説明

光記録媒体の検査方法

【課題】少なくとも第一誘電体層、記録層、第二誘電体層、反射層をこの順又は逆順に有する光記録媒体の製造過程において、記録層の膜厚が所定の範囲から外れた不良媒体の、シンプルかつ低コストな検査方法の提供。
【解決手段】基板上に、少なくとも第一誘電体層、記録層、第二誘電体層、反射層をこの順又は逆順に有する光記録媒体の製造過程において、基板上に前記各層を積層した後、第一誘電体層側から赤外線を照射してその反射強度を測定し、該赤外線反射強度の測定値と、目標とする所定の記録層膜厚範囲における赤外線反射強度を予め調べて設定した基準赤外線反射強度とを対比することにより、記録層の膜厚の異常を検知することを特徴とする光記録媒体の検査方法。
(2)赤外線の波長が900〜1100nmである(1)記載の光記録媒体の検査方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光記録媒体の製造過程における膜厚の検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
DVD+RWに代表される一般的な光記録媒体は、基板上に、第一誘電体層、記録層、第二誘電体層、反射層をスパッタリングにより順次積層した4層の膜構成を基本としているが、反射層の材料やディスク全体の設計に応じて各層の間に中間層を設ける場合もある。記録層には熱的な作用により結晶状態と非結晶状態の間で相変化し、その反射率の違いによって情報を記録する相変化記録材料が用いられる。そして、この相変化記録は記録層と第二誘電体層の材料と膜厚によって決まる熱的な構造のバランスにより制御されている。したがって、光記録媒体の製造過程においては、記録層と第二誘電体層の膜厚管理が非常に重要なポイントとなる。
【0003】
薄膜の膜厚の検査方法としては、基板上に測定対象である層の単層膜を形成した膜厚測定用のサンプルを用意し、エリプソメータや分光光度計などを用いて光学的に膜厚を測定する方法や、触針式の段差計を用いて物理的な膜厚を測定する方法が最も一般的である。これらの方法は、スパッタリング条件の変更時に膜厚を調整する場合や、スパッタリング材料の消費に伴う長周期的な膜厚変動の補正を行う場合に有効な膜厚管理方法である。
ところが、連続生産中には、微小アーキングやスパッタ開始のトリガーに対するプラズマの応答遅れ、スパッタガス圧の変動などのスパッタリング異常により、突発的に膜厚が低下した(薄くなった)不良ディスクが生産されてしまう場合があり、特に、記録層を成膜する際にスパッタリング異常が起きる場合が多い。そして、このような不良ディスクが製品に混入しないようにする為には、上記のような抜き取り検査だけではなく、インライン式の全数検査が必要となる。
つまり、スパッタリングにより第一誘電体層、記録層、第二誘電体層、反射層などを含む多層膜を形成した後、光記録媒体の生産タクトに影響を与えない検査時間(数秒以内)で膜厚を検査できるようにすることが課題となる。
多層膜の膜厚は、分光エリプソメータなどを用いて光学的に測定することが可能であるが、検査時間が長く生産タクトに追いつかないという問題と、検査装置が非常に高価であるという問題がある。
【0004】
特許文献1では、色彩色差計を用いてディスクの表色系色度を測定することで、基板上の第一誘電体層の膜厚を制御する方法が提案されている。構成がシンプルで、且つインライン検査としても容易に導入が可能な方法であるが、第一誘電体層の膜厚しか測定することができない。また、自動測定が可能な色彩色差計の価格を考慮すると、大量の生産ラインを抱える工場の全てのラインに設置するには経済的負担が大きい。
次に、特許文献2では、分光反射率又は色相、彩度、明度からなる三刺激値に基づいて第一誘電層及び記録層の膜厚を制御する方法が提案され、また、特許文献3〜4では、多層膜の分光反射率を測定し、その極小点及び極大点における反射率と波長に基づいて各層の膜厚を算出する方法が提案されている。これらは共通して、予め分光反射率を測定し、その分光反射スペクトルから得られる数値(極大値、或いは極小値とその波長など)を基に各膜厚を算出するという複雑な演算処理を必要とする為、それ相応の装置が必要となり、特許文献1と同様の経済的負担が大きいという問題を抱えている。
