説明

光導波路デバイス

【課題】導波路型デバイスにおいて余剰光パワーを適切に終端する方法を提供する。
【解決手段】本発明の一実施例によれば、導波路型デバイスは、導波路端部からの光を終端するために遮光材が充填された終端構造を備える。この終端構造は、クラッドおよびコアを除去することによって光導波路上に溝を形成し、その溝内を光の強度を減衰させる材料(遮光材)で満たすことで形成することができる。これにより、終端構造に入射する光が遮光材によって減衰され、クロストーク成分となって他の光デバイスに与える影響を抑制することができる。このような終端構造により、同一基板内に集積される光デバイス同士での影響だけではなく、その基板に直接接続される他の光デバイスなどに対する影響も抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上の導波路を用いた光デバイスに関するものである。更に詳細には、入力または出力ファイバに接続されない導波路を基板内の任意の場所で終端し、当該導波路を伝搬する光信号の強度を減衰させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
各家庭におけるブロードバンド通信の爆発的普及によってネットワークコンテンツは多様性を増しており、それに伴って発生する通信トラフィックの増大や通信サービスの拡充は、それらを支える通信ネットワークに対する大容量化、高速化、高機能化の要求を日増しに高めている。近年、光通信技術はこれらの要求に応える重要な役割を果たしてきた。そして、これまでの光ネットワークでは、光−電気、電気−光変換の信号処理によって2地点間を結ぶ、対地型の通信システムが主流であったが、今後はさらにアクセス網を含む全てのネットワーク上で電気信号に変換する事なく光信号のまま複数の地点間を接続するメッシュ型の通信システムに発展させ、各ユーザにおけるより多彩な通信利用形態を実現していくことが重要となる。
【0003】
この光通信システムにおいて重要な役割を果たしてきた部品として、導波路型デバイスが挙げられる。光の干渉原理を応用することにより光信号の分岐結合器、波長合分波器、インターリーブフィルタ、光スイッチ、可変光減衰器(VOA:Variable Optical Attenuator)などさまざまな機能が実現されてきた。これらデバイスは導波路型であることから回路設計に柔軟性があり、大規模化、高集積化が容易であるばかりでなく、LSIなどの半導体部品製造プロセスを流用できるため、量産性に優れたデバイスとして大きく期待されている。半導体、高分子材料を用いた導波路などさまざまなものが実用化されている中、特にシリコン基板上に作製される石英系光導波路は、低損失であり安定性及び光ファイバとの接合性に優れるといった特徴を有し、実用化が最も進んだ導波路型デバイスの一つである。
【0004】
これら導波路型デバイスを用いて構成される光通信システムノードの方式の一つに波長多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)信号を用いた光分岐挿入多重(ROADM:Reconfigurable Add/Drop Multiplexing)が挙げられる。この方式は、ノード内において任意のWDMチャネル信号のみについて下層ネットワークとの間で受け渡しを行った後に、全ての信号を隣接するノードへ伝送する機能を有し、主にリングネットワークを構成する方式として用いられる。この機能を実現するために必要とされる光デバイスは、WDM信号を波長ごとに合流し、分岐する波長合分波フィルタ、信号経路の切り替えを行うための光スイッチ、信号光強度を調整するためのVOA、光送受信器、光強度モニタなどがあり、特に波長合分波フィルタ、光スイッチ、VOA等は導波路型デバイスによって実現することができる。
【0005】
近年では、これら導波路型デバイスを一つのモジュール内に集積し、ROADMシステムの主要な機能を実現する高機能光デバイスを構成することが可能となっており、実際のネットワークシステムへの導入が盛んに進められている。図18は、その一例であり、波長合分波フィルタ(1404,1406,1416)、光スイッチ(1408−1〜N)、VOA(1410−1〜N)、光カプラ(1402,1412−1〜N)、モニタ用PD(Photo Detector)(1414−1〜N)が一つのモジュール1400として集積されている回路のブロック図である。図18の例に拠れば、主(Main)経路へ入力(In)から入ってくるWDM信号は、まずタップ用光カプラ1402によって分岐された後、一方はドロップ(Drop)経路用波長分波(DEMUX)フィルタ1404によって、個々の波長の信号に分離されて下層ネットワークで使用する波長の信号のみが検出される。もう一方は別のDEMUXフィルタ1406によってやはり個々の波長の信号に分離された後、下層ネットワークからの送信信号であるアド(Add)経路の信号と主経路の信号のいずれかを選択する2×1光スイッチ1408−1〜Nを通過する。2×1光スイッチでは、先ほどドロップ経路で検出された波長信号に対応する波長についてのみアド経路からの信号が選択される。さらに各波長の信号はVOA1410−1〜Nによって信号レベルを調整されるが、その出力はタップ用光カプラ1412−1〜Nおよびその先に接続されているモニタ用PD1414−1〜Nによって信号の一部がモニタされてフィードバックされており、VOAの減衰量を制御している。レベル調整された各波長の信号は波長合波(MUX)フィルタ1416によってWDM信号となった後、主経路の出力(out)より出て行く構成となっている。
【0006】
従来の技術によれば、これら個々の光デバイスは、モジュール内で光ファイバを介して相互に接続することにより、モジュールへの実装が実現されてきたが、今後さらなる小型化、大規模化、低消費電力化を実現する上では、一層の集積度向上が大きな課題となっている。
【0007】
こうした集積度向上の要求に応える技術として提案されているものの一つに、マルチチップ集積技術がある。これは個々の導波路型デバイス基板同士を、光ファイバを用いることなく直接接続することによって、導波路型デバイスそのものの小型化およびモジュール内での実装面積低減を実現する技術である。例えば、図18の構成においては、波長合分波フィルタ1406,1416を一つの導波路型デバイス基板1420として作製し、同様に光スイッチ1408−1〜N、VOA1410−1〜N、および光カプラ1412−1〜Nを一つの導波路型デバイス基板1430として作製した後に、それぞれを接続する際、光ファイバを介さず、直接基板同士を接続する。また、モニタ用PD1414−1〜Nは導波路型デバイスではないが、光カプラ1412−1〜Nのモニタポートと波長合分波フィルタ基板1420の端面もしくは光スイッチ等の基板1430の端面のいずれかにおいて、やはり光ファイバを介することなく接続することが可能である。本技術によりモジュール1400内で使用する光ファイバの長さや光ファイバと基板1420、1430を接続するための部材の数を減少させることが可能となり、結果的にモジュール内での実装面積が減少し、デバイスの集積度が向上する。この際、VOAは通過する信号光の光レベルを減衰動作によって調整し、各チャネル間のレベル偏差を抑制する機能を担う。
【0008】
