶融解ピークであり、190℃未満に現れる結晶融解ピークは、ホモ相ポリ乳酸の融解に帰属される結晶融解ピークである。
【0117】
(ステレオ結晶化度(K))
本発明の光学用ポリ乳酸フィルムは、下記式(iv)で定義されるステレオ結晶化度(K)が、好ましくは10〜60%、より好ましくは25〜60%、さらに好ましくは30〜55%、特に好ましくは35〜55%である。
K=(ΔHms−△Hc)/142 (iv)
但し、ΔHmsはステレオコンプレックス相ポリ乳酸の結晶融解エンタルピー(J/g)を表す。ΔHcはポリ乳酸結晶化エンタルピー(J/g)を表す。142(J/g)はステレオコンプレックスポリ乳酸結晶の平衡融解エンタルピーを表す。
【0118】
(結晶融解ピーク)
本発明の光学用ポリ乳酸フィルムは、示差走査熱量計(DSC)測定で190℃以上に結晶融解ピークを有する。かかる結晶融解ピークは、ステレオコンプレックス相ポリ乳酸の融解に帰属される結晶融解ピークである。本発明においては、190〜250℃の範囲に結晶融解ピークを有する態様が好ましく、200〜220℃の範囲に結晶融解ピークを有する態様がさらに好ましい。結晶融解ピークが上記数値範囲にあると、耐熱性に優れる。
【0119】
(ヘーズ)
本発明の光学用ポリ乳酸フィルムは、ヘーズが2%以下であることが好ましく、光学用フィルムとしてより有用である。ヘーズは、さらに好ましくは1.6%以下、特に好ましくは1%以下である。
【0120】
また、本発明の光学用ポリ乳酸フィルムは、90℃で5時間熱処理する前後のヘーズの変化(熱処理前のヘーズと熱処理後のヘーズとの差)が2%以下であることが好ましく、耐熱性の要求される光学用フィルムとして有用である。かかるヘーズの変化は、より好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1%以下、特に好ましくは0.3%以下である。ヘーズの変化を上記数値範囲とするには、フィルムのステレオ化度(S)、延伸条件、熱処理条件を適宜調整すればよい。
【0121】
(熱収縮率)
本発明の光学用ポリ乳酸フィルムは、温度90℃で5時間処理した時の縦方向(MD)および横方向(TD)の熱収縮率が、共に4%以下である。熱収縮率は、好ましくは共に3%以下さらに好ましくは共に2%以下、特に好ましくは共に1%以下である。
かかる熱収縮率は、延伸条件および熱処理条件を上述した本発明の好ましい態様とすることにより達成することができ、特に熱処理を施すことが重要である。
【0122】
(貯蔵弾性率:E’)
本発明の光学用ポリ乳酸フィルムは、動的粘弾性(DMA)測定による貯蔵弾性率(E’)が、常温(25℃)から150℃の温度範囲で極小値を発現することがなく且つ0.5×10Paより大きい値を有することが好ましい。
【0123】
本発明の光学用ポリ乳酸フィルムは、例えば、偏光フィルムの製造工程で必要とされる150℃程度の温度範囲に加熱されたときも、貯蔵弾性率(E’)が極小値を示すことがないため寸法安定性が良好である。また貯蔵弾性率(E’)が0.5×10Paより大きい値を有するため、外力により変形が起こりにくく、位相差の変動が発生しにくく、さらに偏光フィルムや偏光板の製造工程において良好な加工性を発揮することができる。
【0124】
(光弾性係数)
本発明のフィルムの光弾性係数の絶対値は、好ましくは10×10−12/Pa未満、より好ましくは8×10−12/Pa未満、さらに好ましくは5×10−12/Pa未満、特に好ましくは3×10−12/Pa未満である。
【0125】
光弾性係数(CR)に関しては、種々の文献に記載があり(例えば、非特許文献1等参照)、下式により定義される値である。光弾性係数の値がゼロに近いほど外力による複屈折の変化が小さいことを示しており、各用途において設計された複屈折の変化が小さいことを意味する。
CR=Δn/σR
Δn=nx−ny
但し、CRは光弾性係数、σRは伸張応力、Δnは複屈折率差、nxは伸張方向の屈折率、nyは伸張方向と直角方向の屈折率を表す。
【0126】
<偏光板保護フィルム>
本発明の光学用ポリ乳酸フィルムは、面方向の位相差(Re)が20nm以下であり、厚み方向の位相差(Rth)が25nm以上90nm以下であるため、偏光板保護フィルムとして有用である。偏光板保護フィルムとは、偏光板の構成部材として用いられ、偏光フィルム(例えば、高重合度のPVAベースフィルムにポリヨウ素等の二色性色素または二色性染料を含浸・吸着させたもの)の両面もしくは片面に貼り合わせて、偏光フィルムの強度向上、熱・水分からの保護、品質劣化防止等の目的で使用されるフィルムである。
