光源装置及びこれを用いた撮像装置
【課題】 眼底用OCT装置に適した短い波長で高速に波長挿引可能な光源装置を提供する。
【解決手段】 光を増幅させる光増幅媒体と、光共振器と、を備えた発振波長を変化可能な光源装置であって、前記光共振器は、前記光増幅媒体の一方の側に位置する第一の反射部材と、前記光増幅媒体の他方の側に位置する第二及び第三の反射部材を有して構成され、該第二及び第三の反射部材は前記光増幅媒体で増幅された光の光束を該光束の径方向に空間的に分離した状態で前記光増幅媒体方向に反射するものであり、第一の反射部材と前記光増幅媒体と第二の反射部材とを含んで規定される第一の光路と、第一の反射部材と前記光増幅媒体と第三の反射部材とを含んで規定される第二の光路と、の光路長差を可変とする光路長差調整部材により前記光路長差を変化させて前記発振波長を変化させる光源装置。
【解決手段】 光を増幅させる光増幅媒体と、光共振器と、を備えた発振波長を変化可能な光源装置であって、前記光共振器は、前記光増幅媒体の一方の側に位置する第一の反射部材と、前記光増幅媒体の他方の側に位置する第二及び第三の反射部材を有して構成され、該第二及び第三の反射部材は前記光増幅媒体で増幅された光の光束を該光束の径方向に空間的に分離した状態で前記光増幅媒体方向に反射するものであり、第一の反射部材と前記光増幅媒体と第二の反射部材とを含んで規定される第一の光路と、第一の反射部材と前記光増幅媒体と第三の反射部材とを含んで規定される第二の光路と、の光路長差を可変とする光路長差調整部材により前記光路長差を変化させて前記発振波長を変化させる光源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発振波長を変化し得る光源装置及びこれを用いた撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光源、特にレーザ光源については、発振波長を可変とするものが通信ネットワーク分野や検査装置の分野で種々利用されてきている。
通信ネットワーク分野では、高速な波長切替、また、検査装置の分野では高速で広範な波長掃引が、要望されている。
検査装置における波長可変(掃引)光源の用途としては、レーザ分光器、分散測定器、膜厚測定器、波長掃引型光干渉トモグラフィー(Swept Source Optical Coherence Tomography)装置等がある。
【0003】
光干渉トモグラフィー(以下、OCTともいう)は、低コヒーレンス光干渉を用いて検体の断層像を撮像するものである。ミクロンオーダーの空間分解能が得られることや無侵襲性等の理由から医用分野における研究が近年、盛んになってきている撮像技術である。
【0004】
現在、OCTは、深さ方向の解像度を数ミクロンとし、且つ数mmの深さまで断層像を得ることができ、眼科撮影、歯科撮影等に用いられている。
【0005】
波長掃引型(SS−OCT)装置は、光源の発振波長(周波数)を時間的に掃引のするものである。これはフーリエ領域(FD)OCTの範疇に入る。同じくFDOCTの範疇に入るスペクトル領域(スペクトルドメイン:SD)OCTが干渉光を分光する分光器を必用とするのに対し、分光器を用いないことから光量のロスが少なく高SN比の像取得も期待されている。
波長掃引光源を用いて医用画像撮像装置を構成する場合には、掃引速度が早いほど像取得時間を短縮でき、生体組織を生体より採取せずに生体中でそのまま観察する生体観察(所謂、in situ−in vivo imaging)にも好適である。
特許文献1は、光増幅媒体と、該光増幅媒体の外部に回折格子を用いた反射器を備えた波長可変光源を開示する。図12に特許文献1に記載の光源装置を示す。
【0006】
図12においては、光増幅媒体1201より出射された光は、光分岐素子1234を介して回折格子1206に入射し、ブラッグ波長の光が反射光として光増幅媒体1201に戻り、光増幅されてファイバ1244に出力される。1240は全反射ミラーであり、1242はアイソレータである。ここで、回折格子1206は回転可能であるので、反射光の波長が可変となる。
【0007】
特許文献2は、光増幅媒体と該光増幅媒体の外部に反射器を備えた波長可変光源を構成する波長選択素子を開示する。図13に特許文献2に開示されたファブリペロー型の波長選択素子を示す。
図13においては、移動可能なメンブレン反射体1314と凹面反射体1316とで光共振器が構成され、駆動電極1312とメンブレン反射体1314との間に電圧を印加することで共振器長1318を変化させて波長選択を行う。
図13の素子は、メンブレン反射体1314と凹面反射体1316の2つの反射器を用い、この2枚の反射器の間隔で決まる共振ピーク間の周波数差、即ち、自由スペクトル間隔(Free Spectral Range:FSR)に従い、波長を選択的に透過又は反射させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,862,162号明細書
【特許文献2】米国特許第6,373,632号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示された光源装置は、回折格子の機械的な駆動により、光の入射角を変化させて波長選択を行うことから、30KHz以上の高速な波長掃引には不向きである。
特許文献2に開示された波長選択素子では、FSRを45〜80nmに設定すると、2枚の反射器の間隔は、15μm〜25μmであるとしている。
しかしながら、眼底用のOCT装置の光源に適用するに適した挿引中心波長を840nm、FSRを80nmとして、波長選択素子を構成しようとすると、2枚の反射器の間隔は、4.4μmと狭い値を取る必要がある。この狭い間隔で可動反射器を100KHz以上の高速駆動は、電極の配置等細部を工夫して行っても実現が困難であるというのが実状である。
本発明は、OCT装置に適した波長で高速に波長挿引可能な光源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明により提供される光源装置は、光を増幅させる光増幅媒体と、光共振器と、を備えた発振波長を変化可能な光源装置であって、前記光共振器は、前記光増幅媒体の一方の側に位置する第一の反射部材と、前記光増幅媒体の他方の側に位置する第二及び第三の反射部材を有して構成され、該第二及び第三の反射部材は前記光増幅媒体で増幅された光の光束を該光束の径方向に空間的に分離した状態で前記光増幅媒体方向に反射するものであり、第一の反射部材と前記光増幅媒体と第二の反射部材とを含んで規定される第一の光路と、第一の反射部材と前記光増幅媒体と第三の反射部材とを含んで規定される第二の光路と、の光路長差を可変とする光路長差調整部材により前記光路長差を変化させて前記発振波長を変化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光源装置では、光束を空間的に2つに分離し、分離したそれぞれの光束を第二及び第三の反射部材で反射させて光増幅媒体に戻すと共に、2つの光路の光路長差を可変とする光路長差調整手段により光路長差を変化させる。光束を分離した状態で個別に反射させることで、反射部材を配置する自由度が増大することとなり、高速駆動を可能とする位置に反射部材を配置することが可能となる。これにより、100KHz以上の波長掃引駆動を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の光源装置の一例を示す模式図
【図2】本発明の装置の原理を説明する図
【図3】本発明の光源装置に適用し得る光路長差調整部材の説明図
【図4】本発明の光源装置の一例を示す模式図
【図5】本発明の光源装置の一例を示す模式図
【図6】本発明の光源装置の一例を示す模式図
【図7】面発光型光増幅媒体を用いた本発明の光源装置の模式図
【図8】光路長差調整部材にピエゾを用いた一例を示す模式図
【図9】光路長差調整部材にEOを用いた一例を示す模式図
【図10】光路長差調整部材にEOを用いた別の例を示す模式図
【図11】本発明の光源装置を用いたOCT装置の一例を示す模式図
【図12】従来技術(特許文献1)を示す模式図
【図13】従来技術(特許文献2)を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の光源装置は、光増幅媒体を挟む一方の側に位置する第一の反射部材と、他方の側位置する第二及び第三の反射部材を有して光共振器を構成する。つまり、この第二、第三の反射部材が波長挿引と波長選択機能を担う他方の共振器として機能する。
【0014】
この第二、第三の反射部材は、光増幅媒体で増幅された光の光束を該光束の径方向に分離した状態で光増幅媒体方向に反射させる。光束の分離は、一例としては光路に設けた光束分離素子を用いて光束の進行方向に垂直な断面内で、光束の径方向への分割で成ことができる。
分割され2方向に導かれた光束は、第二、第三の反射部材に入射する。そこで個々に反射され、往きの光路を逆方向に戻り、光増幅媒体に到達して光増幅媒体内で合波される。
【0015】
ここで光束分離素子により光束が分離されてから、第二の反射部材に至る第一の光路と、第三の反射部材に至る第二の光路と、の光路長差を可変とする光路差調整部材を駆動させて発振波長を変化させる。即ち、光路長差を変化させることで発振波長が変化可能となる。
【0016】
ここで、光束分離素子を用いる場合には、光束分離素子は光増幅部材で増幅された光の光束を波面分割(波面を空間的に分割)する分割部材として捉えることもできる。