導波路型デバイスによるVOAのもっとも基本的な構成を図19に示す。このVOA1500は、光信号を分岐・合流する2つの方向性結合器1504および1508と、アーム導波路1506a、1506bとによって構成され、アーム導波路1506a、1506b上に薄膜ヒータ1512a、1512bを形成したマッハツェンダ干渉計(MZI:Mach Zehnder Interferometer)型の光デバイスである。ポート1502aから入射した光信号は、方向性結合器1504によって分岐され、アーム導波路1506aおよびbをそれぞれ伝搬し、方向性結合器1508によって再び合流する。その際、薄膜ヒータ1512aおよびbのいずれかに電極パッド1516、1518より給電すると、アーム導波路1506a、1506bの間に位相差が生じ、方向性結合器1508における位相関係によってポート1510aあるいは1510bから出射する光信号の強度が変化する。位相差が0のとき、光信号はポート1510bから100%出射し、位相差がπのとき、ポート1510aから100%出射する。この現象を利用し、薄膜ヒータへの給電をアナログ的に制御することによってこの位相差を調整すれば、VOAとして使用することが可能である。図19(b)は、図19(a)のB−B’線に沿った断面図である。光導波路は、シリコン基板1520上に作製され、石英系ガラスからなるクラッド1522およびそれに覆われた矩形状のコア1524によって構成される。アーム導波路の両側には、エッチング技術を用いてクラッドを導波路に沿って除去した断熱溝1514を有しており、スイッチングあるいは減衰に必要な電力を低減できる。ここで、MZIの干渉原理により、光分岐結合器が作製誤差によって結合率に誤差が生じた場合においても十分な消光比、あるいは光減衰量を得るためには、ポート1502aからポート1510bにいたる経路、あるいはポート1502bからポート1510aにいたる経路(クロス経路)を主信号の経路として用いることが一般的である。さらに消費電力あるいは熱光学効果の偏光依存性を考慮した場合、薄膜ヒータ1512a、1512bに無通電時において光信号を遮断するか、あるいは最大減衰量となるように駆動することが最も一般的であり、そのためにはアーム導波路1506a、1506bにおいて光信号が導波路内を伝搬する光学的実効距離、すなわち光路長にあらかじめ適切な差(光路長差)を付与しておく必要がある。
【0009】
2本の光導波路によって構成されるMZIを基本素子としたVOAにおける光減衰動作は、メインポート(光ファイバや他の導波路型デバイスに接続される出力導波路)の光レベルを減衰させると共に、その余剰分(減衰させた分)の光パワーを他方のポート(ダミーポート)に出力する。例えば、主信号の経路としてクロス経路を使用するMZI型のVOAでは図19のポート1502aを入力とした場合、ポート1510bがメインポート、ポート1510aがダミーポートとなる。これまで技術によれば、ダミーポートへ導かれた余剰光パワーは導波路型デバイス基板の出力端面まで伝搬し、そのまま空気中へ放射させることが一般的であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3755762号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Y. Hashizume, et. al., ‘‘Compact 32-channel 2x2 optical switch array based on PLC technology for OADM systems,’’ ECOC2003, MO3-5-4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、例えば図20に示すように、VOA1602やタップ用光カプラ1604を含む導波路型デバイス基板1606にアレイ導波路格子(AWG:Arrayed Waveguide Grating)やモニタPDなどの導波路型デバイス基板1608を直接接続するようなマルチチップ集積技術による実装の場合には、導波路型デバイス基板1606の端面で放射されたVOA1602からの余剰光パワーの一部が、VOA1602の後段に配置されるタップ用光カプラ1604から導かれる光導波路1610に結合し、結果的に分岐比ずれやクロストークの要因となって回路特性が劣化するという問題が明らかになった。また、後続のAWGやモニタPD(図示せず)などに対しても同様にさまざまなクロストークを発生させる要因となり、やはり回路特性を劣化させる原因となっていた。
【0013】
さらに、マルチチップ集積技術を用いない、通常の光ファイバ接続による導波路型デバイスの実装においても、集積度の向上に伴って導波路デバイス基板端面における光導波路の密度が飛躍的に高くなり、伝搬する余剰光パワーがメインパスに結合したり、端面で放射した余剰光パワーが光ファイバに結合したりすることによって、クロストークの要因となる問題も明らかとなっている。
【0014】
したがって、導波路型デバイスにおいて、余剰光パワーの適切な終端処理が重要な課題となってきた。
【0015】
本発明は、導波路型デバイスにおいて、基板上の任意の位置において余剰光パワーを放射させることなく終端し、光ファイバおよび他の導波路型デバイスに対するクロストークの抑制を対象としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、導波路型デバイスであって、導波路端部からの光を終端するために遮光材が充填された終端構造を備え、前記終端構造は、前記導波路端部からの光に対する入射角が傾くように構成され、前記導波路端部は、終端に向かって導波路幅が狭くなるテーパ部を有し、前記終端構造は、前記導波路端部を囲い、前記テーパ部に近接または接して配置され、前記導波路端部の終端に対向する面における前記終端構造の間隔を、前記導波路端部の終端における前記終端構造の間隔よりも大きくすることを特徴とする。
【0017】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の導波路型デバイスであって、前記テーパ部は、断熱遷移構造であることを特徴とする。
【0018】
また、請求項3に記載の発明は、導波路型デバイスであって、導波路端部からの光を終端するために遮光材が充填された終端構造を備え、前記終端構造は、前記導波路端部からの光に対する入射角が傾くように構成され、前記導波路端部は、終端に向かって導波路幅が狭くなるテーパ部を有し、前記終端構造は、前記導波路端部を囲い、前記テーパ部に近接または接して配置され、前記テーパ部は、断熱遷移構造であることを特徴とする。
【0019】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1から3に記載の導波路型デバイスであって、前記入射角は、ブリュースタ角以上であることを特徴とする。
【0020】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれかに記載の導波路型デバイスであって、前記遮光材は、前記導波路端部からの光を吸収または散乱する材料からなることを特徴とする。