【0127】
かかる用途においては、面方向の位相差(Re)は、10nm以下がより好ましく、5nm以下がさらに好ましい。また、厚み方向の位相差(Rth)の下限は、30nm以上がより好ましく、40nm以上がさらに好ましく、50nm以上が特に好ましい。他方、上限は、80nm以下がより好ましく、70nm以下がさらに好ましく、60nm以下が特に好ましい。
【0128】
本発明の光学用ポリ乳酸フィルムを用いた偏光板保護フィルムは、偏光板の構成部材として、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等のディスプレイに用いることができる。かかる偏光板保護フィルムは、必要に応じて、例えば反射防止処理、透明導電処理、電磁波遮蔽処理、ガスバリア処理、防汚処理等の表面機能化処理をすることもできる。
【0129】
<その他の層>
本発明の光学用ポリ乳酸フィルムには、さらに機能を向上させる目的において、ハードコート層、前方散乱層、アンチグレア(防眩)層、ガスバリア層、滑り層、帯電防止層、下塗り層、保護層、反射防止層、光学異方性層等を組み合わせて使用することもできる。かかるハードコート層、前方散乱層、アンチグレア(防眩)層としては、例えば特開2008−233655号公報に記載のものを使用することができる。
【実施例】
【0130】
以下、本発明を実施例により、更に具体的に説明する。(I)評価法および(II)原材料を説明する。
【0131】
(I)評価法
本発明および実施例で用いた評価法を説明する。
【0132】
(1)分子量
重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定、標準ポリスチレンに換算した。
GPC測定機器は、
検出器;(株)島津製作所示差屈折計RID−6A
カラム;東ソ−(株)TSKgelG3000HXL、TSKgelG4000HXL,TSKgelG5000HXLとTSKguardcokumnHXL−Lを直列に接続したもの、あるいは東ソ−(株)TSKgelG2000HXL、TSKgelG3000HXLとTSKguardcokumnHXL−Lを直列に接続したものを使用した。
クロロホルムを溶離液とし温度40℃、流速1.0ml/minにて、濃度1mg/ml(1%ヘキサフルオロイソプロパノールを含むクロロホルム)の試料を10μl注入し測定した。
【0133】
(2)ラクチド含有量
試料をヘキサフルオロイソプロパノールに溶解し、13C−NMR法により定量した。
【0134】
(3)カルボジイミド化合物含有量
ニコレ(株)製MAGJA−750フーリエ変換赤外分光光度計により樹脂特性吸収とカルボジイミド特性吸収の比較により、含有量を測定した。
【0135】
(4)カルボキシル基濃度
試料を精製o−クレゾールに溶解、窒素気流下溶解、ブロモクレゾールブルーを指示薬とし、0.05規定水酸化カリウムのエタノール溶液で滴定した。
【0136】
(5)ステレオ化度(S)、結晶融解温度、結晶融解ピーク
ステレオ化度(S)、結晶融解温度、結晶融解ピークは、DSC(TAインストルメント社製TA−2920)を用いて結晶融解温度(フィルムにおいては結晶融解ピーク)(単位:℃)、結晶融解エンタルピー(単位:J/g)を測定し、ステレオ化度(S)は、その結晶融解エンタルピーから下記式(i)に従って求めた。なお、DSC測定におけるサンプル量は、フィルム状とする前の樹脂の場合は10mg、フィルムの場合は20mgとし、測定温度範囲25℃〜290℃、昇温速度20℃/分とした。
S(%)=[ΔHms/(ΔHmh+ΔHms)]×100 (i)
(但し、ΔHmsはコンプレックス相の結晶融解エンタルピー(単位:J/g)、ΔHmhはホモ相ポリ乳酸の結晶融解エンタルピー(単位:J/g)をそれぞれ表わす。)
【0137】
(6)フィルム熱収縮率、ヘーズの変化
ASTM D1204に準じ、温度90℃で5時間処理した後、室温(25℃)に戻し、長さ変化より熱収縮率をもとめた。
更に、上記で得られた熱処理後のサンプルについて、下記(6)の手法にてヘーズを測定し、熱処理前後のヘーズの差(ヘーズの変化)を求めた。
【0138】
(7)全光線透過率
