説明

光重合性組成物および感光性平版印刷版材料

【課題】近赤外領域に発光するレーザーを使用する走査型露光装置を用いるネガ型光重合性組成物に関して、1.高温高湿下に長期間保存された場合の現像性の低下の問題を解決すること、およびこれを平版印刷版材料として使用する際に、2.酸化チタン等の研磨性の顔料を含む印刷インキで印刷を行った場合の刷版の画像部の摩耗による着肉不良の問題を解決すること、さらに、3.微小な点で表現されるFMスクリーンを用いて刷版を作成した場合に、ロングランで印刷を行った場合のハーフトーン部の印刷濃度の変動の問題を解決すること。
【解決手段】分子内に化1で示される構造単位を有する化合物を含有する光重合性組成物を用いる。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はネガ型の感光性組成物に関し、更にこれを利用した感光性平版印刷版材料に関する。更に詳しくは、830nm付近に発光する近赤外線レーザー等の光源を利用する走査露光装置を用いて画像形成可能な光重合性組成物および感光性平版印刷版材料に関する。
【背景技術】
【0002】
光重合性組成物として従来から光重合開始剤とバインダー樹脂および各種多官能性アクリレートモノマーやオリゴマーからなる光重合系が用いられてきたが、これらは一般的に重合が溶存している酸素による阻害を防止するために、光重合を行う層の上部にポリビニルアルコールなどの酸素遮断層を設ける必要があった。これに対して、本発明者が特開2001−290271号公報(特許文献1)にて明らかにしたように、側鎖にスチレン性不飽和結合を有するポリマーや、分子内に2個以上のビニル基が結合したフェニル基を有する化合物を使用することで、重合が溶存酸素の影響を受けにくくなり、酸素遮断層を用いることなく高感度の光重合性組成物を与えることが分かっている。
【0003】
上記のスチレン性不飽和結合を導入した系では確かに高感度でコントラストの高い光重合性組成物を与え、更にこうした系を平版印刷版材料として利用した場合にも、通常の印刷条件では十分な耐刷性を有する印刷版を与えることを見出した訳であるが、市場に於いて様々な性能要求が蓄積するに従い、場合によっては未だ十分な性能に達していないことが判明した。そのうち代表的な問題として、1.高温高湿下に長期間保存された場合の現像性の低下の問題、2.酸化チタン等の研磨性の顔料を含む印刷インキで印刷を行った場合の刷版の画像部の摩耗による着肉不良の問題、さらに、3.微小な点で表現されるFMスクリーンを用いて刷版を作成した場合に、ロングランで印刷を行った場合のハーフトーン部の印刷濃度の変動の問題が特に重要な問題として浮上してきた。
【0004】
上記の問題1に関して、本発明に関わる光重合開始剤として特に有機ホウ素塩が有用であるが、特開2001−272778号公報(特許文献2)に示される有機ホウ素塩を利用した光重合系では特に高感度である系が得られるものの、高温高湿下での長期に亘る保管条件では感度の変動以外に、暗室での保存にも関わらず、徐々に暗反応が進行するため現像性が低下し、露光後に現像を行っても非画像部が溶出されず残存する場合が見られた。こうした保存性に関する問題を解決するため、既に特開2001−222101号公報(特許文献3)においてニトロキシ化合物を添加する方法が示されており、特開2001−350259号公報(特許文献4)ではポリビニルピロリドンを添加する系や、特開2002−214773号公報(特許文献5)では、プロトン酸捕捉剤を添加し、また、特開20025−244288号公報(特許文献6)に見られるようにヒンダードアミンを添加するなど様々な改良策が採られてきたが、それぞれ一応の効果は認められるものの、本発明に関わるような、より一層厳しい保存条件においては未だ効果として十分ではないのが現状である。
【0005】
上記の問題2に関しては、画像部皮膜の耐摩耗性が十分でなく、印刷を続けていくうちに徐々に画像部が摩耗により削られ、ついには必要な印刷部数に達する前にインキ乗り不良を引き起こし、印刷版の交換が必要となる場合があり、大きな問題であった。こうした現象は、酸化チタンを含むような印刷インキを用いる場合に限らず、例えばブランケットが印刷版に接する際の圧力が高い場合や、ブランケットの材質が堅く、特に疲労したブランケットを使用した場合にもしばしば見られ、あるいは、紙粉がブランケット上に堆積して印刷版を擦る場合においても発生する現象である。印刷版として、こうした摩耗に対する耐性を高めることが特に強く求められているのが現状である。
【0006】
さらに、上記の問題3については近年FMスクリーニングを使用したカラー印刷が盛んに行われるようになるに従い浮上している問題であり、微小点から構成されるハーフトーン部の印刷濃度が刷り枚数が進むにつれて減少したり、プレートクリーナー等で版面を洗浄した後の印刷濃度が変動するなど、従来のAMスクリーニングでは殆ど発生することのなかった問題が新たに浮上しているのが現状で、微小点の耐刷性や耐薬品性を一段と向上させる必要に迫られているのが現状である。
【特許文献1】特開2001−290271号公報
【特許文献2】特開2001−272778号公報
【特許文献3】特開2001−222101号公報
【特許文献4】特開2001−350259号公報
【特許文献5】特開2002−214773号公報
【特許文献6】特開2002−244288号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、近赤外領域(700〜900nm)に発光するレーザーを使用する走査型露光装置を用いたネガ型光重合性組成物を利用する際に、1.高温高湿下に長期間保存された場合の現像性の低下の問題を解決することであり、さらにこれを印刷版として利用する場合に、2.酸化チタン等の研磨性の顔料を含む印刷インキで印刷を行った場合の刷版の画像部の摩耗による着肉不良の問題、さらに、3.微小な点で表現されるFMスクリーンを用いて刷版を作成した場合に、ロングランで印刷を行った場合のハーフトーン部の印刷濃度の変動の問題を解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、分子内に化1で示される構造単位を有する化合物を含有することを特徴とする光重合性組成物を利用することで基本的には解決される。
【0009】
【化1】

