説明

光学素子、光学集積デバイス及びその製造方法

【課題】 衝撃固化現象による成形体に形成された導波路を有する光学素子及びその光学素子を含む光集積デバイスを提供する。
【解決手段】 基板上に供給した超微粒子脆性材料に機械的衝撃力を負荷して前記超微粒子脆性材料を接合させて形成した成形体の光吸収端を、局所加熱により制御し、導波路を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子、光学集積デバイス及びその製造方法に関し、特に、光通信、光配線、あるいは光ストレージに用いられる光学素子とそれを集積した光集積デバイス及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信や光ストレージの普及に伴い、それを構成する光学素子の需要が増大している。特に光通信においては、波長多重伝送の実用化に伴い、光ファイバーを中心としたいわゆる基幹系から、メトロ、アクセス系への利用が加速している。このため、光信号のアド・ドロップ等に用いられる光学素子もバルク材を組み合わせたものから、薄膜の光学材料を用いた小型で集積化しやすい平面導波路を利用したものへと変化してきている。
【0003】
光信号の変調やスイッチングのように光を能動的に制御するためには、電気や熱等の外部入力信号と光学素子を形成する材料の相互作用による物理効果を用いる必要がある。シリコン系の平面導波路では、方向性結合器にヒータを付加し、熱光学効果を利用する光スイッチや、MEMS(Micro ElectroMechanical System)との組み合わせによるスイッチ等が知られているが、いずれも応答速度がμsレベルと遅いこと、さらに熱光学効果を利用した光スイッチでは消費電力が大きいこと、MEMS型では構造が複雑になり高価であるという欠点を有する。
【0004】
電界と物質の相互作用により屈折率が変化する電気光学効果は、その高速性、電圧駆動であることによる低消費電力性、構造の単純性から、光変調器に応用されている。LiNbOを用いた光変調器では、単結晶LiNbO基板上にTi拡散法によりマッハツエンダー型導波路を形成し、電極を組み合わせることで光変調器を形成している。電圧を印加することで、導波路の屈折率を変化させ、光信号のON/OFFをおこなうことができる。しかし、単結晶基板を用いる必要があることから高価であること、また、LiNbOの電気光学効果が小さいことから導波路の長さが必要になり、素子サイズがcm台と非常に大きいという欠点がある。
【0005】
透明セラミックスであるチタン酸ジルコン酸ランタン鉛(PLZT:Pb1−xLa(ZrTi1−y1−x/4)は、現行の光変調器に用いられているLiNbO単結晶より二桁近く電気光学係数が大きいことから、光素子の小型化による低コスト化、低消費電力化、および高速化が期待でき、これまでゾルゲル法による薄膜化の検討がなされてきている。(非特許文献1ならびに非特許文献2参照)
しかし、光の透過率が高く電気光学効果の大きな薄膜を形成するためには、エピタキシャル成長をさせる必要があり、下地材料として単結晶基板が必要になることからシリコン系導波路等の他基板上の形成が困難であること、光学素子に必要な膜厚をゾルゲル法で形成するためには長時間の成膜プロセスを必要とすることから高価になるという欠点があった。
【0006】
LiNbO、PLZT等の電気光学材料はいずれも強誘電性材料であり、その特性はそれぞれの化合物に特有の結晶構造を形成した場合に発現する。このため電気光学材料を光学素子として利用するためには、それ自身の単結晶基板を用いるか、単結晶基板上に電気光学材料をエピタキシャル成長させることが、必須と考えられてきた。
【0007】
今後、光とエレクトロニクスの1チップ上の集積を可能とするナノフォトニックデバイスの実現が大きな革新技術として求められている。これを実現するためにはCPU、メモリー等のLSIと光スイッチ等の能動光学素子とを同一基板上に形成する技術が必要であり、シリコンや石英基板上にPLZT等の電気光学材料を、高い結晶性で成膜する技術が求められている。
【0008】
一方、酸化物の新たな膜形成技術として、常温衝撃固化現象を利用したエアロゾルデポジション(AD法)が開発されている。AD法は超微粒子材料の衝突付着現象を利用している。従来の薄膜形成法に比べ高い成膜速度と低いプロセス温度の実現が期待されている(例えば、非特許文献3参照。)。また、AD法は、膜特性が下地層に依存しないことから、基板を自由に選択することができる。
【0009】