ASTM D1003に準拠し測定を行った。
【0139】
(8)ヘーズ
日本電色(株)製 Hazemeter MDH2000を使用し、40μmフィルムを使用し、JIS K7105−1981の6.4に準拠して測定した。
【0140】
(9)ステレオ結晶化度(K)
DSC(TAインストルメント社製TA−2920)を用いて、結晶化エンタルピー(単位:J/g)および結晶融解エンタルピー(単位:J/g)を測定し、下記式(iv)を用いてステレオ結晶化度(K)(単位:%)を求めた。なお、DSC測定におけるサンプル量は、フィルム状とする前の樹脂の場合は10mg、フィルムの場合は20mgとし、測定温度範囲25℃〜290℃、昇温速度20℃/分とした。
K=(ΔHms−△Hc)/142 (iv)
ΔHms:ステレオコンプレックス相ポリ乳酸の結晶融解エンタルピー(J/g)。
ΔHc:ポリ乳酸結晶化エンタルピー(J/g)。
142(J/g)はステレオコンプレックスポリ乳酸結晶の平衡融解エンタルピー。
【0141】
(10)ガラス転移点温度
DSC(TAインストルメント社製TA−2920)を用いて求めた。サンプル量は、フィルム状とする前の樹脂の場合は10mg、フィルムの場合は20mgとし、測定温度範囲25℃〜290℃、昇温速度20℃/分とした。
【0142】
(11)面方向の位相差(Re)、厚み方向の位相差(Rth)
フィルムの長手方向の屈折率(nx)および幅方向の屈折率(ny)は分光エリプソメーター(日本分光(株)製M−150)で測定した。測定波長は550nmとした。
フィルムの面方向の位相差(Re)と、厚み方向の位相差(Rth)は、長手方向の屈折率(nx)、幅方向の屈折率(ny)、厚み(d、単位:nm)から下記式(ii)および(iii)より求めた。
Re=(nx−ny)×d (ii)
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d (iii)
【0143】
(12)厚み変動
フィルムの厚みを、縦方向(MD、機械的流れ方向)に電子マイクロメーターで2m測定し、最高厚さ(単位:μm)と最低厚さ(単位:μm)との差と、平均厚み(単位:μm)との比(百分率)を求め、厚み変動(単位:%)とし、以下に準じて評価した。
◎:厚み変動が2%以下
○:厚み変動が2%を超え5%以下
△:厚み変動が5%を超え10%以下
×:厚み変動が10%を超える
厚み変動が大きくなると、ヘーズの変動が大きくなる傾向にあり好ましくない。また、成型時の加工性が悪くなる傾向にあり好ましくない。厚み変動が10%を超えると実用に耐えない。
【0144】
(13)湿熱安定性
試料を、温度80℃、相対湿度90%RHで11時間保持し、還元粘度(ηsp/c)の保持率(単位:%)を測定した。かかる保持率が80%以上であれば、湿熱条件下で安定的に使用できる耐久性を有する(湿熱安定性良好)と判断し、合格(○)と判定した。他方、保持率が80%未満のものを、湿熱安定性不良と判断し、不合格(×)と判定した。
【0145】
(II)原材料
ポリ乳酸(A成分)は、以下の製造例で調製した。
[製造例1−1]ポリL−乳酸(PLLA1)の製造
L−ラクチド((株)武蔵野化学研究所製、光学純度100%)100質量部に対し、オクチル酸スズを0.005質量部加え、窒素雰囲気下、攪拌翼のついた反応機にて180℃で2時間反応させ、オクチル酸スズに対し1.2倍当量のリン酸を添加し、その後、13.3Paで残存するラクチドを減圧除去し、チップ化し、ポリL−乳酸(PLLA1)を得た。
得られたポリL−乳酸(PLLA1)の重量平均分子量(Mw)は15.2万、ガラス転移点温度(Tg)は55℃、融点は175℃、カルボキシル基濃度は14eq/ton、ラクチド含有量は350ppmであった。
【0146】
[製造例1−2]ポリD−乳酸(PDLA1)の製造
製造例1−1のL−ラクチドをD−ラクチド((株)武蔵野化学研究所製、光学純度100%)に変更し、他は同じ条件で重合を行い、ポリD−乳酸(PDLA1)を得た。
得られたポリD−乳酸(PDLA1)の重量平均分子量(Mw)は15.1万、ガラス転移点温度(Tg)は55℃、融点は175℃、カルボキシル基濃度は15eq/ton、ラクチド含有量は450ppmであった。結果をまとめて表1に示す。
【0147】
【表1】

【0148】
[製造例2−1]ポリ乳酸A1の製造