【発明の効果】
【0010】
本発明により、近赤外領域(700〜900nm)に発光するレーザーを使用する走査型露光装置を利用するネガ型光重合性組成物において、高温高湿下での長期の保存についても現像性の低下が無く、さらにはこれを用いた平版印刷版材料を利用することで極めて耐刷性の良好な平版印刷版が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明に関わる光重合性組成物とは、光照射により重合を開始するための光重合開始剤を含み、更に、分子内に化1で示す構造単位を有する化合物を含む系を意味する。
【0012】
化1で示す構造単位を有する化合物とは、広く、窒素原子にビニルベンジル基が結合した構造を有する化合物であれば任意の化合物が該当し、本発明の目的とする効果が認められるが、最大の効果を発揮するためには、それぞれの光重合系において最適の構造を有する化合物が選択され、複数の化合物を組み合わせて使用することも好ましく行われる。さらに、好ましくは分子内に化1で示す構造単位を2個以上含む化合物が好ましい。好ましい該化合物の例を化2および化3に示す。
【0013】
【化2】

【0014】
【化3】

【0015】
上記に示した化合物以外に、更に好ましい例として、該化合物がポリエチレンイミンにクロロメチルスチレンを付加することにより得られる化合物である場合を挙げることが出来る。ここで言うポリエチレンイミンとは、市販される様々な種類のポリエチレンイミンを原料として使用するものであり、ポリエチレンイミンの製造方法により分子量、分子量分布、分岐度、およびエチレンイミン繰り返し単位以外に含まれる1級アミンや3級アミンの割合が様々に異なるものが利用できる。分子量に関しては、100から1000程度の低分子オリゴマーであっても良く、或いはこれを越えて数万から数十万に達する分子量のものも使用することが出来る。繰り返し単位中に含まれるエチレンイミン構造の割合についても、構造中に30%程度或いはこれ以上含まれている場合が特に好ましいが、市販される代表的なポリエチレンイミンとして、アミン比が1級(%):2級(%):3級(%)がそれぞれ20〜50:30〜60:20〜30の範囲にあるような性状のものが極めて好ましく用いることが出来る。こうした市販のポリエチレンイミンを使用した場合には、クロロメチルスチレンとの反応において、1級アミン部分には2等量のクロロメチルスチレンが付加し、2級アミン部分には1等量のクロロメチルスチレンが付加し、3級アミン部分は未反応のまま残るように計算された量のクロロメチルスチレンを加えて反応を行うことが好ましいが、これより過剰のクロロメチルスチレンを加えたり、或いは意図的に等量以下のクロロメチルスチレンを添加して反応を行い、付加するビニルベンジル基の割合をコントロールすることも好ましく行われる。クロロメチルスチレンをアミン等量に対して過剰に加えて反応を行っても、生成する付加物中には4級塩構造を有する部分は殆ど存在せず、窒素原子には最大2個のビニルベンジル基が付加するにとどまることが通常である。使用するクロロメチルスチレンに関しては、様々な比率でメタ体とパラ体が混合したものを使用することが出来、パラ体のみである原料も好ましく使用することが出来る。特に好ましい場合はメタ体とパラ体の比率が3:7から7:3の範囲にあるクロロメチルスチレンを使用する場合であり、こうした場合に、ポリエチレンイミンへの付加生成物を光重合性組成物として適用した場合に、光重合開始剤やその他の添加剤等との混和性、相溶性が向上し、結晶化、ブリードアウトなどの問題を回避できるため好ましい。このようにして生成する付加物の代表的な構造を化4に示す。化4において、先に説明を行ったように、原料であるポリエチレンイミンには、様々な分岐構造が混在しているため、構造は単一でなく、化4に示す構造はこれらの一例であり、実際に得られる物質は化4のN−7やN−8に示すような構造を有する化合物の混合物であり、さらにこうした例以外に様々な分岐を有する化合物の混合物である。合成方法については、後に合成例1で具体的に示す。
【0016】
【化4】

【0017】
化4中、nは1から1000の間の任意の整数を表す。
【0018】
化1で示す構造単位を有する化合物のもう一つの好ましい例として、該化合物が、ポリアリルアミンにクロロメチルスチレンを付加することにより得られる化合物である場合を挙げることが出来る。使用する原材料であるポリアリルアミンとは、化5で示す繰り返し単位を有する化合物であり、先のポリエチレンイミンの場合と同様に、様々な分子量、分岐度、アミン比を有するものが使用できる。これらにクロロメチルスチレンを付加することで化6で示される繰り返し単位を有する化合物が得られ、極めて好ましく用いることが出来る。
【0019】
【化5】

【0020】
化5中、mは1から1000の間の任意の整数を表す。
【0021】
【化6】

【0022】
化1で示す構造単位を有する化合物のもう一つの好ましい例として、該化合物が、ポリジアリルアミンにクロロメチルスチレンを付加することにより得られる化合物である場合を挙げることが出来る。使用する原材料であるポリジアリルアミンとは、化7で示す繰り返し単位を有する化合物であり、先のポリエチレンイミンの場合と同様に、様々な分子量、分岐度、アミン比を有するものが使用できる。これらにクロロメチルスチレンを付加することで化8で示される繰り返し単位を有する化合物が得られ、極めて好ましく用いることが出来る。化6におけるmは化5におけるmと同義である。
【0023】
【化7】