この観点にたつと、本発明の光源装置は、光を増幅させる光増幅媒体と、該光増幅部材で増幅された光の光束を、波面分割する分割部材と、前記光増幅媒体の一方の側に位置する第一の反射部材と、前記光増幅媒体の他方の側に位置する第二及び第三の反射部材を有し、第二の反射部材は、前記分割部材により分割された光束の一方を反射し、前記分割部材を介して前記光増幅媒体に戻すものであり、第三の反射部材は、前記分割部材により分割された光束の他方を反射し、前記分割部材を介して前記光増幅媒体に戻すものとした形態を包含する。
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
【0018】
図1は、本発明の光源装置の一例を示す図である。
【0019】
図1において、101は光を増幅させ可干渉な光束を生成する光増幅媒体であり、両端面の一方には光共振器として機能する反射膜105が施され、他方には無反射膜108が施されている。102は光増幅媒体より出射された光(発散光束)を集光させるための集光レンズであり、103は光増幅媒体より出射された光束である。104は光束103を空間的に分割する光束分離素子である。
反射膜105は、光増幅媒体101の一方の側に位置する第一の反射部材として機能する。106、107は第二、第三の反射部材であり、それぞれ第一の反射部材105と対をなして光共振器を構成する。第二の反射部材107には、反射部材107の位置を光束が進む方向に変化させる光路長差調整部材109が具備されている。
【0020】
光増幅媒体101に不図示の電源より電気的エネルギーが印加されると内部で放射光を発生し、放射光は増幅されて光増幅媒体101から両側の端面にむかって伝播する。無反射膜108が施された側に進行した光束は光の伝播則に従って発散しながら空中を伝播し、集光レンズ102にある光束の径で入射する。この光束は光増幅媒体の特性により非点収差を持つため波面は非光軸対称な波面だが、必要に応じて設けられる不図示の光学系を集光レンズ102の前に設置することにより光軸対象の球面波に変換される。この光束は集光レンズ102を通過後に集束光103として伝播する。
光束103は、光束分離素子104により光束103の径方向に(空間的に)2分され、分割された光束103aと光束103bはこれらをそれぞれ垂直に反射するように設置された反射部材106及び107に向かって集光する。
【0021】
つぎに集光した光束は、往きに通過した光路に戻り、光束分離素子104、集光レンズ102を通って光増幅媒体101の中で合波されて増幅される。
本例の光源装置では、光増幅媒体101を挟んで、反射部材105と、反射部材106及び107と、の間で光が共振し波長が選択される。ここで、反射部材106は共振器としての機能のほかに光源の出力機能をも兼ね備えており、反射と透過の両方を備えた特性をもつ。
【0022】
つぎに反射部材107の位置を変化させることにより波長を挿引する原理を説明する。
【0023】
図2は、その説明図である。図2において、A−B光路をB側から光を取出す光出力光路、A−Dを光路長を変化させる光路として光路変調光路とする。本波長の挿引原理は、A−Bの光出力光路での共振波長と、A−Dの光路変調光路での共振波長がそれぞれの光路中に光増幅器101を共有するため、同一波長で発振することを利用する。光出力光路の長さをLoとし、光路変調光路(A−D光路)はLoに対して、後述する波長挿引幅から決まる量L1だけ長くし、さらに波長挿引をするために距離xだけ光路変調距離を長くとるものとする。
今、理解し易くするために、x=0とし、光路変調の変調A−B光路とA−D光路で共通の波長λoで共振し発振していたとする。
【0024】
つぎに反射部材107をx=δxに動かしたときに波長がδλだけ変化したとする。このときのδxとδλの関係式を説明する。
【0025】
まず、A−D変調光路について成立する式を説明する。A−D変調光路内にある波の数は、x=δx変化させ、波長δλ変化させると以下の式(1)が成り立つ。
【0026】
【数1】
【0027】
左辺は光路(Lo+L1)の往復光路で波数が整数になることが共振条件となる。従って、その波の数は往復光路を波長で除した数となる。
【0028】
一方、右辺は反射部材107を移動することにより光路(Lo+L1)にδx変化したので、その分、波長もδλ変化する。ここで重要なのは左辺も右辺も波の数は変化しないことである。
【0029】
次に、A−B出力光路について成立する式を説明する。A−B出力光路は光路L1が固定しているため,以下の式(2)が成り立つ。
【0030】
【数2】
【0031】
左辺は波長がλoからδλ変化したときの波の数で整数である。一方、右辺は、最初のλoから波の数を1つ変化させることが肝要である。これは、前述したように、 光路Loが変わらずに波長が変化するので、共振する波の数が1つ変化することになるからである。
この(1),(2)式からδxとδλの式を導くと、以下の式(3)が得られる。
【0032】
【数3】
【0033】
いま、L1>>λoとすると、式(3)は以下の式(4)のように簡便に記述することができる。
【0034】
【数4】
【0035】
つぎに、L1をλoとΔλ(光増幅媒体の利得幅からきまるFree Spectral Range:FSR)の関係式を示す。
【0036】
まず、A−D変調光路のFSRをΔνADとすると、式(5)が得られる。
【0037】
【数5】
【0038】
次に、A−B出力光路のFSRをΔνABとすると、式(6)が得られる。
【0039】
【数6】
【0040】
ここで、cは光の真空中での速度である。
【0041】
この式(5)、式(6)より、これらのFSRの差がΔνAB間隔となるまでの周波数幅ΔνLoとすると、式(7)が得られる。
【0042】
【数7】
【0043】
一方、一周波数と波長との一般的関係から、式(8)が得られる。
【0044】
【数8】
【0045】
よって、式(9)が得られる。
【0046】
【数9】
【0047】
ここで、Lo>>L1とすると式(9)簡便となり、L1は以下の式(10)で表わされる。
【0048】
【数10】
【0049】
このようにL1をλoとΔλで表すことができる。そして、この式はファブリペロー素子の間隔とFSRの式と一致する。
そのため、特許文献2に記載された波長選択素子のようにファブリペローの2枚の反射器を光束の進行方向に離間して配置するのではなく、一対の反射器の片方の反射器を光束の進行方向に垂直な方向に空間的に分離して配置する。
そして2つに分けたそれぞれの光束をそれぞれの分離した反射器で戻す本方式では、ファブリペロー素子と等価の効果を実現できる。
【0050】
次に、δλとδxの関係を式(4)と式(10)から以下の式(11)が得られる。
【0051】
【数11】
【0052】
ここで、具体例としてλo=0.84ミクロン、Δλ=0.08ミクロンとすると、式(11)より以下の式(12)が得られる。
【0053】
【数12】
【0054】
この式(10)、式(12)よりL1=4.41ミクロン、δxの最大値は421ナノメータであることを概算することができる。
【0055】
ここで、本発明の光源装置を用いたOCT装置における挿引波長幅と被検体の厚み方向の分解能、及び挿引波長のサンプリングピッチ幅と被検体の厚み方向の検出可能な幅(深さ方向)について述べる。
挿引波長のサンプリング波長間隔δΛとOCT装置によって検出可能な被検物体の厚み方向(光軸方向)の最大幅Lには以下の式(13)の関係がある。
【0056】
【数13】
【0057】
また、挿引波長の幅をΔλとし、OCT装置によって検出可能な被検体の厚み方向(光軸方向)の分解能ΔLは、以下の式(14)で示される。
【0058】
【数14】
【0059】
本発明において、光を増幅させる光増幅媒体としては、半導体光増幅器(SOA:Semiconductor Optical Amplifier)の他、エルビウムやイットリビウム等を含有する希土類添加(イオンドープ)光ファイバ、光ファイバ中に色素を添加して色素により増幅を行うもの等を採用することができる。
希土類添加光ファイバは、高利得で良好な雑音特性を得るためには好適である。色素添加光ファイバは、蛍光色素材料やそのホスト材料などを適宜選択することで可変波長の選択肢が増す。
【0060】
半導体光増幅器は、小型で且つ高速制御が可能なことから好ましい。半導体光増幅器としては、反射型光増幅器と進行波形光増幅器の双方を用いることができる。半導体光増幅器を構成する材料は、一般的な半導体レーザを構成する化合物半導体等を用いることができ、具体的にはInGaAs系、InAsP系、GaAlSb系、GaAsP系、AlGaAs系、GaN系等の化合物半導体を挙げることができる。半導体光増幅器は、利得の中心波長が、例えば、840nm、1060nm、1300nm、1550nmのものの中から光源の用途等に応じて適宜、選択して採用することができる。
【0061】
本発明の光共振器を構成する第一の反射部材は、ファブリーペロー型光共振器を構成するミラー、または部分透過ミラーと同等か類似する反射部材で構成することができる。より具体的には、半導体結晶の壁界面で構成したミラーや、ガラス等を研磨して構成したミラー、更には金属膜等の薄膜を被覆したミラー等で構成することができる。
【0062】
光共振器を構成する第二及び第三の反射部材は、光増幅媒体で増幅された光の光束を該光束の径方向に分離した状態で光増幅媒体方向に反射するように配されるものであるが、反射部材を構成する材料自体は上述の反射部材と同様のものを採用することができる。だだし、第一の反射部材と共に光共振器を構成することから第一の反射部材の反射率とは異なる反射率を持たせる必要がある。