更に、近年、光記録媒体の主流となりつつあるDVD+RWやDVD−RWでは、第一誘電体層の膜厚が80nmを超えるものは殆どないため、これらの文献に記載された実施例のように、波長380nm以上800nm以下の領域で、反射率が明らかに極大となる点を見つけることは困難であるという問題が生じている。
【0005】
【特許文献1】特許第2973803号公報
【特許文献2】特開平09−073667号公報
【特許文献3】特開平10−009829号公報
【特許文献4】特開2000−249520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、少なくとも第一誘電体層、記録層、第二誘電体層、反射層をこの順又は逆順に有する光記録媒体の製造過程において、記録層の膜厚が所定の範囲から外れた不良媒体の、シンプルかつ低コストな検査方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、次の1)〜5)の発明によって解決される。
1) 基板上に、少なくとも第一誘電体層、記録層、第二誘電体層、反射層を、この順又は逆順に有する光記録媒体の製造過程において、基板上に前記各層を積層した後、第一誘電体層側から赤外線を照射してその反射強度を測定し、該赤外線反射強度の測定値と、目標とする所定の記録層膜厚範囲における赤外線反射強度を予め調べて設定した基準赤外線反射強度とを対比することにより、記録層の膜厚の異常を検知することを特徴とする光記録媒体の検査方法。
2) 赤外線の波長が900〜1100nmであることを特徴とする1)記載の光記録媒体の検査方法。
3) 赤外線の光源が半導体レーザーであって、その発光ピーク波長が935〜955nmであることを特徴とする1)又は2)記載の光記録媒体の検査方法。
4) 赤外線反射強度の測定機器として、光ファイバーセンサーを使用することを特徴とする1)〜3)の何れかに記載の光記録媒体の検査方法。
5) 第一誘電体層の膜厚が100nm以下であることを特徴とする1)〜4)の何れかに記載の光記録媒体の検査方法。
【0008】
以下、上記本発明について詳しく説明する。
本発明の対象となる光記録媒体は、基板上に、少なくとも第一誘電体層、記録層、第二誘電体層、反射層をこの順又は逆順に有するものである。
記録層に用いられる材料としては、SbTe系、SbSn系相変化記録材料などが挙げられるが、特に限定される訳ではない。
基板、第一誘電体層、第二誘電体層、反射層の材料についても特に限定されず、公知のものを適宜用いることができる。また、界面層、中間層、カバー層などを有していても特に問題はない。
【0009】
本発明における検査手順は、次のとおりである。
(1)各層を成膜した光記録媒体に対し、第一誘電体層側から赤外線を照射する。
(2)照射した赤外線の光記録媒体からの反射強度を測定する。
(3)反射強度の測定値と、目標とする所定の記録層膜厚範囲における赤外線反射強度を予め調べて設定した基準赤外線反射強度(設定値)とを対比する。
(4)対比した結果、設定値を外れた場合に「記録層の膜厚異常有り」と判定する。
【0010】
図1に、DVD+RWの製造過程における記録層の膜厚検査装置の模式図(センサーヘッドのみ)を示す。図1のように、センサーヘッドは、センサーアンプ投光部とセンサーアンプ受光部に接続されている。そして、測定対象となる光記録媒体に対して、約17°の傾きを持って約18mmの距離で測定を行なう。
赤外線反射強度の測定を行う光学系の一例として、キーエンス社製センサアンプFS−V21Xと、同社製センサーヘッドCZ−41で構成される小型光ファイバーセンサーを用いた場合、照射される検査光は、発光ピーク波長が約950nmの赤外線レーザ光である。センサーヘッドは、小スポットタイプのセンサヘッドCZ−41が好ましく、受光量が最大となる距離・角度に調整して用いる。受光量は、センサーアンプ本体にあるデジタル表示器に表示される。
なお、膜厚検査装置は、上記のものに限らず、赤外線反射強度を測定することができる装置であれば何でもよい。
【0011】
以下、実施の態様例を示す。
まず、膜厚検査の対象となるDVD+RWディスクを以下のようにして作成した。
トラッキング用の案内溝が形成されたスタンパを用いて射出成型により得られた、厚さ0.6mmのポリカーボネート製DVD+RW用基板上に、成膜用チャンバー又は成膜用ターゲットを多数持つ多層成膜用のマグネトロンスパッタリング装置(ユナクシス社製、スパッタ装置Big Sprinter)を用いて、第一誘電体層、界面層、相変化記録層、第二誘電体層、中間層、反射層を順次成膜した。