【0024】
化7中、pは1から1000の間の任意の整数を表す。
【0025】
【化8】

【0026】
本発明で示す該化合物の特徴として、特に好ましい例として例えばポリエチレンイミンにクロロメチルスチレンを付加した化合物のように、分子全体の体積に占める反応性基の体積分率が高く、従って架橋した場合の架橋密度が高いという好ましい性質を示すことから、本発明の目的の一つである耐刷性の大幅な向上に極めて効果的であることが挙げられる。化4、化6および化8で示すような化合物は、分子内に多数の重合性反応基を高密度に含むため、特に架橋密度が高く、耐刷性向上効果が大きいため極めて好ましく用いることが出来る。具体的な効果については後に実施例で示す。
【0027】
本発明に関わるさらに好ましい様態として、該化合物が化1で示す構造単位に加えて、さらにカルボキシル基を有する構造単位を併せて含む化合物である場合が挙げられる。これは、具体的には分子内に化1で示される構造単位と化9で示される構造単位を併せて含む化合物を含有する系を意味する。こうしたカルボキシル基を分子内に導入することで、得られる光重合性組成物を露光後に現像する際、現像液に対する溶解性が向上し、特に感光性平版印刷版としての用途では、地汚れの発生を防止する上で極めて効果的である。
【0028】
【化9】

【0029】
化9中、L1は、任意の2価の連結基を表し、具体的には置換されていてもよいアルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ヘキサメチレン基等)、アリーレン基(例えば、p−フェニレン基、m−フェニレン基、1,5−ナフチレン基、4,4’−ビフェニレン基等)、アルキレンオキシ基(例えば、エチレンオキシ基、プロピレンオキシ基、ジエチレンオキシ基等)、−CH=CH−、−O−、−S−、−NA1−、−CO−、−COO−、−OCO−、−SO2−、−CONR7−、−NR7CO−、−OCONA1−、NA1COO−、−NA1CONA1−、−NA1COCONA1−、−SO2NA1−、−NA1SO2−(A1は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、アリール基、アシル基、アルキルスルホニル基等を表す。)等が挙げられ、これらの連結基は単独でも任意の2つ以上組み合わされていてもよい。連結基L1の好ましい例として下記化10および化11で示す構造を挙げることが出来る。
【0030】
【化10】

【0031】
【化11】

【0032】
化1および化9で示す構造単位を併せて有する化合物とは、具体的には分子内に複数の窒素原子を有する化合物を用いて、これにクロロメチルスチレンおよびカルボン酸基を有する化合物もしくは反応によりカルボン酸基を生成する化合物を結合することで得られる。ここで、同一分子内において、化9で示すようなカルボキシル基を有する構造単位の割合については好ましい範囲が存在し、全体に対するモル比で5%から60%の範囲であることが特に好ましく、化9で示す構造単位の割合が60%より大きい場合には、感度が低下し、露光を行っても十分に硬化した被膜が得られない場合があり好ましくない。
【0033】
好ましい例として、上記の分子内に複数の窒素原子を有する化合物としてポリエチレンイミンを使用し、これにクロロメチルスチレンとカルボン酸基を有する化合物もしくは反応によりカルボン酸基を生成する化合物を用いる場合を挙げることが出来る。
【0034】
あるいは、上記のポリエチレンイミンに替えて、市販される様々な分子量、分岐度のポリアリルアミンを同様に用いることも好ましく行われる。
【0035】
上記のカルボン酸基を有する化合物もしくは反応によりカルボン酸基を生成する化合物とは具体的にはジカルボン酸無水物やアクリル酸誘導体などが挙げられる。ジカルボン酸無水物の好ましい例として、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水コハク酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物、シトラコン酸無水物、グルタル酸無水物、フタル酸無水物、トリメリット酸無水物などが挙げられるが、これらの内でも特に無水マレイン酸や無水コハク酸を用いるのが好ましい。
【0036】
更に、上記のアクリル酸誘導体としては、アクリル酸メチルなどのアクリル酸エステル誘導体を使用し、アミノ基に付加した後にアルカリ等でエステル部分を加水分解することでも化2で示す構造単位を導入することが好ましく行われる。
【0037】
市販のポリエチレンイミン或いはポリアリルアミンを原料に使用する場合には、クロロメチルスチレンとの反応において、1級アミン部分には2当量のクロロメチルスチレンが付加し、2級アミン部分には1等量のクロロメチルスチレンが付加し、3級アミン部分は未反応のまま残ることを考慮して、原材料中の全アミノ基濃度に対するクロロメチルスチレンの添加量を考慮する必要がある。無水マレイン酸のようなジカルボン酸無水物との反応においては、1級および2級アミンの両方に1当量ずつの付加が起こり、同様に3級アミンとは反応しないことを考慮して添加量を考慮する必要がある。
【0038】
上記の系については、合成方法としてクロロメチルスチレンと酸無水物の付加反応は分離して行うことが好ましく、先にクロロメチルスチレンを付加してから酸無水物を付加させる方法や、或いはこの逆の合成順序で行うことが好ましい。さらに、クロロメチルスチレンと酸無水物の添加量の割合については、各々モル比で95%:5%から40%:60%の範囲で添加することが好ましい。具体的な合成方法については後述する合成例に述べる。好ましい化合物の例を化12から化15に示す。式中の数値は各々の繰り返し単位のモル比を表す。
【0039】
【化12】

【0040】
【化13】

【0041】
【化14】

【0042】
【化15】

【0043】
本発明に関わる光重合開始剤については特に有機ホウ素塩が好ましく用いられる。有機ホウ素塩を構成する有機ホウ素アニオンは、下記化16で表される。
【0044】
【化16】