第二及び第三の反射部材は、光増幅媒体で増幅された光の光束を該光束の径方向に分離した状態で反射させるが、光束の分離には反射型プリズムを用いることもできるし、光束の分離を光束(平行光束)が照射される領域に第二及び第三の反射部材を並べて配置することで行うこともできる。反射型プリズムを用いる場合、プリズムの稜線を境に光束を分離しても良い。反射プリズムの稜線をなす角は、光束より分離された主光線同士が平行となる角度とすることが好適である。詳細は、実施例で後述する。
【0063】
また、第一の反射部材と光増幅媒体と第二の反射部材とを含んで規定される第一の光路と、第一の反射部材と光増幅媒体と第三の反射部材とを含んで規定される第二の光路と、の光路長差を可変とする光路長差調整部材は、電歪素子、微小機械変位素子、電気光学素子等を用いて構成することができる。
【0064】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。尚、以下の説明は図を参照して行うが、図では同一の部位には原則同一の符号を付すこととし、重複した説明はなるべく行わないこととする。
【0065】
(実施例1)
図1は、本発明の光源装置の一例を示す模式図である。
図1において、101は可干渉な光束を生成する光増幅媒体であり、中心波長0.84μmの発光スペクトルを有する半導体光増幅器を用いた。光増幅媒体101の両端面の一方は光共振器の第一の反射部材としての反射器もしくは反射膜105を構成する。他方は無反射膜108が施されている。102は光増幅媒体から出射した発散光束を集光させるための集光レンズ、103は光増幅媒体101から出射した光束である。104は光束103を分割する光束分離素子として機能する反射型プリズムである。106、107はそれぞれ第二、第三の反射部材であり、第一の反射部材105と、互いに対となって複数の光共振器を構成している。第二の反射部材106は光共振器としての機能のほかに光源の出力部としての機能をも兼ねており、光の反射機能と透過機能の両方を備える。第三の反射部材107は、反射部材107の位置を光束が進む方向に変化させる光路長差調整部材として電歪素子109を具備する。
【0066】
光増幅媒体101に不図示の電源より電気的エネルギーが印加されると内部で放射光を発生し、放射光は増幅されて光増幅媒体101から両側の端面にむかって伝播する。無反射膜108が施された側に進行した光束は光の伝播則に従って発散しながら空中を伝播し、集光レンズ102にある光束の径で入射する。この光束は光増幅媒体の特性により非点収差を持つため波面は非光軸対称な波面だが、必要に応じて設けられる不図示の光学系を集光レンズ102の前に設置することにより光軸対象の球面波に変換される。この光束は集光レンズ102を通過後に集束光103として伝播する。このとき光束分離素子104により光束103の口径方向の領域を2分し、103aと103bに分割した状態でそれぞれ垂直に反射するように設置された第二の反射部材106及び第三の反射部材107に向かって集光する。反射部材106および107によって反射した光束は、往路と逆の経路を通って光増幅媒体101に入射し、増幅されて、反対側の第一の反射部材105で反射されて再び増幅媒体101に入射し、光が増幅される。このように第一の反射部材105と、第二の反射部材106との間及び第一の反射部材105と、第三の反射部材107との間で、光の反射と増幅が繰り返され、出力光106として、第二の反射部材106を透過した光が得られる。
【0067】
次に、本実施例における波長を挿引する原理を説明する。
【0068】
図3は、光路長差調整部材の拡大図である。図3において、116は変調光路長δxを与えるための電歪素子でありここでは、ピエゾ素子を用いた。117は、ピエゾ素子116、第二の反射部材106、第三の反射部材107及び光束分離素子を機械的に一体化する光路変調用ベースである。本実施例の光源装置では、第一の反射部材105、光増幅媒体101及び第二の反射部材106を含んで構成される光共振器の光路長と、第一の反射部材105、光増幅媒体101及び第三の反射部材107を含んで構成される光共振器の光路長には、一定の光路長差L1を与えてある。これらの光束103は、反射型プリズムで構成した光束分離素子104により、それぞれ103a,103bに分かれて反射される。ここで、光束103は、主光線103aaと主光線103bbとからならなるものとする。このとき、主光線103aaと反射した光束103a、及び主光線103bbと反射した光束103bと、は互いに直角をなすように、光束分離素子104の反射面は角度設定されている。こうすることで光増幅媒体101と反射部材105に対し、紙面内における103の方向と、その垂直方向に機械的擾乱があっても反射部材105と反射部材106を含む光共振器の光路長と、反射部材105と反射部材107を含む光共振器の光路長との差に変化のない構成となっている。
【0069】
具体的数値例を挙げると、発振中心波長λo=0.84μm、掃引波長(範囲)Δλ=0.08μmとすると、上述した式(10)、式(11)より、光路長差L1=4.41μm、反射部材107の移動距離δx=421nmが得られる。
L14.41μmの設定は、集光レンズ102の実効NAを0.1程度に設計すると、焦点深度内で反射部材106と107を設定でき、光路変調用ベース107と光束分離素子104の相対位置の初期補正によってL1=4.41μmを実現した。
【0070】
次に反射部材107の移動距離δxについて検討する。
【0071】
δxの最大値は421nmであるが、ピエゾ素子の単素子は約1ボルトあたり1nmの変位量であるので、不図示の電圧印加装置より単層のピエゾ素子に421ボルトを印加(40層の多層ピエゾ素子の場合には一層あたり約10ボルト印加)して変位量421nmを実現した。
ここで、単層ピエゾの印加電圧を−200,−100,0,+100,+200ボルトと変化させると、
δx=−200nm,−100nm,0.100nm,200nmと変化する。
このとき式(12)より、
δλ=−38nm,−19nm,0.19nm,38nmが得られる。
出力波長はλo+δλなので、以下の通り波長の変化が得られる。
即ち、λ=802nm,821nm,859nm,878nmである。このようにピエゾ素子の駆動電圧を制御することで波長挿引が可能となる。
ピエゾ素子に印加する電圧を100KHz以上で駆動することにより波長挿引速度が100KHz以上となる光源が実現できた。
【0072】
次に、この光源をOCT装置に適用して得られる断層像の分解能と検出可能な深さを示す。
【0073】
挿引波長のサンプリング間隔ΔλとOCTによって検出可能な被検体の厚み方向(光軸方向)最大幅Lは上述の式(13)に示した通りである。
検出可能な被検物体の厚み方向(光軸方向)の最大幅Lは,サンプリング波長間隔δΛを0.08nm。中心挿引波長λoを0.84μmとすると式(13)より、
L=4.41mmとなる。
また、検出可能な被検体の厚み方向(光軸方向)の分解能ΔLは式(14)よりΔλ=0.08μmとして,
ΔL=4.4μmとなる。
【0074】
以上、述べたように、本実施例の波長挿引光源をOCT装置の光源に適用することにより、被検最大深さ4.41mm、分解能4.4μmが実現できた。
【0075】
(実施例2)
図4を用いて実施例2の光源装置について述べる。
図4に示した光源装置は、図1の装置に類似するものであるが図1における第三の反射部材107に代えて反射部材106bを配置したことと、第二の反射部材106aを用いたことが図1の装置との違いである。
ここで、第二の反射部材106aは実施例1と同様に共振器の反射機能の他に光源の出力(透過)機能をも兼ねている。本実施例2においては、第三の反射部材106bが、実施例1における反射部材106と異なり、反射率を低く抑えた反射部材としたところに特長がある。
【0076】
本実施例は、第三の反射部材106bの反射率を図1における反射部材107よりも下げ、第二の反射部材106aと第三の反射部材106bとの間での発振を抑える構成としたものである。
挿引速度に関しては、実施例1と同様にピエゾ素子により100KHz以上の波長挿引が実現できる。
このようにして、掃引波長が安定な波長挿引光源が実現できる。
【0077】
これをOCT装置の光源に用いることにより、分解能、検出可能深さを落とさずに鮮明な断層画像を得ることができる。
【0078】
(実施例3)
図5に示した光源装置の例について述べる。
本例の装置は、実施例1及び実施例2に示した装置に比べて光軸方向に対する垂直方向のサイズを省サイズ化した例である。
実施例1では光束分離プリズム104で二つの方向に光束を反射分離したが、本実施例では、図5に示すように、光束103を構成する光束103bを光束分離プリズム104bにより偏向させ、同じく光束103を構成する103aは空間を通過させる構成を採用している。この構成により、実施例1及び2で説明した装置に比べて、
103の光束の光軸方向に垂直な平面方向に対し,小さくなり省サイズ化が実現できた。また、104bは光束103の片側しか反射せず光束分離素子104bの反射面の面精度の影響が半分で済むので、挿引波長が精度よく制御できるとともに光源のサイズを小型化できるという効果がある。
【0079】
(実施例4)
図6は実施例4の光源装置を示す模式図である。本例の装置は、実施例1の装置に比べて小型化と更なる高速挿引を可能とする構成である。
図6の装置においては、光増幅媒体101からの光束はレンズ102により平行光束となる。この平行光束を103aと103bに2分しそれぞれ反射部材106、107によりこれまで同様に反射させる。これにより、光束分離素子はないため更なる装置の小型化が実現可能となる。