第一誘電体層にはZnS−SiO(80:20モル%)を用い、膜厚約55nmとした。界面層には〔ZrO(3モル%Y)〕−TiO(80:20モル%)を用い、膜厚約3nmとした。相変化記録層にはAgGeInSbTe(1:3:3:72:21原子%)を用い、膜厚約12.5nmとした。第二誘電体層にはZnS−SiO(80:20モル%)を用い、膜厚約12nmとした。中間層にはSiCを用い、膜厚約4nmとした。反射層にはAgを用い、膜厚約140nmとした。
設計上の狙いの膜厚は、上記のとおりである。
【0012】
一方、各層の膜厚が変化したことを想定し、第一誘電体層、相変化記録層、第二誘電体層、反射層について、意図的に膜厚を変化させたサンプルを作成し、それらのサンプルの赤外線反射強度を測定した。結果を表1に示す。なお、測定には、キーエンス社製センサアンプFS−V21Xと、同社製センサーヘッドCZ−41で構成される小型光ファイバーセンサーを用いた。照射される検査光は、発光ピーク波長が約950nmの赤外線レーザー光である。また、赤外線反射強度の欄のPは「Point」の略号である。
【表1】

【0013】
表1の結果について、各層毎に膜厚の変化率と赤外線反射強度の関係を比較するため、図2に、第一誘電体層、相変化記録層、第二誘電体層における、標準膜厚に対する膜厚変化率(%)と赤外線反射強度(Point)の関係を示した。図2から、相変化記録層の膜厚変化(特に、膜厚が低下した場合)に対する赤外線反射強度の変化が最も大きいことが見て取れる。そして、仮に相変化記録層について、赤外線反射強度の上限値を180Pに設定しておけば、相変化記録層の膜厚が約10%低下した段階で容易に検出することができる。
また、検査に必要な時間は1秒にも満たない為、光記録媒体の生産タクトに影響を与えることなく、全数検査が可能である。更に、市販の小型光ファイーバーセンサーを使用することができる為、僅かなスペースにも設置が可能であり、且つ非常に低コストな部材で構成することが可能である。また、必要に応じて、複数の場所で異なる検査規格で検査を行うなどして検出ミスなどを防止するといった、フレキシブルな使用方法が選択できる。
【0014】
次に、上記表1に示した各サンプルについて、測定波長を変化させた場合の分光反射率を測定し、膜厚の変化量と分光反射率の関係を比較した。結果を図3〜図5に示す。なお、比較のため、各図の縦軸のレンジを統一した。
図3〜図5を対比すると、各層の標準膜厚に対する変化率が同程度であっても、相変化記録層の膜厚が変化した場合の赤外線波長領域の反射率変化が目立っていることが見て取れる。つまり、赤外線波長領域の反射率を管理することで、記録層の膜厚変化を検知できることが分かる。更に、図4の変化を相関係数で表すと図6に示すようなグラフとなり、今回測定した波長範囲(〜1064nm)においては、測定波長が長いほど相関係数の絶対値が1に漸近していくことが分かる。波長1100nmのデータは示されていないが、グラフを外挿すれば、波長が1100nmに近付くにつれて絶対値がますます1に漸近していくことは容易に推定できる。即ち、赤外線反射強度の測定波長を900〜1100nmに設定することにより、より精度の高い検査を行なうことができる。
【0015】
また、測定対象となる光記録媒体の第一誘電体層の膜厚は100nm以下であることが好ましい。一般的に、第一誘電体層の膜厚が100nmを超える相変化ディスクは殆どないと思われるが(CD−RWで、〜90nm程度、DVD+RWで、〜70nm、また、今後のBlue世代のディスクでは、更に薄くなっていくと予想される。)、仮に第一誘電体層の膜厚がどんどん厚くなると、分光反射率のスペクトルの短波長側に極大点が現れてくる。図3のサンプルA−6(第一誘電体層85nm)の場合のグラフを見ると、450nm付近に極大点が現れており、その兆候が確認できる。そして、第一誘電体層の膜厚が100nmを超えてどんどん厚くなると、その極大点が本発明で記録層膜厚の測定に用いる赤外線波長領域にかかってくることになり、膜厚の測定精度に影響する可能性がある。
【0016】
続いて、別の実施の態様例を示す。
相変化記録層の材料をSbSn系相変化記録材料に変えた点以外は、前記実施の態様例と同様にしてDVD+RWディスクのサンプルを作成し、測定波長を変化させた場合の、相変化記録層の膜厚の変化量(16.5〜22.5nm)と分光反射率の関係を調べた。結果を図7に示す。