特許文献1に開示されている技術はAD法の形成方法であり、基板上に供給した超微粒子脆性材料に機械的衝撃を負荷して粉砕して前記超微粒子脆性材料同士または前記超微粒子脆性材料同士及び前記超微粒子脆性材料と前記基板を接合させることを特徴としている。これにより、超微粒子相互の接合を実現し、熱を加えることなく、高密度、高強度の膜が形成される。
【0010】
特許文献2に開示されている技術はAD法により形成された構造物に関するものであり、構造物は結晶配向性がない多結晶体であり、ガラス層からなる粒界層が実質的にないことを特徴としている。
【0011】
このAD法を用いた透明度の高い電気光学材料の薄膜成形に関する検討がなされている(例えば、非特許文献4参照。)。それによると、光学素子の基本特性である、AD膜の透過損失は、成形体を形成する微粒子、及び屈折率を異にする非成形体微粒子のレイリー散乱によることが明らかにされている。
【0012】
特許文献3に開示されている技術はAD法による光学素子、光集積デバイス、光情報伝搬システム及びその製造法に関するものであり、基板上に供給した超微粒子脆性材料に機械的衝撃力を負荷して前記超微粒子脆性材料を粉砕、接合させる衝撃固化現象により成形体を形成した光学素子であって、前記光学素子に含有されるポア(空孔)、異相等の屈折率が成形体の主たる構成体と異なる部分の平均半径d(nm)と前記成形体を伝搬する光の波長λ(nm)との間にd6/λ4<4×10−5nmの関係があることを特徴としている。
【0013】
【非特許文献1】K. D. Preston and G. H. Haertling、““Comparison of electro-optic lead-lanthanum zirconate titanate films on crystalline and glass substrates”、Appl. Phys. Lett. 60 (1992) 2831.
【非特許文献2】K. Nashimoto, K. Haga, M. Watanabe, S. Nakamura and E. Osakabe、“Patterning of (Pb,La)(Zr,Ti)O3 waveguides for fabricating micro-optics using wet etching and solid-phase epitaxy”、Appl. Phys. Lett. 75 (1999) 1054.
【非特許文献3】Jun Akedo and Maxim Lebedev、“Microstructure and Electrical Properties of Lead Zirconate Titanate (Pb(Zr52/Ti48)O3) Thick Films Deposited by Aerosol Deposition Method”、Jpn. J. Appl. Phys. 38 (1999) 5397.
【非特許文献4】Masafumi Nakada, Keishi Ohashi and Jun Akedo、“Optical and electro-optical properties of Pb(Zr,Ti)O3 and (Pb,La)(Zr,Ti)O3 films prepared by aerosol deposition method”、J. of Crys. Growth, 275(2005) e1275.
【特許文献1】特開2001−3180号公報
【特許文献2】特開2002−235181号公報
【特許文献3】特開2005−181995号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
AD法による電気光学材料膜を光変調器等の光学素子に適用するためには、光学素子を伝播させる光をコアと呼ばれる光導波部に閉じ込め、閉じ込めた部に電界を作用させ、光の位相等を制御する必要がある。このためには、光の導波しない部分であるクラッド部よりも光導波部の等価屈折率を高くし、光が広がらないようにすることが重要である。それを実現するためには、電気光学材料膜を光の波長サイズに加工し等価屈折率を上げる方法と、Ti拡散等による電気光学材料膜の屈折率を高める方法が用いられてきている。また、光学素子の作製では、このコア部の光の伝播による損失を極力小さくする必要がある。
【0015】
LiNbOやPLZTを加工するためには、エッチングを行う必要があるが、反応性エッチングが適用できないため、側壁の荒れによる導波損失の増加、側壁のダメージによるEO特性の低下、基板、下地層等でのエッチング停止の困難性、等の問題がある。また、Ti等の添加は、AD法による電気光学材料膜組成変化や結晶粒成長を引き起こし、EO特性の低減や光の透過損失を増加させるため、適用は困難である。
