説明

光走査装置

【課題】ミラー部の慣性モーメントを簡易な構成で調整することによりミラー部の走査角や共振周波数を微調整可能にした光走査装置を提供する。
【解決手段】基板揺動部4aの両面に各々重ね合わせて設けられる第1,第2ミラー4bと、を備え、第1ミラー4bと第2ミラー4bとは、基板揺動部4aを支持する揺動軸3を中心として軸対称となるように反対方向にずれ量を持たせて積層されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光源より照射された光ビームを揺動するミラー部で反射して走査を行う光走査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光源より照射されたレーザー光等の光ビームを走査する光走査装置は、バーコードリーダ、レーザープリンタ、ヘッドマウントディスプレー等の光学機器、あるいは赤外線カメラ等撮像装置の光取り入れ装置として用いられている。
例えば、レーザー光を反射して走査するミラー部として、シリコン基板をエッチングすることにより振動ミラーとこれを軸支するねじり梁を一体に形成した様々な光走査装置が提案されている。
【0003】
例えば、振動ミラーは、第1基板の片面若しくは両面にアルミニウム薄膜や金属膜などが形成されて反射面が形成される。反射面より外側の領域に銅箔膜でコイルパターンが形成され、ねじり梁に端子が各々形成されている。
実装基板の開口部周縁には、枠状の台座と振動ミラーを囲んでヨークが設けられている。ヨークにはミラー端に対向させて永久磁石が接合されている。振動ミラーは、台座に枠状の第2基板を介して第1基板を重ね合わせて組み付けられる。実装基板よりコイルパターンに通電すると、回転軸となるねじり梁に平行な各辺にローレンツ力が作用して振動ミラーに回転トルクが作用して通電を遮断するとねじり梁の戻り力により初期位置へ戻る。通電方向を切り換えると振動ミラーがねじり梁を中心に反対方向へ回転し、通電を遮断するとねじり梁の戻り力により初期位置へ戻る。以上の動作を繰り返すことで、振動ミラーの振動周期を共振周波数に近づけて振動させている(特許文献1)。
【0004】
また、シリコン基板よりなるミラー基板を支持する上部枠体と、該上部枠体に絶縁膜を介して下部枠体とが接合された偏向ミラーも提案されている。この偏向ミラーはねじり梁の設けられていない対向辺に櫛歯状の可動電極とこれと噛み合う固定電極を上部枠体に設けられている。可動‐固定電極間への通電により発生する静電引力によりミラー基板をねじり梁を中心に共振周波数に近づけて振動させるようになっている。ねじり梁の両側には電極が設けられた動き抑制部材が挟圧可能に設けられており、通電よりねじり梁に両側から静電引力を作用させてねじり梁の実効長を変化させるようになっている。動き抑制部材への印加電圧を変化させてねじり梁の挟み込む範囲を変化させて共振周波数を調整するようになっている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−292891号公報
【特許文献2】特開2005−266567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した光走査装置においては、メタルプレートの作成精度や、駆動源の組み付け精度等により振動特性にばらつきが生ずる。特に特許文献1,2に示すように、ミラーとなるシリコン基板の両面に枠体や基板を重ね合わせる構成では、アセンブリの精度によって、振動ミラーの共振周波数及び走査角が変化する。このため、プリンタ用途のスキャナにおいては、共振周波数を一定範囲内に調整する必要がある。
【0007】
本発明は、ミラー部の慣性モーメントを簡易な構成で調整することによりミラー部の走査角や共振周波数を微調整可能にした光走査装置を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、以下に述べる実施の形態に適用される手段は次の通りである。基板に形成された開口部内に両側を梁部により支持されたミラー部が形成され、前記基板上に設けられた振動源を作動させて当該基板を撓ませることにより前記梁部を揺動軸として前記ミラー部を揺動させながら照射光を反射することで走査する光走査装置であって、前記ミラー部は、前記基板の長手方向の一方側が片持ち状に支持され長手方向他方側に梁部を揺動軸として揺動可能に設けられた基板揺動部と、前記基板揺動部の両面に各々重ね合わせて設けられる第1,第2ミラーと、を備え、前記第1ミラーと第2ミラーのうち少なくとも一方は鏡面処理若しくは反射率向上のための表面処理、又はこれらの両方の処理がなされており、当該第1ミラーと第2ミラーとは、前記基板揺動部を支持する揺動軸を中心として軸対称となるように反対方向にずれ量を持たせて積層されていることを特徴とする。
【0009】