そして、一方の光共振器を構成する反射部材105と他方の光共振器を構成する反射部材106及び107との距離が短縮できる。
【0080】
具体例として、この距離を50mmとするとこの共振器を光が往復する時間は0.3nSecとなる。
ある波長の光を生成する時間が1nSecとすると、この光共振器では光が3往復できることが理解される。生成する波長を1000点とすると1MHz以上の波長挿引が実現できる。このように共振器長を短くするとともに、光束光路可変変調の駆動周波数を1MHz以上にすることにより、1MHzの高速波長掃引が可能な波長挿引光源が小型の装置で実現できる。
【0081】
(実施例5)
図7に示した光源装置の例について述べる。これは、実施例4の装置を更に小型化する例である。
本実施例では、光増幅媒体101としてこれまでの端面発光タイプの半導体光増幅器ではなく、面発光タイプ(面型発光素子タイプ)の光増幅器を採用する。
こうすると、図6の装置で採用した集光レンズ102は不要となり、光増幅媒体から出射した光束103aと103bをそれぞれ反射部材106、107で反射させることができる。この構成を採用すると数ミリから数センチサイズの小型で高速に波長挿引可能な光源が実現できる。
【0082】
(実施例6)
本実施例は、図3の装置で説明した光路長差調整部材を機械的微小変位機構で構成した例である。
図8に本例の特徴部を示す。図8の119が、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems:微小電気機械素子)素子で構成した機械的微小変位機構である。
MEMS素子119は、曲げ部分(ヒンジ)と電極部120を備え、電極部120に電位差を与えることにより、反射部材107を400nm程度変位させることができる。
更に本例の装置では空気揺らぎ起因による不安定性の改善を図っている。光束103が光束分離素子104により分割されてから、再び光束分離素子に戻るまでの光路を安定にするために、硝材115で光路の大半を覆い、空気揺らぎを低減させた。この構成により、安定した波長挿引の光源装置が実現できる。
【0083】
(実施例7)
本実施例は、図3や図8の装置で説明した光路長差調整部材をEO(Electro−Optic, 電気光学)素子を用いて構成した例である。図9に本例の特徴部を示す。図9の118は電気光学効果を生じさせるニオブ酸リチウムの薄膜であり、114は透明電極を示している。ニオブ酸リチウムは電気光学効果を生み出す非線形定数γが高く、約30pm/Vである。電圧と屈折率の関係は、電圧をかける結晶の厚みをd,屈折率をneとすると、以下の式(15)が成り立つ。
【0084】
【数15】
【0085】
実施例1で得られた反射部材107の移動距離δx=421nmを考慮し、この421nmよりも大きな値として、Δnd=480nmを満足する電圧を式(15)より算出すると3000Vとなる。
このことから、ニオブ酸リチウムの層を30層にすると一層あたり約100Vで駆動すれば、実施例1と同様に0.84μmを中心波長として約80nmの幅で波長挿引できる。
【0086】
(実施例8)
図10に、図9に示した例の変形例を示す。図10においては、図9の薄膜のニオブ酸リチウムに対してバルクのニオブ酸リチウム118を採用すると共に、図9の透明電極114に対して光束を反射する機能を兼ねた電極114を採用している。
図10に示すように電極114のなす角θが以下の式(16)を満足するとき入射光束と出射光束は平行になる。
【0087】
【数16】
【0088】
このとき電極方向に、光束は
【0089】
【数17】
回通過する。
【0090】
例えば、図10のようにθ=45°とするとn=4となり電極方向に3回光束が通過する。このような構成により、ニオブ酸リチウム118中の光路が長くなるため、より定電圧駆動で所望の波長挿引が実現できる。
【0091】
(実施例9)
本例は、本発明の波長挿引光源装置を備えた光干渉断層撮像装置(OCT)の例である。
OCT装置は、一方のアーム(測定部)において得られる光軸方向に複数の界面を有する検体からの反射光と、他方のアーム(参照部)において得られる参照面からの反射光と、を干渉させ、光源の波長を挿引することにより得られる変調干渉信号をフーリエ変換して、断層情報を得る装置である。
【0092】
図11は、本発明のOCT装置の一例を示す模式図である。
図11において1182は本発明の波長挿引光源装置を用いた光源部、1186は検体である眼を構成する眼底の網膜を示す。1190は眼底を走査するためのミラーであり、検体1186からの反射光を伝達させる光ファイバー1185と共に検体測定部を構成する。
1188は参照ミラーであり、参照ミラーからの反射光を伝達させる光ファイバー1187と共に参照部を構成する。
1184は検体測定部からの反射光(光束)と参照部からの反射光(光束)を合波して干渉部を構成するファイバーカップラーである。1495は干渉部からの干渉光(変調干渉信号)を検出する光検出部としての光電変換素子である。
1196は電気的に検出した信号をデジタル化し、フーリエ変換などのデータ処理を行い、検体の断層画像を構築する画像処理部としてのコンピュータである。つまり、光検出部で検出された光に基づいて断層像が得られる。1197はその断層像を可視化するディスプレーである。
光源部1182より出射された光束は、ファイバー1183を通り、カップラー1184で2方向に分岐する。
【0093】
分岐した一方の光束は、ファイバー1185を通り、検体である眼の網膜を照射する。そして反射光が同様にファイバー1185を再び通りファイバーカップラ1184に戻る。
分岐した他方の光束はファイバー1187を通り参照ミラー1188を照射する。この反射光はファイバー1187を再び通りファイバーカップラー1184に戻る。
カップラー1184で被検面からの反射光と参照面からの反射光が干渉した後、ファイバー1194を通って光電変換素子1195に入る。
【0094】
このとき光源部1182より出射される光の波長を掃引変化させると、前述のように断層構造に応じた変調干渉信号が得られる。
この信号をデジタル化しコンピュータ1196でフーリエ変換することにより断層信号が得られる。これはポイントとしての断層信号なので、ミラー1190を走査して一次元方向の断層信号を測定し、ディスプレー1197により可視化することにより光断層像が得られる。
本例のOCT装置は、光源部1182に本発明の光源装置を用いたものであり、本発明による光源装置は、挿引速度100KHz以上が得られるため高速に光断層像が検出でき、また検出深さが深く、深さ方向の検出分解能が高いOCT装置を提供できる。
【符号の説明】
【0095】
101 光増幅媒体
103 光束
105 第一の反射部材
106 第二の反射部材
107 第三の反射部材
109 光路長差調整部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、発振波長を変化し得る光源装置及びこれを用いた撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光源、特にレーザ光源については、発振波長を可変とするものが通信ネットワーク分野や検査装置の分野で種々利用されてきている。
通信ネットワーク分野では、高速な波長切替、また、検査装置の分野では高速で広範な波長掃引が、要望されている。
検査装置における波長可変(掃引)光源の用途としては、レーザ分光器、分散測定器、膜厚測定器、波長掃引型光干渉トモグラフィー(Swept Source Optical Coherence Tomography)装置等がある。
【0003】
光干渉トモグラフィー(以下、OCTともいう)は、低コヒーレンス光干渉を用いて検体の断層像を撮像するものである。ミクロンオーダーの空間分解能が得られることや無侵襲性等の理由から医用分野における研究が近年、盛んになってきている撮像技術である。
【0004】
現在、OCTは、深さ方向の解像度を数ミクロンとし、且つ数mmの深さまで断層像を得ることができ、眼科撮影、歯科撮影等に用いられている。
【0005】
波長掃引型(SS−OCT)装置は、光源の発振波長(周波数)を時間的に掃引のするものである。これはフーリエ領域(FD)OCTの範疇に入る。同じくFDOCTの範疇に入るスペクトル領域(スペクトルドメイン:SD)OCTが干渉光を分光する分光器を必用とするのに対し、分光器を用いないことから光量のロスが少なく高SN比の像取得も期待されている。
波長掃引光源を用いて医用画像撮像装置を構成する場合には、掃引速度が早いほど像取得時間を短縮でき、生体組織を生体より採取せずに生体中でそのまま観察する生体観察(所謂、in situ−in vivo imaging)にも好適である。
特許文献1は、光増幅媒体と、該光増幅媒体の外部に回折格子を用いた反射器を備えた波長可変光源を開示する。図12に特許文献1に記載の光源装置を示す。
【0006】
図12においては、光増幅媒体1201より出射された光は、光分岐素子1234を介して回折格子1206に入射し、ブラッグ波長の光が反射光として光増幅媒体1201に戻り、光増幅されてファイバ1244に出力される。1240は全反射ミラーであり、1242はアイソレータである。ここで、回折格子1206は回転可能であるので、反射光の波長が可変となる。
【0007】
特許文献2は、光増幅媒体と該光増幅媒体の外部に反射器を備えた波長可変光源を構成する波長選択素子を開示する。図13に特許文献2に開示されたファブリペロー型の波長選択素子を示す。