【0016】
本発明は上記の如き事情に鑑みてなされたものであって、AD法による成形体に導波損失の少ない導波部を形成した光学素子を提供することを目的とする。また、AD法による成形体よりなる光学素子を用いた光集積デバイス、並びにその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は上記の如き事情に鑑みてなされたものであって、常温衝撃固化現象を利用したAD法により形成した酸化物電気光学材料は、膜形成時の衝撃により生じる局所構造の乱れによりバンド端の電子状態が乱れ、通常の成膜方法で作製した配向膜よりも吸収端が長波長側にシフトするという発見に基づいてなされたものである。また、アニールにより局所構造の乱れは回復し、それにより吸収端は配向膜と同程度に回復することを見出している。さらに、この吸収端の変化によりAD法により形成した酸化物電気光学材料の屈折率は変化し、それを利用することで、光の導波部の形成が可能となる。
【0018】
本発明による請求項1の光学素子は、基板上に供給した超微粒子脆性材料に機械的衝撃力を負荷して前記超微粒子脆性材料を接合させて形成した成形体を含み、前記成形体に光吸収端が波長λaである第1の部分と光吸収端が波長λbである第2の部分とが存在し、λaとλbの間にλa<λbの関係があることを特徴としている。
【0019】
成形体にλa<λbの関係にある第1及び第2の部分を形成することで、第1の部分の屈折率を第2の部分の屈折率より高くすることができる。これにより、波長フィルター、光導波路等の光学素子をAD膜で形成することが可能である。
【0020】
本発明による請求項2の光学素子は、請求項1の光学素子において、成形体の第1の部分が導波路のコア部、第2の部分がクラッド部であることを特徴とする。
【0021】
コア部の屈折率をクラッド部よりも高くすることができるので、光学素子の導波光をコア部に閉じ込めることが、AD膜で可能である。また、導波路形成にエッチングによるパターニングが必要ないため、導波損失の少ない導波部を形成することが可能である。
【0022】
本発明における請求項3の光学素子では、請求項1または2に記載の光学素子において、前記基板上に形成された下部電極と、この下部電極上に形成された前記成形体よりなる導波路と、この導波路上に形成された上部電極とを有することを特徴とする。
【0023】
本発明の光学素子は下部電極上に導波路等を形成するが、衝撃固化現象を使って形成することで、導波路特性が下電極材料の種類や構造に依存しない。それゆえ、下部電極を自由に選択でき、光学設計から最適な構造が選択できる。
【0024】
上述した光学素子に用いられる超微粒子脆性材料には、マンガンが添加されてよい。マンガンを超微粒子脆性材料に添加することで、成形体の光学吸収を低減することができ、導波損失の少ない導波部を持つ光学素子が得られる。また、超微粒子脆性材料として、電気光学材料を用いてよい。電気光学材料を用いることにより、光学素子を光変調器等の能動素子、デバイスとすることができる。電気光学材料としては、ジルコン酸チタン酸鉛、またはランタンが添加されたジルコン酸チタン酸鉛を主成分とするものがある。これらの電気光学材料を用いることにより、光学素子を小型で低電圧駆動の光変調器等の能動素子、デバイスとすることが可能となる。
【0025】
本発明における請求項7,8,9の光集積デバイスでは、基板上に供給した超微粒子脆性材料に機械的衝撃力を負荷して前記超微粒子脆性材料を接合させた成形体を含む第1の光学素子と、レーザー、電気光変換器、光電気変換器、光増幅器、光導波路、光フィルター等の第2の光学素子の少なくとも1つとを基板上に集積させた光集積デバイスであって、前記成形体に光吸収端が波長λaである第1の部分と光吸収端が波長λbである第2の部分とが存在し、λaとλbの間にλa<λbの関係があることを特徴としている。前記第1の部分は導波路のコア部、前記第2の部分は導波路のクラッド部として用いられる。
【0026】
本発明では、どのような下地材料上でも室温で形成可能な衝撃固化現象を利用して少なくとも一方の光学素子を形成するようにしたことで、製造プロセスが異なるために困難であった複数種の光学素子の集積化が可能である。また、λa<λbの関係を実現することで、コア部の屈折率をクラッド部よりも高くすることが可能である。また、導波路形成にエッチングによるパターニングが必要ないため、導波損失の少ない導波部を光集積デバイスに形成することができる。
【0027】