また、前記第1ミラーと第2ミラーを軸対称となるように反対方向に移動させることで、前記ミラー部の揺動を共振周波数に近づけるように微調整されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1ミラーと第2ミラーとは、基板揺動部を支持する揺動軸を中心として軸対称となるように反対方向にずれ量を持たせて積層されているので、ミラー部の第1ミラーと第2ミラーの積層位置を軸対称を維持しながら変更することで、揺動軸回りのモーメントが変化して共振周波数を調整することができる。
【0011】
また、ミラー部の慣性モーメントの大きさを変更することにより、当該ミラー部の揺動を所期の共振周波数に近づけるように微調整できるので、基板の寸法ばらつきや振動源の組付け誤差が生じても所期の共振周波数において所期の走査角が得られるように微調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】光学走査装置の平面図である。
【図2】光学走査装置の垂直断面図である。
【図3】ミラー部の調整動作を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る光学走査装置の最良の実施形態について図面を参照して説明する。本実施例では、レーザービームプリンタ用に用いられる光走査装置(スキャナー)を例示して説明するものとする。
【0014】
図1、図2を参照して光走査装置の概略構成について説明する。
基板1は金属板(ステンレススチール;SUS304)若しくはシリコン基板(Si)などの矩形基板が好適に用いられる。基板1の長手方向中央部よりも端部よりに開口部(貫通孔)2が設けられている。この開口部2の中心部に梁部3(揺動軸)が形成されて中央部にミラー部4が一体に支持されている。ミラー部4は梁部3を中心に軸対称に形成されている。また、基板1上であってミラー部4とは長手方向に反対側に振動源5が設けられている。振動源5として圧電素子(PZT;チタン酸ジルコン酸鉛)が用いられている。基板1は、長手方向一端部(振動源5側)がベース部7と基板支持部材6に挟み込まれて支持されている。
【0015】
ここで、ミラー部4の振動原理について具体的に説明すると、たとえば圧電素子の表層側電極にプラスの電圧を印加すると圧電層が延びるため、に示すように基板1は上に撓む。また、圧電素子の表層側電極にマイナスの電圧を印加すると圧電層は縮むため、基板1は下に撓む。このとき、基板1に発生した定在波は、梁部3により支持された水平状態にあるミラー部4に、梁部3の捻れによる回転モーメントを発生させて、捻れ振動を生じさせる。
【0016】
また、各振動源5に交番電圧を印加して梁部3の両側の基板1を反対方向に撓ませる動作を交互に繰り返すことによりミラー部4を所要の振幅で揺動させる。上記梁部3を捻れ軸としてミラー部4を所定の振幅で揺動させた状態でミラー部4へ例えばレーザー光を光照射することで、反射光(レーザービーム)を走査することができるようになっている。ミラー部4は、図3(a)に示すように金属プレート4a(基板揺動部;ばね鋼)の両面にシリコンミラー部材4b(第1,第2ミラー;金蒸着など鏡面処理された部材)を貼り合わせたものが用いられる。
【0017】
また、振動源5としては、圧電素子のほかに、圧電体、磁歪体又は永久磁石体のいずれかが基板上に膜状に直接形成されていてもよい。成膜法としては、例えばエアロゾルデポジション法(AD法)、真空蒸着法、スパッタリング法や化学的気相成長法(CVD: Chemical Vapor Deposition)、ゾル−ゲル法などの薄膜形成技術を用いて、圧電体、磁歪体又は永久磁石体のいずれかが基板上に膜状に直接形成されていると、低電圧駆動で低消費電力の光走査装置を提供できる。
【0018】
磁歪体や永久磁石体を用いる場合、外部から印加する交番磁界は、上記磁歪膜、永久磁石膜が形成された基板部近傍に設けられたコイルに交流電流を流すことで交番磁界を発生させる。尚、磁歪膜や永久磁石膜で基板に形成する場合、基板材料は非磁性材料である方が、より効率的に撓みを発生することができる。
【0019】
次に、ミラー部4の構造について説明する。
図3(a)において、ミラー部4は、前述したように金属プレート(基板揺動部;SUSなどのばね鋼)4aの両面にシリコンミラー部材4b(第1,第2ミラー;金蒸着など鏡面処理された部材)を各々位置合わせして貼り合わせたものが用いられる。
【0020】
ここで、上記ミラー部4の共振周波数fは、以下のように得られる。
f=(1/2π)×(k/I1/2…(1)
k;梁部3のばね定数、I;ミラー部4のx軸回りの慣性モーメント(梁部3の中心をx軸とする;図1参照)
また、ねじれモードにおける梁部3のばね定数kt(本実施例では両端を支えるのでk=2ktとなる)は、
kt=GI
’=ab[(16/3)−3.36(b/a){1−(b4/12a4)}]
G;横断性係数、L;梁部3の長さ、2a;梁の幅(a≧b)、2b;板厚
【0021】
また、ミラーの重心を通りx軸(図1参照)に平行な軸回りの慣性モーメント(長方形)Ixmは、
xm=mh/12
xm;ミラーの重心を通る慣性モーメント、m;ミラーの質量、h;Y軸方向の長さ