【0045】
式中、R1、R2、R3およびR4は各々同じであっても異なっていてもよく、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、複素環基を表す。これらの内で、R1、R2、R3およびR4の内の一つがアルキル基であり、他の置換基がアリール基である場合が特に好ましい。
【0046】
上記の有機ホウ素アニオンは、これと塩を形成するカチオンが同時に存在する。この場合のカチオンとしては、アルカリ金属イオン、オニウムイオン及びカチオン性増感色素が挙げられる。オニウム塩としては、アンモニウム、スルホニウム、ヨードニウムおよびホスホニウム化合物が挙げられる。アルカリ金属イオンまたはオニウム化合物と有機ホウ素アニオンとの塩を用いる場合には、別に増感色素を添加することで色素が吸収する光の波長範囲での感光性を付与することが行われる。また、カチオン性増感色素の対アニオンとして有機ホウ素アニオンを含有する場合は、該増感色素の吸収波長に応じて感光性が付与される。しかし、後者の場合は更にアルカリ金属もしくはオニウム塩の対アニオンとして有機ホウ素アニオンを併せて含有するのが好ましい。特に好ましい有機ホウ素塩の例を下記に示す。
【0047】
【化17】

【0048】
【化18】

【0049】
有機ホウ素塩を光重合開始剤として用いた場合に、従来では高温高湿下に長期間保存した場合に、現像性が低下し現像不良を発生する問題があったが、分子内に化1で示す構造を有する化合物を添加することで、現像性の低下が生ぜず、高感度でかつ硬調な感光特性を示すことを見出したものである。さらには、印刷版として利用した場合に、極めて良好な耐刷性を示すことを併せて見出したものである。化1で示す構造を有する化合物を添加した場合に、何故保存性が向上するのかについて明確な説明は困難であるが、先行技術で説明したように、例えば、特開2002−244288号公報におけるヒンダードアミンの添加効果と同様に、保存中に酸性物質が発生した場合に、これを中和することで有機ホウ素塩の分解を防止する働きがあるものと考えられる。本発明においては、こうしたヒンダードアミンより以上に保存性向上効果が大きく、さらに保存性向上効果を兼ね備えた重合性化合物であることから、保存性向上と耐刷性向上の両方の効果を兼ね備えた化合物であることが特徴の一つである。
【0050】
本発明において、有機ホウ素塩とともに用いることでさらに高感度化、硬調化が具現される光重合開始剤としてトリハロアルキル置換化合物が挙げられる。上記トリハロアルキル置換化合物とは、具体的にはトリクロロメチル基、トリブロモメチル基等のトリハロアルキル基を分子内に少なくとも一個以上有する化合物であり、好ましい例としては、該トリハロアルキル基が含窒素複素環基に結合した化合物としてs−トリアジン誘導体およびオキサジアゾール誘導体が挙げられ、或いは、該トリハロアルキル基がスルホニル基を介して芳香族環或いは含窒素複素環に結合したトリハロアルキルスルホニル化合物が挙げられる。
【0051】
トリハロアルキル置換した含窒素複素環化合物やトリハロアルキルスルホニル化合物の特に好ましい例を化19および化20に示す。
【0052】
【化19】

【0053】
【化20】

【0054】
上述したような光重合開始剤の含有量は、光重合性組成物全体の量に対して1質量%から50質量%の範囲にあることが好ましい。
【0055】
本発明に係わる最も好ましい様態の一つとして、有機ホウ素塩とこれを増感する色素を併せて含む感光性組成物であり、この場合の有機ホウ素塩は700〜900nmの波長領域に感光性を示さず、増感色素の添加によって初めてこうした波長領域の光に感光性を示すものである。本発明に関わる光重合性組成物は、700nm〜900nmに感度のピークを有し、この波長領域に吸収を有し、前述の光重合開始剤を増感する増感色素を併せて含有する。このような増感色素として、シアニン、フタロシアニン、メロシアニン、クマリン、ポリフィリン、スピロ化合物、フェロセン、フルオレン、フルギド、イミダゾール、ペリレン、フェナジン、フェノチアジン、ポリエン、アゾ化合物、ジフェニルメタン、トリフェニルメタン、ポリメチンアクリジン、クマリン、ケトクマリン、キナクリドン、インジゴ、スチリル、スクアリリウム化合物、ピリリウム化合物が挙げられ、更に、欧州特許第0,568,993号、米国特許第4,508,811号、同5,227,227号に記載の化合物も用いることができる。
【0056】
好ましく用いることの出来る増感色素の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0057】
【化21】

【0058】
【化22】

【0059】
本発明は、光重合性組成物中に化1で示す構造を有する化合物以外に、他の多官能性モノマーを含有することが好ましい。好ましい多官能性モノマーの例としては、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリスアクリロイルオキシエチルイソシアヌレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、エチレングリコールグリセロールトリアクリレート、グリセロールエポキシトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等の多官能性アクリル系モノマー、或いは、アクリロイル基、メタクリロイル基を導入した各種重合体としてポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等も同様に使用される。
【0060】
多官能性モノマーのより好ましい例として、下記化23で示すような、スチレン系二重結合基を分子内に2個以上有する化合物(以降、スチレニル系モノマーと称す)を含有することでより高感度で硬調な調子再現性を示す光重合性組成物を与えることから好ましい。スチレニル系モノマーを使用した場合、効果的に架橋を行うため、高感度のネガ型感光材料を作成することができる。
【0061】
【化23】

【0062】
式中、Z1は連結基を表す。R6〜R8は水素原子またはメチル基を表す。R5は置換可能な基または原子を表す。m1は0〜4の整数を表し、k1は2以上の整数を表す。
【0063】
化23について更に詳細に説明する。Z1の連結基としては、酸素原子、硫黄原子、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、−N(R9)−、−C(O)−O−、−C(R10)=N−、−C(O)−、スルホニル基、複素環基等の単独もしくは2以上が複合した基が挙げられる。ここでR9及びR10は、水素原子、アルキル基、アリール基等を表す。更に、上記した連結基には、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。
【0064】
上記複素環基としては、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、イソオキサゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、イソチアゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、チアトリアゾール環、インドール環、インダゾール環、ベンズイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、ベンズオキサゾール環、ベンズチアゾール環、ベンズセレナゾール環、ベンゾチアジアゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、キノリン環、キノキサリン環等の含窒素複素環、フラン環、チオフェン環等が挙げられ、これらには置換基が結合していても良い。
【0065】
上記化23で表される化合物の中でも好ましい化合物が存在する。以下に化23で表される化合物の好ましい具体例を示すが、これらの例に限定されるものではない。
【0066】
【化24】