【0021】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1から5のいずれかに記載の導波路型デバイスであって、マッハツェンダ型の光スイッチ、可変減衰器、光スプリッタ、およびアレイ導波路回折格子の少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする。
【0022】
また、請求項7に記載の発明は、請求項1から6のいずれかに記載の導波路型デバイスを用いてマルチチップ集積化したモジュールであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、導波路型デバイスにおいて、基板上の任意の位置でクラッドおよびコアを除去することによって光導波路上に溝を形成し、その溝内を光の強度を減衰させる材料(遮光材)で満たすことで光導波路を終端する。これにより、それら終端構造に入射する光が遮光材により減衰され、他の光デバイスにクロストーク成分となって与える影響を抑制することが可能である。したがって、同一基板内に集積される光デバイス同士での影響だけではなく、その基板に直接接続される他の光デバイス、例えば他の導波路型デバイスもしくは受発光素子に対する影響も抑制することが可能である。そのため、より集積度の高い光デバイスを実現する上で非常に有効であり、さまざまな光信号の制御を必要とする大容量光通信網の発展に大きく寄与するものであると期待される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施例による導波路型デバイスの構成を示す図である。
【図2】図1の導波路型デバイスにおいて、可変光減衰器を含む基板の回路レイアウトを示す図である。
【図3】本発明の第1実施例による光導波路を終端する溝の基板水平面内での形状を示す図である。
【図4】本発明の第4実施例による光導波路を終端する溝の基板水平面内での形状を示す図である。
【図5】本発明の第5実施例による終端される光導波路のテーパ形状を示す図である。
【図6】本発明の第5実施例による終端される光導波路のMMI形状を示す図である。
【図7】本発明の第6実施例による光導波路を囲む終端構造を示す図である。
【図8】本発明の第7実施例による光導波路を囲む終端構造を示す図である。
【図9】本発明の第8実施例による光導波路の終端構造を説明するための図である。
【図10】本発明の第8実施例による光導波路の終端構造を示す図である。
【図11】本発明の第9実施例による光導波路のテーパ構造を示す図である。
【図12】本発明の第8実施例および第9実施例による光導波路を囲む終端構造の一例を示す図である。
【図13】本発明の第10実施例による導波路型デバイスの概要を示す図である。
【図14】2×1光スイッチを導波路型デバイスで実現する場合の具体的な構成例を示す図である。
【図15】本発明の第11実施例による導波路型デバイスの概要を示す図である。
【図16】本発明の第12実施例による1×6スプリッタの構成例を示す図である。
【図17】本発明の第12実施例による1×40波長群分波フィルタの構成例を示す図である。
【図18】ROADMシステムの主要な機能を実現する導波路型デバイスのモジュール構成例を示す回路ブロック図である。
【図19】導波路型デバイスにおける可変光減衰器の基本的な構成を示す図である。
【図20】従来の技術によるマルチチップ集積技術を用いた導波路型デバイスにおいて、余剰光パワーの問題を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。以下の実施例では、シリコン基板上に形成した石英系単一モード光導波路を使用した光デバイスについて説明する。これは、この構成が安定かつ集積化が容易であるためであり、しかも石英系光ファイバとの整合性に優れ、低損失な光デバイスを提供できるためである。しかしながら、本発明はこれらの構成に限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
図1は、本発明の一実施例による導波路型デバイスの構成を示す図である。図に示すように、このデバイス100は、VOA104−1〜Nを含む基板120と、アレイ導波路格子(AWG:Arrayed Waveguide Grating)110を含む基板130とが接続されており、光レベル調整機能付き波長合波デバイス(VMUX:VOA equipped MUX)として構成されている。このデバイスは、例えばWDMシステムに導入される。本構成例では、VOA104−1〜Nおよびタップ用光カプラ106−1〜Nが一つの基板120内に集積され、光パワーモニタ用PD108およびAWG110が別の一つの基板130内に集積されている。
【0027】
図2(a)は、本実施例におけるVOA104−1〜Nを含む基板120の詳細な回路レイアウトである。なお、図1および図2においては図を単純化するため、VOA104−1〜Nを駆動する薄膜ヒータのみを記載し、ヒータに給電するための電気配線および後述する断熱溝の記載は省略した。複数チャネルの光レベルを同時に調整できるよう、並列に配置されたVOA104−1〜Nは2段に直列接続されたMZI202−1〜N、204−1〜Nによって構成され、両方のMZIに電力を印加することで減衰動作を行う。VOA104−1〜Nの後段にはタップ用光カプラ106−1〜Nとして波長無依存カプラ(WINC:Wavelength Independent Coupler)が接続されており、メインポート206aおよびタップポート206bはそれぞれ別基板130に集積されているAWG110および各チャネルの光パワーレベルをモニタするPD108へ接続されるため、基板端まで引き出されている。VOA104−1〜Nの減衰動作によりそれぞれのMZI202−1〜N、204−1〜Nからダミーポート208に導かれた余剰分の光は、ダミーポートの延長線上で基板上の任意の位置におけるクラッド層およびコア部が除去されて形成された溝、およびその中に充填された光強度を減衰させる材料(遮光材)から構成される終端構造210−1〜Nに導かれ、他の回路、チャネルに対するクロストークや迷光とならないレベルまで減衰して終端される。
【0028】
本実施例における遮光材は、シリコーン樹脂を母材とし、遮光材として一般的に用いられるカーボンブラックを混合したものを使用した。遮光材に入射される光は、主にカーボンブラックにおける吸収によって光パワーが減衰する。
【0029】
これらVOA104−1〜Nを含む基板120は、以下に説明するような工程で作製される。直径6インチのシリコン基板上に石英系ガラスによって形成されるクラッド層および埋め込み型コア部を有する単一モード光導波路を、SiCl4やGeCl4などの原料ガスの火炎加水分解反応を利用した石英系ガラス膜の堆積技術と反応性イオンエッチング技術の組み合わせにより作製し、薄膜ヒータおよび給電のための電極をクラッド層の表面上に真空蒸着およびパターン化によって作製した。作製した光導波路の通常のコア寸法は7μm×7μmであり、クラッド層との比屈折率差Δは0.75%とした。
【0030】
実施例1におけるVOAおよびWINCは、このような光導波路を用い、直線導波路および曲線導波路を組み合わせることによって形成される。熱光学効果による位相シフタとしてクラッド層の表面上に形成した薄膜ヒータは厚さ0.1μm、幅20μm、長さ2mmとした。さらに、薄膜ヒータに沿って断熱溝を形成し、薄膜ヒータから発生する熱を効率よく光導波路のコアへ伝える構造とした。また、VOA104−1〜Nのダミーポートに接続される終端構造210−1〜Nの溝も断熱溝の加工と同時に形成した。本実施例では、溝のサイズを幅100μm、長さ1mmとした。溝の深さは、コア部の下までとしたが、基板に達するまでとしてもかまわない。MZIを基本素子として構成される実施例1のVOA104−1〜NおよびWINC106−1〜Nからなる光回路の全長は50mmであった。