本発明における請求項10,11,12の光集積デバイスでは、基板上に供給した超微粒子脆性材料に機械的衝撃力を負荷して前記超微粒子脆性材料を接合させた成形体よりなる光学素子と、中央処理装置またはメモリー等の電子回路の少なくとも1つとを基板上に集積する光集積デバイスであって、前記成形体に光吸収端が波長λaである第1の部分と光吸収端が波長λbである第2の部分とが存在し、λaとλbの間にλa<λbの関係があることを特徴とする。第1の部分は導波路のコア部、第2の部分はクラッド部として用いられる。
【0028】
本発明では、どのような下地材料上でも室温で形成可能な衝撃固化現象を利用して光学素子を形成するようにしたことで、製造プロセスが異なるために困難であった光学素子と電子回路の同一基板上での集積化が可能である。また、λa<λbの関係を実現したことで、コア部の屈折率をクラッド部よりも高くすることが可能である。また、導波路形成にエッチングによるパターニングが必要ないため、導波損失の少ない導波部を光集積デバイスに形成することができる。
【0029】
本発明における請求項13の光集積デバイスでは、成形体を形成する超微粒子脆性材料にマンガンが添加されていることを特徴とする。マンガンを超微粒子脆性材料に添加することで、形成させた成形体の光学吸収を低減することができ、導波損失の少ない導波部を有する光学素子を含む光集積デバイスを得ることができる。
【0030】
請求項14は、本発明の光集積デバイスに用いられる超微粒子脆性材料が電気光学材料であることを特徴とする。これにより、(第1の)光学素子を光変調器等の能動素子、デバイスとすることが可能となる。
【0031】
請求項15は、前記電気光学材料が、ジルコン酸チタン酸鉛、またはランタンが添加されたジルコン酸チタン酸鉛を主な成分としていることを特徴とする。これにより、(第1の)光学素子を、小型で低電圧駆動の光変調器等の能動素子、デバイスとすることが可能となる。
【0032】
本発明における請求項16の光学素子の製造方法は、基板上に超微粒子脆性材料を供給するとともに機械的衝撃力を負荷して前記超微粒子脆性材料を接合させて成形体を形成する工程と、前記成形体に光吸収端が互いに異なる2つの部分を形成する工程とを含む光学素子の製造方法であって、前記2つの部分を形成する工程が前記成形体を局所加熱する工程であることを特徴とする。この製造方法により局所的に屈折率の高い部分を任意に形成することができ、自由度の高い光学素子の設計が可能になる。
【0033】
本発明における請求項17の光学素子の製造方法では、前記局所加熱に光線を用いることを特徴としている。これにより熱源として用いる光の波長程度の微細な導波路等の形成が可能である。
【0034】
本発明における請求項18の光学素子の製造方法では、前記局所過熱が前記2つの部分の一方に対応する領域を覆う遮光部を形成した後、前記光線を照射することで行われることを特徴とする。遮光部をフォトレジスト等の微細加工技術でウエハー全面に形成し、広い面積に加熱用の光線を照射することで、多数のデバイスを同時に(高いスループットで)製造することが可能になる。
【0035】
本発明における請求項19の光学素子の製造方法では、前記遮光部が、当該光学素子の電極であることを特徴としている。光学素子の電極を遮光部に使うことで、その光学素子の作製プロセスを簡略化することができ、安価な光学素子ひいては安価な光集積デバイスを提供することができる。
【0036】
本発明における請求項20,21の製造方法では、請求項16乃至19のいずれか一つに記載の成形体の製造方法において、前記成形体の形成が常温衝撃固化現象によるものであることを特徴としている。常温衝撃固化現象を用いることで、室温で任意の基板上に成形体の形成が可能である。常温衝撃固化現象による膜形成法の中でも、エアロゾルデポジション法は、成形体の製造方法として適している。
【0037】
請求項16乃至21に記載された光学素子の製造方法は、基板として、他の光学素子又は電子回路が形成された基板を用いることができ、光集積デバイスの製造に利用できる。
【発明の効果】
【0038】
本発明により、超微粒子脆性材料に機械的衝撃力を負荷して前記超微粒子脆性材料を接合させた成形体の屈折率の制御が高い自由度で可能となり、それにより高い性能の光学素子、および光集積デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0040】