【0067】
【化25】

【0068】
【化26】

【0069】
上記したスチレニル系モノマーの添加量は、光重合性組成物全量に対して1質量%から80質量%の範囲で含まれることが好ましく、さらに5質量%から50質量%の範囲で含まれることが特に好ましい。
【0070】
本発明に関わる光重合性組成物にはバインダー成分が含まれていても良い。バインダーとしては、特に側鎖に重合性二重結合基を有するポリマーが好ましく用いることが出来る。最も好ましいバインダーとしては、側鎖に化27で示される置換基を有するポリマーが挙げられる。
【0071】
【化27】

【0072】
式中、Z2は連結基を表し、R12〜R14は水素原子またはメチル基を表し、R11は置換可能な任意の原子または基を表す。nは0または1を表し、m2は0〜4の整数を表し、k2は1〜4の整数を表す。
【0073】
化27について更に詳細に説明する。Z2の連結基としては、酸素原子、硫黄原子、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、−N(R15)−、−C(O)−O−、−C(R16)=N−、−C(O)−、スルホニル基、複素環基、及び下記化28で表される基等の単独もしくは2以上が複合した基が挙げられる。ここでR15及びR16は、水素原子、アルキル基、アリール基等を表す。更に、上記した連結基には、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。上記化27における連結基としては複素環を含むものが好ましく、k2は1または2であるものが好ましい。
【0074】
【化28】

【0075】
上記複素環基としては、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、イソオキサゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、イソチアゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、チアトリアゾール環、インドール環、インダゾール環、ベンズイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、ベンズオキサゾール環、ベンズチアゾール環、ベンズセレナゾール環、ベンゾチアジアゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、キノリン環、キノキサリン環等の含窒素複素環、フラン環、チオフェン環等が挙げられ、更にこれらの複素環には置換基が結合していても良い。
【0076】
化27で表される基の好ましい例を以下に示すが、これらの例に限定されるものではない。
【0077】
【化29】

【0078】
【化30】

【0079】
【化31】

【0080】
【化32】

【0081】
上記の例で示されるような基を有するポリマーとしては、アルカリ性水溶液に可溶性を有することが好ましく、そのためにカルボキシル基含有モノマーを共重合成分として含む重合体であることが特に好ましい。この場合、共重合体組成に於ける化27で示される基の割合として、トータル組成100質量%中に於いて化27で示される基は1質量%以上95質量%以下であることが好ましく、これ以下の割合ではその導入の効果が認められない場合がある。また、95質量%以上含まれる場合に於いては、共重合体がアルカリ水溶液に溶解しない場合がある。さらに、共重合体中に於けるカルボキシル基含有モノマーの割合は同じく5質量%以上99質量%以下であることが好ましく、これ以下の割合では共重合体がアルカリ水溶液に溶解しない場合がある。
【0082】
上記のカルボキシル基含有モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸2−カルボキシエチルエステル、メタクリル酸2−カルボキシエチルエステル、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、4−カルボキシスチレン等のような例が挙げられる。
【0083】
カルボキシル基を有するモノマー以外にも共重合体中に他のモノマー成分を導入して多元共重合体として合成、使用することも好ましく行うことが出来る。こうした場合に共重合体中に組み込むことが出来るモノマーとして、スチレン、4−メチルスチレン、4−ヒドロキシスチレン、4−アセトキシスチレン、4−カルボキシスチレン、4−アミノスチレン、クロロメチルスチレン、4−メトキシスチレン等のスチレン誘導体、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ドデシル等のメタクリル酸アルキルエステル類、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸アリールエステル或いはアルキルアリールエステル類、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸メトキシジエチレングリコールモノエステル、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコールモノエステル、メタクリル酸ポリプロピレングリコールモノエステル等のアルキレンオキシ基を有するメタクリル酸エステル類、メタクリル酸2−ジメチルアミノエチル、メタクリル酸2−ジエチルアミノエチル等のアミノ基含有メタクリル酸エステル類、或いはアクリル酸エステルとしてこれら対応するメタクリル酸エステルと同様の例、或いは、リン酸基を有するモノマーとしてビニルホスホン酸等、或いは、アリルアミン、ジアリルアミン等のアミノ基含有モノマー類、或いは、ビニルスルホン酸およびその塩、アリルスルホン酸およびその塩、メタリルスルホン酸およびその塩、スチレンスルホン酸およびその塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびその塩等のスルホン酸基を有するモノマー類、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルカルバゾール等の含窒素複素環を有するモノマー類、或いは4級アンモニウム塩基を有するモノマーとして4−ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドのメチルクロライドによる4級化物、N−ビニルイミダゾールのメチルクロライドによる4級化物、4−ビニルベンジルピリジニウムクロライド等、或いはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、またアクリルアミド、メタクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メトキシエチルアクリルアミド、4−ヒドロキシフェニルアクリルアミド等のアクリルアミドもしくはメタクリルアミド誘導体、さらにはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、フェニルマレイミド、ヒドロキシフェニルマレイミド、酢酸ビニル、クロロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類、またメチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、その他、N−ビニルピロリドン、アクリロイルモルホリン、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アリルアルコール、ビニルトリメトキシシラン、グリシジルメタクリレート等各種モノマーを適宜共重合モノマーとして使用することが出来る。これらのモノマーの共重合体中に占める割合としては、先に述べた共重合体組成中に於ける化27で示す基およびカルボキシル基含有モノマーの好ましい割合が保たれている限りに於いて任意の割合で導入することが出来る。
【0084】
上記のようなポリマーの分子量については好ましい範囲が存在し、重量平均分子量で1000から100万の範囲であることが好ましく、さらに1万から30万の範囲にあることが特に好ましい。
【0085】
本発明に係わる側鎖に化27で示される基を有するポリマーの例を下記に示す。式中、数字は共重合体トータル組成100質量%中に於ける各繰り返し単位の質量%を表す。
【0086】
【化33】