更に、図7の変化を相関係数で表すと、図8に示すようなグラフとなり、図6の場合と同様に、測定した波長範囲(〜1064nm)においては、測定波長が長いほど相関係数の絶対値が1に漸近していくことが分かる。
【0017】
以上、説明したように、少なくとも第一誘電体層、記録層、第二誘電体層、反射層を、この順に有する光記録媒体の製造過程において、赤外線反射強度を測定することにより、記録層の膜厚変化を容易に検知できる。
また、測定対象となる光記録媒体の層構成が逆順、即ち、基板上に、少なくとも反射層、第二誘電体層、記録層、第一誘電体層をこの順に有する、片面二層記録媒体(ダブルレイヤ)の2層目の情報基板(L1基板)のような場合であっても、その製造過程における記録層膜厚の検査において同様の効果を得ることができる。
また、赤外線反射強度の測定に使用する光源が半導体レーザーであって、その発光ピーク波長が935〜955nmのものを選択すれば、市販の赤外線レーザーとして最も一般的な波長領域である為、容易に入手することができる。
また、赤外線反射強度の測定機器として、汎用の光ファイバーセンサーを選択すれば、市販の赤外線センサーを利用することができ、非常に低コストで検出器の設置が可能となる。更に、サイズも小さい為、生産ラインの僅かなスペースにも設置できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、少なくとも第一誘電体層、記録層、第二誘電体層、反射層をこの順に又は逆順に有する光記録媒体の製造過程において、記録層の膜厚が所定の範囲から外れた不良媒体の、シンプルかつ低コストな検査方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】DVD+RWの製造過程における記録層の膜厚検査装置の模式図。
【図2】第一誘電体層、相変化記録層、第二誘電体層における、標準膜厚に対する膜厚変化率と赤外線反射強度の関係を示す図。
【図3】各サンプルについて、測定波長を変化させた場合の、第一誘電体層の膜厚の変化量と分光反射率の関係を示す図。
【図4】各サンプルについて、測定波長を変化させた場合の、相変化記録層の膜厚の変化量と分光反射率の関係を示す図。
【図5】各サンプルについて、測定波長を変化させた場合の、第二誘電体層の膜厚の変化量と分光反射率の関係を示す図。
【図6】図4の変化を相関係数で表した図。
【図7】SbSn系相変化記録材料を用いた各サンプルについて、測定波長を変化させた場合の、相変化記録層の膜厚の変化量と分光反射率の関係を示す図。
【図8】図7の変化を相関係数で表した図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、少なくとも第一誘電体層、記録層、第二誘電体層、反射層をこの順又は逆順に有する光記録媒体の製造過程において、基板上に前記各層を積層した後、第一誘電体層側から赤外線を照射してその反射強度を測定し、該赤外線反射強度の測定値と、目標とする所定の記録層膜厚範囲における赤外線反射強度を予め調べて設定した基準赤外線反射強度とを対比することにより、記録層の膜厚の異常を検知することを特徴とする光記録媒体の検査方法。
【請求項2】
赤外線の波長が900〜1100nmであることを特徴とする請求項1記載の光記録媒体の検査方法。
【請求項3】
赤外線の光源が半導体レーザーであって、その発光ピーク波長が935〜955nmであることを特徴とする請求項1又は2記載の光記録媒体の検査方法。
【請求項4】
赤外線反射強度の測定機器として、光ファイバーセンサーを使用することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の光記録媒体の検査方法。
【請求項5】
第一誘電体層の膜厚が100nm以下であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の光記録媒体の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−101525(P2007−101525A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−194595(P2006−194595)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】