上記製造例1−1で得られたポリL−乳酸(PLLA1)と、上記製造例1−2で得られたポリD−乳酸(PDLA1)とを各50質量部、およびリン酸金属塩((株)ADEKA製「アデカスタブ」NA−71)0.03質量部を、2軸混練装置の第一供給口より供給、シリンダー温度230℃で溶融混練した。さらに日清紡(株)製「カルボジライト」LA−1を、ポリL−乳酸とポリD−乳酸との合計量100質量部あたり0.3質量部、第二供給口より供給し、ベント圧13.3Paで真空排気しながら溶融混練した。次いで、押出し、冷却してペレット化しポリ乳酸A1を得た。
【0149】
[製造例2−2]ポリ乳酸A2の製造
NA−71、およびLA−1を添加しない以外は上記製造例2−1と同様にしてポリ乳酸を得て、ポリ乳酸A2とした。
得られたポリ乳酸A1、およびA2の重量平均分子量(Mw)、カルボキシル基濃度、ラクチド含有量、ステレオ化度(S)、ステレオ結晶化度(K)、ガラス転移点温度(Tg)、結晶融解温度をまとめて表2に示す。
【0150】
【表2】

【0151】
[実施例1〜3]
製造例2−1の操作で得られたポリ乳酸A1を、110℃で5時間乾燥した後、表3に記載の押出し樹脂温度で押出し機にて溶融混練し、表3に記載のリップ開度を有するダイを用い、ダイ温度230℃でフィルム状に溶融押出しし、冷却ドラム表面に密着、固化させ未延伸フィルムを得た。
次いで、得られた未延伸フィルムを、表3に記載の製膜条件で延伸、熱処理(100秒間)し、ポリ乳酸フィルムを得た。得られたポリ乳酸フィルムの物性を表3に示す。
【0152】
【表3】

【0153】
[比較例1]
ポリ乳酸A1の代わりに、製造例2−2の操作で得られたポリ乳酸A2を用い、押出し条件を表3に記載のとおりとする以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸フィルムを得た。得られたポリ乳酸フィルムの物性を表3に示す。
比較例1で得られたポリ乳酸フィルムは、ステレオ化度(S)が不充分なため、熱寸法安定性が低いものであった。また、湿熱安定性に劣るものであった。
【0154】
[比較例2〜4]
押出し条件および製膜条件を表3に記載のとおりとする以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸フィルムを得た。得られたポリ乳酸フィルムの物性を表3に示す。
比較例2〜4で得られたポリ乳酸フィルムは、面方向の位相差(Re)および厚み方向の位相差(Rth)が不適なものであり、偏光板保護フィルムとして不適なものであった。
【0155】
実施例1〜3で得られた光学用ポリ乳酸フィルムを用いて、特開2008−242172号公報に記載の方法に準じて偏光板および液晶表示装置を作製した。
【0156】
(偏光板Aの作製)
延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて偏光膜を作製した。その後、実施例1〜3で得られたポリ乳酸フィルムを、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、前記偏光膜の一方の面に貼り付け、前記偏光膜の他方の面には、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、鹸化処理を行った市販のセルローストリアセテートフィルム(フジタックTD80UF、富士フィルム(株)製)を貼り付け、偏光板を作製した。
【0157】
(偏光板Bの作製)
延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて偏光膜を作製した。その後、Z−TAC(富士フィルム(株)製)を、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、前記偏光膜の一方の面に貼り付け、前記偏光膜の他方の面には、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、鹸化処理を行った市販のセルローストリアセテートフィルム(フジタックTD80UF、富士フィルム(株)製)を貼り付け、偏光板を作製した。
【0158】
(IPSモード液晶表示装置の作製)