図1はAD法で形成されたチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)膜の透過率スペクトルの一例である。アニール前のAD−PZT膜の透過率は、380nm付近から現れるのに対し、アニール後のAD−PZT膜の透過率は、350nm付近から出現する。これらのAD−PZT膜の透過率と反射率スペクトルを用いOJLモデルにより算出した消衰係数の波長依存性を図2に示す(なお、OJLモデルはS.K.O’Leary, S.R.Johnson, P.K.Lim, J. Appl. Phys, Vol.82, No.7, 1. Oct. (1997)に解説されている。)。
【0041】
図2を見ると、アニール前後で消衰係数の波長依存性は変化しており、アニールによるバンド構造の変化が予想される。OJLモデルのパラメータより算出したアニール前のAD膜のバンドギャップは3.1eVであり、これはゾルゲル法により形成したエピタキシャル膜で報告されている値(3.4eV)よりも小さい値である。XAFS(X-ray absorption fine structure:X線吸収微細構造)測定では、AD−as-deposited膜において局所構造の乱れが観測されていることから、バンド構造の変化の要因としてAD膜形成時に生じる局所構造の乱れが考えられる。この局所構造の乱れが、バンド端の電子状態の乱れを生じさせ、バンドギャップの減少、ひいては光吸収端の長波長側へのシフトを生じさせたものと考えられる。
【0042】
一方、アニール膜のバンドギャップは3.4eVであり、これはゾルゲル法により形成したエピタキシャル膜で報告されている値とほぼ同等である。X線吸収微細構造分光による測定では、アニールによりAD−PZT膜の局所構造の乱れは回復することが観測されている。この乱れの回復により、バンドギャップが、ゾルゲル法により形成したエピタキシャル膜と同程度になったものと考えられる。
【0043】
図3にアニール前後のAD−PZT膜の屈折率の波長依存性を示す。全波長域でアニール後の屈折率はアニール前を上回っており、3%以上の屈折率差が得られている。これは、AD−PZT膜の膜形成時の衝撃により生じる局所構造の乱れによるバンド端の電子状態の乱れと、アニールによる局所構造の乱れの回復とが、光吸収端の変化を通して屈折率の変化に反映されたことを示している。
【0044】
以上のことから、AD膜では、光吸収端をアニール等で制御することで屈折率をコントロールできることがわかる。本発明は、基板上に供給した超微粒子脆性材料に機械的衝撃力を負荷して超微粒子脆性材料を接合させて形成した成形体(AD膜)に、局所的アニールを行うことで、光吸収端が波長λaである第1の部分と光吸収端が波長λb(>λa)である第2の部分とを形成する。第1の部分が光導波路のコア部となり、第2の部分がクラッド部となるように、局所的アニールを行うことで、AD膜に光導波路を形成する。こうして、本発明は、高い性能の光学素子、光集積デバイスを安価に形成することを可能にする。
【実施例1】
【0045】
図4は、本実施例で用いた成膜装置の概略図である。酸素ガスを内蔵するガスボンベ40は搬送管45−1を介してガラスボトル41に接続されている。ガラスボトル41内に粉末原料(超微粒子脆性材料)42を入れ、排気管43を介して20Torr程度の真空に排気した後、キャリアガスとして酸素を、流量を制御しながら導入する。ガラスボトル41を加振器44により振動させることで、気体中に原料粉末の微粒子を分散させたエアロゾルを発生させ、キャリアガスにより搬送管45−2を介して、成膜チャンバー46に搬送する。成膜チャンバー46は真空ポンプ47により所定の真空度に排気される。ノズル48から基板49に粉末を吹き付けることで、薄膜を形成する。
【0046】
成膜条件は、次のようになる。キャリアガスは酸素とし、ノズル48と基板49の入射角を10度、ガス流量は12リットル/分、成膜速度は0.5μm/分、加振器44の振動数は250rpmである。基板49にはガラスを用いた。電気光学効果の大きな酸化物であるジルコン酸チタン酸鉛(PZT)系粉末を成膜材料(粉末原料42)とした。PZTの組成は、Pb(ZrTi1−x)Oにおいてx=0.3である。原料粉末の平均粒径は、0.7μmとした。膜厚は3ミクロンである。成膜材料のPZT系粉末はペロブスカイト型結晶構造を持つ強誘電体の組成であり、一次の大きな電気光学係数を持つ光学デバイスの適応が可能な組成である。
【0047】
本実施例により得られたPZT膜の透過率スペクトルを、アニールの前後で測定した。アニール条件は、大気中で600℃、30分の条件で行った。その結果を示したものが図1である。前述したように、図1からPZT膜の光吸収端が、アニール前後で変化していることがわかる。