【0031】
VOA104−1〜Nを構成するMZI202−1〜N、204−1〜Nにおける2本のアームの光路長差は通過する信号光の半波長に設定し、VOA104−1〜Nに対して無給電状態ではメインパスにおける信号光は遮断(減衰量最大)状態となるようにした。本実施例においては、WDM信号を波長チャネルごとに処理するためにVOAを並列化しているが、設計の簡単のため全てのVOAの光路長差を、扱う信号光波長帯の中心である1.55μmの半分となる0.75μmで統一した。ただし、より厳密にはVOAごとに通過する波長に対応する光路長差を設定する場合もあることをここに付記しておく。
【0032】
VOA104−1〜Nは、薄膜ヒータへ印加する電力を連続的に変化させることにより、任意の減衰量を設定することが可能である。また、メインポートにおける光信号のパワーが減衰量ゼロ(光出力最大)の状態および減衰量最大(光出力遮断)の状態の差である消光比は、通常50dB以上を求められることが多く、MZI1段だけで構成する場合には十分な消光比が得られない。そのため、本実施例においては、MZI2段の直列接続による構成とし、消光比55dB以上が得られた。
【0033】
本実施例においては、VOAの減衰量最大時にダミーポートに導かれる光パワーの余剰分が最大になり、適切な終端処理を行わない場合には後段のWINCや、VOA基板120に直接接続されるAWG基板130に対するクロストークとなり、悪影響を及ぼすことになる。図2(a)に示した本実施例の回路(サンプル1とする)との比較のため、ダミーポート208−1〜Nに終端構造を全く設けずに図2(b)の線分A−A’の位置で導波路を終点とした回路(サンプル2とする)、および図2(c)に示すように溝212−1〜Nのみで遮光材を導入していない回路(サンプル3とする)も同時に作製した。本実施例において作製されたサンプルにおいて、ダミーポート208−1〜Nの終端構造210−1〜Nによるクロストーク抑制の効果を観察するため、信号光が伝搬するチャネルに隣接するチャネルにおけるクロストーク量をVOAの減衰量最大(光出力遮断)状態で測定した。
【0034】
ダミーポート208−1〜Nに終端のための溝および遮光材を全く設けないサンプル2においては、隣接するチャネルのメインポート206aおよびそのタップポート206bそれぞれに−30dB程度のクロストークが発生した。これはダミーポート208−1〜Nに導かれた光パワーの余剰分がダミーポートの終点において全てクラッドモードとして伝搬することとなり、やがてそれが隣接するチャネルの導波路へ結合してクロストークとなったことを示している。
【0035】
またダミーポート208−1〜Nの終端を溝212−1〜Nのみで、遮光材を導入しないサンプル3においても、隣接するチャネルへのクロストークが大きく、メインポート206aおよびタップポート206bのそれぞれにおいて、−40dB程度のクロストークが発生した。溝212−1〜Nの導波路端面から放射した光は溝内での反射や散乱によって一部の光パワーは減衰されるものの、再びクラッドモードとして伝搬した後に、隣接する導波路へ結合した結果クロストークとなっていることが分かる。
【0036】
一方、溝およびその溝内へ充填された遮光材によりダミーポート208−1〜Nが終端されているサンプル1においては、隣接するチャネルへのクロストークが−60dBを下回る値を示した。本発明による遮光効果によって余剰分の光パワーは他の回路に影響を与えないレベルにまで減衰され、適切な終端処理が成されたことが確認できた。
【0037】
なお、本実施例における終端構造210の溝の形状は、図3に示すとおり、終端される導波路の伝搬方向に対して、溝への入射面の角度(θ)が8度となっている。本実施例では、シリコーン樹脂およびカーボンブラックの混合物である遮光材の屈折率は石英ガラスとほぼ同等であるが、若干の屈折率差を考慮し、角度(θ)を付与することでVOAの反射減衰量に影響を与えないように工夫したものである。実際には、遮光材の屈折率、終端構造の配置スペース、溝の加工精度などを考慮して、最適な角度(θ)を決定することになる。本実施例で作製したサンプル1でVOA104−1〜Nの入力側における反射減衰量を測定したところ、50dB以上と良好な特性であった。
【実施例2】
【0038】
本発明の実施例2では、図1および図2(a)と同様の構成とし、VOA104−1〜Nのダミーポート208−1〜Nの終端部に遮光材として、シリコーン樹脂を母材とし、顔料としても用いられる金属微粒子粉末を混合したものを使用した。遮光材に入射される光は、主に金属微粒子による光散乱によって光パワーが減衰する。作製したサンプルは実施例1と同様にシリコン基板上に作製される石英系の光導波路からなり、隣接する光導波路へ結合してクロストークとなることを防ぐために溝および遮光材を導入した終端構造210−1〜Nとなっている。本実施例においても、隣接するチャネルへのクロストークは−60dB以下であった。
【0039】
また、終端される導波路の溝への入射面の角度(図3のθ)を、光導波路と遮光材の屈折率を考慮して15度とした。このとき、VOA104−1〜Nの入力側における反射減衰量は50dB以上であり、良好な特性であった。
【実施例3】
【0040】
本発明の実施例3では、実施例2と同様の構成とし、終端される導波路の溝への入射面の角度(図3のθ)をブリュースタ角とした。その他の構成および遮光材等は、実施例2と同様である。本実施例におけるブリュースタ角を計算すると約50度であった。入射面の角度をブリュースタ角にすることによって、基板水平方向の偏光成分はすべて遮光材へ入射されることとなり、基板垂直方向の偏光成分の一部のみが反射によって導波路基板内へ放射されることとなる。また、ブリュースタ角近傍、ブリュースタ角以上でも同等の効果が得られる。これによって、導波路基板内全域において、放射光によるクロストークの影響が更に低減されることとなる。本実施例によれば、隣接するチャネルへのクロストークは−65dB以下であり、VOA104−1〜Nの入力側における反射減衰量も55dB以上となった。また、本実施例は、実施例1など、実施例2以外の構成においても適用可能であることは明らかである。したがって、回路内で終端構造を配置するスペースによっては、必要に応じて入射角をブリュースタ角にすることで、より効果的に余剰光パワーを終端することが可能である。
【実施例4】
【0041】
本発明の実施例4では、実施例1と同様の構成とし、図4に示すとおり、ダミーポート208を終端する溝の基板水平面内での形状を、頂点を持たせず、滑らかに接続される曲線と直線のみで構成された閉曲線によって形成したのち、遮光材を導入した。遮光材はシリコーン樹脂とカーボンブラックの混合物を使用し、サンプルの作製を行ったところ、溝壁面が滑らかに形成されているため、遮光材のはがれが起きにくくなり、長期的な信頼性も向上した。また、クロストークの低減効果は実施例1と同様で、隣接するチャネルへのクロストークは−60dB以下であった。本実施例でも終端部における溝への入射面角度を8度にしたため、VOA104−1〜N入力側での反射減衰量は50dB以上であった。