液晶テレビTH-32LX500(松下電器産業(株)社製)から、液晶セルを取り出し、視認者側及びバックライト側に貼られてあった偏光板を剥した。この液晶セルは、電圧無印加状態及び黒表示時では液晶分子はガラス基板間で実質的に平行配向しており、その遅相軸方向は画面に対して水平方向であった。上記の平行配向セルのバックライト側のガラス基板に、上記で作製した偏光板Aを、粘着剤を用いて貼り合わせた。視認者側のガラス基板には、上記で作製した偏光板Bを貼り合わせた。また、液晶セルの上下に配置された偏光板の吸収軸とは直交するように配置した。
【0159】
(VAモード液晶表示装置の作製)
市販の37インチVAモード液晶テレビ(シャープ製)に設けられている一対の偏光板(上側偏光板、及び下側偏光板)を剥がし、代わりに上記で作製した偏光板Aを、ポリ乳酸フィルムが液晶セル側となるように粘着剤を介して、観察者側及びバックライト側に一枚ずつ貼り付けた。このとき、観察者側の偏光板(上側偏光板)の透過軸と、バックライト側の偏光板(下側偏光板)の透過軸とが直交するように各偏光板を配置した。
得られた液晶表示装置は、いずれも色再現性に優れるものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリL−乳酸成分とポリD−乳酸成分とからなるポリ乳酸(A成分)を含有する樹脂組成物よりなり、示差走査熱量計(DSC)測定で190℃以上に結晶融解ピークを有し、
下記の(i)式で定義されるステレオ化度(S)が90%以上であるポリ乳酸フィルムであって、
下記式(ii)で定義される面方向の位相差(Re)が20nm以下であり、
下記式(iii)で定義される厚み方向の位相差(Rth)が25nm以上90nm以下であり、
90℃で5時間熱処理した時の縦方向および横方向の熱収縮率が4%以下である
ことを特徴とする光学用ポリ乳酸フィルム。
S(%)=〔ΔHms/(ΔHmh+ΔHms)〕×100 (i)
(但し、ΔHmsはステレオコンプレックス相ポリ乳酸の結晶融解エンタルピー(J/g)を表す。ΔHmhはホモ相ポリ乳酸の結晶融解エンタルピー(J/g)を表す。)
Re=(nx−ny)×d (ii)
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d (iii)
(但し、nxはフィルムの長手方向の屈折率を表す。nyはフィルムの幅方向の屈折率を表す。nzはフィルムの厚み方向の屈折率を表す。dはフィルムの厚み(nm)を表す。)
【請求項2】
ステレオ化促進剤、および/または、ブロック形成剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の光学用ポリ乳酸フィルム。
【請求項3】
ステレオ化促進剤が、リン酸金属塩であり、ブロック形成剤が、エポキシ基、オキサゾリン基、オキサジン基、イソシアネート基、ケテン基およびカルボジイミド基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を分子中に少なくとも1個有する化合物であることを特徴とする請求項2に記載の光学用ポリ乳酸フィルム。
【請求項4】
ヘーズが2%以下であり、90℃で5時間熱処理する前後のヘーズの変化が2%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学用ポリ乳酸フィルム。
【請求項5】
偏光板保護フィルムとして用いられる請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学用ポリ乳酸フィルム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の光学用ポリ乳酸フィルムを用いた偏光板保護フィルム。
【請求項7】
請求項6に記載の偏光板保護フィルムと偏光フィルムとが積層された偏光板。
【請求項8】
請求項6に記載の偏光板保護フィルムを用いた液晶表示装置。
【請求項9】
樹脂組成物からなる未延伸フィルムを得て、次いで90℃以上210℃以下の温度で熱処理する、請求項1に記載の光学用ポリ乳酸フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2010−181560(P2010−181560A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−23914(P2009−23914)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】