【0048】
また、前述したように、これらの透過率スペクトルと反射率スペクトルを解析した結果より、PZT膜の光吸収端をアニール等で制御することで屈折率をコントロールできることは明らかである。
【0049】
本実施例は、電気光学材料であるPZTに関しているが、材料系はそれに限定されるものではなく、ランタンが添加されたジルコン酸チタン酸鉛、チタン酸バリウム、ストロンチウム添加チタン酸バリウム、KTN等の電気光学材料や、SiO、窒化珪素等の光導波路形成材料を用いた場合にも同様の効果がある。
【実施例2】
【0050】
本実施例では、超微粒子脆性材料としてPZT系を用いAD法で薄膜形成した光学素子の光学吸収が、超微粒子脆性材料にマンガンを添加することで低減可能であることを説明する。成膜装置と実験条件は実施例1と同一である。
【0051】
Pb(Zr0.3Ti0.7)O+Mnを原料粉末とした。Mn添加量は0.5at%である。Pb(Zr0.3Ti0.7)O単体から作製したAD膜では、可視から近赤外の広い波長域で10%程度の光学吸収があったが、Mnを添加することで、この光学吸収をほぼ0%にすることができた。このマンガン添加により、光学素子に生じた導波損失を大幅に改善することができた。
【実施例3】
【0052】
次に、本光学素子を用いた光変調器の実施例について図5(a)及び(b)を用いて説明する。
【0053】
ガラス基板上50に窒化酸化ケイ素のコアのマッハツエンダー型導波路の入力部51−1及び出力部51−2を形成した。成膜にCVD法を用い、コア形状の形成は反応性エッチングを用いた。また、クラッド層52には酸化ケイ素を用いた。
【0054】
マッハツエンダー型導波路の中央部53には窒化酸化ケイ素のコアは形成されておらず、AD法によりPb(Zr0.3Ti0.7)O54を2μm成膜した。成膜条件は実施例1と同一である。その後、Pb(Zr0.3Ti0.7)O表面を研磨により平坦化し、リフトオフ法で金属電極55を3箇所形成した。電極にはTi/Au層を用い、スパッタ法で形成した。次に赤外ランプにより赤外光を10分間照射し、Pb(Zr0.3Ti0.7)Oの局所加熱を行い、コア層56を形成した。コア層56は、入力部51−1及び出力部51−2とともにマッハツエンダー型導波路を形成する。
【0055】
波長1.55μmの光を先球ファイバーにより、形成した光変調器に導入し、電極に12Vの電圧を印加することで、10dBの変調度を得ることができた。本実施例の光変調器の伝搬損失の波長依存性を測定したところ、波長1.55μmで、導波損失が6dB以下となり、実用可能であった。
【0056】
本実施例では、金属電極を遮光部として利用するので、製造工程が簡略化され、コストを低減することができる。
【0057】
本発明による光学素子はエッチングによるPZTの導波路形成を行わないことから、伝播損失を低くできるという有効性がある。
【0058】
また、本発明の光学素子は基板や下地層にかかわりなく形成が可能であるため、レーザー、電気光変換器、光電気変換器、光増幅器、光導波路、光フィルター等の光学素子をあらかじめ形成した基板や、CPU、メモリー等の電子回路を形成した基板上に、光学素子を形成し、光集積デバイスを作成することができる。
【実施例4】
【0059】
次に、本光学素子を用いた光変調器の実施例について説明する。まず、ガラス基板上にITO膜を下部電極として、スパッタ法により180nm成膜した。マグネトロンスパッタ法を用い、室温で、アルゴンガスにより成膜した。ITO下部電極上に、Pb(Zr0.3Ti0.7)Oを2μm成膜した。成膜条件は実施例1と同一である。その後、Pb(Zr0.3Ti0.7)O表面を研磨により平坦化し、リフトオフ法で金属遮光部を形成した。金属遮光部にはアルミを用い、スパッタ法で形成した。次に赤外ランプにより赤外光を10分間照射し、Pb(Zr0.3Ti0.7)Oの局所加熱を行い、コア層を形成した。アルミ遮光部をエッチャントにより除去したのち、コア層上にITO電極/Au電極をスパッタ法で成膜し、上部電極とした。波長1.55μmの光を先球ファイバーにより、形成した光変調器に導入し、電極に8Vの電圧を印加することで、12dBの変調度を得ることができた。
【0060】
本実施例の光学素子における導波路形状をかえることで、光スイッチを形成することもできる。
【0061】
本発明による光学素子は下地材料に特性が依存しないため、ITOのような結晶構造が異なる多結晶体の上の形成が可能となるという有効性がある。
【0062】