図13においては、移動可能なメンブレン反射体1314と凹面反射体1316とで光共振器が構成され、駆動電極1312とメンブレン反射体1314との間に電圧を印加することで共振器長1318を変化させて波長選択を行う。
図13の素子は、メンブレン反射体1314と凹面反射体1316の2つの反射器を用い、この2枚の反射器の間隔で決まる共振ピーク間の周波数差、即ち、自由スペクトル間隔(Free Spectral Range:FSR)に従い、波長を選択的に透過又は反射させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,862,162号明細書
【特許文献2】米国特許第6,373,632号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示された光源装置は、回折格子の機械的な駆動により、光の入射角を変化させて波長選択を行うことから、30KHz以上の高速な波長掃引には不向きである。
特許文献2に開示された波長選択素子では、FSRを45〜80nmに設定すると、2枚の反射器の間隔は、15μm〜25μmであるとしている。
しかしながら、眼底用のOCT装置の光源に適用するに適した挿引中心波長を840nm、FSRを80nmとして、波長選択素子を構成しようとすると、2枚の反射器の間隔は、4.4μmと狭い値を取る必要がある。この狭い間隔で可動反射器を100KHz以上の高速駆動は、電極の配置等細部を工夫して行っても実現が困難であるというのが実状である。
本発明は、OCT装置に適した波長で高速に波長挿引可能な光源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明により提供される光源装置は、光を増幅させる光増幅媒体と、光共振器と、を備えた発振波長を変化可能な光源装置であって、前記光共振器は、前記光増幅媒体の一方の側に位置する第一の反射部材と、前記光増幅媒体の他方の側に位置する第二及び第三の反射部材を有して構成され、該第二及び第三の反射部材は前記光増幅媒体で増幅された光の光束を該光束の径方向に空間的に分離した状態で前記光増幅媒体方向に反射するものであり、第一の反射部材と前記光増幅媒体と第二の反射部材とを含んで規定される第一の光路と、第一の反射部材と前記光増幅媒体と第三の反射部材とを含んで規定される第二の光路と、の光路長差を可変とする光路長差調整部材により前記光路長差を変化させて前記発振波長を変化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光源装置では、光束を空間的に2つに分離し、分離したそれぞれの光束を第二及び第三の反射部材で反射させて光増幅媒体に戻すと共に、2つの光路の光路長差を可変とする光路長差調整手段により光路長差を変化させる。光束を分離した状態で個別に反射させることで、反射部材を配置する自由度が増大することとなり、高速駆動を可能とする位置に反射部材を配置することが可能となる。これにより、100KHz以上の波長掃引駆動を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の光源装置の一例を示す模式図
【図2】本発明の装置の原理を説明する図
【図3】本発明の光源装置に適用し得る光路長差調整部材の説明図
【図4】本発明の光源装置の一例を示す模式図
【図5】本発明の光源装置の一例を示す模式図
【図6】本発明の光源装置の一例を示す模式図
【図7】面発光型光増幅媒体を用いた本発明の光源装置の模式図
【図8】光路長差調整部材にピエゾを用いた一例を示す模式図
【図9】光路長差調整部材にEOを用いた一例を示す模式図
【図10】光路長差調整部材にEOを用いた別の例を示す模式図
【図11】本発明の光源装置を用いたOCT装置の一例を示す模式図
【図12】従来技術(特許文献1)を示す模式図
【図13】従来技術(特許文献2)を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の光源装置は、光増幅媒体を挟む一方の側に位置する第一の反射部材と、他方の側位置する第二及び第三の反射部材を有して光共振器を構成する。つまり、この第二、第三の反射部材が波長挿引と波長選択機能を担う他方の共振器として機能する。
【0014】
この第二、第三の反射部材は、光増幅媒体で増幅された光の光束を該光束の径方向に分離した状態で光増幅媒体方向に反射させる。光束の分離は、一例としては光路に設けた光束分離素子を用いて光束の進行方向に垂直な断面内で、光束の径方向への分割で成ことができる。
分割され2方向に導かれた光束は、第二、第三の反射部材に入射する。そこで個々に反射され、往きの光路を逆方向に戻り、光増幅媒体に到達して光増幅媒体内で合波される。
【0015】
ここで光束分離素子により光束が分離されてから、第二の反射部材に至る第一の光路と、第三の反射部材に至る第二の光路と、の光路長差を可変とする光路差調整部材を駆動させて発振波長を変化させる。即ち、光路長差を変化させることで発振波長が変化可能となる。
【0016】
ここで、光束分離素子を用いる場合には、光束分離素子は光増幅部材で増幅された光の光束を波面分割(波面を空間的に分割)する分割部材として捉えることもできる。
この観点にたつと、本発明の光源装置は、光を増幅させる光増幅媒体と、該光増幅部材で増幅された光の光束を、波面分割する分割部材と、前記光増幅媒体の一方の側に位置する第一の反射部材と、前記光増幅媒体の他方の側に位置する第二及び第三の反射部材を有し、第二の反射部材は、前記分割部材により分割された光束の一方を反射し、前記分割部材を介して前記光増幅媒体に戻すものであり、第三の反射部材は、前記分割部材により分割された光束の他方を反射し、前記分割部材を介して前記光増幅媒体に戻すものとした形態を包含する。
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
【0018】
図1は、本発明の光源装置の一例を示す図である。
【0019】
図1において、101は光を増幅させ可干渉な光束を生成する光増幅媒体であり、両端面の一方には光共振器として機能する反射膜105が施され、他方には無反射膜108が施されている。102は光増幅媒体より出射された光(発散光束)を集光させるための集光レンズであり、103は光増幅媒体より出射された光束である。104は光束103を空間的に分割する光束分離素子である。
反射膜105は、光増幅媒体101の一方の側に位置する第一の反射部材として機能する。106、107は第二、第三の反射部材であり、それぞれ第一の反射部材105と対をなして光共振器を構成する。第二の反射部材107には、反射部材107の位置を光束が進む方向に変化させる光路長差調整部材109が具備されている。
【0020】
光増幅媒体101に不図示の電源より電気的エネルギーが印加されると内部で放射光を発生し、放射光は増幅されて光増幅媒体101から両側の端面にむかって伝播する。無反射膜108が施された側に進行した光束は光の伝播則に従って発散しながら空中を伝播し、集光レンズ102にある光束の径で入射する。この光束は光増幅媒体の特性により非点収差を持つため波面は非光軸対称な波面だが、必要に応じて設けられる不図示の光学系を集光レンズ102の前に設置することにより光軸対象の球面波に変換される。この光束は集光レンズ102を通過後に集束光103として伝播する。
光束103は、光束分離素子104により光束103の径方向に(空間的に)2分され、分割された光束103aと光束103bはこれらをそれぞれ垂直に反射するように設置された反射部材106及び107に向かって集光する。
【0021】
つぎに集光した光束は、往きに通過した光路に戻り、光束分離素子104、集光レンズ102を通って光増幅媒体101の中で合波されて増幅される。
本例の光源装置では、光増幅媒体101を挟んで、反射部材105と、反射部材106及び107と、の間で光が共振し波長が選択される。ここで、反射部材106は共振器としての機能のほかに光源の出力機能をも兼ね備えており、反射と透過の両方を備えた特性をもつ。
【0022】
つぎに反射部材107の位置を変化させることにより波長を挿引する原理を説明する。
【0023】
図2は、その説明図である。図2において、A−B光路をB側から光を取出す光出力光路、A−Dを光路長を変化させる光路として光路変調光路とする。本波長の挿引原理は、A−Bの光出力光路での共振波長と、A−Dの光路変調光路での共振波長がそれぞれの光路中に光増幅器101を共有するため、同一波長で発振することを利用する。光出力光路の長さをLoとし、光路変調光路(A−D光路)はLoに対して、後述する波長挿引幅から決まる量L1だけ長くし、さらに波長挿引をするために距離xだけ光路変調距離を長くとるものとする。
今、理解し易くするために、x=0とし、光路変調の変調A−B光路とA−D光路で共通の波長λoで共振し発振していたとする。
【0024】
つぎに反射部材107をx=δxに動かしたときに波長がδλだけ変化したとする。このときのδxとδλの関係式を説明する。
【0025】
まず、A−D変調光路について成立する式を説明する。A−D変調光路内にある波の数は、x=δx変化させ、波長δλ変化させると以下の式(1)が成り立つ。
【0026】
【数1】
【0027】
左辺は光路(Lo+L1)の往復光路で波数が整数になることが共振条件となる。従って、その波の数は往復光路を波長で除した数となる。
【0028】
一方、右辺は反射部材107を移動することにより光路(Lo+L1)にδx変化したので、その分、波長もδλ変化する。ここで重要なのは左辺も右辺も波の数は変化しないことである。
【0029】