【実施例5】
【0042】
本発明の実施例5では、実施例1と同様の構成とし、図5に示すとおり、ダミーポート208の終端部分における光導波路形状が、テーパ形状となっている。これは、伝搬する光のモードフィールド径が、他の位置にある通常の幅の光導波路における場合よりも拡大されていることにより、遮光材へ入射される光のパワー密度が低減されることを企図したものである。例えば、遮光材が光の吸収によってVOA104−1〜Nの余剰光パワーを減衰させる場合においては、光パワーが熱へ変換されることにより、遮光材の温度が上昇してしまう。この際、パワー密度が高くなるほど、局所的に急激な温度上昇が発生してしまうため、遮光材の母材であるシリコーン樹脂が損傷してしまう可能性がある。特に、ROADMなどのノードシステムにおける光デバイスでは、定格の入力光パワーが200mW(+23dBm)以上である場合もあり、一つのチャネルにおいて、VOAダミーポート208へ導かれる最大の余剰光パワー(シャットダウン時)は10mW(+10dBm)程度になることが予想される。そのときの遮光材の上昇温度は、入射するモードフィールド径によっては、300度を超える場合があり、シリコーン樹脂の許容温度範囲を超えてしまう。
【0043】
本実施例においては、図5(a)に示すパラボラ形状、図5(b)に示す直線形状の2種類のテーパ形状について、それぞれテーパ長さを100μm、テーパ幅(終端構造入射側)を30μmとして、シリコーン樹脂とカーボンブラックの混合による遮光材を使用し、入力パワーに対する耐性を観測したところ、いずれの形状においても10mW(+10dBm)の入力パワーに対して遮光材が損傷を受けていないことを確認した。具体的には、光の入射部付近で、遮光材を光の入射方向に垂直な断面で切断して、目視で確認した。
【0044】
本実施例に拠れば、十分なハイパワー耐性を持ち、ノードシステムにおいても適用可能であることが明らかである。
【0045】
なお、本実施例におけるテーパ長さ、幅はあくまで一例であり、それぞれの数値は隣接する導波路や他の回路との位置関係、スペースによって決定されるものであり、本実施例に記載の数値に限られるものではない。すなわち、テーパ長さは数十μm程度から数mm程度まで任意に決めることができる。またテーパ幅については、通常の光導波路幅より狭めることによっても、モードフィールド径を拡大することが可能である。したがって、テーパ幅は0μmから30μmまでとし、極力モードフィールド径を拡大するという観点において、任意に決定可能である。
【0046】
また、図6に示すように、終端部分における導波路の形状をマルチモード干渉計とした場合についても、同様に入力パワーに対する耐性を観測したところ、干渉計長100μm、干渉計幅30μmの形状において、10mW(+10dBm)の入力パワーでも遮光材が損傷を受けていないことを確認した。
【0047】
いずれの形状の場合において、モードフィールド径を拡大するという観点においては、同様の作用を期待したものであり、それぞれにおいて十分な効果を得ることができた。
【実施例6】
【0048】
本発明の実施例6においては、図7(a)に示すとおり、終端される光導波路を基板水平面内で溝と遮光材によって囲むように配置している。これにより、光導波路終端部分で発生する反射光が他の回路等へ影響を与えないようにしている。図7(a)において終端される光導波路を囲むような構造710は、入射光702が光導波路の終点704において終端されると共に一部が反射光706となり一定の幅(点線で示す)を持って基板内を伝搬するが、その反射光706を遮る形で配置される。
【0049】
先述した実施例2では遮光材としてシリコーン樹脂および金属粒子粉末の混合物を用いたため、石英ガラスとの屈折率差により、一定の反射光が発生した。しかしながら、終端される光導波路の溝に対する入射面の角度を15度としたことにより、反射光のほとんどは終端される光導波路に結合することなく、光導波路基板内に放射された。その際、例えば終端される光導波路に対する終端構造の構成が図3あるいは図4、図5、図6のような場合でも、それら放射された反射光はやがて一定の減衰を受けながら、基板端面に達し、入出力の光ファイバには結合することなく空気中に放射されため、回路特性上問題とはならなかった。
【0050】
ところが、任意の位置に光導波路の終端構造を設けた導波路型デバイスにおいてモニタ用PDなどの受光部品を基板端面あるいは基板表面に集積する場合には、それらの反射光が受光され、クロストークとして検出されてしまう可能性があり、回路特性上の問題となる。
【0051】
そこで、図7(a)に示す構成の終端構造を持つ導波路型デバイスを作製し、遮光材としてシリコーン樹脂と金属粒子粉末の混合物を用い、基板のあらゆる位置(端面、上下表面)において、PDによるクロストーク測定を行ったところ、終端される光導波路へ入力した光強度に対していずれの箇所においても、−60dB以下であった。これは例えば、図5(a)のような構成と比較したとき、回路構成やその位置によるものの、10dB以上のクロストーク改善となる場合があった。
【0052】
なお本実施例の構成においては、反射光の遮光が目的であるため、他の回路の配置等に影響を与えない範囲で、その大きさ、位置、形状は任意に決定されるものである。また、光導波路を終端する部分と反射光を遮光する部分は必ずしも連続した形状である必要もなく、例えば図7(b)に示すような形状で反射光を遮る構造714が光導波路の終端構造712とは図形的に不連続であっても、本発明による効果は同じである。その場合において、それぞれの構造712、714について、その形状を、頂点を持たず、滑らかな曲線と直線のみで構成された閉曲線によって形成したり、その材料を、光を吸収するものや散乱するものとしたりすることができる。なお、図7では、導波路をテーパ形状としているが、これら以外の形状としてもよい。
【実施例7】
【0053】
図8は、本発明の実施例7による構成を示す図である。実施例5においては導波路の終端構造へ入射される光パワーのハイパワー耐性を向上する構成について説明したが、入力されるパワーが数十mWに達する光パワーを終端する必要がある場合においては、その耐性が不十分であった。
【0054】
そこで、更なるハイパワー耐性の向上を可能とする構成が図8(a)に示す構成である。本実施例においては、終端される光導波路802が終端に向かって導波路幅が狭くなるような直線テーパ構造を有し、実施例6で示したような遮光材を導入した溝形状810が導波路の周囲を囲むような構成とし、かつ導波路の終端位置において、光導波路802の終点と終端構造802が距離L1をもってクラッド層によるギャップを介して接続されている構成をとる。距離L1は、導波路の終端から放射された光が終端構造で十分に吸収されるように設定し、例えば1mm以下の値に設定する。このとき、テーパの長さL2を500μmとし、導波路幅の変化率を大きくすることにより導波路を伝搬する光のスポットサイズの変換を急激に行う形状とした。また導波路終点と終端構造の距離L1を750μmとし、終端構造に対する光の入射角θは15度となるようにした。終端される光導波路の周囲を囲む溝は、図8(a)のL3部分において徐々に光導波路へ近接する形状とし、直線テーパ部分では製造誤差や必要とされる減衰量に応じて、光導波路幅中心から溝までの距離を導波路幅の半分(溝が導波路コアの側壁に接する)から導波路幅程度の範囲で近接して配置される。本実施例ではL3の距離を250μm、直線テーパ開始位置での光導波路中心から溝までの距離を導波路幅と同じ7μmとした。