【0087】
【化34】

【0088】
【化35】

【0089】
【化36】

【0090】
【化37】

【0091】
従来のような光ラジカル重合を利用する場合には、大気中の酸素の影響を受けやすく、一般に酸素バリヤ性を有するポリビニルアルコールのような樹脂を感光層の表面にオーバー層として設ける必要があった。また、露光後に重合を促進あるいは完結させるため100℃前後の温度で数分間程度加熱処理を行う必要があった。これに対して、上記のようなポリマーおよびスチレニル系モノマーを併せて使用する場合には、上記のようなオーバー層を設けなくとも十分に光硬化する系を与え、かつ、露光後に加熱処理を行う必要がないことが特徴である。
【0092】
本発明の効果の一つとして重要な点は、露光部分の架橋密度が高く、感光特性として硬調な画像再現を与えることであり、レーザー走査露光用感光性組成物として特に好ましく用いることが出来る点である。特に光源として830nm付近に発光する近赤外半導体レーザーを光源として用いた場合に、画像のエッジ部が先鋭に再現され、高解像度の画質を与えることから極めて好ましく使用することが出来る。
【0093】
光重合性組成物を構成する要素として、他に、画像の視認性を高める目的で種々の染料、顔料を添加することや、感光性組成物のブロッキングを防止する目的等で無機物微粒子あるいは有機物微粒子を添加することも好ましく行われる。
【0094】
光重合性組成物中には、さらに長期にわたる保存に関して、熱重合による暗所での硬化反応を防止するために重合禁止剤を添加することが好ましく行われる。こうした目的で好ましく使用される重合禁止剤としては、公知の各種フェノール化合物等が使用できる。
【0095】
平版印刷版材料として使用する場合の感光層自体の厚みに関しては、支持体上に0.5μmから10μmの範囲の乾燥厚みで形成することが好ましく、さらに1μmから5μmの範囲であることが耐刷性を大幅に向上させるために極めて好ましい。感光層は上述の3つの要素を混合した溶液を作成し、公知の種々の塗布方式を用いて支持体上に塗布、乾燥される。支持体については、例えばフィルムやポリエチレン被覆紙を使用しても良いが、より好ましい支持体は、研磨され、陽極酸化皮膜を有するアルミニウム板である。
【0096】
上記のようにして支持体上に形成された感光層を有する材料を印刷版として使用するためには、これに密着露光あるいはレーザー走査露光を行い、露光された部分が架橋することでアルカリ性現像液に対する溶解性が低下することから、後述するアルカリ性現像液により未露光部を溶出することでパターン形成が行われる。
【0097】
アルカリ性現像液としては、本発明の重合体を溶解する液で有れば特に制限は無いが、好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、メタ珪酸ナトリウム、メタ珪酸カリウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアンモニウムハイドロキサイド等のようなアルカリ性化合物を溶解した水性現像液が良好に未露光部を選択的に溶解し、下方の支持体表面を露出出来るため極めて好ましい。さらには、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ベンジルアルコール等の各種アルコール類をアルカリ性現像液中に添加することも好ましく行われる。こうしたアルカリ性現像液を用いて現像処理を行った後に、アラビアゴム等を使用して通常のガム引きが好ましく行われる。
【0098】
以下実施例によって本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。実施例に記載したポリマーおよびスチレニル系モノマーはいずれも特開2001−290271号公報中に記載した方法で得られたものを使用した。なお、実施例中の部数や百分率は質量基準である。
【0099】
合成例1(化4の合成例)
ポリエチレンイミンとして株式会社日本触媒から入手したエポミンSP−006(分子量600,アミン比:1級:2級:3級=35:35:30)を使用した。クロロメチルスチレンとして、セイミケミカル株式会社から入手したCMS−p(メタ体:パラ体=50:50)を使用した。攪拌機、温度計を備えた1リッターフラスコ内に、エポミンSP−006を50グラム添加し、水酸化カリウム68グラムおよび蒸留水385グラムを加えて均一な溶液にした。水浴上で内温50℃に保ち、CMS−p183.5グラムを徐々に添加し、さらにトルエン200グラムを加えて激しく攪拌を行った。内温を70℃に上昇し、この温度で2時間攪拌を行った後に、室温まで冷却し、分液漏斗を使用して、油層を抽出した。トルエンおよび僅かに残存するCMS−pを減圧蒸留により除いた後に、得られたオイル状物質を濾過し、僅かに黄赤色をおびた粘張な物質を得た。プロトンNMRにより構造を解析した結果、化4で示す化合物であることを同定した。本合成例において、化4におけるnの値は大凡10程度である。
【0100】
合成例2(化6の合成例)
ポリアリルアミンとして日東紡績株式会社から入手したPAA−01(分子量1000)を使用した以外は合成例1と全く同様にして合成を行った。クロロメチルスチレンはポリアリルアミンに対して、2等量を添加して反応を行った。トルエンおよび僅かに残存するCMS−pを減圧蒸留により除いた後に、得られたオイル状物質を濾過し、僅かに黄赤色をおびた粘張な物質を得た。プロトンNMRにより構造を解析した結果、化6で示す化合物であることを同定した。本合成例では化6におけるmの値は大凡12である。
【0101】
合成例3(化8の類縁体の合成例)
ポリジアリルアミンとして日東紡績株式会社から入手したPAS−M−1(分子量20000)を使用した以外は合成例1と全く同様にして合成を行った。クロロメチルスチレンはポリジアリルアミンに対して、1等量を添加して反応を行った。トルエンおよび僅かに残存するCMS−pを減圧蒸留により除いた後に、得られた固形物質を水洗し、僅かに黄赤色をおびたやや粘張な固体を得た。プロトンNMRにより構造を解析した結果、一般式化38で示す化合物の構造を有するものであることを同定した。
【0102】
【化38】