次に、A−B出力光路について成立する式を説明する。A−B出力光路は光路L1が固定しているため,以下の式(2)が成り立つ。
【0030】
【数2】
【0031】
左辺は波長がλoからδλ変化したときの波の数で整数である。一方、右辺は、最初のλoから波の数を1つ変化させることが肝要である。これは、前述したように、 光路Loが変わらずに波長が変化するので、共振する波の数が1つ変化することになるからである。
この(1),(2)式からδxとδλの式を導くと、以下の式(3)が得られる。
【0032】
【数3】
【0033】
いま、L1>>λoとすると、式(3)は以下の式(4)のように簡便に記述することができる。
【0034】
【数4】
【0035】
つぎに、L1をλoとΔλ(光増幅媒体の利得幅からきまるFree Spectral Range:FSR)の関係式を示す。
【0036】
まず、A−D変調光路のFSRをΔνADとすると、式(5)が得られる。
【0037】
【数5】
【0038】
次に、A−B出力光路のFSRをΔνABとすると、式(6)が得られる。
【0039】
【数6】
【0040】
ここで、cは光の真空中での速度である。
【0041】
この式(5)、式(6)より、これらのFSRの差がΔνAB間隔となるまでの周波数幅ΔνLoとすると、式(7)が得られる。
【0042】
【数7】
【0043】
一方、一周波数と波長との一般的関係から、式(8)が得られる。
【0044】
【数8】
【0045】
よって、式(9)が得られる。
【0046】
【数9】
【0047】
ここで、Lo>>L1とすると式(9)簡便となり、L1は以下の式(10)で表わされる。
【0048】
【数10】
【0049】
このようにL1をλoとΔλで表すことができる。そして、この式はファブリペロー素子の間隔とFSRの式と一致する。
そのため、特許文献2に記載された波長選択素子のようにファブリペローの2枚の反射器を光束の進行方向に離間して配置するのではなく、一対の反射器の片方の反射器を光束の進行方向に垂直な方向に空間的に分離して配置する。
そして2つに分けたそれぞれの光束をそれぞれの分離した反射器で戻す本方式では、ファブリペロー素子と等価の効果を実現できる。
【0050】
次に、δλとδxの関係を式(4)と式(10)から以下の式(11)が得られる。
【0051】
【数11】
【0052】
ここで、具体例としてλo=0.84ミクロン、Δλ=0.08ミクロンとすると、式(11)より以下の式(12)が得られる。
【0053】
【数12】
【0054】
この式(10)、式(12)よりL1=4.41ミクロン、δxの最大値は421ナノメータであることを概算することができる。
【0055】
ここで、本発明の光源装置を用いたOCT装置における挿引波長幅と被検体の厚み方向の分解能、及び挿引波長のサンプリングピッチ幅と被検体の厚み方向の検出可能な幅(深さ方向)について述べる。
挿引波長のサンプリング波長間隔δΛとOCT装置によって検出可能な被検物体の厚み方向(光軸方向)の最大幅Lには以下の式(13)の関係がある。
【0056】
【数13】
【0057】
また、挿引波長の幅をΔλとし、OCT装置によって検出可能な被検体の厚み方向(光軸方向)の分解能ΔLは、以下の式(14)で示される。
【0058】
【数14】
【0059】
本発明において、光を増幅させる光増幅媒体としては、半導体光増幅器(SOA:Semiconductor Optical Amplifier)の他、エルビウムやイットリビウム等を含有する希土類添加(イオンドープ)光ファイバ、光ファイバ中に色素を添加して色素により増幅を行うもの等を採用することができる。
希土類添加光ファイバは、高利得で良好な雑音特性を得るためには好適である。色素添加光ファイバは、蛍光色素材料やそのホスト材料などを適宜選択することで可変波長の選択肢が増す。
【0060】
半導体光増幅器は、小型で且つ高速制御が可能なことから好ましい。半導体光増幅器としては、反射型光増幅器と進行波形光増幅器の双方を用いることができる。半導体光増幅器を構成する材料は、一般的な半導体レーザを構成する化合物半導体等を用いることができ、具体的にはInGaAs系、InAsP系、GaAlSb系、GaAsP系、AlGaAs系、GaN系等の化合物半導体を挙げることができる。半導体光増幅器は、利得の中心波長が、例えば、840nm、1060nm、1300nm、1550nmのものの中から光源の用途等に応じて適宜、選択して採用することができる。
【0061】
本発明の光共振器を構成する第一の反射部材は、ファブリーペロー型光共振器を構成するミラー、または部分透過ミラーと同等か類似する反射部材で構成することができる。より具体的には、半導体結晶の壁界面で構成したミラーや、ガラス等を研磨して構成したミラー、更には金属膜等の薄膜を被覆したミラー等で構成することができる。
【0062】
光共振器を構成する第二及び第三の反射部材は、光増幅媒体で増幅された光の光束を該光束の径方向に分離した状態で光増幅媒体方向に反射するように配されるものであるが、反射部材を構成する材料自体は上述の反射部材と同様のものを採用することができる。だだし、第一の反射部材と共に光共振器を構成することから第一の反射部材の反射率とは異なる反射率を持たせる必要がある。
第二及び第三の反射部材は、光増幅媒体で増幅された光の光束を該光束の径方向に分離した状態で反射させるが、光束の分離には反射型プリズムを用いることもできるし、光束の分離を光束(平行光束)が照射される領域に第二及び第三の反射部材を並べて配置することで行うこともできる。反射型プリズムを用いる場合、プリズムの稜線を境に光束を分離しても良い。反射プリズムの稜線をなす角は、光束より分離された主光線同士が平行となる角度とすることが好適である。詳細は、実施例で後述する。
【0063】
また、第一の反射部材と光増幅媒体と第二の反射部材とを含んで規定される第一の光路と、第一の反射部材と光増幅媒体と第三の反射部材とを含んで規定される第二の光路と、の光路長差を可変とする光路長差調整部材は、電歪素子、微小機械変位素子、電気光学素子等を用いて構成することができる。
【0064】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。尚、以下の説明は図を参照して行うが、図では同一の部位には原則同一の符号を付すこととし、重複した説明はなるべく行わないこととする。
【0065】
(実施例1)
図1は、本発明の光源装置の一例を示す模式図である。
図1において、101は可干渉な光束を生成する光増幅媒体であり、中心波長0.84μmの発光スペクトルを有する半導体光増幅器を用いた。光増幅媒体101の両端面の一方は光共振器の第一の反射部材としての反射器もしくは反射膜105を構成する。他方は無反射膜108が施されている。102は光増幅媒体から出射した発散光束を集光させるための集光レンズ、103は光増幅媒体101から出射した光束である。104は光束103を分割する光束分離素子として機能する反射型プリズムである。106、107はそれぞれ第二、第三の反射部材であり、第一の反射部材105と、互いに対となって複数の光共振器を構成している。第二の反射部材106は光共振器としての機能のほかに光源の出力部としての機能をも兼ねており、光の反射機能と透過機能の両方を備える。第三の反射部材107は、反射部材107の位置を光束が進む方向に変化させる光路長差調整部材として電歪素子109を具備する。
【0066】
光増幅媒体101に不図示の電源より電気的エネルギーが印加されると内部で放射光を発生し、放射光は増幅されて光増幅媒体101から両側の端面にむかって伝播する。無反射膜108が施された側に進行した光束は光の伝播則に従って発散しながら空中を伝播し、集光レンズ102にある光束の径で入射する。この光束は光増幅媒体の特性により非点収差を持つため波面は非光軸対称な波面だが、必要に応じて設けられる不図示の光学系を集光レンズ102の前に設置することにより光軸対象の球面波に変換される。この光束は集光レンズ102を通過後に集束光103として伝播する。このとき光束分離素子104により光束103の口径方向の領域を2分し、103aと103bに分割した状態でそれぞれ垂直に反射するように設置された第二の反射部材106及び第三の反射部材107に向かって集光する。反射部材106および107によって反射した光束は、往路と逆の経路を通って光増幅媒体101に入射し、増幅されて、反対側の第一の反射部材105で反射されて再び増幅媒体101に入射し、光が増幅される。このように第一の反射部材105と、第二の反射部材106との間及び第一の反射部材105と、第三の反射部材107との間で、光の反射と増幅が繰り返され、出力光106として、第二の反射部材106を透過した光が得られる。
【0067】
次に、本実施例における波長を挿引する原理を説明する。
【0068】
図3は、光路長差調整部材の拡大図である。図3において、116は変調光路長δxを与えるための電歪素子でありここでは、ピエゾ素子を用いた。117は、ピエゾ素子116、第二の反射部材106、第三の反射部材107及び光束分離素子を機械的に一体化する光路変調用ベースである。本実施例の光源装置では、第一の反射部材105、光増幅媒体101及び第二の反射部材106を含んで構成される光共振器の光路長と、第一の反射部材105、光増幅媒体101及び第三の反射部材107を含んで構成される光共振器の光路長には、一定の光路長差L1を与えてある。これらの光束103は、反射型プリズムで構成した光束分離素子104により、それぞれ103a,103bに分かれて反射される。ここで、光束103は、主光線103aaと主光線103bbとからならなるものとする。このとき、主光線103aaと反射した光束103a、及び主光線103bbと反射した光束103bと、は互いに直角をなすように、光束分離素子104の反射面は角度設定されている。こうすることで光増幅媒体101と反射部材105に対し、紙面内における103の方向と、その垂直方向に機械的擾乱があっても反射部材105と反射部材106を含む光共振器の光路長と、反射部材105と反射部材107を含む光共振器の光路長との差に変化のない構成となっている。