【0055】
図8(a)の構成によるサンプルを作製し、シリコーン樹脂とカーボンブラックの混合による遮光材を使用して入力パワーに対する耐性を観測したところ、50mW(+17dBm)の入力パワーに対して遮光材が損傷を受けていないことを確認した。
【0056】
本実施例の構成によれば、直線テーパにおけるスポットサイズ変換を急激に行う構成としたことで、放射光が発生するため、一部の光パワーを光導波路の周囲を囲んだ遮光材によって減衰させることが可能である。またテーパによってモードフィールドが拡大された光パワーの大部分は光導波路上を伝搬するが、終端位置においてクラッド層によるギャップを介して終端構造に入射するため、更に光パワーは分散され、遮光材内部における局所的な光吸収による急激な温度上昇を緩和することが可能となる。
【0057】
本実施例の構成においてVOAの入力側での反射減衰量を測定したところ、55dB以上であった。また基板のあらゆる位置においてPDを用いたクロストーク測定を行ったところ、終端される光導波路へ入力した光強度に対していずれの箇所においても、−60dB以下であった。
【0058】
本実施例では光導波路のテーパは終端に向かって導波路幅が狭くなる形状であることが望ましいが、終点における幅は通常(テーパ部分以外)の導波路幅より狭い範囲で任意に設定可能である。また、幅を狭める直線テーパ形状で異なる2種類の幅の変化率を採用することで2段の直線テーパを接続したような形状とする場合があるが、そのような形状の光導波路テーパを用いることも本発明の範囲に含まれるものである。
【0059】
また、光導波路の終点と終端構造の間のクラッド層によるギャップは、その距離が回路に配置されるスペースおよび入射される光パワーによって調整され、その範囲は1mm以下とするのが適当である。すなわち、導波路の終端から放射された光が終端構造で十分に吸収されるように設定する。反対に、図8(a)における距離L1が0mmである場合もあり得るが、その場合は光パワーが局所的に終端構造内へ入射される場合があるので、十分なハイパワー耐性を得られない可能性がある。しかし光導波路を終端し、クロストークを抑制する目的においては、遮光材が損傷されない範囲でこれを達成することが可能である。
【0060】
図8(a)の構成においては、数十mW程度のハイパワー耐性を確認することができたが、更にパワーが高い場合、例えば100mW(+20dBm)の入射に対してはその耐性が遮光材の種類によっては十分ではない場合があった。そこで、図8(b)に示す構成とすることで、さらなるハイパワー耐性の向上を図った。すなわち、終端される光導波路804を囲む溝812が任意の距離L’4だけ光導波路コア側壁に接しており、この距離L’4は、光導波路804の直線テーパ開始点まで続いている。そして、この光導波路804の直線テーパは、終点に向かって幅が狭まる形状となっている。また、図8(a)同様、光導波路804の終点と終端構造812は、クラッド層によるギャップを介して配置されている。本実施例においてはテーパ長L’2を500μm、ギャップの距離L’1を同じく500μmとし、光導波路コア側壁に接した溝同士に挟まれた部分の幅W’は終端構造812に至るまで一定とした。本構成によれば、溝が光導波路804に接した時点から伝搬する光パワーの一部が溝内に放射されて減衰し、更に終端構造へ向かってフィールドを拡大した後、終端構造において残りの光パワーを減衰し終端する。これにより、これまでの実施例に記載された構成の場合に比べて、より緩やかに光パワーを減衰させることが出来る。図8(b)の構成によるサンプルを作製し、シリコーン樹脂カーボンブラックの混合による遮光材を使用して入力パワーに対する耐性を観測したところ、100mW(+20dBm)の入力パワーに対して遮光材が損傷を受けていないことを確認した。また、入力側での反射減衰量を測定したところ、55dB以上であった。基板のあらゆる位置においてPDを用いたクロストーク測定においては終端される光導波路へ入力した光強度に対していずれの箇所においても、−60dB以下であった。図8(b)の構成では、溝によって挟まれた部分の幅W’を一定としたが、直線テーパ部分においても光導波路コア側壁に接するような形状とすることによってより入力パワー耐性を向上することが可能である。またコア側壁に接している溝の製造誤差(位置ズレ、パターンシフト)によるコアパターン欠損を防ぐ為に、溝とコア側壁の間にクラッド層を介して1〜5μm程度の距離を設けることも、溝の近接領域で光導波路の伝搬損失が増大する範囲において、可能である。
【実施例8】
【0061】
本発明の実施例7による導波路型デバイスでは、遮光溝をコアに近接または接して配置することにより、終端部へ伝播するコア周辺の光を吸収させることが望ましい。このような配置をとると、テーパに沿って遮光溝が配置されるため、図9に示すように、遮光材を充填する溝820の製造誤差が問題になる場合がある。図9(a)に示すように、終端構造の端面は、導波路822から放射した光が端面で反射しても導波路に戻らないように、斜めに(角度θ)カットされている。しかし、斜めにカットされた溝を作製する場合、実際には図9(b)に示すように、溝の角が丸みを帯びた形状になる。そして、溝を作製する際のマスクの位置ズレなどにより、導波路からの光が丸みを帯びた端面に入射すると、図9(b)に示すように、一部の反射光が導波路に戻り、反射減衰量が劣化することになる。
【0062】
そこで、図10(a)に示すように、終端構造830の端面付近のクラッド部分834を拡げることにより、マスクの位置ズレが生じた場合でも、導波路832からの光が丸みを帯びた端面に入射しないようにすることができる。これにより、図10(b)に示すように、導波路832へ戻る反射量を低減し、反射減衰量の劣化を抑えることができる。結果として、マスクの位置合わせのトレランスを向上させることができ、生産性が改善される。
【0063】
終端構造の端部付近のクラッド部分を拡げる場合、マスクの位置合わせの精度a(数μm)、溝の角が丸くなってしまう幅b(5〜10μm程度)b、導波路から放射された光が回折して拡がる幅c(10〜20μm、但し、導波路端から終端構造の端面までの距離による)を考慮すべきである。この場合、終端構造の端面で拡げるべき幅wは、w≧a+b+c/2となる。
【実施例9】
【0064】
図8に関連して説明したように、テーパ部(L2)の導波路幅の変化率を大きくすることにより、テーパ部において放射光を発生させ(非断熱遷移構造)、終端構造810、812の端面における光の入射パワーを緩和することができる。この場合、テーパ部における放射光のパワーにより、周囲の遮光材が損傷を受ける場合がある。そこで、図11に示すように、テーパ構造を、図8のテーパ部の距離L2、L’2をL2’、L’2’に延長して(すなわち、テーパ角αを臨界角以下にして)断熱遷移構造とすることにより、遮光材がテーパ部の放射光による損傷を受けないようにすることができる。そして、図11(a)に示すように、終端構造の溝840を導波路842のコアに近接して配置するか、図11(b)に示すように、終端構造の溝850を導波路852のコアに接して配置することにより、コア周辺の光を吸収させ、終端構造の端面への入射光のパワーを緩和することができる。断熱遷移構造となるテーパの臨界角は、比屈折率差Δが0.75%の場合、約0.3度である。