【0103】
化38中、pは1から1000の間の任意の整数を表す。本合成例においてはpは大凡70である。
【0104】
合成例4(化12の合成例)
ポリエチレンイミンとして株式会社日本触媒から入手したエポミンSP−018(分子量1、800,アミン比:1級:2級:3級=35:35:30)を使用した。クロロメチルスチレンとして、セイミケミカル株式会社から入手したCMS−p(メタ体:パラ体=50:50)を使用した。攪拌機、温度計を備えた1リッターフラスコ内に、エポミンSP−018を40グラム添加し、水酸化カリウム43グラム、エタノール40グラムおよび蒸留水200グラムを加えて均一な溶液にした。水浴上で内温50℃に保ち、CMS−p117グラムを徐々に添加し、激しく攪拌を行った。内温を70℃に上昇し、この温度で4時間攪拌を行った後に、室温まで冷却した。反応混合物に、無水マレイン酸19グラムを溶解したエタノール溶液100グラムを添加し、水浴の温度を70℃に上げ、この温度で2時間攪拌を行った。全体を1.5リッターのイオン交換水中に添加し、析出した固体を十分に水洗した後、さらにメタノールで十分に洗浄した。得られた粘張な物質をデカンテーションにより分離し、真空乾燥後、僅かに黄色をおびた粘張な固体を得た。プロトンNMRにより構造を解析した結果、化12で示す化合物の構造を有するものであることを同定した。
【0105】
合成例5(化13の合成例)
ポリエチレンイミンとして株式会社日本触媒から入手したエポミンSP−200(分子量10、000,アミン比:1級:2級:3級=35:35:30)を使用した。クロロメチルスチレンとして、セイミケミカル株式会社から入手したCMS−p(メタ体:パラ体=50:50)を使用した。攪拌機、温度計を備えた1リッターフラスコ内に、エポミンSP−200を40グラム添加し、エタノール40グラムおよび蒸留水200グラムを加えて均一な溶液にした。これにアクリル酸メチルを16.5グラム添加して室温で4時間攪拌を行った。その後、水酸化カリウム43グラムを加え、水浴上で内温50℃に保ちながら、CMS−pを117グラム添加し、激しく攪拌を行った。内温を70℃に上昇し、この温度で4時間攪拌を行った後に、室温まで冷却した。1規定塩酸水溶液を用いて反応混合物のpHを4に調整した後、全体を1.5リッターのイオン交換水中に移した。析出した固体を十分に水洗した後、さらにメタノールで十分に洗浄した。得られた粘張な物質をデカンテーションにより分離し、真空乾燥後、僅かに黄色をおびた粘張な固体を得た。プロトンNMRにより構造を解析した結果、化13で示す化合物の構造を有するものであることを確認した。
【実施例】
【0106】
厚みが0.24mmである砂目立て処理を行った陽極酸化アルミニウム板を使用して、この上に下記の処方で示される感光性塗工液を乾燥厚みが2.5μmになるよう塗布を行い、80℃の乾燥器内にて5分間乾燥を行い、感光性平版印刷版材料を作成した。
<感光性塗工液>
バインダーポリマー(化33中P−1) 10部
光重合開始剤(化18中BC−6) 0.9部
光重合開始剤(化19中T−4) 0.5部
10%フタロシアニン分散液(着色剤) 0.5部
本発明の化合物 (下記表1)
トリメチロールプロパントリアクリレート 3部
増感色素(化21中S−33) 0.2部
メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール) 0.1部
ジオキサン 70部
シクロヘキサノン 20部
【0107】
上記感光性塗工液中の本発明に関わる化合物を表1のように用いて、各種感光性平版印刷版材料を作成した。実施例5においては、上記の感光性塗工液処方において、記載される素材に加えて、化24中C−5で示される化合物を2部添加して試料を作成した。また、同時に本発明に関わる化合物を用いない他は上記の感光性塗工液処方と同様にして、比較例1および2の試料も下記比較用感光性塗工液処方に従い、表2に示す素材を使用して作成した。
【0108】
【表1】

【0109】
<比較用感光性塗工液>
バインダーポリマー(化33中P−1) 10部
光重合開始剤(化18中BC−6) 0.9部
光重合開始剤(化19中T−4) 0.5部
10%フタロシアニン分散液(着色剤) 0.5部
多官能性モノマー (下記表2)
トリメチロールプロパントリアクリレート 3部
増感色素(化21中S−33) 0.2部
メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール) 0.1部
ジオキサン 70部
シクロヘキサノン 20部
【0110】
【表2】