また、本発明の光学素子は基板や下地層にかかわりなく形成が可能であるため、レーザー、電気光変換器、光電気変換器、光増幅器、光導波路、光フィルター等の光学素子をあらかじめ形成した基板や、CPU、メモリー等の電子回路を形成した基板上に、光学素子を形成し、光集積デバイスを作成することができる。
【実施例5】
【0063】
図6は、本発明の実施例5の光情報伝搬システムの構成図である。
【0064】
レーザー61から出射された連続光は、マイクロレンズ62で集光され、光変調器63に入射する。光変調器63は、実施例3と同一のプロセスで形成されたマッハツエンダー型の導波路の入力部64−1及び出力部64−2と、それらの間に形成されたPb(Zr0.3Ti0.7)OからなるAD膜(図示せず)と、前記入力部64−1及び出力部64−2とともにマッハツエンダー型導波路を形成するようAD膜に形成されたコア部と、コア部上に形成された電極65を有する。この光変調器63の作成は、レーザーがあらかじめ形成された基板上に行った。電極65は、変調信号発生回路66と電気的に接続されており、電圧駆動による高周波信号の供給を受ける。この電圧により導波路の屈折率が変化し、光信号を変調できる。光変調器により変調された光信号は、光電気変換器67により、電気信号に変換される。
【0065】
本実施例の光情報伝搬システムに500MHzの信号を入力し、S/Nの波長依存性を測定したところ、S/Nが15dB以上となり、実用可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】Pb(Zr0.3Ti0.7)Oのアニール前後の透過率スペクトルを示す図である。
【図2】Pb(Zr0.3Ti0.7)Oのアニール前後の消衰係数の波長依存性を示す図である。
【図3】Pb(Zr0.3Ti0.7)Oのアニール前後の屈折率の波長依存性を示す図である。
【図4】本発明の実施例1に係わる成膜装置を説明する図である。
【図5】本発明の実施例3の光変調器を説明する図であって、(a)は平面図、(b)は(a)のB−B線断面図である。
【図6】本発明の実施例5の光情報伝搬システムを説明する図である。
【符号の説明】
【0067】
40 ガスボンベ
41 ガラスボトル
42 粉末原料
43 排気管
44 加振器
45−1,45−2 搬送管
46 成膜チャンバー
47 真空ポンプ
48 ノズル
49 基板
50 ガラス基板
51−1 マッハツエンダー型導波路の入力部
51−2 マッハツエンダー型導波路の出力部
52 クラッド
53 マッハツエンダー型導波路の中央部
54 AD法によるPb(Zr0.3Ti0.7)O
55 金属電極
56 Pb(Zr0.3Ti0.7)Oからなるコア
61 レーザー
62 マイクロレンズ
63 光変調器
64−1 マッハツエンダー型導波路の入力部
64−2 マッハツエンダー型導波路の出力部
65 電極
66 変調信号発生回路
67 光電気変換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に供給した超微粒子脆性材料に機械的衝撃力を負荷して前記超微粒子脆性材料を接合させて形成した成形体を含み、前記成形体に光吸収端が波長λaである第1の部分と光吸収端が波長λbである第2の部分とが存在し、λaとλbの間にλa<λbの関係があることを特徴とする光学素子。
【請求項2】
請求項1に記載された光学素子において、前記第1の部分が導波路のコア部、前記第2の部分が前記導波路のクラッド部であることを特徴とする光学素子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光学素子において、前記基板上に形成された下部電極と、この下部電極上に形成された前記成形体よりなる導波路と、この導波路上に形成された上部電極とを有することを特徴とする光学素子。
【請求項4】
請求項1,2または3に記載の光学素子において、前記超微粒子脆性材料にマンガンが添加されていることを特徴とする光学素子
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一つに記載の光学素子において、前記超微粒子脆性材料が、電気光学材料であることを特徴とする光学素子。
【請求項6】
請求項5に記載の光学素子において、電気光学材料が、ジルコン酸チタン酸鉛、またはランタンが添加されたジルコン酸チタン酸鉛を主な成分としていることを特徴とする光学素子。
【請求項7】
基板上に供給した超微粒子脆性材料に機械的衝撃力を負荷して前記超微粒子脆性材料を接合させて形成した成形体を含む第1の光学素子と、該第1の光学素子とは異なる第2の光学素子とを前記基板上に集積させた光集積デバイスであって、前記成形体に光吸収端が波長λaである第1の部分と光吸収端が波長λbである第2の部分とが存在し、λaとλbの間にλa<λbの関係があることを特徴とする光集積デバイス。