上記のように、断熱遷移構造をとることにより、テーパ部からの放射光を発生しないようにすることができるが、テーパ角αが臨界角以上であってもテーパ部からの放射光による遮光材の損傷が問題ないレベルであれば、実用上は問題ない。
図12は、断熱遷移となるテーパ形状に(α=0.3度)、終端構造の端部付近のクラッドを拡げた構成を採用した実施例の一例である。
【実施例10】
【0065】
図13(a)は、本発明の実施例10による導波路型デバイスの構成を示す図である。このデバイス900aは、導波路型光スイッチ(図示せず)、VOA902、WINC904が集積された導波路型デバイス基板920aと、AWGおよびモニタPDが集積された導波路型デバイス基板930とが直接接続されており、ROADMシステムの主要な機能を構成している。
【0066】
本実施例において、VOA902のダミーポート906は溝および遮光材による終端構造908aで終端されている。なお、図8では、光スイッチ、AWG、モニタPDの詳細な記述を省略したが、光スイッチとAWGはいずれもVOAと同じ光導波路によって構成されており、モニタPDは基板端面に接続されている。光スイッチは、図18における2×1スイッチ1408−1〜Nの機能を有しており、DEMUX(波長分波)された光信号経路(主経路)か、下層ネットワークから挿入(Add)された光信号経路(アド経路)かのいずれかを選択する。選択された光信号はVOA902によって光レベルを調整され、WINC904を経てMUX(波長合波)用AWGへ接続される。
【0067】
この際、VOAのダミーポート906を終端する終端構造908aの遮光材にはエポキシ樹脂およびカーボンブラックを用いた。WINC904後段に接続されているAWGおよびモニタPDにおけるクロストークをそれぞれ測定したところ、いずれも−60dB以下であった。ここで、図13(a)では終端構造908aに対して光導波路の入射面角度が0度となっているが、このとき、光スイッチ入力側で測定した反射減衰量は45dB以上であった。比較のため、図13(b)に示すように、終端構造908bに対する入射面角度を8度にしたところ、反射減衰量は50dB以上となった。実施例1あるいは本実施例のように遮光材の(混合物としての)屈折率が石英ガラスに近い場合においては、溝の基板水平面内でのサイズを考慮して入射面の角度を0度にした場合でも十分な反射減衰量特性が得られるが、より高い仕様を求められる場合には終端される光導波路に反射光が結合しない構成をとる必要があり、ブリュースタ角などが最適である。
【0068】
図13(a)および図13(b)いずれの場合にも、基板水平面内における溝の形状を、頂点を持たない滑らかに接続される曲線と直線のみで構成された閉曲線によって形成したところ、遮光材の溝壁面からのはがれなどが発生せず、長期的な信頼性も確認された。
【0069】
なお、図13(a)では光スイッチとVOA902が別々の回路として記載されているが、同じMZIを使って光スイッチとVOAの機能を同時に実現する場合もあり、図13(a)に示す構成が、本発明による限定的な構成を示すものではない。ROADM用光スイッチおよびVOAの構成例としては、例えば特許文献1あるいは非特許文献1を参照することが出来る。非特許文献1によれば、図14の概念図に示すようにスルーパス側光スイッチおよびアドパス側光スイッチはそれぞれ2段に直接接続されるMZIからなる。このとき、いずれかの経路を選択すると同時に、2段のMZIを連続的な印加電力で駆動することによって、光レベル調整も同時に行うことが可能である。その際、それぞれのMZIから導かれるダミーポートは本発明による溝および遮光材からなる終端構造によって個別にもしくは一括して終端され、余剰光パワーが他の回路に影響を与えないようにすることが可能である。
【実施例11】
【0070】
図15は、本発明の実施例11による導波路型デバイスの構成を示す図である。実施例10と同様に、このデバイスは、導波路型光スイッチ、VOA1102、WINC1104が集積された導波路型デバイス基板1120と、AWGおよびモニタPDが集積された導波路型デバイス基板1130とが直接接続されており、ROADMシステムの主要な機能を構成している。
【0071】
本実施例においては、VOA1102のダミーポート1106が溝および遮光材による終端構造1108で終端されていると共に、WINC1104の入力側ダミーポート1110も溝および遮光材による終端構造1112によって終端されている。本実施例において、遮光材はシリコーン樹脂を母材とし、金属粒子粉末を混合したものを用いた。また、溝に対する入射角はいずれも(θ=)22.5度とした。本実施例に拠れば、VOAのダミーポートへ導かれる減衰動作による余剰光パワーが他の光回路に対するクロストークを抑制すると共に、導波路型デバイス基板1120の入力部において他の導波路デバイスや光ファイバと接続した場合に発生する接続損失を原因とするクロストーク成分や、光スイッチおよびVOA1102の光導波路上で発生する過剰損失を原因とするクロストーク成分がWINCの入力側ダミーポート1110に結合し、カップラとしての結合率に影響を及ぼすことも抑制することが可能である。WINCの入力側ダミーポート1110に終端構造1112がない従来の構成では、光ファイバ接続部あるいは光スイッチ、VOA1102において発生したクロストークの影響により、WINCの設定結合率に対して数%の結合率誤差が発生する場合があり、モニタ用PDによるフィードバック制御に問題があった。
【0072】
そこで、本実施例の構成によるWINC設定結合率誤差を測定したところ、結合率にして±0.5%以内の誤差であったことから、本発明による効果によってクロストークがWINCに与える影響が十分に抑制されたことを確認した。
【0073】
また、VOA1102のダミーポート1106の終端構造1108によるクロストーク抑制の効果も確認され、いずれの箇所においてもクロストークは−60dB以下であった。さらに光スイッチ入力側における反射減衰量も同様に50dB以上であった。
【0074】
本実施例における入力側ダミーポートの終端はWINCに限らず、MZIを基本素子とする光スイッチ、VOAなど入力側にダミーポートがある構成の光回路ではいずれの場合においても、入力側ダミーポートを終端することによって同様にクロストークの影響抑制などの効果を得ることが出来る。
【実施例12】
【0075】
本実施例では、これまでに述べてきた光スイッチやVOAではなく、他の導波路型デバイスにおいて、基板上の任意の位置で光導波路の終端構造を適用した場合について述べる。
【0076】
図16は、光スプリッタの例である。例えば1×6スプリッタを実現する手段として、図16の構成が挙げられる。この場合、1×8スプリッタ1200を基本構成とし、出力ポートとして使用されない2本の光導波路1202に対して本発明による終端構造1204を適用することによって、他の出力ポートにおけるクロストークを抑制することが可能となる。本実施例において、シリコン基板上に作製される石英系ガラスによる光導波路を用いて、図16の構成に基づく1×6スプリッタを作製した。各出力ポート(図16の1〜6)のそれぞれについて、波長範囲1300nm〜1650nmにおける光スペクトル測定を行ったところ、全波長域において出力パワーのポート間偏差が0.5dB程度と良好な特性であった。