【0111】
得られた感光材料をCreo社製トレンドセッター(830nmのレーザーを搭載した描画装置)を使用して、版面に照射される露光量を70mJ/cm2に合わせて露光を行った。露光された感光性平版印刷版材料を下記の構成で作成された現像液を用いて現像を行った(現像時間は15秒、現像液温度は30℃)。
【0112】
(現像液処方)
水酸化カリウム 15部
珪酸カリウム(20%水溶液) 60部
ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム 5部
水を加えて全量を1000部に調整
【0113】
(印刷試験)
上記の様にして現像した試料を用いて、通常のオフセット印刷を行うため、印刷機はRyobi−560を使用し、印刷インキは三菱製紙(株)製NCR紙用オフセット減感インキ(酸化チタン含有インキ)TO−1を使用し、吸湿液は東洋インキ(株)製オフセット印刷用吸湿液アクワユニティWKKの1%水溶液を使用した。印刷評価項目として、耐刷性について刷版上のテスト画像中のベタ部の反射濃度を測定し、刷り初めからの反射濃度の低下を追跡し、初期の反射濃度の半分に低下するまでの刷り枚数を求めることで耐刷性を評価した。刷版上のベタ部分の反射濃度が約1/3になった時点でインキの着肉性が悪くなり、部分的にインキが乗らなくなることを別途確認した。結果を表3に纏めた。全ての本発明の感光性平版印刷版を使用した場合には、耐刷性に関しては5万枚の印刷においても良好な印刷物が得られ、刷版上の画像部の膜べりも軽微であった。また、地汚れの発生もなく良好な結果が得られた。比較例1および2では1万枚の印刷で既に顕著な画像部膜べりが発生しており、部分的にインキ乗り不良を発生した。
【0114】
【表3】

【0115】
(FMスクリーンでの印刷試験)
上記と同様にして感光性材料を同じくCreo社製トレンドセッターを使用して、2400dpi、175線相当の解像度で、網面積%が1〜99%であるようなFMスクリーンの評価パターンを用いて露光および現像を行い、平版印刷版を作成した。同様にして、今度は、印刷インキは大日本インキ化学工業(株)製Fグロス墨Bを使用して10万枚の印刷を行い印刷物上での網面積率の変化を刷り枚数の増加とともに追跡した結果、比較例1および2で作成した平版印刷版はどちらも約5万枚程度の刷り枚数からハーフトーン部の印刷濃度が顕著に減少し始め、網面積率50%から80%に相当する部分の印刷濃度の低下が顕著であった。これに対して、実施例1〜7で作成した平版印刷版を使用した場合には、10万枚の印刷を通して網部の紙面濃度は全く変化しておらず、印刷を通して良好な、安定した印刷物を得ることが出来た。
【0116】
(保存性試験)
上記で作成した感光性材料を、35℃の温度、相対湿度80%の雰囲気中で2週間暗所で放置し、現像性および感度を評価した。現像性の評価は、先に示した現像液を使用し、30℃の現像液温度で4秒間隔で24秒まで現像時間を変化させ、未露光での感光層被膜の溶出時間を求めたところ表4に示す結果を得た。実施例1〜5では現像時間は保存前後で殆ど変化していないのに対し、比較例1および2では現像性の低下が著しい結果となった。また、感度に関しては、前記トレンドセッターを使用して、版面上の露光量を50mJ/cm2から100mJ/cm2まで変化させて露光を行い、30℃の現像温度で40秒間の現像を行った場合に、画像が形成される最低の露光量を求めることで評価を行った。結果を表5に纏めた。実施例1〜7では保存前後での感度の変化は認められなかったが、比較例1および2では、露光量130mJ/cm2の場合にも画像が形成されず、大幅な感度低下が発生していることが分かった。
【0117】
【表4】

【0118】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明によれば、オーバー層を必要とせず、酸素の影響を受けにくい高感度な感光性組成物が得られる。830nm付近に発光する近赤外線レーザー等の光源を利用する走査露光装置を用いて画像形成可能な感光性組成物および感光性平版印刷版材料に関する。更に、プリント配線基板作成用レジストや、カラーフィルター、蛍光体パターンの形成等に好適な感光性組成物に関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に化1で示される構造単位を有する化合物を含有することを特徴とする光重合性組成物。
【化1】

【請求項2】
請求項1の該化合物が、ポリエチレンイミンにクロロメチルスチレンを付加することにより得られる化合物である請求項1に記載の光重合性組成物。
【請求項3】
請求項1の該化合物が、ポリアリルアミンにクロロメチルスチレンを付加することにより得られる化合物である請求項1に記載の光重合性組成物。
【請求項4】
請求項1の該化合物が、ポリジアリルアミンにクロロメチルスチレンを付加することにより得られる化合物である請求項1に記載の光重合性組成物。
【請求項5】
請求項1〜4における該化合物がさらにカルボキシル基を有する構造単位を併せて含む化合物である請求項1〜4の何れかに記載の光重合性組成物。
【請求項6】
請求項5の該化合物が、カルボキシル基を有する構造単位の割合がモル比で全体の5%から60%の範囲で含む化合物である請求項5に記載の光重合性組成物。
【請求項7】
請求項5および6の該化合物が、ポリエチレンイミンにクロロメチルスチレンとジカルボン酸無水物またはアクリル酸エステル誘導体を付加することにより得られる化合物である請求項5または6に記載の光重合性組成物。
【請求項8】
請求項5および6の該化合物が、ポリアリルアミンにクロロメチルスチレンとジカルボン酸無水物またはアクリル酸エステル誘導体を付加することにより得られる化合物である請求項5または6に記載の光重合性組成物。
【請求項9】
前記光重合性組成物が700〜900nmの範囲に吸収を有する色素および有機ホウ素塩を含むことを特徴とする請求項1〜8いずれかに記載の光重合性組成物。
【請求項10】
前記光重合性組成物が側鎖にスチレン性二重結合を有するポリマーを含むことを特徴とする請求項1〜9いずれかに記載の光重合性組成物。
【請求項11】
前記請求項1〜10のいずれか1つに記載の光重合性組成物を利用したことを特徴とする感光性平版印刷版材料。

【公開番号】特開2007−171893(P2007−171893A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−61594(P2006−61594)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】