【0069】
具体的数値例を挙げると、発振中心波長λo=0.84μm、掃引波長(範囲)Δλ=0.08μmとすると、上述した式(10)、式(11)より、光路長差L1=4.41μm、反射部材107の移動距離δx=421nmが得られる。
L14.41μmの設定は、集光レンズ102の実効NAを0.1程度に設計すると、焦点深度内で反射部材106と107を設定でき、光路変調用ベース107と光束分離素子104の相対位置の初期補正によってL1=4.41μmを実現した。
【0070】
次に反射部材107の移動距離δxについて検討する。
【0071】
δxの最大値は421nmであるが、ピエゾ素子の単素子は約1ボルトあたり1nmの変位量であるので、不図示の電圧印加装置より単層のピエゾ素子に421ボルトを印加(40層の多層ピエゾ素子の場合には一層あたり約10ボルト印加)して変位量421nmを実現した。
ここで、単層ピエゾの印加電圧を−200,−100,0,+100,+200ボルトと変化させると、
δx=−200nm,−100nm,0.100nm,200nmと変化する。
このとき式(12)より、
δλ=−38nm,−19nm,0.19nm,38nmが得られる。
出力波長はλo+δλなので、以下の通り波長の変化が得られる。
即ち、λ=802nm,821nm,859nm,878nmである。このようにピエゾ素子の駆動電圧を制御することで波長挿引が可能となる。
ピエゾ素子に印加する電圧を100KHz以上で駆動することにより波長挿引速度が100KHz以上となる光源が実現できた。
【0072】
次に、この光源をOCT装置に適用して得られる断層像の分解能と検出可能な深さを示す。
【0073】
挿引波長のサンプリング間隔ΔλとOCTによって検出可能な被検体の厚み方向(光軸方向)最大幅Lは上述の式(13)に示した通りである。
検出可能な被検物体の厚み方向(光軸方向)の最大幅Lは,サンプリング波長間隔δΛを0.08nm。中心挿引波長λoを0.84μmとすると式(13)より、
L=4.41mmとなる。
また、検出可能な被検体の厚み方向(光軸方向)の分解能ΔLは式(14)よりΔλ=0.08μmとして,
ΔL=4.4μmとなる。
【0074】
以上、述べたように、本実施例の波長挿引光源をOCT装置の光源に適用することにより、被検最大深さ4.41mm、分解能4.4μmが実現できた。
【0075】
(実施例2)
図4を用いて実施例2の光源装置について述べる。
図4に示した光源装置は、図1の装置に類似するものであるが図1における第三の反射部材107に代えて反射部材106bを配置したことと、第二の反射部材106aを用いたことが図1の装置との違いである。
ここで、第二の反射部材106aは実施例1と同様に共振器の反射機能の他に光源の出力(透過)機能をも兼ねている。本実施例2においては、第三の反射部材106bが、実施例1における反射部材106と異なり、反射率を低く抑えた反射部材としたところに特長がある。
【0076】
本実施例は、第三の反射部材106bの反射率を図1における反射部材107よりも下げ、第二の反射部材106aと第三の反射部材106bとの間での発振を抑える構成としたものである。
挿引速度に関しては、実施例1と同様にピエゾ素子により100KHz以上の波長挿引が実現できる。
このようにして、掃引波長が安定な波長挿引光源が実現できる。
【0077】
これをOCT装置の光源に用いることにより、分解能、検出可能深さを落とさずに鮮明な断層画像を得ることができる。
【0078】
(実施例3)
図5に示した光源装置の例について述べる。
本例の装置は、実施例1及び実施例2に示した装置に比べて光軸方向に対する垂直方向のサイズを省サイズ化した例である。
実施例1では光束分離プリズム104で二つの方向に光束を反射分離したが、本実施例では、図5に示すように、光束103を構成する光束103bを光束分離プリズム104bにより偏向させ、同じく光束103を構成する103aは空間を通過させる構成を採用している。この構成により、実施例1及び2で説明した装置に比べて、
103の光束の光軸方向に垂直な平面方向に対し,小さくなり省サイズ化が実現できた。また、104bは光束103の片側しか反射せず光束分離素子104bの反射面の面精度の影響が半分で済むので、挿引波長が精度よく制御できるとともに光源のサイズを小型化できるという効果がある。
【0079】
(実施例4)
図6は実施例4の光源装置を示す模式図である。本例の装置は、実施例1の装置に比べて小型化と更なる高速挿引を可能とする構成である。
図6の装置においては、光増幅媒体101からの光束はレンズ102により平行光束となる。この平行光束を103aと103bに2分しそれぞれ反射部材106、107によりこれまで同様に反射させる。これにより、光束分離素子はないため更なる装置の小型化が実現可能となる。
そして、一方の光共振器を構成する反射部材105と他方の光共振器を構成する反射部材106及び107との距離が短縮できる。
【0080】
具体例として、この距離を50mmとするとこの共振器を光が往復する時間は0.3nSecとなる。
ある波長の光を生成する時間が1nSecとすると、この光共振器では光が3往復できることが理解される。生成する波長を1000点とすると1MHz以上の波長挿引が実現できる。このように共振器長を短くするとともに、光束光路可変変調の駆動周波数を1MHz以上にすることにより、1MHzの高速波長掃引が可能な波長挿引光源が小型の装置で実現できる。
【0081】
(実施例5)
図7に示した光源装置の例について述べる。これは、実施例4の装置を更に小型化する例である。
本実施例では、光増幅媒体101としてこれまでの端面発光タイプの半導体光増幅器ではなく、面発光タイプ(面型発光素子タイプ)の光増幅器を採用する。
こうすると、図6の装置で採用した集光レンズ102は不要となり、光増幅媒体から出射した光束103aと103bをそれぞれ反射部材106、107で反射させることができる。この構成を採用すると数ミリから数センチサイズの小型で高速に波長挿引可能な光源が実現できる。
【0082】
(実施例6)
本実施例は、図3の装置で説明した光路長差調整部材を機械的微小変位機構で構成した例である。
図8に本例の特徴部を示す。図8の119が、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems:微小電気機械素子)素子で構成した機械的微小変位機構である。
MEMS素子119は、曲げ部分(ヒンジ)と電極部120を備え、電極部120に電位差を与えることにより、反射部材107を400nm程度変位させることができる。
更に本例の装置では空気揺らぎ起因による不安定性の改善を図っている。光束103が光束分離素子104により分割されてから、再び光束分離素子に戻るまでの光路を安定にするために、硝材115で光路の大半を覆い、空気揺らぎを低減させた。この構成により、安定した波長挿引の光源装置が実現できる。
【0083】
(実施例7)
本実施例は、図3や図8の装置で説明した光路長差調整部材をEO(Electro−Optic, 電気光学)素子を用いて構成した例である。図9に本例の特徴部を示す。図9の118は電気光学効果を生じさせるニオブ酸リチウムの薄膜であり、114は透明電極を示している。ニオブ酸リチウムは電気光学効果を生み出す非線形定数γが高く、約30pm/Vである。電圧と屈折率の関係は、電圧をかける結晶の厚みをd,屈折率をneとすると、以下の式(15)が成り立つ。
【0084】
【数15】
【0085】
実施例1で得られた反射部材107の移動距離δx=421nmを考慮し、この421nmよりも大きな値として、Δnd=480nmを満足する電圧を式(15)より算出すると3000Vとなる。
このことから、ニオブ酸リチウムの層を30層にすると一層あたり約100Vで駆動すれば、実施例1と同様に0.84μmを中心波長として約80nmの幅で波長挿引できる。
【0086】
(実施例8)
図10に、図9に示した例の変形例を示す。図10においては、図9の薄膜のニオブ酸リチウムに対してバルクのニオブ酸リチウム118を採用すると共に、図9の透明電極114に対して光束を反射する機能を兼ねた電極114を採用している。
図10に示すように電極114のなす角θが以下の式(16)を満足するとき入射光束と出射光束は平行になる。
【0087】
【数16】
【0088】
このとき電極方向に、光束は
【0089】
【数17】
回通過する。
【0090】
例えば、図10のようにθ=45°とするとn=4となり電極方向に3回光束が通過する。このような構成により、ニオブ酸リチウム118中の光路が長くなるため、より定電圧駆動で所望の波長挿引が実現できる。
【0091】
(実施例9)
本例は、本発明の波長挿引光源装置を備えた光干渉断層撮像装置(OCT)の例である。
OCT装置は、一方のアーム(測定部)において得られる光軸方向に複数の界面を有する検体からの反射光と、他方のアーム(参照部)において得られる参照面からの反射光と、を干渉させ、光源の波長を挿引することにより得られる変調干渉信号をフーリエ変換して、断層情報を得る装置である。
【0092】