ミラー部4のx軸回りの慣性モーメント(長方形)Iは、積層されている金属プレート4aの慣性モーメントIxpと2枚のシリコンミラー部材4bの慣性モーメントIxm2に分けられる。
=Ixp+Ixm2
xm2=2Ixm1+em/2…(2)
m;シリコンミラー1枚の質量、e;上下のシリコンミラーの重心間の距離、
xm1;シリコンミラー1枚のミラーの重心を通りx軸と平行な軸回りの慣性モーメント、Ixm2;シリコンミラー2枚貼り合わせのx軸回りの慣性モーメント、Ixp;金属プレートのx軸回りの慣性モーメント、I;ミラー部全体(アッセンブリ後)のx軸回りの慣性モーメント
【0022】
以上より、図3(b)において、ミラー部4を構成する金属プレート4aの両面に貼り合わせるシリコンミラー部材4bの重心G−G間の距離eを大きくとる、即ち上下に軸対称となるように貼り合わせるシリコンミラー部材4b間のずれ量を大きくすることで式(2)からミラー部4全体(アッセンブリ後)のx軸回りの慣性モーメントIが大きくなり、式(1)から共振周波数fの値を小さくすることができる。
【0023】
また、図3(c)において、金属プレート4aの両面に貼り合わされるシリコンミラー部材4bの重心G−G間の距離eを小さくとる、即ち上下に軸対称となるように貼り合わせるシリコンミラー部材4b間のずれ量を小さくすることで式(2)からミラー部4全体(アッセンブリ後)のx軸回りの慣性モーメントIが小さくなり、式(1)から共振周波数fの値を大きくすることができる。
【0024】
このように、金属プレート4aに対する上下のシリコンミラー部材4b(第1,第2ミラー)の積層位置が、軸対称を維持しながら変更することで、ミラー部4の梁部3(揺動軸)回りの慣性モーメントが変化して共振周波数を調整することができる。
【0025】
尚、ミラー部4の薄膜を形成する材料には、金(Au)、二酸化ケイ素(SiO2)、アルミニウム(Al)、あるいはフッ化マグネシウム(MgF2)から1つを選択、或いは2つ以上の材料を組み合わせ、さらに前記薄膜成形技術による同一層(=単層)、或いは2層以上の多層構成を適度な膜厚に制御することによって、反射性能を向上する薄膜が形成できる。あるいは、金属プレート4aへミラー部材4bを貼付ける材料には、鏡面仕上げしたシリコン(Si)のほかにまたはアルミナチタンカーバイト(Al2O3-TiC)のセラミック等へ、前記薄膜成形技術にて薄膜(たとえば金薄膜)を形成しても良い。
なお,設計上片方のミラーのみ使用する場合には,使用しないほうのミラーに関して,鏡面処理若しくは反射率向上の表面処理、又はこれらの両方を省いても良い。
【0026】
また、基板1の厚みに関しては、動作中のミラーの平坦性やプロジェクターデバイスなどへの応用で要求されるミラーサイズを考慮し、シリコン(Si)、ステンレススチール(SUS304等)等の、或いはさらにカーボンナノチューブを前記材料へ成長させた基板1を想定すると、少なくとも10μm以上の厚みが望ましい。
【符号の説明】
【0027】
1 基板
2 開口部
3 梁部
4 ミラー部
4a 金属プレート(基板揺動部)
4b シリコンミラー部材(第1,第2ミラー)
5 振動源
6 基板支持部材
7 ベース部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に形成された開口部内に両側を梁部により支持されたミラー部が形成され、前記基板上に設けられた振動源を作動させて当該基板を撓ませることにより前記梁部を揺動軸として前記ミラー部を揺動させながら照射光を反射することで走査する光走査装置であって、
前記ミラー部は、前記基板の長手方向の一方側が片持ち状に支持され長手方向他方側に梁部を揺動軸として揺動可能に設けられた基板揺動部と、
前記基板揺動部の両面に各々重ね合わせて設けられる第1,第2ミラーと、を備え、
前記第1ミラーと第2ミラーのうち少なくとも一方は鏡面処理若しくは反射率向上のための表面処理、又はこれらの両方の処理がなされており、当該第1ミラーと第2ミラーとは、前記基板揺動部を支持する揺動軸を中心として軸対称となるように反対方向にずれ量を持たせて積層されていることを特徴とする光走査装置。
【請求項2】
前記第1ミラーと第2ミラーを移動させることで、前記ミラー部の慣性モーメントの大きさを変更することにより、当該ミラー部の揺動を共振周波数に近づけるように微調整されていることを特徴とする請求項1記載の光走査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−22368(P2011−22368A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167450(P2009−167450)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【特許番号】特許第4620789号(P4620789)
【特許公報発行日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000106944)シナノケンシ株式会社 (316)
【Fターム(参考)】