【請求項8】
請求項7に記載された光集積デバイスにおいて、前記第1の部分が導波路のコア部、前記第2の部分が前記導波路のクラッド部であることを特徴とする光集積デバイス。
【請求項9】
前記第2の光学素子は、レーザー、電気光変換器、光電気変換器、光増幅器、光スイッチまたは光フィルターのいずれか一つであることを特徴とする請求項7または8に記載の光集積デバイス。
【請求項10】
基板上に供給した超微粒子脆性材料に機械的衝撃力を負荷して前記超微粒子脆性材料を接合させて形成した成形体を含む光学素子と、電子回路とを基板上に集積させた光集積デバイスであって、前記成形体に光吸収端が波長λaである第1の部分と光吸収端が波長λbである第2の部分とが存在し、λaとλbの間にλa<λbの関係があることを特徴とする光集積デバイス。
【請求項11】
請求項10に記載された光集積デバイスにおいて、前記第1の部分が導波路のコア部、前記第2の部分が前記導波路のクラッド部であることを特徴とする光集積デバイス。
【請求項12】
前記電子回路は、中央処理装置またはメモリーであることを特徴とする請求項10または11に記載の光集積デバイス。
【請求項13】
請求項7乃至12のいずれか一つに記載の光集積デバイスにおいて、前記超微粒子脆性材料にマンガンが添加されていることを特徴とする光集積デバイス。
【請求項14】
請求項7乃至13のいずれか一つに記載の光集積デバイスにおいて、前記超微粒子脆性材料が、電気光学材料であることを特徴とする光集積デバイス。
【請求項15】
請求項14に記載の光集積デバイスにおいて、前記電気光学材料が、ジルコン酸チタン酸鉛、またはランタンが添加されたジルコン酸チタン酸鉛を主な成分としていることを特徴とする光集積デバイス。
【請求項16】
基板上に超微粒子脆性材料を供給するとともに機械的衝撃力を負荷して前記超微粒子脆性材料を接合させて成形体を形成する工程と、
前記成形体に光吸収端が互いに異なる2つの部分を形成する工程と、を含む光学素子の製造方法であって、
前記2つの部分を形成する工程が前記成形体を局所加熱する工程であることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項17】
請求項16に記載の光学素子の製造方法において、前記局所加熱が、光線を用いて行われることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項18】
請求項17に記載の光学素子の製造方法において、前記局所過熱が前記2つの部分の一方に対応する領域を覆う遮光部を形成した後、前記光線を照射することで行われることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項19】
請求項18に記載の光学素子の製造方法において、前記遮光部が、当該光学素子の電極であることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項20】
請求項16乃至19のいずれか一つに記載の光学素子の製造方法において、前記成形体の形成が常温衝撃固化現象によるものであることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項21】
請求項20に記載の光学素子の製造方法において、前記成形体の形成がエアロゾルデポジション法を用いて行われることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項22】
請求項16乃至21のいずれか一つに記載された光学素子の製造方法において、
前記基板として、当該光学素子とは異なる他の光学素子又は電子回路が形成された基板を用いることを特徴とする光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−298895(P2007−298895A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−128774(P2006−128774)
【出願日】平成18年5月8日(2006.5.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノレベル電子セラミック材料低温成形・集積化技術」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】