図11は、本発明のOCT装置の一例を示す模式図である。
図11において1182は本発明の波長挿引光源装置を用いた光源部、1186は検体である眼を構成する眼底の網膜を示す。1190は眼底を走査するためのミラーであり、検体1186からの反射光を伝達させる光ファイバー1185と共に検体測定部を構成する。
1188は参照ミラーであり、参照ミラーからの反射光を伝達させる光ファイバー1187と共に参照部を構成する。
1184は検体測定部からの反射光(光束)と参照部からの反射光(光束)を合波して干渉部を構成するファイバーカップラーである。1495は干渉部からの干渉光(変調干渉信号)を検出する光検出部としての光電変換素子である。
1196は電気的に検出した信号をデジタル化し、フーリエ変換などのデータ処理を行い、検体の断層画像を構築する画像処理部としてのコンピュータである。つまり、光検出部で検出された光に基づいて断層像が得られる。1197はその断層像を可視化するディスプレーである。
光源部1182より出射された光束は、ファイバー1183を通り、カップラー1184で2方向に分岐する。
【0093】
分岐した一方の光束は、ファイバー1185を通り、検体である眼の網膜を照射する。そして反射光が同様にファイバー1185を再び通りファイバーカップラ1184に戻る。
分岐した他方の光束はファイバー1187を通り参照ミラー1188を照射する。この反射光はファイバー1187を再び通りファイバーカップラー1184に戻る。
カップラー1184で被検面からの反射光と参照面からの反射光が干渉した後、ファイバー1194を通って光電変換素子1195に入る。
【0094】
このとき光源部1182より出射される光の波長を掃引変化させると、前述のように断層構造に応じた変調干渉信号が得られる。
この信号をデジタル化しコンピュータ1196でフーリエ変換することにより断層信号が得られる。これはポイントとしての断層信号なので、ミラー1190を走査して一次元方向の断層信号を測定し、ディスプレー1197により可視化することにより光断層像が得られる。
本例のOCT装置は、光源部1182に本発明の光源装置を用いたものであり、本発明による光源装置は、挿引速度100KHz以上が得られるため高速に光断層像が検出でき、また検出深さが深く、深さ方向の検出分解能が高いOCT装置を提供できる。
【符号の説明】
【0095】
101 光増幅媒体
103 光束
105 第一の反射部材
106 第二の反射部材
107 第三の反射部材
109 光路長差調整部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を増幅させる光増幅媒体と、光共振器と、を備えた発振波長を変化可能な光源装置であって、前記光共振器は、前記光増幅媒体の一方の側に位置する第一の反射部材と、前記光増幅媒体の他方の側に位置する第二及び第三の反射部材を有して構成され、該第二及び第三の反射部材は前記光増幅媒体で増幅された光の光束を該光束の径方向に空間的に分離した状態で前記光増幅媒体方向に反射するものであり、第一の反射部材と前記光増幅媒体と第二の反射部材とを含んで規定される第一の光路と、第一の反射部材と前記光増幅媒体と第三の反射部材とを含んで規定される第二の光路と、の光路長差を可変とする光路長差調整部材により前記光路長差を変化させて前記発振波長を変化させることを特徴とする光源装置。
【請求項2】
前記光束の分離は、反射型プリズムによりなされる請求項1に記載の光源装置。
【請求項3】
前記反射型プリズムを経た光束の集光する位置に前記第二及び第三の反射部材を配したことを特徴とする請求項2に記載の光源装置。
【請求項4】
前記反射型プリズムの稜線を境に前記光束を分離する請求項2又は3に記載の光源装置。
【請求項5】
前記反射プリズムの前記稜線をなす角は、前記光束より分離された主光線同士が平行となる角度を有する請求項4に記載の光源装置。
【請求項6】
前記光束の分離は、レンズを経た平行光束が照射される領域に位置する前記第二及び第三の反射部材によりなされる請求項1に記載の光源装置。
【請求項7】
前記光束の分離は、面型発光素子より出射された光束が照射される領域に位置する前記第二及び第三の反射部材によりなされる請求項1に記載の光源装置。
【請求項8】
前記光路長差調整部材は、電歪素子、微小機械変位素子、電気光学素子の何れかを用いたものであることを特徴とする請求項1に記載の光源装置。
【請求項9】
光を増幅させる光増幅媒体と、該光増幅部材で増幅された光の光束を、波面分割する分割部材と、前記光増幅媒体の一方の側に位置する第一の反射部材と、前記光増幅媒体の他方の側に位置する第二及び第三の反射部材を有し、第二の反射部材は、前記分割部材により分割された光束の一方を反射し、前記分割部材を介して前記光増幅媒体に戻すものであり、第三の反射部材は、前記分割部材により分割された光束の他方を反射し、前記分割部材を介して前記光増幅媒体に戻すものであり、第一の反射部材と前記光増幅媒体と第二の反射部材とを含んで規定される第一の光路と、第一の反射部材と前記光増幅媒体と第三の反射部材とを含んで規定される第二の光路と、の光路長差を可変とする光路長差調整部材により前記光路長差を変化させて発振波長を変化させることを特徴とする光源装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の光源装置を用いた光源部と、
前記光源部からの光を検体に照射し、検体からの反射光を伝達させる検体測定部と、
前記光源部からの光を参照ミラーに照射し、該参照ミラーからの反射光を伝達させる参照部と、
前記検体測定部からの反射光と前記参照部からの反射光とを干渉させる干渉部と、
前記干渉部からの干渉光を検出する光検出部と、
前記光検出部で検出された光に基づいて、前記検体の断層像を得る画像処理部と、
を有することを特徴とする光干渉断層撮像装置。
【請求項1】
光を増幅させる光増幅媒体と、光共振器と、を備えた発振波長を変化可能な光源装置であって、前記光共振器は、前記光増幅媒体の一方の側に位置する第一の反射部材と、前記光増幅媒体の他方の側に位置する第二及び第三の反射部材を有して構成され、該第二及び第三の反射部材は前記光増幅媒体で増幅された光の光束を該光束の径方向に空間的に分離した状態で前記光増幅媒体方向に反射するものであり、第一の反射部材と前記光増幅媒体と第二の反射部材とを含んで規定される第一の光路と、第一の反射部材と前記光増幅媒体と第三の反射部材とを含んで規定される第二の光路と、の光路長差を可変とする光路長差調整部材により前記光路長差を変化させて前記発振波長を変化させることを特徴とする光源装置。
【請求項2】
前記光束の分離は、反射型プリズムによりなされる請求項1に記載の光源装置。
【請求項3】
前記反射型プリズムを経た光束の集光する位置に前記第二及び第三の反射部材を配したことを特徴とする請求項2に記載の光源装置。
【請求項4】
前記反射型プリズムの稜線を境に前記光束を分離する請求項2又は3に記載の光源装置。
【請求項5】
前記反射プリズムの前記稜線をなす角は、前記光束より分離された主光線同士が平行となる角度を有する請求項4に記載の光源装置。
【請求項6】
前記光束の分離は、レンズを経た平行光束が照射される領域に位置する前記第二及び第三の反射部材によりなされる請求項1に記載の光源装置。
【請求項7】
前記光束の分離は、面型発光素子より出射された光束が照射される領域に位置する前記第二及び第三の反射部材によりなされる請求項1に記載の光源装置。
【請求項8】
前記光路長差調整部材は、電歪素子、微小機械変位素子、電気光学素子の何れかを用いたものであることを特徴とする請求項1に記載の光源装置。
【請求項9】
光を増幅させる光増幅媒体と、該光増幅部材で増幅された光の光束を、波面分割する分割部材と、前記光増幅媒体の一方の側に位置する第一の反射部材と、前記光増幅媒体の他方の側に位置する第二及び第三の反射部材を有し、第二の反射部材は、前記分割部材により分割された光束の一方を反射し、前記分割部材を介して前記光増幅媒体に戻すものであり、第三の反射部材は、前記分割部材により分割された光束の他方を反射し、前記分割部材を介して前記光増幅媒体に戻すものであり、第一の反射部材と前記光増幅媒体と第二の反射部材とを含んで規定される第一の光路と、第一の反射部材と前記光増幅媒体と第三の反射部材とを含んで規定される第二の光路と、の光路長差を可変とする光路長差調整部材により前記光路長差を変化させて発振波長を変化させることを特徴とする光源装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の光源装置を用いた光源部と、
前記光源部からの光を検体に照射し、検体からの反射光を伝達させる検体測定部と、
前記光源部からの光を参照ミラーに照射し、該参照ミラーからの反射光を伝達させる参照部と、
前記検体測定部からの反射光と前記参照部からの反射光とを干渉させる干渉部と、
前記干渉部からの干渉光を検出する光検出部と、
前記光検出部で検出された光に基づいて、前記検体の断層像を得る画像処理部と、
を有することを特徴とする光干渉断層撮像装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−182311(P2012−182311A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44203(P2011−44203)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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