【0077】
図17は、AWGの例である。例えば、1入力N(Nは自然数)出力のAWG1302において、出力ポートの一定間隔ごとに出力側光導波路を本発明の終端構造1304によって終端することにより、まとまった波長群ごとに光信号を分離し、波長群同士は一つのITUグリッドG1からG4を挟んで離れている(図18(b)を参照)ような信号処理が可能となる。本実施例において、シリコン基板上に作製される高分子導波路を用いて、図19(a)の構成に基づくAWG基板を作製した。本実施例のAWG1302は8波長分の波長群を5群に分離する構成となっており、1本の入力導波路に対して、出力側には44本の光導波路が配置され、内8本ごとに1本の光導波路を終端することで波長群を分離する。二つの波長群に挟まれる波長(終端される波長)は全部で四つとなるが、いずれの場合でも、終端されたポート以外のすべてのポートでのクロストークは−40dB以下を示した。
【0078】
以上、本発明の実施例1〜12では、シリコン基板上の石英系ガラスおよび高分子材料による導波路型デバイスについて述べたが、導波路型デバイスを構成する他の材料、例えばイオン拡散型のニオブ酸リチウム導波路などを用いた導波路型熱光学回路すべてにおいて、本発明が適用可能である。
【0079】
また、光導波路を終端する溝において、溝の深さについては特に言及していないが、例えばシリコン基板上に作製される石英ガラスを用いた導波路型デバイスでは、シリコン基板に達する深さとすることが望ましい。しかしながら、作製条件、他の回路への影響等を考慮して深さを任意に決定しても本発明による効果は明らかであり、その深さは光導波路終端部分の溝壁面においてコアが表出する程度であることが最低限必要とされることは当然ではあるが、本発明の構成においてそれ以外に特定の深さに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0080】
100 導波路型デバイス
102 光ファイバアレイ
104−1〜N VOA
106−1〜N 光カプラ
108 PD
110 AWG
112 光ファイバ
120 基板
130 基板
202−1〜N MZI
204−1〜N MZI
206a メインポート
206b タップポート
208−1〜N ダミーポート
210−1〜N 終端構造
702 入射光
704 終点
706 反射光
710 終端構造
712 終端構造
714 構造
802 光導波路
804 光導波路
810 終端構造
812 終端構造
820 終端構造
822 光導波路
830 終端構造
832 光導波路
834 拡げたクラッド部分
840 終端構造
842 光導波路
850 終端構造
852 光導波路
900a,900b 導波路型デバイス
902 VOA
904 WINC
906 ダミーポート
908a,908b 終端構造
920a,920b 基板
930 基板
1102 VOA
1104 WINC
1106 ダミーポート
1108 終端構造
1110 ダミーポート
1112 終端構造
1120 基板
1130 基板
1200 1×8スプリッタ
1202 光導波路
1204 終端構造
1302 AWG
1304 終端構造
1400 モジュール
1402 光カプラ
1404 波長合分波フィルタ
1406 波長合分波フィルタ
1408−1〜N 光スイッチ
1410−1〜N VOA
1412−1〜N 光カプラ
1414−1〜N PD
1416 波長合分波フィルタ
1420 基板
1430 基板
1500 VOA
1502a,1502b ポート
1504 方向性結合器
1506a,1506b アーム導波路
1508 方向性結合器
1510a,1510b ポート
1512a,1512b 薄膜ヒータ
1514 断熱溝
1516 電極パッド
1518 電極パッド
1520 シリコン基板
1522 クラッド
1524 コア
1602 VOA
1604 光カプラ
1606 基板
1608 基板
1610 光導波路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導波路型デバイスであって、
導波路端部からの光を終端するために遮光材が充填された終端構造を備え、
前記終端構造は、前記導波路端部からの光に対する入射角が傾くように構成され、
前記導波路端部は、終端に向かって導波路幅が狭くなるテーパ部を有し、
前記終端構造は、前記導波路端部を囲い、前記テーパ部に近接または接して配置され、前記終端構造によって挟まれた部分の幅を前記導波路端部の終端に対向する面において拡げることを特徴とする導波路型デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の導波路型デバイスであって、
前記テーパ部のテーパ角は、略、断熱遷移となる臨界角以下であることを特徴とする導波路型デバイス。
【請求項3】
導波路型デバイスであって、
導波路端部からの光を終端するために遮光材が充填された終端構造を備え、
前記終端構造は、前記導波路端部からの光に対する入射角が傾くように構成され、
前記導波路端部は、終端に向かって導波路幅が狭くなるテーパ部を有し、
前記終端構造は、前記導波路端部を囲い、前記テーパ部に近接または接して配置され、
前記テーパ部のテーパ角は、略、断熱遷移となる臨界角以下であることを特徴とする導波路型デバイス。
【請求項4】
請求項1から3に記載の導波路型デバイスであって、前記入射角は、略、ブリュースタ角以上であることを特徴とする導波路型デバイス。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の導波路型デバイスであって、前記遮光材は、前記導波路端部からの光を吸収または散乱する材料からなることを特徴とする導波路型デバイス。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の導波路型デバイスであって、マッハツェンダ型の光スイッチ、可変減衰器、光スプリッタ、およびアレイ導波路回折格子の少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする導波路型デバイス。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の導波路型デバイスを用いてマルチチップ集積化したモジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−112844(P2011−112844A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−268814(P2009−268814)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(591230295)NTTエレクトロニクス株式会社 (565)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】